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名無しの4Vクリムガン 100日後に死ぬ人間

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【[[名無しの4Vクリムガン Actio libera in causa ]]】
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 ケンホロウを殺した。
 最近、呼吸するのも面倒くさくって根っこやら木の皮やらで凌いでいたが、やっぱり食いでのあるもんはいい。それと、マジに動けなくなっちまってケンホロウも殺せねえってなったらあとはもう死ぬだけだってのもある。
 最近、俺は真面目だ。麓のフキヨセシティのジムリーダーの嬢ちゃんに、口酸っぱくやれやれと言われていた慰めのお祈りだって欠かさねえ。やり方があってるかは、正直わからねえ。話半分に聞いてたのがよくなかった。今度会ったら聞こうと思っててもいざ会うと忘れるし、そもそもあんまり顔なんかあわさねえ。最後に会ったのは三ヶ月くらい前だった気がするしよ。
 ともあれ、ケンホロウ一羽殺すのだって、恨まねえでくれよと祈ってやれば安穏無事に生きられるんだと言われりゃあ、俺だってそうするさ。ささっと捌いて半分くらいは鍋にして食っちまって、あとの半分はとっとけるように干しといたり、売れるように手入れしといたりする。適当な山菜やら香りづけやら、買ってきた野菜なんかブチこんどけばそれだけでご馳走だ。皮は履物にすると調子がいい。くちばしとか羽はお守りにして町で売っちまう。知り合いひとりいりゃまとめて買いとってもらえるんで楽だ。
 冬……冬はそんな感じだ。熱心なヤツは冬眠してるでけえ獲物なんかをブチ殺しにいく。俺は面倒くせえからそんなことはしねえ。人間を食ったとかで騒ぎになって、しかもそれが俺のシマで、話が回ってきただけだ。でも俺には山人としての教養なんざねえし、爪弾きモンだった。集まりになんか行ったこともねえし行きたいとも思わねえ。みんなは俺と違って努力してるんだ。人と付きあおうって努力だ。それをしねえで好き勝手やってる俺は嫌われるのが当然だ。別に不服とも思わねえ。
 そもそも山でひとりで生きてこうって人間に協調性なんざあるわけねえ。俺から言わせりゃアイツらのほうがよっぽどチグハグだ。俺の知りあいなんて言や、麓の町のジムリーダーの嬢ちゃんと、森の入り口なんぞに店構えてやがる偏屈の塊みてえな店主、あとはたまに来る――
「ああ来やがった。これだから肉なんざ獲るモンじゃねえんだよ」
 野郎くらいのモンだ。
 名前は知らねえ。顔が真っ赤で体が青い、やたらと目立つポケモンだ。見たところドラゴンタイプだろうが、ここらじゃ見ない種類のポケモンだ。
 今日も肉のにおいに誘われて来やがった。まったく邪魔くせえと思ってたら、野郎、ゴロゴロと自然薯なんか抱えて得意げな顔だ。たまには気を利かせたつもりらしい。
「ならいい。入れ」
 ジグザグの口が、笑うみたいに動いた。




 バッフロンを殺した。
 妙に図体のでけえヤツだった。でけえ肉は面倒くせえ。まあ代わりにしばらく食うには困らねえがよ。俺の好みで言えば、でけえポケモンの肉はにおいが苦手だ。血抜きが下手なのかもしれん。しかしほんとう、バカみてえにでけえ。鉛玉一発で殺せたのは俺が天才なのと、運が半分ずつくらいってところかね。こんなモンひとりで処理する気にはとてもならねえって思ってたんで、がなりたてて野郎を呼びながら作業の準備してたら、すぐに駆けつけてきやがった。
 野郎は俺が叫ぶのをやめさせようとした。変なのが寄ってくるのを警戒してるのか。野生らしいことで。
「家に貼ってあるお札も効かねえようなヤツで、おまえ以外のヤツが来たらどっちみち終わりだぜ、俺ァ。別に関係ねえさ。それより、コイツの毛ェ毟るんだ。手伝え」
 野郎は露骨に嫌そうな顔をする。ぜんぶ終わっていいにおいがしてから集りにくるつもりだったんだろうが、毎度毎度許さねえよ。
 沸かしといたお湯をバッフロンにぶっかけて、毛を毟りはじめる。野郎のほうが力が強くて早いんで、俺は道具浸かって引っかいて、ガシガシ抜くことにした。たまに毛まみれの手が気持ち悪そうにしてるが、俺は野郎がバッフロンの首を落として中身を掘り起こして食ってるのを見たことがある。そっちのがよっぽど気持ちわりいぜ。
 毛を毟り終わったら三枚におろしてバラす。そして食うぶんやら売るぶんやらなんやら配分を考える。
 自分で食う、かつ、いま食いきれないぶんは塩に浸けといたり、干しておいたり、燻しておいたりする。人手がないんで寝ずに何日もやる。山のド真ん中で肉を置いとこうってなりゃ番も欠かせねえ。これだからでけえのは嫌になる。だからって、あんな家の近くでバッフロンを見かけてほったらかして、数日後家に風穴空きましたじゃ笑い話にもならねえ。
 図体に比べてちいせえ手をプラプラさせて、野郎がサボりだした。
「おい、休むな。サボってると野生のポケモンに集られちまう」
 サボらなくても集られるんだがな。
 どうもこの辺の野生は好戦的なのが多い。どいつもこいつも、怖いモンなんざねえって顔してやがる。近づいてくるヤツはぜんぶブチ殺してるんで、危ねえって学習したヤツらは普段は寄ってこねえんだが、メシのにおいがすりゃ話は別ってことだろうな。
 バッフロンなんか、ほんとうは警戒心がすげえ強くて人間のにおいがこびりついた場所なんか寄ってこねえもんだ。ここの連中は頭がイッちまってんだよ。
「おまえはどうなんだ。食い扶持は?」
 野郎に言ってみたら、俺を指さしやがった。最近の食い扶持は俺ってわけか。呆れたヤツだ。でもそれまでは自分でなんとかして生きてきたんだし、野郎にとっちゃ人間の作るメシなんてのは、俺がたまに煙吹かすようなもんで、あってもなくてもどっちでもいいモンなんだろう。




 スワンナを殺した。
 ここいらでスワンナは珍しい。飛んでたのを二羽ブチ殺した。さっさとバラして片方は食っちまった。もう片方は気が向いたんで知りあいの店主にやることにした。ついでに酒の年季の入ったヤツも持っていく。たまにこういう土産をやっていると、ふだんの売りモンにも色をつけてもらえる――ってのはまあ建前で、俺だってたまには人様と世間話のひとつでも交わしたくなることくらいあるってだけの話だった。
「おい、俺だ」
「ああ、おじいさん。お久しぶりです。まだ生きてましたか」
「あー、生きてるなあ」
「今日はなにをご入用ですか」
「櫛を作った。また流しといてくれ。あといつもの酒をくれ」
「準備しますね」
 ほんとうはこの店は道具屋だ。酒なんざ売っちゃいねえし、仲介なんざ専門外だ。だが俺がそこそこ金になる物件だとわかってるんで、すこしくらい融通利かしてくれる。持ちつ持たれつのこういう関係をいくつか持っていることで、半分道楽みてえなこの店は続いてる……俺はそう思ってるが、ほんとうのとこは知らねえ。
「店主、これ土産だ。スワンナの肉。処理は済ましてあるから、火だ通しゃすぐ食える。あとこれは酒」
「いつもありがとうございます。でもスワンナでしたら、羽やくちばしなんかもよかったですね」
「今回のはもうぜんぶ棄てちまった。次捕まえたら持ってくる」
 店のモンをぼけっと眺めて、お客さん、今回もいい細工です、とか店主が言うのを適当に聞く。
「これくらいでいかがですか?」
「あー、いい。いい。ありがとさん。最近どうだ、店は」
「とくに変わりないですね。ぼちぼちですよ。そちらは?」
「あー……最近は危ねえかな」
「危ない?」
「ヤナッキーがうるせえんだ。人が噛まれたり引っ掻かれたりする」
「それはそれは」
「俺の近場にいる連中はボンクラばっかりで……近場っつってもそう近くはねえんだが、とにかく木に風穴空けるしか能のないヤツらしかいねえ。ポケモントレーナーなんか務まるタマじゃねえし、屋ナッキーなんざ仕留められねえ」
「このあたりの猟師は、ヤナッキーやヤナップを殺したくないという話はよく耳にしますよ」
()()()()()()だあ?」
「銃を向けると手をあわせて拝む、命乞いをするので殺せない、それでも殺すと呪われると言って」
「ほんとうなら気味わりいな」
「ですね」
「だが実際そんなことはねえと思うぞ。俺は拝まれたことなんざねえし……牙剥いて襲いかかってくるようなのばっかりだ。正直おっかなくてしかたねえ。きったねえ牙や爪で怪我すりゃいてえし治りは悪いし病気になるし――まあ、呪いに見えなくもねえかな」
 ハハ、ハハ、とお愛想笑いを交わした。
「それで、そのヤナッキーを仕留める話が回ってきたんですか?」
「いいや。俺はほかの山人とはとんと話さねえ。害獣ブッ殺せなんて話はだいたいジムの嬢ちゃん経由だよ。ヤツらがヤナッキーを殺したくねえなんて言ってるのも知らなかったくらいだしな」
「話を聞いていると、自分たちは仕留める腕もないんで、方便を言って回っているように聞こえますね。っと……すみません」
「いいっていいって。俺もそう思う。まあ実際、難しいヤツらだよ。ほかの野生ブチ殺すのとは少し違うんだ。危ねえって思うとこが、ケンホロウやらとは変わってんのかもしれねえな」
「なるほど。なんにせよ、あなたはお得意様ですからね。元気でやってくれていないと、この道楽もすこし厳しくなります。無理などなさらないように」
「違いねえ。じゃあ、またな」




 ツンベアーを殺した。
 冬眠もしねえで、そこらじゅうウロウロ、ウロウロ、歩き回るばかりか三人ばかり食い殺したってんで俺に話が回ってきた。もう、でけえとかそんな尺じゃおさまらねえんでバラそうなんて気もさらさら起きねえ。
 それに、どうも引っかかる。そりゃ俺に比べりゃボンクラだと散々言ってきたが、俺のシマからはそこそこ離れた場所のことで話が回ってくるなんざ、そりゃおっかねえ。おっかねえが、このくらいならなんとかやってみせる連中じゃねえと、今までだって立ち行かなかったはずだろう。ヤナッキーの話もあわせて、妙だ。気持ちわりい。
 場所が町に近かったんで、旨そうなとこだけ捌いてあとは運ばせた。一応は俺に話を触接持ってきたジムの嬢ちゃんに報告すれば、あとは金が動いて終わりだろう。疲れたし、知らねえ顔と言葉交わす元気も残ってねえ。
 ツンベアーを煮ていたら野郎が玄関から顔をひょっこりと出した。出てけと言う元気も、手招きするずくもなく、入ってこいと顎で合図したら黙って俺の正面に座った。煮あがって取り分けて、俺がそれを口に入れようとするのを、野郎が見ていた。
 好奇心の目だ。
「人間喰ったポケモンの肉を喰うのが、気にならねえのか、ってとこか?」
 野郎がうなずく。
「消化したもんは、なんでもそいつの肉になんだよ。そんなモン気にするヤツはここに住まねえ。おまえともつるまねえ」
 肉を持って町に出たとき、そこにはいつもの目があった。こいつはなにをしているんだという、偉業を見るようなあの目。どうか自分と関わらないでくれ、同じ空気を吸うことすら耐えられないという顔。だから俺はここにいる。なにかひとつでも変えられたならここにはいない。身寄りもいねえ、ただ食って寝て生きてきた。自分の歳だって数えてねえ。これしか知らねえ。
「そんな話はな、もう何年も何年も昔に終わってんだよ。食えよ。うめえぞ」
 どうも今日は野郎が大人しく、肉を食うようすが妙に賑やかに感じられた。鍋を平らげるまで、ずっとそんなだった。俺の機嫌がよくねえのにあわせてただけかもしれんが。
 次の日、ジムの嬢ちゃんにツンベアーを殺して町にやったと報告したら、目を剥くような金額をほれと出された。ちゃんとお祈りはしてるのかと訊かれた。そういやいつの間にかしなくなってたと思って謝ったら怒られた。タワーオブヘブンの鐘で慰霊もできないなら、ちゃんとしたやり方を今度は忘れないようにって、しっかり聞いて約束もした。
 あの嬢ちゃん、昔はこんなに面倒見よくはなかった。日が経つごとに丸くなってくのを見るのは、ずっと変われずここまで来ちまった俺への当てつけみてえに思えて気分が悪かったが、孫みたいに歳の離れたガキ相手にそんな対等な感情を自覚できていたわけでもなかった。




 ヤナップを二匹と、ヤナッキーを一匹殺した。
 向いて毛皮にした。こねて肉団子にした。肉を持って帰るところを別の山人に見られた。あいつは俺のシマでなにをしていたんだ。いま考えるとブン殴って追い出すべきだったかもしれねえ。いや、あの顔だ。多分もう頼んだって二度と来ねえ。まあ、こいつヤナッキーなんて食うのかって無言で語ってやがったのを余計なお世話だとブン殴る必要はあったかもしれねえ。
 どうにも夜な夜な、鳴き声が近くなっているような気がしてならねえ。そもそもヤナッキーやヤナップなんてのは基本的に夜は寝てるはずだろうに、鳴き声が聞こえることがおかしい。ともあれ、あの鳴き声は三匹どころじゃなかったと思うが、一週間かけて三匹殺したところで、鳴き声はしなくなった。忌々しい。
 味の濃い鶏肉って感じのヤナッキーを食って、ふと野郎に訊いてみた。
「やっぱ、人間と同じような味なのか?」
 野郎は人間みたいに肩を竦めて、首を傾げる。人間なんか食ったことはないのかもしれない。人間を襲う野生なんざあっという間にブチ殺されるだろうからな。
 でも自殺を考えた人間が、その方法として野生のポケモンを探すって話は聞いたことがある。自分を食ってくれと頼みにいくわけだ。ワケわかんねえ話だ。そういうのとも会わなかったかと訊いてみたら、野郎は急にぴたっと動きを止めて、その視線が宙に固定された。見事に動かねえそのようすを見つめていると、じきに野郎の視線が俺に戻って、それから指を立てた。一、二、三……三人くらいってことか。食ったことあるんじゃねえかよ、人間。でもそう多くはないらしい。じゃあ味なんか忘れちまったのかもしれねえな。
 野郎は土産にきのみをたっぷり持ってきた。野菜も混じっていた。そういうツテでもあるんじゃなきゃ、フキヨセシティの畑でも荒らしたか? しかし野郎、そういう類の悪さをするポケモンとも思われねえし、どうでもよかった。正直、ヤナッキーとヤナップの肉はかなり旨かったし、野菜も最高だった。酒も進むし、あの引っ掻いたような鳴き声も聞こえねえし気分がよかった。野郎も楽しそうにしていた。嬢ちゃんと約束したとおり、俺は慰めのお祈りも、ポケモンを殺したその場で欠かさなかった。最後に殺したヤナップは、俺がブチ殺したヤナップとヤナッキーに覆いかぶさるように、庇うようにして現れた。
 俺はその三日後、病に伏せた。




 俺は家のすぐ外の切り株で銃の手入れをするのが毎日の始まりだった。どんなにクソみてえな気分でもそれだけは欠かさなかった。心が落ち着いた。唯一、絶対に裏切らない味方を慈しむようなモンだった。俺はその日の朝、体じゅうの体液がなくなるかと思うくらい吐いて、下痢を撒き散らした。悶え苦しんで、苦しい以外に考えることがなにひとつなくて、銃のことなんざ一瞬も頭を掠めなかった。俺は多分ここ何十年か微熱すら出したことがねえ。くせえ。苦しい。暑い。寒い。痛い。皮膚の内側がぜんぶ痒い。クソクソクソ、死ぬ。死んじまう。いやもういっそ死んで楽になりてえ。だが手に力が入らねえ。視界も緑と紫でぐにゃぐにゃになってなにもわかりゃしねえ。自害もできねえ。ダメだ。このまま死ぬまで死ぬほど苦しんで死ぬ。そう思った。
 次に自分の意識を感じたときには、若干地獄くらいまでに回復していて、くさくなかった。顔が胃液にまみれてなかった。ジムの嬢ちゃんと野郎が俺の顔を覗きこんだ。
「俺ァどうなっちまったんだ」
 野郎が嬢ちゃんを連れてきてくれたらしい。俺が日課に出ずにメシにありつけないことを不満がって、家に侵入したら惨状だった――そんなところか。ありがてえ。ありがてえんだが、おまえは俺を見てる以外にするこたあねえのか。野生のくせによ。
 俺が不満たらたらな顔をしてるので、嬢ちゃんが説明をはじめた。
「これは、呪いの類ですね。最近、ネジ山のあたりで流行っていた呪いです」
 呪いだと。誰が俺に呪いをかけるってんだ。俺ァ人に嫌われはしても呪われるようなことはしてねえはずだ。
「正直に言うと、誰かがあなたを呪うと決めて呪ったわけじゃないんです。ヤナッキーたちの呪いが出回りすぎて、人々の心が弱っていた。そこにあなたみたいな刺激的な情報があって、漂ってた死者のエネルギーが集中した感じです」
 じゃあ、なんだ。自分たちの出した嘘を自分たちで真に受けて、自分じゃ始末できなかった害獣を俺に始末させて呪いまで押しつけたってわけか?
「アタシのココロモリが、悪いものはここでぜんぶ祓います。町のほうでも対処はしてもらいますから、少なくともこれからもっと悪くなることはないですよ。さっきも言ったけど、誰かが直接あなたを害そうとしたわけじゃない。事故ですよ、事故」
 くだらねえ。どいつもこいつもくだらねえ。俺がヤナッキーに食い殺されたとして、だからってヤナッキーを呪い殺せるとは誰も思わねえはずだ。第一、馬鹿馬鹿しくってそんな気にもならねえはずだ。だがそれが逆となるところっとできると思いこみやがるんだ。なんだってこう、トンチキなんだ。
「なにを考えてるかわかりますよ。アタシにその是非は問えないけど」
 俺にそう言った嬢ちゃんは、なんというか、こう、凛としていた、って言やいいのか。とにかく、そんな感じだった。俺が嬢ちゃんを対等に見てねえのは、孫みてえに歳が離れてるからじゃなく、嬢ちゃんが見てるモンが俺よりずっとでけえってのを、はじめからなんとなく理解させられてたからかもしれん。
「ぜんぶなんとかします。今は安静に寝てください」
 次に目が覚めたら、誰もいなかった。ツンベアーをブチ殺して手に入れた金が半分くらいなくなってた。体は最初からなにもなかったみたいに軽くて、朝だったんで銃の手入れをした。




 メブキジカを殺した。
 シキジカやメブキジカを殺すってのは気分がいい。朝露のにおいを感じるように、やってやったぜ、食ってやるぜという気がする。シキジカやメブキジカを殺したときは、大方ぜんぶ自分で食う。好物だ。野郎が攫っちまうぶんはもう、しかたねえ。だいたい最近、嬢ちゃんなんか恐れ多いのよりもよっぽど野郎は孫みてえなモンで、メブキジカくらい食わしてやるよという気分にすらなってきている。とはいえ、働かせはする。おれは命の恩人だぞニンゲン、みてえに太々しく憚らない。俺の知ったことかよ。おまえが助けたくて助けたんだろうが。
 俺が捌いたメブキジカを、野郎も喜んで食う。俺はメブキジカを捌くことには自信があったが、それにしたって旨すぎる。これはコイツが旨かった。コイツは当たりだ。かー、んまい!
 あれからまたすぐヤナッキーの害獣騒ぎがあったんで、また何匹か殺して食った。嬢ちゃんは呆れていたが、別に俺がなにかのせいになったわけじゃねえ。嬢ちゃんは、ヤナッキーの呪いにしろなんにしろ、人間があると思やあるもんなんだと説いていた。だがそりゃあ、ヤナッキーの呪いじゃなくて人間の呪いなんじゃねえのかっつったら、嬢ちゃん、苦笑いしてた。それを野郎に言ったら、野郎もげらげら笑った。土産にヤナッキーの肉団子を串焼きにして嬢ちゃんに持ってったら、ちゃっかり食ってやがった。旨い旨い言ってたよ。ヤナッキーやヤナップなんてのは基本的にいいモンばっか食ってやがるから、肉は甘くて旨いんだよ。まあそのせいで俺にブチ殺されたんだがよ。野郎の狩りの獲物にも勧めといてやった。
「あのよ、クリムガン」
 野郎はクリムガンって名前のポケモンらしい。嬢ちゃんがそう呼んでいたのを、俺はちゃんと覚えていた。
「おまえ、もうここに来るのやめろ」
 ガジャッ、とクリムガンが驚きの声をあげる。
 あのとき見た、もう死んだポケモンを庇うヤナップは現実だったのかと考える。殺したそいつらを持ち帰ったときに見たあの山人も。そういや見たこともねえツラだった。覚えてねえだけってのもじゅうぶんあり得るが。最近殺したヤナッキーはみんな、やっぱり牙剥いて必死こいて襲いかかってくるか、ぴょんぴょん逃げ回るか、どっちかで、手をあわせて拝んでくるヤツにはとうとう遭ったことがねえ。わからん。どこかにはいるのかもしれねえ。でも俺は見たことねえし、もしその話になったら俺は絶対、ポケモンは命乞いなんかしねえよって言う。
 クリムガンがぎゃあぎゃあ喚く。これからもここには来るつもりらしい。
「そうか。じゃあ俺が死んだらおまえ、俺を食え」
 クリムガンはまた驚いて、今度は黙った。
 俺は――それでも嬢ちゃんの言うとおり慰めのお祈りはする。わからねえけど、呪いやら祟りやらってのがあるのは知ってる。ヤナッキーがどうとか、人間がどうとかは関係なく、あるのは知ってる。だからやる。それで安穏無事に生きられるってんなら俺だってそうする。昔からやられてることには、だいたいなんか意味があるもんだ。有意義な意味かは別にして。
「そこらの野生に食われるよりは、おまえのがイイ」
 俺はそう、クリムガンに言った。





【名無しのクリムガン】

じょうたい:Lv.38 HP100% 4V
とくせい :?
せいかく :?
もちもの :なし
わざをみる:げきりん ふいうち へびにらみ かえんほうしゃ

基本行動方針:きれいな夕陽が見たい
第一行動方針:???
第二行動方針:自分が生まれた橋を探す
現在位置  :ネジやま
 

 また違った視点からクリムガンを書いてみたら、これがもうかわいいのなんのって。
 こんなクリムガンが通ってくれたらなーおれんとこにもなー。

 



 

 


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Last-modified: 2022-02-15 (火) 23:57:34
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