ポケモン小説wiki
蠑螈の紅

/蠑螈の紅



蠑螈の紅 


作者:COM

 『惚れ薬』というものを知っているだろうか。
 媚薬、催淫薬、言い方は様々あれど、用途は全て同じ。
 恋人や伴侶を誘惑し、強壮作用をもって夜を愉しむための薬。
 とはいうものの、実際の所は絶倫な精力を与え、相手を魅了し、必ず堕とすための薬のように考えられる事の方が殆どだ。
 もし皆の想像するような『惚れ薬』が存在するのであれば、それは賢者の石のような誰しもが欲する物となるだろう。

「何処かにないものかねぇ……。惚れ薬」
「ま~だ引きずってんのか」

 酒場で管を巻いている男が一人。
 呆れた表情の男がそう言いながら乱雑に投げ出された食器を片付けてゆく。
 どうにも男は昼間から飲んだくれており、顔見知りである店の亭主がその様子に苦言を呈していたようだ。
 時は中世、時代は正に群雄割拠の時である。
 国と国との戦争もさることながら、人とポケモンと呼ばれるようになった特異な獣との生存競争もまた激しい時代。
 時として共に生き、時として共に戦い、そして生きるために喰らい喰われる。
 それが当たり前の世界だった。
 故に傭兵に憧れる剣士がその身一つで人に害をなすポケモンを駆除しながら世界を回る、所謂冒険者のような者が溢れていた。
 その中でもしも上手くポケモンと心を通わせられたのなら傭兵はおろか、一つ飛びで貴族として取り立ててもらえるかもしれないという野心に燃える者が多かったが、生半可な気持ちでどうこうなる世界でもない。
 毎日のように何処かで駆け出しが命を落とし、そして人の味を覚えたポケモンが人里を襲う。
 この生業で生きていくと決めた熟練の冒険者はそうして若者を焚き付け、人を襲うようになったポケモンを狩って生計を立てている。
 悲しいかなそれがまかり通る時代でもあった。
 彼もまた駆け出しを漸く卒業できるかという冒険者であった。
 といってもビッパの群れを追い払って川辺のダムを崩したり、農作物を荒らしに来たムックルの群れを追い払ったりとその程度だ。
 殺意と向き合った事など未だ無かったが、稀にいる立ち向かってくるポケモンを返り討ちにできる程度の実力は備えている。
 本当に良くも悪くもまだまだ中途半端な存在。

「いい加減冒険者なんて辞めて親父さんの所に戻ってやりな」
「大きなお世話だ! 誰が土いじりなんかするかよ」

 亭主の老婆心を酔いに任せた一喝で返したが、あちらもあちらで酔っ払いの扱いは慣れている。
 希望を胸に抱いて冒険者となった彼からすれば、まだまだ可能性は未知数といった所だが、亭主からすればよく見る昼間から飲んだくれる典型的な駄目な冒険者の内の一人でしかない。
 そもそも冒険者になった理由は貴族になるためでも冒険者として名を馳せるためでもなく、風の噂で聞いた『冒険者はモテる』というくだらない噂話からだった。
 斧を武器に家を飛び出し、剣を携えられるようになった頃に村に戻ってきて意中の女性に冒険者となった自分を見せつけ告白したのだが、返ってきた言葉は『馬鹿らしい』の一言だった。
 盛大に振られた事を発端に、今やけ酒を煽っている最中だったということだ。

「よう兄ちゃん。荒れてんなぁ」
「煩いなぁ。放っといてくれ!」

 そう言って彼は話しかけてきた相手をぐでんぐでんになった腕で追い払おうとしたが、意に介さずにその男は彼の横に座った。

「まあそう固い事言うなよ。あんたにとってもいい話を持ってきてやったんだ」
「いい話?」
「お前さん、媚薬に興味があるんだろ?」

 左に一人、装備からしてかなり手慣れた冒険者と思う男が座ったかと思うと、また一人今度は右に座りながら話しかけてきた。
 挟み込む形ではあったがかといって威圧するような態度でもなく、笑いながら先程漏らしていた愚痴の内容を聞いていたらしく、媚薬の話を持ち掛けてきた。

「んだよ……。薬売りか? それとも詐欺師か? 間に合ってるよ」
「馬鹿言え、俺達が薬売りに見えるか? どう見たって同業者だろ?」

 最初は彼もその二人組の冒険者の事を訝しんだが、どうも詐欺や物盗りの類ではないというのは口振りで何となく理解できた。
 それどころか男達は彼に水を飲ませて少しでも真面に話し合おうという姿勢のようだ。
 ある程度酔いが覚めるまでお互いの身の上話をしながら時間を潰す。
 二人組の男はそれぞれジャックとジェイコブと名乗り、答えるように彼はアルフレッドと名乗った。
 曰く彼等は元々は商人を生業にしていたらしいが、その知識を応用して自分で素材を集め、商品を作って売り込む方が性に合っていると感じたらしく、一念発起して店を畳み、冒険者へと転じたようだ。
 彼、アルフレッドは片田舎の農家の一人息子として生まれたため、いずれは土地を受け継ぎ同じように田畑を広げていくだろうと漠然と考えていた。
 しかしそんな折、同じ村に住む一人の女性に恋をしたが、彼が惚れたように他の男達も彼女に釘付けだった。
 他の男よりも確実に彼女に好かれたいと考える内、導き出された答えが先の冒険者となる事。
 重ねるならば彼女は堅実に父の手伝いをし、泥に塗れて働いている彼の姿に好感を持っていたというのが正に追い打ちだろう。
 恰好を付けるために村を出て、漸く冒険者としてそこそこになったからこそ今更村には戻りにくく、かといって冒険者を続ける理由も無いという何もかもがフワフワとした状態だった。

「つまりその女に振り向いてもらいたい、って事だろ? だったら猶更良いじゃねぇか。さっきも言ったが、俺達は今、媚薬を作るための材料を取りに行こうとしてるんだが……最後の一つの材料がち~っとばかし面倒でな。人手を探してた所だったんだよ」
「ギルドに依頼でも出せばよかったんじゃないか?」
「馬鹿言え。依頼料は結構高いし、媚薬なんてもんを作ろうとしてるんだ。口が堅い奴じゃないと後々トラブルの元になる。だからこうやってお互いに利がある相手を探して直接声を掛けてるんじゃあねぇか」

 つまり彼等は非合法な媚薬を作って売ろうとしている故にギルドのような場所に依頼という形で出す事ができず、同じように媚薬を求めている者を探して仲間に引き込もうとしているようだ。
 言うまでもなく胡散臭い。

「悪いけどその話は無しだ。面倒な素材ってのは要は強いポケモンって事だろ? 俺だって身の丈はよく知ってる」
「まあまあそう言うなって。なんなら前払いでお前さんが欲しがっている物をくれてやるよ。あっちに娼館があるだろ? 試しにそれを使って前を通ってみな。タダでヤれるぞ」

 そう言うとジャックは小瓶を取り出して彼の前に置いた。
 曰く、それが彼等が精製した媚薬らしく、売る分とは別に自分達で使っている分を分けたようだ。

「薬売りと何が違うんだ……」
「理由は単純。俺達の商品はこれだけだ。効果は使ってみてのお楽しみ。俺達と組んでくれるってんなら、今すぐコイツを一瓶くれてやる。依頼達成後にもう一瓶と報酬分の金を払う。お前さんの話してた女の子も射止められるし、金も手に入る。悪い話じゃないだろ?」
「……効果が無かったら?」
「そん時は断ってくれて構わない。だがまあ気に入ると思うぜ?」

 媚薬などという物が本当にあるはずがない。
 そう分かっているはずなのに、目の前の小瓶はあまりにも魅力的だった。
 試してみて効果が無ければ約束は無しになる。
 そんな浅はかな考えで、彼等の口車に乗り、アルフレッドは小瓶を手に取った。
 使い方はいくつかあり、一つは少々効果が薄いが香水のつける方法。
 手首の内側と耳の裏に少量ずつ塗り、会話等の中で自然と身振り手振りを増やして香りを撒き、相手に効果を与える。
 そしてもう一つが内服薬。
 酒でも水でもいいのでこちらも数滴垂らした物を飲ませれば香りとして使用した時とは比にならない効果を発揮するとの事だ。

「餞別代わりに効果的な使い方も教えてやるよ」

 そう言ってジャックは言った通り媚薬を付けてから娼館の方へ歩いてゆく。
 そして話しかけてきた女性とそのまま適当に会話をし、酒場へと誘ったようだ。
 適当な会話をして酒を奢り、飲んでいる途中で酒に媚薬を垂らして飲ませるという、いかにも古典的な手だったが、その効果は言った通り覿面だった。
 彼女も娼婦であるため、客引きの為に酒に付き合っていたはずだったが、ジャックが一言二言耳元で囁くとまるで引っ張り込むように娼館の裏手へと消えていった。

「ま、女性を口説くテクニックはお前さん次第だが、見ての通りだ。俺も今晩は楽しませてもらうから、また明日、あの酒場で落ち合おう」

 そう言ってジェイコブの方も同じように媚薬をふり、そして同じように娼館の前を通ると、恐らくジャックの時と同じように客引きをしていたのだろうが、そのまま会話から酒場への流れになっていた。
 俄かには信じ難い話だが、目の前で効果を実証されては信じる他無い。
 意を決してアルフレッドも手首と耳の裏に媚薬を塗り、心臓を高鳴らせながら娼館の前を歩く。
 娼館の女性は引き込めた男性がそのまま自身の売り上げとなるため、皆露出が多く胸を見せつけるようにしており、近くを通る冒険者に声を掛けて回っている。

「そこのお兄さん。よかったら一晩如何かしら?」

 普段ならば彼は娼婦の誘いは断っていたが、その日は媚薬のせいかやたらとその女性が艶やかに見えた。
 媚薬を塗っている以上、少なからず自分自身もその影響は受けているだろう。
 それとも単にまだ醒めきらない酔いのせいか女性慣れしていない事が原因かは分からないが、どちらにしろその女性は彼の目にも魅力的に見えたのだ。

「いいけれど、それなら先に君の事を知りたいな」

 ジャックとジェイコブの受け売りの言葉を投げかけると、彼女はにっこりと笑って彼の腕に絡み付いた。
 彼女からすればリップサービス程度のコミュニケーションだが、彼からすれば柔らかな胸が当たるのはそれだけで興奮が高まってしまう。

「あら? 貴方いい匂いがするわね。リンゴの匂いかしら?」
「ああ、香水だよ。素敵な女性と会うんだ。身だしなみは整えておかないとね」

 リンゴのような甘い匂いの香水に仕立てられているが、それはあくまで媚薬であることを悟られないようにするためだ。
 そして同時に酒場まで連れて行けば自然とシードル(リンゴ酒)を頼む事ができ、媚薬を混ぜてもバレにくくなる。
 この媚薬はどこまでも効率的な仕上がりになっている。
 ジェシカと名乗ったその女性は恐らく本人は気が付いていないだろうが、既に少しずつ媚薬の影響を受けている。
 そしてアルフレッドの身の上話を軽い冒険譚のように聞かせる内に、一度席を立ったタイミングで数滴彼女の杯に入れ、何事もなかったかのように談笑を続ける。
 媚薬入りのシードルを飲んだのを確認したらもう一、二杯程度飲んでから席を立ち、店を出る。
 大体その頃には媚薬の効果がしっかりと出ており、酔いに似た恍惚とした表情を浮かべている。

「それじゃあお店に行きましょうか」
「それもいいけど、また明日かな。まだ今日は君の事を知れただけで十分だよ」
「何よ~期待させちゃって」

 受け売りだが彼女にそう言うと頬を膨らませて可愛げのあるように怒ってみせる。
 しかし彼女の両手はアルフレッドの手を取り、引き寄せるように絡ませて指先を自らの股下へと誘う。

「ほら、ここ凄い事になっちゃってる……。私普段こんな事にならないの。今なら貴方にもすっごい事してあげちゃうよ?」

 引き寄せた腕に胸を付け、彼の耳元で吐息を吹きかけるように囁く。
 布越しでも分かるほどに彼女の陰部は濡れており、いくら娼婦といえど異常な興奮の仕方をしているのは明白だった。
 眉唾程度に思っていたが、獣のように濡れた股に彼の手を押し当てている様は同じように股間を熱くさせる。

「そ、それなら商売抜きに恋人のようにって事ならいいけれど……どうする?」

 動揺のせいで少しだけ言葉に詰まったが、聞いた通りの誘い文句を同じように耳元に囁く。
 普通なら娼婦がこんな何の利もない誘いに傾くはずもないが、少しだけ考え込みだした。

「僕は恋人として君を抱きたいんだ」

 そんな甘い言葉を投げかけるとアルフレッドの腕に絡めていた彼女の腕の力が少しだけ強くなった。

「いいよ。その代わり、裏でこっそりとね」

 そう言うと待ちきれないのかグイグイと引き連れて娼館の脇の暗がりに連れ込んだ。
 下着ごと捲り上げられたドレスの下は、布をそぼ濡れさせるほどだった愛液に塗れた股間をすぐさま曝け出すほどに興奮している様子だった。

「見て、貴方と会ってからずっとこんな調子なの。抑えがつかないからちゃんと責任もって鎮めてよね」

 性を商売にしている女性すら虜にするこの媚薬の性能は最早疑いようもない。
 彼も今にもはち切れそうなモノを寒空の下に曝け出し、そのまま周囲にバレない様に声を抑えながら、しかし獣のように交わり、熱い夜を過ごした。





     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇





「よう! その様子だと昨晩は楽しめたみたいだな!」

 翌日、約束通りにアルフレッドが酒場へ行くとジャックとジェイコブが席に着いているのを見つけて同じ卓に座った。
 改めて三人は必要な素材や向かう場所についての情報を交わし、目的を明確にする。

「媚薬の材料に必要なのはエンニュートってポケモンの素材だ。脱皮した皮でも卵の殻でもいい。それを入手する必要がある」

 ジェイコブ曰く、エンニュートに由来する素材があれば媚薬の精製に必要な材料にできるらしく、可能であれば新しい物のほうが好ましいとの事だった。
 ただ問題はエンニュートは群れを必ず形成し、沢山のヤトウモリに縄張りを見張らせているので近付くことが困難だ。

「初めて聞くんだが、そのエンニュートってポケモンはヤバいポケモンなのか?」
「そうでもねぇな。毒とか炎とかを使うポケモンだから近付くのは大変だが、力勝負に持ち込めれば人間でも抑え込めるぐらいには力が弱い。厄介なのは数の多さだ」
「そんなものどうやって……」
「だから頭数が必要だったんだよ。俺達はヤトウモリの扱いに慣れてるから囮になって引き付ける。その間にお前がもぬけの殻になった巣の中に転がってる素材を片っ端から集めて来てくれりゃあいい。選別なんかは後でいくらでもできるからな」
「でも群れの中央にはエンニュートってポケモンが居るんだろ? そいつはどうするんだ?」
「見張りが多いってのは警戒心が強いって証拠だ。群れの中央まで来られる事を想定してないから不用意に近寄らなければ襲われる事も無い。それだけは忘れるなよ? いいな? 素材を適当に拾ったら真っ直ぐ群れから離れる。それだけだ」

 アルフレッドの質問に対して何度も釘を刺すようにジェイコブは言葉を重ねた。
 群れのボスであるエンニュートと対峙する事にはなるが、確かに囮役を引き受ける二人に比べれば襲われる心配は少ないかもしれない。
 警戒だけは怠るなという忠告を胸に刻み、彼等は作戦の成功を祈願して一杯飲み交わし、日が暮れ始めた頃に森の中へと入ってゆく。
 夜の森は普通ならば近寄るべき場所ではない。
 夜行性のポケモンが闊歩し、眠りに就いたポケモンや野営を行う人間を狙って狩りをする時間だからだ。
 夜目の利かない人間にとって夜の森は危険以外の何物でもない。
 だが逆に言えば夜行性のポケモンの縄張りに入る必要性があるのであれば、縄張りを空けて行動する夜でなければ眠るために巣の中に集まっているポケモンを一斉に起こしてしまう最悪の事態に陥る。
 そうならないためにもまだ日が傾きかけている時間に辿り着き、目的を達成したらさっさと山を下りてしまえるこの時間が最も好ましい。
 獣道からそう離れていない岩肌にぽっかりと空いた洞穴。
 その中から次々と目を覚ましたヤトウモリが姿を現した。

「アレがヤトウモリだ。アイツらが完全に動き出したらこちらも動くぞ」

 望遠鏡で遠くから様子を窺っていたジャックがそう言いながら望遠鏡をアルフレッドに渡す。
 視線の先には沢山のヤトウモリがおり、そしてその中に一際大きなポケモンが鎮座している。

「てことは……あの大きいのがエンニュートでいいんですかね?」
「そうだ。この時間になると近くの木の実やらを集めさせに動く。そうなると巣の辺りから大部分が離れるから俺とジェイコブで囮になってヤトウモリを引き付けて仲間を呼ばせる。後は作戦通りだ。しくじるなよ?」

 手筈の最終確認を行い、薄暗くなってゆく森の中、静かに行動の時を待ち続ける。

「これ以上は暗くなりすぎる。行くぞ」

 遂に作戦の時。
 アルフレッドを残してジャックとジェイコブは足音を立てないよう静かに分かれて行動し、そのまま巣の周りを歩いてヤトウモリを引き付ける。
 彼等の存在に気が付いたヤトウモリが大きな足音やけたたましい鳴き声を上げ、暗くなる森の中が騒がしくなり始めるとアルフレッドも手筈通り行動を開始する。
 望遠鏡で事前に確認していた道順通りに巣へと近付き、そして周囲を警戒しながら巣の中へと入ってゆく。
 洞窟周辺には木の実の食べ残しや小さいポケモンの骨と思われる物が散乱しており、脱皮した皮や卵の殻は見当たらない。
 調べられる場所としては後は洞窟の内部だが、事前に忠告されている以上これ以上近寄る事は避けたい。

『もっとよく調べればそこら辺に落ちてるはずだ』

 洞窟の方へ意識を向けたまま、入念にその残骸の辺りを探して回る。
 視線を下に落としては洞窟の方へ向け、そうして決して襲われないように警戒しながら残骸を探していた。

『なんだ……? この甘ったるい匂い……』

 だからこそ、後ろから近付いてくる存在の方には気が付くのが遅れてしまった。
 匂いの元を探るために周囲を見回した時、洞窟の奥にいると思っていたエンニュートがいつの間にか背後に立っていたのだ。

『マズいっ……!』

 急いで剣を抜こうとしたが、彼がエンニュートの存在に気が付いたのを察知すると剣を抜くよりも早く両腕を掴み、そのまま押し倒されてしまう。
 話で聞いていたのと違い、エンニュートの動きは素早くそして明らかに人間よりも力強い。
 とてもではないが押さえ付けるエンニュートの腕を振りほどく事は難しく、そしてトドメとでも言うようにエンニュートは大きく息を吸い込んだ。

『毒か!? 炎か!? どちらにしろこの距離は避けようがない……!』

 押さえ付けられた腕で動ける僅かな範囲で身を躱そうと顔を振っていたが、吹きかけられたのは毒でも炎でもなく、先程感じ取った熟れすぎた果物のような甘ったるい香りだった。
 毒と判断し即座に息を止めて耐えようとしたが、滞留するその匂いを完全に避ける事は適わない。
 無理に息を止めた分その甘ったるい香りを漂わせる空気を思い切り吸い込んでしまった。
 酩酊感に似たぐにゃりと視界が歪むような三半規管の乱れと共に身体が熱を帯びてゆく。
 そして意識せずともその熱が集約するように男根に力を与える。
 理性を奮い立たせ、必死にこの状況から逃げ出さないとマズいと身を捩って馬乗りになっているエンニュートから逃れようとしても、昨晩のように心音に比例するように男根に力が漲ってゆいき、激しく暴れる彼の身体にエンニュートは身体を寄せ付け、密着させてくるため布と擦れ合い快感がさらに興奮を高めてしまう。
 ズボンの中に何ががするりと潜り込み、そして敏感になった竿に巻き付く感覚を覚えた。
 熱く滾る男根に絡み付くそれは何処かひんやりとしていて心地良く、思わずその感触が心地良いと理性が引っ張られそうになるが、この状況でそんな事ができる存在は今目の前にいるそのポケモン以外にはいない。

「な、何のつもりだ!!」

 彼は吐き捨てるようにエンニュートに叫んだが、エンニュートはにやりと口角を上げるだけで何もしない。
 それどころか寧ろ身体を寄せ付け、首元を生暖かい舌がチロチロと這い回っている。
 不気味な感触だったが、それすら今の彼には全身に快感という名の電流を流されているような心地良さだった。

「ま……まさか……」

 暴れた事で先程の毒が身体全体に回ったのだろう。
 危機的状況だと分かっているのに最早四肢には力が入らない。
 神経毒に侵されたわけではない。
 それどころか神経の感覚を鋭敏にし、呼吸の吐息や布ずれの感覚すら事細かに知覚できるほど増強されていた。
 感じ取っていた危機は正に現実になろうとしている。
 媚薬の原材料が今、正にその能力を思う存分奮い立たせて雄を誘惑しているのだと理解した。
 抵抗したくても最早この快楽に溺れたいという本能がその選択肢を、甘い痺れが全身を駆け巡る度に奪い去る。
 彼の身体の抵抗が緩んだ一瞬を見逃さず、エンニュートは触手を絡み付けた彼の男根を服の中から引きずり出した。

「なっ……!?」

 外気に晒された肉棒が熱した鉄のように熱く感じ、そして外気に触れる冷たさと人肌よりもわずかに温い滑らかな感触が裏筋に触れる。
 彼が視線を自らの男根へと落とすとエンニュートの腹にぴったりと付いており、後ろ脚は器用に彼のズボンを引きずりおろしている。
 若さのある反り返った男根は呼吸の度にエンニュートの腹から離れたりまた付いたりしており、その間も股間はしっかりと引きずり出されており、肌と肌が密着できる状態にされるとすぐさまエンニュートは跨るように脚を絡め、ぺたりと互いの腹を合わせた。
 このままなら間違いなくあの媚毒の主と交わる事になる。
 そうなればただでは済まない事など十二分に理解できているが、最早本能がこれ以上の快楽を望んでいた。
 快楽の奴隷となった今の彼には、雄を求めて自らの腰を擦り付けているエンニュートの動きですら艶めかしく感じられる。
 見た目よりも滑らかな鱗の感触と柔らかな腹から腰にかけての肉の感触、そして溢れる水の感触と熱がぬらりと熱された鉄棒のようになった竿を濡らしてゆく。
 獲物を舐め上げるように濡らしてゆくエンニュートの女陰が雁首に辿り着くと、ぐねりと反り返った亀頭の先を探り当てるように蠢き、喉奥へ呑み込むようにしてずぶずぶと蜜壷へと誘う。
 その中は人間とは比べ物にならない程熱く、媚毒のせいかそれとも限界が近かったせいかは分からないが、呑み込まれてゆく最中の時点であっという間にエンニュートの蜜壷の中を汚した。
 熱に浮かされたような快感とポケモンに犯されているというのに感じているその背徳感からか、一度分の精子を出し尽くしたというのにまだまだ彼の男根は衰える様子を見せない。
 彼の腕を押さえ付けていたエンニュートの腕は最早彼の肩へと回され、傍から見ればただの逢瀬にしか見えないような状態に変わっていた。
 抵抗することなくただ甘い痺れに身を任せ、獣欲を享受する。
 ぐちゅぐちゅと蜜壷を掻き回す水音が響き、彼の上でエンニュートは何度も彼の精を吸い上げ、そして時折あの甘ったるい息を吐きかける。
 とうの昔に日は沈みきり、最早何度射精したかも分からない程の回数をエンニュートの蜜壷に絞り上げられ、それでもその妖艶な宴は終わる事を知らない。
 何故それほどに精力がもつのかなど考えられるだけの知恵は残っておらず、全て快楽と共に流れ出ていたのかもしれない。
 そうする内にエンニュートの腰付きがより一層激しさを増し、揺らめく炎のように身体全体をくねらせて搾り取る。
 彼は最早嬌声も悲鳴も上げられるほどの体力は残っておらず、ただ無限に続く快楽と性欲に支配されていた。

「クルルルァァァァ!!」

 これが最後とでも言うように、エンニュートは一つ喉奥から響くような鳴き声を上げる。
 怪しく蠢いていた蜜壷が絞り上げるように彼の男根に絡み付き、一滴残らず搾り取る。
 その次の瞬間だった。
 天を仰ぎ見たエンニュートの首が宙を舞い、鮮血を噴き出した。

「ジャック! 急げ! 一滴たりとも無駄にするな!」
「言われなくても分かってる!」

 そう言うとジェイコブはすぐに首から上を失ったエンニュートの身体を掴み、ジャックの持つ革袋の中に噴き出る血を注いでゆく。
 一つが満杯になれば二つ目にすぐ持ち替え、そうして血が噴き出るのが止まるまで続けた。

「よう兄ちゃん。あんがとよ。おかげで"素材"がたっぷり手に入ったよ。……って言っても聞こえてねぇか」

 血でポーチ程の大きさに膨らんだ革袋を背負ったジャックがアルフレッドの頬を軽く叩きながらそう言葉を投げかけたが、彼は返事はおろかただただ荒い呼吸を繰り返すだけで視線すら合っていない。
 その様子を見て二人は鼻で笑い、遠くの世界を見つめるアルフレッドに言葉を続けた。

「言い忘れてたが、あの媚薬はエンニュートが絶頂を迎える時に自分自身と番に使う毒だかなんだかが混ざった血を薄めたものだ。だからお前はこのエンニュートの番になれたってわけだよ。ま、今エンニュートが死んだから今からお前とやりまくってこのヤトウモリ達から次のエンニュートが生まれる。せいぜい次のエンニュートとよろしくやってくれ。まあその時まで生きてたらの話だけどな」

 その言葉を最後にエンニュートの骸と並ぶアルフレッドの元を去っていった。
 散っていたヤトウモリ達が巣へと戻ってきた後の事は語るまでもないだろう。
 そして彼等はそうやって得たエンニュートの特殊な血を用い、また次の媚薬を作るだろう。
 いずれ彼等が喰われる側になるその時まで。

お名前:

コメントはありません。 コメント/蠑螈の紅 ?


トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2024-02-28 (水) 22:08:03
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.