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番外編(恋) 甘い香りは危険な匂い?

/番外編(恋) 甘い香りは危険な匂い?

writer is 双牙連刃

 遅刻はしましたが、突発的バレンタインのライトの様子をお届け! さっくりと読める程度ですので、お楽しみ頂けましたら幸いです!



「何となく理由は分かっけど、珍しいもんだねぇお前さんから散歩に誘われるなんて」
「まぁお前ならば察するだろうな。それでも完成品は渡す時に見せたいというのが牝、いや、乙女心という奴なのだろうさ」

 なんて話しながらレオと並んで歩く町中は、とあるイベントと物の広告が展開されている。所謂バレンタインデーって奴だ。元々は歴史的に男女の交際が禁止されている時代にそれを哀れに思った聖人が秘密裏に縁結びを行って、それが時の国家に知られて処刑された。その聖人、聖ヴァレンティノに敬意と哀悼を送る日だったらしいんだが経緯から恋仲の連中が想いを誓い合う日に転じて、昨今の意中の相手に贈り物と想いを伝える日になったってんだから、なかなか面白い経歴の日でもあるわな。
 まぁポケモンから言やぁ全く関係の無い日なんだが、郷に入っては郷に従えってこったな。俺も今はハヤト家に身を置くもんだし、催しもんは楽しむが吉だわな。

「そんで? お前さんが企てに協力してるってこたぁ作り方の相談でも受けたんか?」
「菓子作りの際にチョコレートの湯煎方法等は調べたからな。俺の知る限りの手順は教えたぞ」
「あぁ、そういやドーナツなんかにチョコが掛かってる時あったっけな。あれも自分でやってた訳だ」
「炎タイプというのは何かと菓子作りに便利なものだなと最近は思っている」

 楽しんでるようで何よりだ。とはいえ今日は貰う側な訳で、こうして俺を家から離す兼自分も出掛けてる訳だ。フロストがこういうイベントに重い腰を上げるのはあまり無いから面白いもんだ。
 そういやこいつとフロストはやる事やってるんだよな。やってるっつー事は出来る可能性もあるんだが、その辺どうなんかね?

「ふとした疑問なんだがよ」
「うん? なんだ?」
「フロストとの間に子供は出来そうなのか?」
「ふぬぅ!? い、いきなり何を聞いてくるんだお前は!?」
「別に隠す必要も無ぇだろうがよ? 付き合ってりゃその内起こる事なんだし」
「そ、それはそうなんだが……まだそういう兆候はフロストにも無い、らしい」
「ほほぅ……まぁフロストはその辺しっかりしてそうだからな。危険度が高い日は自主的に避けたりしてんでねぇか?」
「あー……時折今日から一週間はダメと言われたりするのはそういう事か」

 だろうな。発情期だけじゃなくバイオリズムなんかからもし易くなる時期ってのがあるようだし、するのも節度とタイミングを守ってってところなんだろ。

「ま、それでも出来る時は巡り合わせって奴だろうし、そうなったら奴にも伝えろよ?」
「う、うむ。その時は俺も父になる、という事か」
「ははっ、まだ先だろうからそう畏まりなさんなって。お前さんならそこまで心配する事も無さそうだしよ」

 こういう話は滅多に出来ないからやっぱり新鮮だな。いつも俺はソウやリィが傍に居る事が多いし、レオは家事やら訓練やらしてるのが常だからな。ボーイズトークってのもたまには悪くないだろ。
 ボーイズで思い出したが、なるほどそうか。ハヤトの奴が今日連れてったメンバーがなんで牡ばっかだったのかって言うのもそういう理由か。そういう点だけは敏いんだよなぁあいつ。まぁ溜め息吐きながら学校に行った辺り、クラスに脈有りは無しなんだろうが。ま、レンとリーフ辺りなら用意してるだろうし、それで慰めになりゃいいがな。
 
 積もる話をしながら野郎二匹でぶらついて、もうちっと時間を潰すかと立ち寄った公園で一休み。天気も快晴、程良く吹く風も心地良いから、昼寝でもしてくのもまた一興かもなぁ。

「たまにはこうしてのんびりするのも良い物だな。空の高さが心地良い」
「ほう? なかなか詩的な事言うじゃねぇの。快晴を空の高さと来たか」
「堅物なだけじゃ愛想尽かしちゃうからねーと言われてしまったものでな。少し柔らかい思考を訓練中だ」
「ははっ、訓練中ってとこがまーだお堅いとこだが、良い変化じゃねぇの」

 そしてレオはフロストにぞっこんなこって。仲睦まじくて何よりだ。

「そうだ、俺とフロストの間だけを探られるのも面白く無い。お前とレンはどうなんだ?」
「ぬっ、そう来たか……俺的には仲良くやってるつもりなんだが、夜にレンからそういうモーション掛けられるとどーも尻込みしちまってなぁ。はぐらかして寝ちまうんだよ」
「いつも不敵なお前が尻込みとはまた、奥手な事だな?」
「うるせぇやい。俺だって分かってるし、まぁその、なんだ、レンの事が好きだって想いに嘘偽りは無ぇんだぞ? ただそういう事するって思うとどうも気後れしちまってなぁ……」

 引っ掛かりの原因は、当然俺の気持ちの問題。想いを伝えられてもその先に進む度胸が無い。我ながら磨きの掛かったヘタレっぷりだ。……自分で思ってて虚しくなってきた。はぁ、このヘッポコサンダースめ。

「……くくっ」
「な、なんだよ。笑う事無ぇだろ」
「いやなにすまん。普段は厚顔無恥なお前が色恋に関しては等身大のように感じてな。果たしてどちらのお前が本質なのやらと思ってな」
「本質ねぇ? どっちも俺ではあるんだが、あんまりカッコ悪いとこは出したかねぇわな」
「別に良いんじゃないか? もう同じ屋根の下で暮らして短い訳でもない。皆に見せろとは言わないが、レンくらいには背伸びをしないお前で接すれば」
「んっ、まぁ……そうかもな」

 背伸びをしない俺、か。一匹で居るのが長かった所為で、そう言うのはてんで分からなくなっちまってたなぁ。素直な俺なんて、知ってるのは……師匠くらいかね。カッコつけない等身大の俺……うわ、自分で想像してヘタレっぷりに頭痛がしてきた。

「……その分じゃ、お前も頭を柔らかくする訓練が必要そうだな。俺とは方向性が違うが」
「違いない……」

 また一つ溜め息を吐いた俺を含み笑いでレオは見てる。少し憎たらしくも思うが、こういう野郎友達みたいな相手としか出来ない話もたまには悪くないかもな。こういう話出来る相手、ハヤト家じゃレオくらいなもんだし。
 一頻り話もしたし、そろそろのんびり帰り足になるかと公園を後にする。愚痴っぽい事を少し吐き出せた所為か、気持ちは軽くなったかもしれん。経験の差でレオの方がそっち方面じゃ一歩大人だからな、話して助言して貰えるってのは悪くないもんだ。

「そろそろ出来上がっているだろうとは思うが、もう少し時間を潰した方がいいだろうか?」
「どうかね? チョコを湯煎で溶かして好きな形に成形して冷やして固めるんだろ? 冷やすのをフロストの冷却能力でやりゃぁ結構時短になるんじゃね?」
「確かにな。仮にフロストが冷やしていなくても、成形すればチョコは冷蔵庫の中だ。覗き見をしなければ問題無いだろう」

 同じ家で暮らしてるんだから手の込んだラッピングまでしなくてもいいもんなと俺が言うと、ああ言う物はラッピングにまで拘って完成だとする者も居るだろうって言われた。なるほど確かに。うーむ、そこは素直に俺の考慮不足だわ。ちと反省ポイントだな。
 とは言えポケモンだけで行動してて時間を潰せる場所には限りがある。幾らポケモンにある程度の自由が認められてるアキヨと言ってもだ。だからポケモンだけで行動してたり時間を潰すのに打って付けなのは公園なんだが……流石に公園をハシゴしたって飽きるだけだもんなぁ。もしダメそうなら改めて出掛けるかって事にして、結局一旦は帰るとするかって事にしたよ。
 決めて動けばアキヨはそんなに広くない。そう時間も掛からずに家の前に帰って来た。レオがドアノブを回すと開く辺り、鍵を掛けて作業してたって事は無さそうだな。

「ただいまーっと」

 言いながら玄関に入ったんだが、唐突にリビングの方からガシャンと大きな音が聞こえてきた。何かあったのは明白だとレオと顔を見合わせてリビングに駆け込んだ。んだが……なん、だと……。

「いたたた……」
「ちょっと、勘弁してよもぉ……」
「ご、ごめんレン姉ぇ、急に尻尾に触れられちゃって念の制御が狂っちゃった」
「あらら、レンさんとフロストさんがチョコ塗れに……ふぉ!? ライトさんにレオさん!? 何時からそこに!?」
「あーまぁその、今しがた」
「何か物が引っ繰り返されたような音がしたので慌てて入ってきたんだが……」

 キッチンには恐らくボウルに入っていたであろう溶けたチョコが散乱し、それをもろに浴びたんであろうレンとフロストが、ルカリオとグレイシアのチョコ掛けというなんともけしからん状態になってた。やだこれ目のやり場に困る。

「ら、らららライト!? こ、これは別に事故でこうなっただけで私を食べてとかそういうのじゃないよ!?」
「ぶふぉ!? お、落ち着けレン! 思ってないからなそんな事!」
「取り乱し方が予想外の方向過ぎるだろ……とりあえず片付けは俺がするから、四匹ともシャワーを浴びて来るといい。リィとリーフも、少量だがチョコが掛かっているぞ」
「え? あ、本当だ」
「私はそこまでですけど、皆はチョコが固まっちゃうと毛に絡んで落ち難くなっちゃいますからね。諸々の前にレオさんにお任せしちゃいましょうか」
「賛成……こうなるんだったら変にからかわなきゃ良かったわ」

 なんかやったのお前かフロスト! レンの慌てぶりと状況から予想するに、チョコを作り終わったけど思ってたよりチョコの量が多くて余ったのをどうするかって相談してる時にフロストがレンに余計な事吹き込んでレンの妄想が膨らんで、ワタワタしてる間に片付けをしてたリィの尻尾に触れてリィの念コントロールが狂ってこの惨状ってとこか。はぁ、やれやれだぜ。

「ったく、あいつのからかい癖をちったぁ諌めてくれよ旦那さんよ」
「ぬぐっ、フロストに口で敵わないのはお前も知ってるだろ」

 全く、この分じゃ将来レオはフロストの尻に敷かれるんだろうな。上手く行くならそれでもいいのかも知らんけど、二次被害を出すような事は謹んでもらいたいもんだ。
 
「しかしレンも大胆な事を言ったものだ……実際に出されたら食べるのか?」
「食べねぇよ! ……いやちょっとは興味あるけど」
「お前以外とムッツリだな」
「うるせぇ! そんくらいの欲は俺にもあるわい! お前はどうなんだよ! さっきのフロストの姿見て!」
「……今平常心を搔き集めている」

 しっかりムラムラしてんじゃねぇか! 俺の事言えたもんじゃねーだろがい! だーくそ、予想外のワンショットの破壊力ヤバ過ぎんだろちくしょーめ! チョコの見た目と匂いとかであのシーンが脳内再生されるようになったらどうすんだ!
 なんて心の叫びを漏らさないようにとにかくせっせとレオと共にキッチンを掃除していく。煩悩退散煩悩退散……この後チョコ貰う時に思い出さないようにしないと、何と言うかこう、何か大事な俺のイメージが壊れてしまうような気がする。頑張れ俺の理性、負けるな俺の背徳心。じゃなくて道徳心。チョコプレイとか俺にはハードル高過ぎるから!


~後書き~
 最後のシーンを思いついてざざっと書き上げた今作、如何でしたでしょうか? 彼等のその後は……ご想像にお任せします! ここまでお読み頂きありがとうございました!

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Last-modified: 2024-02-15 (木) 00:56:26
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