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隣家騒動

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隣家騒動 


【Ⅰ】 

 うぃーん、という掃除機の音と、その掃除機が壁に当たる小気味良い音が、部屋の中に響いている。六畳一間のワンルームなので、掃除も少なくて楽なもんだ。隅々まで掃除機をかけ、中のゴミもコンビニのビニール袋に放り込む。結構なホコリと毛の量に、生き物ってのは案外脱毛するんだなあと妙なところに感心する。
「いっそ、チラーミィでも捕まえて来ようかね? 掃除めちゃめちゃ楽になるだろ」
「っぱあ」
 俺のぼやきに返したのは、ベッドの上に座り込んでいる俺の相棒・グレイシアのクレアだ。ひし形の尻尾をゆっくりと揺らしながら、俺が掃除するところをのんびりと見ている。掃除機を片付け、軽く手を洗うと、タイミングよく洗濯機の「ピー」という音がした。四リッターちょいの一般的な洗濯機から洗濯物を取り出すと、クレアの横に放り出す。部屋の隅から物干し用のハンガーを持ち出し、ベランダを開けて物干し竿へとぶら下げた。
「レイ」
「うい」
 ハンガーをぶら下げたのを見届けると、クレアが洗濯物を差し出した。俺はそれを受け取って、外のところに干していく。洗った後だからだろうか、シャツだろうが下着だろうが平気で取っては渡してくるクレアだが、こっちもいろいろと慣れたもんで、てきぱきてきぱき干していく。
 と、窓から身を乗り出して、あらかた干し終わったところで……
「ん?」
「っぱあ?」
 俺らが過ごしているアパートの入り口から、一人の女性が外へと出てきた。目の前に乗用車が停まり、若い男性が降りてくる。男性が助手席のドアを開けると、女性は車へ乗り込んだ。男性は扉を閉めると、運転席側へと回り込み、扉を開けて乗り込んで、車を発進。絵に描いたようなエスコートぶりに、俺は手を止めて見つめていた。
「うーむ、慣れてんなあ。俺も後三、四年すれば、ああやってエスコートできる感じになるのかね?」
「ぱー、ぱー」
「なんでお前首振んだよ!?」
 “ないない”みたいな感じに、目を細い線にして首を振るクレアに突っ込みを入れるが、生憎とこちとら彼女がいたことがないので分からない。まあ、俺の周りにいる女の子なんて、大学のクラスメイトとか、お前ぐらいのもんだけどよ。しかも彼女いねえしよ。
「うーむ、悔しいが否定できる要素がねえ。今日も彼女がいないまま、一人大学行くとするか……」
「っぱあ」
「今日は仕事もあるから、帰るのは遅くなりそうだ。クレアはどうする? 待ってるか?」
「レイ、レイ」
「はいはい、ついてくるのね。ボールには?」
「レイ」
「あいよ」
 首を振るクレアに、俺は小さくなっているボールだけを腰のベルトに装着する。どうやら、このまま来たいらしい。
 俺は基本的に、自分のポケモンをボールにしまうことは少ない。少なくとも家では、ほぼ放し飼い状態だ。とはいえ、ポケモンのコミュニケーション能力はとても高い上、知能も優れているものが多く、しつけのなっていないペットのように大迷惑をかけたりはしない。だからこそ、基本的に大学でも仕事先でも、ポケモンは放していてOKだ。もっとも、ちゃんと審査はあるわけだけど、俺のクレアは元々が控え目な性格なのも相まって、難なく基準をクリアしていた。
「んじゃ、行きますか」
「っぱあ」
 クレアもついてくるんだし、帰りは牛丼屋か何かで、適当に食って帰るとするか。


「ふひー、食った食ったー」
「ぱー」
 大学を終え、仕事も終え、近くの牛丼屋で晩飯を取り、俺はクレアと共に、夜道を歩いて帰っていた。
 俺の仕事は、大学においての学業の傍らにやっている、塾の先生だ。アルバイトといえばアルバイトなのだが、未来溢れる生徒たちの将来に、多少なりとも手助けをして関わっていく仕事である。生徒たちの人生にも影響していく以上、アルバイトという簡単な言葉で片づけたくはなかった。
 そんな俺の心意気が伝わってくれているのか、それとも入る日数がそれなりに多いからか、幸いにも多くの生徒たちからは好意的に迎えてもらっている。常に無言で分かりにくい生徒もいるし、俺のことが苦手な生徒も正直な話いるだろうが、総じて俺が担当しているクラスの受けはなかなかのものだ。塾長も俺を重用してくれているし、働きやすい職場である。
 もっとも、どうしても夜は遅くなるから、こうやって晩飯が外食だらけになってしまうのだが……
「ん?」
「っぱあ?」
 自宅の近くまで帰ってくると、反対側から男女の二人連れがやってくる。女性の方には、見覚えがあった。ウチのアパートの隣人さんだ。中学生ぐらいの娘さんがいるみたいだし、そうなると四十代ぐらいなのだが……見た目で言うと、随分若い。三十代前半でも十分通用するだろう。男の方も三十代の前半に見えるが、意外と同年代なのだろうか。
「……って、あれ?」
 一度、旦那さんと挨拶をしたことがあるが……あの人だっけ? 首をかしげる俺の前で、クレアがちょこちょこと近づいていく。二人組も近づいてくるグレイシアに気づいたらしく、足を止めて様子を見ていた。クレアは女性の足元に近寄ると、鼻を近づけて匂いを……
「って、おいおい、クレア!」
 お前はいきなり何やってるんだ! 慌ててクレアを引きはがすと、すみませんと二人に頭を下げて謝罪する。二人からは「しっかり見張っててくださいよ」と一言言われてしまったが、こっちが悪いので素直に受ける。もう一度謝罪する俺の横を、二人は仲睦まじく通りすぎ、角を曲がって消えていく。同じところに住んでいるから仕方がないのだが、もちろん曲がった先には俺のアパート。さすがに今すぐ歩き出したら、二人組の後ろを歩くことになるわけで、いくらなんでもそれは気まずい。少し時間を空けたいところだが……
「クレア、どうしたんだよ? いきなり人に近づいていって、匂いを嗅ぐなんて……」
「グレイィ……!」
「…………クレア?」
 訝しげな顔をして――唸り声を上げるクレアに、俺は首をかしげるのだった。
 そして、よく分からなかったので、紙とペンを使って描かせてみた内容に、俺はかなりの衝撃を受けることになるのだった。


 翌日。
 寝間着姿で朝飯を食っていた俺の部屋の呼び鈴が鳴り、なんだなんだと外に出る。基本寝つきがいいくせになかなか起きられない俺らだが(別名単なる怠け者)、昨日のあんな話があってはさすがに睡眠は浅かった。いや、俺が悩んでいてもしょうがないのは分かってはいるのだが。
 ――って。
「突然、申し訳ございません。私、隣の部屋に住んでいる者なのですが……」
 部屋の外に立っていたのは、俺よりずいぶん年上の男性と、中学生くらいの女の子だった。男性の年齢としては四十代くらい。俺も一度会ったことのある。隣の部屋に住むご家族の旦那さんだ。娘さんに会ったことはないが、なかなか可愛らしい顔立ちをしていた。
「いかがいたしましたでしょうか?」
 内心で思うことを外には出さず、俺は男性に応対する。男性は「実は」と前置きし、暗い顔で話し始めた。
「お恥ずかしい話なのですが、私の妻が浮気しまして……」
「……なんですって?」
「証拠も、いくつか集まってしまっているんです」
「…………」
 ある程度覚悟していたからか、素っ頓狂な声が出ることは避けられた。努めて冷静に対応すると、男性は言葉を選ぶように続けていく。
「もちろん離婚をするのですが、その、娘が、妻が浮気した部屋にはいたくないと申しておりまして……。しかし、私の実家で預かろうにも、ここからだと車で一時間半ほどの距離なのです。娘も学校があるものですから、そこで預かるわけにもいかず……」
「ええ、ええ」
「となると、友人知人に預けようかと思ったのですが、妻に漏れたら全てがパアです。私たちは共通の知り合いも多く、一体誰を頼っていいのか、分からなくなってしまいまして……」
「なるほど……確かに、仰る通りだと思います」
「そうしたらですね、娘が、その、隣の部屋には、義理堅い人が住んでいるから、そこに預かってもらえばいいと申しまして……」
「……はい?」
「ほとんどお会いしたこともない貴方に、このようなことを頼むのも大変心苦しいのですが、どうか、娘を少しだけ預かってはもらえないでしょうか」
「いや、ちょ、ちょっと待っていただいてよろしいですか」
 いやいやいやいや。娘さんって中学生だろ? そんな大事なお子さんを、ほぼ見ず知らずの男に預けちまっていいのかよ? そりゃもちろん、手を出す気なんてねえけどよ。
「その、私は別にいいんですけど、お子さんはそれでいいんですか? 言い方悪いですけど、身の危険とかあるでしょう」
 慌てて否定する俺だったが、その言葉に返してきたのは、男性ではなく娘さんだった。
「大丈夫です。エナからよく、先生の話は聞いています。真っ直ぐないい先生だと」
「エナって……」
 その名前は、憶えがある。確か俺が社会の授業を担当している、中学生のセカンドクラスの生徒さんだ。あまり多くをしゃべらないが、寡黙な頑張り屋という印象がある。
「というかその、どうして俺がここに住んでいるって知ってるんですか?」
「この近くにエナが遊びに来たとき、スーパーの袋を下げてグレイシアと一緒に歩いている先生を見ましたもので。背格好も似ていましたし、グレイシアと常に一緒にいる人は珍しいですから」
「……マジか」
 生徒に自宅がばれてしまった。いかん、これは次の日、授業前にエナさんに口止めをしておかないといろいろマズい。
 とはいえ確かに、手をつないで歩く習性のあるニンフィアや、トレーナーに懐いていないと進化しないエーフィ・ブラッキー、もふもふしているというかふさふさしているブースターはともかく、グレイシアを連れているのは珍しい。夏場はそれなりに見るけれど、涼を取るなら空中に浮いているオニゴーリでも連れていればいいわけなので、冬場のふさふさを味わえるブースターと比べると、やっぱりグレイシアの数は少なかった。
 そんなことを思う俺の前で、娘さんは深々と頭を下げる。
「ご無理を言っているのは分かっています。でも、母が……別の男と一緒に寝た部屋になんて、一秒だっていたくはないんです」
「……まあ、それは……」
 気持ちとしては、分からんでもない。しかも、アパートの隣の部屋ということは、俺と同じくワンルームのはずだ。四六時中その部屋を見ていなければならないのは、精神的にもきついだろう。俺の部屋もおそらく間取り的には似たようなもののはずなのだが、それでも大分違うはずだ。それに、何より……
「……分かりました。私としても、隣の家庭が不倫しているのを見て見ぬふりは寝覚めが悪い。私でよければ、お預かりいたします」
「本当ですか! ありがとうございます!!」
「ありがとうございます……!!」
 またしても深々と頭を下げる父娘に、俺はいやいやと手を振った。
「いつ頃までお預かりすればよろしいですか? 状況が状況なので、先が見えないところもあるとは思いますが、大体の目安を教えていただければと」
「そうですね、五日もないとは思います。妻には、友人の家に泊まりに行っていると伝えますが、誤魔化すにも限度があるとは思いますので」
「承知しました。責任を持って、娘さんをお預かりいたします」


 と、いうわけで。
 塾の教え子の友達を預かるという、倫理的に大丈夫なのかを小一時間ほど自問したいところだが、いつ不倫した妻が帰ってくるかも分からないので、早々に荷物を移動させることにした。
 まずは学校で必要な教科書ノート諸々一式。服はバレない程度に、二着だけ持ってくる。今着ているものも合わせれば三着あるので、数日間は保つだろう。当面の生活資金は父親からいただいたので、この辺については問題ない。
 細かい置き場所は後から決めるとして、ばたばたと荷物を移動させ、俺の部屋に。
「知っているかもしれないけど、一応な。俺はセツ、こっちは相棒のクレア」
「ぱあ、っぱあ」
「ありがとうございます。私はリル、それから……」
 名前を名乗ったリルさんは、続いて腰のボールを開く。「ぼんっ」という音と共に、一匹のポケモンが飛び出してきた。
「こちらは、エーフィのフィルです」
「おっ、綺麗じゃないか。イーブイから育てたの?」
「ええ。セツさんのグレイシアもですか?」
「うん。去年の冬に、グレイシアになったんだ。個人的にも、イーブイの進化形の中では、グレイシアが一番好きでな。そうしたら、本当にグレイシアになってくれたから、嬉しい限りなんだ」
「ぱあ、ぱあ」
 近寄ってきて頬を摺り寄せるクレアの頭を、俺はそっと撫でてやる。くるくると喉を鳴らしたクレアを見て、リルさんは穏やかな笑みを漏らした。
「よく懐いてるんですね」
「ああ、おかげさまでな。それを言うなら、リルさんだってエーフィを大事にしているじゃないか」
「ありがとうございます。私なりに、大事にしているつもりですよ」
 私なりに、なんて言ったけど、そもそもエーフィを連れているということ自体、ポケモンを大事にしている証拠だ。エーフィを直接捕まえたのならともかくとして、イーブイから育てたのなら(遠くのオーレ地方でのみ手に入る「たいようのかけら」という道具を使ったのでないならば)かなりの信頼関係が必要になる。実際、リルさんの隣に控え、俺たちとリルさんを交互に見つめるエーフィの目には、リルさんへの信頼の色が宿っていた。
「フィルさんはオス? それともメス?」
「オスですよ。イーブイ種にメスは珍しいですからね。クレアさんは、お名前からすると、女の子ですか?」
「レイ」
 リルさんの質問に、クレアが頷いて返事した。クレアはフィル君の方へと歩み寄ると、一言鳴いて自己紹介。フィル君も少し高い声で一鳴きを返すと、二匹で何やら話し始めた。俺も後で、ちゃんとフィル君に自己紹介しておくか。そう思った俺の前で、リルさんは済まなさそうに謝ってくる。
「……あの」
「うん?」
「突然このようなことをお願いして、大変申し訳ございません。セツさんのご都合も考えず……」
「いや、別に俺は大丈夫だよ。むしろリルさんの方こそ、大丈夫なのかが心配なぐらいだ」
「私は大丈夫ですよ。セツさんのことについてはエナから聞いていますし、今はその……母のいるあの家には、あまりいたくありませんから」
「そうか……間取り的にはほとんど同じだと思うけど、違うもんなのか?」
「ええ、全然」
 よく分からんが、本人が違うと言っているなら違うのだろう。それにしても、両親に中学生の娘の三人家族が暮らしている部屋が、なんで六畳一間のワンルームなんだ? たしかに、わざわざ「一人暮らし専用です」とは書いてはいなかったけど、普通こういう部屋って一人で暮らすものなんじゃないか? まあ、いいか。
「ある程度の事情は察してるよ。リルさんさえ迷惑でないなら、ここでいいならいるといい。クレア、いいか?」
「グレイ」
 クレアが一つ頷いて、俺たちはリルさんとフィル君を受け入れることにするのだった。
 少し仲良くなったのか、二匹で何やら会話しているクレアとフィル君を見ながら、リルさんはぽつりと、呟くように話しかける。
「……それにしても、驚かないんですね」
「驚くって、何が?」
「今日の、お父さんの話ですよ。普通浮気って聞いたら、驚いたりあれこれ問いただしたりするものだと思ってました」
 ああ、あれか。驚きの声が出るのはなんとかこらえたけど、やっぱりあれは意外なのか。
「まー、驚かなかったっちゃあ、嘘なんだけどさ。ある程度、予想はついてたんだ」
「……どういうことですか?」
「昨日、リルさんの母親と思しき人物が、男といるところにすれ違ってな。クレアの奴が、何か感付いたみたいなんだ」
 何もされていないのに匂いを嗅ぎに走ったり、いなくなった方を睨んで唸り声を上げたり。あんなクレアは、見たことがなかった。何事だと思って家に帰り、紙とペンを使って描かせてみたら、その内容に驚愕した。あの男、リルさんのお父さんとは違う人で、しかも先ほどまで情事に耽っていたという。旦那と違う男と歩いていたのは別にいい。兄弟とか友人とかあるだろう。しかし、夫のいる女性が他の男とSexなんてするだろうか? 普通は絶対にしないだろう。
 てなことを(流石にある程度は隠して)伝えたのだが、リルさんはすべてを汲み取ってしまったらしい。苦々しい顔で、付け加える。
「あの人は……家の前でまで、そんなことを……!」
 うん、まあ、少なくとも俺だったら、妻子と一緒に住んでいる家の前で浮気できる度胸はない。つか、そもそも浮気なんてしたくもない。いや、それ以前に果たして妻子ができるのか、そもそも彼女すらできるかどうかという根本的な疑問もあるが。
 ってゆーか、クレアといいリルさんといい、あんたら簡単に気付きすぎやしないか? アレか、女の勘ってやつか? それともなんだ、俺が鈍くて、気付かなかっただけで、普通は簡単にそういうのは気付くもんなのか? 常識か?
 内心首をかしげるのだが、少なくとも旦那と娘と一緒に住んでいる家の前で堂々と浮気をしやがる女もいるらしいので、俺が鈍いわけではない……と信じたい。俺が鈍くてそいつが超絶図太いだけかもしれないが。
「どちらにしても、そんなに間抜けな浮気のやり方をしてるんじゃ、遅かれ早かれ終わるだろう。証拠もある程度集まっているんだろうし、それを爆発させて諸々終わらせりゃあ済む話だ」
「……ですよね」
 あの女、嫌いです。そう呟くリルさんに、俺は同感だと返す。
 俺の仕事はただ一つ。お父さんが全てを終わらせる時まで、この娘を誠意を持って預かること。
 ……ああ、後、エナの奴に余計なことを言わないように付け加えておかなきゃな。
 一つじゃねえや。二つだった。

【Ⅱ】 

「エナ、ちょっといいか」
 次の日。俺は授業前に、ハタ迷惑なことをやってくれた張本人を呼び出した。エナは「はいはーい」と、とても講師にやるものとは思えない返事をしてから、俺の方へとやってくる。職員室は人がいたので断念し、教材置き場まで連れてくると、俺はエナに切り出した。
「単刀直入に聞くけれど、あんた、俺の家の位置をある程度は知っているな?」
「え?」
「真面目な話だ」
 回りくどいやり方は好きじゃないし、悪いことをしたわけでもない。とはいえ、言うべきことはきっちり言っておかなければならない。
「この前、同年代の子とすれちがったんだけどさ。そしたらいきなり声かけられて、エナがお世話になってますって言われたんだわ。話を聞いてみたら、リルさんっていうのか? 友達の人らしいな」
「え? リルがそんなことを?」
「まあな」
 いや、言ってないけど。本当のことを話すわけにはいかないだけだけど。それにしても、これも後でリルさんに話を合わせておいてもらわなくちゃあならんのか。なんか犯罪者になった気分だぜ。
「確かに、グレイシアをいつも連れ歩いている人は珍しいし、俺のことを話すのも悪いことじゃあないけどさ。でも、たまたまなんだけど、リルさんは俺の住んでいる場所を知っているみたいなんだよ。それも別にいいんだけど、リルさんから俺の住んでいる場所を聞いたり、ましてや他の子たちに話したりは絶対にしないでほしいんだ」
「別に構いませんけど……なんでですか? 知られちゃまずいとか?」
「ああ、めちゃくちゃまずいんだ。機密上、生徒に住所を教えちゃいけないことになってるからな。教えようが教えなかろうが、バレちまったら問題だろ?」
 そこは分かってくれるのか、エナは頷いて理解を示してくれた。真面目な顔で頷いてくれるエナの姿に、信頼がおける。お礼を言ってエナを帰そうとした俺だったが、彼女は不思議そうな声で疑問を発した。
「……ということは、例えばリルが入塾したくなったとしたら、先生が引っ越しをしない限りは入塾できないってことですか?」
「そ、それはいいんじゃないの? 就業規則によると、生徒に住所を教えちゃいけないことにはなってるけど、新しく入ってきた生徒が住所を知っている場合については明記されていなかったし。ただし、その生徒が別の生徒に言ったりするのは駄目なんだと思うけど」
「そうやって法律の抜け穴を突いてくる汚い大人がどんどん増えていくわけですね」
「やかましいわい。どこでそんな知識仕入れてくるんだ」
「セツ先生の公民の授業」
「ぐさっ……」


「いやー、あそこはうまかったなー」
「ぱー」
 エナたちのクラスの社会をやり、同学年の別クラスの社会をやり、一学年下のクラスの社会をやり。三コマの授業をつつがなく終わらせ、俺は今日も帰り路を歩いていた。
 今日の夕食は、塾長お薦めのラーメン屋。授業後「いつもどこで夕食を食べているんだ?」と聞いてきた塾長に、牛丼屋が多いと答えたところ、裏手に一件ラーメン屋があるが、食べたことはないのかと問いかけられた。
 で、裏手は通勤路ではなかったんで、食べたことはないとと答えたら
「なにぃ!? セツ君、お前は裏手のラーメン屋で食べたことがないのか! それは人生の損失だ!! あそこのキムチラーメンは実に絶品で、スープとキムチの絶妙なハーモニーと程よくしなびた白菜のアクセントが――」
 と、なぜか熱く語られてしまい、岩なだれならぬ言葉なだれにひるんだ俺(とクレア)は「おごってやるから来い!!」と、ずるずるとラーメン屋に引きずられて行ってしまったのだ。
 ちなみに塾長は仕事が残っているっぽかったのだが、「そんなことよりあのラーメンのすばらしさを教え込む方が先だ!!」と、残りの仕事を全部明日にぶん投げたらしい。いいのかそれで。
 とはいったものの、塾長がそれだけ薦める理由は確かに分かった。言うだけあってめちゃくちゃうまい。クレアにも少し食べさせてみたら、熱かったのか最初だけは嫌がるそぶりを見せたのだが、ほどよく冷まして一口食べると、目を輝かせてもっと寄越せとレイレイぱあぱあ鳴き出した。グレイシアは四足歩行なので、俺らみたいに両手を使うのはなかなか難しい。というわけで、最初は俺の膝に乗っけて食べさせていたのだが、俺自身このラーメンがめちゃくちゃうまくて「ええい、申し訳ないが、クレアに渡す時間がもったいねえ!」と、小さめのどんぶりを貰ってクレアの分を入れてやり、後は勝手に食い出した。いきなり目の前にどんぶりを置かれ、自分で食えと言われてしまったクレアだが、ラーメンなので時間が経つとどんどんノビてしまうという状況に頭脳がフル回転したらしい。三十秒くらい色々と四苦八苦していたが、膝の上に座っていれば前足が自由に使えることもあってか、左前脚でどんぶりを支えて右前脚でレンゲを掴み、ラーメンを口元まで引き寄せて行ってすする方法を発明したらしく、ほどなくしてずるずるとラーメンを食べ始めた。
 ……い、意外と器用だな、コイツ。
 クレアの分まで考慮して、大盛りを頼んだのに余裕で完食。多分もう一杯食えと言われても軽く行けるだろうが、今回は塾長のおごりなのでふてぶてしく行くわけにはいかない。その前に、クレアの食べ方をラーメン屋の店員に謝罪しなければならないだろう。
「すみません、行儀が悪くなってしまって……」
「わっはっは、気にするな! なあに、人間とポケモンでは体の構造も違うんだ、そのくらいは気にしないさ! 俺のラーメンを美味しく食べてくれたなら、俺は特に言うこたあねえ! その代わり、今後とも俺のラーメン・アライブをよろしくな!」
 俺の謝罪に、奥でラーメンを作っていた店長がガッツポーズで返してくれた。
「ラーメン・アライブ……店長、そのラーメン、何に届けたいんですか?」
「客の笑顔だ! 人間も、それこそポケモンも関係なくな!!」
「店長」
「なんでぃ」
「また来ます」
「おう!!」
 裏表のない、人のよさそうな店長に頭を下げ、塾長にもお礼を言う。
「塾長、こんなにいい店を紹介してくれて、ありがとうございました!」
「そりゃあそうだろう、知るのが遅いぞ。まったく、連れてきた甲斐があったってもんだ」
「クレア、また来ような」
「グレイ!!」
 リピーターになることを伝えると、クレアは笑顔で頷いた。そのまま、意気揚々と店を出て、足取りも軽く帰り道を歩いていっての、最初のやり取りに繋がるわけだ。さあて、今日はもう風呂に入って、クレアと遊んで寝るとするか。


 てなわけで。
 うまいもんも食ったし、後はさっさと風呂に入ってクレアと遊んで寝ようかなーなんて思いながら、我が家の入口のドアを開けた俺の前に。
「あ、おかえりなさーい」
「フィー」
「え?」
 いい匂いと、右手にお玉を持った女の子が出迎えてきた。一瞬理解が追いつかなかった俺だったが、とりあえず挨拶を絞り出す。
「お、おう、ただいま……」
「ぱあ、っぱあ」
 女の子は、右手にお玉を持ったリルさんだった。薄黄色のエプロンが似合っていて、とても可愛い。いくら中学生とはいえ、家に帰ってきたら女の子が料理を作って待っているとか、そんな現実味の飛んだ話に一瞬理解が追いつかない。ついでに言うと、リルさんの隣には三角巾を頭に付けたフィルまでいる。
 ……しまった、そういえば、この娘を預かっていたんだった。いや、思い出せなかった俺も悪いが、それはそんな記憶を吹っ飛ばすほどラーメンがうまかったからであり……
 ――自分で考えて悲しくなるくらい情けない言い訳が頭に浮かぶ俺である。
 クレアは普通に挨拶してたけど、こいつは忘れていなかったっていうことか。もしかしてこれ、俺が薄情者なだけなのか? それとも実は忘れていたけど誤魔化しただけか、挨拶は普通にできただけか、あるいは一回目の「ぱあ」はドモりか何かか。ポケモンの言葉は摩訶不思議だ。
 リルさんが作ってくれた鍋の中には、みんな知ってるカレーライス。ラーメンと並んで定番の、ソウルフードといっても過言ではない超有名な国民食だ。
「晩御飯出来てますよ。召し上がりますか?」
「……あ、いや、えっと……」
 ごめん、食べてきてしまったんだ。そう言おうとも思ったが、リルさんの表情の前では、何も言うに言えなくて。
 うーむ、これは頑張って食うべきだろうか……いや、待てよ?
 経緯や相手の年齢はともかく、これは女の子の手料理なんじゃないのか?
「…………」
 手料理……
「…………」
 女の子の、手料理……
「食べる食べる、実はめちゃめちゃ腹減ってるんだー!」
「本当ですか? それはよかったです!」
「おう、やったー! ひゃっほーい、女の子の手料理だー!」
「……グレイィ……」
 大喜びで荷物を置きに行く俺の前で、クレアがでっかいため息をついた。


 甘い物は別腹とはよく言うが、モテない男にとっては女の子の手料理なんてそれこそ別腹モノである。配膳するリルさんをテキパキ手伝い、空気を呼んでくれたからか自分も食べると言い出したクレアの分もカレーをよそり、席に着き。
「いただきまーす!」
 さっきラーメンを食べたことなど忘れたかのようにグーグー鳴り出した腹の虫に従って、俺はカレーを食べ始めた。
「う、うまい!!」
「そうですか? それはよかったです」
 にこりと笑うリルさんの前で、俺は勢いよくカレーを食べていく。行儀が悪くならないようには気を付けながらだが、これがまためちゃくちゃうまい。少なくとも、俺らが昔調理実習で作った物よりは遥かにレベルの高い代物だった。
 クレアもお気に召したのか、ラーメン屋で開発した左前脚で皿を支えて右前脚でスプーンを掴み、食べ物を口元に引き寄せる方法でカレーをどんどん食べていく。辛いものはあまり得意ではなかったはずのクレアだが、先のキムチラーメンといい今回のカレーといい、今日はずいぶんとよく食べる。きっと、それだけクレアにとっても美味しかったということだろう。
 がつがつと食べていく俺らを見て、リルさんはくすりと笑みを漏らす。
「それだけ美味しそうに食べてくれると、作ってくれた甲斐があったってものです」
「だってうまいんだもんよコレ」
 出来栄えに感心しながら食べるが、感動してばかりもいられない。俺はリルさんに、今日エナに話した内容、口止めをしたことと、話を合わせてほしいことを伝えていく。奇妙なことになっているのはリルさんも承知の上なのか、分かりましたと頷いてくれた。


 それから三日は、何事もなく過ぎた。
 初日はカレーだったが、どうやらリルさんは麻婆豆腐や回鍋肉といった中華料理が得意なようだ。野菜たっぷりの青椒肉絲などもあり、ずぼらな一人暮らし野郎・セツの栄養状況は大幅に改善したと言えるだろう。
 そんなわけで、今日も今日とて元気に塾講師の仕事を終え、帰ってリルさんの食事を食べていた俺の前で、玄関のインターフォンが鳴った。
「ん、誰だ?」
 開けてみると、いたのはリルさんのお父さん。やはり、暗い顔だ。
「数日間、大変お世話になりました。リルは、元気ですか」
「ええ、元気ですよ。上がっていかれますか?」
「いえ、大丈夫です。ですが、リルをここに呼んでもらっていいですか」
「承知しました、少々お待ちくださいませ」
 お父さんには至らないかもしれないが、できる限り不自由はさせなかったつもりだ。リルさんを呼ぶと、すぐに奥から出てきてくれた。
「お父さん? どうしたの?」
「リル。セツさんも聞いてください」
「はい」
「先日、妻の浮気の証拠が出揃いました。弁護士の方にも入っていただいて、明日妻と、浮気相手とも話し合います。リル、おそらく私たちは離婚になると思うが……」
「そうなったら、もちろんお父さんについていく」
「……ありがとう。明日、全部を終わらせるから」
「うん。話が終わったら、最後にお母さんに一言くらいかけるのはいいよね?」
「……そうだな。別れの挨拶はするといい」
 父と娘の話を聞きながら、俺は決着のつく安堵と、どの道リルさんは悲しむんだろうなという暗い気持ちを、同時に抱えることになるのだった。

【Ⅲ】 

 そして、翌日。
 話し合いの開始時刻は、午後一時。
 十二時半頃から、俺の家の前を、散発的に人が歩く足音がしていた。きっと、リルさんのお父さんやお母さん、お母さんの浮気相手と、いろんな人が集まり始めているのだろう。
普通であれば、俺は大学、リルさんは中学へ通っている時間だが、日曜日のこの日は二人とも家だ。俺はベッドに、リルさんは座布団に座っているが、お互い一言も言葉を交わさない。そりゃそうだ。隣で自分の両親が浮気関連の話し合いをしているというのに、一体何の話ができるというのだ。
 日曜の午後とは思えないくらい、静かな沈黙。意識はどうしても、隣の部屋に行ってしまう。時々くぐもった話声が聞こえるが、何を話しているのかは分からな――
「――――ッ!?」
 がたーん、と、急に何かがひっくり返るような音がした。即座に反応した俺らの前で、どしんばたんという大きな音と、男の大きな声がする。
「うわぁぁ、ガマガルーーーッ!!」
 リルさんのお父さんのものと思しき大きな声がするに至り、俺たちは弾かれたように立ち上がった。
「お父さん!」
「俺も行く!」
 俺からすれば他人事だが、リルさんからすればそうじゃない。部屋を飛び出していくリルさんと、その後を追いかけていくフィルを追って、俺とクレアも飛び出した。俺が自分の部屋を施錠すると同時に、リルさんは隣の部屋、すなわち自分の家の鍵を開け、蹴破るように飛び込んでいく。後を追った俺たちの前には、震えるリルさんと、唸り声を上げるフィルと――
「ガマガル……ガマガル……!」
「大したことありませんね。そんなんだから、奥さんに逃げられるのでは?」
「…………!!」
 地面に倒れたガマガルを抱き起こし、震える声で呼びかける、リルさんのお父さん。
 お父さんの隣に座っている、黒髪の男。
 その前に立ちはだかるのは、ガラル地方のポケモン・イシヘンジンと、眼鏡を上げる、インテリ風のイケメン男。
 さらにその奥には、へらへらと締まりのない笑顔を浮かべる茶髪の男と、笑顔で前のインテリ男を見つめている女の姿。
 状況なんて、見なくても分かる。インテリ男が浮気相手で、どういう経緯になったのかは知らんが、リルさんのお父さんとポケモンバトルになってしまった。そして、本来は正しいはずのお父さんは、哀れバトルに負けてしまった……
「――何するのよっ!!」
「おや、貴方は……そうか、娘さんですか」
「フィーッ……!!」
 それを見たリルさんが、怒声を上げる。
 身構えたフィルが、唸り声を上げる。
 だが、この状況が真実だとすると、納得いかないことがある。
 疑問を解消するために、俺は男に声をかけた。
「久しぶりですね。先日は俺のグレイシアが、ご迷惑をおかけしました」
「あ?」
 そう。
 俺が声をかけたのは、インテリ風の男ではなく、その奥にいた茶髪の男。リルさんを預かる前日、この女……おそらくは、リルさんの母親と一緒にいた、茶髪の男だ。
「ああ、あの時のガキか。そのグレイシアは、少しはしつけはしたんだろうな?」
「俺のグレイシアは、普通あんなことはしませんよ。隣に居るリルさんの母親が、浮気だか不倫だかしたもんだから、その匂いでも嗅ぎつけたんじゃないですか?」
「へえ、そりゃあ鼻がいいじゃねえかよ。どういう匂いか知らないけど、そんなのがあるのか」
「随分あっさり認めましたね。普通は否定するのかと思いましたが」
「証拠まで上がっちまってるからな」
「……その割に、随分余裕ですね」
「そりゃあそうさ。見ろよ、この男の無様な姿。相性では有利なはずの兄貴のイシヘンジンにあっさりやられちまって、何もできずに這いつくばっている姿をよ。こんなの見ちまったら、バルバーレはますますこいつに愛想尽かすだろうからな」
「兄貴?」
 このインテリ男と茶髪の男は、兄弟なのか? 変なところを疑問に思った俺だったが、その横でリルさんの怒りの声がした。
「貴方ねえ……!!」
「なんですか?」
 しれっとした声で返すのは、インテリ風の男だった。
「男として弱いから、女をあっさりと取られるのでしょう? 私はそれを証明しただけです」
「だからといって、人の母親と浮気するような男に言われたくないわよ!」
「知っていますよ。どうせ言い逃れはできない。先ほどこちらの方に言われましたが、慰謝料も払うことになるのでしょう。だからこそ、私がこいつより男として優れていたということを、せめてバトルで示したんですよ。これからこの男は、間男のポケモンを倒すどころか、ロクにダメージも与えられなかった屈辱を味わいながら生きるんです」
「…………」
 リルさんのお父さんは、倒れたガマガルを抱き起こしながら震えている。その姿を見て、リルさんは自分のフィルと共に、インテリ男の前に立ちはだかった。
「いい加減にしなさいよ……!」
「おや、やる気ですか? 別に構いませんよ、そこの弱者と同じように、うずくまらせてあげましょうか?」
「――やめなさい」
 父親の仇を取ろうとしたのか、息巻いたリルさんを止めたのは、お父さんの隣に座っていた男だった。男はすくりと立ち上がると、リルさんを後ろに留めていく。
「娘である貴方に敵を取られて庇われてしまっては、お父さんのプライドは傷つくだけです。この場合、止めるのはお父さんの代理人である、私が行くべきでしょう」
「え? じゃあ貴方、お父さんの弁護士の方?」
「はい。リルさん、貴方もお辛かったでしょう。ですが、それも今日までです」
 小さな笑みを浮かべて答える弁護士さんは、続くインテリ風の男に声をかけた。
「ですが、クルバンさん。私は無理してやり合いたいわけではありません。先ほど貴方たちに伝えた通り、もう貴方たちの不倫は完全にばれています。それに対し、逆上して旦那さんたちにバトルをしたって、勝っても負けても慰謝料も何も変わりません。むしろ、勝ったとしても得られる賞金は雀の涙、負けたとしたら、相場の百倍以上ともいわれる莫大な賞金を支払わなければなりません」
「ふっ、申し上げたでしょう。私はあくまで、賞金の金額にこだわっているのではありません。ですが、不倫相手に敗北し、賞金を払わなければならないなんて、男としてどれほど屈辱か……貴方も男なら分かるのでは?」
「そういう人が多いからこそ……弁護士は、ポケモンも強くないとやっていけません。もう一度言います、退く気はないのですか?」
「なるほど、御強いのですか。それは困りましたね」
 インテリ男――弁護士の言葉からすると、クルバンというらしい――は、両手を上げてポーズを取る。お、これはバトルをしないで終わりそうだ。理詰めで相手を説得するのは、さすがは弁護士と言ったところか。たしかに、いくら代理人とはいえど、他人のポケモンを倒したところで、プライドが折れるとは思えない。直接叩きのめした時点で、もう十分なダメージだろう。
「では、バトルはしないでおきましょう。……ただし、先ほどの賞金は頂きますよ」
 つかつかと歩み寄る、インテリ男のクルバン。お父さんは震える手で財布を取り出し、三千円を手渡した。嫁を寝取った男と直接対決をして敗北し、しかもその嫁と、あまつさえ娘の前で、間男に賞金を払わねばならない……その屈辱は、想像するに余りある。俺もああはなりたくないが、弁護士はお父さんの肩を叩くと、大丈夫ですと言葉をかけた。
「何百倍にもして取り返します。それに、彼らは職も名誉もすべて失います。最後に笑うのはお父様、貴方なのですよ」
「…………」
「……お父さん」
 うずくまる父親に、言葉をかけたのはリルさんだった。ただ、それからなんて言っていいのか分からなかったようで、そのまましばし言葉に詰まる。
 ……だが。
「ちょっと、貴方。弁護士とか言ってるけど、とんだ詐欺師ね」
「はい?」
 そこへ口をはさんできたのは、リルさんのお母さん――バルバーレだった。バルバーレは偉そうにため息をつくと、弁護士にこう続けていく。
「さっきからもっともらしく言ってるけれど、なんでこっちが慰謝料を払わなければならないのよ? この男の弁護士になったからそれっぽいこと言ってるんでしょうけど、こっちも弁護士をつけるから無駄よ」
「別に弁護士を付けるのはそちらの勝手ではございますが、到底勝てるとは思えませんよ? 貴方たちに不貞行為があったのは事実ですし、そうなれば当然慰謝料も発生することになります。しかも今回は客観的な証拠も挙がっていますし、その状況では、そもそも依頼を受ける弁護士すらいないのではないでしょうか?」
「何言ってんの? 私、女性なのよ? 女性が社会で生きていくのは大変だから、男が慰謝料を払うべきでしょ?」
「男性だろうが女性だろうが、慰謝料は不貞行為をした方が発生します。慰謝料の『謝』は謝罪ですので、悪いことをした方が払うことになるんです」
 戯言をぴしゃりと切り捨てて、弁護士さんは言い切った。「悪いことをした方が払う」という、子供でも分かる言い方をすれば、さすがになにやら屁理屈をこね回しているこの女も退くだろう……
「……それならやっぱり、慰謝料は私が貰うんじゃない。悪いことしたのは、旦那なんだから」
「……はい?」
 ……と思ったのだが、甘かった。何を言っているのか意味が分からなかった俺だったが、幸いなことに分からなかったのは俺だけではないらしい。聞き返した弁護士さんに、この女は相変わらず斜め上の解釈をぶっ放す。
「そもそもこいつに魅力がないから、私が浮気なんて法に触れることをやるようなことになったんでしょ? だから、自分に魅力がなくてごめんなさいって意味で慰謝料が出ることになるんじゃない」
「そんな理由で慰謝料出るんじゃ、世の男は誰も結婚なんてしねーよ……」
 本来は弁護士が理屈で話していくところであり、俺は黙っているべきなのだが、訳の分からない解釈に思わず突っ込みを入れてしまう。バルバーレは俺の言葉にも反応して、牙を剥いた。
「知らないわよ、つなぎとめておかないのが悪いんでしょう? そもそもあんた誰なのよ?」
「リルさんとお父さんの知人だよ。お隣さんでもある」
「なら、関係ないでしょ。私たちの問題に、首を突っ込まないでもらえるかしら?」
「そうはいかねえよ。ある程度噛んじまったし、単純にウチの隣でこんな騒ぎを起こされたら静かに過ごせねえんでな」
「ああそう、じゃあこの弱っちい男のガマガルをポケモンセンターにでも連れて行ってもらえるかしら? 当分帰ってこなくていいから」
「友人をここまでやられているのに、黙って見てろと?」
「はっ」
 俺の言葉を、バルバーレは鼻で笑い飛ばした。
「友人? どっちのよ? 旦那の? 娘の? どっちにしても、年は相当離れてるわよね? ああ、娘だっていうならやめてちょうだい、可愛いのは分かるけど、あんたみたいな気持ち悪い男に、擦り寄られたくなんかないわ」
「ガキは恋愛対象じゃねえ。いろんな男に見境なく浮気するような女と一緒にすんな。お父さんとリルさん、両方の友人のつもりだぜ」
「大体、貴方に可愛いと言われても嬉しくないわよ。それに、セツさんはそんな人じゃないのは、私もお父さんも知ってる」
 バルバーレの言葉を、俺は一刀の下に切り捨てた。続くリルさんも切り捨てるが、やったことの自覚がないのか、バルバーレは軽蔑するような眼差しで返してきた。
「何? 私が見境なく浮気してると言いたいの?」
「言いたいも何も、そう言ってるじゃない」
「つーか、ここにいるのは浮気相手じゃねえのかよ。お前、同時に二人の男と浮気したのか?」
「ええ、そうよ。お兄さんのクルバンさんは理知的なところと優しさに、弟のカルバンさんは少し強引で荒々しい、男らしいところに惹かれたの。二人とも、私をもう一度女にしてくれたのよ」
「……半分煽りのつもりで聞いたが、マジで見境ねえでやんの」
「……バルバーレさん。見損なったよ」
「バルバーレさん? 見損なった?」
 吐き捨てたリルさんの言葉に、バルバーレの眉がぴくりと動く。プライドでも傷つけられたのか、ここに堕ちても親としての矜持か何かでもあったのか、バルバーレはリルさんに向かって怒鳴り声を上げた。
「あんた、親に向かってその口の利き方は何なのよ!?」
「とっくに親だとも思ってないわよ! お父さんをこんなに悲しませて、浮気して、親がどうとか言わないで!!」
「口を開けばお父さんお父さん……あんたなんて、私がいないと何もできないくせに!!」
「むしろ、バルバーレさんが何かやってくれた!? 家事をやってくれたのも学校行事に来てくれたのも面倒見てくれたのも、ポケモンを教えてくれたのだって、全部お父さんだった!!」
「ポケモンを教えた!? 戦い方を教えたの、私でしょう!?」
「何年前の話をしてるのよ! お父さんだって全部教えてくれた!!」
「ああ、そう! でも、そのあんたの大好きなお父さんは、そこでクルバンさんに無様に負けて、床に這いつくばってるけどね!」
「……で、でも!」
 一瞬言い負けたリルさんだったが、すぐに立て直して反駁に出る。
「それでも、お父さんを倒したのはバルバーレさんじゃなくてクルバンさんじゃない! バルバーレさんがどうこう言うのはおかしいでしょ!?」
「あぁら、おかしくないわよ? だって、私の彼氏だもの」
「こんの……!」
「私の彼氏を甘く見てない? 正直、あんな弱っちい男の弱っちいポケモンなんて、誰でも倒せるのよ。それでも、全くダメージを受けずに倒せたっていうのが、彼のすごいところなのよ?」
「黙れ! 私に、私にポケモンを教えてくれたお父さんが、そんなに弱いなんて――」
「――なあ、もういいだろ?」
 一度主導権を握ったからか、高みから見下ろすような口調で叩くバルバーレに、リルさんは必死で食い下がる。だが、そこに呆れたように言葉を投げてきたのは、茶髪の男・カルバンだった。カルバンはおもむろに立ち上がると、威圧するように言葉を発する。
「お前の大好きなお父さんはね、とっても弱かったの。何、そのお父さんからポケモンを教わった? あの程度の男に教えられることなんて、なんにもないの。あっても無駄なの」
「うるさい、黙りなさいよ!!」
「……黙らねえよ。つか、バルバーレも言ったけど、大人に対してその口の利き方はなんだ? 弱くて弱くてしょうがねえようなお前のお父さんが教えたようなポケモンなんて、何の役にも立たねえこと、教えてやってもいいんだぜ?」
「――やめたほうがよろしいですよ。負けたら多額の賞金を払うことになるんですよ?」
「はっ、うるせえ。弁護士風情は黙ってろ!」
 腰のボールに手を当てたカルバンを、弁護士の男が止めに入る。しかし、それに対しても、カルバンは吐き捨てて終わらせた。
「兄貴の強さを見ただろう? 俺だって同じくらい強ぇんだよ。こんなガキ相手になんて、勝負にすらなんねえよ」
「言ったわね……!」
 見下しきったカルバンに、リルさんもフィルと共に応じかける。だが、どうせバトルをするならば、相手はこんな男じゃない。
 父親が教えたポケモンの強さを、証明するとするならば……
「リルさん、やめとけ。お前が戦うべきなのは、こんなクズ野郎なんかじゃない。どうせバトルをするんなら、お前の立派な父親を捨てて、こんな男たちに走ってなお、お父さんを馬鹿にし続ける、そこの腐った女だろうが」
「なんだと?」
「腐った?」
 浮気だの不倫だの、法に触れるようなことをやっている奴らが、なんでこんなに堂々としてやがるんだ。言い逃れできないのならと開き直ったからなのかもしれないが、見ていて気分のいいものじゃねえ。
「何聞き返してんだよ、自覚ねえのか」
「関係ねえてめえが言ってんじゃねえよ。なんでバルバーレが戦わなきゃなんねえんだ。女を戦わせて自分は見物とか、男の風上にも置けねえぜ」
「中学生の女の子相手に粋がってバトル挑んでいくお前が男の風上とか言うんじゃねえぜ、笑わせんな」
「――いいわ、カルバンさん。私がやる」
 罵倒言葉の応酬に、バルバーレが立ち上がった。低く構えて唸るフィルと、壮絶な目で睨みつけるリルさんに、バルバーレは腰のボールを投げ上げた。白い光と共に……出てきたポケモンは、アブリボン。
「お父さんお父さんって、そんなお父さんも、そのお父さんを信じているリル自身もどれだけ弱いか、思い知らせてあげるわ」
「おいおい、バルバーレ。そんなことしなくていいんだぜ。惚れた女が戦ってるのを、黙って見てなんかいられねえよ。ここは俺がやってやるから、バルバーレは惚れた男たちの強さを、ゆっくり見ておくんだな」
「おっと、そんなに戦いてえんだったら、お前の相手はこの俺だ。父親の凄さを証明するのに、てめえごとき外野じゃ不釣り合いだろうが」
「関係ねえ……よっ!」
 カルバンも、腰のボールを投げ上げる。白色の光と共に、出てきたポケモンは……まさかの、トロピウス。百キロの巨体と、その隣に控えるアブリボンを見て、フィルは戦闘体勢を取った。
「エー、フィーッ!」
「フィル、行くよ!」
「リル、あんたのお父さんから教わったポケモンなんて、何の役にも立たないって知りなさい! アブリボン、かふんだんご!!」
「トロピウス! エーフィにリーフストーム!!」
 ポケモンたちに口々に指示が飛び、アブリボンの眼前に緑色の球が作られ、トロピウスの周りで鋭い木の葉が渦を巻く。さすがは不倫とはいえ恋人関係になった二人のポケモンというか、ほとんど同じタイミングで、二匹の技がフィルを倒そうと打ち出された。
 ――だが。
「クレア! トロピウスめがけて、れいとうビームだ!!」
「なっ!?」
「レイ、アァァーッ!!」
 俺の存在を完全に無視したカルバンのトロピウスめがけて、クレアの絞り抜いたれいとうビームが炸裂する。避けることも防ぐことも敵わずに、れいとうビームはトロピウスの胴体に直撃した。ロオオォォォーーーーーッ、という大声と共に吹き飛ばされたトロピウスは、部屋の壁に思いっきり叩きつけられ……
「ト、トロピウス!? トロピウス!!」
 部屋の床へと、崩れ落ちた。呼びかけたカルバンの声にも答えず、目を回しているその姿は、誰が見たって戦闘不能だ。突然のことに、カルバンもアブリボンも動きが止まる。フィルは二匹の技をしなやかに跳躍して回避すると、再び着地して身構えた。
「トロピウス、トロピウス……! ……てめえ、舐めた真似しやがって!!」
「中学生相手に、いい年こいた大人が二対一で襲い掛かんのは舐めた真似じゃねえのかよ。……あ、ふざけた真似だから、舐めた真似じゃねえのか。そりゃ失礼」
 肩をすくめる俺に、カルバンは怒鳴る。
「ガキが、調子に乗りやがって! そんなにぶっ飛ばされてえなら、二人まとめて潰してやる!! やれ、ホルード!!」
 ボールからホルードを繰り出して、カルバンはいよいよブチ切れた。そんな姿を見て、俺はふっと笑みを漏らし、リルさんの隣へと歩み寄る。クレアもフィルの隣に立つと、ホルードとアブリボンを睨みつけた。
「リルさん、助太刀するぜ。二対一のバトルなんて、見ていて気分が悪いからな」
「セツさん……ありがとうございます」
「いやいや。むしろ、勝手に踏み込んだのはこっちだから、申し訳ねえくれえだよ。ま、俺はどの道、リルさんとお父さん側の人間だから、嫌と言っても味方はするがな」
「っぱあ」
「フィー、フィー」
「っぱあ!」
 クレアもフィルと会話を交わし、二匹で戦闘態勢を取る。それを見たバルバーレとカルバンは、口々に俺らを罵倒してきた。
「くだらないわね、あの男の知り合いだか何だか知らないけど、私の彼を罵倒したんだったら許さないわよ!!」
「私のセリフよ、バルバーレさん! お父さんをここまで馬鹿にして、絶対許さないんだから!!」
「何も知らねえガキのくせに、大人の力を舐めるなよ!!」
「そのガキにしか粋がれねえクズ野郎が、言うんじゃねえぜ!!」
 リルさんも、俺も、その言葉に叩き返し――

 ――激突した。

【Ⅳ】 

「アブリボン! エーフィにドレインキッス!」
「フィル、アブリボンにサイコキネシス!」
 戦いはリルさんの実の母親・バルバーレの指示から始まった。アブリボンはリルさんのフィルに口(というか牙)を突き立てると、精気を吸い取って攻撃する。回避できず、フィルにまともに攻撃を食らわせてしまったリルさんだっが、次の瞬間、張りのあるいい声でエーフィに最初の指示を下した。
 首を上方に傾けて――次の瞬間、アブリボンを睨みつけたフィルの額から、強力な念力が迸る。サイコキネシスをまともに食らったアブリボンは、自由を失い、天井に叩きつけられてダメージを負った。
「クレア、れいとうビーム!」
「ホルード、あなをほるで地面に潜れ!」
 その隣で、俺はクレアに指示を下した。カルバンのホルードめがけてれいとうビームを撃ち出させるが、一瞬早くホルードが地面に潜って逃げてしまう。隠れたホルードの真上をれいとうビームが掠めて行き、ホルードは地面を掘り進めると、クレアの腹部を強襲した。
「グレィッ……!」
「俺のクレアをそう簡単に倒せると思うなよ! みずのはどう!!」
「アブリボン! ホルードにかふんだんご!!」
「なっ!?」
 突き上げたホルードにみずのはどうを炸裂させるが、その瞬間にジャストタイミングでアブリボンのかふんだんごが入ってくる。みずのはどうはじめんタイプのホルードにはかなりのダメージになったはずだが、アブリボンのかふんだんごでほとんどのダメージを相殺されてしまった。バルバーレは長い前髪をかきあげて、嬉しそうに笑みを漏らす。
「うまくいったわ。これが、愛の力なのね」
「お父さんの目の前で不倫相手に愛の力とか言わないでよ! フィル、スピードスター!」
「うるさいわね、あいつみたいな稼ぎもないしバトルも弱っちい男なんか、何の頼りがいもないわよ! アブリボン、かふんだんご!!」
「クレア、アブリボンにれいとうビーム!」
「ホルード、エーフィにマッドショットだ!!」
 スピードスターとかふんだんごが激突し、その後ろからクレアの強烈な一閃が、アブリボンに襲い掛かる。クレア必殺のれいとうビームと、交差するように飛来したホルードのマッドショットが、それぞれアブリボンとエーフィに直撃した。
「アブリボン!!」
「フィル、大丈夫!?」
「フィー……!」
「まだ行けるね。フィル、ねがいごと!」
「回復なんてさせないわよ! アブリボン、むしのさざめ――」
「ふぶき!!」
 下した指示は、俺の方が速い。命中精度は不安だが、範囲性に優れる猛吹雪が唸りを上げて襲い掛かった。しかし、そんなクレアとフィルの上空に、ふっと黒い影が差す。跳躍して回避したホルードが、一気にこちらを押し潰そうと飛びかかってきたのだ。
「行け、ホルード! グレイシアめがけて、のしかかり!!」
「くっ! かわせ、クレア!!」
 あの勢いでのしかかられたら、衝撃とダメージでしばらく痺れが残るかもしれない。俺はとっさに、攻撃を中断して回避するよう指示をする。ふぶきを吐き出していたクレアは、転がるようになんとか攻撃を回避した。
「逃がすな! とっしんだ!!」
「ドーッ!」
「グレイィッ……!!」
 着地を決めたホルードは、その勢いを横方向へのとっしんへと変換する。まともに食らったクレアの体がホルードと共に勢いよく壁へと激突し、がくりと地面へくずおれかける。
「クレア、大丈夫か!?」
「レイ……!」
 首を振って、クレアは再び立ち上がる。よし、まだ大丈夫そうだ。と、そこへリルさんの「よし!」という声が聞こえてきた。
「回復完了……!」
「なっ!? バルバーレ、アブリボンはどうしたんだ!」
 ホルードは俺のクレアがやりあったおかげで、完全にフィルはノーマークだった。だが、こっちはこっちで相手のアブリボンはノーマーク。先ほど、むしのさざめきの指示を出しかけていた気がするが……
「そ、そんな……アブリボン……」
「――よっしゃあ! でかした、クレア!!」
 横を見ると、地面に落ちた氷像が一つ。先ほどのれいとうビームの余波を受け、凍り付いてしまったらしい。
「フィル、シャドーボール!!」
「ちっ、ホルード、かばえ! ノーマルタイプのお前なら、シャドーボールは効かないはずだ!」
「お前の相手は俺だっつっただろ! クレア、みずのはどう!!」
「ホルード、頑張れ!!」
 こいつの男らしさの基準は不明だが、それでも、惚れた女のポケモンを身を挺して守る気概はあったらしい。みずのはどうの直撃を受けながらもアブリボンの前に立ち、フィルのシャドーボールからアブリボンを守り切った。
「ホルード、アブリボンの氷を砕け!」
「だったらもう一回凍らせてやる! クレア、ふぶき!」
「させるか、マッドショット!!」
 ホルードは両の耳を叩きつけてアブリボンの氷を砕いたが、クレアのふぶきが唸りを上げて襲い掛かる。だが、ホルードはその太った体からは想像もつかないほど俊敏に体を切り返し、マッドショットで迎撃した。氷の砕けたアブリボンも、ホルードの隣に躍り出て、援護にかかる。
「マジカルシャイン!!」
「させないよ! フィル、上からスピードスター!」
 アブリボンの体から強力な光が迸り、クレアの吹雪と激突する。マッドショットとマジカルシャインの二発を同時に受け止めきるのはさすがに厳しかったのだろう、押し切りかけていたクレアのふぶきは、たちまちのうちに劣勢となる。
(やばい、貫かれる――)
 一瞬本気で戦慄したが、そこへ上空へと跳躍したフィルが、上からスピードスターを雨あられと叩き落とす。ホルードとアブリボンは命中のショックで攻撃を中断させてしまうが、クレアのふぶきを押し返すには十分だった。軽い余波を食らったが、その程度で済んで僥倖と言ったところだろうか。
「クレア、まだ行けるか!?」
「っぱああ!!」
「フィル、大丈夫!?」
「フィーッ!!」
 陣形は一直線に、クレア、ホルードとアブリボン、反対側に着地したフィルの順。アブリボンがフィル側に向き直ると、バルバーレの指示が飛んだ。
「マジカルシャイン!!」
「スピードスター!!」
 アブリボンのマジカルシャインと、フィルのスピードスター。特殊攻撃力はフィルの方が上だが、打ち出した技の威力はアブリボンの方が上だ。激突した技は、マジカルシャインが勝った。フィルの体がスピードスターごとマジカルシャインの光の奔流に飲み込まれ、リルさんは高い声を出す。
「フィルーーーーー!!」
 そして、このタイミングは、アブリボンにとっては絶好のチャンスでもあった。
「恨むならお父さんと、あんたの力のなさを恨みなさい!!」
「フィルお願い、頑張って!!」
「とどめよ、アブリボン! むしのさざめき!!」
 アブリボンの羽が、振動で音波を巻き起こす。質量を得た緑色の衝撃波は、暴波となってフィルの体を叩きつけた。苦手なむしタイプの技を、タイプ一致で撃ち込まれ――
「……フィル!!」
 ――フィルは、歯を食いしばって耐え切った。フィルのダークブラウンの瞳が開かれ、尽きぬ闘志と共にアブリボンを睨みつける。リルさんの弾んだ声とフィルの姿に、完全に勝ったと思っていたバルバーレの動きが止まった。
「えっ!? そ、そんな! あれだけ戦った後に、マジカルシャインとむしのさざめきまで食らったのに――」
 信じられないという風に言葉を重ねるバルバーレだったが、途中で何かに気付いたように言葉を止める。
 そう。
「あの、途中の、ねがいごと――!」
 フィルは一度、受けたダメージをねがいごとで回復していたのだ。その後、アブリボンは一度凍ったり、ホルードはクレアと戦っていたりして、なんだかんだ、フィルにダメージはさほど行っていなかった。
「フィル、行くよ!!」
 だから――
「全力で、サイコキネシス!!」
 むしのさざめきを耐え切ったフィルは、攻撃直後のアブリボンに、超強力なサイコキネシスを解き放った。額の玉からサイコパワーが迸り、強力な念力でアブリボンを絡め取る。
「行っけえぇぇっ!!」
 リルさんの声と共に、フィルはサイコキネシスで捉えたアブリボンを垂直方向へと投げ飛ばす。天井、壁、壁、床、天井――そして最後に、壁をぶち抜くほどの威力で叩きつけられたアブリボンは、弱々しい声を上げて床へと崩れ落ちていく。
「ア、ア、アブリボンーーーッ!!」
「リー、ボー……」
 今までのダメージも積み重なっていた上に、あれほどの威力の攻撃を食らってしまったのだ。さすがに、耐えまい。戦闘不能になってしまったアブリボンを見て、カルバンは叫んだ。
「っざけんじゃねえ! バルバーレのアブリボンにこんなことして、ただで済むと思ってんだろうな!? ホルード、あのエーフィをぶっ飛ばすぞ!!」
「エーフィだぁ!? 目の前で俺のクレアに背中向けるたぁ、大した腕前だなあオイ!!」
 アブリボンの敵を討ちたいのだろう、フィルめがけて攻撃対象を変更しようとするカルバンとホルードだが、現在の立ち位置は先ほどと変わらず、一直線にクレア、ホルード、フィルの順。フィルはアブリボンと、ホルードはクレアと睨み合っていたため、ここでホルードがフィルに向かっていくとなると、クレアに背中を向けざるを得ない。それを指摘した俺に、カルバンは怒鳴った。
「黙れ、小僧! そこまでぶっ飛ばされてぇんだったら、てめえから捻り潰してやる! ホルード、あなをほる!!」
「ドーッ!」
「ちぃっ! クレア、踏ん張れ!!」
「フィルもお願い!!」
 ああは言ったが、どちらに襲い掛かってくるかは分からない。ほんの少しだけ静かになるが、次の瞬間、ホルードは下から、クレアめがけて襲い掛かった。アッパーカットで突き上げられ、クレアの体がくの字に曲がって宙に浮く。
「踏ん張りどころだ、クレア! 抑え込め!!」
「グレイィッ……!」
「なんだと!?」
 辛そうな表情を見せたクレアだが、これができるかどうかで勝敗は分かれる。ダメージも重なっているクレアに、耐えられるかどうか……一瞬祈った俺だったが、クレアは俺の指示に応え、見事にホルードの体を両前足で抱え込んでくれた。
「この距離なら外しっこないぜ! ――ふぶき!!」
「レェイ、アァァーーーーーーッ!!」
 そのまま、大きく息を吸い込んで――ゼロ距離からぶっ放したふぶきが、ホルードの体を吹き飛ばす。奇しくもアブリボンと同じ場所に叩きつけられたホルードに……
「フィル、スピードスター!!」
 リルさんのフィルが、駄目押しのスピードスターを叩き込んで。
「ホルードーーーーーッ!!」
 ――決着を、見た。


「クレア、大丈夫か! よく頑張ってくれた!!」
「レイ、グレイ!」
 決着がつき、俺はクレアの頭を撫でる。まさか、協力者がいたとはいえ「軽蔑してやまなかった父親に鍛えられた娘」に負けてしまったのが相当ショックなのだろう。カルバンとバルバーレはへたり込んでいる。
「フィル、ありがとうね! すっごく格好良かったよ!!」
「フィー!」
 その隣では、大事な戦いで勝ってくれたフィルを労うリルさんの姿。すぐにでも傷の手当てをしてやりたいところだが、戦いの事後処理は残っている。
「リルさん、どうする? もちろん、賞金は取るよな?」
「もちろん。しっかり払ってもらいます」
 ポケモンバトルは、お互いの合意があれば賞金なしでもOKだが、そうでなければ勝った側に負けた側が賞金を払うことになる。特に、先ほども弁護士さんが言っていたが、浮気した側が被害者側とバトルに発展した場合、負けたら相場の百倍以上ともいわれる額を払わねばならない。無論、慰謝料その他は全部別だ。
「弁護士さん。お願いします」
「はい、分かりました」
 こんなに大騒ぎしてバトルしたんだ、さすがに全部取れるだろう。ちなみに、弁護士さんとインテリ男のクルバンはバトルしたわけではないらしく、本来であればこういった形で終わらせるべきなんだろうなあとなんとなく思う。
 弁護士さんの作成した念書は、慰謝料はバルバーレ・クルバン・カルバンそれぞれに二百万。財産分与はなしで離婚し、親権はお父さんに行くそうだ。他、バトルした際の部屋の修繕費と、賞金は二人合わせて五千円。ただし、賞金は相手側にリルさんがいたので、百二十倍の六十万。
 一大学生の俺からするととんでもない額が動いていくが、一中学生のリルさんにはさらにとんでもない額だったらしい。こんな状況だというのに、若干現実味を失ってぼーっとする。
 弁護士さんの念書を確認して、お父さんは顔を伏せる。六百万が入るわけだが、それが妻の浮気と家庭の崩壊から出た慰謝料なのだから、こんなに嬉しくない大金もないだろう。
「…………」
「お父さん……」
 気まずい空気の中、言葉を発したのはリルさんだった。少しの間、沈黙が流れて……
「ここで言うのも、変かもしれないけどさ」
 リルさんの口から、出てきたのは。
「胸を、張って。私にとって、お父さんは最高のお父さんだから」
 そんな、優しい言葉だった。
 リルさんの言葉に、お父さんの肩がぴくりと動く。リルさんは最初の言葉を出したからか、続く言葉はするりと出てくるようだった。
「お父さん、私がもうあの部屋に居たくないって言った時さ、あちこち、私の泊まる場所を探してくれたよね。最終的には、隣のセツさんの家になっちゃったけど。私がいなくなったこと、お母さんにばれたら面倒なことになるかもしれなかったのに、あと数日だから我慢しろとか、そんなこと何も言わないで、必死に泊まる場所、探してくれたよね」
「リル……」
「お父さんは、とっても優しくて、いつも一生懸命だった。学校行事に来てくれるのも、私が病気になって休んだ時に、病院に連れて行ってくれるのも、全部お父さんだった。仕事で疲れて帰ってきてるのに、家事も色々やってくれて。私を育ててくれたのは、全部全部、お父さんだった」
「…………」
「お料理だけは、美味しくなかったから私が作ったけどね」
 くすりと笑うリルさんに、お父さんは少しうつむいて返す。
「全部、焦げちゃうんだよな……」
「それはそうだよ、全部強火で焼いちゃうんだもん」
「そ、そうなのか?」
 聞き返すお父さんに「そうだよ」と返し、今度はリルさんはバルバーレに目線を向ける。
「だけど、お母さんはそんなお父さんをいっつも馬鹿にしてるし、周りに対して文句ばっかり。途中から、家事も全然やらなくなった」
「それはそうでしょう? なんで三人家族なのに、一人暮らしの人が住むようなワンルームになんて住んでるのよ。全部、全部この男の稼ぎが悪いからいけないんでしょ?」
 問い詰めるように聞き返すバルバーレだが、正直それは気になっていた。
 六畳一間のワンルームなんて、絶対に三人家族が暮らすような家じゃない。
 でも、その言葉に対しても。
「バルバーレさんが言ったんでしょ? 知ってるんだよ、おっきな家が買いたいから、それまでは家賃は節約したいって。だから、家を買うお金がたまるまでは、家族三人でワンルームに暮らしてたんじゃない」
 リルさんは、バッサリと切り捨てた。
 言い出したのは母親だったんだろうが、それでもお父さんはマイホームを目指し、一時的には狭い家であったとしても、頑張って働き続けていたんだ。リルさんもそれが分かっているから、お父さんについていっているんだ。
 だというのに、この女はそれが分からなかったのか。言い出したのは自分なのに、稼ぎが悪いと言い出して、不倫なんかに手を染めるのか。
 リルさんの弾劾に、かつての自分の言葉を思い出したのか。顔を伏せたバルバーレに、リルさんは言葉を叩きつける。
「自分で言ったことも忘れて、そのために頑張っているお父さんのことを馬鹿にして。そんな母親なんていらない。私は、お父さんと生きていくから、バルバーレさんは不倫相手と生きればいい」
 念書を取ったのを確認して、リルさんは家のドアを指さした。
「だから、出てって。私とお父さんの家に、もう二度と入らないで」
 悲しみを必死に押し殺したその言葉が、家族の終焉を語っていた。

【Ⅴ】 

「しっかしまあ、嬉しくもない事件だったな……」
 三日後、塾講師の仕事を終えて帰ってきた俺は、ふとあの事件を思い出してため息をついた。突拍子もない発言だったが、思うところはやはりあるのか、クレアも「ぱー」と息をつく。
 お父さんやリルさんは、引っ越すことにしたらしい。母親との別れ際に、リルさんは「私とお父さんの家に入るな」とは言ったものの、さすがに母親が不倫をしていたあの部屋で暮らしていくことはできないのだろう。
 ちなみにあの後、クレアは速攻すごいキズぐすりで回復をした。
 まあ、お父さんも次には、いい人に巡り合えるといいよな。もう会わないだろう人を思い出し、俺は風呂に入ろうとバスタオルと寝間着をカゴから出す。随分部屋も汚れてきた。これは、次の休日には掃除かな。
 なんてことを思いながら、俺は風呂場へと向かっていき――
 ――ピン、ポーン。
「あん?」
 と、部屋の呼び鈴が鳴った。こんな時間に誰だろうと、部屋の扉を開けてみると……
「突然すみません、先日はお世話になりました」
「え、あ、お父さんにリルさん!? いえいえどうもこちらこそ……どうしたんですか、一体?」
 そこには、リルさんとその父親が、菓子折りを持って立っていた。二人は遅くなりましてすみませんと頭を下げると、持っていた菓子折りを渡してくる。
「リルを預かってくださって、ありがとうございました。私がふがいないばかりに、バトルまでさせてしまって、申し訳ありません」
「いやいや、リルさんにも言いましたけど、あれは俺が半分勝手に踏み込んだようなもんですよ。むしろ、こちらの方こそすみません」
ぺこぺこと頭を下げ合うが、なんでこんなところにいるんだろう。お父さんは「それで」と続けると、俺に菓子折りを渡してきた。その上には、一枚の封筒が置いてある。
「これは、ほんのお礼です。後、あの時のバトルの賞金は、半分はセツさんにって……」
「え!? いえいえ、大丈夫ですよ! むしろそちらの生活こそ、いろいろ入用になるでしょう! 引っ越しをするとも伺いましたし、それに伴う諸々とか……」
「ああ、それなら、事情を知った大家さんが融通を利かせてくれまして。二つ隣の部屋を用意してくれたんですよ」
「へ? ふ、二つ隣?」
「ええ。娘が、妻が不倫していた部屋にはいたくないと言い出しまして。ですが、学校を転校したくもないらしくて……とりあえず、娘が卒業するまでは、ワンルームのままでいいかなって思うんですよ」
「あ、はあ……」
「ですので、費用的なところは大丈夫です。むしろ、何もお礼できていなくて、申し訳ないくらいですから。是非、受け取ってくれませんか」
 そういえば、元々リルさんは似たような理由で転がり込んできたような。貰った菓子折りは、そこそこいい店のお菓子の詰め合わせ。封筒の中身は、賞金の半分と言っていたところからすると、三十万か。
 思わぬ大金を頂いてしまい、半分呆然としてしまった俺に、お父さんが続けてくる。
「あと、セツさん」
「あ、はい、いかがいたしました?」
「私は仕事をしているので、帰りはどうしても遅くなります。よければそれまでの間、娘をセツさんの塾に通わせていただいて、勉強を見てやってもらえませんか」
「ええぇぇぇ!?」
 なんじゃそりゃあ!? 立て続けの衝撃に、もはや何と言っていいのか分からない。目線を移すと、リルさんとフィルも笑顔でこくりと頷いて、入塾の手続きについて聞いてくる。
「塾の方に、お電話すればよろしいですか?」
「フィー?」
「あ、そうね……俺の方からも明日、話を通しておくよ。明日の夕方以降に、塾の方まで連絡をくれ。番号は分かるか?」
「はい、知っていますよ。じゃあ、明日またお願いしますね」
「エー、フィー」
「レイ、グレイ!」
 リルさんの言葉とフィルの声に、いつの間にやら隣に来ていた、クレアが大きく頷くのを見て。
 まあ、それもそれで悪くないかと、俺は苦笑いと共に思うのだった。





Fin

後書き 

お久しぶりでございます。夏氷でございます。
セツとクレアの物語、第二幕として投稿しました。
今回のテーマは「浮気と不倫と家族」。前作ではほとんど触れなかった、セツの私生活にも軽く触れました。
ちなみに、相手がホルードとアブリボンなのは、試験的にバトルタワーに潜った際、グレイシア(クレア)とエーフィでの初戦の相手だったからです。
相変わらず「セツ」と「クレア」は、ソードシールドのフリー対戦によく潜っておりますので、もしマッチングすることがあったら、対戦相手としても味方としても、楽しく戦っていきましょう! バトルの申し込み鋭意受付中でございます。
何かございましたら、なんなりとお寄せくださいませ。コメント大歓迎ちゅ(ry
お目汚し、失礼いたしました。


【バトルデータ】

セツのグレイシア
名前・クレア Lv.38 性格・ひかえめ
技・れいとうビーム/ふぶき/みずのはどう/ミラーコート
HP・103(15) 攻撃・47(8) 防御・100(31) 特攻・135(31) 特防・87(28) 素早さ・66(31)
努力値・特攻80、素早さ2

≪ホルード・アブリボンとの戦闘時に食らった技≫
○ホルードのあなをほる ダメージ・24~28 23.3~27.2%
○ホルードのとっしん ダメージ・25~31 24.3%~30.1%
○ホルードのマッドショット ダメージ・3~4 2.9%~3.9%
(アブリボンのマジカルシャインと合わせてもほぼ相殺だったため、ダメージは5分の1)
○アブリボンのマジカルシャイン ダメージ・6~7 5.9%~6.8%
(ホルードのマッドショットと合わせてもほぼ相殺だったため、ダメージは5分の1)
○ホルードのあなをほる ダメージ・24~28 23.3~27.2%
合計ダメージ 82~98


リルのエーフィ
名前・フィル Lv.35 性格・おとなしい
技・サイコキネシス/シャドーボール/スピードスター/ねがいごと
HP・101(30) 攻撃・50(1) 防御・50(27) 特攻・110(30) 特防・85(21) 素早さ・92(31)
努力値・特攻44

≪ホルード・アブリボンとの戦闘時に食らった技≫
○アブリボンのドレインキッス ダメージ・18~22 17.8%~21.8%
○ホルードのマッドショット ダメージ・16~19 15.8%~18.8%
○ねがいごと 回復量・51 -50.0%(完全回復)
○アブリボンのマジカルシャイン ダメージ・9~11 9.0%~10.9%
(スピードスターとぶつかり合って威力が減衰しているため、威力50のドレインキッスが命中した時のダメージを半分にして算出)
○アブリボンのむしのさざめき ダメージ・66~78 65.3%~77.2%
合計ダメージ 75~89


カルバンのホルード
名前・なし Lv.40 性格・なまいき
技・あなをほる/のしかかり/とっしん/マッドショット
HP・126(22) 攻撃・60(26) 防御・74(20) 特攻・50(13) 特防・85(29) 素早さ・65(16)
努力値・攻撃2、防御90

≪クレア・フィルとの戦闘時に食らった技≫
◎通常時
○クレアのみずのはどう ダメージ・56~68 44.4%~54.0%
○アブリボンのかふんだんご 回復量・63 -50.0%
○クレアのみずのはどう ダメージ・56~68 44.4%~54.0%
○フィルのスピードスター ダメージ・16~19 12.7%~15.1%
(ダブルバトルによる分散込み)
合計ダメージ・72~92

◎決着時
○クレアのふぶき ダメージ・152~182 120.6%~144.4%
○フィルのスピードスター ダメージ・22~26 17.5%~20.6%
合計ダメージ・246~300


バルバーレのアブリボン
名前・なし Lv.35 性格・おだやか
技・かふんだんご/ドレインキッス/マジカルシャイン/むしのさざめき
HP・119(30) 攻撃・44(18) 防御・52(16) 特攻・72(4) 特防・94(31) 素早さ・93(5)
努力値・HP252、攻撃1、防御2、特攻2、殊防252、素早さ1

≪クレア・フィルとの戦闘時に食らった技≫
◎通常時
○フィルのサイコキネシス ダメージ・43~52 36.1%~43.7%
○クレアのれいとうビーム ダメージ・57~67 47.9%~56.3%
○フィルのスピードスター ダメージ・15~18 12.9%~15.5%
(ダブルバトルによる分散込み)
合計ダメージ・115~137 超低乱数耐え

◎決着時
○フィルのサイコキネシス ダメージ・66~78 55.5%~65.5%
(全力だったことを考慮し、急所ダメージで算出)
合計ダメージ・181~196(フィルのサイコキネシス時点で戦闘続行が可能であったため、この時点で元々食らっていたダメージは118以下だった)

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最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 大会のとき読ませていただいたぱぁぱぁグレイシアちゃんですね! キムチラーメンふうふうしながら食べるのかわいい! 強く吹きすぎて凍らせたり、おさげがスープに浸らないか心配になりますね。絵で人間とコミュニケーション取れたりと、人語を喋れないポケモンが丁寧に人間よりに描かれていることに新鮮さを覚えました。
    登場人物がわんさかいて混乱しない書き分け方が素晴らしい。ダブルバトルってポケモン4体と彼らに指示飛ばす人間が4人いるわけですけど、これを明確に読者へ伝えつつバトルの勢いも損なわない手法は書き慣れている感がとてもありました。読み応えもあって激アツ。
    前作同様クズ親と闘う話でしたね……バトルに打ち負かされて縁切られるところはスカッとしました。この、バトルの勝利こそが正義、みたいなポケモン世界の価値観、こうしてみるとなかなかに凄まじい。しかし主人公、他人の家庭にめちゃ首突っこむなぁ。
    ただ……その、狭くないですか? 6畳一間にイシヘンジンとトロピウスと人間7人がいて、そのうえバトルするのはちょっと難しいんじゃないか……と首を捻ってしまいました。ホルードは穴掘ってますし、ゲームやアニメなら「そういうものか」で済むのですけど小説だとどうもイメージがしづらかったです。 -- 水のミドリ
  • コメントありがとうございます!
    わあ、水のミドリさんからコメントいただけるなんて嬉しく思います!
    (「妖精ROCK!!!!」ももちろん、チェックさせていただいております!)
    はい、ぱぁぱぁグレイシアちゃんです!
    基本的に雑食なんでラーメンも食べられるはず、です! 可愛いって言ってくださって光栄です。凍らせたりスープに浸ったり……なんか想像つきますね。今度このラーメン屋を書くことがあったら、やってみていいですか?
    人がある意味輝くのって、明確な理由を持って戦う時だと思っています。そのため、バトルの描写には大分力を入れました。お褒めの言葉を嬉しく思います。
    が、仰る通り、確かに狭いですね。トロピウスの体格は2メートルの100キロ、イシヘンジンは2.5メートルの520キロ……これに、セツ・リル・リル父・バルバーレ・カルバン・クルバン・弁護士に、グレイシア・エーフィ・ホルード・アブリボン・ガマガルがいるって、どう見ても入らない気がします。せめてバトルは外でするべきでしたね。こう「表へ出ろ!」みたいな感じで。
    御意見をありがとうございます、是非、改善してまいります。
    どうぞ今後ともよろしくお願い申し上げます。 -- 夏氷
  • とても面白い作品でしたしスカッとする話でした!あのバトルの後の部屋の惨状はすごいことになってたでしょうね。 -- 暇人 ?
  • コメントありがとうございます!
    お返事が遅くなってすみません。
    面白いと言っていただけるのが、執筆の意欲になります。
    まー、バトル後は恐ろしいことになったでしょうねぇ。
    れいとうビームによる破損やマッドショットによる汚損だけを見ても、結構修繕費かかりそう……
    もちろん、バルバーレ・カルバン・クルバンの負担になったでしょうね(笑)
    どうぞ今後ともよろしくお願い致します。 -- 夏氷
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Last-modified: 2024-04-08 (月) 00:02:50
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