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闇と光と旋風と

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大会は終了しました。このプラグインは外してくださって構いません。
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作者:オレ
この作品には、戦闘による若干の暴力要素が含まれます。苦手な方はブラウザバックお願いします。

闇と光と旋風と 




 ここからがこの祭りのメインイベント。バトル大会だ。来賓席でもひときわ特別な椅子が外れた位置に設置されている。俺はそこに座っているポケモンに目を向ける。黄色い毛並みや青い角は雷や光の化身であるかのように思わせてくれる……なんて。近くの山の守り神で、ゼラオラと呼ばれているポケモンだ。正直守り神とかの話が無いと、体格的には普通のポケモンと変わらない。近づいて餌をあげて、頭をなでて毛並みを楽しみたくなってしまいそうなポケモンだ。

「ゼラオラ、な……」

 対戦が行なわれるコートからだと、ゼラオラの姿がよく見える。向こうもここからの対戦を全て見るのだから当然だろうが。正直全ての対戦を見るなんて大変な気もするけど、その辺は俺が気にしても仕方のないことだ。そんなことを思った瞬間、ゼラオラの体を風が撫でる。細かい毛並みが風になびき、凛々しい顔つきとはまた違う精密な毛並みを印象付ける。正直、今すぐにでも撫でまわしに行きたい。

「兄貴……?」

 地の底から響いてきたような声が、傍らから聞こえてくる。俺の相方の雌のテールナー、フォルテだ。いつものように俺の下心を見透かして睨んでくる。恐ろしいやつだが、実際俺にはこいつがいるのは間違いない。フォルテの頭を撫でてやるとそれでも気分悪そうにそっぽを向くが、尻尾は揺れているからわかりやすい。こちらの使用ポケモンをこうして晒しているのはあまり頭のいいやり方ではないが、事前に登録したポケモン一匹のみでの対戦だからそこまで影響はないだろう。こちらも対戦するポケモンの種族は既に分かっている。だがそれよりも、俺はゼラオラが気になる。撫でることができないのならとばかりに目線を送ると。

「頑張れよー!」

 目線が合ったのに気付いたゼラオラは、こっちに笑顔を向けて声を掛けてきた。この下心満載の目線だというのに、申し訳ない限りだ。とはいえゼラオラも一参加者に過ぎない俺が特別贔屓なわけではないだろう。こっちがそんなことを思っている傍から、向こうから出てきた俺の対戦相手に目を向けていたからだ。おそらく向こうも目線が合ったのだろう、笑顔で声を掛けている。

「まあ簡単に選ばれるとは思ってないし、向こうも簡単には選べないか」

 俺はフォルテに目を落とす。ここで行われるのはバトル大会だが、単なる勝ち負けとは違う「特別枠」もある。ゼラオラが気に入ったトレーナーやポケモンを順位に関係なく表彰するというものだ。とはいえいくら順位とは関係ないとしても、ゼラオラの気を引く何かを見せなければならないのだから変わらない。過去にはたまたま大会前にゼラオラと偶然接触した人物が、それなりの結果を残したのもあって選ばれたこともあった。だがあいにく自分にはそういうのはない。

「一回戦開始の時間です! 対戦者のお二人はコートの指定位置まで進んでください!」

 アナウンスに従い、俺は対戦コートの白線まで進む。正面に対戦相手も着いたので、勝負事の基本として礼を交わす。一回戦を引き当てられたのは、ゼラオラの目を引く意味では有利だろう。よっぽど目立つ何かがあるのであれば別だが、誰よりも最初に自分のバトルを見せられるのは大きいだろう。勿論ここでつまらない負け方をするようではどうしようもないが。

「それでは、ポケモンはラインに立ってください!」

 コート際に立ったジャッジマンに言われるままに、フォルテはコートの内側の白線まで進んでいく。対戦相手も白線のところ目掛けてボールを投げる。中から出てきたのは……ニャヒート。まあ事前にわかっていたから今更驚きはしないが、初戦は奇しくも炎ポケモン同士の戦いになった。相性の差が出ないとなれば、俺とフォルテの実力を見られる場となるだろう。

「それでは、試合開始!」

 ここに大会の戦いの火ぶたが切って落とされた。幻のポケモンと呼ばれる山の守り神が目の前にいるという、一風変わった対戦大会。何はともあれ俺もトレーナーの端くれ、対戦がはじまったからには下心は抜きだ。じりじりと間合いを詰めてくるニャヒートの動きに、接近戦を予想する。

「フォルテ、サイケ光線だ! 反動を利用して距離を取れ!」
「ニャヒート、怯まず距離を詰めて噛みつくんだ!」






「ここまでか……」

 トーナメントの三回戦。俺はついに膝をつき、倒れ込むフォルテの介抱をする。目の前で勝利を掲げて手を振るのは、水タイプのゲコガシラ。二回戦ではフォルテも苦手な地面ポケモンを相手に勝利を納めてくれて、行けると思っていたんだがな。向こうも前の試合に苦手な草タイプを突破している実力者だった。相性を覆せるほどの実力差ではなかったらしい。

「三回戦ともなれば、やはり実力のあるポケモンにまとまっていくのだろうな」

 フォルテが上体を起こせるようになったタイミングで、俺たちの脇を通り抜けた男が呟く。大会の参加者かとも思ったが、さっきまでに一通り見た中にあのような人物はいなかったはずだ。フードを目深にかぶっていて顔が見えず、全身を覆うコートも膨れ上がっている。体格がいいというよりは、中に何やら組まれている感じだ。そう思った瞬間には、俺は男の動きに警戒する。

「あなたは、誰ですか?」
「さあな」

 フォルテを抱きかかえいつでも逃げ出せる姿勢になりながらも、俺は男に声を掛ける。しかし男はもうこちらには興味が無いという様子で、つかつかと俺たちを破ったゲコガシラとトレーナーの方へ進んでいく。そしてコートに隠れた手をゲコガシラの方へかざすような動きをして見せた瞬間。

「なっ!」

 その閃光は指が伸びた鉤爪のような形をしていた。ゲコガシラを鷲掴みにして、消えた時にはゲコガシラの姿はなかった。代わりに一個の黒い禍々しいボールが男の手元に飛び込む。何があった……俺以外も一斉にその男の方を注視する。

「お前! ゲコガシラに何をした!」
「ああ。君のゲコガシラはなかなか優秀みたいだからな。私がいただくことにしたよ」

 言いながら男は今手元に飛んできたボールを軽くトスし、中にいるポケモンを呼び出す。現れたゲコガシラは、しかしもうあのゲコガシラではないとしか言えない。瞳から黒い光を放ち元のトレーナーを睨みつける……瞳があんな風に輝くこと自体も俺には驚きだが。

「まさか……! スナッチと同時にダークポケモン化を行なった?」
「それらをご存知とは、流石は市長。博識だな」

 来賓席から声を上げた市長に対し、男はご名答を称えるように手を叩く。一つ一つの動作が緩慢な上、敢えて無駄なことをしているようにも見える。変貌してしまったゲコガシラも含めて、男の周りには言い知れぬ不気味さが渦を巻いている。市長の言うスナッチやダークポケモン化というのはわからないが、目の前の状況からしてゲコガシラをトレーナーから奪い取って洗脳したのだというのは感じ取れる。

「よくわからねえが、ゲコガシラを元に戻せよ!」
「それができるか、見ものだな」

 男が言い終わるや、ゲコガシラはかつてのトレーナーに飛び掛かり、水の波動を放つ。トレーナーの方もここは戦うのは仕方ないと腹をくくり、ポケットからボールを取り出しジャノビーを呼び出す。ジャノビーも目の前の仲間が襲い掛かってくるという状況には戸惑ってはいたが、相性は有利なのでまずは水の波動を打ち払う。そして牽制の蔓の鞭で横薙ぎに払うと、ゲコガシラも一歩退き。

「まずはゲコガシラを取り押さえるんだ! 多少怪我させても、今回は仕方ない!」

 指示が終わるころには、ジャノビーの蔓の一本はゲコガシラの片手に絡まっていた。大会の代表には選ばれなかったが、あの強いゲコガシラの修行仲間であるらしくいい動きだ。だがその状況を見るや、男はまた手をかざす。あの動きは……!

「くっ、ジャノビー! かわせ! あれにつかまるとお前まで操られるぞ!」
「かわせるかな?」

 巨大な手が掴みかかってくるかのように、鉤爪の閃光はジャノビーに向かっていく。説明を受けなくても明らかにやばい物なのはわかるので、ジャノビーは横にかわそうとするが。ゲコガシラは腕に絡みついた蔓を引っ張り、ジャノビーの回避行動を崩す。

「ジャノビー!」

 ゲコガシラを取り押さえる行動が裏目に出てしまった。ジャノビーの姿は消え、黒いボールがまた一つ男の手元に飛ぶ。それに入れ替わるようにトレーナーに飛び込んでいくゲコガシラ。

「がっ!」

 水の波動を胸に叩きこまれ、トレーナーは宙に弾き飛ばされる。仰向けに地面に叩きつけられると、服の中に備えていたボールを幾つか転がす。目の前に倒れるトレーナーを見るゲコガシラは相変わらずの目であるが、しかしその目から涙がこぼれていた。

「ゲコガシラ……なんで泣いているんだ?」
「ポケモンの精神を封じるダーク化もまだ完璧な段階ではないからな。体の奥に封じ込まれた心で、自分のしたことを嘆くのもあり得ない話ではないだろう」

 反吐が出る話だ。或いはダーク化されたポケモンを苦しめるためにわざとやっているのか? これならせめて、操られている間の記憶が無い方がましだろう。男はキャッチしたボールをトスする。現れたジャノビーも完全にダーク化されており、ゲコガシラと同じ異様な目つきになっていた。

「もっとも、操作には影響が無いのは確認済みだ。何の問題もない」
「こいつ……!」

 冷たく言い捨てる男に、俺は歯ぎしりすることしかできなかった。フォルテも先のバトルのダメージでまだ思うように動けない状態である以上、俺が下手に動いたらフォルテまで同じ目に遭うことになりかねない。フォルテ以外のポケモンが手元にいるわけでもない現状、フォルテを転がして男に殴りかかるわけにもいかない。

「君も逃げるのであれば早くするのだな。そうでなければボールに入っていようと、私には関係ないからな」

 言いながら、男は意識を失っているトレーナーの方に手をかざす。直後には転がっているボールの数だけ鉤爪の手が飛び出していた。まさかボールから出ていないポケモンも奪い去れるのかということと、同時に複数の「手」を放つことができるのかという二つに驚かされた。手に掴まれたボールは強引にこじ開けられ、中のポケモンを奪い去られていく。残された方のボールは中身を食われた貝のように開いたまま転がっている姿が無残であり。

「抵抗の意思がないのであれば、早々に逃げることを勧めよう。不意を打たれても困るのでな」

 男はこちらを全く見ず、手元に飛んできた四つのボールをキャッチする。そのボールをまたすぐにトスして、奪ったポケモンたちを自らの周りに並べる。ゲコガシラとジャノビーを含めて六匹分の虚ろな瞳がこちらを捉える。フォルテを抱えてこの許しがたき者を背に逃げ出すほかないか……そう思った瞬間、一陣の影がこちらに飛んでくる。

「それ以上、卑劣な真似はやめるんだ!」
「ゼラオラ!」

 ゼラオラは着地と同時に迅雷を放ち、男の周りに並んでいたポケモンたちを痺れさせる。少し離れた位置でもかなりの衝撃だったので、直撃した六匹は当分動けないだろう。男の方も余波を受けたはずではあるが、コート内に防護を仕込んでいるのか数歩のけ反った程度で再びこちらを見る。

「来てくれると思っていたぞ。ゼラオラ、君は確実に捕えておきたいのだよ」
「その言葉、そっくりお返しするぜ! 市長からスナッチやダークポケモン化の話は聞いたからな。捕まえて色々聞かせてもらわないといけない」

 言いながらもゼラオラは、俺たちと男との間におもむろに入る。俺たち……というよりはフォルテを魔の手から守るために盾になろうとしてくれているらしい。流石にあのボールでも人間は捕獲できないとは思う。だがそれでも男のボールは捕獲力の時点で既に恐ろしいものがあり、ゼラオラは大丈夫なのだろうか?

「趣深いことを言ってくれるな。まさに今日のメインイベントに相応しい」

 言うが早いか男は左右の手から三本づつ、合計六本の鉤爪を飛ばす。鉤爪は一斉に複数の方向からゼラオラに飛び掛かる。しかしゼラオラはそれを避けようともせず。躱したらもしかしたらフォルテに当たるかもしれないというのもあるが。

「言ってろよ!」

 ゼラオラが左右の爪を横薙ぎに払うと、その軌跡は迅雷となり飛んでくる鉤爪を打ち砕く。ゼラオラはそのまま突っ込んでいき、男の胸元に「プラズマフィスト」を叩きつける。速い。

「ぐっ! 動きが……?」
「プラズマフィストの電気はまとわりつくからな。機械で固めた体なら動きが奪われるだろうよ」

 男はかざそうとした手を中途半端な位置で止めている。どうやら腕を動かすことにすら電子機器による制御を行なっているらしい。あとは男の捕縛のために市長が警察隊を連れてくれば解決だろう。こちらを振り向くゼラオラの顔は、若干拍子抜けした風でもある。

「ところでお前、そのテールナーを早いところボールにしまっていれば逃げ出せたんじゃないか?」

 プラズマフィストの効果が切れないように確認しながらも、待っている間の時間つぶしだろうかゼラオラは俺に話しかけてきた。風に揺れる毛並みの質感は間近で見るとより気持ちを誘い立てる。しかしゼラオラの質問のお陰で、思い切った行動に入れなくなっていた。

「それがボール控室に置いてきちゃって。この大会のルールだと試合の合間の回復以外ボールに入れておく必要が無いからさ」

 ゼラオラの疑問は当然と言えば当然で、俺は痛いところを突かれていたのだ。それをうやむやにするために飛びついて誤魔化すというのも手ではあるが、流石にそれをするだけの度胸はない。しかしこの説明で、ゼラオラは一発で呆れ顔になってしまった。

「はぁ? じゃあ他のポケモンは? まさかテールナーしか連れていないなんてことはないよな?」
「せっかくのお祭りだからあいつらには小遣い渡して自由行動させてる。もしかしたら結局観戦に来ている奴もいるかもしれないから、いたら気付いて来てくれるかもしれないけど……」

 聞いているうちにゼラオラの顔にどんどん呆れの色が深くなっているのが目に見えてわかる。ポケモンに呆れられたよ、俺。幻のポケモンだけどさ。でも俺はポケモンたちには自由にさせてやりたい、そういう主義なんだ。今回はたまたまそれが裏目に出ただけなんだ、わかって欲しい。それよりも……。

「ところで、市長が言っていたスナッチとかダークポケモン化とかってのは?」
「ああ……。元々はオーレっていう遠い地方の不法組織が開発した技術らしい。今はどちらも規制されているって話なんだが……」

 普段は野に暮らしているゼラオラにとっても、遠い地方の不法組織の技術など今初めて知ったことらしい。スナッチは「スナッチ団」と名乗る窃盗組織による開発した装置で、既にボールに入っているポケモンを奪って自分のボールに移し替えるというもの。ダークポケモン化は「シャドー」と名乗る組織がポケモンの精神を封じ込めることで自在に扱えるようにし、しかも通常は使えない強力な「ダーク技」を使えるようにするもの。オーレ地方ではある時期シャドーが活動を活発化させ、ダークポケモンが蔓延していた。それをスナッチ団から奪ったスナッチマシンで回収し、一匹ずつダークポケモン化を治療していった若者がいたという話である。

「スナッチもダークポケモン化も簡単な技術ではないから、こいつの他に仲間がいるのなら調べなければならない。あと既にダークポケモン化されたポケモンがいる以上、治療のために技術そのものを聞き出す必要があるらしい。だからやり過ぎないようにって、市長から説明されたんだ」

 そこまで言ったところで、ゼラオラはダーク化された状態で倒れているポケモンたちに目線を向けて舌打ちする。こうして飛び込んでくるのだから、酷い目に遭うポケモンは少しでも減らしたかったのだろう。最初のスナッチからゼラオラが飛び込んでくるまで随分と間があったが、この口ぶりだと市長からスナッチとかダークポケモン化とかの説明を受けていたんだろうな。それで時間がかかった分被害が拡大したと思うと、ゼラオラとしてはやり切れないだろうな。まあ、かと言ってゼラオラがスナッチされてダークポケモン化されようものなら手が付けなくなるが。男の方に目線を向けると、どうやら電気系統のダメージがまだ続いているのか動けないでいる。正直ゼラオラを捕まえる前提があったのなら対策くらいしておけよとは思う。ゼラオラの情報が全くなかったのか?

「まあいい……。とりあえずここは……」
「ぐ、ぐぐっ!」

 苦悶の声を上げながらも、男は腕を動かし始める。時間が経ってゼラオラの電気が抜けたのだろうか? 今度こそはとゼラオラに向けて手をかざしてスナッチを試みているが、明らかに動きは鈍い。俺やフォルテ相手ならともかく、既にプラズマフィストを構えて踏み込んでいるゼラオラが相手では無駄だろう。そう思った瞬間だった。

「なっ? 『草結び』?」
「隙ありだ!」

 先程倒した筈のジャノビーが辛うじて顔だけ上げて、コートの敷き砂に力を送っていた。敷き砂を経由して送られた力は、ゼラオラの脚に草を絡めさせる。それでゼラオラに生じる隙は僅かだが、男はその一瞬を狙ってスナッチの魔の手を放っていた。その動きは鈍っていた一瞬前のものとは明らかに違っており。

「ゼラオラ!」
「残念だが……」

 暴発したプラズマフィストはジャノビーを打ちのめして再び気絶させるが、鉤爪の方は一発目を打ち払った後の二発目を崩せず。禍々しい閃光に包み込まれ、ゼラオラの姿は消える。代わりに例の黒いボールが姿を現し……。

「上手くいくと思うな!」
「ゼラオラ……!」

 男の手元へと向かう前に、ボールは破裂する。不意を打たれはしたが、やはり伝説のポケモンであるゼラオラを捕縛するのは簡単ではないんだ。フードで表情は伺えないが、これには心なしか男も動揺したように見える。と俺が安心したのも束の間、ゼラオラは男に反撃できないまま地面に膝をつく。

「上手く……ぐっ!」
「ゼラオラ?」

 脇に駆け寄ると、ゼラオラは全身の毛を逆立てていた。見開いた目はゲコガシラやジャノビーのようなダーク化の光に染まりかけていた。完全に染まり切っているわけではないが、いつ飲み込まれてもおかしくない。両手をついて息を荒げ、押し寄せてくるダーク化の力に必死で抗っている。

「このボールを破るとは驚かせてくれるが、それもここまでのようだな」
「お前、動けないんじゃなかったのか?」

 そんなゼラオラの様子は、観察するまでもなく男にも伝わっている。相変わらずのゆったりとした動きで構え直し、ゼラオラのスナッチに掛かろうとしている。今再びスナッチの魔の手を放たれれば、この状態のゼラオラに為すすべはないだろう。

「まさかゼラオラと対峙する前提があるのに、対策しないと思ったか? 打撃と同時に電気をまとわりつかせるゼラオラのプラズマフィストの情報は何とか手に入れたから、それに対する制御の機構も加えてあるのだよ」
「じゃあまさか、動けないふりをして隙を狙っていたのか?」

 先程俺が思っていたことを読み取っていたかのように、男は悠々と言い放つ。俺だって対峙する相手の情報があるならできる限りの対策はするし、事前に集められる情報を集めるくらいのことはする。最初からお互いに情報が伝わっていてできる対策も圧倒的に限られている、そんなルールのこの大会が特別なだけだ。ルール無用のこういう連中がその最大限をやらないはずがないんだ。

「最初は本当に動けなくなったがな。伝説ポケモンの力は予想以上だったわけだ。だが回復した後はその通りだ。ゼラオラに隙を作るため、気付かれないようにジャノビーも回復させてな」
「やってくれる……!」

 元気の欠片でも持っているのか、それとも他の回復の機構でもあるのか。ジャノビーの方も回復した後も倒れたふりを続けさせていたのだろう。完全回復ではなかったにしても、ゼラオラを足止めする捨て石にはなったわけだ。俺もゼラオラも全く気付かなかった……男が悠々と言い放つ話に歯噛みするばかりだ。

「さて、ゼラオラよ……今度こそこちらに来てもらおう」
「くっ!」

 もはやゼラオラも戦うどころか逃げることもできないのを見て、男は悠々と手をかざす。スナッチの鉤爪がこちらを向いて構成される。戦えるポケモンは手元にいないし、いたところでスナッチされるだけ。この状況で俺ができることは……。考えるよりも早く、体が動いていた。

「お喋りだけかと思っていたが、邪魔立てするか」
「ぐぅ……!」

 ゼラオラに襲い掛かる魔の手の前に、俺は立ちはだかっていた。フォルテの尻尾の中の枝を掻っ攫って構えながら。無いよりはましだろう。慌てて飛び出したのでボールは枝ではなく胸で受け止め、衝撃が苦しい。ボールを射出するのにも、やっぱり機械を使っているんだろうな。

「兄貴!」
「悪い、借りるぞ!」

 フォルテの悲鳴に近い声。絶対に枝を取られたことを言っているつもりではないだろうが、冗談交じりに答える。下手に受け止めれば枝が折れるかもしれないが、その時は土下座しよう。もう滅茶苦茶に笑い飛ばすしかない状況だ、最後は許してくれるはず。

「邪魔立てするならばいいことを教えてやろう。ゼラオラ捕獲のために邪魔が入らないように、私もダーク化したポケモンを要所要所に配置していたのだ。助けが来るのはだいぶ先だろうな」

 流石に相手から目を離すことはできないが、耳を澄ませれば確かに会場全体が騒がしい。明らかに今日の祭典に盛り上がっている感じとは違う。悲鳴や戦闘による轟音が聞こえてきており、男が配置したダークポケモンとの戦闘が起こっているのが伺える。

「警備とか以外にも大会参加者のポケモンも抑えられるのか……相当用意しているんだな」
「参加者の中には逃げ出しているのも多いだろうがな。ダークポケモンもそうだが、スナッチやダーク化を見せられて自分のポケモンをそれに向けられるやつなどそうはいるまい」

 更に絶望を告げてきたか。表情は見えないが、こうしてわざわざ追い詰めてきているのはこいつの趣味なのだろうか? 正直俺だってたまたま俺の目の前でことを起こされなかったら逃げ出していたかもしれない。祭りの警備員ですら自分のポケモンにスナッチやらダークポケモン化やらの危険に乗り込ませるかわからない、正直祭りの警備員レベルじゃそんな金は貰ってないだろう。ましてや参加者でボランティアでこんな危険に首を突っ込むなんて酔狂でしかないだろう。だが俺の置かれた現状は違う。

「どうせフォルテを抱えて逃げようとしたって、お前の気まぐれでボールを飛ばされたらおしまいだろうが。逃げ場がないんなら、無駄にあがくのが最善じゃねえか!」

 まあボールを置いてきたというミスはあったにせよ、フォルテを抱えて逃げるのだって難しいだろう。全力で背中を向けて逃げようものなら、後ろからスナッチの鉤爪を飛ばされたら躱せない。俺が確実に逃げるためには、フォルテを見捨てることも覚悟しなければならないということだ。離れた控え席とかにいた参加者とは違い、俺は逃げたくても逃げられないんだ。だったら時間稼ぎにもならないかもしれないけど、とりあえずあがけるだけあがいておく。男の顔を睨みつけて枝を握り直し。

「その勇気は称えねばならぬな。良かろう。ダークポケモンを呼び出してもいいところだが、余興だ。ここは私が直々に惨たらしい目に遭わせてやろう」
「上等だ!」

 正直、男の嗜好には呆れさせられる。ダークポケモンを呼び出して手っ取り早く片付ける方がいいだろうに、わざわざ俺を苦しめることを宣言する。ルール無用の世界に生きるには、人が苦しむ様を見るのを楽しむような性質が不可欠なのだろうかと思ってしまう。それを意味もなく煽る俺も何を言っているんだかだけど。

「ならば枝どころか骨という骨を打ち砕かれて地面に倒れ、ゼラオラとテールナーがスナッチされるのを眺め無力に浸るがよかろう!」

 丁寧なご説明ありがとうございますだぜ、まったく。どんな風に苦しむかをわかりやすく言うことで、こちらを怯えさせたいというのが狙いだろうか? それに対して俺の顔に怯えの色が出ていたかは鏡が無いし分からないけど、それよりフードの中のこいつの顔を見てみたい気がしてきた。この悪趣味に興じる顔、怖いもの見たさだ。

「ぐっ!」

 一気に三つのスナッチのボールが飛んでくる。俺は一つは枝で撃ち落とし、もう一つを服にかすらせ袖で払う。最後の一つは左の太ももを強打してくれた。痛い。どのくらい持つかはわからないが、それでも耐え続ければ何かチャンスは来るだろうか?






 禍々しい鉤爪はポケモンにだけ作用する閃光で、人間である兄貴には何のダメージもないみたい。だけどその中のボールは結構な威力で飛んでくるみたいで、左の太ももに当たった瞬間痛そうに呻いていた。いつもは毛並みフェチなだけのただの馬鹿だってのに、どうしてこんな時に頼もしい姿を見せるんだろう。

「ゼラオラ……」

 ゼラオラは息を荒げて総毛逆立てて、ダークポケモン化に飲み込まれるのに今なお抗っている。私が腕をさすっても、全く気が付かない感じだ。私がゼラオラを抱えて逃げ出すこと、できるかな? そうすれば兄貴も逃げ出してくれるのかな? 控室に行けば兄貴の鞄に回復アイテムがあるはずだから、回復すればゼラオラを運び出せるかな?

「そこのテールナー、お名前は?」

 そんなことを考えていたら、すぐ傍から誰かの声が聞こえてきた。目の前の男も唐突に表れたから突然の来訪者は怖いけど、そちらを見ないわけにはいかない。そこには先程までいなかったはずのポケモンがいた。銀色の体で丸い滑らかなボディライン、お腹は海の底のように青い美しいポケモンだ。体格は兄貴より少し大きいくらい。あれ? このポケモンって?

「私、フォルテ。あなたは?」
「申し遅れました。私はルギアです」

 ええ? ルギアって確か伝説のポケモンの一匹だったよね? この地域に恵みの風雨をもたらしてくれて、それに感謝するために今日とかお祭りがおこなわれていて……。でも兄貴が聞いてきた伝説では何メートルもの大きさがあるって言ってたけど、今目の前にいるのは小さくない? そもそもそんな伝説ポケモンが目の前に現れたら、あいつ絶対狙ってくるよね?

「とりあえず今の私の姿は、あなたとゼラオラにだけ見えるようにしています。まあゼラオラも今はそれどころではありませんがね」

 私の思っていること顔に出ていたかな? ルギアはそう言って、両手を空間を包み込むようにかざす。次の瞬間優しい淡い光がその中から浮かんできた。よく見ると小さな筒のようなものも入っている。この状況を打開する神器か何かかな?

「これは『時の笛』を、ダークポケモン化の回復『リライブ』に特化した効果に改造したものです。オーレにいた私の写し身が転送してきたものです」
「写し身?」

 ルギアはその筒を光の中から取り出し、翼のような手に取って私に差し出す。私には笛というのが人間が音楽の時に使うくらいの認識しかないけれど、私が吹いても大丈夫なんだろうか? 穴も胴体に普通に開けられた丸い物から切り込みのように入れられたものもあって、なんか複雑な形だ。

「ええ。私は世界各地に触れるため、意識を共有する写し身を沢山持っているのです。写し身は利便性のために巨体にしていますが、本来の私はこの大きさなのですよ」

 そういえば現在でも「伝説ポケモンと旅したトレーナー」とかいう話はちょくちょく聞く。そんなに伝説ポケモンが沢山いるものなのかと思ってはいたけど、なるほどそんな風に写し身なら同じ伝説ポケモンがいろんなところにいたとしてもおかしくはないか。

「当時のオーレでのシャドーの暗躍はすさまじく、写し身の一つが捕えられて体を変質させるほどのダーク化を受けたのです。その写し身のリライブが終わった後、同じことが起こっても対策できるようにとクレインという方と協力してこの笛を完成させたのです」

 そんなことを言われて、私はもう一度ゼラオラに目を向ける。額の角が黒く変色しており、見るからに苦しんでいるのがわかるけど……そんな今のゼラオラすら比にならないほどの苦痛をその写し身は受けたんだと感じた。

「この地の守り手一族でもあるゼラオラとも、私は代々写し身を通じて連絡を取り合っていました。ゼラオラが戦いに挑む前に念のために私にも情報を送ってきたのですが、それが功を奏したようですね」

 男が私たちが対戦したトレーナーに繰り返しスナッチやダーク化を見せていた間、ゼラオラは飛び込みたいのを堪えて市長の説明を聞いていたという話。でもそれだけじゃなくて、飛び込む前にルギアにも連絡を取っていたわけか。伝説のポケモン同士のそんなテレパシーみたいなのがある感じなのかな? 兄貴は以前「何としても為さなければならないことがある場合、その重要性が大きいほど失敗したときの手も用意しておくもんだ」って言ってた。ゼラオラも失敗したくはなかっただろうけど、この男が野放しにされるという最悪を防ぐためにルギアという次を用意していたわけか。ポケモンでも幻のポケモンとなるとこういう先を考えた思考を習得しているのかな?

「この笛を吹き鳴らせば、近くにいるポケモンは瞬く間にリライブ……ダーク化から解放されます。私の写し身もじきに到着するでしょうが、早くゼラオラたちを回復させてあげてください」

 ルギアはずっと笛を差し出したままだ。私でなければ駄目らしい。さっきゼラオラとルギアが連絡を取ったという話のときにテレパシーを連想したけど、このルギアの姿も私に伝えるためだけの幻像みたいなものなのかもしれない。笛くらいなら先に送ることができるから、到着するまではこの場にいるメンバーだけでどうにかして欲しいってところかな? 正直、笛なんて触ったこともないけど。不安だけど、兄貴もゼラオラも笛に手を伸ばすことができる状況じゃないんだ。私がやるしかない。

「頼みましたよ」

 私が震える手で笛を受け取った瞬間、ルギアの姿が消える。私だけを切り離して止まっていた時が再び動き出したように……一気に現実に戻される。脇ではなおも腕を突いたまま息を荒げるゼラオラ。前では繰り返しボールで打ちのめされ、それでも場を譲らない兄貴。笛が息を吹き込むと鳴るという仕組みなのは知っているけど、どの穴から吹き込めばいいのかわからない。とりあえずルギアから差し出された側の先端の穴に口を付け、一気に息を吹き込んでみる。

 ただ高いだけの音が、私の息に合わせて一直線に鳴る。

「うう……」

 ゼラオラは突いていた手を若干握り、軽く首を振る。角を染めるどす黒さも若干和らいだ。これでいいらしい。私は大きく息を吸い、先程より高らかに笛を鳴らす。その瞬間、ゼラオラは一気に飛び上がり……。






「ぐっ? 復活した……がはっ!」

 二度ほど警笛のような音が響いたと思ったら、次の瞬間には男がゼラオラのプラズマフィストで吹っ飛ばされていた。ゼラオラはなおも手を緩めず、男のフード付きのコートを引きはがし再び胸に力を込めた一撃。機械が破損する音からは、ゼラオラの怒りが伝わってくる。

「ゼラオラ! もう大丈夫なのか?」
「ああ。まさかルギアがダークポケモン化を回復する手立てを持っているとは思わなかったな」

 振り向くと、フォルテが先程までは持っていなかったはずの笛を吹いている。旋律など関係ない一直線なただの音だが、それでもあの笛の音であることが重要らしい。男にダークポケモン化された後ゼラオラに倒されたポケモンたちも、この音を聞いて体を震わせ始めた。

「馬鹿な! 時の笛だと?」

 フォルテの吹いているこれは時の笛というらしい。平常な人間である俺には本当にただの音でしかないのだが、すぐにゲコガシラとジャノビーと、他のポケモンたちも起き上がる。そして一斉に男の方に目線を向ける。殺しても足りないほどの怒りをまとった目線。恐ろしいものだ。ダークポケモン化で心を封じるよりも、心を持った方が怒りで凶悪化することもあるものなのだと思い知らされる。

「兄貴ってさ、こういう時だけ妙に格好いいよね」

 ゼラオラの一撃で動けなくなった男を見て安心したのか、フォルテは俺の腹に背中を押し付けてくる。男に何度もボールをぶつけられた部分で、押し当てられるフォルテの柔らかさが心地いい。フォルテは俺の右手を掴んで胸元に腕を絡ませると、もう一度時の笛を吹く。それを合図にゼラオラが、ゲコガシラが、ジャノビーが。苦杯をなめさせられたポケモンたちが一斉に男へ仕返しに掛かる。

「それより、フォルテ悪い。枝、折れちまったよ」
「仕方ないね。新しいの探しに行こう」

 結局ろくな防御効果もないままに、フォルテの枝は折れてしまった。まあ本来は火を起こすためのものだから、飛んでくるボールを弾くのには向かないんだろうな。ゼラオラたちは男の装甲を力任せにはがしつつ、時折殴りつける様子も見せる。あとは男の用意したダークポケモンたちを回復させれば解決するだろう。少し休んだら、笛を吹いて歩き回るとしよう。






 機械を剥がされて引きずり出された男を見ると、むしろ若干小柄なくらいだった。ああして機械に入って操作をするんならその方が扱いやすいんだろうな。そこまで見届けたところで休憩を終了し、俺もフォルテももうひと頑張りすることにする。男が用意したと思われるダークポケモンを探し、攻撃を受けないように気を付けながらその傍で笛を吹く。地が凶悪なポケモンはいなかったらしく、時の笛の音色を聞くとみんな大人しくなっていった。

 探し歩きながらフォルテから聞いた話だが、この笛はルギアが転送してきたものらしい。実際この地域にもゼラオラとルギアのやり取りの伝説があり、ここまで至った状況でルギアが出てくるのも頷ける話だ。先に笛だけ転送というのができるなら、この場に居合わせた者に送って吹かせるというのも納得の手段だ。まあ……一番はルギア本人が笛ごと一瞬で飛んでくることだが、それはできなかったのだろう。遅れてルギアもやってきたが、あの何メートルもある巨体を見ると笛の転送で済ます方がずっと手間も難易度も低そうだ。ダークポケモンが全て回復したところで、フォルテはルギアに時の笛を返す。

 とにかくことは片付き、今回はルギアまで特別ゲストに迎え大会は再開された。普段はゼラオラ以上に表に出ないらしく、そんなルギアの登場に皆が皆沸いていた。ただ時折観客とかから「本物のルギアだ」の声が聞こえた時に、フォルテが何か言いたげな顔をしていたのは気になったが。訊いても教えてくれなかったのは何なんだろう。

 俺とフォルテを破ったトレーナーはそのままゲコガシラと共に優勝していた。事件の起きた段階で俺は敗退していたからそこで帰っても良かったと言えば良かったのだが、ゼラオラに特別席に呼ばれたのでせっかくなので最後まで観ることにした。最高の毛並みを持つゼラオラとフォルテに、滑らかな体つきを持つルギアにまで囲まれ、正直試合よりもそちらばかり気になってしまった。

 そして今、表彰式だ。ゲコガシラたちが表彰された後、俺とフォルテが呼ばれ。

「今年のゼラオラ特別賞はお前たちだ。あの状況でも自分たちなりにできることに挑んだことを称えたい」

 呼ばれたことに戸惑いながらも、俺はフォルテと共にステージの上のゼラオラの前まで進む。正直逃げようがないからやれるようにやっただけで、なんか違うような気がするけど……何はともあれゼラオラの助けになったのは間違いないしな。ゼラオラが差し出す手を俺も握り返す。

「それでこれからのことなんだが……おい?」

 ゼラオラが何か説明しようとしていたが、それよりも先に俺の体が別の動きをしていた。ゼラオラの手の肉球と毛並みに触れたことで、もっと堪能したいという衝動が芽生えて止められなくなっていたのだ。俺はゼラオラの胸に顔を突っ込む。

「兄貴!」
「おま! 何を!」

 フォルテは周りの目に耐えかねたのだろう、俺の尻を蹴り上げてくる。ゼラオラも全身の毛を逆立てて驚く。この毛並みの柔らかさ、染み込んだ体の香り。控えめに言って最高だ。観客や他の参加者が呆れる様子は何となく聞こえるが、そんなものどうでも良くなってしまう。それにしても……。

「この香り……ゼラオラ、女の子?」
「言うなあああっ!」

 腹が下から突き上げられ、俺は自分の体が宙に舞い上がったのを感じる。真下に見えるゼラオラは、先程以上に全身の毛並みを逆立てて恥ずかしがっているのがわかる。左右の頬など毛の下の赤い肌が見えてしまうほどに逆立っていた。毛並みを堪能されるだけならまだ「仕方のないやつ」で許せてたんだろうが、その上に性別まで暴露されるのは駄目だったらしい。落下し始めた俺の体を、柔らかい巨体がキャッチする。

「なんだ、ゼラオラ? これからしばらく一緒に過ごす仲間を、こんな吹っ飛ばしていいのか?」

 ルギアだ。弾力に富み滑らかさのある銀色の肌は、ゼラオラの毛並みと比べても遜色ないレベルだ。受け止めてもらえたお礼もそこそこに、俺はルギアの体を撫でまわす。腹の下は海の底のように青みがかっており、そこもまた美しい。

「ルギア、お腹の方も撫でさせてもらえないかな?」

 即座にルギアは顔色一つ変えず、俺の体をゴミのように地面に打ち捨てた。地面に遠慮なく叩きつけられ、正直男との戦いでぶつけられた時より痛かった。壇上からフォルテのため息が聞こえてくる。






 ゼラオラ特別賞とは成績に関係なく、将来性を見出された者に成績を問わず贈られる賞らしい。そして受賞者は希望すればゼラオラの弟子となり、しばらくの間鍛えられるのだ。最後の方で嗜好面の問題は出してしまったが、それでもあの状況で逃げなかった気持ちの主は鍛えたいとのことだった。流石に逃げられない状況だったからという説明もしたが、ゼラオラからは「それでいいんだ」という返事が返ってきた。

 自由行動をさせていた他のポケモンたちとも合流し、俺たちはゼラオラと共に鍛錬の日々を過ごすことになる。ゼラオラの毛並みを堪能する隙を伺いながら、楽しくも厳しい修行の日々を送っている。







どうも、こちらも自分でした。
まさに「ケモナーのおもちゃ」というべきゼラオラ、自分にもしっかり刺さってくれました。しかし公式発表の後も映画公開後も、wiki内ではゼラオラの作品が全然増えないのが寂しくて、何とはなしに書いた作品です。当初は官能部門投下作品を書いていて締め切りギリギリまで時間を使っていたのですが、締め切りの延長によりこちらも書いてみようと思った次第。ゼラオラにルギアは映画でスポットが当たっている時期なので、やっぱり今のうちに書き上げたいというのはありましたね。

今年の映画は良かったです。ゼラオラもふもふでした。ラルゴと今後関係が発展することにも期待してしまいます。そんなゼラオラと一緒に看板を張ったのがるぎゃ様。ルギアはゲームキューブで出た「ポケモンコロシアム・闇の旋風ダークルギア」でも重要な立ち位置にいるポケモンで、思い出のあるこの作品とリンクさせるというのがこの作品のコンセプトでした。後にイッシュ地方が登場したわけですが、またオーレ地方リメイクされないかな?

なお「伝説ポケモンは本体は人前に登場せず、写し身で人間の前に現れる」というのは自分の中では確定になっている設定です。作中でも語られた通り「だから同じ伝説ポケモンでも神的な位置づけにいながら複数の個体がいる」という状況も可能になっていると思っています。折角伝説ポケモンを書くので、その設定を出したかったのは間違いないですね。

あとテールナーも見た目気に入っているのですがなかなか出せなかったので、この機会に作品に絡ませてみました。この前某氏が放った「テールナーの悪夢」の電波、誰が回収するのかと今でも期待してしまっています。

この作品は割と今までとは違う部分に挑戦しています。このところエログロイデオロギーが濃い作品が多く、純粋な気持ちで読める作品を書いてみたかったこと。まあ結局悪役襲来していますが。それと普段三人称作品ばかりの自分が、珍しく一人称に挑戦してみたのもあります。書いてみると思ったよりは書けましたが、それでも「兄貴」視点からフォルテ視点に変えなければならなかったり本当に良いのか悩む場面がありました。

そんなちょっと慣れないことに挑んだせいもあるのか、得票ゼロという残念な結果に。去年の羨望の贖罪は「面白いけど蓋を開けたらゼロ票なのはびっくり」と言われましたが、これもそのパターンでしょうか? まあ他の作品が滅茶苦茶レベルが高かったのでその時点で相対的にも落ちてしまうのは仕方ないでしょうかね? もう少し感想を集めて反省点を見つけていきたいと思います。

それでは、またの機会にお会いしましょう。

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Last-modified: 2018-10-27 (土) 01:26:17
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