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羨望の贖罪

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羨望の贖罪
この作品には以下の表現が含まれます。ご注意ください。
人×ポケモン、種族変化、強姦



 少女は左右の瞼に涙を浮かべ、体を震わせる。その姿に向かい合う少年は強い罪悪感は顔にしたが、それでもとばかりに首を振る。

「ごめん。でも俺、そういうの好きになれなくて」

 少年がそこまで言い終わる頃には、少女は逃げ出すようにその場から駆け出していた。壁際で隠れるでもなく堂々と見ていたもう一人の男子生徒にも気づかず、そのまま横切って走り去っていた。

「お前……これだけ告白されているんだから一人くらい付き合ってやってもいいだろうが!」
「そう言われても……好きになれないことを理由もなくやれるほど、俺は図太くないんだ」

 少年がそう言った瞬間、男子生徒は腹の底から「嘘だ」と叫びたくなった。同級生として嫌というほど見せつけられてきた少年の能力。定期試験では全科目で必ず上位三位には名を刻み、クラス対抗のスポーツ大会でも常時クラス代表で勝ちをもぎ取ってくる。同級生同士のもめごとは全員を納得させるところまで仲裁し、おまけに顔だちも整っている。

「スカしてやがるな、本当に胸糞悪い……!」

 男子生徒でなくても、少年が何度も周囲の女子から告白されていることは想像できる。しかし今まで誰の手も取ったことがないのも知られている。それが男子生徒の目には「周囲を自らより低いものと見下している」ように映っていた。それには男子生徒自身の性質もあるが。

「羨望の苦しみを知らない限り、ああしてのさばっていられるんだろうな。なんとかあいつを羨望に落としてやりたい……」

 男子生徒は羨望以上の苦痛の存在を知らない。病気や怪我の経験も人並みにあるが、どんな苦しみも羨望に比べたらマシに思えるのだ。彼はそれほどまでに羨望を苦痛に感じるのだ。勉強も運動も平均以下で、性格の歪みが表情にも行動にも出ている有様のトラブルメーカー。羨望の対象となったのは少年が初めてではないが、この相手はあまりに羨望を掻き立てすぎる。

「絶対にあいつに無いものを手に入れて、羨望の地獄に叩き落してやる!」

 とっくに少年はこの場を後にしていたが、そんなことなどお構いなしに男子生徒は息巻く。その異様な態度に、少年が去った後に通りかかった別の生徒たちは表情を凍り付かせていた。






「……とは言っても、何を手に入れるか」

 周囲の目線にも気付かないままに男子生徒は帰宅し、息をついて思考を回し始める。勉強や運動で向こうを上回る成績を出すなど自分には無理だし、学校では見られないような芸術活動とかで羨望を感じさせてもすぐ抜き返されればますます惨めだ。何か弱点は無いものかと本人や周囲に聞きまわったが、奇異なものを見る目線を受けるだけで成果は無かった。相手の弱点や願望が読み取れる方法があればいいが、そんな魔法みたいなものがあるとは思えない。

「魔法、か……」

 自らの脳内に浮かんだ単語を、自嘲を交えて反芻してみる。ゲームか何かじゃあるまいし、そんな都合のいい存在が手に入るはずはない。ため息をつきながら、一旦ベッドに横になる。

「……そもそも、俺があいつの羨望を掻き立てること自体が魔法の存在のようなものだよな」

 言って自ら虚しさを噛み締めつつも、それならいっそありえないようなものに頼るのもありだと思った。すぐにむくりと起き上がり、向かう先はパソコンだ。親によりフィルタリングが掛かっているので見れる情報に制限はあるが、それでもただ無為に悩むよりもいい答えが出るはずだ。

「どれどれ」

 時折息をつき体を伸ばし、次々とネット上のページをあさっていく。明らかにコラージュだと思える動画に笑わされたり、物理的には可能だけど常人からかけ離れた熟達した技を見たり。調べた内容が「魔法」と繋がっているのでとんでもないものは多い。求める物に至る気配は全くないが、それでも見たもので気持ちが和んだだけでもいい。

「さ、て。もういい時間?」

 画面を睨み続けること数時間。そろそろ寝ようと思った瞬間だった。何気なく開いたページに書かれていた説明に目を奪われる。そこには「自分のイメージを他人の体に映す」とあった。男子生徒は「そんなことが可能なのか?」と思いつつ、ページをスクロールして内容を読んでいく。

「映す……どころかこれは!」

 すぐに行き当たった一文に愕然とする。それは「他人の体を生贄に自分のイメージする存在を具現化する」というものだった。相手がいけ好かない存在であるのは事実だが、だからと言って生贄にするのは流石に自分の身に責任問題が及びかねない。さらに読んでいくと。

「生贄側は具現化のために全てを捧げる気持ちでなければ……いや無理だっての!」

 もしそうだとしたら、相手をそこまで言葉巧みに説得しなければならない。一応、逆だったら可能かもしれないとは思った。向こうがイメージするものが自分のなりたいものであれば、生贄側として別のものになることは可能だろう。

「ん? 自分になりたいもの?」

 恐らく向こうにも、将来「こうなりたい」というイメージは漠然とでもあるだろう。そこには憧れの芸能人やスポーツ選手が挙がるかもしれない。漫画に登場するヒーローかもしれないし、例のごとくスカして過去の偉人を挙げるかもしれない。そして目の前で別の人間に自分がなりたかったものになられたらどう思うか? 注意書きに「姿が変えられるのは一度のみで、一度変化した者は元の姿にも別な姿にもなれない」という注意書きはある。だが、だからどうだというのか?

「……これ、これだ!」
「うるさい!」

 思わず狂喜に叫ぶ。そこをたまたま部屋の外を通りかかったらしく、親が一度扉を殴りつけて怒鳴る。流石に一瞬は「やってしまった」と縮み上がったが、それでもこの計画が実現できるならと思うと顔の緩みは締まらない。とりあえず実現に必要な手順を読んでみることにした。

「本当に……こんなんで成功するのか?」

 そこには複雑な文様の図面がアップロードされており、その次の写真には「生贄側」の人間が文様の書かれたシャツを着ている姿が納められている。続いて「生贄側」の人間が相手のコピーとなった写真が並んでいた。魔法やオカルトの類を本気で信じる人でも、これは合成写真の類なのではないかと疑ってしまいそうに思える。

「嘘臭さしか無え……」

 最後は生贄側の姿が変わっていく光景が写真でコマ送りとなって並んでいる。シャツの文様が閃光を放ち始め、それが全身を覆っていき「生贄側」が光の塊となる。その形が徐々に歪んでいき、輝きが引いていくとともに相手のコピーが姿を現していく。あまりに眉唾ものだ。

「……まあ、俺の方が着る分にはどうとでも誤魔化せるか?」

 最後に文様のより精密な図面と、それを描く染料の成分指定があった。指定されている成分の中には入手が面倒くさそうなものも見受けられたが、それでも駄目元で試してみるかとは思ったらしい。これが「異様な文様のシャツを相手に着せる」とかだったら流石に諦めていたかもしれないが。自分だけがシャツを着る分にはある程度誤魔化せるし、最悪上着で隠すという手もある。あとは「進路の相談で相手のなりたいものを聞く」ノリでなりたいものを訊けば疑われることは無いだろう。






 次の日から、男子生徒は文様の描かれたシャツの用意を始めた。シャツは普通の白シャツでいいらしいので、スーパーで折良く安売りしているものを購入。染料の成分も難しそうなものはネットで検索したら、家庭で手に入る材料から生成できるものだったのでそれで調達した。完成した染料で文様を描くのには苦戦し、何度か失敗作のシャツが出来上がったが。それでもなんとか二週間で完成に漕ぎつけた。そしてそのシャツを体操着の下に着込んで、ターゲットの少年に近づき。

「なあ、ちょっと相談して欲しいことがあってよ。ちょっと外来てくれない?」
「ん? いいよ。どうしたどうした?」

 内心ではちょっと将来の悩みを相談するんだ、その程度だと自身に言い聞かせて。実際悩みでもあるので、困り気味の表情も自然に出すことができた。そうなればこのお人よしは何の警戒もせずに人目のない場所までついてくる。

「で、相談ってなんだ?」
「ああ……お前は何かなりたいものあるか?」

 とりあえず、自然に切り出すことはできた。腹に一物あるのであまり目を合わせる気にはなれないが、そのくらいは多分気にしないだろう。

「えっ? あっ、まああるって言えばあるか」
「ん? なんか変な物になりたいのか?」

 一瞬言葉に詰まる姿を見せた。普段は腹立たしいくらい落ち着いているはずの少年が、こんな姿を見せるなど珍しい。男子生徒はまさか変な物になりたいのかとか一瞬疑うが。

「いや、流石に人に後ろ指差されるようなものにはなりたくない。やっぱりみんなと楽しく一緒にいられるのが一番だ」

 とりあえずその答えで、余程変な物になる心配はないと安心する。流石に「海の底で人知れず貝にでもなっていたい」なんて言われたら、魔法が本物で実現しようものなら洒落にならない。恐らくは普通に優秀な方に属する人間だろう。

「そうか。それじゃあさ、ちょっと具体的に思い浮かべてくれない? 当てて見せるから」
「え? ああ……」

 ネットのページにあった写真を真似て、男子生徒は相手の両肩に手を乗せる。相手の少年はそんな行動に若干たじろぐが、とりあえず言われるままに思い浮かべることにした。本心では当てられるとは思っておらず、男子生徒がなりたいものを回答するとか適当に値踏みしていた。それでもなんでこんな勿体ぶった手順で話を進めるかは疑問だったが、とりあえず言われるままに「なりたい」と思えるものを細かく頭に浮かべていった。その瞬間だった。

「ええっ?」
「と、マジだったか!」

 男子生徒の体操着の下から突如迸る閃光。突然のことに当惑する少年と、思わぬ形で転がり込んだ幸運とばかりに歓喜の声を上げる男子生徒。

「ふははっ! これはお前の贖罪だ! 俺はずっとお前が嫌いだった! 何でもできて女子に囲まれて幸せいっぱいで、なのにいつも『興味ない』ってスカした態度! それもこれで終わりだ!」
「ど、どういうことだ?」

 そもそも目の前で閃光が迸っているだけでも当惑するしかない状況だというのに、それに包まれる相手が狂ったように恨みを吐露する。様々な面に優秀さを見せていた少年も、これには無為に声を漏らすしかなかった。

「お前は今、言われるがままに『なりたいもの』をイメージしただろう? この魔法の力で、俺の方がそれになるんだ!」
「なっ? なんだって?」

 通常だったら「魔法」などという現実離れも最たるものである単語が出ても、多少の失笑程度で終わるだろう。だが実際に目の前で閃光が迸り、男子生徒の体操服を引き裂き弾き飛ばしている。現実離れした光景を見せつけられてはそうもいかない。なお服装の方だが、ネット上での写真では閃光が引いた後はコピー元の男性と同じ服装で出てきていた。まさか「なりたいもの」と言われて全裸の状態を想像するとは考えづらい。

「妬ましいだろう? その羨望が、お前の贖罪だ!」
「やめろ! やめてくれ!」

 少年の悲痛な声が校舎の裏で木霊する。それに対して、男子生徒はむしろ満たされる感覚を得ていた。自分一人の力で妬ましき少年を哀れなまでに懇願させられているという事実。それだけでも十分満たされそうだ。そしてその先に自らがどんな姿を得られるかにも胸が高鳴り。

「なんだ、これは?」
「……アローラキュウコン」

 見るからに別の生き物となった自らの体を眺める男子生徒に、少年は紅潮しきった顔で力なく答える。腕や胸を覆う美しい青みがかった銀色の毛。戦慄しながら目線を上げると、少年のすぐ後ろにある校舎の窓ガラスが目に映る。少年の後ろ頭の隣にある自身の姿は、明らかに人間のものではなかった。

「ちょっと待て! 人間じゃないよな? 何かのキャラか?」
「……ポケモン。確かお前もブラック2はやってたよな?」

 なんとなく聞き覚えのある単語を否定したかったが、しかし少年の口からは数年前にプレイしたゲームのタイトルが漏れ出る。世界的にも名を挙げているシリーズで、その中に登場するモンスター(男子生徒にとっては異生物という認識)に確かに「キュウコン」という種族はいた。知る限りでは体色が金色だったりガラスに映る姿と少し異なっているが、既存の種族の別の姿をその後の作品で出したのだろうか。話から違うと思っていたのに、まさか人間じゃないなんて……。もう少し聞いておけば良かったなどというのは後悔先に立たず。精一杯考えた「不自然に思われない切り出し」が「当ててみせる」であることに疑問を感じなかったのは失態だろう。

「お前! ゲームか漫画のキャラでもスーパーヒーローとかもう少しマシなの無いのか?」
「ポケモンでもポケダンシリーズの主人公は結構なスーパーヒーローだ。しかも必ず人間からポケモンになるっていう」

 言われてみて男子生徒の脳裏に、少年が一度だけ「面白い」と言っていたゲームの話がよぎる。確かポケモンシリーズでも別のゲーム会社の「不思議なダンジョンシリーズ」とのコラボで出されたタイトルだ。少年は一度話に出しただけでそこまで強く勧めていた覚えはないので、今の今までは特に興味は持っていなかったが。紅潮しきり羞恥の塊となった目の前の少年の姿……入れ込み過ぎたあまり人前で名前を出すことに恥ずかしさを感じるレベルなのかもしれない。

「まあ、アローラのキュウコンはポケダンシリーズ最新作の『超』には出ていないけどな」
「そんなの関係あるかよ! これ……っと!」

 キュウコンとなった男子生徒が怒りに苦情を叩き付けようとした瞬間だった。地面を突いていた前足が、耐え切れずに滑ってしまう。前のめりに倒れ込むキュウコンの体を、少年は慌てて受け止める。

「どうした?」
「なんか、体がまったく言うことを聞かない……」

 見れば美しい九本の尻尾も力なく地面に伏しており、後ろ脚もどうすればいいかわからないとばかりに痙攣している。可愛らしさと凛々しさを兼ね備えた種族なのだが、これはイメージと違う。少年もキュウコンもしばし頭の中で疑問符を並べるが……。

「あー……骨格レベルで変わったから、体が変化についていけてないとか?」
「どこまで最悪を重ねるんだ! これ、しかももう元に戻れないんだぞ……?」

 少年の予想に、キュウコンは顔に絶望の色を強める。美しい毛並みに覆われて肌の色は見えないが、表情の作り方は何とか体が対応してくれたらしい。ネットの画像ではコピー元も「生贄」も人間だった。一応別人であるから骨格も多少は違うだろうが、間違っても二足歩行の人間と四つ足のキュウコンの差には及ばない。ポケモンでも人型に近い骨格の種族はいるのに、何故よりによって四つ足の種族を選ぶのか……キュウコンは目に涙を浮かべる。

「泣きたいのはこっちだ! ずっと必死に隠してきたんだぞ!」
「か、隠してきた?」

 そんなキュウコンの目に浮かんだ涙を見て、少年は絶叫する。いつもは「スカしている」と見られてしまうほどに落ち着いている少年が態度を荒げる、唐突なことにキュウコンは思わず全身を震わせてしまう。単純に聴覚が強化されているため、慣れないうちはいきなりの大声も刺さるのかもしれない。

「俺、ケモナーなんだ。ケモノ系のキャラにエロを感じちまうってやつ……」
「へっ? け、ケモナー?」

 少年はそっとキュウコンの体を地面に寝せる。いつまでも抱えていては重いのだろうかと思った瞬間、とても信じられない独白が始まった。最初の「ケモナー」こそ聞き慣れない単語だったが、それに続く言葉には耳を疑う。しかし少年は顔を真っ赤にしたままだ。キュウコンはこの現実を否定したいとばかりに、叫びたい衝動に駆られる。しかしもし慣れた体であったとしても、微小の言葉も出せなかっただろう。

「二年位前だったな。いつもは親がフィルタリング掛けたパソコン使ってたんだけど、ちょっと更新でしばらく動かせなくなったから親のパソコンを使ったんだ」

 親が掛けるフィルタリングについては、キュウコン自身も思うことは沢山ある。今回の魔法を調べるにあたってもだが、前からエロ画像なんかを見たいのに見れないということで疎ましく思っていた存在だ。解除しようと挑戦したことも何度かあったが、結局上手くはいかなかった。親のパソコンを使うというのは盲点だったが……。

「そしたら、普段はフィルタリングで存在すら知ることができなかったイラストが出てきたんだ」

 全ての元凶。人間のものでもイラストどころか写真すら見ることができるのに、何故よりによってケモノ系のキャラのエロ画像を用意するというのか? 嗚呼、度し難し。

「エーフィ、ラプラス、レントラー……ポケモン以外にも色んなケモノキャラたちが、性行為をしていたんだ」

 一度フィルタリングがかかっていないパソコンを使っただけでそんなイラストを見るなんて……。少年が見ていたのが普段からそのギリギリだったのか、それとも親の方もそういう画像をあさる「ケモナー」なのか。知る由は無いが、いくらタイミングが悪いにしても相応の原因があったのは確実だろう。

「とりあえず見たという痕跡だけ消してその場は逃げたけど、ケモノたちのえっちな交わりをもっと見たいって衝動に駆られて……次の日には親の掛けたフィルタリングも突破してた」

 そんなところでまで優秀さを発揮しなくてもいいのに。キュウコンはげんなりするばかりだ。これ以上は聞きたくない、逃げ出そう。そう思った瞬間、キュウコンは立ち上がることすらできない自らの体に絶望する。ゲーム内のポケモンであれば、圧倒的な身体能力で人間など粉砕も可能だろう。だがこの体に慣れるまでは、技を出すどころか歩くことすらも満足にできない。

「一応生きていかなきゃならない現実があるからすべきことはこなしてきたけど、元々ポケダンシリーズとかのお陰で心は完全に向こうだった。それが二度と戻れないところまで行ったのを、なんとか取り繕ってたけどさ」

 その取り繕うためだけにしても、今までの成績は凄すぎる気はするが。だがキュウコン自身もこの本性との落差には恐怖するばかり。本人にとっても露呈することは相当な恐怖だったのだろう。だとしたら今までの成績すら足りないくらいだったのかもしれない。

「恋愛とかエロ本とかが好きになれないっていうのは、まさか……!」
「家でネットを開けば、比べることもできないくらいいいものが待っているから。でもまさかそんなこと言うわけにはいかない。なのに……!」

 少年の表情からふっと力が抜け、一しきり狂ったように笑う。その瞬間キュウコンはようやく自身の危機に気付く。抵抗どころか動くこともままならない体に、目の前には「ケモナー」という度し難き人種。自分も向こうも男だからと一瞬思ったキュウコンに、しかし種族の壁を越えるような相手では性別だってお構いなしかもしれないという現実が落ちてくる。現に少年はキュウコンの体にまっすぐ手を伸ばしており。受け入れたくない事態が迫っている。同性となんて……そう思った瞬間だった。

「ひゃんっ!」
「俺は確かに『なりたいもの』をイメージした。ただ最初から『当てられる』とか全く思っていなかったから、ならいっそのことって感じで『雌のアローラキュウコン』を思い浮かべたんだ」

 少年に胸に手を入れられると、キュウコンは自分でも信じたくないような甲高い声を上げていた。唐突な刺激に身を震わせる間もなく、キュウコンは少年によって仰向けに裏返され。聞いてもなお信じたくなかった現実。雄であればどんな生き物でも共有するはずのアイデンティティが、跡形もなくなっていた。

「や、やめ……!」
「本物はここまで可愛いなんてな。お前は、誰にも渡さない」

 大切な物を失った股のすぐ上では、少年の物が体操着の中で怒張している。他の同級生たちと隠れて手に入れたエロ本で盛り上がったことはあったが、今の少年ほどの狂気に彩られた顔は見たことがない。キュウコンの毛並みと体の感触を堪能する少年の手は、その「渡さない」という言葉通り遠慮なく絡みついていく。

「んむっ? うぅんっ!」

 少年は唇をキュウコンのマズルに合わせ、同時に相手の股の間に手を入れる。先程まで羨望のあまり強く嫌悪していた相手にこんなことをされているというのに、押し寄せてくる快楽が現実を押し流しつつある。何より今まで羨望の対象としていたのは同性であり競争相手であったからで、性別が変わったことによって少年は「顔立ちの整った異性」と欲望を掻き立てる存在へと変化している。これはまずいという拒絶は、いつの間にか侵入してきていた舌に徐々に砕かれていき。

「ぷっは! ぅう……ぁんっ!」

 少年が口を離す頃には、キュウコンにはそれまでの雄は欠片も無くなっていた。呼吸が止められ足りなくなっていた空気を吸い、前触れもなく離れてしまった相手の体を求める声を吐く。その声を少年は無下にするはずもなく、準備万端とばかりにハーフパンツは脱ぎ捨てられていた。

「入れるぞ?」
「ぅん? ……うんっ!」

 少年は「何を」とは言わなかったが、キュウコンは直感的に理解する。満足に動けない体をできうる限り操り、少年のものを受け入れようとばかりに股を開き。

「くっ……うあぁぁぁっ!」
「ひゃぁぁぁんっ!」

 少年の物はキュウコンの奥まで到達したところで、爆ぜた。生の相手とは繋がるとすら思っていなかった体に、理想を具現化した存在は刺激が強すぎたらしい。キュウコンもキュウコンで雌としての感覚を味わうなどありえない体であったため、全身が溶け出しそうなほどの熱に包まれていた。

「お前……」

 脳が張り裂けんばかりの快楽の中、少年はキュウコンの体を抱きよせ。そしてそっともう一度唇を重ねる。少年の目に映るキュウコンの顔からは、もう羨望も嫌悪も弾き飛ばされてはいたが。記憶が消えなければ過去として再び頭をもたげることもあるだろう。少年はそんなキュウコンの心の底を案じて。

「お前が勉強をできるようになりたいなら、俺ができる限り教えてやる。その体に慣れれば、他の人間にできないことができる身体能力を得られる。そこまでが大変でも、俺が付き合う。羨望で苦しかったなら、それ以上の喜びを与えてやる。だから……」

 歪んだ感情による欲望は、大罪をもたらすものとして……時に大罪そのものとして忌み嫌われる。その大罪を重ねてきたのは少年の方ではなく、キュウコンはそれを見誤った結果元の体を失った。贖罪を求められたのはキュウコンの方だった。だがその結果深くまで愛されることになったのは、不幸か幸福か。

「ずっと、俺の傍にいてくれ……」

 少年はキュウコンを更に深く抱きしめる。二人を現実に呼び戻そうとチャイムが鳴るが、構うことは無く。彼らは繋がったまま、ゆっくりと意識を手放した。




 どうも、自分です。

 前回の投稿後は、完全に意気消沈して書くことが全くできない日々が続いていました。ひと月半以上の間、これまで趣味であったはずのものにも全く意欲がわかず、本気で「このまま自分消えていくんじゃないか?」とすら思いました。しかもそれが全く怖くもなんともなかったのが今考えると恐ろしい状態でした。偶々ネタが思い浮かんで書きたくなり、そこから復活できました。しかしあの状態が続いていたとしたら、この作品を書くことはおろかマジでこの世からすら消えていたんじゃないかと思います。
 まあ暗い話を延々と続けても仕方ないので。とりあえず回復直後に大会開催が発表され、折角だし参加してみようかとも考えました。たまたま内容の一部をテーマにつなげることができそうだったので、それで行こうと一度は思いました。ところが文字数が足りない! 自分の助けになってくれたネタなので文字数を合わせるために大きく削る気にはなれず、今回の大会での投稿は断念しました。そちらの作品の方はまた後日に回し、今回はその後浮かんだネタで行くことにしました。
 今回はテーマが「しょく」ということで、罪の償い……贖罪をテーマに持ってきました。作品そのものは自分が見た夢の「ケモノを軽蔑しておりかつ羨望を最大の苦痛にしている知人が、自分の羨望を掻き立て苦しませるために自分のなりたい姿に変身した。結果見事にケモノ化して絶望、追い打ちにメスケモたちに囲まれて戦慄しまくる。自分は羨望をそこまでの苦痛とはしないので『いいな』程度に眺めていた」という内容をベースにしたものです。作中では男子生徒はアローラキュウコンの「雌」になっており、結局「いいな」程度では終わらなくなりましたが。世界観としては完全に現実世界で、自分が卒業した中学校をイメージしています。まあ書く時のイメージだったので、どこの中学校か特定できる情報も入っていませんから読む方もご自身の中学校でイメージできるのではないでしょうか? こういうところで創作をやるような皆さんであれば、授業中とかに日常がひっくり返るなんて内容の妄想をしたことは一度や二度ではないでしょう。そういう意味ではケモナーな中学生の夢を実現させるある意味王道的な内容だったのではと思います。ちなみにこの後少年は成績はガタ落ちし、しかし心配して話しかけてきた教師には「でも別にこれでいいんです」と答える、隣では顔中の毛を逆立てて恥ずかしがるキュウコンという後日譚も用意していましたが。ちょっと文字数がギリギリだったので断念。文字数は本当にトラップですね。
 後日譚ではもう一つ。この話のきっかけとなったインターネットのページは「実はただのコラ画像のギャグサイト」で、だから「なんで本当に上手くいったの?」と世間を騒然とさせることに。当然キュウコンは研究機関に連れていかれる……となるところでしたが、流石に元々が人間で今でも戸籍がある以上手荒なことはできず。それでも研究機関としては是非とも連れて帰りたい存在というわけで、平和的に交渉。そこに少年が割って入り「キュウコンを連れていくなら自分もその研究に加えてくれ」と提案する……ところまでは作っていました。投稿分が既に9000文字を超えていたので、ここまでやったら流石に1万文字は軽くオーバーしますね。というか「魔法」が完成するまでの経過をもう少し省いて、こっちを書いた方がいいんじゃなかったかと今になってみれば思います。

 その辺の加減を誤ったせいかはわかりませんが、得票ゼロはちょっと残念。感想チャット会では割かし好感を持ったという声をいただけましたが、その分どこに改善点を置けばいいかが見えづらかったのももどかしいところ。設定を詰めるかノリを楽しむかが中途半端になってしまったというところでしょうか?

 とりあえず、今回はこのくらいで。次回は多分その自分を回復させてくれた作品だと思います。

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Last-modified: 2017-10-05 (木) 23:31:31
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