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揺炎なドライブ

/揺炎なドライブ

◎注意!◎
・本作は帰ってきた変態選手権参加作品であり、人×ポケモン、器具を使ったプレイなどの官能表現を含みます。
・非常に危険を伴う性表現があります。最悪、命に関わりかねませんので、決して真似をしようと思わないでください。安全第一!

彼女が俺に恋をした 




 眩いばかりのライムグリーンに塗装された鉄扉をノブの脇にある小さなボタンに爪を立てて解錠し、右側へと勢いよく引き開けた。閉じ込められていた爽やかなハッカの香りが、外の風に漂う。
 スルリと室内に腕を伸ばし、席前のパネルに設えられた手すりを掴むと、腕を縮めて首ほどの高さにある座席へと身体を引き上げる。固いバネの感触に尻尾を納めると、あたしは腕を左の運転席前、キノコの笠みたいに丸く開いたハンドルの陰へと巡らせて、付け根で大きく存在を主張しているボタンに爪を突き入れた。
「……あれ?」
 奥まで押し込んでみたものの、しかし何の反応もない。
 おかしいな。ランディはいつも、このボタンを押してジム(にぃ)を起こしてるのに……?
「こら、キャリイ! 悪戯しちゃダメだろ!?」
 鋭い叱責と共に、左の扉が開く。
 癖の強い栗色の髪を短く刈り込んだ、小柄ながらも逞しい人間の男性が、運転席によじ登ってきた。あたしことキノガッサのキャリイの愛するトレーナー、ランディである。
「あ、ごめんなさい。先にジム兄を起こしておこうかと思ったの」
 慌てて下げた頭の笠に、ランディの大きな掌が当てられる。
 無骨な外観とは裏腹に繊細な手つきであたしを撫でながら、浜を打った荒波が引くように怒りをすっと収めて、ランディは暖かな笑みを精悍な顔に浮かべた。
「そうか。手伝おうとしてくれたのは嬉しいけどな、運転席のスイッチに勝手に触っちゃいけないぞ」
 優しい声音で言いながら、ランディは身体を完全に乗り込ませて扉を閉める。
 するとさっきのボタンに、小さな灯りがポッと点いた。まるで『押してもいいよ』と応えたかのように。
 笠から離れた掌が、あたしとランディとを隔てる3本のレバーのうち、一番前にある最も大きな1本をさっと動かして、すかさず灯り点るボタンへ深々と指を差し入れる。
 途端、
 るぅおん! ぶるおぉぉおおおおぉぉぉぉぉぉ…………!!
 遠吠えにも似た唸りを上げて、あたしたちの愛車、愛称ジム兄が目を覚ました。おはよ、ジム兄。
「不思議ねぇ、あたしが押しても起きなかったのに、ランディが乗ったらちゃんと目を覚ますなんて。ジム兄はちゃんとあたしたちを区別してるってことなの?」
 小首を傾げて無邪気な顔で訊ねると、ランディは苦笑しながら否定した。
「ハハハ、そういうわけじゃないよ。ほら、ご覧」
 腕をどかした脇から、彼の足下を覗き込む。ハッカの芳香剤に混じるムンとした体臭も、ランディのならば芳しい。
 それはともかく、ランディが見せてくれた足下には3本のペダルが並んでいて、左端と真ん中のふたつが彼の屈強な両足でしっかりと踏みつけられていた。
「左端のこのペダルを踏むと、エンジンとタイヤの間の動力が切り離されるようになっていてね。これを踏んでいないと、エンジンがかからない仕組みになっているんだよ。停まっているエンジンを動かし出す時には凄いパワーを使ってるから、勢いでタイヤが急回転して暴走しないように安全装置が付いているわけだ」
 カシャカシャと左足を上げ下げしてペダルを動かしながら、ランディは丁寧に説明してくれた。
 ……左のペダルを踏みながらボタン、ね。なるほどなるほど。
「それじゃ、座席からペダルに足が届かないあたしには、運転は無理だってことだよね」
「当たり前だ。くれぐれも言うけど、運転席の物に触ったり、運転中に僕に抱きついたりしないでくれよ。解ってるよな?」
「はい。解ってます」
 メロメロスマイル全開で頷いたら、ランディも相好を崩して納得してくれた。
 よし、うまく話題を逸らせた。
 別に運転したくって、ジム兄に手を出したわけじゃないのだ。あたしは本当にただ、ジム兄の起こし方だけ分かれば、それで良かったのだから。
 ふと外を見ると、真剣な眼差しで車内を伺っている朱い顔があった。ランディもそれに気づく。
「ほら、悪戯するから、シエラが待ちくたびれてるじゃないか。悪いなシエラ。キャリイがイグニッションキーを弄ってたんで注意してたんだ」
「あ、いや、急かしてるわけじゃないから……」
 慌てた様子で、あたしと共にランディの元で暮らす姉弟子であるリザードンのシエラは、定位置の荷台から巡らせていた首を屋根に戻した。
 あたしだけに判るように、ごめんね、お願いね、という唇の動きを残して。
 まったくだ。
 夕べシエラが突然、あたしに奇天烈怪奇極まりないトンデモ告白をしてくれたおかげで、あたしは愛するランディの前で稚気じみた醜態を曝さなきゃいけなかったのだから。
 ランディに言ったら、どんな顔をするだろうか。恐らく微塵も想像してはいまい。背後に座る長年の相棒が、どんな有り得ない想いをその大きな腹の内に膨らませていたかなど。シエラとの雌同士の友情にかけて、教えたりは決してしないが。

 ――キャリイ、あなたにも、そしてランディにも、心配ばかりかけてきたけど、ようやく私も新しい恋に踏み出せそうよ。
 うん、好きな雄ができたの。……フフッ、誰のことだと思う?
 実は、ね。私が好きになったのは――…………

「ふたりとも、ベルトはちゃんと締めたか?」
 運転席からの呼びかけに、あたしはほとんど悪夢に近かった回想を中断し、右後方の柱から座席左脇まで襷状に通したベルトが、あたしの襟を覆う生成のヒダから黄緑色の腰にかけてをしっかりと抱き締めていることを確認する。
「はい。準備OKだよ!」
「こっちも問題ないわ。いつでも発進どうぞ」
「よし、じゃあ、今日も張り切って働きに行くぞ!」
 気合いをつけたランディが、あたしとの間にあるレバー列の一番後ろ、斜め前方に傾いている一本を右手で押し下げ、流れるような手捌きで一番前のレバーを最初とは違う向きに傾ける。
 その様子をじっとりと視線で舐め回す。あたしが大好きなランディを見つめるのはいつものことだから、何もいぶかしまれることなく、彼はちょっとくすぐったそうに笑いながら、左足をゆっくり持ち上げ、右足を真ん中から右のペダルへと移して踏み込んだ。
 回り出した四輪で未舗装の下り坂に砂塵を蹴り立てて、あたしたちを乗せたジム兄は職場へと続く路を走り始めた。


俺と彼女とみんなのこれまで 




 ハウオリシティポートエリア。アローラ地方で最も賑やかなメレメレ島の一角にある倉庫街が、ランディの職場だ。
 回すハンドルをジム兄のそれからフォークリフトのそれに持ち替えて、今日もランディは積み上げられたラックの間を駆け抜ける。
「オーライオーライ! はいストーーップ! 積み込み開始しまーす!!」
 ランディが運んできたのは、フォークを刺して運搬するための穴が四方の縁に開けられたパレットと呼ばれる板。そのパレットを資材の前に下ろしてもらうと、あたしはキノガッサ特有の膂力と伸び縮みする腕を駆使して周囲の資材を手早くパレットに積んでいく。シエラが翼をはためかせて倉庫の上層から下ろしてきた荷物もまとめて積み上げパレットを一杯にすると、幅があたしの背丈の半分ほどもある大きなラップフィルムをめくってねじった端をパレットに括りつけ、フィルムの筒を抱えたシエラが旋風を起こしながらパレットの周りをぐるぐる周回。下から上までピッチリと固く巻き付けたフィルムをあたしの爪で裁断して一丁上がり。
 梱包の整ったパレットにフォークを突き刺して持ち上げると、ランディはあたしたちをボールに回収し、荷物を揺らすこともなく静かにかつ素早く旋回させて、狭い倉庫内をスイスイと軽やかに進んでいく。
 倉庫を出て、潮風が吹き抜けるコンクリート敷きの岸壁を疾走。ターミナル駅を交錯する列車のように四角い身体を整然と並ばせている巨大なコンテナのひとつへとスロープを登って乗り入れると、運んできたパレットをその隅へ。先に乗せられているパレットと衝突させず、しかし隙間も開けずにピタリと設置させるのはまさにプロの技。けれどその手腕に見とれる暇もなく、あたしたちはボールから解放されて今度は倉庫内に持ち込むための貨物を整えるために別のコンテナへ走っていく。この往復が、あたしたちの仕事だった。やがて満タンになったコンテナは、クレーンで貨物船や大型トラックに乗せられてアローラの各島々へと運ばれていくのである。

 ◎

 2頭のポケモンとランディのリフト技術による三位一体のコンビネーションで、一般的なゴーリキー作業員を凌ぐ作業効率を叩き出すと評判のあたしたち。
 しかし私生活においては、やや微妙な、本当に微妙な問題を抱えている関係だった。
 現在あたしとランディとは、ポケモンと人間の垣根を越えた恋仲にある。ソレっぽく成長したキノコのことを〝タケリタケ〟というのだが、彼の股間のソレは実に立派なタケリタケっぷりで、毎夜美味しく味わわせてもらっている。
 だがあたしとつき合う以前、ランディはもう一頭のパートナーであるシエラに、そのタケリタケを捧げていたのだ。
 複数の相手と同時につき合って、ハーレムを築いたり三角関係をこじらせたりしている人やポケモンも多い中、ランディはシエラとの肉体関係をキッパリ解消した上であたしと関係を結んだ。そういう意味では、むしろ問題はないとさえ言っていい。ただ、恋仲ではなくなっても、トレーナーとポケモンとしての関係はそのまま。つまりあたしにしてみれば、彼氏と彼氏の元カノと同居状態にあるわけで、その事実があたしとふたりとの関係をややこしいものにしていた。
 そもそも、ランディとシエラは幼なじみ同士であり。お互いが最初のパートナーだったという。シエラがまだヒトカゲで、ランディが写真で見せてもらう限りにも実に可愛らしい坊やだった頃から、一緒のベッドで裸になって抱き合いながら寝ていてのだとか。……と聞かされた時にはさすがにビックリしたが、もちろんその頃はまだ性的な意図などなくて、単にシエラを抱いて寝ているとどんな寒い夜でもポカポカに暖かくて、布団もパジャマもいらなかったからそうしていたのだそうだ。とはいえ、それで済んでいたのも思春期を迎えるまで。否応なしに育っていく身体と止めようもなく入ってくる性知識に、お互い一番近くにいた異性を意識し始めて、それでも一線を踏み越える勇気も、一歩引いて意識を抑える決断も持てないままズルズルと現状維持を続けた果て、とうとう想い余ったランディは、シエラを強引に押し倒して本能に突き動かされるままに陵辱してしまったのだった。ただし、夢の中で。
 なんだ夢か、とあたしも思ったけれど、いやいや、夢では済まなかったんだよとふたりして苦笑いされた。説明されてあぁ納得。つまるところ当時のランディは膨れ上がる劣情を溜めに溜め込んだ青少年であり、そして彼は素っ裸でシエラと抱き合って眠っていたわけで。果たして淫夢から覚めたランディ少年の眼に映ったのは、精通を祝うケーキのように黄味がかった生クリームで身体中をデコレーションされた相方の無惨な寝姿だったのである。慌てて叩き起こしたシエラ共々大パニック。一体これはナンで、ナニをどうした結果こうなったのかと彼女に問いつめられ、土下座して謝りながら夢の中でシエラにした行為すべてを白状する羽目になったランディの心境を、それを聞かされたシエラの心境と合わせて想像すると、彼らには悪いが爆笑して転げ回るしかない。
 ともあれ、その頃既にシエラもランディへの想いを密かに募らせていたわけで、お互い両想いと分かった以上は夢の中だけで済ませておくこともない、とランディにすべてを許して結ばれたのだった。めでたしめでたし。……なんて言葉で済むのも当事者ではない気楽さ。種族の垣根を乗り越えるのはそう易しい話でもなく、初体験の時などシエラの出血が止まらなくなり、慌ててポケモンセンターに駆け込んでジョーイさんから厳しい指導を受けたのだそうだ。ヒトカゲの小さな身体に、ランディのタケリタケは立派過ぎたのである。
 ジョーイさんから薦められた良質のローションを試してみたり、シエラが気持ちよく濡れられるよう前戯の仕方を学んだりなど、ふたりで一所懸命創意工夫を重ねつつ性経験を積んでいったそうだ。破瓜に等しい苦痛を何度も味わいながら、それでもシエラがランディとの繋がりを求めて頑張り続けた結果、遂に彼女はリザードへと進化した。大きく成長した身体はランディを容易く受け入れられるようになり、それからはもう暇と物陰を見つけさえすれば、毎日毎日昼夜も場所も問わず激しく愛し合いまくるようになっていったとか。何て羨ましい。
 けれどもやがてその幸せは終わりを告げる。本来交わるべきではない相手と、幼い頃から節操なく無理をしてまで身体を重ね続けたツケが、リザードンに進化した時に巡ってきた。
 中に容れるモノに対して器が大きくなった結果、どちらも絶頂に達しなくなってしまったのだ。
 腰使いや愛撫の技巧を更に磨き上げ、道具や薬にまで手を出して、ズレてしまった性感を補おうと努力したものの、肝心の本番に挑んだ途端、どうしてもランディは萎えてしまい、シエラは冷めてしまう。心は目の前の愛しい相手を求めてフル回転しているはずなのに、噛み合わない歯車は空転するばかり。夜を重ねる度にもどかしさは募る一方となり、とうとう……もうやめよう。こんなにも苦しい想いをするぐらいなら、ただのトレーナーとポケモンの関係に戻ろう。互いに別々の幸せを見つけることで、一緒に幸せになろう、とふたりで真剣に話し合って決めたそうである。
 元々仲の良過ぎる兄と妹が、勢い余って関係を結んでしまったようなもの。いずれ破綻することは運命だったのよ、とシエラは寂しげに語っていた。辛かっただろうけど、欲情だけではなく本当にお互いのことを想い合っての決断だったのだろう。
 性関係を絶ってすぐの頃が一番苦しかったそうだ。頭の中がもう戻らないリザード時代の想い出で一杯になり、自慰では到底鎮まらない欲求が突き上がって、けれど壁ひとつ挟んだ愛しい相手にそれを求めても叶わないことは分かり切っていて、眠れない夜が幾晩も続いていたという。
 だから、せめて辛さを忘れて眠るために、催眠技を使えるポケモンを雇おうとランディが選んだのが、キノコの胞子を父母から受け継いで若くして使いこなせるキノココ――つまり、あたしだったわけである。
 初めは本当に、ふたりを寝つかせてあげるだけの役を務めていた。だけど、瞼を閉じて胞子を待つランディの切なそうな顔を見ているうち、そんなに辛いなら、眠って明日に持ち越すよりも、あたしで良ければ……と、胞子をかける前に奉仕してあげる関係になったのである。
 シエラにその行為を咎められた時、仕方ないな、と思った。当初の約束を著しく逸脱した契約主との肉体関係。元カノとして嫉妬するのも解るし、怒られて当たり前だけど、ランディのためだと理解してもらえるよう説得しようと思っていた。
 けれど、あたしは根本から誤解していた。
「ランディの恋ポケになるのは構わないわ。でも今は、愛撫や口戯、したくても素股までにしておきなさい。本番はキノガッサに進化するまで、たとえランディが求めてきても拒否するように。あと、いくら好き同士だからって、欲求に任せてやり過ぎないで。彼の体調も、自分の体調もよく注意して、絶対に無理をしないでね」
 彼女は自身の経験から、あたしが同じ轍を踏まないよう諭してくれたのだった。このシエラという雌は徹頭徹尾、ランディの幸せしか考えていなかったのである。
 以降もシエラは、元カノや前妻というよりも、物分かりのいい小姑の立場に甘んじ続けた。ランディのことなら何でも相談に乗ってくれて、雰囲気のいい場面があればランディとあたしがふたりっきりになれるよう計らってくれて、キノガッサに進化して正式にランディと結ばれた日にも、様々な記念日にも心からお祝いをしてくれた。
 何よりランディも、まっすぐ力強くあたしを愛してくれた。改めて言おう。ふたりがこれまであたしに注いでくれた想いには、ひと欠片の問題もない。
 だから問題を抱えているのはあたしだけ。いくらあたしたちのこれまでに問題がなくても、起こり得る『もし』への疑いを拭えない。
 もしふたりが、『やっぱりよりを戻したい』と言い出したら。
 ランディは何の問題もなくいい男だ。シエラも何の問題もなくいい雌だ。
 そんないいもの同士が、休養期間を終えて再び求め合うことが、有り得ないとなぜ言える?
 そしてもしそうなったら、あたしでは絶対にシエラに太刀打ちできない。キノガッサとリザードンのタイプ相性の話ではなく、幼なじみでランディのことなら何でも知ってる彼女にポッと出のあたしが叶うわけがない。いや、そもそも雌としての器で完敗している。
 せめてシエラに新しい恋の相手でもできればそちらに任せておけるのだが、彼女自身まだ失恋の痛手から立ち直れないでいるのか、いつまで経ってもフリーなまま。定まらない想いが、いつ過去の恋人を振り返るかと不安で堪らない。
 ふたりの誠実さにも関わらずそんな想いを抱いてしまうのには、かつての通勤時の問題もあっただろう。
 ランディの家は、メレメレ島の中程、2番道路から東に外れた山中深くにある。そこからハウオリシティの倉庫まで、当時のランディはシエラに跨がり空を飛んで通っていた。あたしとつき合いだしてからも、しばらくの間は。
 朝夕の2回、今はもうあたしのモノであるはずの股ぐらを、長らく愛してきた元恋ポケの背中にかけるランディ。気持ちよさそうに高々と舞い上がるシエラ。リザードンに進化したことで失った交わりの代わりに、ふたりが手に入れたひとつになれる時間。
 その時ばかりは、あたしに居場所はない。いつだってボールの中……ふたりの蚊帳の外。キノガッサである限り、取って代わるすべはない。
 もちろんあたしにだって、キノガッサであることでこなせる役回りを、私生活でも職場でも回してもらってる。だけど大好きな恋人のすべてを自分のモノにできず、手に入れられない一端を握っているのが彼の元カノであるという事実が、あたしの心に黒カビのような濁りを湧かせてやまなかったのだ。
 頭では解ってた。本当はどんなに仲のいい関係だって、相手のすべてを自分のモノになんてできっこない。そもそもランディとシエラの関係を承知の上で後釜に座っておいて、こんなことを想い煩う方が間違ってるのに……。
 だから、ランディは、
「ランディ、ドテッコツさんたちを呼んで、庭に何を作ってるの?」
「ガレージだよ。屋根をかけるだけの簡素な奴だけどね」
「ガレージって、じゃあ、車を買うの!?」
「あぁ。中古でいい奴が見つかったんだ。通勤と仕事でシエラに負担をかけっぱなしだったけど、これからは仕事に専念させてあげられるよ」
 なんて言っていたが、結構背伸びしてローンを組んでまで車通勤に切り替えたのは、あたしの嫉妬を気遣ってくれてのことかもしれなかった。

 ◎

「わあ……っ!!」
 納車の日。曇りなく晴れた青空にるおおぉんっ!!と咆哮を響かせながら、丘を乗り越えてやってきた新しい愛車の姿に、あたしとシエラは揃って歓声を上げた。
 車種は〝ジプシー〟。*1ハウオリシティでもよく見かける小柄なオフロード四駆だ。直線的な雄々しいデザインがランディによく似合っている。ボディカラーは鮮やかなライムグリーンで、光に当たるとラメの粒子が燦然と煌めく。前後のバンパーとタイヤの周囲――フェンダーと呼ばれる部分は未塗装の樹脂で真っ黒に縁取られ、力強さを強調していた。
 力強いのはボディだけではなかった。街で見てきた他のジプシーと比べて背が高く、履いているタイヤもずっと大きい。あたしの背丈だと、席に乗るのにジャンプしなければいけなさそうだ。苦労するような貧弱な足腰は持ち合わせちゃいないけど。
 外観的な特徴はもうひとつあった。普通のジプシーなら荷室と後席があるはずの車体後部が、屋根と窓とバックドアの上半分とシートとをザックリと切り取られてトラックの荷台のような形状になっていたのだ。前席と荷台との間は窓のついた樹脂製の板で埋められ、シートベルトに似たものが2本下がっている。
「カッコいい! なんか特別感あるねこの車!」
「あぁ。このラメが入ったキャンディ塗装も、車高を上げて大きなタイヤを履かせるリフトアップも、後席をオープンデッキにするピックアップトラック化も、全部メーカー製じゃなくて前のオーナーが特注したカスタム車だ。〝ジプシー・カスタム〟を略して〝ジム〟って呼んでたらしい」
「……えっと、なんで〝ム〟を拾ったの? 〝ジカ〟なら解るけど」
「普通に名前っぽく語呂を合わせたのと、あと有名な冒険小説の主人公の名前とかけてだそうだよ*2
「でも、ただ〝ジム〟だとポケモンバトルの施設みたいだし……あ、そうだ!*3
 パッと顔を輝かせて、弾んだ声でシエラが言った。
「じゃあ、後ろに〝兄さん〟をつけて、〝ジム兄さん〟って呼ぶことにしましょう。見るからに雄っぽい姿だし、兄さんでいいでしょ?」
「あ、それいいかも! 何だかもっと語呂が良くなった気がするし。よろしくね、〝ジム(にぃ)〟!」
 改めて呼びかけてみると、何だか初めからそんな名前であったかのようにしっくりくるから不思議なものだ。
「フフ、そうね。〝兄さん〟より〝兄〟の方が、もっと親しみやすいわね」
「ふたりとも気に入ってくれたか。それじゃ、シエラ。お前は今後、荷台に乗ってくれ」
「え……いいのっ!?」
 その時のシエラときたら、いつもの大人びた雰囲気はどこへやら。まるでとびっきりの玩具を与えられた子供みたいにはしゃいだ声を上げていた。
「あぁ。普通の車の室内じゃ、お前の首だと窮屈だろうと思ってピックアップトラックを選んだんだ。荷台についてるベルトは肩に掛ける奴だから、必ずつけて、落ちないようにしろよ」
「はいっ! ええと、これでいいのかしら?」
 ランディの説明が終わる頃には既に荷台に尻尾を収めて、さっそく肩にベルトを試し掛けしているシエラ。もうジム兄でのドライブが楽しみで仕方がない様子だ。……ん、待てよ? 後席がないってことは、ジム兄の室内はふたり乗りってことだから……!?
「あの、ランディ、あたしは……?」
 恐る恐る訊ねたあたしに、ランディは朗らかな笑みを向けた。
「キャリイ、お前は右の助手席だ。僕の隣だからって、運転の邪魔をするんじゃないぞ」
 その時、有頂天になったあたしがどんな返事をしたのか、実はよく覚えていない。
 ただシエラによると、まるであたしはとびっきりの玩具を与えられた子供みたいに、大はしゃぎでランディに抱きついていたそうだ。

 ◎

 その日から、あたしたちはどこへ行くにもジム兄に乗って行った。
 小さく軽い車体に巨大なタイヤ。エンジンもパワフルにチューニングされていて、そんじょそこらの悪路などものともしない。
 ハウオリのビーチサイドやショッピングエリアを走ると目立つこと目立つこと。何しろ元々マッシヴなデザインを目一杯改造してギラギラ光る塗装を施した車体の上に朱色のリザードンが鎮座しているわけで、どこの祭りの山車かと思われるレベルだ。下手な珍走車よりもド派手なんじゃないだろうか。歩道やすれ違う車などから子供に指差されることもしばしばである。だが、外観とシエラに注目が集まるおかげで、室内でどれだけニヘラ顔をしていても気づかれにくかったりも。
 そう、何といってもランディとふたりっきりなのだ。独り占めなのである。
 運転席との間は3本ほどのレバーで隔てられているし、『運転中は邪魔しないように』と厳命されているのであまり甘えたりもできないのだが、それでも狭い室内のこと、腕や肩が擦れ合ったりするのも心地よいし、横顔を眺めたり、お話を聞いたり、芳香剤の中に漂う体臭を嗅いだりするだけで幸せ一杯だ。雨の日などは荷台に幌を張ってシエラをモンスターボールに避難させるけど、どっちにせよあたしだけがランディの隣にいられることに変わりはない。通勤時の不満は、ジム兄によって完全に解消された。
 一方、あたしに代わって蚊帳の外に放り出されたシエラの心境はどうなのか。背後の窓を覗いて見ても、首元が見えるだけで表情を伺うことはできないが、前走車のバックドアや過ぎ行く建物の窓などに写り込んだ荷台の様子を見る限り、尻尾の炎をリズミカルに揺らし、広げた翼を飛び立つかのように風にはためかせ、天井上ではときに顔で風を陶然と浴び、ときに陽光に炙られた天板の温もりに頬を擦り寄せたりと、彼女は彼女なりに実に楽しくドライブを満喫しているようだ。
 なお、シエラの首で後ろの窓が遮られて運転に支障はないのかと心配になるが、見上げればルームミラーにはシエラを貫通して後方の光景がバッチリ映されていた。ランディによると、ルームミラーにはモニターが仕込まれていて、荷台後部に取り付けられているカメラで撮った映像を表示しているのだそうだ。このため、どれだけ荷台に物を積み上げようが視界が遮られることはないのだという。暗くなったら自動的に高感度モードに切り替わるので夜間も後方視界に問題はない。科学の力ってすげー。

 ◎

 納車からしばらく経った、よく晴れた暖かな休日の朝。初めてジム兄の洗車を行った。
 毎日荒れ道を踏み荒らしてきたことで散々ライム色の車体に跳ね飛んでいる乾いた泥跡に、まずは水を吹き付けて流し落とす。水技を使えるポケモンがいれば早いのだろうが我が家にはいないので、高圧水流を放つ機械をランディが持ってノズルを構えた。降りかかる流水のシャワーに陽光が射すと小さな虹の子供が鮮やかに浮かぶ。波紋が流れ落ちる車体に、あたしは爪にかけたスポンジを擦り付けて塗装に食い込んだ汚れの根をすべて拭い落としていく。滝の如く水が打ち付けられている場所に腕を突っ込むわけで、当然ながら冷たい飛沫が爆ぜるように浴びせられてずぶ濡れの惨状になるため、炎ポケモンであるシエラには任せられない、キノコの笠で眼にかかる飛沫を防ぐことのできるあたしだからこそ務まる大事なお仕事だ。洗い終わった後の車体が、艶々しくラメに光を躍らせて美しい。
 汚れをすっかり落としたら、仕上げはシエラの仕事。車体を濡らす水滴を専用の布で拭き取り、炎の息吹や尻尾の火を当てて乾かしていく。その様子を眺めながら、あたしは先の仕事の報酬を受け取るのだった。即ち、ふっかふかのタオル越しにこの身を拭う、ランディによる至福極まる愛撫である。この夢心地気分を味わうために喜んで水浸しになったのだ。ジム兄は綺麗になったしあたしも気持ちいいしもう最高。拭われる側から濡れてしまいそう。
「綺麗ねぇ、これ……」
 ジム兄を乾燥させているシエラが、うっとりとした溜息と共に感想を呟く。
 洗い立ての塗装を眺めての感想かと思ったが、見てみると何だか違う様子。シエラは荷台の上から首を巡らせて、車体後方の下部、バンパーから更に下を覗き込んでいる。はて、そんな場所に塗装など施されてはいないはずだが?
「なるほど、シエラはチタンマフラーが好みなんだな」
 ランディに笑みを含んだ声で指摘され、シエラはハッと我に返った後、なぜか気まずそうに首を引っ込めた。鮮やかな色彩が陽光に反射して見える。シエラが見ていた物はどうやらそれのようだ。車体を潜って後方に伸びている銀色の排気パイプ。リアの真ん中辺りから突き出たノズルの先端が、空の色を写したように輝くブルーメタリックに縁取られており、そこから根本に向けて紫、赤、黄色と揺れる炎のようなグラデーションを描いて銀色に溶けていっている。
「これも改造した奴だよ。ノーマルのマフラーはスチール製だけど、チタン合金製のこいつはスチールより丈夫で腐食に強く、しかも軽い。200℃以上もする高温の排気ガスを放出しているうちに、そういう色に焼け付くんだそうだ」
 それまでフロントの面構えを堪能した後はすぐ助手席に登っていたので、リア側にもそんな改造を施してあったとは気づいていなかった。普通の車なら後輪かバンパーの陰でひっそり口を開けているマフラーが、ジム兄のだと後方ど真ん中で隆々と鮮烈な輝きを主張していて、まるで構えられた大砲のようだ。走行中はその上に雄大な翼を広げたシエラが明々と尻尾の炎を揺らしているわけで、他車が迂闊に背後につこうものならたちまち強烈な威圧を受けて後込みしてしまうのではないだろうか。
「そう、焼けた色なのね、これ。ジム兄の中には、金属をこんな色に燃やしちゃうぐらい熱い炎が宿ってるのね……」
 炎ポケモンとして、なにがしか共鳴する物があったのだろう。シエラは改めて虹色のマフラーに眼を落とし、色に更に深みを足そうとでもするかのように熱く見つめ続けていた。

 ◎

 そんな日々を繰り返し、そして今日もまた、あたしたちは港での荷運び仕事を終え、ジム兄に乗って我が家に続く山道を駆け登る。
 ジム兄が来てからというもの、ランディとはますます恋仲が深まるし、シエラとは劣等感を感じなくなった分打ち解けて話せるようになったし、あたしにとって何もかもいいことずくめとなった。
 あとは、荷台に揺られて屋根の上から流れる景色を見つめ続けているシエラが、いずれいい雄でも見出して幸せになってくれれば、あたしとしてはもう何の文句もない――とまぁ、それが昨日までの状況で。
 そして昨晩、ついにシエラは、想う相手ができたのだとあたしに告げたのだった。
 いや……『なのに』と繋げるべきだろうか?
 だってシエラは結局、流れる景色の中からはついに相手を見出せなかったのだから。


俺と彼女に続く道 




「あん、あんっ……! あ、ぁあぁぁぁぁ……っ!」
 寸断なくベッドが軋んで、あたしは今夜何度目かの喘ぎ声を上げた。
 夕食が終わり入浴も済ませば、就寝前の楽しいキノコの奉仕。一杯可愛がって大きくしたランディのタケリタケを、仰向けになって晒した尻尾の付け根で粘液を垂らす壷にズッポリと迎え挿れ掻き回す。
「フフ、またイッちゃったのかい、キャリイ?」
「ひあ、ぁあ、うん。もう何回目か、な。気持ちいいよぉ……ランディもね、もうイっていいんだよぉ?」
「まだまだ、もっとお前を楽しませてあげられるよ。それっ!」
「あひゃぁぁぁぁんっ!」
 ランディのジム兄やフォークリフトを操る運転技術は、そのまんまあたしへの騎乗技術に通じる。ハンドルを回しレバーを動かすように滑らかな手つきでヒダを捲り上げ胸をさすり、フォークをパレットに差し込んで持ち上げ運ぶようにタケリタケで壷を貫いて、あたしを何度も何度も繰り返し天国へと運ぶ。彼の方は達する寸前で巧みに息を抜いてブレーキをかけているため、あたしだけずっとイかされっぱなしだ。ランディがこれほどのベッドテクニックを身につけたのも、シエラとの性不一致を埋め合わせるための努力の成果だそうで、それでも……心から愛する相手にここまでの技巧で愛されても感じられなくなったシエラが哀れでもあり、それをあたしにくれたことがありがたくもあり、どこまでも元カノの影響を意識してしまうことにざわつきもしたりと、考え出すと色々複雑だ。努力の副産物でリフトの運転技術も向上した、というのはどこまで冗談なんだか。
 何はともあれ、今この瞬間ランディは全部あたしのもの。身体の芯からトロットロに蕩け落ちるまでイかされまくった末、熱く沸き立つ彼の血潮を壷から溢れかえるほど注がれて、裸の胸にもたれながら後始末をしてもらったら、愛情をたっぷりと込めた胞子で眠らせてあげた後、頬を寄せたまま一緒にお休みするのだ。それがあたしの一日の終わり――っていかんいかん。普段ならそれでいいのだけれど、今夜は夜伽を済ませたらシエラの恋の手助けをする約束になっていたのだった。ランディにはシエラはいつも通り夜伽前に寝かしつけていることになっているので事情は話せない。早く彼を満足させて、眠らせてから外に急がないと。
「ん……っ!」
 足先の爪を握り締め、パンパンと彼のと打ち鳴らしあうお腹の下に力を込めて、くわえ込んだタケリタケをギュッと絞る。
「うっ……!」
 熱い吐息に呻きが響き、吹き出した汗がシャワーとなってあたしに降りかかる。イったか!?
「気持ち、いいよ、キャリィ……明日は、お休みだからな。もっともっと楽しもうな……」
 ほんの一息吐いただけで、すぐに律動が再開された。くっ、イってないフラグだったか。なんてタフなの。いつもなら嬉しいのに、っていうか嬉しいのに、今夜は困るのよ。何とかしなきゃ。
 といっても、目一杯広げた太股をガッシリと抱えられた姿勢で上からのしかかられてガンガン突かれている現状、こっちから打てる手には限りがある。もちろんキノコの胞子でさっさと眠らせれば一発なんだけど、この気持ち良さを中断するのは辛い……じゃなくて、後で起きた時に理由を訊かれたら困る。膂力に任せてひっくり返そうにも、メロメロになり過ぎて力が全然入らないし。あぁん、素敵過ぎるランディが憎い。とにかくどうにかして流れを変えないと……。
「ね、ねぇ、ランディ……シエラがリザードだった頃と今のあたし、どっちがいい?」
「……うん?」
 囁いた刹那、あたしの中でタケリタケが竦むように動きを止めた。
「どうした、キャリイ。そんなの、比べられっこないって分かってるだろ……?」
 思った以上に効果は大きかったようだ。困惑に非難を一滴垂らしたような声が重苦しく落とされ、胎内のタケリタケさえ猛りが引くのを感じる。ごめんねランディ。あなたの隙を作るにはこうするしかなかったの。
「あたしだって、対抗意識ぐらいあるもん。今のシエラとじゃ体格差があるけど、進化する前は同じぐらいの背丈だったんでしょ?」
 知ってるよ。ランディはリザードやキノガッサぐらいの体つきをしたポケモンの雌なら全般的に好みだってことぐらい。あたしが進化した日の興奮ぶりは、それまでの比じゃなかったもんね。さぁデリカシーを欠いた男の身勝手を暴露して、メロメロムードをぶち壊してちょうだいな。
「今もこれからも、僕が抱きたいのはお前だけだよ。今更過去を振り返ったって仕方ないだろ」
「はふう……っ!?」
 壊すどころかますます濃密度を増したメロメロムードに背筋を愛撫され、再び壷内で昂っていくタケリタケに胸の鼓動が弾けた。
 そうだよねぇ。今あたしは幸せなんだもん。シエラがどうなろうがもうほっといて、今の幸せに浸っていてもいいよねぇ…………
 ……ってダメでしょそれじゃ!? シエラは表で待っているのよ。これまで何だかんだランディとの仲を世話してもらってきておいて、彼女の恋路に何もしなかったら雌が廃るわよ。みんなが幸せになるために、今はこの温もりを振り解かなくちゃ。
「ん、ねぇ……それでも、敢えて比べたら、どう……なの?」
「うぅ……ん」
 しつこく突っつくと、ほんの数瞬だけ唸り声を迷わせて、唐突にランディはあたしを両腕の顎で貪るように抱きつき、笠に顔を埋めた。
「ふみゅっ!?」
「いい匂いだよ、キャリイ。身体の香りでは、シエラよりお前の方がずぅっと魅惑的だ……」
 シエラと比較しての讃辞という何よりランディから聞きたかった台詞が、蜂蜜漬けのモモンのように甘くトロリと耳元に注がれる。熱い吐息に燻された笠の裏側を、しっとりと潤った唇と舌とがヒダの一枚一枚を奥深くまで味わわんと舐め嬲る。
「はひゃああぁぁっ!?」
 あぁ、気持ちいいよぉ嬉しいよぉ幸せだよぉ。膨れ上がった至福の爆発に、たちまち愛液が蜜壷に溢れ満ちる。大きく硬く逞しく張り詰めたタケリタケが勢いを増して、最奥の門戸を強く猛然と打ち鳴らし、今宵一番の絶頂へあたしを高々と舞い上がらせた。
「ランディ、ランディッ! あぁ、ぁああぁぁあぁぁ……っ!!」
 ごめん、シエラ。脱出しようと穴を掘り進んでたら、地下墳墓(カタコーム)規模の大墓穴を掘っちゃった。今夜はもうダメみたい。このまま夜明けまでちょっとランディとふたりで極楽浄土の果てにイってくるから、どうか早めに諦めて寝床に戻っといて…………。
「まぁ、体重ならシエラの勝ちだけどね……」
「……………………」
 ぁん、もう、土壇場も土壇場で隙を見せちゃう、そんなランディが大好き過ぎる。
「今……なんて?」
「あ、えっと、今はシエラの方が身体の重さでは勝ってるから、お前の方が軽くて抱きやすいよ」
 すかさず食いつくと、さすがに失言だったと気づいたようで慌てて言い繕ったが、見逃してあげるつもりはない。
「ちょっとランディ、今リザードンになってからのシエラと比べてたでしょ!? リザード時代との比較を訊いたのに、勝手に基準を変えないでよ!?」
「僕にとっては今以外の基準に意味はないんだけどなぁ……そ、それに、種族平均と比べたらお前も結構軽い方なんだから……」
「また違う基準を持ち出す! 結局ランディは、軽い娘が好みなのねっ!?」
 体型と体格がほぼ一緒であるはずのキノガッサとリザードだが、にも関わらす体重では倍ぐらいこっちの方が重い。もしこの事実について、お世辞でも「お前の方がグラマーで抱き心地があるよ」とか肯定的な形で返されていたら、あたしは今度こそ愛欲の底なし沼に笠まで沈んで翌朝まで復帰不能に陥っていただろう。ランディが正直者で助かった。あぁ悔しい腹立たしい。
「いや、だからそもそも、お前が無理に昔のシエラと比べてなんて言うからさぁ……」
「あたしのせいにしないのっ! 禁句を口にした時点でランディが悪い!!」
 怒りで漲らせた腕にものを言わせ、肩をつかんでグルリとひっくり返す。反省を示すために罰を受け入れる気なのか、それともあたしが本気で怒っていないと判断したのか、ランディは抵抗もせずされるがままだった。実際あたしだって言うほど怒っちゃいない。ただマウントを取りたかっただけだ。立場的な意味でも、体勢的な意味でも。
「そりゃっ! 乙女の想いの重みを思い知れっ!!」
「ぐぇっ!?」
 仰向けに組み敷いたランディの毛深い下腹にドッカリと腰を落とし、ピンと尻尾を立てて開いた壷にタケリタケを深々と埋める。ガマガルが潰されたみたいな呻きが尻の下から響いたが、いくらあたしが重いと言ってもせいぜい人間の子供程度。簡単に壊れるほどランディはヤワじゃない。胎内に包んだランディの温もりを先端から根本まで一時じっくりと堪能したあと、太股を躍動させて結合部を中心に渦を巻いてこねくり回す。腰さえ自由になった今、ここからはあたしのターンだ。
「あぁ、キャリイ……凄く、感じるよ、あぁぁ……」
 罰の内容がより激しいまぐわいだと悟って、ランディは嬉しそうにあたしの下で腰を跳ねさせた 。
「うぁあっ! ランディ、あたし、身体が軽くなったみたい……浮きそう、あたし、トんじゃうよぉっ!!」
 胎内を突き上げる衝撃が背筋を駆け上り、笠の中身が乳白色に霞んでいく。あぁ、またイッちゃった。せっかくマウントを取っても、これ以上絶頂を味わったらもう立ち上がれる力は残りそうにない。ここまでか……?
「う……うぅっ!」
 けれど、限界に達しつつあったのはランディもだった。あたしの股の下で、汗を煮立たせた身体が身悶えして捩れる。
「キャ、キャリイ、ストップ、それ以上扱かれたら、イっちゃう……っ!」
 両腕が慌ただしく上がり、震える指を構えてあたしの律動を抑えつけようと狙う。
 そうはさせない。先んじてあたしは真紅の爪を伸ばして彼の両手を捕まえ、抑えつけてねじ伏せた。
「ぁうっ!?」
「イっていいよ! 出してっ! ランディの熱いの、あたしの中に一杯一杯欲しいのおおっ!!」
 名残惜しいが、一刻も早くシエラの所に行くため、あたしは心からの本音でランディに訴えた。と言っても本当の所は……あ、本音だから合ってるか。
 身体の芯が炎上したかのような快絶を味わいながら、なおもアクセル全開で腰の回転を上げてタケリタケを燃やし尽くすように摩擦する。それでも堪えようと粘るランディの、激しく動悸する胸板に顔を寄せ、硬く勃起した乳首を咥えると、荒れ狂う鼓動が舌先に転がった。
「ぅあぁぁっ、キャリイ! あ……っ、ぁああああぁぁぁぁぁぁあぁ~っ!?」
 遂に臨界を越えて、ランディが背筋を仰け反らせる。瞬間、あたしの奥でタケリタケが弾けた。灼熱の奔流が一気に吹き出し、壷を満たして溢れかえる。ここまで我慢していた分、何発分もの量を一気に放っているようで、ドクドクと戦慄く脈動はなかなか収まらなかった。
「ああぁ、やっと注いでもらえた。大好き、ランディ……」
「キャリイ、キャリイ、あぁ、最高……っ」
 力尽きたあたしの爪を振り解いて、ランディの腕があたしを強く抱き締める。
 弛緩していく身体を絡め合いながら、ふたり快楽の余韻にしっとりと浸り合った。

 ◎

 これで『気持ちよかったよキャリイ。さぁ第2ラウンドだ!』などと言い出されたら完璧にお手上げだったところだが、残念ながらランディもそこまで精力絶倫ではないようで、寝台に身体を沈めて愛淫の痕を拭い出した。あたしも散々中心を突かれまくった足腰がガタガタで到底すぐに立ち上がれる有様ではなかったこともあり、ひとまずは彼に身を任せている。ジンと腫れた壷口を優しく愛撫するウエットティッシュの上質な肌触りを堪能しながら、このまま墜ちてしまいそうな睡魔の誘惑に唇を噛みしめて抗う。
「今夜は、どうしたんだ? やけに激しかったじゃないか」
 朦朧となった頭に、からかい混じりの問いがかけられる。
 まさかあんな真実をありのまま話すわけにはいかない。適当にはぐらかさなきゃ。
「好きな相手をより強く求めたいの、当たり前じゃなくて……?」
「そうだけどさ、最中にシエラの話を持ち出したり、何だかまるで他のことを気にして焦ってるみたいに感じたんだけど?」
 む、やっぱり不自然だっただろうか?
 どう言って誤魔化そう。早くコトを済ませてシエラのところに行こうとしてるなんて、覚られないためにはどう話題を逸らせば……。
「ちょっと……シエラが好きな相手ができたっていうから、あたしも負けたくなかっただけ……あ」
 うわ、口が滑った。逸らすどころか核心に振っちゃった。
「シエラに……!? 本当か!? 何も聞いてないぞ!?」
 案の定、ランディは火の粉を散らす勢いであたしに詰問してきた。
 うん、何だか面白くない。この不満、利用させてもらおう。
「やっぱ気になるんだ。元カノが他の相手を好きになったら」
 キツくなり過ぎない程度に嫉妬を含ませたカウンターで牽制。思ったより効果があったようで、かすかに怯んだランディは表情を和らげ、宥めるように優しい口調で言った。
「そりゃ僕だけ、こんなに、幸せになっちゃったし。早くあいつにも幸せになってもらわないと心苦しいもの」
 こんなに、と強調したところでギュッと抱き締めてくる。非の打ち所のない対応。ここまでされてはもう嫉妬を向ける余地もない。
「それで、その相手っていうのは?」
 再度向けられた問いかけ。しかし最初に見せていた剣幕はすっかり丸められている。狙い通りに勢いを殺ぎ落とせたようだ。どさくさ紛れに愛も確かめられたし、時間を稼いでいる間に言い訳も思いついた。万々歳である。
「えっと、それが実はね、あたしも相手が誰かまでは聞いてないの。まだ上手くいくかもわかんない段階だから、しばらくはそっとしておいてって」
「そうか……まぁ、シエラもしっかりした奴だから、変な相手に騙されたりするとも思えないし、すぐにいい結果を聞かせてくれるよな」
 いや残念、信頼してるとこ悪いんだけど、シエラは思いっきり変な相手に惚れちゃってるから。まぁ、騙される心配は有り得ないけど。
「僕は多分、地面タイプなんだよ」
「?」
 汚れたティッシュをゴミ箱へ放り捨てた後、ランディは唐突に呟いた。
 よく意味が解らなかったので笠を傾けると、彼は遙かな虚空へ視線を飛ばしながら自嘲気味に肩を竦めてみせる。
「だからヒトカゲの頃はシエラを壊しちゃうぐらいだったのに、彼女がリザードンに進化して飛べるようになったら手が届かなくなっちゃったんだ」
 なるほど、言い得て妙か。そもそも名前からして〝Land(じめん)〟yだし。
「ん、でもそれだと、あたしにランディが今ひとつになっちゃうけど?」
 こっちはこんなにも感じているのに、と抗議を込めた眼で見つめると、 
「いや? やっぱり僕が地面タイプで合ってるよ」
 肩にを回り込んだ腕がするりとあたしの顎を捕らえ、ランディの顔が近づいて、
「僕がお前を、効果抜群に感じるんだから、さ」
 それこそ効果抜群そのものの囁きを放った唇で、あたしの(きゅうしょ)に会心の一撃を加えた。
 あぁ、きっとランディはエスパータイプも併せ持っているんだ。こんなにもいつも、あたしがして欲しいことをしてくれるんだもの。だからやっぱり、あたしたちはお互いに効果抜群なんだ。
 彼の唇が離れるや、追いかけるようにあたしからも口づけを捧げる。
 揺れる笠が振り撒いた、たっぷりの愛の胞子と共に。
 それを奉仕の仕上げとするのはいつもの通りだったから、ランディも何ひとつ疑うことなく、一杯に息を吸い込んで胞子を受け入れ、静かに枕へと身を沈めた。
 おやすみ。そして、
「ごめんね、ランディ」
 ミルクを飲み足りた赤ちゃんみたいに満たされきった寝顔へと笠を下げ、まだ甘い痺れを訴える腰を叱咤して寝台を起つ。
 傍の床に無造作に投げ出されていたランディのバッグを拾い、中に爪を入れて探ると、目的のものはすぐに見つかった。消しゴムぐらいの大きさと形をした、プラスチック製の黒い小さな塊。
 取り出したそれをしっかりと掴んで、ランディを起こさないよう音も立てずに扉を開けた。

 ◎

 庭の芝生に足を進めると、空は山地の田舎らしい鮮やかな星のシャンデリアで飾られていた。
 煌々たる星灯りを、ガレージの屋根の下で斜めに照り返すライム色の車体は、まるで童話の中のエメラルドの城。
 いや――その緑を照らすのは、星灯りだけではない。
「キノコのご奉仕、お疲れさま」
 荷台で身体を丸めていた朱色のリザードンが、篝火のように尻尾の炎を掲げていた。
「待たせちゃったね。ランディがなかなかタフで手こずったわ」
「まだ宵の口よ。昔は完徹して頑張ったこともあったんだから、それを思えば早いものだわ」
 はいはい、あんたがランディを鍛えたんだもんね。そりゃ良くご存じでしょうよ。
「次は私の番よ。さぁキャリイ、彼を起こして」
 焼け付いたシエラの吐息が、あたしを促す。
 ちなみに、シエラが起こして欲しい〝彼〟はランディではない。
〝彼〟はここにいる。と言っても、この場所にいるのはあたしとシエラだけなのだが。もちろん間違ってもあたしが〝彼〟ということはない。
 つまり、要するに、シエラが好きになった〝彼〟というのは――。
「あぁ、早くあなたの熱い鼓動を私の中に感じたいわ、ジム兄……!」
 できれば冗談であって欲しかったけど、どうやら本当の本当に大マジのようで。
 愛車のルーフに愛おしげに頬を擦りつけて愛を語るシエラの姿に、ほとほとあたしは溜息を吐くしかなかった。

 ◎

「ちょっとごめんシエラ。何を言ってるのか全然解んない。もう一回お願い。誰を、好きになったんですって?」
「うん、だからね、キャリイ」
 昨晩、初めてその恋を打ち明けられた時、あたしは何かとんでもない聞き間違いをしたのではないかと疑い、耳の中に溜まった菌糸屑を奥まで根こそぎ掻き出してから再度確かめた。だが、
「ジム兄を、よ」
 恥ずかしげながらも大真面目な表情で、シエラは同じ名前を語った。何だそれは。どうしてそうなった。
「あの、一応念のために訊くけど……シエラが言ってる〝ジム兄〟っていうのは、あたしたちの愛車であるあのジム兄ってことで、いいのよね?」
「当たり前でしょキャリイ? うちに他に〝ジム兄〟なんていないじゃないの」
 そこは当たり前なのだろうけど、しかしそれが異性として好きになった相手のことだなんて当たり前とはほど遠い話を、さも当たり前みたいに当たり前なんていうのは、世の中のすべての当たり前に対する冒涜だと思うのが当たり前だ。
「シエラ……正気?」
「本気よ」
「つまり正気じゃないってことねっ!?」
 問いに対する応えすら狂っている。本当に大丈夫なのか姉弟子は。
「仕方ないわ。恋って言うのは、相手にイカレるものよ」
「イカレの程度以前に相手がおかしいって言ってんのっ! 自動車よ、無機物なのよ、ポケモンでも人間でも生物ですらもないのよっ!? いくらランディとの関係を解消して以来メガYに進化継続中だからって、血迷うにもほどってもんがあるでしょ!?」
「その喩えはあんまりじゃないかしら? 雄日照りしてるのは事実だけど」
 ぴしゃりと窘められて、さすがに言い過ぎだったとあたしも一旦矛を収める。
 うー、今にして思えば、元々ジムと呼ばれていた車に『雄っぽいから』と兄をつける提案をしたのはシエラだった。その時点から既に異性として見ていたのだろうが、そんな突拍子もない話を想定してろなどというのは無理筋にもほどがある。
「そんなに変かしら?」
「むしろ変じゃない部分がどこにあるのよ!?」
「だって、ね」
 上等な酒に酔いしれたみたいに、シエラは陶然と瞳を燃え立たせた。こっちはどっちかというと車酔いしそうな気分だったが。
「ジム兄の大きな背中に抱かれてると、とっても安心して幸せな気持ちに浸せれるんですもの」
「あ……」
 そういう感覚だというのなら、思い当たる節もある。
「それってひょっとして、ヒトカゲだった頃にランディに抱かれてたみたいに、とか?」
「あ、うんうん。そうね、そんな感じ……えっと、言っておくけど、〝抱かれてた〟って抱っこのことだからね?」
「変な気は使わなくていいから」
 昔の関係は承知の上なんだし、エッチの意味が含まれてたって別にかまいやしない。
「でも、そっか。私、ジム兄に昔のランディとの関係を重ねて見てたんだ……」
 ようやく自分の気持ちをまとめられた様子で、シエラは得心して虚空を見つめた。
 進化して身体がランディを追い越してしまったために、肉体関係を続けられなくなってしまったシエラ。体格よりは軽量とはいえ、大きな翼がかさばる彼女を抱っこしてあげられる雄ポケはそうはいまい。ジム兄に運ばれることで、彼女は失った喜びを再燃していたのだ。普段大人びているシエラが、ジム兄に関することだと子供のようになってしまうことも、童心に帰っていたのだとすれば説明がつく。
 分かってみると、非常識としか思えなかった彼女のジム兄への想いも、それなりに理解できるものではあるのかも。
「アレもちょうど、進化前の私から見たランディのアレぐらいですものね」
「アレ?」
「ほら、後輪の間にある、綺麗な色をした」
「え……えっと、チタンマフラー、だっけ?」
「そう、チタンマフラーよ。あの青と赤の入り交じった光沢、まるでアレの幹で脈打ってる血管みたいな色合いじゃない?」
「え、ええ!? そうかな……?」
「停車してすぐ触ると、すっごく熱いのよ。炎タイプの身体じゃなきゃ火傷しちゃうぐらい。あんなにも熱く火照った虹色の太いのを見てると、もう私の膣内に挿れたくて挿れたくて……」
 照れた顔を振り乱して、頭から尻尾までをウズウズとくねらせるシエラ。あんた、そんな淫りがわしい想いでジム兄に触っとったんかい……!?
「そう想ってるうちに、とうとう夢にまで見るようになっちゃってね」
「夢て……まさか初エッチ前にランディが見ちゃったような夢じゃないでしょうね?」
「もう、やだキャリイったら……」
 ハハ、さすがにそれはないか。大方ジム兄に乗って楽しくドライブしてるぐらいの夢だよね。
「分かっちゃうものなのね。そういう夢だったって」
 おい!?
「ジム兄の悠然とした身体がのしかかってきて、黒く逞しいタイヤがギュウンと回って私の身体を開くの。露わになった私の火戸(ほと)に、物欲しげに反り返った彼のマフラーが灼熱の荒息を吐きながら向けられて、そして……その後は、私という荒れ野を突き進むかのように、サスペンションを猛烈に躍動させてのピストン運動。ひと突きごとに熱いものが私の膣内に注がれて、起きたらもうビッショリ。あなたやランディに気づかれないように片づけるのは大変だったわ……」
「…………」
 前言撤回。やっぱり飛行タイプの妄想はあまりにも高々とぶっ飛びすぎてて、どれだけスカイアッパーを駆使しても届きそうにない。
「はー、そりゃ良かったねぇ……で、何? 今すぐ眠らせて、またそういう夢を見せて欲しいわけ?」
 結論を先回りして訊ねてみたが、シエラは長い首を横に振った。
「ううん。私、もう夢だけじゃ満足できない。本当にこの身体で、ジム兄とつがい合いたいのよ」
「んな無茶な……」
「だからお願い。協力して、キャリイ」
「は!? 協力って、いったい何を!?」
 眠らせる以外に協力できる要素なんて心当たりがない。戸惑うあたしの爪を掴んで、シエラは懇願した。
「起こして欲しいのよ、ジム兄を」
「え、起こすって……エンジンをかけろってこと!? あたしに!?」
「うん」
 シエラの首が縦に振られる。あたしは顎をはたき落とされたように落とした。
「だって、ジム兄って眠ったままだと冷たいんですもの」
「そりゃ機械なんだから冷たいでしょうよ……自分で炙って暖めればいいんじゃないの?」
「ダメなのよ。あのブンブン唸るエンジンの鼓動と、酔いしれそうになるほど芳しい排気ガスの香りがないとどうしても……」
「だからって、あたしに何をしろっていうのよ!? 起こし方なんて、あたし知らないわよ!?」
「いつもランディの隣で見ているあなたですもの、見様見真似の知識を特性のテクニシャンで増幅すればいけるかもと思って。お願い。私じゃそもそもキャビンに入れないもの」
「いや、いくらあたしがテクニシャンだからって無理なもんは無理でしょ!? 大体そんなの、ランディに直接頼めばいいじゃない!? どうしてあたしが……!?」
 あまりにも無茶な嘆願に笠を抱えていると、不意にシエラは切なげに眼を伏せて顔を背ける。
「頼めないわよ。元カレにエッチの介添えなんて恥ずかしくて。ましてや、今のランディにはあなたがいるのに」
「う……っ!?」
 言われてみればそりゃそうだ。もしシエラが先にランディの方にこの件を相談したとして、それをあたしが知ったとしたら、荒唐無稽すぎて信じようとせず、復縁を誘うための方便ではないかと疑っていただろう。そもそもシエラに下心がなかったとしても、機械相手の不毛な恋に悶々とする元カノの痴態を目の当たりにして、もしランディが絆されてしまったら……!? 届かぬ想いに悶える姿に絆されて深みにハマった例を知っている。他ならぬこのあたしである。
 考えてみればあたしの方にも、ランディに内緒でシエラの想いを成就、とは言わぬまでも納得なり満足なりさせて事態を収めなければならない理由があったわけだ。どの道自動車であれ何であれ、シエラを任せられるならそれに越したことはない。メリットばかりだ。協力を拒む理由はどこにも見当たらない。
「動かせるかどうかなんて、保証はできないけど」
「キャリイ、それじゃ……!?」
「とりあえず、やれるだけのことは試してみてもいいわよ」
「あぁ、ありがとう、キャリイ! 恩に着るわ!」
 浮き上がるほどに翼を羽ばたかせてはしゃいでは、シエラは何度もあたしに頭を下げた。
 打算を抜きにしたって、いつでもあたしとランディが幸せであれるよう控え目に努めてきた姉弟子が、珍しく求めてきた我が侭だもの。妹弟子としては応えてあげたくなるってもんでしょ。

 ◎

 という経緯で、今朝の通勤時からずっとあたしは、ジム兄の起こし方を探るべくボタンを弄ってみたり、運転するランディの様子をつぶさに観察したりしていたわけである。
 おかげで悪戯をしたとランディに叱られてしまったが、シエラの恋のため、引いてはあたしとランディとの幸せのためだ。やむを得まい。
 何だか、スケベで悪戯好きな運命神の掌で踊らされているようにも思えてくるが、あたしはもう深く考えないことにした。


俺と彼女たちが燃える夜 




「頑張ってね、キャリイ」
 期待の薪を焼べてくるシエラの声に、あたしは任せて、と頷いてジム兄の左側へ。いつも助手席のある右側からのエントリーだったので、こちらからの眺めは何だか新鮮だ。
 ランディのバッグから失敬した黒い塊は、ジム兄の扉を開けるための鍵。と言っても鍵穴に差し込んで回すような鍵ではない。この塊を持って近づかないと、ドアのボタンを押しても鍵が開かない仕組みになっているのだ。車内から荷物を持ってくるよう頼まれた時に何度か渡されていたので、使い方は知っていた。これが普通に挿して回すタイプの鍵だったら、キノガッサのあたしでは乗り込むことすらもっと難儀していただろう。つくづく科学の力ってすげー。
 いつも右の扉を開けるのと同じ要領で左ドアのボタンを押し、ガチャリ、と開錠の手応えを感じてからノブを引く。
 乗り込んだのは、ハンドルと多数のレバーにペダル、計器類とかに囲まれた運転席。ランディとふたりだと狭く感じていたキャビンも、あたしひとりで乗ってみると暗いせいもあるのかヤケにだだっ広い。
 シートに座ってもペダルに足が届かないのは分かっているので、フロアマット上に身体を潜り込ませる。今朝ランディから聞き出した通り、足元に三つ並んだペダルのうち、一番左の一本に足をかけて踏みつける。想像していたよりも感触は重く硬かった。半ばほど踏んだところでガツッ、と何かが動き出した手応えならぬ足応えがペダルに伝わってきた。そのまま一番下まで、ペダルを床に沈ませる。
 視界の端に点るほのかな灯り。ハンドル脇にある大きなボタンに、星灯りのような輝きが点っている。
 イグニッションキーと呼ばれていた、ジム兄を起こすためのボタン。
 準備ができたことを示すそのシグナルに、今度こそあたしは爪を突き立てて押し込んだ。
 突き抜けたような手応え、そして。
 るぅおおおおおおんっ!
 咆哮を轟かせて、ジム兄が目を覚ました。
 あたしの、ポケモンの手で。こんなにも、拍子抜けするほど呆気なく。
「やった! やったのねキャリイ! あぁぁ、ジム兄ったらマフラーをこんなにも震わせて……興奮してるのね。早く、早くもっと熱くなってジム兄……!」
 遠い空の彼方へ理性を遊覧飛行させてでもいるかのように陶酔した声が、後方で妖しく蕩けた。
 この先後ろで起こることなんて別に覗きたくないし、シートの縁に腰を押しつけた空気椅子のような体勢からペダルに足を伸ばしているので結構キツい。後は満足するまでシエラに任せて、あたしはひとまず休んでおくか。と、踏んでいた足をペダルから放した。
 ぐぉんがくんっ!!
「きゃっ!?」
「きゃあっ!?」
 途端、周囲の空間ごと揺さぶられるような激しい衝撃に振り飛ばされた。柔軟なシートの縁に受け止められなければ、どこかに身体を打ちつけていたかもしれない。
「だ、大丈夫!? キャリイ」
「と、とりあえず何ともないわ。シエラは?」
「こっちも、すぐに避けられたから……でも、ジム兄また眠っちゃったみたい」
「あ……」
 シエラの言う通り、せっかく起こしたはずのジム兄は、呻りを止めて静かになっていた。
「どう……なってるの!?」
 どうやら、聞きかじった知識だけで一発成功など、甘い話はなかったか。
 人間の作ったからくりをポケモンの身で起動させるには、どうやらまだ解かなければならない仕掛けがあるらしい。

 ◎

「ね、ねぇ、もう諦めてもいいのよ……?」
「もう一回だけ試させて。方法はあるはずなの。後少しで掴めそうなのよ」
「でも、これ以上無理をして、もしジム兄を壊しちゃったりしたら……」
「ここですごすご引き下がったらテクニシャンの名折れよ。大丈夫。上手くいったら〝スーパーキャリイ〟とでも呼んでちょうだい」
 何度か試したものの、やっぱりペダルを戻すとジム兄は戦慄くように身体を震わせて再び眠ってしまう。踏みっぱなしにできればいいのだろうが、シートからではペダルに足が届かないあたしじゃ、シエラがコトを済ますまで体制を維持するのは苦しい。
 見通しはある。確かにランディは今朝、ジム兄を起こした後にあたしの前でペダルを上下させて見せた。エンジンを回したまま、だ。手段はあるはずなのだ。
 エンジンが止まる度にジム兄から聞こえる金属音は悲鳴にも似ていて、シエラが不安がるのも無理はない。だけどあたしにだって意地がある。このまま諦めてたまるか。
 思い出してみる。あたしにジム兄の起こし方を教えてくれた時、ランディが何をどう動かしたか。
 そう……そうだ、ペダルを踏んでイグニッションのシグナルをつけた後、ランディは運転席と助手席の間にあるレバーを弄ってからイグニッションを押していたんだ。
 運転中にランディから聞きだした話によれば、3本あるレバーのうち一番後ろで前方に傾いているものはサイドブレーキ。ジム兄が走り出さないよう留めておくための錨。これだけは最後まで決して動かしてはならないだろう。あたしたちはジム兄に起きて欲しいのであって、走り出してもらっては困るのだ。
 真ん中の短いレバーは、ジム兄の4つのタイヤすべてに動いてもらうか、後輪だけ動かして前輪に楽をさせるかを切り替えるためのもの。
 そして一番前、一際長く大きなレバーは、ジム兄のスピードに併せてエンジンからタイヤへ伝える力を切り替えるためのシフトレバー。あたしの記憶が確かなら、ランディが動かしていたのはこれだったはず。つまりこのレバーで操作できる範囲の中に、スピードゼロの静止状態に対応したものもあるということだ。これが鍵なのは間違いない。
 キノコみたいに膨らんだノブの先端を爪で握り、慎重に動かす。
 レバーが動く範囲は、Hの字の真ん中に一本縦線を立てたような形。最初の位置は右下だった。残るレバーの動かし先は5ヶ所。この内のどこが正解なのか……?
 ジム兄への負担を考えると、もう失敗は許されない。シエラに宣言した通り、チャンスはこれっきりと思うべき。
 機械の仕組みなんて考えても無駄。分かる訳ない。ランディの動作を思い出し、この腕に感じ取れ。
 このキノコみたいなレバーはあたし。あたしがいつもランディに愛されているように、このレバーもランディに触れられてきた。だったら分かるはず。ひとつになれるはず。全身の菌糸細胞をフル回転。爪の中のシフトノブと意識を繋ぎ合わせる。
 さぁ、教えてジム兄。
 ランディはどんな風に、あなたを愛したの…………?
「……よし、分かったっ!!」
「分かったの!? 何か今、オカルトめいた呟きが聞こえたような気がしたんだけど!?」
「ええい、車とシたいなんて奴にオカルトとか言われたくないわ!? 見てなさい、これで合ってるはずよ!!」
 背後から飛んだ余計なツッコミを一蹴し、あたしは再度ジム兄を起こしにかかった。
 腰をシート下に沈め、左端のペダルを奥まで踏み込んで、伸ばした右手をハンドル脇のイグニッションへ。
 るおおおおんっ! 今宵幾度目かのジム兄の咆哮。これでダメならもう休ませてあげるから、もうちょっとだけ我慢してねジム兄。
 右手で掴んだシフトノブを、初期位置の右下から引っ張り上げる。
 中央の横線に移動させたレバーを、あたしは、
 ……本当に、ここでいい?
 ――うん、間違いない!
 慎重に自問自答して確かめた後、先ほど読みとった通りに。
 どこにも倒さずそのまま手を離し、そっと足をペダルから放した。
 ぅるるるるるるるる…………
 低く、長く、ジム兄が呻っている。
 呻り続けている。止まることなく。まるで、微笑んでいるかのように。
「やった……やったよシエラ! あたし、ジム兄をちゃんと起こせたよ!!」
 やっぱり、5つとも外れだった。どこにも入れないのが正解だったんだ。
「あぁ、ありがとうキャリイ! 素晴らしいわ、まさにあなたこそスーパーキャリイだわ!!」
 歓喜の炎を爆発させたシエラに、あたしはシート下から伸ばした爪を立てて見せた。
「早くスること済ませて。随分時間を食っちゃったし、急がないとランディが起きてくるかもしれないわよ」
「うんっ! あぁ、そうよ、この鼓動を感じたかったのよ……」
 声色が熱く沸き、ゆっくりと車体が揺すられ始める。
 あたしはシート下から席の上へとよじ登り、安楽椅子のような揺らぎに身を任せた。
 疲れた。とにかくドッと疲れた。
 ただエンジンを動かして、ペダルから足を放しても止まらないようにする。たったそれだけで、もうあたしの積載容量は満杯だ。これが運転ともなると、進む毎に次々移り変わる状況に応じてハンドルやペダルを適切に操作し続けなけりゃいけないわけで、想像しただけで頭の笠がパンクしそう。それをランディは日常的に、しかもジム兄だけじゃなくてより繊細な操作を必要とするフォークリフトまで操りこなしてるっていうんだから、やっぱり人間って凄いんだなぁ。
「なんていい匂いなのかしら。身体の熱が上がっていく……あぁ堪らないっ! きて、ジム兄……んぁああっ!」
 後方より響く暴走気味の嬌声から意識を逸らそうと、あたしは視線を宙に泳がせ、
「……っ!?」
 しかし、逸らすどころかまともに向き合うことになった。
 見上げた頭上に、シエラがいたのだ。
 ジム兄のルームミラーに仕込まれたモニターに、朱色のリザードンの姿が映し出されていた。
「う、うわぁ……」
 何というか、その、物凄い絵面だった。
 斜めに傾いた仰向けの体制で後肢を全開におっぴろげて尻尾をまくり上げ、鱗の狭間に剥き出された火戸を爪でくぱぁと開き、極太のマフラーをその中にねじ込んでいるシエラ。
 一般的な車ならマフラーの位置が端に寄っているから画面隅でのたくっている姿が映るだけで済んでいたかもしれないが、よりにもよってジム兄のソレは寄ってはおらずど真ん中。もろカメラ直下で痴態の限りが繰り広げられることになっていたのである。
「ああぁ、ジム兄の、やっぱり大きくて素敵……感じる、感じるわジム兄ぃ……っ!」
 むっちりと拡張された朱色の肉襞に咥え込まれているジム兄のチタンマフラー。あらかじめ舐めるなりして濡らしてあるらしく、光沢が潤って艶めいていた。腰の動きに併せて時々結合部にちらりと垣間見える赤と青の彩りは、なるほどランディの怒張を思わせなくもない。
 ガソリンを焼き尽くした燃え滓のガスを膣内に注入するなんて、熱量も毒性もあたしじゃ到底耐えられそうにないが、炎ポケモンにとっては適度な刺激になるのか。昔のどっかの国じゃ、お酒やタバコを後ろの穴で嗜んでたとかいう話も聞くし、そういう感じかもしれない。
 満足げに膨らんで波打つ大きめの腹。その彼方で首をくねらせ、揺れる炎のように陶酔した表情を浮かべるシエラ。そのすべてを、ジム兄の高感度バックモニターカメラは余すところなく映し撮っていた。
「いいわ、ジム兄、気持ちいいのぉ……っ!!」
 うん、これはあれだ。いわゆるハメ撮り裏ビデオだ。いや、見たことはないんだけど、話に聞く限りこういう、ハメている側の視点で受け手を眺めるような構図なんだろう。
 過激にもほどがある。到底ランディには見せられんわ。
「ぁあんっ、こんなにも硬くて、こんなにも熱くて……あなたは最高の雄よ、ジム兄……!」
 ……何だかなぁ。
 こうしてシエラのご満悦な表情を、ぼけ~っと座ったままバカみたいに見せつけられてると、だんだん退屈になってきたな。ちょっとちょっかいを出したくなってきた。
 足元に目をやると、そこには3つ並んだペダル。
 右端のペダルは、エンジンに火を焼べてジム兄に拍車をかけるためのものだったわよね。
 エンジンとタイヤとのつながりはシフトレバーで断ってあるはずだし、サイドブレーキには触ってないし。
 ちょっとぐらい悪戯しても、大丈夫だよね。
 右のペダルへと腕を伸ばし、軽くトンッと叩いてみた。
 ぅるおおんっ!
「あひっ!?」
 ひと呻りしたジム兄が画面内のマフラーを震わせ、シエラの掲げていた片足がビクンと宙を掻く。
「あぁ……ジム兄! あなたも、感じてくれているのね……嬉しい! もっと、もっとちょうだいジム兄ィッ!!」
 妄想の暴走をますます加速させていくシエラ。もちろんジム兄がリクエストに応えられるわけもないので、代わりにあたしが応えてあげなくちゃ。更に右ペダルをトントンッと上下させる。
 るおん、るおん、るおおんっ!
「あぁ、あぁ、ジム兄ぃぃぃぃっ! 熱いわ、アソコの中が燃えてるのよぉぉぉぉっ!!」
 ジュウウウ……、と湯気を立ち上らせて、結合部から透明な液体がこぼれ落ちる。
 沸騰した愛液が作る霞のベールに包まれて、恍惚に表情を溶かし崩すシエラ。さぞかし気持ちいいのだろう。幸せなのだろう。
 ……まいったなぁ、もう。
 ここまで淫らな映像を見せつけられると、こっちにまで火がついてきちゃったじゃないの。
 熱く疼きを訴える蜜壷をギュッと締めて、太股をモジモジと揺する。
 たちまち、トロリと雫が内股に伝い流れた。
 ついさっきあれだけランディに愛されたばかりだっていうのに、あたしったらヤらしい雌。
 あぁ、ランディが欲しいよ恋しいよぉ。今すぐまた彼のタケリタケに貫かれたいよぉ。
 叩き起こして愛してもらおっか……って、それじゃランディに内緒でシエラのためにお膳立てした意味がないでしょ。何考えてんのあたし。
 仕方がないから自分で慰めるしかない。運転席のシートに顔を埋めると、芳香剤の香りが遠ざかってランディの匂いで一杯になる。彼の腕に抱かれているみたいだ。
「ランディ、ランディ、あぁ、ランディ……!」
 身体をシートに擦り付けて尻尾をのた打たせ、爪で蜜壷を弄り回しては熱く吐息を昂らせる。
 ダメ。こんなんじゃダメ。自分の爪じゃ全然足りない。やっぱりランディのタケリタケじゃないと。どうすればいいの? どうすれば…………。
 桃色に煙る視界を巡らすと、ギンと張り詰めてそそり立つランディのタケリタケを見つけた。やだ、ランディ、いつからいたの?
 ……と思ったら違った。ランディのと思えたソレは、先ほど動かしたジム兄のシフトレバーだった。
 ううむ、さっきはあたし自身に例えたけど、先端のグリップが適度に膨らんだこの形状はまさしくタケリタケだわ。
 ノブを包む淡い艶のある表皮。掴んだ手触りは柔らかく、鼻を近づけるとランディの匂いが濃厚にする。いつもランディが握ってるところだもんね。
 つまりあたしが握れば間接握手。このまま口をつければ…………。
 ……倒しちゃわないように注意してやれば、いいよね。
 レバーを両手で包んでしっかりと支え、ノブの膨らみに舌を這わせる。
 ブルブルと震えるエンジンの鼓動が、舌を伝って笠の奥を掻き乱した。
 唾液が口内に溢れて止まらず、ランディの香りを何度味わって足らず、気づけばノブはグッショリと唾液にまみれていた。あたしの温もりが加わって、ますますランディのタケリタケをおしゃぶりしているみたいだ。
 溢れてくるのは唾液だけではない。そちらの方はお漏らし並みの勢いでシートを濡らし、欲しい、欲しいと訴えてくる。
 あぁ、ノブを握って間接握手で、口づけをすれば間接掌キスならば。
 蜜壷に挿れるのは、ランディの手で蜜壷を弄られるのと同じこと……!!
 だったら、挿れたっていい。そうされることはランディの恋ポケであるあたしの、当然の権利だもの。
 ヤろう。
 ジム兄のシフトノブに、ランディの代わりになってもらおう。
 インパネの手すりとハンドルとを掴んで身体を支え、コンソールを跨いでセンタークラスターに覆い被さる。
 シフトレバーを取って然るべき場所へと狙いを定め、あたしはゆっくりと腰を沈めた。
「は……あ、うぅ…………!」
 硬く引き締まった棒が、蜜壷の肉襞をヌルリと掻き分ける。甘い感触に、ビクンと尻尾が宙に躍った。
 硬く張り詰めた弾力をギュッと締め上げながら、ついさっき舐め嗅いだランディの残り香を反芻する。胎内に抱いたソレが、ランディのモノだと思えるように。
「あぁ、ランディのだ。ランディ、いいよぉ……」
 ここにくる前に騎乗位でフィニッシュした記憶と重ね合わせて、あたしは腰を上下させてレバーを抜き差しする。奥に入れる度に振動が子宮を震わせてくる。癖になりそう。
 もっと激しい刺激を求めて、左足をシート下に巡らせ右のペダルを探る。
 爪の先が届いたそれを、グイグイと踏みつけてみた。
 ぅるおるおるぅおおおんっ!!
 猛回転するエンジンの響きが、シフトレバーを伝って蜜壷を叩く。
「くぁああんっ! ランディが、ランディが膣内で弾けちゃうっ!!」
「ひゃあんっ! ジム兄、激しいよ、激しいのよぉぉっ!!」
 シエラとふたり、同じ鼓動を感じながら、違う相手を想って喜悦を叫んだ。
「ジム兄、お願い、もっと、もっと激しく……っ!」
 腰を浮かせて、マフラーに火戸をグリグリと押しつけるシエラ。ジム兄のボディが前方に揺すられ、サスペンションの働きで後方に戻る。その動きで、マフラーが深々とシエラの火戸を穿つ。まるで、ジム兄が自らシエラを責め立てているかのように。
「あぁぁ~っ! そうよ。どんどん突いてジム兄~っ!!」
 その様子をバックモニターで眺めるだけで煽られるのに、更に揺すられた動きがレバーを躍らせ、あたしの中を巧みにこねくり回す。あたしも本当に、ランディに突き上げられている気分だった。
「あぁ、ランディ、あたしもうメチャクチャになっちゃう……っ!?」
 シエラの火があたしを焦がし、ふたりメラメラと揺れる炎となって、甲高い音を立てて回るジム兄のエンジンにターボの加速を加えていく。
「もう、ダメ……ランディ、あたし、イっちゃう……っ!?」
「あぁ、イくわ……連れて行ってジム兄、私を、一番素敵な所へ……っ!?」
 オーバーヒートしていく興奮の果て、遂にあたしたちは絶頂を迎えた。
 まずはモニター内のシエラが、火戸から盛大に湯気を沸かせながら、足と首とを激しく戦慄かせる。
「ひぃあっ……ぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ~~っ!?」
「ぁあぁ、ランディ、イくぅぅぅぅうぅぅぅぅ~~っ!?」
 玉突き事故を食らうように、あたしも勢いよく笠を仰け反らせた。
 がこん。
 足の間で鳴った、何か金属が跳ねるような音を、白く眩んだ意識で聞いて、そして。
 ぉぐわごっかんっ!!
「んきゃあがっ!?」
「あひゃひあっ!?」
 身体を内側から殴りつけられるほど強烈に揺さぶられ、すぐに静かになった。
「あ……っ」
 あぁ、ヤっちゃった。
 イった拍子に、シフトレバーを倒しちゃったんだ。それでジム兄がエンストを。
 何てことだ、あたしのせいだ。あたしがシフトレバーをタケリタケになんてしたから。
「痛……つつ、ごめんシエラ、怪我しなかった?」
 慌てて蜜壷からシフトノブを引き抜き、扉から後方に呼びかける。
 シエラは、車体後方に横たえた身体をグッタリとさせながら、
「うふふ……ジム兄、イっちゃったんだ。そんなに私が気持ちよかったのね。ジム兄はやっぱり雄の仔なのねぇ…………」
 譫言のような戯言を、陶然と虚空に吹いていた。
 どうやら重症のようだ。多分、あたしもだが。


俺はいつでも彼女を見ていた 




 明くる朝。
「あれ? ガソリンこんなに減ってたっけ?」
 週に一度の洗車の最中、ジム兄のインパネに目を留めたランディが首を傾げた。あたしは咄嗟に、
「そそそそんなもんだったよあたし昨日降りた時に見てたもん間違いないよ普通だよ何もおかしくないよないんだってばっ!」
 至って冷静に、ごく自然な態度で、理路整然とした言葉を使って事実を揉み消す。よし、完璧だ。
「……キャリイ、『そんなもん』ってお前、そこから計器が見えるのか?」
 ぎっくぅぅっ!?
 しまった、思いっきりインパネの死角から言っちゃった!? 取り繕い取り繕いっと。
「さ、さっきあたしダッシュボードを拭いたのよっ! その時計器を見て問題なかったんだもん本当だもんっ!」
「ふうん……?」
 あたしの説明にも怪訝な表情を戻さず、ランディは眉をひそめる。マズいマズいマズいぃっ!?
「あの、ランディ、いつも隣で見てるキャリイが言ってることですもの。私も間違いないんじゃないかなって思うけど……?」
 横からシエラが助け船を出してくれたが、見ると彼女は彼女で、全身から脂汗をチョコレートファウンテンの如く吹きこぼしていた。大丈夫なのかいろんな意味で。
「まぁ、お前らがそういうのなら……?」
 釈然としない様子ながらも、ランディは洗車作業に戻っていく。その様子を伺いながら、あたしはそっとシエラに耳打ちする。
「だ、大丈夫かな? バレてないかな?」
「大丈夫よ。人間に分かるような証拠は残してないし、そもそも私たちがしたことにランディが思い至ることなんてあるもんですか」
 言い切りながらも、シエラの表情には拭い切れぬ不安が燻っていた。

 ◎

 昨晩、心を焦がした炎が鎮火して、狂乱が過ぎ去り我に返った後。
 あたしを襲ったのは、燃え尽きそうなほどの羞恥と後悔だった。
「何だこりゃあ、あたしまで流れに呑まれて一体全体何やらかしとんじゃああああ!?」
 いくらランディのことを思いながらと主張したところで、劣情のままに蜜壷をシフトノブで慰めただなんて、ジム兄と浮気したにも等しい不貞じゃないの。万一ランディに知られたらどう思われるか……!?
 パニックに陥って苦悩するあたしに、神妙な顔でシエラが声をかけてきた。
「とにかく証拠を隠せる限り隠しましょう。ランディが何か気づいても、誤魔化して、とぼけて、しらを切ればいいわ」
 愛するランディに嘘を重ねる心苦しさは堪え難いが、しでかした行為がバレる恐怖はもっと堪え難い。
 まずは愛液にまみれたレバーやシート、そしてマフラーを作業用のウエスで綺麗に拭い取る。使用したウエスは、シエラがその場で焼却処分した。
「でも、染み込んだ匂いは残っちゃうよね」
「疑いを持たなければ誰もわざわざマフラーやレバーなんて嗅がないわよ。ハッカの芳香剤やガソリンの香りがある程度誤魔化してくれるし、そもそもいつも助手席に乗ってるキャリイの匂いが室内でするのは当たり前。人間の鈍い鼻に気づかれる心配はまずないわ」
 動かしたレバーを最初の位置に戻し、しっかりとドアを閉じて駐車場を退散。家に戻ると、幸いランディはぐっすりとお休みのままだった。鍵を元のバッグに戻そうとしたが、
「待って。鍵は床に転がしておくといいわ。朝起きたら『落ちてるよ』ってランディに言って拾うのよ」
 なるほど、そうすれば鍵からあたしの痕跡が出ても問題なくなるわけだ。シエラの提案に乗って、バッグのすぐ側に鍵を置いた。 
「これでいいよね。使っちゃったガソリンはどうしようもないけど……」
「そこは昨日からそれぐらいの残量だったってことで口裏を合わせましょう。私はご奉仕前には既にあなたに寝かせられていて、あなたはずっとランディの隣で寝ていた。だから今夜のことで何があったとしても、私もあなたも何も知らない。いいわね?」
 あたしは頷いた。これであたしの幸せは守られるんだ。
「それじゃ、これからもこの調子でお願いね。週一ぐらいでいいから」
「……」
 今後も毎週こんなコトをし続けるんかい!? と怒鳴りたくなったが、こっちも楽しんでしまっていたので何も言えなかった。まぁいい。ランディにバレさえしなければ。

 ◎

 ところが。
 洗車を終えて朝食も済ませた後、ランディの様子がおかしくなった。
 あたしたちの立ち入りを禁じて自室にしばらく籠もった後、出てきてあたしたちに向けたのは今にも怒鳴りつけそうな険しい顔。
 戦慄に身構えながら言葉を待つも、すぐには何も言わずに駐車場に行ってジム兄の様子を調べている。車の周囲をグルリと回って、リアの後ろにしゃがんで下を覗きだした時、向かいのシエラが顔面を凍りつかせた。
 更に車内へと入って何やら点検している様子で、どう見ても安穏としていられる状況じゃない。
「ねぇ、これやっぱりバレてるんじゃ……!?」
「まさか、こんな簡単にバレるわけが……!?」
 しかし、楽観視も虚しく、再び家に戻ってきたランディは開口一番、
「シエラ、キャリイ、ふたりとも……今すぐ僕の部屋にこい!」
 爆発寸前の怒気を無理矢理噛み殺しているような声で言い捨てて、大股で自室に入っていった。
「……………………」
「信じたくないけど、バレてることを前提に考えた方がいいわね」
「そぉんなぁっ!? なんで!? 一体どうしてこんなことに……!?」
 まさかランディは本当にエスパーだとでも言うのだろうか!? 戦々恐々となったあたしの向かいで、シエラは一時じっくりと考え込む。
「……有り得る可能性としては、誰かに見られていたとかかしら」
「ぅええっ!? ど、どうしよう!? もし本当に見られてたなら、言い逃れできないじゃない!?」
 って言うか、あの嬌態を覗かれていたとか恥ずかしすぎて軽く死ねる。
「大丈夫、大丈夫よ。まだ打つ手はあるわ。だから大丈夫」
 焦る息を整えながら、シエラは何度も呟いた。自分自身にも言い聞かせるかのように。
「そうよ……もし見られていたのだとしても、ゾロアの仕業ってことにしちゃえばいいんだわ」
「ゾロアって、あの幻覚を見せる?」
「えぇ。ハウオリシティの東の方にいるって噂も聞くし、この辺まできている仔がいたっておかしくはないわ。何を言われても私たちは知らない。きっとゾロアに化かされて幻覚でも見たんでしょう……そういうことで押し通すわよ」
「りょ、了解!」
 無辜のゾロアには悪いけど、あたしたちの幸せのために罪を被ってもらおう。
 覚悟を決めて、あたしたちは審判の門を潜った。

 ◎

 昨晩はたっぷり心地よく睦み合ったランディの寝室。
 いつでも幸せな時を過ごしてきたこの部屋に、警戒心を緊迫させて踏み入る日がこようとは。
 いや……警戒などしていてはいけないんだ。何の心当たりもない、とぼけた顔をしていなくては。
 今夜もこの部屋で、ランディと愛し合うために……!
 意識すればするほど強張りそうになる肩から無理矢理力を抜いて、剥き出しの凶器めいたランディの視線と向き合う。
 デスクのチェアに座ったまま捻った上体をこちらに向けて、剣呑な気配を漲らせているランディ。デスクの上にはモニター一体型のパソコンとキーボードやマウスが置かれているのはいつもの通りだが、よく見ると見慣れない小さな半透明のプラスチックケースが置いてある。
 そのケースを手に取り開いて、一枚の小さな欠片をつまみ上げたランディは、重苦しい声で問いかけてきた。
「これが何か分かるか?」
「……?」
 指先ほどのサイズの黒い欠片。所々に金属のような光沢を持つ斑紋がついているようだが、一体何であるのかあたしにはまるで見当もつかない。
 だが、シエラは知っていたようで、戸惑いを朱の顔に浮かべながら答えを返した。
「……メモリーカード、よね?」
「え? メモリーカードって、パソコンとかのデータを保存するアレのこと?」
 倉庫の仕事でお使いを頼まれることもあるので、メモリーカードが何かぐらいはあたしも知っていたが、
「でも、メモリーカードって切手ぐらいの大きさじゃないの? あんな小さいの見たことないわ」
「パソコンやデジタルカメラに使うのならそれぐらいの大きさだけど、ポケモン図鑑とかポケナビやCギアみたいな携帯機器用の場合は、本体を小さく軽くするためにメモリーも小型に作られているのよ」
「シエラの言う通りだ」
 頷いたランディの表情に、鋭さが増す。
「そしてこのメモリーカードは……ジム兄のバックモニターに入っていた奴だ」
「…………?」
 はて、分からない。
 バックモニター? ルームミラーの?
 カーナビなら地図データとかに必要なんだろうけど、ただ後ろの景色を映し出すだけの機械に、一体何のデータを入れる必要があるのだろうか?
 シエラもこれは知らなかったらしく、どう答えたらいいのか分からないといった様子で長い首を傾げている。一体ランディは何を見せるつもりなのか。
「録画してあるんだよ。防犯や事故が起こった時の証拠にするために、モニターに映された映像はすべて、な」
 え。
 え……っ!?
 待て。ちょっと待って。思考が情報に追いつかない。
 今何か、非常に致命的なコトを言われてないか!?
 ロクガ。Rokuga。録画。
 ビデオデッキがテレビ放送を撮るように、映像を保存すること。
 バックモニターに映された映像がすべて保存されている、というのなら。
 その保存先がランディが見せたメモリーカードなら、そこに録画されている映像は――、
 ……………………!?
 理解に至った瞬間。
 全身の菌糸細胞が、一瞬で爆発した。
「ちょ、待、ダメ……っ!?」
 乾いた唇をこじ開けてどうにか言葉を絞り出すも、時既に遅し。
 既にランディは件のカードを、読み取り機らしい機械に差し込んで、パソコンのウィンドゥを開きファイルをクリックしている。もうマッハパンチでパソコンを粉砕するのも間に合わない。致命的なタイムロス。もっと早く事態を理解できていれば……っ!
 シエラはと見れば、まだ事態を掴めない様子で慎重にランディの出方を伺っている。無理もない。彼女は知らないのだ。夕べバックモニターにどんな映像を撮られてしまったのかを。
「やめて……っ!?」
 制止も虚しく、ビデオアプリケーションが無慈悲に起動する。
 展開した黒い窓が、朱色に染まった。
「……っ!? ぎゃあああああああああぁぁぁぁ~~っ!?」
 絶叫が上がる。シエラの悲惨な悲鳴が。
 当然だ。こんな映像を見せられて平静を保てるわけがない。
 何しろ、映し出されたのは、あたしが昨晩運転席で見た映像そのまま。
 即ち――斜め倒しの仰向けになってあられもなく全開にした火戸に、ジム兄のチタンマフラーをねじ込んでアンアン悶えるという、まるでハメ撮り裏ビデオさながらに淫らな痴態を曝すシエラの姿だったのだから。
「何コレ!? なんでこんなの……!? いやぁ、やめてやめて、見ないでぇぇぇぇ~っ!?」
 泣き叫びながら、シエラはその場に墜落した。

 ◎

 元カノの二重に無惨な姿を見続けるのに堪えなかったのだろう。ランディはすぐにアプリを落とした。
「ふたりとも見るからに隠し事をしている様子だったから、何か映ってないかと調べたらこれだ。まったく、どれだけビックリしたと思ってるんだ!?」
 呆れ混じりの怒声が、うなだれたあたしの笠に降りかかる。うぅ、やっぱり動揺がバレバレだったか。まぁ、ビックリなんて表現では間違いなく済んでいなかっただろう。
 こっちだってビックリだ。まさか目撃証人がジム兄自身だったとは……やっぱり科学の力ってすげー。ここまでハッキリとした映像証拠を撮られていたんじゃ、もう言い逃れの余地なんて――、
 …………否!
「幻覚よ、こんな映像! ゾロアの……でなけりゃ、ロトムかポリゴン辺りの悪戯に決まってるわ! シエラがこんな破廉恥なことするわけないじゃない!!」
 立ち上がれなくなるほどの羞恥に打ちのめされながら、シエラはまだ決定的な自白はしていない。あんな映像をいきなり見せられたら、心当たりの有無なんて関係なくパニクって当たり前だ。
 だからやるべきことは予定通り。誤魔化しとぼけてしらを切り通す。モニターの中にしかない映像なんかにあたしの幸せを壊させはしない。ゾロアやロトム、ポリゴンの皆さんごめんなさい。
「にしてはキャリイ、お前、ビデオの再生が始まる前に止めようとしてたよな? まるでどんな映像が映っているかを知っていたみたいに」
 うっ……やっぱりそこにツッコまれたか。確かにあれは、知らぬ存ぜぬですべてを済ますためには悪手だった。
 作戦を再構成。やらかした事実をバラバラに裁断し、ランディにバレても問題ない欠片だけを拾い集めて繋ぎ合わせ、重要な部分を覆い隠す。できるはずだ。あたしはスーパーキャリイだ!
「そ、そうじゃないのよ、そうじゃなくてね……実は、あたし夕べの夜伽の後、ちょっと物足りなくなっちゃって。でもランディを起こしちゃ悪いと思ったから、庭に出て自分でシてたの。それがジム兄に撮られちゃったかもと思って焦ったのよ」
「あれだけヤっておいて?」
「あれだけヤっても足りなかったモノは足りなかったんだもん!」
 そこは完全に事実なのだから、多少呆れられても仕方がない。
 冷凍ビームみたいな視線をあたしに放ちつつ、ランディはパソコンを操作してさっきのファイルを開いた。
 またあの映像が流れるのか、と思ったが、流れてきたのは切なく喘ぐシエラの嬌声だけで、画面に映るのは波のようにさざめく模様。ビデオの音声だけを再生したということか。耳を塞いでイヤイヤと首を振るシエラには気の毒だが、あれをまたそのまま見せられるよりはマシだろう。
「……これだな?」
 ランディの指摘に耳を澄ますと、ジム兄の名を呼ぶシエラの喘ぎに混ざって、ランディ、ランディと蕩けた声で呼ぶ違う声が聞こえる。
 あ、これあたしの声か。自分の声を録音して聞くと、自分の声とは違って聞こえるって言うけど本当なんだ。
「そう、これよこれ。やっぱり撮られてたのね。もうやだ、あたしったらこんなにランディの名前を呼んじゃって……」
 恋人に自慰の嬌声を聞かれるなんて爆散したくなるほど恥ずかしいが、しかしこの事実をランディに知ってもらうことこそが最も重要なのだ。あくまでもランディを想いながら自分を慰めていたのであり、決して恋人への裏切りではないのだと。
「でも、これで証拠になるでしょ? 駐車場でシエラがあんなことシてたのなら、庭にいたあたしが気づかないはずないもの。もちろんあたしは何も見てないわ。だから、電子機器に介入できるポケモンがバックモニターのカメラに悪戯して作った偽映像に、たまたまあたしの声が紛れ込んじゃったとしか考えられないのよ」
 そしてこう理屈づけることで、ジム兄にしちゃったことを逆になかったことにできる。HP1からの起死回生の一撃。事実から作った嘘だもの。そう簡単に見破られはしまい……!?
「なるほど。お前が夕べオナニーをしていたことは分かった」
 得心した顔で頷くランディ。よし、このまま逃げきれるか……!?
「うん、でも、全部あなたのことを想いながらシたことだから……」
「なぁ、キャリイ」
 不意に。
 ランディの声が、エアスラッシュの鋭さを帯びた。
「お前、オナニーするのに何を使った?」
 なぁ…………っ!?
 なんで、なんで!? どうして!?
「ななななな、何をってそんなの、自分の爪に決まってるじゃないの!? なんで!? どうしてそんなこと訊くのよ!?」
 おかしい。普通に考えたらポケモンのあたしが自分の身体以外のモノを使って自慰をシたなどという発想自体思い至るわけがない。隠そうとした事実を知っているのでもない限り……まさかランディって、大マジでエスパー!? 
 落ち着け落ち着け、もしかしたら、運転席の映像も撮られていたのかも。だとしても、それも偽映像だってことで言い逃れられるはず。誤魔化せとぼけろしらを切れ!
「お前こそどうしたんだキャリイ。随分と動揺してるじゃないか」
「恋人に自慰のやり方なんて恥ずかしいこと訊かれて動揺しない方がおかしいでしょ!? 何を言ってるのよランディ、あたしのことが信用できないの!?」
 何かがヤバい。このままにしていたら何もかもバレてしまう予感がする。返答いかんによっては怒ったフリをしてシエラと一緒に脱出、以後この話題を振ったら拗ねることで追求を振り切ろう!
「いい加減にしてよ、これ以上変なことをいうならぁ…………っ!?」

 呼吸が止まった。
 口をパクパクとさせるも、空気が凍り付いたように動かない。
 すべては、ランディがものも言わず、懐からそれを取り出した瞬間から。

 視界がぼやける。眼の焦点が合わない。
 ランディが携えたそれが何であるのか、理解することを笠の中身が拒否しているのだ。
 嘘だ。信じられない。なんでそれがここに。なんでなんでなんで!?
「キャリイ、これが何なのかわかるか?」
 声に鞭打たれて、渇いた喉に暴風が荒れ狂う。
 答えなければいけない。
 それがここにある事実を、認めなければ。
「ジム兄の……シフトレバーの、ノブ。……外せたんだそれええええぇっ!?」
「あぁ。マニュアル車のシフトノブはネジ穴でくっついてるだけだからな。回せば簡単に外せるんだよ」
 知らなかった。何てこった。
 シエラと同じ絶望の奈落に墜ちそうになる足を、ギリギリで踏み留める。
 まだだまだよまだだよね!? まだ何か打つ手が多分きっとどこかにあるはずだもんあってよお願いぃっ!?
「キャリイ、僕はいつも言っているよな? 運転席にある物には勝手に触るなって」
 コクリ、と力なく頷く。
「つまり、本来このシフトノブには、僕の匂いしかついていないはずなんだ」
 ガクリ、とうなだれた笠を、再び上げることはできなかった。
 匂いに言及された。詰みだ。終わった。
「あの映像では明らかにエンジン音が聞こえていたし、マフラーからも排気が漏れていた。シエラじゃ自分でエンジンをかけられはしないだろうから、誰かエンジンをかけた共犯者がいるはずだ。つまりあの映像が本物だと仮定した場合、その犯人の匂いがここに残っているということだ」
 ランディのその言葉は事実上、『そしてこのシフトノブからする匂いはキャリイ、お前のものだ』へと続く未来予知。もちろんしっかり染み着いているはずだ。密壷の奥までドップリとハメて掻き回したのだから。
 それでも大丈夫だと思っていられたのは、室内の芳香剤と、元々あたしが座っている助手席に染み着いた体臭、そして常識が3重の防壁を形成していたから。けれど、バックモニターに録画された映像を見られたせいで常識の壁は破られ、更にシフトノブ自体が防壁の外に持ち出されてしまった。これじゃ防御も回避も叶わない。
 もうダメだ。今ランディの手の中にあるノブから現に匂うモノを、幻覚だなんて言い訳しても通用しない。残された望みがあるとすればせいぜいが、人間の鈍い鼻があたしの匂いを嗅ぎ分けられない可能性……バカバカしい。昨晩あんなにあたしの体臭を喜んで嗅いでいたランディに限って、あたしの匂いを嗅ぎ間違えるものか。
 そしてシフトノブで自慰をしたことがバレた以上、あたしが鍵をランディのバッグから持ち出して乗り込み、エンジンをかけたことも今や明白。最早どう言い繕ったところで、シエラとの共謀関係を否定できる余地はない。万事休す。
 ランディの鼻先に、シフトノブが寄せられる。
 そこに記されたあたしの痕跡を、確かめるために。
 それは間接的にとはいえ、股座に鼻面を突っ込まれて蜜壷の奥まで匂いを嗅がれるのと同じことで――――。
「ぃやめてええええぇぇぇぇぇぇ~~っ!!」
 未来予知が的中するその前に、あたしは投了を宣言した。
「認めます……シエラと一緒に、ジム兄に、悪戯しましたぁぁぁぁ~っ!」
 ツッと、ランディはノブを持つ手を下ろした。
 それはせめてもの情けだったのだろう。あたしの目の前で、嗅がないことは。
「車内から手がかりを探ろうとこのノブを外した時点で、匂いは確かめてある。とっくに嗅いだ後だよ」
 脱力した足が崩れ、ペタン、と尻餅をつく。
 つまり、部屋に呼び出された時には既に、あたしたちの容疑は固まっていたと。
 あたしの抵抗は、すべて見苦しい悪足掻きだったわけだ。
「正直に言って欲しかったよ」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさぁいぃぃ~~っ!!」
 笠を床に擦り付けて土下座しながら、あたしは泣きじゃくった。
 ズルい涙だって解ってる。ランディの方が余程泣きたかっただろう。
 それでも、瞳から流れ落ちる大瀑布を、堪えることはできそうになかった。

 ◎

 金属でできた何本もの筒が回転する機械の中を、紙の帯が猛スピードで流れていく。
 それを背景にオーバーラップして飛び交ういくつもの文字列。何かのTVドラマで見たワンシーンだ。
 一緒に見ていたランディが教えてくれたが、あの機械は輪転印刷機といって、新聞を刷っている場面らしい。文字列は新聞の見出しで、作中での報道を端的に表現した場面とのこと。
 今、あたしの笠の中で刷られている新聞の見出しはこうだ。

〝雌ポケモン2匹、トレーナーの愛車を輪姦!?〟

 四輪車だけに輪姦。笑ってる場合じゃない。
 もちろんそんな新聞が実際に発行されることはないのだろうが、ランディひとりに知られただけであたしにとっては全世界に大恥を公開されたも同然である。どうしてこうなった。
 シエラと並んで床に平伏しながら、あたしはそんな取り留めもないイメージに逃避していた。うぅ、笠の上から注ぐランディの視線が痛い。
「……そうか。大体状況は理解した」
 シエラがジム兄に恋をしたこと。彼女を満足させるためにあたしがエンジンのかけ方を探っていたこと。シエラとジム兄の行為を見ているうちにあたしまで催してしまい、シフトレバーを挿れてしまったこと。ランディに知られたくなくて、口裏を合わせて隠そうとしたこと。まともに聞いたら脳が壊れそうになるほど荒唐無稽なあたしたちの状況説明だったろうに、ランディは怒りに頬を震わせながらも全部真面目に受け入れてくれた。
「ランディのことを想いながらシたのは本当だもん。それだけは本当の本当に本当だもん……」
 滲んだ声を振り絞る。ランディに訴えるためというより、あたし自身を保つために。
「キャリイを叱らないで。私から言い出して巻き込んだの。嘘を吐いたのも私がお願いしていたことだったのよ……」
 庇ってくれるシエラの姉弟子らしさも身に沁みる。彼女の痴態に煽られてのこととはいえ、欲求に負けてシフトノブに手をかけたのはあたしの責任なのに。
 しばらく口元を固く結んでいたランディだったが、やがてヒートスタンプ最大威力級に重い溜息をズドンと吐き落とし、ゆっくりと言葉を発した。
「お前らなぁ、僕は別に、ジム兄をレイプしたとか、僕に嘘を吐いたとか、そんなことで怒ってるわけじゃないんだよ」
 ゾクリとした悪寒が、笠から尻尾までを貫いた。
 ランディは『怒ってるわけじゃない』のではないのだ。『そんなことで』怒ってるわけじゃない、つまり他のことでしっかり怒っていると言ったのだ。
 何だか判らないが、謝るポイントがズレている。ちゃんと謝らないと、火に油を注いでしまうかも……!?
「鍵を盗んだりしてごめんなさい。運転席を汚しちゃってごめんなさい。ガソリンもたくさん浪費しちゃって……あの、もしジム兄を壊しちゃったりしてたら、修理代の分まであたし一生懸命働くから…………」
 マズいダメだどうしよう、心当たりが多すぎる上に、ひと言謝るたびにランディの怒気を加熱させてる気がする。
 まだ何か謝れてないの!? ランディは、一体何に怒ってるの!?
「え、えっと、えっとぉ……!?」
「キャリイ!!」
 遂に、ランディの怒号があたしの笠へと叩き落とされた。床板に触れた笠の端がカサカサと小刻みな音を立てる。
 絶望だ。もうお終いだ。完全にランディを怒らせちゃった。
 これからあたしはどうなるんだろう。フられるんだろうか。捨てられちゃうんだろうか。それならまだマシかもしれない。最悪被害を埋め合わせるため、売り飛ばされて悲惨極まりない末路を遂げるのかも。どう転んでも真っ暗な未来しか想像できない。
「シエラもだ! お前ら……っ」
 何を言われても、受け入れるしかない。全部あたしたちが悪いのだから。
 覚悟を決めて、あたしは身を竦ませながら続く叱責を待つ。

「自分たちがしていたのが、どれだけ危険なことだったのか、全然解ってないだろう!?」

 …………え。
 何か想像とニュアンスの違う説教に、ハッと笠を上げる。シエラも隣で、茫然と首を持ち上げていた。
 向き合ったランディの眼差しは、怒気を湛えながらも、ただ真っ直ぐにあたしたちを見据えていた。
「あの映像を見て肝が冷えたよ! ろくに車の使い方も知らないくせに、アクセルバカバカ吹かしてシフトまで弄んで! 運良く毎回エンストしていたから良かったものの、もしサイドブレーキの利きが甘かったらどうなっていたと思う!? ギアが入った拍子に、エンジンの動力が直にタイヤに加わって、ジム兄が動き出していたかもしれないんだぞ!?」
 指摘されて、ゾッと背筋が凍り付いた。
 もしあの状況で、ジム兄が動き出していたら……!?
「バックしていたら、火戸をマフラーで縫い止めていたシエラは逃げることもできずに良くて大怪我! 前に進んでいたら、ジム兄はまともにハンドルも切れないキャリイを乗せて山道を滑り落ちていた! 一応ジム兄には、障害物が目の前にきたら自動的に停止する安全装置も搭載されているけど、それだって完全に事故を防げるわけじゃない。横転でもしてしまったら反応なんてできっこない! それでも事故を防げるだけの用意ができてたなんて言えるのか? 言えっこないだろ!?」
 言えない。
 ただ動かすだけで精一杯だったあたしに、不測の事態への対応なんてできっこなかった。
「いつも言っていたじゃないか、運転席のスイッチには勝手に触るなって! 寝ている間にあんなことされて、もし取り返しのつかない事故が起こっていたら、僕はどうすれば良かったんだよ!?」
 あぁ。
 ランディは、あたしたちのトレーナーは、何よりもあたしたちのことを心配して、叱ってくれているのだ。
 こんなにもあたしたちを想ってくれている彼が、どうしてあたしたちを捨てたり売ったりするなんて思い込めたんだろう。
 大切な恋人であるにもかかわらず、彼の気持ちを推し量ろうともしないで、身勝手な私欲と保身ばかりを考えてたなんて、こんなの……、
 痴態を知られたことなんかより、余程恥ずかしいじゃないか……!?
「ごめんなさい……」
「私も、ごめんなさい、ランディ……」
 心からの謝意を込めて、今度こそ深く笠を下げる。
 怒気を納め、優しく窘める口調でランディは言った。
「自動車って言うのは、1トンもする鉄の塊を、物凄い力で動かすシステムだ。その取り扱いには充分な訓練を経て資格を認められる必要がある。だから免許を持たない者が、勝手に自動車を動かして遊んだりしては絶対にダメだ。解ったね?」
「はい!」
「はい……」
 共に真剣に誓いはしたが、あたしに比べシエラの口調には苦渋の色が濃い。
 あたしは恋人に従えばいいが、シエラにとってここでパートナーに従うことは、ジム兄への恋を諦めるということだからだ。
 それでも、真剣にあたしたちのことを思ってくれているトレーナーをこれ以上裏切れるはずはない。本当に好きなら、交わり合えなくても側にいるだけで幸せを感じることもあるだろう。可哀想だけど、どうかそれで納得してもらう他はない……。
「それと、だ。シエラ」
 コホン、と咳払いをして、ランディは伏せられたままの彼女の側に膝をつき、僅かに苦笑を交えた声で言った。

「ジム兄と愛し合いたいんだったら、まず僕に相談しろよ。恥ずかしがってなんていないでさ」

 下火になりかけていたシエラの尻尾が、ボッと炎を高く揺らめかせた。


俺とみんなのFour Wheel Drive 




 そんなわけで。
「くれぐれも言っておくけど、余所で強請らないでくれよ。こんなことをして責任が持てるのは、家の駐車場だけだからな」
「解ってる。シてくれるだけで、もう何の文句もないわ」
「うん。あたしも絶対に勝手なことはしないよ、ランディ」
 日が落ちて、夕食と入浴を済ませた後、あたしとシエラはランディと一緒に、ジム兄の駐車場へと降りていた。
「それじゃエンジンをかけるぞ。準備はいいか、シエラ?」
「いつでもいいわ。ジム兄を起こして、ランディ」
 リアウィンドウから見えるシエラは、荷台ではなくその後ろに身を沈めていた。昨晩と同じ様に。
 これからシエラは、元カレであるランディが操るジム兄に、愛してもらうのだ。
 だが、だからといってあたしが嫉妬することはない。なぜならば……。
 裸の肩越しにリアウィンドウを覗いていたあたしの内股を、太い指先が巧みに撫でさする。
「ぁあんっ!」
「キャリイの方は、もう少し準備が必要かな」
「もう、ランディったら……」
 そう。あたしも助手席ではなく、昨晩同様に運転席にいた。
 本来のあたしの席である助手席には、脱ぎ捨てられたランディの衣服が乱雑に積み上げられてある。シャツからパンツに至るまで。
 あたしの今の席は、素っ裸で運転席に着座したランディの上。剥き出しの膝を跨いで向かい合い、ランディの厚い胸板に抱えられているのである。ジム兄にシエラと愛し合わせながら、ランディは同時にあたしとも愛し合おうというのだ。決して恋ポケであるあたしを、蔑ろにしないために。
 あたしたちのお腹の間には、準備万端整ったランディのタケリタケが凛と勃って屹立している。まるでジム兄に4本目のレバーが生えたみたいだ。左手であたしの腰を寄せ、蜜壷の入れ口にタケリタケの軸を押しつけながら、ランディは右手でシフトノブを中央へと動かしてイグニッションキーを押し込んだ。
 ぅるるおおおおおおーーんっ!!
 ジム兄がエンジン音を高らかに轟かせる。昨晩無理ばかりさせてどこか壊していないか心配だったが、まるで興奮しているかと思えるほど元気そうで安心した。
「あぁ、ジム兄……! 今夜もたっぷり愛し合いましょうね……」
 陶酔したシエラの顔が荷台の下に沈む。振り向いてバックモニターを見ると、マフラーに口づけて湿らせている様子が見えた。
 捻った首筋に、ランディの吐息が熱くかかり、
「いい匂いだ」
 と囁いた唇を這わせる。
「ひゃうんっ!」
 悶えた身体に指先が躍る。脇を、胸元を、尻尾を、内股を巧妙に攻められ、タケリタケに擦られた蜜壷がジワリと潤う。
 沸き上がっていく興奮の中、シエラの声がリアウィンドウを震わせた。
「ランディ、そろそろジム兄を……私、もう我慢できない……っ!」
 ガラス越しに、朱色の羽が翻るのが見えた。尻尾の炎が高く持ち上げられている。
 ひっくり返った姿を録画されたのが余程恥ずかしかったのか、今回シエラは四つん這いになって持ち上げた尻をマフラーに向けた姿勢を取っていた。ジム兄は元々車高が高いオフロード車である上にリフトアップされてバンパー位置もより高くなっているので、シエラが体位を変えてもマフラーに位置を合わせやすいのだろう。まぁ、前から股間を見せようが後ろから尻を見せようが、扇情的な点については大差ないわけだが。バックモニターを見れば、湯気に煙るマフラーの先で、開かれた火戸の肉襞が艶めかしく潤っていた。
 足の間で、タケリタケがビクンッっと反り返る。ランディも同じ映像を見た結果らしい。
 ムカついたので、この浮気者めと抗議を込めてタケリタケをシフトチェンジ。即座に頬へとお詫びの口づけが入り、愛撫が勢いを増して再開される。それでいい。ランディを運転する免許は、あたしだけのものだ。
「じゃあ、出発進行だ!」
 ランディの右手が、斜め後方に伸びる。センターコンソールに3本並んだうち、一番後ろで前方に向けて傾いているレバー、サイドブレーキ。ジム兄を留め置く錨であるそれを、ランディは掴んで下に倒す。
 尻の下でランディの左膝が軽く上がるや、グンとジム兄が僅かに後退。モニター内でチタンマフラーの青く輝く先端が、朱色の尻へと埋没した。
「ぁあぁぁ……っ!」
 たちまち上がる感嘆の声。ランディが右手のシフトレバーを切り替えて右足を傾けると、ぅおんっと声を鳴らしてジム兄が前へ。しかしその時にはもう、ランディはシフトレバーを元の位置に戻して再度エンジンを軽く吹かしていた。抜けかかったマフラーが、強く秘奥へと突き込まれる。
「んぁひいいっ!? ジ、ジム兄、なんて激しい……くぁあぁぁぁぁっ!?」
 レバーを往復させてはタイミング良くアクセルを吹かし、4本の大輪をリズミカルに前後させて、フォークリフトのフォークを操るようにマフラーでシエラの火戸を責め立てていく様はまさにプロの匠。しかもその間、膝に乗せたあたしへの愛撫も淀みなく続けているのだから、ランディのテクニシャンぶりったら半端ない。
 細かく前後に揺すられる度に、背を抱える腕が、尻を跨がせた太股が、蜜壷に茎を添えるタケリタケがあたしと擦れ合う。彼の唇と舌が、あたしの頬に笠の内側に首筋にと飛び回り、熱い息吹が肩にこぼれる。もう酔いそう。甘い快楽に酔いしれてしまいそう。吐き出すのはこみ上げくる彼への想いばかり。
「ランディ、あたしもっ! ランディのも早くあたしにっ! もうとっくに準備はできてるってばぁ……っ!?」
 蜜壷がヒクヒクと戦慄き、溢れた蜜がタケリタケを根本までしとどに濡らしている。欲しい、ランディのが欲しい……っ!
 願いに応えて、ランディの左腕があたしの腰を抱え上げた。タケリタケの笠が、蜜壷にあてがわれる。あぁ、いよいよ……! 足先をギュッと握って、貫かれる瞬間に備える。
 しかし、ランディは抱えたあたしを中々降ろそうとしなかった。
「……!?」
 ジム兄の動きと共に、揺れるタケリタケの笠があたしの股間を撫でるばかりの生殺し。もがいて挿れようと試みるも、がっちりと腰を固定されていてままならない。
「やぁんっ、ランディの意地悪!? 焦らさないでよ、早く挿れてってばぁっ!?」
 溜まらずに甘えた声で強請ると、ランディは声を座らせて囁いてきた。
「なぁ、キャリイ……僕のとこれ、どっちが良かった?」
 これ、の瞬間、ランディの右手はシフトレバーを握っていた。ギリッと軋む音が聞こえるような強さで。
「もぉ、今それ訊くぅっ!?」
「その台詞は昨晩のお前に言ってくれ。それに……僕が何とも思わなかったなんて思わないでくれよ」
「あ……」
 やっぱりしっかりヤキモチも妬いていたようだ。まぁ、そりゃそうだよね。
「ごめんね、ランディ。でも、ヤキモチ妬いてるランディもかわいいよ」
「……それで?」
 くすぐったげな笑みを浮かべながらも、ランディは逃がしてくれそうになかった。ったく、そうくるならあたしだって意地悪になっちゃうぞ。
「ん~、大きさと硬さでは、ジム兄の勝ちかなぁ……」
 顔をしかめたランディが文句を言い出す前に、あたしは本当の気持ちを彼の耳に注ぐ。
「でも、ランディの方が熱くって、ギュッと締めると弾力が気持ち良くって……大好きだよ。……あぁっ!?」
 言い終えた瞬間、腰が引き下ろされた。
 ズブリ。タケリタケがひと息で根本まで蜜壷をを突き通す。
 身体を押し開かれて思わず開いた口に、ランディの息吹が吹き込まれて舌がねじ挿れられあたしのと絡み合う。あたしの中が、ランディで一杯になる。
「む、ぐ……っ、ううぅぅぅぅぅぅうぅ~~っ!!」
 力強く彼の腕に抱かれた背を切なく震わせて、あたしは今夜最初の絶頂に至った。至っちゃった。挿れられただけで。
 気持ち良すぎ……。今夜あたしは、どこまでイっちゃうんだろう。
「良かったろ、キャリイ」
「うん。もう、最高……!」
「まだまだ、夜はこれからだぞ……それっ!」
 るおぅ、うおぅ、うおおおんっ!
 ランディの足裁きがジム兄を咆哮させ、前後往復の動きが激しくなる。繋がったまま激しく揺さぶられて、蜜壷の中がタケリタケに掻き回される。
 前後運動ばかりではない。シートを軋ませてランディの腰がうねり、下からあたしを突き上げてくる。揺れながら抜き差しされて蜜壷を擦り上げられ、あたしの胎内に熱い炎が揺らめき燃える。
「あぁぁっ! 熱いよ、アソコが火傷しちゃうよぉランディぃぃっ!?」
 狂おしく上げたあたしの喘ぎが、
「くぁああんっ! 深いわ、壊れちゃうわジム兄ぃぃっ!?」
 荷台の向こうで尻尾の炎を揺らすシエラのそれと共鳴する。ジム兄の勢いが増したことで、シエラの方はより直接的に激化した快楽を浴びていた。貫くマフラーを深々と咥え込んだ火戸から、モウモウと湯気が吹き出している。
「あぁ……夢みたい。夢に見たままだわ。ジム兄に、ジム兄にこんなにも愛してもらえるなんて……嬉しい! あ……っ、ぁああぁぁぁぁ~っ!!」
 朱色の羽が夜の風に躍る。彼女もまた絶頂に達したのだろう。
 あたしもシエラも、ボルテージの勢いが昨晩の比じゃない。昨晩のなんて、所詮は妄想に求めるだけの自慰に過ぎなかった。だが今晩はふたりとも、誰より愛する相手に想いを注いでもらっている。それが現実に叶うなどと想っていなかったであろうシエラはまさしく夢心地と言ったところか。あたしだって、危うく失うかと思ったランディの愛をこんなにも深く感じられて至福に浸るばかりだ。
 気づけばまた、ランディの視線がモニターを追っていた。もう、本当に困った人。
 でも、シエラに触発されてかあたしの中のタケリタケは一層漲っていく、昨晩そこに感じたジム兄のシフトノブよりも硬く、大きくさえ感じるほどに。
 あたしでさえ、あのハメ撮りそのものの映像を見せられて、興奮するあまりシフトノブに浮気してしまったのだ。ましてやランディともなれば、かつて自身のタケリタケを納めていた火戸が、自ら操縦するジム兄のマフラーによって押し広げられている様を見て昂るのも無理はないだろう。
 それでも今は、真っ直ぐあたしの方を見ていて欲しい。願いを込めてあたしは、蜜壷をギュッと絞ってシフトを切り替える。
「う……っ、ぁあぁぁっっ!!」
 刹那の間をおいて、ランディは彼の胸元にもたれていたあたしを乱暴に突き放した。
 え、なんで……!? と思ったのも束の間、ハンドルに押し倒されたあたしの上に、ランディの上体が荒々しく覆い被さる。
「キャリイ、キャリイ! あぁ、いいよ。凄くいい……っ!?」
 惚けた声をこぼして、ランディはあたしにむしゃぶりついた。どうやらあたしに向けてトップギアに入れてしまったようだ。前のめりになってあたしに猛然と突き込みながら、それでもジム兄の運転を止めないばかりか、ハンドルをグリグリと小刻みに回すことで上に乗ったあたしを揺さぶりつつ、マフラーの動きにも変化を与えてシエラに対しても攻めを加えていく。最早達人の域すら越えて、神業めいた技巧としか言いようがない。
「あぁんっ、あたしもいいよランディ。もっと、もっとぉ……っ!?」
 感極まって、あたしは伸ばした両腕をランディの肩に回して掻き抱く。
 深々と打ち込まれたタケリタケが、蜜壷の奥の急所を正確に貫いた。
「んあぁぁあぁ……っ!?」
 真芯に甘い衝撃が閃き疾っていく。
 グンと仰け反った背中が、後ろで何かの弾力を押し込んだ。
 途端。

 バアアアアアアアアーーーーッ!!

 けたたましい絶叫を上げたのは、ジム兄だった。
 クラクションだ。ハンドル中央にある警報装置を、あたしの背中が鳴らしているらしい。
 そうだと分かっても、悦楽に突き動かされて反り返る身体はどうにも止めようがない。ランディはと言えば、止めるどころかこの爆音にますます興奮を煽られた様子で、むしろあたしをハンドルへ押しつけるようにのしかかってくる。
「ランディ、ランディっ!? あぁ、ランディ……っ!?」
「キャリイ、好きだよ。僕もお前が大好きだよキャリイ……っ!!」
 バアアッ、バアアアアアアッ!
 空気を引き裂く爆音の中で、ランディがあたしに捧げる声が不思議とくっきり聞き取れた。叩きつけるような激しい律動に笠の中がスパークし、またクラクションを高らかに鳴らす。我が家が山奥の一軒家で良かった。こんなこと町中でシたら、近所迷惑で怒鳴り込まれるところだ。
「ジム兄、ジム兄、あぁ、なんて雄々しいいななきなの……きっと愛を求める雄叫びなのね。私を、好きだって、叫んでるのね……! 私も、私もあなたを愛してるわジム兄ぃぃっ!!」
 クラクションと睦合うシエラの嬌声。何だかもうあたしにも、本当にジム兄が意志を持って、愛を叫びながらシエラと交わっているんじゃないかと思えてきた。
 かつて愛した雌の、そんな淫らな声を背中に聞きモニターで愛車とまぐわう様を見て、加熱したランディのタケリタケがあたしを穿ち。
 愛する男からの熱い想いを蜜壷に受けて、身悶えしたあたしが背中でクラクションを鳴らして。
 機械らしからぬ情熱を轟かせたジム兄が、チタンマフラーを妖しくギラつかせてシエラを貫き。
 愛車と結ばれ悦び咽ぶシエラが、妖艶に揺れる炎となってまたあたしたちを熱く沸き立てる。
 4ストロークでぐるぐる回るサイクルが、ピストン運動を加速させて官能の爆発を連鎖的に引き起こし、極楽浄土の彼方へとまっしぐらに向かっていく、あたしたちみんなの愛のドライブ。
「うぅ……っ!?」
 そんな狂騒も、そろそろ終着点が近づいてきた。あたしの腕が抱くランディの鼓動が、絶頂の予兆に強張る。
「キャ、キャリイ、僕、もうブレーキが利きそうにない。イきそう……」
 昨晩猛り続けたままあたしだけを散々イかせたタフな彼が、早くもレッドゾーンに到達しようとしていた。
「今夜は早いね……やっぱり後ろのシエラが刺激的だから?」
「それもあることは、みとめるけどな。何よりジム兄の中でスるのが新鮮だし、車内灯の中で見るお前も、何だかいつもより色っぽく見えて、綺麗で……あぁ、キャリイ……っ!」
「ランディ……っ!」
 ランディの想いが、タケリタケから放たれようとしているそれが、紛れもなくあたしに捧げられるものだと知らされて、笠の中でめくるめく閃光が膨らんでいく。
「イって、ランディ! あたしもイく! 一緒にイこうよ、どこまでも……っ!!」
「キャリイ、キャリイ! ああぁ……っ!!」
 さしものランディもここに至ってまで運転の続行は不可能だったようで、シフトレバーをニュートラルにしてサイドブレーキをしっかりと引き上げ、放した右手であたしを包む。ランディの上体全部に力強く抱かれて、あたしは果てしなく熱く燃え上がった。
「ランディ、愛してる……ぁああぁぁぁぁぁぁあぁ~~っ!!」
「僕もだ、キャリイ……ぅあっはああああああぁぁ~~っ!!」
 右足でアクセルを一杯まで踏み込みながら、ランディは悦びを撃ち放つ。
 生命の脈動が胎内に満ちて、蕩けたあたしの姿態がハンドル上に墜ちる。
 バォアアアアアアッ! うるぉわあああああん!! クラクションを星空に響かせてエンジンを全力全開で空回転させたジム兄が、チタンマフラーを虹色に焼きつかせたほどに情熱的なエキゾーストを噴出して。
「ぁはあぁん、ジム兄の熱いのが、私の中に一杯、一杯、入ってくるぅぅ……」
 それを火戸でたっぷり吸い込んだシエラを、身体の芯から心まで焼き尽くして悶絶させたのだった。

 ◎

 結局あたしたちには、ランディがいないとダメだ。
 ランディと一緒にするべきコトをあたしたちだけでシようとしたことが、全部間違ってた。身体中の菌糸細胞すべてでよっく理解できた。
 けど、それはシエラを抜きにしても同じ。
 きっと、あたしだってふたりにとってそうなんだ。だからもう、今回のことでランディとシエラの中が近づいたとしても怖くない。あたしの居場所は、ランディの腕の中にちゃんとあるんだもの。あたしたちは三位一体。三つでひとつ。
 ……ううん、ジム兄も入れなきゃダメだよね。ジム兄がいなかったら、あたしたちがこんなにもひとつになれるなんて分からなかっただろうし。
 四つそれぞれがみんなを支えて、四つみんなで未来へ進んでいく。
 そう、あたしたちは四つでひとつ。四輪駆動の車なんだ。

 ◎

「ねぇランディ、今夜から私、ここで寝ていいかしら? もうジム兄と離れたくないの」
 夜伽の跡を片づけてふたり一緒にキャビンを出ると、荷台にすがるように頬を寄せるシエラにお願いされた。
「そうだな。もうすっかり恋人同士だもんな……よし、車庫番はシエラに任せるか。キャリイ、シエラの部屋から寝床のクッションを運ぶぞ」
 ランディの指示を受けて、持ち出したクッションをジム兄の荷台に敷き詰める。あたしたちも一緒に、なんていうのはさすがに野暮だろう。ランディの身体にもよくないし。ジム兄だって真ん中のレバーを切り替えれば前二輪を休ませてあげられるんだから、シエラがジム兄とふたりっきりになりたい時に気を利かせてあげることだって四輪駆動車の在り方だ。
「じゃあ、お休みシエラ。いい夢を」
「うん。ありがとうキャリイ。ランディもありがとうね。私、とても幸せよ」
 荷台に身体を丸めて、うっとりと微笑みを浮かべるシエラへと、キノコの胞子を注ぐ。
 愛するジム兄の揺りかごに優しく抱かれて、シエラは金色の眠りに包まれていった。これから夢の中で、蜜月の続きに耽るのだろう。
「よし、じゃ、僕たちも行くぞ」
「うん!」
 あたしもランディの腕という荷台席に身を委ねて、あたしたちの愛の巣へと帰っていく。
「キャリイ、今夜はもう、どこにも行かないでくれよ」
「行かないよ。ずっとランディの側にいる。……あ、でも、おトイレぐらいは行かせてよね!?」
「その時は起こせよ。面倒見てやるから」
「ちょっとヤだぁ!? もう、勘弁してよランディ……」
 照れ混じりの笑い声を、交わし合いながら。
 先を進むシエラとジム兄に負けないように、あたしとランディも夢の世界へとドライブしていった。


スケベで悪戯好きな運命神第八回帰ってきた変態選手権参加作品
 『からたち島の恋のうた・飛翔編』
 ◎揺炎なドライブ・Fin◎



ノベルチェッカー結果 


原稿用紙(20×20行)】 151.9(枚)
【総文字数】 49568(字)
【行数】 1057(行)
【台詞:地の文】 25:74(%)|12496:37072(字)
【漢字:かな:カナ:他】 32:55:11:0(%)|15886:27550:5863:269(字)

あとがき [#3Uknh3O] 


 これまでも戦隊モノイルカや競馬など、ポケモン以外の趣味と組み合わせた話を何度か描いてきましたが、今回は車趣味との組み合わせに走ってみました。車好きで、無機物愛も大好きで、おまけにドラゴンも大好きとくれば、いわゆる『ドラゴンカーセックス』なるジャンルにはいつか挑戦したいと思っていたのです。
 しかし、前述の無機物愛作品で無機物にポケモンの意識を憑依させる手法はやり尽くしています。理屈のない擬人化はポケモン以外にはさせたくありません。(トリックルームトリックルームの時点で理屈が成立してますw)
 かといってポケモン側の視点で描くと、ただ車を使って自慰をしているだけになってしまいます。
 車は運転手が動かす物だから、運転手を乗せてみればと考えましたが、問題はポケモンの想いを車と運転手のどちらに向けるか。運転手に向かったら単に車をディルドにしているだけで、ドラゴンカーセックスらしさが薄まります。車に向けた場合、運転手が欲求不満になってしまいそうですね。
 ……では。
 車が好きなポケモンに運転でセックスさせてあげつつ、溜まった欲求を連れ込んだ他のポケモンと通常の『カーセックス』をすることで晴らせば、万事丸く治まるのでは!?
 かくして、ドラゴンカーセックスとカーセックスのマッスルドッキングという、有り得ない次元の扉が開いてしまったのでした。うん、色々とおかしい。

 ◎タイトルと登場ポケモン

 タイトルの『揺炎(ようえん)』はもちろん妖艶とかけた造語ですが、実はもうひとつ読み方があります。
 炎の揺らめき=フレア
 つまり今回のタイトルキーワードは、『フレアドライブ』だったわけです。内容では仮面の被りようがなかったので、せめてタイトル割れだけは避けようと捻りました。
 このタイトルから、ドラゴンカーセックスをする側のポケモンはリザードンで確定。フレアドライブの使い手でドラゴンっぽいのは他にいませんし。
 リザードンの雌雄を雌にしたのは、車のマフラーを雌性器として使うのは硬くて気持ちよさを描写しづらいと考えたため。形状的にも機能的(排出器官)にもマフラーは雄でしょう。マフラー以外にも突っ込む場所があれば逆の組み合わせも有り得ましたが。*4

 ◎キャリイ/スーパーキャリイ

 通常カーセックス側のポケモンは、何かの都合でバトルする可能性も考えて(しませんでしたが)リザードンと相性のいいタイプで、狭い室内で人間と絡める程度の体格で、視点キャラとして器用に立ち回れるポケモン=キノガッサになりました。
 テクニシャン全開モードでスーパーキャリイを名乗りましたが、実はこれも車名モチーフで、軽トラックキャリイのキャビン拡大版です。
 なお、大会時はカーセックス時にクラクションを鳴らしたのを笠にしていましたが、体格とハンドルの位置から考えると無理があったので背中に修正しています。

 ◎ジム兄

 エイプリルフールネタで紹介した通り、今回のキャラ名は全員スズキ車からつけていますが、僕はムーヴ乗りのダイハツ派です!!
 なのにスズキ車ばかりになったのはジムニーに関連する車から選んだからですが、では大元のジム兄はなぜジムニーなのかといいますと、大柄なリザードンがマフラー姦をするためには、車体が小さくて車高が高い車が最適だたからで、そういうスタイルが似合うクロスカントリー車がジムニーしかなかったんです。ダイハツ車じゃ僕の元愛車のネイキッドでも足りないし、テリオスでもビーゴでもキャストアクティバでもイメージに合わなかった。三菱パジェロミニだったら似合っただろうけど、ポケモンが自分で簡単に乗るためにはスマートエントリーが必須だったので、なるべく現役の車から選びたかったわけです。ジム兄が最新のJB64型なのもそのためです。
 車名はジムニー北米モデルの『サムライ』という案もありましたが、頭文字を揃えたかったのでインドモデルの『ジプシー』になりました。
 終始物言わぬ無機物キャラとして描きましたが、少しでも彼の意志を示せるように章タイトルは彼の一人称にしてあります。『俺はいつでも彼女を見ていた』などは、某ゼノグラシアの淫ベル氏を強く意識しましたw●REC



 ◎舞台

 冒頭のシーンでキャリイが助手席からイグニッションキーを押しやすくするためと、キャリイがシフトノブに跨がりながらアクセル操作をするため、ジム兄は左ハンドル車である必要がありました。
 これを自然にするため左ハンドルの地方を舞台にする必要があったのですが、最初はホドモエにする予定だったんです。港の倉庫といえばあそこですし。大工がドテッコツだったり、呻き声をガマガルが潰れたようなと表現したりしているのはその名残です。
 けれど、プラズマ団が蔓延ったような地方で、ポケモンと獣姦してポケセンに駆け込んで注意されるだけっていうのはちょっとないだろうと。イッシュの場合、表だってはポケモン姦を認めていないと思うんですよ。裏では余所よりガッツリヤってそうですがw
 アローラなら人とポケモンが近いから、それぐらいオープンでもありかと思いました。なお、ランディの名前ネタの都合で選びませんでしたが、カロスなら性について進んでいそうなのでポケモンとの関係も容認されてると思っています。(ちなみにガラル地方は右ハンドル車です)
 で、投稿直前に慌てて変更したので、アローラではライドポケモンが法律によって規定されていることを忘れていたとw 幸いリザードンですし、運転上手なランディならシエラにライドポケモンの資格も取らせていそうですし、わざわざ書き足さなくてもいいですよね。ね?(汗)


投票で頂いたコメントへのレス 




>>2019/03/27(水) 23:27さん
>>それぞれの種族ならではの個性が、キャラクターとしての個性もはっきり感じられ、特殊性癖ネタにもかかわらずあんな状況に至るまでがしっかり納得できて、その上変態さも濃厚! 大満足です!!!
 オチに向かって辻褄を合わせながら物語を組み立てていく手法は毎度の得意技ですが、今回は特別巨大なドミノをダブルカーセックスに向かって築き上げました。満足いただきありがとうございます!

>>2019/03/29(金) 18:48さん
>>エントリー文の○○の中身は割とすぐにわかりましたが、そこからこうも突き進んでいくとどうしようもないwww最後はいい話で終わってくれたのも良かったです。
 いい話となった要は、何といってもランディですね。あんなショッキングな場面を見せられながら、真っ先に考えたのは危険行為をしたポケモンたちの心配。その上で、シエラとキャリイを両方とも喜ばせるために全力を奮う。ふたりが慕う男だと納得できるように描いたつもりです。投票ありがとうございました!



>>2019/03/29(金) 22:49
>>エントリーコメントから何をナニするのか気になっていましたが、いざ読んでみると予想の斜め上を行く作品でした。最後にはそれぞれ結ばれる相手と結ばれたことも非常に良き!変態選手権にふさわしい作品でした! (
 ラストシーンについては最初は、もうヤることは終えたということで、ランディとキャリイをシエラが羽で包む形で寝床に入り、キャリイが過去にランディを暖めてきたシエラの温もりを知りながら眠りにつく……という方向で考えていましたが、やっぱりここまできてジム兄をひとり寝させるのはないだろうと思い直して変更しました。四輪駆動発言との辻褄合わせはどうしようかなと考えていたら、描写したのに使いどころのなかったトランスファーレバー*5が目に留まりまして、あ、ここで使うのかとw まったく美味くできてるもんです。投票ありがとうございました!



>>2019/03/30(土) 18:55
>>やられたーーー! 自分もドラゴンカーセックス考えていたのですがもうこれには敵いませんわ。本来のフェチ要素こそ薄まっているものの面白すぎるストーリー。ドライブレコーダーでバレるなど、先の展開が分かりきっているのに全く飽きることなく読めちゃいました。キノガッサ可愛いキノコの奉仕してもらいたい。ラストの四輪駆動をはじめ複数ある濡れ場も満足感があり、いやぁとてもいいものを読ませてもらいました。wikiに残る名作がまたひとつ生まれてしまったんじゃないでしょうか。
 恐縮です。趣味ど真ん中のネタなので、wikiでの先鞭は誰にも譲るまいと全力全開でぶっ飛ばしましたw 末永く皆さんの心に刻んで頂けたならなによりです。投票ありがとうございました!



>>2019/03/30(土) 21:42
>>ドラゴンカーセックス・・・。
>>芳香剤からバックモニターまで余すことなくジム兄を有効活用するとは……文句なくこの作品に一票投じます。
 ディーラーでもらってきたジムニーのカタログを眺めながら、使える物は片っ端から物語に活用しました。また、話の都合だけの装備や仕様にならないよう、車としての必然性も考えながら設定しています。(例えばバックモニターはピックアップトラックに改造したジム兄が、荷台に荷物を満載しても後方視界を確保できるように、など)

>>この映像を記録したドライブレコーダーで記録されてるんだろうなと思ったら案の定。証拠資料として提出を命じます(
 挿し絵を描いてくださる方がいたらお願いしたいですねw

>>ドラゴンカーセックスをここまで設定を織り込み変態的に書けるとは一体誰だこんなスケベで悪戯好きな運命神はw
 僕でしたw 投票ありがとうございます!



>>2019/03/30(土) 21:53さん
>>器具……器具????
>>まさかの題材に途中から笑いが止まりませんでした。そうきたか……w
 見方によっては中盤のジム兄輪姦シーンは、大型の双頭ディルドで百合ってるみたいなものですからね。器具といえば器具でしょうw

>>今回も(?)ぶっ飛んだ作品をありがとうございました!
 やっぱり内容では仮面の被りようがありませんねw こちらこそ、応援ありがとうございました!



 皆さんに応援頂いたおかげで大接戦の準優勝と健闘できました。改めてお礼申し上げます。また新たな次元を越えられるよう頑張ります!!


コメント帳 


火蛇(リザードン)「排出器官のマフラーだから雄性器だってんなら、雌性器は入れる所になるな……給油口、とかか?」
ロンシャン「やめてくれよ!? 引火したら洒落になんないぞ!?」

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歪んでいます……おかしい……何かが……物語のっ……


*1 ジプシーはスズキ・ジムニーのインド仕様車。要するにジムニー。なお、実際にジプシーとして販売されているのは2代目のSJ40型ジムニーがベース車だが、本作のジム兄は最新のJB64型をベースにしている。
*2 『宝島』のジム・ホーキンズ。
*3 ポケモンリーグができる以上将来的にはアローラにもジムは作られるだろうし、そもそもポケモンジムがリーグ関連だけとは限らない。
*4 ドラゴンカーセックスの代表的な動画では、リアハッチから荷台内に挿入している。
*5 駆動輪切り替えレバーのこと。獣化現象のトランスファーとは関係ない。

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Last-modified: 2019-04-06 (土) 08:36:51
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