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オシャレなPokedex

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注意 

 ※本作は官能作品であり、人♂×ポケモンの要素を含みます。
 ※ポケモンが服を着る描写があります。
 ※ただし、上記の服は衣服には見えない素材でできています。(←?)



「……服が欲しい?」
 当惑を混ぜた復唱で問い返した僕に、脇の側にいた相手がモジモジとした動作でコクリ、と小さく頷く。
「服って……お前の、だよな? 着てみたいのか?」
 念を押して再度問うと、コクコク、と当たり前だと言わんばかりにアンテナが揺れた。
「ポケモンのお前が服とか……っていうかお前の場合、種族柄そのフォルム自体が一種の服みたいなもんじゃないのか?」
 ぱっと聞きの違和感をまとめたこの論に、朱色の影がビリリと青白い電光を散らす。
「人間だって、下着の上に上着を羽織りますロ?」
「……言われて見ればそりゃそうか。けど、いきなり服って言われても、売っているわけもないし裁縫のスキルも僕にはないんだが」
「売ってますロ?」
「は!?」
「この前一緒に行った、駅西の大きなお店でロ。一階の奥の方で、たくさん棚に並んでましたロ? ボクに対応したのもいくつも売られてましたロ」
「あそこの一階って……あ、あぁなんだ、お前の言っている〝服〟ってああいう物のことか」
 妙なことを言われたと思って盛大に混乱したが、詳しく聞いてみれば納得行くおねだりであったようだ。
「僕的には裸運用する主義なんだけどね。これまでの〝相棒〟たちもみんなそうしてきたし」
「その結果が、あの先輩方の無惨な姿ですロ」
 平たい手が指し示したのは、戸棚の上に並べられたこの仔の先代たち――僕の元相棒たち6台。
 いずれも徹底的に使い込んだ結果、筐体中に思い出の痕を無数に刻み込んで。みんな静かに眠っている。
 もう起動させることもないが、1台たりとも手放せるはずもない、僕の大切な相棒たちだった。
「玉のお肌にあんな傷をつけられたくないから、服が欲しいって言っているんですロ! それに、ボクだってお出かけするロトきは綺麗に着飾りたいですロ!!」
「分かった分かった。そこまで力説されたら仕方ない。僕としても初めて〝話せる相棒〟になったお前とは長くつき合いたいしね。明日さっそく駅西に出かけよう。僕は今からネットで下調べするから、今日はもう先におやすみ」
「ありがロトございますロ! それではおやすみなさいロ。ケテ!」
「あぁ。今日もお疲れ様、須磨(スマ)
 頭上のアンテナをたたみ、画面をブラックアウトさせて眠りについた我が7台目のポケモン図鑑、そして初めてのロトム図鑑である須磨を枕元に寝かせた後、僕は着衣を正して布団から起きあがり、パソコンを立ち上げて検索のキーワードを打ち込み始めた。

 ☆

 ポケモン図鑑。
 ポケモンに関して人類が知りうる情報を詰め込んだ、持ち歩き式の電子手帳。
 ポケモンと関わる人間にとっての指針であり、軌跡であり、常に共に人生を送る事になる、持ちポケに次ぐ〝相棒〟。
 そんなポケモン図鑑が、近年新たなる進化を迎えた。
 電化製品に憑依する能力を持つポケモン、ロトムの能力を借りるため、専用の筐体にロトムを憑依させた、いわゆる〝ロトム図鑑〟である。
 ポケモンと人の新しいコミュニケーションの形として、自ら考え、知識を語り、行動して所有者を導く図鑑。今やポケモン図鑑は、まさしく名実共にトレーナーにとって最高の相棒となったのだ。
 否、相棒という言葉ではとても足りない。
〝伴侶〟〝嫁〟と呼んでも差し支えはないだろう。
 僕も領布開始早々に新たな図鑑を娶り、宿ったロトムに〝須磨〟と名付けた。少々気が強くて口うるさいのが玉に傷だが、何かと気の回るしっかり者で、ポケモンに関わることのみならず私生活においてもあらゆる面で支えになってくれている。
 そんな彼女――そう、本当はロトムに雌雄の別などないのだが、嫁であるからにはもちろん女の子なのである。オシャレに興味を持ったのも、彼女自身女らしく有りたいという想いからなのだろう――とにかく、日ごろお世話になっている彼女からおねだりを承ったのだ。奮起奮発してやらねば男が廃るというものだろう。
 関連商品のサイトを開き、情報を脳裏に叩き込む。
 楽しみにしてろよ、須磨。
 明日は僕の方が、お前のためのオシャレ図鑑だ!!

 ☆

 愛車を転がして一路、街の中央区へ。
 高層ビルの密林に分け入り、行き交う歩行者と路上駐車車両でますます細くなった裏路地を進んで、行きつけの大型立体駐車場に潜り込んだ。
 7階建ての螺旋回廊をグルグルと登り、3階の中程で空きスペースを見つけてバックで駐車。この駐車場は広いから休日でも大抵どこかは空いているし、料金も手頃な上に目的の店と提携していて割引があるので、中央区で遊ぶ時は毎回ここに停めている。
 須磨を連れてエレベーターに乗り、窓から見える都会の喧噪に降りていく。
 北側に面した駐車場の門から出て左――西側に向かうと、大きな同人誌店が2,3軒ほど並んだ通りがあるのだが、差し当たって今回はそっちに用事はない。っていうか、須磨と一緒に行ってエロ同人誌でも手に取ったら、電撃制裁を落とされてしまう。それでも買うべき本が出たと聞いたなら黒焦げになろうと買いに行くのだが、特に当てがない時にわざわざ痺れに行くこともあるまい。右折して東へと進む。
 最初の信号で北に左折すると、高さがまちまちの狭いビルが数軒、雑然と窮屈そうに立ち並ぶ道に出た。ビルに入っている店舗も、食堂に喫茶店に居酒屋、薬局、チケット屋、塾にカプセルホテルと、建物の高さ同様の多彩ぶりだ。
 角から3軒目、11階建てのヒョロ高いビルの門を潜る。
 細長い殺風景な廊下をまっすぐ進み、奥の右壁に設置されたエレベーターの上行きボタンを押した。
 実はこのビルの4階には、この辺の店の中でも一番お気に入りな女性向け中古同人ショップがあるのだ。女性向けと言ってもほぼ性別フリーと言うべき品ぞろえで、全年齢向け限定ということもあって極端な腐作品もなく、男の僕でも抵抗なく入れる。何よりポケモン×ポケモンや、人×ポケモンなどのカップリング作品が手に入ることも多いのが最大のポイントだ。獣八禁こそないが、掘り出し物のゲット確率は西の同人誌通りより断然こっちの方が、
「……ライトニング・ぱーぷー!!」
「うがあぁぁぁぁぁぁっ!?」
 横から強烈な電気かめ○め波を食らって、僕はエレベーター脇の壁に叩きつけられた。
 くっ……&ruby()パーヴ{完波};ならぬぱーぷーなだけあって、何という凄まじい電気のエネルギーだ。
「ケテーッ! のっけから何を寄り道しているんロト!? ここはボクたちが目指しているお店じゃありませんロ! まさかどこのお店だか、解っていなかったんロトか!?」
「いやいや、解ってるって! 大体1階って説明されてたんだから、ここと間違えていたんならエレベーターで上がろうとするはずないだろ!? 通り道にあるんだから、先に寄って行ったっていいじゃないか!!」
「ダメですロ! このお店にはオシャレな女の子がたくさん来るんですロ! ボクも負けないぐらい着飾ってから行くのでないと恥ずかしいですロ! だから早く目指すお店に行きまロト!!」
「分かった分かった。仕方ないなぁもう」
 ごめんね、と僕たちのために一生懸命降りてくるエレベーターに頭を下げて、しぶしぶビルを後にした。

 ☆

 再びビルの間を北へと進むと、道路を挟んだ向かいの並木の奥に、南北に伸びている長い壁と、ひと際巨大なビルの一群が見えた。
 遥か遠くの都市とこの地方を繋ぐ、超高速鉄道の高架線とその駅。他にも何本もの路線がずらりと列をなし、地下にも街中を巡るサブウェイの駅が複数、更にはバスやタクシーの大型ステーションまでもが併設されている、この地方一帯の心臓と言うべきターミナル駅だ。これだけの規模なので、この辺で何も付けずに『駅』と言ったら大体この駅で通っている。
 その駅と、道路を挟んで向かい合うようにそびえ立つ、宮殿めいたベージュ色の建物。
 ガラス張りの展望エレベーターが上下する柱の天辺には、白地に赤く店名のロゴが印された看板。
 ベージュの壁面に綺羅星の如く並ぶのは、いずれも名だたる大手企業の社名。
 吹き抜けとなって大きく開かれた門前には、天井から牙の如く青白い光を放つ蛍光灯の下、様々な最新式の機器が華々しい売り文句と共に所狭しと並べられていた。
 これまた地区最大級、大型の駅の隣に鎮座するに相応しい超大型電器店である。
 一階はほぼ全域がモバイル情報端末の関連商品区画となっており、入り口一帯は機器本体、奥は周辺機器の売場である。もちろん、ポケモン図鑑とその周辺機器も売り出されていて、最新型である須磨と同型に対応する製品も取り揃えられていた。
 中でも殊更に大きなスペースを割いて展示されているのが、図鑑に被せて衝撃や汚れから守ると同時に美しく飾るカバー、ケース、ジャケットの類で、
「こういうのでいいんだよな?」
「はいですロ」
 つまりここが、今日の目的地であるのだった。
「夕べ調べて、もういくつか候補の目星はつけてある。さぁて、どこかな?」
「よロトしくお願いしますロ。期待してますロ。ケテッ!」
 待ちきれない様子でウキウキと浮き上がる須磨を従えて、鈴なりに陳列された商品群の中を巡り歩く。
 第一候補を見つけ出すのに、大して手間はかからなかった。人気メーカーの銘柄だけあって、目立つ棚に飾られていたのである。
「これだこれ。おっ、サンプルも用意されているんだな。試着させて貰おう」
「試着室はどこロトか? 人前で着替えるのは恥ずかしいですロ」
「はいはい、ここまでずっと裸だったくせにボケたこと言わないの。さっさと後ろを向いて。着けてあげるから」
「後ロトを向けた隙に、くすぐったりしないでくださいロ?」
「くすぐらせないなら買ってやらないぞ」
「『疑うのなら』じゃないんロトか!? くすぐるロトを前提に言わないでくださいロ!? 」
「はいはい、冗談はこれぐらいにして。ほら」
 笑いながら促すと、ジト目になりながらも大人しく従ったので、僕はサンプルの縁をくにっと柔軟に広げ、背中から須磨に被せかけた。
「完成っと! 凄く綺麗だよ須磨。そこの柱で見てごらん」
 鏡張りになっている柱の前に須磨を連れて行き、自身の姿を見せつける。
「ケ、テ……!?」
 生まれ変わったその身に感嘆の声を上げた彼女に、僕は一夜漬けの蘊蓄を披露した。
「スッピンゲン社製『ローションクリスタル』だ。柔軟性がウリのTPU素材ケースでありながら、ハードケースにも劣らない薄さを実現。その結果羽根のような軽さと、圧倒的な透明度を誇っている。しかもケース内側に施された凹凸加工により、クリアケ-スに発生しがちなボディへのみっともない張り付きをも克服。図鑑本体の美しさを一切損なわず透かし出しつつ、かつ艶めいた光沢を加えて際立たせる! まさに図鑑ケース界のスケスケ水着!! 身につけて街を行けば、注目度アップ間違いなしだぞ!!」
「……くらえロ、(スーパー)ライジングサンダー!!!」
「ぐああぁぁぁぁぁぁっ!?」
 先刻のライトニング何とかとは比べものにならない超々高圧電流の直撃を受けて、突然僕は吹っ飛ばされた。……って、あれ!?
「な……何をするんだよ須磨、いきなり…………!?」
 呻きながら顔を上げると、アンテナを角の如く尖らせ、朱色の顔をますます紅く染めて、つり上がった眼差しで僕を睨みつけている須磨がそこにいた。
「まぁったく、何を考えているんロト!? 何なんロトかスケスケ水着って!? アンタ、ボクにこんなえっちな格好をさせてお出かけさせる気なんロトか!?」
「い、いや、えっちって言ったって、それ単なるクリアケースだし、大体これまでも裸だったんだから……!?」
「着けさせるアンタにそういう恥ずかしい思考があるロトが問題なんですロ! 女の子が着ける服なんロから、隠すべきトこロは隠させて欲しいですロ!!」
「分かった分かった。そういう希望ならもっと早く言ってくれよ。仕方ない、ローションクリスタルは諦めよう」
 すっかり機嫌を損ねてしまった須磨からサンプルを脱がせて棚に戻し、僕たちは第二候補を探して歩き出す。
「他の候補はクリアな奴じゃないから、きっと須磨も満足できると思うよ」
「本ロトですかロ? なんか怪しいロトね……?」
 警戒心満載の表情でついて来た須磨を苦笑いで宥めつつ、図鑑ケースの果樹園を掻き分ける。第二候補もまた、割とあっさり見つかった。
「よし、これだ。須磨、サンプル着けるぞ」
 素直に背中を差し出してきた須磨を、柔らかなそれで包み込む。
「DQN社製『プラスメッシュ』。TPUよりも更に柔らかなエラストマー素材で、全体に小さな穴の開けられたメッシュケースだ。エラストマーはオナホールやラブドールにも使われている素材だからな、さらっとしてて中々のつけ心地だろ? 通気がいいから熱で蒸れることもない。まさに図鑑ケース界の網タイツ!! 穴から垣間見える姿態のチラリズムが、クリアケース以上にセクシーな官能をそそり立てるぞ!!」
「……さぁ! 上げてくロ1000000ボルトォ!!」
「ぎょえぇぇぇぇぇぇっ!?」
 またしても想像を絶する電撃が、僕を強烈に打ちのめした。
「案っの定、どこも何にも方向性が変わってませんロ! むしろオナホやラブドと同じとか、なんてモノを着せようロトしてるんロトか!? 色もキツめのピンク色で、卑猥さしか感じませんロ!!」
「あ、いや、色はたまたまそのサンプルがそうだってだけで、他にもカラバリはあるよ。オナホ云々も肌触りの例として挙げただけで、メッシュケース自体が卑猥ってわけじゃ……?」
「『穴から垣間見える姿態のチラリズム』だの、『セクシーな官能をそそり立てる』だのロト言っておいて今更言い訳が通じるロトでも!? 次こそちゃんロトした服を選ばないと承知しませんロ!?」
「ここまでトンでも技を連発しておいて承知していたとでも言う気かよ!? 分かった分かった、仕方ない、プラスメッシュも諦めよう。何、まだ第三候補があるさ」
 脱がせたサンプルを渋々棚に戻して歩き出そうとする僕を、須磨はギロリと蒼い視線で睨みつけた。
「……それを探しに行く前に、どんな服なのか説明を求めたいロト」
「そこはサンプルを着けてからのお楽しみと言うことで」
「それを信じて一度ならず二度までも恥ずかしい服を持ってこられたんですロ!? いい加減石橋を壊れるまで叩きたくもなりますロ!!」
「分かった分かった、仕方ない。安心しろ、次の候補はこれまでのようなソフト路線じゃない。アルミバンパーだ」
「ケテ……!?」
 険しく締まっていた表情が、ふっと解れて前にのめる。
「ふむ……えっちな衣装ではなさそうロトね。クールで硬派な感じがするロ…………」
「惹かれるだろ? ちょっと値が張るから候補順は下げてたけどな。男の僕としては、やっぱりパリッとカッコいいのを着せたいところだぜ」
「でも、重たそうですロ? それに、ロトム図鑑がアルミバンパーを着けると電気技に干渉して悪影響が出るって噂ですロが?」
「その点も考慮して、いい候補を選んである。とりあえず着てみてくれよ」
 すっかり興味津々モードを取り戻した須磨を連れて、棚の列を離れレジ近くの一角へ。アルミケースは高級品のため、機種別とは別の区分でまとめて置かれているのだ。
「こいつだな。ちょうどいい色のサンプルもある。ちょっと装着にひと手間かかるから、じっとしていてくれよ」
 言われるまま身を預けてきた須磨を、前後セパレート式のサンプルで挟み込む。背面の四隅に開いている穴に小さなボルトを差し込み、添え付けのL字型ヘクスローブ・レンチで締め上げて固定した。
「これでよし! うん、予想通り最高だぞ須磨!!」
 完成した艶姿を柱に映し、今日ここまでで一番昂った声を弾ませて僕は言った。
「ギルドデザインズ社製『ソリッドアーマー』! 側面ではなく、細いフレームで〝辺〟をカバーする最軽量級のアルミバンパーだ。あらゆる方向からの衝撃を完璧に防ぎながら、本体のほとんどは隠れることなく赤裸々に剥き出し状態。純粋な露出度ではクリアケースやメッシュケースなどの追随を許さない! これだけ開いている上に、本体との接合部にシリコン製のクッションを敷いてバンパーと本体の接触も防いでいるから干渉も問題なし! カラーバリエーションも極めて豊富で、標準カラーに気に入ったのがなければオーダーメイドカラーも選択可能! 本体と別系統の色を選んだり、前後で別々の色を特注したりしてカラフルに仕上げる人も多いが、僕のお勧めは敢えて同系色統一! 朱いロトムの身体をアルマイトのメタリックな輝きが紅く縁取り、燃えさかる炎の如く淫猥に映えさせる! まさしく図鑑ケース界のビキニアーマー!! いや、高い防御性能と見放題触り放題を両立していることを考えると、むしろ逆ビキニアーマーと言うべきか!? 並のアルミバンパーよりも高価だが、支払う価値は十二分にある無敵最強のお色気爆発ケースだぜ!!」
「……ボルテッカー・クラッシュイントルードォォォォォォッ!!」
「げほおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
 途轍もない電気エネルギーをまとって突撃した須磨が、ソリッドアーマーの突き出した角で僕の土手っ腹を貫いた。そこマジで凶器なんですが。おお痛ぇ。
「くっ……、てっきりスパーキングギガボルトでも使ってくるかと思って身構えていたのに、まさかブロスターテッカニンブレードなんてマニアックなアニメヒーローの技を使ってこようとは……」
「謝ロ! 普通にこれらのケースを愛用している人たちみんなに謝ロトよ!!」
「いやお前が謝れよ!? ローションクリスタルもプラスメッシュもソリッドアーマーもごく健全なケースなのに、お前が変な風に意識するから悪いんだろ!?」
「アンタの解説文が非健全過ぎるんですロ! どんだけ変態妄想垂れ流しにするつもりなんですロー!!」
 怒り心頭に発した須磨と顔を突き合わせて怒鳴りあっていると、
「あの~、すみませんお客様」
 制服姿の店員に、困ったような声で制止された。しまった、ちょっぴり騒ぎ過ぎたか!?
「あ、すみませんコイツがご迷惑をおかけしまして。もうすぐ決めますので」
「原因は大体アンタの方ですロ……」
 不満げにむくれている須磨を強引に押さえつけて一緒に頭を下げると、店員は笑って言った。
「いえ、あれぐらいの言い合いはポケモンを連れてこられる方ならよくあることなので別に構わないんですが、ただ、先ほど聞き捨てならないことを言われましたので、ひと言訂正せねばと思いまして」
「え?」
 首を傾げた僕たちに、コホン、と咳払いをひとつして店員は言った。
「ボルテッカー・クラッシュイントルードをブロスターテッカニンブレードの技だと言われましたが、正しくはOVA版の『2』最終回で、ブロスター化の能力を失ったテッカニンブレードが特訓の末に編み出した技だったかと」
「ケ、ケテッ!? それはうちのバカがいい加減なことを言って失礼しましたロ!」
 果てしなくどうでもいいツッコみだった。っていうか何このマニア店員。

 ☆

 その後、幸い特に咎められることもなく無事に買い物を済ませて電器店を出た。
 一応明記するが、僕も須磨もあれだけ派手に喧嘩しながらも、周囲の商品や他の客には騒音以外の被害を及ぼさない程度の気は使っている。
「ケテ~、あのままアンタに任せていたら、今頃どんなえっちな服を着させられていたか分かったもんじゃありませんロトねぇ。ちゃんと自分で選んで大正解でしたロ!」
 と、つないだケーブルの先から嫌みをぶつけてきた須磨が身にまとっているのは、モバイル機器アクセサリー大手ラスターパージ社製のフリップ付きレザーケースだ。滑らかな質感の表皮一面に、無数の緑葉の上に咲き乱れる赤青ピンク色とりどりの薔薇の花柄が鮮やかにプリントされた『レディローズ』という女性トレーナー向け図鑑ケースである。フリップは半分に折り畳むことでロトムの目だけを覗かせることができ、展開して背中側で折り畳めばロトムが休憩するための腰掛けにも変形するという優れものである。
 機能的なのは分かる。見た目もさながら花柄の晴れ着を着こなしているようで実に可愛らしい。
 だけど、いかんともしがたく、
「……露出度低っ」
「低いのがいいんだロト! アンタ、ボクの話聞いてましたロか!?」
 振り返った須磨が、ケーブルを揺らしつつ呆れ混じりの憤慨した声を上げる。
「大体、この選択が正しかったことはついさっき証明されたばかりですロ! みんなに大好評だったでロ?」
「ま、そうだったけどね」
 左腕に下げた紙袋の重みを感じながら、僕は肩を竦めて頷いた。
 電器店を出てすぐ、僕たちは先に寄るはずだった同人誌ショップに改めて立ち寄ったのだが、エレベーターで4階に上がった途端、振り返った女性客たちの『わぁ、可愛いロトム!』と言いたげな笑顔の群れに迎えられたのである。
 いつもなら、『何で女性向け店にジジ臭いおっさんが入ってくるのよ? 痴漢? 警察に連絡しよっか?』と言わんばかりの排他的な視線をかいくぐりながらの物色になるというのに。店員さんは元々そんな分け隔てをせず笑顔で応対してくれていたが、やっぱりレジの際『そのロトムちゃん、オシャレですね』と声をかけて貰えた。自分のコーディネイトを褒められたわけではないことが少し癪だったが、須磨のおかげで普段よりずっと気分良く好みのポケモン系同人誌を多数ゲットできたことは認めざるを得ない。
「そろそろいい、かな?」
 駐車場が見えてきたところで、僕は須磨につないで貰っていたケーブルを抜き取った。
「いい加減教えてくれませんロか? それ、一体何のために買ったロト?」
 充電をしていたものに、須磨の訝しげな声が向けられる。
 須磨のケースを購入した直後、僕はエスカレーターで地下に降りてもうひとつ買い物をしていた。
 漆黒の板から伸縮する円筒――ポニー社製のコンパクトデジタルスチルカメラ『サイコショット』である。大型の特殊形状センサーと明るいレンズ、高速オートフォーカスなど暗所での撮影に適した機能を備えているとの売り文句からこの機種を選択した。
「写真が撮りたいなら、ボクのポケファインダーで充分ロト。完全に無駄な買い物ロトね。ケテッ!」
 プイッとそっぽを向く須磨。全面花柄のレザー生地で覆われたその背中には、ポケファインダー撮影用の窓が開けられていた。もちろん装着したままで撮影ができるし、邪魔なフリップを背中に回しても折り畳めば撮影可能。本当に機能的なケースである。
「お前の背中のカメラじゃ絶対に撮れないものが撮りたくなってね。そのためにこいつを買ったのさ」
「ケテッ!? 何を言ってんロトか!? ボクのポケフィンダーは万能ロ。撮れないものなんてありませんロ!!」
「あるんだなぁそれが」
「だからそれは何なんロトか!? 勿体ぶっていないで言って見ロト!!」
 食ってかかってきた須磨の膨れっ面を、液晶ファインダーの照準に捉えて、僕は、
「お前」
 彼女の背後にそひえる駐車場の、階層ごとに描かれた七色のラインが収まるようなアングルで、シャッターを切った。
「どんなにポケフィンダーの性能が優秀でも、お前に自撮りは不可能だろ?」
 ポカンとなった顔が可愛かったので、もう一枚。
 たちまち上機嫌になって決め顔を咲かせてポーズを取りだしたので、更に立て続けに数枚、僕はシャッターを切った。

 ☆

「おいで、須磨」
 帰宅後の深夜、いつものように須磨を寝床へと誘う。
 花柄ケースで着飾ったままの須磨を抱き寄せ、前面を覆うフリップをそっと開いた。
「ケテッ!」
 ケースの中で、須磨の姿態が恥ずかしげに身悶える。
 普段から裸のくせに、何恥ずかしがってるんだよ――なんてツッコみは、僕の思考から吹っ飛んでいた。
 花柄の下から現れた彼女の朱色の裸身が、開いた瞬間に立ち上った芳醇な香りと共に、強烈な魅了で僕の劣情をくすぐったからだ。
「なるほどね。フリップはフリップで、脱がせる悦びがあるってわけだ。お前、そこまで考えてこのケースを……?」
「ケテテ……」
 さすがはロトム図鑑、素晴らしい知識とナビ性能だ。僕なんかがオシャレ図鑑を気取ろうなど、百年早かったか。
 折り畳んだフリップを背面に回し、台にした上で須磨を逆さに傾ける。
 短い足を持って開くと、秘部のコネクターが銀色の輝きを妖しく閃かせた。
 小指の先をコネクターに挿れていじくれば、指先に熱い痺れが走り、須磨の小さな身体が戦慄いて仰け反る。
 あられもない格好になった彼女の痴態を、サイコショットであらゆる方向から舐め尽くすように激写した。フリップが彼女の腰を上げてくれていて撮りやすい。
 思う存分撮った後、すっかり漲っていた僕自身のプラグを剥き出しにしてコネクターにあてがう。これもフリップのおかげで丁度僕の股間と合わせやすい高さになっている。つくづく機能的なケースだ。須磨の慧眼に改めて感心しつつ、僕はサイコショットの液晶ファインダーを跳ね上げて反転させ、重なり合うふたりの身体を自撮りした。これもまた、本当によい買い物だった。
「始めるよ、須磨」
 と言っても、まさか本当にジャックするなんて、規格が違い過ぎる僕たちにできるはずもない。ローションでぐっしょりと濡らしたプラグを須磨の足に挟ませ、先端を平たい腕でぎゅっと抱かせて、僕は律動を開始した。
「うっ……うぐっ……うぅ…………」
「ケ……ケテェッ! ……ケェェッ…………」
 須磨だけにいわゆる素股だが、ただ須磨の手足で締め付けるだけではない。コネクターと四肢から迸る電流が、濡れたプラグをひと突きする度に脈打つような刺激を加えてくる。熱く滾ったプラグにコネクターを擦られて、須磨も喘ぎのノイズを断続して響かせた。
「ケ……テテッ……ボクは、ボクは…………」
 ローションと先走りの透明な滴をポタポタと顔で受けながら、譫言のように須磨は呟いた。
「ボクの、こんな姿は、アンタにしか見せたくないんですロ。他の人が見ている前では、自分を晒したくないんですロ。だから……だから、身体を隠せるこの服が欲しかったんですロト……」
 抱き締めたプラグに愛おしそうに頬摺りしながら、胸の内を語る須磨。僕もケースの上からそっと彼女の背中を撫で上げる。蒼い瞳を潤ませて、須磨は言葉を続けた。
「でも、だから……ふたりっきりの時は、アンタの望む服を着てあげてもいいロトよ……?」
「…………」
 柄にもなく、ケースの選択に我を通したことを気にしていたらしい。
 淡々と腰を振りながら、須磨の秘め事時用衣装を考えること数瞬。
「……そうか、なら、」
 カチリ、と花柄ケースの留め具に爪をかけて外し、火照った裸身を持ち上げた。
「やっぱり、裸運用が一番だな」
「ホンッロトにえっちロトね。ケテテテ……」
 口ではそう言いながらも嬉しそうな笑みを零して、須磨はコネクターの電圧をじわりと上げる。
 プラグの根本から玉袋にかけて弾け飛ぶような衝撃を味わいながら、僕はズボンを下ろした腿で彼女の朱い身体を支え、両の掌で包むように抱き締めて、プラグをはだけた下腹で彼女の前面に押し付けた。僕の全てで須磨を覆う。僕が彼女のケースであるかのように。彼女とひとつになれるように――――!!
「須磨っ! すまぁっ! あぁぁぁっ!!」
 プラグがショートし、背筋から脳裏へとスパークが駆け上る。
「いィ……イくっ! 須磨、離してっ!!」
「ケテ……ッ!!」
 暴発寸前のプラグを須磨の拘束から振り解き、最後のひと扱きを加えてとどめを刺した。
「……ぅくうぅぅ~~っ!!」
 ビュビュッ! と放った白く濃密な僕の情報体が、ねっとりと朱い姿態に記されていく。いつも出しているため勢いや量はそれほどでもなく、全て狙い外さず彼女の上に留まった。
「ハァ、ハァ……いい顔だよ、須磨…………」
 愛の証で化粧した須磨の顔に、サイコショットのレンズを向ける。恍惚とした表情のまま手を振り翳してポーズを決めた須磨の艶姿を、僕はシャッターで切り取って永遠のものにした。

 ☆

 ウェットティッシュで行為の跡を拭い取り、奇麗になった須磨の画面に、まだ息の荒い唇を重ねた。
 微かに僕の臭いが染みていたが、構うものか。
 僕はポケモン図鑑が好きだ。昔からポケモンそのものよりも好きだった。
 3台目の図鑑などは、想いのあまりをぶちまけ続けた果てに壊してしまった。思い返せば若気の至りにも度が過ぎた。さすがに反省して、それからは直接欲情をぶつける行為は自粛してきたのだけれど。
 でも、この7台目は、須磨は、気兼ねなく想いを委ねても全部受け止めて、自分の愛を込めて返してくれる。
 まさに僕にとって理想の伴侶。〝嫁〟と呼ばずして、何と呼ぶべきか。
「須磨、僕はお前を、最後のポケモン図鑑にしたい。ずっと一緒にいようね」
「ボクは貴方が望む限り、ずっとお側についていますロ。ケテ!」
 再び収まったレディローズの中で、聖母のように穏やかな笑みを映し出した須磨の画面に、
「ありがとう。愛してるよ、須磨」
 もう一度唇をつけて、花柄のフリップを閉じる。
 灯りを消し、滑らかなレザーの感触を頬に寄せて、そっと瞼を閉じた。
 夢の中でも、須磨と一緒にいられるように。



 スマホとオナホの区別が付けられない人第六回帰ってきた変態選手権参加作品
『カラタチ島の恋のうた・飛翔編』☆オシャレなPokedex・Fin☆


ノベルチェッカー結果 

【原稿用紙(20×20行)】 36.7(枚)
【総文字数】 11986(字)
【行数】 259(行)
【台詞:地の文】 41:58(%)|5011:6975(字)
【漢字:かな:カナ:他】 34:49:12:4(%)|4076:5909:1505:496(字)


あとがき 


 とりあえずまず、弁解をさせてください。
 前回の変態選手権で使ったネタは割とシャレになっていませんでしたが(その時点で色々手遅れなのも自覚していますが)、さすがに今回のはシャレです。そりゃスマホにオカズを表示することぐらいはありますけど、いくらなんでもスマホ自体に欲情をぶちまけて破壊とか、そこまで人間として終わっていません。
 本当です。信じてください。本当です!!

Xperia&窓際.jpg
Xperia&ケーキ.jpg


 ……いやまぁ、ソリッドバンパー(ビキニアーマー)を着せて被写体にしているところは実話なんですけど。
 ちなみにカメラはコンデジではなく旧愛機のアクオスフォンセリエSHL22で、小説も旧愛機の方で描いてます。実用性では旧機の方が上なので。スペックと、何よりルックスでは断然写真の新愛機XperiaZ5が勝ってますけどねw
・須磨「アンタやっぱ完全にアウトですロ……」

 ★

 こんな趣味なもので、ロトム図鑑の存在を知った時点で、これはスマホネタを転用するしかないと思っていました。
 ヒロインロトムの名前〝須磨〟はもちろんスマホのもじりです。執筆当時サン&ムーンを始めたばかりでしたので、ロトム弁の情報が少なく手探りで描いていました。本来性別なしのイメージからボクっ娘にしたのですが、幸いにして公式一人称もボクで大正解でしたw
 舞台はN駅西がモデル。あちこちで出身地をバラしていますので隠すのも今更ですが一応。ちなみに県庁所在地だがね。電器店も同人ショップも駐車場も実在しているので、地図で確認されたら大体バレますw 実は駐車場で降りてすぐの交差点を東ではなく北の裏路地に進んでいれば電器店への近道だったりするのですが、どうしてもM輝堂に寄り道したかったんですw
 また、登場させた商品も、すべて実在するメーカー名と銘柄をもじったものになっています。
 スッピンゲン社製ローションクリスタルは、Spigen社製リキッドクリスタルから。
 DQN社製プラスメッシュは、DAQ社製AndMeshから。
 ギルドデザインズ社製ソリッドアーマーは、僕もXperiaに着せているギルドデザイン社製ソリッドバンパーから。ちなみに社名が複数形なのは、ウレタンドールメーカーのハルミデザインズと混ぜているからですw
・須磨「ほんっロトに区別がつけられないんロトねぇ」
 ラスターパージ社製レディローズは、ラスタバナナ社製プリンセスローズから。
 そしてコンデジのポニー社製サイコショットは、ソニー社製サイバーショットから、RX100系列をモデルにしています。実はハンディカムは持っていてもサイバーショットは未所有なのですが。前述の通りスマホはXperia、PCはVAIOと割とソニ吉ですw
 技に関しては、ものがロトム図鑑だけに普通じゃないものを、ってことで、最後のテッカ○ンブレードを除き有名ポケモン作品から印象的な技を引用しました。ぱーぷーはのアレ、超ライジングサンダーはポケスペ金銀編*11000000ボルトはアニポケOP『XY&Z』の大サビからです。


投票時に頂いたコメントへのレス [#1Y1z76S] 


>>2016/12/20(火) 06:15さん
 コメントが頂けず残念でしたが、投票ありがとうございました!

>>2016/12/22(木) 00:23さん
>>読み終わってみれば「官能あったっけ?」ってくらい大爆笑しました。濡れ場で。駐車場であんなカッコよかった主人公どこいったよ、って感じでw
>>そんなわけで官能は蛇足かも、と思ってましたがカメラを使ったプレイが印象深く、今大会1番記憶に残った作品です。リズムの良いギャグに終始笑わせてもらいました。
 あとがきでも書きましたが、須磨をカメラで撮ったのは、愛機Xperiaを被写体にしている僕の趣味に基づいたものでした。しかしカメラの出番がそれだけだと浮いてしまうので、官能でもハメ撮りに活用したのです。ネタはしゃぶり尽くすのが信条ですw 官能場面と本編との連続性を強めるのが狙いでしたので、まさしく我が意を得たりのご感想でしたw

>>3DSの下画面がいかがわしく見えてきました。プラグインはしませんが、読了後しばらく突っついておりましたよ。
 趣味に巻き込んでしまったなら、フェチ系変態小説としては本懐ですw お楽しみ頂きありがとうございました!

>>2016/12/23(金) 17:25さん
>>恥じらう須磨が可愛い
 ありがとうございます。身近な存在が意外な魅力を魅せるとときめいてしまうものなのですw

>>2016/12/23(金) 20:21さん
 こちらも無言の感想でしたが、投票ありがとうございます!

>>2016/12/24(土) 09:35さん
>>変態選手権の名に恥じない素晴らしい作品だったと思います(?)
>>発想があまりにもぶっ飛んでましたがよくよく読んでみるとこれはこれで……うん……?
 読み終わった後で最初から見ればお分かりと思いますが、冒頭の場面も実は事後のピロートークだったりします。お盛んなことですw 投票ありがとうございました!

>>2016/12/25(日) 22:19さん
>>スマホカバーならぬロトム図鑑カバー。物語の節々で笑わせていただきました。まさに発想の勝利ですね。
 ぶっちゃけ愛機ペリアさんにあんなこととかこんなことしたらと妄想した結果がこの夫婦ドツき漫才だったのでしたw ご評価ありがとうございます!

 正直今回はひたすら趣味に暴走しましたので(毎回って気もしますがw)無投票も覚悟していましたから、予想以上に評価を頂き大変喜んでおりますw 今後も魅力的なポケモンを描けるよう頑張ります!!


コメント帳 [#2ciCC7o] 


ビーズ「これが詳細不明だったホールロトムの正体なのっ!?」
・須磨「違うロ! ……違うはずですロ!? 違うと……思いますロ。…………違いますロね?」

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*1 元々はポケモンカードのライコウの技。後にポケスペでは、ボルテッカーと同一のものだったという設定が加えられている。

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Last-modified: 2017-01-21 (土) 21:49:55
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