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揺炎なドライブ・トリックルーム

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 ◎『揺炎なドライブ』の自己パロコーナーです◎



揺炎なドライブ』トリックルーム 

揺炎なドライブ・和狸版 

大会は終了しました。このプラグインは外して下さって構いません。
ご参加ありがとうございました。

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エントリー作品一覧



 ◎注意◎

#rt1WQjZ本作は官能小説です。カーセックスの描写があります。
・本作にはポケモン小説らしからぬ描写が多々ありますが、どうかご容赦のほどを。





 あたし、キャリイ!
 小さな身体におっきな荷台の軽トラック。ボディカラーは〝ガーデニングアクアメタリック〟っていう明るいミントグリーンよ。
 狭い路地でもスイスイ進んで、街の隅々まで荷物をたくさんお届け。今日も元気に仕事をこなして、ビルの合間から射す夕焼けを空っぽの荷台に受けながら、足取りも軽く会社へと帰る途中なの。
「あっ!?」
「きゃあっ!?」
 キイィィッ!! 双方のブレーキが甲高い悲鳴を夕空に響かせた。危ない危ない、大通りに出ようとして、横からきた車と衝突しそうになっちゃった……あ。
「だ、大丈夫? 怪我はない?」
 こちらを覗き込んでいたのは、クールベージュメタリックを夕映えで金色に染めた背の高い車。会社の同僚である1BOXワゴン、エブリイランディさんだった。
「う、うん。ちゃんと止まれたから。ごめんなさい、あたしったら一時停止しないで飛び出しちゃって……」
「いや、僕もぼんやりしてたから。何事もなくてよかった。もう仕事帰り?」
「あ、うん。会社へ戻るところ」
「僕も派遣さんを家に送り届けて戻るところだよ。一緒に帰ろうか」
「うん……」
 路地を出たあたしは、先導する彼の後ろについて大通りを走り出す。
 風を切るルーフエンドスポイラーの下、ベージュ色のバックドアの真ん中で、ルビー色のコンビランプを真一文字に結ぶメッキガーニッシュが眩しい。
 それ以上に、メッキに写ったあたしの、作業車じみた貧相な姿を見せられるのが心苦しい。 
 だけどそんな姿を、彼の横長のヘッドランプに晒すなんてもっと有り得ないから、前になんて出られない。仕方ない、車間距離を開けるしかないよね。
「どうしたの? もっと近くにおいでよ」
 隣の車線に移ったエブリィランディが、ハザードをチカチカ点滅させてあたしを誘ってる。ついて後ろに回るのも避けてるみたいで失礼だもん。お言葉に甘えよう。
 シャープなメッキモールをバンパーに飾ってつんとクールに突き出した彼のボンネットに、頭でっかちに張り出したあたしのキャブを並べる。間近に聞こえる1300ccエンジンの鼓動に、あたしの660ccしかないエンジン音なんか消し飛ばされそう。
 なるべく離れるように車体を路肩の方へと寄せて、あたしは言った。
「こんな風に並んで走ってるの見られたら、シエラに誤解されちゃうよ……?」
 シエラは会社でランディといつも一緒にいる、オフロード車のジムニーシエラだ。JB43型らしい角の取れたセクシーなボディラインの持ち主で、バンパーやフェンダーもボディと同色のフェニックスレッドパールに塗装したお洒落な女性。何より彼女も1300ccで、軽のあたしなんかより彼とお似合いなのは誰の目にも明らかだった。
「ジムニーシエラとは、ただの幼なじみだよ」
「そうなの? だって、あんなに魅力的な娘なのに……?」
「僕には、シエラより君の方が魅力的に見えるけどなぁ」
「…………えぇっ?」
 サスペンションを揺らがせたあたしを、ランディのポジションランプが妖しく照らす。
「慎ましく揃えられたホイールベース。*1無駄を削ぎ落とした機能美に溢れる車体。ボディカラーのアクアメタリックも爽やかで、とてもキュートだよ、キャリイ」
「そんな、お世辞言わないでよ!? あたしなんて、軽の作業車だし……!?」
「君は自分の魅力に気づかなすぎだよ。僕はずっと、君を見てたのに」
「ランディ……」
 彼の車体が、そっとあたしの方に寄ってきた。人間7人をゆったりとくつろがせられるファブリックのシートがサイドウィンドウ越しに見えて、思わず身を委ねたくなりそう。
 だけどハッと我に返って、あたしはキャブを振った。
「だっ……ダメ、見ないでよ!? あたしの車内(なか)なんか、恥ずかしい……!?」
 彼の内装が見えるということは、ランディにもあたしの内装が見えてるってことじゃないの。外観をどんなに誉めてくれたって、内装の品質じゃ安物の軽と普通車の差は歴然。フォローなんてできっこない。
「恥ずかしがることなんかないよ。内装だって、君は素敵だ」
「もう、からかいすぎよ!? いくらなんでもそんなわけないじゃない!? ピラーや内壁なんて、ろくに内張りもしてなくて地の塗装が丸出しなのよ!? インパネだって飾り気も何もないのに、魅力なんてあるわけが……!?」
「綺麗だ」
 けれどあくまでも、ランディは宣言する。
「内側まで爽やかなアクアメタリックに溢れて、吸い込まれそうだよ、キャリイ……」
「…………!?」
 思わずエンジンを空吹かし。茫然と向けた横目に、クールベージュの色彩が広がる。
 コツン。
「あ……っ!?」
 実際、思いっきり近寄られていたようだ。バンパーに感じた衝撃は僅かだったが、エアバックが暴発するかと思った。
「ご、ごめん、当たっちゃった。大丈夫!?」
「う、うん……」
 あまりのことにフロントウィンドウが曇りそうだ。動揺から逃れるようにワイパーを揺らしていると、ふと背景の一点を捕らえた。
「ん?」
 ランディもそちらを振り返り、そしてそこを見つめる。
 道を逸れた陰にそびえ立つ、自走式の大型立体駐車場を。
「……会社に戻る前に、ちょっと休んでいこうか?」
「…………うん」
 夕日がリトラクタブルライト*2を閉じるように沈み、空中に星灯りのハザードが瞬きだした。



 ◎



「キャリイ……」
「ランディ……」
 薄暗い駐車場の片隅で、あたしたちは甘く呼び合う。
 彼の前輪が力強くステアリングして、あたしの車体を優しく転がした。あおり*3のロックを外して開きペタッと床を積載すると、4つのタイヤが宙を掻く。
 剥き出しにったフレームシャーシを、エンジン音を昂らせたランディのヘッドライトが煌々と照らし出す。
「あぁ、ランディ……」
「凄くドキドキするよ、キャリイ……乗って、いいよね?」
「いいよ。きて……」
 彼の前輪が、あたしの後輪に触れる。後輪を逆回転させると、歯車が噛み合うようにランディの車体があたしのシャーシに乗り上がった。ランディの後輪がゆっくりと前進し、あたしも後輪の逆回転を強めて上に乗ったランディのシャーシを前へと送る。二台のシャーシが完全に重なり、ふたつのエンジン音が至近距離で向かい合った。
「ハァ、ハァ……気持ちいいよ、キャリイ」
「あたしも……とても幸せよ。ランディ……」
「動くよ。激しくするけど、我慢してね」
「大丈夫。ランディのこと、大好きだもん……」
 呻りを上げて加速を増した彼の後輪が、あたしの後輪とぶつかり弾む。猛回転するプロペラシャフトが擦れ合い、激しい火花を二台の間に捲き散らした。
「ああああぁぁ……っ!?」
「あぁ、熱いわ……あなたはこんなにも熱いのね、ランディ。ガソリンタンクに引火して爆発しそう……」
「フフ、そうなったら、僕も一緒に火達磨だね。それもいいかな……?」
「うん……いいね。一緒に燃えよう、ランディ!」
 もう止まらない。エンジンが全力回転し、ラジエーターの限界を越えて白煙を昇らせる。火照ったマフラーから勢いよく噴出したエキゾーストがつむじを巻いて混ざり合う。サスペンションが軋む度に、互いのタイヤやフレームが複雑に絡まっていく。
「あぁ、イくよ、イくよ、キャリイィィィィ~っ!?」
「あたしもよ。ランディ、愛してる。あ、ああぁぁぁぁあぁ~っ!?」
 スクラップ置き場の鉄屑みたいにペチャンコになりながら、あたしとランディはどこまでも深く愛し合った。



 ◎



「あぁ、ランディ……」
「キャリイ、もう離さないよ。ずっと一緒にいようね……」
 二台で星空を眺めながら、蜜月のクールダウンにしっとりと浸る。
「そろそろ、会社に戻ろうか?」
「うん……」
 名残惜しさにリアバンパーを引かれつつも、体勢を直してあおりを整え、あたしたちは駐車場の出口へとフロントグリルを向けた。
 その時だった。
 るおおおおんっ!
 突然エンジン音を轟かせて、一対のヘッドライトがスロープを上がってくる。
「!?」
 ライトの向こうに目を凝らすと、浮かんできたのは朱色の色彩と、大きく力強いオフロード車のタイヤ。
「シエラじゃないか!? どうしてここに!?」
「あなたたちが遅いから迎えにきたら、この駐車場に灯りが点いていたからもしかしたらと思って。……お楽しみだったみたいね?」
 からかうような声にくすぐられて、ランディと一緒に気まずげにライトを明後日の方角へ向けていると、ジムニーシエラさんはあたしに話しかけた。
「ところでキャリイ。あなたにお客さんよ」
「え……あたしに?」
「えぇ。さぁ、降りていいわよ」
 キャブを傾げたあたしの前で、シエラはドアを大きく開く。そして。

「悪ふざけもいい加減にしなさいよあんたらぁっ!?」

 罵声と共に飛び出してきた小さな影に、あたしはゲッとクラクションを鳴らした。
 黒い眼ををつり上げてこちらを睨んでいるのは、緑の傘を頭に翳したキノガッサ。
 続いて栗色の髪をした人間の男性。更にシエラの後ろから、朱色の翼を羽ばたかせてリザードンが飛んでくる。
「まったく、いくら名前の元ネタだからって、年度代わりのドサクサに紛れて作品を乗っ取らないでよ!? ここはポケモン小説wikiよ!? ポケモンと関係ない自動車がラブロマンス語ってんじゃないっての!?」
「そ、そんなこと言われたってぇ……いいじゃん年に一度暴走するぐらい!?」
「暴走というより脱輪してるでしょあんたらの場合はっ!? さぁさぁもう満足したならさっさと行きなさいこのスズキ車。言っとくけど作者はムーヴ乗りのダイハツ派だからねっ!」
「だったらどーしてあたしらの名前をあんたらにつけたぁっ!?」
 抗議の声も虚しく、あたしとランディはレッカー車に吊されて舞台から引きずり降ろされていった。



 和狸のエイプリルフール企画参加作品
『揺炎なドライブ』Ver.トリックルーム
 ◎Fin◎




◎あとがき◎



 皆様の応援のおかげで、第八回帰ってきた変態選手権は準優勝をいただきました。ここまでポケモンとまったく関係ない変態話に6票ももらえるなど奇跡としか言いようがありません。
 ……そんなわけありませんで、エイプリルフールの悪ふざけでしたごめんなさいw
 そもそも、本編はカーセックスを主題とした物語でしたが、カーセックスという言葉には3つの意味が含まれます。

①・車中でのセックス
②・車と対象のセックス
③・車同士のセックス

 しかし本編では、①と②のふたつしか合体できておりません。より完璧にカーセックスをコンプリートするため、車同士のセックスを主題にしたのが今作となります。*4
 ついでに本編キャラたちの元ネタとなったスズキ車たちの紹介という意味も含みますが。*5



 ◎ランディ◎



 2019年4月現在『ランディ』の車名で販売されている車は、日産セレナにスズキのエンブレムをつけたOEM車です。
 スズキの軽1BOXエブリイの普通車版エブリイランディは先代であり、ジャンルは似ていてもまったく素性の違う車です。
 ではなぜ今作のランディは先代の方なのかと言いますと、そもそもジム兄のベース車であるジムニーを基準に、関わりの深い車からキャラ名をつけたことに由来します。ジムニーの普通車版(もしくは豪州仕様)であるシエラ、エンジンなどを共用している軽トラキャリイ、キャリイの1BOX乗用車版であるエブリイの普通車版ランディといった具合に。つまり本編のランディからして、元々エブリイランディからつけた名前だったわけです。
 また、エブリイランディは後輪駆動車ですが、現行ランディは前輪駆動車なので、マウントさせても動かしにくいしプロペラシャフトもないから、という事情でもあります。(4WDにすれば済む話ですが)
 ちなみにカラーをベージュにしたのは、本編のランディが栗色の髪をしていたからでした。



 ◎シエラ◎



 今作のジムニーシエラは3代目ジムニーをベースとするJB43型。本編のジム兄である4代目ジムニーをベースとしたJB74型ではありません。
 これもなんで先代なのかというと、現行ジムニーシエラの公式ボディカラーにリザードンらしい赤系がなかったというのが主な理由です。先代のフェニックスレッドパールはイメージにピッタリでした。先代の方が角が取れていて女性らしいという意味もありますが。


肉欲優先にはわけがある 




「いい匂いだよ、キャリイ。身体の香りでは、シエラよりお前の方がずぅっと魅惑的だ……」
「はひゃああぁぁっ!?」
 あぁ、気持ちいいよぉ嬉しいよぉ幸せだよぉ。膨れ上がった至福の爆発に、たちまち愛液が蜜壷に溢れ満ちる。
 けれどこれで墜ちるものかと、あたしは蕩けかけた笠を立て直して最後の抵抗に挑む。
「もう……ランディったらぁ、匂いがいいだなんて、結局ランディはあたしのカラダしか評価してないのねぇ……?」
「そりゃお前がシエラとの比較を訊いてきたからな。『進化する前は同じくらいの背丈だったんでしょ』とか何とか」
 うん。ランディの失言を引き出すための質問だもん、身体的な比較に偏らせたのはこっちの思惑通り。そこをツッコむなんて言いがかり以外のナニモノでもないけど、それでもランディが隙を見せてさえくれれば……っ!?
「内面でいうなら、いつも元気で直向きなお前は最高に可愛いよ。それこそシエラとの比較なんかする余地あるもんか」
「はふぅぅぅぅ……っ!?」
 やっぱそうなるよねぇ。内面に話を振ったが最後、ランディがあたしをシラケさせることなんか言うわけないなんて分かりきったことだった。
 ダメだこりゃ。もう極楽浄土に堕ちるしかない。シエラには今夜は諦めてもらうしか……。
「あと、一人称小説だと主人公の身体描写が薄くなるから、僕視点からの評価を挙げておく必要もあったからね」
「メタいよっ!?」
 あ、メロメロが解けた。


イーブイだからね 




 ランディが一週間ほど、ウラウラ島に出張する事になった。
 ポケモンリーグの倉庫を仕訳する手伝いなので、仕事のパートナーである私とキャリイも当然同行するのだが、あいにくとフェリーの都合がつけられなかったため、我が愛しの恋車ジム兄はお留守番である。鱗寂しいが、一週間だけの辛抱だ。
 マリエシティの社宅からラナキラマウンテンまで通うのに、私が運んでいっても良かったのだが、フェリーを手配できなかったお詫びにと会社がレンタカーを用意してくれたので、利用させてもらうことになった。
 ジム兄と同じく、荷台に屋根のないピックアップトラックのオフロード車。ボリンジャーというメーカーの『B1』*6という車種だそうで、ジム兄以上にひたすら四角く角張った、殺風景なまでにシンプルなデザインの車だ。横幅が広くて運転席と助手席の間が離れているのでキャリイも不満顔だが、私とジム兄の距離よりはずっと近いのだから一週間ぐらい我慢してほしい。第一、広い分だけキャビン内でいちゃつくのはやりやすいだろうに。
 ところでこの車、不思議なことにボンネットの中身ががらんどうなのである。そこだけでトランクに使える他、センターコンソールとバックドアのパネルを取り除くと、車内に長い角材などを積めるトンネルができあがるそうだ。一体エンジンはどこに? シフトチェンジとかサイドブレーキとかのレバーはどこに行っているの? 駆動音も妙に静かだし、まるで魔法で動いているみたい。
 なんだか凄く気になる。
 ジム兄とは一週間も会えないわけだし、ちょっとぐらい興味を持ったって。
 何ならお近づきの印に、ちょっとぐらいご奉仕してあげたって、いいよね……?
 胸を躍らせて、私はリア側から車体下を覗き込んだ。

 ……?
 …………!?

「ランディ大変!? この子去勢されてるわっ!?」
「マフラーだったら、元からついてないぞ」
「え!? お、女の子だったの……!?」
 腹を抱えて大爆笑された。
 説明によると、B1さんは電気自動車(EV)で、エンジンではなく車体下に積まれた小型のモーターで駆動するので、排気もしないからマフラーもいらないらしい。
 やっぱり雌なんじゃないだろうか。デンリュウ辺りが、喜んで充電していそうだ。


金色の眠りから覚めて 

*7



 いつもの港の作業現場。桟橋へと送るパレットを梱包していると、
「……あれ? モンスターボールどこやったっけ?」
 バッグの中を覗きながら、ランディが首を傾げた。
「ランディ、今朝修理を頼まれてたパソコンを事務所に運ぶのに、バッグを空けるために中身を外に出したよね? その後駐車場に戻らないで直接職場にきちゃったから……」
「あ、そうか、他の物も全部ジム兄の中か。しまったな。お客さんも急いでるし、仕方ない。このパレットだけ桟橋に運んだら、シエラに駐車場に飛んで取ってきてもらうか」
 やむを得ず、ランディはあたしを肩に抱えてフォークリフトを桟橋に向ける。羽ばたくシエラがその後に続いた。

 ◎

「ちょっと何なんですかこれ……!?」
「すみません、急いで船から降ろしたもので。後をお願いしますね」
 ランディが上げた呆れ混じりの抗議に、相手の作業員が申し訳なさそうに弁明したが、だったら自分たちで目の前のこれを何とかすればいいだろうに。
 桟橋上に縦に積み上げられた三つのラック。船上で三段重ねにしてリフトで運び出したらしいが、置いた拍子にかラックの枠が外れて傾いている。おまけにラッピングまで解けかけていて、今にも中身が海に落ちそうだ。慌てて置いてどうにもできなくなったんだろうが、後始末をあたしたちに押しつけるとか無責任にもほどがある。
「中身は薬品ですので、海に落とさないように降ろしてくださいね。落ちたらダメになっちゃいますから」
「中身をダメにしたくないなら、船から降ろすときにもっと慎重にしてくださいよ」
「いや、ダメになるのは中身より、むしろ海の方なんですけど」
「なお悪いじゃないですか!?」
 どんな危険物を雑な扱いしてるんだか。
「文句を言っている時間が惜しいわ。私が支えるから、早く降ろしてしまいましょう」
 翼をひと打ちして、シエラがラックへと飛ぶ。ランディも渋々フォークリフトを走らせた。
 だが、ラックに辿りつくよりも早く、一陣の突風が桟橋を吹き抜ける。
「あっ!?」
「いけないっ!?」
 ガツン、と上段のラックが揺れて、ラップが引きちぎれ段ボールの箱が崩れて倒れる。
 ギリギリで間に合ったシエラがラックに取り付き、身体を張って荷物の崩落をくい止める。
「く……っ!?」
「シエラ、今行く! もう少しだけ持ち堪えてくれ!!」
 賢明にリフトを加速させるランディだったが、ラップの裂けは見る間にどんどん広がっていく。
 ついに段ボールの一個が、ラックから海に向かって滑り落ちた。咄嗟に延びた朱色の手がそれを掴まえる。だが、元々無理のあった姿勢が、その動作で完全に崩壊した。堰を切って雪崩落ちる数十個の段ボール箱に、朱色の翼が飲み込まれる。
「もう、ダメ……きゃあぁっ!?」
「もういい、戻れ、シエラ……あっ!?」
 せめてシエラだけでも助けようとバックを探ったランディの表情が凍りつく。そうだった。今日に限ってモンスターボールは忘れてきたのだ。
 劇薬入りの段ボール箱と一緒に、シエラの炎が海に落ちる。あたしが手を伸ばしても届かない。絶体絶命。
「シエラーーーーっ!?」

『トランスフォーーム!!』

 ギゴガギゴッ!?
 謎の叫びと軋み音が遠くに響き、ライム色の疾風が桟橋を貫く。
 飛来した巨大な影が、今にも波に泡を立てようとしていた段ボールとシエラとをまとめて腕に抱え、重力を逆転させたかのようにラックに戻して立て直す。更にラックを凄まじい怪力で掴み上げると、崩すことなく桟橋に降ろした。
 すべてを収束させた救世主は、放心したシエラを胸に抱いて、ランディの乗るフォークリフトの前へ。改めてその姿を眺め見る。
 身の丈5mぐらいの人型。胴も手足も鈍く光る金属で構成されている。光沢を帯びた銅像のような表情は、黒目のない相貌にも関わらずどこか柔らかな暖かみを帯びている。胸や両腕、脛などは直線的な鋼板で鎧のように覆われていて、鋼板を彩るラメの入ったライムグリーンは……あたしたちの慣れ親しんだ色をしていた。
「シエラ!? 無事か!?」
 弾けるようにリフトを降りて駆け寄ったランディに、巨人は、
『怪我はしてねぇみてぇだ。大丈夫かい?』
 野太い男の声で、穏やかに懐のシエラに語りかける。
「あ……はい。ありがとうございます。あの、あなた、は……?」
『俺かい?』
 陶然と相手を見上げながら呟くように訪ねたシエラに、彼は言った。

『俺はただの、超ロボット生命体さ!』

 ……いや、『ただの』て。
『おっと相棒、忘れもんだ。よっと』
 脇に手を突っ込んで彼が取り出したのは、ふたつのモンスターボールをはじめとするランディの私物。ジム兄の車内に置いていったはずのそれらをなぜ彼が……!?
「あ、あぁ。どうも……」
 呆気に取られた表情で、ランディは荷物を受け取る。
 抱えていたシエラを優しく降ろすと、彼はそっとシエラに顔を寄せて甘く囁く。
『いつも気持ちよくしてくれてありがとよ。愛してるぜ、シエラ』
「え……っ!?」
 戸惑いを含んだシエラの声は、チュッと弾んだ音色に遮られた。
『それじゃ、俺はこれで。これからもよろしくな。シュワッ!!』
 脳味噌真っ白に固まったあたしたちを後目に、巨人はひらりと身軽く桟橋を蹴り、ジェットの轟音を轟かせて一瞬で水平線の彼方へと飛び去っていった。
「何……だった、の? いったい…………!?」
「さ、さぁ…………?」
 いや、正体については滅茶苦茶分かりきってるような気がしないでもないが、口にするのがひたすら怖い。
「素敵……」
 幸せそうに吐き出したシエラの言葉が、潮風に乗って流れていった。

 ◎

 その後。
 駐車場に行ってみたら、ジム兄は当たり前のごとく普通にそこに駐車していた。
 ボンネットの隙間にラップの切れ端みたいなビニール片が挟まっていたが、あたしはもう深く考えないことにした。
 

『揺炎なドライブ・和狸版』トリックルーム 

至高なる終焉 




「さぁさぁもう満足したならさっさと行きなさいこのスズキ車。言っとくけど作者はムーヴ乗りのダイハツ派だからねっ!」
 高圧にあたしたちを排除しにかかったキノガッサの言葉を、しかしあたしはフロントグリル先で笑い飛ばす。
「フッ、甘いわね。そんな理屈、ランディやシエラ相手ならともかく、このあたしには通用しないわ!」
「? あんた何を言って…………えぇっ!? ま、まさか……っ!?」
 キノガッサの視線が、あたしの正面、フロントウィンドウのすぐ下に収束する。
「どうやら、気がついたようね」
 あたしはそこにあるメッキエンブレムを駐車場の蛍光灯に輝かせた。
 鮮やかな曲線を描く、〝D〟のエンブレムを。
「そう。あたしは〝キャリイ〟なんかじゃない。ただそう名付けられ、ガーデニングアクアメタリックにオールペンされただけの、ハイゼットトラックだったのよっ!!」
「キャブオーバー*8の軽トラだってこととボディカラーしか描写されてないからって都合のいいコト言ってじゃないわよっ!? ますます誰もついてこれなくなるでしょーがっ!?」


コメント帳 


・キャリイ(キノガッサ)「ところであんたら、運転手はどうしたの? あとセックスって、ナニをナニに挿入してたのよ?」
・キャリイ(軽トラ)「エイプリルフールの冗談に真面目にツッコまないでよ……」

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お名前:

*1 タイヤの前後の間隔のこと。広いと安定性が高く、狭いと小回りが利く。
*2 古いスポーツカーなどに採用されている展開式のヘッドライト。
*3 トラックの荷台の三方を囲む枠板のこと。
*4 「嘘の上に嘘を重ねるなっ!? 本来は①の意味しかないわ!?」
*5 「どう見てもそっちが本命です」
*6 2019年中に北米で発売予定の車。日本での販売予定は2019年4月現在ない。
*7 タイトルは某タカラトミー逆輸入アニメの初代OP歌い出し。
*8 運転席が前輪の軸より前に出ている車のこと。前輪軸の上に席を設けることで足下の空間を稼げるほか、全長が決まっている軽規格だとホイールベースを短くできるというメリットもあるため、現行の軽トラはだいたい採用している。このため、形状の描写だけで軽トラの車種を描き分けるのは非常に難しい。

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Last-modified: 2019-04-07 (日) 21:42:43
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