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小話まとめ

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作成者文書き初心者
某所で公開したもののまとめ。一部官能描写があります。ご注意下さい。


CPデンリュウ×ライチュウ小話 せいでんき 



 くっついたらはなれる。はなれたらくっつく。
 自分でもよく分からないと感じている。どうしてライチュウなんかと。 僕やライチュウの特性、せいでんきの所為にしたい。
 自分の特性があるから同じタイプであるライチュウに出会ってしまうんだと。そしてその度に、色々言い訳を重ねてライチュウから離れていって。
 だけど、最近になって自分の本当の気持ちに気付いてしまった。僕は心の底では――。
 僕は彼女が離れるのが怖くて、あと一歩が踏み込めない。でも僕が離れると彼女が近づいてくるのに安心してる。どっちつかずな関係を維持するせいでんき。


熱せず冷せず小話 バクフーンの日 



「なあなあ、今日は何の日か知ってるか?」
 真夏の真っ昼間にバクフーンは俺に訊いてくる。
 知るかよ、と言って適当にあしらうとバクフーンは何だよ冷たいなあ熱くなれよと言ってしつこく俺に構ってくる。だから余計に体感気温が上がって暑苦しい。
 バクフーンが鬱陶しいので俺は仕方無く考える事にした。
 特に今日は何も無い日の筈である。バクフーンの誕生日では無いし、俺の誕生日という訳では無い。
 何とか思い付く事といえば、今日はいつもと変わらず暑い日である事だ。それくらいしかないだろう。
「暑い日ぐらいしかないだろ。それ以外に何があるのさ?」
「失礼だな! 今日はオレの日なんだぞ!」
 オレの日ねえ……。
 俺は部屋に飾ってあるカレンダーを眺めた。すると今日の日付は八月九日だった。
 長期休暇に入ってからというものの曜日感覚はおろか日付感覚も無くなっていた。
 八月九日。はっく……いや違うな。はく…はちく……。
 どれもぴんと来ない語呂合わせ。バクフーンと八月九日なんだから……。
 漸く俺は気付いた。バクフーンがオレの日って言う意味が。
「……ああ、八月九日でバクって読んでるのね」
「そう! だから今日はバクフーンの日、つまりオレの日って事だ」
 俺がバクフーンの日だと分かり、嬉しそうにするバクフーン。上機嫌にふんふんと鼻唄まで歌う。
 それにしてもバクフーンはよく思い付いたな。八月九日がバクフーンの日だと。
「って言ってもなあ。あげられる食い物はないぞ」
「欲しいのは食い物じゃないんだな。これが」
「じゃあ、なんだよ。ってうわっ!」
 急にバクフーンが俺に体重を預けてくる。バクフーンは俺より体重があるので抵抗できずに仰向けにされた。
 気が付けば俺はバクフーンに覆い被されていた。俺がどうにか逃げようとしてもバクフーンは俺の肩に手を置いてくる。こうなってくるとバクフーンから逃げるのは不可能だと、長年の付き合いから分かりきっている。
「夏だからってオレにべたべたしてこないのに不満を抱いてだな」
「お前が熱すぎるからだよ! ただでさえお前は地球温暖化に貢献してんだから」
「じゃあ、一緒に燃焼しよう。そうすりゃ、少しは涼しくなるさ」
 にやりと微笑むバクフーンに俺は苦笑いをするしかなかった。とりあえず、去年みたいに意識が飛ばない事を祈る。
「それじゃあ、いただきまーす」
 今年も熱い夏が始まったのだと、俺は身に染みながら感じた。


風邪と貰い火と小話  ねっちゅうしょう 



 ああ、暑い。今年の夏は特に暑い気がする。
 先程から汗が止まらない。汗が髪の毛先から滴り、頬を伝って首筋まで流れている。そして背中はびっしょりと汗で濡れていて、着ているティーシャツが湿っている始末。
 こんなにも汗をかいているのは節約のためにクーラーをつけていないからである。
 おまけに自宅には炎タイプである彼女がいるから余計に暑い。決して彼女が悪いと言う訳ではないけれど。
 僕が仰向けで汗をだらだら垂らしている最中に、足音が近付いてくる。きっと彼女であろう。九つもの尻尾を持つあの彼女。
「熱中症?」
 彼女が心配そうに僕を覗きこんでくる。僕は首を横に振って、それを否定する。
「単に暑いだけだから心配しなくていいよ」
 彼女に迷惑はかけたくない。きっと風邪をひいたときのように素肌で体温調節してくるだろうから。
 あの日を思い出すと、顔が熱くなる。今では身体を重ねている仲だから、あまり恥ずかしくない筈なのに。
「それなら良かった。じゃあ――」
 彼女は僕が無事だと分かると安堵の笑みを浮かべる。そして彼女は言葉を続ける。
「熱中症をゆっくり言ってみてよ」
 突発的な要求で、僕は意味が分からなかった。
 遅く言うことが、何処に熱中症と関係があるのだろうか。
「なんでさ?」
 僕が理由を訊ねても、いいじゃないそれくらい、と彼女は返してくる。
 恐らく、僕が言うまで彼女は諦めてくれない。
 僕は仕方がないので言うことにした。
「ねっちゅうしよう」
 僕がそうやって遅く発音すると、彼女がいいよと言ってくる。
 どうして、いいよ、と返事してくるのだろう。
 僕が考えている間に、彼女が顔を近付けてくる。そして――。
 触れる口先。捩じ込んでくる舌。
 急な出来事で彼女にされるがままの僕。気がついた時には、彼女から貰った熱が残っていた。
「ごちそーさまっ」
 大人の行為をした後なのに、子供の様に無邪気で笑う彼女。
 子供という言葉で僕は漸く気付いた。子供騙しのような罠にはまっていたと。
 だって彼女が僕に言わせたかったのは、
 ねっ、チュウしよう?


同居人小話 九月九日 



「今日は九月九日ねえ……」
 俺は携帯電話に表示されている今日の日付を見ながら、独り呟いた。
 別に今日が俺の誕生日ではない。おまけに彼女の誕生日でもない。特に自分に関しての記念日でもない。
 では、何故俺が今日という日に反応するのかというと、それはサンダースさんという人の誕生日だからである。いくらサンダースさんが世界中で著名な方とはいっても、
「うちのサンダースとはあまり関係ないと思うけどな」
 しかし我が家にいるサンダースは九月九日をあたしの日にするとか言いやがった。サンダース繋がりとはいえ、無理矢理にも程がある。
 そしてそんな事を言い張った彼女はまだ夢の世界にいる。俺のベッドの上でぐっすり寝ているのだ。
 彼女が起きないのは何時もの事だから気にはしない。彼女の朝ご飯のポフィンもちゃんとテーブルに置いてある。
 さて、そろそろ学校に行かなくちゃな。遅刻しちまう。
「じゃあ、行ってくるわ」
 俺がそう言っても、何も返ってこない。
 普段だったら彼女は寝惚けてでも俺を見送ってくれる。しかし、今日は返事がないのだ。
 こんな珍しい日もあるんだな、と思って俺は玄関行こうとすると、
「――かないで」
 寝惚け口調で聞き取り難い言葉が返ってきた。
「きょうはあたしのひだから、がっこうはおやすみ……むにゃ」
 そして、彼女は寝言なのかうわ言なのか判断しにくい言葉を言う。
 おやすみなのはサンダースの頭だろって突っ込みたくなる。だが、突然跳ね起きてミサイル針をちくちくやられる可能性がないとも言えないので黙っておく。
 まあ、いっか。学校さぼっても。
 彼女にそう言われてから不思議と学校に行きたくなくなった。
 ……別に俺が彼女の為に休むのではなくて、俺が自分の為に休むんだ、うん。
 そうと決まれば、制服を床へと脱ぎ捨てて、パンツと中に着ていたティーシャツ一枚の格好となる。ベッドへと行き、俺は彼女の隣に横たわった。
 それにしてもよく寝るな、と思いつつ俺は彼女の背中を眺めていたら、彼女が寝返りをうつ。俺と彼女は向き合う形となり、おまけに彼女は俺の胸元へと顔を沈めてくる。
 寝言といい、寄り添ってくるといい、実は起きてるんじゃないのか。
 疑ってはみるが、彼女が起きてたらこんな事をする訳がないという結論に達する。だって普段の彼女は黄色い体毛のようにつんつんとした性格なのだから、こんなにじゃれてはこないのである。
 とにもかくにも、横になった所為か眠気が増してきたので、瞼を閉じて俺は夢の中へといく事にする。
 その際に唇に違和感を感じたが、気のせいだと思って俺は意識がどんどん現実から離れていった。


風邪と貰い火と小話 9月5日過ぎ 



「なんか忘れてるような」
でも何を忘れているのか思い出せない。それほど大事でもなかった気もしなくない。
 先日からじろりと見てくる我が家の同居人であるキュウコン。彼女の鋭い紅い瞳が僕を突き刺してくる。
 なにか怒らせるようしたっけ。特には無かったと思うけど。
 彼女からの視線が痛くて、居心地が悪い。ここは本当に自宅なのかと言いたくなるくらいだ。
 彼女のご機嫌が悪いと、こちらの気分も滅入ってくる。だから僕は彼女に訊いてみる。
「あのさ、何かあったの?」
「……九月五日」
「え?」
「私の日なのに何も無かった」
「ああ、えーと、ごめん忘れてた……」
 僕の言葉を聞いて、はあ、と溜め息を吐く彼女。呆れた様子で僕を見つめる。
「ひどいよね、折角私の日だったのに」
 彼女にそう言われて、何も言い返せなかった。だから僕は無言を押し通すしかない。
 忘れていた僕が悪いんだ。そんな僕に何も言う権利なんて無い。
「ねえ、祟ってもいい?」
 貴方の生気が無くなるくらいの事をしてあげられるのよ、私は。
 笑顔も浮かべず、冷淡な口調で淡々と彼女は述べる。本気で怒っているのがよく分かる。
 彼女の言葉を聞き、恐怖で僕の背筋が凍りつく。そして僕は彼女の日を忘れてしまった自分を恨んだ。しかし、そうしたところでもどうしようもならない。
 だってもう既に身体が動かないのだから。
 彼女のじんつうりきの所為で僕は身動きが取れない。彼女からはもう逃げられない。
 彼女が僕へと飛び掛かってきて、背中が床へと衝突する。身体に痛みが走る。そうして僕の顔を覗きこんできて、
「さあ、どうしましょうか」
 彼女はうふふと妖しく笑う。僕に対して何をしてあげようかと悪巧みをしながら。
「そうね、最近してないから無くなるくらいに搾りとろうかしら」
 口許を綻ばせながら、愉しそうに尻尾をゆらゆら動かした。


CPデンリュウ×ライチュウ小話 コッペパン 



「ライチュウの手って美味しそうだね」
「……はい?」
 僕は彼女の手をぷにぷにと触りながらそんな事を言ってみる。当の本人はというと、僕の唐突な言葉に困惑している。
 彼女の手はデンリュウである僕と同じくらい。でも僕よりも柔らかい。  彼女の身体は濃い黄色であるが、尻尾の一部分や手先は茶色くなっている。その所為もあってか、彼女の手はまるでチョコレートでもかかっているかのよう。だから美味しそうに見えるのだ。
 彼女の手を口に運んでみたい。
 そう思うのだが、僕と彼女じゃ体格差があるので不可能である。彼女の姿を捉えるのだって、僕が目線を落としてやっと可能となる。だから僕は諦めるしかないのだ。
 触っていた筈である僕の手がいきなり掴まれて、彼女が僕へと体重を預けてくる。別に彼女の体重くらいどうって事はないのだけど、唐突だったので僕は後ろへ倒れて背中を地面に着けてしまう。
 僕が仰向けに倒れた事もあり、体格差なんて物は関係無くなる。彼女が顔を覗かせ、僕と目線を合わせてくる。
「あたしの手はね、コッペパンみたいだって言われるんだよ」
 彼女は自身の手をひらひらと僕に見せびらかして自慢気に話す。
 コッペパン、ねぇ。てっきりエクレアかと思ってたけど。
 コッペパン、エクレア、いずれにしても食べ物であるのには違いない。
「だから、デンリュウが美味しそうに見えるのも無理はないよ」
 彼女にそう言われて、ますます口にしてみたいと感じてしまう。
 僕が物欲しそうに眺めていた事もあり、彼女がにっこりと微笑んで、目の前に自分の手――コッペパンを差し出してくる。
「――これ、食べてみる?」


春狂い小話 夏から秋に 



「……なんか寒くなってきたなあ」
 俺は窓から入り込んでくる肌寒い風を感じながら呟いた。
 昼間は半袖で日差しを浴びても熱いくらいだったのに、夜になった途端に冷え込んできた。だから残暑も終わりに近付いてきているのを感じざるを得ない。
「まあ、もうそろそろ実りの秋だしな」
 俺の呟きに返事をしたのがリザードンだった。リザードンは俺のポケモンであるが、同時に姉貴みたいなのにも当たる。何故かと言うと、
「風邪をひかないように気を付けた方が良いぞ。こういう時期が一番風邪になりやすいんだからな」
「分かってるって」
 彼女は妙に世話焼きなのである。不規則な生活をしようにも何時も彼女に注意される。まあ、彼女のお陰で体調管理はばっちりなのだが。
 彼女の言う通り、季節の変わり目は風邪をひきやすいと聞くので、今日は温かくして寝たい所だ。
 しかし、問題なのがタオルケットしかないという事である。一応、毛布なら押し入れに仕舞ってあるものの、取り出すのが面倒である。それよりも眠たいので一刻も早く寝たい。
 今日一日ぐらい大丈夫だろうな、そう思いながら部屋の隅に畳んであった敷き布団とタオルケットを広げると、彼女が口を開く。
「そんなんじゃ風邪ひくぞ」
 案の定、注意をされて俺はがっくりと肩を下ろす。こっちは早急に寝たいのに、彼女がそうさせてくれない。心配をしてくれるのは嬉しいが、たまに鬱陶しく感じる。例えば今の時とか。
「俺はもう眠たいし、毛布出すのが面倒なんだよ。分かってくれよ」
 俺の言葉を聞いて、彼女は溜め息を溢した。俺の面倒臭がり屋な性格に、呆れた様子である。
 それでも後に退かないのが彼女である。
「じゃあ、今夜はオレがお前にくっつきながら、羽根を布団のようにかけてやるから風邪をひかないようにな」
「ああ、それならいいよ。……え?」
 勢いに乗って、返事をしてしまったがこれって大丈夫なのか。普段一緒に寝ている背中合わせとは訳が違うぞ。
 俺は今夜風邪を引かないで済みそうだ。でも今夜は身体の火照りが収まりそうになさそうだ。


熱せず冷せず小話 布団の上で 



「ふう、食べた食べた。秋はやっぱり食欲の秋だな」
 そう言ってごろんと仰向けに寝そべるバクフーンの彼女。食後ともあって、彼女の肉付きの良いお腹が何時もよりもぽっこりと膨れている。いくら膨れていても妊婦とまではいかない。それでもお腹の膨れ具合を見て、俺は彼女に言った。
「食べた後、横になると太るぞ」
 注意しても彼女は話を聞く耳を持たなかった。早くも瞼を閉じようとして完全に寝る姿勢へと入っていた。
 だから俺は彼女の側へといき、眠らせまいと身体をゆさゆさと揺する。そうすると、彼女が寝るところを邪魔されて不機嫌そうにしかめっ面をした。
「……なんだよ、折角寝ようとしてたのにさあ!」
「いやいや、俺としてはこれ以上バクフーンを太らせる訳にはいかないんで」「太ってなんかない!」
「じゃあこの腹はなんだよ?」
 そう言って、俺は彼女のお腹を擦った。触ってみても分かる通り、彼女のお腹は見事なまでに曲線を描いており、平坦とはとても言い難い。試しに指で摘まんでみると、いとも簡単に贅肉が取れた。
「うー……」
 これには先程まで威勢の良かった彼女も言葉を失っていた。自分の太り具合に、彼女は恥ずかしさで顔を真っ赤にする。
「ほら、やっぱり痩せないと――うわっ」
 お腹を触っていた手を彼女に掴まれて、俺は体勢を崩してしまう。しかし彼女が俺の事を抱き締めてきて床の上に激突という最悪な事態は免れた。気が付けば俺は彼女の上に乗っていて、彼女の柔らかい身体が俺を包み込んでいた。
「ほらオレの肉布団、気持ちいいでしょ?」
「……まあ」
 彼女の身体はとてもふっくらとしていて心地が良い。おまけに彼女の体温が程好く温かくて、まるで干したばかりのふかふかな布団の上で寝ているみたいだ。
「だから別にオレは太ってても良いんだよ」
「秋はスポーツの秋だって言うし、少しは運動して痩せようとも思わないのかよ……あ」
 俺は墓穴を掘ったと自己嫌悪した。彼女にこんなにくっついている時にあんな台詞を言ってしまえば、どうなるかが目に見えているのに。
 案の定、目の前の彼女が嬉しそうにしている。ふんふーんと上機嫌に鼻唄まで歌い始めた。
「それじゃあ一緒に良い汗を流そうぜ!」
 彼女の言葉で夜の運動会の火蓋は切って落とされた。


風邪と貰い火と小話 夏が忘れていった淫夢 



 季節は夏から秋へと移り変わっているようで、近頃日中は涼しくて過ごしやすい。しかしその代わりに夜は肌寒くなってきている。冷え込んでくれば、やはり温かくして寝ようとする。
 だから僕は今日、タオルケットから毛布にして被って寝ていた。その筈だった。
 何だか寝苦しいと思って目を開けてみれば、かけていた筈の毛布が無い。その代わりにいたのは彼女だった。彼女の後ろでは九つある尻尾が妖しくゆらゆらと揺れている。
 何でキュウコンがいるの、と僕は彼女に尋ねようとした。だが、
「ふぁっ……」
 何故か吐息と共に喘ぎ声が出てきてしまう。それに加えて、気付けばとても身体が熱かった。寝る前は寒いと思っていたのに、今では汗が滴る程であった。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と何かがかき混ざるような音が静寂な夜を支配している。得体の知れない音が何度も何度も響いて耳から離れない。
 聴覚を刺激された束の間、今度は下腹部から違和感が走る。それも一度だけでない、二度、三度と幾度となく。
 嫌な予感がした。でも目の前で起きている事態を確認する為に目を凝らした。すると、僕の物が彼女の中へと飲み込まれていた。
「ようやく、きづいたの? でももうおそいのよ?」
 彼女の言う通り、遅かった。僕は果ててしまったのだから。彼女の中が僕のでどんどん満ちていく。
 彼女が笑う。ただ笑うのではなく、妖艶な笑みを僕へと投げ掛ける。
 知らない内に彼女に生気でも吸われていたのだろうか、僕の意識は再び夢の中へと溶けていってしまった。

 翌朝、目覚めるとまるで何事も無かったかのように毛布がかけられていた。そして、お腹の辺りが重たいことに気付く。
 毛布を除くと、彼女の尻尾が僕にかかっていた。もしやと思って隣を確認すると、寝息を立てて眠る彼女の姿があった
 あれほど昨日布団に入ってくるなと言ったのに。全くもう。
 彼女の温もりを感じるだけであんな卑猥な夢を見てしまう僕は重症だろうか。それともあの夢は――――。


狭間のふたり小話 猶予期間 



「どうだ? 温かいか?」
「うん、まあ……」
 只今俺は大変な目に遭っている。
 それはウインディと仲良く隣に並んで寝ている事だ。ただ川の字になって寝るくらいならまだ救いである。問題なのはウインディと向き合いながら寝そべっている事だ。
 事の発端はウインディの純粋な気遣いからであった。今日は寒いからオレと一緒に寝ようぜ、と言い出したのである。それに対して俺は大丈夫だと返したのだが、ウインディはくっついて寝た方が温かいだろ、と言って全く折れてくれなかった。そういう訳で俺は渋々了承したのである。
「そうかっ、それなら良かった。じゃあもっとくっつこうぜ」
 そう言って、ウインディがぎゅっと俺を抱き締めてくる。俺の視界はウインディの胸元にあるふかふかした毛に埋め尽くされた。その途端に、俺は頬が熱くなった。
 恐らく、ウインディは無意識にやったのだろう。だって、ウインディは身体は成熟しているが、まだ中身が子供のように無垢なのだから。そうとは分かっていても、俺はウインディの行動に意識せざるを得なかった。
 こうして一緒に抱き合って寝るのは本来はするべき行為ではないのだ。愛し合う男女がする行いであって、そういった仲ではない俺とウインディがやるべきではないのだ。
 ウインディはそれを分かっていないでやるから困る。もっと常識というものを身に付けて欲しい。
 いや、それとも直ぐやましい事にへと考えてしまう俺が悪いのかもしれない。
 とにもかくにも、彼女の温もりが俺の火照りとなり今夜は眠れそうにない。


CPヤブクロン×チラーミィ小話 花飾り 



 僕と彼女は明らかに住む世界が違う。そうとは分かっているものの、僕は彼女にすがりついてしまう。それがどんなに彼女の重荷となっていたとしても、だ。
 いっそのこと嫌いと言って欲しい。臭くて一緒にいたくないとか、汚ならしくて醜いとか僕を罵る言葉を言ってくれたら、諦めが簡単につく。そうしたら僕はまたいつものごみ棄て場で独りぽつりと過ごすだけだ。
「ろんくん……ヤブクロン君?」
 彼女に呼ばれて僕の意識は現実にへと戻される。
「あ、えっとごめん、チラーミィちゃん」
 考えている間に彼女、チラーミィちゃんが僕の事を呼んでいるなんて気が付かなかった。自分の鈍さに自己嫌悪したくなる。
 でもチラーミィちゃんは全く気にしてない様子だった。それを見て、僕はますます申し訳ない気持ちで一杯になる。
「あのね、やっと出来たんだよ。ほら」
 チラーミィちゃんがにこにこと嬉しそうにしながら見せてきたのはお花で作られた輪っかだった。チラーミィちゃんの手元にはそれがふたつあった。
「チラーミィちゃんはとても器用なんだね、凄いや」
 僕は何をしても鈍臭くて、それでいて不器用だから僕がお花で輪っかを作ろうと切れてしまうだろう。簡単に作ってしまうチラーミィちゃんが純粋に凄いと思った。
 いきなり、チラーミィちゃんが僕に近寄ってくる。僕はチラーミィちゃんに臭いがつかないように離れようとした。
 だけど、チラーミィちゃんの綺麗で整った顔が直ぐ側に来て、それを間近で見た僕の心臓は高鳴ってしまう。その所為で僕はどうすればいいのか分からなくなってしまい、結局動けず仕舞いだった。それでも僕はなんとか地面に視線を移して、チラーミィちゃんの顔から逸らす事だけは出来た。
「こうして、と……」
 チラーミィちゃんがそう言い終えると、僕の片方の耳に何かが引っ掛かった。
「ほら、これでヤブクロン君と私はおそろいだね!」
 僕が見上げると、チラーミィちゃんの片方の耳には先程のお花の輪っかが引っ掛かっていた。
 彼女とお揃いという事に僕は頬が熱くなるくらい恥ずかしくなった。だけど、それと同時に彼女が僕の事をちゃんと友達として見てくれていたのが嬉しかった。


においの秋小話 しみこむにおい 



 秋になれば、とある花の香りが風にのって漂ってくる。それはキンモクセイと呼ばれる花の香りである。キンモクセイの花弁は橙色で小さいのだが、においに関してはとても強烈である。キンモクセイを直に嗅がなくとも、咲いている所の側を通るだけでもにおいが分かる。
 僕は秋の涼しい夜風に吹かれながら帰路についていた。その際に、風でキンモクセイの独特なにおいが運ばれてきたのを覚えている。
 今年も遂に秋の季節がやってきたのかあ、と染々に思いながら足を動かしていた。何か大変な事を忘れているような気もしたが、キンモクセイの強烈なにおいの虜となれば思考回路は鈍ったのも同然で。結局、思い出せぬまま自宅へと辿り着き、ドアノブを握る。
「ただいま」
 家に入って間も無く出迎えてくれたのは僕のポケモンであるメガニウムだった。しかし、僕の帰りが普段よりも少し遅かった為か機嫌を悪くしていた。
「ごめん、ちょっと講義が長引いて遅れちゃったんだ」
 僕は理由を述べるが、彼女は納得しない様子。それどころか、疑いの眼差しで僕の事をじっと見つめてくる。そして黙っていた彼女が口を開く。
「嘘ばっかり。本当は浮気してたんでしょ?」
 彼女の信じられない言葉にどう反応していいのか分からなかった。僕はただ何も言えずにじっと立ち尽くしている。
 キンモクセイ、と彼女がぽつりと呟いた。途端に僕は気付いて、それは違うと反論するものの彼女は全然相手にしてくれない。
「よくもまあ、こんなしつこいにおいをつけてきて言えるわね」
 彼女の言葉と、ぎろりとした鋭い眼差しが僕の心へと突き刺さる。彼女の纏う雰囲気は殺気に満ちており、僕はふみつけられたり、蔦で絞められたりするのではないかと心配で堪らなくなり、背中から汗がしきりに滲んでくる。
 僕が怖じ気づいたのを機に、彼女がゆっくりと近付いてくる。逃げ場も逃げる為の足も持ち合わせていない僕は呆然と突っ立ているだけ。
 彼女は蔦を出してきて、それが僕の首筋にへ絡み付く。そうして、ぐいっと引っ張られて彼女と僕の顔の距離は無くなったのも同然となる。
「そんなにね、においをつけたいならわたしがつけてあげる」
 そうすればキンモクセイなんかわすれるでしょ?
 耳元でそう囁かれて、僕は固唾を飲んだ。


同居人小話 体育の日 



「ぜえ、はあっ……」
 呼吸が荒い。汗が滝のように流れて、なかなか止まらない。そして身体の自由が思うように利かない。特に下半身の部分である。
 出せるものは全てを出し尽くした気がする。
 急な激しい運動に身体が追いつけていない。それでも意識だけはまだ残っている。それが不幸中の幸いだ。
 しかし、このまま楽になりたいという願望もある。このままではまた彼女に付き合わされる羽目になってしまう。それでは俺の身体が粉々に壊れてしまう。
 現に、俺の顔を覗き込んでくる彼女は不満そうな表情を浮かべていた。
「もうへばったの? だらしないったらありゃしない」
 ちくちくとした黄色い体毛と同様に、俺に棘のある言葉を投げ掛けてくる彼女。彼女、とは言っても俺のポケモンであるサンダースだ。
 俺はとっくに疲れはてているというのに、彼女は汗一粒すら見受けられない。これが人間とポケモンとの差なのだろうか。
 それを思い知らすかの如く、先程の彼女の機敏な動きに俺は全くついていけてなかった。俺は一方的に彼女にやられていたのだ。
「あんたは十分なんだろうけど、あたしはまだ満足できてないんだけど」
 彼女の挑発的な態度に、俺はかちんときた。胸の奥でこのまま終わってたまるかという感情が芽生えてくる。
「……ならっ、つぎで、おまえを……まかしてやる」
 口では威勢を張れるものの俺に残された体力は皆無に等しい。しかし、やらなくてはならない。このまま彼女に馬鹿されるのは堪ったものではないのだから。
「ふーん、なら今度こそはあたしを楽しませてよね」
「のぞむところだ」
 俺はそう言って、仰向けに倒れていた身体をむくっと起こした。そうして、今度こそ彼女を追い抜かすと言う覚悟を込めて、俺は靴紐をぎゅっと強く結び直した。


CP人×オオタチ さよなら、おともだち。 



 今まで彼女を抱くのに抵抗は無かった。そして、彼女を恋愛の対称として見る目なんて僕には持っていなかった。ただ、彼女とは仲の良い友達ぐらいの間柄でいた。
 今日の夜だって、普通にだきまくらとして彼女を抱いて寝ていた。オオタチは体長が人並みに大きいから抱きやすいし、そしてなによりふかふかのもふもふで気持ち良い。いつものように僕は彼女を布団の中へと招き入れて、ぎゅっと強く抱き締めていた。
 でも、突然歯車が狂ってしまった。

 誰もが寝静まった夜中に、彼女のきゅうきゅうと苦しそうな叫びが飛んできた。それで僕は意識を現実へと戻した。
 普段ならこんな声を出さないのにどうしてだろうか、そんな不安を抱えながらも、僕は重い瞼を開ける。すると、彼女が僕の身体にしきりに擦り付けては喘ぎ声を出す姿が見受けられた。
 僕はどうしたの、と彼女に尋ねた。すると、彼女は驚いたようにびくりと身体を震わせて、僕の方を向く。彼女の瞳は心なしか潤んでいるように見えた。しかし、彼女の異変はそれだけでなかった。
 彼女の呼吸は荒く、吐息が僕の首筋へとふりかかる。熱を帯びた彼女の吐息は僕の冷たい肌を刺激した。
 もしかして彼女は病気なのではないだろうか。そう思い、僕は彼女の身体に触れてみる。すると熱く、また若干汗で体毛が湿っている事に気付いた。
 これは大変だ。直ぐに彼女をポケモンセンターへと連れていかないと。身体を起こそうとするものの、彼女が体重を預けてくるのでなかなか起き上がれない。四苦八苦していると、彼女が僕の上へと乗ってきては起こさせまいと僕の胸に両手を置いてくる。
 これには流石に怒ろうとした。ふざけている場合じゃないんだぞ、と。しかし僕の顔を覗く彼女の目の焦点が先程から合っていない事に今更分かった。
 ぼんやりと虚ろなものではなく、もっと違った意味合いの持つ目。それは何なのかと、考えている内に、彼女の口元から涎が垂れてくる。そうして僕の鎖骨の辺りを汚す。それが獲物を見る目だと気付いた頃合いにはもう遅かった。
 衣服は音をたてながら切り裂かれ、下着は強引に脱がされた。普段の大人しい彼女からは想像もつかないほど猟奇的な行動であった。
 包み隠すものが無くなり、露となった自分の愚息。彼女に襲われて恐怖を感じでいる筈なのに、愚息は恥じらう事もなく硬くなっていた。
 その様子を見て、彼女は愚息を尻尾で弄ってくる。彼女の行為に、僕は我慢出来ずに反応して、ますます血の気が愚息へと集まっていく。彼女が弄る終わる頃にはすっかり愚息が天井を指していた。
 そうして、すとんと落ちてくる彼女の身体。肌着の代わりにねっとりとして熱い肉壁で包まれる愚息。彼女は乱暴に我を失ったかの如く、ひたすら跳ねて、愚息を締め付ける。そうする度に快感が伝わってくる。僕の身体はこの快感に埋もれてしまって彼女を拒むなんて出来ずにいる。
 僕の首筋をいとおしげにぺろぺろと舐めてくる彼女。敏感なところを舐められ、より一層愚息が反応してしまう。きっと、愚息の先端からは粘着質な透明液が出ているであろう。
 彼女の中へと入ってから大した間もなく、愚息が限界だと訴えてくる。彼女はその訴えに気付かず、ただひたすら僕を求めてくる。緊張の糸はぶつりと解ける。
 びくびくと脈を打ちながら愚息は彼女の中に精液を注いでいく。彼女は僕のが注がれていく感覚を身体を小刻みに震わせて堪能する。その時の彼女の表情は友達でいたときでは見た覚えがないものであった。一匹の牝としての顔だった。

 それから僕は彼女を抱いて眠る事はなくなった。否、眠れなくなってしまった。一度、覚えたものは癖になってしまってなかなか抜けない。酒や煙草のように依存性を形成する。
 僕は今日も彼女と身体を重ねて情欲に溺れていく。


風邪と貰い火と小話 きつねたべたい 



 お腹が空いたな、と思って僕が時計を見れば、針は丁度1時を指していた。今日のお昼ご飯は何にしようか、そう考えながら視線を彼女に泳がせていると、ある食べ物が浮かんできた。
「なんかたまにはきつね食べたいな」
 すると我が家のきつねであるキュウコンが耳をぴくりと動かして反応する。ちなみに、きつねとはロコンやキュウコンの俗称である。
「ねえ、いきなり何言ってるの?」
 突拍子な一言に、彼女が僕を変な目で見てくる。きっとキュウコンの彼女からしてみると、僕が言ってる事はまるで支離滅裂のように聞こえるのだろう。
「あ、いや、きつねうどん食べたいなって思って」
「……きつねうどんって何?」
 聞いた事もない言葉を耳にして首を傾げる彼女。
 そういえば、彼女とふたりで暮らし始めてからきつねうどんなんて食べた事もなかった。だから、彼女が分からないのも無理はない。
「えっとね、うどんの上に油揚げがのってるんだよ」
 ふうん、と彼女は納得したように相槌を打つ。だが、まだ訊きたい事があったのか彼女の口が再び開く。
「じゃあきつねと油揚げって関係あるの?」
「きつねは油揚げが好物って人間達の間では言われてるんだよ。……そういえば、君って油揚げは好きなの?」
「好きじゃないけどね。そもそも私は人間の食べ物あまり食べないから」
 どうやら、きつねとはいえば油揚げの図式は彼女には当てはまらないようだ。
 それ以前に、彼女が好んで人間の食べ物を食べている時なんてあったのだろうかと考えたが、結局浮かばなかった。
「そっか。じゃああくまでもそう言い伝えられてるだけか」
 まあ、油揚げを食べるきつねがいれば、彼女みたいに全く食べないきつねがいても可笑しくはないだろう。よくよく考えてみると、きつね全てが油揚げが好きって不自然である。
「ねえ、きつね食べたいってもう一度言ってよ」
 今度は彼女が突拍子な要求を突き付けてくる。あまりの唐突さに僕は口を開いて訊ねる。
「どうして?」
「いいから」
 その一言で呆気なく彼女に流されて、結局僕は言わざるを得なくなる。そういえば、前も同じような事があったようななかったような気もしなくない。
 取り敢えず、彼女に言われた通りに僕は口を動かして言う。
「きつねたべたい」
 すると、彼女はくすっと笑いながら上機嫌そうに尻尾をゆらゆら揺らした。
「昼間から私の事を食べたいのね。えっちだなあ」
「え、いや、ちょっとその発想は可笑しい」
 誤解を必死で解こうとするが、彼女は全然聞く耳を持ってくれない。そんな彼女はにやにやと頬を緩ませていて、顔には悪巧みが上手くいったと書いていた。
「そんなに食べたいならどうぞ、召し上がれ」
 すると、彼女が僕の方へと飛び付いてくる。僕は慌てて両手を出して彼女を受け止めるものの、勢いで背中をついて倒れてしまう。その際に物音が響いて、下の住民に怒られないだろうかと心配してしまう。
「こら、此処はアパートなんだから――」
 僕は彼女を叱ろうとするものの、彼女の綺麗な紅い瞳に目を奪われてしまい、何も言えなくなってしまう。ましてや、ふかふかと柔らかく、そして温かな彼女の体毛を感じてしまえば尚更だった。
 身体と身体同士が触れただけで、僕の欲求は食欲から違うものへと移り変わってしまった。お陰で彼女から離れようと考えてもそうは出来ないでいる。
 僕が彼女に手をつけないでいたら、反対に彼女が僕へ手をつける。
「とは言っても、私も貴方の事をおいしく頂くけどね」
 そう言って間も無く、彼女が口を僕へと重ねてきた。


風邪と貰い火と小話 吸熱狐 (一応、きつねたべたいと繋がってます) 



「そうだ、今日テレビで聞いたんだけどね――とりっくおあとりーと?」
 彼女がいかにも覚えたてな言葉で不慣れた口調で言う。
 そういえば今日はハロウィンだったけ。
 でも生憎、家にお菓子なんてない。そしてなにより今の僕は彼女に覆い被されており身動きがろくに取れない。お菓子を渡すのですらままならない。
「お菓子なんてないよ」
「……じゃあ、分かってるよね。お菓子くれない子には悪戯しちゃうんだから」
 どんな悪戯をしようかなと目論んでいる様子が、彼女のにっこりとした笑みから窺える。顔に出ているよ、と突っ込みたくなるがあえて何も言わないでおく。
 もう既に悪戯されてる気もしなくない。僕は彼女の九つもある尻尾に足や手を押さえ付けられているのだから。僕が彼女から逃げられぬように、と。
「ふふ、じゃあ続きを楽しませてもらおうかしら」
 そう彼女が告げると、尻尾を使って器用に僕のズボンをずり下ろす。そうすると、中途半端に硬くなっている一物が露となる。ひんやりとした外気に曝された一物はやがて熱を集めて膨張していく。
 そんな一物の様子を見て、彼女は呟く。
「早速、悪戯する必要がありそうね」
 途端に、愚息が温かで柔らかな感触に包まれた。僕の一物を刺激したのは彼女の脚でもなく口でもなかった。そうしたのは、まだまだ暇を持て余している九本あるうちの一本の尻尾であった。
 彼女からしてみると僕は尻尾で弄られるのがお気に入りだと思われてるが、あくまでも誤解である。
 彼女が尻尾を動かす度に一物が大きくなって、欲望を表していく。もっと弄って欲しいと一物の先端から液体が漏れ始める。数回尻尾で遊ばれただけで愚息は虫の息となっている。
 背中や首筋から汗が滴るほどに身体は段々と熱くなってきて、上着を取ってしまいたくなる。しかし、ここでそうしてしまったなら彼女に何を言われるか分からない。大方、貴方もその気になったのね、とからかわれてしまうだろう。
 僕が暑そうにしているのに気付いたのか、彼女は上着に前肢を乗せて口を開く。
「もう服なんていらないよね。邪魔、だもの」
 ほら両手を挙げて、と僕は彼女に言われるがままにそうする。彼女は上着の裾を口に咥えて引き剥がす。汗を染み込んだ上着は放り出され、鈍い音を響かせて床に着いた。
 下着に続いて上着までも脱がされてしまった僕はとうとう糸一つすら纏わぬ姿となり、彼女と同じ格好となった。普段、衣服を着ている人間にとって素っ裸なのは恥ずかしい気持ちに襲われる。更に彼女にじろじろと眺められるものだから、身体の火照りはより一層加速していく。
 素肌が剥き出しとなり、僕を覆う衣服が無くなると、彼女はべったりと身体を寄せてくる。牝を感じさせる弾力のあって柔らかい身体が僕の筋肉質で硬い牡の身体と重なりあう。
「えへへ、温かいなあ」
 彼女は僕の身体から伝わる熱を堪能とする。僕は汗でべたついた身体を触らせたくなかったが、彼女が気にしてなさそうなのと、頬を緩めた和やかな表情を見て、結局まあいいかと考えてしまう。
 だけど、先程のご満悦な表情は失せてしまった。残るのは妖しげな深紅の瞳であった。急に彼女の雰囲気が変わったことから、僕は息を潜めてしまう。
「――でももっと欲しいのよね。貴方の温もり。お菓子なんかよりも、ね」
 子供のように無邪気で弄んでいた彼女はもういない。僕の目の前にいるのは牡を喰らおうとしているただ一匹の妖狐。
 くちゅっ、と音が響いた。そうしてまた、くちゅっくちゅっと空気を裂くように響いてくる。
 彼女の下腹部で蠢く物を見つける。それを確かめる為に、僕は目を凝らしてみる。
 彼女自身の恥部をしきりに撫ぜる尻尾。ただそうするだけでなく、時折尻尾の先端が恥部へと入り込む。その際に、例の嫌らしげな響きを奏でる。尻尾の先は湿っており、恥部からも愛液がだらだらと恥じらいもなく流れていた。
「さてと、そろそろ頂くね?」
「なにを――っ!」
 頂くの、と訊こうとした途端に、彼女の尻尾が僕の口の中へと押し込まれた。どうやら彼女にとって訊かれるのは無粋だったようだ。僕はあまりの唐突さに驚いたのと同時に、物も言えなくなってしまった。その代わりに口の中に残るのは彼女の愛液の味。
 僕が喋れない間に彼女は黙々と恥部を一物へと近付けていく。口をもごもごと動かしても、言葉にはならず彼女には届かない。
 それを良いことに彼女はやりたいようにやる。案の上、恥部は一物を呑み込んでいく。熱くて湿った肉壁に包まれた一物は今にも蕩けてしまいそうだった。
 声にならない叫びを僕はした。反対に彼女は愉しそうに残りの尻尾をゆらゆらと振るう。
「ふふ、あついなあ」
 彼女の中が熱くて堪らない。熱と熱との授受が一物と肉壁を通して行われている。また、彼女の肌と僕の肌を通しても。
 しかし、彼女の欲求を満たすまでに熱は運ばれていない。まだ物足りなさそうな表情を彼女は浮かべている。だから彼女は、
「もっとあつくなっていいのよ? よけいなねつはわたしがもらってあげるんだから」
 上下に跳ねて、摩擦熱を生み出していく。単に摩擦熱を出すだけならまだいいものの、肉壁と一物が擦れる度に快感が伝わってくる。そして愛液と僕から滲み出てくる液体が中でぐちゅぐちゅとかき混ぜられる。
 彼女の特性は貰い火。熱をいくらでも吸収できるこの特性は、僕が風邪をひいた時にお世話になった。しかし熱をいくらでも吸収できるというのは裏を反せば、身体を重ねて熱くなろうが不十分だと言う事だ。だからこうして彼女は僕の熱を飽きること無く貪り続けているのだ。
 また風邪でもひいてはしまったかの如く頭がぼうっとしてくる。彼女から伝わる熱の所為なのか、それとも自分から発せられる熱なのか。分からない。分からないが、熱によって感覚が鈍っているのは事実である。
 彼女は遂に僕の口から尻尾を抜いた。口の中にあった尻尾は僕の唾液で更に湿り気を増しており、程無くして先端から液体が垂れる。彼女は勿体無いと言うばかりにその尻尾に付着したのを舌先でぺろりと舐める。
 おいしい、と独り呟く彼女。しかし彼女がそれだけで終わる筈がない。彼女の緩んだ口元が一抹の不安を過らせる。
「っんふ」
 尻尾が無くなったとはいえ、やはり口が自由になるとは限らなかった。今度は彼女の舌先が入り込んでくる。そうして僕の口内や舌先を舐め回して、唾液も送り込んだりしてくる。僕には最早、抵抗する術は残されておらず、彼女の為すがままに、僕は為されていく。
 上半身には彼女の舌。下半身には彼女の肉壁。余す事無く彼女から熱を奪われている。その代わりといって供給されるのは快感。快感が自分を満たしていく。しかし容器に水をずっと注げば溢れ出すのと同じように、僕はいくらでも快感が受け入れられる筈がない。
 だからこそ、吐き出してしまいたいという欲望が自分の中で芽生える。
 僕の気持ちを悟ったのか、彼女が上下に身体を震うのが速くなる。まるで早く頂戴とおねだりをしているようだ。動きが速くなればその分より熱い摩擦が生む。それは肉壁と一物が擦れて発生する快感にも当てはまる。速くなるだけで快感は飛躍していく。
 彼女の動きに付いていけなくなった一物は我慢出来ずに彼女の中で果てた。すると、僕ので彼女は満ちていく。そうして一杯になって、僕と彼女の境界から漏れ始めていく。漏れたどろどろとした白い液体は熱を持っていた。それはやがて肌を伝って床へと垂れた。
 僕は床を汚した白い液体に指先で触れてみる。しかし、冷たい外気に曝された所為なのかもう温かくはなかった。
 液体は冷えたのに対して、汗が止まる気配はなく、身体の火照りは収まらない。一度火がついてしまったなら消えるまで燃え続けなければならない。
「まだ、あついね。それならもっとちょうだい」
 僕に残された選択肢は、燃え尽きるまで彼女に付き合うしかなかった。


CPデンリュウ×ライチュウ小話 お出掛け日和 



 僕は樹を背もたれにして彼女を待っていた。太陽の位置や影の伸び具合を見る限りじゃ約束の時間は過ぎている。大方予想はしていたけれど、やはり彼女は時間通りに来てくれなかった。
 まあ、いつものことなんだけど。
 彼女が定刻に待ち合わせ場所に来てくれた試しは一度も無い。だから待つのなんて慣れっこだ。
 一応、彼女が直ぐに僕を見つけてくれるようにと尻尾の先についている紅い珠をぴかぴか光らせる。そうしたはいいものの、一向に姿を見せる気配はない。
 はあっ、と深い溜め息を吐く。すると、いきなりどたどたと騒がしい音が遠くから聞こえてくる。その音は段々と大きくなって何かがこちらへ向かっている。
 僕は眼を凝らして見ると、黄色い頬っぺたに長い尻尾を持つ彼女の姿が確認出来た。
「デンリュウーっ!」
 そうして彼女が僕を呼ぶ。漸く来てくれたかと僕はほっと胸を撫で下ろした。
 小さく映っていた彼女の姿が徐々に大きく映し出される。僕と彼女を隔てる距離も短くなってきた。それなのに、彼女が僕へと迫る勢いは止まらない。
 これってもしかして……。
 嫌な予感がしたので、僕は急いで樹から離れる。そうして最悪な事態を予期して姿勢を整える。
 彼女が力強く地面を蹴る。そして大きく跳躍して宙には彼女の身体が浮かぶ。しかし彼女には翼が無いので飛べない。したがって重力により落ちてくる。
「でーん、」
 落下地点は無論、
「りゅうっ!」
 僕だった。
 僕は両手を広げて彼女を受け止める姿勢に入った。そうして彼女をなんとか受け止めたまでは良かった。しかし、問題がひとつ。
 彼女の勢いが強すぎて僕の姿勢が後ろへと崩れてしまった。
「うわあっと!」
 どしんっと騒がしい音を響かせ、地面をも揺らす。そして背中にはじんわりと痛みが残った。
「お待たせ、デンリュウ」
 何事も無かったかのように、にっこりと微笑みながら彼女は言う。
 彼女の自由奔放さには呆れて物が言えない。またもや溜め息を出したくなるが彼女がいるという事もあって我慢した。
 片や余裕綽々、片や疲れを見せているのはまさにこの事だ。
「遅いよ、ライチュウ。……て、あれ?」
 僕は彼女の異変に漸く気付いた。寧ろ気が付かないのが可笑しいくらいだ。今まで気が付かなかったのはきっと彼女を受け止める事で精一杯だったからであろうと脳内で結論付けた。
「ふふん、どう? このかっこう」
 首に巻き付けた赤いバンダナをコッペパンみたいな手でぽんと叩く。
 いつもより遠くへ行くからであろうか、珍しく彼女が装飾品を付けていた。おまけに肩には鞄をぶら下げている。
「うん、似合ってる」
 僕はありのままに感じた事を述べた。恐らく、赤という色が彼女を引き立たせているんだと思う。それが見事に彼女と噛み合っている。
「えへ、ありがとう」
 そう言って彼女は満面の笑みを僕に投げ掛ける。まぶしい笑顔に、僕は恥ずかしくなって顔を少し逸らす。ほんのり頬が熱くなっているのが自分でも感じとれる。
「そうだ! デンリュウのもあるんだよ」
 手を鞄の中へと突っ込んで何かをがさがさと物音を立てつつ探す。鞄の中にそんなに沢山何が詰まっているのだろうかと疑問に思うものの、じっと見守る。
「っと、あった!」
 そして彼女が鞄の中から引っ張り出したのは青いバンダナであった。恐らく彼女の物と色違いであるに違いない。
「これ、つけてあげるね」
 青いバンダナを得意気にひらひらと僕に見せながら彼女は言う。しかし僕としてはわざわざ彼女の手を煩わせる程でもないので、
「いや、それくらい自分で」
 そうとは言ったものの、彼女は僕の意見をあっさりと却下する。
「だめ、デンリュウの短い手じゃ首まで届かないでしょ? あたしがつけるんだから」
 言われてみればその通りなので、僕は大人しく彼女が付けてくれるのを待つ事にした。彼女は手にした青いバンダナを先ず三角形になるように折った後に、それを両手で持つ。ただでさえ、身体と身体同士が密着している最中、彼女が顔を僕の首の辺りへと近付けてくるものだから、心臓の鼓動はとくんっと高鳴る。
 僕独りだけが緊張している中、彼女は平然と僕の首にバンダナを通し、両手で持った端の部分同士を器用にきゅっと結ぶ。
 彼女のお陰で無事に僕の首には青のバンダナが掛けられた。自分の身体が黄色という事もあり、普段見慣れない青色があるのは気分的に違和感がする。
「うん、デンリュウも似合ってるよ」
 しかし、彼女が似合ってると言ってくれたので、僕の頬は自然と緩む。
「付けてくれて有難う」
 僕も彼女のように喜びながらお礼を言う。そして彼女が僕の為に付けてくれた青のバンダナに視線を落とす。
 似合ってる。そう言われただけで僕の心は有頂天になる。先程まで待ちくたびれていた事なんてどうでも良くなってしまう。
 赤と青。色は違えどもお揃いのバンダナを僕達は身に付けている。少し恥ずかしい気もするが、彼女と一緒のものを付けているだけで僕は嬉しかった。
「準備もできたし、それじゃあいこっか」
「うん」
 彼女は僕の身体からひょいと身軽に降りる。その後に僕は上体を起こし、二本足で地面を捉える。そして背中に付いた木の葉を手で払う。
 僕の準備が整ったのを見計らって彼女が僕の方へ手を差し出してくる。対する僕は快く彼女の手を優しく掴んだ。


風邪と貰い火と小話 傷痕に火を 



 やり場の無い感情は何処に向ければいい。
 そんなの分からない。
 でもこの気持ちを誰かへぶつけてしまいたい。
 そうしないと何時までも胸の内に潜み続けて自分を腐食していく。僕という人格が壊れてしまうから。
 ぐらついた心。その中に暗い陰が伸びている。
 今にも崩れ落ちてしまいそうな赤茶色に錆びた手すりに掴まる。そして、乱暴に踏み鳴らしながらアパートの階段を登っている。端から見れば迷惑と捉えられるだろう。しかしそんなのどうでもいい。問題なのはこの晴らしようにないもやもやとした感情だ。
 何段か登ると一旦手すりから手を放す。そうして遠くの位置に手を置いて、再び手すりに掴む。今度はぎゅっと強く握り潰すように。力一杯に。うんときつく締め付けるように。そうしてまた階段をけたたましい物音を立てて上がっていく。
 二階に上がり終わった頃にはもう手は錆で汚れてしまっていた。赤く、そして茶色く鈍い色合いで彩られながら。手のひらは赤と茶がぐちゃぐちゃにかき混ざっていた。それも指先までご丁寧に塗りたくられている。
 そんな手で自分の家のドアノブを握り締める。手すりには一切触れていないもう片方の手を使えばよかったのだが、そんな気分にはなれなかった。

 おかえりなさい、と九つをも尻尾と透き通った深紅の瞳を持つ彼女は僕が家に入るなり何時も通り言ってくれた。それなのに僕は普段のようにただいまと言えなかった。口が手すりと同じく錆び付いたかの如く重たくて開けない。結局、僕は出迎えてくれた彼女には何も言わず、足をじたばた振りながら靴を気怠く脱ぎ捨てた。
 流石に僕の様子が可笑しいと悟ってなのかは分からないが彼女も無言を貫いていた。普段の彼女であったならただいまと言わないだけで文句を言ってくる。しかし今日はひとつも飛んでこない。
 毎日の日課である帰宅後に彼女を撫でるという行為も今日はこれっぽっちもする気になれなかった。こんな状態で彼女に触れるのは気に障った。ましてや片方の手は酷く汚れてしまっているから尚更であった。
 彼女に何も言わずに通り過ぎ、敷きっぱなしの布団の上に鉛のような身体を委ねる。両方の足の裏に掛かっていた体重は背中全体に掛かり始める。しかし身体の重たさは分散される事はなく、寧ろ更に重たいと感じ始める。
 低く薄汚い天井が目に入る。本来は白く映る筈だ。だが、部屋の電灯は点けておらず、日の入り後という事もあり赤と紺を混ぜた色彩をしていた。そんな風にでたらめに描かれ、僕には理解できない。
 静寂な部屋に足音が響き渡る。それは徐々に大きくなりやがては聞こえなくなる。そして自分のではない重みと温もりが加わってくる。
 ぼんやりとした光景から移り変わって、彼女が視界に入った。気付けば彼女は僕の上へと覆い被さってくる。僕は彼女から視線を逸らそうと試みるものの、目と鼻の先ということもあり上手くいかなかった。
 投げ出した腕を使って目を覆う。そうしたつもりだったがろくに動かなかった。それも彼女に前肢を置かれてしまっている所為であった。もう一方でやろうとしても、同じように彼女の前肢が重りとなって動かない。
 煩わしかった。
 僕は今すぐにでもいいから思考回路を絶ちたかった。そうしないと纏わり付いている負の感情を爆発させてしまいそうだから。
 ねえ、と沈黙を破って彼女が口を開いた。しかし、僕は依然として黙りこくる。
 そんなに嫌な事があったの、と彼女は言いながら前肢を僕の頬へと乗せた。そうして優しく撫でてくる。だけども僕の心は彼女の好意に動じない。まるで錆び付いたブリキの玩具のように。
 無視をされても彼女は懸命に僕を見続ける。穢れを知らない彼女の眼は僕にとっては眩しく、同時に鬱陶しかった。だからこそ、
 壊してしまいたい。
 その眼に何も映らなくなるように、と。
 僕は触れている彼女の前肢を掴んだ。そうしてそのまま力任せに押していく。
 自分でも驚く程に力が出た。その勢いに身を委ね、上体を起こした挙げ句、
 僕は彼女を押し倒していた。
 これで満足なの、と僕の行動には動じずに彼女は訊ねてくる。それも普段の快活な彼女からは想像もつかないくらい乾いた声で。
 押し倒してやったというのに大した反応を見せない彼女に僕は舌打ちをしたくなるくらい苛ついた。
 慌てる様子や戸惑う様子を少しくらい見せたらどうなんだ、これじゃあちっとも面白くない。
 今まで感情を表さなかった僕の心は怒りで満ちてくる。
 こうなったらいっそ、
 けがしてやる。
 彼女に祟られるなんて知ったこっちゃない。自分の気が済むまで滅茶苦茶にしてやる。
 僕は彼女に手を掛ける。まさにその直前だった。
 急に身体の身動きが取れなくなる。石のようにびくともしなくなった僕の身体は、彼女の元へと落ちていく。
 このままでは彼女と衝突してしまう。衝撃を予知して瞼を閉じたものの痛みは全く来なかった。それどころか僕に伝わったのは、
 彼女の柔らかな感触。
 彼女が僕の事を受け止めてくれていた。前肢を僕の背中に回す。
 わたしにおぼれてもいいのよ。でもね、ちゃんとわたしをみてほしいの。
 そう言った彼女の声は先程のものとは違い何処か寂しげで儚かげだった。
 つらいことがあるならわたしにもちゃんとつたえてほしい。あなたはひとりじゃないんだから。
 彼女の僕を心配する言葉や優しい肌触りが身に染み渡る。怒りにまみれていた僕の心は失せており、残っていたのは彼女に対する申し訳無い気持ちだった。
 ごめん、そう言った束の間、僕の瞳からは一筋の雫が垂れていた。雫は止まらずぽろぽろと落ちてくる。
 そんな僕の様子を見ても彼女は何も言わずそっと抱き締める。そうして僕から溢れてくる雫を舌先で舐める。
 あれほど荒れていた僕の心。だけど今となってはもう、彼女の温かな火で和やかになっていた。


熱せず冷せず小話 冷より熱 



 冬になれば寒い。それは誰もが考える事だろう。凍えるから暖を取ろうとする。それは俺にも当てはまる事だ。
 だからこうして布団の中でうずくまり、ひたすら熱を求めようとしている。この布団から出てしまえば身体を冷やしてしまうので、穴蔵に棲むかの如く過ごしている。
 しかし、いつまでもそう出来る訳ではない。だって家には、
「あーたらしーいあさがきたっ!」
 朝にも拘わらず暑苦しさを抜群に放出するバクフーンがいるのだから。そんな彼女がばさりっと掛け布団を捲ってきて、急に寒気が俺の身体に突き刺してくる。
「……やめろよ、さむいだろ」
 俺は彼女から無理矢理に掛け布団を奪い返し、クルマユの様に掛け布団を身体に巻き付ける。そうしてなんとかして身体を冷やすまいと努める。
 だが彼女はそんな態度を取る俺にめげずに、
「しゃきっとしろ、しゃきっと!」
 そう言って力ずくでもう一度俺の掛け布団を抜き取ってくる。掛け布団を取られてしまった俺はくるくると回って、やがては敷き布団の上で静止した。だから今度は敷き布団で暖を取ろうと試み、掛け布団と同様に包まる。
 しかし残念ながら彼女の頭の辞書には諦めるという言葉が存在しないが故に、
「いいかげんおきろっ!」
 最後の砦であった敷き布団でさえも彼女が強引に奪いさってしまう。掛け布団に敷き布団、両方失ってしまった俺に身体を温める術は無くなってしまった。何もしないで身体を投げ出すと冷えるので、せめて冷えないように膝を抱えてうずくまる。
 生憎、この部屋には暖房器具が無い。あるとしたら炎タイプである彼女がぐらいか。
 こうなってくると彼女が憎たらしく思えてくる。炎タイプである彼女は夏場は暑さを感じないし、冬場は寒さを感じない。だから熱さや冷えで悩む俺の気持ちなんかちっとも分からないのだ。
 寒さで頭がさえたのか、ある悪巧みが突如思い浮かんだ。これならきっと彼女だって俺の気持ちを理解してくれる筈だ。
「ちょっと」
 そう言って俺は彼女にこっちへ来るように手をひらひらと動かす。じっと怪訝そうな眼差しで彼女は俺を見詰める。
「……布団はやらないぞ」
 俺が奪い返すつもりだと判断したのか、彼女は絶対に渡すまいと布団をぎゅっと抱き締める。
「それはいい。とにかくこっちこい」
 最早、布団なんて目じゃなかった。だって俺の目的は別にあるのだから。
 呼ばれた彼女は布団を部屋の角に置いて俺の元へと近付いてくる。一応、彼女は少し怪しむ様子を見せて警戒心を剥き出しにしている。だが、俺の手の届く範囲にまで彼女が近付いてしまえば、そんなのは全くの無意味となる。
 俺は手を伸ばして、近付いてきた彼女に触れてやる。
「これでどうだっ!」
 寒がりである俺は同時に冷え性でもある。したがって冬場の俺の手は氷のように冷たくなる。だから冷水が苦手な彼女にとって効果抜群の筈だ。
「おーつめたい、つめたい」
 しかし、彼女はもろともしていなかった。棒読みで言いながら、ちっとも効いている素振りを見せない。
 彼女の反応がいまひとつであったので、俺は一旦空いている片方の手で自分の頬に触れる。頬には冷たさがはしり、やはり自分の手は冷たくなっているのが確認が出来た。念のため、今度はこの冷たいと認識した手で彼女の身体に触ってみる。しかし、彼女は相変わらず微動だにさえしてくれない。
 可笑しい、こんな筈ではない。
 当初の予定と全く違う。彼女が冷たいと驚く姿を想像していたのに、これではまるで俺だけが馬鹿をやってるだけではないか。それではあまりにも報われなさすぎる。
 どうにかしてこの事態を脱却したい。それを思ってる最中に、手からはしきりに彼女からの温もりが伝わってくる。布団じゃ得られないとても暖かで和やかな温もりが。
「バクフーン、暖かいな」
「まあ、オレが炎タイプだからね」
 フフン、と得意気に言う彼女。対する俺はひたすら彼女が温かいと感じる。この時、俺は冷たさよりもひたすら熱が欲しいと強く感じた。
 だから両手を彼女から離し、むくりと立ち上がった。やっと起きる気になったなと呟く彼女なんかお構い無しに、俺は体重を預けてやった。
「ちょっ、ちょっと!」
 流石の彼女も予想外であったのか、受け止める姿勢が間に合わず彼女は背中を床へとつけてしまう。
 敷き布団のようになった彼女を俺は夢中で抱き締める。そうするとやはり彼女からは温もりが伝わってくる。それも寒いのなんか忘れさせてくれるくらいにだ。
「すごいあったかいなあ」
 おまけに彼女の身体はとても柔らかく肌触りもとても良い。そうして俺は彼女の胸元に顔を沈めていく。
 「うー」
 突然抱き締めたり、押し倒してきた俺に彼女は何も言えないでいる。普段の俺達の関係なら彼女が押し倒したり抱いてきたりするが、今に至っては完全に立場が逆転していた。
「あ、あのさ朝御飯の準備しなくていいの?」
「俺はこのままでいいけど」
「えーと、じゃあまだ一日が始まったばかりなんだけどさ」
「バクフーンだってたまに昼間に求めてくるだろ」
「あ、うん、それはそうだけどさ……」
 何時もの俺からじゃ想像もつかない行動や言動に戸惑う彼女。こんな彼女を見たのは恐らく初めてなのかもしれない。
「……じゃあオレも頑張って温めるよ」
 覚悟を決めたのか彼女も俺の事を抱き締めてきて、お互いに身体を温めあう。依然として部屋の空気は冷えていたものの、寄り添う俺達には寒さなんてものは感じさせなかった。
 しかしこの時まだ、後に彼女が全身に汗が滲む程の激しい行為をしてくるとは俺はまだ知る由もなかった。


人×オオタチ小話 抱いて寝る意味 



「あの……ご主人さま?」
 僕はオオタチの声で目覚めた。気が付いたら両手でオオタチを抱いていた。
 確か、一緒に昼寝をすることになったのまでは覚えている。しかしどうしてこの手でオオタチを抱き締めているのだろうか。
 それにしてもオオタチの身体はふかふかしていて気持ちが良い。まるでだきまくらのような心地好さ。その所為で手放したくないという衝動に駆られてしまう。程好い温もりに柔らかな感触で先程まで寝ていたというのにまた眠たくなるという欲求が出てくる。
「オオタチの身体を抱いていると、とっても気持ち良いや」
 布団よりかも遥かに勝るもふもふ感。こんなにも良いだきまくらが身近に在っただなんて今まで気付かずにいた。
「ご主人さま、抱くっていうのはもっと違う意味で」
 オオタチがほんのりと頬を紅く染め上げる。僕は彼女がそんな事を意識していただなんて思ってもみなかった。だから本当にそう考えているのか、試しに少し意地悪してみたくなった。
「僕は単にオオタチをだきまくらとして抱いているんだけど。君が考えてるそれってなにかなあ?」
「それはその……。私だってこれでも年頃の女の仔ですし、ご主人さまだってもう幼くないんですから」
彼女は頬を更に赤で染め、恥じらいながら言葉を綴っていく。
 口では婉曲ながら言っているものの、彼女の頭の中は薔薇色で彩られているのだろう。僕へとかかる彼女の吐息に少し熱っぽさを混じっているのがそれを示していた。
彼女につられて僕の気分も高揚していく。もしかしたら未だ寝惚けて現実と夢との境目が見えていないのかもしれない。
 抱くっていうのはもっと違う意味で。
 彼女に言われた言葉が脳裏で再生される。それが何度も繰り返されていく内に理性が徐々に欠落していく。
 この手でしっかりと彼女を抱いてしまっている。そうして彼女は物欲しそうな眼差しでこちらを見ている。
 僕は無事に二度寝をする事が出来るのだろうか、それとも、


デンリュウ×ライチュウ小話 僕と彼女と子供と 



 僕はもう我慢が出来なかった。
 彼女のお腹の中には子供を宿している。それを承知していながらも、僕の性欲は爆発寸前にまで追いやられていた。
 番になったのだから彼女とは常に一緒である。しかし彼女と身体を重ねられないのは精神的に苦痛であった。
 僕は交尾に飢えているのではない。ちゃんと彼女に愛情を注げているのか不安になるのだ。それがないと僕はただ単に彼女の側にいるだけになってしまうから。その事が僕の精神面に重くのし掛かっていた。
 そして、断固として自分の愚息は誇示している。彼女の中に包まれて、愛を訴えたいと。
 しかし、身体を重ねるだなんて大層な負担を、今の彼女にかけるべきではない。子供がいる状態では歩くだけでも大変であるのだから。時折彼女が辛そうな表情を浮かべている充分記憶に新しかった。
 今思えば、彼女とくっついてからは僕が求めている回数の方が多かった。昔は彼女の方が求めていたのに。
 今だってこうして一緒に歩いているだけでも襲ってしまいたいという衝動に駆られる。歩きながら優雅に揺れる彼女の尻尾はあたかも僕を誘っているとしか考えられない。だけどもきっと、彼女にそんな気は無くてただ単に楽しい気分を表す為に振っているだけなのだろう。
「デンリュウ、どうしたの?」
 唐突に僕の足が止まった所為なのか、先に歩いていた心配そうに彼女が振り向いてこちらを見る。その際に彼女のぽっこりと膨らんでいるお腹が嫌でも目に入り、僕は罪悪感に襲われた。
 そんな姿になってまで僕は彼女を貪ろうとしている。妊娠中の彼女が掛かる負荷も知らずに。
「ライチュウ、僕って可笑しいのかな。子供を宿している君としたくて堪らないんだ」
 僕の言葉を聞いた彼女は驚いた様子も怪訝そうな様子も見せなかった。その代わりとして母が浮かべる柔和な笑みが溢れていた。
「あたしもしたいかなって思ってたところだよ。ふふっ、お互い様だね」
 そう言って彼女は僕に近寄って、身体を預けてくる。予想していたよりも大きな重量感が伝わり、僕の足が少し縺れた。危うく僕は背中から倒れてしまいそうになるが、どうにか彼女を支える事が出来た。
 以前と比べると彼女の身体は重たくなった。それは子供を授かっているからだ。これから僕はふたりを支えていかなければならない。
 こんな僕で大丈夫なのだろうか。ちゃんと理想的な父親へとなれるのだろうか。
 久々に彼女を抱いた動悸と共にそんな不安が入り交じる。この僕の心境を悟ったのか彼女は言ってくる。
 貴方なら大丈夫、と。
 そう言って彼女が僕の胸元にくちづけをしてきた。


 彼女を抱えながら僕は一心不乱に突いていく。今まで溜まっていた性欲を吐き出すように、最近彼女に注げなかった愛情をぶちまけるように。
 対する彼女も久しい僕の感触に溺れていた。お腹の中には子供がいて負担が大きく掛かっているのにも拘わらず、苦しそうな気配は見受けられない。寧ろ彼女に浮かんでいるのは情欲に溺れる牝の顔だ。その最中で違った表情も浮かべていた。それは先程見た母性溢れる笑顔だった。
 彼女の身体は情事の残骸でまみれていた。膨らんだお腹はもちろんの事、顔にまで付着している。どろりと滴る残骸は既に地面にまで及んでいた。それはもう幾度となく絶頂を迎えたのを物語っていた。そうして僕と彼女はまた、
 果てる。その際に彼女と子供に対して白濁液が注がれていく。回数を重ねているのにも拘わらず、白濁液が噴出する勢いは衰えを知らない。
 彼女からは熱い吐息が出てくる。それも小刻みに、だ。それは彼女の体力がかなり消耗しているの語っている。それなのに彼女は、
「ふはぁ……まだ、デンリュウのもいけるね」
 と言いながら足先で僕の愚息に触れる。彼女の全身を汚した筈なのに、僕の愚息は未だに固くなっており、萎縮する気配はちっとも無かった。
 彼女は疲れて、僕は元気。そうなってくると僕が我慢をしないといけない。子供がいる彼女に無理はさせられない。
「や、やっぱり赤ちゃんのために無理できないよ……。今日はもうお終いでいいよね?」
 体格差的に不釣り合いな僕の愚息を受け入れている彼女の負担は馬鹿にならない。これ以上体力を磨り減らすのは僅かに残っている僕の良心を咎める事になる。
「……やだよぅ」
挿絵
 しかし彼女の返答は否定的であった。首を横に振って僕の言葉を拒絶する。
 ……僕の責任だ。僕がしたいってなんか言ったから。
 あの時我慢して言わなければこんな事態にはならなかった。後悔するも後の祭りだ。
「だって、君はもう辛そうにしてるのに、これ以上続けるなんて出来ないよ」
 僕は自分の欲を優先してまでも、彼女と僕達の子供をいたぶる気になんてなれない。
 だから、もういいのだ。自分の愛を与えるくらいなら、母子共に健康なのを選びたい。
 それなのに彼女は揺るいでくれない。ならば、僕は意地でも動きまいと決意する。このままじっとしていたら、きっと愚息や彼女の熱は冷めて平穏になるのだから。
 僕が何もせずにいると彼女は自分の思いを露とする為に口を開いた。
「……あたし、この仔にもっと教えてあげたいの。あなたのお母さんとお父さんはこんなに仲良しなんだよって」
 そして彼女はお腹をそっと優しく擦る。これから生まれてくる我が仔を思いながら。
「まだこんなになってるんだから、デンリュウもまだ伝えきってないんだよ……この仔に対しての愛を」
 確かに僕はまだ伝えきれてない。でもいいのだろうか、もしかしたら僕は歯止めが利かなくなってしまうかもしれないのに。
「子供はね、愛情がたっぷり必要なんだよ。それも、あたしのだけじゃ駄目、デンリュウのも必要なの」
 だからね、もうちょっとだけしよ?
 そんな彼女の切実な想いを僕は無下に出来なかった。彼女に応える為、子供の為に、僕は覚悟を決めて首を縦に振る。
 そうした途端に彼女はお腹に手を宛てた。もしかしてお腹に痛みを感じたのか僕は心配になる。だが、そうではなかったようで彼女は直ぐに言う。
「ちょっとお腹の中で動いた気がするの。何だか喜んでるみたい」
 愛しい我が仔の反応に、彼女は嬉しく笑う。そんな彼女を見て、僕も笑顔が綻んだ。


熱せず冷せず小話 クリスマスプレゼント 



 クリスマスと言えば、ツリーに美味しい料理、そしてプレゼントを思い浮かべるのが普通である。しかし、そんなものはこの家にない。俺にクリスマスなんて単なる平日に過ぎないのだ。しかし彼女はおめでたい事に盛大な勘違いをしている。俺がクリスマスを祝うと思っているのだ。
「今日はクリスマス、ふんふーん」
 やけに上機嫌で鼻唄をしているバクフーンの彼女。大方、今日の晩御飯は贅沢な料理が並ぶと考えているだろう。だが、残念ながら先程も言った通りにクリスマスとは無縁だ。したがって、今日も普通の晩御飯である。贅沢は財布にとっての敵なのだ。
「言っておくけど、クリスマスだからってバクフーンが考えてるような晩御飯じゃないぞ」
「ふーん、そんなの分かってるぞ。クリスマスは気分だけ、気分」
 珍しく彼女がクリスマスに期待を抱いていないのを見て、俺は内心驚いた。何時もの彼女ならここで俺に不平を言うのだ。どうしてうちだけクリスマスじゃないんだ、とか。
 今年はせめて少しだけクリスマスを楽しもうと苺のショートケーキをふたつ買ったのはここだけの話だ。
 後で、彼女がケーキを見て驚く姿が目に浮かぶ。特に去年なんかクリスマスらしいのは何も無かったから。
「なあ、もしもプレゼントがあったら欲しいか?」
「え?」
 突拍子も無くいきなり俺に訊ねてくる彼女。俺はもうプレゼントなんて貰える歳ではないので全く頭に無かった。
「いいから答えてよ」
「そりゃあ、あったら嬉しいけど」
「なんでも?」
「うん」
「ふーん、じゃあちょっと後ろ向いてて」
 そう言われて、彼女に大人しく従って俺は背後を見せた。
 何だろう、プレゼントって。
 妙に胸の奥が騒がしくなる。密かに彼女のプレゼントに期待している俺がいる。
「これでよし、と。こっち向いていいぞ」
「分かった……って……」
 彼女を見た途端に、俺は呆気に取られた。彼女ならやりかねないとは思っていたものの、この時の俺は少なくともこういう予想はしていなかった。
「オレからのプレゼントはね、オレだよ」
 赤いリボンを身体に適当にぐるぐると巻き付けている彼女がそこにはいた。巻き付け方が拙い感じはするものの結び目はきちんとリボンのように結ばれており、結ぶのに関しては何度も練習したのが窺えた。
 それにしても、どうすればいいのだろうか。彼女から彼女自身を贈られたとしても何も変わらない気がする。
 俺はそんな事を考えながら、プレゼントには手を出せずに暫く固まっていた。
「ほら、ありがたくうけとれーっ!」
 そう言って彼女の身体が傾き始める。それを見た矢先に俺は嫌な予感がした。
 このままいくと俺は彼女に押し潰される。
 そう脳裏で瞬時に過ぎり、咄嗟に手を出し、彼女を抱いてこちらに倒れさせまいとする。しかし、倒れてくる立場と受け止める立場では力の加えやすさが違う。後者であった俺は彼女の体重を支えられる程の力なんて持ち合わせていなかった。それ故に、床から足が離れる代わりに、背中が徐々に床へと近付いていく。
 それから程無くして、部屋にはけたたましい音が響くのと同時に背中からは鈍い痛みが走る。
「いっ、つぅっ」
 彼女を抱いていた所為で受け身すら取れなかった。その為かもろに背中を床に直撃した俺は悶え苦しむ。そんな最中、彼女は俺の気も知らずに平然としていた。
 俺の上には彼女がのしかかっており、俺は身動きがちっとも取れずにいる。俺は恐るべきプレゼントから逃げることを許されずに貰われるのを彼女は待っているのだ。
「プレゼントといえば最初することはなーんだっ?」
 彼女は愉快そうに訊いてくるが、俺はちっとも楽しめないでいた。それどころか彼女が上に居て温かいにも拘らず悪寒がし始めてきた。それはある種の防衛本能からきているのかもしれない。
 プレゼントというよりはパンドラの箱だろ、これ。
 パンドラの箱とは開けたら災厄がふりかかる言われている奴である。今の彼女は正にそれと同じ代物と言っては過言ではなかった。
 恐らく、このリボンを解いたら最期だろう。
 早く早く、と言いながら待ち焦がれている彼女の姿を見て、俺は溜め息が出そうになる。それと同時に今日は無事に寝れるのだろうかと考え始める。しかし、行き着く先は不可能という言葉だ。
 それならいっそ割り切って彼女に付き合ってしまうのはどうだろうか。
 俺は腹を括って彼女のリボンの結び目を解いてやった。そうした途端に彼女は俺に抱き着いてきた。
 それから彼女が俺の身体を満足させようと励むのは予想通りの展開であった。


CPバクフーン×メガニウム小話 冬に咲く花 



 辺りには落ち葉が散らばっていた。ついこの間までは鮮やかな紅色や橙色をしていたというのに、足で踏み潰してしまっている木の葉は全てくすんだ茶色であった。
 それもその筈で季節は実りの秋から荒廃とした冬へと移り変わっていたからだ。森の木々は木の葉を落とし、ほぼ全て丸裸となっていた。たまに葉っぱが残っている木を見かけるが、どれも先程の落ち葉同様の色合いをしている。
 季節の循環には逆らえないから仕方がない。
 俺はもう子供ではないし頭では自然の摂理というのを理解している。それなのに俺の隣で歩いている彼女ときたら、
「あーあ、本当に冬ってやだ。植物も寒さで萎れちゃうし」
 子供じみた不満を俺に溢す。そんな彼女の首元には季節外れの色鮮やかな赤い花弁がある。加えて、身体はこの場には相応しくない活き活きとした黄緑をしていた。
「メガニウム、冬だからしょうがないだろ」
 そう言って俺は溜め息を一つ溢す。彼女がチコリータであった小さい頃から同じような言葉を何度も聞いていれば、うんざりして溜め息もしたくなる。
「寒いのを知らないからそんな事が言えるのよね、バクフーンは」
 俺の暖かそうな体毛を、彼女は羨ましそうにじと目で見るなり呟いた。
 事実、彼女が騒ぎ立てる程に俺は寒くはなかった。恐らく、炎を司るポケモン達には全て当てはまる事だろう。
 そんな俺に対し、彼女は草の力が宿っている。彼女がその気になれば痩せた土地を再生する事すら可能なのだ。しかし植物というのは敏感なもので、毎日が晴れの日が良いと言う訳でなく適度に雨の日も必要とする。それと同じ様に彼女は熱さや寒さにはかなり過敏であった。
 おまけに今日の空模様は鉛色した曇で覆われているから普段よりも凍えていた。だから温度に煩い彼女にとってはとっくに許容範囲を越えてしまっているのだろう。
「こんな気候なら毎日が春か夏だったらいいのにな」
 あり得もしない望みを彼女が言ったので、俺は思わず鼻で笑ってしまった。そんな反応をしてしまったので彼女はぷいと視線を俺から逸らして機嫌を損ねる。
「どうせバクフーンに笑われるくらい、私は可笑しいですよ」
 ふとした事で機嫌が悪くなるのもやはり彼女が草だからか。これが俺と同族だったら笑って誤魔化せただろうに。
 これ以上彼女の気分を悪化させない為にも上手い言葉を投げ掛けなくてはならない。
「季節に応じて花が咲いたり、木の実や果実が成ったりするから良いんだろ。もっと季節を有難く思わないとさ」
 うん、我ながら良い台詞を言ったな、と考えていたら、
「それでも私は冬が苦手なの。それに何? そんな言い方をするなんて、もしかして私以外の花に惚れてるの?」
 彼女に偏屈な言葉で返されて台無しとされた。次に彼女は俺を訝しげにじいっと見てくる。
 そう言えば彼女は俺が花に見とれてるだけでも嫉妬するんだったけ、と俺は胸の中で苦笑いした。
「他の牝ならまだしも、俺がどうして植物に恋しなきゃならねえんだよ。それこそ可笑しいわ」
「ふうん、ならいいけど。まあ浮気が発覚したらただじゃおかないけど」
 草が炎に楯突けるのかと彼女に言いたくなったが、俺は口を閉めた。かつて誤解を招かれた際には酷い扱いをされたからだ。具体的には蔓で縛られて、彼女が納得するまで拷問を受けるという地獄だ。
 とにかくねちっこいのだ、彼女は。一応、俺は草の連中にそういった印象を抱いているが。
 かく言う俺もちょっとしたきっかけで嫉妬の炎を燃やしやすかったりする。彼女が違う牡と仲良く話しているだけで気に食わなかったりとか。
 俺と彼女、どちらにしろ案外似た者同士だと考える。そんなだから、こんな俺達の他に誰もいない場所にふたりでいるのだ。
 突拍子もなく、風が吹いてくる。思ったよりも強い風に、彼女の花弁が音を立てながら煽られる。
 彼女が寒そうに身体をびくびくと震わせる。彼女に対し俺はこんな風には動じずに平然としていた。
 一緒に歩みを進めていたが、遂には彼女の足取りも鈍くなり止まってしまった。それも俺達に通ったこごえるかぜの所為であった。氷の技は俺にはこうかはいまひとつだとしても、彼女にはこうかがばつぐんなのだから。
「本当、寒くて嫌になるわ。どうにかできないのかしら」
「んまあ、メガニウムがどうしても寒いって言うだったら俺が暖めてやらなくもないけど。こうやってさ」
 彼女が辛そうにしている姿を見て、俺は手を貸さない訳にはいかなかった。
 俺は彼女へ身体を擦り付け、自分の温もりを彼女へと与える。すると彼女は突然の俺の行為に目を丸くさせていた。しかし、彼女の方からも身体を委ねてくる。
「バクフーンにしてはなかなか気が利くじゃないの」
 彼女はそう言って、目を細めながら暖かそうにする。寄り添った為か彼女の花弁から発せられる芳香が鼻を刺激する。ほんのりと甘い匂いを嗅いで、彼女が喜んでくれてるのだな、と俺は思った。
 しかし俺がべったりとくっついただけでは彼女は物足りないそうで、
「でもまだ寒いの。もっと暖めてくれる?」
 更に俺へと要求してくる。これよりも暖かくしろと言われたら背中から炎を出さなくてはならないが、火は彼女にとって天敵なのでそうする訳にもいかない。頭を捻って考えるものの、なかなか良い案が浮かばないでいた。
 痺れを切らしたのか彼女が焦れったそうに冷たく言い放つ。
「こういうのには鈍いのね、バクフーンは」
 彼女が言い終えた途端に、何故か急に足が取られて身体が横転してしまう。背中を地面に着けて倒れる頃合いには原因が何なのか理解した。俺の足先にこの辺りでは全く生えていない草が絡まっているからだ。
 彼女の仕業か。
 気付く頃にはもう遅く、俺は彼女に覆い被されてしまう。そして彼女は俺があっさり罠に嵌まって嬉しいのか、意地の悪い笑みを見せてつけてくる。
 彼女から漂ってくる匂いが更に甘さを増していて、俺の身体はむくりと反応せざるを得なかった。
「まだ盛りの春じゃないぞ、メガニウム」
「万年発情期みたいに火を吹くバクフーンが何を言ってるんだか」
 口では抗うものの、彼女に蔦で下腹部に存在を誇示するものを触られてしまえば直ぐに論破されてしまう。身体はやはり正直らしく、彼女の牝の芳香に堪えられる筈もなかった。
「とにかく、私を温めて頂戴」
 彼女が差し迫って口を俺へと近付けてくる。自分で重ねないところがまた穢い。そうする事で彼女は俺が支配されるのを待っているのだ。
 分かったよ。
 終いに俺の心は折れ、自身の熱い舌先を彼女の口内へと捩じ込んでやった。


CPツタージャ♀×フシギダネ♀小話 秘密の花園 



「ツタージャ、元気にしてる?」
 振り返ってみると実の姉であるフシギダネであった。思いもよらなかった姿を見た私の心は驚きで一杯であった。
 姉が結婚すると言って住み処から離れていったのはまだ充分記憶に新しかった。とは謂えども、近頃はあいつの処で暮らしており、こうして顔を合わせるのは久方ぶりであった。
「私は元気。……おねーちゃん、今日はあいつと一緒じゃないの?」
 普段なら姉の隣にいる筈のあいつの姿はなく、私はきょろきょろと辺りを見回してみるものの気配はなかった。あいつがいなかった事に私はほっと安心し、一息吐いた。
 あいつの隣にいる時の姉はなんか嫌だ。この前あいつと姉が一緒にいる時を偶然見た時、姉は妹である私には見せた事もない表情をしていたからだ。頬を真っ赤に染め、はみかみながら嬉々としている姉。歳が下である私よりも童顔なのにあいつの時だけに色っぽい姿を見せる姉。
 私は姉が好きだ。だけども私が知らない姉を見るのは嫌いであった。同じ姉なのに対して私が抱く感情は全くの別物であった。
「こら、あいつって言わないの。一応、ツタージャにとっては義兄さんなんだから……」
 あいつ呼ばわりをした所為か姉に叱られる私。しかし反省しようだなんて微塵にも思えなかった。
 そう、私は未だに姉の夫を認めずにいた。あんな頼りのなさそうな顔をして、姉をしっかり守ってやれるのかと思う。しかし、そんな気弱なあいつもやる事はしっかりやっているようだ。
 その証拠に、姉のお腹がぽっこりと膨らんでいた。
 四足歩行であるお姉ちゃんが妊娠してもあまり目立たないだろう。だが、妹の私には姉が妊娠しているのは一目で見抜けた。ずっと前から、姉の事を知っていたから。
「……ふうん。おめでたなんだね。おねーちゃん」
「やっぱりツタージャは分かっちゃうか。そう、旦那さんとの子供だよ」
 そう言った途端にお姉ちゃんの表情がぱあっと明るくなる。背中に乗せている種が今にも花を咲かせそうな程に、そして鼻唄でも歌いそうな勢いであった。それくらいに姉はあいつの子を孕むのを待ち望んでいたのだろう。
 姉が嬉しいなら私も嬉しくなる、その筈だった。しかしそこにあいつが絡んでいれば話は大きく変わる。
 私はちっとも嬉しくなんかなかった。それどころかあいつに私の姉を取られてしまって腹立たしかった。
 しかし私は姉の弱味を握っている。あいつも知らなさそうな姉の性癖を。
「そういえばおねーちゃん、最近あいつとやったの?」
「やったってなにを?」
「決まってるじゃない。交尾よ」
 私がそう言った途端に姉の表情が若干強張った。姉の反応を窺うに、あまり振られたくない話題であったのは間違いなかった。ほんの僅かに間を置きながらも姉の口が開く。
「ツタージャったらこんなとこでそんな話題振って……でも最近はしてないかな。旦那さん、妊娠してからは遠慮してるみたいだし……」
 私と違って素直な姉は包み隠さず話してくれた。ご丁寧に聞いてはいない私事までも。
 最近はしてない、その語句を耳にした途端に私の頬は緩んだ。そして意地の悪い私は姉に訊かざるを得なかった。
「そっか。じゃあ溜まっちゃうよね、おねーちゃん」
 私の言葉を聞くなり、びくりと身動ぎした姉。その後は石になったかの如く黙り込んでしまう。
 どうやら図星であったようだ。
「おねーちゃんが私に会いに来たのって私の心配だけじゃないよね?」
 私の口は止まらない。それなのに姉は沈黙を続ける。
 それでもほんの僅かの間だけ姉は眼を泳がせて、私から逸らしたのが見えた。これは自分自身の立場が悪くなった途端に姉がする癖である。
「……それってどういう意味――」
 分かってるくせに知らん顔をする姉をそれ以上は喋らせまいと、私は姉の口に目掛けて蔓を捩じ込んでやった。急に蔓を入れられた姉は口をもごもごと動かす。だが、言葉にならず、反って蔓に唾液が纏わり付いていくだけだった。
 調度良い具合に蔓が唾液で濡れたのを見計らって、私は姉の口を解放してあげた。思いがけない妹の行為に呼吸をするのさえ忘れていたのだろうか、姉の息遣いは乱れていた。
 いや、きっとそうじゃないだろう。
「つたーじゃ……」
 私を呼ぶ姉の声がいつもとは違う。どこか切なげで甘えるような口調。私には聞き覚えのあるものだった。
 やはり姉は興奮しているのだ。強引に口内へ蔓を捩じ込まれて快感を堪能していたのだ。姉の様子を確認すれば、頬の色を朱にへと染め上げて、吐息は冷たいものから熱いものへと変わっていた。眼には今にも泣き出しそうに涙を浮かべている。
 そう、姉は被虐嗜好を持ち合わせていた。そんな姉に対して私は加虐嗜好だった。先程の姉の乱れた姿を見て、私の弄り倒したいという変態性欲はすこぶる高まっていた。
「ふふんっ、やっぱり我慢してたのね」
 食欲、睡眠欲等といった数々の欲求に忠実な姉が我慢なんか出来る筈もない。特に妊娠をしているとなると余計にそうだろう。個体差はあれど、妊娠をすれば性欲が増すという話を何処かで聞いた。姉の場合にはこの話がもろに当てはまるようだ。
 私は蔓で支えながら、姉を二本の脚で立てるようにしてやった。そうすると、姉の隠れてよく見えなかった膨らんだお腹と雌しべが露となっていく。
 私は姉のフワライドみたいに膨らんだお腹をそっと手で撫でてみる。どくんっどくんっと姉の鼓動に合わせてお腹は揺れ動く。この中にたまごがあると考えると、私はなんだか不思議な気分になる。
 次に蔓で姉の雌しべをに触れてみた。すると蔓にへとねっとりと絡み付くものがあった。口の中に蔓を入れてやっただけだというのに、姉の雌しべからは蜜が滴り始めていたのだ。
「相変わらず感度が良いというかなんというか……」
 私は蔓についた姉の蜜をぺろりと舐める。姉の蜜を舐めたのは結婚して以来初めてであったが、味は変わっていなかった。
 しかし姉の中はそうもいかないだろう。恐らく、姉の雌しべはあいつのを憶えているのに違いない。
 それを確かめる為に、私は姉の雌しべに蔓を突っ込んでやる。蜜が分泌していたという事もあって、姉は私の蔓をすんなり受け入れる。
「んはあっ、あ」
 いきなり蔓を入れられた姉の口からは怒りの言葉どころか悦の籠った嬌声が出てくる。雌しべを妹の私に弄ばれているという恥じらいもなく。
 私は蔓を姉の雌しべから出したり入れたりして姉の中で暴れさせる。案の定、蔓から伝わる感触が前とは少し異なっており、姉の雌しべの中の形が変化しているのは紛れもない事実であった。それもきっとあいつの雄しべの所為だろう。
 蔓を動かせば動かす程に雌しべからは蜜が出てきて、姉の身体を汚していく。反対に私の雌しべもじんわりと熱くなってきており、姉と同じく蜜が溢れ始めていた。姉の気持ち良さそうな姿を見ていたら、自分の雌しべにも刺激が欲しくなってきたので、蔓を使って擦り合わせる。
 姉と私から滲み出てくる蜜はもう既に地面にまで垂れていた。姉の方は特に乾いた地面を湿らせるほどまでに及んでいる。
「それにしてもあいつに頼まずに、私の所にくるとはねえ……」
「だって、旦那さんは妊娠中だからってしてくれないもの……」
 所詮、姉からしてみれば私はあいつの変わりでしかないのだろう。それは仕方ないと頭で割り切るしかなかった。だって姉はもう既婚してるし、あいつに求めるのが普通なのだから。もう昔のように姉妹で睦みあうなんて出来ないのだ。
 そう考えると、私は段々と悲しくなってきた。でも浮かない顔をして姉を心配させる訳にはいかない。姉にはいつも笑顔でいてほしい。
「そういえばまだ言えてなかったけど」
 今まで意地を張り続けてずっと言えなかった言葉。私はちゃんと口に出して姉に伝えたい。
「おねーちゃん結婚おめでとう……」
 心の底から祝福は出来ていない私の言葉。どうしてもまだあいつに対する嫌悪感は残ってしまう。それでも、あいつと一緒にいる事で姉が幸せになら構わない。
 だけど、今日みたいに時々でいいから私の所にも帰ってきてほしい。そんな思いを込めて私は続ける。
「辛くなったらいつでも相談に乗るよ」
 寧ろ相談に乗ってほしいのは私の方かもしれない。だけど、そんな自分らしくない弱味は姉に見せたくない。
「私の蔓は……」
 そして無理にでも笑顔を繕って私は高らかに公言する。
「いつだっておねーちゃんのココを慰めるためにあるんだものっ」
ウロ様より頂いた挿絵
「つたーじゃ」
 姉の呼ぶ声に、私は咄嗟に顔を向けた。すると姉は和やかな笑みを私に投げ掛けてきた。そして、
 ありがとね。
 と姉が呟いた後には、口に柔かで温かな感触が伝わった。それは私の渇いた心の根まで染み渡る。
 いきなりお礼を言われた挙げ句に、口を重ねられた事で私の頬は恥ずかしさで熱くなる。そして私も姉にしてあげたいという衝動に駆られ、くちづけを御返しにしてあげた。


CPデンリュウ×ライチュウ小話 ライチュウの日 



「ねえ、デンリュウ。今日は、何の日か知ってるの?」
「今日? うーんと……」
 ぷにぷにとした黄色い頬っぺたと美味しそうなコッペパンの様な手を持つ彼女に突然訊かれて、僕は今日が何か大事な日だったかどうか首を捻って考えてみる。しかし、答えは一向に浮かばない。
 今日が彼女の誕生日と言う訳でもなく、かといって僕と彼女の記念日という訳でも無い。つまるところ、特に今日は何もない日なのである。少なからず僕はそう思っている。
 しかし、彼女が言うには大事な日らしいが……。
 大分悩んでも、結局今日が何の日か導き出せなかった。
「……ごめん。分からないや」
 今日が何の日かも分からない自分の不甲斐なさに嫌悪しつつ、僕は彼女に謝った。途端に、彼女の大きい耳がしょんぼりと項垂れる。
「デンリュウなら、分かると思ったんだけどな……」
 そう言った彼女の声色は震えていて、彼女の表情は今にも泣きそうだった。
 自分が無知だから、僕は彼女を悲しませてしまった。
 何としてでも思い出そうとするが、やはり全然浮かばない。そうしている間にも彼女の瞳は涙で潤っていく。
 どうしたら泣き止んでくれるのだろう。そうやって頭で考えている内に、身体は勝手に僕よりも一回りも小さな彼女の身体をこの手で捕えていた。
 彼女の身体はぶるぶると震えている。その震えが止まるようにと僕はぎゅっと彼女を抱き締める。僕のお腹は彼女の冷たい涙で濡れる。
 これ以上、彼女を悲しませたくなかった。だから、僕は彼女へ訴える。
「……僕が悪かった。だから泣かないでよ。君が気が済むまで僕は何だってするから」
「――本当に?」
「本当だとも。だって、知らなかった僕がいけないんだから」
「じゃあ――」
 そうやって彼女が言いかけた矢先、
「うあっ!」
 僕の身体の自由は奪われた。それも、身体が急にびりびりと痺れ始めたからだ。僕は麻痺してしまって、手先すらも満足に動かせない。
 電気タイプである僕は本来なら麻痺はしない。それなのに麻痺をしてしまった。原因として一つだけ考えられるのは、
「あのね、デンリュウ。今日はね、あたしの日だったんだ」
 彼女の特性である“せいでんき”だ。
 先程まで僕は彼女を抱き締めていた。だが麻痺して力が入らなくなったので、僕の手から彼女がするりと抜けていく。そして彼女はぽんと軽く、僕の事を押した。僕は麻痺してしまって棒立ち状態でいるので、それだけでも身体が傾いていく。背中から倒れていき、やがて僕の視界は雲ひとつない晴れ渡った空で埋め尽くされた。
 どうしてこんなことに。
 僕がそう思うと、彼女が顔を覗かせてきた。その際に、彼女に浮かんでいた筈の涙は一つもない事に気付いた。その代わりとして、彼女は口元を綻ばせて、何やら妖艶な笑みをしていた。
「あたしはずかんなんばー二十六らしいよ。あくまでニンゲン達が言うには、だけどね。そしてニンゲン達が使ってる暦では今日は二月六日。物分かりの良いデンリュウならもう分かるよね」
 物分かりが良いって彼女は簡単に言ってくれるけど、彼女に麻痺らされてから頭の整理がつかない。思考回路まで麻痺されてしまったかのようだ。
 それでも、僕が唯一分かる事はある。
「でんりゅう」
 それは僕の貞操が危ないと言う事だ。
 彼女の甘える声に聞き入れるしかない。彼女に攻撃力をがくっと下げられても、とっくに僕は反撃する術なんて残ってないのだから。
 僕のお腹の上に、彼女の柔らかなお尻が乗せられる。そうして彼女のぷにぷにとして弾力ある手は僕の頬っぺに乗せられて、彼女の顔との距離は眼と鼻の先となる。
 そして彼女は口を開き、彼女の可愛らしい八重歯が見えたかと思えば、


同居人小話 バレンタイン 



 今日はバレンタイン、と言っても特に胸が高鳴る訳でもなく反って憂鬱であった。
 朝から一緒に同居しているポケモンであるサンダースからの殺気めいた視線が痛かった。
 いつもなら俺が学校に行く直前になっても彼女は起きないにも拘わらず、なぜか今日という日に限っては俺が朝御飯を食べている最中に目覚めた。俺が学校に行く支度をしている際に至っては、機嫌が悪そうにしきりに毛先から電気を発生させてばちばちと火花を散らしてくる。それも俺には何も言おうとはせずに、無言でやってくるから余計恐ろしく感じる。
 学校に行く準備が整い、玄関で腰を下ろして靴を履いている時には、彼女が俺の肩に前肢を乗せてきて、いってらっしゃいと言ってくる。それが普通に言ってくれるならまだ嬉しいのだが、俺に怨みでもあるのかって思うくらいの低い声だった。一応彼女にはいってきます、とは言って家を後にはしたものの、学校には行かずにフレンドリィショップでチョコを買って帰ってきてしまった。

 俺が家に帰ってきた途端に、ベッドの上で寝ていた彼女は驚いたような表情をしていた。それはそうだろう。本来なら学校に行っているのだから。
「はいよ」
 そう言って俺は寝ている彼女のお腹の上にチョコが入っている箱を乗せてやった。
 状況が掴めていない彼女はベッドから跳ね起き、すっ頓狂に、
「どうして家に帰ってきたの? それに何であたしにチョコをくれるの?」
 と言ってきた。なので、俺は呆れたように言い返してやる。
「よく言うよ。あれだけ朝から不機嫌だから、てっきりチョコが欲しいのかと思ったわ。本来なら俺が欲しいくらいだよ」
 彼女の所為で、フレンドリィショップの店員さんの恥を忍んで、買ってきた俺の身にもなって貰いたい。
「だけど学校はどうしたの?」
「今日はもういいよ。どうせ遅刻だし、もうめんどくさい」
 そう言って、俺は制服の上着だけを脱ぎ捨ててチョコの箱を潰さぬように、ベッドの上へと上がり込む。そして仰向けなって寝る体勢へとなる。
 学校をサボった訳だし、二度寝するのが安定だろう。そう思っていると俺の胸の上に、何かが置かれるのと同時に彼女の顔が目の前にくる。
「ちょっと、箱開けなさいよ。あたしの前肢じゃ開けられないんだから」
 彼女の視線の先、俺の胸を見るとチョコの箱が乗せられていた。俺は渋々チョコの箱を手に取り、包装を破って、中身のチョコを取り出してやる。すると、今度は、
「チョコをあたしに食べさせてくれない?」
 彼女がそう注文してくる。俺はいちいち命令してくる彼女に密かに腹を立てながらも、チョコを一つ摘まんで彼女の口に運んでやった。そうすると彼女が俺の指先ごと口に含んでくる。彼女がチョコを舌先で取ったかと思えば、意図的なのかはどうであれわざわざ俺の指まで舐めてきたので少しくすぐったかった。
 彼女は俺の指から口を離すと、目を細めながら味わってチョコを食べる。美味しいのかどうかは知らないが何も言わない所を見ると、取り合えず不満は無いらしい。そして、彼女がもう一個頂戴、と言ってきたので先程と同様に口へ運んでやった。
 しかし全てが先程同様に、とはいかなかった。
 彼女の口が俺の指を解放すると、前肢が肩にへと乗せられた。
 一体、彼女は何をするつもりだ、と俺は思った。そして彼女に言葉を向けようと口を開いた瞬間に、
 彼女の舌先が捩じ込まれた。
 しかし、捩じ込まれたのは舌先だけではなかった。ほんのりと甘い味が口の中に広がっていく。
 俺の口から離した瞬間に、彼女が柔らかな笑みを浮かべてこう言った。
「あたしからのバレンタインだから、ね」


同居人小話 サンダースの日 



 三月十二日。三はさんと普通に読み、十二は英語でダースと読める。
 だからであろうか、今日は彼女の機嫌が偉い程良い。いつもは鼻唄なんてしない柄にも拘わらず今日に限ってはしている。そして何よりも俺に対する態度が異様な位に優しい。普段のつんつんとして関わりにくそうな雰囲気は一切見受けられない。
 今日みたいな彼女も捨てがたいとは思うものの、どうしても違和感を覚えざるを得ない。そんな彼女に対して逆に恐怖心さえも抱いてしまう。そして今にも青空から雷でも落ちてきそうな程だ。
「ねえ」
 目の前にいる彼女が俺に呼び掛けてくる。何を企んでいるのか分からない気味の悪い笑みとともに。実際は笑顔の意味は何も無いだろうが、俺はいつもの調子で身構えてしまう。
「なんだよ、サンダース」
 何時、不意討ちのミサイル針が飛んできても対処出来るように細心の注意を配る。
 そんな俺の心持ちも知らずに、彼女は相も変わらず上機嫌で訊ねてくる。
「今日は何の日か知ってる?」
「知ってるよ。サンダースの日だろ」
 俺が忘れる訳が無いし、間違える訳も無い。大事な彼女の日だから、と言えば聞こえは良いのだろうけど生憎そんな理由で憶えてる訳ではない。あくまでも我が身の為だ、十万ボルトを直撃されたりミサイル針で刺されたりしない為の。
 俺の言葉に彼女はご満悦な表情を見せてくる。大方、俺が忘れないでくれてて嬉しいのだろう。もしここで俺が不純な理由で憶えてたと知ったら、彼女の表情はどうなる事やら。きっと鬼のような形相に変えるだろう。まあ、口が裂けても絶対に言わないが。
「そう、その通りよ。ちゃんと憶えててくれたのね」
 そして、彼女がふふっと声に出しながら笑った。俺もああ、と返答しながら苦笑いを繕った。
 しかし、サンダースの日を憶えてただけでは済まされないのは間違い無かった。その証拠に彼女が俺に向かって身を投げ出してくる。俺は慌てて彼女を受け止めて抱いた。
 不可抗力とはいえ、彼女を抱いてしまった事に俺は後悔した。何故なら、彼女は許可無しに俺が触ると怒るからだ。間もなくして彼女が怒鳴り散らしてくる、そう思って俺は覚悟した。だが、一向に棘の様な鋭い言葉はやってこなかった。
 それどころか彼女の顔色は依然として変化が見られなかった。これには思わず、驚きを隠せなかった。
 驚いた俺の顔を読んでなのか、彼女は言ってくる。
「普段は触らせないけど、今日はあたしの日だから、いくらでも触っていいのよ? このあたしが直々に許してあげる」
「……どうも」
 怒られずに済んだのは嬉しかったが、いくらでも触っていいと言われると困惑してしまう。どのくらいまでが彼女の許容範囲なのか掴めないからだ。
 言われた通りに、俺は彼女の身体をべたべたと何時もじゃ考えられないくらいに触る。外見はつんつんとしていて固そうに見える彼女の体毛は、手が埋もれる程に意外と柔らかい。首回りの白い毛は他の部分とは違って更に手が沈んでいく。お腹の脇を触ってみると、予想以上よりもすっきりとしていて、華奢な印象を受けた。俺が家に留守番させているからそこまで痩せているとは思って無かった。しかし、華奢とは言ってもちゃんと牝の身体らしく肉付きが程好いのも事実であった。
「触っていいとは言ったけど、ただ触るだけなの?」
 身体ばかりを執拗に触る俺に呆れてか、彼女はそんな挑発めいた言葉を投げ掛けてきた。俺は見事に挑発に乗って、口を彼女の口へと重ねてやった。序でに舌先まで捩じ込んでやり、少しの間だけ彼女を黙らせる。
 舌先がぴりぴりとして痺れそうだった。もしかしたら、彼女が電気タイプだからという理由もあるだろう。
 口を離す頃には、俺の心臓の鼓動がばくばくと高鳴っていた。彼女にも伝わっていそうなまでに忙しく胸を打っている。
 それでも俺は平然を装いながら彼女に告げる。
「こっちはホワイトデーに返そうって思ってたんだけどな」
「ふーん、最初からその気だったのね。いやらしいこと」
 罵る言葉を扱ってきた割りには彼女の眼が俺を退いてるようなものになっていなかった。口調も毒のある鋭いものではなくて、やんわりとしたものであった。それどころか微かに彼女の頬さえも染まっていた。
 こんな彼女の前では、俺の調子までもが狂ってしまいそうだった。いや、もう既にどくどくと脈を打つ時点で可笑しくなっているか。
「やらしいのはどっちだよ。いつもだったら触れるのでさえ怒ってくるしさ」
「……牝が牡に身体を委ねる訳も分からないなんてどうしようもなくばかね」
 そう言って彼女が前肢を俺の肩へと乗せて、体重を掛けてくる。咄嗟の出来事で俺は対処が不可能だった。俺は背中を床へと着けてしまい、上には彼女が覆い被さってくる。
 俺の逃げ場は失ってしまった。
「こうなったらあたしが先に頂いちゃうんだから。覚悟しなさいよ」
 彼女がそう口にした刹那に、身体が痺れ始めて俺の身動きは見事に封じられた。企みが上手く実現したのを彼女の僅かに開いた口が表していた。そしてそこから俺と彼女が直列で繋がれるのに大した間は無かった。


熱せず冷せず小話 ホワイトデー 


「我慢なんてしなくてもいいのになあ。さっさと出しちゃえばいいのに」
「それは、うあっ」
 俺は既に虫の息となりそうであった。理由は至って明白だ、俺の彼女であるバクフーンが先程から愚息で弄んでいるからだ。
 彼女はぺろぺろと舌先で愚息を舐めてみたり、袋の方まで手を使って触ってみたりと様々な弄り方をしてくる。それに思わず、俺は声をあげてしまうぐらい感じてしまっていた。
 今すぐにでも彼女の動きを止めてやりたいものの、人間とポケモンとでは力の差は歴然でありやるだけ無駄だと思ってしまう自分がいる。だからであろうか、手を伸ばせば届くのに、愚息の近くにいる彼女を引き剥がす気にはなれなかった。
 それにしてもどうして俺は彼女に愚息を弄られる羽目になったのか。
 俺が少し前の過去を振り返ろうとした時に、舐められていた愚息が解放され、次に彼女の口が開いた。
「折角のホワイトデーだっていうのに何もくれないのがいけないんだからな」
 言い終えた途端に、再び彼女の口へと愚息が飲み込まれる。そして彼女は顔を上下に動かして、咥えた愚息を扱いていく。
 彼女に言われて、俺は自分が陥っている状況が確認出来た。
 そう、俺は彼女の言う通り何もあげなかった。それも今日がホワイトデーだというのにも拘わらずだ。
 しかし、バレンタインデーに彼女から貰った記憶が無いので、お返しを強要される筋合いが無いのも事実であった。実際、バレンタインデーに貰ったのは背中の炎でチョコレートをどろどろに溶かし、それを身に纏った彼女自身であった。言ってみれば、“食べられないもの”を俺は渡されたのだ。挙げ句の果ては、俺が彼女にチョコレートを塗りたくられて食べられるという酷い目にもあった。
 そして今日に至っては俺がホワイトデー自体を忘れていた事もあり、彼女に何も渡さなかった。十中八九、彼女は食い物をお返しにしてくれると考えていたのだろう。しかし何もないと知った彼女は、俺に対して噴火しそうな程の怒りを露としてきた。
 そして散々揉めた後に彼女が言ってきたのだ。食べ物が渡せないならこっちで渡せばいいじゃないか、と。
 こうした経緯があって、現在俺の愚息が彼女に食べられている。こんな目に遭うのであったら、ちゃんとお返しを用意しておけば良かったと考えるものの時は既に遅かった。
 それどころか、愚息がぱんぱんに膨れ上がって白いものを吐き出しそうにまで及んでいた。
「さすがに、これいじょうはっ」
 そう言った矢先に、彼女の口を動かす速度が上がるとともに、手を休める事なく俺を追い詰めてくる。大方、俺が苦しい言葉を口にした所為であろう。彼女はあと少しで俺が果てると判断したに違いない。
 ただでさえ余裕が無いというのに彼女により激しく求められてしまえば、俺の愚息は自分の意とは反して屈服してしまった。
「うっ、ああっ!」
 快感が愚息から全身にへと駆け巡る。すると愚息の先端からは彼女が喉から手が出そうなまでに欲しがっていた白濁とした液体が溢れてくる。びくびくと愚息が脈を打つのに合わせて白濁液は吐き出されて、彼女の口内に注がれていく。それを彼女はごくごくと喉を鳴らしながら美味しく堪能していく。
 彼女の食欲に追い付かず、あっという間に白濁液は尽きてしまった。すると彼女は物足りなさそうに、愚息に付着した白濁液を舐め始める。それでもまだまだ足りないのか、俺に言ってくる。
「これでおしまいじゃないよな」
 彼女に言われて、俺は固唾を飲んだ。まだ終わらないのかと。そして彼女の底無しな食欲を恨んだ。
「もっとちょうだい。しろいのをさ」
 今度は彼女が俺に跨がってきた。ご丁寧に俺が逃げないようにと両手を肩に置いて、床へと押し付けてくる。
 彼女は白濁液で汚れた口元を舌でぺろりと拭いた。その姿が妙に刺激的で、俺の身体は反応してしまう。萎える一方かと考えられていた愚息は元気を取り戻し、彼女に食べられる準備が用意出来ていた。
 どうやら今夜は俺の白濁液が無くなるまで絞り尽くされそうだ。


風邪と貰い火と小話 さびしさとぬくもり 


「アパート全焼、原因は炎タイプの火炎放射によるものか。死者はこのアパートに住んでいた会社員の男性一名、負傷者は住民数名。なおこの事件で亡くなった男性のポケモン一匹が行方不明となっている……か」
 ポケギアに入ってきたニュースを淡々と読み、顔を上げると、ゆらゆらと蠢く九つの尻尾が視界に入った。いつのまにか僕のポケモンであるキュウコンが目と鼻の先にいて、僕は慌ててしまう。
「うわっ!」
 驚いて僕はポケギアを手放すとともに後ろへと身動ぎしてしまう。その所為でポケギアはかつんと音を響かせながら床へと落ち、僕の背中も床へと着いてしまう。仰向けの体勢へとなった。僕を脅かしてきたキュウコンは僕を覆い被さるように身体を移動させる。
 すっかり深紅の瞳が僕を捉えていた。
「なにをそんなに慌てているの?」
 当の彼女はというと、僕が慌てているのを不思議そうに見つめてくる。焦っている僕とは対照的で、彼女は冷静であった。
「えっと、いや……」
 僕は言葉に詰まった。自分でも何故そんなに慌てているのかと突っ込みたくなる。すっかり背中からは汗が滲み出ていた。
 僕の慌てぶりを凝視している彼女は、
「——もしかしてまだあれを燃やし足りなかったとか?」
 と、どすの利いた低い声で僕に言った。それも冷徹な視線を僕に与えながらも。おまけに口から燃えないくらいの微量な火の粉を出しながらも。
 鳥肌が立つほどな身の危険を感じ、流石にこれは勘違いされていると思った僕は必死に否定する。
「違うよ! 前に君が燃やしたので全部だよ!」
 以前、机の引き出しに隠しておいた如何わしい薄い本は、彼女に紙切れすら残さぬくらい焼却された。別に大切に取っといておこうと隠した訳ではない、断じて。友人から手渡され、興味本意に読んで仕舞ったのを忘れて、捨てる機会を失ってしまっただけだ。
 僕の反応に彼女はまだ疑いの眼差しを浮かべていた。瞳の奥には嫉妬の炎まで浮かべているような気がした。
「……ならいいんだけど。じゃあどうして私を見てそんなに驚くの?」
「ニュースの内容が炎タイプってピンポイントだったのと、君が目の前にいるからだよ」
 前者に関してはあまりに炎タイプが身近な存在過ぎたので驚いてしまった。普段は何も危険を感じずに過ごしているが、彼女は炎タイプなのでその気になれば火事を起こすくらい容易なのだ。後者に関しては僕がニュースに夢中になっていたとはいえ、いきなり目前にいれば普通は驚く。
「だって、さっきからその機械ばっかり見てるじゃない。……折角、私がいるのにね」
 その機械、ポケギアにちらりと一瞬だけ視線を泳がせながら彼女は言った。またその時、彼女の物憂げな表情が垣間見えた。
 先程まで怒っていたかのようだったのに、そんな顔を浮かべていた彼女を見てしまった僕は何も言えずに黙ってしまった。
 そんな僕にはお構いなしに彼女が言葉を続ける。
「一匹行方不明……さっきの事件の内容聞く限りじゃ淋しさが原因でしょうね」
「え?」
 いきなり彼女にニュースの話題へと触れられたので、僕は声を上げてしまう。
 そしてキュウコンは微笑みながら言った。いや、微笑むというよりは嘲ると言った方が正しいか。
「貴方もしてるじゃない。この部屋に私を閉じ込める事を」
「それは違う」
 僕は単に彼女を閉じ込めてなんかいない。僕は彼女が大事だから、家に居させているのだ。
 現にそうだ、大学構内でのポケモンに関する問題は後を絶たない。そんなのに彼女を巻き込むよりかは家に置いといた方が幾分もましだ。
 一応、彼女は僕が閉じ込める真意を知っている。それにも拘わらず、言葉を綴る。
「貴方の言い分も分かるわ。でも、出ていく貴方は知らないけど残される方は淋しいのよ。この部屋でずっとひとりぼっち」
「でも君は抜け出して、ブースターやらバクフーンと会ってるじゃないか」
「じゃあ、もしもそれが無かったら?」
 彼女の言葉に、僕は何も言い返せなかった。
 言われてみればそうだ。僕が学校に行っている間は彼女はひとりでいるしかない。僕が出掛けてから帰ってくるまでの空白の時間を、彼女がどんな思いで潰しているのかを僕は全く知らない。
「今日だってそう。折角、家にいるのに構ってくれないなんて」
 彼女の前肢が僕の頬を捉えるとともに、自身の身体を寄せてきた。まるで僕の温もりを求めるように。
 彼女は僕に被さり、対する僕はふかふかとした彼女の体毛に埋もれる。ふたりで身を寄せ合えばあたたかった。まだこの部屋に残る肌寒さを忘れさせてくれる。
「ごめん、キュウコン……」
 僕は謝り、お詫びに彼女の身体を撫でようとした。だが、僕の手はびくともしなかった。
 身体が可笑しかった。あたかも石になったかのように全然動かない。
 身体を動かせないで慌てふためく僕の上では、上手くいったと言わんばかりに声を上げて笑う彼女の姿があった。
「うふふ、私がそう簡単に赦すとでも?」
 僕はあっさりこの狐に騙された。情けを誘い出されながら、まんまと彼女の口上に乗せられたのだ。
 やっぱりこうなる運命なのか、と思っていたら彼女が口を開く。
「……だけど、淋しいのは本当だから」
 哀愁を帯びた口調で言われてしまえば、僕は黙ってしまう。そんな最中に、僕をいつも嬉々と出迎えてくれる彼女の姿が頭に過った。どんなに淋しさを押し込めていようとも、僕をあたたかく迎え入れてくれる彼女が。
 こうやって身体を重ねて熱を求める事が、淋しさを埋め合わせる彼女なりの愛情欲求に違いなかった。
 貴方のぬくもりで私を温めて頂戴。
 そうやって彼女から甘えるように囁かれた僕は、動かない筈の手でぎゅっと強く抱き締めた。
 僕のぬくもりで彼女を満たせるようにと。


CPカメール×フシギソウ 甲羅脱がしは危険な遊び 



「カメールっていつも甲羅を身に付けてるけど、脱いだらどんな姿なの?」
 と、花の蕾を背負っているフシギソウに訊ねられた。それも興味津々な眼差しをこちらに向けながら。
 別に普通だと思う。僕がこの甲羅を脱いだところでいきなり素早くなるとかそんな事も無いから。ただフシギソウをがっかりさせるだけだろうと思った僕は、
「僕が脱いでもつまんないよ。それより遊ぼうよ」
 と返した。折角、ふたりで海辺まで来たというのに、関係ない僕の甲羅の話題だけで帰るのは余りにつまらない。
 それでもフシギソウは諦めてくれるどころか、更に言ってくる。
「お願いだよ、カメール」
 いくら自分が好きな女の仔からの頼みからとはいえ、こればかりは気が引けた。今更気付いた僕も悪いが、この甲羅を脱いだら大事な所まで見えてしまうではないか。彼女に見せつける甲斐性も無いし、見せつけたらただの変態だと思われてしまう。
「駄目ったら駄目。さあ諦めて、波打ち際まで行こうよ、フシギソウ」
 そう言って僕が背を向けると、後ろから彼女の声が聞こえてきた。
「カメールが脱ぐ気無いなら、嫌でも脱ぐ気にさせてあげる」
 その言葉に僕は危険を感じ、僕は身構えるために急いで振り返ろうとした。しかし、僕が振り返る頃には既に時遅しであった。
 僕の腕や足には彼女の蔓が絡み付いていた。それもうんときつく縛られている。これでは甲羅へ手や足を引っ込めるのもままならなかった。そしてフシギソウが蔓で軽々しく僕を持ち上げる。
「ほーら、たかいたかい」
 彼女は無邪気に笑っているものの、宙に浮かされている僕からすれば全然笑えない。なんとかこの絡み付いている蔓から脱出しようと、僕は手や足をじたばたさせてもただ空を切るだけであった。
「こんなのはやめてよ、フシギソウっ」
「ふふっ」
 僕は説得を試みるが、彼女は全く動じなかった。じたばたさせている僕を見るなり、彼女は楽しそう微笑む。彼女からしてみれば、単なる遊び心でやっているのだろう。
 そして、彼女が蔓を砂浜に向かって動かしたので、宙に浮かされていた僕の身体は叩き付けられる。下が砂であったので衝撃はほぼ皆無だった。しかし、宙から下ろされたものの、状況が芳しくないのは変わりなかった。
 だってこの体勢じゃあ——。
「起き上がれないでしょ?」
 彼女の言う通り、背中を砂浜に付けている状態では僕は起き上がれない。彼女の力を借りれば、起き上がれるのだが。
 だけど力を借りるというのは、
「さあ、どうするの、カメール?」
 彼女の前で甲羅を脱ぐのを意味する。
 それにしても彼女はえげつない。僕が起き上がれないのを知って、訊ねてくるなんて。
 彼女の執念深さに、僕はとうとう心が折れた。
「……わかったよ。脱ぐよ」
「そうこなくっちゃ」
 彼女が僕に絡まった蔓を解放させていくと、手足に自由が戻ってくる。
 約束は約束なので、嫌々ながらも僕は手や足、そして尻尾を引っ込め、頭の所から脱ごうと奮闘する。だが、何をするにもどんくさい僕がそんな簡単には脱げる訳がない。
「手伝ってあげる」
 彼女がそう言って、今度は甲羅に蔓をぐるぐると絡ませていく。そして甲羅を引っ張ってくれる。
 手伝ってくれるのは有難いけど、この上ないほど恥ずかしい。おまけに少し痛い。
 なるべく彼女と視線を合わせぬように、目を瞑りながら引っこ抜こうと力を込める。すると、しゅぽんっといかにも抜けたような音が耳に聞こえると、身体が涼しげな波風に晒された。
「えへへ、やっと脱げたね」
 僕の素肌を見るなり嬉しそうに彼女が笑う。その一方で、僕は彼女にばれないように尻尾でモノを隠した。
「ほら、つまんなかったでしょ? 早く甲羅を返して」
 僕は蔓に絡まった甲羅を取ろうとするが、彼女が僕の手が届かない少し離れた所に置いてしまった。
 甲羅を脱いだ事により簡単に身体を起こせるから、取りには行ける。だが、それは彼女が僕を覆っていなかったらの話である。
「つまんなくないよ。カメールの脱いだ姿って何だかとっても新鮮な感じがするね」
 そりゃあそうだろう。普段は甲羅を身に付けているのだから。彼女にいつもなら甲羅で見えない胴体を見られていると考えると頬が熱くなってしまう。
 彼女の片方の前肢が僕の身体に触れる。彼女が前肢で僕の素肌を擦ったと思いきや、つついてみたりする。彼女の興味は絶えなかった。
「つるつるしてる。でもぷにぷにと弾力もある……。これがいわゆるつるぷにってやつだね!」
 うん、まあそうだろうね、と僕は心の中で呆れながらも言った。たまに彼女がみせる天然っぷりには、流石の僕もついていけない。
「そういえば、ここ、尻尾で隠してるのはなんでなの?」
「え、いや、とくには意味ないよ」
 そして彼女の天然っぷりが災いをもたらすのも事実であった。
 何とか取り繕って誤魔化そうとするが、彼女の視線は僕の尻尾から離れてくれない。位置で察して下さい、と言いたくなるが、言った所で牡に疎い彼女が分かるかどうか疑問が残る。
 このまま、あははと苦笑いしてればどうにか彼女は諦めてくれると思っていた。しかし、好奇心旺盛な彼女が僕の素肌を弄るだけでは終わらなかった。
 彼女の前肢が僕の尻尾を退けようとしてくる。僕は尻尾に力を込めて必死に退かされまいとする。
「やっぱりなにかあるんでしょ?」
「なんにもないって!」
 僕の慌てっぷりに彼女が怪しい、と呟く。どうやら余計に彼女の好奇心を助長させてしまったらしい。
 しかし、この尻尾を潔く退かす訳にはいかない。ただでさえ、彼女に素肌をじろじろと見られてモノが興奮してしまっているのだから。
「むう、こうなったら」
 彼女がそう言って蔓を出してくる。僕の尻尾を退かすと思いきや、僕の足の裏に蔓を伸ばしていく。そして、蔓でこちょこちょとくすぐってきた。
 これには思わず、僕は笑ってしまい力が抜けてしまった。その隙を付いて、彼女が僕の尻尾を退かした。
 その直後、僕の身体には悪寒が走った。
「うわあっ」
 僕のモノを見るなり、彼女が驚嘆した。彼女は慌てて僕のモノから視線を外そうとする。だが、やはり気になってしまうらしく、じいっと横目で見詰めてくる。それも頬を紅くに染めながら。
 生半可に大きくなっている僕のモノが、彼女に見られてしまった事によって更に膨れ上がっていく。頭では鎮まれと命令しているが、もうモノは言うことを聞いてくれなかった。
 穴があったら入りたい。否、甲羅があったら入りたいと僕は思った。しかし甲羅が無い今、僕に出来るのは彼女に視姦されるという事だけだった。
「これがカメールの……」
 そして彼女の前肢が僕のモノへと触れる。モノはぴくりと動き、僕もびくりと身体を震わせてしまう。
 このままでは理性が危うい、そう思った僕は決死の覚悟で彼女に呼び掛ける。
「これ以上は駄目だよ、フシギソウっ」
 流石にこれ以上は取り返しがつかなくなってしまう。ただでさえ、彼女に触られて気持ち良いと思ってしまったのだから。
 しかし彼女は僕の言葉を聞いていたのにも拘わらず、前肢を離してくれなかった。それどころか、彼女が恥ずかしそうに言ってくる。
「……ええっとね、見ちゃったおわびだと思ってくれればいいから」
 すると、彼女の前肢が動き始め、僕のモノには刺激が伝わってきた。


何かあればお気軽にどうぞ。


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Last-modified: 2012-03-07 (水) 00:00:00
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