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小話まとめ弐

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作成者文書き初心者
某所で公開したもののまとめ。一部官能描写があります。ご注意下さい。


春狂い小話 春眠暁を覚えず 



 なかなか起きてこないと思い、部屋に戻ってみたら案の定であった。
 布団をはね除けた上に、お腹まで出して寝ている。それも口から涎が垂らして敷布団に染み込ませながら。
 直ぐに起きてくるとほんの少しでも信じたオレが馬鹿であった。コイツはそういう奴だと分かりきっていたというのに。特に季節が春であったら間違いない。
 春眠暁を覚えずとはよく言ったものだ。お陰で先程起こしてやった労力も無駄になってしまった。
「おーい、起きろよ」
 爪が食い込んで傷つけないように加減しながら寝ているコイツを揺らしてみる。だが、それでもお構いなしに寝息を立てて一向に起きる気配は無い。
 軽々とこの身体を持ち上げて布団に落としてみようかとも考えた。だがそんな事をしたら本人が怒るに決まっている。もっとも、本来なら起きない奴が悪いのだが。
 それにしても、のうのうとぐっすりと寝ていられる。お天道様はとっくに顔を出しているというのに。
 しかし、気持ち良さそうに寝ている姿を眺めていると、あるものがオレの身体に襲ってくる。
 ……なんだか、コイツを見てるとオレまで眠たくなってきた。
 それは紛れもなく睡魔であった。ちゃんと眼を醒ましたつもりであったのだが、身体は眠たいと訴えてくる。
 別に構わないよな。今日は出掛ける用事も特には無かったと思うし、ちょっと早い昼寝だと思えば良いんだ。
 そう自分に言い聞かせながら、二枚並んで敷かれている布団の一枚に身体を横たえる。尻尾の炎で布団やコイツを燃やさぬように注意を払いながら。
 オレは自分が元居た布団に戻った訳ではなかった。ほんの遊び心で隣に行ってみた。一枚の布団にふたりがいればそれはもう狭い。窮屈だけど、その分だけくっつける。目の前にいる奴が風邪をひかないようにと、オレは自分の羽根を掛け布団の代わりとして覆ってやる。
 面と向かっているので顔がよく見える。こうして、近づいて改めて見ると寝顔が可愛いく感じた。牡に可愛いというのも可笑しい話だが、実際可愛いのだから仕方無い。自分の顔が牝っぽくない所為もあるかもしれないが。
 興味本意で布団に目掛けて垂れている涎をオレはぺろりと舐める。先ずは布団に染み込んだ涎を舐めて、そのまま上に向かって辿っていく。当然、オレの舌先はコイツの口元にまで及ぶ。
 このまま舌先を捩じ込んでしまっても良かった。だが、コイツはぐっすりと寝ているのでオレのに応えてはくれないだろう。仕方無く、オレはコイツの口だけを奪い、自分のお腹をくっつけるくらいに抱き寄せる。寝ている当の本人はまさか抱きつかれてるとは気付かないであろう。
 そしてそのまま、自分以外の温もりを感じながらオレは瞼を閉じていった。


 俺はあたたかいと感じた。それは布団とは違ったあたたかさであり、何のものかは分からなかった。
 そういえば、一旦彼女に起こされたんだっけ。折角、起こしてくれたのに悪い事をしちゃったな。
 そう思って、起きようと先ずは瞼を擦ろうと思ったが腕が動かない。金縛りにでもあってしまったかの如く。
 金縛りに遭う、霊感なんて全く無い俺がそんな目に遭う筈が無い。いくらなんでも可笑しいと思いながら眼を開けたら、
「……え?」
 俺は目の前に広がる光景が信じられなかった。何回も瞬きをしてみるものの、その光景は決して変わり無かった。
 そこにはすやすやと眠る赤橙がいた。いつもなら違う布団で寝ているので、目と鼻の先になる程にはならない。それに、普段なら彼女は俺よりも早く起きるというのにどうしてまだ寝ているのか。おまけに俺と同じ布団で。
 被っていた筈の毛布は彼女の羽根布団にへと変わっている。更に彼女が俺を枕のようにぎゅっと抱き、俺の身体には彼女の柔らかなお腹が当たっている。手が動かないのも、俺は彼女に抱かれているからであった。
「……リザードン?」
 俺は試しに彼女を呼んでみるが、返事はない。どうやら意識はすっかり夢へと溶け込んでしまっているようだ。
 それにしても寝顔が可愛いな、と思ってしまう。事ある度に俺を叱ってくる普段の彼女からは想像がつかないくらいに、和やかな表情をしている。彼女が叱るのは姉のような気質からだと思うが。
 彼女の寝顔を見たことによりどくどくと止まらない心臓の鼓動。それも彼女に伝わるくらいに大きく脈を打っている。
 目の前には彼女の口がある。そして彼女はまだ寝ている。寝込みを襲うという訳ではないが、今なら咎められる事もない。
 俺は起きているにも拘わらず夢中であった。ゆっくりと自分の口を彼女の方へと運んでいき、そして、
 俺は重ねた。
 舌は入れずにそのまま口と口とが触れ合った状態で時間が流れていく。入れても良かったが、彼女が寝ていては絡み付いてこないので止めておいた。
 一時は眼を醒ましたが、こうも彼女が隣でぐっすりと寝ているとなると再び眠たくなってくる。どうせ、動けないのだからいっそのこともう一回寝よう。
 俺も抱きつきながら寝たかったが、たとえ眠っていても彼女の方が力が上手なので無理だった。その代わりとして、彼女の温もりをもっと感じるようと考えた。
 俺は動ける範囲内で、なるべく彼女に密着するようにと身体を寄せていき、体重を預ける。隙間が無いように近づけた事により、彼女の鼓動までもが響いてくる。心無しか早いような気もするが、きっと気のせいであろう。
 そしてそのまま、日溜まりのような温かさの中で、俺は再び瞼を閉じた。


CPデンリュウ×ライチュウ 残骸の染みと匂い 



 僕が目覚めた当初、身体に纏わり付いた染みが何である理解出来なかった。恐らく、眠りの浅い朝の回路ではろくに考えられなかった所為もあるだろう。
 しかし、隣で眠っている彼女の姿が自然と眼に入れば、その染みが何であるかを分かり始めていく。眠っていた嗅覚が起き始めて、如何わしい匂いがこの空間に満ちているのに気付く。
 染み、匂い、彼女の寝顔で僕の頭には昨夜の出来事が思い出された。
 そうだ、昨夜は彼女と一緒に情事を行っていた。この細くて長い尻尾を僕の尻尾に絡ませて、僕に抱き付いて寝ている彼女と共に。

「はっ、あっ、でんりゅうっ」
「らぁい、ちゅうっ……」
 僕は寝そべって無抵抗な彼女を一心不乱に突いて愚息を何度も彼女の蜜壺へと沈めていく。何故ならそうする事で僕と彼女が互いに悦べるからだ。
 蜜壺と愚息とが擦れる度に身体には快感が伝わる。
 僕は彼女を貪っていた。反対に彼女も僕を求めていた。
 季節が春になったからと言えば聞こえは良いかもしれない。でも実際には、春になったからこそ、この営みは酷くなった。
 春の陽気で心地好く寝れる。昼寝が多くなる。夜に眠たくなくなる。夜中に起きる時間が増えていく。つまり、
 こうして身体と身体を重ねる機会が増えていく。
 僕の住処であるこの洞窟にはすっかり淫らな匂いで満ちている。肉と肉とがぶつかる度に撒き散らした液体は地面にまで及んでいる。そうなっても尚、まだ汚そうとしている。
「らい、ちゅう、いくよ……」
「うん、でん、りゅうっ」
 僕はとっくに熟れきった蜜壺へ、愚息を埋めていく。埋めては出して埋めては出してと、回数を重ねる毎に愚息の動きは素早くなっていく。蜜壺では僕の透明液と愛液とがぐちゅぐちゅとかき混ざっていく。
 そして僕は透明液とは別の液体を彼女へと注ぐ為に、最後に深く突いた。すると、洞穴内では我を失ったかのような断末魔が響いた。
 愚息からは勢いよく白濁した液体が噴出しては、彼女の蜜壺へと注がれていく。しかし蜜壺の許容範囲を超えてしまったのか、注がれてから大した間もなく白濁液が溢れ出す。それも色んな液体と混じり合いながら。
 蜜壺と愚息との隙間から溢れ出た液体は僕と彼女との皮膚を汚しながら地面へと垂れた。それもとっくに水溜まりとなっている部分へ。蜜壺から愚息を引き抜けば、止めどなく河のようにそこまで流れ始める。
 自分の身体を彼女の横へと倒す。すると、彼女のはにかんだ笑顔が目に入った。それも可愛らしい八重歯を僕に見せながら。

 それが昨日見た景色の最後であった。だって僕は疲れて眠ってしまったのだから。
 昨晩の営みを思い出した事により、僕の愚息は堅くなり始めていた。愚息は元気に天井を示している、朝起きたからというのもあると思うが。
 黄色い自分の身体に付いた白濁の染み、自分より濃い黄色い彼女の身体に付いた白濁の染み。僕は両者を見回してしまう。
 前者に至っては穢いとしか印象を持てない。だが後者に対しては征服という感情が持てる。
 それ故であろうか。眠ってなにも知らない彼女に悪戯をしてやりたい、と企んでしまう。もっと彼女の身体に染みをつくらせてやりたい、と。
 心臓が高鳴る。愚息がびくびくと脈を打つ。僕の手が彼女へと伸びる。そして、彼女の身体に愚息を当てる。
 途端に、びりっと身体が痺れた。
「寝込みを襲うなんてとんだ悪い仔になったのね、デンリュウ」
 眠っていた筈の彼女が眼を覚ましていて、僕はあははと苦笑して誤魔化さざるを得なかった。まあ、最早誤魔化せるどころではないが。
 しかし、彼女は別段怒っている訳では無かった。それどころか八重歯を妖しく見せながら言ってくる。
「……でも、染みと匂いがあるなら、仕方無いね」
 そして彼女のコッペパンみたいな手が僕のに伸びてきた。
 彼女のコッペパンにミルクを付ける羽目になるのはこの後の話である。


CPデンリュウ×ライチュウ ベッドに押し倒してみたー 



 デンリュウがライチュウをベッドに押し倒してみると、しばらく驚いて動けずにいましたが、気を取り直してビンタしてきました。

「痛いよ、ライチュウっ!」
 彼女からコッペパンチならぬコッペビンタを貰った、僕の左頬にはじんわりと痛みが伝わってくる。
 コッペパンのような手でもって僕にビンタをお見舞いしてきた当の彼女。そんな彼女は平然を装いつつも黄色い頬を微かに以前の姿であるピカチュウみたいに紅く染めていた。そして、今度は僕の手を噛みついてきそうな八重歯を見せつつも僕に叫んでくる。
「デンリュウがいきなり押し倒してくるのがいけないの!」
 全くもう、と呆れたように彼女が口にする。どうやら僕のふしだらな行為で機嫌を損ねたのか、ぷいっと彼女は顔を背けた。
 押し倒して何がいけないというのか。僕だって歴とした牡な訳だし、異性である彼女に欲情だってする。ましてや舌さえも交わす濃厚な口付けをし終えたならば、誰だってその気になるであろう。
 しかもよりによって誘ってきたのは彼女だ。尻尾をくねくねといやらしく振りながら。それなのに、ビンタをしてくるなんて予想外れも良いところだ。
「……君がキスなんてしたいっていうからわざわざ抱えながらしたのに」
 僕と彼女の体格差では普通に口と口とは重ねられない。僕と彼女がするには僕が彼女を抱っこしながらするか、どちらか一方が寝てするしか術はない。今回に至っては前者であり、彼女はご丁寧にも飛び付いてきたので、足元を捕らわれないよう注意を払いながら抱いた。
 口を奪ったのも彼女、舌を捩じ込んできたのも彼女。
 呼吸も荒くなり、感情が高まればもっと身体と身体を寄せ合いたいという欲も出てくる。
 だから、今度は僕がコットンガードやわたほうしで即席に作った綿のふかふかベッドに彼女を押し倒した。それなのに、少し腫れた僕の左頬が物語るように彼女の反応は宜しくなかった。
「物には順序ってものがあるでしょ? いきなり女の仔を押し倒すなんて」
 ぽろぽろと僕に対し不満を露にする彼女。
 どうやら僕が押し倒したのが彼女の気に触ったようだ。彼女は僕に抱き付く上に口を奪ったくせに。これでは理不尽もいいところである。
「……それに、優しくしてくれたっていいじゃない」
 ぽつりと独り言を呟くように溢れ落ちた彼女の言葉。そう言い終えた彼女の頬っぺたは鮮やかな紅へと移ろっていた。
 それを聞いた途端に僕は、彼女には強気な面もあるけど、やっぱり女の仔なんだなと思った。毎度、僕を振り回すのにこういう所ではやはり乙女なのだ。
 だったら、今度からご希望に応えるためお姫様だっこでもしてあげようか、そんな事を考えてる最中に辺りの景色がぐらりと傾く。

 ライチュウがデンリュウをベッドに押し倒してみると、積極的に股間を押当てて、腰を振りはじめました。

「ら、ライチュウ?」
 急に視界に天井が映ったかと思えば、僕の上で彼女が跳ねているではないか。それも底の浅い蜜壺に長い愚息を飲み込ませながら。
 僕が知らぬ間に彼女の秘部は潤っていたようだ。そうでなければ、彼女の蜜壺が僕の愚息を容易に沈み込む訳がない。横目でちらりと彼女の尻尾を見ると、先端の辺りに湿り気を帯びていた。
 彼女が腰を振る毎に僕の下腹部から快感が伝わってくる。僕はその気持ち良さに堪らず、口から涎を垂らす程にだらしなく開けてしまう。対する彼女はまだまだ余裕綽々といったように澄ました顔をしている。
「デンリュウがいけないんだからねっ。何も言わずにあたしを押し倒した罰なんだから」
 彼女のその台詞を聞いた途端に、益々理不尽だと思わざるを得なかった。しかし、こうして彼女と身体を委ね合えるだけ良いと思った僕は声に出しては何も言わなかった。
 結局は彼女は彼女だ、僕を弄ぶのが大好きな。そして自分はやっぱり彼女に振り回されるのが好きなんだ、と僕は頭で思った。
 そして僕は我が身を任せてただ彼女の身体や温もりを感じているだけだった。その傍らで前言であった彼女はやっぱり乙女であるというのは頭の片隅で撤回しておいた。


においの秋小話 みどりの日 



 今日はみどりの日だ。そのお陰で家でぐうたらのんびりする事が出来る。それなのに、彼女と言ったら、
「今日は何の日か知ってるんでしょうね?」
 先程からしつこく同じ質問を何度もしてくる。お陰でこちらの気が滅入ってきそうだ。僕はこれまで無視を続けていたが、彼女のしつこさに心が折れて渋々ながらも答える。
「みどりの日でしょ」
 僕がそう言った途端に、彼女が何かを企んでいるようないやらしげな笑みを浮かべてきた。
「ならどうすれば良いか分かってるわよね?」
 彼女が草タイプで無かったらこんなに執着しなかったであろう。生憎、彼女の種族はメガニウムであり、他のタイプも混じっていない生粋の草単体だ。だから余計に反応するのであろうか。
 今日は草タイプにとって格別な日、と彼女は認識している。だから彼女は先程から僕に求めているのだ。
「……君は僕に何をして貰いたいのさ?」
「一緒に日光浴ぐらいしてくれたって良いじゃない。こんな晴れた日に家で引きこもるなんて気が知れないわよ」
 彼女の言う通りに、今日は快晴であった。紛れもなく雲ひとつ無い晴れ晴れとした青い空だった。その証拠に、部屋の窓から眩い日差しが射し込んでいる。それも温かというよりは突き刺さりそうなくらいに。
 しかし、僕は出掛けるのに気乗りしなかった。季節が春とは言っても、五月に入る頃合いには多少の暑さもある。こんなお天道様の真下にずっといれば、汗ばむのを通り越して焼けてきそうだからである。それに草タイプが言う日光浴とは日が暮れるまで太陽の元にいる事だ。そんな事をしていたら貴重な休暇が無駄になってしまう。おまけに、一緒にいる最中は、草花を見ているだけで彼女が怒りだすので、視線の置き場にも困る。
 要するに、僕は彼女の嫉妬心を煽る危険を背負いたくなかった。それ故にもっともらしい言い訳を述べる。
「良いじゃないか。家に居たってさ。どうせ今日は休日だから公園だって混んでるよ」
 静かな場所を好む彼女が人混みに飛び込んだらどうなるのか。それは勿論、散々僕に愚痴をぶちまけるに決まっている。
 こんな風に、水をあげたりしないと枯れてしまう植物のように、草タイプの仔って何かといちいち手間が掛かるのだ。そうとは知りながらも、こんな口煩い彼女と側にいる自分も余程の物好きだが。
「じゃあ、百歩譲って日光浴は諦めてあげる。その代わりに私に何かしてくれてもいいじゃないの?」
 行くのを断念した所を窺うと、流石の彼女も人が多い公園は嫌なのだろう。出掛けずに済むという利点は大きいが、依然として僕に要求してくる点は変わり無かった。
 みどりの日。自然にしたしむとともにその恩恵に感謝し、豊かな心をはぐくむ。
 これが本来のみどりの日の趣旨だ。それなのに彼女はどうもみどりの日を自分の日だと勘違いしている。どうせ僕が言ったとしても彼女はろくに聞き入れてはくれないだろう。
 何もしたくはない、というのが自分の本心である。五月病にでもなってしまったかの如く。
 しかし彼女は仰向けで寝ている僕を覆い被さるようにして、顔を近付けてくる。どうやら彼女は僕があまりに黙っているようだから、痺れを切らしているようだった。
 何か言ったらどうなの、と言わんばかり彼女の蔓が僕の身体へと伸びてくる。そうして僕の首へと巻き付けてくる。徐々に締め付けが強くなっていく。とうとう乱暴な手段を用いて意地でも僕に吐かせるつもりだ。
「これ以上絞められたくはないでしょ? それとももっとして欲しいの?」
「分かった、分かったから」
 このまま首を絞められて失神になったら堪ったものじゃない。休暇どころか永久に休みになってしまう。
 こうなったら思い切って、みどりの日に則って草の仔である彼女を愛でようではないか。
 意を覚悟した僕は彼女から伸びてきている蔓をぐいっと引っ張る。いきなり蔓を引っ張られるとは思ってもいなかった彼女はよろけながらも、額と額とがこつんとぶつかる。
 こんな至近距離であったら、目と目が嫌でも合う。強がっている風に見えて実は物憂げな眼をしているのに気付いた。彼女から漂ってくる芳香も心なしか鈍いものであった。本当は僕に構って欲しくて堪らなかったのだ。
「君は本当、僕がいないと駄目なんだね」
「そういう貴方も私がいないと駄目なくせに」
 相変わらず減らない彼女の口。僕は否定はしない代わりに肯定はする。蔓で結ばれた繋がりとは別の手段を使って。
 それをしている際に彼女から漂ってくる香りが段々と甘いものとなっていく。それも脳まで溶けてしまいそうなくらいに。
 口が裂けても言えないけど、僕は彼女のにおいの虜だ。それに、においだけじゃない。
 手塩に掛けて育て上げた僕だけの花。その花が僕の目の前で眩しく咲き誇る。


熱せず冷せず小話 抱きあいっこ 



 毎度毎度、俺は彼女に押し倒される羽目となる。だから、たまには強引になってみても悪くはないではないかと思った。
 布団を横に並べて、いつものように俺は彼女と一緒に寝る。その際に普段であったら彼女が俺にがっちり抱き付いてくる。しかし今日はそう易々と抱かれる訳にはいかない。彼女が布団の上に乗ったのを見計らって、俺は全ての体重を預けていく。流石の彼女も俺が突然押し倒してくるとは予想もついていなかったようで、あっさりと倒れてくれた。
 彼女の柔らかな肉体が俺の身体と重なる。最近また肉付きがよくなったような気がしなくもない。少しは運動させた方がいいかと思いつつも、この布団よりも勝るふかふか感は棄てがたいと考えてしまっている自分がいる。
 押し倒されたにも拘わらず、彼女は俺に対して引き剥がすといった行動もせずにいる。何ら反応もしない代わりに、場にそぐわない和やかな表情を浮かべる。
「おー、珍しいなあ。襲いかかってくるなんて」
 彼女のマイペースな返答に、俺は拍子抜けしてしまう。何のために思い切って彼女を押し倒したのか分からなくなってくる。
「……いつもはバクフーンにやられてばかりだからな。一緒に寝るにしたって抱いてくるしさ」
「だって誰かに抱かれて眠るのって気持ち良いだろ。それを教えてくれたのはお前じゃないか」
「え、俺が?」
 彼女にそんな事を言われたが、心当たりの無い俺は思わず聞き返す。反対に、彼女はこくこくと首を縦に振りながら言葉を続ける。
「そう、オレがヒノアラシの頃から抱きながら寝てたよね」
 彼女に言われて思い出した俺はああ、と相槌した。
 確かあれは相当前の出来事だ。初めて自分のポケモンを貰った俺は嬉しさのあまりにしょっちゅう彼女と一緒にいた。家にいるときだけでなく、公園に遊びにいくのも、お風呂に至ってまでも。寝るときは肌身放さず、まるでぬいぐるみのように彼女を抱きながら眠っていた。それくらいに俺は彼女を慕っていたし、大切に思っていた。
「それは大事だったからだよ」
 そう、大事だった。故に俺は二匹目のポケモンを持とうとせず、いつまで経っても彼女から離れられなかった。今だってそうだ。成熟して実家から離れても未だにこうしてふたりで過ごしている。
「同じだよ。オレも大事だから抱くの。それに自分がされて嬉しい事は相手にもしてあげるのが当然だろ」
 そうとは言っても、まさか自分が彼女が抱いてくるきっかけをつくってしまったのは予想外であった。彼女が抱くようになってきたのはバクフーンになってからだ。それまでは俺の足元に摺り寄ってくるぐらいだった。
「この姿になって本当に善かったって思う。ヒノアラシやマグマラシの頃じゃ抱かれる事は出来ても抱いてあげられなかったし……。でもこの姿だったらオレも抱けるんだからさ」
 そう言うと彼女が俺の事をぎゅっと抱き締めてくる。すると彼女の温もりが布越しでありながらも伝わってくる。そして終いには彼女は愛くるしく俺に頬擦りしてくる。
 何だか暑苦しくて恥ずかしかった。でも悪くはないと思ってしまっている俺がいた。しかし、折角彼女を押し倒したというのにこうも流されてしまっては意味がない。
 俺は夢中で頬を擦り付けている彼女から自分の顔を離す。少し物淋しい感じがしたが別のもので埋め合わせる事にした。
「あ、ちょっといきなり離れないでよ――っ」
 そして彼女を黙らせる。この手段を使ってしまうと自分も何も言えない状態となってしまうが、そんなのはどうでも良かった。ただ彼女の熱さが直に伝われば満足であった。
 物が言えるようになる頃合いには互いの息が上がっていた。自分自身の身体の火照りも炎タイプである彼女に負けないくらいとなっていた。
 そして透き通った真紅の瞳を見据えながら、俺は言う。
「今日は久々に俺がバクフーンを抱いてやるよ」
「抱いてやるに込められて意味が違うのはオレの気の所為かな? まあ、嬉しいけどさ、ふんふーん」
 そう言って、彼女の手が俺の身体から離れる。その代わりに、俺の手が彼女の身体をしっかりと捉える。
 鼻唄を歌いながら、彼女は俺の事を待っている。俺は彼女の余裕がどこまで長続きするのか楽しみで仕方がなかった。
 まだ春が来たばかりで夏なんてろくに来てやしない。それでも熱帯夜の幕開けであった。


熱せず冷せず小話 ばくはぐ 


 それにしても暑い。夏というのはやはり嫌いだ。外に出掛けると暑い日差し浴びる羽目になり、一方で家にいるとなってもエアコンを点けない限りは蒸し暑くて絶えず汗が滴る羽目になる。エアコンを点けても構わないがそうなると今月の電気代が大幅に増加するのが目に見える。今は辛うじて扇風機で暑さを凌いでいるものの、どうせ吹いてくるのは生暖かい風であり、お陰でコップに入っている飲み掛けのコーラは氷が溶けてぬるくなっていた。
 まだこの家に独りでいるならこの暑さはどうにかなるだろう。しかし、残念な事に家にはもうひとり余計なのがいる。その場にいるだけで平均室温を二三度くらい上げる奴が。
 横目で見るとそいつはこんな暑い中、汗一滴すら流さずにいた。おまけに上機嫌にふんふんと鼻唄まで歌っていた。気分が下がるとこまで下がっている俺とは完璧に対照的であった。
 紺色よりも少し濃い背中をしていてお腹回りはクリーム色、眼に至ってはルビーのように紅い色をしているそいつ。そいつは仰向けで寝ている俺の顔を覗きこんできては、部屋に飾ってあるカレンダーに指を差してこう言う。
「今日はなあんの日だ?」
 彼女の言葉を聞いた途端、暑いというのにも拘わらず何故か俺の背中には悪寒が走った。それと同時に嫌な予感が頭に過っていた。俺がちらりとカレンダーの日付を確認してみると、案の定であった。この現実を受け止めると俺の身体にはどっと気だるさがのし掛かってきた。
 流石に今日という日を恨みたくなった。それ以前にどうしてこんな暑い八月にそんな日があるのかを恨みたかった。これも去年、彼女がこの日に気付いてしまった所為なのだが。
 俺は身に降りかかった火の粉をどうにか払い落とす為、惚けたように彼女に言う。
「さあね、何の日だろうね」
 すると、俺が口にした矢先に彼女の眼の色が変わった。いや、眼の色は相変わらずの紅であるからこの場合は目付きが変わったというべきか。
 先程までうきうき気分の円らな瞳であったのに、じと眼で俺の事を軽蔑な眼差しで見てくる。俺はそんな彼女の目線が痛く、良心にも突き刺さってきた。
「本当に分からないのか?」
 念を押すように彼女が言ってくる。それも今にも口と背中から火を出しそうな雰囲気をしながら。俺自身もそうだがこの家を焼かれてしまうのは傍迷惑なので、これ以上彼女の機嫌を損ねないように知らぬ顔をするのは止める事にする。
「分かってるよ、バクフーン。俺が知らない訳ないだろ」
 しかし俺の言葉を聞いてもまともに受け入れてはくれなかった。現に彼女の目付きは変わってはなく、相変わらず火花が散りそうな雰囲気を漂わせていた。
 やはり俺の疑いは晴れてはないらしく、彼女は訝しげに言ってきた。
「どうだかね。じゃあ、今日は何の日か行動で示してよ」
 ただ単に口で今日が何の日か言うのなら楽なのに、彼女ときたら行動で示せとはよくも言ってくれる。
 ただでさえ暑いというに更に俺を熱くさせる気なのか、彼女は。
 俺はちらりとカレンダーの日付を再度見る。どう見ても、見間違いではなく今日が示している日にちは揺るがなかった。こうなってしまえば俺に残されてる猶予なんてものは無いに等しい。
 今日という日を迎えてしまった以上、仕方がないので俺は覚悟を決めて腹を括る事にした。一応、念の為に彼女に断りを入れておいて。
「……こっちは暑くて汗かいてるんだから、文句は言うなよ」
 そうして俺は彼女に埋もれていく。その証拠に湿ったシャツの上から柔らかで熱い感触と彼女の重みが伝わってくる。彼女の背中に回した両手さえも熱を感じ取っていた。
 今日が“バク”だろうと“ハグ”だろうとどっちの意味にも取れると考えてしまった自分に嫌気がした。知らぬ間に彼女に相当毒されていると思ってしまったから。
 そんな彼女は俺の気も知らずに嬉しそうに笑っていた。そして彼女は顔をこちらに近付けてはすりすりと頬擦りをしてきて、終いには俺の耳元でありがとうと囁く。
 彼女にそう言われて、まあそう言われるのも悪くないかな、と都合よく甘い考えしてしまっている自分がいた。この後、容赦無く彼女に燃焼させられる羽目になるとは知らずに。


風邪と貰い火と小話 キュウコンの日 


 9月5日。蒸し暑い8月も漸く終わって少しは涼しくなるかと思いきや、ちっとも涼しくならない。それどころか相変わらず最高気温は30度以上を平然と叩き出すくらいなので現状維持と言っても過言ではない。9月上旬とは言え、まだまだ暑さが残っていた。
 そしてこの部屋も残暑がとても厳しく熱かった。それも一匹のポケモンによって。
 九つもある尻尾が揺らめいているのを眺めているだけで、そこにまるで蜃気楼があるかの様な錯覚を感じてしまう。そして天で燃え盛る太陽よりかも紅い瞳は、熱ささえも伝えてきそうな勢いであった。実際問題、その瞳から発せられる視線が僕に突き刺さっていた。
 これが冷ややかな視線であったら心身ともに少しは涼しさを感じられたであろう。しかし生憎、熱烈な視線に違いなかった。ただでさえ室内は暑いというのに、お陰で更に熱くなってきそうであった。そう思っていると、
「いいんじゃないの、熱くなっても」
 あたかも自分の心境を見透かしたかの一声が僕へと飛んできた。その所為で僕は身の危険を感じざるを得なかった。
 寝っ転がるのは止めてせめて身体を起こそう、と思っていると身体には自分の物ではない重みがのし掛かる。そして、瞬く間に熱を帯びた空気が漂ってきた。
 先程まで僕は彼女をぼんやりと眺めていたというのに、気付けば視界からまさに蜃気楼と呼べるかの如く消えていた。そしてその代わりとして、僕の耳元から彼女の声が聞こえてくる。
「残念でした。もうここにいるよ」
 その声に反応して目の前を見てみれば、彼女の姿が捉えられた。この暑さにも拘わらず汗一粒すらかいてないふわふわとした体毛が僕の身体と触れ合う。汗でべたついた自分で彼女の身体を汚してしまうのは心苦しかったが、当の本人は気にも止めていない様子であった。
「キュウコンったら汗かいてるから、あれほど寄るなって言ったのに……」
 僕がそう言っても彼女は全く反省なんかしている気配はない。それどころか僕の話を無視して彼女は訊ねてくる。
「ねえ、今日は何の日か知ってる?」
 彼女は僕に淡い期待を求めているかの様な目付きをしていた。それを見ているだけで、僕は答えない訳にもいかなくなってしまう。
 溜め息が吐きたくなる。どれだけ自分は彼女に甘く、騙されればよいのかと。でも、ここ最近ら彼女が僕に触れるのを極力我慢していたのを知ってる所為で、余計に肩入れしたくなってしまう。
「うん、知ってる」
 僕のその一言に、彼女はご満悦なのか妖しげな笑みを見せてきた。でも表情では笑っているのに、その瞳の奥には別の感情が見え隠れもしていた。しかし、決して彼女は顔には出そうとしない。
 彼女は笑顔のまま、僕の頭に片方の前肢を乗せてそっと撫でた。それは母親が子供をあやす様だった。そして彼女は穏やかな口調で言ってくる。
「じゃあ、今日は何をしても赦されるのかしら」
「もしかして、いたずらでもする気なの?」
「いたずらなんて子供染みた事はしないわよ。もっと楽しいこと」
 もっと楽しいこと、彼女が口にするととても嫌らしい意味に聞こえてしまう。そして、そのようなやましい考えを持ってしまう僕は明らかに彼女の影響を受けてしまっていた。
 しかし当の彼女は黙って僕を見詰めるだけで例の楽しいことをしようとはしない。だが、彼女は僕を待ち望んでいるかの様な視線を投げ掛けてくる。そう、彼女は僕が折れてしてきてくれるのを待っているのだ。
 彼女の熱がこもった吐息に匂い、そして布越しながらも伝わってくる温もり。これらを身体で感じ取ってしまっていては我慢しようにも無かった。
 結局僕は自ら彼女の思惑通りな展開をしてしまう羽目となった。僕は誘惑に負けたので自己嫌悪に浸りたくなったが、その一方で彼女の尻尾は嬉しそうに揺らめいていたそうな。


CPデンリュウ×ライチュウ小話 あなたを押し倒してちょっといたずらして様子を見てみったー 


 ライチュウを押し倒して首筋に吸い付くと、ライチュウは上目遣いで「だめっ、待っ…」と言いました。すると、ライチュウの反応を窺うなりデンリュウはにやりと笑いながら言いますます。
「ねえライチュウ、何が待ってなの?」
 普段の穏便なデンリュウからは想像もつかないくらいに手荒な行為にライチュウは動揺を隠せません。それどころかこんな強気なデンリュウを未だかつて見た事があったのだろうかと考えてしまうくらいです。
 自分より遥かに体格が大きいデンリュウに身体全体を見下ろされて、ライチュウの脈を打つのが早くなっていきます。普段は見られても恥ずかしくはないというのに何故か今だけは事情が違っていました。
 それは恐らく、
「黙ってないで答えてよ」
 今までライチュウはこんな風にデンリュウから攻められる事が無かったからでしょう。いつもならば自分が主導権を握っている筈なのですから。
「……デンリュウ、一緒に寝るんじゃなかったの?」
 デンリュウに押し出されて、人間の言葉を借りるならば袋の鼠の如く追い詰められたライチュウから咄嗟に口にした言葉はそれでした。デンリュウがライチュウの言葉を聞くなり、あたかも予想していた返事が来て嬉しいのか、不気味な笑いを浮かべました。
「うん、もちろん寝るに決まってるじゃない」
 しかしデンリュウが口にする“寝る”はライチュウからしてみればどう考えても普通の意味には捉えられません。押し出され投げ出されてしまった四肢、彼に覆われる自分の身体、この状況では潔く瞼を閉じれる訳がありません。現に今の自分の胸は破裂してしまいそうな程に高鳴っています。
 自分の頬に触れてくる彼の手。拒む事なくあっさりと赦してしまっている自分の姿。あわよくばこのままされてしまっても構わないと考えている思考回路。
 デンリュウは次第に自分の身体をライチュウへと寄せてきます。頬だけでなく、ライチュウの身体からデンリュウの温もりが伝わり始めます。
 そしてデンリュウは自分の口をライチュウのものへと押し当てようとしてきます。その強引さに、ライチュウは思わず眼を閉じてしまいます。
 このまま自分はされてしまうのか、そう思いながらライチュウは身体を強張せてただ待ちます。
 しかし、ライチュウが予想していた感触はなかなか伝わってきません。それどころか先程の笑い声とはちっとも似つかないデンリュウのくすくすと無邪気に笑う声が耳に入ってきます。それには流石のライチュウも疑問に感じて眼を開けます。
 ライチュウの視界に飛び込んできたのはいつもの温厚な彼の笑顔でした。少し前の悪巧みをしているような顔ではありませんでした。彼の豹変ぶりにライチュウは呆気に取られて、口をぽかんと開けたままにしてしまって言葉に出来ませんでした。
 あたかも人形のように固まって、呆然としているライチュウにデンリュウは言います。
「ごめんねライチュウ。ちょっと悪戯して様子を見たかったんだ」
 悪戯、とデンリュウの口から溢れ落ちてきた途端に、ライチュウの顔は恥ずかしさのあまり真っ赤になってしまいます。あんなに期待していた自分が馬鹿馬鹿しいと感じたからです。そして乙女心を弄んだデンリュウに対してに憤りを感じざるを得ませんでした。
「デンリュウ」
「なに、ライチュ――ぐっ」
 ライチュウは怒りに身を任せて彼の白いお腹に目掛けて強烈なコッペパンチをお見舞いしてあげます。するとデンリュウはお腹を押さえながら仰向けで倒れていきます。
 こうしてライチュウはちゃんとデンリュウを寝かせてあげましたとさ。


CPデンリュウ×ライチュウ小話 寒い日 


 首元に赤いバンダナを巻き付けている彼女。肩から小さな鞄をぶら下げていて、先端が途切れた尻尾を一歩を前へ出す度にゆらゆらと揺らす彼女。そんな彼女は一緒に歩いている僕の隣で暖を取ろうと必死に両手を擦っていた。
 ふんわりと柔らかそうな彼女の手。時折、擦るのを止めると彼女は自分の息を吹き付けてどうにか自分の手を暖めようとする。だが、なかなか暖かくならないのか再び手と手同士を重ねては擦り始める。
 今日はとびきり寒い日に違いなかった。事実、僕も彼女と同じように寒いと感じていた。口を固く閉ざして噛み締めては、両手までも無駄に力が入って拳を作る。そうやって寒さに耐えようとするものの、吹き荒ぶ風には為す術もなく僕と彼女は共に足を止めては同時に背中を丸める。
「うー、さむいっ」
 折角暖めていたのに今の風で一気に冷えきってしまったのだろうか彼女が嘆いた。そんな僕も彼女と同じ台詞を吐きたくなったが寒さで口を開く元気も無かった。
 こんな時、自分の進化前の姿であったらどんなに良かったのだろうかと思う。ふわふわでもこもこ、更には暖かそうな綿毛が身を包んでいるのだからこんなに寒いと思う羽目にはならなかったであろう。その綿毛があったらきっと彼女を暖めてやれたかもしれない。
 だが、現実の僕は全く体毛なんて無いのだ。進化したら毛の一本残さず抜け落ちたのだ。それだけを考えたらなんて悲惨なんだろう。
 でもコットンガードやわたほうし、といった綿毛を使う技は今でも出来るのがせめてもの救いであろうか。その気になれば、前の姿みたいに全身を綿毛で覆う事だって出来る。彼女だって暖めてあげる事も出来るのだ。
 だから僕はふたつの技の内、どちらか一方を使おうと思った。だがその途端に、彼女の手が僕の身体をとんとんと軽くつつく。
 なんだろう、そう思って僕は彼女の方を向いた。すると彼女は黙ってコッペパンみたいな手を差し出してきた。彼女の眼を見てみると、早くしなさい、と言わんばかりに手を握るように急かしているように思えた。僕は痺れをきらした彼女の口からお怒りの言葉が出る前にその手を取っては握った。
 彼女の手は息を吹き付けていた分ほんのりと温かった。そこに僕の手が加わる事でひとり分だった温もりはふたり分となる。その分だけ暖かくなる。
 そうして彼女は僕の方へと身体を擦り寄せてきた。せいでんきで引き寄せられるかのようにぴったりと彼女の皮膚と僕の皮膚とが重なりあう。接触面からは互いの熱が授受し合い始めていく。
 ひとりだけならきっと寒いであろう。だけどふたりでなら温もりを分け合えるし、足すことだって出来る。
 彼女はそれを言いたかったのだろうか。だけどそんな彼女は黄色い頬っぺたが前の姿の頬っぺたみたいに紅で染まりそうな程、にこにこと僕の隣で笑うだけだった。


風邪と貰い火と小話 お正月 


「熱くてどろどろ、その上白いのがのみたいなあ」
 その台詞を耳に入れた途端に、僕は口からミルクや砂糖が入ったホットコーヒーを吹き出しそうになった。手に持っていたカップを落とさぬように、慌てながらテーブルの上に置いた。
 口から吹き出しはしなかったが、それでもげほげほとむせてしまう。そんな僕の姿を、先程にとんでもない台詞を吐いた彼女はきょとんと落ち着きながら見ていた。
 彼女、といってもポケモンである。九つの尻尾がある事で有名なキュウコンだ。尻尾を優雅にゆらりと振っては、深紅の瞳でじいっと僕を覗いている。
「どうしたの、大丈夫?」
 僕があまりにも咳き込むので、彼女は不安そうな顔を浮かべながら心配してくる。苦しくて言葉を発せられない僕は彼女に向かって、首を縦に振るだけだった。
 時間が経つにつれて咳払いも収まってくる。大分落ち着いた頃に一旦深呼吸を入れてみる。深く息を吸っては吐いて、もう一度やっては平然になろうとする。しかし、そうしたところでも多少なりとも僕の心はぐらついていた。
 あれもこれも彼女の所為だ。彼女が突拍子もなくあんな事を言うからだ。だから僕は彼女に、
「君がいきなりあんな発言するからだよ……」
 と、呆れながらも言う。だが、彼女は反省をする気配もなく、逆に僕の言葉に対して首を少し傾げながらも言った。
「だって、折角のお正月なんだからのみたくなるのは当然でしょう?」
「え?」
 彼女が言った事に、僕は疑問を抱かざるを得なかった。正月とあれが一体どんな関係があるのか、と。
 確かに正月は基本的に暇だし、家に殆ど居るから大丈夫と言えば大丈夫と言えるかもしれない。寝正月という言葉もあるくらいだからいくら寝たって誰も咎められない筈である。
 だが、彼女にあれを飲ませると思うと、流石に僕の身体が火照る。お陰で、暖を取ろうと折角飲んでいたコーヒーなんか無意味になってしまう。手付かずのコーヒーカップからは湯気が漂う程にまだ熱いと言うのに。
「ねえ、くれないの?」
 彼女からの催促。それもお決まりのように上目遣いをしながら。彼女の表情を見詰めながら、僕は息をのむ。
 いくらのみたいとは言え、まだ早い頃合いであろう。太陽は顔を出したばかりであって、沈む様子なんてちっとも見せてはいないのだから。
 それでも彼女は僕に歩み寄ってくる。脚を一歩ずつ着実に前へと出しては僕に近付いていく。ご自慢の尻尾を揺らして、身の回りには妖艶な雰囲気を漂わせながら。
 逃げてしまえば良かった。でも凍りついたかの様に身体は動かない。気付かぬ内に彼女はあぐらをかいている僕の懐に潜り込んでいた。そして彼女は前脚をそっと僕の胸へと乗せて、顔を僕の目と鼻の先に置いてはもう一度だけ、
「ねえ、ちょうだい」
 とおねだりしてくる。
 僕は彼女を抱きたくて堪らない衝動に駆られた。それは身体に微かに伝わる彼女の温もりがあまりにも恋しいのと彼女の柔らかな体毛と肉の感触を欲しがってしまったからだ。しかし、この手を彼女の体毛へと沈めて、確かに抱いてしまえば後には退けなくなる。
 残された理性と膨れ上がっていく欲望が渦を巻いていく。ごちゃごちゃに絡み合った思考回路の中、彼女は言った。
「“あまざけ”、くれないの?」
 彼女から溢れ落ちた言葉を耳に入れた途端に、僕の眼は点となる。ほんの僅かに思考回路でさえも停止した。そうして僕はあまりの恥ずかしさで頬を真っ赤にしてしまった。今まで自分が考えていた事とは似ているようで全然違うという事に気付かされた。
「あ、あまざけ、ね……。ちょっと今は家に無いかな」
 どうにか彼女に先程まで考えていた煩悩を悟られぬように無理に笑顔を取り繕う。だけども、全てを見透かしていたのか彼女が言い放ってくる。
「もしかして他の事を考えてたでしょ? えっちだなあ」
 呆れたように彼女からそう言われて、僕は何も言い返せなかった。実際問題として、僕がそう考えていたのは事実なのであったから。
 僕が無言になって弱味を握ったと思ったのか、彼女には何かを企んでいるような笑みが浮かぶ。嫌な予感がして僕は彼女の尻尾へと眼をやれば、やはり上機嫌そうに揺らめいている。
 僕の胸に置かれている彼女の前脚に力が加わる。予想していなかった力に、僕はいとも容易く押し倒されてしまう。ぐらりと視界が傾けば、僕の身体の上には彼女が居た。
「そういえば、姫始めがまだだったわね」
 彼女が誰に語る訳でもなく独り言のように呟く。その後には、
「ことしもよろしくね」
 そう言って彼女は笑う。だがその笑みと言葉には色んな意味が含まれているのに、僕はこの後身をもって思い知らされる羽目となった。


CPピカチュウ×ミュウ小話 一期一会 


 誰かいないのかな、そう思いながらやって来た森の広場にはいつもの遊び仲間なんて誰にもいなかった。
 こんなのは珍しいことだ。普段であったら誰かしらいる筈なのに今日に限ってはひとりもいなかった。いつもは皆の声で賑わうこの広場も今だけは閑散としていた。
 僕は独り、切り株の上に腰を下ろしては来る途中で取ってきたオレンの実をひとつ齧る。折角、みんなの分の為にと幾らか取ってきたオレンの実も無駄になってしまった。
 僕は黙々とオレンの実を齧る。喉は潤い、お腹は膨れる。それでも心にはぽつんと取り残された気持ちが残る。それだけは食べても満たされる訳がなかった。
 持ってきたオレンの実をひとつ残さず食べ終えたらさっさと帰ってしまおう。そう思った矢先には目の前から誰かしら近づいて来る気配がした。
 もしかしてヒトカゲでも来たのだろうか、いやそれともゼニガメとフシギダネが来たのかな。
 そう思うと僕の胸には淡い期待で溢れていく。そして、きいろい自分の手でオレンの実を取る。来たら渡そうと思って。
 しかし、僕の眼には思いもしていなかった仔が飛び込んできた。先程、予想していた仔なんかではなかった。それどころか見覚えもない仔であった。
 僕はただ呆然とその仔見ていた。対するその仔は僕の姿を捉えるとどんどん近づいてくる。
 淡いももいろの身体に細目ですらっと長い尻尾。エスパータイプなのか、身体を宙に浮かせながら僕の方へと寄ってくる。
 そしてその仔が僕の目の前にやって来ると、
「こんにちは」
 と微笑みながら言った。釣られて僕もこんにちはと返した。そうして、挨拶を終えて間もなくその仔が僕のオレンの実を物欲しそうに見るから、
「良かったらどうぞ」
 と、僕はそう言ってオレンの実を差し出した。すると、ももいろをした仔はにこりと笑って有難うございます、とお礼を言いながら受け取った。直ぐに食べるのかと思いきや食べずに手に持っているだけであった。
 挨拶をして、お礼を言われたきりとなってしまったので、どうにかこの仔と交わす言葉を探そうとした。そうして僕は他愛もない事を口にする。
「今日は良い天気ですよね」
 相手からしてみればどうでもいいと思われそうな事に違いなかった。それでもその仔は、そうですね、と相槌をして微笑んだ。
 僕のその仔の印象はよく笑う仔であった。純真無垢という言葉がよく似合うと言っても過言ではなかった。
 その仔に相槌をされては、返す言葉が見つからなかったので再びふたりの会話が途絶えた。それによって僕は何だか気まずいような感覚に襲われる。
 共通の話題を振ろうとしたいが出逢ったばかりではなかなか思い付かない。そうして僕は何か無いのかと手に持っているオレンの実に視線を落としながら考えていく。
 そして僕はひとつ閃いた。君は何処から来たの、と尋ねれば良いのだと。
 そして僕は目の前へと視線を戻した。しかし、先程までいた筈のももいろの仔がいなくなっていた。
 僕は慌てて辺りを見回す。しかしその仔の姿は何処にも見当たらなかった。僕が悩んでいた短時間で消えてしまったのだ。
 まるで夢でもみていたかのようにすうっと消えてしまったあの仔。しかし、持ってきたオレンの実はあの仔に一個渡した分だけ減っているのは確かであった。
 何処から来たのかは勿論だけど、僕はまだ名前すらも訊いていなかった。天気の話題なんか振るよりさっさと訊けば良かったなと後悔した。
 僕は食べ掛けのオレン実を齧る。僕の口の中にはオレンの実特有の酸っぱさや辛さ、苦味や渋味、と色んなのが広がっていった。


CPデンリュウ×ライチュウ小話 彼女の日 


 今日が何の日かなんて訊かなくても明白であった。だって隣で歩いている彼女が上機嫌に鼻唄を歌っていたのだから。
 僕よりも一回りも小さい彼女。僕よりも若干身体の色が濃くて、手はぷにぷにとしていてもっちりなコッペパンみたいであって。そんな彼女の尻尾は僕の太い尻尾なんかより遥かに細長い。
 彼女の種族はライチュウであった。そしてこの僕はデンリュウと呼ばれる種族であった。自分達は人間の元で暮らすポケモンではないので、名前なんかはない。僕達はお互い、種族名で呼びあっていた。
「デンリュウ」
 隣で彼女が呼んでは僕の瞳をじいっと見詰めてくる。今の彼女の眼は僕に何かを期待していると言っても過言ではなかった。しかし、彼女を喜ばせられるような物は、僕の手持ちにはなかった。それどころか彼女と会うまで僕は、今日が彼女にとっての大切な日であるというのですら忘れていた。
 贈り物なんて無い。でも彼女を悲しませる訳にはいかない。だから僕が今出来る事なんか限られていた。
 捻りも無いけどそれでも僕は――。
 彼女の柔かな手を夢中になって奪ってはぎゅっと抱き締める。それも彼女の温もりを確かめるように、はたまた自分の熱を彼女に伝えるように。
 これで口付けさえも出来れば良かった。だけども僕と彼女の体格差では抱き付いたままするのは不可能であった。それを彼女も分かっているから、彼女は自分の尻尾を僕の尻尾へと絡めていく。口では出来ないから尻尾で代わりに埋め合わせをするのだ。
 幾度となく繰り返された行為だとしても、僕の心臓の鼓動は乱れて高鳴っていく。それは彼女も同じようであった。僕の身体には彼女のどくどくと忙しい小刻みな脈拍が伝わっていたからだ。
 身体がせいでんきで麻痺して動けなくなってこのままになっても構いはしなかった。だけども木の実を頬に蓄えながら食べるくらいに欲張りな彼女はこれだけでは物足りなかったらしく、顔を上げて僕を見てくる。
 これだけなの?
 口を動かさなくとも眼でそう言ってるように思えた。実際、僕の方を見上げたときに僕の手と絡めた彼女の手に加わる力が強くなっていた。
 彼女の事を貪欲だと思った。しかし、もっと求めてくれる彼女に対して喜んでいる自分がいるのも確かであった。
 今日という日を忘れられないくらいに頑張ろうじゃないか。そう思って僕は小さな彼女を抱えると、顔と顔とを合わせる。すると彼女は何かを期待して瞼を閉じた。
 僕はそんな彼女に応える為にそっと口を押し当てていった。


同居人小話 終わりからの始まり 


 今日は彼女の日であった。そう、我が家に同居している黄色い身体をしていて首の周りは白い体毛を持つ自分勝手な彼女のサンダースである。今日はその彼女の日に間違い無かった。
 実際、今日の彼女は雰囲気が違っていた。ちくちくと逆立てている彼女の体毛みたいにいつもの刺々しい雰囲気なんてもの無かった。その代わりにあったのは気でも狂ったかのような和やかな雰囲気であった。
 普段の彼女ならば俺が撫でようとするのでさえ拒絶する。無理に触ろうとするならばそれこそミサイル針が飛んでくる程であった。しかし、今日の彼女は全くの真逆であった。いつもならばろくに俺に近寄って来ないというのに、彼女は俺の身体に擦り寄ってくるという異常的な行動を示した。それだけではない、胡座をかいている俺の膝の上に自身の身体を乗せては四肢を投げ出してきた。そうして俺に、胸の辺りからお腹、挙げ句の果ては秘部まで露とさせては見せてくる。
 彼女がこんなに甘えてくるなんて滅多に無い、いやそれこそ青空から雷が落ちてこない限り無いであろう。それくらいに今日の彼女は良い意味でも悪い意味でも違っていた。
 人間である以前に牡である俺は、甘えてきた彼女に手を伸ばさずにはいられなかった。いつもならばろくに触らしてくれない首周りの毛、お腹にまで俺の手は及び、終いには秘部をまさぐった。
 秘部に触れたというのに彼女は嬌声を発するだけで抵抗なんかはしてこない。それどころか俺に、もっと、と艶やかな声色でおねだりしてくる。その瞬間に俺の頭では理性が弾け飛んでしまった。
 結果、気づけば俺と彼女はふたりシングルベッドの上で仲良く身を寄せ合いながら寝そべっていた。情事を行ったのは太陽が沈む前だというのに、時計を眺めたら日付が変わる寸前であった。
 このまま、再び瞼を閉じて寝てしまっても良かった。だけど最後にもう一度、と思いながら彼女の頭を撫でる。しかし欲というのは恐ろしいもので頭を撫でるだけでは物足りなくなる。
 俺は頭に続いて首元、胸、そうしてお腹と、徐々に手を彼女の身体の下へとずらしていった。そして調子に乗って秘部に触ろうとした途端に、
「どこさわろうとしてるの、このへんったいっ」
 先程まで眠っていた筈の彼女から非難する一声が飛んできた。そこで俺は夢から醒めたように慌てて手を引っ込めた。
 俺を軽蔑する彼女の視線が痛い程突き刺さる。寝る前と比べると態度があまりにも変貌していたので、俺は言ってしまう。
「なんだよ、触ってもいいって言ったのはサンダースの方だろ」
「時間を見てみなさいよ」
 彼女に言われて、俺は時計に目をやった。すると時計の長針と短針は共に12を指していた。つまり、3月12日である彼女の日は終わってしまったのである。
 だから彼女の雰囲気が劇的に変わったのかと俺は納得した。そして依然として冷ややかな視線を送ってくる彼女に対して謝る。
「どうも調子に乗って、すみませんでした」
 すると俺の言葉に彼女は、分かれば宜しい、と上から目線で返答した。その言葉は紛れもなく普段の刺々しい彼女を表していた。
 彼女に謝り、特にする事無くなったので今度こそ俺は寝ようとする。おやすみ、と彼女にそう言った後に背を向けては瞼を閉じる。しかし、自分の身体に覚えのある重みを感じたかと思えば、俺は強制的に仰向けにされた。
 再び瞼を開ければそこには俺を覗き込む彼女の姿があった。俺の胸元に前肢を置いては自分の身体を乗っけている彼女が。
「……ちょっと、あんたの所為で身体の火照りが収まらないじゃない。ちゃんと収まるまでは寝るのは赦されないんだから」
 その我が儘な台詞を聞いた途端に俺は妙な安心感を覚えた。そして俺はくすりと笑ってしまった。その反応に、彼女は何が可笑しいのよ、と言ってくる。
「……なんか安心したからだよ」
「何が?」
「いつものサンダースだからさ」
 そう、普段の彼女なのだ。俺にいつもきつい言葉を浴びせてきたり、我が儘な要求をしてくるあの彼女であるのだ。
 しかし、彼女は俺を見下ろしながらこう言う。
「ふうん、そんなにあんたはあたしに乗られたいのかしら」
「……そういう訳じゃないんだが」
 昨日の彼女はなんか調子が狂うというか、彼女じゃないような気がしていたからだ。それなのに彼女はあたかも俺が乗られたいと勘違いしている。別に乗られたい訳ではない、断じて。
 ふぅと一息吐くと、先程まで俺を小馬鹿にしていた彼女の様子が変わる。そして口を開くなり小声で何かを呟く。
「……あたしだってたまには甘えたくなるんだから」
「……? 何か言ったか?」
 しかし彼女のその声はあまりにも小さくて、俺の耳にはちっとも届かなかった。故に、俺は何と言ったのか彼女に訊いてみるのだが、
「別にっ、何も言ってないわよっ。さあ、覚悟しなさいよ」
 はぐらかされた挙げ句に寝巻き越しとはいえ、俺の肉棒へと前肢を押し当ててきた。ここまでくると俺には訊ねる権利どころか拒否権すらも無くなっていた。
 そして彼女の妖しげな笑みと共に、日付が跨がってからの俺と彼女の営みは火蓋を切って落とされた。


熱せず冷せず小話 春眠 


 つい先程、俺は目を覚ました。その筈なのに時計を見ると、いつのまにか起きた時刻から一時間が経過しようとしていた。どうやら俺が知らない内にもう一眠りしてしまったらしい。そして結構な時間寝たというのに、まだ俺の身体は睡眠を欲していた。
 つまり、俺は泥のように眠たかったのだ。普段ならこんなには寝ないにも拘わらず、どうしようもないくらいに眠かった。
 瞼を擦って目を覚まそうするのだが、やはり眠たくなってきてしまう。そうして俺は我慢出来ずに瞼を閉じてしまう。ああまた眠ってしまう、そう思った矢先に、
「お、き、ろっ!」
 声が聞こえてきたのと同時に、ばさりと音を立てながら俺の上にあった掛け布団を取られた。しかし今の季節は冬ではなくて春だ。冬ほど寒くはないから掛け布団が無くても寝ようと思えば寝れる。だから俺は少しうずくまりながら断固として寝続ける。
 だが、俺が寝るのを彼女は許そうとする筈が無かった。掛け布団を取られたかと思いきや、今度は敷き布団を思いっきり引っ張ってきて取られてしまった。掛け布団を引き抜かれた反動で、俺は床に投げ出されてしまった。
「いつまでぐうたら寝てるんだ」
 近くでそんな声が聞こえたから俺は重たい瞼を擦っては渋々目を開けた。するとどうだろうか、俺の目の前には彼女がいるではないか。肉があるお腹の辺りから顔にかけての毛はクリーム色をしていて、それ以外は紺色の体毛をもつバクフーンである彼女が仁王立ちをしながらいたのだ。
 俺は起きて早々、年中無休で暑苦しい彼女の事を嫌々ながらじっと見ていた。だがやはり眠気には勝てずに俺は目を瞑ってしまう。すると、彼女が痺れを切らしたように俺の身体を揺すってくる。
「なあなあ、お天道様はすっかり昇ってるんだぞ、起きてよ」
 寝巻きを掴まれながら彼女に揺さぶられるものの眠気は無くなろうとしなかった。それどころか、彼女があまりに暑苦しいから目を背けたいが為に瞼を閉ざしていたくもなる。いずれにせよ、俺は起きたいと思えなかった。ずっとこのまま眠ってしまいたくなる。
「……まだねむいからねかせてくれ」
 俺は彼女にそう告げては頑なに眠ろうとする。だがそういう訳にもいかないのが現状であった。彼女がそんな簡単に許してくれる筈もないのだから。
「冬はもう終わったんだぞ。これからは春なんだからちゃんと起きろっ!」
 彼女にそう言われた途端に、その春が原因なんだよと眠気から離れられない俺は思わざるを得なかった。
 先人が残した言葉に春眠暁を覚えずというものがある。この言葉を大雑把に説明すると、春の夜は眠り心地がいいから、朝が来たことにも気付かずについ寝過ごしてしまう、というものである。二度寝しているとはいえ、まさに今の俺の状態と言っても過言ではなかった。
 だが彼女に至ってはそれが当てはまらない。彼女は炎タイプの所為か朝からありえないくらい元気であるし、季節感がないと言わんばかりに夏の熱さも冬の寒さも知らない。だからこの春の陽気に至っても特には感じないのであろう。だから彼女が俺の気持ちを理解してくれる筈が無かった。
 起きろ起きろとしつこく迫ってくる彼女を黙らせてどうにか寝てしまいたい。そう思った俺は半分目を開けて、
「バクフーン」
 と手招きしながら彼女を呼ぶ。そして彼女は訝しげになりながらも仰向けで寝っ転がっている俺に近付いてくる。そして手を伸ばせばどうにか届く範囲にバクフーンが寄ってきたら、俺はバクフーンの手を出せるだけの力でもって引っ張った。
「ちょ、ちょっと」
 流石の彼女もまさかいきなり引っ張られるとは思っていなかったようだ。驚いた声をあげると身体をよろけさせては前のめりになる。そして俺が変わらず手を引っ張ると彼女は前から倒れた。
 思惑通りに、俺は両手で彼女を受け止める体勢に入る。しかし、彼女の体重は重たいので思うように受け止められず、結局全身で彼女の身体を受け止める羽目になって身体が圧迫された。
 最初は身体に圧迫感が走る。しかし少し時間が経ってしまえば身体には彼女の温もりが伝わってくる。ふかふかの彼女の身体、布団よりも遥かに柔らかい彼女の肉が俺の身体を包み込む。俺は両手を彼女の背中に回して離れないようにしっかりと抱いた。彼女の身体を重たいと感じてはしまうものの、それでも重なりながら寝るのにはなんとか許容範囲内であった。
 いきなり抱き締められたからなのか、彼女は頬を紅くしながら何も言えずに固まっていた。それもその筈であった。彼女から抱き締める事は多々あっても、俺の方から抱くなんて滅多にないからだ。
 急に大人しくなった彼女が可愛いと密かに思っていても、今の俺の中では睡眠の方が優先される。だから俺は彼女に言う。
「いっしょにねようか」
 そして俺は自分の顔を彼女の顔の横にずらしては頬と頬を重ね合わせる。あたたかいなんてものではない、今なら晩まで眠れそうなくらいに全身が心地好い感触に包まれていた。
 俺は見慣れた天井を仰ぎながらゆっくりと瞼を閉じていく。視界に何も映らなくなったところで黙っていた彼女が口を開いた。
「いっしょにねるって、まだあさだよ?」
 まだ朝、という言い方に頭でなにか引っ掛かるも一刻も早く寝たい俺は、そんなのどうだっていい、と彼女に告げる。
 するとどうだろうか、彼女の身体を通して伝わる胸の鼓動が速くなってきたではないか。おまけに俺の肩にふりかかる彼女の吐息も火が出そうなくらいに熱くなっていた。
 そうして今度は彼女が下腹部の辺りに体重を掛けてくる。朝だという事もあって俺の愚息は姿を現している。その愚息へ、寝巻き越しではあれ彼女の柔らかな肉で圧を掛けてくる。
 流石に彼女の様子が変だというか、身の危険を感じた俺は彼女を呼び掛ける。
「バク、フーン?」
 呼ばれて彼女が俺の身体をうんときつく抱いてくる。それはあたかも俺が逃げられないようにする為でもあるかに思えた。更に頬を擦り寄せていた筈なのに気付けば離れていた。
 俺が試しに目を開けて様子を確認してみると、目と鼻の先という距離に彼女の顔があった。それも紅い瞳を切なそうに潤わせながら。
「ごめん、オレが気付けなくて……。だからその代わりに精一杯がんばるよ」
「なにを――っ」
 頑張るんだよ、と訊こうと思った口は彼女によって喋れなくなってしまった。
 俺が彼女が一緒に寝る意味を履き違えている事に気付くのは、この後に彼女が俺に舌先を捩じ込んできてからの事であった。


においの秋小話 あまい匂いにご注意を 


 雲ひとつない青空であった。まるで絵の具で白い雲が消えてしまうくらいにべったりと塗られたかであった。
 そしてとんでもないくらいの春の陽気でさえもあった。ぽかぽかとした暖かい日溜まりの中で、このまま青空を見上げていれば意識が吸い込まれてしまうかのごとく。とりあえずはまだ意識がはっきりしている僕はここで一旦隣にいる彼女を見る。
 前脚と後ろ脚を畳んでは俯せですやすやと眠る彼女の姿があった。首回りには鮮やかな色をして大きな花びらをもつ彼女。若葉よりも少し薄い色合いをした身体をしている彼女。そんな彼女はメガニウムという種族であった。
 僕と彼女はのんきに河川敷の原っぱで並んで寝そべっていたのだ。別に僕は好き好んでそうしてる訳ではない。彼女がこんなに天気が良いのに家にいるのはどうかしてるとか、たまには暖かな太陽の元で光合成したいとか言うからこの草が生い茂る河川敷に来たのだ。
 僕としては近所にある公園でも良かった。だが、桜の花びらがあちこちに地面に散らばっているから嫌だと彼女が言ったのだ。そういう訳で仕方なくわざわざ少し遠い河川敷まで来たのだ。ここであったら、原っぱやグラウンドぐらいしか無くて彼女が目の敵にするよう花は何処にもないからである。
 とは言え、彼女が光合成をしている間、僕は特にする事が無かった。本でも持ってくれば良かったのだが生憎手持ちにない。それに雲ひとつない晴天ならば流れゆく雲を見つめることは出来ないし、グラウンドでどこかの子供遊んでる姿を見ようとしても今日に至ってはひとっこひとり居なかった。
 こういう時に、いつもみたいに彼女が構ってちょうだい、とせがんでくれたらいいのになと僕は思った。普段の僕ならば必要以上に甘えてくる彼女に対して骨が折れると思ってしまうのに、今に至ってはそういう発想をしてしまう。自分で言うのは気が引けるが案外寂しがり屋なのかもしれない。
 特にする事もないからこのまま寝てしまうのが一番暇潰しになる。僕はそう思って瞼を閉じようとした途端に、仄かに甘い香りが漂ってくる。その香りが鼻の奥にまで刺激してくる。
 僕と彼女がいるこの辺りには野草しか無く、周りには匂いを放つ花が咲いている訳でもない。となるとこの香りは必然的に彼女が放っていると考えられた。
 この香りを嗅いでいると意識が段々とうっとりしている。何かをする気なんてろくに起きなくなってしまう。急に身体がだるくなった気さえもする。
 隣にいる彼女がいきなり僕に向けて蔓を伸ばしてくる。蔓は僕の腕に絡まっては引っ張ってくる。腕を乱暴に引っ張られて身体を引き摺る羽目になれば、僕と彼女に隔たれた空間は無くなっていく。そして僕の身体が彼女の身体と触れ合う。
 寝ていたかに思えた彼女であったがどうやら起きていたらしく、眼を開けては僕の身体を踏まないようにして脚を動かす。そうして僕へと覆い被さってきた。そして彼女が僕の額に自分の額を押し付けてくる。眼と鼻の先の距離であるので彼女と嫌でも視線が合う。
「ねえ、退屈なんでしょ」
 そして彼女は僕の眼を覗きこんではそう言ってくる。少なくとも彼女からしてみれば僕の眼はそう映ってるのだろう。
「だったら私を気遣いなさいよ」
 そして彼女からは上から目線の言葉が飛んでくる。彼女は世話の掛かる草タイプだから丁重に扱わなくてはならない。
 退屈と言われれば実際そうであった。が、いざ彼女に言われるとむっとした気分になる。しかし暇で堪らない僕としては彼女のお願いを訊かない訳にもいかなかった。
「本当、我が儘だなあ」
 そう口にするものの密かに喜んでいる自分がいた。こうして彼女と戯れているのが何よりも愉しいと。
 自分にとっても彼女にとっても、丁度蔓で結ばれているような関係なのだ。こうしていつも傍にいないといけない関係なのだ。
 僕はそっと彼女の頬に手を添えては撫でる。彼女は嬉しいのか、にっこりと微笑んでは漂う香りがより一層甘くなっていく。僕は頭がくらくらとしそうなくらいにその匂いを嗅ぐ。
 そうすると自分の中である感情が芽生えてきた。それは彼女に植え付けられた感情と言ってもいいのだが。
 彼女が太陽に照らされながら再び笑った。でもその笑いは日差しを浴びながらする笑いではなかった。何故なら彼女の口元がつり上がっていたのだから。そう、僕はもう彼女の手中に収められていたのだ。
 故に僕は我慢できずに、自分の口を彼女の口へと重ねていった。


風邪と貰い火と小話 妖狐に喰われる 


 暗闇の中で忍び寄る脚音が響いてくる。一歩また一歩と脚音が聞こえてくるのにつれて、音が大きくなっていく。何者かが、僕に近づいているってのがよく分かる。
 でも正体を勘付いている僕は何もしない。ただ瞼を閉じてじっとしていた。どうせ毎度の事のように、僕の寝床に入ってくるんだろう。そう、高をくくっていた。
 現実に、自分のものではない重みが身体へとのし掛かってくる。覚えのある温もりが布越しから伝わってくる。しかし、温もりと言ったってまだ残暑があるこの時期には熱いくらいだ。あったら寝苦しくて仕方が無い。
 だから僕は身体に乗っているものを下ろそうと手を動かそうとする。しかし、手はびくともしない。手が痺れているという訳では無い、断じて。自分の意思とはお構いなしに全く動かないのだ。
 嫌な予感がした。その刹那、僕の寝巻きの下は引き剥がされていく。それも下着まるごとだ。流石にここまで来たら寝たふりなんて出来なかった。
「起きてるんでしょう? ねえ?」
 僕が瞼を開けて起きる前に、自分の耳には聞き慣れた声が響いてくる。そうして、声の主は僕に対してくすりと笑った。
「起きてるよ、キュウコン……」
 まだ眼が慣れないから影しか見えない。僕が何度も眼をぱちぱちと瞬くからか、彼女が気を利かせて辺りに鬼火を放って灯す。すると真紅のような瞳が真っ先に眼が入った。次にゆったりと妖しく揺れる九つもある尻尾が視界に飛び込んできた。このキュウコンは僕のポケモンであり同居人だ。キュウコンは僕のことお父さんって呼んでくるのだが。
 僕の視界に入った彼女の口元は釣りあがっていた。何か企んでいる風に。いや、何か企んでなければ神通力で僕の動きなんて封じ込めないし、身ぐるみだって剥がさない筈だ。何を企んでいるかなんて、ここまでされたら分かるのだが。
 僕がそうやって考えてる合間に、彼女は僕の寝巻きの上を口に咥えて剥がしていく。神通力によって身動きが出来ない僕は何も出来ず、何も口にする事無く、彼女に成されるがままだった。どうせ、彼女に言ったって無駄だと分かり切っているのだから。
 素っ裸にされた僕。その姿を、彼女はまるで舐め回すかのように見詰めてくる。お陰で恥ずかしさで頬には熱が、背中からは汗が滲み出てくる。
「……随分とご無沙汰だったからね」
 そう彼女が呟くと僕の身体に乗っかってくる。先程は布越しであったが、肌に直接触れるとなると彼女の包み込まれるような体毛を身体中で感じる羽目になる。正直なところ、あまりにもふかふかとして気持ちいいからこのまま彼女の体毛を布団代わりにして寝たいくらいだ。
 でも、彼女がそんな単純に寝かせてくれる筈が無い。顔を僕の首筋へと近付けてきては、ぺろりと舐めてくる。それも一度だけではない、何度もぺろぺろと舐めてくる。
「キュウコンっ、あっ」
 僕の敏感な部分は首筋だ。だからか、腑抜けた声が静まり返った部屋に響いてしまう。首筋を舐めたら今度は甘く噛んでくる。僕はますます彼女に僕の情けない声を聞かせてしまうのだ。それなのに彼女ときたらこう言ってくるのだ。
「うふふ、可愛らしい声」
 どう考えても君の方が可愛らしい声でしょ、そう突っ込む間も無く今度は彼女に口を押し付けられる。だが、ただの口付けなんかでは無かった。彼女の舌が僕の口内へと捻じ込まれていく。そして、執拗に僕の舌へと絡み付いてくるのだ。まるで貪るかのように。
 僕は彼女に喰われるのかもしれない。その恐怖を一瞬感じ取るのだが、当の彼女は眼を細めたまま心地良さそうにしている。無我夢中になって、僕の口内に舌先を這いずり回しているのだ。
 僕は何も出来なかった。正確には彼女に付き合わされるだけだった。彼女から唾液を飲まされたり、舌との絡み合いに付き合わされたりと。
 彼女が満足したのか、口を離していく。その際に唾液が糸を引いたのだが、ぷつりと簡単に切れてしまって僕の口元と彼女の口元に残骸が残った。彼女は自身の口元をぺろりと舐めて拭い、そしてわざわざ僕の口元まで舐めてくる。
 僕と彼女は舌を使った口付けだけですっかり出来上がっていた。もっとも、彼女の方はと言えばぜえぜえと吐息を頻りに出すくらいで、対する僕の方は鼻息が荒くなっているぐらいなのだが。
 ぼんやりと目の前にある彼女の顔を眺めていると、彼女は身体をずらしていく。それも僕の下腹部の方へと。
 彼女の狙いは僕の一物であった。僕の下腹部にまで身体を後退するなり真っ先に顔を一物へと寄せてきたのだ。まだ柔らかさが残っている一物に、彼女は自身の鼻を近付けてすりすりと擦り付けてくる。そして鼻息が僕の耳に届くくらいに嗅いでくるのだ。ポケモンである彼女は鼻が良いから凄くきつい匂いであろうと思われるのに。
 間近で彼女に匂いを嗅がれるのと同時に鼻先で擦り付けられるものだから、僕は一物に熱を集めざるを得なかった。柔らかさが残っていた一物はみるみるうちに硬くなり始めていき、遂には天井を指すくらいにがちがちに硬くなった。そうすると、彼女は悪戯げに僕に訊いてくるのだ。
「ねえ、尻尾と口、どちらがいい?」
 聞き覚えのある台詞だった。どっちか選べと訊かれても直ぐには選びように無い。僕が瞬時に選べなかったからか、彼女は間髪入れずに、目先にある僕の一物を咥え始めた。
「あうっ」
 彼女の熱い口内に一物が包み込まれる。そうして一物には彼女の唾液がたっぷりと纏った舌先が絡み付いてくる。ぺろ、ぺろり、と汚い筈である一物を厭わずに舐めてくるのだ。
 一物を舐めてる際にちらりと僕の方へと上目遣いで見詰めてくる。上目遣いされるとなると可愛いと思うに決まっているのだが、今の彼女は僕から精気を搾り取ろうとする小悪魔、いや吸血鬼みたいに映っていた。実際、一物を舐めるのはソフトクリームを舐めるみたいに優しい舌遣いなんかではなくて、蠢くような感じであった。
「キュウコン、ちょ、まって……」
 このままじゃ早々に絶頂させる羽目になる。彼女の口に自分の精液をぶちまけてしまう羽目になる。流石に僕は彼女に精液を飲ませたいという趣向は持ち合わせていない。
 しかし、彼女ときたら聞く耳持たずといったように一心不乱に舌を一物に這いずり回していく。先端部分から根元までと隅々に舌を動かしては、裏筋まで舐めてくるのだ。挙句の果ては、彼女は顔を動かして僕の一物を喉奥まで沈めてくるのだ。
 ここまでくると流石に僕は彼女が不気味に思ってしまう。いや、いつもの彼女ではないような気がした。いつもだったら僕を手玉に取るように情事を行っていくのだから。こんながっつくようにするなんて彼女らしくない。
 でも目の前に居るのは紛れもなく彼女だ。どんな時もいつも僕の傍に居てくれる彼女である。それだけは確かなのに、いつもとは違う雰囲気を醸し出していた。
 ぬちゅ、ちゅぷ、と彼女が口を動かす度に部屋に猥褻な音が響いてくる。彼女の唾液は勿論だが、一物も透明液をだらだらと出して、そんな卑猥な音を奏でるのを助長させていた。
 もう限界だった。このまま果てるのも悪くないかな、と思いながら天井に向かって仰いでは、一物から絶えず伝わってくる快感に我が身を委ねる。だが、果てる寸前のところで彼女の口がぴたりと止まった。
 一体、どうしたのだろう。そう思って僕は彼女の方へと視線を向ける。すると、彼女が再び僕の方へと身体をのし掛かってきた。
 しかし、抱き着くように身体を僕へと乗せるのではなくて今度は馬乗りになるみたいだった。彼女のお尻が僕の一物の上へと乗ってきて、前脚は僕の胸へと乗せてくる。そうして、尻尾は僕の身体を包み込むように置かれていく。たとえ神通力が無くても彼女から逃げられない状態となってしまった。
 僕の一物は今にも果てそうな程に準備万端だが、彼女の準備が出来てない中でいきなり本番を始めるとしたら悲鳴を上げるに違いない。僕はそう思って止めに入ろうと思うのだが、彼女の秘部の辺りで蠢く何かを目撃する。
 それは彼女の尻尾であった。尻尾の先端が幾度となく彼女の秘部を愛撫するように動いていたのだ。彼女の尻尾が秘部を擦る度にぬちゅ、くちゅと水っぽい音が聞こえてくる。
 僕は今まで彼女の口淫に気を取られていた。だが、彼女ときたら僕の一物を責めるだけでなく同時進行で自分の秘部を慰めていたのだ。僕が知らないところで彼女の秘部は一物を飲み込む準備をしていたのである。
 もうどうしようもなかった。真紅の瞳が僕の瞳を覗きこんでくる。いつもなら透き通って綺麗に見える彼女の瞳だが、このときばかりは淀んで見えた。
 彼女の尻尾が秘部から一物へと移動していく。次に一物を固定するかのように根元に絡み付いてくるのだ。そして、彼女はお尻を少し持ち上げる。ここですとんっと腰を落とされたら、一気に飲み込まれるであろう。
「キュウコン、ちょっと、まっ」
 僕の言葉なんか掻き消すかの如く、彼女はすとんと腰を下ろした。一物が一気に彼女の蜜壺へと飲み込まれていく。その際に生じた肉壁との摩擦によって、ただでさえ限界であった一物は絶頂を迎えてしまった。
「あっ、はあっ!」
 彼女の膣奥で一物はぴく、ぴくんと大きく脈を打ちながら精を吐き出す。最近、自慰も彼女との情事してなかったから溜まりに溜まった精液が彼女の中へと注がれていく。一物から感じ取る快感に身体は痙攣したかのように小刻みに震えてしまう。
 入れただけで果てるのは情けないと思う。失望されたかな、と思って僕の上に乗っている彼女の顔を見るのだが予想とは反対に口元は綻んでいた。そして目を細めながら恍惚そうに彼女はぽつりと独り言みたいに呟く。
「ふふ、とってもあったかい」
 彼女は炎タイプだから精液の熱さなんて他愛も無い筈。だけどあったかいと零した。ふふ、と笑いながら。だけど、彼女の笑いは止まらない。ふふ、ふふふ、と壊れたかのように笑い続ける。そんな彼女の姿に、僕は冷や汗を流すくらい怖いと思わざるを得なかった。
 精を出した一物は当然ながら一旦萎縮する。だが僕自身が怖いと感じた所為か、彼女を性的興奮対象として見られずに一物はますます萎縮していく。
 萎えていく一物が気に食わないのか、彼女は僕の胸に乗せてある前脚で、僕の乳首を擦ってくる。ぷにっとした肉球でもって何度も執拗に僕の乳首を刺激してくるのだ。強引に一物を元気にさせる為に。
 それでも、一物は以前のように硬くならない。彼女も諦めてくれるかと思ったら、僕の眼には不気味に揺らめく尻尾が映った。そしてその尻尾は、迷うこと無く僕の身体へと向けて動き始める。何処に来るのかと思っていれば、開いている僕の股へと入り込んでくる。そして一物の袋を擽ってくるのだ。
 それでもまだ一物は完全に硬くならない。ふにふにと袋を弄っていた彼女の尻尾がぴたりと止まったから、流石の彼女ももうお手上げだろうと僕は思っていた。だが、そうやって甘くみたのがいけなかった。唐突に身体には突き抜けるような刺激が走ってきたのだ。
「やっ、あっ!」
 その刺激に、僕は今まで硬くならなかった筈の一物を硬くせざるを得なかった。だけど、彼女は硬くなったのにも拘らず僕に何度も突き刺すような刺激を与えてくる。たとえ僕がどんなに泣き叫んだとしても、だ。その所為で、僕の一物は彼女の中に入り込むよりかも硬くなっているのではないかと思うくらいに、元気な姿となっていた。
 彼女からの刺激が止まってから漸く、自分が何をされていたのかが分かった。彼女から尻の穴に尻尾の先端を捻じ込まれていたのだ。普段、出すところから強引に入れられたからじんじんと痛む。一物を元気にさせるにはなんとも手荒な手段である。
「まだいっかいしかだしてもらってないからね」
 一物が元気になるなり、彼女が嬉しそうに僕に言ってくる。嬉しそうに言われたって僕の方からしてみれば逃げたくて堪らない心境だ。だけど僕には逃げる術が無い。
 そうして、ずちゅ、ぬちゅ、と結合部からいやらしい音を響かせながら彼女は上下に腰を振ってくる。彼女が腰を乱暴に一物は彼女の熱い肉壁に擦れて今にも溶けそうだった。いや、いっそ溶けてしまえば楽になれると思った。でも実際は絶え間ない快楽を味わう羽目になるのだ。
 まだいっかいしかだしてもらってないからね。彼女の言葉が、走馬灯のように何度も脳内で再生される。あと何回僕は彼女に精を吐き出せば済むのだろうか、それ以前に片手で数えるくらいの回数で済むのだろうかと心配で堪らなかった。
 見下ろされているのだが、どこを見ているのか焦点が定まってない彼女の眼。だらしなく開いた口からは恥じらいもなく涎が僕に向かって垂れている。やはり今日の彼女は自然ではない、僕を喰べる妖狐と言っても過言ではない。
 最近、ご無沙汰だったから我を失ってしまったのだろうか、それとも誰かに操られているのか。そう考えてる暇なんて無かった。考えてる最中に身体が快感に支配されていくのだ。彼女の身体から伝わる熱さと情事による熱さで視界がぼやけてくるのだ。耳には彼女の甘ったるい声と身体と身体とがぶつかる音が耳鳴りのように響いてくる。
「ふふ、あはっ」
 この上に無い程のご満悦とした彼女の笑い声を最後に、僕の意識はぶつりと切れた。


 目覚めが悪いとはまさにこの事なんだろうか。身体は布団の上から動きたくない程に怠くて仕方が無かった。それなのに、彼女ときたら嬉々として挨拶をしてくるのだ。
「おはよう!」
 昨日の夜に何があったのか覚えてなさそうなくらいに無邪気な笑顔だった。お陰で、僕は疲れた表情のままおはようと元気無く返した。
 一物がじんわりと痛いような気がする。結局何回出したんだろうか、考えるだけでも恐ろしい。それなのに彼女はこう言ってくるのだ。
「昨日はたっくさん私に出してくれたね」
 頬をほんのりと染めて照れ臭そうに言ってくる。だけど、そんな彼女に対して僕は無表情のままだった。というか、悟りを開いてしまったかのように心が動かない。
 そもそも僕が望んで出したのではないし、どちらかと言えば搾り取られたと言うべきだ。現に、僕の一物は今日は絶対勃ちそうになかった。それ以前に彼女は昨日自分が何をしたのか自覚しているのに驚く。
「……ああ、覚えてるのね。昨日の夜のこと」
「うん。最近、暑さで全然してくれなかったでしょ? だから、つい、ね……」
 そう言って、彼女は尻尾で顔を隠してもじもじとする。いつもの僕なら可愛くて仕方ないと思うのであろう。でも今の僕は何も思えなかった。不能だって言っても可笑しくないくらいに。
 暑いからって彼女の相手をしないのも良くないんだな、と気付かされた九月五日であった。


風邪と貰い火と小話 冷狐との熱帯夜 


 遂にこの日がやってきてしまったかと思う深夜未明。枕元に置いてあるポケギアを見てみれば、示されているのは九月五日。別に、僕にとっては特別な日なんかではない。しかし、彼女にとっては特別な日である。
 暗闇なので目を凝らしながら、少し離れた布団の上ですやすやと寝息を立てながら寝ている彼女の姿を見る。九つもある尻尾を拡げずにまとめながら丁寧に寝ている彼女。彼女と言っても尻尾があるので、人間ではなくてポケモンだ。そして九本もある尻尾を持つポケモンはキュウコンしかいなかった。
 暑さはピークを過ぎたとは言え、残暑が続く九月に炎タイプであるキュウコンと同じ布団で寝るのは自殺行為に等しい。当の本人は、私の貰い火で余計な暑さなんかは取り除ける、と言うのだが暑さはやはり感じるし、一緒の布団で寝ればある弊害が起こるので寝ないようにしている。しかし、寒い冬場に限っては夏場一緒に寝れない分だけ出血大サービスで寝ているが。
 ともかく、寝苦しい夜であった。扇風機は点けていて風が来るものの生暖かくて気休め程度にしかならなかった。それに、扇風機の動作音が少し耳障りなのも事実であった。却って睡眠を妨害しているのである。しかし、扇風機を止めれば暑いので止める訳にはいかなかった。
 こんな時、氷タイプの仔が居てくれればな、と思ってしまう。この火照た身体を氷タイプ特有のひんやりした身体で冷やして貰うのである。また、凍える風を使って貰って室温を下げて寝やすい環境にして貰うのもいいな、と思ってしまう。
 僕はちらりと彼女の方を見た。彼女が今だけでも氷タイプになってくれないかな、と思いながら。しかし、炎タイプの彼女がいきなり氷タイプになるだなんて天と地がひっくり返るくらいにあり得ないと考えるのが普通だ。
 暑さで頭がどうにかしている。ただでさえ、彼女が素直に寝てくれてるだけでマシなのに、氷タイプになって欲しいだなんて傲慢だ。そんな自分に呆れながら彼女から視線を天井へと移していく。そして僕は瞼を閉じて、意識が夢の中に飛んでいくのをじっと待っていた。

 足音が聞こえてくる。一歩、また一歩と。脚音が段々と大きくなりながらゆっくりとこちらに近づいてくるのである。不審者であったら身構えなくてはならないが、聞き慣れた足音だから僕はもうすっかり気を緩めていた。
 しかし、身体の方は引き締めなくてはならない。ただでさえ部屋は暑いというのに、自分のものではない温もりが来たら熱さに耐えきれないのは分かりきっているのだから。どうせ僕が拒んだって布団へ身体を滑らせてくるのは分かっている。だから僕は諦めながら、脚音の主を待っていた。
 耳に響き渡るくらいに脚音が段々と大きくなる。そして遂に止まった。ここまで来れば自分の肌でも感じられるくらいに温もりが感じられる。その筈だった。しかし、肌を通して伝わってくるのは暖気ではなく冷気であったのだ。
 可笑しい、と思わざるをえなかった。彼女は炎タイプであるから冷気なんて発せられる訳が無いのだ。脚音に覚えはあったとはいえ、不法侵入してきたポケモンなのかもしれない。そう思って僕は急いで瞼を開けてみれば、
「ふふ、どうしたの? そんなに慌てちゃって」
見慣れた顔に聞き慣れた声が入ってきた。僕は思わず心配して損をした感じて溜息を吐いた。だが、見慣れた顔をよく見てみれば少しだけ違和感を覚えた。彼女の瞳は暗いところでも目に入る真紅の瞳の筈なのに、何故か違かったのだ。また胸元のふさふさした体毛は、今に至ってはふんわりと雲のような見た目をしていた。
「キュウ……コン……?」
 何か可笑しい。現にいつもだったら感じられる筈の熱気が伝わってこない。寧ろ、真逆である冷気が肌を通して伝わってくる。
「うふふ、なあに?」
 からかっているような笑いをしながら彼女が受け答えする。聞き慣れた声色であるには間違いなく、目の前に居るキュウコンこそがいつも一緒に居る彼女であるに違いなかった。
 僕は彼女の身体に思い切って触ってみた。すると、想像していたものは感じられなかった。手からはやはりひんやりと冷たい感覚が伝わってきたのである。本来ならば感じられる熱い感覚が伝わってこなかったのだ。
「なんで……熱くないの?」
 僕は思わず訊いてみてしまう。キュウコンは炎タイプだ。炎タイプであったら身体が熱くなくては可笑しい。炎タイプから氷のようにひんやりとした感触が伝わってくる訳がないのだから。
 彼女はくすっと笑う。そして、うふふと声に出して僕の事を笑ってくる。
「氷タイプになったからに決まってるじゃない」
 いやそれが可笑しいんだよ、と思わざるを得ない。ポケモンの中にはフォルムチェンジと呼ばれる、進化はせずとも姿形が変化出来るものがある。だが、その例はキュウコンの場合だと無かった筈である。
 僕が困惑しているのを愉しんでいるのか、先程から笑みの絶えない彼女。狐に化かされているとはまさにこの事なんだろう。
「ほら、せっかく冷たくなったんだからもっと私の事を強く抱いて」
 そうして顔を覗かせていただけであった彼女が、僕の上へとのしかかってくる。僕は慌てて彼女を受け止めたが、その際にも両手からは熱さではなくて冷たさを感じ取る。ついさっきまで暑さで四苦八苦していた僕にとっては天国であった。だから僕は思わずこう零してしまう。
「冷たくてきもちいい」
「ふふ、そうでしょう?」
 彼女から感じられる冷たさがとても心地よくて、僕はこれから逃れられなくなってしまう。今更、彼女を手放して別々の布団で寝るだなんて考えられない。しかし、今は良いのだが、身体の火照りが収まったときが問題だ。
「こんなに冷たいと風邪引きそうだな……」
 クーラーの効き過ぎた部屋に入れば風邪を引くのと同じように、このまま彼女を抱いていれば風邪を引くであろう。やっぱり抱きながら寝るのは止めておこうか、そんな事を考えていたら彼女が名案と言わんばかりに自信満々にのこう言ってくるのだ。
「それなら、ちょっと運動してあったまろうか」
「あったまるってまさか――」
 気付いた時にはもう既に遅く、彼女から口を押し付けられた。彼女が僕の布団に来るのなんてある目的しか無かったのに、目先の冷たさなんかに気を取られてすっかり忘れていたのだ。
 彼女が本当に氷タイプになったらしく、普段は熱い口の中まで冷たかった。ひんやりとした舌が僕の乾いた舌へと絡みついてくる。まるで氷でも舐めているような感覚に襲われるとともに、彼女の唾液までも冷たくて乾いた口内を潤していく。その冷たさがあまりにきもちよくて、僕は自分でも舌を動かしていってしまう。
 僕の唾液と彼女の唾液とが混ざり合えばぬるくなる。それぐらいが人肌ではちょうどいい温度ではあった。が、僕は更に冷たさを求めて執拗に彼女の舌へと絡めていく。彼女の方も僕に応えるように、舌を絡めてきた。
 濃厚な口付けに夢中になって鼻息が荒くなっていく。また、身体の方も徐々に熱くなっていくのを感じ取る。身体が熱くなるなんてますます彼女の思う壺なのだが、もう止められない。
 口元から唾液が垂れ始めてくる程に、舌を絡め合っていた。そうして、口を離せば唾液が僕と彼女の間で糸を引くのである。しかし、時間が経つと唾液の糸はぷつりと切れて僕の寝巻へと滴る。
 お互い、すっかり興奮しきったようで吐息を漏らす。僕は熱のこもった息を、彼女は冷のこもった息を吐きながら。口付けによってすっかり脳まで蕩けきった僕は、もう彼女に抵抗する気だなんと起きなかった。それを良い気に、彼女は尻尾を巧みに使って僕の寝巻の下をずり下ろしてきた。
 寝巻の下を下ろされてもまだパンツがあるので、それを下ろされない限りは肉棒を晒さないで済む。しかし、彼女の尻尾がパンツまで伸びてきてすんなりと下ろされてしまった。
 下腹部に身体を覆う衣服が無くなり、肉棒が曝け出される。口付けで興奮してしまったのもあって、中途半端に硬くなっている肉棒があった。そして、それを彼女は冷えた尻尾でもって包み込んでいくのである。
「ふふ、あっつぅい」
 彼女が媚びを売るような態とらしい声色で言ってくる。そんなのでも僕の肉棒は反応してしまい、熱を募らせていってしまう。
「尻尾と口、どっちがいいって聞かれたら今日は尻尾って言いたそうね」
 僕は一切言葉を発していないというのに、彼女がひとりで勝手に解釈してくる。そして肉棒を包み込んだ尻尾を振ってくるのである。ひんやり冷たい尻尾ではあるものの、ふんわりとしているから体毛がよく肉棒に絡まる。いつも手入れをしているが、こんなに柔らかかったけと錯覚してしまう。
「うっ」
 彼女が尻尾を振れば、肉棒が扱かれて下半身から快感が伝わってくる。その所為で、俺は喘ぎ声を漏らす羽目になる。彼女に尻尾で肉棒を扱かれるのは慣れている筈なのに、いざされるとなるとどうも感じてしまう。また、彼女が手慣れている所為もあって乱暴ではなく、絶妙な力加減で扱いてくるのあって尚更であった。
 彼女が前脚を僕の胸へと置いてくる。そして、前脚を使って僕の寝巻の上をずり上げてくるのである。首元までずり上げたらお腹から胸元まで肌を曝け出すこととなる。彼女が一体何をしたいのか分からない僕は、気にかけずにただ下腹部の方に意識が行っていた。
 彼女が僕の胸に再び前脚を置いてくる。彼女の肉球が押し付けられて何だかくすぐったい気分になる。だがそうやって油断していたら、彼女が前脚を僕の乳首へと擦り付けてきたのだ。
「いっ……」
「ふうん……牡でもきもちよく感じるものなのね。尻尾で挟んでるの、ぴくっと反応したわよ」
 僕の反応を愉しむ彼女に、僕は悪魔だと思わざるを得なかった。前脚の肉球でもって、僕の乳首を引っ掻くように擦り付けてくるのである。敏感な部分であるので、単純に擦り付けるだけでも僕の身体は反応してしまう。彼女は僕の身体を冷やすどころかどんどん熱くさせていた。
「前脚じゃもどかしい? それなら――」
 妖しげな笑みを浮かべながら、彼女が舌先を出してぺろりと自身の口元を舐める。何をしてくるのか想像に難くない僕は、彼女を止めようと手を伸ばそうとする。しかし、手は氷にでもなったかのごとくびくともしなかった。
「舐めてあげる」
 そう言うと、彼女が顔を僕の胸元へと沈めてくる。拒む術を持たない僕は口で彼女を止めようとするが、聞く耳を持たないと言わんばかりに無視を決め込む。そして、僕の乳首をぺろりとひと舐めしてくるのである。
「うあっ」
 彼女の冷たい舌で舐められて、下腹部から伝わってくる刺激とはまた別の快感が走り渡る。その所為で、僕はついつい気の抜けた声を出してしまう。そんな反応をするものだから彼女が面白がってますます止めようとしなくなる。
 ぺろぺろと単純に舐めてみたり、乳首に舌先をぐりぐりと押し付けたりと様々な方法でもって弄んでくる。僕が以前に彼女の胸を散々触ったお返しと言わんばかりに。
 時々、彼女が顔を上げて僕の表情を窺ってくる。きもちよさのあまり僕があまりにだらしない顔色を浮かべているのか、彼女の不敵な笑みは絶えない。僕が彼女から乳首を舐められる度に身体を震えさせるのもあってか、彼女がこう言ってくるのだ。
「ぴくぴくしちゃって、かわいらしい」
 口を動かしてる間も尻尾の動きは止まらない。尻尾と尻尾とに挟まれた肉棒は上下に扱かれている。その間にも肉棒からは刺激が伝わってきて、上半身と下半身から両方かはの快感が身体を駆け巡る。
 募る快感によって、肉棒の先端からは我慢汁が溢れ始めてきており、彼女の本来ならば綺麗な尻尾を滑りを帯びさせるように汚していた。我慢汁が溢れている事に気付いた彼女は僕にこう言ってくるのである。
「出したい? でもまだだぁめ」
 そして彼女はもう一本の尻尾を、肉棒の根元へと絡み付いてくる。単純に絡み付いてくるのではなくてまるで締め付けるようにしてくるのである。その所為できもちいいよりも段々と痛みの方が優先されていく。
 出させてくれないとなると、生き地獄だ。肉棒は今にも吐き出しそうなのに、それを許してくれない。
 僕は懇願するような眼差しで彼女の事を見つめる。すると彼女の方も分かってくれたのか、にっこりと笑ってくる。
「出したくて仕方ないって様子ね、それなら――」
 彼女がゆっくりと腰を上げてくる。そうして彼女は、尻尾で肉棒を固定しながら自分の秘部に押し当てるのである。彼女は尻尾を上手く使って肉棒をすりすりと蜜壷の入り口へと擦り付けていく。そうして肉棒の先端部から滲み出てくる我慢汁で、蜜壷の入り口を塗りたくっていくのである。
「……どうせ出すならこっちで出してくれないと」
 もったいないじゃない。
 彼女が妖艶な笑みを浮かべてそう言えば、すとんっと腰を下ろしてきた。肉棒が一気に彼女の蜜壷へと飲み込まれてしまい、その際の衝撃で僕は絶頂を迎えそうになる。
 氷タイプといえども、彼女の中は熱くてなおかつ蕩けていた。いや、ドライアイスに長時間触れていると火傷するみたいに、冷たさのあまり熱く感じている可能性もあるだろうが。
 彼女は前脚を僕の胸へと置いて、腰を振りやすい体勢に入る。このままだと直ぐに出してしまいそうだから、少し休ませて欲しいというのが僕の本音であった。しかし、彼女はもう我慢出来ないと言わんばかりに、腰を上下に動かして始める。
「あっ、んぁっ!」
 彼女が腰を動かせば当然ながら僕の肉棒が彼女の肉壁と擦れ始める。そして彼女が深く腰を沈めてきた際には、肉棒は膣奥を刺激することとなる。その所為で僕はますます余裕が無くなってくる。
「きゅう、こんっ……ま、まって……」
 僕の呼びかけに彼女は応じない。それどころか腰の運動の激しさが増していく。まるで、狂った人形のように。彼女が腰を動かす度に九つもある尻尾がばっさばさと揺れるので尚更狂気に感じてしまう。
「うふっ、とってもあったかくて、はげしっ……!」
 口元を綻ばせながら彼女がそう言う。だが快感に耐えるのでいっぱいいっぱいで、僕は実際のところ何もしていない。彼女が勝手に動いているのを自覚していなさそうであった。
 ぐちゅ、ずちゅり、と水っぽい音が結合部から漏れ出てくる。その音だけでなく彼女の尻尾が揺れる音に互いの喘ぎ声が、静寂である夜をけたたましくさせているのだ。
 彼女の身体は冷たい筈で、冷気も漂ってきてるにも拘らず、僕の身体からは汗が滲み出てくる。額に、背中と全身から汗が湧き出してくるのである。そんな僕とは対照的に涼しげな顔をしながら、僕の身体へと自分の肉を打ち付けてくるのである。
「ほらっ、だしたいんでしょ」
 出したい。しかし、まだ情事が始まって間もないのに出すのには気が引ける。気が引けるのだが、彼女の腰遣いは止まらないので我慢できるのも時間の問題であった。
「ぃ……いくっ……」
 流石にもう耐えられそうにない。そう思って僕は溢す。すると僕の言葉を耳にした彼女は、前のめりになって顔を僕の首元へと近付けてくる。そうして血でも吸うように甘噛みをしてきた。
「うああっ!」
 捕食された動物のように、僕は呻き声を上げながら果てた。びく、びくんと脈を打つとともに肉棒からは精液が勢いよく放たれて彼女の中へと注がれていく。前戯で出せていなかったのもあって、普段よりもう多くの量の精液が放たれてる気がした。
 精液によって彼女の蜜壷は瞬く間に満たされていき、結合部からとろりと溢れてくる。彼女は自分の中が精液で満たされているのを、身体をぷるぷると震えさせながら感じる。そして溢れてきた精液を尻尾の先で掬い取ってはぺろりと舐める。また、もう一本の尻尾では自分のお腹を摩りながら僕にこう言ってくる。
「こんなにあついのいっぱいくれるなんて、みもこころもとけてしまいそう……」
 酔ってるかのごとく、すっかり出来上がった表情を彼女はしていた。その彼女の顔を見て僕はどぎまぎしてしまい、精液を出したのもあって萎え始めていた肉棒が段々と硬さを取り戻していく。まだ肉棒が彼女の中に入りっぱなしというのもあってか、肉棒が硬くなるのを感じ取る。腰を少し上げては落とす、そんな一連の動作を繰り返して僕の肉棒を更に硬くさせようと彼女はしてくるのである。
 精液を出したばかりで気持ち的には辛い筈なのに身体は正直なのか、彼女のピストン運動によって肉棒は射精前と同じくらいに硬さを取り戻してしまう。すると、彼女は嬉しそうに尻尾をゆらりと揺らしながらこう言う。
「あなたもまんぞくしてないのね。わたしもまんぞくしてないよ、わたしをとけさせるくらいにあついのだしてくれないと」
 溶けさせるくらいって一体どのくらい。
 そんな疑問を彼女に投げようとも、ゆったりと動いていた腰が再び激しく動き始めてそうはいかなくなる。口から熱い吐息と喘ぎ声を吐き出して、僕は善がるのである。そんな僕の姿を、彼女は口元を釣り上げながら眺めていた。



 目が覚めると見慣れた天井が目に入ってきた。カーテンの隙間から溢れる日光が入り込み、夜が明けたのを物語っていた。
 怠かった。端的に言えば。夜中、何があったかは考えたくない。身体中のありとあらゆる場所が重たくて、想像するだけで気が滅入りそうだ。
 そして怠いのにも理由があった。彼女が僕の上に乗りながら寝ていたのである。体重がおよそ二十キログラムでポケモンの進化系としては比較的軽くても、乗っていればそれは重たく感じる。ましてや炎タイプの彼女がべったりとくっついてれば暑さでも怠くなる。
 すやすやと気持ちよさそうに寝ている彼女を起こすまいと身体をゆっくりずらしながら下ろそうとする。しかし、前脚と後ろ脚でぎゅっと抱き締めるだけでなく尻尾までも僕の身体に絡み付いているのでなかなか下ろせない。そうこうしているうちに、
「う……うーん……」
と眠たげに前脚で目元を擦り始める彼女。そして、ぱちぱちと瞬きをして、僕の姿が目に入るなり快活な挨拶をしてくる。
「おはよう」
「……おはよう」
 対する僕はぶっきらぼうに挨拶をした。彼女の元気さが恨めしく感じて仕方がない。僕の布団に入り込んできた挙げ句、僕の上に乗っている事に対して何か思わないのだろうか。
「……あのさ、キュウコン、何か言うことは?」
「うーんと、お熱い夜だったね」
 にっこりとご満悦な表情をして、まるで悪気が無いように言ってくるものだから、僕は怒る気にもなれなかった。ましてや、暑さのあまり怒るのですら怠く感じるのだが。
 お熱い夜と言われて僕は回想するのだが、途中から記憶がない。肉棒も朝なのに反応しないあたり彼女に貪り尽くされたのであろう。考えるだけでおぞましい。お熱い夜じゃなくて涼しげな夜にする筈であったのに。涼しげな夜で思い出したが――。
「キュウコン、氷タイプになったんじゃないの?」
 僕がそう訊くと、彼女がくすっと声に出す。そして面白可笑しそうに笑い始めるのである。
「ふふ、なれるわけないじゃない。私が催眠術をかけただけよ」
 僕はやっぱり化かされただけなのか、とがっくりする。本当に氷タイプになってくれたら残暑が容易に乗り越えられたというのに。
 でもやっぱり氷タイプではなくていつもの彼女が一番だな。そう思いながら、彼女の温かな毛並みをゆっくりと撫でてあげた。すると、彼女が嬉しそうに尻尾を振ってきては、僕の鼻先に自分の鼻先を押し当ててくる。
 しかし、九月五日が始まったばかりなのをこの時はまだ忘れていた。この後、九月五日だからって彼女に色々とせがまれたのは言うまでもない。


CP人×ムウマージ小話 甘美な施しか弄ぶか 


「刹那に我へ甘美な施しを、さもなくば我が汝を弄んでやろう」
 今にもふわふわと風でどっかに漂っていきそうな俺の同居人が厨二病めいた事を言ってくる。黒い影はあるのだが、足なんてものは無くて宙に浮いている。
 分かりやすいように言ってくれと思うのだが、俺自身もコイツが言った台詞の意味が分かってしまう時点で末期なんだろうか。ズボンのポケットに手を突っ込んでみるのだが、生憎のところお目当の物はなかった。
「うん、無いな、ムウマージ」
 俺はそう目の前にいる同居人、ムウマージへと言った。魔女が被るような帽子の形状をした頭に、胴体はローブのような身体つきをしている。マジカルポケモン、というのは名折れではないと言わんばかりに。
 俺の口から無いという言葉を聞いてムウマージの口が綻びる。いや、普段から笑っているような口の形をしているから、そう言うのは少し可笑しい気もする。ただ、俺を嘲るのには違いなかった。
「ふむ、では我が――」
「ムウマージ、普通に喋ってくれないかな」
「……ちょっと、折角良い感じだったのにそんな事言わないでよ」
 俺に言われてムウマージが、ぶすっと頬を膨らませながら返してくる。逆に俺は呆れたようにジト目で見てやって睨めっこしてやる。暫く見つめ合っていたのだが、ムウマージの方がくすくすと笑い始めて睨めっこ対決は制する。睨めっこがしたかった訳ではないから別に勝ったところで嬉しくもないが。
 俺のムウマージは調子が良いときは変な言葉遣いになる。正直言って回りくどい表現過ぎて何を言っているのか伝わらない事が多々ある。あんな言葉遣いを使うだなんて、一体誰に似たんだろうか。
「大体なんだよさっきの台詞、素直にトリックオアトリートって言えばよくね?」
「失礼ね! ただトリックオアトリートって言うだけじゃつまらないから私なりに考えた台詞なのよ」
 そう言ってえへんと胸を張るムウマージ。しかし、ゴーストタイプである彼女には胸と呼べるのかという膨らみなんて無い。首には首輪でもしているような膨らみがあるのだが胸元にはない。だから、胸を張ったところで見事な平らが露呈されるだけであった。
 トリックオアトリートと言えば、今日はハロウィンであった。だからムウマージは先の厨二病めいた台詞を言ったのだ。
 俺としてはムウマージに意地悪する気なんてなくお菓子をあげても良かったのだが、生憎のところ手持ちにはポロックすらなかった。家には基本的に必要最低限なものしか無いから、この調子だとお菓子なんて無いであろう。
「まあ、後でお菓子を買ってきてやるから我慢しろよ、な?」
 ムウマージの頭をぽんぽんと軽く叩きながらそう言うのだが、逆に彼女は笑い出す。けらけらとゴーストタイプ特有の笑い声を出しながら。何が可笑しいのか、それともお菓子を買ってくれる事にそんなに嬉しいのか。
「私がさっき言った事を完全に理解してなかったようね。直ぐにお菓子を出さないと悪戯しちゃうよ、って言ったのよ」
 しかし、前者でも後者でもなかった。知らねーよ、と言いながら俺は眉をしかめる。後でお菓子を買ってきてやるって言っているのに今すぐ欲しいとか食い意地が張ってるのにも程がある。ただでさえムウマージはゴーストタイプの都合上、消化器官があるのか怪しいというのに。
「無いものは無い。だから今は諦めろ」
 そう言って俺は立とうとするのだが、身体が動かなかった。足が痺れて立てないだとか、そう言った類いのなら分かるがそうではなかった。身体が自分の意思に反して動かないのである。
 そんな俺の様子をムウマージは面白おかしく笑いながら見つめてくる。こうなっていると何で自分の身体が動かないのかだなんて明白だ。
「お前、まさか」
「くっくっく、我の呪文が効いたようかの」
 呪文なんて発してなかっただろ、という突っ込みはもうする気が起きないから止めとく。俺は必死に脳から身体を動かすよう命令を出しているが、一向に動かない。動かない俺の代わりにムウマージがふわりと漂いながら近付いてくる。
 何をされるのか分からないから一刻も早く逃げなきゃならないのに微動だにしない自分の身体。そうしている間にもムウマージが寄ってきて、終いには彼女の顔が目と鼻の先となる。ムウマージの紅い月でも眺めているような真紅の瞳に魅了されそうになる。だから俺は慌てて目を逸らした。
 しかしゴーストタイプであるムウマージが悪巧みをしない筈がない。俺の顔を眺めていたと思ったら、耳たぶへと噛みついてきた。まさか、そんなところを噛まれると思っていなかった俺は、驚いて腑抜けた声を漏らしてしまう。
「ひゃあっ!」
 噛みついてきたと言っても本気で噛みついてきた訳でもない。そもそもムウマージには歯なんてものは無い。となると噛みついてきたと言うよりは挟み込んできたと言うべきか。
 してやったり、と言いたげにムウマージが俺の耳元で笑う。その所為で彼女の笑い声が嫌に耳へと残る羽目になる。ムウマージは俺をもっと驚かせようと耳をはむはむと挟み込んできた。初めのうちは慣れない感触に身体をびくびくとさせていたものの、何度もやられていくうちにものともしないくらいに慣れてしまった。
 そうすればムウマージはつまらないと言わんばかりにぷくぅと風船ポケモンであるプリンのように頬を膨らませてくる。いや、そんな表情されても慣れてしまったものは仕方ないであろう。
「イタズラは済んだだろ? もう止めるんだな――」
「ならば漆黒の闇に飲まれ、我を受け入れるがよい」
 そう言われるなり、俺の顔は黒い影で覆い尽くされていく。目の前がどうなっているのかよく分からないと思ったが、視界には紅いふたつの丸が浮かんでいた。それには見覚えがあった。
 紅いふたつの丸が何であったのか思い出そうとする前に、口には違和感を覚えていた。何かと触れ合っているが、冷たいとも熱いとも感じられない。そこに何かがあるのは間違いないのだが。
 目を凝らしてみる。すると黒い影だと思っていたのは違う事に気付く。紅いふたつの丸も。何かに覆い尽くされたのではなくて、ムウマージにくちづけをされていたのである。
 先ほどムウマージが発した台詞を考えれば直ぐに分かる事であった。くちづけをされた事に対して呆気に取られていくうちに、口からは何かが流し込まれていく。蒸気のような、ガスみたいなどう表現したら良いのか分からないものが。それを摂取していると段々と身体が怠くなっていくような、そんな気がしてくる。
 急いでムウマージを引き剥がすのも考えられたのだが、それをする気になれなかった。このままで良いと思うのと、ムウマージの口の中へ舌を突っ込んでは唾液を流してしまっている自分が居た。
 互いに交換し合う。ゴーストタイプであるムウマージからは温もりを感じられないが目の前に居る事実と、こうして大人のくちづけをしているのには変わりなかった。
 そしてムウマージが口をゆっくりと離した。俺の唾液が糸を引いてはぷつりと切れる。その光景で俺は夢から醒めたような感覚に襲われた。しかし、先の行為が夢ではないのはムウマージのほんのりと赤らめた頬で明白であった。
「どう、わたし、じゃなくて我の闇を受け入れる気になったか?」
 照れ隠し、と言わんばかりにムウマージが言ってくる。しかしムウマージの方も慣れない事をして戸惑っているのか、元々の一人称が出てきてしまっているのに思わず鼻で笑ってしまう。
「む、むう、何が可笑しいのよ!」
 俺に笑われて、遂にはムウマージの頬が真っ赤となる。何が可笑しいとか言われても、俺は可笑し過ぎて笑いしか出てこない。
「いや、可笑しいだろ。さっきから口調が定まってないし」
 俺の言葉に、ムウマージが自覚したのか反論すら出来ないと言わんばかりに黙り込む。さっきまでの威勢の良さが嘘みたいに、急に大人しくなるムウマージ。やがて彼女は頭の帽子のつばみたいな出っ張りで、俺から顔が見えないように隠してしまった。
 落ち込んでいるんだろうか。そう思っているとやがてムウマージの方からはぐすっと鼻をすする音までもが聞こえてくる。笑ったとはいえ、泣かすまでする気はさらさらなかった。
「お、おい……別に泣かなくても……」
 手を伸ばしてムウマージを宥めようとするが、彼女は俺の手をすっと避けた。拒否反応を示されてしまうと俺もどうしたらいいか分からなくなる。
 そういえば、彼女の台詞に俺はまだ答えていなかったのを思い出した。泣いているのはその所為なのかもしれない。
「……な、汝の闇をとわに背負ってやろうぞ」
 我ながらぎこちない台詞というか、あんまりムウマージが好きそうな厨二病の台詞が出てこなかった。こんな台詞で良いのかと思うのと同時に、ムウマージにちゃんと台詞の真意が伝わるのか不安になってくる。
 俺の台詞にムウマージがぴくりと反応する。すると彼女の方から声が聞こえてくる。
「――良かろう。契りの成立じゃ」
 そしてムウマージが顔を上げると、彼女はにやりと口元を釣り上げていて目元には涙ひとつも無かった。先ほどあんなに泣いている雰囲気を醸し出していたというのに。それに俺は動揺を隠せなかった。
 もしかするとこれはまさか。
「ふふっ、ふふふっ。まさかあんな台詞言ってくれるだなんて。汝の闇をとわに背負うだなんて」
 彼女がくすっと声に出して笑い始めると俺は確信する。彼女の騙し討ちというイタズラに付き合わされたのだと。そう思うと、今度は俺の頬が真っ赤になっていく。付き合わなければ良かったと思わざるを得なかった。
 彼女が声に出して笑っている中、俺は恥ずかしさのあまりに何も言えなかった。しかし、一通り笑い終えた後で彼女がこう言ってきた。
「でも、お陰で今、胸がとってもあったかい」
 そして彼女は俺に身体をすっと預けてきた。慌てて手で受け止めて抱き締めると、彼女の身体からは温もりを感じ始めてきた。いくら彼女がゴーストタイプで体温の概念が無いといえども、これを気のせいという訳にはいかない。
 俺の胸の中で、満面の笑みを浮かべる彼女。そんな彼女に、今度は俺の方からイタズラをしたくなってしまう。彼女の方もそれを待ち望んでいるらしく、顔を俺の方に向けては瞼を閉じ始める。
 俺は一旦、固唾を飲んで、そしてイタズラする覚悟を決めた。自分の口でもって彼女の口を塞ぐという、イタズラを。

CP人×オオタチ小話 トリックオアトリック 

「ご主人さま、トリックオアトリート!」
 帰ってきて部屋のドアを開けたら、彼女からの第一声がそれであった。
 声はいつも聞き慣れた声だったのに、実際に目の前に居るのは膨れた僕の毛布。だけど後ろの方では彼女の特徴的な横縞模様の尻尾が隠れずに出ている。だから、彼女なのは間違いなかった。ハロウィンだから、僕の毛布を被ってお化けの仮装をしてるつもりなんだろうか。
「ただいま、オオタチ」
 とりあえず、僕は毛布を被っているオオタチの頭を撫でる。顔は見えないけれども、仕草としては嬉しそうにゆらゆらと尻尾を揺らす。
「おかえりなさいませ、ご主人さま……じゃなくて、トリックオアトリート! お菓子くれないとイタズラしちゃいますよ!」
 撫でてあげれば誤魔化せたと思ったのがそうは行かなかったらしい。残念。オオタチの方はすっかりお菓子を貰う気ならしく、今度は両手を突き出してくる。
 お菓子なんて持っていただろうか、そう思ってズボンに手を突っ込んでみる。すると、丁度運良く飴の袋がいくつか出てきた。それを僕はオオタチの手に乗せてやる。
「うーんと、これは飴ですかね? ご主人さま、ありがとうございます!」
 毛布で頭が隠れているからオオタチには手元が見えない。だから、疑問形なのであろう。それだったら毛布を被るのは止めにして、見ればいいような気がする。
 まあ、とりあえず喜んでくれたのなら良かった良かった。僕はそう思いながら、外着から部屋着へと着替えるべく衣服を脱ぎ捨てていく。下着一枚になったところで、毛布を被ったオオタチが躓いたのか僕の方へと倒れてきた。
「っと、大丈夫かい?」
 なんとか僕はオオタチを受け止める事が出来、大事には至らずに済んだ。でも流石にこんなもの被っていたら躓くであろう。僕はそう思ってオオタチから毛布を引き剥がす。しかし、出てきた彼女の顔には不機嫌そうな表情が浮かんでいた。
「ご主人さま、私にイタズラするなんて酷いですよ」
 ぷくぅっと風船ポケモンのプリンのように頬を膨らませるオオタチ。一体どうしてオオタチは怒っているのだろうか。
「お菓子なんてないじゃないですか」
 そう言ってオオタチは手を差し出してくる。すると、オオタチの両手に乗っていたのは皺くちゃに丸めたレシートではないか。
「いや、僕はちゃんと飴玉をあげたよ?」
 確かに僕は飴玉をあげた筈。だがオオタチは納得しないのか不機嫌な顔を浮かべたままであった。オオタチがさっき躓いたからもしかしたら落としたのではなかろうか。そう思って辺りを見回すのだが見当たらない。それならば毛布の中に紛れてるんじゃないかと思って探してみるがやはりない。
 いや、絶対にあげた筈だ。そう思って、確かめるべく脱ぎ捨てたズボンに手を伸ばしてポケットへと手を突っ込んだ。するとどうだろうか。覚えのある感触が手から伝わってくるとともに、取り出してみたら案の定予想していた通りのものが出てきた。
「ご主人さまったら、やっぱり私にイタズラしてたんですね」
 出てきた飴玉を見るなり、オオタチは僕に対して冷ややかな眼差しを送る。そう言ったオオタチの言葉が僕の胸にぐさりと突き刺さった。オオタチの方はと言えば今にも怒ってきそうなくらいに、雰囲気から怒気を露わとしている。
「違う、僕はさっきオオタチに――」
「じゃあ、どうしてご主人さまの手には飴玉の袋があるんですか?」
 オオタチの言葉に僕は返せなく黙り込んでしまう。僕の手に握りしめているのは確かについ先程オオタチに渡した筈の飴玉の袋であった。それが何故あるのかと訊かれたら弁解する余地がない。
 僕が黙り込んでいると、怒っていた筈のオオタチの表情が急に明るくなり始める。そうしてにやりと八重歯を見せながらオオタチはこう言い放つ。
「トリックオアトリート……。ご主人さまはお菓子くれなかったので、私はイタズラしちゃっていいんですね」
 そしてオオタチが僕の方へと身を寄せてくる。ただでさえ下着一枚の状況なのに、擦り寄られたらどうなるかだなんて想像が容易に付く。
「ま、待ってオオタチ。ほら、飴玉あげるから」
 慌てて僕は手にある飴玉の袋をオオタチに渡そうとするが、もう受け取る気がないのか無視をする。そしてオオタチが僕の胸に飛びかかってきて、背中から倒れ込んでしまった。不幸中の幸いなのか、先程オオタチから引き剥がした毛布が上手い具合に緩衝材となって大事には至らなかった。
 しかし、オオタチに押し倒された事実は変わらない。女の子とはいえポケモンであるために、彼女を引き剥がす至難の業である。それどころか力で捩じ伏せられる可能性の方が大きい。
「……ご主人さま、どんなイタズラがいいですか?」
 そう言って、オオタチはぺろりと自分の八重歯を舐める。イタズラを選ばしてくれるならせめて被害が少ないのを選びたい。そう思って思考回路をフルに使うのだが、オオタチの手がある部位に伸びてきて意識が一瞬飛んだ。
「イタズラなんですからやっぱり私が選ばないとダメですよねぇ」
 そう言って、オオタチの手が僕のパンツへと伸びていた。この後、どうなるのだなんて明白であった。
 オオタチはずるんっとゴム紐が伸びそうなくらい強引に脱がしてきたのである。そうすれば、布越しから触られて中途半端に硬くなった愚息が姿を現わす。オオタチの円らな瞳に映ると、恥ずかしさでむくむくと大きくなり始める。
「ご主人さまの、とっても凄いです」
 頬をほんのりと赤らめながらオオタチがそう零す。そんな風に言われてはますます余計に愚息に熱が集まっていってしまう。そして血管が浮き出る程までに愚息は硬くなった。
 オオタチが僕の愚息に顔を近づけていく。オオタチの鼻先が愚息の先端部に当たるくらいの至近距離ぐらいに。そんな間近で見られたらより一層恥ずかしくなって、ぴくぴくと愚息が脈を打ち始める。
 愚息から鼻が捻じ曲がりそうな程の異臭が漂っているだろうに、オオタチは物ともせずにすんすんと匂いを嗅いでくる。挙句の果ては鼻先を当ててまでも匂いを嗅ぐ。一刻も早く止めさせたいから僕はオオタチに手を伸ばすのだが、彼女に手をはたき落とされた。
 オオタチの鼻息が当たり、僅かながらも愚息からは刺激がくる。くすぐったいようなもどかしい感覚に、匂いを嗅ぐのをさっさと終えて欲しかった。一回深呼吸をすると、オオタチは飽きたのか僕の匂いを嗅ぐのを止めた。それで一安心していたら死刑とも呼べる一言が彼女の口から出てくる。
「お菓子が食べれないから、ご主人さまのを喰べちゃいます」
 ぺろりと八重歯も舐めるとオオタチは間髪入れずに僕の愚息を口に含んでいった。あまりにも急であったので僕は止める事すらままならなかった。
 オオタチの口によって一気に丸呑みにされた僕の愚息。生暖かい感触が伝わるとともに、オオタチの八重歯が愚息に食い込んでくる。一応、甘噛み程度の力加減なのか、痛いとまでは感じなかったが愚息を動かそうとすると痛覚を刺激しそうではあった。それ故に、僕は愚息を引き抜くということができなくなってしまう。
「オオタチ、こんな事は止めるんだ……」
 説得しようとしたものの、彼女は相変わらず無視を決め込んでいた。そして真逆の事をしてくるのである。舌先を一生懸命に使って、僕の愚息をぺろり、ぺろりと舐めてくるのである。
 まさか飴玉ではなく、愚息を舐めてくるとは誰が予想しただろうか。いや、僕はしていなかった。愚息の根元から愚息の恥口まで隅から隅まで舐めてくるオオタチ。これには流石の僕も喘ぎ声を漏らさずにはいられなくなる。
「うあっ……」
 自分の腑抜けた声が部屋に響き渡るとともにオオタチの耳へと入る。ぴくぴくと耳を動かすと、彼女は僕に向けて不敵な笑みを浮かべる。僕が善がってる姿を見て、楽しんでる様子であった。
 僕の反応をもっと楽しんで見ようと、彼女は舌先を愚息の先端部へと押し当てる。そして裏筋の辺りを重点的に舐めてきた。
「いぃっ……ぁあっ!」
 筋が切れそうなくらいに乱暴とまではいかないが、執拗に舐められると痛いのかきもちがいいのか分からなくなる。しかし、身体の方は後者と捉えているようたで、愚息から快感が巡っては透明液が滲み出てくる。オオタチはそれを時折、喉を鳴らして飲んでは再度求めてくる。それも、ただ舐めてくるのではなくてこちらを気にかけるように上目遣いになりながら。すっかり艶っぽい表情を見せるようになった彼女が上目遣いまでしてくるとなると、僕の理性は崩壊しそうになる。
 彼女の口にたっぷりぶちまけたい。
 そんな欲求が頭の中を駆け巡り離れない。実際、彼女が舐めて刺激を与えれば与える分だけ、僕は限界へと近づいていく。オオタチもそれを分かっているのか、今度は手を使って僕の愚息を弄ってくる。袋の方を弄って中に入っている玉を転がすことで、射精を促してくるのである。
 オオタチの手が空いていない今の状況ならば、彼女を止める事は容易であった。しかし、僕の手は動かない。身体がもう快感を欲して止まないのだ。
 そうこうしているうちに、彼女が畳み掛けるように僕の愚息を扱きあげる。相変わらず舌で舐めてはいるが、頭を前後に動かすことで口で僕の愚息を扱くのである。そんな事をされてしまったら、僕が果てるのなんて時間の問題である。
「ぁああっ!」
 そして、遂に僕は限界を迎える羽目となった。愚息が狂ったようにぴくぴくと脈を打つとともに、精液が勢いよく彼女の口へと注がれていった。僕が絶頂を迎えるや否や不意打ちを食らったように彼女は目を大きく見開いたものの、次の瞬間には陶酔しきったように目をとろんっとさせる。そうして僕の精液を躊躇うことなく、寧ろ美味しそうに飲んでいく。
 射精を迎えた直後は勢いがあった精液も、時間が経つにつれて出る量が少なくなっていく。愚息が脈を打つ間隔も長くなって、やがては落ち着き始める。
 一滴も残さないと言わんばかりに、オオタチの舌が這いずり回る。先端部を舐めるのは勿論のこと、根元まで垂れた精液もぺろりと舐めていく。射精を終えたばかりの愚息を舐められるのきついものがある。だが、今の僕は力が完全に抜けきって、彼女にされるがままであった。
 そうしてオオタチが満足したところでやっとのこと、愚息は彼女の口内から解放された。ちらりと下腹部の方に目をやれば、精液が一滴も残ってない代わりに彼女の唾液に塗れた愚息の姿があった。
「ご主人さまの蜜たっぷりでおいしかったです」
 ご満悦そうににっこりと笑みを浮かべるオオタチ。普通ならばまずいとか吐き捨てても可笑しくないと思うが、彼女は真逆の反応をする。そして、ぺろりと舌先で口元を拭う彼女の姿を見るなり、僕の愚息が反応しそうになる。つい先程、精液を出してすっきりした筈なのにも拘らず。
 だけどももうこれで終わりだ。イタズラはもう済んだし、彼女もお菓子ではないが頂いた訳だからきっと解放してくれる筈。そう思った矢先に彼女がこう言ってくる。
「では、ご主人さまの蜜、今度はこっちのお口で頂いちゃいますね」
 そう言うと、オオタチがなんの恥じらいもなく僕に自分の秘所を見せびらかしてくる。目を逸らさなくてはならないのに、糸が引く程に涎を垂らした秘口に視線が釘付けとなってしまう。萎えていた筈の愚息も反応して硬さを取り戻していく。
「ふふっ、ご主人さまもすっかりその気だったんですね。嬉しいです」
 いやいやこれは違うんだ、と反論したくなったものの身体は正直なのか、愚息が萎えようとはしない。寧ろ、ぴくぴくと脈を打って一刻も早く彼女の中に入りたいと言わんばかりであった。
 僕の身体の上へとのしかかってきて、脈を打つ愚息に秘部を押し当ててくるオオタチ。のしかかられるとなるともう逃げることがままならない。袋の鼠と言っても過言ではない。きっと否応なしに彼女に弄ばれるのだろう。
 身体をほんの少しだけ動かして、すりすりと秘部に愚息を擦り付ける彼女。そうすることで、自分の蜜壷から零れ落ちる愛液を愚息へ纏わり付かせるのである。オオタチとしては愚息を飲み込むための準備のつもりなんだろうが、こっちとしては焦らされて生殺しにされてるような気分になる。
 こちらが悶々とした表情をしている最中、彼女の方はと言えば妖しく笑っていた。今の彼女の心中としては、獲物を生け捕りにしたと言わんばかりに優越感に満ちているに違いない。
 十分過ぎるくらいに愛液がべったりと愚息に付いたところで彼女が唐突にこう訊いてくる。
「ご主人さまったら、私がトリック使えるのお忘れだったですよね?」
「え?」
 僕は思わず声に出してしまった。トリックってあの手品のトリックだろうか。いや、ポケモンであるオオタチが手品なんてする訳がない。ましてや、飴玉と皺くちゃになったレシートを入れ替えたりするだなんて――。そう考えるや否や、彼女が口にしたトリックの意味が分かった。
「ご主人さま、わたしはちゃんと”トリック”オアトリートと言いましたよ?」
 ふふっ、とオオタチが妖しく笑いながら答えると、彼女はすとんっと腰を落としてきた。彼女に喰べられた今頃になって、まんまと嵌められたと気づいたのだ。が、僕は為すすべもなく、彼女のイタズラ兼もてなしを受け入れるしかなかった。

熱せず冷せず小話 ばくはぐ加筆ver 

 それにしても暑い。夏というのはやはり嫌いだ。外に出掛けると暑い日差し浴びる羽目になり、一方で家にいるとなってもエアコンを点けない限りは蒸し暑くて絶えず汗が滴る羽目になる。エアコンを点けても構わないがそうなると今月の電気代が大幅に増加するのが目に見える。故に今は辛うじて扇風機で暑さを凌いでいるものの、どうせ吹いてくるのは生暖かい風であり、お陰でコップに入っている飲み掛けのコーラは氷が溶けてぬるくなっていた。
 まだこの家に独りでいるならこの暑さはどうにかなるだろう。しかし、残念な事にこの家にはもうひとり余計なのがいる。その場にいるだけで平均室温を二三度くらい上げる奴が。
 横目で見るとそいつはこんな暑い中、汗一滴すら流さずにいた。おまけに上機嫌にふんふんと鼻唄まで歌っていた。暑さで気が滅入って、気分が下がるとこまで下がっている俺とは完璧に対照的であった。
 紺色よりも少し濃い背中をしていてお腹回りはクリーム色、眼に至ってはルビーのように紅い色をしているそいつ。そいつは仰向けで寝ている俺の顔を覗きこんできては、部屋に飾ってあるカレンダーに指を差してこう言う。
「今日はなあんの日だ?」
 彼女の言葉を聞いた途端、暑いというのにも拘わらず何故か俺の背中には悪寒が走った。それと同時に嫌な予感が頭に過っていた。俺がちらりとカレンダーの日付を確認してみると、案の定であった。この現実を受け止めると俺の身体にはどっと気だるさがのし掛かってきた。
 流石に今日という日を恨みたくなった。それ以前にどうしてこんな暑い八月にそんな日があるのかを恨みたかった。これも去年、彼女がこの日に気付いてしまった所為なのだが。俺は身に降りかかった火の粉をどうにか払い落とす為、惚けたように彼女に言う。
「さあね、何の日だろうね」
 すると、俺が口にした矢先に彼女の眼の色が変わった。いや、眼の色は相変わらずの紅であるからこの場合は目付きが変わったというべきか。
 先程までうきうき気分の円らな瞳であったのに、じと眼で俺の事を軽蔑な眼差しで見てくる。俺はそんな彼女の目線が痛く、良心にも突き刺さってきた。
「本当に分からないのか?」
 念を押すように彼女が言ってくる。それも今にも口と背中から火を出しそうな雰囲気をしながら。俺自身もそうだがこの家を焼かれてしまうのは傍迷惑なので、これ以上彼女の機嫌を損ねないように知らぬ顔をするのは止める事にする。
「分かってるよ、バクフーン。俺が知らない訳ないだろ」
 しかし俺の言葉を聞いてもまともに受け入れてはくれなかった。現に彼女の目付きは変わってはなく、相変わらず火花が散りそうな雰囲気を漂わせていた。やはり俺の疑いは晴れてはないらしく、彼女は訝しげに言ってきた。
「どうだかね。じゃあ、今日は何の日か行動で示してよ」
 ただ単に口で今日が何の日か言うのなら楽なのに、彼女ときたら行動で示せとはよくも言ってくれる。ただでさえ暑いというに、更に俺を熱くさせる気なのか、彼女は。
 俺はちらりとカレンダーの日付を再度見る。どう見ても、見間違いではなく今日が示している日にちは揺るがなかった。こうなってしまえば俺に残されてる猶予なんてものは無いに等しい。
 今日という日を迎えてしまった以上、仕方がないので俺は覚悟を決めて腹を括る事にした。一応、念の為に彼女に断りを入れておいて。
「……こっちは暑くて汗かいてるんだから、文句は言うなよ」
 そうして俺は彼女をぐいっと抱き寄せて、彼女の身体に埋もれていく。その証拠に湿ったシャツの上から柔らかで熱い感触と彼女の重みが伝わってくる。彼女の背中に回した両手さえも熱を感じ取っていた。
 今日が“バク”だろうと“ハグ”だろうとどっちの意味にも取れると考えてしまった自分に嫌気がした。知らぬ間に彼女に相当毒されていると思ってしまったから。
 そんな彼女は俺の気も知らずに嬉しそうに笑っていた。そして彼女は顔をこちらに近付けてはすりすりと頬擦りをしてきて、終いには俺の耳元でありがとうと囁く。
 彼女にそう言われて、まあそう言われるのも悪くないかな、と都合よく甘い考えしてしまっている自分がいた。しかし、油断した途端に口が奪われていく。彼女の熱い舌先が俺の口内に入り込んできては、あちこち舐め回される。追い出そうとするものならば、舌に絡み付いて離してはくれない。
 この時点でもうすでにあつかった。何があついかとかではない。どこもかしこもあつかった。それを露呈するように俺の皮膚からは汗が滲み出てきてべっとりシャツを湿らせていく。それだけならまだ良かった。
 彼女の柔らかな肉が下腹部へと押し当てられる。わざとするような彼女ではないので、無意識のうちにやっているのだろうが、俺は意識せざるを得なかった。ましてや、ねっとりと唾液と唾液とが絡みつくような口付けをしてたら尚更だった。
 身体には熱源が押し当てられていて正直なところ暑さで限界だった。ましてや自分の汗が噴き出してきて、それを拭きたくて堪らなかった。
 やっとのことで彼女が口を離してくれた。口と口との間には唾液の橋がかかるのだが、俺が真っ先に顔を彼女から遠ざけたことでぷつりと切れた。
「……そんなに嫌だったのか?」
 そう言って、しょんぼりとする彼女。俺は直ぐ様に首を横に振って否定する。
「こっちは炎タイプじゃないんだから、暑すぎるんだよ」
 暑さの中でわざわざ熱くなる事をするのは、はっきり言って自殺行為だと思う。ましてや、こんな真夏の日に炎タイプを抱いているのは俺だけではなかろうか。扇風機からの生暖かい風なんて微塵も感じられない程に身体は火照り、着ていたシャツはすっかり汗でべたべただった。
「なんだ、そんなことだったか。じゃあ」
 俺を抱き締めていた彼女の両手が離れたかと思いきや、シャツの裾を掴む。そうして乱暴ながらも一気に引っ張って脱がしてきた。
 強制的に上半身裸となった俺。ここまでされたら次はどうなるかだなんて明白だ。俺は慌てて手を床に付けて立って逃げようととしたものの、彼女にどんっと勢いよく胸を押されて体勢を崩される。そして再び床に倒れた俺は背中に走る痛みに悶えている合間に、彼女に着ていたズボンを下着ごと引っ張っられた。
「ほら、これで涼しくなったろ? って、おやあ」
 先程のハグで彼女の身体を意識してしまったのもあり、半立ち状態だった肉棒。そんな肉棒を彼女に見られてしまったからには穴があったら入りたい。にやにやと笑みを浮かべる彼女の視線が辛い。
 俺は何も言い返せなかった。それに対して彼女はふんふんふーんと上機嫌に鼻唄までする始末。誰のせいでこうなったと思ってるんだと開き直ってしまいたい。
「なるほどなあ。そりゃあついわけだよ」
 彼女が俺の肉棒を見ながら言ってくるものだから、俺の頬は蒸気が出そうな程に熱くなる。加えて、じろじろ見られて肉棒はみるみるうちに元気になって、今すぐにでも出来るほど硬くなる。
「なら、オレもあつくなっていいかなあ?」
 そう言うと、彼女が俺に跨ってくる。それだけではとどまらず、腰を落としてきて肉棒に向かって秘部を押し当ててくる。押し当てるだけならまだしも、腰を小刻みに振っては秘部の肉圧で肉棒を刺激してくる。
 焦らすくらいならもういっそ煮るなり焼くなりして欲しいのが本音であった。しかし、彼女は一向に肉棒を入れようとはせずに秘所と肉棒とを擦り合わせる。
 我慢の限界だと言わんばかりに肉棒からは先走り汁が溢れてくる。それが彼女の下腹部を湿らせていく。擦り付けられればられるほど、俺の身体は熱くなっていくのと同時に暑さなんて気にしていられなくなる。
 腰を突き上げてしまえば一思いに楽になれる。彼女はそれをするのを待っているかのごとく、柔らかなお尻を俺の身体に乗せてくる。触ればたちまち手の平が柔らかな感触に包まれるであろう。なお、彼女は尻尾がないので背中を向けてくれればお尻の穴が丸見えだったりする。
 むしむしとした蒸し暑さを通り越してむらむらとした熱さにやられる。俺が躊躇っている間にも、彼女は止まらない。俺の胸に手を置いてきたと思いきや、べったりと身体をくっ付けてくる。
 先程は衣服を身に纏っていたため特に意識はしていなかった。しかし、その障害が無くなったというのもあり、彼女の胸元からある感触が伝わってくる。それはもふもふな体毛とは対照的で硬さのある乳頭であった。
 バクフーンである彼女は、乳房の膨らみは殆どない。そのため、揉めはしないが、微かに感じる膨らみが牡の身体では味わえない感触が伝わってくる。
 ほら、どうしたどうした、と内心思っていそうなにやけ面の彼女に俺はもう我慢の限界であった。膨れ上がる肉棒と欲望に負けて、彼女の身体を性的な意味で抱く。
 彼女のお尻に手を回して少し浮かせるとともに、蜜壺に目掛けて肉棒を捻じ込んでいく。前戯という前戯は特にしていなかったのだが、思いのほか彼女の中へとすんなり入っていく。それもその筈で、彼女の中はすっかり愛液でぐしょぐしょに湿っていたのだ。まるで待ち侘びていたと言わんばかりに。
「フフンッ、やっときたか」
 肉棒が蜜壺の奥へと到達したかと思えば、たちまち彼女に主導権を握られた。肉棒を入れるまでは俺が動いていたと言うのに、彼女が腰を振り始めてきて呑まれていく。
 彼女がすとんっと腰を落とすと、一気に肉棒が膣奥まで到達するのと同時に、快感が襲いかかる。それだけではなく体重が掛かって彼女のお尻に圧迫されるまでも味わう事となる。正直、彼女は華奢とは言い難いため、彼女の体重が掛かるだけでも俺の身体にとっては結構な負荷となる。
 しかし、始めたら一直線な彼女が俺の身を案ずる筈がない。今だってそうだ。気付いてる様子もなく、口元から涎を垂らしながら夢中で俺の身体の上で腰を振り続ける。
「んぅ……ぃい……ああっ」
 すっかりきもちよくなっているのか、彼女が悦のこもった喘ぎ声を漏らす。対する俺の方はと言えば、彼女と同じようにきもちよさを味わっているのだが、彼女のお尻が乗っかる度に骨か何かが砕けそうな衝撃が襲う。彼女の体重は成人男性並みかもしくはそれ以上あるため、力任せに腰を振られたら当然ながら俺の身体には負担が掛かる。
 しかしながら身体に鈍く響く衝撃以上に快感の方が勝るのは事実であった。彼女の熱い肉壁に包まれた肉棒は、擦れる度に快感を走らせていく。
「うっ、はあっ……」
 そして俺はあまりのきもちよさに思わず声が漏れてしまう。そのきもちよさについ、彼女のお尻に置いた手を離してしまいそうになる。しかし、彼女の柔らかさを堪能したいという自分の欲求が露わとなるかのごとく、指先から手のひらまで使って揉みしだく。
 人間の胸でも揉んでいるかのような柔らかさに加えて、もふもふとした感触もあるため肌触りとしては最高だった。夏場は暑苦しいからあんまり触りたくないものの、冬場だったらずっと触っていられるくらいだ。また、彼女は安産型なのかお尻が大きめだから、指の先まで使っても揉みきれない。
「ああっ、もうっ、そんなお尻ばっか触って……」
 オレだって気にしてるんだよ? と照れながら口にするものだから本当かよっと突っ込みを入れたくなる。本当に気にしていたらいつも部屋でだらだら過ごさないで少しは引き締めるべく身体を動かすだろうに。それでもしない、ずぼらな彼女なものだからお腹にもだらしない肉が付いている。
「ひゃあっ!」
 お尻に置いていた片方の手をお腹へと持っていき、そして下っ腹を触る。すると案の定、贅肉があって弾力のある触り心地であった。
「こらっ、お腹まで触るなーっ!」
 お尻を触られるよりもよっぽど恥ずかしいのか、彼女は俺に怒鳴りつける。しかし、俺は彼女の言葉を無視しながら、もみもみと柔らかなお腹を揉みしだく。お尻にお腹、肉が付きやすい箇所に揉める程の贅肉があるとはこれはもう確信に迫る。
 ちょっとは運動したらどうなんだ、と俺は口にしようと思ったが、言わずに呑んだ。今の彼女に言ったらどんな返しをされるかだなんて明白だからである。じゃあオレの運動に付き合ってよ、そう言って上下運動に俺の身体を酷使すれるのが目に見えている。
 しかし、この柔らかさが癖になるのも事実な訳で。夏場じゃなくて冬場だったら、俺はずっと抱き枕にするかのごとく彼女に抱き着いていられるであろう。まあ今は暑苦しい時期だから御免であるが。
 彼女の贅肉を揉んでいるからか、彼女の頬がぷうっと風船のように膨れてくる。これはこれで面白いというのが本音であった。つい先程まで俺を焦らしてきた罰だ。
「ああ、もうっ、そっちがそんなに揉んでくるならこうだからね」
 しかし、やられっぱなしなのは彼女にとって気に食わないらしい。俺に一矢報いるべく、彼女が反撃に出てくる。
「え、いや、ちょっと、ま」
 しかし、それは俺にとっては断然良くなかった。彼女が前のめりになったかと思えば、体重に任せてそのまま倒れてくる。いくら彼女のお腹に手を置いているとはいえ、受け止められる訳がない。
「ぐ、ふ」
 いくら彼女のお腹がクッション並みに柔らかくとも、体重を掛けられたとなると窒息死しそうだった。
「これなら密着し過ぎてまともにお腹が触れないだろ?」
 いや、横っ腹に触ることぐらいは出来るから爪が甘いとしか言いようにない。まあ彼女は爪を持たないポケモンだから甘いも何もないが。
 あくまでも俺が彼女のお腹を触れないのは、触る気力を失ったからだ。彼女に思いっきりのしかかられて肉で身体を潰されているとなると苦しすぎる。
 なのに彼女ときたら、そのまま俺の口を奪ってくる。お腹を圧迫されているのもあり、鼻だけで呼吸するのが辛かった。陸の上だと言うのに呼吸がまともにできず、溺れているような錯覚に陥る。
「ぅっ、んぅっ……」
 上と下、ふたつでもって繋がる事となる。床に投げ出された俺の手に、彼女は自分の手を重ねてくる。自分と彼女の境目が無くなるくらいに密着されているとなると、あつくて仕方がなかった。実際、汗は滝のように流れてくるし、彼女の中は中で肉棒が溶けてなくなってしまいそうだった。それでもまだ俺の肉棒は残っているようで、彼女が腰を動かす度に快感が走る。
 しかし、彼女が身体を跳ねれば跳ねるほど、俺の肉棒は限界へと近づいていく。下腹部の辺りは汗なのか愛液なのか、はたまた我慢汁なのか区別が付かない程に湿っている。
「オレにちょうだいっ……あついのたくさんっ……」
 彼女の乱暴ながらも巧みな腰遣いに、俺は追い詰められていく。追い詰められると言っても我慢することなんてないのだが。
 彼女の腰を振る速さが段々とエスカレートしていく。さっさと出せと言わんばかりにだ。無論、今の俺には抵抗する力なんてものはなく、ましてや我慢する気もないため、身体に走る快感に身を任せる。
 そして俺は彼女の中で果てた。その瞬間に、自分でも可笑しいと分かるくらいに身体が震える。決して寒い訳ではなく、汗ばむくらいにあついのにも拘らず。
 彼女の肉壁に締めつけられて、俺の肉棒は搾り取られていく。溢れてくる精液を一滴たりとも残さぬようにと。びゅる、びゅるるっと自分でも感じる程の永い射精。彼女の方はといえば、恍惚とした表情で俺から放たれる精を感じ取っていた。
「はっ……はぁ……」
 特に自分から動いていないのにも拘わらず、俺は既に虫の息だった。荒い息遣いで絶頂の余韻に浸っていると、身体には疲れがどっと襲いかかってくる。それも、指先一本すら動かすのも億劫になるくらいであった。
「ふー……ふーんっ……」
 彼女の方も疲れたのか、息を漏らすだけで微動だにしなかった。それでも、流石は炎タイプといったところか、俺の身体は全身が汗まみれであるのに対して、彼女は汗ひとつすらかいてなかった。
「フフ、あついのがいっぱいだぁ……」
 自分の中が俺の精液で満たされたのがそんなに嬉しいのか、彼女が満足げにそう言う。そうして、彼女が腰を少し浮かすと、彼女の蜜壺からどろっとした液体が溢れ落ちていく。また、絶頂を迎えてすっかり萎縮した肉棒が、彼女の蜜壺から抜け落ちてきた。
 自分の身体の上には彼女と言う名の熱源があるものの、このまま瞼を閉じて眠ってしまいたかった。それくらいに俺は疲れからか眠気で満たされていた。ゆっくりと瞼を閉じて意識は夢の彼方へ、と思った矢先に彼女が俺の首筋をぺろりと舐める。思わず俺の睡魔が飛んでいくとともに、びくっと身体を震わせた。そんな俺の反応が面白いのか、彼女は俺の汗を舌で拭いつつぺろぺろと舐めてくる。
「ば、ばくふーんっ、やめっ……」
 くすぐったいどころではない。おまけに汗を舐めるだなんて汚いのにも程がある。それでも彼女は厭わずに舌を動かす。首元が彼女の唾液でべったりと湿ったところで漸く、解放してくれた。
「フフン、オレのお腹やお尻を散々弄ったお返しだよ」
 触るなと口にした彼女の言葉に聞く耳を持たずに弄った俺も俺なので、反論は出来なかった。そして、彼女は見かけによらず結構根に持つ性格だったと後悔する。
「もういっかいできそうだなあ?」
 そう言って、彼女は俺の肉棒に自身の身体を擦り付けては様子を見てくる。一度果てて萎え始めていた筈の肉棒であったが、刺激されたことによりみるみるうちに硬さを取り戻していく。しかし、ただでさえ汗はだくだくで喉もからからに乾ききっている。なので、これ以上彼女と営みをしたら脱水症状か何かで死線を越える羽目になる。
「むりだって……。それに、いますぐにみずを……」
 水を飲ませてくれ、と言おうとしたのだが、そうすることすらままならなかった。水の代わりとして口にしたのはどろっとした彼女の唾液であった。無論、俺を逃すまいとがっちりと抱き締めながら。
 あといっかいで終わるのか、いや終わる訳がないだろう。
 次の瞬間には、俺の肉棒が彼女の肉壁に包まれるとともに、彼女が激しく腰を振り始めてきた。故に、頭の片隅でそんな事を考える余裕もなくなっていた。いや考えられるどころではない。熱さで意識も朦朧としていたため、意識がぶっつりと途切れてしまっていた。結局、俺が最後に見た光景としては、彼女が陶酔しきった表情を浮かべているところだった。

 ハグの日――いや、バクの日を終えた次の日、ご満悦な彼女とは打って変わって、俺は死んだように燃え尽きていたのは言うまでもない。


何かあればお気軽にどうぞ。


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Last-modified: 2013-01-08 (火) 00:00:00
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