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ジェルパドレンズ

/ジェルパドレンズ

★ェ★ 


 宙を裂いて飛び散った星形の光がバチッ!! と音を立てて転がった瞬間、眼前の風景が翻る。
 輝き落ちる光の粒子がカーテンのように開き、ひとりの人影が像を成してそこに現れた。
 長い黒髪を背中でまとめ、濃いピンク色のカノチェ帽を被った女性。まさしく我が敬愛するトレーナー、ポムさんである。
 切り分けられた景色の中にその姿を見失ったのはついさっきのことだったのに、いつもよりずっと早く巡り会えたというのに、何故だかまるで千年は再会を待ちこがれたかのような感情が、いつも以上に募って感じられた。
「捕まえたよ、富士。これで全員だねっ!」
 両腕を広げて抱きつき、水色の腹に顔を埋めてきたポムさんの愛撫に身を委ねつつ、私は伸ばした首を公園の時計塔に向けて、表示を確かめた。
「お、新記録を達成したんじゃないのか?」
 顎を吹き抜けた問いに、顔を離して見上げてきたポムさんは、拳を突き上げて会心の笑みを華やがせた。



★ル★ [#2hIZQ6B] 


「私はジョウト地方の出身なのだが、あちこち渡り巡った末に去年この地方にやってきたんだよ。今のトレーナーさんと旅を始めてそろそろ丁度丸一年目になるかな。種族の関係上差し障りがあるとかでバトル大会には出場させて貰えないのだが、トレーナーさんを乗せて運んだり、今やっているように若手ポケモンの育成を手伝ったりと色々任せて貰っているんだ」
「へぇ~、あなた程のポケモンを便利使いするだなんて、随分とまぁリッチなトレーナーさんもいたもんだねぇ」
 輝きの中にクリクリと碧い目を躍らせて、しかしプクリンは眉をひそめて怪訝に傾かせた。
「……ん? でも、『今やっているように』って、トレーナーさんや他のポケモンたちはどこにいるの?」
 困惑しながらキョロキョロと辺りを見渡すプクリンに、私は尋ねを返す。
「君はこの辺の仔だろう? この公園がどういうことをする場所なのかは知らないのかい?」
「知ってるよ! 日が暮れた後、カップルのポケモンたちが草むらで、」
「いやすまない。そこじゃないんだ。そういうことではなくて……」
 苦笑しつつ、私は白銀の翼を大きく広げ、虚空から降り注ぎ続けている光の粒子を指し示した。
「君が追いかけていた、この光がどういうものなのかは?」
「うん。ここじゃ毎日、色んなキラキラが降ってくるんだよ! この小さなお星さまだけじゃなくって、木の側だと赤や黄色の花びらの形をした光が降ってきたりするし、原っぱだったら綿毛、水辺ならシャボン玉みたいな形をしたキラキラがたくさん漂ってきてすっごく綺麗なの! それに、時々大きなお星さまがバチッ! って転がったりもするし……あっ!?」
 またひと際大きな星形の閃光が、木々の間に大きく広がった。
「あれだよ見た見た!? もう面白くって、いつもついつい追いかけ回しちゃうから、気が付いたらいつの間にかとんでもない場所にいたりするんだよっ!! ……でも、どうしてこんなキラキラやお星さまが出てくるのかは知らないや」
 なるほど。現象は知っていても原因までは分からないということか。トレーナーたちの事情を知らない仔なら、むしろ自然な話ではあろう。
「そうかい。では教えてあげよう。私たちが何をしていたのか、この光が何であるのか、をね」
 ククッ、と長い喉を鳴らして、私は答えた。



★ン★ 

  
 色の違うふたつの生地が、大きな釜の中で灼熱に炙られる。
 一方は、ゴスの実で作られたジャムを混ぜられた淡いピンク色の生地。
 もう一方は、オッカの種を挽き潰して作った粉を混ぜられた、黒みがかった褐色の生地。
 ふんわりふっくら、型から溢れ出るほど柔らかく盛り上がった生地たちに、様々な盛りつけが施される。
 ピンクの生地には、マゴの実のシロップを練り込んだ艶々しいピンクのクリームがかけられ、薄くスライスされたモモンの蜜煮(コンポート)が、チェリムの花に見立てて幾重にも飾り付けられた。
 褐色の生地には、フィラの実のペーストを練り込んだ純白のクリームが新雪に見立ててかけられ、星形に固められたチョコレートと雪だるまやステッキを模した砂糖菓子(シュガーオーナメント)が飾り付けられた。
 春の甘味と、冬の辛味。それぞれを極めたふたつの菓子。
 伝説の称号を得た者にのみ与えられる、それは勝者への褒賞だった。



★ズ★ 


 乱れに乱れた視界の彼方で、バチッ! と星形の閃光が弾ける。
 公園を囲む並木の列が、光の向こうに現れた。
 どうやら、順調に進み出せたようだ。取り敢えず、転がった光を目印に立ち上がる。
 ふと、翼の上をハラリと転がるひと粒の光に気が付いた。
 見上げると、キラキラと瞬く光の粒子が、空の彼方から風に乗って無数に舞い落ちてくる。
 北の山奥で稀に見られる細氷(ダイヤモンドダスト)を思わせる、しかし羽根を凍えさせることのない穏やかな光の乱舞。
「今回の趣向は、『降り注ぐ星屑』か……悪くはないな」
 降り注ぐ輝きを全身に浴びながらひとりごちた、丁度その時。
「うわぁい、今日もキラキラが一杯だなぁ!!」
 近くの茂みがガサリと揺れて、飛び出した影が柔らかく跳ねた。
 全身、ポムさんの帽子よりも淡い薄桃色。モッチリと下膨れな体型をしたそのプクリンは、空を見上げて落ちてくる光を眺め回していたが、
「……ん!?」
 やがて、私と視線が重なった。
「……………………」
 目一杯開かれた碧い円らな視線が、ゆっくりと私の首を下りて胸元に到り、また顔へと登る。
 カチコチに硬直してしまったプクリンが、長く大きな耳をピンッと立ててこちらに向けていたので、私は、
「やぁ、こんにちは!!」
 極力優しさを込めた挨拶を、その耳に届けた。
「……っ!? うわああああああっ!?」
 まさしく仰天したプクリンの口から、絶叫が破裂音を発てる。
「な、なっ、何これ!? 本物だ、本物の伝説ポケモンさんだぁっ!? 凄い凄い! ボク初めて見ちゃった!!」
 その悲鳴は、けれど恐怖ではなく好奇に富んだものだった。
 ならばいい。通りすがりのポケモンをこんな風に巻き込んでしまうのはよくあることだ。驚かれるのはとっくに慣れている。怖がらせなかったなら幸いと言うものだ。
「ねぇねぇねぇ! どどどどうしてこんな街中の公園に、あなたみたいなすっごいポケモンがやってきたの!?」
 物怖じしない性格なのだろう。興奮にどもりながらも、プクリンは懐っこく問いかけてきた。
 珍しい反応にこちらが驚かされた。出会うなり逃げ出さなかった場合でも、遠巻きに眺めているだけなのが普通だというのに。
「……こう見えてもトレーナー付きのポケモンでね。今も仕事の最中だったんだ。良かったら、少し話をしていくかい?」
 怯えられがちな私にとって、身内以外と談話するなどそれこそ貴重な体験だ。全力で五つ星を狙うよう指示されてはいたが、しばし忘れておくことにして、私は上げていた腰を再び落ち着けた。



★ジ★ 


「……今のは?」
「うちのトレーナーさんの声だ。どうやらバニプッチの方と合流した……というか、捕まえたようだね。バニプッチのパスチラちゃんは結構イタズラ好きなお転婆娘でね。今度は一体何をやらかしたのやら。ハハハ……」
 乾いた声で笑いながらプクリンに説明しているうちに、またポムさんの声が星の向こうから聞こえた。
「いたいた! ほら、起きなさいブルドロ!!」
「……ペロッパフの方も見つけたようだ。イタズラだのされた割には結構早いな? これなら五つ星も達成できそうだよ」
「…………あの、今なんか昼寝してたみたいだけど?」
 ツッコみどころを見逃してくれなかったプクリンに対し、私はまた苦笑いで答えるしかなかった。
「ハハハハ、お恥ずかしい。始める前はどちらの仔も、結構気合いの入った様子だったんだがね。まぁ、まだまだ仔供だから仕方がないよ」
 言いつけを破ってサボっているのは私も同様なのだが、それはまぁ、棚に上げておくことにしよう。
「さて……と、そろそろか」
 高く掲げた首を巡らせ、綺羅星が降りしきる公園の様子を確かめると、私は立ち上がってまだ景色が激しく入り組んでいる方角に身を向ける。
 さして待つこともなく、その時は訪れた。



★パ★ 


「さぁみんな、張り切っていくわよ!!」
 公園の広場を吹き抜ける風に、先端で束ねた長い黒髪を踊らせて、我がトレーナーであるポムさんが威勢良く声を張り上げる。
「今日は全力で五つ星を狙うわよ! 首尾良く『レジェンド』の称号を獲得したら、とびっきりのフルデコポフレを食べさせてあげるから頑張ってね!!」
「は~い!!」
 檄に応えるあどけない声が、私の双翼それぞれの下で弾んだ。
 右翼の下には、全身をふわりと包む薄桃色の綿毛の中から、真紅の双眸と舌を覗かせるペロッパフの雄の仔。
 左翼の下には、青白く透き通った円筒形の胴の上に、汚れない新雪に覆われた頭部を乗せたバニプッチの雌の仔。
 元気いっぱいの2頭を左右に従えて、しかし私はポムさんの様子に引っかかるものを感じて長い首を軽く傾げた。
「何だか今日はやけに気合いが入っているな? いつもは『遊びなんだから、みんなは星の数なんか気にせずに気軽に楽しんでね』と言っているのに……?」
 そう言って育てる仔たちを余計な緊張から解放しつつ、自身だけは成果向上に全力を尽くす――それが普段のポムさんの姿勢だったはずである。私もそんな彼女を高く評価していたのだが。
「あら、期待できるポケモンにより多くを求めるのは、トレーナーとして当たり前じゃないかしら?」
 一般論ではぐらかされてしまった。明らかに何か含んでる様子ではあったが、どんなにエスパー能力を駆使して眼下のポムさんを見通そうとしても、目深に被ったピンクのカノチェ帽に隠された表情は窺えそうになかった。
「それじゃ、始めるとしましょうか。ブルドロ、パスチラ、富士(フジ)、準備はいい?」
「うんっ!」
「いつでもいーよー!」
 意気揚々とした仔供たちに続いて、私も静かに頷く。疑念は尽きないが、今詮索しても仕方がない。ゲームが終わってもまだ様子がおかしかったら、また問いただせばいいだけのことだ。
 広場の隅に据えられた、小さな石碑に埋め込まれているボタンに、ポムさんのたおやかな腕が伸びる。
「開始っ!!」
 繊細な指先が踊った瞬間。
 周囲の景色に、縦横の亀裂が走った。
 賽の目状に切り裂かれた空間が、目まぐるしく入れ替わる。
 正面にいたポムさんの姿も、左右にいたペロッパフのブルドロと、バニプッチのパスチラたちの姿も、モザイク模様の世界に紛れて消えていく。
 やがて空間の動きがひとまず収まり、変わり果てた光景の中で私はひとり佇んでいた。



 ※装置の影響で時空が歪んでおります。
 時系列を追いたい人は、章タイトルを並び替えて正しい称号を完成させてください。



★レ★ [#93w0Rfg] 


「つまり私たちは、ちょっとした迷路ゲームに挑戦しているところなんだよ」
「迷路? だって、それっぽい壁とか道とかここには見当たらないよ?」
 ますます不思議そうな顔になったプクリンが見渡す広場に、私は開いた翼を差し向ける。
「この公園にはね、周囲の空間を切り分けてバラバラに入れ替える装置が仕掛けられているんだ。トリックルームみたいなものかな。君がここで遊ぶと、いつの間にかとんでもないところにいたりするのもそのためだよ。降ってくる光の粒は、装置が発動していることを示すもの。そして、時々飛び出す大きな星は、」
 言った側からまた、ピカッと大きな星が閃いて、その軌跡に広場の噴水を映し出した。
「あれは、トレーナーさんが装置を動かして、入れ替わった空間を元に戻した時に出る光なんだよ。ああやって空間を組み直しながら、公園内に散らばった私たちと合流するのがこのゲームのルールだ。こういった遊びの中でトレーナーさんとの絆を育むのも、若い仔たちにとっては大切な修行だからね」
 ふ~ん、と解った様な解ってない様な顔をしているプクリンに、しかもね、と私は説明を続ける。
「ゲームを短時間でクリアすると、装置から称号のついたチケットが出てくる仕組みになっていてね。ポケモンセンターに持って行くと、ポフレと交換して貰えるんだよ」
「ポフレって、あのふんわりとしたケーキだよね? ボク、クリームがたっぷり乗ったのをお裾分けに貰ったことがあるよ。美味しかったなぁ!!」
「ハハハ、ゲームで高得点を出せば、クリームだけじゃなくドライフルーツやチョコレート、砂糖菓子の飾りなどがトッピングされたポフレが貰えるぞ」
「うわぁ~、めっちゃ食べたいなぁ! やっぱり凄く美味しいんだよね!?」
「味ももちろんだが、カラフルな彩りで盛り付けられたポフレは見るだけでも楽しめるよ。特に公園の各アトラクションで最高得点の五つ星を出すと貰える、春夏秋冬を表した4種のフルデコポフレは食べるのがもったいなくなるほどに美しいものだ。もっとも、育成する若い仔に優先して良いポフレを食べさせているから、私自身はフルデコポフレの味は知らないんだけどね」
「えぇ~、一緒に参加して同じ様に頑張ってるのに、あなただけ貰えないなんてそれちょっと可哀想……」
「ハハ、ありがとう。でも構わないんだよ。私にとっても弟妹も同然の可愛い仔たちを育てるためなんだからね。私の身体をごらん。銀と水色にくっきりと塗り分けられたこの大きな身体は、バラバラになった空間の中でも見つけやすい目印になるんだそうだ。若手のポケモンたちは大抵小さな身体をしているから、彼らだけを見つけ出そうとするとこのゲームは大変になってしまうが、私が加わることで難易度を格段に下げられる。こんな形でもみんなの役に立っていることを、私はそれだけでとても幸せに感じているよ」
 釈然としない表情で、私のために唇を尖らせてくれているプクリンを宥めるように、私は更に付け加える。
「ここで出会ったのも何かの縁だ。ゲームが終わった後も是非一緒においで。さすがにフルデコポフレはあげられないが、リッチポフレやプチデコポフレならご馳走してあげよう」
「ほんと!? わぁい、やったぁ!!」
 現金なもので、曇り気味だったプクリンの表情がぱぁっと日本晴れに輝いた。あんまり嬉しそうなので、見ているこちらも頬を緩ませてしまう。
「ねぇ、ところで、一緒に参加している仔たちってどんなポケモンなの?」
「今回はペロッパフの雄の仔と、バニプッチの雌の仔だ」
「……なんだかポフレより美味しそうな組み合わせだね?」
 君もね、とプクリンの大福餅を思わせる身体から連想した冗談が喉元までせり上がってきたが、すんでのところで飲み込んだ。私がうっかりそんなことを口走ろうものなら、絶対冗談として聞いて貰えまい。エアロブラストの一撃となって、せっかく芽生えかけている友情を吹き飛ばしてしまうことだろう。
 堪えきれず漏れた含み笑いに、プクリンがキョトンと首を傾げた時、バチッと広がる星形の光と共に、彼方からポムさんの声が響いてきた。
「見つけた……ってちょ、ちょっとパスチラ!? あんたどさくさに紛れて何をやってたのよ!?」



★ド★ 


 黄金の5つの星が並ぶ下に、『レジェンド』の称号が燦然と輝くチケット。
 迷路ゲームの好成績により入手したそれを、ポムさんはポケモンセンターに差し出して春冬のフルデコポフレを含む高級ポフレセットに代えてきた。
 早速公園のテーブルに並べてのオープンパーティ。ゲストとして招いたプクリンには、イアの実の果汁で橙色に染められた生地にクリームを盛り、上に櫛切りにしたオボンのドライフルーツを一枚トッピングしたプチデコサワーポフレを分けてあげることにした。
「ありがとう! うわぁ、こんな美味しそうなポフレを食べるのは初めてだよ!!」
 大はしゃぎで感激していたプクリンだったが、意外にも即差に口をつけようとはしなかった。お裾分けされたことは以前にもあったと言っていたし、ゲストとしての行儀は弁えているのだろう。
 さて、ならば早く主賓の皿を決めなければならないが、フルデコ春ポフレと冬ポフレ、ブルドロとパスチラのどちらにどちらを出すことになるのだろうか?
 見た目から言えば、ピンク色のペロッパフであるブルドロに春ポフレ、氷ポケモンのバニプッチであるパスチラに冬ポフレが似合うが、冬ポフレはオッカやフィラを使ったスパイシーポフレ。パスチラは辛いのが苦手だし、逆にブルドロは辛味が大好物だし、やはり見た目と逆の組み合わせになるか……
 そんなことを考えているうちに、ポムさんはふたつのフルデコポフレの皿に同時に手を伸ばして、
「はい、どうぞ」
 と、ふたつ揃えて、ブルドロもパスチラもいない方向に差し出した。
「これはあなたのものよ。召し上がれ」
 ……はて、彼女は一体、誰にフルデコポフレを差し出しているのだろうか?
 彼女が皿を差し出したところ……即ち、私と彼女との間に誰かいるのだろうか?
 見下ろしてみても誰もいないし、ならば私の背後にいるのかとも考えたけれど、だったら私をどかすか避けて通りそうなものだし。
 あらゆる可能性を潰して考えに考え、この状況から考えられる唯一にして明白な解答に行き当たるまで、全脳細胞のフル回転を必要とした。
「え……あの、つまり……私に?」
 長い喉から絞り出た、恥ずかしくなるほど狼狽えた私の問いに、ポムさんはさも当然の如く爽やかに頷いた。
「い、いやしかし、こういう良いポフレは育成中の仔に食べさせるものじゃ……!?」
「今回パスチラはゲーム中に悪さしてたし、ブルネロはお昼寝してサボっていたもの。ペナルティとして、フルデコは次回までお預けよ」
「いや、それを言うのなら私もだし、それにポフレで罰なんて与えたら、仔供たちが拗ねてしまうのでは……!?」
 強ばったままブルドロたちの方を向いて、私はようやく気がついた。
 拗ねるどころか、仔供たちが一様にニコニコと、いや、ニヤニヤとした含み笑いを浮かべていることに。
 あろう事かプクリンまでもが、である。そう言えば、ポムさんを待っている間、パスチラがプクリンに何やら耳打ちをしていたような……!?
「あ……さてはみんな、申し合わせていたな?」
「当ったり! ちなみにブルドロの昼寝もあたしのイタズラも、富士さんにポフレを渡す口実作りのお芝居だよん!!」
 道理で、みんなサボっていた割には記録を伸ばせたわけだ……と納得しかけたが、ポムさんとブルドロが同時に顔をしかめてパスチラを睨みつけたのを見て、あぁ、イタズラの方は素でやらかしたんだな、と察した。
「だが、一体何故、突然私にこんな……?」
「やっぱり、気付いてなかったのね」
 ヒメリ色の唇に妖しげな笑みを宿して、ポムさんは言った。

「丁度一年前の今日、あなたは私のところにやってきたのよ、富士。今日は私とあなたとの記念日なの」

「……そろそろかな、とは思っていたが、そうか、今日だったか…………」
 頬に籠もった熱を吐き出すように、深く深く溜息を吐く。
 だから、今日はあんなに全力で五つ星狙いと張り切っていたのか。すべてはこのサプライズを仕込むためだったわけだ。
「あなたが手伝ってくれだしてからというもの、大勢の仔たちを一人前にしてこれたわ。この場にいない仔たちも含めて、これは私のパーティみんなからの感謝の気持ちよ。受け取ってちょうだい、富士」
「良かったね、ルギアさん」
 屈託のない笑顔で祝福を送ってきたプクリンに、照れ混じりの頷きを返した。
 思えば、私はこれまで知らず知らずの内に、みんなを育てるためだから、それが私の仕事だから、と、遠慮や我慢を溜め込んでいたのかもしれない。
 けれど、だとしてもそれは報われた。心の底からそう思えたから。
「ありがとう、みんな。それでは、頂くとしよう」
 跪き、卓上へと首を下ろして、私はフルデコポフレにかぶりついた。
 初めに冬ポフレ。次に春ポフレ。
 冬の暖炉のような灼熱が香ばしく身体の奥に灯り、心地よい爽やかな春風に乗って全身に暖かく広がっていく。
「うん、美味い!!」
 捻りも何もない素直な感想がこぼれる。野暮な台詞などどれほど並べようと、溢れくる想いを表すには足りなかった。
 幸福感に満ちた私の顎下を、ポムさんはそっと撫でながら囁いた。
「こちらこそ、いつも本当にありがとう富士。これからもよろしくね!!」



 吉狸短小回編十大第会説加作参品
『タたカうラチの島の恋・編穣豊』
 ★ジェルパドレンズ★

  ▼

 ★ェルンズジパレド★

  ▼

 ★パズルレジェンド・完★


果ベルチェ結ノッカー 

【原稿用紙(20×20行)】 27(枚)
【総文字数】 8289(字)
【行数】 216(行)
【台詞:地の文】 41:58(%)|3470:4819(字)
【漢字:かな:カナ:他】 32:54:11:1(%)|2679:4512:957:141(字)


あきがと 


 見出しの段階でタイトルを読めた方はいらっしゃるんでしょうか? 今回は内容に合わせてまさかのアナグラムと捻りましたw ついでに副題から各項目に至るまでアナグラムにしてみましたが、副題の『カラタチ島の恋のうた』が大変物騒なことに……こんなネタバレが仕込まれていたとは、作者の僕自身気付きませんでした。(←おい?)

 ☆

 今回のテーマ『ほし』から作品を考えていた頃、アニメ『食戟のソーマ』のEDである『スノードロップ』という曲を聴いて、サビの歌詞から、『僕らしさ』や『僕にだけ作れるもの』についてふと見つめ直してみよう、と思い至ったのが着想の発端でした。
『ゲーム内要素の利用』と『パズルめいた物語作り』。僕らしさと言えばそんな感じでしょうか……と考えたところで、閃いたのです。
 ぱったんパズル。
 僕たちは、それらポケパルレのミニゲームにおいて、『★』の数に挑み続けてきたじゃありませんか!?
 しかもぱったんパズルの場合、背景のエフェクト、操作エフェクト、更には報酬であるフルデコ冬ポフレのデコレーションに至るまで★だらけ。僕らしさを追求した果てにテーマがあったわけで、これはもうぱったんパズルをノベライズ考察するしかないだろうとw
 で、更に僕らしさを追求した結果、いっそ小説そのものをパズル化してしまえということに。「←いや、その発想はおかしいw」と言われるかもしれませんが、『くろいまなざし』や『デコボコ山道の眠れぬ一夜』など、文章そのものに仕掛けを施すのは僕の原点ですw

 ☆

 富士の名前は、ルギア→シルバー→シロガネ→富士山の連想から。フジ老人との名前被りは気にしないことにしました。向こうは多分『藤』でしょうし。
 ちなみにルギアがぱったんパズルで強いのは割とマジです。センターに立たせると、シンプルなツートンカラーの身体が画面中央のピースを多く占めるので揃えやすいのです。僕の初パズルレジェンドもルギアで取ったということで、僕の作品としては珍しく伝説ポケモン主人公として抜擢しました。

ぱったんパズル・ルギア000.jpg

(見ての通り、中央4ピースと上左右に分かりやすい特徴が出ている)

ぱったんパズル・ルギア003.jpg

(上記より少し前、ややアップの図。より多くのピースを占め、非常に分かりやすい)

ぱったんパズル・ルギア002.jpg

(ドアップ。やはりシンプルで分かりやすい。そして凛々しい)

 ポフレが『ほし』ネタに入っていたので、他の参加ポケモンはお菓子系にしようと考えたところ、丁度ゲームで作ったポケモンにペロリーム♂のブルドロがいまして。ブルドロはリンゴを丸ごとパイで包んで焼いたお菓子の名前で、リンゴの品種に『ふじ』もありますので、どうせならと全員リンゴ繋がりの名前にしました。ポムはフランス語でそのまんまリンゴの意味。パスチラはロシアのお菓子で、リンゴを練り込んで焼いたマシュマロのようなものだそうです。
 プクリンはぱったんパズルで通りすがるポケモンの中から、一番美味しそうな仔として選びましたwww

ぱったんパズル・プクリン.jpg

票投投票時に頂いたコメントへのレス(アナグラム自重) 


>>2016/09/18(日) 21:15さん
>>ポフレ食べてみたいー
 報酬のポフレも大切な★テーマのひとつでしたので、実際のスフレケーキのレシピを見ながら再現にこだわりました。お求め頂きありがとうございますw

>>2016/09/23(金) 08:21さん
>>タイトルでどこの言葉なんだろうと考えてましたが、なるほど。富士達に負けない遊び心をお持ちですね。
 アナグラムのコツは、並び替えた後も意味のある言葉のように見せかけること。広角レンズかフォーカスレンズの別名と思い込み、ジェルパドの意味を一生懸命検索した人もいたのではないかとほくそ笑んでおりますwww

>>読んでて、なんだかほっこりしました。るぎゃ可愛い。
 前回の仮面小説大会参加作品が、あまりにも陰鬱な内容だったので、『次はもっと幸せな作品を届けられるように』というのが目標でもありました。おかげさまでどうにか達成できました。投票ありがとうございます!

>>2016/09/24(土) 03:08さん
>>読み始めは不明な主人公の種族、物語の内容、小説の仕掛けが次第に分かってくるよう、章立てを考え優しく作られているところがすごいです。順番を整理して再度読み直しても面白い、短編だからこその工夫が凝らされていてとても楽しめました。
 まさしくご推察の通り、最初に時系列通り描いた後、伏線となる箇所を前に、答えとなる箇所を後になるよう工夫して並べ直すという手法を取っています。
 
>>公園ではしゃぐルギアさんを想像したらあら可愛い。お菓子みたいな子供たちとテーブルを囲む彼がポフレと間違えてパクリといかないか心配でしたけれど。
 伝ポケって以外と可愛いですよねw
 参加した仔供たちの美味しそうな見栄えも、お祝いの一環だったと言うことでw 投票ありがとうございました!

>>2016/09/24(土) 21:47さん
>>まさかのぱったんパズルw
>>しかし、色々な意味で「ほし」にピッタリの作品ですね!
 ぱったんパズルは3つのミニゲームの中では苦手な方ですが、同時に一番好きなミニゲームでもあります。3つの中で一番ポケモンそのものと向き合うゲームだからです。その思い入れのあるゲームにテーマの星が多数あると気付いたときは、文字通り光明を見た想いでしたよ。

>>ぱったんパズルの文章での表現が非常に上手かったですし、章までシャッフルするという発想がかなりステキでした。
>>大変楽しませていただきました。本当にありがとうございました!
 初心に立ち返って久しぶりに目一杯遊んで描きましたw こちらこそ、お付き合いいただきありがとうございます!

>>2016/09/24(土) 23:34さん
>>最初こそなんだこれは……ってなりましたが、読み進めていくうちに謎が解けました。
>>あのミニゲームで小説が書けるとはまさか思ってもみませんでした。いやはや脱帽です。流石ですね(
 ポケスペXY編のポケパルレ回でもぱったんパズルだけは触れられなかったぐらいで考察は難題でしたが、工夫に捻りを加えて描き上げました。評価頂きありがとうございます!

 皆様の応援のおかげで、Wiki大会通算7度目の優勝&第二回からの短編小説大会連続表彰台記録更新を成し遂げることができました。*1改めて本当にありがとうございます。これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします!!


トン帳メコ 

・ポム「それじゃ、この後はお楽しみのスキンシップタイムって事で。富士、お願いね」
・富士「わかった。行き先はいつもの通り、アサメタウンのお隣さんの2階だな」
・カルム「来るなあぁぁぁぁ~っ!?」

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*1 なお、何故か実に4度目の同点優勝であるw

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Last-modified: 2016-12-03 (土) 23:37:43
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