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おかん襲来

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おかん襲来 

好きすぎて・・・好きすぎて・・・2それぞれの愛のカタチの続きの・・・
続きと言うより・・・続きでいいかな。
エロいシーンはない・・・予定。結構短いと思う。
青浪


10秒でわかるキャラ紹介

グラエナ・・・エーフィの恋人。エーフィの繰り出すエスパー技が苦手。

エーフィ・・・グラエナの恋人。グラエナのことが大好き。



「あっつ・・・暑いわぁ・・・」
ふらふらと優しいクリーム色の肢体をふらつかせる1匹のリーフィア。もう限界と言わんばかりに、1つの建物の前にたどり着く。
「ここだったっけ・・・もう・・・だめ・・・」
異常なまでにバクバクと高鳴る鼓動。荒くなっていく呼吸。身体を汗でぐっしょりと濡らせて、意識が遠のいていくのを感じる。
ふと目の前に1匹のグレーと黒の毛並みを持ったポケモンが目に入った。なんとか助けを求めようとするそのリーフィア。
「あのっ・・・」
「はい?」
出るだけの声を出したリーフィア。気付くかなと思ったけれど、そのグラエナはしっかりと気付いてくれた。安堵するリーフィア。
「大丈夫ですか!?」
そのグラエナはふらふらの肢体に気付いて、優しくリーフィアの身体を支える。
「だ・・・だいじょうぶ・・・」
「涼しいところ行きましょうか?」
グラエナは必死に呼びかけて、その建物の中にリーフィアを連れて入る。リーフィアの意識はますます遠のいていった。


数時間前・・・
「うわぁぁん・・・こんなの絶対片付かないよぉ・・・」
散らかった部屋に絶望するエーフィ。つい数分前に電話があった。母親から、そっちに行くと。
エーフィは今日は早朝に数週間にわたって生活していたグラエナの部屋から久しぶりに自分の部屋に戻ってきて必要なものを整理するから、とグラエナの協力も取り付けて片づけをしようとしていた。
最後にこの部屋にエーフィが足を踏み入れたのは、夏休み前・・・グラエナに、エーフィの気持ちを受け入れてもらったその日、の朝、学校に行く前。
で、グラエナは部屋の片づけのために、必要な物の買い出しに出かけてくれた。その間に、エーフィは不要なものを分けといてね、とグラエナに言われたのだった。
「はやく帰ってきてよぉ・・・」
なにしろ足の踏み場もない。あちこちに今までの恋愛の本、読んだ小説などが積み重なっているからだ。恋愛の本って言っても、恋愛初心者のグラエナには、マニュアルってものがどうにも通用しなかった。
だから無用の長物。
部屋にはその他にもエーフィがいままでエスパーの力で散々荒してきたモノが散乱している。最後に荒したのは、エーフィがグラエナをプールに突き落とした日だ。
エーフィはその日、自己嫌悪と、グラエナに帰ろうと言っておきながら自分から帰るのを断ってしまったり、抑えきれない感情で、散々に部屋を荒して、散らかしていた。
「えいっ!」
サイコキネシスで不要な本を一気に積み上げて、せっせとひもで縛る。

コンコン・・・ドアをノックする音が聞こえたので、エーフィはドアを開ける。
「ぐらえなぁ!」
「お待たせ。」
玄関前でお座りをして、尻尾を振ってたグラエナはそう言うと部屋に入って、エーフィが縛った本を次々に部屋の前に運び出すと、綺麗に掃除していく。
「早く片付けて、のんびりしよう。」
エーフィは優しいグラエナに、自分の母親がここに来ることをなぜか打ち明けれない。恥ずかしいからなのかな・・・と少し悩む。
「えーふぃ?」
「あ・・・ごめん・・・」
手が止まっていたエーフィはグラエナに謝ると、床を埋め尽くしていたものをどんどん片付けていく。グラエナも特に注意したわけではなかったので、ごめん、と謝り返す。
「あれ?」
グラエナの前にふと1枚の写真が目に留まる。
「どしたの?」
「この写真・・・」
グラエナが気にした写真とは、1年くらい前に学校ので行った遠足の写真だ。その時はまだエーフィがグラエナに告白して1度断られる前だった。ヘルガーとブラッキーが仲良く写ってる写真に、笑顔のエーフィと・・・その隣にいる自分。
エーフィはいつの間にか飾っていたのだった。
「それね・・・グラエナが写ってたから・・・置いてたの。」
照れくさそうに言うエーフィ。今なら2匹仲良く写真に写れるのにね・・・と時の移り変わりを感じて呟くグラエナ。エーフィも嬉しそうに、うん、と頷く。
甘い時間が少し流れて、また2匹はせっせと片付け始める。床に広がっていた本も、写真も、なかなか片付かないが、それでも着々と部屋は綺麗になりつつあった。
エーフィは事あるごとに写真を眺めたり、グラエナとお話をしたり、そのたびに注意力散漫だなぁ・・・と自分で思っていた。

「ふぅ・・・3分の2くらいは終わったかな・・・」
グラエナの呟きに、エーフィも部屋を見回す。
「そぉだね・・・」
エーフィもグラエナもさっきから雑巾がけをしたり身体を動かしてたので、汗をかいていた。汗にまみれた紫の身体をふるふると震わせるエーフィ。
「さて・・・休憩しよっか・・・ゴミを持ち出したいし。エーフィ、これ終わって少ししたら、俺の部屋に来て。朝ご飯食べよう。もう10時半だから。」
「え・・・うん・・・」
会話から少し間を置くと、グラエナはゴミ袋の山を背中に乗っけて寮のゴミ捨て場に向かった。
「私に任せればいいのになぁ・・・」
不満げなエーフィはサイコキネシスでひょいひょいとゴミを運んだ。グラエナが2往復しないうちに、ゴミを全て運び出せた。

「はぁ・・・エーフィが羨ましいなぁ・・・」
寮の敷地の外にあるゴミ捨て場から昼ご飯を作るべく自分の部屋に戻る途中のグラエナ。汗びっしょりだ。
「あのっ・・・」
グラエナは声をかけられた気がして辺りをきょろきょろ探る。すると自分のすぐ後ろに、リーフィアがいたのに気付いた。
「はい?」
そのリーフィアは身体をふらふらと動かして、とっても辛そうだ。グラエナはあわててそのリーフィアの身体を支える。
「大丈夫ですか?」
息も絶え絶えなリーフィアは、その特徴であるはっぱみたいな尻尾を力なくくにゃっとまげていた。
「涼しいところ行きましょうか?」
グラエナの必死の呼びかけにも、弱々しく答えるリーフィアを見て、グラエナはあわてて寮に入る。
「あの!」
「はいはい?」
玄関にいつもいる守衛のデリバードが焦るグラエナに気付くと、不思議そうな眼をした。
「このリーフィアさん、体調が悪いみたいなんで・・・どこか涼しいところに・・・」
「えっ?ちょっと待って・・・グラエナくん、君の部屋で少し預かってもらえないか?」
デリバードはホントにごめんなさい、と言う感じの表情を浮かべてグラエナに承諾を求める。
「わかりました・・・」
「ごめんなぁ・・・すぐにラッキーさん呼ぶから。」
すぐに電話の受話器を取ったデリバード。すぐ来る、というのを聞いて、グラエナは少し安堵してそのリーフィアを自分の部屋に連れていく。

ガチャ・・・
ドアを開けたグラエナは優しくリーフィアを、ベッドに座らせる。
「ご・・・ごめんなさいね・・・」
申し訳なさそうな顔をするリーフィアに、いえいえ、と答えるグラエナ。熱中症かな?と思ったグラエナは、冷たい飲み物を出そうと、台所へ向かう。
「すぐ冷たいお茶を入れるんで・・・」
「あ・・・お気遣いなく・・・」
グラエナは冷蔵庫からお茶を出して、コップに注ぐと、リーフィアに差し出した。
「ありがと・・・ところであの・・・」
「はい?」
「寝てもいいかな?」
すこしづつフレンドリーな話し方になるリーフィアに、緊張がほぐされていくのを、グラエナは感じる。
「どうぞ。」
グラエナの返事を聞くと、リーフィアは笑顔でグラエナがここ最近ずっと、エーフィと寝ているベッドに身体を横たえた。
「氷枕、持ってきますんで・・・」
再び台所に向かったグラエナは、誰かに似てるなぁ・・・と心の奥底で思っていた。
「冷てっ・・・」
黒い前肢を冷凍庫に突っ込んだグラエナは、氷枕を触ったとたんに冷たくて、前肢を引っ込めてしまう。
実家から送られてきて以来、あんまり使ったことのない氷枕をどうにか取り出すと、グラエナはそれをタオルで巻いた。待たせないように、とグラエナはそれをベッドのリーフィアのところへ持っていった。
「ありがと・・・」
「いえいえ・・・もうすぐウチの学校の医務の先生が来てくださるんで・・・」
氷枕に頭を当て、落ち着いたリーフィアに、ほっと安心して優しい笑顔を浮かべたグラエナ。
「うむ・・・おいしい。飲んだことないけど・・・おいしいわ。」
さっきグラエナが注いだお茶をすすって、嬉しそうに感想をいうリーフィア。
「しっかし・・・若いモンでも捨てたもんじゃないわね・・・」
「へ?」
唐突におばさん口調になったリーフィアに戸惑うグラエナ。
「いや・・・ごめんね。ウチの娘もこの寮に住んでるんだけど・・・」
「そうなんですか・・・」
「あんたみたいな仔だったらいいんだけど・・・ウチの娘が変な♂をひっかけてなきゃいいんだけど。」
気の強そうなリーフィアの口調。グラエナがよく見ると、そのリーフィアの顔は、短い毛の下に歳相応の皺が走っている。
「きっとその仔もいい仔にしてると思いますけどね。」
リーフィアの独りごとに口をはさむグラエナ。それを聞いていたリーフィアもふふっと笑った。
「私も年かな・・・こんな優しい男の子に介抱されたなんて、天国のお父さんが聞いたら、きっとカンカンに怒るかしら。」
「えっ・・・」
「あぁ・・・ごめんね。私のところは母子家庭なの。やっと娘が学校に行ったと思ったら全寮制で・・・」
話が暗くてちょっとばかり落ち込むグラエナ。
「君のところは、ご両親は元気なの?」
リーフィアは、気にすることなくグラエナに質問をぶつける。
「いいえ・・・ウチは母親が・・・俺が5つの時に亡くなりました・・・」
「ありゃ・・・ごめんなさい・・・悪気はなかったんだけど・・・」
グラエナは首を2,3度横に振るけれど、お互い申し訳なくて、会話が終わってしまう。
「ウチの仔になる?」
唐突に口を開くリーフィア。びっくりしたグラエナは、少し身体が固まった。
「えっ?」
「ごめん・・・」
悪い冗談を言ったなぁ・・・と思ったリーフィアは、身体を起こして謝る。グラエナはまた首を2,3度横に振った。

ガンガン・・・
ドアをノックする音がグラエナの耳に入った。一目散にドアに向かうグラエナに、リーフィアはうとうとと少し眠そうにしていた。
ガチャ・・・グラエナがドアを開けると、その向こうには心配げな表情を浮かべるラッキーさんがいる。
「あっ、グラエナ君!」
「ラッキーさん!奥です!」
グラエナはやってきたラッキーさんをリーフィアの元まで案内した。
ラッキーさんはリーフィアのところにやってきて、慣れた手つきで聴診器を使ったり、脈をとったり血圧を測ったりする。
「ふむふむ・・・軽度の熱中症ですね・・・貧血もあるかと思いますので、しばらく安静にしててください。」
うとうとしているリーフィアに、ラッキーさんはとても落ち着いた声でそう言った。リーフィアもグラエナも頷く。
「にしても・・・グラエナ君・・・素晴らしいですね。熱中症の患者に、適切な処置を施せていると思いますよ。」
にこっとラッキーさんは笑う。褒められたグラエナも照れてうつむいた。
「ところで。」
急に重い口調で喋るラッキーさん。
「腕見せて。」
グラエナはラッキーさんの言うとおりに、前肢をラッキーさんに見せる。
「ほぉほぉ・・・」
いたって真剣なまなざしでじっとグラエナの前肢を見つめるラッキーさん。そして少し黒い毛並みを掻きわけて、まさぐる。グラエナは少し緊張した。
「ふむ・・・もうすっかり、毛の上からだと、全く傷が見えないね・・・よかった。」
ラッキーさんは嬉しそうにグラエナの頭を撫でる。この前の傷、と言ってももう1カ月以上経つが、それはすっかり目立たないようになっていた。
ぐるるるる~・・・安心したグラエナのお腹が不意に鳴る。
「ご飯・・・食べてないの?」
「ええ・・・はい。ちょっと掃除の手伝いをしてたので・・・朝ごはん、食べ損ねて・・・」
心配そうなラッキーさんだったけれど、グラエナの言葉を聞くと、途端にさっきまでの笑顔に戻った。グラエナは台所に向かう。

ギィィ・・・ドアがまた開いた。
「グラエナ~?」
エーフィの声だ。台所へ向かう途中だったグラエナはそのまま玄関に向かった。
「どしたのぐらえなぁ?」
「いろいろあってね・・・」
少し疲れた声を出すグラエナにエーフィは心配そうにグラエナの額に触れる。
「ちょっと台所行って、朝ごはん作るから。ラッキーさんとお話してて。」
グラエナはエーフィにそう言うと、また台所へ戻る。エーフィはいまいち事情を理解できないままベッドのある寝室へ向かった。
「あ。エーフィ。お久しぶり。」
「ラッキーさん!お久しぶりです!」
ラッキーさんは元気そうなエーフィの顔をみて、とっても嬉しそう。
「どしたんですか?ラッキーさんがグラエナの部屋に来るなんて・・・」
エーフィが聞いてみると、ラッキーさんはベッドの上に眠っているリーフィアの方を向いた。
「あ・・・」
「え?」
何かエーフィの様子がおかしいことに気付いたラッキーさんは、エーフィの顔を覗く。
「お母さん!」
「えーっ!」
ラッキーさんは驚いて声を上げるが、それ以上にエーフィは驚いた。まさかグラエナの部屋に自分の母親がいるとは・・・という驚きと、すっごく嬉しそうに自分の母親が眠っているという驚きとで。
「あのね・・・」
落ち着くように諭すラッキーさん。ついでに今までの事情もチョコチョコと喋っていく。エーフィは恥ずかしそうに、頬を赤らめている。
「でね・・・グラエナ君がここに連れてきて、処置をしてくれたんだよ。」
「はぁ・・・すみません・・・」
謝るエーフィにラッキーさんはいいの、とだけ言うとエーフィの母親のリーフィアの額を何度か触った。
「ん・・・あ・・・ごめんなさい・・・寝てました・・・すみません・・・ありがとうございます・・・」
リーフィアは目を覚まして、ラッキーさんに感謝の言葉を言う。
「あ・・・」
ふと、ラッキーさんの横にいる自分の娘に気付いたリーフィア。
「エーフィ?なんでここにいるわけ?」
「えっ・・・そっ・・・それは・・・」
しどろもどろになるエーフィ。久しぶりに会った、と言うのに2匹ともあまり嬉しそうじゃない。ラッキーさんはあわてて台所にグラエナを呼びに行く。
「い・・・いいじゃんか・・・別に・・・お母さんには関係ないじゃんか・・・」
「関係ない?よくそんなセリフが言えたねぇ。」
すでに泣きそうなエーフィは身体をプルプル震えさせて、母親のリーフィアをじっと見つめる。
「エーフィ?いい?あんたは早くいい旦那さんを見つけて結婚しなさい。そして私をはやく・・・」
どごぉぉぉ・・・
部屋に轟音が響き渡る。グラエナとラッキーさんはあわてて寝室に戻った。
「エーフィ?リーフィアさん!」
木造の部屋のはずなのに何故か砂埃が舞い散っている。
「トリックルーム?」
ラッキーさんが呟いた。砂埃が舞っているかと思いきや、ただでさえ狭い部屋の中でエーフィはトリックルームをしている。
「おーい・・・やめて・・・」
一応声だけで止めてみるグラエナ。
「お母さんなんて大っきらい!」
「小賢しい!あんたは私とお父さんの形見なんだから、口が裂けてもそんなことは言わせないわよ!」
やかましく怒鳴りあうエーフィとリーフィアさん。特殊な空間にいるはずなのに・・・声は丸聞こえ。意味なし。
「くぅっ!・・・いたたたっ・・・」
エーフィのサイコキネシスが、リーフィアさんの身体を痛めつける。
「やめろっ!エーフィ!」
聞こえるかわからなかったけれど、とにかく叫んでみるグラエナ。
「そんなもんなの!娘にしては不出来ね!」
そういうとリーフィアさんは余裕の笑みを浮かべる。
「くさむすび!」
「きゃぁっ!」
エーフィの四肢を、小さい蔓のようなものが拘束する。勢いでエーフィは身体を地面に打ち付けてしまった。
「やぁっ!やめてよっ!」
ギチギチとエーフィを縛る緑の蔓に力が入っていく。苦痛に表情をゆがませ、瞳を潤ませるエーフィは、当たるとも当たらずとも適当に技を繰り出す。
シャドーボールを繰り出したり、はかいこうせんを繰り出したりするが、リーフィアさんは余裕の笑みでそれをひょいひょい避けていく。その間にもエーフィは涙をぽろぽろ流している。
「やぁぁっ!おかあさんっ!!いたいっ!やめてっ!」
涙声で懇願するエーフィだったけれどリーフィアさんは止める気配を見せない。
「おしおきしなきゃね。」
リーフィアさんの嫌な笑みに気付いたグラエナはトリックルームの中に侵入しようとする。
「!」
ぐいっとグラエナの身体をラッキーさんが引っ張った。
「やめなよ!」
「行かなきゃ・・・」
グラエナの深刻そうな顔に気付いたのか、ラッキーさんはそれ以上止めようとはしない。
「エーフィ?悪い仔ね・・・」
リーフィアさんは一歩づつ、縛られて動けないエーフィに近づいていく。エーフィは自分で作り出したはずの空間で、大苦戦してしまう。
「やめてっ・・・」
「もう力がないの?じゃ、ゆっくり眠りなさい。リーフブレード!」
大きな剣のような鋭い緑のモノがエーフィの身体めがけて落ちてきた。もう避けるすべのないエーフィはじっと目を瞑っている。
「きゃ!」
ずごぉぉぉぉぉぉん・・・
鈍い音がトリックルーム内を覆う。それとともにエーフィは力が尽きてトリックルームを解除してしまった。
「ぐ・・・グラエナ?」
「だ、大丈夫かえーふぃ・・・」
攻撃はエーフィには当たらなかった。その代わり、まだ四肢を拘束されたままのエーフィの視界に、息を荒くして自分を見つめているグラエナが入っていた。
「か・・・庇ってくれたの?」
「ま・・・まぁね・・・はぁっ・・はぁっ・・・」

リーフィアさんはびっくりした。自分の持ち味であるリーフブレードをグラエナに当ててしまって・・・けれどグラエナが無事であることに。
「はぁ・・・ウチの娘も結構幸せみたいね。」
ポロリとリーフィアさんは本音を漏らした。そしてにっこりとほほ笑む。その視線の先には、エーフィを拘束している蔓をガジガジと齧って、蔓を切ろうとしているグラエナがいた。
「大丈夫?」
ラッキーさんはあわててグラエナのもとに駆け寄る。
「大丈夫です。」
はっきりと答えるグラエナ。
「・・・大丈夫じゃなさそうじゃんか。」
蔓が切れて、しびれから四肢を震わせているエーフィがグラエナの身体を掴む。エーフィは眠そうに、グラエナを虚ろな瞳で見つめている。
「も・・・だめっ・・・」
身体をふらつかせるエーフィを支えるグラエナ。
「少し眠りなよ。」
「うん・・・そぉする・・・ふぁぁ・・・」
エーフィは上手く動かない身体をグラエナに乗せてもらって、ベッドに上ることができた。
「ありがとぉ・・・ぐらえなぁ・・・」
「いいの、エーフィ。」
エーフィはニコニコしたままベッドに身体を横たえた。

「グラエナくん?」
リーフィアさんはグラエナを呼ぶ。
「はい。」
グラエナもそれに応える。
「ごめんね。なんか喧嘩ばっかで・・・ずっとこうなの・・・」
今までのことを謝るリーフィアさんに、グラエナはにこっとほほ笑んだ。
「あ、目、瞑って。」
「え?」
「いいから。」
楽しげに言うリーフィアさんに、グラエナは言われたとおりに目を瞑る。
「ギガドレイン・・・」
本来なら、自分の体力を回復させる技だけれど、リーフィアさんはそれをグラエナに使ってみた。グラエナの身体は少しまばゆい光に包まれ・・・そして光はすぐに消えて元に戻った。
「回復した?」
笑顔のリーフィアさんに、痛みが治まったグラエナは驚きを隠せない。
「はい・・・すっかり。」
「よかったぁ・・・」
安堵したリーフィアさんはほっと胸をなでおろす。

「喧嘩に巻き込まれないうちに帰っていいかしら?」
ラッキーさんがグラエナに言う。
「すいません・・・ありがとうございました。」
「ふふっ・・・いいの。ありがとう。じゃ、何かあったら連絡してね。」
嬉しそうなラッキーさんはそう言い残すと、グラエナの部屋から出ていった。グラエナの部屋に残されたは、力尽きて眠っているエーフィと、余裕綽々のリーフィアさんと、空腹のグラエナ。

「はぁ・・・ご飯作ろ・・・」
空腹に耐えきれず、グラエナは台所へ向かう。リーフィアさんも後ろからついてきた。
「どんな料理作るの?」
リーフィアさんはグラエナが料理をするのをじっと見つめている。
「もうトーストでいいや・・・」
グラエナはパンを適当に掴むと、慣れた手つきでトースターにパンを放り込んだ。
「おお・・・手慣れてるね・・・」
思わずリーフィアさんも声を出す。
「食べます?」
空腹そうなリーフィアさんに聞くと、リーフィアさんはすごくうれしそうな顔をした。
「え!?いいの!?じゃあお腹がすきました。」
チン!とパンが焼けたサインを聞くと、グラエナはトースターからパンを取り出して、お皿に並べる。
にこっとほほ笑むリーフィアさんが遠慮なく、と言う感じでトーストをほおばる。
グラエナも全部食べられちゃうんじゃないかっていうくらいのリーフィアさんの食べっぷりに驚いて、トーストをあわててがつがつとほおばった。
「うん・・・おいしい。」
「あ、ありがとうございます・・・」
グラエナとリーフィアさんとでトーストを1枚づつ食べると、リーフィアさんは満足だぁ~、という声を残して寝室へと戻っていった。
「さてと・・・お昼の準備しないとな・・・」
時計をみるともう11時を過ぎている。グラエナはどうしようかなと思いつつ、ひとまず非常食のパスタを棚から取り出す。
「これで何か作るか・・・」
深鍋に水を張ると、火にかけた。なにせ3匹分だ。いっつもならエーフィと自分の分だけなのに、今日はエーフィの母親までいる。もちろん何が好きなのか、さっぱりわからない。
「さっぱりした奴の方がいいかな・・・」
グラエナはパスタを片付けて、うどんの乾麺を取り出した。お歳暮のおすそわけ・・・という名目で実家から送りつけられたものだ。
1袋ではグラエナが食べる量としては多すぎるので、しばらく置いていたものだ。グツグツと水が沸騰するとうどんを放り込む。
「さてと・・・」
冷蔵庫から大根と酢橘を取り出して、大根をゴリゴリとおろす。それらをほいほいと素早くこなすグラエナ。

「お昼ごはん出来ましたよ~。」
グラエナは背中にどんぶりを2つ載せて、寝室に行った。リーフィアさんは、眠っているエーフィの顔を幸せそうに見つめている。
「ああ・・・ありがとう・・・」
照れて、少し声が小さいリーフィアさんはグラエナからうどんを受け取ると、ズルズルと食べ始めた。グラエナもそれを見て食べ始める。

「ホントによくできた男の子だこと・・・」
リーフィアさんは空になった丼ぶりを見て呟く。
「ウチの父親の所為です。」
グラエナははっきりと聞こえるように言った。
「へぇ・・・どんなお父様なの?」
興味津津、な口調で聞くリーフィアさんに、グラエナは頭をポリポリと掻くと、話し始める。
「父親は・・・結婚するまで借金生活だったのに、結婚して、俺が生まれてから、急にバリバリ働き出したんです。」
「へぇ・・・」
ちょっと驚くリーフィアさん。
「お母さんが死んでから・・・それがますます強くなって、いつしか自分のことは自分でやるようになって・・・この学校に進学して、寮生活始めて・・・」
考えながらに喋るグラエナ。リーフィアさんはうんうん、と頷きながら、グラエナの話をじっと聞き入っている。
「で、ウチの娘とはどういう経緯で?」
リーフィアさんは聞きたかったことを単刀直入に言う。
「えっ・・・えっと・・・」
照れたグラエナは必死に、言葉を紡ごうとする。
「エーフィ・・・ちゃんとは・・・」
「呼び捨てでいいわよ。」
クスッとリーフィアさんは笑う。
「エーフィとは・・・同じクラスになって・・・で、授業とかで話すうちに仲良くなって・・・」
グラエナの顔を覗き込むリーフィアさん。
「えっと・・・今の状態になる前から・・・仲はいいほうだったんで。」
「へぇ~・・・まぁ、君みたいな男の子だったら、エーフィは甘えて甘えて仕方ないでしょう。」
リーフィアさんはまたふふっと笑う。
「あの仔・・・お父さんがいないから、私に甘えて甘えて・・・でも私はあの仔に幸せになってほしいから、突き放したりしたわ・・・」
後悔をにじませるように、リーフィアさんは話す。
「いい学校に行かせて・・・いい♂を見つけて結婚して・・・幸せになってほしい・・・この思いは今でも変わらないけど・・・」
グラエナはリーフィアさんの話を聞いて、少し後悔していた。自分はエーフィを幸せにできるのか・・・と。
「まあでも、今日は収穫があったわ。天国のお父さんに、いい結婚相手が見つかった、って言っとく。」
にこっと笑うリーフィアさん。一方のグラエナは嫌な予感がした。
「えっ・・・」
「グラエナ君。エーフィを幸せに・・・って早いか。まぁエーフィの意思もそうだけど、君の意思も尊重しないとね。」
嬉しそうなリーフィアさんに、照れと戸惑いで、少し身体が固まっているグラエナ。
「グラエナ君は、エーフィのこと好き?」
「はい。」
リーフィアさんの問いに即答するグラエナ。
「君のお父さんに会ってみたいな。」
「いつでも会えますよ。」
「え?」
グラエナの明瞭な答えに、帰って戸惑うリーフィアさん。
「どういうこと?」
「ウチの父親は暇なんで。アポなしでも十分、会えると思います。」
リーフィアさんはグラエナの家庭にさらに興味を抱く。
「お父さんは、母さんが死んでから、アホみたいに働きづめて、いまでは会計コンサルタントやってます。ウハウハだって、この前電話で言ってました。」
「なにそれ・・・ふふふっ・・・」
グラエナの口調から、父親はおそらく大変な苦労を重ねたんだろう、とリーフィアさんは感じた。
「会ってるの?」
「はい。つい一週間前に。・・・ご飯を食べに。」
「へぇ・・・いいなぁ・・・私はエーフィとご飯なんて行かないから。」
リーフィアさんは少し物憂げにうつむく。
「じゃあ誘いましょうか?」
グラエナは言う。リーフィアさんは途端に顔を真っ赤にする。
「え!え!?・・・ん・・・じゃあお願い・・・」
照れくさくて、小声でリーフィアさんは言うけれど、グラエナはにこっと笑って、わかりました、と答えた。

「ん・・・んん・・・」
気持ちよさそうにくぅくぅ眠っているエーフィ。その寝顔リーフィアさんとグラエナはお昼ご飯が終わってからずっと覗いている。
「んんっ・・・・ぐあぇぁぁ・・・」
「君のこと呼んでるじゃん。」
リーフィアさんに言われて、恥ずかしくて顔を真っ赤にするグラエナ。と、同時に何か余計なことを言わないだろうか、と不安になる。
「どんな夢見てるんだろうなぁ・・・」
ニコニコと、嬉しそうにほほ笑むリーフィアさんは呟いた。
「んっ・・・ふぁぁぁっ・・・」
エーフィは突然、目を覚ました。ぱっちりと見開いた瞳は、じっと2匹を捉えている。リーフィアさんはドキッとして動けなくなってしまったが、グラエナは優しく微笑む。
「ぐ、ぐらえなぁ・・・おかあさん・・・」
やっぱりエーフィの方もびっくりしていたみたいで、見開いた瞳のまま、固まっている。
「エーフィ。お腹すいたろ。」
「うん・・・」
グラエナはそっとエーフィの頭を撫でる。エーフィは疲れの取れない身体を起こして、グラエナを見つめる。
「昼どころか、朝も食べてないもんな。ずっと片付けしてたし。」
「片付け?」
リーフィアさんがぴくっと耳を震わせて、反応した。グラエナもエーフィも、いやいやいや・・・と必死にごまかそうとする。
「エーフィ。あんた自分の部屋散らかしてるんでしょ!」
やっとこ母親らしいところを見せられるかな、とエーフィに凄むリーフィアさん。
「おかあさんにはかんけいないじゃんかぁ・・・」
瞳を潤ませて訴えるエーフィ。グラエナはやれやれ、と2匹の間に割って入る。
「はいはい、喧嘩しない、喧嘩しない。」
「ちょっ・・・」
自分の娘の交際相手に諭されて、焦るリーフィアさん。
「おやつ作るから、どっちか台所に行こ。」
2匹を置いたままではまた喧嘩しそうだと思ったグラエナは、エーフィとリーフィアさん、どっちかと一緒に台所で話相手になってもらおうと、誘う。
「ん~・・・じゃあ・・・わた」
「わたし!」
ほぼ同時に2匹とも名乗り出る。そして互いに見つめあってぷいっとそっぽを向く。呆れてため息をつくグラエナ。
「じゃあ・・・お母さん行きなよ・・・」
むすっとしたエーフィは拗ねた口調で言う。リーフィアさんも突っかかって行きそうで、一触即発。
「エーフィ。あんたがいきなさい。彼氏なんでしょ?」
少し小ばかにする口調で返すリーフィアさん。エーフィは言い返せず、そのままグラエナについていった。

「はぁ・・・また喧嘩しちゃったぁ・・・」
物憂げな口調で話すエーフィに、グラエナはそっと前肢で、頬を撫でる。
「仲直り、しなさい。」
命令口調のグラエナに、エーフィも、わかってるけど・・・と困惑した口調で返した。グラエナはそんなエーフィを置いて、せっせとフライパンに生地を伸ばしている。
じゅぅぅ・・・香ばしい音と匂いが台所から部屋中に広がっていく。
「エーフィのおかげだな。」
ふとグラエナが呟く。
「えっ・・・何が?」
エーフィは不思議そうな表情でグラエナを見つめている。
「うん?・・・ああ、料理がね。料理のレパートリーが、5倍以上に増えたって。」
嬉しそうに話すグラエナに、エーフィは嬉しくなって身体をグラエナに擦りつけた。薄紫の体毛を、グラエナの黒とグレーの体毛に埋まるようにエーフィはぐいぐいと押しつけていく。
「エーフィ・・・」
「ぐらえなぁ・・・」
グラエナはエーフィの名前を言ってはいるけれど、バナナを切ったり、湯煎してチョコレートを溶かしたりと、せわしなく身体を動かしている。
エーフィも邪魔をしないように、と身体を離して、グラエナの隣でじっとパイが焼けるのを待つ。
「お皿、どれがいい?」
「えっと・・・一番下の白い大きいやつ。」
グラエナが言った通りに、エーフィはお皿を出して、流し台の上に置いた。
「ありがと。」
作業をしながらでも、グラエナはエーフィの頭を撫でる。エーフィは、いいのに、と謙遜してみたけれど、心は嬉しかった。
「さっ、できたぞ。」
「わぁっ!」
エーフィがグラエナの背中に乗っかってるお皿を見ると、パイ生地の上にバナナにチョコのラインが引いてある、りっぱなパイだった。
「おいしそ・・・」
溢れる涎をこらえてエーフィは寝室に戻っていくグラエナのあとをついていく。

「わあ・・・おいしそう・・・」
リーフィアさんは、テーブルの上のパイをじっと見つめている。エーフィとリーフィアさんの視線の中、グラエナはパイを6つに切り分けた。
「エーフィ、食べていいよ。」
「グラエナは?」
上目遣いで聞いてくるエーフィに、優しく返すグラエナ。
「エーフィは朝もお昼も食べてないんだから・・・それにエーフィのためにお菓子作ったんだし。」
「ぐらえなぁ・・・」
嬉し泣きしそうなエーフィ。青い瞳を潤ませてパイにかぶりついた。
「おいひい・・もしゃもしゃ・・・」
「食べてから喋りなよ。」
クスッとグラエナは笑った。リーフィアさんは、行儀が悪い、と言ってエーフィの額をちょんと軽く突いた。
「あんたらホントに仲いいね。」
リーフィアさんは感心していた。だからエーフィとグラエナは磁石のようにくっつくことができるんだろう、と。恋をしている者同士が仲がいいのは当たり前だ。
けれどリーフィアさんの前にいる、エーフィとグラエナは、それと少し違うように感じられた。どこが違うのか。答えは簡単だ。
自分をよく見せようとせずに、お互いを労り、気づかいあえば、もっと相手を欲する・・・好き、という感情から、無私の愛へとかわっていくのだろう・・・リーフィアさんはその過程を見ている気がしていた。
「ふふっ・・・」
突然クスクス笑い出したリーフィアさんを、気味悪がるエーフィ。どうしたんだろう、とグラエナは聞いてみる。
「どうしたんですか?」
「いやね。変わったカップルだなって。」
「へ?」
リーフィアさんは自分の言ってることが可笑しいな、と感じていた。いまさらすぎる、と。
「エスパーとあくのカップルって、変わってるなって。よっぽどお互いが好きなんだなぁって。」
素直に思いのままを喋るリーフィアさん。エーフィは頬を赤らめて、口をもごもごと動かしながら母親の話に聞き入っている。
「あ、いやいや気にしないで。ごめんね。」
悪いこと言っちゃったかな、と思ったリーフィアさんは、2匹に向かって謝る。
「別にいいもん。私はお母さんが思ってる以上にグラエナのことが好きだから。」
普通に考えたらかなり恥ずかしいことだが、むしろ誇らしいことのように言ってのけるエーフィ。今度はグラエナが顔を紅潮させてうつむいている。
「エーフィが・・・ここまでいい仔でいられるのは君のおかげだよ。」
リーフィアさんはしみじみとグラエナに言う。
「お父さんが死んで、この仔は学校に行かなくなって・・・」
「おかあさん!」
自分の過去をグラエナに聞かれるのが少し嫌だったエーフィはついつい大声を出してしまう。
「エーフィ、これは大事なことなの。」
「おかあさん・・・」
エーフィを諭すように言い聞かせるリーフィアさん。
「グラエナ君、君がいたらわかってくれたと思う・・・その時のエーフィの気持ちが。」
「・・・」
不安なエーフィは黙っているグラエナの手を握った。グラエナもぎゅっと握り返して、真剣なまなざしでじっとエーフィを見つめている。
「私が無理に学校に行かせたから・・・エーフィはみんなから距離を置くようになってた。」
ふるふると小刻みに身体が震えているエーフィは頼るようにグラエナにそっと寄り添う。
「でも・・・この学校に進んでくれて・・・私にエーフィから連絡はないけど、通知表を見る限り元気にやってるって知ったから、私はその後悔を前に向けることが出来たの。」
リーフィアさんの声も少し震えていた。
「エーフィ?」
グラエナが声をかける。
「なに?」
「お母さんに心配かけないように、きちんと連絡しないとね。」
グラエナはそう言ってエーフィの頬を撫でた。エーフィもうん、と頷いたし、リーフィアさんも照れて頬を赤らめている。
「俺も父さんになにも連絡してないなぁ・・・なのになぜかこっちの行動を手に取るように把握してるし・・・」
ふとグラエナは呟いた。エーフィは笑顔で、いいじゃんそんなの、とグラエナの疑問を吹き飛ばしてぎゅっと手を握ったままだ。リーフィアさんも2匹を見るまなざしに、優しさが溢れている。

グラエナは台所で晩御飯の用意をしている。一方のリーフィアさんとエーフィは楽しげにおしゃべりをしている。結局エーフィの部屋には行ってない。
「ふぅ・・・どうしよう・・・」
水洗いした米を鍋に入れて少し悩んでいるグラエナ。どんな料理が好きなのか、結局わかってない。
「ぐらえなぁ・・・」
迷ってるのを察知したかのようにエーフィも台所にやってきた。
「晩御飯・・・どうしようか・・・」
「ええっ!わ、私がするよぉ・・・今日もずっとやってくれてんじゃんか・・・」
エーフィはすっかり晩御飯のことなど忘れていた。ひとまず自分がする!とグラエナに言ってみるけれど、それでもグラエナは悩んだままだ。
「いやぁ・・・だってエーフィのお客さんだから・・・」
「お母さんじゃん。私が作るって。ね・・・」
どちらも譲る気はないようで、エーフィもグラエナもお互いの身体を指で掴むと、ふにふにと揉む。
「ひゃぁん!ぐらえなは台所から出てていいよぉ!やぁん!」
「やめろぉ!・・・くすぐったいから・・・えっ、エーフィが作る必要ないって・・・やめっ!」
台所でくっついてふるふると震える2つの毛並み。一方は薄紫の肢体を縮ませて、もう一方もグレーと黒の肢体を耐えるように縮ませている。けれど2匹ともとっても幸せそうだ。
「ど~したの~?」
リーフィアさんが異変を察知して声をかける。
「ぎゃっ!」
グラエナはねんりきで勢いよくエーフィに押し倒された。グラエナのお腹の上に乗っかるエーフィ。
「グラエナはちょっとくらい休んでてよぉ・・・」
「今日はエーフィの来客だから・・・」
同じセリフを繰り返すグラエナに、エーフィはグラエナの頬に手を当てる。少しの沈黙が流れる。
「どーしたのって・・・エーフィ?」
たまらず台所にやってきたリーフィアさんは台所で繰り広げられる光景に目を疑う。
「おかあさ・・・これは・・・その・・・」
下敷きにされて苦しそうにしているグラエナに対し、エーフィは自分が優位に立っている状況で、必死に両手を振ってなにもないアピールをする。
「エーフィ、男の子を押し倒しちゃダメよ。」
にやっと笑うとリーフィアさんは蔓をまた数本、呼び出す。
「くさむすび(はぁと)。」
「やぁん・・・おかあさんやめてよぉ・・・」
蔓で再びエーフィの四肢を縛ると、エーフィはその身体をグラエナの上にぐたっと寝かせた。
「ありゃ・・・失敗。」
うまくグラエナの身体からエーフィをどかせようとしたリーフィアさんだったけれど、そのたくらみは失敗した。
「えーふぃ?晩御飯・・・俺が作るから。リーフィアさんに蔓を解いてもらいなさい。」
「・・・うん・・・」
グラエナは四肢を縛られたままのエーフィを背中に乗っけると、ベッドまで運んだ。
「寝てていいよ。」
「寝ないもん。」
ベッドのシーツの上でむすっとしているエーフィに、グラエナは頬に優しくキスをして、また台所に戻った。エーフィは瞳を閉じて、その嬉しい感触を毛並みと肌の上から感じていた。

今のエーフィにとって、自由がないことほど嫌なことはない。ただし、グラエナとの関係を除いて。
「ぅぅぅん!うぁぁん!」
いくら前肢に力を入れても、拘束している蔓は解けてくれない。
「ふふっ・・・」
その傍でクスッと笑うリーフィアさん。
「もう離してよぉ・・・」
「い・や・です。」
リーフィアさんは自分の目の前で四肢を縛られている娘にほほ笑んで言い放つ。
「むぅ~!」
不満げなエーフィはさらに頬をふくらます。
「グラエナ君って料理もうまいし・・・ぜひ食べたくてねぇ~。」
リーフィアさんがエーフィを縛った理由は単純だった。グラエナの料理が食べたい、ただそれだけ。
「グラエナはコックさんじゃないんだよぉ。」
「わかってるわよ。今日ぐらい甘えたっていいじゃない。エーフィに、じゃないけど。」
グラエナとエーフィ、この2匹に触れてるだけでも、リーフィアさんの心の渇きは潤されそうだった。それくらい温かい感じを2匹からは受けていた。
「もういいじゃんかぁ!」
ギシギシと蔓を軋ませて、エーフィは必死に四肢に力を入れる。
「あんたエスパー能力以上に自分の体力ないんだから。無理しちゃだめよ。」
リーフィアさんはそう言ってエーフィの頭を撫でる。
「晩御飯になったら解いてあげてもいいよ。」
「うぁぁん・・・お母さんひどいよ。」
瞳を潤ませて訴えるエーフィ。もし晩御飯の時になって解かれても、強い力で縛られてるからしびれて四肢は動かせなさそうだし。そうなったら食べれないかもしれないし。
エーフィは思い出していた。自分のお母さんは、本気で怒らないとめったに”痛み”を感じるような暴力をふるってこなかった。こうやって縛ってるうちは、まだまだおふざけなんだ、と。
「ひどくなーいひどくなーい。」
単調なトーンでエーフィに言うリーフィアさん。
「むぅぅっ!」
四肢が動かせないだけなので、エーフィは尻尾をぶんぶん振って傍にいる、さっきまで頭を撫でていたリーフィアさんをぺちぺち叩く。
「あいたたた・・・」

そんなことを繰り返しているうちにじゅぅぅ~といい音と匂いが台所から部屋に広がっていく。グラエナがせっせと晩御飯を作ってくれているみたいだ。
エーフィとリーフィアさんは動き疲れて、ベッドの上で仲良く身体をくっつけている。
「こうやって添い寝をするのもいつ以来かなぁ・・・エーフィがまだ4つ5つの頃だったかな・・・」
「恥ずかしいよぉ・・・そんなこと言われても・・・」
リーフィアさんはふふっと微笑んで、エーフィの頭に軽く抱きついた。
「こんなこと、男の子にしてもらったことある?」
「うん・・・」
どこか嬉しそうなエーフィの答えに、それはグラエナ君からしてもらったからだろう、とリーフィアさんは直感した。それくらいは、すぐにわかる。

「できましたよ。」
グラエナが、背中にお皿を乗っけて、ベッドのわきのテーブルに近づいてくる。リーフィアさんはすぐに身体を起こしてグラエナの作った料理を覗きに行く。
「オムライス?」
「はい。エーフィが好きなんで・・・」
そのオムライスは、リーフィアさんが作ったことのないようなものだった。
「大根おろしに・・・何これ?」
「これは薄くした麺つゆとだしです。」
黄色いオムライスには不似合いな和風の食材に、リーフィアさんはふむふむ、と感心しながら頷く。
「ちょおっ・・・離してよ・・・」
エーフィがベッドの上から声を出す。リーフィアさんも、ごめんね、と謝りながら、エーフィを拘束していた蔓を解いた。
「ああ・・・ひどい目に遭ったょ・・・」
エーフィもひょいっとベッドから降りて、グラエナが作ったオムライスをじっと見ている。
「ぐらえなぁ・・・いつもと違うね・・・こっちもすごくおいしそう・・・」
見ているだけで涎が出てきたエーフィ。

「いただきます。」
リーフィアさんとグラエナはスプーンを掴んで食事の挨拶をしたけれど、エーフィはスプーンを掴むことができない。
「エーフィ?」
「しっ・・しびれてスプーンつかめないの・・・」
手がまだきつく縛られていたせいか、うまく動かせないエーフィ。グラエナはエーフィの傍によってスプーンでオムライスを掬った。
「口あけて。」
ほほ笑むグラエナはちょっと照れてるエーフィに言う。
「いいの?」
期待で嬉しそうな顔をしてエーフィも答える。
「じゃあさ、あーんって言ってよ。」
「えっ?」
エーフィの要求にグラエナは少し緊張する。当たり前だ。目の前にエーフィの母親がいるんだから。
「やっちゃえば?」
リーフィアさんは手を止めてニヤニヤしつつ、じっとエーフィとグラエナの様子を見ていた。そして、エーフィの言うようにしたら?と促す。
「仕方ないな。ほれエーフィ。あーん・・・」
「あーん。」
グラエナは口をぱっくり開けているエーフィに、スプーンをゆっくりと入れる。スプーンに載っていたオムライスがエーフィの口腔に入ると、エーフィはぱくっと口を閉じた。
「もしゃもしゃ・・・おいしい・・・」
「ありがと。エーフィ。」
嬉しそうに、でも照れくさそうに笑顔で頬を赤らめて自分の差し出すスプーンにぱくっと食いつくエーフィはすごく可愛いな・・・グラエナはそう感じていた。
恥ずかしそうに頬を赤らめて、自分にご飯の載ったスプーンを差し出してくれるグラエナはとっても可愛いなぁ・・・エーフィもそう感じていた。
「ご飯・・・いっつもと違うじゃん・・・」
「ああ。バターライスにしたの。そっちのが味のバランスが取れるかなって。」
「へぇ・・・すごいなぁ・・・」
グラエナはエーフィと同棲するようになって、必死でご飯のレシピ本を記憶していた。エーフィも負けないように料理のレパートリーを増やしていったけれど、いつの間にかグラエナの方が上回っていた。
「あーん。」
「ほれほれ。」
楽しくエーフィにご飯を食べさせていたら、案の定自分が食べるのを忘れていたグラエナ。

「ああ・・・冷めちゃった・・・」
すっかり冷めたオムライスを前に、うなだれるグラエナ。
「あんたたちの仲の良さは底抜けだね。どこにいてもそんなカップル見ないよ。」
満腹のリーフィアさんは満足そうにエーフィとグラエナに向かってそう言う。
「ぐらえなぁ・・・温めてあげる。」
エーフィはそう言うと、買ったばかりの電子レンジにオムライスを投入した。買ったばかり、と言うより一週間前にグラエナの父親が送ってくれたのだ。送料着払いで。
電子音とともに、あったかくなったオムライスを電子レンジから取り出したエーフィは、嬉しそうにグラエナの前にやってきた。
「はい。あーん。」
エーフィはお返し、とばかりにさっきグラエナがしてくれたように、オムライスをスプーンで掬って、差し出す。
「ありがとエーフィ。んぁ・・・」
グラエナは口を開いてぱくっと食べる。エーフィは嬉しいなぁ、と思ってじらすようにゆっくりスプーンを差し出す。
「ほれほれ~。」
「エーフぃ・・・ちょっとまって・・・」
たまにペースを上げていじわるもしてみたり。リーフィアさんはその様子を楽しげに見つめている。

「ごちそうさま・・・」
「おいしかったよぉ・・・ぐらえなぁ・・・」
「ありがと。えーふぃ。」
エーフィとグラエナで、食器を片づけて、皿洗いを済ませる。リーフィアさんは泊まる気満々だ。ベッドの上にでーんと座っている。
「あのさぁ。」
リーフィアさんが台所から戻ってきたエーフィに声をかける。
「なに?」
「泊まっていい?」
エーフィは戸惑う。グラエナの部屋だし・・・泊まるって言っても寝るスペースもそんなにないし・・・と。
「グラエナに聞かなきゃ分かんないよ。しかもベッドで寝る気じゃん・・・」
「そうだよ。」
「厚かましすぎ。」
エーフィに一刀両断されたリーフィアさんは気にすることなくふふっと笑う。台所からトコトコとグラエナがやってくる音に気付いたエーフィは、今のことを相談する。
「へぇ・・・泊まりたいんだ。奇特な方だね。」
グラエナはなぜか感心している。
「いいんだけどさ、エーフィが嫌じゃなかったら。」
「私は・・・嫌だよ。いたぁっ!」
嫌だ、と言った瞬間にリーフィアさんからのはっぱカッターでエーフィは叩かれた。
「泊めるしかないみたいだね。」
呆れたグラエナは、エーフィにそう言う。エーフィもうん、と嫌々ながらうなずいた。リーフィアさんのもとに、グラエナは行く。
「ごめんね。本当ならエーフィの部屋に泊まるべきなんだけどさ・・・」
「いえいえ・・・じゃあ、エーフィとベッド使ってください。俺は・・・床に寝ますんで。」
グラエナはそう言うとシャワーを浴びるためにタオルを用意し始めた。リーフィアさんは申し訳ないなぁ・・・と今さらに思う。エーフィはさっきからむすっとしてるし。
「じゃ、シャワー浴びてくるから。」
タオルを咥えて、グラエナは風呂場へ向かった。
「お母さんなんて、きらい。」
エーフィはそうはっきり聞こえるように言う。挑発されたリーフィアさんもエーフィを押し倒す。
「きゃぁん!」
「厚かましい親で悪かったわね!」
リーフィアさんは蔓でエーフィの前肢をテーブルに縛りつけると、エーフィの頬をつねった。
「悪くないよぉ・・・別に・・・ただちょっと遠慮してほしいんだって・・・」
「・・・ごめん・・・」
素直な心の内を話したエーフィは、自分の母親が自分に謝るところを久しぶりに見た。リーフィアさんはエーフィから手を離して、お茶をすすっている。
「離してよ・・・」
「あ、ごめん・・・」
リーフィアさんは蔓を解いて、エーフィと身体をくっつけている。
「グラエナ君のこと、どれくらい好きなの?」
不意に聞いてみるリーフィアさん。
「え・・・うーん・・・とっても。すごく。」
「何それ。」
抽象的なエーフィの答えに、首をかしげるリーフィアさん。
「うーんとね。グラエナの全部が好き。おっちょこちょいなところとか。かっこつけれないところとか。私が寝てる時に転がったら、私と一緒にベッドから落ちちゃうところとか。」
嬉しそうに言うエーフィに、リーフィアさんはグラエナとエーフィの仲がいつまでも続きそうだなぁ・・・と感じた。

「シャワー浴びなよ。」
タオルを首に巻いて、グラエナが少し湿った身体でリーフィアさんとエーフィに言う。
「じゃあ、私がお先に浴びさせてもらうわ。」
リーフィアさんはそう言た。
「タオルです。使ってください。」
笑顔でグラエナは、真っ白なタオルを差し出した。
「ありがとう・・・」
リーフィアさんはタオルを受け取るとグラエナの頭を撫でて、風呂場へ向かった。部屋には久しぶりに2匹っきりになったエーフィとグラエナ。
「ごめんね・・・グラエナ・・・」
「いいの。エーフィ。エーフィのお母さんだって、素敵じゃん。」
謝るエーフィに、グラエナの優しい素直な心から出るセリフ。嬉しくてエーフィは身体をグラエナに預けるように、倒れこむ。その薄紫の身体を受け取ったグラエナは、空いている方の手で、エーフィの頬に触れた。
「私ね・・・どうしても忘れられない仔がいるの・・・」
「へ?」
唐突なエーフィの告白に戸惑うグラエナ。エーフィは安心しきって、グラエナの戸惑いなど気にしていないようだ。
「ぐらえなが心配することじゃないよぉ。だって私がまだ2つか3つの時の話だもん。」
「なんだそれ・・・そんな昔のこと覚えてるんだ。」
グラエナは戸惑いから解放されるとともに、エーフィの記憶力に脱帽していた。
「それでね、私が喧嘩したのかなぁ・・・泣いてたところに、骨折してたのかな?肩に三角巾つけた仔が・・・同い年くらいだったと思うけど・・・」
エーフィはこのことをまだ誰にも話したことがなかったので、記憶を整理しながら、思い出す順に話す。
「その仔・・・私のとこに来て、飴くれて・・・何言ってもらったか忘れたけど・・・すっごく元気貰ったんだ。」
青い瞳をキラキラ輝かせて笑顔で話すエーフィに、グラエナはすごくいい思い出だな、と思って聞き入っていた。
「なんで憶えてたかって言うとね、夢・・・見るんだ。すごくいい夢。」
「へぇ・・・」
グラエナが感心していたところにシャワーを浴び終わったリーフィアさんがタオルを咥えてやってきた。まだエーフィは嬉しそうにニコニコしている。
「ああ、いいシャワーだった。エーフィも浴びなさいよ。」
「は~い。じゃ、グラエナいってくるね。」
ふぅ、と一息つくと、エーフィは普段タオルを置いているところからタオルを取り出して、風呂場に向かっていった。

「本当にウチの父親に会います?」
念のために聞いてみるグラエナに、リーフィアさんはうん、と頷いた。
「あの・・・1つ条件が・・・」
リーフィアさんは恥ずかしそうに、その条件を言う。
「えっ・・・わかりました。」
戸惑いを隠せないグラエナだったけれど、その条件をのむことにした。

「ぐらえなぁ~。シャワー終わったよぉ。」
嬉しそうなエーフィの声とともに、まだ少し身体の濡れているエーフィがやってきた。
「ちゃんと身体拭きなよ。」
「拭いて。」
エーフィはそう言ってグラエナにタオルを差し出す。グラエナもタオルを受け取ってエーフィの身体をごしごしと拭いていく。
「ひゃぁぁ・・・くすぐったい。」
グラエナが背中を拭くたび、エーフィは身体をふるふると震わせる。
「我慢して。エーフィがちゃんと洗面所で拭いてたらこういうことにはならないんだから。」
忠告するようにグラエナが言うと、エーフィは嬉しそうにうん、と頷いた。
「さ、寝な。」
「うん!ありがとぐらえなぁ!」
エーフィは嬉しそうにグラエナの頬にキスをした。頬を赤らめるグラエナ。
「照れるじゃんか。」
「嬉しいくせにぃ。」
ひょいっとエーフィはベッドに飛び移った。リーフィアさんと仲良くベッドを占拠している。グラエナは散らかったタオルを片付けると、床にべたっと伏せた。

暗闇が辺りを包み、部屋の中も、小さな豆電球だけを残して真っ暗だ。
「くぅくぅ・・・」
エーフィはすでに気持ちよさそうに眠っている。
「あのさ、グラエナ君って実家はどこなの?」
リーフィアさんは寝ているエーフィの隣、床側でなく壁側にいて、グラエナに聞いている。
「エンジュです。」
「私はコガネなんだ。一回来てみる?」
楽しそうなリーフィアさんに、いいです、と遠慮したグラエナ。あ、そう・・・とちょっと残念そうなリーフィアさん。
「ずっとエンジュなの?」
「そうじゃないらしいんですよ。」
「へ?」
リーフィアさんは少し驚いたのかグラエナを見つめている。
「2歳くらいまで、ヤマブキにいたらしいんですけど・・・お父さんがそう言ってて、戸籍もそうなんで。」
「2歳までかぁ・・・さすがに覚えてないわよね。」
そりゃそうよね、グラエナ君が憶えてなくて当然だよね、と思ったリーフィアさん。
「生まれもヤマブキ?」
「はい。」
リーフィアさんは、そうなんだ~、と感心してしまう。
「じゃ、お休みね。」
「おやすみなさい。」
グラエナは再び床に伏せて、瞳を閉じた。
「そうそう・・・」
リーフィアさんはまだ言い忘れていたことがあったのか、グラエナに声をかける。
「私もヤマブキにいたんだよね。ひょっとしたら会ってるかもね。ふふっ、じゃ、お休み。」
グラエナは特に気にも留めず、そのまま眠った。

「くぅくぅ・・・」
みんな寝静まって、静かな寝息を立てている。
「ぐあぇぁぁ・・・」
ごろっとエーフィが寝がえりを打つ。
「ぎゃっ!」
眠っているグラエナの上に、何か柔らかいものが落下してきた。痛くて目を覚ますグラエナ。
「いたた・・・なんだ・・・」
ふいっと上を向くと気持ちよさそうに眠っているエーフィ。
「エーフィか・・・はぁ・・・」
かなり驚いたグラエナはエーフィであることを確認すると再び眠りに落ちる。

「ぎゃっ!」
「きゃぁっ!」
今度はエーフィも悲鳴を上げた。グラエナはもはや気を失いそうだった。リーフィアさんまで落下してきたのだろう、もう勝手にそう思い込んで眠ることにした。
「いたぁぁぃ・・・ぐあぇぁぁ・・・」
寝ていても泣きそうなエーフィをグラエナは尻尾でさすってあげる。
「んっ・・・ぐぁぇぁ・・・」
ちょっと落ち着いたのか、エーフィは優しい口調で寝言を言っている。それにグラエナも安堵すると自然に眠ることができた。上に大の大人の成長しきったリーフィアと、その娘の可愛いエーフィを乗せたまま。

「ふぁぁぁ・・・痛い。痛い痛い。」
グラエナは目が覚めて早々、痛いとついつい口にしてしまった。本当に痛いのだ・・・と言うより重すぎる。
上に乗っかってるエーフィはグラエナの首に両手を回して組んで嬉しそうに寝ているし、その上のリーフィアさんにいたっては何をしているのか、見ることすらできない。
エーフィの身体がぴくぴくと震えたのをグラエナは感じた。ん・・・ん・・・とエーフィは気持ちよさそうな声を出して、グラエナに抱きつく前肢にも力が入る。
「ぐ~ら~え~な~。」
嬉しそうなエーフィの声。グラエナは上に乗っかってるエーフィに視線を出来るだけ向ける。
「エーフィ・・・起きた?」
「うん・・・重い・・・痛い。お母さん寝相悪すぎ・・・」
エーフィは自分が先に落ちたのに気付いてないのか、それともリーフィアさんに当てられたからそのまま落っこちたのか、先にエーフィが落ちてきたのを知ってるだけにグラエナにはもどかしい。
「寝相が悪いのはみんな変わらないよ。」
はぁ、とため息とついて言うグラエナに、エーフィは、首をかしげる。
「なんでぇ?」
「俺もベッドから転げ落ちるでしょ?エーフィも落ちるじゃん。このベッドでずっと寝てると、落ちるみたい。」
グラエナの話に、確かにね・・・、と頷いたエーフィ。
「きゃぁん!」
エーフィは首がグッと締まったのを感じて声を出す。
「ふぁぁ・・・おはようエーフィ。」
リーフィアさんも起きたみたいだった。どうやらエーフィのまねをして、エーフィに抱きついたようだ。そしてちらっと上下を確かめる。
「あ!ごめん・・・」
下敷きにしたエーフィのさらに下にいたグラエナに気付いたリーフィアさんはあわてて積み重なった”タワー”の最上段から退くと、元気なく伸びているグラエナに謝った。

「さて、エーフィ。朝ごはんにしよっか。」
「うん。」
嬉しそうなエーフィ。まだぎゅっとグラエナに抱きついている。グラエナも照れて、嬉しそうだ。
「グラエナはゆっくりしててねぇ。」
「へ?」
エーフィはゆっくりしててね、とグラエナに言うと、ひょいっと退いて台所に向かった。
「あ、エーフィ・・・」
グラエナも追いかけようと思ったけれど、身体が動かない。動かせなくなっている。そこで気づいた。さっきエーフィは自分に念力をかけて離れたんだと。
「仕方ないな・・・」
考えた末、グラエナはエーフィがくれた朝のひと時をのんびり過ごすことにした。身体は動かないけれど、じっと辺りを観察するだけでもあっという間に時間は過ぎていくものだ。
「おにぎりかな?」
グラエナはぼそっと呟く。たしかに言葉の通りに部屋にはご飯を炊いた時の匂いが充満していた。

しばらくしてニコニコほほ笑んだエーフィが台所から、お皿を持って出てきた。
「ぐらえな~!ご飯できたよぉ。」
エーフィは元気に言うけれど、グラエナはまだ動けないまま。エーフィに視線で訴えるけれどニコニコしてるだけで、何もしてくれない。
「おっ・・・おにぎり・・・」
リーフィアさんもエーフィのもとに近づいて、おにぎりを1つ平らげた。
「グラエナは食べないのぉ?」
いじらしく聞いてくるエーフィ。グラエナははぁ、とため息をついて身体を動かす。
「エーフィ・・・やめろって。」
まだ身体を起こすこともままならない。
「食べさせてあげるよぉ・・・」
エーフィは2つ、おにぎりを持ってグラエナに近づいてきた。
「はい。あーん。」
「はいはい。」
ほい、とエーフィが差し出してくれたおにぎりにかぶりつくグラエナ。
「どう?」
「ペットになった気分。」
グラエナはエーフィが味のことを聞いてきたのだろう、と思ったけれど意地悪に答えてみた。
「ち、ちがうよぉ・・・味・・・」
「ごめん。おいしいよ。」
気を悪くしちゃったかな?と思ったグラエナは謝って素直な味の感想を言った。エーフィはグラエナの、おいしい、の一言を聞いて途端にまぶしい笑顔を浮かべる。
「ありがと!」
「エーフィ。こっちこそありがとう。」
グラエナのその言葉に、嬉しくてグラエナに身体をすりすりと擦りつけるエーフィ。あっという間に、朝ごはんのおにぎりは無くなってしまった。

朝ご飯が終わって、のんびりとした時間が過ぎる。エーフィはグラエナの背中に乗っかっているし、リーフィアさんはそのグラエナと楽しくおしゃべりをしている。
「さて、そろそろお暇させてもらおうかな。」
リーフィアさんは満足げに言う。グラエナも身体を起こして見送りの準備をする。
「すっごく楽しかった。グラエナ君、ありがとう。」
「いえいえ・・・」
上機嫌なリーフィアさんは何度もグラエナの頭を撫でて、玄関へ向かう。それを追いかけるグラエナとエーフィ。
「エーフィ?グラエナ君の言うこと聞いて、ちゃんといい仔にしてないとダメよ。」
「もう子供じゃぁないもん。」
母親のリーフィアさんのその言葉に、エーフィは照れくさいので、頬を赤らめてむすっとしている。けれど、その表情は憤り、ではなく、単純な嬉しさで満たされている。
「グラエナ君、エーフィのこと、よろしくね。」
「はい。わかりました。」
ほほ笑むグラエナ。
「あと・・・楽しみにしてるね。」
「ふふっ・・・はい。」
リーフィアさんもグラエナも少し顔が赤くなっていた。エーフィはなんだろう・・・とグラエナの顔を覗く。
「じゃ、お邪魔しました。」
「お気をつけて・・・」
リーフィアさんはギィ・・・と部屋のドアを開けると、そのまま出ていった。
「グラエナぁ・・・どうしたの?」
まだ顔を覗いたままのエーフィ。
「なんでもないよ。リーフィアさんと約束したの。そうそう、片付けの続きするよ。」
「えーっ・・・」
グラエナは上手く話の流れを切ることができた。
「早いとこ片付けてさ、どこかお出かけしよ。」
「ぐらえなぁ・・・うんっ!」
エーフィはグラエナから持ちかけられたデートの約束が嬉しくて、グラエナの頬に軽くキスをする。
「じゃ、行くか。」
「うん。」
グラエナとエーフィはまた昨日の続きをするために、エーフィの部屋に戻っていった。

数日後・・・
駅前にはいつものデートの格好をしているエーフィとグラエナ。エーフィは青いリボンを耳に付けている。そしてその数メートル前にはリーフィアさん。
「ぐらえなぁ・・・何を待ってるの?お母さんはもう来てるよぉ?」
「ん?俺の父さん。」
「へ?」
事態が呑み込めないエーフィ。エーフィは自分の母親と会う、と言うことは聞かされていたが、グラエナのお父さんって・・・と戸惑う。
グラエナも少し焦っていた。みんな早く来すぎたから。時間にはまだあるけれど・・・
「そろそろのはずだけどな・・・」
駅の時計を見て、呟くグラエナ。エーフィは何か白い毛玉がグラエナに近づいてきていることに気付いた。
「グラエナ!危ない!」
エーフィは叫んだけれど、グラエナはそれに気付く気配はなかった。
がばっ!
「ぎゃっ!」
その白い毛玉はグラエナにギューっと抱きついている。エーフィは目の前で起きている事態に呆然としていた。
「お~元気か~。」
「暑苦しいって・・・」
グラエナに抱きついている白い毛並みは離れて、その蒼い顔を綻ばせている。
「ぐらえなぁ・・・誰よこの方?」
エーフィはじっとそのポケモンを見つめている。
「俺の父さんだよ。」
「えっ!?」
エーフィには驚くよりほかにない。
「そうそう。俺がグラエナの父親のアブソルです。ところでこの可愛い女の子は・・・彼女か?」
「うん。エーフィだよ。」
グラエナは特に躊躇うことなくエーフィを紹介する。エーフィもグラエナに身体をくっつけてアピールをしている。
「めちゃくちゃ仲よさそうだな。」
アブソルは満足げにグラエナの頭を撫でる。リーフィアさんもグラエナたちにゆっくりと近づいてきた。
「あ、父さん。この方が父さんにわざわざ会ってくださる奇特な方です。」
グラエナの紹介にアブソルはむっとしたけれど、すぐに笑い飛ばせた。
「あれ?どこかでお会いしませんでしたっけ?」
「え?」
アブソルはきっとどこかで会ったんだけどなぁ・・・と言ってリーフィアさんの顔をまじまじと見つめる。何かあったんだろうか、と少し心配なグラエナとエーフィ。
「入学式かなぁ?まあきっと入学式でしょう。」
思い出すのを諦めたアブソル。リーフィアさんの顔がいつの間にかほころんでいる。
「じゃ、私はグラエナ君のお父様とお話があるから、あんたたちはあんたたちで楽しんできなさい。」
「うん。ばいばい、おかあさん。」
エーフィとリーフィアさんは手を振りあう。そしてアブソルとリーフィアさんが見えなくなると、グラエナとエーフィはにっこりとほほ笑む。
「今日はどこ行く?」
「公園行きたいな・・・お日様をいっぱいに浴びたい。」
エーフィも、それを聞いているグラエナも、とっても嬉しそうに身体をくっつける。
「それだったらお弁当作ってきたらよかったな・・・」
「いいじゃん。たまには買っても。」
エーフィの言葉にグラエナはだよね、と頷いて、腰を落とす。
「乗っけてほしい?」
「うん!」
嬉しそうにエーフィはグラエナの背中に飛びつく。グラエナはエーフィの姿勢が安定したのを確認すると、歩き始めた。
「私ね・・・グラエナのこと、ずっと昔から知ってるような気がするの。」
エーフィのその言葉は、真実か、否か、誰にもわからない。けれど、エーフィの顔はずっとグラエナを知ってる、そんな表情を浮かべている。
「前から仲良かったじゃん。」
「うん。」
昔を知っていようと知ってなかろうと、それが関係ないほどエーフィもグラエナも仲がいい・・・

2匹は今を、そして未来を歩むために、進みだす・・・そう・・・これからもずっと・・・


あとがき
更新がまちまちになるかなと思っていたら、アイデアがポンと浮かんでサクサク更新できました。
クオリティーよりクオンティティって言う感じの自分の作品の粗さが出てしまったと思いますが・・・
なんか終わりっぽいシメですが、終わりって言うことではないです。
次やるなら結婚でもさせてしまいそうですねぇ・・・まま、それも今から考える話ですし。
まいど読んでいただいて、ありがとうございます。
@10/09/08


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Last-modified: 2013-05-28 (火) 00:00:00
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