ポケモン小説wiki
HEAL12,久しぶりのナイジャ

/HEAL12,久しぶりのナイジャ

 目次ページ
 前……HEAL11,一夫多妻制

 ネッコアラとの戦いがあってから一ヶ月。ネッコアラは尋問を受けることでわずかずつだが情報を漏らしてくれた。
 だが、分かったのは彼の親玉がペインという名の何者かという事だけで、そいつの種族も能力すらも良くわかっていない。常に夢を見ているという特殊な性質を利用し、都合がいいように使われていただけのようである。
 それゆえ、ネッコアラが属していた団体の本来の目的、活動場所、活動方法、メンバーなど、あらゆることが不確定のまま、新しい情報を引き出すことも出来ずにネッコアラは廃人となってしまった。ダークライの悪夢ですらも反応を見せず、心まで壊れてしまったネッコアラは訳の分からない妄想に取り憑かれ、有用な証言どころか普通の会話すらも不可能になってしまう。

 そうなってしまえばもう用済みとばかりにネッコアラは伝説のポケモン達の手を離れたが、その後の彼はそのまま火炙りの公開処刑であった。その灰は粉々に砕かれ、数か所に分けられて捨てられる。死者の扱いとしては、これ以上ないくらいに徹底的に冒涜されているわけであり、周囲のポケモンの怒りをどれだけ買っていたか、うかがい知れる、
 だが、それだけの力をあのネッコアラが持って行たという事は俄かには信じがたく、伝説のポケモンの目をもってしても、あのネッコアラは平均よりも体格がよく、深層心理を垣間見られる夢まで到達できる力があるくらいで、あくまで平均以上であって突出した能力は何もない。
 虹の根本と呼ばれるダンジョンも夢の世界とつながっていたような痕跡はあるものの、だからと言ってそれだけで世界中に謎の幻影を生み出す能力が得られるはずもない。

 どうしてあんなことが起こったのか、その原因については時間をさかのぼりでもしないと調べられそうにないが。しかし、時間旅行は限られた条件のみで許可されるものであり、おいそれと出来るものではない。世界の危機ならばともかく、今はそんなことが許されるほどの非常時でもなく。
 時間旅行で原因を突き止めたいセレビィたちも意気消沈であった。


 そんな原因の究明は伝説のポケモンや有名な探検隊、調査団等に任せてレナやロウエンは今までの日常に戻っていた。レナがなぜあの鈍痛を無効化できたのかについてはいろいろ調査が入ったが、調べた結果何もわからない者がほとんどだったが、村長の知り合いを名乗るポケモンであるキュレムと、生態系を監視する役目を持つというポケモン、ジガルデである。
 キュレム曰く、『ポケモンではないようだな……まぁ、無害か有害かで言えば無害かつ、有益なようだ……今は、置いておくか』
 ジガルデ曰く『少し、酷なことを言うが、お前は……もしかしたら子供産めないかもしれないな……』とのこと。
 二人ともレナの正体についてぼかしてはいたが、何か含みを持たせた発言は大いに住民を不思議がらせた。キュレムが無害と言い切ったことや、彼女の治癒能力のおかげで、レナが何か世界を滅ぼす因子になるだとかそんなことを疑う者はいなかったが、じゃあ何者かと聞かれても答えを濁す伝説のポケモンへの不信感が湧き上がっていた。
 これについてはジガルデ曰く『普通の生物でないことは分かるが、かといってどういう存在かもわからない』とのことで、彼はお礼がわりに土に栄養を少しだけ残して帰っていった。今年は豊作になるそうだ。
 キュレムの方は村長といろいろ話していたが、世間話のようなものばかりで、特に実のある話はしなかったそうだ。ただ、キュレムは村長が書き写した本をいくつか住処へと持ち帰って言ったそうだ。ずっと引きこもってばかりで何もすることが無いため、何かあった時のために少しでも知識があったほうがいいからと、勉強するらしい。
 そのキュレムの訪問を最後に、三ヶ月ほどに及んだ悪夢の幻影事件は幕を閉じるのであった。


 それによって、ロウエン達も、完全に今までの日常に戻るのだが。レナの様子はすこしばかり元気がなかった。彼女は、自分の子供を残すことが出来ないかもしれないと言われて、露骨に沈んでいた。ロウエンには『これで夜の遊びをし放題じゃないですか!』なんて言って強がっては見たものの、だからと言って回数が増えるわけでもなく、自分から誘う事もなくなってしまうなど、彼女の心には割と深いしこりを残してしまったようだ。
 そうなってしまうと、ロウエンの性格上、性欲が増しても気軽に誘うことが出来ないので、レナは匂いで分かるくらいにロウエンの性欲が高まった時を見計らい、それとなく切り出して誘うほかなかった。
 あの戦いから帰って日常に戻ったと言えば、ゼントは帰りの旅の最中に、よく似た異世界と交信する祭りに参加していたようで、ドテッコツからローブシンへの華麗な進化を遂げていた。それによって戦闘能力の向上はもちろん、大工仕事にもより力のいる作業を効率化出来るようになり、今まで以上にバリバリと仕事をするようになった。

 仕事の順調さで言えば、進化したゼントのみならず、レナの方がよっぽどパワーアップしている。あの一軒依頼、彼女の勘はさえわたり、コソ泥程度ならばともかくだが、殺しや強盗、強姦など他人に明確に危害を加えたようなお尋ね者に関しては、レナはまるで居場所を知っているかのように突きとめ、そして捕まえていた。
 それは、以前ウツボットとマスキッパのお尋ね者を退治した時以上に感覚が研ぎ澄まされており、今では遠く離れた地方までそのお尋ね者を探し出しては捕まえることが出来、その名声は国外にまでとどろくほどである。
 しかしながら、彼女はそうして捕まえたお尋ね者を保安官に引き渡す際、お尋ね者が何も語らずとも、『真人間になったらウチの村に来てください』。などと声をかけることがある。そういった声をかけるのは、まだ同情の余地がある理由で犯罪を犯したもののみで、同情の余地のないものに関しては一切の慈悲を掛けることはなかった。
 レナは、その同情の余地があるか否かを、あいれが何も語らずとも判断をしてしまう。アシレーヌに他人の過去を除くような力があるなんてのは聞いたことはないが、どうしてレナがそんな能力があるのかは、もうロウエンもあえて聞くことはしなかった。キュレムもジガルデもきっと良くわかっていないことなのだから、自分が分かるはずもない事だと。


「なぁ、村長……女を元気づけるのって、どうすりゃいいのかなぁ?」
「あらぁ、レナちゃんと喧嘩?」
「そうじゃないっすよ。レナの奴、何だかジガルデに子供作れないかもしれないって言われたのが地味に傷ついているらしくって……今まで週一くらいで夜に誘ってきたのを、最近は二週間に一回くらいになっちゃって……」
「んもう、こんなおばさん相手にのろけかい? 若いっていいねぇ」
「いや、そういうんじゃなくって……なんというか、レナは自分がやりたいから誘ってくるというよりも、俺のことを気遣って誘ってきているような感じで、それがすごく心苦しいんだ。子供を作れないっていうのがレナはショックだったんだと思うんだけれど……どうにかして、元気づける手段があればいいんだけれど」
「ふーむ……そうねぇ。前も言ったと思うけれど、もともとこの村は子供を産まなくってもいいじゃないっていうコンセプトがあるからねぇ……」
 ロウエンに相談を持ちかけられた村長はそう言って唸る。
「前にも言ったように、泥棒をやってしまう奴をまともな奴に更生させるには、その泥棒さんに金を与えても意味がないんだ。泥棒をしなくても生きていけるように金を稼げる手段……つまり仕事が必要なんだ。けれど、仕事っていうのは無限にあるわけじゃないから、どうにかこうにか仕事は見つけなければならない。けれど、大きな街でさえも仕事は人手が足りていて職にありつけなくなってしまうことがある。
 そうなったら、もはや新しく仕事が出来る『場所』を作るしかないわけだ。その場所を作ろうとした結果がこの村なんだけれど」
「けれど、場所を作っても作っても、人手が足りてしまえばまた次の場所を作るしかなくなる。それを続ければ、いつかは場所を作ることすらできなくなってしまうから、そのためには人の数を増やし過ぎないことが大事で……そのためには、子供を産む数を制限しなきゃいけないのよね。昔は肉食のポケモンが草食のポケモンを食べて人数を調整とかあったんだけれどねー……」
「怖い文化があったんだな……俺やレナは食う側とはいえ」
 村長がさらっと口走った怖い言葉にロウエンは苦笑する。
「ま、そういう文化もなくなったのだから、結局は子供の数を増やしすぎない方法は、子供を産まない事。そのためにも、愛の形は子供を産むばかりじゃなくいいじゃない! 愛の形にこだわる必要なんてない! ってのがこの村のコンセプトよ」
「あぁ、何だか以前言っていたな……男同士、女同士、タマゴグループが違う者同士。子供を産めなくとも、身寄りのない子供を引き取ったりして育てるのもいいじゃないかって……」
「そういうこと、ロウエンはきちんと理解しているじゃないか。子供をポンポン生んで、ガンガン人口を増やしてばっかりだと、いずれ大きな街だけでなく、こんな辺境の田舎であっても仕事は飽和してしまう。そしたらまた仕事を得られる場所を作らなければならないっていう堂々巡り。そうならないためにも……」
「レナが子供を作れないのはむしろ好都合というわけか……」
「まー、言ってしまえばそうなのよね。村のコンセプトとしては、むしろ子供を作れなくっても構わないって感じなのよ。だからその、ロウエンとしてはどうなの? 私としては、例え子供が出来なくとも、愛の形って子供を産んで育てる事だけじゃないでしょ? 二人がお互いに幸せになる道を探すことが愛というものだと私は思うし、ロウエンはただレナちゃんがどうすれば幸せに慣れるのかを考えればいいのよ。
 子供を産めないことに、そう強くショックを受ける事よりも、どうすれば今以上に幸せになるかを考えてあげなさい。子供を産めないことを補う工夫をしてあげなさい」
「うーん……補う、かぁ……ナイジャがいてくれれば喜ぶんだろうけれど。ナイジャはまだお尋ね者であるうちはこの村には来てくれないだろうし……」
「確かに、ナイジャも一緒なら喜ぶかもしれないけれど、そういうのは他人に頼らないの。ロウエン自身が喜ばせてあげなきゃダメでしょう?」
「うん……だよな」
「じゃ、例えば何か一緒に買い物でもしてあげるとか……レナちゃん、可愛いもとか好きじゃないの?」
「あんまりあいつ、物欲はないみたいなんでね。どちらかというと……誰かと一緒に居るのが好きみたいで……」
「じゃ、一緒に居てあげればいいじゃないの。お仕事を一緒にやるのとかもいいかもしれないけれど、レナちゃん落ち着いて一緒に居られる時間が何より好きなんじゃないの? 例えそれが性行為をともわなくとも、一緒に寄り添って寝てあげるのもいいものよ?」
「うーん……それもそうかぁ……」
「そこから先は、貴方が考えなさいな、ロウエン。村長はおばさんだから、今の若い女の子の気持ちなんて分からないのよー」
 話しているうちにロウエンも何かつかめたようで、それを感じた村長は、これ以上のアドバイスは無用と考え身を引いた。
「いや、ありがとうございます村長。俺も俺なりに色々考えてレナを喜ばせるよう頑張りますから」
 ロウエンも、これ以上アドバイスを貰っても、結局のところ村長のアイデアをそのまま実行するだけになってしまうからと、村長のこれ以上の助言は望まなかった。

 さて、そうやってロウエンが村長に相談してから二日後。ロウエンはギルドの依頼に目を通していた。ギルドから回される依頼は報酬も条件もピンキリで、高難易度かつ有力な依頼人がつく仕事は、特に良い条件で仕事を回してもらえることになっている。
 プラチナランクを越えるようなダンジョニストだけが受けられるような高難易度の依頼は、時に国や大陸をまたいで舞い込むこともある。そういった限られた依頼の中には、成功報酬の中に交通費を支給してくれるものも存在する。
 ロウエンとレナは、主にレナの活躍によりそのランクをプラチナランクにまで引き上げられており、依頼によっては現場に向かうまでの交通費を保証してもらえるほどの水準にまで達していた。
 ロウエンは以前使っていた名前がお尋ね者になってしまったため、この村に来るにあたって、新しくダンジョニストの登録をやり直していた。そのため、まだこのダンジョニストバッジを手に入れて一年も経っていないのだが、それでもプラチナランクを手に入れることが出来たのは、レナが大物のお尋ね者を何人も捕まえてくれたおかげだろう。
 ネッコアラを倒してから半年で、捕まえたお尋ね者は二〇を超えている。中には長年誰も捕まえられなかった大物もいるため、レナの功績は計り知れない。

 そんなレナのおかげで遠くの依頼も受けられるようになったわけだが、ロウエンが選んだ依頼は、彼の故郷近くに出没する猟奇殺人鬼の討伐。小さな子供ばかりが、内臓を食い荒らされた上に、証拠を消すために死体を焼かれた状態で発見されるという、最近では例の悪夢の幻影のせいでめっきり見かけなくなっいた凶悪犯罪者だ。
 そのお尋ね者がどんな種族なのかすらも定かではなく、今は目撃情報を募っている段階であるが、レナならば相手がどんな種族かすらわからない状態でも、見つけることは出来るだろう。
 あのネッコアラが世界中に迷惑をかけたのは事実ではあるが、こういった犯罪者が少なくなったことは、やはり喜ばしいことであった。
 そう思うと、こうして痛ましい依頼が飛び込んでくるたびに、ネッコアラを退治しないほうが世界は良い方向に進んでいたのかもしれないと、微妙な気分になるのが最近の日常である。

 家に帰り、そのお尋ね者の張り紙の写しをレナに見せる。
「これ、昔私達が住んでいたところに近い場所の依頼ですね。どうしてわざわざこんなところの依頼を?」
 近所でもそれなりの依頼はあるのに、わざわざそんな依頼を持ってきたことが疑問で、レナは首をかしげていた。
「あぁ……それなんだけれどさ。なんでもレナをいじめていた奴らは、何だかいろいろなところでやらかしていたみたいで、結構恨まれていたようで、幻影に殺されちまったらしいんだ。その他にも色々騒ぎのどさくさのせいで混乱しているらしくって、俺みたいな小物のお尋ね者に構っている場合じゃないみたいなんだよな」
「ロウエンさん、小物なんですか?」
「まあな。相手はお金持とはいえ、俺が起こしたのはケチな暴行事件だ。レナを助けるために暴力を振るったっていう状況をどこまで伝えたかは知らんが、状況的に再犯の可能性も薄いって判断されたんだろうよ。俺のことなんかよりももっと別のものに構う必要が出てきたんだろうな……
 で、まぁ。そんなわけで、一度故郷に顔を出してみようかと思っているんだ。やっぱり、挨拶もせずに出ていったわけだから、さすがに故郷の様子も心配でさ……」
「そうですね……でもその前に、こっちの仕事も何とかしないといけませんね。まだ、種族も分かっていないみたいですが……」
「あぁ、それが問題なんだ。種族が分からないから、レナの能力で何とか犯人を割り出すことが出来ても目撃していなければいいがかりになっちまう。だから、襲うところを……決定的なその瞬間をきちんと見届けなくちゃならねぇ。かと言って、近くで見張っていても気付かれる可能性があるから、目が良いか何らかの方法で周囲の様子を探れるような奴が言い。
 幸い、相手は小さい子供を長い時間甚振った形跡があるようで、一瞬で殺されてしまうようなことはないと思われるが……けれど、そいつを泳がせておき、なおかつ子供に危険が及んだ場合、すぐに止められるような奴が必要になる。
 何より、逃げられたらたまらないから、逃がさないための何らかの手段も欲しい。」
「……割と厳しい条件ですけれど、ナイジャなら不可能じゃないですね」
「あぁ。相手がゴーストタイプじゃなければ、影縫いで何とかなる。その、あれだ……放っておけるようなお尋ね者じゃないし、ナイジャを呼んで捕まえたら、久しぶりに三人一緒にゆっくりするのもいいんじゃないのか? ナイジャはほら、いつでも呼んでくれって言っていただろ?
 あいつの仕事も、いつも仕事があるわけじゃないだろうし……」
「っていうか、仕事がない時ってナイジャは何をしているんでしょうかね?」
「……自給自足して悠々自適に暮らしているとか?」
 レナに尋ねられて、ロウエンは苦笑しながら答える。そういえば、ナイジャの仕事はどう考えても普段から仕事があるタイプのものではない。しかも、そのくせロウエンが尋ねた時は三回ともいたわけだ。偶然じゃなければ大体はあそこにいたと考えてよいだろう。
「まぁ、考えても仕方ないことだし、聞いてみればいいか……あいつ、自分のことは自分からは語りたがらないけれど、聞かれれば答えてくれそうだし」
「そうですね……これ以上の被害を食い止めたら、三人でのんびり食事でもして……」
「その後は、三人そろったことだし。たまにはお前を抱かせてくれ」
 ロウエンは、言うなりレナの頭を乱暴になで、そのまま頭を上げさせて、これまた乱暴に口付けをする。ロウエンは照れ臭かったのか、そのままレナを乱暴に抱きしめて顔を見せないようにして、当のレナは彼の温かい胸板に甘えるのであった。

 ナイジャと一緒に行動することが決まったところで、ロウエン達は新しく購入したテレパシー球と呼ばれる道具を使う。あのネッコアラの一件があってからというもの、世界中を撒き込んだ大問題を解決したことから、高額なそれを恩赦として譲りうけたもので、これを使えば遠くにいる者同士テレパシーで通じ合うことが出来るという優れものだ。
 動画、画像、音声、文字の順番で容量が大きく、容量が大きな情報を送ると燃料となるサイコパワーが急激に消費されてしまうため、なるべく容量の小さい文字を送るのが理想的である。サイコパワーは村長が補充してくれるが、きっちりとお金を取ってくるためそう多用は出来ない。
 そのためすこしばかり味気ないけれど、文字だけを送ってナイジャと連絡を取る。すると、ずっと連絡を心待ちにしていたのか、彼はすぐに連絡を返してきてくれた。平静を装った文章から見え隠れする彼の嬉しそうな態度に、レナとロウエンはニヤ付きながら彼との再会を心待ちにするのであった。


 数日後、レナとロウエンは空路ではなく海路で大陸を渡り、カイリキー達屈強な男達が激しく筋肉を躍動させて漕ぐオールと、帆を用いた風力利用を合わせるガレー船で海の旅を満喫した。
 カイリキーが操るオールは、最近の加工技術で丈夫さを増した木材を使っているため幅広かつ長大にすることが出来、今では船も風力に頼るのみでは出せなかったスピードを実現している。その速度はレナでも本気で泳がなければおいていかれてしまうようなスピードが出るため、わりと近所に存在する大陸間を渡る程度ならば、二日間ほどでついてしまう。空路での移動ばかりだと味気ないということで、たまにはレナのホームグラウンドである海を満喫してみたが、レナもこれを気に入ったようで、時折海に飛び込んではゆっくりと体を伸ばして泳ぐことを楽しんだ。
 ロウエンは船の漕ぎ手にならないかと冗談めかして誘われたし、少しだけ手伝ったりもして、その力強さを褒められたりもしたが、やはりただ舟をこぐなどという単純な労働はロウエンの性には合わない。怪我でもしてダンジョニストを引退したら考えるよと言ってその後はレナと一緒にゆっくりとしていた。
 船は客室なんて親切なものはなく、客は全員大部屋に胡坐をかいているような船だったため、二人はべたべたとくっつくのも、周囲の目を気にしながら、ほどほどに行い、波に揺られながらの旅を満喫して二人は故郷の大陸へと降り立った。
 故郷の大陸までたどり着いた二人は、二人で車に乗って、トリデプスがけん引する車をガタガタ揺られながら街を目指す。ナイジャとの約束の時間までは余裕を持たせたため、熱帯の空気を楽しみながら二人は悠々と目的地を目指した。

 しかしながら、目的地が近づくと、レナは急激に不穏な気配を感じ取るようになっていた。ナイジャと合流する前に歩きだそうとするレナを宥めるのにも苦労するほどで、あまりに危なっかしいのでロウエンはレナとずっと手を繋いでいる羽目になる。
 お尋ね者の殺害ペースは二週間に一度ほど。確かにゆっくりしすぎたおかげでまた被害者が出ている可能性もあるかもしれない。レナも目的地に近づくまでは実感がなかったのだろうが、ここにきてそれを実感として感じてしまったのだろう。
 血走った目で、誰もいない方向を。場合によっては壁を見つめている始末だ。
「ホッホウ! 待ってたか、二人とも!? しかしロウエン……レナはいったいどうしたんだ? 人相が違うぞ? お前浮気でもしたんじゃないか?」
 ナイジャと合流すると、彼の第一声がそれである。確かに、手を繋いでいないとすぐにでも犯人を捕まえに行ってしまいそうなレナの形相を見れば、再会を喜ぶよりもそこに疑問を持つのもおかしくはない。
「レナは、凶悪な犯罪者を見るといつもこうだ……その、自分本位で他人を傷つける奴に対しては、こうやって全力でそれを止めに入ろうとする……なんか、人が変わったようというか、多重人格というか……もはや、なんか別の誰かに取り憑かれているような感じなんだ」
「そうなのか? 俺は凶悪犯じゃないのか」
「分からん。お前は確かにたくさんの者を殺したかもしれないが、自分本位じゃないからレナ的には問題ないんじゃないのか?」
 言いながら、ロウエンとナイジャはレナを見る。
「ナイジャは大丈夫……殺したのは決して褒められたことじゃないけれど、そこに貴方なりの善意があったのは知っている」
「ホッホウ? 知っているってお前、俺からの一方的な話でしか知らないくせに……自分で言うのもなんだが、一人の口から語られた言葉だけでその人となりを判断するのは危険だぞ? 村長からもいろいろ聞いているとは思うし、奴隷解放のジュナイパーはあっちの大陸じゃ都市伝説になっているから色々聞けるとは思うが、それにしたって……
 まるで、俺以上に死者の気持ちを聞いているかのような発言ではないか?」
 レナに尋ねると、レナはハッとした表情になってナイジャを見る。
「死者……なの?」
「いや、俺に聞かれても困るが……」
 レナは確かに誰かの声を聞いてはいるが、その正体は未だにつかめていない。
「でも、確かに私は誰かの声を聞いているような気がしてならない」
 イデ、という名前だけはおぼろげにつかめているが、それが何者であるかもつかめていない。
「……イデ、か。ふむ」
 ナイジャはその名を聞いて、何か聞き覚えがあるようなそぶりを見せたが、それ以降は特になのも言うことなく、レナの頬に触れる。
「そんじゃま、とりあえずはお嬢ちゃんの気分を宥めるためにも、その犯人捜しを始めるとしようか? 俺は備考も得意だからね、お二人さんには出来ない仕事をがんばらせてもらおうか」
「お願いします……その、ナイジャ、よろしくね」
「なーに、俺達は家族だろうよ。気にするな」
 思いつめたような表情をするレナに、ナイジャは朗らかに言う。
「俺からも頼むよ」
 ロウエンも同じくナイジャへと声をかける。ナイジャは黙って微笑み頷いた。
「それでは、案内します……」
 ナイジャと合流したレナはすぐに出発し、そして数時間歩いたところでレナは確信めいて、ごく普通の農村でごく普通に一人暮らしをしていたバルジーナを指し示し、あいつが犯人だと宣言する。ロウエンが旅人を装い、お金と引き換えに宿を借りて、村人の噂話なんかをすこしばかり探ってみたところ、どうにもバルジーナの彼女は未亡人らしく、一度は嫁に迎えられて嫁いだのだが、夫が病で死別してからというもの、子供もなく独り暮らしをしながら時を過ごしているそうだ。
 それを睨みつけるレナの表情はこっちのが人を殺してしまうのではないかと思うほど鋭く、それを見守るナイジャやロウエンは、早くバルジーナが具体的な行動をしてくれることを祈るばかりであった。
 しかし、お尋ね者になってから一応警戒しているのか、バルジーナは中々動くことはなかった。レナはこれまで間違えたことが無いし、ナイジャもバルジーナに取り憑いている多くの幽霊を見て、あいつが犯人なのはほぼ間違いないと断定している。
 かといって、むやみやたらと動くことは出来ず、監視を続けて一二日の時間が過ぎたところで、バルジーナが夜中にこっそり飛び出して闇夜へと溶けていく。
 これを追えるのはナイジャしかおらず、彼はバルジーナを追い……開け放しの窓から侵入し、音もなくソルロックの子供を浚って連れて行く一部始終を監視し、そしてそのバルジーナが森へと身を隠したところを襲撃、子供への凶行を阻止した。
 この地域では、基本的に言葉も満足に話せない赤ん坊であっても子供と親の寝室は別である。熱帯に近い気候ということもありそのため、種族によっては夜にこうして襲われてしまえばぐっすりと眠っていた子供は鳴き声を上げることも叶わずに闇夜へと連れ去られてしまうが、闇夜を行くのであればジュナイパーに勝てるポケモンは少ない。
 バルジーナが暴れるのソルロックの眼を潰して逃走を封じようとした際に、ナイジャの影縫いがバルジーナを捕らえ、そして彼の想いはレナの力と呼応し、無限暗夜への誘いとなってバルジーナを襲う。
 狙撃と体当たりを組み合わせるシャドーアローズストライクも悪くはないが、視認した場所に巨大な黒い手を出現させるこちらの技の方が早く、そして誤射を出来る限り減らすことが出来る。
 四本の巨大な手の内、一本はソルロックの子供を守り、残りの三本はバルジーナを攻撃する。悪タイプ相手ゆえ、効果は薄く距離があるためその点でも威力はあまり高くないだろう。
 つまり、今の一撃では倒すことは叶わず、追撃しなければならない。

 先んじて影縫いを撃っていたため、バルジーナはもうそこから逃げることは出来ない。ナイジャへと向かっていくことは出来ても、ソルロックの子供を追うことは難しいだろう。
 影縫いの力で逃走を封じられたバルジーナはナイジャへと戦いを挑むためにナイジャの方へと向かう。悪タイプである彼女は夜目が効くが、しかし木々の隙間を巧妙に縫って飛んでくる矢羽を避けるのは容易なことではない。
 ロウエンほど戦いに慣れた者であればともかく、彼女は戦いに関してはそれほど優れた才覚はなく、彼女の鋭い足爪がナイジャに届く前に全身を矢羽まみれにして堕ちる。ナイジャはそれを蹴飛ばし、強引に睡眠の種を口の中にねじ込んで眠らせる。
 ソルロックに逃げられて行方不明になられでもしたら困るので、彼をきちんと捕まえて親元に返してあげねばなるまい。ソルロックはナイジャを見ると、バルジーナの仲間かと思って全力で逃げようとしたが、ナイジャはそれを優しく捕まえてバルジーナと同じく強引に眠らせた。
 それが終わると、ナイジャはレナ達にテレパシー球で連絡を取り、ソルロックの家がある村で合流しようと伝える。ナイジャは子供の両親にお尋ね者のことや、バルジーナに相当の幽霊がついているため、もしかしたらお尋ね者ではないかとあたりをつけていたと告げた。
 まさかレナの勘を頼りにしたとも言えないため、この辺りは適当に嘘を混ぜ、レナから借りたダンジョニストバッジを見せて親を安心させて、ナイジャはバルジーナをギルドに引き渡すからもう大丈夫と宣言した。

 バルジーナを引き渡し、ギルドから金を受け取り三人はようやく一安心できる。レナの興奮も収まり、興奮のあまり不眠症になっていたレナは。バルジーナが保安官にℋき渡されるのを見届けると、倒れるように一日中眠っていた。
 そうして、一日開けてレナが起き上がると、ナイジャはこの十数日の間に思いだしたことをいろいろとまとめて、まだベッドにいる彼女に語る。

「レナ。お前が話していた、レナって名前には覚えがあるんだ。まぁ、なんだ……俺と似たような思考を持っている奴だったな。ありゃ十年前くらいのことだったな」
「あれ、お前何歳だっけ?」
「ホッホウ! ロウエン? お前な。仮にも女相手にそれはないんじゃないのか……いえ、無いんじゃないかしら? あたしだって一応は乙女なのよ?」
「いきなりナイジャからナタリアになるのはよせ!」
「まあいい。アタシは29歳よ。あなたの年上だと思うけれど……」
 ナイジャに年齢を告白されると、ロウエンは口をあんぐりと開けて呆然としていた。
「俺と……同年代じゃないのか? 俺、一八歳なんだが……」
「うふふ、あたしって若いでしょう?」
「若すぎだろ……同年代かと思ったから聞いたんだよ、村長とかには聞かねえよ……」
「じゃ、年齢を聞かれたのは褒め言葉として受け取っておこうかしら?」
「本当、すごいですねー、ナタリアさん。美容の秘訣は何ですか?」
「うーん、匂い消しのために腐葉土を体に纏っていたら、何だか肌がきれいになって若く見えるようになったのよ」
「そうなんですか、私もやってみます」
 ナタリアが語る美容の秘訣に、レナは興味津々だが……
「いや、草タイプにしか効果ないだろそれ」
 ロウエンが突っ込む通り、腐葉土から栄養を摂取できるのは、おそらくナイジャが草タイプだからである。水・フェアリータイプのレナにはきっと効果はない。
「あー、それもそうか……っというか、何の話でしたっけ?」
「俺も何の話か忘れそうだよ……」
 話がいきなりそれまくっているが、ロウエンはナイジャもとい、ナタリアの年齢のことで、今まで何を話していたかすらどうでも良くなってしまった。
「まぁ、ともかく十年前の話よ……あー……十年前の話だ。俺はな、奴隷にひどい扱いをしていた探検隊チームを襲ったが返り討ちに遭い……そのまま保安官に引き渡される前に、俺の体を弄んだのは前に話したな?」
「あぁ。そういやその時はお前の事を男だと思っていたが、その探検隊はきちんと女を犯していたんだな……ホモじゃなかったか」
「まあ、な。あれを村長が話している時は、性別がばれるんじゃないかと焦ったぞ。正直、その時はロウエンにはバレてもいいと思っていたが、ちょっとゼントにバレるのは何か嫌だったからな……で、その時おれは村長に救われて、村を作らないかと誘われたわけだが、俺は断った。
 迷惑を掛けたくなかったからな……俺なんかが村づくりに関わっても、役に立てる気がしなかった。単純労働と娼婦と強盗以外ではお金を稼いだこともなく……それに、俺がお尋ね者であることがばれてしまうと村長にも迷惑をかけかねない。だから、せめてお尋ね者も解けて綺麗な体になったら村に行けるようにとお尋ね者の解除を待っているんだが、一〇年経っても中々お尋ね者を解除されなくってな……」
「そんだけ若い見た目なんだし、もうお前を見てもお尋ね者だと思う奴はいないんじゃないのか? 義足だってこともバレていないんだろ?」
「……まぁ、念には念をだよ。なぜって、とんでもない奴がいるんだもの。俺のこと、何百人も殺している奴だろって、理解したうえで話しかけてくる奴が。そいつがイデだ」
 ようやく話が本題に入ったところで、ロウエンとレナはごくりと唾を飲む。
「その当時、俺は強盗殺人をぱったりとやめてまじめに生きようと頑張っていた。罪人として追われることのない綺麗な体になりたいっていうのもあるけれど、村長にも色々言われたんだ。『世の中をよくするために、奴隷を虐待する奴を殺しているならそうしたってかまわない。けれど、貴方自身はそれで幸せなのかしら? 自分の幸せを考えたっていいのよ』って……」
「俺がお前に言われた台詞と似ているなぁ……自分の幸せを考えろって」
「まあな……あのセリフは村長の受け売りなんだよ、俺がお前の背中を押した時のセリフは。それで、村長の言葉を聞いて、俺も普通の女の子に戻ろうかなって思ったんだ。まー、色々無理があったけれどな。
 俺のような得体のしれない女が、ふらりとどっかの町に現れて、『この家を買うのでくださーい』って、建売住宅の持ち主に金貨をどっさり置くわけにもいかんしな。家を買う金はあっても、それを使う機会はなかった。
 定住できなければおちおち恋愛も出来ない、普通に就職も出来ない。運び屋をやるにも、普通の運び屋をやるには体力というか、飛行能力が低すぎるって言われるし。
 だから、結局裏家業として、どんな奴でも運んでやるだなんて怪しい商売しか出来なかったんだ。そんな時にイデと出会った……イデは、人里から少し離れた森で暮らしている俺のねぐらを訪ねてきたドヒドイデで……知ってるか? こう、青緑のドーム状の触手に包まれた小さな本体と、触手についた大きな棘が紫色っていう、なんというかいかにもな毒々しい色合いのポケモンで、実際タイプも毒・水の奴だ。
 そいつが……俺のことを見て、言ってきたんだ。『名前も顔も知らない方ですが、とりあえずはこんにちは……それで、えーと……貴方は、昔はたくさんの人を殺していたとお見受けしますが……今は何故、こんなところで妙な商売をやっているのでしょうか?』ってなもんでな。言っていることに間違いはないんだが、間違いがない事が異常なんだよな」
「おいおい、怪しさ全開じゃねえか」
「あぁ、だから俺もすぐさま距離を取って弓を向けた。何より、気持ち悪かったからな……相手も、闘うつもりはないし、断っても殺すとかそういうのはないって言ってくれたが、俺もあのころはお尋ね者になって疑心暗鬼だったから、中々矢を構えた翼を降ろすことは出来なかった。
 とりあえず、いつでも攻撃できるような心が前で相手の話を聞いていたけれど……その内容ってのがだ。要約すると『世界中の悪人をガンガン殺しまくって世界を平和にする計画があるんだけれど、協力してくれないか?』ってことだった。
 俺は、まぁ……村長と一緒に暮らしたいからなぁ。もう、殺しは卒業して自分のために時間を使いたいって理由で断ったよ。そしたら、イデは残念そうに『そうか』と言って、簡単な挨拶をして去っていった。まー、悪人を殺すっていう目的というか目標はちょっと壮大すぎてついていけなかったけれど、それを誰かに手伝うことを強要することはないみたいだった。
 何をもってして悪人なのかも詳しくは話していなかったし、今思えば、話だけでも聞いておけばよかったとも思っている。今でも、あいつが何を思っていたのかはちょっと気になるしな」
「……お前が強盗殺人犯であることがばれた原因は?」
「さあな? レナの能力を考えると、何か妙な能力でも持っていたんじゃないのか? 例えば、誰かから怨みを買っている人物を炙りだす能力とか……」
「いや、そんな単純な能力なんでしょうかね? 私は、街ですれ違っただけの誰かでも、確かにそれが悪人かどうかを嗅ぎ分けるような、そんな能力は持っていますし……それで、街で興奮してロウエンさんに迷惑をかけたことも何度かありますが……ナイジャには、反応しなかった」
「ナイジャが悪人じゃないのか、それとも今は身を引いているからか、悪意から犯行に手を染めたわけじゃないからか……」
「分からんね。今でも、ナタリアとして振る舞っている時に、女が無防備に独り歩きをしていると思ってちょっかいだしてくるような男には容赦なく制裁を加えている。時には殺している。殺すのは悪いことだとは俺も分かっているが、それでもレナが反応をしないところを見ると……まぁ、レナにもイデとやらにも、何かしらの基準があるのだろう。
 ……それでだ。俺が出会った、変わり者のドヒドイデと、レナが口走った謎の人物、イデの名前が同じなのは偶然同じ名前だっただけなのか? それとも、同一人物を指しているのか?」
「私に聞かれても困ります……その、もしも同じ人物を指しているのならば、会ってみたいですが……」
「ナイジャとしてはどうなんだ?」
「あの、イデとか言う女……あいつ、レナとほとんど同じ喋り方だったからなぁ。レナと比べると、少し声が高かったけれど……それは、なんというか、体のサイズの問題かもしれないしな。あと、なんというか……あのイデは向かい合っているだけでなんというか、恐怖というかそわそわするというか……
 そりゃ、俺の正体を一目で見切ったんだ、恐怖を覚えるのも無理はないし……いや、そうだ。俺はあいつと森で話す前に街で出会っていたんだ……街には他の者達もいたけれど、誰一人として、ただそこに居るだけの彼女を無視できる奴はいなかった」
「棘ついているし、色も派手だから目立つだけじゃね? 誰だって毒の棘が刺さるのは嫌だろ?」
 ロウエンの言葉に、ナイジャは踏むと口に手を当て考える
「どうだろうな? そうかも知れないが、それだけじゃない気がする、レナの、一緒に居るだけで心が落ち着いたり、癒される能力とは真逆の方向だな」
「おいおい、それじゃイデの能力は抱きしめられたら毒に侵されるってか? よっぽど未熟な幼児でも無けりゃ、驚いた時でもない限り毒なんて出ないだろ?」
「そりゃそうだろうな。流石に……不安にさせる程度のものだと思う。普段は、な……まぁ、本気を出せばもっとすごいとか言われたわけでも無いし、本気を出されたわけでも無いから分からんが。何にせよ、無関係とは思えないが……レナの敵とは考えにくい、かな?
 ただ、それは……」
「それは?」
 含みを持たせた言い方をするナイジャにロウエンが尋ねる。
「待ってくれ。ちょっと俺だって考えをまとめるのに必死なんだ……えっと、そうだな。ネッコアラは俺達があいつの邪魔をするのならば排除するつもりだったが、俺達を敵視しているわけではなかった。だから、俺達がイデの邪魔をしない限りは……イデは敵にも味方にもならんだろうという感じだ」
 ナイジャは深刻そうな顔をして言うが、当のレナはニコニコしたまましれっとした態度だ。
「まぁまぁ、敵だとか味方だとか、そんなのにこだわらないで仲良く出来る人とは仲良くするべきですよ」
「それが、ネッコアラみたいに世界中に迷惑を振りまくような奴だとしてもか?」
「うーん、それはちょっと……」
「そう言うことだ。イデも、悪人は殺すべきと言っていた。もしもあのネッコアラのリーダーが奴だとすれば……俺達を敵視しているかもしれないし……なんて、今は考える必要もないか。今のところ、例の幻影も全然出てこないわけだし……」
「そうだな、心配しすぎていても人生つまらんし、気軽に考えていたほうが良さそうだ。それこそ、レナが言うように出来るなら友達になるつもりでいるくらいの方が丁度いいかぁ?」
 イデの話題は気になるところではあるが、かといって今のところそれが何か問題を引き起こすわけでもない。ナイジャの言い分にロウエンも納得し、脱力する。
「うーんでも、もしかしたら生き別れの姉妹とかかもしれませんし、出来るならあってみたいですねー」
 レナは相変わらず、お気楽な様子であった。
「それでだ、レナちゃん。一日中眠っていたわけだけれど、疲れはとれたかい?」
「はいな、おかげさまで」
 レナは小首をかしげながら満面の笑みで告げる。
「じゃあ、お兄さんと一緒に遊ぼうか?」
 そんなレナに愛おし気に顔を寄せて、ナイジャはニヤリと笑みを浮かべた。
「お前はお姉さんだろ」
 炎タイプなのに、全く熱を感じさせない呆れた口調でロウエンは言った。
「ナイジャさん、遊んでくれるんですか?」
 そんな冷ややかな反応のロウエンとは違い、レナは手放しに喜んでいる。
「そりゃそうよ。俺たち家族だけれど、俺はほら、お尋ね者だから一緒にいられなかったじゃん? だから、こうして一緒になった日くらい遊びたいわけで」
「えへへ、いいですよ。私もナイジャと一緒に遊びたいと思っていましたし……ロウエンさんもいいですよね?」
 ナイジャの積極的な様子に、レナは肩をすぼめるなど少々照れた様子で、しかし笑顔で尋ねる。
「おう、元からそのつもりだし。でも、遊ぶって言ってもその……鬼ごっことかやるわけじゃないよな、二人とも?」
「もう、乙女にそんなこと言わせないでくださいよ」
「そうよ、あたしだって乙女なんだから」
「お前は男何だか女何だかはっきりしろナイジャ! いや、ナタリア! 都合のいい時だけ女ぶるな!」
「ふう、全く、ロウエンは器量の小さい奴だな、ちんちんもついていないんだから、男でも女でもいいじゃないか」
「ホントお前はいい加減だな」
 ナイジャの言い分にロウエンは呆れ、ため息をつく。
「心配せんでも、今日は男のつもりでレナちゃんを攻めるよ」
「え、そうなんですか?」
「だって、前回はロウエンを二人がかりで攻めただろ? それなら、レナちゃんも二人がかりで攻めないと不公平じゃないか」
「それだとナイジャのことも二人がかりで――」
「だから、覚悟してねレナちゃん!」
 ロウエンは相変わらず『ナイジャのことも二人がかりで攻めないと不公平じゃないか』と言おうとするも、その言葉はナイジャの声にさえぎられる。いつか本当にしばいてやろうかと心に決めつつも、ロウエンは今回はとりあえずレナを二人がかりで攻める方向でいいかと、ナイジャに合わせることに決めた。
「え、えーと……二人がかりですか!? それはその、まぁ……あまり乱暴にしないでくださいね」
 ナイジャの態度にレナも少々驚いているが、ロウエンとの行為もマンネリ気味なため、困ったような、狼狽えたような口調の中にはかすかに期待が見え隠れしている。
「でもその前に、ちょっとお腹がすいているし喉も乾いているので、それが済んでからにしません?」
 そういえば、ロウエンとナイジャは昼食まですでに済ませているのだが、レナは一日中眠っていたとはいえ飲まず食わずである。
「……いいよ、下で食事がとれるからそれが終わったら、だね」
 出鼻をくじかれてナイジャは少々ひきつった顔をしているが、こればっかりはレナの体のことを優先せざるを得ないので、従うしかなかった。しかし、考えれば目覚めてすぐにそんな性行為できるというあたり、レナの体はやっぱりどこか変だ。
 レナがただものではないというのは間違いない事であり、レナと深いかかわりがあると思われるイデもまた……。どんな能力を持っていようと、何もしてこないのであれば考える必要もないわけではあるが。


 レナは食事をとり、その後食休みをして、ようやく三人は大人の遊びに入る。レナはベッドに横たわるとむずがゆそうな笑顔を浮かべてロウエンとナイジャを見る。
「二人に見下ろされるって、なんだかこう、興奮しますね」
「嬉しいねぇ。俺も張り切っちゃうよ、レナちゃん」
「レナ、お前に無理はさせないつもりだから、だめそうだったら言ってくれよ」
「いえいえ、ロウエンさん。今更私が二人に遠慮することなんてありませんよ……ですから、ガンガンやっちゃってください」
「うんうん、嬉しいことを言ってくれるね。じゃあレナちゃん、体を楽にして」
 レナの了承を得られたところで、ナイジャはレナの下半身をまさぐり、嘴を彼女の口へと合わせる。鋭い牙がずらりと並ぶロウエンの口とはまるで異質なナイジャとの口付けに、レナは新鮮味を感じているのだろうか、彼の背中に腕を回してむさぼるように口付けをしている。
 その間、まさぐられる下半身をぴくぴくと上下させているのは、快感を得ているからなのだろう、本能的に雄の動きに合わせている。
 ロウエンも見ているだけでは辛いので、レナの胸を指で撫で首筋から頬にかけてをざらついた舌で舐める。レナはびくびくと体を震わせ、明らかに感じている様子を見せつけながら、潤んだ煽情的な目を向ける。
「ナイジャ、さん」
 そのうち、レナは口を話してナイジャと眼を合わせる。
「うん、どうしたお嬢ちゃん?」
「ロウエンさんとも、その……」
 レナはロウエンの方を見ておねだりする。
「ロウエン、お嬢ちゃんを待たせちゃいけないぞ」
 ナイジャは素直にのいてロウエンに譲り、笑みを湛えて二人の口付けを見守っていく。やはり、二人の口付けはこなれており、何度も繰り返されただけあって申し合せたかのように甘い落ち着いている。
 下品に音をたてたり吸い付いたりするようなものではなく、静かにねっとりと絡み合うようなそれはレナをリラックスさせ、強張っていた体の緊張もだいぶほぐれていく。ナイジャを信頼していないわけではないが、まだ体はナイジャの事を覚えていないため、彼の攻めに対しての反応は少々とげとげしい。
 新鮮な刺激に対する期待というのもよいものだが、慣れ親しんだロウエンが与えてくれる刺激というのもまたいいもので、明らかに違う反応を見て、ナイジャも少々嫉妬した。そのまま見ているというのももったいないので、ナイジャは自信の体から羽を引き抜いて、レナの体を所々くすぐる。むずがゆいのかレナは体をくねらせ嫌がるも、ロウエンもその反応を面白がってかレナの体を動かないようにがっちり抑えてしまうため、レナは体をよじることも難しい。
 顔を歪めてはいるものの、嫌悪感の中に快感が混ざって本気で嫌がっているわけではないのがまたかわいらしい。思わず唾液が滴ると、レナもピクリと体を震わせた。
 そうして弄っていれば、彼女の体もうすっかりと出来上がっている。膣内を保護するための愛液もしみ出し、ロウエンを受け入れる準備は万端だ。残念ながらナイジャの方は受け入れるものがないので何とも言えないが、そろそろかとロウエンがレナに目くばせをすると、割り込むようにナイジャが前に出る。
「まぁまぁロウエン。レナのために美味しいものは最後に取っておくほうがいいと思うぜ? 女を喜ばせるなら、やっぱり男の象徴がいいだろ?」
「美味しい物って……俺の方が美味しいって言いたいんだったら……ナイジャ、お前自分があまり満足させられない自覚はあるんだな」
「……気にするな。愛さえあればサイズなんて関係ない」
 ナイジャは女性だし、タマゴグループも飛行であるため雄であってもペニスが存在しない。サイズ云々の問題ではないのだが、ナイジャはレナと楽しむことをやめるつもりはないようだ。
「実際、気持ちいいんですか? 入れるものありませんけれど?」
 追い打ちをかけるようにレナが問うけれど、ナイジャは苦笑するだけで狼狽えはしない。
「なに、こすりあわせるだけでも雰囲気は楽しめるさ」
 ナイジャはそう言って強がるが、二人は首をかしげている。
「まぁ、飛行グループ同士ならそれで楽しめるんだろうな」
「私達陸上グループですからねぇ」
 文句ではないが、ナイジャでは楽しめないと暗に言われているようで、こういう言葉はナイジャの心に地味に刺さる。
「お前ら、地味に傷つくからやめてくれ……」
 こんなことを言われ続けていれば気分も萎える。気分が萎えれば楽しめない。そんなことよりも案ずるより産むが易しだ。
「とにかく、やってみなければわからんだろう? ロウエンも言ったじゃないか、こういうものは体ではなく心でやるものだと」
「ま、それもそうだな」
「だいたい、お前だって俺に攻められたらあっけなく射精したじゃないか。忘れたとは言わさんぞ?」
「そ、それは……」
 その時は、しばらく抜いていなかったからだと言い訳もしたかったが、それでもいとも簡単に果ててしまった事は事実である。
「レナちゃん最近ご無沙汰なんだろう? お前さんの立ち上がったおちんちんを見ればわかるぜ、お前が最近レナに何もしてあげなかった証拠だ。レナは欲求不満だぜ?」
「ってか、最近ずっとお尋ね者のことにかかりっきりでしたからねぇ、する暇もなかったですよね?」
「レナ、それを言ったらなんか台無しになるぞ」
 ナイジャはレナに冷静に突っ込まれ、ロウエンに同情されて閉口する。
「まぁ、その、なんだ。始めよう」
「締まらねえなおい……」
「私達ってなんだか締まらないのがいつもの事のように感じますけれど」
「それを言うなそれを……本当のことだから」
 このままでは会話ばかり長くなってちっとも先に進まないし、せっかくの興奮も冷めてしまう。そうなる前にとナイジャが話しを進めようとしたのに、レナはとぼけた言葉で水を差す。
「いいじゃないか。締まらなくたって。いつも同じじゃつまらないし、急いてばかりでもつまらない。俺はゆっくりじっくりとレナを楽しませるよ」
 などと落ち着いた風な言葉を使いながら、ナイジャはようやくレナを弄りにかかる。レナを押し倒して、体を密着させながら口付けする。
 嘴への口付けもさっきより慣れたのだろうか、レナは落ち着いた様子でナイジャのそれを受け入れる。目を瞑っているのは、緊張を解いた証拠だろうか。こうして抱き合って口付けをする行為、嫌いではないのだけれど。やっぱり、待たされている者があるとじれったくなるもので。
 ナイジャは意地悪なもので、レナの秘所への刺激はくすぐるように緩やかで弱い。ただでさえ最近ご無沙汰だったのは先程の会話通り。その上、久しぶりにナイジャも参加するとあって期待も高い。それなのに、肝心の物理的刺激がこんなこそばゆい物じゃ、もっと欲しくなってたまらない。もちろん、ナイジャはレナがそうやって我慢できなくなるのを待っていた。レナが、ナイジャを抱きしめる力を強くすると、それに呼応するようにナイジャは強く口付けをした。
 本当に欲しいのはそれじゃないけれど、激しい口付けというのもそれはそれで魅力的。ただ、手持無沙汰な下半身はより一層うずいていく。あまりに刺激がか弱いもので、自身で体に力を入れてでも刺激を求めるようになり、レナの秘所はひくひくと動いている。
 それを翼指で感じたナイジャは、ようやく良い頃合いまで熟れてきたかとほくそ笑み、レナの頬を撫でて体勢を変える。レナの腰の上にまたがり彼女を見下ろすと、潤んだ瞳で微笑むレナがとても煽情的だ。
 一応同じ性別だというのに、滅茶苦茶にしてやりたいと思うようになる。気持ち良くなって、頭が真っ白になってくれればやりがいもある。
「レナ、俺と手を繋いで」
「こう、ですか」
 ナイジャはレナと手を合わせ、自分の右手を相手の左手に、自分の左手を相手の右手に。いわゆる手四つの体勢になり、レナに上半身を支えてもらいながら上体を前のめりに傾けた。
 真下にレナの顔。腕に体重を預けると、レナは懸命にそれを支えてくれる。ナイジャは義足故、少しばかり骨の折れる作業ではあるが、その体制のまま下半身を前後に動かし始めた。ナイジャの総排出孔とレナの膣口が触れ合い、その摩擦で入り口近くの粘膜がすれて刺激が走る。いわゆる貝合わせという奴だ。
 ナイジャはもともとそういう風に、ペニスを入れずに交尾する種族だからか大いに感じているようで、レナを気持ちよくさせたあげようと意気込んだわりには、彼の方がずっと気持ちよさそうな顔をしている。
 レナの方はというと、表面的で物足りない刺激とは言え大好きなナイジャとこうして遊ぶのは非常に嬉しいようで、その気分の高揚が手伝ってか、随分と幸せそうな顔をしている。
「どうしたんですかぁ? 私よりもナイジャの方が気持ちよさそうですよ?」
 けれど、レナがまだまだ余裕なことに変わりはない。散々偉そうなことを言って、自分よりもよっぽど余裕がなさそうなナイジャを見て、レナは嫌らしく尋ねる。ナイジャもああまで大きな口を叩いたのに、こんな調子だとプライドが保てなそうで面白い。
「いうじゃないかレナ……そんなことを言っていいのかな?」
「はい、気持ち良くなるのはいいことですし。ナイジャがそうしてくれるというのなら是非」
 ナイジャは余裕ぶって見せるけれど、レナは素で余裕なので、ナイジャを煽る。こうまで言われたらナイジャも引くに引けないので、レナとの貝合わせを続行する。しかし、続けているとレナはニコニコしているのに、ナイジャは快感が増して腰が砕けそうになってしまう。
「うふふ、気持ちいいですね。ナイジャさんはどうですか?」
 レナも快感を感じているのは間違いないのだけれど、その格差はあまりにも分かりやすい。ナイジャはすでに腰が砕けそうで、息も荒い。特に義足の左足は震えて限界そうだ。歯を食いしばって頑張っているナイジャだけれど、その顔に余裕がないのは誰が見ても明らかで。
 そのまま、ナイジャは疲れと快感で腰が砕けたことで、無様に腰の動きが止まってしまう。肩で息をして天井を仰ぎ、レナの体の上でたたずんでいると、そんなナイジャに不意に伸びて来る手。
「ナイジャ、まだまだ欲求不満だろ?」
 ロウエンである。ナイジャは自分が攻められる立場になることを拒否しているような態度をとっていたが、こうして疲れ果てた今の状況ならば、大した抵抗も出来なそうだ。ナイジャはすばしっこいため追いかけっこをしても、当然逃げられるし、まともに戦ってもロウエンが勝てる相手じゃないけれど。
 こうして掴んでしまえば力がものを言うし、先の性交で体力が低下した今ならば、ナイジャを組み伏せることはたやすいだろう。肩で息をしていたナイジャは、ロウエンに掴まれると、マジかよとばかりに苦い顔をするが、その一方で彼の総排出孔に力が入ったのをロウエンは気付く。
「今掴まれて、ちょっと期待しただろ、ナイジャ?」
「うるさいな……あんまり調子に乗るな」
「いいじゃねえの? こんなに疲れて抵抗も弱弱しい上に、少し触るだけでこんなに気持ちよさそうにしているから……これは攻めなきゃ損だろ?」
 ロウエンは言いながら力を込めてナイジャの翼を広げてのしかかる。
「お前、勝手なことを言うな! 俺は攻められるのは嫌いなんだ!」
「いいだろ、たまには?」
「くっそ」
 すっかり疲れていたナイジャは抵抗する気力も失せたのか、ロウエンの逞しい腕による戒めから無理に逃れようとはしなかった。気持ち程度にやんわりと股を閉じて抵抗するが、ロウエンはそのかわいらしい抵抗をまるで意に介すことなく、強引に股をに指をねじ込み、総排出孔を撫でる。
 ナイジャは意地を張って力を込めているものだからより敏感になってしまったその場所に、ロウエンから否応なしに送られる刺激。最初こそ嘴をぐっと喰い結んで耐えていたが、どうしても彼の指使いを嫌悪することは出来ず、加えてレナもいつの間にか一緒になってナイジャの首筋を舐めたり、頭についた羽に息を吹きかけたりなどして攻め立てる。
「お前ら、あとで俺以上に骨抜きにしてやるからな……」
「おー、怖い怖い」
「気持ちいいの好きですから、ぜひお願いしますねー」
 ナイジャは攻め立てる二人を性的に負かせてやると恫喝するが、二人は来るなら来いと言わんばかりで、カエルの面に水といった様子。
「くそ……お前ら……放せっての!」
 ナイジャは毒づきながら声をあげるが、二人は笑みを返すばかり。

4.jpg

 翼にのしかかられて動きを制限された状態で同時に何か所も攻められては、その忍耐も長くは持たない。ナイジャはロウエンが指で撫ぜ続ける不浄の孔への刺激で、張り詰めた快感がはじけて全身をめぐる。
 耐えていた快感が解放されて、ナイジャは全身を強張らせか細い声を上げながら絶頂する。頭を真っ白にしたナイジャは正常な呼吸すらままならず、数秒間体を縮めてからようやく体の力を抜く。一番の絶頂を終えてからもまだ意識は朦朧としているのか目に生気はないが、レナやロウエンに見下ろされているのを認識すると、恥ずかしそうにお下げ髪を引っ張り、顔の周りの葉をすぼめるのであった。
「……結局、あれか。ナイジャって攻められると弱いから攻める立場でいたかったんだな」
「性的なことには紙耐久な上に、性的なことには攻撃力もないとか……ソーナンスみたいで攻め甲斐がありますね」
「それ、褒めているのか?」
 レナの馬鹿にしているのか褒めているのかわからないような言い草にロウエンは苦笑する。
「絶対馬鹿にしてるだろ……」
 息を切らして胸を上下させながらナイジャは呻く。
「えー、馬鹿にしていませんけれど……可愛くって、攻め甲斐があって、遊んでいて楽しいですし。ま、とりあえず、せっかく抵抗しないことですし、欲求不満そうなナイジャさんを思いっきり攻め立てましょう」
「マジかよ……」
 レナの無慈悲な言葉にうんざりした様子でナイジャが呟く。ロウエンはそれを見て苦笑した。
「……なぁ、レナ。これって女性としては、辛くないのか? 俺は男だから、ここまでひたすら気持ち良くなったらもしかしたら、つらいんじゃないかと思い始めてきたぞ。辛いんだったらやめたほうが良さそうだが」
「さぁ? 私ここまで気持ち良くなったことがないのでわかりませんし、体の構造も違うので何とも言えません。私もナイジャさんみたく気持ちよくなれればいいんですけれどねー」
「あぁ、うん……何かごめん。俺ももっとがんばってレナを気持ちよく出来るよう……楽しませるよ……っていうかレナが余裕すぎるんだよお前不感症かよ……」
 恐らく嘘偽りがないであろうレナの言葉に、ロウエンは地味に申し訳なさを感じた。レナ自身は、性交で絶頂せずとも楽しいし、そんなもんだろうと割り切れているのでそこまで気にしていないようだ。
「ただまぁ、体力は結構消耗するみたいですけれど、本気で嫌がっている様子もありませんし、しばらく続けましょう。ナイジャさん、もっと気持ちよくしてドロドロになるくらいまで攻めますから、覚悟してくださいね!」
「あの、勘弁して」
 レナが無慈悲なことを言いだすと、ナイジャは流石にこれ以上は勘弁願いたいのかぼそりとつぶやく。
「だ、そうなのでやめましょう」
「お前素直だな!?」
 それで素直にやめてしまうレナを見て、こうまで素直だと変な奴に騙されるんじゃないかとロウエンは心配だった。レナは悪い奴を見破る目は持っているが、それがどこまで適用できるかはまだわからないから、詐欺師には通用しないかもしれない。
 まぁいいさ、どうせレナとは離れる気はないのだから、うますぎる話がレナの近くに来た時は自分が警戒すればいいさとロウエンは思う。
「それじゃあ、ナイジャさんも少々お疲れ気味ですし、いつも通りになってしまいますけれど、今から私とロウエンさんで楽しみましょうか。ナイジャも、復活したら今度こそ私を楽しませてくださいね」
「そうだな。ナイジャも、早く復活しないと俺達だけで楽しんじまうからな」
 レナとロウエンがナイジャを煽ると、ナイジャは悔しかったのだろうかプイとそっぽを向いて、深呼吸をした。このまま負けっぱなしも嫌だろうから、恐らくは少ししたらロウエンを攻めるのに協力するはずだ。
 とはいえ、男は快感を感じて不本意に射精することはあっても、呼吸が困難になるほど体が強張ることもないので、ロウエンは結構余裕でその攻めを受けいれるのであろうが。そういうところで、どんなに男ぶっていても、ナイジャはやっぱりナタリアで、女である。抑々飛行グループと陸上グループで体の構造が待っルで違うのも相まって、男の快感というものがどういうことなのかもわからず、余裕ぶったロウエンの表情は最後まで崩れることはなかった。


 結局、ロウエンは何度か射精して見せたのだけれど、前述の通り余裕ぶった態度は崩れることもなく、レナも絶頂を迎えて言葉も出ないような状態になるだとかそういうこともなく、結局余裕がないのはナイジャ一人であった。
「ナイジャ……その、気持ちうよさそうだったし、これから会った時は毎回これでいいんじゃないのか?」
 ロウエンはにやにやといやらしい笑みを浮かべてナイジャに問う。
「断る!」
 ロウエンは男性よりもはるかに激しい女性特有の快感を若干羨ましく思いながら尋ねるが、当のナイジャは羞恥心が勝るのか、顔を背けて冷たい態度を取った。
「……え、なんで? そんなに疲れました?」
 レナはナイジャのように感じる体質ではないためか、ナイジャのその反応が不思議でならない。
「いや、そうじゃなくて、何か恥ずかしいじゃないか……あたしは、女よりも男でいるときの方が自然な気がしてね……こう、お前達に女扱いされると、なんだか自分が自分じゃなくなっちゃうような気がして、嫌なのよ」
 ナイジャは、声も自然な風にして、ナタリアの口調で話してから、ため息を皮切りに口調を戻す。
「要は、俺をあんまり女あつかいしないでほしいってことだ」
 男の声を取り繕いながらナイジャは言う。こうしていると本当に男にしか見えないが、体の性別はどうあがいても女だ。
「性別をばらしてからは、都合のいい時に性別をころころ変えるからいけないんじゃねえのか? そんなんだから余計にお前をからかいたくなっちゃうし……」
「それは困る、俺の気分に合わせて男か女かを扱って欲しい」
「自信満々に要求することじゃねえだろソレ!」
 ナイジャのふてぶてしい態度に、ロウエンは思わず頭をぺしっと叩いてツッコミを入れる。
「ま、でもお前らが俺を女扱いしたいって言うんなら……その、俺達の仲だしな、許してやらんでもないよ。女の顔を見せるのはお前らに対してだけだからな」
 そのロウエンのツッコミをくすくすと笑いつつ、ナイジャはふっと顔を俯かせ、恥ずかし気に告げた。そんなナイジャの様子を見て、ロウエンは肩をすくめて苦笑する。
「本当ですか? じゃあ、次にやる時は、もっとたくさん気持ちよくさせて反応を見たいですね」
「……レナ、案外お前意地悪だな」
 レナの不穏な言動に、ナイジャはノーコメントでその場を去るのであった。
 ナイジャと十分に心と体を交わらせて、ロウエンとレナは彼と別れる。結局、ナイジャはあれ以降攻められるのを嫌がって、レナを攻めることに力を使っていたが、レナは気持ちよさそうにはするもののあまり、絶頂に達するような感じではなかった。
 もう少しテクニックを磨かないことには、レナを満足させることは難しそうだ。ナイジャはどこかで練習するべきかなぁと、別れて一人になったあとに考えたていた。

 その後、ロウエン達は自分の故郷の町に戻り、昔の友人と隠れて再開を楽しんだ。ロウエンがかつて仕切っていたギャングの副リーダー、メブキジカのブラストはの妻となった女生との間に子供を儲けており、ロウエンを更生させたブーバーンの女性、メラは相変わらず食堂を繁盛させていた。
 突然街を去ってから、今までの事を喉が痛くなるくらいに話し合い、ロウエンが今は幸せであることを伝えると、故郷に残してきた知り合いは皆喜んでいた。ロウエンが子供達を働けるように手助け甲斐もあって、街は未だに良い治安を保っていたらしく、ロウエンは自分がやってきたことが間違いでなかったことを知る。
 自分が子供の頃、常に飢えていたあの惨めな生活を、他の子供達には味わわせないようにと、子供達に働く術を何とか手にさせようと、自分の財布を痛めてきたが、その努力は決して無駄ではなかったわけだ。
 今では、成長した子供たちがロウエンの真似をしているのだという。それを聞けただけでも、故郷に帰ってきた意味はあったのだと、ロウエンは満足そうな笑みを漏らした。


 大満足で里帰りを終えて、再び村長の村へと二人は戻る。その後のレナとロウエンはと言えば、村に戻ると相変わらずギルドから回されてきた仕事を淡々とこなす毎日。二人一緒なので不満ではないが、代わり映えのしない毎日だった。

 しかしながら、ナイジャと別れてから一ヶ月半ほど経ったころ、再び悪夢の幻影が現れているといううわさが流れる。今度は、前と違って数も少なく、逆恨みで襲われるような奴は少ないが、その代り強く悪人のみを確実に狙うようになっているらしい。ごくまれに大量の恨みを買っている人物でも幻影に狙われない事例があるようだが、その原因は不明である。
 何をもって悪人とすべきかはまだあいまいではあるが、例えば働きもせずに金も命も奪うような奴、強盗殺人犯などはどんどん殺されていて賞金稼ぎの食い扶持がなくなっているとすら言われている。ロウエンやレナは襲われず、村長だけはやはり昔やらかしたことがよほど恨みを買っていたのか、今度はホウオウの幻影にまで襲われたが、なんとかそれは退けた。
 こう強い悪夢の幻影に襲い掛かられてはたまらないので、再度調査に出るべきかとロウエンは言ったがしかしレナは首を縦には振らなかった。
「イデが、『そこに居ろ』って」
「イデが? おいレナ……イデって一体何なんだ? お前との関係は何なんだ?」
「分からないけれど、イデならきっと知っている。私が何者なのか……」
 ロウエンから見ると、レナは根拠のない事を盲目的に信じているようにしか見えなかった。けれど、イデの名が出る時、レナの勘はよく当たる。だから、根拠はないけれど、今までの経験則から言って今回もレナの言うことは現実なのだろうと感じさせられた。

 そして、八日後。レナがこの村に待機することを決め込むと、ナイジャが何かあった時のために念のためとこの村へと帰ってきてくれた。あまりにあまり外に出たくないので村長の家でのんびりして、夜になるとトレーニングだといいってロウエンを引っ張り出して村のはずれで鍛錬をしていた。
 遠距離攻撃が多いナイジャだが、近距離の戦闘となってもその強さは変わらず、華麗な身のこなしでロウエンを攻め立てる。近距離で戦えば勝てると思っていたロウエンとしては、プライドがずたずたになる気分だ。最近はレナにも勝てなくなってきたし、自分は強いと思っていたが、本当に強い奴らに囲まれているとわかる。
 自分の才能は中の上くらいだったようだと。まぁ、それならそれで自分はそれなりにやればいいさと、ロウエンは高い目標を持とうとは思わなかった。そんな自分でも、惚れてくれる女はいるわけだし、その二人を失望させないように生きていければいいと。

 更に二日たったところで、三人のもとに真夜中の姿をしたルガルガンが使いとして現れる。村長のもとを訪ねたルガルガンの男は、礼儀正しくレナへの面会を求めていた。


 次……HEAL13,イデ

お名前:
  • メロエッタの歌の歌詞はなんか聞いたことあるなと思って考えてみたらそういえば中の人同じでしたねw

    確かにポケダンってどう考えても「はい」という選択肢しかないのにあえて「いいえ」も選択できる場面って多いですよね
    まぁ、寧ろ「いいえ」選んだ方が相手の可愛い反応見れて非常に眼福なんですけどねw(特に超ダン) -- ナス ?
  • 例の歌は、ケルディオの中の人も歌っていたため個人的にはネタ度も高い曲でしたw メロエッタの歌ならあれくらいのことは出来ると思いまして……

    ポケダンのお約束については、それらをふんだんに取り込んで作品を完成させたいと思っています。可愛い反応も含めて、自分が表現出来る限りのも絵を詰め込めるよう頑張ります。
    コメントありがとうございました -- リング
  • アローラの新ポケをいたるところで登場させる、SM発売を記念したような心意気あふれる長編でした。立ちはだかる困難に対して自分たちなりに考え抜き常に成長を続ける主人公サイドを描き切ったのは、ひとえにアローラ御三家への愛情がなせる業でしょうか。ポケダンの世界を踏襲した設定や小ネタも嬉しいところですね。
     ただオシャマリ救出後、開拓村以降のストーリーは中だるみ感が否めません。レナを救ったことでロウエンに対立するキャラが失せ具体的目標も見えなくなり、それからはレナに関する秘密をのろのろと解き明かしていくだけで緊張感が足りなかったように思います。ネッコアラやルナアーラ戦など、印象に残るシーンがもっと欲しかった。敵側に擁護できないレベルの悪役を登場させるなり主人公サイドで仲違いさせるなり、読み手を飽きさせない工夫があると読み進めやすかったのかな、と。 -- 水のミドリ

最新の5件を表示しています。 コメントページを参照


トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2017-06-29 (木) 23:51:59
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.