第二章<< >>第四章
この作品は短編「二人だけの秘密」を下地に構成しております。
未読の場合はぜひ短編のほうからお読みくださいませ。
作者ラプチュウより
朝日が雲ひとつない空を飛んでいく鳥ポケモンを照らしている。朝を迎えたトルマリシティでは、少しずつ人の動きが活発になっていた。シュウ達の眠っているポケモンセンターの部屋にもカーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。
「うぅん……」
ベッドから上半身を起こしたロアが、軽く目をこすって腕を上に向かって伸ばす。その表情はどことなく清々しかった。ロアがベッドから降りてカーテンを開けると、部屋の中が一気に明るくなる。
「シュウ、いい天気だよっ。早く起きなよぉ」
ロアに声をかけられて、もうひとつのベッドで寝ていたシュウが目を覚ます。上半身を起こしてあくびを一度すると、ロアの方を見た。
「おはよう、ロア。よく眠れたみたいだね」
「うんっ! 久しぶりのベッドだったから気持ちよく眠れたよっ」
シュウの言葉に、ロアが笑顔で返す。シュウもベッドから降りて立ちあがると、腕を上げながら体を伸ばした。
「あのシャワーズ……気が付いたかなぁ」
「分からないけど……気になるなら朝食を食べに行く前に様子みて行くか?」
「うんっ」
シュウとロアは手早く支度を済ませると、部屋を後にした。
――――――――――
病室にやってくると、すでにジョーイが様子を見に来ていた。シュウとロアが病室に入ると、ジョーイが気が付いてシュウ達の方に向き直る。
「ジョーイさん、おはようございます」
「あら、おはようシュウ君。よく眠れた?」
「はい、おかげさまで……あの、ところでシャワーズは……」
ジョーイと話しながら、シュウはベッドの上にいるシャワーズの方を気にする。今はタブンネが介抱しているようだが、意識は戻っていないようだった。
「まだ意識は戻らないみたいね。傷自体はもう大丈夫なんだけど」
「そうですか……ひどい怪我だったからなぁ……」
「タブンネっ!」
突然、シャワーズを介抱していたタブンネが声を上げる。その声にジョーイとシュウがベッドの方を向くと、シャワーズが目を覚ましていた。
「きゅう……?」
「あら? 気が付いたみたいね」
「タァブンネ!」
ジョーイの表情が明るくなり、タブンネも嬉しそうに尻尾を振っている。シュウとロアもベッドに駆け寄った。
「よかったぁ、心配してたんだよ」
「クルルル……」
笑顔のシュウとロアを見つめてしばらくきょとんとしていたシャワーズだったが、突然何かを思い出したようにベッドから飛び降りる。
「うわっ!?」
驚くシュウ達を余所に、シャワーズは病室から出られる場所を探して辺りを見渡す。ほどなく扉を見つけたシャワーズが駆けよっていくのを見て、ロアが素早い動きでシャワーズの前に回り込んだ。
「きゅっ!?」
「クアァァン!」
ロアに扉をふさがれたシャワーズが他に出られる場所がないか探している最中、シュウが腰のボールを一つ取って投げ上げる。
「サンディ、シャワーズを落ちつかせてっ!」
ボールから飛び出したサンディが、素早くシャワーズの前に回り込む。シャワーズは明らかな警戒態勢をとってサンディをにらみつけた。
「きゅあぁっ!!」
「きゃうっ! きゃきゃう!!」
険しい表情で叫ぶシャワーズに対して、サンディがなんとか説得しようと必死で話しかける。シャワーズは後ろに軽くジャンプして距離をとると、サンディに向かって[みずでっぽう]を放った。[みずでっぽう]の勢いで少し押し戻されながら、サンディは耐えきった後で軽く体を震わせて水気を振り払う。
「きゃう、きゃうきゃっ!」
「きゅきゅうっ!!」
サンディは説得を続けようとシャワーズに向かって声をかけ続ける。一方のシャワーズは攻撃態勢をとったままで相変わらず険しい表情でサンディをにらみつけていた。
「シャワーズは興奮してるわっ! なんとか落ちつかせないと……タブンネ、[いやしのすず]よ!」
「タブンネッ。タァーブンネェェェ!!」
ジョーイの指示で、タブンネが放った[いやしのすず]が病室を優しく包むように鳴り響く。
「……きゅうっ?」
心地よいスズの音色を聞き、シャワーズの表情が和らいでいく。
「へぇ、そのタブンネ[いやしのすず]を使えるんですねっ」
「えぇ、特別な訓練を受けて特殊状態だけじゃなくてこうやって興奮したポケモンを落ちつかせることもできるようになっているの」
表情が和らいだシャワーズに、サンディがそっと近づいていく。
「きゃうっ、きゃきゃうきゃう。きゃうっきゃうきゃきゃう」
「きゅうきゅ、きゅう。きゅきゅうきゅうきゅっ、きゅうきゅきゅうっ」
サンディはシャワーズに怖がることはないよと教えているようにも見える。シャワーズも完全に警戒心を解いたわけではないようだがひとまずは落ちついてくれたようだ。
「もう大丈夫ね、よくやったわよタブンネ」
「タァブンネッ!」
その様子を見たジョーイがタブンネをねぎらうと、タブンネは笑顔で返事を返した。
――――――――――
少しして、トルマリシティの中にある大きな公園の中を、シュウとロアがシャワーズを連れて歩いている。
「よかったね、元気になって。見つけた時はすごくひどい怪我してたからホントに心配したよ」
「きゅう……」
笑顔を見せながらシャワーズに語りかけるシュウを見て、シャワーズは小走りでシュウの前に飛び出す。
「きゅうっ! きゅきゅう、きゅっ!」
「え、なに?」
何かを訴えるような目で鳴くシャワーズに、シュウはしゃがみ込んでシャワーズの瞳を見つめる。
「きゅっ……きゅるぅ……」
そんなシュウをみて、シャワーズは何かを思い出したような表情を見せると急に落ち込んだようにうつむく。
「……ねぇロア、今なんて言ったの?」
「助けてって……力を貸してって言ってたよ?」
「きゅあっ!?」
しゃがんだままロアの方を向いたシュウがロアにシャワーズの言葉を通訳するように頼むと、ロアは周りに他の人間やトレーナーがいない事を確認したうえで答える。そのやりとりを聞いたシャワーズは、再び驚いた表情でシュウ達を見つめた。
「……あぁ、このロアは人間の言葉が話せるんだよ。驚いた?」
「きゅう! きゅうきゅう! きゅきゅきゅうっ!」
シュウが再びシャワーズの方を向くと、シャワーズは必死にまた何かを訴えてくる。
「ちょ、どうしたのさ急に……」
シャワーズの様子に、シュウは戸惑いを見せる。その横で、ロアが考え込むようなポーズを取っていた。
「ろ、ロアぁ……今なんて言ってるの?」
「キュウコンを……私の仲間を助けて、お願いって……」
状況がいまいち飲み込めていないシュウとロアは、シャワーズを連れて公園の奥にある休憩所にやってくる。ポケモンセンターを出る前に、街の人があまり来ない場所はどこかジョーイに聞いたところ、この公園の奥にある休憩所なら街の人は滅多に行かずに野生ポケモンの遊び場になっていると聞いていた。
「ここだったら邪魔されずに話ができるかな……」
休憩所は、小さなテーブルを囲うように背もたれつきのベンチと屋根が備え付けられた小さな小屋状になっている。シュウ達はそこへ入ると、シャワーズをテーブルの上に座らせて自分達はベンチへと腰を下ろした。
「さてと……とりあえず君の話を聞かせてよ。事情が僕たちには分からないからさ」
「きゅう……」
「大丈夫っ、私達で何か力になれることがあるなら協力するからっ」
真剣な表情で自分を見つめてくるシュウとロアを見て、シャワーズは小さくうなずく。シュウは、おもむろに腰のボールを一つ取って投げ上げた。
「ニファス! 出てきてっ!」
ボールの中から飛び出してきたのは、紫の体毛に覆われた二足歩行する猫のような姿で、先の方が白い毛でおおわれて割れた筆の先のような形をした尻尾が二本、手足の先も白い毛で覆われて足の付け根からは跳ねっ毛が飛び出し、白い花弁のような襟元の毛と頭上にもまた筆の先に見えるふさふさした白い毛が風になびき、長い耳は中間あたりから器用に折り畳んだエメラルドグリーンの瞳をもつ、ニャオニクスだ。
「二ファス、いつも通りよろしくねっ」
「みゃうっ!」
笑顔で話しかけるシュウに、ニファスは元気よく答えた。横で首をかしげるシャワーズに、ロアが説明する。
「ニファスは私の理解したポケモンの言葉を、サイコパワーを使って直接シュウの頭に送ってくれるの。つまり、同時通訳みたいなことをしてくれるから、私がいちいち言いなおす必要がないってわけ」
「きゅう」
ロアの説明に少し驚いた表情を見せつつも、二ファスを出した理由を理解したシャワーズは二、三回大きく呼吸する。その横で、二ファスは目をそっと閉じて片耳を少しだけ開いた。
「……私の名前は、コズエ……驚かないで……聞いてね……」
二ファスのサイコパワーで、シュウの頭の中にシャワーズの言葉が聞こえてくる。コズエと名乗ったシャワーズは、ゆっくりと話し始めた。
コメントはありません。 El relato de dos personas/コメントログ ?