28×1
むしゃくしゃしてやりました。よって色々とカオスを通り過ぎてルナシー。
この小説には自殺描写及びそれに伴う流血表現があります。
1500文字足らずのSSを呼んでやるという方はどうぞ。
来光が淡く君を照らす。曙は東の空を白く焼き、黄金色に焦がしていた。未だ青紫の濃い空に白い斑点が瞬く。限りなく広い空に、薄い雲の漣(さざなみ)が踊り、それを光が浮き彫りにしている。水よりも澄み渡った空に溢れる色すべてが美しかった。
君の足元に広がる光景は、目が霞むほど素晴らしかった。夜と朝の狭間、暁の街に、人々はまだ蠢(うごめ)いていない。細々(こまごま)とした点が連立し、君の住む街を形作っていた。高い高い世界から見える街は、玩具のそれよりも現実味の無い、夢想のようなところだった。風が鋭く舞い踊る。空気が障壁を立ち上げて、君を落下から守るかのように。
――死ぬ、と、君は呟いた。
生きる本能を頑なに拒む単語が、君の内側を埋め尽くしているのか。虚ろな顔の、表情の無い嘴(くちばし)からはそんな言の葉しかこぼれてこなかった。自らへの罵り、価値の否定、そして存在しない他人へ向けられた、存在意義の問いかけ。深い赤に染まった目を、昇る太陽で焼いていく。戒めか、自傷か、恐怖ゆえか。君は強い光の錯綜する視界の中で、光のない暗闇を見る。
君が立っているのは、君が生きてきた街の中で一番高い、建造物。その最上階の、……バルコニー。庇(ひさし)も屋根も天上もない。在るのは手すりのみ。そして、その手すりさえも、ヨルノズクである君には壁になりえない。
そして、君は、翼を広げる。そのままの格好で――君は、風を纏いながら飛び降りた。
空を掴み、舞い、飛ぶはずの翼を使うはずも無い。それでも君はその翼をたたもうとはしなかった。堕ちる中で瞳に映る空が美しかったのか。羽ばたいて空を泳ぐときとは違う、全く別の浮遊感。風が羽毛を切り裂き、すり抜けて空気に溶けていった。
君には一瞬が長く感じられるのだろうか。もしそうであるならば、今この瞬間、君の脳裏で走馬灯が駆け巡っているかい?変わっていく周りになじめず、壊れてしまった君が。涙を頬に這わせ、暗闇を心に抱いた君が。よろめいた体を起き上がらせた際、死にたい、と囁いた君が。……それを繰り返し、構って欲しいだけだと思われてしまった君が、見えるかい?希死念慮を抱いている振りをして、関心を煽っているだけだと思われてしまった君が、観えるかい?
嗚呼、でもそれは遅すぎると云わざるを得ない。周りが君をあしらうようになってしまったのは、返せば君に非があるのだと。
冷たさが覆う灰色の地面に一瞬の温もりが触れ、次の時を待つよりも早く、君の体は破砕した。一面に赤い花が咲く。綺麗な放射を描いて飛び散った、君の内側を満たしていた赤い体液、いわば命の液体。それが脈々と湧き、大きな花弁を広げていく。
君の意識はもう既に消失してしまっただろうか。それとも痛みにさいなまれているのだろうか。くずおれたヨルノズクの体が血の海に沈み、赤黒いものに塗れる。最早肉片というに等しいだろうか。君は――もう生きているわけではないから。
生きていることの意味は計り知れない。だから誰も君に涙してくれるわけではない。人も、天上でさえも。大粒の緋色の涙を流す、君以外は。
――死ぬことは迷惑なのかどうかさえも分からない。命を捨てることが勿体無いことだとも君は思わない。
この脆い精神を抱いて生きていくより、ここでそれを壊したほうが、瑕(きず)は少ないはずだと思ったから。
END
・あとがきのようななにか
スランプむしゃくしゃしてやりました。反省も後悔もしているのでレキソタンもトレドミンもハルシオンも投げないでください。
ちなみに君(=ヨルノズク)は「パキシル」という名前が付いていましたが、作中ではパの字もありません。抗うつ薬の名前で、副作用としてタミフルの自殺衝動バージョンみたいなのがあるそうです。
私の家系に躁うつ病とうつ病がいるので、その発言を元に構想を立ち上げました。
それと、二人称の文章を書きたかったのと、セリフ無しで進行する小説を書きたかっただけです。結果惨敗。もう二度とやりません。
二人称ということで「君」を連発していたらノベルチェッカーさんに「三人称の恋愛ものっていいですね!」とか言われました。ガッチガチのメンヘラですが何か。
ともあれ短すぎる駄文にお付き合いくださりありがとうございます。この小説で何かを感じてくださるとありがたいです。
デパケンとかリーマスとかアナフラニールとか投げないでください。
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