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虚ろの幻影

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Writer:&fervor
注意:強姦表現あります。ご注意を。




虚ろの幻影


          ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「やあやあお嬢さん。こんな真夜中におひとりとは……不用心、じゃないかい?」
 生い茂る雑草を踏み荒らし、暗がりに聳える木々の隙間を縫いながら、水色の物体は駆け抜けた。助けを呼ぶ余裕さえなく、荒い呼吸でただひたすら走り続ける。
その後ろを追いかける闇がついにその水色を捕らえ、その場に組み敷く。鰭のような耳がぴくぴくと震えているのは恐怖故か。
滑らかな腹部にだらりと垂れ落ちた、頭部から伸びる体毛をその手で掻き上げ、同じ水色の眼で獲物の体を凝視する。助けて、と叫ぶ声は首元に載せられた手で遮られた。
「うん、いいね。とってもいいよ。その体……僕の所有物(モノ)にふさわしい」
 紅く塗られた口角をにやりと上げながら、その獣は舌をなめずる。水色は必死に体を捻って逃げだそうとするも、思いの外相手の力が強く逃げられない。
それなら、とばかりに口から冷気を纏った光の筋を放つ。それを首を反らせて避けた闇色が、ぎろり、と鋭く冷たい瞳を向けた。
「キミみたいな反抗的なコ、嫌いじゃないよ。だってその方が……教え甲斐、あるからね」
 笑っている。のに、笑っていない。再びの反撃を防ぐかのように、今度は口元を完全に塞がれた。未だ藻掻くその体に膝を置かれ、ぐぐ、と体重が掛けられる。
「これ以上苦しいのはキミも嫌でしょ? 僕だってこんなことはしたくない。やるならお互いに楽しくて、気持ちよくなくっちゃ」
 徐々に近づく尖った口先。首を振って最後の抵抗をするものの、あまり効果は無い様子。ずっと顔を塞がれているせいで息が続かない。ぼやける視界、遠のく意識。
もう駄目なのか、と水色が諦めかけたその時、突風と共に何かがやってきた。目の前の相手はその何かに吹き飛ばされ、代わりに現れたその何かが、水色に大丈夫かと声を掛けてきた。
「がっ、は……っ!」
 何が起きたのか理解しきれない様子でその水色は体を起こし辺りを見回す。ひらひらと舞う白い尾に、紫の鬣を携え、月光の元に水晶が輝く。同じ水色の体にどことなく安心感を覚える。
立ち上がった水色は、未だ自由にならない体を引きずりながら、先ほどまで自分を押さえ込んでいた忌まわしき相手から遠ざかった。それを守るかのように間へ入る水晶の獣。
「……邪魔だなんて、無粋だと思わない?」
 いつの間にか立ち上がっていたその赤黒い獣は、体に付いた土を払いながらそう言い放つ。間髪入れずに放たれた水流が、彼のすぐ隣にあった木を打ち抜いた。
「失せろ、クズ」
 メリメリと音を立てて折れるその木を横目に、実力差を悟ったのだろうか、両手を挙げて降参のポーズをしている彼。逃げる水色を後ろ手に見つつ、なお相対する水晶。
やがて水色が草木に紛れて消えた頃、残念そうに彼は手を下ろし、反対方向へと歩き出した。が、それを防ぐかのように放たれる白い光線。
「失せろ、って言ったのキミでしょ? まだ何か用? あのコには逃げられちゃったし、僕ももう帰りたいんだけど」
 呆れた様子で振り向く彼をキッと睨み付ける水晶。暫しの睨み合いの後、水晶は踵を返し、風のように颯爽と去っていった。最後にこう言い残して。
「怯えて逃げるかと思えば……反省する素振りすらないとはな。だが次はないと思え。次は……当てるぞ」
「……へぇ」
 ひしゃげた草花と所々に見える水や氷の跡を見つめつつ、彼は考えに耽る。その目はまだ、諦めてはいないようだった。


          ☆ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ☆


「さっきは災難だったな。大丈夫だったか?」
 ガサガサと葉を揺らしながら、小走りで先ほどの場所から遠ざかっていた水色に、後ろから追いついてきたのは水晶のポケモン。その姿に安堵しつつ、歩みを止めて話しかける。
「あの……ありがとうございました、スイクン様。私のために」
「礼はいい。たまたま通りかかっただけだ」
 はにかみながらお礼を述べる彼女に、表情を少し和らげるスイクン。しかし笑顔は見せず、まだ辺りを警戒している様子。あの態度から察するに、彼がいつやってきてもおかしくない、と考えたのだろう。
彼女はスイクンと共にまた歩き出したものの、会話が続かない。伝説のポケモンを目にして緊張しているのだろう、何を喋って良いのか分からないようだ。
 そうして暫くの間無言で歩き続けていると、今度はスイクンがシャワーズの方へ顔を向けた。その透き通る瞳に見惚れてしまいそうなシャワーズを、我に返すスイクンの言葉。
「しかし、こんな夜更けにどうしてあんな所に? シャワーズであるお前なら、川辺の住処で寝ているべき時間だろう」
「それが……さっきのゾロアーク、私の住処にやってきたんです」
 彼女が言うには、今日の夜突然現れて、部屋の隅に追い込まれて襲われそうになったところをどうにかこうにか逃げ出してきた、との事だった。
それで一度は撒いたと思ったが、再び目の前に現れて、必死で逃げてきた、という訳らしい。その話を聞き、再び怒りを露わにするスイクン。
「救いようの無い奴だ。逃がすべきでは無かったか」
「だから私、帰るのが……怖くて」
 住処はきっとこの先なのだろう、水が流れる音も大分近くなってきた。だがそこへ向かう足取りは重く、彼女の表情もぱっとしない。
 無理もない。住処が知られている以上また襲われる可能性は十分にあるし、先ほどの件も相まって、さらにひどい仕打ちを受ける可能性も高い。
そんな場所に戻れという方が無理がある。しかし彼女には行く当てが無い。辺りに頼れるようなポケモンは居らず、他に住処となりそうな場所を探すのも一苦労。
この時間に外を歩いていれば、また別のポケモンに襲われる可能性だってある。かといって、今の彼女の力だけではどうすることも出来ない問題だ。
今にも泣きそうな顔でうなだれる彼女の頬に、そっとスイクンの前足が当てられた。首を上げると、直ぐ近くにまで寄ってきていたスイクンの顔が目の前に。
「ならば私の元へ来ると良い。もちろん、お前が良ければ、の話だが」
 その一言に、シャワーズは思わずえっ、と声を上げた。凜とした表情でシャワーズを見つめるその顔は、とても嘘を付いている顔ではない。
迷惑ではないだろうか、邪魔になったりはしないだろうか、と思い悩むも、結局他に方法が思いつかず、最終的に彼女はお願いします、と小さく呟いた。
「気にする必要はない。お前のような可愛らしい雌であれば、誰でも喜んで守るだろうさ」
 と、顔色一つ変えずに言うスイクンに、思わずシャワーズは赤面した。そんなことないです、と否定する顔は、けれどもどこか嬉しそうだった。


          ☆ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ☆


「鍾乳洞、ですか?」
「ああ。とはいってもそう大きなものではないが」
 ひんやりと冷たい空気、地面を流れる澄んだ水。月明かりの入らない奥の方は全く何も見えないが、スイクンはすたすたと暗がりの中へ歩みを進めていく。
その後を追うシャワーズの元へ、ひらりと細長い尾が降りてきて、湿り気を帯びた首元の鰭にぺたりとくっついた。これなら暗闇でも迷うことはないだろう。
「さて、この辺りなら大丈夫だろう。多少水が流れてくるが、水タイプのお前にはむしろちょうど良いはずだ」
「はい、わざわざありがとうございます。ほんとになんとお礼を言えば良いのか……」
 それほど奥の方まで入ってきた印象はないが、それでも辺りは全く何も見えない。当然彼らの表情も見えないが、恐らく彼女はほっとした顔をしているはず。
暫くは好きに寝泊まりしてくれていいぞ、と言い残して、スイクンはその場を後にする。はず、だったのだが。その尾を前足で押さえられていたせいで動けない。
「あの……ごめんなさい。でも、その……今日だけでいいので、側にいてくださいませんか?」
 彼女の前足は僅かに震えていた。先ほどの出来事が、彼女に恐怖をしっかりと植え付けていたのだ。知らない場所、周りも見えないこの状況で、独りでいる事が途轍もなく不安で。
スイクンは再び彼女の隣へと寄り添う。彼女の肌とスイクンの肌がぴとりとくっつき、お互いの体温が分かるほど体を近づけ、スイクンは腰を下ろし寝そべる。
「これでいいか? しっかり寝ておけよ。何かあったら……また守ってやる」
「え、あ、は、はい! あの、あ、ありがとうございます。おやすみ、なさい」
 流石にこの距離は予想外だったのか大慌ての彼女。しかしスイクンは意に介することなく、そのまま眠りにつこうとしているようだ。
何か起こるのではないか、と若干の不安や期待を抱いていたりもしたのだが、シャワーズにとっては不本意な結果に。相手は伝説のポケモン、無理もないといえば無理もないが。
複雑な気持ちを抱きながらも、シャワーズはその場に腰を落ち着け、さらさらと流れる水の音を聞きながら、やがてはすうすうと寝息を立てるのだった。


          ☆ ☆ ★ ★ ★ ☆ ☆


 日差しが鍾乳洞の壁に跳ね返り、今いるこの奥の空間も辺りを見回すことが出来るほどには明るくなっている。ようやく目を覚ました彼女の周りには誰もいない。
スイクンはもうどこかへ出て行ってしまったようだ。昨日の言い方では、暫くここにいてもいいとは言われたものの、それでもずっと世話になるのは彼女にとって恐れ多い事。
「新しい住処、探さなくちゃ、ね……」
 狭い、と言う割には入り組んでいそうな鍾乳洞ではあるが、明かりの差す方向へ向かえば出ること自体は容易い。逆にここまで入ってくるのはある程度この場所を知っていないと難しいだろう。
昼間の内に出て行かなければ、帰ってくるのが遅くなってしまう。そうなればまた昨日のような事が起こるかもしれない。そう考えるだけで体が震えてきそうな程。
 少しずつ外へと歩き出した彼女だったが、ようやく外の世界が見えたところで、ぴたりと歩みを止めてしまった。差し出そうとした前足は、宙に浮いたままぷるぷると震えている。
どうしても体が動かない。独りで外に出て行くことは、こんなに怖いことだっただろうか。自分で自分に大丈夫だ、と何度言い聞かせても、シャワーズは動けずにいた。
 やっぱり、スイクンがいないと駄目なのか。そう思い悩む彼女。昨日のあの姿に、すっかり魅了されてしまった自分がいる。スイクンもシャワーズの事を気に入ってくれている様子だった。
もし出来るなら、このままずっとここで一緒に暮らせたら。そんな夢物語を考えてしまうが、それはあくまでも幻想に過ぎない。無理無理、と自ら首を横に振る。
ただ、せめてここから出る勇気が手に入るまでの間は、スイクンに一緒にいて欲しい。それくらいなら、きっと了承してくれるはず。
 スイクンへの思いを巡らせているまさにその時、外からやってくる足音が聞こえた。帰ってきたスイクンに、まずなんと声を掛ければ良いのか。
思い悩む彼女をよそに、どんどんと足音は近づいてくる。図々しいお願いではあるが、頼んでみるしかない、そう決心して、シャワーズはおかえりなさい、を伝えにもう一歩だけ踏み出した。


          ☆ ★ ★ ☆ ★ ★ ☆


 日輪は既に頂点を過ぎ、暑さもピークを超えた頃。スイクンは数個の木の実を咥え、ようやく自らの住処に戻ってきた。
鍾乳洞の奥から流れてくる空気はひんやりと涼しく気持ちがいい。彼女のあの様子から察するに、独りであること自体が彼女にとってトラウマになってしまったに違いない。
まだ寝ているだろうか、それとも起きてしまっただろうか。なるべく早く戻ってきたつもりではあったが、それでももう昼をとっくに過ぎてしまった。彼女には寂しい思いをさせてしまったか。
 そうスイクンは考えて、足早に鍾乳洞の奥へと歩いて行く。と、後ろから自分を追いかけてくる足音が。いったい何だ、と振り向いてみると、そこにはシャワーズが立っていた。
「よかった、追いついた……スイクン様の姿が見えたから、慌てて走ったんですよ」
 はあはあと息を荒げるシャワーズに、じっと目を向けたまま動かないスイクン。その元気な様子からすると、昨日ほどショックを受けている様には見えない。
「独りで出歩いても大丈夫だったのか?」
「……ちょっと怖かった、ですけど。新しい住処を見つけなきゃ、って思って」
 てくてくとシャワーズはスイクンに近づき、そしてそのまま体を寄せる。体から伝わってくる体温は、昨日よりもどこか温かく、その鼓動はどこか逸っていて。
「でも……もしスイクン様がよければ、ですけど……一緒にいさせて欲しい、です。……駄目、ですか?」
 少し体を離して座り、そのまま上目遣いでスイクンの顔を伺うシャワーズ。揺れる尻尾は期待の証、だろうか。一度木の実を横に置き、改めてシャワーズと向かい合うスイクン。
けれどもそのまま表情を変えず、ただシャワーズを見据えるだけ。最初は期待に満ちた目をしていたシャワーズも、段々と元気がなくなってくる。やがて、スイクンはようやく口を開いた。
「駄目だ。帰れ」
「……そんな、どうして」
 思わず立ち上がり、スイクンに詰め寄るシャワーズ。あれほどシャワーズのことを気に掛けていたはずのスイクンが、何故か今は彼女を冷たくあしらっている。
そのまま鍾乳洞の奥、シャワーズが居た場所とは別の方向へ入っていこうとするスイクンを追いかける彼女に、来るな、と凄む。
そんな彼の制止も聞かず、たたた、と駆け寄ってきた彼女に、なんとスイクンは水流を吹きかけた。その勢いに弾き飛ばされる彼女に、続けてスイクンは言い放った。
「その程度の小細工に、気付かないとでも思っていたのか?」
 ゆらり、と揺れるシャワーズの輪郭は、いつの間にか赤と黒のそれに変わっている。青い瞳がギロリとスイクンを睨むが、それも意に介せず、さらにスイクンは続けた。
「言ったはずだ。『次はない』と」
「あーあ、ばれちゃってたかー……仕方ないなあ」
 これ以上相手を騙すことは不可能と悟ったゾロアークは、いよいよ本気でバトルをする気になったようだ。起き上がったと同時に手元に集めた黒い波動を、白い鍾乳洞の床へと叩き付ける。
その波動が地を這いながらスイクンへと近づいてくるが、それを軽く飛び上がって躱すスイクン。待ってました、とばかりにゾロアークは"きあいだま"を放つ。
飛んでいる状態では回避は出来ない。当たるか、と思うすんでの所で、スイクンは再び強烈な水流を噴き出した。弾ける水の粒が鍾乳洞の天井にまで飛び散り、突起を伝ってぽたぽたと滴る。
 再び地に降り立ったスイクンへ真っ直ぐ突っ込んでいくゾロアーク。冷気の閃光がその体を貫くが、その体は空気に解けるように消えていく。
「もらった!」
 背後からの"ふいうち"が決まるかと思ったその瞬間、白い尾が彼の両腕に絡みつき、彼の体ごとスイクンの目の前へ投げ飛ばした。受け身を取ってすぐさま立ち上がる彼の元へ、再び冷気が走る。
足へと当たったその光線によって、床にあった水溜まり共々凍らされる彼。強固に固まったそれを手で必死に砕いていくが、そんな彼に向かって高速で向かってくるスイクンの体。
バキ、と根元から折れる氷。吹き飛ばされた彼は、もはや受け身を取ることすら叶わず倒れ込んだ。痛みに耐えつつ何とか手を使って起き上がろうとするが、もはや体はぼろぼろ。
そして目の前にはスイクンが。何とか攻撃態勢に入ろうとした彼であったが、スイクンはそれよりも早く、激しい水流を放つ。鍾乳洞の外にまで噴き出す水柱が、彼の体を消し去っていった。
「あれほど警告したというのに、バカな奴だ」


          ☆ ★ ★ ★ ★ ★ ☆


「大丈夫か? あいつなら追い払った、流石にもう来ることはないだろう」
 今度こそ鍾乳洞の奥、シャワーズの居る場所へと足を踏み入れたスイクン。そこには怯えた様子のシャワーズがいた。スイクンの姿をみてようやく安心したのか、表情に柔らかさが戻る。
かと思えば、一気にスイクンの元へと駆け寄り、その体にぶつかってくる。勢い余ってひっくり返るスイクンは、驚いた様子で目を見開いている。
「……良かった」
「すまなかったな、不安にさせて」
 とびきりの笑顔を見せるシャワーズに、スイクンも笑って返す。あまり表情を変えなかったスイクンが、珍しく見せた喜びの表情。張り詰めていた気持ちを緩め、心を許した証。
起き上がろうとするスイクンを押さえ付け、シャワーズは少し意地悪く笑いながら、その胸部に片足を伸ばす。つつ、と体をなぞる感触にくすぐったさを覚えるスイクン。
シャワーズはどこか物欲しそうに、でもそれが言い出せずもじもじとしながら、その片足を頬まで滑らせた。スイクン様、と呟く彼女の顔は、すっかりスイクンに心酔している様子。
 もしかして、と彼女の勘違いに気付くスイクンだったが、なかなかその事実が言い出せない。少女の抱く幻想を、そう簡単に破ってしまうのも可哀想ではある。
しかしこのまま事が運べば、すぐに分かってしまうこと。もしシャワーズもそういう趣味を持っているのなら話は別だが、恐らく彼女はそうではない。だからスイクンは、申し訳なさそうにぽつりと零す。
「悪いが……お前の期待には応えられないんだ。私は」
「……ううん。寧ろ良かったよ、キミも雌で、ね」
 衝撃と共に視界が揺らぎ、息が詰まる。シャワーズの姿がすっと消え、代わりに現れたのは倒したはずの相手。突然の出来事に驚くスイクンは、その状況を理解出来ぬまま、やがて意識を手放してしまった。


          ★ ★ ★ ☆ ★ ★ ★


「やあ、おはよう。こちらとしてはそこそこ準備が出来たんだけど……キミはどう?」
 先ほどの鍾乳洞で再び目を覚ましたスイクンであったが、四つの足と首を固定されていた。本来生えるはずでない場所から生えた蔦が、固く結び目をつくって彼女を縛り付けていた。
外れる様子のないそれを何とかしようと藻掻くその体の上に、ずしりと腰掛ける赤黒い彼。ぐっ、と呻く彼女を気にも掛けず、彼は自分の話を続ける。
「いやー思ったより上手くいって良かったよ。『幻影を見破られて負ける』幻影、どうだった? なかなかの負けっぷりだったでしょ」
「シャワーズは……どうした」
 そう、本来であればこの場所に居たはずのシャワーズ。彼女はどこへ行ったのだろうか。もうどこかへ消えた後なのか、出来ることならそうであって欲しい。スイクンはその焦りを隠せないでいる。
「ん、あそこにいるよ。今はちょっとばかし休憩中」
 自由にならない首を何とか動かしてみると、入り口近くの壁につるされた彼女の姿が、月明かりに照らされていた。どれだけ叫んでもぐったりとしたまま動かない彼女の様子をみてさらに藻掻くスイクン。
しかしそれを窘めるかのように、軽く臀部をはたく彼。ぎり、と歯ぎしりをして耐えるスイクン。この状況下で何か技を使えば、今度は彼女をより危険にさらすことになる。
「かしこーい伝説のポケモン様なら分かるよね? キミがちょっとでも抵抗すれば、彼女はどんどん可哀想なことになっちゃう。キミに選択権はない、ってこと」
 今にも殺されそうな視線を向けられ、怖い怖い、とおどけてみせるゾロアーク。しかし今のスイクンにはどうすることも出来ない。彼の機嫌を損なうことがあればどうなるか。
そんなスイクンの目の前にぶら下げられた一つの木の実。スイクン自身が取ってきた覚えはない、ということは彼が取ってきたものだろう。フィラの実、と呼ばれるその木の実は、鋭い辛さが特徴だ。
「まずはこれ、召し上がれ。お腹空いてるでしょ? あ、断らないでね。一応これも『命令』だからさ」
 口元に近づいてきたその木の実を、恐る恐る一かじりする彼女。その辛さに顔をしかめるが、何も言わず喉の奥まで流し込んだ。ふう、と一息つく彼女に、再びそれが差し出される。
「ほら、全部食べなきゃ。キミが苦手なのは分かってるけど、お腹が空いてたら何も始まらないからね」
 二口、三口、と食べ進めていくが、やはり辛さがきついのか、途中で何度も休憩を挟んでいる。段々とその様子に苛ついてきたゾロアークは、とうとう強引にその木の実を口の中へねじ込んだ。
大きな欠片をかじり取り、げほげほと咳き込みつつも飲み込む彼女に、さらに木の実が差し迫る。これ以上彼を怒らせるわけにはいかない彼女は、急いでそれにかじりつく。
「そうそう、最初からそれくらいがっついてくれたらよかったのに」
 やっとの思いで彼女はフィラの実を食べきった。残った芯をぽいとその場に投げ捨てると、彼は立ち上がり、今度はそっと彼女の頬を手で包み込むように支えた。
まるでその様子は彼女を慈しむかのよう。けれどもその顔は勝者の余裕なのかにやにやと勝ち誇った笑みを貼り付けたまま。そんな様子に苦虫を噛みつぶしたような顔をするスイクン。
「キスは嫌かな? ……ま、キミに拒否権はないんだけど」
 そのまま彼のマズルが彼女のそれと重なり合う。舌を出せ、とばかりに小突くその動きに仕方なく口を開くと、その奥へ乱暴に突き込まれる彼の舌。
暴れ回る彼の舌に、申し訳程度に付き合う彼女。今にも舌を噛んでしまいそうな衝動に駆られつつも、何とか押さえ込んでいる。
もし今ここでこいつの舌を噛んで殺す事が出来ればきっと彼女はそうしている。けれども死ぬまでにはそれなりの時間がかかる。それまでに彼が何をしでかすか、考えたくはなかった。
「っは、いいね、その顔。今にも殺してやる、って感じの反抗的な態度、好きだなー」
 それすらも楽しんでいる様子の彼は彼女の横に座り込み、今度は彼女の胸部を弄り始めた。白く細かい柔らかな毛を掻き分けながら、彼はお目当ての場所を探す。
くに、と小さな出っ張りを見つけてはその部分を軽く爪で弾く。じんわりとした刺激はまだ快感とは呼べないものの、体の芯に向かって確実にそれが伝わっていく。
二つ、三つ、四つ、と数えていくその様子を、ただただ恥ずかしさを抑えて耐え続ける彼女。心なしか顔が火照っているようにも見えるが、恥ずかしさのせいだろうか、それとも。
「うん、それじゃあとりあえず、印でも付けておこうかな。コレで」
 取り出したのは先ほど床に転がしたフィラの実の残り。ほとんど食べられる部分は残っていないが、まだ一部には辛み成分を含んだ果実部分が残っている。
赤みを帯びた実の欠片を爪で削ぎ、それを先ほどの出っ張りの部分へこすりつける。白かった毛は点々と赤く目立つようになり、その姿はまるで乳首をぷっくらと膨らませたのよう。
「は、あっ、っぐ、ぅ」
「あ、やっぱ染みるんだコレ。ごめんねー、でもそのうち痛気持ちよくなると思うよ。もしかしてもうなってたりして?」
 ケタケタと笑う彼を涙目で睨むが、ぷるぷると震わせた唇が確かにその辛さを物語っている。ひりひりする刺激が痛みなのかどうなのか、段々彼女には分からなくなってくる。
それじゃあ次だね、と言いつつ彼はさらにその下、後ろ足の間へと移動していく。白い毛の中、少しだけ盛り上がった丘をぐい、と引っ張ると、中にはピンク色の肉壺が蠢いていた。
「へー、伝説のポケモン、スイクン様でもこっちはあんまり経験なさそうだね? 初めてだったりする? 大丈夫?」
「余計な心配は……しなくていい。やりたいことがあるなら、さっさと、済ませたらどうだ」
 先ほどの刺激に苦しみつつも、何とか耐えているといった様子の彼女。はあはあと肩で息をしながら、時折目をぐっと瞑ってその刺激を忘れようとしている。
彼はそんな様子を見てにやりと紅い口元を上げる。そしてまた肉壺の方へ向き直り、ぐい、とひと思いに爪を二本射し入れ、左右に広げた。
中をじっとのぞき込み、さらにもう片方の手でその周りを優しくなぞると、流石のスイクンもぴくり、と後ろ足を震わせた。快感ではない、自分の体にそうスイクンは言い聞かせる。
「中は結構ほぐれてる、みたいだけど……まだちょっと入れたら痛そうだね。濡れてるとは言い難いし」
「気を遣うな、と……言っている」
 スイクンは震える声でそう抗議するが、ゾロアークは気にも留めず、さらにその周りを優しく撫でるだけ。割れ目の根元にある突起も、そっと触れるだけで特別弄ったりはしない。
さらに中の方に爪を入れていくが、爪が引っかかりそうになるとすぐに手を戻す。痛みはほとんどなく、じんじんと痺れるような、むず痒い熱だけが彼女の下腹部に溜まっていく。
「そうはいっても、僕はキミにも楽しんで欲しいんだよね。出来れば心から、僕との行為を楽しんで欲しいんだけど……そうなるまでにはちょっと時間がいるかな」
「この状況で、楽しめ、という方が……無理、だろう」
 ぴく、ぴく、と縛られた後ろ足が揺れる回数が徐々に増えている。スイクン自身も、段々とこの刺激が疼きに、快感に変わりつつあることを自覚はしていた。だが、認めたくはなかった。
こんな状況で、こんな奴に、どうして気持ちよくなってしまっているのだろうか。自分の体の素直な反応を嫌悪しつつ、出来ることなら早くこの行為を終わらせてしまいたいと思うばかり。
けれども彼は決してそれを許してはくれない。つつ、と割れ目をなぞり、中を優しくかき回すだけのその動きが、ますますスイクンに劣情をもたらす。
「どう? ちょっとは気持ちよくなってきたんじゃない?」
「そんな訳、ひぁっ!」
 ぺろり、と舌が彼女の割れ目を舐った。ただそれだけの出来事に、彼女は悶えた。その事実だけで、彼は十分満足し、彼女は十分心折られたようだった。
「そんな訳が……何?」
 その言葉が消えるか消えないかの内に、再び這わされる舌の動き。突起を包む薄い皮を剥き、露わになった核にざらざらとした刺激が加わる。
さらに肉壺の奥には彼の爪が三本射し込まれ、中をぐるぐると掻き回している。先ほどまでとは打って変わった激しい動きに、彼女はもはや声を抑える事も出来ず。
「ふぁ、ああっ、あ、んぁっ、や、あっ!」
「ほら、気持ちいいんでしょ? いいよ、別に声出したって誰も文句言わないし。僕とキミしか知らないんだから、今ここで強がる必要なんかないじゃんか」
 脳天を貫くかのような衝撃が、まだ彼女の頭を揺らしている。欲しい、という気持ちと、でもこいつは、という気持ちが、彼女の中でせめぎ合っている。
今、彼女は蔦で縛られているせいで身動きが取れない。その上さんざん辱めを受けて、奴は気持ちよくさせようと必死になっていた。こいつが悪いんだ、こいつのせいで。
「キミがコレを望まないなら……さっきみたいにゆっくりした動きを続けても良いんだけど。それじゃあキミが辛いでしょ?」
「辛く、なんか……はぁあっ!」
 違う、私が求めているんじゃない。彼女は自分にそう言い聞かせ、必死に奥から沸き上がる欲望を否定する。割れ目に走った衝撃に身を震わせながらも、プライドがそれを許さない。
「辛いと思うよー。さっきの木の実も効いてきたみたいだし、理性なんてほとんど残ってないんじゃないの? 仕方ないと思うよ。キミが求めちゃうのも。僕のせいだもんね」
 とんとんと割れ目をつつくその刺激が、彼女の足を同じリズムで震わせている。小さく呼吸を繰り返しながら、彼女は悦楽に浸った頭で考える。
あの木の実のせいで、こいつの与えてくる刺激のせいで、この蔦のせいで、彼女にはどうすることも出来ない。だから、仕方のないことなのだ。
「……ほら、そんなに欲しそうな顔してる。木の実、すっかり回っちゃったね。もう元のキミじゃないみたいだ」
 もう、さっきまでの彼女はいない。そうだ、だから仕方ないんだ。自分が自分でなくなったのだから、これはもうどうしようもないことだったのだ。
彼女はそう考える。考え始めると、どんどん頭の中がすっきりとしてくる。何を思い悩んでいたのだろうか。逃れられないことなのだから、諦めて溺れてしまっても仕方ない。
誰も見ていないし、誰も咎めない。だから、この場は、彼に任せてしまおう。もっと気持ちよくなれるなら、もっとして欲しい。仕方ない、仕方ないんだ。私のせいじゃないのだ、と。
「し、い」
 ぽつり、と呟かれた諦めの言葉。彼はくすくすと笑いながら、けれどもとぼけたようにもう一度割れ目に手を少しだけ滑らせた。はうっ、と体を捩る彼女に、彼はもう一度問いかける。
「ほら、聞こえないよ? もっとはっきり、何をして欲しいのか、言ってくれないと」
「もっと……私の秘所を……弄って、ほしい」
 快感に溺れ、悦楽に崩れた笑みを浮かべ、スイクンは確かに、ゾロアークに懇願した。仰せのままに、とゾロアークは畏まって答えた後、その秘所にフィラの実の芯を突き入れた。
「ひああああああぁっ、あ、ああっ! は、あっ、あ、く、あっ、あああっ! あっ、あ、ふああっ」
 その刺激すら快感に変わったのだろうか、彼女はだらしなく口を開き、がくがくと体を震わせて、その秘所からぷしゅ、と蜜を噴き出した。
飛び散ったその蜜を手で拭き取りながら、彼は立ち上がり、今度は彼女の口元へ向かう。その足の間には、彼の黒い毛に浮き上がった赤い雄が鎌首をもたげてぶら下がっている。
彼女に覆い被さる形で、その雄を彼女の顔の前にぶら下げる彼。彼の顔の目の前には、フィラの実が入ったままの彼女の肉壺が、ひくひくと何かを待ちわびて震えている。
「それじゃ、動かしてあげるから。キミも……ふふ、何をすれば良いかは、分かってるみたいだね」
 言葉半ばで、既にスイクンは目の前の雄に口を付けていた。舌を出して裏筋をつつ、となぞり、舌の届く限りの範囲を舐め続ける。その顔はすっかり惚けきっていて。
その様子に気を良くした彼は、膝を折り曲げてさらに姿勢を低くした。迫ってくる雄を、もはや嫌がる素振りも見せず口の中へと飲み込んでいく彼女。
淫らな水音を立てながら、必死にその雄に奉仕をする彼女。さらに一段と口の中で固く、大きくなるそれに、時には吸うように、時には転がすように、緩急を付けて刺激を加える。
 彼は雄から伝わる快感に目を細めつつも、フィラの実を彼女の肉壺からずぷ、と抜き去った。雄を口にほおばったまま、んっ、とくぐもった声で応える彼女。
べっとりと蜜に濡れたそれを、再び彼は彼女の中へ沈めていく。たいした抵抗もなく、じゅぷ、と飲み込まれたそれを小刻みに震わせ、さらに手で核を弄ってやると。
「んっ、んんっ、んんんーっ!」
 声にならない叫びが、彼女の喉から聞こえてくる。ぷしゅ、と溢れた蜜の様子から察するに、再び達してしまったのだろうか。しかしそれでも彼は動きを止めない。
くぷ、とそのほとんどを抜き取ったかと思えば、ぐぽっ、とひと思いに突き立てられるその刺激が、体全体を貫くかのような快感になって彼女を襲う。
動きにシンクロして足を震わせ、うっとりとした目で目の前の雄をほおばり善がる彼女の様子は、もはや伝説の威厳さえ感じさせないほど淫猥で。
「っ、なかなか上手、じゃないか。そろそろ出そうだけど……いいかな?」
 その問いに、彼女は確かに首を縦に振った。もっと欲しい、もっとしたい、それだけが今の彼女の頭の中にあった。理性という楔は、どこかへ消えてしまっている。
腰を振って彼女の喉元まで雄を押し込む。膨らんだ根元までマズルの中へ押し込んで、彼はようやく、びくりと体を震わせた。
 びゅる、と勢いよく吐き出された白濁が、彼女の喉の奥へ溜まる。それを喉を鳴らして飲み込む彼女は、どこか満足げな様子だ。
数回の射精のあとも、断続的に吐き出される精を、彼女は顔で、体で受け止める。彼は快感の余韻に浸りながらも、ご褒美とばかりにフィラの実で彼女の中を抉っている。
「はっ、あ、あは、ぁっ」
「……キミもなかなか、貪欲、だねえ? まだ足りない、って顔してるよ」
 やがて白濁が飛び出さなくなったところで、ようやく彼は体を起こした。まだある程度の固さを保ったままそびえ立つ彼の雄を、どこか物欲しそうに眺めている彼女。
ぽとり、とその雄から白濁を垂らしながら、彼は彼女からフィラの実を抜き取り、そのまま彼女を抱き締める体勢に。今度は雄の先端が彼女の割れ目に口付ける。
「うーん……キミもそろそろ疲れてきた頃だろうし、ここらで止めても良いんだけど、どっちが良い?」
「早くっ、早く、ぅ……っ!」
 分かった分かった、とそのまま濃厚な口付けと共に彼は雄を突き立てた。先ほどまでの細いフィラの実の芯とは違う、確かな質感とその温かさに、彼女は体を仰け反らせ、嬌声を上げた。
自由にならない体を捩らせ、何とか快感を得ようと必死なその体。赤く染まった体毛の奥で立ち上がった芯をくりくりと爪で弄りながら、ぐちゅり、じゅぷり、と入れては出してを繰り返す。
 時折がくがくと体を震わせているのは、彼女が果てた証だろうか。もう何度噴き出したか分からない愛液で体を濡らしながら、彼女はそれでも喘ぎ、悶え、求める。
「はっ、あぁ、うぁ、やっ、ああん、ぅああっ!」
「良いよ、その顔っ……僕の所有物(モノ)に、なってきたねっ!」
 繰り返し挿し込まれるその雄を、彼女の内壁がずりずりと擦り、彼と彼女にこの上ない快感を与えていく。そんな中、彼も二度目の絶頂は近く。
彼女はもう彼の事しか見えていない。絶頂の快楽にだらしなくにやけながら、彼の思うように動き、声を上げる一匹の雌と化している。
 そんな彼女に、彼はもう一度イくよ、と囁いた。その言葉に悦びを感じ、きて、きてぇっ、と求める彼女。根元の膨らみまでしっかりと飲み込んだ彼女は、彼が中に全てを吐き出すと同時に達した。
「ひぁああああぁぁっ! あ、ああっ、は、あ、ん、ぅ……あぁ」
 注がれる子種の熱さを下腹部に感じつつ、彼女は全ての動きを止め、ぼんやりと天井の突起たちを眺める。気持ちいい、という幸せが、彼女をすっかり飲み込んでいた。
しかし、彼はそんな彼女と繋がったまま、少し目を閉じて集中力を高める。やがてカッと目を見開いたかと思うと、彼女の隣でそっと、こう呟いた。
「あーあ、全部見られちゃったね。彼女に。あそこにいた彼女は幻。また騙されちゃうなんて」
「な、あ、わ、私、は……シャワー、ズ……いや、違う、私は、私はっ、わた、しは……!」
 彼女の隣に佇んでいたシャワーズは、最初出会った時の尊敬の目ではなく、何か汚らわしいものを見るような、軽蔑の目で彼女を見ている。氷よりも冷たい目線が、彼女の心に突き刺さる。
「……守ってくれるって言ったのに」
 踵を返し、鍾乳洞の入り口へと走り去るシャワーズ。いつから、と力なく尋ねるスイクンに、彼はずいと顔を近づけて、呆れたような様子で囁く。
「最初から、キミの隣に縛られてたんだよ。解放してあげたのはついさっき、だけど。幻滅されちゃったねー、おまけにキミを放って逃げちゃうし」
 最初から最後まで、全てを見られていた。つまり、スイクンが快楽に溺れてあられもない姿で善がる様子は、全て彼女に知れ渡っていたということ。
スイクンは呆然とした様子で、嘘だと呟き続けている。そんなスイクンの体をそっと撫でて、優しく、諭すようにゾロアークは続ける。
「でも、彼女も彼女で冷たいよねー。仮にも一度救ってくれた恩人を、簡単に見捨てちゃうなんて」
 まるで自分とは関係ない、とでも言いたげな口ぶりの彼に、彼女は激昂する。それもこれも、全部元をたどっていけば、原因は明らか。
「それは全部っ、全部お前の、お前のっ……」
 しかし彼は首を横に振る。何が違うんだ、と食ってかかる彼女を制止して、彼は再び言葉を紡ぎ出す。
「僕のせい、か。確かに僕はキミに色々やったけど……最後求めてきたのはキミでしょ? 決めたのはキミだ。つまり、キミのせい」
「私の……せい……?」
 そこでスイクンははたと止まる。いろいろな理由を付けて、いろいろな言い訳を考えて、最後に屈したのは誰だったか。最後にそれを決めたのは誰だったか。
でもそれはあの木の実のせい。けれどそれは言い訳にしか過ぎない。だけれども他にどうしようもなかったはずだ。自分が我慢するなんて……我慢、していたら。
「私、は」
「キミが我慢できなかった時点で、キミが悪いんだよ。あと……そういう状況を考えてあげられなかった彼女のせい、でもあるかな」
 スイクンは悔やむ。私は、こんな奴に、嵌められたのか。私は、あんな奴を、助けてしまったのか。自分で自分が情けなくて仕方がない。けれど、今更嘆いたところで過去は変わらない。
彼女は涙を流しながら、目の前の雄をどうすれば殺せるかを考えていた。しかし、そんな彼女の前に、二つ目のフィラの実が差し出される。
「ま、一旦忘れなよ。コレを使えばきっとまた、何にも考えず気持ちよくなれるよ? 大丈夫、何度も使ったからって危険性はないし……ただ辛いだけの木の実だから」
「誰が……誰がそんなもの! 私はもう、お前に屈するつもりはない!」
 やれやれ、とため息をつきながら、彼はフィラの実に自らがぶりとかじりついた。二、三度咀嚼しながら、徐々にその口を彼女の割れ目へと近づけていく。
「止めろっ、何を、何をする気だ! ……何をされても、もうそれを食べるつもりはない!」
「あー、食べなくてもいいよ。こっちからの方が吸収早いらしいし」
 すり潰したその木の実を、割れ目の奥へと流し込む彼。ひりひりとした痛みにもがき苦しむ彼女をよそに、さらに彼はフィラの実にかじりつく。
やめろ、やめてくれ、と懇願する彼女は、どこか怯えてさえいるようで。自分を失いたくない、これ以上彼に狂わされたくない、と必死で泣き叫ぶ。
「たぶん一週間もすれば、キミも僕のこと、分かってくれると思うんだよね。だからそれまで、じっくり楽しもっか」


          ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


 もう十日近くになるだろうか。シャワーズである彼女は、どこかの洞窟に閉じ込められたまま、ゾロアークに食事と水を与えられ続けていた。
 最初こそ彼女は身構えた。鍾乳洞で捕まった時点で、きっとあの時の続きをされるのだろう、と思っていたのだが、気がついたらこの部屋で独りだった。
今に至るまで彼はまだ何もしてくる様子がない。あれほど彼女に執着していたのに、今では一日に数回、木の実や水を持ってきては、汚れた部屋を掃除するだけ。
 脱出するチャンスはあった。だけれども出口は岩と蔦とで塞がれていて、彼女の全力の"ハイドロポンプ"でも吹き飛ばせないほど。天井に空いた穴は遠く小さくて、かろうじて光が挿しこむ程度。
岩肌の感触や天井の突起から、きっとここも鍾乳洞なのだろう、とはわかったものの。叫んでも誰も来ないこの現状からすると、スイクンの住処とは違う、と彼女は判断していた。
そして彼女はそもそもゾロアークには叶わない。彼が出口を開けた時に脱出しようにも、下手に動けばより大変なことになることはよく分かっている。
 だからこそ、そのうち助けが来てくれる、きっとスイクン様が来てくれる、その希望に彼女は全てを託していた。けれどもその救いの手は一向に差し伸べられる気配がない。
この場所がどこか分からない以上、望みは薄い。やはりどうしようもないのだろうかと、彼女には半ば諦めの気持ちが芽生え始めていた、その時だった。
「……こんな所にいたのか」
 爆発音と共に水飛沫が舞い、出口の岩がどこかへ吹き飛んでいった。その出口の先には、あの時のスイクンの姿。その姿に驚き、同時に喜び、声も出せず立ち尽くす彼女。
そのまま中へ歩いてくるスイクンに、感極まって涙を流す彼女。震える声で、やっとの事でありがとうございます、と言おうとしたが、それは叶わず。
 ドン、と前足で思い切り蹴られ、壁に打ち付けられるシャワーズ。げほ、と咳き込むシャワーズに覆い被さるスイクン。状況が理解できず、呆然とする彼女に向かって、スイクンは声を荒げる。
「もう逃がさない……私と同じ、ゾロアーク様の所有物(モノ)のくせに、生意気な真似を……っ!」
「な、え、え? スイクン……様? 何、言って……」
 まるでそのまま噛み殺しそうなほど憎しみを見せるスイクンを、ぽんぽんと叩いて下がらせる獣の姿。赤と黒の毛に覆われた、見覚えのあるその姿に、シャワーズは再び絶句した。
「そん、な……そんな、どう、して」
「待たせてごめんね。じゃ、始めよっか。スイクンはキミのことまだ許してないみたいだけど……仲良くなってあげて欲しいな」
 これは彼が見せている幻影に過ぎないんだと、そう思いたかった。いや、そもそもこのゾロアークさえも幻影じゃないだろうか。きっとこれは、幻影の虚像に過ぎないんだ。
シャワーズの絶望をよそに、スイクンとゾロアークが彼女を拘束し始める。時折触れる体の感触は、とても幻とは思えないほど確実で、生々しく。そんなシャワーズの耳元で、黒い獣は優しく囁く。
「キミも、彼女と同じ僕の所有物(モノ)だってこと、分からせてあげるよ。じっくり、ゆっくり、はっきりと……ね」


――End――


・あとがき
ここまで読んでくださった皆さん、どうもありがとうございます。
わりと何度かこんな感じの小説書いてるので、もしかしたら感づいてた方もいらっしゃるかもしれませんが。
なんなら以前にも同じようなの書いてるんですが、こういうの好きなんですよね(

さてさて、今回はタイトル通り、「幻影の幻影」を使うトリックでした。
ゾロアークも以前書いたことはあるんですが、やっぱり官能小説だと使いやすいですね。体つきもえろいですし(?
きっと他にも何匹もの雌を陥れては使い捨ててきたであろう彼の術には、さしものスイクンでも敵わなかったようです。
フィラの実は一部の性格のポケモンには「こんらん」を引き起こす効果があるので使わせていただきました。スイクンが段々受け入れるようになったのも実はこの所為。
ただでさえ強力な幻影を使うゾロアーク相手に、鈍りきった頭で一週間も責め続けられた結果は……。
本当はもっとじっくり調教の中身を書きたい気持ちもあったんですが、間に合わないと判断してこんな感じに。
書き上がった時には1時間切ってたので、何とか間に合って良かったです、ほんと。
細かいことですが、章区切りの☆も進むにつれて黒くしてみました。黒く染まったスイクン様の明日はいかに。

それではここでコメントへのお返事を。
>読んでいるこちらまで騙されていました。どれが本当なのか嘘なのかいくらか読みなおさせられました(いい意味で)
このゾロアーク君も手練れですからね。最初こそ油断してましたが、本気出せばこんなに凄いんです。
本物なのか虚像なのか、じっくり読めば分かるはず、ですが……もしかしたらそれすらも幻影、かもしれませんね。

>姦計で強姦からスイクン様を落としていくえろあーくちょっと代われ。このえろあーくはある意味王道という感じのゾロアークなので、どこかで見た気がするのも気のせいではないはず。
そうですねー、強姦の時によくいるタイプのキャラだと思います。でもこれくらい飄々としてた方が好きです。プレイの中身はえげつないですけどね(

>伝説ポケモンをも翻弄するとは、恐るべし幻影の覇者。フィラの実の効果や辛みを利用した嗜虐プレイも興奮モノです。
やっぱ強姦はこうでなくっちゃ、をなるべく頑張って再現してみました。映画の幻影の力も凄かったので、きっとこれくらいは出来るはず……。
フィラの実に関しては、人間じゃないし薬を使うよりも自然だろう、ということで使わせていただきました。辛いし訳分からなくなるしで攻めには必須ですね(?

>読者心理の裏切り方が巧妙で、私も何度も裏切られました。ゾロアークの幻影は使い勝手がいい分繊細に扱わないと説得力が失われてしまうところを、丁寧に心理描写を展開することでしっかりと昇華されています。彼の性格がもっとゲスい方が絶望感がすさまじく私の好みでしたが、後味がクドくなりすぎない感じもいいですね。闇落ちするスイクンにももうちょっと抵抗してほしかったですけれど。
あんまりゲス過ぎるとそれはそれで書き切れない気がしたので自分の手に負える程度になっております。身体に傷つけるより精神に傷つけたい派なのでまあこのくらいで。
調教の内容については上に書いたとおり時間との兼ね合いでこうなりました。やる気を出すのが遅すぎました(
いつかさらにたっぷりそういうのを入れた、趣味趣向に突っ走った小説も書いてみたいんですが明らかに仮面小説大会向きじゃなさそうです……w

というわけで、四票いただいて第三位タイという結果でした。投票いただいた皆さんどうもでした。もしかして皆さんも結構こういうのお好き……?
ではではまた別の作品でお会いしましょう。あとがきにまでお付き合いいただいて、本当にありがとうございました!


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Last-modified: 2016-06-25 (土) 23:58:06
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