※ この作品には、流血・官能表現等の描写が含まれています。
「アメモースにニトロチャージだ!」
水の試練はアーカラ島のせせらぎの丘で行われる。炎タイプの俺には出番なんてないと思っていたが、バトルに参加できてラッキーだ。
俺はボールから勢い良く飛び出して、挨拶代わりに威嚇を発動させて、オニシズクモとアメモースの攻撃を下げる。そのままニトロチャージで畳み掛けようとした時、俺は気づいてはいけないことに気づいてしまう。
今戦っている場所は海水で満たされた浅瀬のような場所だった。その事実は俺をすくみ上らせるには十分だった。雨が降っているのもあり、半分も削れなかった。
そんな俺に対して、オニシズクモたちは容赦なく攻撃を仕掛けてくる。何とかエアカッターをかわしたが、バブル光線が直撃してしまう。
マスターを悲しませまいと何とか持ちこたえたが、俺を回復してもあまり意味はないだろう。
「俺のことはいいから、マスターはカインの回復をして!」
人間の言葉は喋れないが、言いたいことは察してくれたらしい。バッグから取り出したいい傷薬をもう一つのボールの方に使っている。
次のターンのバブル光線で、俺の目の前が真っ暗になった。
「またこの夢かよ、これで三日連続…」
嫌な夢で目が覚めた俺は、欠伸しながら軽く伸びをする。
俺はフレイ。特性が猛火ではなく威嚇なのを除けば、ごく普通の雄のニャヒートだ。マスターのライト曰く、意地っ張りで夢特性かつ6Vの優良個体だよと言っていたが、正直良く分からない。6VのVってどういう意味なんだ?
五年前、野生だった俺はまだ新米トレーナーだったマスターにゲットされ、半年前から島巡りにも挑戦している。島巡りを始めるのもかなり遅いし、試練の挑戦ペースも相当遅いが、バトルのセンスはあるらしく、本人も二代目アローラリーグチャンピオンを目指しているらしい。実を言うと俺もポケモンリーグ優勝に憧れているので、マスターとはいい感じの関係だと思う。
変なタイミングで目が覚めたので、まだ少し眠い。午後から特にすることもないし、昼寝の続きでもするか……
「フレイ、やっと起きたのか。昼食ったらバトルの練習するって言ってただろ」
一匹のラクライが俺を起こしに来た。
「カイン、折角家に帰ってきてるんだからさ、少しはゆっくりさせろよ」
寝起きで機嫌悪いところに昼寝も邪魔されたので、無愛想に答えておく。
「三日前から同じことばかり言ってるぞ。それに俺だって早く進化したいんだよ。もう少しでライボルトに進化できるんだ、手伝ってくれよ」
「カインが変わらずの石を持たせてもらうなら、喜んで手伝ってやるよ」
「それ進化できなくなるから⁉」
一年前にカインがゲットされて以来、マスターの手持ちは俺とカインの二匹になっているが、カインが俺とマスターからいじられるようになったのは、仲間になってすぐの事だった気がする。いじられキャラには見事に進化しているな、こいつ。
「おーい、おやつのポケマメ用意したよ」
「ポケマメだって⁉早く食べようぜ!」
結局進化よりポケマメの方が大事らしい。だったら俺を巻き込むなよ……
ポケマメを食べながら、せせらぎの丘でのバトルについて一人考え事にふける。
正直言って俺は海が苦手だ。小さい頃の事故がきっかけなのは分かっているので、いわゆるトラウマだろう。もはや炎タイプだからで解決するレベルじゃない程には重症で、海水に触れることさえ怖いと思うほどだ。細かいことは俺だけの秘密にしているが、海が苦手なのはマスターもカインも知っている。けど次にいつせせらぎの丘みたいな場所でバトルしないとも限らない。早いうちに何とかしておかないとな……
「どうしたんだフレイ、ポケマメ多かったらたべてやるぞ?」
「悪いけどお前に分けてやるポケマメは持ってないな」
「ひょっとして水の試練の事気にしてるのか?」
図星だった。何も言い返せない。
「まあ気にするなって、海が苦手なのは俺もマスターも知ってるから」
「それは俺が倒されたことを馬鹿にしてるのか?」
気にしていたことを言い当てられたのが癪で、思わず声を荒げる。
「いや、俺はそういうこと言ったわけじゃ…」
「分かったよ、だったら自力で克服してやるよ!」
そのまま勢いに任せて俺は家を飛び出した。マスターが何か話しかけてきた気もするが、今の俺の耳には届かない。
目指す場所は家の前に広がるカーラエ湾だ。
砂浜まで来たのは良いが、対策なんて何も考えていない。そもそもトラウマが簡単に克服できるなら、それはトラウマと呼ぶのかさえ怪しい。
かといって、何もできませんでしたなんて言って帰りたくはない。カインにあんな態度取っといて何もしないままじゃ気まずいだけだ。
「一体どうすりゃいいんだ?」
独り言を呟きながら、波打ち際を行ったり来たりしている時だった。
さっきまでは穏やかだった波が急に高くなり、波打ち際にいた俺は簡単に波に攫われてしまった。何とか海面から顔を出したとき、カーラエ湾はもう遠くになっていた。後ろで波が何かに当たって砕けるような音がした。後ろを振り返ると尖った大きな岩が無数にあり、案の定俺はそっちに押し流されている。
尖った大きな岩に何度もぶつかり、その度に全身に激痛が走る。とっさに岩の一つにしがみついて流されないようにする。俺は傷だらけで、あちこちから血も出ている。しがみついた岩によじ登ろうとしたが、身体が痛くてしがみついたままでいるのがやっとだ。
誰かに助けを求めようにも、こんな時に限って鳥ポケモンの一匹もいない。海にも助けてくれそうなポケモンはいない。しがみつく前脚に力が入らなくなってきた。もはや駄目か…
「君、大丈夫?そっちに助けに行くからもう少し頑張って!」
何かが海に飛び込む音がしてすぐに、一匹のシャワーズが俺の所に来た。俺の存在に気づいてくれたらしい。
「私につかまって、早く!」
言われるままに俺がシャワーズの背中にしがみつくと、すぐに泳ぎだした。俺が溺れないように水面ギリギリを泳いでいるらしい。それでもかなり早く、気づいたときには地面に足をつけて立っていられる場所まで来ていた。
「良かった、危ないところだったよ」
さっきまで俺がしがみついていた岩は波をかぶって見えなくなってしまった。本当に危ないところだったらしい。
「ああ、ありがと…」
急に眩暈がしてその場に倒れこむ。身体が痛くて立っていられない。
「えっ、君こんなに傷だらけだったの⁉」
俺がしがみついたシャワーズの背中が俺の血で赤くなっていた。
段々意識が薄れていく。俺、このまま死んじゃうのか…
甘い匂いを感じた直後、口の中にやさしい甘みが広がる。そのまま喉をゆっくりと流れていき、朦朧とする意識が少しはっきりしてきた。少なくとも俺はまだ生きているらしい。
再び口の中に広がる甘さ。これが木の実の味だとは分かったが、液体化した木の実なんてあったか?一応メレメレ島出身の俺は、この島で採れる木の実は大体知っているが、ジュースでもないのに元から液体化した木の実は見たことがない。まさか俺、他の島、あるいは他の地方にまで流されてしまったのか⁉
とりあえずここがどこか周りを確認しないと。まだ重い瞼をゆっくりと開く。ぼんやりとした視界が段々鮮明になった時、俺の目に映るのは、心配そうに俺を覗き込むシャワーズだった。
「良かった、気が付いたんだ。急に倒れて、意識なくなっちゃったみたいだから、てっきり死んじゃったかと思ったよ」
普段なら、勝手に殺すなとか言うところだが、言い返す気力もなくて、苦笑いで返すのがやっとだった。
そんな俺を気にも留めず、黙々とオボンの実を食べているシャワーズ。しばらく噛み続けた後、俺の口元を軽く叩く。口を開けて、という意味だろう。
言われるままに口を開けると、俺の口の中にシャワーズは口を突っ込んできた。一瞬何が起こったか把握できずにいる俺の口に、噛み砕いたオボンの実を流し込んできた。
液体化した木の実の正体ってこれか。まあ、今の状態じゃ噛むのがつらいから普通にありがたいんだけど。
最終的に、シャワーズは三個も俺に嚙み砕いて食べさせてくれた。
木の実のおかげで、満足に声が出せるようになった。
「君が、俺を助けてくれたのか?」
「そうだよ、と言っても傷の手当てと木の実食べさせてあげただけなんだけどね」
「ポケモンセンター並みに色々してくれたんだな」
「そ、そうかな。私こんなこと初めてだったから全然自身なくて…」
「何にせよありがとうな。俺はフレイだ、君は?」
「名前、聞かれてるんだよね、私はアクア。えっと、よろしくねフレイ」
「あ、ああ。こちらこそよろしく」
くだけた感じで話していたつもりだが、アクアが急に真面目口調になったため、俺もぎこちなく合わせておいた。
俺が男だから緊張しているのか、そもそも他人と話すのに慣れていないのか、一体どっちだろうな。俺も他人と話すのはあまり得意ではないので大体理解できるつもりだったが、俺は女の子と話すのが初めてだったのを忘れていた。
「そうそう、今夜は雨っぽいし、ケガしてるんだから休んで行って。まあここの洞窟まで雨は吹き込まないから濡れる心配はしなくていいよ」
「ああ、分かった」
本当は早く帰りたかったけど、アクアから提案してくれてるのを断りづらいし、何より雨の中を帰りたくない。
…ここはお言葉に甘えるとするか。
そんなことを考えているうちに、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。
「アメモースにニトロチャージだ!」
…これで四日目、正直うんざりだ。どうせまた大した威力のないニトロチャージを放って、次のターンのバブル光線で倒されるまでの夢。うんざりしない訳がない。
それでも夢の中での俺の行動は、当然毎回同じ動き。早く終われと念じながら勢い良くボールから飛び出す。
やっと次のターンになった。後はバブル光線で倒されるだけ…
突然オニシズクモの動きが変わる。泡ではなく渦を巻いている水流を俺に向けて投げつける。
「バブル光線じゃなくて、渦潮⁉」
バブル光線を食らって倒されるつもりでいた俺が避けられるはずもなく、あっさり渦潮に飲み込まれた。
「何で急に夢の内容が変わってるんだよ!」
パニックになる頭を必死に回転させて対処法を考える。
そうだ、とんぼ返りで脱出すればいいじゃないか。案外簡単に…
そう思った時、渦潮は空高く伸びて、渦潮というよりも水の竜巻みたいになってしまった。
「マスター、俺をここから出して!」
マスターに助けを求めれば渦の中にまで海水が入ってきて、呼吸さえもできなくなった。
夢だと分かっているのに、どうしようもなく怖くて、苦しい。
そんな時、薄れゆく俺の意識の中で誰かが俺に語り掛けてくる。
「分かっただろう?お前に出来ることなんて何もないことが。まして自分自身の恐怖に打ち勝つだって?笑わせるな、いい加減に現実でも見たらどうだ?お前は一生自分の恐怖で打ち震えていろ、この死にぞこないが」
「嘘…だろ……⁉」
驚愕に目を見開いたまま、俺はどうすることもできなかった。
その声の主は他でもない、俺自身の声だったからだ。
「フレイ、フレイってば!」
「…アクア?」
「大丈夫?さっきからずっとうなされていたから心配で」
夢から醒めたことで張りつめていた緊張の糸が切れて、思わず泣きそうになるがここは耐えておく。
「大丈夫だ、それより俺起こしちゃったのか?そうなら謝るけど」
「気にしないで。何か身体拭くもの持ってくるからちょっと待ってて」
言われて気が付いたが、今の俺は汗だくになっていて、顔の毛先から汗が滴り落ちている。身体中の水分が全部汗になったと言われても信じられそうだ。
洞窟の中のどこに置いてあったのか知らないが、大きめのバスタオルを持ってきたアクアは俺の背中を拭いてくれている。
「フレイ、喉渇いてない?」
「結構渇いてるな」
「あれだけ汗かいたらそうだよね。全部拭き終わったから仰向けになってくれる?」
「ああ、分かった」
言われるまま仰向けになる。
「じゃあ口開けてね」
言われるまま口を開ける。ストローで飲ませてくれるn……
「⁉」
俺の口の中にアクアが口を突っ込んでくる。どこかデジャヴある光景だな。ていうかどうやって俺に飲ませるつもりなんだこれ⁉
「それじゃ、行くよ?」
アクアは滅茶苦茶威力調整した水の波動を使っている。水タイプらしい方法だな。
まあ色々と思うことはあるけれど、とりあえずは喉を潤すことにした。
水を飲ませてくれた後、アクアが俺に話しかけてくる。
「さっきはどんな夢見てたの?やっぱり怖い夢?」
「そうだな、大体そんな感じかな」
「ごめん、無神経だったね。怖い夢の内容なんて思い出したくないよね」
「大丈夫だ、気にするな」
申し訳なさそうにしているアクアを安心させたくて、思わず笑顔で大丈夫と答えてしまう。本当は全然大丈夫なんかじゃないけど、俺自身の問題なんかにアクアを巻き込みたくない。
「でもフレイは辛そうに見えるよ」
「そんなことないって、本当に大丈夫だから」
自分の意志で行動しているはずなのにすごく胸が痛い。辛いことを一人で抱えるのは慣れているはずなのに。
「お願いだよ、辛いことがあるなら私も力にならせてよ!」
気が付くとアクアは俺の力にならせてと頼み始めている。なぜここまで俺を助けようとするのか、俺には分からない。少なくともマスターにさえ隠してきた過去の辛い記憶も明かさないといけないだろう。だが、このままアクアの思いを無視し続けることはできそうにない。
「アクア、長くなるだろうけど聞いてくれるか?」
黙って頷くアクアを見てから、俺は話し始めた。
「実は俺、小さい頃3番道路の崖から海に投げ捨てられたんだ。投げ捨てた奴が二足歩行だったことしか覚えてなくて、そいつが人間かポケモンかさえも覚えてない。
海に落ちた後、必死に海面から顔を出して、息をするのがやっとの状況の時に高波に攫われて、気が付いたら砂浜に打ち上げられてた。
それ以来、俺は海が怖くなって、陸地の奥で一匹で暮らすようにしたんだ。
家族はいなかったし、親の顔も知らないままだったけど、海に関して怖い思いはせずに済んだからな。
そして五年前、俺はマスターのポケモンになって、同時にポケモンリーグの存在を知ったんだ。
トレーナーとポケモンが力を合わせてその地方で最強の座を巡って戦う…
その話を聞いて、マスターと共にポケモンリーグで優勝して、最強のポケモンになりたいって強く思うようになった。
半年前から島巡りに挑戦し始めた時も、俺ならできるかもって信じて疑わなかった。
でも、せせらぎの丘でのバトルで全てが終わってしまった。浅瀬でバトルする必要があったんだ。
海が怖かったのは相変わらずだったけど、バトルには特に影響なかったからって過信してた俺は、ひどく打ちのめされた気分だった。
その日の夜から、毎日せせらぎの丘でのバトルの夢にうなされて、今では普段のバトルでさえ怖くなってしまった。
マスターたちは無理しなくてもいいって言ってはくれるけど、心のどこかで俺に絶望してるかもしれない。
マスターに見放されるのが嫌で、海が怖い状態をどうにかしたくて、自力で特訓しようとしたけど、高波に攫われて…今に至る。
挙句にさっきの夢では、俺自身の声で俺自身を全否定しにかかっていた。
滅茶苦茶な話だよな?俺はとうとう俺自身にさえ諦められてしまっている。
もう俺自身さえも信じられない、俺だけは何があっても俺の事を裏切らないって信じてたのにな。
でも全否定されて当然かもしれない。
俺は俺自身が弱いことを認められずにいたからこういうことになってるんだ。
そのことにはもう気づいている。
でも俺はこのまま、過去に翻弄されたままで終わりたくなんかない。
俺は、どうしたらいいんだろうな」
「フレイ…」
途中から完全に自嘲交じりになって、どこか投げやりな感じに聞こえてしまったかもしれないが、俺が話せることなんてこれくらいだ。
むしろ俺の過去を明かしたことは初めてだったので、上手くまとめられたんじゃないかとさえ思える。
そして何を思ったのか、アクアは俺をそっと抱きしめる。
「アクア、一体どうしたんだ?」
「フレイ、今は何も言わないで。言わなきゃいけないことと、言ってあげたいことがあるの」
さっきと立場が逆転するように、俺が黙って頷くと、アクアは話し始めた。
「先に言わなきゃいけないことから言うね、フレイは頑張ってる、本当にすごいよ」
「…こんな俺に、気休めの言葉なんか言ってもらえる資格なんてない」
「気休めなんかじゃないよ。普通なら自分の怖いことに立ち向かったりしない、少なくとも私にはそんなことできないよ」
返す言葉が見つからない俺に構わず、アクアは俺の顔を彼女の胸の位置に移動させて、再び俺を抱きしめる。心臓の拍動がすぐ近くに聞こえる。
「それとね、これが言ってあげたいこと、今までお疲れ様、辛いことも怖いこともずっと耐え続けて」
そして一呼吸おいてから、アクアは最後のセリフを口にする。
「本当によく頑張ったね」
どうして俺にここまで優しくしてくれるのかは分からない。
今の俺に出来たのは、抱きしめられたまま、彼女の心臓の拍動を聞きながら泣き続けることだけだった。
「なんかごめん。俺、急に泣き出したりして」
「別にいいよ、気にしないで。それにフレイが楽になったみたいで良かったよ」
少し恥ずかしい話だが、心が洗われたような気分にはなっている。この場合は洗ってもらったの方がいいかもしれないけど。
「そこんとこは、その、ありがとう」
照れ隠しに前足で涙をぬぐいながらお礼を言っておく。
「それにしても、どうしてアクアは俺にここまで優しくしてくれるんだ?」
「ああ、それはね…」
「別に答えたくなかったら、答えなくていいからな?」
小さく首を横に振ってから、アクアは俺の疑問に答えた。
「フレイは、私の初めての友達だから…」
一瞬何が言いたいのか俺には理解できなかった。
アクアが噓をついているとかそういうことを考えたわけではなく、単純に信じられなかった。
アクアが周りのポケモンに嫌われるようなタイプだったか?少なくとも俺には心当たりがない。
「俺が、初めての友達…?」
「うん、フレイはアーカラ島に行ったことがある?」
「島巡りで、この前まで行ってたな」
「そこで野生のイーブイを見たことは?」
「オハナ牧場でマスターが写真撮ってた」
「そっか、だったら分かると思うけどね」
なんとなく理由を察してしまい、思わずつばを飲み込む。
「私が、この島に本来生息しないポケモンだから…」
あまり当たってほしくなかった俺の予想は、皮肉にも的中していた。
「私がシャワーズに進化して間もない頃、海に泳ぎに行ったら野生のギャラドスに追い回されちゃって、
必死に逃げていたらメレメレ島に来ていたの。
もう歩くのもしんどい程泳ぎ疲れていて、一晩休んでいこうとした。
けれども周りのポケモンたちは、私がこの島にいないポケモンだからって、私を激しく非難してすぐにでもすぐにでも追い出そうとしてきた。
でも私にはアーカラ島への帰り方も分からないし、小さい頃に家族を亡くしてたから誰も迎えに来てはくれない。
それで、海から泳いで帰るふりをして、身体を液体化してみつからないようにしながら夜まで待って、この洞窟を見つけてここに住むことにしたの。
それからは見つからないように木の実を取りに行ったり、たまに砂浜を散歩したりして毎日を過ごしてた。
周りのポケモンたちが私を見つけても、存在しないように認識しているだけだったのはラッキーだったかな」
誰からも相手にされないことを普通はラッキーなんて言ったりするはずがない。
どこか諦めたような笑顔を浮かべたままのアクアを見るのは、普通に胸が痛い。
「でも、私はずっとさみしかった。集めてきた木の実に話しかけたって返事もしてくれないし、誰も私になんか見向きもしてくれなかった。
最近は、ひとりぼっちのまま死んじゃうんじゃないかって怖くなったりもしたかな。
そんな時に出会ったのがフレイなんだよ。
この島に生息しないはずの私を見ても少しも驚いたりしなかったどころか、普通に接してくれた。
もしフレイの存在が幻だったとしても、本当に嬉しかった…」
話しながら、アクアは静かに泣いていた。
「あれ、私、なんで泣いてるんだろ。さみしいのには慣れてるはずなんだけどな」
…もう限界だ。ただじっと見てるだけで何もしないなんて、俺にはできそうにない。
俺は無意識的にアクアを抱きしめていた。
「もう二度とさみしい思いしなくて済むなら、俺がずっと一緒にいてやる。
世界を敵に回してでも、俺はずっと一緒にいてやる!」
「フレイ、どうして…?」
「アクアの友達だから、理由はこれでいいか?」
「うん、ありがと…!」
泣き笑いになった表情で俺を見てくるアクア。
「それで、アクアが良いなら俺と一緒に旅、しないか?
そうすればずっと一緒にいられるし、多分マスターはOK出してくれるからな」
「フレイ、本当にありがとう!」
涙をぬぐって再び元の笑顔に戻ったアクア。
…やっぱりアクアは笑顔の方がいいな。
「それじゃ、今日は遅いしもう寝よっか。おやすみ、フレイ」
アクアはそういってから、俺の頬にキスをした。
この後俺は、アクアにキスされたことで興奮してしまい、しばらく眠れなかったのはここだけの話だ。
眩しい日差しに目が覚める。
「ん、もう朝か。夢を見ずに寝たのは久々な気がするな…」
傷だらけになっていた身体も一晩でかなり良くなってきている。マスターを心配させる要因が一つ減ったのは俺としてもありがたい。
昨日家を飛び出した時点で十分心配させてるだろうけど、その辺は気にしないことにした。
ふと気が付くと昨日隣で寝ていたはずのアクアがいない。
「アクア、どこにいるんだ?」
呼びかけても返事がないということは、少なくともこの洞窟の中にいることはない。
木の実でも取りに行ったんだろうか。それなら入れ違いにならないように待ってた方がいいか。
しばらく待ってるとしよう。
15分後…
アクアはまだ帰って来ない。
木の実を取りに行ったとしても、少し遅い気がする。
一度アクアのこと探しに行ってみるか…
洞窟の外に出ると、3番道路寄りのカーラエ湾だった。
マスターの家はハウオリシティに近いので、昨日は結構流されたらしい。
木の実が取れる場所といえば、この辺なら西側の茂み辺りだったっけ。
記憶を頼りに探していくと、木の実は一通り取られた後らしくアクアの姿もない。
仕方ない、別の場所を探すか。
「それにしても、俺はアクアの事、どう思ってるんだろうな。なんか友達だけでは片づけきれない、そんな気がするんだよな」
アクアを探しながら、俺は、ふとそんなことを思う。
確かに友達の一言でも説明できそうな気がする。
そう思っていたが、さっきからアクアのことを考える度に、胸を締め付けるような動悸を感じる。
アクアはそんなことないみたいなので、俺は変なものでも食べたりしただろうか。
昨日アクアに噛み砕いた木の実を食べさせてもらった光景が一瞬頭をよぎって、思わず赤面する。
しかもその後俺は、アクアから口移しで水も飲んでいた。
あの時は自力で食べられなかったとはいえ、あれは実質的に間接キス…
「あーもう、一体何考えてるんだ俺は!」
普段はバトルのことしか考えてなくても、こういうことはきちんと覚えているあたり、俺もばっちり雄なんだなと思う。
…そんなことより早くアクアを探さないとな。
この辺は一通り探したけどいなかったから、砂浜の方も探さないt…
「きゃあああ‼」
突然砂浜の方から響き渡る悲鳴。しかも今のはアクアの声だった。
何があったか分からないが、行くしかないだろう。
「アクア頼む、無事でいてくれよ…!」
「へへへ、こいつは上玉だな。わざわざメレメレ島まで来た甲斐もあったってもんよ」
「嫌、放してよ!」
「悪いがお嬢ちゃん、こんな上玉手放すわけにはいかないんだよなあ」
浅瀬ではアクアが、錨と舵輪を組み合わせたようなポケモンに捕まっていた。
あいつは確かダダリンとか言うポケモンだったはず。ゴースト・草タイプのポケモンで、本来メレメレ島にはいないはずなのに。
そんなことよりまずはアクアを助けないと!
「アクアを離せ!」
砂浜からニトロチャージで加速して畳みかけようとするが、目の前に広がる海を見て俺はすくみ上ってしまう。
くそ、こんな時に限って…!
すくみ上ってしまったせいで、薙ぎ払うように飛んでくるアンカーショットをかわすのさえやっとだった。
俺の不甲斐なさに思わず唇を噛む。
結局俺は何もできないままかよ…
「フレイ、早く逃げて!死んじゃうよ!」
アクアの言葉で、急速に俺の感覚が戻っていき、昨日の夢と同じ様に、俺の声が再び語り掛けてくる。
「フレイ、だから言っただろう?お前に出来ることはないんだって。今からでも遅くはない、今すぐその場から逃げ出して…」
「お前は一回黙ってろ、耳障りなんだよ!」
やるべきことはもうわかっている、俺が未だに覚悟を決め切れていないだけで。
昨日必死に俺の事を助けてくれた、俺を初めての友達として考えてくれているアクアに対して、俺は約束したばかりだ。
ずっと一緒にいてやるって約束したばかりだ。
それなのに、俺は自分の過去のトラウマなんかを理由にしてアクアを見捨てるか?絶対に有り得ないな。
なんとなくさっきの動悸の正体が分かった気がする。
俺はきっと、アクアの事を好きになったんだと思う。
…それなら余計に覚悟決めるのは簡単だな。
「アクア、俺は逃げない」
「どうして私なんかのために…!」
ダダリンの海藻に絡められながらも、必死に俺をここから逃がそうとするアクア。
「アクア、俺は自分のためには強くなれないけど、誰かのためならどこまでも強くなれる。
それが俺の好きな奴のためならなおさらだ」
「フレイ…!」
思わず笑顔を見せたアクアに、俺も笑顔で答える。
「待ってろ、すぐに助けてやる」
「シャワーズちゃんへのお別れの挨拶は終わったのかい?」
「ああ、お前の方こそ終わったか?この世とのお別れの挨拶」
ダダリンは俺の返答の意味が分からなかったらしい。
前足を海水に浸しながら俺は続ける。
「お前は俺に倒されるって言ったんだよ、ガラクタ野郎」
挨拶代わりに暴言交じりの威嚇を発動させる。
「こいつ、舐めやがって!」
アクアを助け、ダダリンを倒すため、俺は海水を蹴って走り出した。
薙ぎ払うように海面すれすれの高さで飛んでくるアンカーショットをジャンプでかわし、空中で体制を整えて鎖の上に着地、そのまま炎の牙で噛みついた。
「すばしっこく動き回りやがって、これでもくらいな!」
反撃とばかりに繰り出されるパワーウィップ。流石に鎖の上にいたままでは危険だな。
三角飛びの感覚で鎖から鞭の一つに飛び移り、ニトロチャージで上へと駆け上がり、アクアを捕まえている海藻を爪で切り裂こうとした時だった。
ダダリンがパワーウィップを途中で止めて、代わりにシャドーボールを放ってきた。
足場にしていた鞭がなくなり、空中に投げ出された俺にシャドーボールが直撃する。
「ぐっ…!」
特防ダウンこそならなかったものの、海に落ちてしまった。
今までなら実質戦闘不能に等しい事態だが、今の俺にとっては濡れる不快感さえも感じさせない。
「口ほどにもなかったな!」
二発目のシャドーボールが飛んでくる。ダダリンはとどめを刺すつもりだったんだろうけど、俺にとっては起点でしかない。
シャドーボールをジャンプ台の代わりにして海面から飛び上がる。
予想外の行動だったのだろう、ダダリンの目が驚きで見開いている。
「どうした、俺を倒そうとしてたんじゃなかったのか?」
「貴様、さっきから調子に乗りやがって…!」
シャドークローが俺を切り裂こうと次々に襲い掛かるが、自滅を避けようとしているのか、一つ一つの動きは結構スローだ。
とんぼ返りで切っ先をかわしつつ、自由落下しながらダダリンの様子を探る。
完全に俺を倒すこと以外頭にない、と言ったところか。
この瞬間を待っていた。アクアを助け出す一番手っ取り早い手段を実行できる。
「アクア、液体化してそいつから離れろ!」
「⁉分かった!」
アクアは身体を液体化させたダダリンの拘束から逃げ出し、海に飛び込んだ。
シャワーズはイーブイの数ある進化系の中でも、極めて特殊な進化系だ。
水中での生活に特化していたり、水と同じ屈折率になって水中で透明化したりするのは有名だが、それだけでなく自身の身体を液体化する能力もある。
正直言って俺は昨日アクアの話を聞くまで知らなかったし、アクア本人もパニックで忘れていたようなことだ。
「なっ、しまった!」
そんなことをダダリンが知っているはずもなく、さらにアクアに対してノーマークになっていた状態だったため、アクアは無事に逃げられた。
俺も砂浜に着地する。
「フレイ!」
こっちに駆け寄ろうとするアクアに対して、下がってろ、と目で合図してからダダリンに向き合う。
さっきとは異なり、垂直に振り下ろされるアンカーショット。今度も少し後ろに下がって難なくかわした。錨が砂浜に突き刺さる。
次の攻撃を仕掛けようと錨を引き戻そうとしたダダリンは、再び驚愕に目を見開く。
「い、錨が外れねえ⁉どうなってんだこれ⁉」
「錨は本来船を停泊するときに使う道具だ。そんなもの砂浜に打ち込んだらどうなるか、分かるよな?」
必死に錨を引き戻そうと引っ張ているため、鎖がダダリンの本体まで続く橋のようになっている。
俺はその上に飛び乗り、ニトロチャージで走り出す。
ダダリンは慌ててシャドークローやパワーウィップで振り落とそうとするが、難なくかわし、二度蹴りで弾き、さらに本体に接近する。
「これで終わりだ!」
錨と舵輪の結合部に、加速した勢いのまま炎の牙を叩き込む。
戦闘不能になったダダリンは、ようやく外れたらしい錨と共に海に沈んでいった。
「何とか倒せたか…」
一時はどうなることかと思ったが、無事に倒せたらしい。
「フレイ!」
アクアが泣きながら駆け寄ってくる。
「ごめん、なさい…」
「何でアクアが謝るんだよ」
「だって、海、苦手だったのに…」
「気にするな、俺が助けたかったからそうしただけだ。想像以上に大丈夫だったみたいだし」
「そっか、ありがと…」
無意識的にアクアの涙を前足でぬぐってみる。
嫌な顔一つしないどころか、むしろ嬉しそうにしている。
「ねえフレイ、一つ聞いてもいい?」
「…質問によるな」
「さっきフレイの言ってた好きな奴って、誰?」
想像の斜め上を行く質問。マジか、あのセリフで気付かなかったのか…
興味津々と言わんばかりに俺を覗き込むアクアは、妖艶さを感じさせる瞳とにやけた口元だ。
絶対に気づいてるだろ、こいつの反応を見る限り。
質問によるとは言ったけど、気づかれてるだけに何も答えないのは良くない気がする。
仕方ない、答えてやるか。
「俺が好きなのは、アクアだ。昨日助けてもらってからずっと気になり続けて、他の事を考える余裕さえなくなってしまってる。
バトルしか能のない俺だけど、アクアが良いなら、俺と付き合ってほしい」
「えっ、今のって…」
あ、これはやらかした。盛大にやらかした。
好きな奴が誰かを言うだけで良かったのに、勢いに任せて告白にしてしまった。
しかもかっこいい言葉の一つも使ってないなんて、初めから告白する予定なら、もっとましなこと言えたのに。
赤面して俯く俺の顔をアクアが覗き込んでくる。今度は妖艶さもなければ、口元も笑っていない。
「フレイは私の事、そう思ってたんだね。私も返事していいかな?」
俺が顔を上げると、アクアは頬を赤らめていた。
「実は私も、フレイのことが…」
「おーいフレイ、お前こんなとこにいたのか」
いい感じのムードを一瞬でぶち壊すような声。あいつこんな時に限って…
三割ほど本気の殺気をにじませながら声のする方を見ると、にやついた顔でこっちを見ているカインと、笑顔で手を振るマスターがいた。
「突然家を飛び出したと思ったら、まさか女の子を探しに行ってたなんて、フレイも隅に置けないね」
「マスター、そういうことじゃなくってさ…」
「なんにせよフレイが無事でよかったよ。そうそう、昨日スマホにポケモン言語翻訳アプリが追加したから、これからは普通に会話できるよ」
翻訳アプリ、これでマスターとの会話とかもできるようになるのか。
「マスター、フレイは女の子じゃなくって、人生の伴侶を探しに行ってたんじゃないか?」
「「お前いい加減にしろ!」」
「何でいきなり2:1の勝負なんだよ!」
気が付くとアクアと声が重なっていた。
驚きを隠せず、思わず顔を見合わせる。アクアも同じことを思ったらしい。
「二匹とも本当に仲良しだね」
マスターに唐突なコメントをされて、俺たちはお互いに赤面したのだった。
それから昨日起こった出来事なんかを簡単に説明した。
言葉が通じるようになったのはこんな時に便利だ。
「それじゃアクア、このボールに入ってくれる?」
マスターがダイブボールをバッグから取り出すと、アクアは自分でスイッチを押して中に入っていった。
無事にゲットされて、アクアはボールから飛び出してくる。
「フレイ、これからよろしく!」
「ああ、こちらこそよろしくな!」
「ふあ…」
午前中には気合十分って感じだったとしても、夜にもなればそんな気分も行方不明になってしまっている。
てっきりあの流れから島巡り再開だと思っていたのに、家に帰った後マスターは、
「気持ちは分かるけど、色々買い出しとかもしなきゃいけないから明日にしよ?」
とか言った後、俺の頭を撫でて話を終わらせてしまった。
(地味に頭はポケリフレの時に一番撫でてほしい場所だったりする)
そんなマスターは今、カインを連れて買い出しに行ってしまったし、マスターの両親は両方とも出張で今日はいない。
つまり家にいるのは俺とアクアだけなのだが…
「アクア、さっきまで一緒にいたよな?」
ソファーの上でバトルロイヤルの中継を一緒に見てたはずなんだが、俺がロイヤルマスクの試合に見入っているうちにいなくなってしまっている。
「アクア、どこ行ったんだ?返事してくれ!」
流石に玄関のドアが開いた音はしなかったから外に出ていないはずだけど…
突然マスターの部屋の明かりが点いて、すぐに消えた。
「何だ、今のは…」
部屋の中に何かいるのかも知れない。もしかしてアクアはそいつに襲われたんじゃ…
深呼吸をしてから、マスターの部屋へ飛び込んだ。
ニャヒートは種族柄夜目が効くので、部屋が暗い程度なら問題なく動き回れる。
いつでも攻撃できる体制になったまま部屋の中を見回す。
見たところ凶暴なポケモンが部屋にいる、何てことはなさそうだ。
大方照明器具の故障か何かだろう、とりあえずバトルロイヤルの続きでも見るk…
「⁉」
急にポケモンの気配を感じて振り返ると、さっきまでいなかったはずのアクアがマスターのベッドの上に座っている。
「アクア、ここにいたのかよ…急にいなくなるから心配したんだぞ!」
「それはごめん。でも、フレイの気持ちに対する答え、私はまだ言えてなかったから…」
そういえば途中でマスターとカインが来たから中途半端なところで話が終わってたな。
「だから私の気持ちも伝えさせてくれる?」
さりげなく自分の座っている場所の隣を前足で軽く叩いて、こっちに来て、と言おうとしているらしい。
「分かった、俺も聞かせてほしい、アクアの気持ち」
ベッドに飛び乗り、アクアの隣に座る。
カーテンが揺れて、窓から差し込む月明かりに照らされるアクアは、さっきのようにどこか妖艶に見えた。
「目、閉じてくれる?」
「ああ、分かった」
言われるままに目を閉じると、アクアは俺にキスをする。
普通のキスかと思っていた時、俺の口に舌が入り込んでくる。
無意識的に舌で押し返そうとするが、逆に舌と舌が絡まってしまう。
しかも舌が絡まっていくうちに、とろけていくような変な感覚になってきた。
アクアが口を離すと唾液が糸のようになったのが見えた。
お互いに呼吸が上手くできていなかったため、俺もアクアも少し息が荒くなっている。
横になって息を整えていると、アクアは俺の後ろ足の辺りをじっと見つめている。
「アクア、どうしたんだ?」
「これがフレイのなんだなって」
自分でも気づかないうちに俺のモノは大きくなってしまっている。原因は間違いなくさっきのキスのせいだ。
慌てて足を閉じて隠そうとしたが、アクアはばっちり見てしまっている。もう手遅れだ。
「恥ずかしいからそんなに見るなよ」
「初めて見たからつい、ね」
俺のモノを前足で触りながら、アクアは独り言のように呟く。
「触るのはダメ?」
「…乱暴にするなよ、敏感な場所だから」
「そっか。それじゃフレイのOKももらったことだし、ちゃんと言わなきゃね」
「……?」
「私もフレイの事、大好きだよ」
そう言うと、アクアは俺のモノを咥えて舐め始めた。
「アクア、そんなとこ、舐めたら、汚いから!」
未知のレベルの快感で呂律が回らなくなっている俺に対して、アクアは嬉しそうに舐め続けている。
ただ全体を舐めるのではなく、場所を変えつつ、強さも変えながら俺にとって一番気持ちいい条件を探しているみたいだ。
案の定舌は一か所を中心に舐め始めている。裏筋を優しく舐められるのが一番敏感だなんて、自分の前足で数えるほどしか慰めたことのない
俺が知るはずもないんだけど。
段々と吐精の感覚を感じ始める。流石に口の中に出してしまうのは色々と不味い気がするが、このままだと時間の問題だ。
「アクア、一旦口離せ!」
それを聞いたアクアは、目で俺に出していいよとアイコンタクトを出し、裏筋を舐めながら、さらに前足で根元の部分を刺激し始める。
「もう、出る、ああっ!」
俺はアクアの口に射精する。思考回路は快感で埋め尽くされ、量が多いのは最近ご無沙汰だったからかどうかさえ考えられなくなった。
「いっぱい出たね、気持ち良かった?」
「ああ、かなりな」
吐精後の快感が覚めてきたので、俺のやるべきことは分かっている。
「じゃ、今度は俺の番だな」
それだけ言うと、俺はアクアのひれみたいな耳を甘嚙みした。
「あ、んっ」
以前テレビでシャワーズは耳が敏感とか言ってたのを覚えていてよかった。
しばらくアクアの反応を楽しんでいたが、耳だけでは足りないみたいだ。
他もして欲しいとねだるような目で俺を見たって意味はない。
少しじらしてみたくなって、俺が自分で止めていたんだから。
でも、そろそろ触ってみるか。
前足をアクアの腹の下の方にある綺麗な筋に沿わせてゆっくりと開いていく。
少し濡れている桃色の秘所からは女の子特有のにおいがした。
「フレイ、そんなに見ないで、恥ずかしいよ…」
「さっきそんな俺をじろじろ見たのは誰だっけ?」
「…いじわる」
「まあ、満足はさせてやる」
そのまま秘所を舌で舐め上げた。
「ふあっ」
想像通りの反応。やっぱりこういう場所が敏感なのは一緒らしい。
それから強さや舐める場所を変えながら、アクアの反応を確かめていく。
「んっ、ああっ」
見つけた。この豆みたいな場所が一番敏感みたいだ。後はここをひたすら舐めてみるか。
アクアの反応を見る限りだとそろそろって感じだ。
それなら変則的なことでもしてみるか。
何気なく思いついたアイデア通り、アクアの秘所の豆みたいな場所を吸い上げてみた。
「あっ、んっ、あああっ!」
身体をくねらせ、アクアは絶頂に達したらしい。秘所からはさっき濡れていたような液が吹き出し、ほとんど俺とアクアの身体に飛び散った。
「いっぱい出たな、気持ち良かったか?」
「うん、良かったよ…」
「フレイ、本当に初めてだったの?自分でするのと大違いにすごかったよ」
「俺もそんな感じだったし、自分でするよりは気持ちいいものなんだろうな」
「これから本番…する?」
これで終わりな気になっていたが、まだ終わりではない。
それに、喘ぐアクアを見ていたせいか、俺のモノは再び昂っている。
「俺を初めてに使っていいのか?」
ついついにやけてしまったまま最終確認してみる。
「フレイ以外には初めてあげる気ないから大丈夫だよ」
答えるアクアの顔も、これからの行為が楽しみで仕方ないと言わんばかりだ。
それなら何も考える必要なんてない。仰向けになってさらけ出された秘所に俺のモノを宛がい、ゆっくりと差し込んでいく。密着するような感覚で喘ぎそうになるのをぐっと耐えて、途中の膜みたいな部分で止まる。
「突き破って、私のナカに、フレイのを挿れて」
ねだるようなアクアの指示で、どうするべきか分かった。少し下がってから一気に突き入れる。何かを貫いたような感覚で、さらに奥へ入っていくのが分かる。最奥部に届いたところで、一旦動くのを止める。
「アクア、痛く、なかったか?」
「思ってたよりは、そんなに痛くなかったかな。それより、やっと一つになれたね」
「ああ、出会って二日でここまでの関係になるとはな。でも不思議と悪い気はしないな」
「良かった。私のナカも大分潤ってきたから、動いていいよ」
「俺こういうの初めてだから、痛かったら遠慮なく言えよ?」
潤う膣の中でモノを動かし始める。水タイプ特有なのかはわからないが、アクアのナカは結構熱くて、愛液の量は多いらしい。
息を荒げている俺の腰の動きと連動して、俺のモノは膣の中でピストン運動を繰り返す。
棘があるので痛くないか心配だったが、棘のおかげで、突くときだけでなく戻すときにもアクアの快感へと変わるらしく、さっきから喘ぎっぱなしになっている。
「っ、はあっ、ああっ…!」
割と小さめの絶頂に達したらしい。俺もそろそろって感じになってきた。少し激しく動かしてスパートを上げる。
急に前足に力が入らなくなり前のめりになっていく。そのままモノが奥まで入っていき、
絶頂に達した。膣の中に精液を注ぎ込む感覚と、同じく絶頂に達したアクアが視界に入って、俺の意識が弾け飛んだ。
気が付くと俺は横になっていて、俺と向かい合ってアクアが横になっている。
アクアの秘所は精液と愛液でペタペタになっているが、洗いに行く気力はないらしい。かくいう俺も足に力が入らず、吐精後であまり動きたくないのが現状だ。
「こっちのポケモンバトルも強くならないとな…」
「何か言った?」
「いや、何でもない。ただ、アクアが良いならまたしたいって思っただけだ」
「言いたいこと、先に言われちゃった。じゃあ、私からも…よろしく」
「マスターたちには内緒にしとかないとな」
「OK。それじゃおやすみ、フレイ」
俺の頬に軽くキスをして、アクアは目を閉じる。
そんな彼女を見ていると、何故かポケモンリーグ優勝は確定しているようにさえ思える。
あくまで気のせいだろうけど、アクアと約束したことでポケモンリーグ優勝への思いが強くなったのは確かだ。
静かに燃える使命感を感じながら、俺も睡魔に身をゆだねた。
「ごめーん、帰ってくるの遅くなっちゃった。お土産買ってきたから許してね」
相変わらずのんびりしたマスターの声。もうちょっと寝かせろよ…
「ただいまー、マラサダあるよ……あ、ごめん。お楽しみ中だったんだね。どうぞごゆっくり……」
へ?何でマスターに昨日のことが分かったんだ?盗撮された覚えはないし…
その時、部屋に一匹のライボルトが飛び込んできた。いつの間に野生のポケモンが入って来たんだ⁉
アクアを起こしつつ、戦闘態勢に入り、威嚇の準備をする。
「落ち着けよフレイ、俺だよ、カインだよ。昨夜進化したんだ」
「昨日は買い物に行ったんじゃなかったのか?」
「それなんだけど、替える途中でハラさんにばったり出会ってさ、進化のための特訓してくれることになってリリイタウンに泊まってたんだ」
「良かったんじゃないか?進化したいってずっと言ってたし」
自慢げなカインを見ている限り、嬉しくないはずがないだろう。
「まったく驚かさないでよ、野生のポケモンが家に来たと思ったよ」
「奇遇だな、俺も同じこと思ってた」
「お前ら俺を何だと思ってるんだ⁉…まあいいよ。そんなことよりフレイ、童貞卒業、おめでと」
語尾に(笑)をつけたような言い方で禁断の言葉を告げるカイン。
「あのなあ、お前といいマスターといい、一体何を根拠に…」
「いや、だってお前ら、自分の身体一回見てみろよ?」
身体を見ると、精液と愛液でベタベタになっており、アクアも同じような感じだった。思わずアクアと顔を見合わせる。
「あれから続きがあったとか、俺覚えてないんだけど。アクアは何か覚えてるか?」
「私も何も…というか、昨日のことばれちゃったね…」
「フレイ、アクア、出発の前に身体洗ってあげるからね。しかし本当に仲いいんだね、出会って二日でそういう関係に発展してるなんて」
俺たちは顔を見合わせたまま赤面していった。
「マスター、私早くマラサダ食べたいな」
「そうだった、早く冷めないうちに食べよっか」
アクア、結構食い意地張ってるタイプなのか。それはそれでかわいい気もするけど。
「フレイも早く、マラサダ冷めちゃうよ!」
「分かった、すぐ行く」
次は炎の試練だったな。試練達成すれば、念願の炎Zが手に入るのか。今の俺たちならさほど苦労しないはずだ。ダイナミックフルフレイム、早く使ってみたいし楽しみだな。
これから三匹と一人で挑む、新たな旅の想像をしながら、俺はアクアの所へ行くことにした。
炎と水の出会い 完
あとがき
この作品を読んでいただきありがとうございます。初投稿なので色々と至らない点も多いと思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
(文章ミス等ありましたらコメント欄から教えて下さい)
某ウイルスが猛威を振るい緊急事態宣言が出されていた頃、偶然ポケモン小説wikiに出会い、趣味で書いていた小説を投稿してみようかな…
そんな感覚で書き始めた経緯なのですが、投稿日初日に50hitしていて自分の目を疑ってみたり、このあとがきを書いている時点で850hit突破してるなんて
書きだした頃は夢にも思いませんでした。
作者ページを開設するのが先か、次の作品(方向性未定)を書き始めるのが先かは分かりませんが、近いうちに何らかのアクションは起こす予定なので、
その時はよろしくお願いします。
最後になりましたが、この作品を読んで頂き本当にありがとうございました。
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