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流れる水の形

/流れる水の形

                                                               written by 慧斗



「はぁ…」
 暗くなってしまった空を見ると何故かため息が出る。
いくら日の出ている時間が長い夏でも、夜の8時を過ぎれば周りは暗くなってしまう。
 イーブイの頃に乱暴なトレーナーの元から逃げ出して、近くにある川まで来たら落ちていた水の石に触ってしまってシャワーズに進化してからそろそろ1年ぐらいになるのかな…?
 住宅街の近くにある川だけど川の水が思いの外綺麗なおかげで美味しい木の実の成る木は近くにたくさんあるし、同族のシャワーズはいないけど川に住んでいるニョロモやウパーとは仲良しだから、割と恵まれた環境にいるとは自分でも思うけど、何故か心のどこかが満たされないような感じ。
 この不思議な感じは一体何なんだろう?


 遠くからきこえてくる踏切の遮断器のカンカンと言う音と電車が線路を走り抜ける音。
 あの音を聞くと、なんとなく川の外に行きたくなる。
 時々こうやってしている夜のお散歩、行き先は大体決まっている。


流れる水の形 [#1f0781S] 




「はぁ…」
 特別講座とか銘打ってわざわざ日曜日に大学に呼び出されて退屈な講義を受けた帰り、途中の大型スーパーで3割引のシールが貼られたお惣菜をいくつか買ってローカル線に揺られる。
 椅子が空いていたのはかなりラッキーだった、ベトつく手すりにもたれずに済んだのは大きい。

 危うく自己解決しかけたがそもそもよりによって貴重な日曜日に呼び出されたこと自体が酷い話じゃないか…!
 予定がなかったら家でゴロゴロしながらゲームして、6時半からのアニメを見て番組の最後のじゃんけんに挑戦するぐらいしかすることもないのだが、それでも日曜日は日曜日、立派な休日なのにそれを台無しにされたと思うと、無性に腹が立つ。
 明日から月曜日だってのに最悪だ。
 まあ、前日が日曜日なせいで目の敵にされがちな月曜日に同情しないこともないけど。
 多分月曜日を歓迎する職業は美容師さんぐらいか? 月曜休みなお店が多いし。


 そんなことを考えながら電車から降りて小さな改札を通り抜ける。
 近くに川の流れるそれなりに大きな住宅街だけど、駅とコンビニ、ポケモンセンター以外は明るい照明の建物もそんなにないあたり、この辺は田舎かもしれない。


 早く家に帰って夕食にありつきたい。駅のそばの駐輪場に向かって足早に歩いていると、近くのフェンスに何かがいる。
 多分ポケモンだろうけど、そこまで大きなポケモンではないと思われる。この時間帯ならチョロネコとかニャルマーかな?
 そう思っていたが近くを通ろうとすると、予想よりは大きいことに気付く。ということはレパルダスとかブニャット?
 野生のグラエナだったらポケモンを持っていないから無事に通り抜けられるか少し心配だな…


 頭の中で色んな事を考えながら通り過ぎようとすると、車道を走り抜けた車のヘッドライトが水色で四足歩行のポケモンのフォルムを照らし出す。

「あれは、シャワーズ…?」
 イーブイの数ある進化系の中でも特に複雑な進化を遂げた種族で、四足歩行のポケモンの身体をベースに魚を思わせる鰭と尻尾を持ち、陸地でも水辺でも生活できる特徴を持っている。
 他にも色々な特徴があるらしいがそこまで詳しくはない。


 それにしても何でこんなところにシャワーズがいるんだ?普段はこんなところにいなかったし、トレーナーのポケモンって感じでもなさそうだ。
 種族柄危ないことをしない限り人間を襲うことはないらしいから、刺激しない様にそっと近づいてみる。
「君、この辺に住んでるの? トレーナーのポケモン?」
 話しかけるとある程度言葉の意味が理解できるらしく、最初の質問にはきょとんとしていたものの、次の質問で首を横に振っていたから多分野生のポケモンだろう。


 シャワーズは僕のことを敵ではないと認識したらしく、買ってきたお惣菜の入ったレジ袋の中身を覗き込んでいる。
 もしかしたらお腹が空いているのかな? 何かシャワーズでも食べられそうな奴は買ってたっけ…
 袋の中を覗き込まれながら探していると、5個入りのコロッケの紙袋を見つけて取り出す。
 冷めても美味しく値段も良心的と評判で、ちょくちょく夕食と次の日の朝食はこのコロッケにお世話になっている。
 これならシャワーズも食べられるかも…!

 謎の自信をもって紙袋を開き、まだ温かいコロッケを一口サイズにちぎって手のひらに載せて差し出す。
「コロッケ食べる? これ美味しいよ?」
 差し出されたコロッケを見て再びきょとんとするシャワーズ。
 もしかしたら食べていいのか分からないのかもしれない。
 袋からもう一つ取り出して食べてみせる。サクサクした衣と絶妙な塩加減のタネがベストマッチ、並みの肉屋さんのコロッケといい勝負ができそうだ。

 僕が美味しそうに食べるのを見て、手のひらから食べ始めるシャワーズ。
 どうやらお気に召したらしく手のひらに載せていた分は素早く完食、もっと食べたいと太ももに両足を乗せて催促してくる。
 特別だよ、と言いながら結局1個丸ごとシャワーズに食べさせてあげた。


 コロッケに満足したらしく、お礼の意味を込めているらしい小さな鳴き声をあげると、そのまま歩いてどこかへ行ってしまった。


 ちょっと変わったシャワーズだったけど結構可愛い仔だったな、なんて思いつつ自転車のロックを外して、家に帰るため自転車を漕ぎだした。





 あれから川に戻ってきて眠ったら朝になっていた。
 それだけ言うとなんの変哲もない話だけど、昨夜のことを考えると朝になったのが不思議な感じに思えてくる。
 あの人には初めて出会ったはずなのに何故かそれより前にも出会ったことがある、そんな気がするからかもしれない。

「また、駅まで散歩したら会えるかな…?」
 誰にも聞こえない声でつぶやくと、朝日を反射して煌めく水面に飛び込んだ。



 今日の講義は午後からだけど、電車の都合上それなりに早く出発しないといけない。
 とは言っても10時は過ぎてるからそこまで早い訳ではないかもしれないけれど。
 いつもの様に自転車に乗って小さな橋を渡る。河原にいるニョロモやウパー達は今日も楽しそう…
「ん? あれって…」
 ニョロモやウパー達に混ざって河原で日光浴していたのは昨日のシャワーズだった。
 スマホを起動して時間を確認すると、まだ少し時間に余裕がある。車や他の歩行者の邪魔にならない様な場所に自転車を停めて河原に降りて行った。


 河原に上がって日光浴していると誰かが自転車を停めて河原に降りてくる。
 水の中に飛び込んで隠れようと思ったがあの顔には見覚えがある。
 昨日の夜駅の近くで会った人だ。名前は分からないけど昨日食べさせてくれたもの、あれ美味しかったな…

「君だよね? 昨日駅前の駐輪場の近くにいたのは」
「にゃっ⁉」

 普通に考えたら、昨日会っている時点で私に用事があると考えるのが普通なのに昨日のことを思い出して色々考え始めてしまったため、声をかけられて素っ頓狂な声を出してしまった…


「そっか、時々散歩しに来てるんだね」
「うん、えっと、昨日は、ごちそうさまでした…」
 以前トレーナーの所にいた時の影響か、片言でなら人間の言葉喋れるようになっていた。

「全然いいよ、あのコロッケ気にいった?」
「うん、美味しかった」
「それなら良かった、あれコロッケサンドにしてもなかなか美味しいんだよね」
「コロッケサンド…?」
「そうそう、写真あるからちょっと待ってね」
 そう言ってスマホの画像フォルダを調べ始める。
 スマホを覗き込むと色々な写真を送って探している中で一枚の写真が目に飛び込んでくる。

「ねぇ、今の写真って…」
「ああこの写真?」
 それは川の写真なんだけどただの川じゃない、今私がいる川とは比べ物にならない程度には綺麗過ぎた。
「これ実家の近くの川の写真なんだ。結構綺麗でしょ?」
「うん、すごく綺麗…」
 こんな綺麗な川が本当に存在するなんて衝撃だった。

「ごめん、そろそろ電車の時間だからまたね!」
 どうやら用事があったらしく手短に別れを告げて行ってしまった。
 けれど私の頭の中はさっきの川の風景でいっぱいになっていた。


 あれからもあの人とは時々河原で話したり駅まで散歩した時にたまに会ったりすることがあって、少しずつ親しくなっている気がする。
 そういえばまだ名前聞いてなかったなとか考えつつ、あの綺麗な川のことを想像しながらうとうととまどろむのが最近の楽しみだったり…


 突然響く轟音に驚いて目を覚ますと、ニョロモやウパー達がパニック状態で逃げまどっている。
 慌てて様子を把握しようとすると外にいたのは川で暴れているベトベトンとダストダス。

 なんでこんなポケモンがこの川で暴れているの…⁉
 とにかくみんなを守るためにもこいつらを追い払わなきゃ…!

 攻撃をしようとしてあいつらの近くにいた人を見て恐怖に全ての思考が凍りつく。


「今日からここがお前らのトレーニング場所だ! 存分に暴れていいぞ!」
 そこにいたのは以前私が逃げ出した先のトレーナーだった…




 to be continued…




 【中書きみたいなもの】



 前回七日までに完成させたいと言っていたのにまだ執筆途中…
(別件の作品と掛け持ちしてる都合上遅くなってます…)
 ストーリーはやや水の日っぽくなってきたかな?
 個人的にシャワーズってブイズの中でもかなり人懐っこい脳内イメージだったりします


 ストーリーの方向性は定まってるので続きはゆっくりお待ちください…!
 それでは今回はこの辺で、アリーヴェデルチ!(さよならだ)


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  • 私はグレイシアがエロくて人懐っこいと思います。 --
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Last-modified: 2021-08-30 (月) 10:13:04
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