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時渡りの英雄第25話:暗黒の未来で・後編

/時渡りの英雄第25話:暗黒の未来で・後編

時渡りの英雄
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382:捜索 


(シャロット……お前、無事だよな? 捕まっててもいいが、せめて拷問に屈したりなんてするなよ?)
 何度も、心の中で問いかけながらコリンは走っていた。ドゥーンの体力が持たずに何度か休む時は、もどかしそうにウロウロ動き回り、一時も落ち着いていられないと言う様子だ。
 大して足音を立てているわけではないが、行動の鬱陶しさはドゥーンの睡眠を妨げる。正直なところ、ドゥーンにはウザったいことこの上ない。
「コリン……相手はなんといってもトキ様だ。もうすでに手遅れかもしれんぞ?」
 対して落ち着いた面持ちのドゥーンが、よりコリンの怒りを刺激しているのは明らかだ。コリンは今にも噛み殺すのではないかと思うような勢いで、鋭い牙を並べてドゥーンへ喰ってかかる。
「ふざけるな、ドゥーン!! あいつはそう簡単に捕まったりはしない!」
(そう……そんなやわな奴じゃないんだ、シャロットは。だが……万が一という事もある。もし捕まってたら、すぐに自殺でもしてくれればいいのだが……)
 ドゥーンの言うとおり、相手は闇のディアルガ。そして新しく腹心となった凄腕のポケモンもいる。そう思うと、コリンもシャロットの安否は期待出来ないと感じている。だからこそ、安否の確認を急いで、シャロットの状況如何によってはそれなりの行動をとらなければならない。
 とにもかくにも、黒の森はここから近い。
(シャロットはもう警戒して、もうここから離れているかもしれないが……シャロット……シャロット……とにかく、頼む……捕まらずにいてくれ!!)
 コリンは心の中でその叫びを繰り返す。
「もう手遅れかもしれないな……まぁ、シャロットがどうなろうと私には関係のないことだが……だが、考えてもみろ。
 シデンとアグニを攫う少し前、私の元にヤミラミが来たのは、星の調査団の残党狩りがほぼ完了したからだ。が、私がそこから先に大した指示をしていないとはいえ、時の守り人の残党が時の歯車を先取りする作戦に出られた……キザキの森以外の場所にトキ様が刺客を送りこめたと言う事はだな。シャロットはすでに――」
「わかってる」
 シャロットはすでにやられたという事だ――と、ドゥーンは言いかけるが、コリンの怒鳴り声に掻き消された。
「どこかでシャロットが死んでいるなら、もうそれで構わん。だが、捕まって拷問でもされているなら、シャロットだけでも殺して止めなきゃならない。そういうことだ」
「……フンッ。御熱いことだなコリン。焦りすぎて敵を間違えるな? (はや)り過ぎて勇み足になるなよ、コリン。今は休み時間だとお前が言ったのだからさっさと休め。私にものすごい剣幕で近寄ってきて……こんな状況になるまで気付かないなどと、お前は不用意に死にたいのか?」
 ドゥーンの言葉を聞いて、コリンは下を覗く。ドゥーンの腕がコリンの腹に触れており、ドゥーンがその気であれば掴み取られて為すすべなく殺されていたかもしれない。
「……トキ様達が罠を仕掛けている可能性は大いにあるのだ。シャロットの事に夢中で周りが見えず、疲れも相まって集中力が薄れ、私にすら不覚をとっている状態のお前が、トキ様相手に時間稼ぎすら出来るものか」
「く……」
 コリンは自分が酷く集中力を欠いていたことを自覚し、自戒する。深呼吸を一つはさむと、コリンの高ぶった殺気がまるで嘘のように収まった。
「すまない……少し急ぎ過ぎた」
「気にするなコリン。いいから、口も体も休めておけ」
「わかった……」
 ようやくまともに休めると、ドゥーンが安堵の息をつく。自分の方が疲れている自信があったというのに、ドゥーンが目を閉じて数秒してふとコリンを見てみるとすでに眠っていた。その様子に憎たらしさを感じないわけではなかったが、怒っても仕方ないのでドゥーンも仕方なく眠りについた。

 ◇

(くそ、ドゥーンの言うことは気に障るが……考えるまでもなくもっとのなことなんだ。しかし、あのシャロットが……あの要領のいいシャロットが誰かに捕まることそのものがあり得ない……あいつが飛び回るのを止められる奴なんて……いるはずがないのに。
 しかし、確かにキザキの森なんかに刺客が来ていた理由は、シャロットの問題が片付いたからに他ならない……)
 コリンは、休憩の後、一番最後に出会った場所や、ある時一緒に語り合った場所など、心当たりのある場所を色々ドゥーンを連れまわしてみたが成果は無い。シャロットはどこにもいなかった。
 そうこうしているうちに一度なりを潜めたコリンの焦りも段々と増してきているのを、後ろを歩くドゥーンはしっかりと感じている。
「ここか……? コリン。シャロットと会った場所と言うのは?」
 そして今度は、初めて出会った場所に訪れてみたのだが、そこにも姿はない。
「ああ、そうだ……が。誰もいないな」
「静かだな。すでに捕えられ、連れ去られてしまったのか……それとも危険を察知し、ここからはもう逃げているか。あるいは裏をかいて、実はまだこの場所のどこかに隠れているのか……そのいずれかだな。だが、隠れているとしてもシャロットが姿を見せないのはおかしいか」
「そうだな。隠れているというのは考えにくい」
 コリンは鼻をヒクつかせて匂いを確かめる。頭の葉で湿度を感じ取ったりと、五感の全てに神経を張り巡らせて周りを探ってみるが、痕跡らしいものも見つからず、代わりに嫌な事実に気付いてしまった。
「空気の流れがおかしい。シャロットは……ここにはすでに居ない。それに、おかしいのはそれだけじゃないようだな。どうやら、すっかり囲まれているぞ、ドゥーン」
「私も、そう感じていたところだ」
 影が周囲の空気を凪ぐ音が、二人の耳に突き刺さる。敵だ。

383:敵襲 



「ウイイイイイイーーーーー」
 案の定のように現れた六人のヤミラミに囲まれ、二人は咄嗟に背中合わせになり、自身の後ろを互いに守りあった。
「ここにもこうして罠を張るとはな……ふん、ドゥーン。ディアルガの新しい腹心とやらは……お前と同じくらい用心深くて腹黒いようだな!」
 コリンはため息交じりに正面にいたヤミラミへ届くように唾を吐きかける。明らかに嫌そうな顔をされながら、ヤミラミに避けられた。
 面白そうにコリンはそれを見下して、ドゥーンの呼吸を探る。すでに、戦闘態勢に入り込んだドゥーンの呼吸は昂ぶっていて、最早ヤミラミへ攻撃する事に躊躇いの陰りも感じられない。
「トキ様の腹心は私だけだ! 他の者がなるなど、許さん!!」
「その意気だ。来るぞ!!」

 二人が雄たけびを上げた。奇声を上げながらコリンの頭と足元、上下に分かれて襲い掛かるヤミラミに立ち向かう。上下から攻撃されても逃げ場が無いわけでもなく、コリンはさらに高く飛んで、眼下に見下ろすヤミラミの顔を踏み落とす。
 コリンの足元を攻撃しようとして勢いあまったヤミラミの攻撃がドゥーンの背中に当たり、蹴り飛ばされたヤミラミも体勢を崩しながらドゥーンの背中に当たる。
 もう一人は、コリンの動きに気がついて咄嗟に足を止めて着地の隙を狙う。

 ドゥーンはノーガードで、渾身の力を込めて右腕で一匹を叩き伏せる。下が土によって構成されている地面でありながら、石畳に叩きつけられたような鈍い音と衝撃が響き、天地がひっくり返ったような衝撃と共に一人のヤミラミは意識を閉じた。
 ドゥーンの背中には爪が差し込まれ、頭突きのような攻撃も喰らったが、気に留める事はしない。じっくりと腰をすえていたドゥーンは、後ろからの衝撃を無視して、地面にめり込んだヤミラミの頭蓋を引っつかみ、それを振り回した。
 コリンは着地隙を狙われるが、それも承知の上だ。重心の位置までは変えられないものの、体を丸めて脚を縮める事は出来る。そうして狙いをずらしてヤミラミの攻撃の出鼻をくじき、僅かに踏み込みすぎた敵の爪に自身の左腕の葉を絡み合わせる。
 絡み合わせたまま弾いたところで脚を払い、先ほどドゥーンの背中に傷を付けたヤミラミの方へ向き直って血濡れの左爪の間を右腕の葉で切り裂く。後ろにいたヤミラミの右腕がコリンの左わき腹をわずかに切り裂いたが、そう深い傷では無いと、歯をくいしばって耐えた。
 コリンがヤミラミの指の股をピンポイントで切りつけ、腕の葉が手首まで切り裂いた。手を真っ二つに切られたヤミラミは激痛に悶え、顔を青くしながら逃げていった。
 ドゥーンがヤミラミを掴んで振り回す攻撃を、地面にダイブして避けた残りのヤミラミだが、重い物を振り回すが故に必然的に大降りになるドゥーンの攻撃とは言え、地に伏したヤミラミの隙を見逃せるほど遅くは無かった。
 明らかに骨が折れただろう音が、掴まれて武器にされたヤミラミと、叩きつけられるヤミラミ、双方から響く。

 骨を砕かれたヤミラミが二人、逃げたヤミラミが一人で残り三人。最初にコリンによって空中から叩きつけらたヤミラミは、脳震盪でも起こしたのであろう、フラフラになりながらもコリンに爪を突き出す。先ほど足払いを掛けられたヤミラミも一緒だが、コリンはまずどちらのヤミラミの攻撃もいなし、比較的元気な方のヤミラミの肩を掴み、逞しい太ももから繰り出される飛び膝蹴り。
 その一撃でヤミラミが倒れたところで、コリンは辺りを見回す。
(後は、二人……? いや、ゼロか)
 残った二人は、戦意を失ってふらふらの足取りで逃げ去っていった。当然だ、今転がっている四人は半死半生か、若しくは致命傷だ。
 加えて、コリンもドゥーンも殆ど傷を負っていないとくれば、勝敗は明らかである。
 全員を逃がしては情報も得にくいからと、二人は申し合わせたように、逃げたヤミラミの後を追う。ドゥーンの正面にいたヤミラミは一目散に逃げていったが、コリンの正面にいたヤミラミは、先程の脳震盪で足がもつれて転んでしまった。
「ウイイイイ……ひ、ひぃぃぃぃぃ~~!!」
 腰が抜けて立つことすらままならず、赤ん坊の様に這っていた所、ドゥーンによって首根っこを掴まれた。一気に血の気が引いたヤミラミは、先ほどまで戦闘を行っていたとは思えないほどに即座に大人しくなる。
「うぐぐっ……ぐ……ぐるじい」
 呻くヤミラミにコリンが近寄る。宙に浮かんだままのヤミラミの指を掴み取り、いつでも指を折れるのだと主張しながら、声にドスを利かせる。
「教えろ!! シャロットはどうした! ディアルガはどこへ行ったんだ!?」
 コリンの怒声に合わせてグイッと指を掴む手に力を込められると、うっすら涙を浮かべながら答えはじめる。
「うぐっ……ト、トキ様は……逃げるセレビィを追って……ひょ、氷塊の島へ……」
「氷塊の島? ここより南にある孤島のことか!? どうなんだ!?」
 ヤミラミは正直に喋ったつもりだが、その上でドゥーンに首を掴まれる力を強められるのだから、たまったものでは無い。
「は、はぃぃぃぃ……その通りですぅぅぅ」
 首が飛ぶかも分からないような拷問じみた尋問には、並の精神で耐えられるものではなく、また耐えようともせずヤミラミは素直だった。
 涙を流すヤミラミが早く開放されたいと願う気持ちとは裏腹に、コリンに掴まれたヤミラミの指から嫌な音がした。血管がはちきれたんじゃないかと心配したくなる叫び声がヤミラミから上がり、それがようやく収まってから、コリンが仮面のように冷たい顔をむけた。
「嘘なのは分かっているんだ……正直に言ったらどうだ? なぁ、ドゥーン?」
 本当はコリンに嘘を見破る能力は無いし、ドゥーンもそれを分かっている上でコリンに頷く。何度もこれを繰り返して答えが変わらないようなら……と考えて、コリンは左右で計6本ある指を順番に全て折っていった。
 それでも、『氷塊の島に行った』という答えが変わらないところを見て、どうやら本当にそこへ向かったのだと判断した二人は、ヤミラミを放り捨てた。
「ウグッ……」
 涙も声も枯れたヤミラミは、折れた指では地面に手をつくことも出来ずに胸から落ちて転がった。
「失せろ!!」
 そこにドゥーンの一喝。
「ひ……ひぃぃぃぃぃ」
 身も心もボロボロに疲れ果てたヤミラミは、鞭を振るわれた馬車馬のごとく自身を奮い立たせて逃げおおす。そうして逃げるヤミラミを見送り、コリンはため息をついた。

384:氷塊の島へ 


「氷塊の島……こことは別の陸地か?」
 尋問を行う際、行う側のコリンの方も精神的な疲れがたまっていたようで、口調には元気が見受けられない。とりあえず、つい最近までシャロットが生きていたのであろうことは示唆されたので、微妙に気が抜けたことも絡んでいるのだろう。
「そうだ……なので、空間を渡らねばならん。この幻の大地は空間が隔離されているからな……」
 コリンの安堵と疲労に気づいているのかいないのか、ドゥーンの受け答えは普通だった。
「どうやっていくんだ、ドゥーン? シャロットやディアルガなら体一つで行けるもしれんが……俺達では……」
 出来ない、と言おうとしてドゥーンが安心しろとばかりに微笑んだ。
「心配するな。ここより岸壁に沿って南へ行けば……そこに居るポリゴン達が空間の橋渡しをしてくれるだろう……過去の世界で言うところの、ラプラスのような役割の奴らだ。
 もしかすると、ヤミラミのように釘を刺されている可能性もあるが……橋渡しをしてもらえないならば、さっきのようにするまでだ。いや、だがコリン。その前に休もう。二人とも怪我の治療もしなくてはならないしな」
「確かに、引っ掻かれたしな」
 引っ掻き傷を刻まれたわき腹の痛みをいまさら気にしてコリンはため息を吐く。
「それにしても……」
「どうした?」
 何かを思い出したように、ドゥーンは右肩を回し始める。思えば、時限の塔へ向かったりここまで着たりと時間をかけている間にすっかりと腫れが引いたその腕は、無駄を全く感じさせない美しい筋肉を供えた腕に元通りしている。
「いや、なんでもないが……ただ、腕に……腕に力が戻ってきたような気がしている」
「確かに……腫れが引いたな。そう言えば……先程ヤミラミを蹴散らした時のあの破壊力……間違いない。お前のパワーが以前ヤミラミを相手したときよりも増している。
 だが、脱臼と言うのは一度やってしまえば癖になる。また脱臼しないように気をつけるんだぞ?」
「分かっている。いつかお前と戦う事になった時は同じ弱点を疲れないように、十分に気をつけるさ」
 今は憎しみ合う敵同士だと言う事も忘れて、二人はそんな軽口を言いあった。怪我の治療を行う時に、自分から背中の傷を縫ってやろうとコリンが言い出しても、ドゥーンは茶化すことすらしない。
 互いが互いを危険と意識することのない休憩時間を何とも言えない不思議な気分で過ごしながら、コリンはドゥーンに背中を預けて眠りに入る。その穏やかで自然な眠りを享受している。
(未来世界で俺と一緒に寝た時……アグニもこんな気分だったのだろうか?)
 コリンは二度と会えない義兄弟に想いを馳せる。まだ顔ははっきりと覚えているから、未来が改変されて消えてしまうならいっそ思い出が綺麗なうちにと、コリンは思う。

 ◇

「ここは空間の岸壁と呼ばれるダンジョンの入口だ。ここを抜ければ、ポリゴン達がいる場所に行ける」
 幻の大地は、その果てが崖となっていて、そこから落ちた水が何処へ行くとも知れない構造になっている。恐らくは時の神の力か何かで、崖から落ちた水も循環するのであろう。幼い頃は当たり前だと思っていたこの光景だが、他の大陸で海という光景を見た後ではなんとも違和感に溢れた光景だ。
「シャロットとディアルガはすでに氷塊の島へ渡っているんだ。急ごう……」
 そのダンジョンを抜けるに当たっての障害は、差し当たって無かった。ドゥーンの力の回復が眼に見えて現れた事により、敵も簡単に蹴散らすことが出来、環境的な障害も時間が止まった状態では起こらない。本来ならば風が非常に強く吹く場所なのだが、こういう時ばかりは時間が止まっていることに感謝である。
 特筆すべきは、このダンジョンを越えるにあたって、雪山を歩くのに必要であろう毛皮をムウマージから調達したことくらいだ。時間は止まっているから環境的な寒さで凍えることは無いだろうが、それでも多くの氷タイプのポケモンがいることが予想されるダンジョンに行くのだ。防寒対策をしておいて損はない。剥ぎ取った革をなめしたり、腸を縛ってつなぎ合わせたり、休憩を挟みながら進んだり作業を進めたりとしているうちに、ダンジョンの出口も近付いてきた。結果的にはかなり時間が経ってしまったが、休憩時間も取れてちょうど良かったのかもしれない。

「よし! ダンジョンを抜けたぞ!!」
 ダンジョンの最深部であるワープゾーンを抜け、目の前が大きく開ける。とはいっても、そこもダンジョンに入る前の風景とほとんど同じ崖際ではあるが、クチバシのように尖ったそこは岬といえる形をしている。
「ふむ、ここに来るのも久しぶりだな……コリン、こっちだ」
 ドゥーンが先導する。
「わわっ!!」
 先導されるがままに、ついてきたコリン達の前に、現れた二人のポリゴンは目を丸くしていた。
「ドゥ……ドゥーン様……」
「久しぶりだな」
 明らかに怯えた様子のポリゴンへ、ドゥーンは詰め寄る。あの威圧感を存分に発揮した状態であぁも悠然と近寄られては、小さなポケモンは縮こまるか道を譲るかに他は無い。譲る道も無い今の状況では、黙って怯えることしか出来なかった。
「私がここに来たという事は……お前達に何を頼みたいか分かっているだろうな?」
 ドゥーンに凄まれて、二人は互いに顔を見合わせる。
「そ、それは……難しいです。ヤミラミ達に止められています」
「それに……ドゥーン様の後ろに居るのは……」
 息のあった話の継ぎ会いで、会話を構成させていくが、そんなもの知るかとばかりのドゥーンの声が――
「私の言う事が聞けないというのか!? お仕置きが必要なようだな」
 四の五の言わせないその威圧で、それ以上の反論を一切封じられては、最早従うか強要されるかの二つに一つしかない。
 強要と言うのは、即ち拷問じみた行為が伴うものであり、それが嫌ならば選択肢は一択だ。
「やります、やります。どうぞこちらへ」
 こうして従うのが賢明な判断だ。すでに涙目のポリゴン二人が、崖の細くなった先端の左右に分かれる。
「この間に立ってください……それと、わたし達の事は……」
「心配するな。奴らがお前らに手を出す前に……私が新しい腹心とやらにケリをつける」
 憎しみと怒りを存分に込めた台詞の後、ドゥーンはなにも喋らない。
「まぁ、なんだ。お仕事頑張れよ」
 自己紹介をする必要は無いが、何もしゃべっていないのが気まずくなったコリンは、困り顔で声を掛ける。
「あ、ありがとうございます……」
 これにはポリゴン二人も気まずそうに答えるしかなく、雰囲気は余計に重くなってしまった。逆効果を与えてしまったコリンはため息混じりに肩を落とす。
「では、氷塊の島に転送します。動かないでください……」
 気まずい雰囲気の中でポリゴン二人が言うなり、黒い球体が並び立つコリンとドゥーンの間から驚く間もなく広がっていく。その黒い球体は生き物のように二人を取り込んで、糊のように粘ついて二人を離さない。
 その暗黒の球体に体が全て呑み込まれると、二人の体は球体に取り込まれて消えた。

385:情報収集 


 暗黒が晴れると、そこは雪国だった。幻の大地では岩が浮かんでいたように、こちらでは岩と共に氷塊も浮かんでいる。そこら辺は地域の差と言うものを感じるが、あまり感慨深くなるような景色でない事は確かである。
「ここは……?」
「氷塊の島だ。時が停止する前は吹雪の島と呼ばれていたようだが……暗黒世界となった今はより、厳しく……より、閉ざされた場所になってしまったようだ。
 まあ、時間が止まっているから寒くない分お前には快適かもしれんがな」
「そうだな……氷が浮かんでいる……氷塊の島とは言うが、名前そのものだな」
 まだ二人とも素直になりきれない感はあるが、気付けば二人はごく自然にこの会話をしている。旅を続けているうちに段々とお互いの掛け合いが不快ではなくなってきたのを感じて、コリンはドゥーンにもそういう面があるのだと安心し、対するドゥーンは自分の感情にひたすら戸惑い否定しているという違いはある。
「さてと……どこに行けばいいか」
(何か痕跡でも残っていればいいのだがな……)
 コリンは辺りを見回す。時間が止まっているから、この島には雪は降らない。だから足跡が残っているかと言えばそうでもなく、悠久の時を経て踏み固め続けられた雪は岩のように硬くなっており。足跡なんて残す方がむしろ一苦労だ。もちろん、セレビィが足跡を残すわけはないが、せめてディアルガの足跡だけでも残ればいいのだが。
 暑くもなく寒くもない氷塊の島でいきなり途方に暮れていると、コリン達の耳には何やら話し声が届く。
「ドゥーン……聞こえるか? これは明らかに……」
「あぁ、聞こえている」
 二人に聞こえるのならば聞き間違いではないと、二人は声のする方に向かう。話し声の正体は、編み笠のような頭部に、黒く丸っこい体と青いどんぐり眼のポケモン、ユキワラシの三人組であった。
 コリン達を見たユキワラシは、明らかに警戒しているとわかる声で仲間と話す。あいにく話の内容まではわからないが、良く思われていないことだけは確かと見て間違いない。
「ユキワラシか。ここらを住処としているのだろうな……」
 ドゥーンがそんな独り言を言うために口を開いたのがよっぽど怖かったのか、ユキワラシの三人組はそろりそろりと逃げに入る。

「お、おい……ちょっと待ってくれ!」
 そこを、あまり不安にさせないように小走りで追いついたコリンが呼びとめる。
「ギギ……何だべか?」
 恐ろしく訛りの強い口調だが、ユキワラシは答えてくれた。よく見てみるとこのユキワラシ、進化出来ていないせいで体は幼いが、肌にはすでにしわが寄っている。
(進化出来ないのはどこでも同じ……か。大陸でも幻の大地でも、オースランドでも、ここでも……)
 この悲しい世界の実情にうんざりしたコリンからは、思いがけずため息が出た。
「聞きたいことがあるんだ。最近、俺達以外の者がここに来たはずなんだが……見かけなかったか?」
 コリンの言う事に理解が追いつかないのか。ユキワラシ達は疑問符を浮かべる。
 集まって輪を作っては、ゴニョゴニョとコリン達には聞こえないような小さい声で相談を始める。
「気が付いたことがあったら何でもいい! 教えてくれ! 大切なことなんだ」
 どれだけ待っても一向に話はまとまらず、コリンが苛立たしげに尋ねると、ユキワラシ達の表情が変わった。
「きっと、さきた、ここば通ったあいつらのことだ」
 相も変わらず訛りの酷い口調でユキワラシはいい、詳しく教えるとばかりに手招きする。
「本当か? 是非、教えてくれ」
「んだ、教えるからなんかくれ」
「む、仕方ないが……まぁ、いいか」
 コリンは一瞬顔をしかめるが、敵の尻尾を掴むチャンスには代えられない。しぶしぶながらコリンはダンジョンで採取した『ヤセイ』の肉を差し出した。
「へへへ……ありがとな。んじゃ、耳かっぽじって良く聞けよ~」
 コリンははやる気持ちを押さえようと必死な表情を見せ、ユキワラシの言葉を待つ。

386:羨望 


 その時、彼は情報が貰えると信じて疑わなかった。だが、世の中そんなに甘くない。油断したところで、三人のユキワラシの内一人、二人の影に隠れていたユキワラシが突然躍り出ては、コリンの顔面へ雪を見舞う。
「ぐわっ!!」
 コリンは鼻づらを叩かれて、汚らしい声を上げた。
「ギィャハハハハハハハ!」
 その雪をまともに食らって倒れるコリンに、いきなり顔面を叩かれた際に残る耳鳴りと共に星が散り、不快な笑い声が耳につく。コリンの視界が元に戻った時にはユキワラシ達は既に吹雪を振りまきながら逃走を開始していた。草タイプの自分が吹雪を振りまいての逃走を追うのは骨が折れそうなので、コリンはわざわざ追う気にもならなかった。
「ぺっ……くそ、なんて奴らだ! 一丁前に姦計何ぞ働きやがって!」
 口や鼻の中に思い切り入り込んだ雪を吐き捨てて、コリンは舌打ちをする。
「この暗黒の世界に住む者の心が歪んでいるのは……コリン、お前もよく分かっているはずだろう。あんな悪戯に引っかかるな。この島で脳でも凍りついたのか?」
 ドゥーンの言葉に、コリンは言い返す事が出来なかった。恨めしそうに睨んで見せるくらいはしてみたが、ドゥーンは鼻で笑うばかりで無性に悔しい。
(いつか俺も鼻で笑ってやる……)
 なんて無邪気な復讐心をドゥーンに対してたぎらせながら、コリンはようやく立ち上がった。
「ったく、結局何の情報も得られなかったな……」
「ふむ……コリンよ。確かにどこに行けばいいか分からんが……あそこにダンジョンがある。過去も今も、逃げ込むならばとりあえずはダンジョンというし、シャロットを探すならこの道に進んでみるのがよさそうじゃないか?」
「そうだな……」
 目印も無しにこんな広い島でシャロットを見つけられるのか疑問はあったが、とりあえずはそれしかなさそうだ。
「ヤミラミ達がまた罠を仕掛けているかもしれないから、そこは注意していくぞ?」
「ああ、わかった。……しかし、くそう……あいつらめ。今度見かけたらタダじゃ置かないぞ」
 コリンは毒づきながら、ドゥーンの指示す道を見る。明らかに不機嫌だが、シャロットのことを気にして急き過ぎる雰囲気じゃなくなったのはむしろプラスに働いたかも知れないと、ドゥーンは再び心の中で笑っていた。
 シャロットの事を気にしているコリンの脚は異常なほどにせわしなく動き、機動力に劣るドゥーンが付いて行くのは大変な労力を要するので、ユキワラシに気を取られている今の状況は、ドゥーンにとって願ったりかなったりだ。
 二人は、丁度吹雪いてきた時間帯に時が止まることで分厚い雲と雪に光がさえぎられて暗黒と化したダンジョン、暗闇の氷山へと足を踏み入れた。

「しかし、ユキワラシのあんな悪戯に引っかかるとは……お前、意外とお人よしなところがあるんだな」
 皮肉って笑うドゥーンだが、その口調に含まれているのは嘲笑ではなく、むしろ親しみと感心が含まれている。
「大きなお世話だ」
 そんな口調で語りかけられては、コリンも毒づいて返すわけにもいかない。ドゥーンの目をまともに見ることなく、僅かばかりに恥らいながらそっぽを向いた。
「いや、だからこそ闇の力に心が影響されていないのか……羨ましいぞ」
「羨ましい……か。それは、本音なのか?」
 ドゥーンの顔は春の日差しでも浴びているかのように穏やかで、コリンに対する尊敬と羨望が見え隠れする。とても、今まで敵であった者。そして、今この瞬間でさえ裏切るとも知れない相手がするとは思えないような穏やかな表情だ。
「分からない。この世界では奪うことが常識だったからな……そして、トキ様にも、お前ら星の調査団のような輩はどんな手を使ってでも殺せと仰せつかっていたからな。そんな殺伐とした状態より、お前のようなお人よしがいたほうがずっといい。騙すのも騙されるのも嫌いだからと言って、出会うものすべて疑ってかかるのはお前も嫌だろう?」
「なるほど。お前ほど強ければ、騙す必要もないと思ったが……集団を相手にするお前は常に騙すことも騙されることも考えなきゃならなかったというわけだ。
 お互い不毛な人生を歩んでいるな……だがお前は、トキ=ディアルガだったか? あいつに仕えなけりゃ、誰かを騙す必要もなかっただろうに……あんな暴君に仕えて何が楽しいのやら」
 コリンは頭に疑問符を浮かべた表情をする。

387:考えるという事 


「トキ様は暴君ではない……」
 明らかに不満そうな表情をしてドゥーンは言う。
「そうなのか? 俺には……トキとやらはただの暴君にしか見えない。俺が言うのもなんだが、お前頑張っていただろ? あれだけ頑張っていたお前を解雇して新しい腹心を入れたりもしてるし……薄情者にもほどがある。それ以前に、神ならばもう少しこの世界を何とかして欲しいものだな」
「そうかもしれないが……ならば、聞こう。ただの暴君の元に仕えるのと、魅力ある名君に仕えるの……どちらが幸福だ?」
 質問の答えは簡単に決まったのに、質問の意図を考えてコリンは返答に詰まる。仕方のないことだからと、ドゥーンはコリンの言葉を待つことにした、が――
「チィ……考え事をしているっていうのに敵だ」
 コリンがその返答に詰まっている間に『ヤセイ』のポケモンが現れる。
「メタング……か。どれ、私の炎のパンチで蹴散らしてやろうか?」
「頼むよ、ドゥーン」
 腕を振り上げたドゥーンに振りむかず答えて、コリンは穴を掘って地面に埋まる。

「ふん、よい判断だ」
 二枚重ねの円形クッキーを巨大化させ、腕をとってつけたような鋼の体のポケモン、メタングは鋼タイプとエスパータイプを兼ねる。そのため地面タイプと炎タイプの攻撃には弱く、コリンとドゥーンはそれぞれ弱点の攻撃で攻める。
 メタングがコリンに対して彗星のごとき衝撃を叩きだすパンチを当てようとしたところ、コリンが地面に潜りこんだために、拳は空しく空を切る。
「ぬぅん!!」
 たたらを踏んだような状態となったその隙をついて、燃える拳でドゥーンが殴りつける。炎と衝撃で、メタングの顔が歪み、そのままドゥーンは手を休めずに殴り続け、コリンが来るまでの時間稼ぎ。
「セイッ!!」
 ドゥーンが稼いだ時間を使って、コリンが地面から躍り出る。コリンが繰り出す地面の力を帯びた衝撃で、体にひびが入り破片が砕け、さらにそこに一撃を叩き込むことで致命傷にする。万が一再び動き出すことがないよう二人は様子をうかがっていたが、やがて本当に致命傷であると確信したら、二人は共にさっさと歩きだす。
「ドゥーン……」
「何だ?」
「さっきの答えだが……聞くまでもないだろう? 仕えろというのなら名君に仕えたいさ」
 結局質問の意図は分からないまま、コリンは言った。
「ならば、話は簡単だ。私もな……誰かに仕えるというのは基本的に苦痛だと思う。例えば、それがトキ様であっても……だ。なにせ、自分のしたいことよりも主の意向を優先せねばならないからな。トキ様の命令で歴史を変えるお前らを根絶やしにするために、どれだけ修行をして、勉強して、調査したことか。それはそれは……苦行であり、苦痛だった。
 だけどな……私にはトキ様を暴君だと思えるようになる逃げ道なんて存在しなかった」
「暴君と思うという逃げ道……? いや、それは……トキが暴君だって認めているようなもんじゃないのか?」
「いいや、トキ様は名君だ。思い込みではない」
 コリンの問いかけに、ドゥーンはいい加減な口調で答えた。
「仕える事は苦痛だけじゃなく楽なことだってある。支配されるという事はな、自分で考える必要が無い。自分で考える事をしなくてもいいという意味では楽なのだ。考えないでいる事は本当に楽だ。
 将来の事だとか、人間関係だとか……子供の頃は、ただ鬼ごっこやかくれんぼをして遊んでいられればいい、自然と何も考えないでいられた……だが、いつからか、考えるようになってしまうのだ。大人になる過程で、鬼ごっこを楽しめなくなったときに……この世界に希望がないことにいつか気付く。
 それを考えてしまうと……もう未来に希望を持てなくなってくる。娯楽に目覚めようにも、この世界にはまともな娯楽なんてないだろう? だから、そのうち考えたくなくなる……そうなれば、暴君も魅力的に映るものなのだ。トキ様は私を支配してくれる……支配してくれるから何も考えなくてよい。将来の事も、何もかも……人は、放っておけば楽な方に流されてしまうものなのだ……だからこそ、人はだれもが支配されたがりなのだし、暴君と名君は紙一重なのだ」
 そして、自分は名君に仕えているのだと言い聞かせるようにドゥーンは拳を握りしめる。

「それが……きっと支配される事に対する快感を助長させた要因なのだと思う……もう、私は何も考えたくなかったし、もともとこの世界では考えることもたいしてないからな。基本的に、お前や私のように強い力があるのならばセックスと、次の食事の事だけ考えてればいい。だが、暇だろ?
 だが、その暇な時間……これからも暇なんだろうなぁとか、嫌だなぁとか、不貞腐れることしか出来ないんだ。今年どんな種をまくとか、次はどんな商売しようとか、次は何を作ろうとか、そんな建設的なことを考えるだけの土台がない。
 だが、トキ様に従っていれば命令してもらえる……そしてそれを実行すれば、声をかけてもらえる。尊敬するものに褒めてもらえるなんて最高の幸福じゃないか……どうだ? 退屈な未来世界に、名君に仕えるという一つの娯楽が出来たぞ……こんなもの、正直なところ娯楽にはしたくなかったと、過去の世界で嫌というほど思い知ったがな」
「大した自己分析じゃないか……」
「過去の世界で嫌というほど思い知ったんだ。私は自分で考えて行動する事が出来ていない……アグニ達を見ていて思ったよ。あいつらの時代には何でもある……だから、何でも出来るし、どうすればいいかを考えるし、何をしたいかに迷うことだって出来る。だが、未来世界では……『ヤセイ』を狩って、喰って、女を犯すことだけ考えてればいいじゃないか」
 ドゥーンは自嘲気味に笑う。

「こんな未来世界じゃ酒もなければ、収穫も、祭りも、行商も、旅の吟遊詩人もない。それなら、未来世界に生きる私達は何に快楽を見出せばよかったのだ? 何をして暇を潰せばよかったのだ? 持て余した思考をどこに預ければよかったのだ?
 セックスか? カードゲームか? 歌を歌いながら殺戮すれば、お前ら星の調査団を潰すのも楽しくやれたのか? オルゴールでも流しながらであれば、子供を拷問にかけても心は痛まないのか? それは違うだろう? だからケビンは……覚えているか……お前が殺したあのエイパム」
「覚えているさ……ジュプトルに進化して初めての相手だし、苦労して倒したよ」
 ふぅ、とコリンは溜め息をつく。
「あいつは他人を苦しめることに快楽を見出した。ケビンの奴は、過去の世界の常識と照らし合わせてみれば確かに歪んではいるが、変な事だとは思わない」
「いやいや、あいつが……変じゃないってどういう……?」
 ドゥーンのあまりにぶっ飛んだ見解に、コリンは目を丸くして尋ね返す。だが、ドゥーンは表情を変えもせずに答えた。
「あぁ。異常な環境で真っ直ぐな精神を保てるというのは、非常なことなのだ。ケビンのように、『時の守り人』という異常な生活を強いる状況に於いては歪んだ精神であるほうがむしろ普通だ。
 そしてそれは、私もだ。コリン、確かにお前のような立場なら……過去の世界の者から見ればトキ様を暴君と判断するのが、正常かもしれない。お前の置かれた状況にとってみれば正常だと仮定するならば……トキ様を尊敬する私は歪んだ思考の持ち主と言えるだろう。
 だがな、『時の守り人』という異常な状況におかれた者にとっては普通……変わった事ではないでのだ。誰かに『トキ様は偉い』と言われたとか、トキ様は強いから……と言う理由では、確かにトキ様を尊敬するには足りない、足りなすぎる。だけれど……この未来世界で、トキ様を尊敬せずに……若しくは虐殺に快楽を覚えずに、どうやってこの生きているだけで苦行な世界に耐えられる? 無理だ!!」
「な……」
 ドゥーンが声を張り上げる。コリンは驚き肩を竦めるが、ドゥーンは構わず話を続ける。
「私達は歪んでいなければ生きていけなかったのだ!! 生きる希望は歪まなければ得られなかったのだ!!」
 ドゥーンが喚き散らした。トキやヤミラミに裏切られた時でさえ見せなかった涙を垣間見て、コリンは目をそらしてしまいそうになる。

388:正常と異常 


「生きる希望がないと生きていけないから、生きる事に希望を持つためにお前は絵を描いた。お前はそれが出来た……だが、私はトキ様を尊敬することで、尊敬した相手から褒めてもらうことで。唯一生きる希望を見出したんだ。それしか知らずに育ったんだ。
 たったそれだけのことさ……それが、私がトキ様を尊敬する理由の一つなのだ。貴様が暴君と呼ぶ者を、名君と呼ぶ理由だ。いまさら、認める事なんて出来るわけもないだろう……私はこの世界で一生過ごしてゆくつもりなのだからな。死ぬつもりだった貴様とは違って」
「まぁ、な」
 何も言えず、コリンは伏し目がちに答える。
「だから、私は……トキ様が『歴史は変えてはいけない』と言うなら、歴史を変えてはいけないと思うしかなかったのだ。トキ様の言う事、信じることを私も信じるし……トキ様の命令に従うのが快感なのだ。ケビンは生きる楽しみがないと生きていけないから、他人の苦痛に快楽を見出す。でなければ……あのケビン=エイパムも、きっと心が壊れて、あのユキワラシのようになっていた。
 生きる希望がなくなったものはどうなるか知っているか? お前も過去の世界で嫌と言うほど見たであろう!? 極限まで生きる事に絶望したら……取るべき手段は自殺しかないんだ。ここではその前に心が死んで、闇に染まるという違いはあるが、結局は心が死ぬのだから同じことだ。死ぬんだ。
 お前だってそうだ。この闇黒世界と一緒に自分も消滅というのは、言い変えれば心中だぞ!? 死ぬんだぞ? 私がトキ様を尊敬することが異常なように言ったが、お前はどうなんだ? 異常じゃないとでも言いたいのか!?」
 言い終えたドゥーンは、よほど興奮していたのか肩で息をしている。
(こいつが……こんなに感情を露わにするだなんて、珍しいというかなんというか……)
「そうかもしれないな……」

「この世界は皆そうだ、皆異常だ!! こんな世界……消え去ってしまえばいいなんて、過去の世界で私が考えたことがないとでも思っているのかコリン!? それでも、私はギリギリのところで生きたいと思う道を選んだんだ……なのに、なんでお前は……こんな私を見てさえ、自分達は消えても良いと思う? 何故なんだ……コリン?
 こんなにも消えたくないと思っている者達が居て、お前はその意見を無視するのか!? お前のどこにそんな正義があるというのだ!?」
 コリンは息をするのを忘れていて、ドゥーンの話が終わって初めて苦しいと気づいて息を吸う。
「俺は……自分が正義だなんて思ったことなんて……少なくとも、過去の世界に行ってからは無かったよ……あ、いや……ごく初期の頃は思ってたかもしれないけれどさ。自分がやるべきだと思ったことをやって、その結果誰かを不幸にしようと、それ以上に幸福に出来れば問題ないと……それが正義なら、正義と言えるのかもしれないがな」
 コリンはかろうじて言い訳をするが、そこから先はドゥーンの悲痛な叫び声に何も言い返すことが出来ずにいた。
「俺は異常、か。確かにそうだ。お前の言うとおりだ……すまないなドゥーン……俺が異常で」
 憤ったドゥーンの言葉は、確かにそうかもしれないと納得せざるを得ない言葉であった。投げやりに肯定したコリンに対して、ドゥーンは目くじらを立てることもせずに黙る。
「じゃあ、ドゥーン。逆に聞くが、俺達はどうすれば正常になれるというんだ?」
 ならば、どうすればそれが正常になれるのかなんて、答えは決まっている。
「さあな? 過去の世界で暮らせば正常に戻れるんじゃないか?」
 投げやりにドゥーンは言った。全く持ってドゥーンの言う通りで過去の世界へ行って、星の停止を迎えずに静かに死ぬことくらいしか、正常で居られる方法なんて無い。それが不可能である以上、『無い』という答えしかあり得ないのだ。
(この暗黒の世界は異常でなければ生きられない世界……そこに生まれて、ドゥーンは異常であることを選んだ。たとえ、過去の世界にいるときに正常な思考に戻れたとしても、ドゥーンのように、いずれこの時代に戻らなければならないのならば、異常であり続けなければいけない。
 そして、ドゥーンはこの時代に戻るつもりで生きていたから、異常であり続けるしかなかった。対して俺は、未来に戻るつもりがなかったから、過去の住人にとっての正常な思考に戻れたのかな……。
 なんて悲惨な人生だ。本当はお前も、わかっているはずなのに。ドゥーンも、一つ間違えば俺と同じ選択をしていたということを、お前は自分自身言っていたようなものじゃないか。
 ディアルガに仕える事でしか、快感を、生きる希望を見出せなかったからこうしているのだと。そしてお前は、過去の世界でそれ以外の快感を知ったはずなのに……未来の世界に帰ることを考えてしまったがために、異常であり続けることを強いられただなんて……もう、例えようもないくらい……
 いいじゃないか。今、トキを暴君だと認めたって……)
 結局、言葉にしたくてもその想いは言葉に出来ず、コリンはかぶりを振って気を取り直し、話題を変える。

389:赦してくれる 


「アグニが言っていたよ……」
「何をだ?」
 今までため込んできたドゥーンの愚痴が全て吐き出された所で、コリンはそう切り出した。
「歴史を変えると、俺やシデンが消えてしまう事は結局最後まで伝えられなかったが……歴史を変えることで起こる弊害と、俺ら超越者と言う存在について軽く教えたんだ。『超越者は多少の歴史の変動にも影響されずに消えることは無いが、周りの者はそうも行かない。ある日突然隣にいる者の種族が音もなく変わっている』って説明したんだ。そしたらアグニの奴……なんて言ったと思う?」
「悪いが……私には皆目見当も付かない。だが、あいつの事だ……私の事を悪く言いはしないだろうな」
 コリンの嬉しそうな顔を見て、ドゥーンは戸惑いながら想像してみたが、上手い言葉は思いつかない。
「よくわかっているじゃないかドゥーン。これだけははっきりと覚えている。アグニは『少し、安心した』って言ったんだ。お前が俺達に敵対する理由を理解して……それで、お前が根っからの悪人でないことがわかって、あいつはそういう風に思ったんだ」
「馬鹿だな……」
 照れ隠しにドゥーンは憎まれ口を叩き、コリンもそれを肯定する。
「あぁ、俺もアグニは馬鹿だと思うし、アグニも自分で自覚してたよ」
 そういわれて、どんなコメントを返せばいいのかドゥーンは分からず口ごもる。
「アグニは、お前の事を異常だなんて思っていない。いや、異常になっても仕方ないと理解するだろう。だからアグニとお前が意見を合わせる事は無理でも、きっとアグニは……お前の気持ちを分かってくれる」
「それでも、アグニがこの暗黒の未来世界を消滅させる意思は変わらないのだろう……?」
「だろうな……アグニは、清濁併せのめる奴だから。シデンや俺が消えると言っても、きっとアグニならやってくれたと思う……ま、それで迷いが出て本来の力が出せなくなってしまうかもっていう危惧はあったが」
 コリンの返答を聞いて、ドゥーンは寂しげに溜め息をつく。
「ならば、アグニの同情などに意味は無い……意味など、無い。無いんだ……同情されたところで、私達が消えることには変わりないのだからな」
 そうかな? と、コリンは心の中で呟いた。きっとアグニならば、その同情を同情だけで終わらせないようにしてくれると、コリンは何の根拠も無く思うのであった。
「アグニか。アイツはいいよな……世界を救っても自分が生き残れる。私は、世界を救っても、誰にも賞賛されない。世界を救っても、有るのはこんな暗黒の世界だけだ…その上、私はもう負けた……いまさら何をしても、アグニに勝てる保証がないと来た……」
「アグニはきっと、お前を貶めたりしないさ。あいつは優しい奴だから。アグニ以外の誰かだったら、お前は歴史の改変を阻止しようとした悪魔のように罵られていたかもしれんが……アグニは絶対にそういうことをしない奴だ。きっと、アグニは……お前に何度もすまないと思ってる」
「それはそれで嬉しいが……気休めにもならない。そんなに優しいのならば、私に勝ちを譲ってくれという話だ」
「それは優しいとは言わない。甘いと言うんだ。アグニは、甘くはない。人は憎まないが、罪は憎む奴だからな……」
 ドゥーンは自分の言葉をきっぱりと否定されて黙りこくる。


「なぁ、ドゥーン……一つだけ思ったんだけれどさ……」
「なんだ?」
「こうやって、自分の腹の底にある言葉を吐きだしながら喋るのって、初めてだよな? 会話は何度もしたけれどさ、こういう会話はしたことが無かったなって……お前、俺には本心なんて一度も見せなかったじゃないか……」
 コリンに言われてドゥーンは考える。
「そうだな……」
「なんか……本当にすまない。俺はお前の事、誤解していたと思う……頑固者だとか頭が固いとか、狂信者だとか思っちゃったけれど……そうならざるを得ない理由なんて考えていなかった」
 コリンが珍しく弱気になって俯くと、ドゥーンはその極太の指でコリンの後頭部を爪弾く。
「気にするな。問答無用で殺しにかかる私に対して、お前が腹を割って話そうなどと言い出したら……それは異常を通り越して狂人だ。お前は相手の事を理解してしまうと情が湧いて殺せなくなるような甘い奴ではないが……気に病んだりしないように、知ろうとしないというのも一つの選択肢だぞ?
 相手が悪魔なら、相手が『ヤセイ』なら……殺しても気に病んだり苦しむ必要はない。何も見ない、何も聞かず、目を背けていれば……どうなっても良いと思えるものさ」
 後頭部に顔をしかめながら振り向いて見ると、ドゥーンの顔には安堵の色があった気がした。
「過去の世界に行ったときに、目を背けることが出来ればよかったのにな」
「俺も、お前から目を背けられたらよかったのにと……ついさっき思ったよ」
 冗談めかしてコリンは言った。
「本当だ」
 だけれど、それを冗談で済ませたくなくて、コリンは一言付け加える。
「そう、か」
 ドゥーンの言葉の後、再び周囲を沈黙がつつむ。コリンはふと、ドゥーンと初めて会った時の事を思い出す。自分とドゥーンが分かりあえるかもしれないと思い、それが無理だと悟って涙を流したあの日。時の流れに押し流されてしまったそんな記憶を引きずりだしながら、コリンは思う。
(案外、話せば分かるものだ……譲れない理由のありかも、相手なりの理由も。話しあい続けても、平行線をたどるかもしれないけれど、ドゥーンの言う事は尤もだ。ドゥーンがディアルガを信仰せざるを得なかった理由も言われてみれば俺も少し分かってしまった。
 あの世界では、子供なんて使い捨てればいいと思っていた俺は……過去の世界では信じられないほどのクズだった。けれど俺自身は普通だと思っていたように、ドゥーンもきっと自分の事を普通だと思っていたのだろう。
 ドゥーンだって過去の世界で、トキよりもすばらしいものをいくつも見たはずだというのに、いまだ意見を変えないのはなぜなのかとも思ったけれど……それをするには、ドゥーンはあまりに罪を犯し過ぎたと思っているのかもしれない。だから、自分のした事が罪ではなかったと思いこむためにも、ドゥーンは自分を正しいと思わなければ自分を保てないのだろうか。
 ドゥーンの言葉を借りれば、ドゥーンは異常か。異常であることを理解して、苦しんで生きるなんて……辛いだろうに。逆に、今からでもドゥーンが罪と向き合う事が出来るのなら、その時はきっと……ドゥーンは歴史を変えることを良しとしてくれるのではないだろうか? 
 それが出来るとしたら……アグニのあの時の言葉しかないよな。『どうやって恨めばいいのですか?』とか、そんなことを言っていたあのアグニの言葉だろう。
 あいつは、赦してくれる。罪を憎んでも人を憎まない奴だ……だから、ドゥーン。意地を張らなくってもいいんだよ……アグニはきっと赦してくれる……アグニの言葉で心変わりをしてくれだなんて、あまりに身勝手な考えかもしれないし、本当にただ未来世界をこのままにしておきたいのならば……アグニも何も言えないだろうが……)
 長く思案をしてみても、結局ドゥーンの真意はわからない。本音で話しているようでいて、まだ本音じゃないのかもしれない。そんな考えが堂々めぐりして、コリンはため息をついた。

390:どういう風の吹き回しだ 


 そうして、二人は上へ上へと歩みを進め、敵を蹴散らしつつ頂上を踏んだ。
「どうやらここが頂上みたいだな。この先はしばらく下り道だ……少し休んだら一気に越えるぞ」
「あぁ、だがその前に身を隠す場所があったほうが良いな。コリン、少し探そう」
 頂上付近には周囲を切り立った崖に囲まれた窪みのある空間があった。真っ白なその空間の対岸に目を凝らしてみると、そこには洞窟がある。警戒もそう難しくなさそうな場所であるし、ある程度は安全だろう。
「あそこで良いな、ドゥーン?」
「あぁ……まぁ、悪くは無い」
 その窪みの中にも、案の定氷塊が浮かんでいる。この場所を通り抜けるべく走る二人が、ひときわ大きい氷塊の真下付近に差し掛かったとき。その氷塊が突然揺れ始める。
 その氷塊は、時の破壊と共に悠久の時を浮かびながら下界を眺め続ける物ではなく、人工的な攻撃だった。
 揺れから落下に至るまでの時間は数瞬の間もない。先を行くコリンは気が付いていなかった。ドゥーンが駆け出し、コリンを小突き、それでいて自分が避けるまでの時間はなかった。
 後ろからの衝撃に、コリンは目の前に星を散らせながら前のめりに転ぶ。殺気を感じた覚えもないのに攻撃をくらった事を疑問に思う前に、氷塊が砕ける音でコリンは身をすくめた。振り返って見たのは砕けた氷塊の残骸と、背中に傷を負ったドゥーン。
(ドゥーンに……攻撃されたんじゃなく、庇われた?)
 コリンは言葉を失い、ドゥーンに駆け寄る。
「ドゥ、ドゥーン!! お、お前が庇ったのか!? この俺を!? どういう風の吹き回しだ……」
 だが、そうして近づいたコリンをドゥーンは小突いて叱咤激励する。

「ぐっ……そんなことより……気をつけろ。来るぞ……」
「来る……? いや、何がと聞くまでもないか」
 周りを取り囲む自分達を狙うもの達の気配。隠し切れない匂いと雰囲気、さらには奇声が敵の存在を否が応無しに感じさせた。
 白を基調とした体に、黒い模様が刻まれ、触れただけで血が出そうなほど先端の尖った一対の角とターコイズブルーの瞳。首から上しか存在せず胴のない無いポケモン四匹に囲まれていた。
「こ、こいつらは!?」
「オニゴーリ……氷を自在に扱う力を持つ……し、しかも……進化しているということは暗黒に染まりすぎて自分をなくしている。ダンジョンから抜け出てきたイレギュラーの『ヤセイ』と言うことだ。
 要するに、トキ様とほとんど同じ状態だ」
「ふん……蹴散らしゃいいだろ、こんな奴ら!!」
 半ば弱気になりかけのドゥーンを尻目に、コリンは腕の葉を構えて臨戦態勢を整える。
「確かにそうだが……こいつらだけだと思うな、コリン!」
「何!?」
 大地を揺るがすような咆哮と共に、巨大なポケモンの足跡が聞こえる。ディアルガに勝るとも劣らない巨体を誇るそのポケモンは、土色の分厚い毛皮に覆われた巨体と、それに見合う巨大な牙を持っている、雪崩に匹敵しそうな質量を持ったポケモンであった。
「な、なんだ!? あ、あいつは……デカすぎる」
 崖下を見下ろしての再度の咆哮。流石の大きさにコリンが戸惑っているその後ろで、ドゥーンが立ち上がる。
「名はマンムー……氷タイプでは……その巨体ゆえに、力だけなら最強と言われているポケモンだ」
 氷タイプと聞いて、コリンは苦虫を噛み潰した顔をする。
「なるほど……俺に不利な奴らばっかりって訳かい。く、来るぞ!!」
「あぁ、そういうことだ。だがマンムーは地面タイプを併せ持っている。だから、貴様の草の攻撃ならば有効なダメージを与えられるはずだ」
「わかった、善処する」
 まだ戦闘が始まってもいないのに歯を食い縛って痛みに耐えるドゥーンを見て、コリンはアグニやシデンを見るときの目と同様の目でドゥーンを見る。
(守らなきゃ……ドゥーンを!)

「丁度……ディアルガと戦う前にデカブツの練習相手が欲しかったところだ。地面タイプの情報には感謝するぞドゥーン!!」
 オニゴーリによる四本の冷凍ビームと、マンムーによる吹雪。一斉に放たれたそれのうち、コリンは冷凍ビームを縫うようにして飛び退く。避けきれず、毛皮から露出した尻尾と右腕の葉が凍り付いて砕け落ち、左ひざの毛皮が少しばかり凍りついた。
(ムウマージの毛皮を着ていてよかったな……)
 回避のしようがない吹雪はクラボの実による『自然の恵み:炎』によって相殺しながら間合いを詰める。
 それでもその熱でカバーのしようがない下半身などには、肌が露出した部分に雪粒の一つ一つに身が切り裂かれるような冷たさが伴い、顔を顰めずにはいられない。
 しかし、痛みで涙が出てくる前にコリンは自分の攻撃の射程圏内に入り終えていた。繰り出すのは全身に生える鋭い葉を渾身の力で以って振るい、木の葉の嵐を巻き起こす技、リーフストーム。
 マンムーの攻撃はその巨体に見合うだけの威力があったが、いかんせん代償に本体の反応速度は鈍い。顔面に向かって弱点タイプの力を存分に込められた攻撃が殺意を以って襲い掛かり、まずザクリと顔面が引き裂かれ血に染まる。
 片目が潰れた感覚がマンムーの脳に告げられた頃には、コリンの左腕の葉がピッケルのようにもう一方の目を穿つ。コリンはずるりと葉を引き抜き、周りの状況を一目で確認する。
 まず、ドゥーンが全身にこびりついた氷を溶かすために炎のパンチを使いながら、マンムーを正面に見て右後方のオニゴーリに燃える拳で攻撃を仕掛けている。
 ドゥーンを狙うのは右前方と右後方の二匹。
 そしてコリンを狙うのは左前方と左後方の二匹。コリンとしては岩タイプや炎タイプの攻撃を加えたいところだが、残念ながら自然の恵みで岩タイプを呈するゴスの実は何処にでも生えているわけでは無い。コリンは岩タイプの技もロクに修行していない……
(と、なれば……)
 コリンは冷凍ビームを身をかがめて避ける。頭の葉にビームが掠めて、毛皮と一緒に凍りついたが気にしてはいられない。
 コリンは相手のガードを崩す鋭い腕の爪で左前のオニゴーリに二本の赤い線を引き、両指を組んで掌底を叩きつける。地面に転がったオニゴーリを思い切り踏み潰して、止めを刺した。


 再度飛んできた冷凍ビームは昏倒したオニゴーリの後ろに隠れてやり過ごし、攻撃の合間に躍り出て左後ろのオニゴーリを潰す。
 コリンが覘いてみればドゥーンは、纏った毛皮のいたるところを凍らされながらも、すでに二匹を叩き潰していた。敵は全滅、コリン達の勝利である。
「何とか、勝てたな……お前のお陰だ」
 敵が全滅していたことで張り詰めた糸が切れたコリンは、無造作に座り込んで息をついた。コリンはドゥーンが大怪我を負っていない事に素直に笑顔になってしまい、それに気が付いたら一度顔を逸らしてまたドゥーンを見た。
「私とて、お前に命を助けられた……今回はお互い様だ……ぐっ!?」
 ドゥーンもコリンの真似をするように座りこもうとしたが、そのために腕を動かそうとしたところで、激しい痛みを体が訴えた。
「ぐっ……くっ、氷塊を受けた時のダメージが……」
 背中の打撲は関節が外された時以上に赤く腫れ上がっていた。見ていて痛々しい。ドゥーンは顔をしかめながら、座ることをあきらめて立ち上がる。

「ドゥーン……とりあえずは、どこかに避難した方がいいな」
 身長差がありすぎて肩を貸すことが出来ないのをもどかしく思いながら、コリンは辺りを見回す。
「裂け目になっている洞窟は向こうだ……いこう」
 少し遠くにあるが、数分もかからない距離だと、コリンはドゥーンを手招きした。












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コメント 



お名前:
  • >2013-11-03 (日) 02:46:36
    大体はお察しの通りなのです。ダークライの件がなかったら、アグニを成長させるためにも消えたままにするのが神としての役割だったかと思います。
    シデンを復活させたのも、おそらくは苦渋の決断だったのでしょう。ソーダは……私ももうすこし救ってあげたい気持ちですw

    テオナナカトルは、その通りコリンたちの世界の未来ですね。すでにコリンたちの戦いは神話になっているようです
    ――リング 2013-11-22 (金) 00:37:02
  • ふむふむ、こうして読むともし原作のストーリーにダークライの話が無かったら、リングさんバージョンはシデンが復活しないまま終わってたのかなって思いますね。

    ソーダがちょっと可哀想でした。

    テオナナカトルって多分、コリンたちの世界の未来の話ですよね?
    ―― 2013-11-03 (日) 02:46:36
  • >狼さん
    どうも、お読みいただきありがとうございました。
    『共に歩む未来』のお話では、もう一つの結末というか、私としてはこちらのほうがよかったという結末を書いて見ました。
    ディアルガのセリフから察するに、本当の未来はシデンが生き返らない方であったという推測が自分の中でありましたので……。
    こんな長い話ですが、読んでいただきありがとうございました
    ――リング 2013-06-26 (水) 09:49:35
  • 時渡りの英雄読ませていただきました。私は探検隊(時)をプレイしたのでだいたいのことはわかるのですが時渡りの英雄ではゲームとは違ったおもしろさがありゲームではいまいちでていないところまで実際そんなストーリーがありそうな気がしたり(当たり前か)してとてもおもしろかったです。
    『ともに歩む未来』では[シデン]が蘇らないのかと思ったら[アグニ]の夢というおち、少しほっとしたり…。
    これからも頑張ってください。
    ―― ? 2013-06-17 (月) 21:31:32
  • 時渡りの英雄これから読んでいきたいと思っています。
    時渡りの英雄は10日ぐらいかかると思われます。
    読むのが楽しみです
    ―― ? 2013-05-25 (土) 02:02:01

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Last-modified: 2012-05-18 (金) 00:00:00
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