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時渡りの英雄第17話:死地へ・前編

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時渡りの英雄
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239:ロアからの情報収集 

六月十三日
 コリンは意を決し、すっかり肌寒くなったシエルタウンへと足を踏み入れた。
「……よぉ。ロア」
 コリンは思いつめた表情でロアを見つめ、やっとのことで言葉を搾り出した。
「来たのかヴァイス……お久しぶり」
 今のコリンは、まるで一度死んで蘇ったかのように生気の感じられない声で、生気が抜けている。
「店仕舞いしたら……話がしたい」
「かまわんよ……もう夕暮れ時だ。今すぐに店仕舞いとさせて貰うよ」
 案内された家は前回・前々回と変わらず、豪勢とは言いづらく粗末な家ではあったが、藁葺きの屋根はしっかりと雨を受け止めてくれそうではあるし、丈夫な蚊帳のついた寝床は虫の多いこの街では暮らしやすい。
 離れの方角から風が吹くたびにあいも変わらない香辛料や砂糖、酒、酢の匂いなど様々な匂いが不協和音を奏でている。
 この匂いはどうにも慣れないが、それは彼が仕事熱心な証拠であり、彼の息遣いや鼓動に等しい彼の『生きている証』だった。時がたてばここも朽ち果て、やがては歴史の渦の中に呑み込まれて消えてゆく運命の場所だろう。しかし、未来世界には自分の体一つしか残せるものなんて何もない。
 コリンの絵画なんて、本当に稀有な例だ。

(例えば俺が歴史を変えたとしたら、この世界の全てが一様に俺の生きた証……この世界にも顔をしかめるような思い出や場所もあるが、そういう場所すらも自分が生きた証だと思うだけでなんとも感慨深いものだな……)
「ここでなら、お前さんも安心して話せるだろうよ……」
 コリンを家に案内したロアは、よく分からない紅茶と乳白色の果汁を発酵させて作った酒に乳を混ぜ、おいしい蜜を加えて味を調えた飲み物を出す。
 酒と乳を合わせた飲み物の粘つくように濃厚な味は、喉が渇いているときには口に合いそうになく、そのため以前も冷やされた紅茶とともに差し出されていたものだ。この紅茶と交互に呑むのが正しい飲み方らしい。

「……相変わらず美味い物だな」
 話すことを纏める間に、コリンはその味を褒める。
「ここらじゃどこへ行ってもそれより味のいいモノが飲めるんだがねぇ……買いかぶりすぎじゃないかい?」
「お前に出されたから美味いのかも知れない。……多分、そうだよ」
 コップをテーブルに置き、口の回りについた白い液体を舐めとり、コリンは笑う。
「あぁ……そうかい。嬉しいな」
「えっとな……そろそろ言うよ。もうとっくのとうに分かっていたようだが、俺は盗賊ジュプトル。本名はコリンだ」
 ロアは黙って頷いた。
「トレジャータウンにいるドゥーン様の発表によれば、コリンは……未来から来て、時の歯車を盗んで星の停止をもくろむ大悪人だって聞いたよ」
 ロアの発言を聞いて、コリンは首を振る。
「信じられないかもしれないが……それは、全くの逆だ。俺は、星の停止を防ぐために時の歯車を集めているんだ。……今こんなことを言っても誰も信じちゃくれないだろうがな」
「それでも俺は……最後まで聞いてから信じるさ。お前さんを通報するのもそれからにしておく」
 ロアは、半信半疑に笑う。コリンは溜め息をつくことで気を取り直し、口の赴くままに言葉を紡ぎだす。
「……この世界の時を司る『時限の塔』。コレはいわば巨大な時の歯車なんだが……そいつが崩壊すると、問答無用で世界の時は停止する」
「すると、どうなるんだ?」
 コリンは、相手が話についてきてくれるのを理解して頷いた。
「時間が崩壊……時限の塔が完全に崩壊すると、過去と未来のあらゆる時間帯から色々な物質が流れ込んで世界は混沌とする。それを防ぐために時が停止するんだ。世界がぶっ壊れるくらいならば時間を止めてしまえばいいってね。
 本来ならば、塔が崩壊する状態にあっても、時の神ディアルガは意識を保ち時限の塔を修復するのだが……未来世界では叩いても殴ってもディアルガは正気に戻ることがないんだそうだ。これは、未来世界の正史に刻まれた事実だ」
「じゃあ、あんたの仕事は……ディアルガを正気に戻すために歯車を集めているのかい?」
「あぁ。巷で有名なグレイルとかいうヨノワールは、それを阻む敵さ……今はドゥーンとかいう本名を明かしたんだっけか」
 ありえない初耳。怖気がして、ロアは背筋が凍った。

「おい……あのヨノワールが悪モンだっていうのか?」
「悪者じゃない……敵だ。あとで説明するが。あいつは敵なんだ……悪ではないし、そもそもそれを論ずるならむしろいい奴かもしれないんだ」
 コリンは申し訳なさそうに目を伏せ、ため息をついて脱線しかけた話の軌道を修正する。
「この世界は何度も星の停止を迎えようとしたこともあったんだ……それでも、そこはディアルガや他の歯車の番人達が何とかしてくれた。
 けれど……今回は訳が違う。そのディアルガが時を守れる状況じゃなくなった……そして、番人たちも、今の時点ですでに闇に心を囚われて正気を失い始めている。そのせいで、かつて経験したことのないようなスピードで時間の停止が世界中で起こった。
 だが……それでも、とにかく時の歯車を5つ時限の塔に納めれば、崩壊も治まり世界は星の停止から救われるはずなんだ」
「じゃ、じゃあ……ドゥーンはなんでお前を止めるような真似をするんだ?」
「引き換えに、時が停止した未来で生まれるはずのポケモン。俺たちの命と引き換えに……な。俺も、ドゥーンも消えるからだ……。俺の仲間の人間によると、タイムパラドックスっていう現象らしい」
 驚いたのか、ロアは言葉を失った。それに構わず、コリンは超越者についての話をし、改変された歴史をディアルガが良しとするならば、タイムパラドックスの堂々巡りは起こらないことも説明する。
「そう、ドゥーンは消えたくないし、未来の人間たちを消したくないんだ。だから俺の敵なんだ……でも、悪党じゃないからそこは誤解しないでくれよな。俺を悪に仕立てているのも俺を仕留めるため……未来世界のために戦っているあいつの気持ちもわかる。
 俺を消そうとしている理由も分からないでもない。あいつだってまるっきり悪い奴じゃないんだよ。けれど、敵だから戦っている……それだけでさ」
 コリンは脚色すること無く事実のみを淡々と告げて行く。
「敵でも……悪人ではない、か……」
 ロアの確認に、ゆっくりと頷いてコリンは続ける。
「まぁ、そんな所だ。俺は世界を救いに来たとも言えるし、世界を滅ぼしに来たとも言える。最も重要な内容はここまでだ……何か質問はあるか?」
「それで……これからどうする気なんだ? いくら、自分が正義だからって……それを皆が理解しない以上は……お前さんは敵のままだろう?」
「ああ、それの事だがな……」
 コリンはため息交じりに言い、自分の中にある考えをまとめる。

240:可能性 


「そうだな……噂によれば、湖の三神は水晶の洞窟の歯車を三人掛かりで守って、時の歯車を永遠に封印するつもりらしい。
 そして、ドゥーンは火山の歯車を守っているとかなんとか……」
「あぁ、それは俺も聞いた。しかし……ジュプトルに対しても同じように情報を漏らすっていうのは、なんというか無防備な奴だな……」
「店の商品を買ってやれば意外に気分がよくなって喋るもんさ。金にならない情報ならばな……」
 コリンはため息をつく。
「ともかく、その情報が本当ならば、どちらも正面から戦って勝てる戦いでは無い。かといって、いまさら奴らを倒すための策を弄すことなんて、たった一人で出来ることじゃない……」
 一つだけ策があるとすれば、巨大火山にある歯車をとることだが、あそこはあらゆるダンジョンの中でも敵がかなり強い部類に入り、屈指の難易度を誇るという。その上環境も厳しく、さらに奥にはヒードランとドゥーンが控えている。
 たとえばフレイムならば環境を耐えることは可能であろうが、あのダンジョンはチャームズでさえ超えられるかどうかも怪しい場所である。さわらぬ神にたたりなしだった、
「と、なれば……湖の三神を説得するっきゃないだろう……でも、多分失敗する。奴らは三人合わさると、時の神や空間の神に匹敵する力を持っているというくらいだからな……だから、ロアさん。
 もしも俺が何らかの形で失敗したならば……この手紙を、届けてくれ……」
「……わかった」
 その手紙を受け取り、ロアはうなずく。
「策と言えばこの二つくらいか……はは、俺に残された可能性はあまりにもちゃちなもんだ」
 自嘲気味にコリンは力なく笑う。まぁ、ロアに頼まなくとも、フレイムやチャームズがいる。この様子だとフレイムはどうやら失敗したようだが……それでも、チャームズがいればなんとかできるかもしれない。
「恐らく、ドゥーンは俺を始末したらこの世界にいらぬ影響を与えることが無いようにこの世界を去るだろうから、そうして安全が確保された時にやってくれ……そうだな一ヶ月か二ヶ月くらいは星の停止もこらないから、それくらい待ってくれ。
 そして、ドゥーンが居なくなったこの世界の住人に……俺がやったことの意味を改めて問い直すんだ。そのための内容が、その手紙だ。
 その手紙の中に書かれている内容が、俺の最後の希望となるだろうよ。俺の仲間のシャロットが言うには……歴史には修正作用がある。俺が誰か人一人を殺したくらいじゃ、よほどの大人物でもない限り人一人殺しても歴史は変わりはしないらしい。
 だけれど……その手紙を見せることで、変えられる歴史だってあるかもしれない」
「つまり……俺に。その大人物になれって言うのか?」
 コリンは真っ直ぐとロアを見つめ、頷いた。
「そういうことだっていうわけでもないけれど、その手紙を大人物に届けることで何か変わるだろうってことだ。
 あぁ、そうだ……誰か、何か、ギルドでも個人でもいい。お前の話を聞く気になった奴が居たら、この絵を手紙と一緒に見せてやってくれ」
 そういってコリンは、荷物からヒートスノウシティ周辺で描いた絵を差し出す。
「この世界で最も美しい場所に数えられるヒートスノウシティの絵と……俺が思い出せる限りの未来を描いた。あと、ちょっとばかし想像で描いた絵も少々……怪我を治す間暇だったもので、結構描いたよ。未来世界の絵は、町長の家においてある奴よりも、上手く描けたつもりだよ」
 コリンは、白黒で描かれた暗黒の未来の絵を差し出す。

「美しい木々は時が止まると同時に成長を止め、まずキリンリキなんかに食い尽くされていった。食い尽くされて葉っぱ一枚生えない禿げた木々が立ち並ぶ景色は、こちらの世界でなら子供の肝試しにもってこいな光景だったよ。未来は……こうなるんだって、伝えてほしい……誰にでもいいから。
 信用におけるギルド。噂に流されない判断が出来るギルド。時間の研究に定評のある学者……何でもいいから」
 ロアはゆっくりと頷いた。
「わかった……他でもないお前さんの頼みなら聞かないわけにもいかんわなぁ」
 コリンは両の手を、ロアの手に添えて深くお辞儀をする。
「恩に着るよ」
 コリンは深く頭を下げて誠心誠意のお礼を言う。ロアが優しく頭上げなよと、言うまで頭を上げようとするそぶりすら見せなかった。
「ところでな、コリン……お前さんの絵を見て思ったんだが……お前さん、人物画も十分上手いけれど、風景画の方がよっぽど優れているんだな」
「あ、ああ……そうか……」
 と、コリンは顔を俯かせたが、そこでロアの言葉が終るわけでは無かった。
「だがそれだけじゃない……お前さんは、人物を風景の一部にした時、最高だ……このかわいこちゃんが水晶の間を楽しそうに飛ぶ風景……正直言って息が止まりそうだ」
 シャロットとシデンが、光ある世界で笑顔を輝かせる絵。ロアの視線の先にはそれがあった。
「お前は、風景を描くでも、静物を描くでも、人物を描くでも才能の全てを発揮することは出来ないんだろうな、きっと。お前は、全部(ヽヽ)を描くのが得意なんだよきっと。地形と、植物や建物、岩などと言った不動のものも、俺たちポケモンを含めた生物全般も、ぜーんぶ。何も欠けちゃいけないんだって、感じがする。お前が描くのが上手なのは、完全な世界だから……そりゃ、人物画が見劣りしてしまうのも頷ける。
 今のお前の話と合わせて……どれだけお前がこの過去の世界を好きかってことがわかったよ。だから、俺はお前を信じる……がんばれよ」
 ロアが短い手を精一杯伸ばして、コリンの手を握る。コリンはしばらく無言であったが、そのうち胸から込み上がる者が抑えきれず、一度嗚咽を漏らして、目からも雫を流す。
「ずっと……それを、誰かに言って欲しかった……本当に……ジュプトルだってだけで後ろ指を刺され、荷物を覗かれる生活はもう嫌だったから……」
 そこから先から、もうは言葉にならなかった。例え、なんの戦力にならないとしても、ロアは心を支えてくれる仲間であった。コリンは滾り落ちる涙を抑えることも出来ず、ロアの胸に抱かれて泣いた。


 どんなに気丈に振舞っていても、見て見ぬふりをしても隠しきれなかった心の痛みを癒してもらい、辛さも不安も涙で押し流すように、こらえることもなく時間が過ぎるままに任せる。そうして、しばらく時間がたって、あたりはすっかり暗くなっていた。
「そうだ、絵が飾ってあった町長の家なんだがな……探検隊のフレイムってやつが来ていたよ……どうやらお前を待っているようだったな」
 何の気なしにロアが言うと、コリンは目を丸くした。
「よかった……あいつら生きていたんだな……」
 そして、胸のつかえがとれたようにほっと息をつく。
「な、なんだよ……その反応は……心配していたなら早く会いに行ってやればよかったのに……」
「いや、な……今の世の中の状態を見る限り、俺が頼んだことは失敗しているっぽかったらな……だから、万が一の確立だが、死んでるかもしれないと思っていたものでな……なかなか、決心がつかなかったんだ。確認するのが怖くって……」
「な、大丈夫なのかよ? というか、何を……どんな仕事を頼んだんだ?」
 すっかり驚いた様子でロアが尋ねるが、コリンは肩をすくめて笑う。
「事前に、ユクシーを説得……ぶん殴ってでも説得するように頼んでいたんだよ。で、すでにユクシー達湖の番人が何も行動を変えていないところを見ると、フレイム達が説得に失敗したのは確実だからな。うん、でもまぁ……生きているならよかった。それだけで満足だ。それとロア、さらっと言ってくれてありがとう。明日、会いに行こうと思ったんだが、生死を確認するのが怖くって……助かったよ。心の準備の必要がなくって」
「そうか……あいつらも相当会いたがっているようだから、明日は必ず会いに行ってやれよ?」
「わかってる……そのつもりだ……本当に、ありがとう。ロア」
 コリンの心の中に渦巻いていた不安は半分以上が消えた。今日だけでも、フレイムの生存を喜びながら良い夢でも見て眠ろうと、コリンは久しぶりの布団の中で思いっきり体を休めるのであった。

241:再会 


「コリンさん!! あ、会いたかったです……」
 コリンが町長の家を訪ねると、彼の声を聞いてソーダが真っ先に駆けつける。感無量に震える声を上げたソーダは、鬣を橙色に揺らめかせ目を潤ませてコリンの胸に飛び込んだ。油断していればコリンの身が危うかったと思えるくらいのきつい頭突きに、コリンは苦笑して応対する。
「……こんばんは」
「こんばんは、コリンさん。ずっとずっと会いたかったですよ」
「俺も会いたかったよ。ソーダ……でも、どっかで失敗して死んでるんじゃないかと思って、確認するのが怖くって……ごめん、本当は昨日のうちに来れたのに」
「そんなのってないですよ!! 一応、十二歳の時から二年間、ベテランのソルトさんと鍛えて来たんです。そう簡単には死にませんよ」
「ごめんごめん」
 ソーダの頭突きが激しすぎるのと、また会えたことに対する喜びで胸が苦しい。その旨の苦しさをかみしめつつ子供をいつくしむ父親のような優しい目でソーダを見つめる。すると、彼女は嬉しそうに胸に額を摺り寄せて来たのでコリンはしっかりとソーダを抱擁した。
「なぁ、ソーダ。俺にはさ、大事な女がいるって言っていたけれど……その女を忘れるわけじゃないし、お前で妥協するってわけじゃない……妥協じゃなくって、お前の真剣な愛に……応えてって……なんだ、その表情?」
 コリンは、ソーダから受けた告白に対しての返答をはじめようとするのだが、どうもソーダは訳が分からない様子。首を傾げた彼女はまるで、マメパトが種マシンガンを喰らったような表情だ。
「あの、コリンさん……あ、えっと、その……私達、たぶん記憶を消されてしまったもので……あなたと、砂漠で出会った所までの記憶しかないんです」
「はぁ?」
 コリンが間の抜けた顔で首をかしげる。
「その様子だと、ソーダがあなたに告白したようなことになっているみたいね。それも忘れちゃったのねー」
 普通に歩いて、たった今コリンの元までたどり着いたソルトは、面白そうに笑ってソーダを冷やかす。
「……真面目に笑い事じゃないですよ。結局、そんな大事なことを忘れているってことは、完全に記憶を消されたってわけじゃないですか」
 シオネは事態の重さをきちんと理解したうえでそう発言して、ソルトはバツが悪そうに肩をすくめる。
「まぁ、あれよ。感情を消す力のあるエムリットには何もされなかったって言う証拠に、笑ったり泣いたりして感情があることをアピールしてみたかっただけよ。そういうことにしておいて」
 自嘲気味に言って、ソルトは話を終える。
「と、ともかくですね……持って行ったメモ用紙すらも燃やされてしまって、私たちは今……本当にコリンさんとの間に何があったか覚えていないんです。ですから、教えていただきませんか? 告白したことも忘れちゃうなんて無様な真似までしちゃって……申し訳ないのですが」
(俺が勇気を出して告白に答えたのはなんだったというのか……ユクシーもとんでもない真似をしてくれたな……)
「わかった……」
 折角の告白も無駄に終わったことに意気消沈した気分を隠そうともせず、コリンはため息交じりに言う。
「引き続きお前らには味方でいてもらいたいから、もう一度言うよ……メモの用意をしてくれ」
 コリンは頭を掻きつつ、砂漠で出会ったフレイムとの間に何がったのかを静かに語り始めた。

 ◇

 沙漠でフレイム達と鉢合わせした時の事。コリンは、ついにフレイムに洗いざらい話した時の話だ。ソーダに詰め寄られたコリンは、彼女の真剣な表情に根負けし、座って話を進める。
 空からはじりじりと照りつける太陽で、そこかしこに逃げ水がわき出ている。
「俺の……俺の正体は、お前らの御察しの通り。盗賊ジュプトルって呼ばれている、時の歯車強盗……本名は、コリン=ジュプトル」
 コリンはあちらから何か言われるのを待ったが、相手はずっと沈黙を貫いている。全く口を挟まずに、黙って話を聞こうということらしいと悟り、コリンは誰にともなく頷いて続ける。

「……ここ最近。とは言っても、結構前からの話だが、最近不思議のダンジョンが増えている事はご存じのはずだ。それは何の影響だか知っているか?」
「それは時間が壊れた事による影響……ですよね?」
 シオネが返す。
「そうだ……時間が壊れた場所は、過去も未来も混沌と混ざりあい、最悪な事態を引き起こせば、どんな事が起こるかもわからない。事によれば、過去と未来が同時に存在するという矛盾のせいで世界そのものが崩壊することだってあるらしいんだ……。
 ダンジョンが、破壊と創造を繰り返すような事が、世界全体で起きるようなことすらあるらしい。それを防ぐために、時間という概念が完全に崩れ去った場所は、時間が停止するんだ。時間が狂うくらいなら、止めてしまえばいいってね」
「それはつまり、キザキの森のようにですか?」
 シオネが真っ直ぐにコリンの目を見て尋ねる。
「あぁ。時の歯車は、時間を安定させる効果がある。それで、時間の不安定な場所に……安置されているんだ。しかし、安置したりなんかして盗まれたりしてどうするのか? そうは思わないか? 盗まれないように地中に埋めておけばいいとか、そうは思わないか?」
 三人は視線を交わしあって頷く。全員、コリンの意見に大方同意のようである。
「世界には、キザキの森なんかより……って言ったら、そこら辺に住んでいる奴に失礼だが、そんな場所よりももっと守らなければいけない場所があるんだ。世界の時間を管理する中枢……時限の塔。そこが壊れれば、世界の全てがキザキの森と同じく時間が停止した状態になる……
 俺は、その場所に時の歯車を届けるために……盗んでいるんだ。ありていに言ってしまえば、世界を救うために……なんて、言っても現実味が無いだろうがな。時の歯車を時限の塔に届けないといけない状況になることもあるから、時の歯車は盗めるような場所に置いてあるんだ。
 ここまでは理解できるか?」
 ええ、と汐音が頷く
「にわかには、信じ難いですが……でも、それならコリンさん。貴方の行為は、どうして時の歯車を守っている人たちに咎められるのですか? どうして、大々的に自分のやっていることを公開しないのですか」
「そうだな……最初は、シオネの言うとおり公開しようと思ったさ。でも、誰も信用してくれなかった……今思えば、やるべきこと、得るべきものは信用だったんだよな……ドゥーンは、最初にそれをやった」
「ドゥーン?」
 ソーダが首を傾げる。
「グレイル=ヨノワール……本名は、ドゥーン……だと思う。名前をちらりと聞いたくらいだから、本名かどうかは知らないが……」
「あぁ、グレイルさんならば知ってます。超有名探検隊で、しかも気の良い善人だって」
「俺の敵はそういう皮をかぶっているんだよ、シオネ」
 自嘲気味にコリンは笑う。
「そ、そんな……グレイルさんが悪人だなんて」
「悪人じゃない、敵だ。間違っても、あいつを悪人だなんて言うな……」
 ソルトが言いかけたところで、コリンはむきになって訂正する。
「え、あ……悪人……じゃなくって、敵?」
「……あぁ、悪人じゃない。悪人じゃないんだ」
 あまりの剣幕でコリンが訂正するもので、半ば呆然としたソーダに諭すようにコリンは穏やかな口調で彼女をなだめた。その声で、自分自身もなだめるように。
「まぁ、グレイルが敵というのが信じられないならば、話し半分で聞いてくれ……俺は、時間が停止した世界から来た。この世界から見た未来でな……」
「未来から……?」
 流石に、あまりに現実離れした話に、全員が顔を耳を疑った。

242:耳を疑う 


「あぁ、未来から……過去を変えるために来たんだ。時渡りポケモン、セレビィの力によってな」
「……それを、信じろというのですか?」
「だろうな……そういう反応は一応想定していたよ。続けるぞ……俺は、キザキの森のようになった世界で生まれ育ったんだ。そこじゃ、文明は無くなり、昼夜も季節もないから、祭りのようなイベントもなければ農業も存在しない……」
 そうして、コリンは未来の惨状を語り始める。法も何も無い無秩序な未来世界では、パートナーのシデンと共に何度も危ない目にあったり、強姦されかけたりしたことを。
 木の実一個の代価にセックスなんてのが日常茶飯事であること。そして、フレイム達と出会った時に見せた荒廃した絵は未来世界であること。
 全部話した。タイムパラドックスによって自分達が消滅してしまうことも、ドゥーンがそれを恐れて敵として戦うこととなったことも。だから、ドゥーンは自分の正義のために戦っているだけであって、悪党では無いのだと。

「それで、仲間は全滅……俺達はやけくそになって……こっちの世界に来たんだ。暗黒の未来世界なんて無くなってしまえばいいってね」
「そ、それはいいのですが……タイムパラドックスとやらはどうなったのですか?」
「超越者という言葉がある……時渡りの素養を持つ、セレビィの様なポケモンや、俺のように一度でも時間移動をした者だ。超越者となった者は、多少のタイムパラドックスでは、その存在が危ぶまれる事はない。
 そんな俺達でも、星の停止を食いとめるなんて事をしてしまえば、まぁタイムパラドックスで消えてしまうだろうがな……しかし、もしもディアルガクラスのポケモンが、『未来世界が光ある世界であることを望む』のであれば……俺達の存在が消えても、ディアルガはこの世界を光ある世界のまま存続させるはずだ」
「でも、それって……言いかえればコリンさんが消えるってことじゃないの?」
「それはまぁ、どうでもいいさ。出来れば生きて居たいけれど……お前らが覚えていてくれるなら……そう言うもんだろ? 誰かに名前を覚えて欲しいから、お前ら探検隊なんてやっているんじゃないのか?」
「うん」
 静かにソーダが頷いた。
「名前を残したり、お祭りのような文化を残したりすることの尊さを……私は知っているつもり。だから、コリンさんの言う事は理解できる……けれど、本当にそれでいいんですか?」
「お前の態度がそのまま答えだよ。お前のその心配は、俺が消えて欲しくないって暗に言ってくれるようなものだろ? その気持ちだけで俺は十分さ」
 コリンは寂しげな笑みを浮かべる。目の端には涙がたまっていた。
「……お前達がな、俺の話を信用してくれるって言うんなら、こんなに嬉しい事はないさ。きっと、ソーダと同じような事を思ってくれるんだなって思うとさ」
 静かに時間が流れた。砂嵐も無く、いつしか日も暮れた周囲の空気は冷たく冷える。
 こんな時は炎タイプに寄り添えばといいんだとソルトは言って、シオネはそのソルトの大きな体を背もたれ代わりに陣取った。警戒心を完全に解いたコリンは、ソーダに『こっちがあいてますから』と誘われ、なし崩し的に彼女に寄り添って話を続ける。
 背中を彼女に預けると、彼女は恍惚とした表情で目を閉じており、コリンが倒れ掛かった脇腹に全神経を集中しているような顔をしていた。

「ところで……グレイルさんが敵である理由は分かりましたが……でも、一つ疑問があるんです」
「何だ?」
 シオネの質問にコリンは首を傾げる。
「どうして、時の歯車の番人は行動しなかったのですか? 番人は、歯車を守る使命もそりゃあるのでしょうが……今、世界が大変なことになっているんだったら……普通、気づいてそれなりの行動をしませんか? 歯車を守るのよりも、歯車を時限の塔に届けることを優先するんじゃないでしょうか?」
「奴らの精神は闇にとらわれている」
『え?』と、皆の顔が引きつった。
「心を闇にとらわれた者は、本能的な行動などに取りつかれるようになる……盲信するんだ。奴らにとっては、時の歯車を守る事が本能に近い行動なのだろう……つまり、奴らは番人としての本来の使命を忘れて……歯車を守ることだけを狂信的に行い続けるようになっているんだ。
 番人は孤独な上に、時空が不安定な所に勤務しなければいけないわけだからな。心が闇にとらわれるにはもってこいの場所なんだ……しかも、今回の星の停止は前例のない、桁違いの速度で進行しているからな。だから、心をつかさどる精霊と言えど無事では済まないのだろう……
 やつら、俺の話に聞く耳を持たないし、歯車を狙うものとあらば、本気で殺しにかかってくる。そして、人の話を聞かない……誰彼かまわず敵とみなして噛みついてきやがるんだ」
「正気に戻す……手段はないのですか?」
「闇にとらわれた者を正気に戻すのならば、根気よく話をしてあげることしかないな。人の心との触れ合いが闇を払う力があるから……」
 コリンはそう言って、肘掛けにしていたソーダの背中に顔を沈める。
「ふーっ……」
 話し疲れたと言いたげなコリンは、そのまま上体を預けてため息をついた。
「だけれど、一口に話すと言ったって、こうやって俺達みたいに落ち着いて話すこともできなくなっている場合があるからな。そんな時は、ボコボコに叩きのめして、縛ってから話をすればいい……そうすれば食欲とか性欲とか、そんなモノよりも生存本能が勝るから、話を聞いてくれるようになる。
 その状態で根気よく話をする事が、唯一の正気に戻す方法になることだってあるんだ」
「それは誰でもできることなのですか?」
「心の精霊たちをボコボコにできる実力があればな」
 コリンは肩を竦めて笑う。
「なら……」
 ソーダが口を開く。見開かれた彼女の目は、決意が光っていた。

243:暴論でも 


「なら、その役……私達にやらせて下さい」
 と、申し出たのはソーダであった。丸っこくって、黒曜石のようにキラキラと輝く彼女の瞳は、強い意志が秘められているようだ。
「お前らが……出来るのか? 馬鹿にしているわけじゃないが、ユクシーは曲がりなりにも神だ。神ということで様々な制約があるぞ……謁見も、会話も。神様と話が出来るとあれば、皆飛び付くだろうからなぁ……」
「そんなことわかってますし……それでも、やります」
 ソーダはコリンの言葉をまるで意に介さずに、意見を変えない。
「だ、そうだけれど……お前達はどうするんだ?」
 コリンはソーダの目を見てから、残りの二人の顔を見る。
「そうねぇ……誰かがやらなきゃならないのなら……私がやろうとは思う。けれど、まさかソーダちゃんがそんな事を言うなんてね。先、越されてるわよリーダー」
 ソルトは、自分の体に寄り添って暖を取っているシオネに向かって冷やかした。
「うぅ……頼りないリーダーですみません」
「そう責めてやるな、ソルト。今日はソーダの奴が変に積極的になっているだけだろ……熱でもあるんじゃないのかってくらいさ」
 コリンは冗談めかして言うことで、ソーダの恋心に気づかないフリをする。
「あ……」
 と、ソルトは声を上げる。彼女もまたコリンと同じくソーダのコリンに対する恋心に気づいていて、コリンの先ほどの発言に何かを読み取ったようだ。
「どした?」
 コリンがそれに疑問を覚えるが、ソルトは肩をすくめて――
「いや、何でもないわ。今日のご飯まだ食べていなかったなって」
「ソルトさん、こんな時に呑気なことを言っている場合じゃないでしょ。コリンさんが困っているんです……命の恩人なんだから、助けませんと!!」
「命の恩人だからねぇ……それはいいのだけれどね、ソーダ。貴方はヴァイ……コリンさんの言う事を鵜呑みにし過ぎているのよ。私はリーダーを茶化したけれど、リーダーが決断を渋るのも仕方がないと思うわ」
「そうですよ、時の歯車なんてもの、慎重に考えなきゃ……確かに、目立ちたがり屋な強盗殺人ジュプトルと、盗賊ジュプトルの行動は矛盾しておりますが……」
「……そう、ですけれど」
 二人に諌められ、ソーダは鬣の炎も小さく萎縮する。
「まぁ、信用してもらえないのは仕方ない……そんなに俺を信じきる自信が無いのならば、こっちも頼む事は出来ないよ……」
「ふむ、では何か私達を信用させることの一つでもあればいいのですがね……」
 シオネはぼやくが、そんなモノどうすればいいのかとばかりに、コリンは肩をすくめた。

「あの絵……あの絵は、私達を騙すための絵だったのですか?」
 何かに気づいたように、ソーダが口にする。
「あの絵って……あぁ、コリンさんが故郷を描いた絵でしたっけ? あぁ、そうか。あの時から私達を騙していたのなら……」
 ソーダの口から出た言葉をヒントに、シオネは答えを導き出して一人納得する。
「ど、どういう事よ?」
 納得し合う二人を見ても、コリンとソルトはまだ理解できていないようで、二人は疑問符を頭上に掲げている。
「コリンさんが、私たちと出会った時に見せてくれた絵の中に、故郷……つまり未来世界の絵を描いた奴があったじゃないですか。あの岩が浮かんでいる奴」
「それは知っているわよ……コリンさんが未来世界を語る時に話題に出したから……」
「コリンさんが嘘をついていると仮定しますと……『私達をおどかして信用させるためにあの絵を描いた』のだとしたら……今もあの絵を持ち歩いていないとおかしいんですよ。だって、私たちフレイム以外にも懐柔すべき相手はいくらでもいるでしょう? 
 コリンさんが過去の世界の住人に対して『未来世界はこの絵みたいにだから、俺に協力しろよ』と言うつもりであの絵を持ち歩いていたなら……私達だけに見せて、はいお終いなんて使い方はしないはず。今もあの絵を持ち歩いて……過去の住人をおどかしていなきゃおかしいじゃないですか?」
 シオネの説明に、コリンは理解したようだがソルトはいまだに理解できていないようだ。
「……ちょっと待って、頭がこんがらがった。えっと、つまり……コリンさんが最初から過去の世界の人をだますつもりの悪人の場合、騙すための道具としてあの絵は良い道具ってわけよね?
 しかし、あの絵を常に持ち歩いていないってことは、騙すための道具なんて必要ないということ。なぜなら、最初っから騙すつもりなどないのだから……ってこと?」
 わからなそうな顔をしている割には、ソルトはきちんと理解していたようで、ほぼ正解の答えを言う。
「確かに、その考え方は理にかなうし……信じて貰えるのは嬉しいが、かなりの暴論じゃないか、それは? そんなんで確証をつけても大丈夫なのかお前ら……? 心の底から俺を信じられるのか?」
 コリンが苦笑して言うが、ソーダの目を見るとこの言葉も無駄な気がした。ポニータの黒曜石の如き黒く艶やかで無垢な瞳は、一点の曇りもなくコリンを見つめている。

「暴論でも何でも……私は信じます」
 そう断言したソーダの瞳は、決してコリンから眼を逸らすことなく、揺れることすらしなかった。
「あらら、……よくわからないけれど、暴論でも何でもいいから私も付き合うわよ」
「えーと、なんだかもう決まっちゃった雰囲気なので、フレイムのリーダーとして宣言します。コリンさんに協力しますよ……誠心誠意」
 男二人は少々あっけに取られた様子だが、しかし心が温かくなるのを感じて苦笑し合う。炎タイプの女性を背もたれに、サンドイッチする草タイプは苦笑するという構図。
 客観的にみればさぞ滑稽だろうなと、何故か冷静な頭でコリンはひたすら苦笑していた。

 ◇

「と、いうわけさ。だいぶ抜け落ちてるとこもあると思うけれど……」
「で、私達説得に失敗した上に記憶まで消されちゃったわけですか……」
 シオネが肩を落とす。
「情けないわね……私達。リベンジしたほうがいいのかしら?」
 シオネとソルトが言うが、コリンは首を振ってやめたほうがいいと肩をすくめる。
「奴ら、今はもう三人全員がそろっているはずだ。しかも、古い文献によれば三人そろうとゴッドブラストとかいうとんでもない技を使えるっていう話で、そうでなくとも一回でもあの湖の精霊に接触した状態でリベンジなんて危険すぎるからやめたほうがいい……一人でいるところを不意打ちで気絶させて、拷問にかけて説得するぐらの気概がないとな」
 だが、そんなの無理だろ? とばかりコリンは言う。
「じゃ、じゃあどうすれば……」
 どうすればいいかわからないソーダだがしかし、彼女はやる気満々のようで、燃える鬣を揺らめかせながら黒曜石の瞳でまっすぐにコリンを見つめる。

244:借りていく 


「そうだな……まずは情報を引っ提げてチャームズに頼れ。しばらくはグリーンレイクシティにいると言っていたし、奴らがいつも宿泊しているなじみの宿があるそうだから、そこに尋ねていけば落ち合えるだろう。えっと、確か宿の名前は……滞在の宿、『わらぶき』だったっけか」
「チャームズ……って、あ……」
「どうした?」
「いや、確かチャームズのリーダーにコリンさんの居場所を聞かれたような、そんな記憶があって……記憶を消された後もこの街に待機していたら、MADの三人組と出会いましたし……コリンさんは色々有名人ですね」
 と、シオネが言う。美人ともっぱらの噂であるチャームズと会った記憶は、男である彼が一番強いのであろうか。
「なんだ、チャームズとは知り合いか?」
「知り合いのような……気がします。けれど、その……」
 コリンが尋ねても、答えるソーダの回答はあいまいなもの。仕方ないと言えばそうなのだが、何とも煮え切らない回答である。
「ともかく、知り合いなら話が早いじゃないか」
 ソーダの言葉にコリンは笑んで返す。
「それで、チャームズは記憶が消えてしまっているみたいだからともかく、MADは何て言っていた? 確か、有名な盗賊団だろう?」
「なんでも、チャームズから色々聞いて、この町の町長の家を訪ねて来たそうで、コリンさんがいるかどうかを訪ねてきたのですが……『ここで待っていれば来るような気がする……』って私たちが言ったので、彼女らもしばらく待ってはいたのですが、コリンさんが五つ目の歯車の奪取に失敗したのを聞いて、痺れを切らしてトレジャータウンに向かってしまいました……有名な盗賊団ですが、なんだかコリンさんの事は、その……コリンさんと話をしてみたい風でしたよ」
「そうか……、味方なのか敵なのか……」
「敵か味方かは決めかねているようでした。私達も記憶がしっかりとしていれば味方に誘導することも出来たのですが……」
「気にすんな」
 申し訳なさそうに顔を伏せるフレイムを見て、コリンは仕方ないさと笑う。
「ユクシーがまさか記憶を消しにかかるなんて思っていなかった。そうだろ? 仕方がないさ、俺だって気をつけろっていうのを忘れていたからな……」
 まだ納得のいかなそうな。すまなそうな顔をしている三人を笑い飛ばしてコリンは続ける。

「しかしなんだ? ソーダのやつは随分と記憶力がいいな」
今のところ、一番正確に記憶が残っているのはソーダのようで、記憶の糸を探るような話になったときは真っ先に彼女が反応している。
「そういえば、私達よりも多くの事を覚えておりますね」
「俺のことを毎日想い続けていたからじゃないのか?」
 肩をすくめてコリンは笑う。前に立っていたソーダの鬣が激しく燃え上がった。
「おー、ソーダってばやるねぇ。愛の力かぁ」
「というか、コリンさんも真顔でそんな事を言えるなんてなかなか大胆ですねぇ……」
 ソルトが囃し立ててシオネは苦笑する。ソーダはまだまだ触れれば火傷しそうなほど熱かった。

「ソーダ、いい機会だ。二人で話そう……お前は告白した事実は忘れてても、気持ちまでは忘れていないはずだから……あの、ソルトさん、シオネさん。ちょっとソーダを借りてきます」
「どうぞどうぞ。可愛がってやっちゃって!!」
「んーと……ソーダさん。がんばってください」
 ソルトとシオネの了解を取り付けて、コリンはソーダの首を撫でる。
「だってさ、行こう」
「え、えと……その……ありがとうございます」
「お前、あの時もクソ熱いってのにそうやって燃えていたよな」
 照れたまままともに目を合わせることもできないソーダの事を笑いながらコリンは外に手招きをする。ソーダは仲間のほうをちらちらと見やりながら、どうすればいいのかわからないといった目で仲間に助けを求めるが、ソルトもシオネも微笑んで見守るだけ。がんばってきなさいよ、と無言の圧力をかけるのみだ。

245:魅力 


 二人きりになったソーダは、オドオドとあたりを見回して、実に不安げだ。
「あ、あの……私、どんなふうに告白したのでしょうか?」
 商店街のはずれにある木立の中に座り込み、二人は木漏れ日の下で肩を寄せ合う。
「まぁ、さっきの例のお話をし終えた後、俺らは朝が来るまで話し合ったわけだ……ソルトはバクーダだし、お前はポニータ。まぁ、炎タイプだから暑さには強いけれど……俺とシオネはさすがにあの暑さで参っちまって、朝になったら日陰のテントで眠ったんだ。
 目覚めたら、あたりはすっかり夜になっていた。でも、朝は離れて眠っていたはずのお前がなぜか傍にいたから寒くなくってな……気持ちよく眠れていたよ」
 コリンは控えめに思い出し笑いをして続ける。
「お前は『寒そうだったからつい……』なんて言いながら添い寝してきたわけ。あの時も笑っちまったな……『熱でもあるんじゃないか?』ってさ。それで、お前は俺を外に誘い出して……」
 ふぅ、とコリンはため息をつく。
「岩陰に腰掛けて星を見ながら、お前は俺に恋心を告げた。俺がお前の危ないところを助けたり、お前を美人に描いたりしたのが気に入ったんだと」
「そ、そんな簡単な言葉で片付けたわけじゃないですよね?」
「もちろん、いろいろ飾り立てていたさ。それだけじゃなく、照れた顔、うるんだ瞳で俺を見て……なんだか微妙な雰囲気になるのを恐れていたよ」
「それで、答えは……」
 おどおどとしながらソーダは尋ねる。
「さっき言ったとおりだよ。OKだ……その時の俺は、『考えさせてくれ』って言ったんだけれどさ……考えた結果が、OKってこと」
「コリンさん、悩んでたんですね……私の居ないところで」
「お前は、俺の返事を聞きたくてドキドキしていると思ったんだけれどな。それはちょっとショックだったかも。お前の喜ぶ顔……すごく見たかったし・・・・・」
「す、すみません……」
「気にするな。仕方のないことさ」
 コリンは申し訳なくて顔を伏せるソーダの首筋を撫でる。
「俺が答えに悩んだ理由はね……俺には昔、パートナーがいたんだ……」
「はい」
「でも、この過去の世界に来る時の事故で、そいつとは離れ離れになってしまった……大事な大事な奴でね、恋仲だったよ」
「あの似顔絵の人……でしょうか? 確か、クレアさん……」
 話の腰を折って問いかけたソーダに、コリンはあぁと頷く。
「そうだ。本名は、紫電=光矢院……きっと、俺たちの敵である時の守り人に殺されたか、事故でそのままの野垂死んだのか……お前らが楽しんできた手繋ぎ祭り……あれに一緒に行ってみたかった女だよ」
「砂漠で私の告白を聞いたときは……その女性をあきらめきれなかったのですか?」
「まぁな……だから、ソーダ。俺がお前を選ぶのは、妥協ってことになる……そして、お前はそれでいいといったんだ」
「私は……妥協、なんですか」
「まぁな。でも、『失った物は美化されるものです!! もう二度と会えないからこそ、思い出を美しいままにしておきたくなるから!! でも、その思い出に縋り付くだけじゃなくって、傍にある大切な者に気付いてください!!』って、熱弁したのもお前だよ。ソーダ」
 コリンはソーダに寄り添い首を抱く。
「少し、その言葉で反省したんだ。いつまでも、過去にしがみついちゃいけないってさ……だから、ソーダ。俺が消えてしまうまでの間だけでいい……俺を生涯愛しちゃくれないか? 俺も、一生かけてお前を愛するから」
 耳元で甘く囁くコリンの頬が、ソーダの首とこすれあう。
「あ、あの……私……たった数日しかあなたと過ごしていないのですけれど、それでもいいのですか?」
「その数日の間に、いろんな話をしたし俺もお前も助け合ったじゃないか……寒くて震えている俺をお前は温めてくれたし、町長の家に帰れば俺に会えるということを覚えていたのもお前だ。
 記憶を消されてなお、それだけ俺を想っていてくれたってことも素直に嬉しいし、何より……過去の世界に来てみて、色々なことをやったが……」 
 思わせぶりに言葉を切ってコリンは深呼吸を始める。次の言葉を不安げに見つめる黒曜石の瞳へ微笑みかけ、おもむろに腕の葉で目隠しをする。
「恋だけは過去の世界じゃしていなかったんだ」
 言うなり、コリンはソーダの口にキスをした。
「人前で出来るのはこれくらいまでだな……この世界じゃ」
 目隠しをやめてコリンは微笑む。
「未来の世界じゃ、その辺の茂みとかで公開セックスなんて日常茶飯事だったんだけれどな。そういう節操を覚えたのも、過去の世界に来てからだよ」
「未来世界ってとんでもない場所だったんですね……」
「あぁ……未来の世界がなりふり構っていられないのは話したけれど、まだ色々話していないこともたくさんあるぞ。お前が忘れちまったと思うお話もたくさんあるからな、長くなっちまうだろうけれどさ……」
 昔のことを語るコリンはどこか嬉しそうに顔をほころばせている。
「実はな、俺がさっき言っていた女なんだが……そいつ、なんと俺よりも十六歳も年上っていうな……」
「えぇ!? 男の人って若い人の方が好みじゃないんですか?」
「いや、それはソーダの言う通りなんだけれどさ……なんていうのかなー。そりゃ、若い女のほうが好きだけれど……あの女は誰よりも強くって、だから魅力的だったんだ……強いってのは魅力的なもんだよ……その強さで護ってくれるんならとくにさ」
「護って、くれたのですか……コリンさんを護るって相当ですね」
「馬鹿言うな。俺だって昔は弱かったさ……だからまぁ、なんだ。母親に死なれて行き倒れ寸前だった俺を助けてくれたんだよ、そいつは。助けは求めたけれどさ……本当に助けてくれるなんて正直思っていなかった……別の世界から来たくらい優しい女で、本当に別の世界から来た女で、それでとっても物知りで……セックスの仕方を教えてくれたのもシデン。
 朝日の美しさを俺に語ってくれたのもシデン、桜の美しさを語ってくれたのもシデン……俺が過去の世界にあこがれるようになったのは、シデンがいてくれたからなんだ……これで、あいつに惚れないほうが可笑しいくらいだよ」
 シデンを語る時のコリンの表情は誇らしげ。同じ女として嫉妬しないわけにはいかないソーダだが、そんなことを表に出せるはずもない。むくれたい衝動を必死に押さえつけるソーダをよそに、コリンは話を続ける。
「シデンの魅力はこれで終わり……俺が、お前に魅力を感じたのはね」
 そうして出たのは、思わせぶりなセリフであった。え、とソーダは顔を上げる。

246:お前の魅力 


「俺を真剣に好きになってくれること。シデンは俺のことを好きだったけれど、どれくらいかって聞かれたら……まぁ、それなりなんだ、それなり。でもね、俺はシデンンに甘えて甘えて、好きで好きで仕方なくって……だからシデンは俺を好きになってくれていたんじゃないかな。
 必要とされているって嬉しいものでね、シデンは俺に必要とされることがきっと嬉しかったんだと思う。母親のような、そんな気分で俺を愛してくれたんだろうと思う……」
「じゃあ、コリンさんにとって私は愛娘(まなむすめ)ってことですか……?」
 不満と不安をないまぜにして尋ねるソーダへ、コリンは抱きしめる力を強くして答える。
「違うよ。でも、正解は何かといわれると困るけれどね……あぁ、うん。でも、合っているところもあるのかもしれないし……正直なところよくわからないね。一緒にいて、なんだかいい気分になるって理屈じゃないし……」
「そうですか……」
「そうじゃないか。まぁ、神木を運搬してきたときのアレで、俺への恩義を感じているのはわかるけれど、それでもソルトもシオネも俺に対して特別好意を抱いている様子もないじゃないか? あぁ、お前には絵を描いてあげたのもあるっけ? それでも、俺が絵を描いて上げただけでソルトが俺に惚れる姿は想像できないがなぁ」
 そう言ってコリンは暖かいソーダの首に頬ずりし、毛並みを指で梳く感触を楽しむ。
「理屈で考えんなよ。幸せだろ? なら、それを楽しめばいいじゃないか」
「はい……」
 二人は再びより添った。涼しい風がざわざわと頬を撫で、木漏れ日が時折目をくらませる。ゆったりとした息遣いで、その目はどこを見るでもなく、その耳は何を聞くでもなく。互いに触れある部位と部位、それにかかる負荷が息遣いとともに千変万化するのを感じて、二人は近くて遠い商店街の喧騒を見送ってゆく。

(死期は近いな……成功しても、失敗しても)
 ソーダと隣り合いながらそれを感じて、コリンの目から涙が零れ落ちる。
「なあ、ソーダ。俺は死にたくない……けれど、きっと死んでしまうだろう」
「例の、タイムパラドックスですか?」
 ああ、とコリンは頷く。
「でも、この美しい世界をこのままにしておきたい」
「私も……あなたと一緒にこの世界で生きていたいです」
 コリンの意見に同意して、ソーダは言う。
「でもさ、なんていうのかなぁ。俺が死んでも、それだけで終わったら本当に悲しいし寂しいけれど……ソーダ。俺の事、ずっと覚えていてくれるかな? そうしてくれるなら……このまま消えても悔いはないって思えるんだ」
「それくらいならお安いご用ですが……でもむしろ、私でいいんですか?」
「そりゃ、お前じゃなくってもいいぞ? むしろ、シオネやソルトにも覚えていてほしいさ……けれど第一に、お前に覚えて欲しいよ。お前が一番ってことでさ……というか、出来るだけ多くの人に覚えていて欲しいさ、そりゃ。
 でも、その一番がお前……だからお前にだけは特別に頼むんだ。お前には特に、強く覚えていてほしいから……」
 コリンは前に視線を向けたまま、一切恥じらうことなく告げる。
「そのために、チャームズの奴らから、告白の方法も教わったんだ……」
「告白の方法……ですか?」
「あぁ。チャームズ故郷のミステリージャングルにはな……草タイプのポケモンがたくさんいて、その中でも『草の誓い』って技を使えるやつらが勢ぞろいしているんだ……本来は、炎の誓いや水の誓いといった技と合わせて使うものなのだけれど……そう言った技を使えるものがない今、その技が使える者たちの間では、告白のための一種の儀式になっているんだ。こうやってな……」
 と、コリンは足を勢いよく踏み出す。途端、地面から伸びだすのは芝生のように鋭く、岩のように固い草の棘。触れただけで切り裂かれそうなそれは、一瞬で地面を拷問器具に変えたかと思えば、その中の一本がしゅるしゅるとコリンの手元に伸びて、花を咲かす。
 ソーダの燃える鬣のような、美しい橙色の花。コリンがそれを手に取り、ソーダの目の前に持ってくると、それは甘い匂いを残して光となって消えた。

「男が告白するときは、こんな方法が流行っているんだってさ……お前に応えるためだけに覚えた技なんだけれど……本当は、相手の手の平か口の中にまで持って行って、そこで溶かすように香りを味わってもらうのが正しいやり方なんだけれどね……
 まだ、練習時間が足りなくって不完全な技だけれど、俺の気持ち、受け取ってくれるかな?」
「ありがとうございます……えと、その……花の見た目も、匂いも……すごく、綺麗でした」
 感無量のソーダは、ぐしゃぐしゃになった顔を見られないように目を瞑って変な顔にならないよう、歯を食いしばる。
「俺からも、『ありがとう』だな……」
 照れながら言ったコリンは、目をそらしながらソーダの顔に手を触れる。そのまま、手を添えるだけの最小限の力でソーダに木の影に隠れるよう指示すると、コリンはそこでそっと口を寄せる。コリン自身草タイプであるせいか、草食であるソーダの嗅覚には、コリンの匂いは甘美な香り。ゆったりと口を寄せられると、その顔を食べてしまいたくなるような草の匂いが。
 ゆっくりと二人の唇が触れ合う、重なり合う。ソーダは彼自身から漂う甘美な草の匂いを、コリンはソーダの食事によって出来た複雑な草の匂いを。それぞれ感じあいまずは触角と嗅覚で。目を閉じ、視覚を封じることで敏感になったほかの感覚を総動員する。
 コリンは長い舌を相手の口の中に侵入させる。唇と歯茎の間、歯列を撫ぜるようにのたうつ舌は、官能的にソーダの顎を弛緩させる。緩んだ顎からコリンはソーダの舌を探り当て、ざらついた舌触りを楽しんだ。
 そうして、ソーダの唾液を掬い取るように舌を丸めて自身の口の中に舌を収納する。その際にも、上顎をくすぐるようにゆったりと引き抜いて、ゆっくりと鼻息を吹かしながらそっと口を離す。

247:刻み付けたい 


「なぁ、ソーダ……お前に、もっと俺を刻み付けたい」
 両手で彼女の頬を撫でながら、コリンは甘い言葉でソーダを誘う。
「えぇ、喜んで」
 あどけない少女をエスコートする王子様のように、コリンは挙動の一切にキザったらしい笑みを添えた。
 童話のヒロイン気分に酔いしれたソーダは、四歳は年上と思われるコリンの誘いに乗るがまま、彼の後をついてゆく。
 コリンは街では比較的条件の良い宿をとり、二人分の代金を払って宿泊を取り付ける。渡された部屋のカギを手にしたコリンに密室まで連れ込まれると、なんだか今のこの状況がまるで夢のように感じてしまう。
 こんなところに自分がいるわけないのになんて、困惑気味ながらも今の状況を受け入れようとするソーダは、肩をこわばらせて萎縮している。
「……なぁ、ソーダ。お前、処女か?」
 対するコリンはリラックスしており、ベッドのふちに座りながら
「え、えぇ……」
 今更な質問に、ソーダは恥じらいながら答える。
「で、でも……やり方はソルトから教わっています。あっちは、旅の途中に何度か経験があるらしくって……」
「ふふ、グラードン信仰のくせに、好き勝手やっていやがる」
 コリンは笑う。
「で、ですよねぇ……本来ならグラードン信仰以外の異性とは話しちゃいけないくらいなのに……なのに、ソルトさんは積極的で人付き合いもうまいので……色々、経験豊富なんですよね。彼女、行商歴が生まれた時かららしいので二十二年ですし……フレイムでの活動も含めても含めて24年。私みたいに勉強や祭事ばっかりで人と付き合えなかったのとは大違いですよ……」
 ちょっと、うらやましいと呟いてソーダは微笑む。
「お前は……経験のない自分じゃ、ダメだとでも思っているのか?」
「い、いえ……ちょっと怖くって……その、痛いんじゃないかとかそんな風に考えると……緊張します」
「まあ、そこは何とかうまくやってみる……一応、未来世界じゃ経験豊富だからさ。木の実一個のためにでも体を売るような世界だからな……俺、強かったから」
 だから安心しろよとばかりにコリンは笑いかけた。
「えー……コリンさんは初めてじゃないのか……ちょっと残念だな。というか、酷い世界ですね……」
「酷い世界さ……だから数はこなせたよ。でもその分ありがたみもなかったもんでな、ソーダは質で楽しませてくれればいいさ」
 気持ちよさそうに息を吐き出し、コリンはベッドに上半身を預ける。
「な?」
 天井を見上げながらコリンは問いかける。
「えぇ、そうですね」
 ぴょんと跳ねてソーダはベッドに飛び乗り、足を折りたたんでベッドの上に座り込む。長い首は立てたままなので、コリンを見下ろす形でソーダは笑みを浮かべている。
「コリンさん、私の横まで移動してもらっていいですか?」
「こ、こうか?」
 ソーダに言われるがまま、コリンは仰向けのまま這って移動する。ベッドの中ほどまで移動してみると、見上げたソーダの黒曜石の瞳はゆらゆらと舐めるようにコリンの体の全体を見回している。
「いつみても、魅力的な体をしていますよね」
 太い骨に、嫌味にならない程度の肉が付いた逞しい肢体。鱗に覆われたコリンの体は、良質な油で磨かれたようにつややかで健康的で。
「まぁ、強盗なんてもんは体が資本だから……改めて言われるとちょっと照れるな……」
「恥ずかしがることないですよ……むしろ、誇っていいと思いますよ」
 ごくりと息をのんで、ソーダは続ける。
「今度はこっちから……キスしてもいいでしょうか?」
「むしろ、お願いしたいくらいだよ」
「……はい!!」
 コリンに言われて、満面の笑みを浮かべてソーダは頷く。
 先ほど外でしたときは、濃厚だけれど上品さを残したキスであったが、今度は外の目も気にする必要はないと、草を食む時のように豪快にコリンの口を覆う。
 喰われるんじゃないかと思うくらい豪快に開けられた口は、臼歯が唾液で糸を引いている。
 ソーダのそれは口づけ、ではあってもキスではなかった。本当に顔へ噛みつかれて、コリンはひどく戸惑った。もちろんソーダはコリンの顔をすりつぶすつもりなんてなく、その臼歯は優しくコリンの顔を撫でるだけ。
 確かな摩擦を感じさせながらソーダは噛みついた顎を引き抜いた。コリンが彼女の前に指を差し出すと、ソーダはそれも咥えて口の中でもごもごと味わう。
 そうして始まった指しゃぶりはまるで赤ん坊のよう。今度は指が相手であるからか、先ほどよりも強めの力で激しめに。そのまま、コリンの動きに合わせて彼女は手首、肘近くの腕の葉っぱと咥え、特に腕の近くの葉はいとおしそうに舐めあげた。
 そうして一通り腕へのキスという風変りな愛撫を終えたところで、ご褒美とばかりにコリンはキスを返して、二人はお互いの体を味わい合った。

248:リードするから 


「コリンさん……えっと、次は私、どうすればいいでしょうか?」
 そうして行動が途切れてしまったソーダは気まずくなって尋ねてしまう。
「お前が何をすればいいのかわからなくって不安なら……俺に任せてみてもいいけれどな……まぁ、慣れるまではどうだっていいさ。俺がリードする」
「え、えっと……じゃあ、お願いします。あの、私ができることがあったら何でも……」
 目を泳がせながらソーダはコリンに頼む。
「別に、無理しなくってもいいさ。リラックスしてさ……もっと、もっと、楽になればいい。でも、俺がすることはよく覚えていてほしいかな……」
「は、はい……」
「よし、じゃあ……まずは俺の手に逆らわないでくれ」
 コリンはベッドの上で膝立ちになり、ソーダの体を横から押す。
「え、えっと……はい」
 その手の動きに逆らわないよう、素直にソーダは押し倒されてベッドに横たわる。横向きになったソーダは、視線を動かしてコリンの動きを追う。コリンはまず、ソーダの肋骨のあたりを撫ぜる。普段から触れられ慣れていないそこから始まって、わきの下から、くびれた腹へ。腹に実った小さな乳房をいじる際は、乳首を二本の指で軽く押しつぶしたり、つまんでいじってみたり。
 痛みを感じない程度の力加減で、どんどん普段触れられない場所へと手をスライドさせられるたびに感じるのは、官能的な緊張感。くすぐったさの中に確かな快感と、もっとやってほしいという高揚感が、にじみ出るように湧き上がる。
 コリンは赤ん坊のように(と言っても、彼は母乳は飲まないが)胸にしゃぶりつき、唇で歯を立てないようにつまんでは引き抜くように唇を滑らせる。湿った唇に撫でられ、つままれ、引っ張られる。コリンの一つの動作で三つの感触を同時に与えられて、こそばゆい快感と疼きが供給される。
 何回も何回もそうされているうちに疼きはあふれかえり、雌の大切な場所まで飛び火してソーダは後ろ脚をもじもじとこすり合わせる。自身の下半身の筋肉だけで無意識に自慰を行っているようなのだが、当然それだけで体の中まで刺激を与えられるほどソーダは器用ではない。
 その動作を見て、コリンは攻め方を変更する。

 まずは体の末端、耳を唇で挟み込んで、くすぐったさを呼び覚ます。その中に微かに感じる快感だけを拾えるようになるのは難しい。難しいが、最初嫌がるように顔をそむけようとしていた彼女も、しばらくすると肩をこわばらせて湧き上がる性感を持て余している。
 コリンは調子に乗って、舌と上唇で彼女の耳を挟み込み、舌の先端は耳の中へ。徐々に甘い声まで混じるくらいに敏感になると、後ろ脚をこすり合わせるもじもじとした動作は先ほどよりもはっきりと行われていた。
 恥じらい交じりに、注意深く観察して動いていることがわかっていたさっきよりも、はるかにはっきりしたその動作は、見ればわかるというくらいわかりやすい。目を閉じて、恥じらいを封じ込めるソーダの表情は、下半身の動きに比例してガードを固くしているつもりらしい。
 ギュッと食い結んだ瞼と口が、その恥じらいをそのまま映しているようだが、コリンにとってはまだ心を開いてもらえていないようで、面白くない。コリンは耳垢を救い上げるように舌を収納すると、彼女の顎を持ち上げ、残った腕で目隠しをしてキスをする。
 瞼の上から眼球の動きを感じ、ソーダの瞼にこもる力を確かめる。確かめたら、指の腹で瞼を撫で、目を開けとばかりのマッサージ。腫物を触るような微妙な手つきで触れられていると、うっとうしいのか目を開けないわけにもいかず。
 ようやく目を開けてみれば、すぐ近くにコリンの顔。
「おはようございます、プリンセス」
「……んもぅ」
 からかわれて、しかもセリフは歯の浮くような恥ずかしいもの。コリンは気分が乗っているせいか恥ずかしさなんてどこ吹く風で、聞いているソーダが恥ずかしくなる始末。それでも、彼の声掛けを無視するわけにはいかず、顔をそらして斜めの顔を晒しながらも、小さい声で『おはよ』と。
「まだ緊張しているのか、お前?」
「そ、そりゃあ……」
「大丈夫。お前は美しい……綺麗な足の筋肉も、くびれた腹も、つややかな毛並みも。舞姫として鍛えたせいかな、このままでも芸術品だよ……お前、そんなんだから結構いろんな男にいやらしい目で見られていると思うぜ?」
「ちょ、コリンさん」
 ソーダは顔から火を出した。ベッドが燃えるようなことこそしないが、そのまま続けていると茶色く変色してしまいそうな程度には火力も強い。暖かくなるのはいいのだが、止めなければまずいとソーダは炎を止める。
「変なこと言わないでくださいよぉ……」
「いやらしい目で見られるお前が、さらに衆目観衆の中で踊るんだぜ? そりゃもう、多くの男が魅了されるもんじゃないか……そんな風にな振舞っていて、今更俺一人に見られるのが恥ずかしいだなんて、変だと思わないか?」
「り、理屈じゃないんです……」
「大丈夫。相当の傲慢な女でもなければ、確かに『私の体を見ろ』だなんて自信満々な態度はとれないだろうけれどさ……お前、俺があんまり描かない人物画を進んで描かせただけの美貌とダンスの腕があるんだ。
 もっと、緊張なんてほぐして楽になれよ……楽しめないぞ?」
「うぅ……」
 恥ずかしいことを言われてさらに照れてしまったソーダは、むくれたいけれどコリンを思うとむくれることも出来やしない。
「あの、もう一回キスしてください」
 ならばもう、陶酔してしまえば恥じらいも感じないと、ソーダは吹っ切れてコリンに懇願した。
「仰せの通りに」
 四の五の言わず、一も二もなくコリンは答える。そうして口づけを交わすと、今度は普通の口付けだ。普通とは言っても、それは最初の印象だけで、徐々に絡み合う舌が触手のようにうねり回る。積極的に舌を絡めて、コリンの草の味がする唾液を美味しそうにソーダが飲む。コリンは自分の唾液がソーダの唾液に浸食されて、むせかえるでもなく味わい、ありがたがって嚥下する。

249:熱い時間 


 頑張ったソーダはこの口付けで上手いこと陶酔し、スイッチが入る。炎タイプだというのに熱に浮かされた目は。今にも蕩けてしまいそうに潤んでいた。
「コリンさん……その、さっきからずっと疼いちゃって」
 ソーダの視線は自身の下半身へ向かっており、確実にコリンを誘っている。ころあいと判断したコリンはそっと股座へと手を伸ばし、足と足の間から手を伸ばして割れ目に触れる。かき分ける途中、擦れる太ももの感覚で湧き上がる期待、割れ目にぴとんと触れられるだけであふれる期待。
 ソーダが息をのむと、コリンは割れ目の中に指をやさしく突っ込んだ。始める前の緊張はひどいものであったが、それ単体でも十分ありがたいコリンの愛撫はいい具合にソーダを興奮させており、確かに濡れていることを感じさせる彼女の割れ目は指の先端を抵抗なく飲み込んだ。
 まだ、奥に入れようとすると拒もうとするし、そちらは時間をかけないとダメだということはよくわかるのだが、心の方はすでにして出来上がっているようだ。
「大丈夫?」
「え、あ……はい。ちょっと、あんまり見られたことないから恥ずかしいですけれど……」
「俺に対して見られるのがか?」
「いや、その……」
「確かに、見られるのも慣れていないだろうからな……でもまぁ、なんだ。ほかの誰に対して恥ずかしがってもいいから、せめて俺だけにでも……」
 コリン自身が口に出すのは恥ずかしいのか、途中で言葉を切ったコリンの要望にソーダはこくんと頷く。
「ありがとう……」
 そう言って、コリンは再び指を動かす。釘を打ち込むように、徐々に徐々に彼女の深いところへ。初めての彼女を労わるように、彼女の表情を逐一確認して、痛そうな顔をしていないかに気を付けながら。
 しかし、ポニータと言えば雄はなかなかの巨根である。彼女の中もそれに応じられるよう頑丈になっているらしく、コリンが調子に乗って激しく動かし始めても、とろけたような瞳で中空を見つめて甘い吐息を漏らすだけ。

「シデンと比べると……感じやすいんだな、お前」
 かつては喰われるもの、狩られるものという立場であったせいかもしれないが、彼女の体は本番を手早く済ませられるようにできているようである。そのためなのか、非常に感じやすい。
「も、もう……今は昔の女性を忘れて私だけを見ていてくださいよ……」
「すまね……でも、褒めているんだぜ? 初めてにしては、楽しめているようで何よりだし……」
 コリンは長い舌で彼女の腹をぺろりと一舐めすると、顔を離して彼女の背中に回る。寝転がった彼女の背中から、ベッドと体の隙間に腕を突っ込んで彼女の首を抱きしめ、彼女の熱くない炎に包まれる至福を味わう。
「すごくいい匂いだね……食べている草の匂いもそうだけれど、若い女の子の匂いだ……味わっていて飽きない」
 彼女の首から伝わってくる脈動を感じながら、コリンは甘く囁く。
「それを言うならコリンさんもですよ……あなたの腕の葉っぱ……思わず食べてしまいたくなるくらい……」
「嬉しいね……でも本当に食わないでくれよ?」
 コリンのあるかないかの呼吸が首筋にあたっている。これがコリンの温かみなんだと思うと、たとえ体温が自分よりもはるかに低い彼の吐息でも高揚する。くすぐりよりもずっと弱い息による愛撫でさえも、ソーダにとっては媚薬のように全身を駆け巡る刺激の一つ。
 お互いに会話が止まったかと思えば、コリンはそろりと首から離れて、首筋からなぞる様に肩、わき腹、もも、と、三歩進んで二歩下がるように焦らしながら手をスライドさせ、再び割れ目に触れられる。今度はコリンが膝立ちで後ろまで移動しているため、大切な場所が丸見えになっているという状態だ。
 小休止を挟む間に、もう少し激しくやっても大丈夫なんじゃないかと思い始めたコリンは、淫靡な音を立てるのも気にせずに指を激しめに動かす。万が一にも相手を傷つけないように爪はしまい、左手で二本の指を突っ込みつつ利き手の右は内またもや腹の上を滑らせる。さすられるたびに湧き上がる疼きも、今はコリンの太い指がその疼きを掻き乱し、満たしてくれる。
「あっ……コリン」
「どうした?」
「いや……もうダメ……」
 ハッハと荒い息をついて いつしか、限界を超えた彼女の体はコリンの指を咥えこんで、痙攣しては締め付ける。コリンは指だけで達してしまったのかと、ぎゅうぎゅうに締め付ける彼女の胎内の動きで理解した。理解して思うのは、未来世界とのセックス事情の違いである。
 コリンとて草食のポケモンの相手は一度や二度じゃないが、彼女ほど敏感な者はいなかった。恐らくは気分の問題なのだろうが、相応の気分になってくれるというのは、つまりそういうこと。

「それだけ、愛されているってことなのかな」
「な、何……?」
 うつろな目をしてソーダが尋ねるので、コリンは四つん這いになって移動し、笑って口づけする。
「お前が楽しんでくれていて嬉しいってね……思ったのさ」
 もう一度口付けて、コリンは笑う。
「俺も気持ちよくなっていいか?」
 答えを聞く前にもう一度キスをして、ソーダの顔を見つめる。
「もちろん……というか、なってください」
 まだ荒い息のまま、ソーダは嬉しいことを言ってくれる。蜂蜜のように甘くとろけた彼女の表情は、コリンを歓喜させるとともにその気にさせる。
「ありがとう、ソーダ」
 最後にもう一度キスをして、コリンはソーダを抱きかかえる。自分よりもはるかに体重が重い相手だというのに、それはもう軽々と小脇に抱えて、ひょいとばかりにベッドのふちまでソーダを運んでおろした。

250:どんなところが嫌い? 


 体格としてはコリンの方が小さく、体型も大きく違うがためにコリンも普通のセックスは出来ない。そこでコリンはソーダを座らせたまま、ベッドの高低差を利用して彼女を犯すための位置を調整する。
 首を立てるように促されたソーダは不安と期待をないまぜにコリンの方を見て、熱っぽく舌を出している。コリンはその視線を感じながら、彼女の背中、彼女の腰へ頬ずりをする。伸ばした手は横腹を撫でつつ、徐々に後ろへと下がってコリンが立ち上がると二人の視線が交差する。
「安心して。痛かったら言ってくれればいい」
 これまで、相当彼女の淫靡な姿を見せつけられて、少しくらいは興奮してもいいものだが、コリンの下は少々顔を覗かせたくらい。久しぶりの生の女性とはいえ、未来世界で何人もの女性を抱いた彼は、直接的な刺激なしにはあまりいきり立つこともない。
「いくよ?」
「うん……」
 ソーダに了解をとると、コリンは僅かに顔を覗かせたそれをソーダの割れ目にこすり付ける。下半身のそれでは指とは本質的に変わらないどころか、細かな動きができない分指に劣る感触しか与えられないが、気分の高揚というものは本当に快感へのスパイスとして重要なもので。
 コリンの生殖器がふれていると思うだけで、大した刺激でも無かろうにソーダは体を大きく跳ね上げった。その反応を楽しみながら、コリンは膝を揺らして前後ではなく上下に擦り始め、まずは十分な大きさになるまで自身の収納された生殖器を肉棒と言えるまでに準備する。
 ようやく以って硬さと大きさを帯び始めた肉棒を、コリンはソーダの中に収納する。ぴったりと吸い付く彼女の胎内はコリンの来訪を歓迎するようにもみくちゃにして、その包まれる感覚にコリンもまたぴくぴくと喜びをあらわにさせる。
 最初はゆっくりと前後運動を始めるが、そのうち肉棒が完全な姿をあらわにしても、ソーダは苦痛一つ漏らさない。それどころか、ポニータに比べて遥かに遅漏なジュプトル、コリンの攻めに何度も何度も絶頂まで導かれ、そこから降りようと思ってもロープで抓まれたようにコリンは絶頂からの解放を許してくれない。
 コリンが達するまで、ソーダは感じっぱなしで頭を真っ白に塗りつぶされるようだ。

 いやがるそぶりを見せることをしないソーダを見て、コリンはタガを外して自分に素直になり彼女を攻め立てた。絶頂のさなかにいる彼女の胎内は激しく痙攣し、コリンの肉棒を揉みしだく。緩急ををつけられるその刺激にコリンもそう長くは耐えられなかった。
「ソーダ……このまま、中に出しちゃって大丈夫か?」
「いまさら……」
 問いかけられた彼女は、いまさらそんなことを聞いてなんになるんだと言いたいのか、かろうじてそう答える。それを同意と受け取ったコリンはそのまま、駈け抜けた。最後に一回彼女に腰を打ち付けるとそのままコリンは出せるだけを彼女に流し込んだ。
 最後は随分自分勝手に攻めたつもりだが、それでも彼女は感じ続けていたようで、脈動する彼女の体はコリンの肉棒から精液を絞り出そうと必死である。残念ながら卵グループが違うために彼女が孕むことはありえないのだが、コリンの精を受け入れた彼女は幸福そうに口元を緩めていた。

 しばらく彼女の胎内を味わっていたコリンも、一物が萎えてくるとともにそろりと引き抜いて、あらかじめ固く絞って置いた布巾で彼女の体を丁寧に拭き始める。
「なんか、いろいろ無茶させちゃったなあ……」
「あんなに気持ちいいものなんですね……ずっと体から力が抜けなくって足が攣るかと思っちゃいました……」
「それは済まない……調子に乗りすぎた」
「いえいえ……疲れましたけれど、それに見合う対価はありましたし……その、済まないなんて言葉は聞きたくないです」
 前を向いたままであったソーダは、微笑んでコリンを見つめる。
「あなたが初めてで……本当に良かったって思いますよ」
「そう言ってくれて嬉しいな……ちょっと寂しいけれど……」
 コリンは目を閉じる。このまま、こいつと寄り添って生きてきたいという欲求を必死で噛み殺すように、頭を振ってコリンは前へと向き直る。
「健気な子だな、お前は」
「そ、そうですか……? それはその、ありがとうございます……」
「体はきれいだし、見た目もいいし、自分の身を守れるくらいには強いし……お前は無駄がない」
「あ、えっと……ありがとうございます」
「だからこそ、俺でいいのかっていう気分になっちゃうよ……お前は、きっと俺よりも長く生きるだろうから」
「あなたを愛した分、その別れはつらいでしょうね……でもいいんですよ」
 意外な言葉を口にするソーダの意味をあまり理解できず、コリンは黙ってそのまま聞き続ける。
「もちろん、貴方が大して好きじゃないからわかれるのがつらくないとかそういうことじゃないんです……あなたが私に覚えてもらえることで幸せなら、そうしてあげたいって……馬鹿な考えかもしれませんけれど、そう思うんです。あなたが好きで好きでたまらないから……」
 照れ隠しに笑ったその顔を見て、コリンはつられて笑う。
「なぁ、ソーダ……俺の悪いところ、言える?」
 ふと気になったコリンは、何の気なしにそんなことを聞く。

「ありますよ。集団生活をしていなかったせいか、コリンさんってあんまり私達と足並みが合わないんですよね。椅子が空いていると真っ先に座っちゃいますし、料理が届くと真っ先に食べ始めちゃいますし……それに、おしっこしようとしている時に心配してついてきたのは……色々とねぇ。ま、それは一回注意したら直りましたけれど……」
 恥ずかしそうにソーダは苦笑する。
「でも、そんなところは直せばいいですし、そんなせっかちなところも含めて……好きですよ。あと、コリンさんって強いけれど、結構戦い方が酷いですよね……女性には刺激が強いような……未来世界ではそれで普通なんでしょうけれど」
「なんだ、言えないかと思った……すまないな。悪いところがあって……」
 彼女が盲目的に自分に恋をしているんじゃないかと思っていたコリンだが、意外なことに彼女は盲目ではなく、コリンの悪いところもきちんと見ている、それでもまだ、表面的なことに見えてならないが、この子ならば自分のことを真剣に愛してくれる。そう思うと少し心が晴れた気がした。
「何倍も、いいところを言えますよ。だから謝らないで下さいよ……コリンさん」
「そう……だな」
 コリンは晴れた気分で深呼吸をする。まだ部屋に漂う匂いが先ほどまでの行為を思い出させ、自分は彼女と交わったのだと実感させる。
「俺も、お前の悪いところは言えるけれど……でも、今はお前の素敵なところだけを見ておきたいな。……愛してるよ」
「私も」
 体を拭くのを中断して、二人は互いに口付け合う。舌同士をからめ合わせた長いキスは、二人の息が続くまで行われ、ソーダが音を上げたところで終了する。
 そうこうしているうちに水桶に溜めてあった水を使い、何度か布巾を綺麗にして体を拭き終えると、二人はようやく以って息をつく。ベッドに寝転んだコリンにソーダが軽く口を合わせるだけのキスをすると、体力を使い果たした二人は寄り添いながら目を閉じた。









次回へ


コメント 

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  • >2013-11-03 (日) 02:46:36
    大体はお察しの通りなのです。ダークライの件がなかったら、アグニを成長させるためにも消えたままにするのが神としての役割だったかと思います。
    シデンを復活させたのも、おそらくは苦渋の決断だったのでしょう。ソーダは……私ももうすこし救ってあげたい気持ちですw

    テオナナカトルは、その通りコリンたちの世界の未来ですね。すでにコリンたちの戦いは神話になっているようです
    ――リング 2013-11-22 (金) 00:37:02
  • ふむふむ、こうして読むともし原作のストーリーにダークライの話が無かったら、リングさんバージョンはシデンが復活しないまま終わってたのかなって思いますね。

    ソーダがちょっと可哀想でした。

    テオナナカトルって多分、コリンたちの世界の未来の話ですよね?
    ―― 2013-11-03 (日) 02:46:36
  • >狼さん
    どうも、お読みいただきありがとうございました。
    『共に歩む未来』のお話では、もう一つの結末というか、私としてはこちらのほうがよかったという結末を書いて見ました。
    ディアルガのセリフから察するに、本当の未来はシデンが生き返らない方であったという推測が自分の中でありましたので……。
    こんな長い話ですが、読んでいただきありがとうございました
    ――リング 2013-06-26 (水) 09:49:35
  • 時渡りの英雄読ませていただきました。私は探検隊(時)をプレイしたのでだいたいのことはわかるのですが時渡りの英雄ではゲームとは違ったおもしろさがありゲームではいまいちでていないところまで実際そんなストーリーがありそうな気がしたり(当たり前か)してとてもおもしろかったです。
    『ともに歩む未来』では[シデン]が蘇らないのかと思ったら[アグニ]の夢というおち、少しほっとしたり…。
    これからも頑張ってください。
    ―― ? 2013-06-17 (月) 21:31:32
  • 時渡りの英雄これから読んでいきたいと思っています。
    時渡りの英雄は10日ぐらいかかると思われます。
    読むのが楽しみです
    ―― ? 2013-05-25 (土) 02:02:01

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Last-modified: 2011-12-21 (水) 00:00:00
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