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学校のカイダン

/学校のカイダン

・流血描写はありませんが戦闘描写はややハードです
・初めてのルビ振りなので一部失敗してるかもです


written by 慧斗




「これが入団テスト前最後の模擬戦だ、始め!」

 試合開始の合図と共に素早く攻撃を仕掛ける。
 カイリキー相手ならスピードで確実に有利を取れる。そう、スピードだけは…
「いくら速くても所詮はへなちょこケルディオだな!」
 カイリキーの強靭な体には僕の攻撃なんてはねると同じ程度で、分厚い唇で笑った直後の大きな右腕の一撃は僕の体を校舎の壁に叩きつけた。

「ケルディオ場外につき戦闘不能、よって勝者カイリキー!」
 4つのコートで一番早い決着、カイリキーの勝ち誇った表情も濡れる視界には入らなかった…


学校のカイダン 



「大丈夫だったかい?明日のテストに響かないといいけど…」
 保健室に来てくれたニンフィアが心配してくれている。

「僕のを心配してくれるなんてニンフィアぐらいだな、ニンフィアこそ大丈夫なのか?」
「僕は誰かを傷つけるのは嫌いだけど、兄さんを探すためにも勝って入団しなきゃね」
「ってことは今日も勝ったんだ」
「…なんかごめん」
 気遣いはありがたいのに、負けたのが悔しくて嫌味になってしまう。
 僕たちの通う学校はただの学校じゃなくて、ダンジョンに潜ることを仕事とする調査団の団員を養成するための学校だ。
 でも通ったら全員団員になれる訳じゃなくて、入団テストとして生徒同士で戦い勝った方が入団できる。
 僕やニンフィア、カイリキーを含めて今回挑むのは8匹、その中でも「戦わずに勝てる」と言われる程僕は一番弱くて、せいぜい速さだけが取り柄というこの情けなさ。せめて力があれば…

「終わって来たが、大丈夫かケルディオ?」
「せめて泣き虫はどうにかしとけよ、恥かいても助けようがないぞ」
 続けて入ってきたのは友達のジャランゴとアローラキュウコン。
「二匹も勝ったんだね」
「当然だ、この左腕と右拳の鱗は誰にも砕けない」
「カイリキーと戦うなら仇は取ってやる、もし対戦相手なら手加減するさ」
 一番弱い僕とは対照的に、ジャランゴ、キュウコン、ニンフィアの既に調査団でも期待されている3匹だ。
 ジャランゴは左腕と右拳の鱗が強靭で攻めも守りも強力、キュウコンの凍気は炎も凍らせる程で、ニンフィアはリボンの防衛力が高くカウンターが得意と強さも圧倒的だ。

「怪我の具合は大丈夫ですか?ケルディオ」
「リオサ先生…」
 今入ってきた校長のリオサ先生はサーナイトだけど、何故かリオサと呼ばれている。
「来年もテストはあります、明日は無理しないでください」
 きつい言い方だけど僕を心配してくれてるらしい。でも諦めろって…
「それと審判をしてくれていたレントラーさんからの伝言です、『最後まで諦めるなよ』、では」
「どうも…」
 レントラーさんは調査団でも12匹しかいないゴールドランクの団員で、優しくて強い団員の鑑みたいな存在だ。そんな彼からメッセージなんて嬉しいけど正直プレッシャー…
「レントラーさん直々の応援だ、明日は頑張れよ」
「ケルディオなら大丈夫だよ」
「キュウコン、ニンフィア…」


「なぁ、こんな噂を知ってるか?」
 こんな僕を見捨てない存在を嬉しく思っていると、ジャランゴが話題を変える。
「この学校は屋上に続く大きな階段があるだろ?あれが深夜0時になるとものすごく長い階段になって、迷い込むと長い階段と宮殿の広がる空間に閉じ込められてしまうらしい」

「キュウコン、本当なの…?」
「いや、誰かの作り話だろうな」
「ほら、図書室にも【学校の怪談】って本があるし、ただの怪談じゃないかな」
「つまらないな、折角ケルディオが退屈しないように怖い話してやろうと思ったのに…」
「いや、結構怖かった…」
「そっか、ケルディオは怖い話苦手だったね」
「夜中に思い出さないようにな、俺たちは帰るから明日の昼までに治せよ」
「こっそり夜食も差し入れてやるさ」
「またねケルディオ、今夜は星が綺麗に見えそうだよ」
「ありがとう、また明日…」
 お見舞いに来てくれたみんなのおかげで楽しい時間を過ごすことができた。明日の入団テストは昼の1時からだけど少しでも休もう…


「所詮は力もないへなちょこケルディオだな!」
 カイリキーの右腕が大きく見えて…
「うわああああぁぁ!」
 寝汗ぐっしょりな悪い夢だった…

 夢にまで見なくたって僕自身が一番よく分かってる。火力もない、耐久もない、速さも活かせない、何もない僕が明日勝てるわけがない。
 そんな諦めモードの中、差し入れの木の実を食べてため息をつく。
 そういえば今日は星が綺麗だとニンフィアも言ってたっけ、眠れないし少し見に行こうかな…
 保健室を出て屋上に続く階段を上がって行く。窓から見える時計台は2本の針が重なろうとしている。
 屋上まであと少しのところで時計台の金が鳴り響く。1つの鐘に合わせて一段ずつ、最後の鐘に合わせて13段目を昇りきった。
「…13回?多くても12回だよな?」

 そんな小さな疑問を胸に屋上のドアを開けると、満天の星空と遠くに見える宮殿、そしてどこまでも続く長い長い階段が広がっていた。



「ケルディオ、ようやく来たのか」
「ケルディオも聖剣士(セイント)だ、流石にここまでは来れるだろ」
「良かった、リオサさんもケルディオを待ってるよ」
 長い階段の途中でジャランゴ、キュウコン、ニンフィアがいた。そして…
「リオサさん?校長先生が?」
「校長先生?私は知恵と戦術の女神ミネルバの現身です」
 大きな錫杖を持ったリオサ先生が立っていた。しかも中二病に感染して。

「どうしたんだケルディオ?俺たちはリオサさんを守る聖剣士(セイント)として、地上の平和を守るための力を取り戻すためにサンクチュアリ地方に来たリオサさんの護衛に来たんだぞ?」
「ちょっと寝ぼけてるんだろう、頭冷やしてやろうか?」
「ジャランゴ、キュウコン、一体何がどうなって…」

「リボンが反応している、敵が来るよ!」
 ニンフィアが叫ぶ方を見ると、空から大量の矢が降り注いで来る。
「早速敵襲か、面白い!」
 キュウコンは好戦的に呟くと氷を飛ばして矢を相殺していく。
「随分なご挨拶だな!」
 ジャランゴも右腕でアッパーを打ち上げると上昇気流が矢を吹き飛ばした。
「こんな矢で僕たちは倒せない!」
 ニンフィアはリボンを鞭のようにしならせて矢を弾いている。
 もちろん僕の方にも矢は飛んでくるし、さっき入ってきたドアもいつの間にかなくなっている。つまり、やるしかないってことだ。
 聖なる剣で飛んできた矢を切り落としていく。何がどうなってるか分からないけど今は明日の入団テストどころじゃない。

 拙い力で必死に矢を切り払うとようやく矢の雨は止んだ。
「ただの時間稼ぎらしい、行こう」
「急いだほうがいいね」
「ケルディオ、苦戦していたようだが具合悪いのか?」
「…大丈夫、だと思う」
 みんなが強すぎるだけだと言いたかったけど、返すのも疲れて大丈夫と返しておいた。

「みんな、リオサさんが!」
 慌てたニンフィアの声に振り返ると背後にいたリオサ先生が倒れている。その胸にはさっきのとは違う金色の矢が突き刺さっている。
「そんな、リオサさん…!」
「こんな矢、俺が引き抜いてやる!」
 ジャランゴは金色の矢を引き抜こうとしたが、矢は少しも動かない。


「フハハハハハハハハハハ!」
 突然空間全体に笑い声が響き渡る。

「どうして矢が抜けないんだ!」
「リオサさん、しっかりしてくれ!」
「目を開けてください!」
 多分僕以外相手にしてないけど、情報を聞くことも大事だと少し悩んでから決めた。

「誰だお前は!」
「よく来たな青銅(ブロンズ)のガキ共!我はミネルバの言葉を伝えこの地を治める教皇!」
「さっきの矢もお前なのか⁉」
「そうだ、そのお前たちが神と崇める偽物に放った黄金の矢もな!」
「偽物?リオサさんはお前が信じるミネルバの現身だぞ!」
 いつの間にか話を聞いていたらしく、キュウコンが反論する。
「そんな偶像に縋るから騙されるのがまだ分からないか!お前たちに教えてやる、そのサーナイトはまだ生きている」
「そんなバカな、リオサさんは呼吸も拍動もないんだ!」
「その矢は刺さってもすぐには死なず、12時間の仮死状態を経て最終的に死に至らしめる。そしてその矢は我にしか抜けぬ」
「じゃあリオサ先生はまだ死んでいないのか…」
「ああ、そしてやることも見えてきたようだな」

「話は簡単だ、そのサーナイトを助けたくば12時間以内にこの十二宮殿を突破し教皇の間に来い、そうすれば矢を抜いてやる。ただし、宮殿は黄金(ゴールド)ランクの聖剣士(セイント)に守らせている。突破してみせよ!」
「みんな、教皇の間に急ごう。時間もないからね」
 教皇の話を聞いてキュウコン、ジャランゴに続いてニンフィアも立ち上がる。

「あの砂時計は12時間分の砂が落ち始めている。砂が尽きればサーナイトの命はないと思え!」
 それだけ言い残して教皇の声は消えた。


「今から急いで教皇の間を目指そう、それしか道はない」
「長い階段と十二の宮殿、教皇の趣味に付き合ってやるか!」
「やるしかないみたいだね、行くよ!」
 キュウコン、ジャランゴ、ニンフィアはそれぞれ決心を固めたらしい。

「ケルディオ、不安ならここに残ってリオサさんを守ってもいいんだぞ」
 そして案の定僕はジャランゴに残ることを提案された。
「僕は…」
 状況も把握できてないし戦力にもならないような僕が行って何になる?足を引っ張るだけじゃないか?ジャランゴだって残ることを提案してくれてる。ここで残っても誰も僕を笑わないだろう。
 けれど、残ることを選んだら何かを二度と得られなくなって、もう二度と戻れなくなるような気がする。
 失うものがあるとは思えないし、得るものなんて何もないはずなのに、残ることを僕の心は嫌がっている。

「僕は、みんなと一緒に行くよ!」
「ケルディオ!?」
「無理しなくても大丈夫だよ?」
「確かに僕は弱いから足を引っ張るだろうけど、誰か一匹でも12時間以内に教皇の間に着けばいいんだから、僕にでもみんなの時間稼ぎぐらいできるはずだ」

「そう言ってくれるのは嬉しいが、簡単に自分を犠牲にするな」
「死ねば何もかも終わるからな、無茶はするなよ」
「でも、一緒に来てくれるなら僕たちは大歓迎だよ」
 そう言って、鱗の付いた腕と白い前足とピンクの前足が重なる。
「ありがとう、みんなで教皇の間に行こう!」
 僕も前足の蹄を重ねて、みんな一斉に高く掲げた。

 最初の宮殿を目指して長い長い階段を昇る4つの足音。星空はどこまでも綺麗に広がっている。


「本当に長い階段だな、リオサさんの眠っている場所があんな遠くに」
「そうだな、でも第一の宮はもうすぐだ」
「みんな、行こう!」

 第一の宮殿までの階段を昇りきると、宮殿には見慣れた顔のデンリュウがいた。
「デンリュウ団長⁉」
「知ってるのかケルディオ?」
「知ってるも何も、調査団の団長じゃないか!」
「はて、私は君とは初対面のはずですが…」
「そうなの?あまりにも似てるから…」
 どうやらポケ違いだったらしい。そりゃ他の3匹も気付かないわけだ…
 それにしてもジャランゴもキュウコンもニンフィアも、今のところ会ってる全員何か変なんだよな…

「知り合いにそっくりだったとはいえ間違えてごめんなさい…」
「構いませんよ、私も会ってみたいですね」
「それより、この宮を通してくれないだろうか?ミネルバの現身であるリオサさんの矢を抜くためにも教皇の間に急がなければならないのです」
「事は一刻を争う、どうか!」
「僕からもお願いします…!」
 ジャランゴたちはデンリュウに必死に懇願している。
 僕にとってはただの校長先生なのに、存在の重みがまるで違うらしい。一体数時間の間に何があったんだ?

「事情は分かりますし、あなた達の言葉も本当でしょう。よってあなた達を敵とみなす理由はありません」
「ありがとうございます、じゃあこれで…」
「待ちなさい、通すとは言っていません」
 僕たちが通り抜けようとするとデンリュウはそれを遮る。
「何故です?戦う理由はないと言ったはず…!」
「ええ、戦う理由はありませんが、黄金(ゴールド)ランクの聖剣士(セイント)は今のあなた達に勝てるような相手ではありません。この宮にとどまり万全の状態で臨みなさい」
「気持ちは嬉しいけれど、僕たちはどうすれば万全の状態になれるんです?」
「ああ、あまり時間を取りすぎて間に合わなければ元も子もない…」
 ニンフィアとキュウコンの不安に答えるようにデンリュウは金属の箱を取り出した。

「心配しなくても時間は取りません、これを渡して大事なことを教えるだけです」
 そう言ってデンリュウは僕たちに聖輪(リングル)のようなものを渡す。

 受け取って着けてみると何か大きな力に繋がったような感じがする。でもラピスを嵌める穴がないし、これは普通の聖輪(リングル)じゃないのかな?
「これは?」
聖剣士(セイント)聖輪(リングル)聖剣士(セイント)のみが身に着けることを許された聖輪(リングル)です。この聖輪(リングル)はあなた達の心の中に燃えるコスモパワーを増幅させます」
「コスモパワー?俺たちは覚えないはずだが…」
 僕たち共通の疑問を口にしたジャランゴにデンリュウは微笑んで答える。
「コスモパワーは宇宙の力を取り込んで使う技だと思われがちですが、全てのポケモンは心に宇宙の力を宿しています。しかし、それを引き出すことができるのは聖輪(リングル)を身に着けた聖剣士(セイント)のみです」

「つまり、これでコスモパワーを増幅させることが大事ということか?」
「その通り、しかし聖輪(リングル)を身に着けてコスモパワーを引き出すことができるようになってもを甘く考えてはいけません。黄金(ゴールド)ランクの聖剣士(セイント)は皆、黄金(ゴールド)聖輪(リングル)を身に着けているうえにコスモパワーを極めているからです」
 デンリュウは真面目な表情に戻ってきっぱりと告げた。
黄金(ゴールド)聖輪(リングル)、あるならそれを貸してもらえないだろうか⁉」
「キュウコン、残念ながら黄金(ゴールド)聖輪(リングル)黄金(ゴールド)ランクかつ聖輪(リングル)が認めた聖剣士(セイント)しか身に付けられないので、あなた達に渡せるのは青銅(ブロンズ)聖輪(リングル)なのです」
「そんな、ただでさえ黄金(ゴールド)ランクの聖剣士(セイント)は実力者なのにコスモパワーでも勝てないなんて…」
 ニンフィアの言う通りだ。実力でも勝てず、コスモパワーでも勝てないような相手にどうすれば…

「諦めることはありません。確かに黄金(ゴールド)青銅(ブロンズ)ではコスモパワーを引き出す力の差は歴然ですが、最終的にものを言うのはコスモパワーの量。つまりはより多くのコスモパワーを燃やし爆発させた方が勝るのです」
「そうか、それならまだ戦える」
「良かった、終わりじゃないんだね」
「ちょっと待ってよ、コスモパワーでみんな通じてるけど一体コスモパワーって何なんだよ⁉どうやって引き出したり爆発させればいいんだ⁉それに聖剣士(セイント)もよく分からないままだし」
 ずっと言えずにいた疑問をようやく言えた、でもみんなは「何言ってるんだ?」みたいな顔で僕を見ている。

聖剣士(セイント)はみんな知ってるはずですが、まぁいいでしょう。ケルディオ、君や友人たち、そして私たちも含め“女神ミネルバを守る戦士”が聖剣士(セイント)なのです。階級に青銅(ブロンズ)白銀(シルバー)黄金(ゴールド)の三つの階級があるのは分かると思いますが、あなた達は青銅(ブロンズ)、十二の宮を守るポケモンたちが黄金(ゴールド)。これはいいですね?」
「…うん」
「そして、コスモパワーはいわば聖剣士(セイント)の力の神髄。聖剣士(セイント)の驚異的な戦闘力は全てコスモパワーを引き出す力を持つことです」

 少しずつだけどようやく本質が見えてきた。
・僕たちは女神ミネルバを守るための聖剣士(セイント)で階級は青銅(ブロンズ)
・コスモパワーは聖剣士(セイント)の力の真髄
・コスモパワーを引き出し、燃やし、爆発させるには…

「そして、コスモパワーを扱うために必要なものでありコスモパワーの本質、それは…」
 途中まで言いかけてデンリュウは宮殿の入り口を睨む。
「私があなた達の味方だと気づかれたようですね、全てを教えてあげる余裕はなさそうです」
 入り口はいつの間にか騒がしくなり、大量のポケモンが突入しようとしている。
「教皇はあなた達を倒すための兵を差し向けて来たようです、それに砂時計もちょうど残り11時間といったところ」
 そう言って僕たちに背を向けて、大量の敵に対峙する。
「やれやれ、数が多いのは面倒ですね」
 デンリュウは聖輪(リングル)を通して神秘的なオーラを纏い、一瞬で電気を溜めて放電する。
「死の国に戻りなさい、スターライトエクスキューション!」
 その放電は地面タイプにもダメージを与える程の威力で敵のポケモンを一斉に攻撃して、電撃は大きな束になってまとめて空に打ち上げた。

「すごい…!」
「地面タイプすらも倒すとは…!」
「俺のスカイアッパーなんて比べ物にならない程だ…!」
「これが、黄金(ゴールド)ランクの実力なんだ…!」

聖輪(リングル)の修復作業続きで腕が落ちてますね、やれやれ」
 もしかして、本当はあれよりも強いのか…?
「彼女は私が守りますから急ぎなさい、決して挫けてはいけませんよ!」
「ありがとう、リオサさんをお願いします!」
 ニンフィアが一言お礼を言って僕たちは走り出した。


「第一の宮は無事通れたが、ここから先も無事に通れるとは限らない。みんな気を引き締めて行くぞ!」
「うん!」
「そうだな、誰か一匹でも教皇の間にたどり着いてリオサさんを救うんだ!」
 第二の宮への階段はまだ続いている。

「ジャランゴ、キュウコン、ニンフィア…」
「どうしたんだ?」
「どうした?」
「どうかした?」
「みんなはコスモパワーの真髄についてなにか…」




 突然みんなが消し飛んだ。
「あれ?みんな?」
 見回すと階段を昇り続けているのは確かだが、目指していたはずの第二の宮と形が違うし、砂時計も3分の1は砂が落ちている。
「!」
 状況を飲み込めない僕の頭に記憶が一斉に洪水のように入ってくる。


・第二の宮で僕以外の3匹が力を見せたことでケンタロスが認めて通してくれた
・第三の宮は迷宮で、音を頼りに進んだジャランゴと一緒にいた僕は無事に通れたけど、キュウコンとニンフィアは取り残される。謎の力でキュウコンは異次元に飛ばされたがリボンの力で異次元の彼方にいた本体を倒したニンフィアは脱出、キュウコンもどこかにいるはず
・第四の宮でジャランゴは宮に殺したポケモンを飾るキングラーと交戦、積尸気に飛ばされるもキングラーの黄金(ゴールド)聖輪(リングル)が見放す形で外れて形勢逆転、ジャランゴがキングラーを冥界の穴に落とし勝利



「ってことはあれは第五の宮?とりあえず進もう…」
 何故記憶が後からやって来たのかは謎だけど進むしかない。


 そして、第五の宮には僕のよく知るポケモンがいた。
 全てを見透かすような金色の瞳と黒いたてがみは間違いない。
「レントラーさん、リオサ先生が大変なんです、ここを通らせてください!」
 それだけ言って走り抜けようとすると、制止するように雷が走る。
「第五の宮を通るものは皆、このレントラーが殺す」
「えっ?」
 そんな、優しくて強い調査団員の鑑みたいなレントラーさんが、僕の、敵に…?

「問答無用、帰るか死ぬか選べ!」
 さらに雷撃が走る。こんなのが当たったら僕なんか無事じゃ済まない。
 怖くて逃げたくてたまらない。けれど、体は逃げようとしない。が抜けたわけでもなくて分かっているからだ。ここから逃げちゃダメだって事を…
 でも防戦では絶対に倒される、ここは一か八か…!
 素早く背後に回るように移動、決死の覚悟で得意技の聖なる剣を突き入れる。
 しかし、レントラーはそれよりも速く動いて攻撃を避けていた。
「逃げずに戦おうとする勇気に免じて望み通り雷獅子の牙で殺してやる」
 一瞬牙に雷撃が走ったように見えた瞬間、金色の線が僕の視界を埋め尽くした。
「うわああああっ!」

 その線の一本一本が雷を帯びた攻撃の残光だったことは全身の痛みが証拠だった。
 あの攻撃速度は音速、それを避けたり防いだりするなんて普通に考えて無理な話だった。
 分かってたことだ、四匹の中で一番弱い僕が戦って勝てるはずなんてないのに…


『ケルディオ、彼は教皇の幻影覇者拳によって操られている、強い攻撃で彼の正気を取り戻すことができます。諦めてはいけません。コスモパワーを燃やすのです』
 泣きたい心に声が響く。この声はリオサ先生?
『でも、コスモパワーを燃やすと言ったってどうすれば…!』
『コスモパワーの真髄はどんな時にも決して諦めずに立ち向かう心、つまりあなたの心に眠る勇気を高めるのです』
『勇気⁉』
『そうです。逃げずに立ち向かうのも勇気、諦めないことも勇気、その勇気がコスモパワーとなって奇跡を起こすのです』
 声はそこで途切れてしまった。

「破壊力は力と速さの両方によって決まる、この破壊力で死にたくなければ潔く去れ!」
 レントラーの攻撃の残光はさらに激しさを増して近づいてくる。このままじゃ…
「力と速さの両方?」
 助言があっても諦めそうな僕の心に一つの記憶が蘇る…


「力と速さ?」
「そうだ、破壊力は力と速さの積によって決まる。破壊力を仕事率なんて言う奴もいるが、要は力と速さの両方が大事なんだ」
「でもレントラーさんは力も速さも一流だよ?」
「そりゃどうも、でもケルディオにもできる。例えば力が6、速さが6なら破壊力は?」
「6×6で36?」
「そうだな、力が3、速さが12だと?」
「3×12で、36?」
「そうだ。じゃあ力が1でも速さが36だとすると?」
「…36?」
「その通り、つまり力と速さは片方が苦手でももう一つで補えば十分戦えるんだ」
「でも僕は力なんて…」
「生まれた時に自分の足で立ち上がれたならちゃんとある。まぁ、そんなに悲観しなくても得意な所を伸ばすのも役に立つんだぜ」

「そうか…力と速さ、力が苦手でも速さがあれば…!」
 心の中に生まれた小さな温かい力が全身にみなぎるのを感じる。
 目の前に広がる攻撃の残光が攻撃の軌道として見えるようになった。
 そうか、これがコスモパワーなんだ…!
「僕の聖なる剣も、力が弱くても音速で大量に突くことができれば…!」
 聖なる剣を素早く突き刺すように繰り出すと、レントラーには届くけど大したダメージはない。けれども素早く戻してまた素早く突く。
 それを素早く繰り返していくうちにコスモパワーが剣に重なって速度が上がって行く。高速で刺突する聖なる剣は残光を放ち流星になる。
「バカな、ケルディオのコスモパワーが増幅して聖なる剣が音速を越えていく!」
 レントラーの攻撃を僕の聖なる剣が弾いて相殺し始めた。
「くらえ、僕の流星の剣を!」

 流星になった連撃がレントラーの攻撃を相殺してレントラーもろとも吹っ飛ばした…!


「1秒に100発以上の音速の連撃を放つ流星剣(りゅうせいけん)か、いい技だな」
 ゆっくりと立ち上がるレントラーは元に戻っていた。
「得意の速さを活かして戦うことも勇気の一つだ、そして正気を取り戻してくれてありがとう」
「あぁ、はい…!」
 僕がレントラーさんの攻撃を打ち破ったどころかお礼を言われるなんて考えもしなくて頭が追いつかない。
「ケルディオ、よくやった!」
「おめでとう、頑張ったんだね」
 合流したジャランゴとニンフィアも僕を褒めてくれて嬉しいけど不思議な気分…
「あと7時間もないが一つだけ教えてやる、次の第六の宮にいる奴の第三の目は絶対に開かせるな」
「ありがとう、気を付ける!」
「いい表情になったな、追手は任せて急げ!」
 宮を囲んでいた追ってに対して黄金(ゴールド)聖輪(リングル)を光らせてレントラーさんは牙を開く。
「聞け、雷獅子の咆哮を!サンダープラズマ!」
 僕と戦った時より強力な雷撃拳が敵を消し飛ばした。

「あれが光速拳か…!」
「光速拳⁉」
「急げ!女神ミネルバはお前たちに託す!」
 衝撃の真実を知った動揺のまま第六の宮に続く階段を駆け上がった。



「⁉」
 また時間が消し飛んだ。砂時計は一時間を切っている。


・第六の宮でジラーチに圧倒されるもニンフィアの兄さんが助けに来て相打ち
・第七の宮で氷の棺の中のキュウコンを発見、ジャランゴの師サザンドラの力で救出
・第八の宮でグライオンと復活したキュウコンが交戦、死闘の末和解
・第九の宮で黄金(ゴールド)聖輪(リングル)を拾い、それぞれの決意を固める
・第十の宮でジャランゴがキリキザンと交戦、自慢の鱗を破壊されながらも相打ち
・第十一の宮でキュウコンが彼を棺に閉じ込めた師でもあるラプラスと交戦、絶対零度の極意を継承するも相打ち
・第十二の宮でニンフィアはロズレイドと交戦、リボンを引き裂かれ毒を盛られるも切り札のハイパーボイスで相打ち


「ジャランゴ、キュウコン、ニンフィア…」
 泣いている場合じゃない、この階段をのぼらなきゃ、教皇の間はもうすぐだ…



「よく来たな、青銅(ブロンズ)のケルディオ…」
 教皇の間にローブを羽織ったゾロアークが座っていた。
「あんたが教皇だな、リオサさんの矢を抜いてもらうぞ!」
「いや、残念ながらオレにはできない…」
「今更言い逃れなんてさせないぞ!」
 ゾロアークは悲しげに口を開く。
「この教皇の間を抜けた先の階段の先には神話の時代より存在するミネルバ像がある。右手に旗、左手にこだわりスカーフを持っていて、右手の旗を現身の方角に振ればあらゆる傷を癒すことができるのだ…」
「そうか、ありがとう!」
「待て、そこから動くな!」
 教皇の間を走り抜けようとするとゾロアークが突然制止する。
 反論しようとしたが眼前に落ちてきた拳によって止まる。

 壊れた屋根から見上げると、巨大すぎるカイリキーが僕を攻撃しようとしていた。
「何なんだあのカイリキーは⁉」
「あれはさっきまで教皇だったカイリキーの成れの果てだ、お前たちが来て本性を現したんだ」
「待てよ、お前は教皇じゃないのか⁉」

「そいつは第三の宮を守っていた次期教皇候補のゾロアークだ、もっともこのカイリキー様がいる限り教皇になれるはずもないがな!」
 カイリキーが口を開いて一蹴した。すごい地響きだ…!

「そういう事だ。黄金(ゴールド)ランクも使命は同じだ、旗を振りかざして現身を救え!」
「じゃあゾロアークは?」
 答えを聞くよりも速く巨大な拳から僕を庇ったことで全てが分かった。
「星々と共に消えろ、ナイトフォールバースト!」
 ゾロアークの叫びと強大なオーラのエネルギーの爆発を聞きながら階段を駆け上る。

 大きなサーナイト像の右手には確かに旗が握られている。
「この旗を振りかざせばリオサさんは…!」
「待て、小僧!」
 背後からカイリキーに摘み上げられる。
 ダメージを負っているはずなのに行動には影響がなさそうだった。ここまで来て、あと一歩だったのに…!
「邪魔をするな、流星剣(りゅうせいけん)!」
 レントラーさんが名付けてくれた流星剣(りゅうせいけん)でカイリキーなんて吹き飛ばしてやる…!
 流星のような音速の剣はカイリキーの全身を無数に突いた。
「まるで赤子だな、それで攻撃したつもりか?」
 はずなのにカイリキーには少しも効いてない。
「そんな、僕の全力の技が少しも効かないなんて…」
「この場で消えろ!」
 それどころかカイリキーの攻撃は僕の身体を吹き飛ばし、階段に叩きつけられた。

「なんて強さだ、僕だけでどうにかできるとは思えない…」
聖輪(リングル)に救われたようだな、悪運の強い奴め」
 カイリキーはいつの間にか外れて転がっていた僕の青銅(ブロンズ)聖輪(リングル)をつまむ。
「やめろ、それがなくなったら僕は…!」
「コスモパワーを使えない、だろ?」
 分厚い唇で笑って聖輪(リングル)を握り潰した。


 砕け散った聖輪(リングル)が目の前に捨てられる。
 でも今の僕には欠片を拾うことも立ち向かうこともできずに、ただ地面と視界を濡らして倒れていることしかできない。
「そんな、コスモパワーがなければおしまいだ…」
 カイリキーの汚い笑い声がこれまでの模擬戦の敗北を思い出させる。
 そうだ、僕なんて何もできない弱虫で生きてる理由も何も残ってないコイキングにすら笑われるような存在だったんだ。それがちょっといい気になっただけの話で初めから無理だったのに…
 僕には何も残されていないし何もなかったんだ…


『何を言っているのですケルディオ、あなたにはまだ残されたものがあります』
 こんな時にまでリオサさんの声は心の中に響いてくる。
『でもあのカイリキーを倒すことなんて無理だよ、聖輪(リングル)も壊されてコスモパワーも使えないからどうしようもないよ…』
『いいえ、あなたにはまだ【命】が残っているではないですか』
『命…?』
『そうです、あなたは命を持って生きています。勇気もコスモパワーも命あってこその力、命ある限り必ず奇跡は起こせるのです』

『そうだケルディオ、決して諦めるな…』
『お前ならできる、そう信じてるぞ…』
『僕も応援してる、頑張ってケルディオ…』

『ジャランゴ、キュウコン、ニンフィア…』
 みんなの優しい声も聞こえる。

「そうだ、僕は…」
 涙を拭い、痛む身体で立ち上がる。
「まだ立ち上がる力が残っていたのか…⁉」
「俺はお前を倒してミネルバを、リオサさんを救ってみせる!」
 そのためにも、こんな所で諦める訳にはいかない!

「馬鹿め、お前は時間を消し飛ばす力を忘れたのか!消し飛んだ時の中ではどれだけあがこうが無力さが極まるだけだ!」
「お前が時間を消し飛ばす事ぐらい知ってるさ、でもそれがなんだ!」
「時よ消し飛べ、キング・ディメンション!」
 真紅の空間がカイリキーを中心に広がっていく。
 確かにあの技は強力だけど、俺は消し飛んだことを認識できたんだ。奇跡を起こして打ち破ってやる!
「そうだ、たかが青銅(ブロンズ)聖輪(リングル)がやられただけだ!」
 消し飛んだ時間より速く、金色の光が俺を守るように包んだ。

「なんだ⁉」
「これは、第九の宮で拾った黄金(ゴールド)聖輪(リングル)…!」
 忘れ去られた黄金(ゴールド)聖輪(リングル)は僕の前足に嵌まり、目の前に聖剣士(セイント)の姿を映し出す。

「カイリキーの弱点は腰のバックルだ、そこを破壊すれば奴は倒せる。コスモパワーを燃やして爆発させるんだ」
 その姿はトゲキッスに乗るミュウツーだった。
「お前に俺の剣を託す」
 ゆっくりと飛んできた剣は僕の身体に染み込んでいく。この温かくて力強い力を感じると本当に奇跡を起こせそうな気がする…
「流星はさらに加速して彗星になるんだ、お前が使う神秘の剣は伊達じゃない!」
 力強く励ましてミュウツーは消えたかと思うと、僕の背後で強い存在感を放つ。

「まさか、お前は逆賊の濡れ衣を着せて葬ったはずの…」
「ふざけるな!たかが時を消し飛ばす能力一つ、コスモパワーで押し返してやる!」
 そう叫ぶミュウツーの声が聞こえたと共に僕は自由に動けるようになった。

「流星より速く、それを一点に集中させて彗星に変える!」
 激流を起こして上空にジャンプ、狙うのは弱点の腰のバックル。
 戦っているのは俺だけじゃない、みんなが一緒にいてくれる。そう思うだけでコスモパワーは一瞬で最高点に高まった。

「俺のコスモパワーよ、奇跡を起こせ!」
「奇跡などどうあがいても起こせるわけが」


「俺が起こしてみせるさ!くらえ、彗星剣(すいせいけん)!!!!」


 神秘の剣は音を忘れた速さで腰のバックルを連続で突き刺す。
「うおおおおおおおっ!!」
 さらに加速する神秘の剣はついに光速に達して、さらに光さえも置き去りにして一撃に集束、彗星がカイリキーの腰のバックルを貫いた。

「バカな、こんな泣き虫のガキ一匹に倒されるはずが…!」
 力を失ったカイリキーは吹き飛ばされながら消えていった。


「はぁ、はぁ…やった、ついにカイリキーを倒したぞ!」
 勝利の雄叫びを小さく一つ、サーナイト像に続く最後の階段を駆け上がって右手の旗を抜く。
「今こそよみがえれ、女神ミネルバよ!」
 砂時計の砂が落ちきる瞬間、旗を大きく振った…


 遠くからじゃ分からないけど確かに間に合った、そんな気がする。
「みんな、俺、やったよ!」

 そう叫んで仰向けに寝転んだ。
 ホウオウの飛ぶ迷いなき星空、こんなに綺麗だったんだ…!




「ケルディオ、起きないとテスト始まるよ」
 リボンの触れる感覚で目を開けるとゆうべ見た天井。
「ニンフィアに感謝しろよ、もう少しで不戦敗だぞ」
「どうして屋上の旗を持ったまま眠ってたんだ?寝相悪いどころじゃないな」

「良かった、ジャランゴもキュウコンもニンフィアも、みんな無事だったんだ…!」
「どうしたの?僕たちは元気だよ?」
「え?みんな相打ちになったって、そういえばリオサさんは⁉」
「リオサ先生ならさっきテストの準備してたぞ」
「あれ?じゃあ聖輪(リングル)や階段と宮殿の続く空間は?」
「怖い夢でも見たんだな、無理もない」
「全部、夢…?」
「どんな夢かは気になるが、あまり気にしすぎるなよ」
「ケルディオは最近ファンタジーの本読んでるし、それの夢じゃない?」
「確かに図書室で借りて読んでるよ、タイトルは『ペガサスファンタジー』で…」
「本の紹介はまた聞いてやるから準備しろよ、今12時過ぎで開始は1時だからな」

「あ、ちょっと待って」
「どうした?」
「みんな、いつもありがとう。俺、頑張るよ…!」

「あれ?ケルディオって一人称俺だっけ?」
「まぁいいだろ、頑張ろうぜ」
「肩の力は抜いておけよ」

 夢だったのかな?でもあの感覚は本当のような…
 ベッドから降りて枕元を見た時、少しだけ微笑んでいた。


「いよいよ入団テストだ、全員悔いのないように挑めよ!」
 レントラーさんの審判のもと、リオサ先生の見守る入団テストが始まる。
「ケルディオは悔いを残せれば上等だろうな!」
 くじ引きの結果、対戦相手はよりによってカイリキー。
 友達と戦わずに済むのは不幸中の幸いだけど、俺はまだカイリキーに勝てたことがない。
 けれど今までにない力がみなぎっているような感覚が心に勝機を感じさせている。


「先に相手を戦闘不能にした方の勝ちとする、始め!」
 合図と共にカイリキーに向かって突進するとみせてジャンプ、カイリキーの左側の腕に攻撃する。
「バカな、ケルディオの攻撃に破壊力が…!」
 ダメージを負ったカイリキーに連続で攻撃を叩き込む。
「泣き虫のお前なんかに調査団員になる資格はねぇ!」
 これまで俺を何度も戦闘不能にしてきた大きな右腕の一撃、今までは怖くて仕方なかったのに神秘の剣で簡単に受け止めていた。
「まだ分からないのか?資格がないのはお前の方だ、カイリキー!」
 今までこんな相手に怖がって負け続けてきたのかと思うと笑えてきた。

「資格がない?お前なんかに負ける訳が…!」
 突撃しながらの爆裂パンチ、カイリキー曰く必殺技だったはずだがそれもスローに見える。けれどもくらってやる義理はない…!

「俺のコスモパワーが、奇跡を起こす…!」
 あの時の戦いのように、心の中に眠る勇気を奮い立たせて戦い抜いたように、大丈夫だ、俺にならできる…!

流星剣(ペガサス流星拳)!!!!!」

 あの時と変わらない音速の聖なる剣の連撃が向かって来たカイリキーを吹き飛ばした。
「カイリキー戦闘不能、よって勝者ケルディオ!」
 レントラーさんの判定、それは僕の初勝利と調査団員への入団を認められたことを意味していた。



「合格おめでとうございます、ジャランゴ、キュウコン、ニンフィア、そしてケルディオ。入団の手続きは明日なので今日は休みなさい」
 リオサ先生の解散の一言で自由モードになる。

「ついに調査団員になったのか…」
「これからが楽しみだな」
「うん、ケルディオもおめでとう!」
「ありがとうみんな。ところで…」


「みんなはコスモパワーを感じたことはある?」

 一匹微笑んで枕元で元通りに直っていた青銅(ブロンズ)聖輪(リングル)を再び前足に着けた。



あとがき 

 
※ あとがきには重大なネタバレが含まれているため、ネタバレ防止のためにアナザーディメンションを展開しています。
  セブンセンシズに目覚めて突破するか、ダークモードでご覧ください。


きらめくーせいざがーおまえをーよんでるー
それはーえらばれたーーーせんしのーあかしー

と言う訳で、ホラーのふりしたペガサスファンタジーで超ダン風味なケルディオの成長物語、いかがだったでしょうか?
はっきり言ってしまうと今回は怪談と階段をかけただけの8割方聖闘士星矢パロディです。
ちょうど4月ぐらいに実写版が始まる関係で原作アニメが配信されて小さい頃の思い出が蘇ったり、映画のちょっと寂しい評価で「本当にファンが見たかった要素だけを使って小説書いて布教するか!」という謎の創作意欲が沸き上がったり、あとは最近ポケダンの面白さに気付いたりで、短編小説大会前にも関わらず大体4月中には書きあがってました。1万5千字という普段の短編小説大会よりも5千も多いのに、十二宮編全部書いてたら間に合わないからケルディオ視点でのバトルのみに特化して、あとは時間を消し飛ばしてダイジェスト版にするという荒技を使うことになりましたがこれも経験ですね。それに十二宮もダンジョンも両方階段で区切られてるっていう共通点があるね、やったぁ!(?)
大体ストーリーとしては1話で星矢がペガサスの聖衣を手に入れるシーンと黄金十二宮編を組み合わせた流れになってます。あくまでメインはケルディオの成長なので全て元ネタ通りとは行きませんがその辺はご愛嬌で。

・聖闘士星矢知ってる方は答え合わせ、初めましてな方は好きな登場ポケモン等を連想しながら読んで欲しい元ネタ解説

・コスモパワー…元ネタは言わずと知れた小宇宙(コスモ)。流星のようなパンチとか凍気をまとった攻撃とかその他諸々のすごい技は小宇宙のおかげ。より燃焼させて爆発させた方が勝てる傾向がある。ポケモンのコスモパワーはBD上昇効果だが、小宇宙は燃やせば瀕死の重症でも戦えるのであながち間違ってない。

・リングル…元ネタは聖衣(クロス)。普段は星座のオブジェの形状をしているが分解するとアーマーとして装着できる。超ダンには何故か「ゴールドリングル」というアイテム(換金用)が存在する。

・ブロンズ、シルバー、ゴールド(ランク)…元ネタは聖闘士や聖衣のランク。設定上はそのまま強さに反映されるはずだが、話が進めば青銅の星矢達にも簡単に倒される程ミスティ以降の白銀聖闘士はただのかませだったのはジャンプあるある(オルフェを除く)。超ダンでも序列は同じだがゴールドよりも上が存在する模様。

・サンクチュアリ地方…元ネタは名前の通り聖域(サンクチュアリ)。アテナ神殿と十二宮と長すぎる階段から構成されている。砂時計はないが十二時間を計る火時計が存在する。

・ミネルバ…元ネタはローマ神話における知恵と戦術の女神、要はギリシャ神話のアテナ。本家のアテナ像は右手に勝利の女神ニケ、左手に楯を持っていて、楯が矢を抜くためのアイテムだった。


・ケルディオ…元ネタは聖闘士星矢の主人公ペガサス座の星矢。成長イベントがよく似合うし馬系なケルディオ採用。(ペガサスモチーフのポケモンを出してゲーフリさん…)仲間思いな所とか決して諦めずに立ち向かっていく所、スピード型な所は結構イメージして書いてる。流星剣も彗星剣も剣を拳に変えれば思いっきり聖闘士星矢の技になる。

・ジャランゴ…元ネタは星矢の仲間であるドラゴン座の紫龍。鱗持ちでドラゴンで格闘タイプで成長性を持たせるならジャランゴ一択だった。彼の聖衣は右拳と左腕の盾が強靭という特徴がある。が盾は敵の強さを示すためにしょっちゅう壊されるし何なら紫龍自身しょっちゅう聖衣を脱ぎ捨てるのであまり役には立たない。得意技がスカイアッパーなのは廬山昇龍覇リスペクト。本家では十二宮編開始時点では失明しているのだが、今回はその設定はあえて抜いてある。

・キュウコン(アローラ)…元ネタは星矢の仲間である白鳥座の氷河。凍気を操る美形キャラなので一番近そうなアローラキュウコン採用。マザコン設定は省いたし戦闘パートもほぼないからジャランゴとの差別化が難しく、なるべくクールに見せたかったけど、描写が少なくて地味に苦戦させられたキャラ。マザコンって立派な個性だったんだね…(錯乱)

・ニンフィア…元ネタは星矢の仲間であるアンドロメダ座の瞬。どこか中性的に見える男の子で二本のネビュラチェーンを操って戦うのでニンフィア採用。一軍メンバーの中で一番しっくり来たのは気のせいかな?二次創作界隈ではやたら戦闘狂のニンフィアばかり見るけど、心優しいけど戦うと強い所はいい感じに重ねられた。ネビュラストームとかハイパーボイスみたいなネビュラチェーンやリボン使わない技が一番強いのも似てるかも。ちなみにニンフィアの兄さんはもちろん終盤で星空を飛んでた何度でも蘇りそうなあのポケモン。

・サーナイトのリオサ…元ネタはアテナの現身である城戸沙織。リオサは逆から読んだだけ。ケルディオの目には中二病に見えたのも女神の現身だから仕方ないし、もちろん彼女は大真面目である。とは言っても沙織さんポジションにサーナイトは適任。是非とも地上の愛と平和を守り続けてほしい。

・デンリュウ団長…元ネタは黄金聖闘士である牡羊座のムウ。羊系ポケモンの中では一番強そうで超ダンにも登場するデンリュウが適任だった。味方ポジションは共通で、修復師をしているのもリスペクト。戦うとかなり強い方なのも合わせているが本家の黄金十二宮編では特に戦う描写はない。スターライトエクスキューションは「スターライトエクスティンクション」と「オーロラエクスキューション」の合体。水瓶座の技を借りてきた。

・ケンタロス…元ネタは黄金聖闘士牡牛座のアルデバラン。剛拳グレートホーンの使い手なのでわりとそのまんま。

・ゾロアーク…元ネタは黄金聖闘士である双子座のサガ。幻覚を操るしキャラクターの関係上ゾロアークは似合ってる。本家ではある大役を担っているのだが、ストーリーの都合上土壇場で味方枠に移動した。幻影覇者拳でレントラーを洗脳したのも彼だがその辺の名残。映画では星矢に喝を入れたりピンチを助けたりもしているので味方枠も変ではない。ゴールドランクのポケモンの中ではトップクラスに強い。

・レントラー…元ネタは黄金聖闘士である獅子座のアイオリア。雷系の光速拳を得意とする正統派キャラ。ぴったり。主人公に尊敬されていたり味方のはずが教皇に操られている点も本家リスペクト。突破の仕方のみアレンジが加えてある。ちなみに掛け算理論は慧斗オリジナル。論理的な根性論は少年マンガを面白くする。サンダープラズマは「ライトニングプラズマ」のアレンジ。

・ジラーチ…元ネタは黄金聖闘士である乙女座のシャカ。目を開かせるとヤバい点や強すぎる所がジラーチと一致。エイトセンシズもあるし兄さんに十万億土の彼方へ飛ばされても平気。

・サザンドラ…元ネタは黄金聖闘士である天秤座の童虎。ジャランゴの師匠なのは本家リスペクト。ギルガルドとも悩んだけど、600族の師匠は600族であってほしいのと廬山百龍覇をイメージした。MISOPETHA-MENOSを受けててもしっくり来るかも。

・グライオン…元ネタは黄金聖闘士である蠍座のミロ。死闘の末に和解してるのは本編リスペクト。スカーレットニードルでいえばドラピオンの方が近いかもしれないけど、キュウコンに凍気で星命点突かれて焦りそうなのとドラピオンより味方ポジションの印象が強いグライオン採用。何故かサトシの手持ちにいるポケモンって味方イメージ強いんだよね…

・キリキザン…元ネタは黄金聖闘士山羊座のシュラ。斬撃使いで右手の手刀がエクスカリバーと呼ばれる。全身刃物なキリキザンは適任。相打ちになった時にジャランゴにエクスカリバーを託したのかどうかは不明。

・ラプラス…元ネタは黄金聖闘士である水瓶座のカミュ。キュウコンの師匠で絶対零度を操る所は本家リスペクト。水と氷の魔術師なんて呼ばれたりもするしタイプ的にラプラスがピッタリ。

・ロズレイド…元ネタは黄金聖闘士魚座のアフロディーテ。毒や麻痺作用のある薔薇を使って戦う。戦闘シーン書いてないとはいえよくニンフィアで勝てたな…(ハイパーボイスが強すぎたと推測)

・カイリキー…元ネタは星矢と聖衣を巡って戦った青年カシオス。ケルディオの成長のためにボスキャラへの大躍進を遂げた。キング・ディメンションという時間を消し飛ばす技を使うが、大会用作品につき文字数制限の対策で本編ダイジェスト化のためだけに使われた。(某奇妙な冒険のゲーム動画ではよく編集に使われる手法なのでみんなも文字数に悩んだ時はレッツ、キンクリ!)

・ミュウツー…元ネタは射手座の黄金聖闘士。本家ならアイオロスという本編開始時点で既に亡くなっているキャラクターの役なのだが、ケルディオを成長させる役割が欲しかったので、敢えて本編でも射手座の黄金聖衣を纏って戦った星矢をイメージしている。ミュウツーなのは中の人ネタ。(古谷さんは名探偵ピカチュウでミュウツー役をされていたみたい)でもそれだけでは分かりにくいので、白い悪魔に乗せてみたり逆襲時代の名台詞を言わせてみたりしたのはそういうこと。(本編ではないけどΩでは近いイベントもあったしね)

・ケルディオの読んでいた本『ペガサスファンタジー』…元ネタはアニメ版聖闘士星矢の初代OP「ペガサス幻想」から。イントロ聞いて叫びやSEが脳内再生される人は同志

・「みんなはコスモパワーを感じたことはある?」…ホラーオチに思われたみたいだが、元ネタは「君は小宇宙を感じたことがあるか!?」。次回予告のラストでよく言ってるセリフなので聖闘士星矢を代表するセリフみたいになってる。「お前はもう死んでいる」と同じような感覚。



最後までお読みいただきありがとうございました!
(もしこの作品をきっかけに聖闘士星矢に興味持ってくれた方がいたら作者冥利に尽きます)



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Last-modified: 2023-07-07 (金) 01:30:18
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