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不器用なこの身にさよならを

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前:不器用なこの身にご褒美を



こちらは不器用シリーズの第4作目になります。この作品だけでも楽しめますが、2作目から通して読んでいただければより理解がスムーズになります。初めからから読んでいただけるとなお捗ります。

※R-18表現を含みます。

ビターエンドです。



ざっくりキャラ紹介

パラくん/パラセクト♂ 幼い頃レディアンに助けられてからずっと好き。旅に出て強くなったが彼女を忘れられず戻ってきた。進化してからキノコの意識が表出しているが、時折ムシの意識が覚醒する。依存体質。
れいちゃん/レディアン♀ 種族平均より体がふた回りほど小さい。幼なじみのドクケイルが好きだったが、彼はビークインに連れ去られてひとりぼっち。その頃パラセクトと再開する。器用な手4本を駆使して森の不器用な雄虫たちの自慰を手伝っていた過去がある。何やら(とう)を集めている様子。
ひまりちゃん/キマワリ♀ 3年前ヒマナッツだった頃かじられた痕が額の左側に残っている。そのとき助けられてからパラセクトがずっと好きで探し歩いていた。海の遥か向こう南のジャングルから鳥ポケモンに運ばれてきたという。えっちが大好きだが恥ずかしい。





 (つた)のようなひょろりとした植物の足が、草原の芝をぺたぺたと踏みならしている。弧を描くように右へ左へ、池に飛びこむ決心のつかないイワンコのような足どりで、浅黒いあざの残るひまわりの大輪を揺らしていた。かれこれ20分は経っている。
 いつまでも踏ん切りのつかないキマワリさんを鼓舞するよう、私は声を張り上げた。
「そんな遠くからでは技も届きませんよ! 遠慮はいりません、私を倒すつもりで来てくださあい!」
「うん……、うんっ!」
 閉じているのか開いているのか分からない瞳は泣きそうなほど目尻を下げていたが、やる気はまだくじけていないらしい。木陰で待ち構える私へと1歩、おっかなびっくりといった調子でにじり寄った。普段はニカッと両端を持ち上げている幅広な口を真摯に結び、おずおずと突き出された葉っぱの手の内に、植物の生命エネルギーを集約する。どうにかこうにか生成されたエナジーボールは、しかし私へぶつかるだいぶ前から軌道を外し、天高くあらぬ方角へ飛んでいった。
 まただ。
 バトルセンスがない、というよりもむしろ、戦闘するという本能をそのまま欠落させてしまったような。砂漠に産み捨てられたヒマナッツのほうがまだ闘気をぎらつかせているだろう。照りつける真夏の太陽のもと悪送球にしょげて顔まわりの花弁を内側へ萎れさせるキマワリさんは、なんだか少し滑稽だった。
「……それでは、こちらからもいきますよ」
 パラセクトは近接戦闘に特化した種族だ。遠くへアプローチできるような技はあまり持ち合わせていないが、さて。
 連続斬りの要領で爪に纏わせた虫のエネルギーを、勢いよく振り抜くことで相手へと飛ばす。繰り返しぶつけることで威力が増強される技、その初弾なのだが、それでさえキマワリさんは今にも泣きそうになっている。広い顔を覆い切れていない葉っぱの手の裏へ直撃し、安定感のある根っこの足がたたらを踏んだ。
「どんどん痛くなりますからね。目をつむってはいけません、しっかり見て技をぶつけて!」
「きゃあぁ、ひやあああぁ!」
 泣き叫ぶキマワリさんへ向け、連続斬りの2波目を放つ。痛いのは嫌なのだろう、前へ突き出した両手の葉に、ぎゅわ、と光が収束される。当てずっぽうに放たれたソーラービームは虫の衝撃波を弾き、私のところまでかろうじて届いた。拡散した光の余波を爪でいなす。草タイプの高火力技も、生半可な充填率で撃たれるようならその程度だ。こんな塩梅では、バトルに勝つどころかひとりで身を守ることさえ危ぶまれる。もっと鍛えてやらなくては。

 暑い日だった。木漏れ日に留まっているにもかかわらず乾燥肌はちりちりと悲鳴をあげ、私から体力を奪っていく。対照的にキマワリさんは汗みずくで、太陽の力を借り受ける性質によって彼女もへばりつつあった。台風一過の空は見渡す限りの突き抜けた紺碧で、遠く山の稜線にしぼんだ積乱雲がひっかかっているだけ。だだっ広い草原にぽつんとそびえる1本桜、その木漏れ日が奇跡的に生み出した陰にすがって、私は夏を謳歌していた。




不器用なこの身にさよならを

文:水のミドリ
挿絵:影山さん

もくじ




1 


 昨晩まで季節を先取りしたような台風が3日ほど吹き荒れていて、横殴りの嵐が過ぎれば本格的な夏の到来を迎えた。広い平原にぽつんと佇む老いた桜の樹は、その根本に穴を掘って私たちの住処にしているのだが、ほとんどの葉を保持したまま変わらずそこに切り立っている。もし落葉していたら移住を余儀なくされていただろう。切り取られた丸いシルエットを孤島のようにして、夏の日差しがあまねく草原の海原を照りつけていた。またとない光合成の機会に草本は一斉に天中を仰ぎ、キマワリさんに踏まれるたびそり返っては雨露を弾き上げる。
 それでも大嵐は荒蕪な土地のきのみさえ無慈悲にさらっていったらしい。私たちの貯蓄を狙ったのだろう、昨夜、雨風に紛れてゴルダックが忍び寄っていた。私の爪で丁寧にお帰りいただいたが、相性で優れているはずのキマワリさんは全く抵抗する気配を見せず、私とレディアンさんが甲高い悲鳴に巣穴から顔を出すまでされるがままだった。
 つがいの私が護るとはいえ、せめて自衛できる程度にバトルの基礎を身につけていてもらいたい。ぐっすり寝て光合成で体力を取り戻した今、私は彼女へ戦闘の稽古をつけている。
 ルールは至極単純。老樹の木陰から私を追い出すことができればキマワリさんの勝ちだ。ちなみに彼女は日向に出てもいいことにしている。
 まだ正午には遠いことを示す太陽の傾きは、樹の北西側へ大きく影を落としている。私はエリアの中央へ陣取って、背後へ回り込もうとするキマワリさんを牽制していた。遠距離技の応酬では太刀打ちできないと判断したのだろう、私を後ろからぐいぐい押し出す算段らしい。……ハリテヤマの血でも通っているのだろうか。
「……何しているんですか」
「遠くからじゃダメだから、こうやって、ね……?」
「技の出し方は……、わかりますよね? はたくを使ってください」
「うん……でも、誰かに向けて使うのちょっと、怖いなあって」
「力を振るわなければ、あなたが怖い目に遭うことになります」
「きゃああっ!?」
 爪に毒素を滲ませ相手の急所めがけて斬りかかる技、クロスポイズン。それをかなり弱毒化して、キマワリさんの額に刻印されたあざへ振りかざした。食いこめばただでは済まされない弱点を突く技も、彼女は向けられた凶刃を前に縮こまるばかり。
 額の左側に広がる影めいたあざはキマワリさんがまだヒマナッツだった頃メェークルにかじられた痕なのだが、その時もされるがままだったのだろう。言葉通り手も足も出なかった進化前ならばいざ知らず、太陽の石のエネルギーをその身に蓄えた今の彼女は抵抗するべき力を身につけているはずだ。
 毒爪を叩きつけるわけにもいかず、私はその先っちょを、顔を覆う彼女の手に軽くひっかけた。植物の体にはそれでも滲みるものがあったのだろう、びくんっと葉先を丸めて涙目になっている。なんだかこちらが悪いことをしているようだ。
「パラくん……、ひまりちゃんを虐めるのが趣味だったなんて、幻滅だよ……」
「……何が言いたいんです。戦い方だけでも最低限身につけておけば、いざ襲われてもひとりで逃げることができるんですから」
「キミが片時も離れずついてやればいいじゃないか」
「私が寝ている隙に、早起きなあなたたちだけで毎朝散歩してるじゃないですか……」
 桜の根元に腰掛け私たちの模擬戦を見守っていたレディアンさんから非難が飛んでくる。振り返れば、彼女はまだ朝食に切り分けたカイスのみをちびちびとかじっていた。夏バテだろうか、近頃は輪にかけて少食になったらしく、彼女の小さな口に合わせて三角にカットしたものさえ持て余している。隣には私とキマワリさんが平らげた果実の外果皮が重ねて置かれていた。
 ぷっと種を飛ばしてスカイブルーの複眼が笑う。
「しかしね、これはいくらなんでも可哀想だろう。実力差がありすぎだよ、ハンデをつけなくちゃ。……そうだな、ひまりちゃんが勝ったら、今日1日パラくんを言いなりにできる、ってのはどうだい?」
「なんですかそれ」
「それ……いいかも」
 キマワリさんが額の汗を拭いつつ相槌を打つ。……やる気になってくれればそれでもいいのだけれど。
「だろう?」
「ちょっと、勝手に私の自由を賭けないでくださいよ」
「パラくんがこっち向いてる今がチャンスだぞひまりちゃん! ほら、キミにはとっておきの隠し玉があるだろう」
「ほんと一方的なんですから……」
 やれやれと顔を戻した私の白い眼に映ったもの。レディアンさんのヒントから得るものがあったのだろうか、キマワリさんは手にくるんだ小さな何かをぎゅっと握りしめた。
 途端、その葉から暖かな光が迸る。植物の根源に灯る命の輝きを垣間見たような黄金色の胎動、それは複雑な軌跡を描き、小さな種から結実する花を(かたど)るようにうねる。真夏の太陽とは性状を異にした、大地を優しく包みこむような母なる光芒。
 自然の恵み。たしか、カイスの種から得られるエネルギーは――
 陶然と見入っていた私の顔面へ振りかぶるキマワリさんの手が、ぶあり、赫々とした陽炎に包まれる。
「のあああアっあああ゛!!」
 瞬時、6本の肢すべてを総動員して飛び退いた。飛び出した白い眼球が焦げるくらい間近で芝に火が灯り、まさに陽炎めいて一瞬にして消えた。戦いに明け暮れたパラス時代、レディアンさんとの出会い、進化の高揚感、初めてまぐわった夜のこと……。めくるめく走馬灯が一弾指のうちにフラッシュバックする。万が一かすっていれば火傷じゃ済まなかっただろう。身体の自由を未来永劫奪われるところだった。
「ムシも弱点! キノコも弱点! 強い日差し! かんそうはだ! 眼は急所! ぜんんんっぶダメ!」
「ご、ごめんなさいっ! つい……」
「私を倒すつもりで来てくださいとは言いましたけど! 言いましたけど!」
 キマワリさんへ近づいて生命の危機を訴えようとするも、6本肢がすくみ上がり灼熱の芝草に(つくば)った。乾燥肌の額を冷や汗が止まらない。駆け寄ってきたキマワリさんに体をぺたぺた触られていたが、ただでさえがさついたキノコの触覚は麻痺したように働いてくれなかった。
 あはははっ、と雌にしては低めの声が響く。レディアンさんはようやくカイスを食べ終えたらしい。
「今更何を恐れているんだい。パラセクトはもう半分死んでるようなものなんだって、前に言っていただろう」
「それとこれとは別の話でですね! っというか私がいなくなってもおふたりは悲しくないんですか!?」
「そうは言ってないじゃないか。……でも、勝負あったみたいだねえ」
 複眼を細めて笑うレディアンさんにつられ、気づく。あまりに後退しすぎたせいか、木陰から肢を踏み出していたらしい。キノコの笠をじりじりと焼かれ、猩々緋(しょうじょうひ)色の表皮が直射日光に炙られているとようやく気がついた。がくつく肢で這いずりながら、きまり悪く日陰へすっこみ身を丸くする。
 器用なレディアンさんが(とう)で編んだ籠、その中をまさぐってチーゴのみを見つけ出し、3つほどこちらへ投げてよこす。
「ほらさ」
「きゃ――わっ! ひわ! はっはむっ!」
「あははっ、ナーイスキャッチ!」
 最後のひとつは口で受け取めたキマワリさんに、絞り汁をキノコへと塗りつけてもらう。火傷によく効く冷感を伴った潤いは、戦闘と太陽光線で高まった体の火照りを急速に収めてくれる。
「あ、ありがとうございます……。さっきはまくし立ててごめんなさい、あまりにびっくりして」
「ううん、いいの。こっちが鍛えてもらってたんだし……。わたしも、きゃふぅ、疲れちゃったかも。喉渇いたぁ」
「ひまりちゃんは汗だくだし、ボクの手はべたべただ。これは洗ってくる必要がありそうだね」
 レディアンさんは凝り固まった外殻をほぐすように6本肢をうんと伸ばし、潰れたチーゴのへたを指で弾いて捨てていた。容赦のない日照のもと生活するにあたって、彼女たちが森から取ってきてくれる貴重な食糧だ。食いでの悪いきのみとはいえこのような形で消費するには忍びない。私が草原で生活するというのはつまり、アシレーヌに心惹かれたニャビーが、その泡にくるまれて海底で空気を貰いながら生きながらえるようなもの。本能として光合成を欲するキマワリさんをつがいに迎えた私は、夏場、日射と乾燥の窮境(きゅうきょう)にあがいて生きねばならない。
「それじゃ、ちょっとのあいだ留守番よろしくねえ」
「キマワリさん、何度もしつこいようですが、あなたの故郷と違ってこの地で弱い者は生き残れません。もし襲われたのなら、レディアンさんと協力してここまで逃げてきてください。全力で抵抗して、決して立ち向かおうなんて思わないこと」
「う、うん……。心配かけてごめんなさい、わたしが弱いばっかりに……」
「あはは、ひまりちゃんはパラくんを負かすくらい強いんだぞ。ボクがついているし、心配無用さ。キミこそ寝ぼけて日向できのこソテーにならないように!」
「用心します」
 落ち着きを取り戻した体を巣穴に沈め、手を繋いで草原を横切っていく彼女たちの背中を、森の奥へ見えなくなるまでずっと見送っていた。




2 


「随分と長かったですね」
「そりゃあ、おしりの穴までキレイに洗っていたからねえ」
「れ、れいちゃん、なに言ってるの……」
 乾ききらなかった飛沫を翅から振りまいて飛ぶレディアンさん、その赤い後肢をキマワリさんがぐいと引っ張った。だいぶ強めな力加減だったらしく、バランスを崩したレディアンさんは草のベッドへ不時着する。「イテテ、冗談じゃないか……」と背中をさする彼女に悪びれた様子は微塵もない。デリカシーの欠片もないジョークにキマワリさんは不愉快そうに口を閉じ、言いたいことをぐっと堪えているのだろう、小さく頬を膨らませている。
 レディアンさんの前肢と中肢に抱えられていた蔦植物の素木(しらき)が転んだ拍子に散らばって、私はその収拾を手伝った。
(とう)ですか。また見つけてきたんですね」
「寄り道したらまたもや群生地に行きあたっちゃってねえ。もしかしたらボク、籐みつけ名人なんじゃないかい?」
「なんですかそれ……」
「切ったりトゲを落としたり、ひまりちゃんの葉っぱカッターが大活躍だったんだぞ。狙ったところ正確にシャキン! て当ててさ」
「ほう、それは……! お見事ですよキマワリさんっ。お手柄ですね」
 体格差こそあれ私と彼女たちとでは目線がかなり違う。俯きがちだったキマワリさんの顔を下からうかがえば、私の褒め言葉に大輪がぱっと花開いた。膨れっ面よりもやはり彼女は笑顔がいちばん可愛らしい。
「きゃふふ……。相手がポケモンじゃなければ、ちゃんと使えるんだけどね」
「離れた的へ正確に技を当てられるのは才能ですよ! あとは鍛錬して恐怖心を克服するだけです。頑張りましょう」
「そ……そうかな。うん、自信出てきた……かも」
「はは、どっちですかそれ」
「――よし、今ボク創作意欲が湧いているので、このまま作れるもの作っちゃいます。ごめんだけどひまりちゃん、パラくんに散歩の土産話でもして時間を潰しておいてくれよ」
「ん、待ってるね」
 籐を抱え直した彼女は翅ばたきを強め、葉桜の茂みへと引っこんでしまう。住処の樹冠は飛ぶことのできるレディアンさん専用の作業場となっていて(ちなみに私もよじ登ったことはある。開けた視界には感動したが、やはり陽差しがネックだった)、そこで軽くて丈夫な籐を編みこみ、貯蓄のきのみをしまう籠などを作っていた。いやはや器用なものだ。ここから南、小さな滝のある沢の苔むした岩場を住処としていた頃は、私と彼女のタマゴを温める空間を巣穴に増設するべく、籐を補強材として岩窟(がんくつ)護持(ごじ)していたのだったか。籐みつけ名人であると同時に、レディアンさんは立派な籐職人だ。
「できた!」
 饒舌なキマワリさんのおしゃべりに相槌を打つことおよそ2時間。作業を終えたレディアンさんが樹冠から落ちてくる。受け止めた私をいそいそと木陰へ座らせ、手にしていた創作物をキノコへと被せてきた。
 冬になるとこのあたりでもよく見かけるユキワラシ、彼らの被り物を彷彿とさせるトンガリ笠を数倍に大きく延ばしたものが、私のキノコをちょうど覆うように乗っている。大きさは寸法通り仕上がっているものの、私が少しでも身じろげばキノコと籐の笠が擦れあい、担子器ごと胞子を(ふるい)にかけられているようでむず痒い。
 品評するように複眼を細めたレディアンさんはうーんと唸り、満足げに2対とも腕をこまねいた。キマワリさんと肩を並べ隅から隅まで眺め回してくる。トリミアンはそれぞれが個性的に毛を整えいかに群れの中で注目されるかを競うと聞くが、誰かにまじまじ眺められるのはこんな心地なのだろうか。パラセクトは根っからの日陰者だからか、好奇の視線はどうにも落ち着かない。
「さすがボク、かわいいデザインだ。100点」
「これを着けたらどこでもパラさんと一緒に行けるんだね……! 100点!」
「ハハ……どーも」 
 あわせて200点を貰った私は、漏れてしまうはにかみを隠すよう籐の笠をずり下げていた。
 純粋に嬉しかった。
 レディアンさんの器用な手にはずっとお世話になってきたが、私のためだけに籐で作品を編んでもらう、というのは初めてだった。
 日陰者で出不精でもある私もこれを着ければ、ふたりと並んで散歩できるだろうか。軽食を携帯するための籠をキノコへくくり付け、キマワリさんのおしゃべりとレディアンさんの冗談に耳を傾けながら、この草原をずっと横切っていく。外敵に襲われようとも私が彼女たちを護り、見晴らしの良い山岳の花畑の中、心地よい日差しのもと持ってきたきのみを切り分け3匹並んで頬張る。草原で暮らす限り草だらけな私の視界も、籐の笠があれば彼女たちと同じものを見ることができるかもしれない。
 ……悪くない、かな。
 甘い甘い妄想に浸る私を現実へ引き戻したのは、にたついた顔を覆う笠をひっぺがしたレディアンさんだった。
「で、だよ。何か忘れてないかい?」
「……、なんでしたっけ?」
「ひまりちゃんは見事パラくん相手に勝利を収めました!」
「はいはい……。覚えてますよ、もう」
 ……レディアンさんこそ忘れていればよかったのに。弱気なキマワリさんをけしかけるため戯れに交わした口約束。もし彼女が勝ったのならば、私は言いなりになるという条件だ。走馬灯を幻視した脳からも、あのやりとりは剥がれ落ちることなくこびりついていた。なまじ籐の笠をありがたく受け取ってしまった手前、あんなの冗談じゃないですかハハハ、なんてハサミで斬り捨てるわけにもいかない。白い手にさらわれた笠は、したり顔をする彼女の頭へぽふ、と収まった。たわんだ触覚が悪魔的なヘルガーの角に見える。ずるいぞ、さすがレディアンさんずる賢い。
 当のキマワリさんは両手の葉先を胸の前で下側へすり合わせ、私を言いなりにする内容を言いあぐねていた。
「ほーら、恥ずかしがってないで口に出さないと。ボクが言っても意味がない、キミが口にすればパラくん何でもしてくれるんだぞ」
「ちょっと、何でもするなんて言ってないですよっ」
「うん、えっと、だから、ね……」
 必要以上にまごつくキマワリさん。その耳許でレディアンさんが「どうして欲しいんだい、ほらほら」なんて煽りつけている。彼女を虐めるのが趣味なのか、と尋ねてきた彼女の方が虐めているじゃないか! ――なんて屁理屈はおくびにも出さなかったが、すっかり彼女のペースだった。裁断した籐の繊維を丁寧にほぐして()め直していくように、ほんのり頬を赤らめるキマワリさんの口を割らせようと入れ知恵をしているらしい。
 あっけなくキマワリさんは決心を固め、甲斐甲斐しく樹の根元へ草藁をずらし、ぽふぽふと私を招く手つき。
「じゃ、じゃあ……。パラさん、横になって、ね?」
 横目でレディアンさんへじっとりと重めな目配せを送る。あまりキマワリさんを焚きつけないでくださいよ、と釘を刺したつもりだが、伝わっていないのかはぐらかされたのか、彼女ははてな? とでも言いたげにわざとらしく首を傾けていた。



 籐の笠は固定するための麻紐が端から伸びていて、梢の又へ結えられたそれが風にそよいでいる。見えないエルフーンの悪戯になす術なく回転している笠が、ひっくり返った私の視界で助けを求めているみたいだった。
「あのレディアンさん? 何を始めるつもりですか」
「何ってナニに決まっ――おほん。ひまりちゃんのお勉強タイムだぞ」
 森の仔どもたちに知恵を授けるヨルノズクの長老のように、レディアンさんは仰々しく咳をひとつ。知恵は知恵でも悪知恵だ。彼女がいやらしい笑みを浮かべるのは、決まっていやらしいことを考えているときだった。キマワリさんへあることないこと吹きこもうと口角が吊り上がっている。……彼女へ戦闘のいろはを教えていた私もこんな顔をしていたのだろうか。それは嫌だなあ。
「お勉強って……。似たような設定は前回もやったでしょう」
「何を言うんだねパラくんは。キミを気持ちよくするボクの絶技の数々を、たった1回の講義……いや交尾で伝授できると思うのかい」
「言い直す必要ありましたか今の」
「まずは全身くまなく手で触れてあげます」
「もっと雰囲気とか気にしませんか……」
 なんというか、案の定だ。
 おちゃらけた調子でレディアンさんが交尾を迫ってくることはままあったし、キマワリさんが加わってからむしろそうした頻度は高まった気さえする。今日のシチュエーションをどうするか、川べりで相談でもしてきたのだろう。初めて繋がったときこそキマワリさんから誘われたが、以降は発情期に悶々と苦しむ彼女をみかねて私から声をかけていた。成熟した雌がつがい相手との子を欲するのは当然の欲求だろうし、私にはその義務があるのだから、もっと素直になってくれてもよいのだけれど。レディアンさんに教えてもらう、なんて建前を並べなければまだ恥ずかしいらしい。
 刈った芝を重ねてこさえたベッド、その中央のくぼみへキノコがちょうど収まるようにして、言いなりに渋る私の体はふたりがかりで転覆させられた。キノコの笠裏をクッションにムシの腹を晒す、自力では起き上がれない絶体絶命の体勢。木漏れ日のモザイクを仰ぐ私の左脇にはレディアンさんが、右側にはキマワリさんが身をかがめたまま、甲殻の下腹あたりへ手を伸ばしてくる。白い左手はさわりさわりとこれからの行為を予感させるようにじれったく、それに倣う葉っぱの右手はおそるおそる不慣れなままに。まるでオオスバメの親子の食卓へ並べられたケムッソのようで落ち着かない。
 だがひっくり返された私はあまりに無力だ。観念して中肢と後肢は邪魔にならないよう自身の胸あたりでまとめてクロスさせておく。全身を覆う甲殻はふたりの手の感触の差異をわずかに感じ取れるほどだったが、虫腹を丹念に撫でられ続ければ、体節はなだらかな勾配を描いて自然と下半身に力を込めやすい姿勢をとってしまう。
 慣れた手つきで撫で回しながら、レディアンさんがキマワリさんへ囁いた。
「そそ、あんまり強く押しこみすぎないでね。お腹側の甲殻は案外デリケートなんだからな。前回見せて教えただけなのに上手いじゃないか。やっぱりボクに負けず劣らず器用だよね、その手は。パラくん大喜びだぞ」
「そうかな……。パラさんどう、わたしちゃんとできてる?」
「優しい風にそよがれているようで、心地いいですよ。このままお昼寝してしまいたい……」
「あはは、それじゃ困るんだけどなあ」
 ざわざわした葉のざらつきとふわふわした白い手の柔らかさが交互に甲殻をなぞる。肢の関節を優しく解され、体の節目に挟まった砂まで掻き出すような丁寧さは、ムシの体を隅々まで丸洗いされているよう。2匹の雌から同時に愛情を注がれているという贅沢さに、いやでも期待を募らせてしまう。――もっとも嫌なことなどなにひとつないのだけれど。
 私の冗談へ乗っかったレディアンさんは、ムシの体へ添い寝するように体をしなだれかけてきた。彼女の複眼ひとつひとつに反射する小さな私を確認できるような、切迫した距離。彼女の頭をハサミで受け止めれば、決して軽いとはいえないウエイトに背中の石づきがギシリと悲鳴を上げた。重いだなどと口を滑らせようものなら、免罪符を得たレディアンさんは嬉々として攻めを矯激(きょうげき)なものにするだろう。眉根ひとつ曲げてはいけない。試すように複眼を明滅させたレディアンさんへ、平静を装いながら緊張のため息をひとつ返す。
 ムシとキノコの間へ体を滑りこませたレディアンさんの白い指が、私の胸をするするとなぞる。他の体節よりも幾分か複雑な形をなす胸郭の溝へ、桜色をした彼女の舌の動きを連想させるような動作で指先を遊ばせられ、思わず見入ってしまった。まるで彼女の指紋から微弱な溶解液が染み出しているかのように、触れられたところから淡い痺れが走る。
 釘付けにされた私の視線を掻い潜るようにそっとかんばせが近づいたかと思うと――ふわり。私のハサミを枕にしたレディアンさんから発せられる夏草を蒸らしたようなにおい。耳孔のすぐそばで湿っぽい吐息が渦を巻いた。
「これからキミを気持ちよくさせるけどさ、彼女の前ですぐイっちゃうとか、情けないところは見せないでおくれよ。頑張って我慢するんだ、いいね」
「……ぅ、お手柔らかに、頼みますよ」
「柔らかいおててで天国まで連れてってあげるよ。手加減なしさ。そうしないと、お手本にならないだろう?」
「手前味噌ですか……。でも、私だってしばらくぶりで、あなたの手練手管を前に堪えられる気がしません」
「んぁは、安心したよ。その口ぶり、まだまだ余裕そうじゃないか」
 雌を前にすると闘争心をなくすアゲハントの雄を応援するように、ちゅ、挑発的なキスが頬へ落とされた。同時にレディアンさんの六肢が絡みついてくる。私の胸をいじる左前肢、虫孔の近くを妖しげに這う左中肢、赤い左後肢は器用に尻先の精嚢あたりでゆるゆると円を描いている。右半身は私のキノコの笠裏へ身を収めるようにしながら、いずれかの肢が石づきのあたりにこびりついた菌糸類をカリカリと柔く削っていた。
 ムシの体全体がウールーの群れに放りこまれたような、やわやわと沈みこむ抱擁感。深呼吸を促されそうな甘々とした快感が、腹奥から途切れることなくじんわりと湧き上がってくる。
 ギチ……ッ。聞き耳を立てずとも聞こえてしまう虫孔の開口音に、私は思わず目を伏せた。ばつが悪い。これでは私の方が期待していたみたいじゃないか。下半身から伝わる涼やかさだけで分かる、甲殻の奥底で硬さを増したペニスが媚粘膜を押し開いている感覚。白に塗りつぶされた視界の先では、キマワリさんも同様顔を火照らせ、手で目元を覆いながらまじまじと私の秘所へ視線を注いでいる。それで隠しているつもりらしい。
 引きつった形相をしているであろう私をよそに、レディアンさんは後方へ流し目を送る。
「どお? セックスを始めるときはこうやって、甲殻にぴったりとくっついてなでなでしてあげるんだ。そうするとパラくん、そのあとすごいんだから。分かったかいひまりちゃん」
「うん……! っけど、わたし、れいちゃんみたいに手がたくさんない、かも……」
「キミにしかできないこともあるはずさ。ほら、ひまりちゃんなりの愛情表現を見せておくれよ」
 曖昧にうなずいたキマワリさんは身をかがめ私へ寄り添ってくる。ムシの体で受け止めるよう右のハサミも同様に開いたが、彼女はそれを避け、キノコの裏手へと身を潜らせた。ムシの目にはキマワリさんの放り出したつるんと丸い腰とその先の足が、キノコの縁からはみ出して見えている。
「きっキマワリさん……、何して……?」
「その……、わたしはパラさんの、こっちを触りたいかも、なんて……」
 こそばゆそうな声のかすれていった先で、キノコの笠が柔らかく押される感触。慣れない刺激に貯めこんでいた胞子が疼く。レディアンさんと睦み合うときにはあまり関心を持ってもらえず、情愛を注がれるのはもっぱらムシの体ばかりだったが、植物のキマワリさんの目にはむしろキノコの方が魅力的に映るのかもしれない。毒々しい斑点模様にも臆さず笠へ顔を近づけ、担子器果の描く幾何的なカーブをいつくしむように撫でられた。ムギムギしているね、と独特な擬音を以前に評された肉厚なへり、そこを経由して彼女の手が笠裏へと滑る。細やかに揃ったひだを1枚1枚ゆっくりと数え、繊維をほぐすようにそっと葉先で溝をくすぐられる。あまり触れられないなよやかな部分への耽美な接触に、私は思わず長い息を吐いた。
「――ぁあ、ああっ、っすごいですよこれ。全身くまなく満たされているようで……!」
「へぇ、パラくんはそっち弄られるのも気持ちいいんだ、知らなかったなあ。あはっ、役割分担だね」
 背後へ首を回したキマワリさんの返事は聞こえなかったが、代わりにキノコへ暖かな柔肉が押しつけられる感触があって、ああキスしてくれたのだな、と悟った。彼女は見られていないところで大胆になる、と知ったのはつい最近のこと。朝に弱い私が陽もだいぶ高く昇った頃に巣穴を這い出たある日、キマワリさんは備蓄のナナのみを手に遊び唄を口ずさんでいた。ここから南にあるジャングルという故郷の唄なのだろう、聞いたことのない独特なリズムのもの。嬉しいことでもありましたか、と背後から話しかけた私は、真っ赤な顔して振り向いた彼女にナナのみを口へ押しこまれたのだっけ。
 私を好いてくれる雌ふたりに、ムシとキノコの体を同時に愛撫される。あまりの極楽さに漏れる吐息、それを抑えることもままならない。レディアンさんを前に表情を崩すまいと見開いた白眼はたちまちぴくつき、それを紛らわせるように遠くを見上げた。灼然とした陽光はまだ翳る気配さえない。鳥ポケモンに運ばれてここへ流れ着いたというキマワリさんの故郷も、これほど暑い場所だったのだろうか。
 身の入らない私を連れ戻すべく、レディアンさんが舌で耳孔をひとすくい。
「まだちんぽ出してもないのにそんな調子かい? ふたりから同時に攻められるの、本当に気持ちいいんだね。あは、これはいい拾い物をしたなあ」
「こんなことに、キマワリさんの価値を見出さないでください……」
「それよりパラくん本当に頑張らないと。バトルにも負けちゃってさ、床勝負でもあっけなく終わるようじゃあ、いよいよ幻滅されちゃうぞ」
「……レディアンさん、今日はやけに煽ってくるじゃないですか」
 もともとつがいだったレディアンさんにとって、転がりこんできたキマワリさんは厄介者なのだろうか。そう思い悩んでいた時期もあったが、杞憂だったようだ。その円滑なコミュニケーション力で瞬く間に私以上に仲良くなり、早起きなふたりは私を除け者にして明け方そろって散歩している。雌どうしでの会話は心の安寧を生み出すらしい、レディアンさんは梅雨時に時おり物憂げな表情を見せていたが、それもなくなっていた。私を奪い合うライバルが現れたというより、まるで大きな娘ができたような気分なのかもしれない。
 ふたりに包まれるのは酷暑の太陽に熱された水たまりへ浸かったような感覚だった。ムシもキノコも体の芯に情炎をともされ、今にでも彼女たちを襲いたくて仕方ない。
 ぬちゃり、とムシの体を内側から伝うかすかな粘着音。ふだん甲殻に守られている内蔵器官を体外へひり出しやすくするよう、虫孔は性的興奮を煽られるとぬめりを分泌する。レディアンさんの指先でまさぐられているうちに、乾燥肌が聞いて呆れるほど湿潤していたらしい。後肢からひとつ後ろの体節は大きく上下にひび割れピンク色の柔肉を見せびらかし、その奥で窮屈そうに太まるペニスを送りだそうといびつに膨らんでしまうほど。
「お」
 レディアンさんが小さく呟いて体を起こす。私の尾節を前に陣取った彼女は、喜色に口の端を吊り上げてキマワリさんを呼びつけた。てかる指先を開いたり閉じたりして、ついにパラくんを興奮させてやったぞ! と無言の勝鬨(かちどき)を上げるようにニタリと複眼を歪めている。
 体勢を戻したキマワリさんは指を舐めるレディアンさんを眺め、震える息を大きくひとつ吐いた。岩の隙間から宝石を発掘するヤミラミの姉妹みたいに、ふたりは顔を揃えて虫孔を覗きこむ。何かしらをもにょもにょと囁きあいながら、ふわつく指先と繊毛の揃った葉先が交互に媚粘膜をくすぐってくる。手出しのできない仰臥を誰かに晒すだけでももどかしいというのに、遊び半分で好き勝手いじられるとは腹の虫が収まりそうにない。
 食いしばる顎からすっかり荒ぶった吐息を漏らす私に、レディアンさんが茶々を入れてくる。
「にしても、こんなにくっぱり開いちゃってさ。ちんぽ出してないとパラくん女の子みたいだよねえ。あれ、パラセクトの雌はおまんこいちばん後ろになるんだっけか」
「……ムぅ。雄であることを、今すぐ、証明してみせましょうか?」
「あはっ、ごめんごめん。パラくんはそのままそのまま。ほらひまりちゃん、前に教えてあげたちんぽの取り出し方、やってごらんよ」
「う、うん……っ」
 おずおずと伸ばされたキマワリさんの手、ざらついたそれが強めに虫孔へと押し当てられる。湿って突っ張る肉壁のとっかかりを探していたが、ほどなくして見つけた深みへ葉先を挿入された。折り重なった肉のうねを掻き分け、ペニスが通る軌道を確保するように、ぐにり、と押し開く。もう片方の手は尾節を持ち上げ、交尾を想起させるような下半身を折り曲げた姿勢をとらされていた。
 どれもこれも、前回レディアンさんに薫陶されていたことだった。このままペニスを出しているようでは、彼女の思う壺な気がして釈然としない。ぎちぎちとがんじがらめになっていた中肢と後肢を組み替え、気概だけで肉棒を引っこめようとするも――それはほとんど無意味だった。
 ずぬ……、と、ムシの奥で質量が動く。虫孔のぬめりに乗せてペニスが肉の隘路(あいろ)を掻き分けていく感触が下半身にあった。さなぎの殻では収まりきらなくなったトランセルがそのエネルギーを羽化として昇華させると同様、キマワリさんの手に導かれるまま笠頭が外気の怜悧さを感じ取った。
「きゃ、あ……っ。で、出てきた……!」
「おーすごいすごい、やればできるねえ。ひまりちゃんはちんぽ見つけ名人かい?」
「レディアンさんっ、雰囲気考えてくださいってば!」
 ツッコんだもののあまりの小っ恥ずかしさに彼女たちの顔を直視できず、私はハサミで目線を遮っていた。キマワリさんのざらついた手が笠先に触れる。まだ密接させられる面積の狭い生殖粘膜を丹念に捏ね回し、レディアンさんの教えを忠実に遵守しながら私を煽り立ててくる。全貌がまだ腹の中に納まっているせいで過剰に敏感になり果てた部分、そこへの鮮烈な刺激に震えかけた喉笛を無理やり押し殺す。
「上手、ですよっ、キマワリさん……」
 満足げな喘ぎをこぼす代わりに、顔を覆ったハサミを開いたり閉じたりしてみせた。絶え間なくもたらされる快感ともいえぬ快感に、吐く息ひとつひとつが深く、湿り気を帯びたものになっていくのを感じる。自ら腹を曲げ尻に力を込めずとも、甲殻の内側ですでに硬さを纏ったペニスがじりじりと這い出してしまう脱力感。
「おっとパラくん、ひまりちゃんに最後までやらせてあげるんだぞ」
「このままでいるの、とっても恥ずかしいんですけど……」
「何を言っているんだい、いつもはひまりちゃんがいくら恥ずかしがろうとやめないくせに」
「ウぐ」
 図星だ。反駁(はんばく)しようと口を開き、震えかけた呼気とともに情けなく閉じた。虫孔からペニスがにじり出るのは雄虫のよくある生理反応なのだが、そうだと知っておきながらヤジを飛ばすレディアンさんに、私は非難するような視線を向けるしかできなかった。自分の体をどのように弄れば快感を生むのかということを把握され、いいように扱われるのはこの上なく恥ずかしい。いっそのこと堂々とさらけ出し、ふたりを前にした私がどれほど興奮しているのか白状した方が潔い気さえする。どうせこのあと散々レディアンさんにからかわれるだろうから。
 調子づいた彼女は案の定、饒舌だった。
「両前肢()に花だなんてパラくんは幸せ者だねえ。ま、片っぽは虫なんだけどさ」私がきつく睨むと、レディアンさんはおどけたように肩をすくめる。「……おいおいこのくらいの冗談はいいじゃないか、そんなおっかない顔をしてくれるなよ。ボクもひまりちゃんもキミのつがいなんだ、言葉ひとつでヤる気をなくしたりしないさ。キミが望めば、どんなプレイだって応じてあげようじゃないか」レディアンさんは虫孔のぬめり気を指先でかすめ取り、ちゅっちゅと音を鳴らして舐め始めた。「ひまりちゃんのいちばん奥をキミ自慢のちんぽでグリグリして泣き善がらせてもいいし、ボクの浅いところをエっグい笠首でゴリゴリ掘り返しておしっこ漏らさせたっていい。都合よくハメられるおまんこがふたつもあるんだ、比べて使わなくっちゃあ損だよねぇ」耳孔を舐めるような粘度を伴って囁かれる甘言は、いとも容易く私の興奮を逆撫でする。「どっちのおまんこを先にズボズボしたい? ひまりちゃん相手だとパラくんすぐにイっちゃうからね、1発ボクのふわふわおまんこで準備運動させてあげよっか?」
「ぬ、グ……っ! ちょっとレディアンさん、煽るのも大概に――」
「あは、ちんぽ出しながら怒っても締まりがないぞ」
「――っ」
 淫奔な言葉を紡ぐ唇に白い指を当て、いたずらっぽく微笑むレディアンさん。悔しいかなその通りだ。ずにゅん! と根元の石づきまで飛び出したペニスへ釘付けになったキマワリさんをはた目に、後で覚えておいてくださいよ、とハサミをすり合わせて彼女へ威嚇した。元気が残っていたら好きなだけしていいぞ、なんて挑発的にコバルトブルーの複眼がたわむ。私はさらに前肢を振り上げたが、ひっくり返りペニスをさらけた格好ではあまりに稚拙に映ったことだろう。




3 


 レディアンさんの勾引にあっけなく抜き身になったもうひとつのキノコ。甲殻を割って伸びる石づきは脈打つたび尿道まわりを太まらせ、まだひっそりと閉ざされた笠は薄桃色にてらついている。腹の中ですでに先走りを滲ませていたのだろう、秋時期のなめこめいたぬめり汁を纏ったペニスが、真夏の太陽光線を眩しがるように笠を広げ始めていた。毒々しい艶と生乾きのようなにおい、それにむっとくる熱を放つ。彼女たちの中を何度も掘り返してきた毒キノコは今回もそれを期待して、私が息を吐くたび大きく振れる。極上の雌ふたりを前に、どちらの胎へ先に潜ろうか決めあぐねているよう。
 そんなペニスをいつくしむよう、やわやわとくるんでくる葉っぱの手。キマワリさんは無意識なのだろう、その隙間を縫ってそよぐ霜焼けを溶かすような生暖かな息に、私はじぃと白の眼球を細めた。レディアンさんがそばに控えているからだろうか、いつもならば自ら手を伸ばすことなんてしない彼女が、ちらちらと盗み見ることなくペニスを直視できている。経験してきた雄と比べても凶悪な形をしているであろう私のものに多少なりとも慣れてきてくれた、ということだろうか。
「わ、わ、すごい、まだ始めたばっかりなのに、もうこんなにカチカチになってる……」
「ぁは、ひまりちゃんの手さばきが上達してるからさ」
「都合いいですね……」
 さんざん私を煽り散らした言葉をなかったことにするレディアンさん。誰のせいでこんなになったと思っているんですか。威嚇するレントラーの声真似をして低く喉を鳴らしても、彼女は意に介さない。
「でもよく見てみるんだ、まだ笠が開いていないぞ。完全に勃起させてやるにはだね、ひまりちゃんのその手で愛情たっぷりの手コキを――ってそれは前回レクチャーしてあげたんだったか。じゃあ今日はパラくんが最高に気持ちよくなれるフェラのやり方、教えてあげようじゃないか」
「ふぇら、ってなに……?」
 ずこ。レディアンさんがわざとらしく()け反り、(いぶか)しむように眉間に小さくシワを寄せた。きょとんとするキマワリさんの頬を指先ふたつでむにん、と持ち上げる。
「キミのそのおっきなお口でちんぽ舐めてあげることさ。ウブな反応してるけど、ひまりちゃん前回やっていたじゃないか。がっつり中出しされてイきまくった後なのにさ、パラくん押し倒してちんぽにキスしちゃって。教えられてもないのにたどたどしくお掃除フェラしちゃうんだもの。くにゃりと投げ出した足の間、赤くほぐれたおまんこからドロネバの精液垂れ流しながらちんぽをペロペロするの、あれ最ッ高にスケベだったぞ。ボクだってそんなことしないくらい――」
「きゃああああッ!? わ、わかったからっ! れいちゃんそれ以じょっ言っちゃダメぇ……!」
 思わぬしっぺ返しを喰らい、キマワリさんは蒸散する顔を葉で包み隠した。
 あえなく縮こまった彼女を捨て置いたままレディアンさんは私に向き直り、勝ち取ったペニスをしっかりと支え持つ。唇の隙間から桜の花びらと見紛うちいさな舌が飛び出し、ぺろ、と口許を妖しげに一周。キスをくれるようにやおら顔を寄せ、真菌が喜んで繁殖しそうな淡い吐息をペニスめがけて吹きつける。上から、下から、肉棒の形を見て覚えるような熱心さで、笠裏の小じわに至るまで呼気で湿らせていく。
「ひまりちゃん、いつまでそうしているんだい? ちゃんと見ておくんだ、いくらパラくんにぞっこんだからって、毎回抱かれているだけじゃつまらないだろう。たまにはリードして、ひまりちゃんを孕ませたい! ってちんぽに思ってもらおうじゃないか。そのためのフェラだからな。口を使ってちんぽを勃たせるんだ。ほらほらこの毒キノコ、シズル感というか、いかにも美味しそうじゃないかい?」
「そう言われてみれば……ちゅる、美味しそぅ……」
「……よだれ垂れてますよ」
 手ひどく煽られたせいで恥ずかしさがぶり返してきたのだろう、キマワリさんは音を立てて啜った口許を葉で隠す。あんな顔を晒してもまだ淑やかさは残っているらしい。レディアンさんのテクニックを盗もうとどこかうろんげに凝視する彼女は、獲物にありつく順番を待つ群れのポチエナみたいだった。
 レディアンさんの触覚がぴこぴこ動く。彼女の機嫌が良い証拠だ。
「でもいくらちんぽが好きだからって、いきなりがっついちゃダメだぞ」
 前肢の指先が彼女の左右の口許へ当てられて、にぺぁ、と薄い唇が開かれる。おとがいの裏にうねを並べるごつごつとした軟口蓋を覗かせ、桜色のベロがヤクデのように熱くのたうち、音を立てて啜りたくなるような唾液をクリーム色した口の端から滴らせている。まるで膣を模して作られたかのような口腔粘膜を私へ見せつけ、これから笠頭を咥えこむ肉穴がどれほど具合よいものなのかということを思い出させてくるのだ。
「う……!? そっそれ、はしたなすぎるからやめてくださいって、言ってるじゃないですか……!」
「こうして見せてあげるのはパラくんだけだから。ボクのお口まんこがどうなってるか、パラくんにしか見せたことないんだぞ。……どうだい、早くもココにめがけてびゅっびゅ! したくなっちゃったんじゃないかい?」
「そんな調子いいこと言って、ぬぅ……っ、ずるいですよ……!」
「あはは、効果はてきめんだねえ」
 私だけが知っているレディアンさんの痴態。気を良くしまたひと回り肥大するペニスの根元を彼女の手が押さえこみ、すっかり笠を開ききってしまった竿先を固定する。幾度となくレディアンさんへ雌悦を提供してきた笠頭へ、んべぇ、と突き出された舌から唾液が垂らされた。彼女はとっくに美味しそうだと思っていたのだろう、溜めこまれたツバは重い塊となり糸引くことなく笠肉を涎まみれにし、口肉の熱さを想起させるような熱感を粘膜越しに伝えてくる。新しく染み出ていた先走りと泡立った唾液が癒着し、輪郭を失い、ひとつの塊となって笠を転げ落ちていく。
 うっとりと両目を瞑るようにレディアンさんが複眼の青を暗く濁し、弾けたジャボのみのひと欠片まで逃さないような吝嗇(りんしょく)っぷりで、ぷちゅり、薄くもみずみずしい口が笠まわりに張つ付いた。
「ふ……っ、フ……!」
「んー、んはは」
 思わず漏れてしまった私のため息にレディアンさんは満足げに複眼を細め、反動をつけて唇を離す。ちゅぱっ、とわざとらしく跳ねるリップ音。それを何度も、リズムや強弱に変化をつけながら、みずみずしい口肉でせっせとハートスタンプを捺印していく。体内で熟成された分泌物が美味しいはずもなかろうに、後から後からこみ上がってくる先走りを丹念にすくい取っていた。私の味が中毒になってしまったのだと公言するかのようなしつこさで笠頭へ唾液をまぶしていく。――そう、先っぽだけなのだ。それもキスだけ。上目遣いの複眼ひとつひとつがムウマめいて笑う。余った手や舌を使ったお得意の性技を封印し、その先を渇望するよう徹底的に私を焦らしてくるたくらみが丸わかりだ。
 我慢の利かなくなった私がレディアンさんへおねだりをする。もしくは彼女の頭をハサミで引っ掴み、欲望のまま腰を突き上げてしまう。どちらにせよキマワリさんの前で性欲に呑まれた私の醜態を晒すつもりだ。そもそも私ばかり発情を促され、彼女は涼しい顔して教師の立場に甘んじていることが許せない。ぐ、ぬぬ……、こんなことで私は屈しないぞ……! 尻に力を込め甲殻の震えを押しつぶす。いやらしく下辺をたわめたレディアンさんの複眼ひとつひとつに、こめかみに筋が浮かび上がるほど奥歯を食いしばる私の形相が反射している。哀願ともとれるあまりに必死な顔つきだが、こうでもしなければレディアンさんを殊更調子に乗らせてしまいかねないのだから、私とて必死なのだ。
 白濁した眼と深青の複眼とで視線を鍔競り合わせながら、果たして屈したのはレディアンさんだった。幸いなことに、性に奔放な彼女はこうした我慢比べに強くない。
「仕方ないな……。そんな顔されちゃあ、ボクもオニゴーリほど冷徹じゃないからね、仕方ない……」
 自分がしたいだけじゃないですか。そう煽り返す間もなく、たっぷりと唾液を乗せた小さなベロが、張り出た笠頭の厚さを確かめるようにひっついた。見た目通りの熱感を携えた、桜の花びらのように控えめなサイズの舌。裏筋へ押しつけ上下に引き延ばされた唇の端からはみ出るように、可能な限り突き出されたそれから泡立った唾液が肉竿を伝い落ちる。綿毛のような手はペニスの根本を逃すまいと支え持ち、他のいずれかの手が尾節の先端、ずっしりと生殖細胞を賑わせた精嚢のあたりを温めるようにすりすりと撫でてくる。
 垂れてしまった唾液を顔から迎えるように舌ですくい上げ、肉竿に塗りつける唇で甘噛みするように笠縁を揉みほぐしつつ、笠裏へ密接させたベロを波打たせる。極めつけは淡いキスの感触で過敏になっていた笠先へ温かな舌先を密着させ、ねちねちねちねちッ、と左右に弾くよう素早く往復し続ける。バチュルのまばたきほど細かなスパンで恥知らずな愛撫をキマワリさんへ見せつけていた。
 つけ入る隙を与えない熟練した舌技を一区切りさせ、レディアンさんはベロをひっこめる。完全に勃起した肉竿へ美貌をこすり付け、仰ぐように鼻梁を裏筋へぴっとりと密着させていた。顔いっぱいでペニスの脈動を感じ取り、湿った肉の生々しい感触に酔いしれるよう表情をうっとりさせる。たまらず噴きこぼした先走りが複眼と複眼の間に透明な線分を1本引き、彼女の表皮の燃えるような赤色を鮮やかに浮かび上がらせる。
「んーふふ、カリ首しっかり開いちゃったじゃないか……うわ、くっさ……。ここに住み着いてから洗っていないせいだね、女の子が嗅いじゃダメなにおいしているぞ」
「くさい、とか、言わないでください……」
「あは、褒めてるんだぞ。さっきからお腹の奥が疼きっぱなしだ。こんなの雌だったらイチコロだよ。ボク以外の子だって、ここへ鼻を押しつけてやればすぐ股開いてくれるんじゃないかい? 以前近くに住んでいたクールなツボツボちゃんとかさ、あの子がメロメロになっているところ想像してごらんよ。触手でちんぽゴシゴシ扱きながら『お願い、です……。パラさんのおちんぽ、あたしのイヤらしい壺にねじ込んでぇ!』なんて言ったりして」
「グ――っ!?」
 きのみジュースで酔ったような声真似は、器用にも私たちがよく知るツボツボのそれに酷似していて。懐かしい記憶の中の彼女が淫らに求めてくる姿を想像して、浅ましくもペニスを充血させる。かつての親友を辱めてまで私を煽り倒すレディアンさんの執着がいよいよ怖くなってきた。
「あ、想像しちゃった? カリ裏のひだまでバッキバキに張ってるぞ。ボクもけっこうな数の雄虫と遊んできたけどさ、パラくんの種付け欲求は飛び抜けて底無しだからね。知らない雌でにおいの効能を確かめたくなるのはわかるけどさ、まずひまりちゃんにも嗅がせてあげないと」
「そ、そうですよ。そんなところの香りなんて、おふたりにしか明かしてませんっ、からね」
「……。そりゃあ、そうだろうよ」
「えぇ…………」
 何バカなこと言ってるんだい、なんて顔つきでドン引きするレディアンさん。先ほど見せびらかしてきた彼女の口について同じことを返したはずなのに、そんな反応はあんまりじゃないか!
 眉尻を下げた私に小さく吹き出したレディアンさんは、あえなく(しぼ)みかけたペニスへ詫びを入れるように口淫を再開する。いつ精液を放たれてもすべて受け止められるよう唇で笠頭にすっぽりと蓋をし、暗く細い洞窟の地底湖で暮らすメレシーに『外の世界へおいでよ』と導くよう鈴口を丹念に舌でほぐしていく。
 唾をつけた白い指が忍び寄ってきて、笠裏のひだにぴったりと絡みつく。器用とはいえ長くはない指は笠首をわずかに回りきらないが、湿り気に馴染むとすぐにズリっと押し下げられた。そのふわついた繊指(せんし)からもたらされるとは想像もし得ない、籐の棘を扱き落とすような力強さに、目の前に火花がじれつき顎を噛み締める。クリーム色した腹部の縦割れに隠れたレディアンさんの虫孔を模したかのような塩梅の窮屈さで、それを押し除けるかのようにペニスは輪をかけて勃起を強くした。
 隣から覗きこんでくるキマワリさんにもよく見えるよう、ずしゅ、ちゅぐ、粘り気の多い水音が1回ずつ区切るように掻き鳴らされる。葉っぱの手がそれを真似るように空中で寂しく上下していた。ふわふわなレディアンさんの手ならまだしも、こんなやり口をキマワリさんのざらついた葉でお見舞いされたら……? 想像しただけでペニスから伝わる刺激にチクチク感が混じり、不随意に力んだ腹の甲殻がべこべこと歪な音を立てる。実際にそんなことをされたら笠裏の細かな敏感ひだがごっそり抜け落ちるだろう。ぞ、と悪寒が背中のキノコまで駆け上がったが、肉棒はそれを期待してか笠裏を剥き出しにするくらい粘膜を突っ張らせている。……もしかしたら私マゾなのかもしれない。
 かえしのように張り出た笠縁を、持て余していたレディアンさんの白い指が小さく弾いた。もしくは無い爪を笠裏に突き立てるようにして、においの原因であろう恥垢をぞりぞりと削り落としていく。虫孔へ差しこまれたものは重なる肉うねをこね回し、尾節で精嚢をまさぐる手のひらは精子をおだてるようなマッサージ。舌で舐めこすられただけではたどり着けない、私が最も気持ちよく射精できる刺激と速さを兼ね備えた、愛情たっぷりの愛撫に揉みくちゃにされる。
「ぁは、もうすぐイっちゃいそうだね? パラくんがせっせと貯めこんだぎとぎとのザーメン、このままボクに飲ませておくれよ」
「――――っ」
 窄んだ唇が鈴口に吸いついて、キャタピーの疣肢(いぼあし)並みにうねって笠先粘膜をこき上げた。敏感な裏筋を何度も巻きこみつつ、とどめとばかりに尿道を啜り上げられる。その間も4本腕による施しは止まらない。
 器用なレディアンさんにしかできない、そして私の気持ちいいところを知り尽くした彼女のフェラチオ。私の置かれた幸福にしみじみ浸る間もなく、精嚢で煮詰められ塊となった精虫どもがうぞうぞと輸精管を駆け上がってくる。ハサミが震える、甲殻が変形しそうなほどギチギチと鳴る。背中のキノコははち切れんばかりに毒々しく膨らむ。霞んだ白い眼を血走らせ、跳ね上げた喉を荒々しく熱気が逃げていく。
「ふ、ふうぅっ、ッは、く、フー……っ……!」
 レディアンさんの思惑通りイかされるのは甚だ悔しいが、もうさっさと白手に包まれたまま欲望をぶちまけてしまいたい。射精のトリガーを引くべく腰を震わせたと同時――、無慈悲にも外されるふわふわの手。
「おっと」
 なんで、と視線だけで懇願する私をよそに、レディアンさんはキマワリさんに囁いている。遠のいた悦楽と引き換えに取り戻した聴覚機能は、おぼろげに彼女たちの会話を感知していた。
「あんまり深く咥えすぎると顎外れちゃうから気をつけること。フェラだけじゃイかせられないうちは今みたいに、先っぽを口に含んでベロでなでなでしながら、幹のほうは手で扱いてあげるのがいいよ。ほら見てくれ、ちんぽがイきそうになってる」
「わ、すご、パラさん腰が浮いちゃうくらい気持ちいいんだ……。こっちも、出せないの辛そうにぴくぴくしてる。洞窟で会ったドジョッチさん、こんな感じだったっけ……」
「パラくんの両眼が切なげに潤むのと、口の端からよだれが落ちるの。それと中肢後肢がギチギチ鳴り始めるのがイきそうになっている合図だぞ。それ以上続けちゃうとどびゅ! だからな、ちんぽを口に咥えながら上目遣いでよく見ておくように。そうするとパラくんも喜ぶしね。分かったかいひまりくん」
「はいっ先生!」
「いや、フッ、は、うぅ……! 先生じゃなくてですね……! なんで途中で、止めちゃったんですかっ……」
 毒キノコの食べ方を伝授するレディアンさんは、身を捧げるような愛撫とはうってかわって悪戯っぽく私を見下していた。射精を寸止めされたせいで矯めができるほどそり上がり、甲殻を叩きつけるようのたうち回るペニス。その裏筋をつっ……、と白い指がはんなりとひしぐ。開きかけた鈴口から恥辱の先走りが押し出され、わずかに白濁の混じったそれがぎらついた糸を引いていた。
「だから、これはひまりちゃんのお勉強なんだ。ボクのフェラでパラくんがイってるようじゃ、この先が学べないだろう。最初に言ったじゃないか、そう簡単にイっちゃ情けないって」
「は……、はぃぃ先生……」
「うむ、よろしい」
 切羽詰まった生返事をこぼし、ハサミを下げて誠意を示す。絶頂できなかったことに癇癪めいて微振動するペニスは中肢と後肢で隠したが、ほっそりとしたそれらでは鬱憤を隠し切れていないだろう。雄の射精衝動を弄ばれるような寸止めをお見舞いされ、蜂の巣にされた自尊心が私の腹奥でわだかまる。……あとでたっぷりお礼はしてあげなければな。楽しげに笑うレディアンさんが鬼に見えた。オニゴーリほど冷徹ではなかったかもしれないが、かのユキメノコもここまで残虐非道ではないだろう。
 唾液と先走りでねとついた手を私の腹で拭って、レディアンさんはぽんとキマワリさんの背中を押した。
「ここからは実践だ。ひまりくん、やってみてくれたまえ」
「……きぇ?」
 傍観の立場に甘んじていたキマワリさんは糸目をぱちくり瞬き、慌てて顔つきを取り繕った。驚いてこぼれ出た息を飲みこんだせいだろう、細い喉があけすけに盛り上がり、緊張を飲み下していた。
 レディアンさんがあからさまに肩を竦める。
「んぁはは、初めてフェラするわけでもあるまいし。ちんぽ舐めてほしくて仕方なかったパラくんみたいに、キミだって今にもちんぽを舐めたくて仕方ない顔をしているじゃないか」
「きゃへ!? ちっちち違うよ! わたし、その、それ……舐めるとか、そんなふしだらじゃないし……」
「真正面からボクをディスってきたねえ。なんだい、キミのために教えてるってのにさ」
「あの、ぇと、そういう意味じゃなくてね、恥ずかしくって、つい……」
 口ごもるキマワリさんにどうしたものか、と首を傾げるレディアンさん。こういうことにはめっぽう頭が回るほうだ、悩んでから数秒たらずで触覚がぴこんと跳ね、ぽむん、と小気味よく手を合わせた。
「……じゃさ、恥ずかしさも和らぐとっておきの手があるぞ」
 子種の排泄を諦めすごすごと縮んでいくペニスを掴み、にんまりとしたレディアンさんが慣れた手つきで再度硬くきっ立たせる。キマワリさんへ何やら耳打ちするとふたりしてかがみ込み、双子のイーブイが仲良く手を握りながらそれぞれの石へ触れるように、頬と頬がこすれるほど顔を近づけ、再度(みなぎ)る肉勃起へと熱視線を注いでいた。彼女たちの顔とペニスを背比べさせるような背徳的すぎる構図に生唾を飲む。やにわに鼻息を荒げる私を上目遣いに見上げながら、横に並べられた大小の口が、タイミングを合わせるようにもにもにと動いていた。
「……嫌な予感がするんですけど」
「あはは、パラくんまだまだ我慢しておかなくちゃあだね」
「こんなのされる私の方が恥ずかしいですってばああぁっ!」

 果然、予感は的中するようだった。




4 


 私の左前肢()側にはレディアンさんの顔、右前肢側にはキマワリさんの顔。ペニスを挟んで見つめ合うよう肉薄した彼女たちは、突き出した舌を笠裏の細ひだへひっつけ、ぴたぴたと淡く蠢かせていた。舌肉で持ち上げられた笠縁は過敏な裏面を暴かれ、張り出た笠肉はまるで波にたゆたうプルリルのように揺り動かされる。
「パラセクトさん……っ、すき、好き……です。すきだよっ。っその、おち……おち、んちん……きぁ、気持ち、い?」
 愛情深いしゃぶり方をするキマワリさんは、もともと細い目をさらにうっとりと閉じ、舌先から伝わる私の熱をつぶさに感じ取っているようだった。小さな獲物の反応をつついてうかがうケララッパのように口先で啄んだり、竿へ横から口を寄せ、はむり、と挟んだ大振りの唇を左右させ唾液をなすりつけたり。レディアンさんと一緒にやる分には恥ずかしさも半減するのだろうか、大胆に舌を動かしている。いつも本当はこれをやりたかったの、とでも述懐しているようだ。レディアンさんの授業内容を思い出しながら反復するかのような丁寧さで、多彩なキスを織り交ぜながらあくまで優しくペニスへと口づけていた。地べたへ胸を伏せるようにしてつんと突き出された尻は、下腹に募る疼きをどうにか逃そうとしているのだろう、恥じがましくもぞもぞと揺らされている。
「あは、それボクの口真似かい? ひまりちゃん恥ずかしがり屋さんなんだから無理しないでもいいぞ。それに……さ。そんなこと、訊くまでもないんじゃあないか?」
 いっぽう飄々とした顔つきを崩したレディアンさんは容赦のない吸いつきっぷりを見せつけていた。前回3匹でまぐわった時からブランクを開けていた彼女は、久々のまぐわいにペニスへの欲求を隠そうともしない。教本となるべく繰り広げていたねちっこい愛撫はどこへやら、蔓の鞭のようにはためく舌はことごとく私のいいところを刺激してくる。キマワリさんの口で覆われていない粘膜を目ざとく見つけ出し、鈴口、笠まわり、裏ひだ、筋をなぞり、私の甲殻へ側頭部を預けてまで虫孔のしょっぱさを味わいつくす。小さな口はそのぶん吸着力が高く、れりゅりゅりゅ、ちゅずずず……! わざとらしく蜜音を立てるよう下品に窄まされていた。
「ふ……フぅ、っぐ、あああっ、気持ち、よすぎ、ですうぅっ! 」
 慣れた躍動で笠裏までこそいでいく小さな舌と、アゴジムシの歩みめいてゆっくりと這う肉厚な舌。感触の全く異なる二枚舌に挟まれ、肉幹が交互にぞりぞりと舐め上げられる。ふたりとも私のペニスを取り合って舌を押しつけていた。凍ったヤチェのみをどちらが早く溶かせるか競っているかのように、お互いの頬がすれ合うほど近く並んだ顔が肉感的に動く。伴侶と決めたつがいたちから一心不乱に求められ、下火になりかけていた射精衝動が一挙に襲いくる。あと少し、ほんの少しだけ摩擦が強ければ……! 舐められた媚粘膜から成長剤を塗りこまれているかのように、寸止めに狂わされたペニスが赤黒く腫れ上がっていた。虫と植物、どちらの生殖本能もいたく刺激され、それらのシナジーが己の遺伝情報を送りこませろ、と我先にせめぎ合っている。
 竿を横から口で挟みもにもにと咀嚼しているキマワリさんを眺め触覚を揺らし、レディアンさんはペニスを自分の顔の方へ傾けてやる。すかさず幅広い口が進攻を深めた。ペニス全体がキマワリさんの生温かな肉の巣穴へ寝かせられ、ぎゅむぎゅむと締めつけてくるそこが精を放つべき胎内なのだと錯覚する。口端からわずかにはみ出るのみとなった笠頭へ吸いつくレディアンさんの唇は、膣奥までがっつりと結合を果たしたペニスの射精口が、柔らかく花開いた壺口と深くキスしているさまを見せつけられているようで。
 私の妄想を知ってか知らずか、意地悪く口を離したレディアンさんは期待しているようなとろけ顔で舌舐めずり。
「あは、ひまりちゃんのお口ならパラくんのちんぽ、まるまる呑みこめちゃいそうだねえ」
「んぁ、んきゅむっ?」
「っあれは、ふくぁ、ッそうですねっ、あれは――はぁぁッ、とても、心地よかったですよ……」
 おしゃぶりを止めようとしないキマワリさんに代わってとっさに答えると、レディアンさんは呆れたように複眼をたわませる。
「うわぁ……。ボクが知らないってことは、それ初めてシたときだろう? ひまりちゃんまだ慣れてないってのに、もうそんなヒドいことさせていたのかいパラくん」
「ちっ違います! あれは彼女がやりたがったからで……っ! 誘導尋問だ!」
「キミが勝手に自白しただけじゃないか。そんなわるいキノコにはお仕置きしないとだな……。ひまりちゃん、アレ、やろっか」
「うん……っ!」
「ま、まって、くださいッ、そろそろイかせてくれないと、ほんっと、ヤ、ですからね!?」
 尻先をカリカリと引っ掻いていた白い手が回され、石づきを締め上げるように輪をつくり雄槍をまっすぐ固定する。どこを見ているか判別つかない眼と眼でタイミングを合わせると、ふたりの口が同時に笠先へ寄せられた。短く薄い舌と広く厚手の舌、左右から覆い包むようにねっとりと押しつけられ――、高速で舐り回し始めた。
 魚の背骨にこびりついた脂身をほじくる強さで、2枚の舌が素早く這い回る。レディアンさんがひとりでやってのけた攻め立て方を、今度はふたりがかりで。笠頭の滑らかな丸みに唾液を擦りこみ、肉縁へ唇をひっかけ、裏筋を小さな歯で弾く。ベロが翻り、血の通った裏側の艶かしい肉色が垣間見える。大きなブラシと小さなブラシ、どちらをも駆使してペニスの垢をこそげ落とすような徹底ぶりだった。そのあまりにみだりがわしい舌づかいに、ペニスを膣壁に揉みしだかれていると勘違いした精虫どもがこぞって出口を目指し暴れ狂う。これだけでイけそうだった。あくまで先っぽの快楽を引き立てるように手の輪は甘々と石づきを上下する。極上の舌さばきに先走りを汲み上げられながら、笠縁をぶわりと広げて雌堕としの悪臭を贈呈するペニス。射精する本能に呑みこまれ、六肢は根元からがくがく打ち震えた。もう――もうイける。ようやく出せる! 迫りくる遺伝子排出の途方もない悦感に、くぐもった快哉(かいさい)が喉から漏れる。
 私が下腹へ力を宿した瞬間、どぎつい笠肉へ殺到する舌は示し合わせたかのように、ふ、と触れる面積をゼロにした。
 ――まただ。
「そそ、タイミングばっちし。ひまりちゃん思った以上に器用じゃないか」
「きゃふふ……。パラさんは、これが好き……なんだね。っふ、覚えたよ」
「――っはぐゥ、そうっ……ですけどッ、ちが、います、フッ、今は出したい――出したいぃいい!」
「あはは、パラくん気持ち良すぎて泣きそうなのかい? 幸せなこったねえ」
「そんなわけ――っあ゛ぁあああ!」
 魂の叫びを代弁するかのように、白い手の中でどっく、とペニスが1度大きく跳ねる。先走りの透明な粘液に濁る、一目散に飛び出した精子の先陣。惜しむらくも後を続かない半白濁液は、むなしく笠肉を垂れ落ち裏筋へ糸を引いた。
 とっさに舌ですくい取ったキマワリさんは、その濃厚な私のにおいに脳まで痺れてしまったらしい。ベロを口に収めることもできないまま宙に留まっている。震えるその舌先へ誘い寄せられるようにして、レディアンさんが噛みついた。扁平な舌粘膜からしみ出した蜜を吸い、甘噛みするうちに前肢がキマワリさんの後頭部へ回される。そっと引きつけるようにして、そのままふたりの口がくっついた。
 形も大きさも異なる唇どうしがぶつかって、ちゅぷ、柔らかく潰れる。舌をひっこめた幅広の口は呆気にとられ呼気を震わせるばかりで、拒絶の意図がないことを確かめた甲虫の口はその端をニッと持ち上げ、間髪入れず大ぶりな上唇へ再びしがみにかかる。
 ちゅ……ちゅっ。んゃ、ちゅぷ、んぢゅ、んきゅふぅ、ぢゅ……ちゅぷぷっ。
 頭を支える(がく)の凹凸を撫でられむずがるキマワリさんの声に混じる、柔らかな口先どうしがぶつかっては離れる音。私の先走りか彼女たちの唾液か、こぼれ落ちそうになったそれを矮小な舌が受け止めて、そのまま相手の唇の隙間へ忍びこむ。短い舌を懸命に伸ばして相手の口内を跋扈しているらしい。太陽光を編みこんで絨毯にしたかのような頬肉が内側からわずかに膨らむたび、くぐもった喘ぎが漏れ聞こえてきた。花の蜜を堪能する羽虫のように鼻先を集合花(しゅうごうか)の産毛へと(うず)め、甘く濃密な草熟(くさう)れのにおいを取りこもうとしている。元から赤く余裕そうだった顔もとろんと頬を上気させてきていた。
「――ぷぁは。っあは、いいね。目、閉じないで」
 どこを見ているか分からない複眼をひとつひとつ妖しげに潤ませて、息継ぎついでにレディアンさんが囁いた。たったその一言が魔法のようにキマワリさんを(ほだ)したらしい。喉元からわずかな抵抗が抜け落ち、一旦引っこんでいたベロを出して応えていく。しきりに顔を傾けながら口の外で舌を交わらせ、私のエキスを共有するように溢れた唾液を酌み交わしていた。弾む息の合間に粘着音が響く。ぬる……ぷちゅ、じゅ、れりゅ。んぷ、ぢゅ。ねちょちゅ……るるっ。色味も質感も異なる大小の舌先が交互にうねるさまは、熱帯夜に繰り広げられるバルビートとイルミーゼたちの求愛ダンスのよう。そのどちらの舌とも絡めあったことのある私には、眼前に見せつけられた行為がいかに心地よいものなのかを知っている。重なり合う唇の隙間から溢れたよだれが私の腹まで糸を伸ばし、のたうち回るアーボのようなしみを作っていた。
 雌に飢えた雄のするがっついた口吸いとは縁遠い、雌どうしの唾液交歓はある種の神聖さを纏いつつもあまりに蠱惑(こわく)的で、私はつい見惚れていた。忘れてないよ、と目くばせするようにレディアンさんの白手でペニスを撫でられ、その粘着質な感触にようやく先走りをだくだくと滲ませていたことに気づいたほど。
 指先ですくい取られたそれは舌どうしの睦み合いに継ぎ足され、ネコブのぬめり汁めいた粘性を見せつけながら唾液へと馴染んでいった。
「ん……、ちゅ、ふ、ぅ……。女の子とするなんてボクも初めてだったけど、これはこれでいいものじゃないか。あま〜いミツの味がしたぞ」
「は――っ、はあっ、はヒ、きゃははぁっ、ふぅ…………」
「……そんな調子で大丈夫だろうね? これからが大事なとこなんだからさ」
「っあ、ふ、ぅぅ……っ。うん、も、息できるから……」
「ずっと息を止めてたのかい? にしても……」
 呆れ気味のレディアンさんの手が浮いて、だんまりだった私のペニスをつん、と弾いた。肉欲を落ち着かせる猶予は十分あったのに、粘膜は乾くことなく漲ったまま。
「あは、窒息しかけた甲斐はあったみたいだぞ。見てごらん、パラくんのちんぽ……見たことないくらいバッキバキになってる。キミはこういうのも好きなのかい?」
「わ……、パラさんすごい顔してる……」
「ぐ、……! ご、ごめんなさい、怖がらせるつもりは、ないですから……ね」
 (おのの)くキマワリさんへ謝罪が口をついて出たが、それはほとんど私自身に向けて発した慰めのようなものだった。ふたりの接吻があまりに艶美だったせいで、これは私の意思とは無関係なのだ、と。腹の上でひとりでに跳ね転ぶペニスを細腕でいそいそと隠し、ぎこちない笑顔を取り繕う。
 怯えたような顔こそすれ、キマワリさんの仕草は興奮の色を隠しきれていなかった。雌どうしのキスですっかり赤らめた顔を両手で覆い隠し、その隙間から私の表情と股ぐらへ交互に視線をくれている。演技のように閉ざされる顔まわりの花弁はむしろ、かえってペニスへ釘付けになってしまったことをありありと明示しているもので。
 レディアンさんも分かり切っているのだろう、葉のひとつをペニスへと導いて握らせた。
「じゃ、今度こそひまりちゃんひとりでやってみるんだ。ボクが横から監督指導してあげるからさ」
「んえっ!? 見ちゃダメ……だよ、そんな、恥ずかしいし……」
「ボクのお手本さんざんガン見してたのに?」
「う……、で、でも、でもぉ……!」
「ほっほら、キマワリさんも乗り気ではないみたいですし。もう交尾しちゃいましょ……」
 ぐずるキマワリさんに助け舟を出す。けっきょく放精できなかった私の下腹はゴーストが取り憑いているかのように重かった。なんとしてでも精液を排出しなければ。このままでは生殖液の増産を続ける精巣が破裂してしまう!
「それじゃあひまりちゃんのお勉強にならないだろう」
「いい加減出したいんですけっどお!」
 私とキマワリさんから(たしな)められ、手のひとつを顎へ持っていきレディアンさんは困惑したように私たちを交互に見やる。かと思えばすぐににたついた得意顔。……私とキマワリさん、どちらに対しても会心の悪ふざけを思いついてしまったか。
 気後れするキマワリさんの背中へ気づかれないよう手を回し、案の定レディアンさんはくぐもった笑いで喉をひきつらせた。
「仕方ないね。パラくんの弄り方を教えるより先に、ひまりちゃんを弄ってあげなきゃいけないみたいだ」
「……ふぇ?」
 妖しげに複眼を(すが)めたレディアンさんは、素早く身を(ひるがえ)しキマワリさんの後ろへ陣取った。あたふたする植物の体へ背後から手が伸ばされたかと思うと、するり。ヤドリギの種が宿主を深々と縛りつけるように、その黒い六肢が汗を浮かべた安産体型へとへばりつく。
「っきゃ!? れいちゃんっ、なっ何して……!」
「何って、ナニするためにキミの体も心もほぐしてやろうと思ってさ。ちんぽ舐めただけでこんなに濡らしてるってのに、この期に及んで恥ずかしいとは何事だい?」
「きゃヒ――!?」

 縮こまっていた股をひょいと持ち上げられ、きゃああああッ!! 天高くキマワリさんの悲鳴が木霊した。




5 [#8JV5huT] 


 背後から回した前肢を冗談めいてワキワキ動かすレディアンさん。中肢は彼女の4分の1もない体重をしたキマワリさんを軽々と支えつつ、旬まっさかりの桃尻を手のひらで転がすように揉みしだいているようだった。前肢の先がきゅっと閉じられた内腿へ伸びる。キマワリさんは顔を覆いつつ身を暴れさせていたが、首筋を不意に舐めあげられたらしく、ひくんっ! 敏感な箇所への粘着に緩んだ緑の脚をあっけなく左右へどけられていた。
「きゃやああああッ!? なんでっ恥ずかしいよおろして、れいちゃん降ろしてよおっ!!」
「やだ」
「んキャ!? ヒぃぃっひどいっ!」
 凄絶な光景だった。
 私の眼前に吊り下げられる、キマワリさんのふくよかな下腹部。普段は目を凝らしても見えないような縦割れが触れられるまでもなく暴かれ、ほっそりとした腿では隠しきれないほどその存在を主張していた。クチクラの肌に羞恥と興奮の紅を乗せた陰唇はまるで飾り切りされたイトケのみのようで、私に食べてもらうべくその果肉をみずみずしく綻ばせている。バトル後に水浴びをしてもなお落ちずに染みついた汗の、若い植物特有の青っぽい、それでいて虫をかどわかす甘い芳香が立ち昇ってきた。
 身悶える彼女の肉つぼみへ、レディアンさんの前肢のひとつが吸い寄せられる。ホバリングするアゲハントのように柔らかな不時着を迎えた蜜腺が、ぷちゅり、湛えていた雫を弾き飛ばした。きゃあんッ! 足先を跳ね上げたキマワリさんのあだっぽい声を耳にしながら、私の顔まで飛沫した淫蜜を舌ですくいとる。さらりとした、しかし喉の奥にこびりつくような重みも併せ持った、南国のナッツから抽出したようなキマワリさんに特有の愛液。精油とでも形容すべき油っぽく濃厚なエキスが、ベロを焼き焦がして私の官能へ浸透してくる。
 首後ろのうてなをくすぐっていたレディアンさんの手が繊維質な鼠蹊部へ引き戻され、総動員された4つの白い手が股ぐらをさわさわと撫でている。私の視線を誘うよう両の前肢がひらひらと飛び、やわっこい指先が肉つぼみへ引っ掛かった。そのまま左右へ退けていく。くぱぁ……、ご丁寧に開帳させられたキマワリさんの秘部は菊門のひきつけに合わせて大きくうねり、そこからあぶれ出た果実油は幾筋にも分かれて柔尻を深緑に湿らせていた。
「どーだい、ひまりちゃんのココ。もうぐしょぐしょだろう」
「あ、あ、あっ、だ……ダメっ、パラさんっみちゃ、見ちゃダメええっ……!」
「ぅ、わ……!」
 まだ何もされていないのに、ペニスを口で愛撫しただけで。発情期を迎えた彼女の期待に応えるよう数度交尾してきたが、こんなに興奮しているのは初めてだった。口ではダメと言っておきながら、顔を覆うくらいでさしたる抵抗もなくレディアンさんの胸に収められているあたり、もうすっかり私を信用しきって視姦されることさえ快しとしているのかもしれない。
 舌で転がしたキマワリさんの愛蜜からフェロモンが浸透し、私の脳幹をビリリとくすぐった。虫孔から飛び出したペニスがびくん、ひとつ大きく脈動し、宙ぶらりんなキマワリさんのかかとを叩く。啓蟄(けいちつ)の頃に巣穴から這い出すアゴジムシも、これほどあせって硬く蛹化したりはしないだろう。
 彼女の細い首に自らの首をひっかけるようにして、レディアンさんが私たちの昂りようを覗きこんでくる。ひまわりの群生でかくれんぼしているみたいに、柔らかな触覚がぴぴぴ、と楽しげに振動していた。
「うわぁ、ひまりちゃんのおまんこってこんなになってるんだ……。ぷにっぷにで、ちょっと押しこんだだけで指に吸いついてきてさ。ここにちんぽ入れたらさぞ気持ちいいだろうねえ。こんな極上まんこを好き放題できるパラくんが羨ましいなあ」
「や――やめてぇ、きゃぃ、ひ、きゅうぅぅ……!」
「観念したらどうだい。さっきフェラしてるとき、隠れておまんこ弄ってたのバレバレだったぞ?」
「きゃ――!? ぃヒゃあアアぁっ!!」
 いかにも痴女らしい秘密を暴露され身悶えるキマワリさん、その枝葉は4つの白い手であえなく抱きすくめられ、すでに濡れそぼった肉つぼみをいじくり倒されていた。何もしていなかったよ、なんてはぐらかすには赤く熟しすぎている陰唇は、軽く指先で押されただけで柔軟につぶれて形を変える。私のもので何度も腹奥を小突き回されたときの欣快を思い返して隠れつつ自慰してくれていたのだとしたら、なんといじらしく淫乱なことか。
 レディアンさんは慣れた運指で秘裂へぐいぐい探りを入れる。ずちゅっ、ぢゅッぶ、ミツハニーの隠した蜂蜜を樹のうろからほじくり出すような音が耳朶を打つ。雌相手でも持ち前の器用さを発揮できるのか、はたまた同じ雌として膣のどこで快感を得やすいか把握しているからなのか。長くない指先がちんまりとした肉つぼみを無遠慮に撫で拡げていた。
 食物繊維で編みこまれたキマワリさんの体はムシのそれよりはるかにしなやかで、あれほど小さな入り口からでは想像のつかないような包容力を見せてくれる。濃い愛蜜で湿りきった肉園の内部は、細いひだがなだらかに重なり合い、指であらためるだけでも心地良いのだろう。無骨な私の爪では味わうどころか傷つけてしまいかねないそこの具合を、レディアンさんは自慢げに見せつけてきた。錆びたコイルのねじ穴に油を差してやるような加減で陰唇の裏で円を描き、腫れてだぶついた肉を持ち上げる。ぬぽ……、と引き抜かれた指にはべったりと愛液の油膜が粘着していて、秘孔はその内部の肉ひだのひくつきまで見えてしまうほど花開いたまま。
「ひまりちゃんの中、奥の方までギッチギチに詰まっている感じなのかい? けっこうボクとは違うつくりなんだねえ。……っあは、ここ、どう?」
「――っぁ、きゃ、はきゃぁああああっ!?」
 じゅくじゅくぢゅくじゅちゅっ! 膣の浅いところを強めに何度も掻き出されれば、キマワリさんはきゅっと足先を丸めて強張った。数秒としないうちに控えめな絶頂へ導かれたらしい。柔らかくレディアンさんを迎えいれた肉つぼみはきゅっと引き締まり、下半身を中心にぷるぷると震え上がって入り口でイく快感を堪能している。食いこんだ白い指を私のペニスと勘違いした膣肉が子種を搾り取ろうとうねうね脈動し、また息を止めていたらしい、一拍遅れて彼女が大きく空気を吸いこんだ。下腹部の脱力に合わせ膣口から、こぷ……っ、まろみのある精油の塊が噴きこぼれる。1度イった植物体は体温を底上げし蒸散を活性化させたようで、股ぐらを中心にびっちりと玉の汗が浮き出ていた。吸いこんだ私のキノコの髄質を甘ったるくとろめかす、発情を露わにしたキマワリさんの草いきれ。
 付着した愛蜜を見せびらかすように舐めとって、上機嫌にレディアンさんが指先を滑らせる。つるりとしたキマワリさんの腹の中央、秘められた雌の快楽器官をいやでも意識させるよう、圧力強めに円を2周。
「入り口でもしっかり気持ちよくなれたみたいだけど、ひまりちゃんは……ここだよね、ここ。奥をトントンされるのが大好きだって言うじゃないか」
「きゃふぁ、すき……っ、そこ、パラさんにとんとんされるの、すきぃ……!」
「あはっ、随分と素直になったじゃないか。そうそう、ここへ執拗にパラくんのちんぽをゴリゴリ擦り当てられちゃうとたまらないんだよねえ。……ってパラくん? そんなに見入って、もしかして妬いちゃっているのかい?」
「い、いえ、そんなことは……」
「んーん、忘れてないからさ。ぁは、ごめんごめん、拗ねないでくれよ」
 ひまわりの陰で痛いほど勃起させていた私に目ざとく気づき、レディアンさんがチロリと舌を出してみせる。キマワリさんの蕾いじりに没頭していたことを謝るというよりむしろ、次はパラくんの番だぞ、と舌舐めずりをしているよう。
 くったりしたキマワリさんを抱えたままの中肢がひとつ下へと伸ばされ、萎える気配を見せず猛り狂うペニスを捕まえる。油めいた愛液でぬるつく白い指先が笠裏の敏感ひだをくすぐり、私は目を伏せ(こた)えたような息を吐いた。今度こそ射精させてくれ! 再三繰り返される悪辣な肉棒いじめに、もはや反応を隠す気概もない。イライラを募らせるペニスが蜜をコーティングするようにゆったりと包みこまれる。低刺激性な指の輪っかが緩慢と上下するのに合わせ、わずかでも摩擦が増幅するようこちらも情けなく腰をへこつかせた。
「あぅ、フっ、レディアンさ、もっと……!」
「あっはは、パラくんも素直になれたもんだねえ。仕方ない、そろそろイかせてあげるとしよう」
「あっありがとう、ございます……ぅぅう」
 情けない感謝の意が口をついて出た。ペニスへの摩擦こそ軽微なものだったが、興奮材料には事欠かない。敏感な粘膜へ塗りつけられた精油は含有するフェロモンによりムシとキノコの野性をいたく催し、私の眼前にぶら下がるキマワリさんの下腹部が腰遣いに拍車をかけた。よほど気持ち良かったのだろうか、キマワリさんは油照りの太陽を仰ぎ、葉でひさしを作って放心している。淡く潮を漏らした肉つぼみは手で隠されることなく、蜜を湛えたまま赤く陰唇をさらけ出し、ふやけた開閉を繰り返していた。
 蔦植物のようにくったりした彼女を支えるレディアンさんは汗みずくの柔尻を抱え直すと、ペニスを扱きやすい体勢になるためだろう、膝立ちのまま1歩こちらへ近づいた。むっと漂ってくるキマワリさんのトロピカルな芳香に煽られ、反射的に私はない首を伸ばそうとする。あと少し口を近づけられれば蜜腺を啜ることのできる距離、そのわずかな隙間を埋めようとベロを伸ばし、レディアンさんの呆れ返った複眼と眼が合った。無様だなあ、とでも(あざけ)るような哀れみを含んだからかいの表情。――っああもう、笑いたきゃ笑えばいいじゃないですか!
 間近で嗅いだ雌のフェロモンにますます剛直したペニス、その根本が手のひとつでしっかりと固定される。よかった、ようやくちゃんと扱いてもらえる。弾詰まりを起こしたペニスは歓喜に打ち震え、精嚢がもぬけの空にされることを心待ちに先走りを噴き出した。が、そのまま(さす)ってもらえる気配はない。何事かと訝しむ私の気を引きつけるよう、レディアンさんが妖しく口を動かした。
 が・ま・ん。
 性悪な唇がまた魔性を囁いた。何を、と疑問を発するまでもなく、ペニスの笠頭に柔らかな衝撃。とっさに視線を落とせば、血色よろしく先走りを滾らせたそこへ、熟れたキマワリさんの秘所がちゅむり、と乗せられていた。
「――っゔ?」
「きゃィひ!?」
 同時に短い悲鳴をあげた。反射的に突き上げそうになる腰をどうにか抱えこむ。かち合うハサミを振り上げつつ、正面のレディアンさんを睨みつけた。からかい常習犯の彼女は、木の器片手にきのみジュースを(あお)るような上から目線で、くつくつと私たちの反応を楽しんでいる。
 してやられた。まるで初めて訪れた発情期に当惑する雌雄へそのいろはを手ほどきするような、雄としてのプライドを嬲りものにする挑発。もしこのままイってしまったら? 次の交尾から鬱陶しいほど煽られるだろう。
 彼女の前肢でキマワリさんの秘肉がにゅち、と引き延ばされ、突きこむべき膣穴の位置を私へと教えてくる。びちゅん……っ、重い愛液が潰される淫靡(いんび)極まりない音。蜜のしたたる陰唇へ笠先が触れただけで、にゅぷんっ、あるべきものがひとつになるように勝手に呑みこまれた。押し出された粘性の液体がペニスの柄を伝っててらついている。この先は沼だ。体の相性がぴったりの相手からもたらされる、極上の快楽にどこまでも耽溺(たんでき)してしまう沼。
「っお、ぇ、入って……!?」
「あ、ああ、キャふぁああぁ……っ!?」
「……どうしよっかな? ボクそろそろ腕が疲れてきちゃってさ」
「ぐ、ウぅぅっ、ちょっとレディアンさん!? 冗談もいい加減にしてください……っくゔ、でないと、本当に、怒りますからねッ!」
「――きゃあアアアアッ!」
 夏空をつんざいてキマワリさんが今日いちばん鋭く雌悦に叫ぶ。背後のレディアンさんが腕を緩めたあとのことを想像してしまったらしい。私の形を覚えるほど馴染んだ彼女のすぼまりは、重力と潤滑に従い私の剛直をひと思いに飲みこんで、彼女が意識させられたいちばん良いところ――子宮口を強烈に打ち上げられるだろう。そう悟った膣口が闖入(ちんにゅう)者を歓待するようにうねり狂い、ふやけるほど舐めまわされた笠肉へ浅ましく媚びすがる。
「ぅあああッ、ちょっと、キマワリさんっ、膣をうねらせないで……ッあくぅ!」
「し――ッ知らなぃっ、わたしそんなことしてにゃ――ひきゃぁああんっ!」
 キマワリさんを気遣ってやれる余裕なんてない。震える彼女の腰へじわじわと笠先が沈みこんでいき、張り出した笠縁までがねとつく肉壁に見えなくなった。熱く、狭く、弾力に富んだ泥沼。エレキネットで一網打尽に水揚げされたヨワシの群れへ飛びこんだかのように、無防備な露先粘膜が揉みくちゃにされる。かえしのように膣口へ食いこんだ笠裏の粘膜ひだから、1度絶頂したキマワリさんの熟れ具合が如実に伝わってきた。長らく待ち望んでいた雌穴との結合にあえなく泡を吹きかける。
 白い眼を白黒させる私を満足げに眺めながら、レディアンさんは頭上のひまわりにも聞こえるよう高らかに(うそぶ)いた。
「パラくんずいぶんと辛そうじゃないか。ぁは、さんざん焦らして悪かったね、このまま膣コキしてあげよう」
「な――」
 笠頭を陰唇にしゃぶられたまま、キマワリさんの体がわずかに揺すられる。先っぽだけを出し入れするような淡い抽挿は器用にも外れることはなく、ず……っ、ずっぷ……、ずにゅッ、次第に深く沈むように何往復とこなされた。キマワリさんの体がわずかに持ち上げられるたび絡みついた肉ひだが笠縁にめくり上げられ、むき出しになった膣壁を巻きこみながら露先が隠される。接合部からしみ出していた愛液はぴちゅぴちゅと接吻のような音を奏で、これからの交合を耽美なものにするべく笠肉を潤していた。交尾しているときに結合部へ注視することなんてほとんどなかったせいか、改めて見る粘膜どうしの睦みあいはあまりに扇情的だ。血管をむき出しにした、傷がつけば致命的な深部どうしをこすり合わせる行為は、生命の根源的な営みをまざまざと突きつけられているよう。
 待ちに待った雌体だと錯覚した本能が腰を突き上げようとする獰猛な衝動、それをどうにか黙らせる。こんな、交尾不全の雄を慰めるような辱めが受け入れられますか! しなだれかかってくるキマワリさんの膨らみを、爪先を丸めた後肢でやんわりと押し返そうとするも、柔肌へ食いこむ爪の甲へさらなる重荷をかけられてしまった。支えとしている肢が彼女の汗で滑れば、そのまま深々と繋がってしまうだろう。想像しただけで怒張と堪忍袋の尾がはち切れそうになる。
「きゃぃいぃ……ッ、あ、きもち、イっ、パラさんっ、きもち、いいよぅ……!」
「ボクの指よりもヨガってるねえ。よかったじゃないかパラくん、ちんぽ冥利に尽きるだろう?」
「ふっ、フウゥーっ、ぐっぅ……!」
 レディアンさんに真っ当な抗弁もできないまま果てるのは甚だつまらないが、キマワリさんが感じているのならもう、このまま、交尾してしまってもいい……はずだ。そう私が思い始めた矢先、暖かな体重がふっとどかされる。どうにか背後からの呪縛を逃れたキマワリさんが長い足先をぐっと芝生へ突き立たせ、ふらつきながらもこれ以上結合が深くならないように体を支えていた。
「きゃあ、れいちゃ、もう、だめ、ダメえええっ! こっこれじゃ、きゃわわッ、わたしのお勉強にならない、から――あアアっ!」
「ム……、すごいな。ひまりちゃんがここまでされて我慢できるなんて思わなかったよ」
 意外な胆力を見せた彼女に感心したらしい、レディアンさんは抱えていた雌株を持ち上げた。にゅぽ……、ペニスを外された肉つぼみはヘタを取られたタポルのみのように油ぎった愛液をだだ漏れにし、掲げあげられた柔尻の内股をぐっしょりと濡らしていた。レディアンさんの拘束を振り解いて力尽きたのか、粗相をしてベソをかく仔どもじみて無抵抗なキマワリさん。横たえられた草藁のベットからわずかにはみ出しながらも、私の隣で優しく寝かしつけられていた。
 すっかり(なず)んでしまったキマワリさんは横臥のまま身を抱えるようにして、震えた喘ぎを垂れ流すばかり。内股に折りこまれた足は膝が笑い、その股ぐらは漏らしてしまったように水浸しになっていた。背中のキノコの縁に葉が絡みつき、抱き枕のようにされたそこへ暖気の振動が伝わってくる。
「……あは、ばてちゃった?」
「やりすぎですよもう!」
 悪気もなく笑うレディアンさんは腕の凝りをほぐすように六肢をうんと伸ばしている。そのうちのひとつがペニスへと纏わりつき、山漆でかぶれたように腫れあがった肉幹の硬度を確かめていた。
「パラくんはまだまだ元気だねえ。やるぅ」
「誰のせいでこんなになってしまったと思ってるんですか……っ」
「じゃーボクが、ひまりちゃんより先に楽しませてもらおうじゃないか」
「……覚悟はできていますね?」
 これまでかき立てられた分を乗せて喉を低くくぐもらせるも、レディアンさんはどこ吹く風と私の腹をまたぐ。凝り固まっていた中肢と後肢をほどけば、私のものと同程度に細ましい彼女の肢が滑りこんでくる。もう逃がしませんからね、と付け加えるように肢先を彼女の背中に回し、閉じた翅の上から甲殻を押さえつけ、関節に爪を浅く食いこませた。
 レディアンさんがほくそ笑む。
「へぇ……それは楽しみだ。ところでパラくんって、下からでも満足に動けるんだったかい?」
 ぎく。彼女の指摘はごもっともで、転覆した体勢からではろくに腰も動かせない。もちろん彼女は私の強がりなんぞお見通しで、わざとらしく肩を竦めている。なけなしの腹筋でペニスを虫孔あたりへ擦り当ててやるも、大して効果はないようだった。
「…………。覚悟はできていますね?」
「あはははははははは」
 勝ち誇った高笑いがどこか恐ろしげなのは生まれつきなのだろう、抑揚に乏しいそれは夜に響くムウマージの呪文じみていた。呪術の生贄に捧げられた私をその身に取りこむべく、6本肢と6本肢を互い違いに絡み合わせ、中肢のひとつでペニスをまさぐりながら、レディアンさんがゆっくりと腰を落としていった。




6 


 ビビッドカラーの外殻に守られた胡粉(ごふん)色の柔らかな腹、そこよりももっと柔っこい肉の谷間へ、笠先が軽く沈みこむ。竿を握ったレディアンさんの白手が揺すられ、笠肉へべっとりと付着したキマワリさんの潤みを奪い取るように虫孔をかき混ぜられる。くちゅ、くっち、にゅち……。聞こえよがしに立てられる粘着音は、狸寝入りをしたまま耳をそば立てているはずのキマワリさんを恥じ入らせるつもりらしい。
 慣れているとはいえ体の硬いレディアンさんの虫孔はじっくりほぐしてやることが肝要で、最奥から彼女の蜜を誘い出すように薄い肉唇を捏ねつけていた。――もっとも、そうしているのは彼女の意思なのだけれど。
「ンふ……っ、キミたちの反応がいちいち可愛くってさあ、もうイっちゃいそうだよ。ボクも相当興奮してるねこりゃ」
「私とキマワリさんほどじゃ、っゔ、ないで、しょう……!」
「まぁね」
 レディアンさんは得意げに上体を起こし、私にもよく見えるよう細ましい太腿をはしたなくがに股に開いた。中肢のひとつは後ろ手に私の尾節を掴み体勢を固持し、もう片方は幹横をぐっと支え持つ。前肢はふっくらとした腹を縦に走る溝をなぞり、両手で見せつけるように薄い肉唇を引き延ばしていた。こうでもしないと靭皮(じんぴ)のような彼女の膣口は私の笠先すら受けつけないことがある。そのまま腰を小刻みに揺らし、ぬちぬちと鈴口まわりで捏ねられていた。露先がのめり込むことのできそうな角度を探すうち、攪拌(かくはん)された虫孔が次第に拡がってくる。キマワリさんが覗きこんだら卒倒しそうなほどすけべたらしい光景に、引き伸ばされた肉膜へ食いこんだペニスがびくついた。
 竿先を肉唇へうずめ込んだだけだが、虫と植物、ふたりの膣つきの違いがありありと感じ取れた。キマワリさんの肉つぼみはまさに花弁のようにたおやかで、じっくりと圧をかけ続けるだけで呑みこまれ、複数ある狭窄のポイントのひとつ目まで難なく突き入れることができる。緻密に揃った肉ひだが強い拒絶感をもたらしながらも、彼女が足から水を吸い上げるときの根圧を彷彿とさせる吸いつきっぷりで歓迎してくれる。
 対してレディアンさんの虫孔は、それはもうキツかった。タマゴを4つひり出そうとも緩むことのない産道の入り口は弾力に乏しい肉輪を形づくり、適切な手順を踏襲せず侵入しようとする不躾なペニスを硬く拒んでいる。こうして柔らかくほぐしてやらねば繋がることもままならない。私の笠まわりよりも明らかに彼女の孔の直径のが小さいのだ。角度をつけ、厚ぼったく開いた縁肉を折りたたむようにしてようやく、ぎゅぽ、と挿入が果たされる。今ではもう慣れたものだが、初夜から数回は大きすぎる私のペニスをねじ込むだけで精一杯だったっけ。
 レディアンさんが描く腰の回転に合わせ、私も下から小刻みに押し上げる。あれだけペニスの侵略を拒んでいた虫孔は一転、笠縁まで繋がってしまえば射精するまで離すまいと締めあげ、奥から染み出した愛液と粘膜で執拗に絡みついてくる。削るようにエラ肉を押しつけても変幻自在に沈みこむふわふわの膣奥の柔ひだは、メリープが体当たりしてくるような衝撃を絶えず肉竿にもたらし、それがじんわりと痺れるほどに心地よい。キマワリさんよりもひと回り胴体の小さなレディアンさんの最奥は不思議なことにどこまでも優しく、じっくりといたぶるように私を包みこんでくれる。
 しばらく交尾していなかったせいか閉じきった膣口は容赦のない窮屈さだったが、慣れ親しんだ笠つきペニスだと分かると、数往復のうちに迎え入れてくれるようになる。何度も噛み合わせた肉棒と膣は、長年連れ添ったジャローダの夫婦がとぐろを絡ませるようにみっちりと粘膜どうしで繋がり、仲睦まじくつがい相手を慰撫していた。
 もっともそれは、下の口だけの話で。
「あーちんぽ久しぶりだ……。これこれ、パラくんのちんぽ()カリ首ぶっといのが最高なんだよね。なんだか生まれ故郷に帰ってきた感じさえするよ、パラくんに抱かれると」
「……まさかレディアンさんっ、籐を持っていく先で、他の雄虫に近づいていたり、ッぐ――、していないでしょうね!?」
「――だったら、どうしよっか?」
「ぬっぅ……! いつになく今日は、フ、煽りますよねえ!」
 種族すら分からない相手への嫉妬と杞憂で湯がかれたように発奮するムシの体、その海老色をした腹へもたれるようにして、レディアンさんが背中のキノコの前へりを前肢で掴む。両の中肢は私の腹を優しく押しつぶし、彼女が騎乗位を楽しむときの体勢になった。後肢の膝を曲げ伸ばしするような腰つきでペニスを味わっている。きつすぎる虫孔を潜り抜け膨らみを取り戻した笠肉へ、くちゅ、くちゅ……、と柔ひだが(ねぶ)りつく。
 (なぶ)られ続けてきた私としてはこちらからガシガシ攻め立ててやりたかったが、やはり体勢が苦しい。ぎち……っ、と石づきを食い締められたまま、腹側の甲殻を軋ませるようにしてねっとりと腰を使う。中肢と後肢で彼女の下腹部を引き下ろしながら、どこまでも沈んでいけそうな胎奥のやわっこいひだを肉縁でほじくる。きつく握られた石づきを支点として腰を回し、じっくりなじませる動きで子宮に届く寸前の粘膜を捏ねつければ、とろッとした愛液が蕩けて絡みついてくる。
 敏感な奥を拡げられるうちに感度が上がってきたらしい、レディアンさんの興が乗ってきた。上体をずり上げ、禍々しいほどにエラ張った肉笠を彼女の好きなところ――虫孔にほど近い腹側、綿密にひだの揃った膣天井のあわいへ押しつけ始めた。解きほぐれた肉輪から、ぢゅく、ぐっちゅ、と粘こい飛沫が掻き出される。快楽神経の寄り集まっている笠裏が何度も何度もまくり上げられて、私も吐息を震わせるほど気持ちいい。
 あれだけ得意顔だったレディアンさんも余裕がなくなってきた。腰の動きはそのままに、ムシの顔を真上から見下ろしながら、煽り立ててくる。
「ふ……、ふぅッ、どうだい? 媚薬キノコを盛ってまでボクに宣言させた、パラくん専用の、ちんぽハメ放題なキツキツ虫孔。そう心配してくれるな、キミとの約束を踏みにじるほど、ボクは不義理じゃないぞ。ぁはぅ……! 笠つきちんぽの形を徹底的に覚えさせられたおまんこ、パラくんのしか受け入れてないって分かるだろう? キミの精液のにおいがこびりついた子宮に向かって、どびゅどびゅって――んんッ、好きなときに好きなだけ、ぁふ、中出しっ、してくれていいんだぞ。発情期は過ぎちゃったけど……、んぁああっ、孕ませたがりなパラくんとのタマゴなら、できちゃうかも……っ」
「う――うウヴっ!!」
 ペニスのことしか考えられなくなったレディアンさんの、あまりにもさもしい言葉責め。いい具合にできあがった虫孔にペニスが浅ましくしゃぶりつかれ、あえなく肉笠を決壊寸前にまで膨れ上がらせた。
「ほらほらもう限界なんだろう? 慣れ親しんだボクのおまんこでイっちゃいなよ。うまくなったとはいえ早熟なひまりちゃんのだけじゃ……んふッ、満足できないんだろう?」
「……妬いて、っグ、いるんですか?」
 聞き返した途端、しまった、と心の声が漏れ聞こえるほど、レディアンさんは狼狽に複眼を(くゆ)らせていた。
 意外だった。
 夏が始まってからというもの「作りたいものがあるんだ」とはぐらかしながら、レディアンさんは余った籐の束を持ってフラッといなくなることがあった。極度にシャイなキマワリさんはその隙に発情を慰めていたのだが、つまりそれはレディアンさんが気遣って席を外してくれていたのだとばかり思っていた。まさか彼女がやきもちを妬いていたなんて。もしかするとわざわざ出かけていたのも、彼女が私とキマワリさんのまぐわいを見たくなかったから……?
「……いーや、そういうワケじゃないけどさ」
 ばつが悪そうにそらされる複眼。……これは本当に嫉妬しているな。気を良くした私は今こそ反撃ののろしを上げよ、とばかりに腰を下から律動させた。茹だりつつある脳に冷水をひっかけ、レディアンさんの気に障りそうなセリフを選び出す。
「ふッ、はは――はゥッ、そりゃもう、キマワリさんの方が、断ッ然気持ちいい、ですねっ! 騎乗位はもうレディアンさんよりも上手っ、ですよ……! お勉強するべきはあなたの方じゃないんですかぁ!!」
「言ったねえッ? っクはは、じゃあ、ボクのお粗末なおまんこなんかじゃ、っフ、いくら激しくセックスしたって、イかないってことだよねえ!?」
 狂いそうになるほどの強烈な射精衝動から一転、ぶわりと噴きこぼれた征服欲にペニスの根本をきゅっと閉じる。――こんなところで射精してなるものか。絶対にレディアンさんをヒィヒィ言わせてやる!
 複眼の端を吊り上げたレディアンさんが腰を振るう。ほぐれたとはいえ依然変わらずキツさを保ったままの虫孔が忙しく上下して、裏筋を満遍なく扱きつけていた。それでいてねっとりと膣ひだが絡みつく。膣天井のざらついた肉ひだ群は驚いたコフーライの毛のように逆立ち、ふわふわな泥濘(ぬかるみ)の中に鮮烈な刺激を含ませてペニスを擦り立ててくる。荒い鼻息に時おり挟まれる甘ったるく蕩けた声。興奮した雌のにおいが立ち上り、私の鼻孔を耽美にくすぐってくる。こちらから動かずとも搾り取られかねない円熟した交尾に、(こら)えていた私の息も上がる。下っ腹に力を込め、奥歯を食いしばる。
 いくら器用なレディアンさんとはいえ、硬い体を酷使した騎乗位はそう長く続かないらしい。攻めあぐねた彼女は一時休戦を訴えるよう中肢でムシの胴体へ甘えつき、ふわついた膣壁はペニスへ蕩けかかってくる。いつになくしおらしい反応を伺いがてら笠肉を彼女の弱りどころにぶち当ててやれば、はひゃぁああんッ! レディアンさんらしからぬ切なく長い悲鳴が樹冠をざわめかせた。びくんッ、とあけすけに腰が跳ね上がり、べっとりと愛液に(まみ)れた石づきが虫孔のあいだに現れる。根元さえこんなに濡らしているのならば、蜜壺に浸った笠頭の塩梅は推して知るべし、どうりで記憶していた深度よりも密着して迎えこんでくれるはずだ。
「……どうしました」
「んっひ、ひぅ……、ちょっと……んぁ、疲れただけ……」
「……わかりました。私に身を委ねていてください」
「あ……ぅふ、まだまだボク、やれるんだってば……ぁヒ」
 無理に足を立てようとして滑る彼女の腰へ片方ハサミを回し、ぎゅっと抱擁するように私の胸へ引きつけた。ささやかな脚力で支えられていた後肢は赤い甲を芝に滑らせ、重心を前傾にされたレディアンさんが前肢で背中のキノコのへりを強く握る。そこへ潜りこむようにして近づけられた顔には確かに疲労の色が浮かび出ていて。自ら腰を振るスタミナはもう残っていないらしい。
 疲れただけ、とレディアンさんは意地を張るが、それはもう降参していると同義であることに彼女自身気づいていない。前の春レディアンさんは「疲れていると果てやすいんだ」と陳述していて――それはまた私の忌まわしげな記憶と結びついているわけだが――つまり、今のレディアンさんは私が下から腰を打ち付けてやれば手もなく絶頂に漕ぎつけてしまうということだ。それこそ数度〝突かれただけ〟で果ててしまうくらいに。
 もう片方のハサミで彼女の頭を俯かせ、私の顔を覗きこむように落ちてきた口許へ、下から持ち上げるようなキス。強引さを纏いながらも甘々とした口づけに、レディアンさんの複眼がぱちくりと瞬いた。
「っわ!?」
 彼女が身じろいだ拍子に外れたペニス、外気に触れた先っぽを硬く屹立させながら、長年の勘をたよりに腹をひしゃげ、無事に虫孔へ突き戻す。……よかった、これができなければレディアンさん陥落の謀計が台無しになるところだった。呆けて融通の利かなくなった彼女の代わりに、虫腹を曲げては伸ばすを繰り返してゆっくりと膣口をかき混ぜてやる。
 縄張り争いをするコドラのような苛烈を極めた交尾から一転、愛情たっぷりのセックスに戸惑うレディアンさん。しんなりと下げられた触覚へ息を吹きかけるようにして、言った。
「好きですよ」
「……なんだい急に」
 慌てて身を起こした彼女にまじまじと見下ろされる。まるで寝転がった地面がマッギョだった時のようなぎょっとした顔。頭が正気を失ったのかと訝しがる複眼へ、私はじぃと見つめたまま、努めて冗談めいた雰囲気を排除して囁きをぶつけてやる。ここを攻められればレディアンさんはいちばん正直になれる、虫孔を入ってすぐの肉ひだの密集地へ笠肉をじっとりと捏ねつけながら、身をよじることすら敵わないほど力強く密着した。
「キマワリさんに嫉妬してしまうところも含めて、れいちゃんを愛してます。そうやって疲れたフリをして私からシてもらいたいのでしょう。可愛いなあ」
「――ちょちょちょちょちょ、ちょっとストップストップ! いきなりどうしちゃったんだいパラくん!?」
 腐り落ちたザロクのように甘いセリフ、それをはばかりなくぶつける私から遠ざかろうとする頭を抱き直した。彼女の背中へ回していた肢の力をさらに堅牢なものにする。ハサミの先を突き立てないよう、驚愕に立った触覚をつつく。感じているときにこれをされるとレディアンさんはたちまち脱力してしまうのだ。つぶさに額を撫でながら、(かしま)しくわめき散らす唇をふさぐ。口と触覚、そして膣。レディアンさんはこの3点を同時に愛してやると面白いほどとろけてくれる。欲火のスイッチが入ったのだろう、苦いドリのみを2ヶ月追熟させたような、鳥ポケモンの嫌がるレディアンさんに独特な体臭が濃密に立ちこめてきた。
 ぷふ、と接吻を解いて、赤面しきった彼女の耳孔へ息を吹きつけた。前肢には前肢を、中肢には中肢を、後肢には後肢を。言葉には言葉で返してやれ。
「いつも器用なその手で私を助けてくれる。籐を編むだなんて、あなたにしかできないことですよ。ありがとうございます。私にはもったいないほど親切で、利発で、愛おしいつがい相手だ」
「ひ、ぁ……!? パラくんっ、それ以上言うと、知らないからな……っ!」
 寸止めに狂わされた私みたいに、どこか怒ったように膨れるレディアンさん。つっけんどんな文句に紛れて(つか)えてしまった「愛してる」の言葉を引き出してやるよう、じっとりと口を吸う。幅広い甲殻でいかにも美味しそうなクリーム色の口許を全て覆いきってしまうくらいむしゃぶりつき、その柔らかな肌へマークをつける。誘い出された舌を絡め取り、わずかに息ができるほどの気道を残しつつ、小さな口腔へベロ先をけしかける。にゅる、ちゅく、ちゅぱぅ……、音を立てて舌をすり合わせる。
「そういえば、私ばっかり愛を囁いて、あなたの気持ちを聞かせてもらえていませんね。私のつがいになると誓ってもらった時から」
「あーはは……。そうだったかい? そんな昔のこと――」
「はぐらかさないでください」
 その話で焚きつけていたのでしょう、と追い討ちをかける。軽く尋問しているような心地で、己の中に潜む嗜虐心に従い、駆け引きとも言えぬ一方的な圧力をかけていく。私にのしかかり気丈な態度を崩さないレディアンさんから言葉を引き出そうと、じっくりと()めつけた。彼女は屈辱を孕んだ羞恥に(まなじり)を潤め、キマワリさんは見せることのないそんな表情がどうしようもないほど私の情を炙りつける。
「いやらしい言葉を並べるよりよっぽど簡単でしょう」
「……キミは、本っ当に、意地悪になったねえ!」
「さあ?」
 催促するようにレディアンさんの泣きどころへ笠縁のでっぱりを押し当ててやる。素直になってくれたらここを思いきし(えぐ)って潮吹きまでさせてあげますよ、とでも(そそのか)すように、くっぽ、ぐ……ぽ、せまっちい蜜壺から愛液ごと空気を掻き出すような、沈黙を満たすにはあまりに淫靡な粘着音。もうひとつ彼女が大好きなこと――ベロを絡め合うような甘々としたキス、その動きを真似たような舌づかいで細い首すじに熱い摩擦痕を残す。
 執念深ささえ感じさせる私のねちっこさに観念したのか、ようやっとレディアンさんが唇を震わせた。
「……ボクも、す、好きだぞ。それと――」
「それと?」
 しどろもどろな愛の告白にぞくっと腹底が茹だる。素直な反応を見せる虫孔がきゅううぅ、とペニスをやさしく締めつける。レディアンさんは(すが)めていた複眼を潤ませながらも戻して、催促する私の白眼を覗きこみながら、間近で、ゾッとするほどいやらしく笑った。
「下から突き上げるのは、どっくんのが上手いんだねェ」
「……は」
 どっくんとは誰か、傍で聞いているはずのキマワリさんへ知らせる心づもりもない秘めやかな囁きに、平穏を取り戻していた私の思考回路は一瞬で沸き立った。レディアンさんの幼なじみで、初恋相手だったドクケイルさん。ムシの脳裏にしまっておいた苦い記憶の断片が再生され、純度の低い石炭にしかありつけないコータスの吐く煙ほど黒く(くすぶ)った嫉妬心が、腹の底で爆炎を吹きさらした。
 レディアンさんを束縛していた前肢が奮い立ち、私の意思とは無関係に振り上げられる。長く眠っていたゴルーグが再起動するような重厚さで、ギギリギリ、とハサミが鈍い駆動音をがなりたてる。
 口が勝手に滑っていた。
「――そうやっておれの気持ちを弄びやがって、ぜんぜん変わらねェなレディアン……!」
「おや……キミはパラスくんじゃないか! しばらくぶりだねえ。元気してた?」
 計算通り。古代文明の発掘に成功したレディアンさんが目を悪戯っぽく輝かせていた。私の中に埋もれていた太古の亡霊が、おぼつかなげにムシの声帯を操って眠りを妨げた侵略者に威嚇する。
「おれはずっとここにいたぞ。あんま調子に、乗るなっての……!」
 自我の奥底に沈んでいたムシの意識が私の体を乗っ取り返し、停滞していた腰を再駆動させる。どちゅ、どっちゅ……! 石づきから笠先まで、節々の可動範囲を十二分に使ってペニス全体を扱きつける。変わりない窮屈さを誇示する虫孔の入り口も、濡れそぼって肉ひだを寄りつかせる膣奥も、容赦なく勢いづいてこそげ抜く。
 彼女らしからぬあの、恥じ入った表情も、おずおずとこぼされた愛の言葉も、すべてが演技だった。私の企みを根っから弄ばれた、虫酸が走るほどの苛立ちが余剰な性衝動に変換され、(たが)が2、3本吹き飛んだ。もっともキノコが牽制に入るまでもなく、ムシは怒涛の剣幕を隠そうともせず虫腹をさざめかせていた。
「おらっ、オラ! イけ、おれのチンポでイっちまえっ!」
「あ――ぁあああキたっ! パラスくんのがむしゃら鬼ピストン、激しっ! っすす好き、すきだぞ、これすき――ひゃああああッ!!」
「――またそうやって、軽々しく好きなんて言いやがって、――ぅゔゔゔッ!」
 キノコの意思では惨めにもがくことしかできない体勢のまま、神経接続が蘇ったかのようにムシの下腹が曲がりこんだ。取っ組み合ったスピアーが尻の毒針で獲物をめった刺しにするような導線で、甲殻が軋みを上げてレディアンさんを突き上げる。強烈な性感の予兆に狭まった肉うろに腰ごと持っていかれそうになりながら、キノコの支配下から解き放たれたペニスが暴れ狂っている。狭い産道を思いきりこじ開けては、埋め戻される肉壁を笠縁でほじくり返す。
 せっかくいい感じでレディアンさんを懐柔できそうだったのになァ。――情事にてドクケイルさんを引き合いに出されたのは2回目で、過去に踏ん切りをつけていたキノコは冷静だった。せめぎ合う意識のなか血気にはやったムシへ、形而上だけでも口を尖らせる。
 好きって言わせればそれで満足するんだな、お前は甘いなあ……! あれだけチンポ煽られといて、好きなら仕方ないねって許してやるつもりかよ!? ――腰を振りたくるムシは喉から情けないうめき声を漏らしながらも、一瞬でシナプスを再結合させた脳から流暢な言葉で論駁する。
 ……確かに鼻持ちならないですね。あれだけ好き勝手やっておいて。
 だろお? 好きです愛してますなんて上辺だけの言葉より、あの生意気な口から漏れる可憐なすすり泣きが聞きてぇよなあ!
 OKその通りだ。いいぞ私、ちょっとお灸を据えてやれ!
「任せとけィ相棒! ――っとと、そうじゃなかった、どーだレディアンっ、フっ、あんたがコレ好きなのは知ってるんだよっ! もっとヨがりやがれ!」
 ガシっ……、ガシュ、ガツっ! かシュ……! 甲殻と甲殻がこすれ合う金属質な音を響かせるほど虫孔と虫孔をこすり合わせ、私はレディアンさんを屈服させようと血気に疾っていた。綿雲のように軽やかな最奥の一部がペニスへ硬く密着し、その存在を主張していた。小刻みなストロークで、子宮口と鈴口が互いを確かめるように密着しては離れ、また密着する。蜜壺の底をつくたびに、硬いしこりが射精するべき腹奥へ到達していることを知らしめてくれる。だくだくとカウパーを噴き出した笠先、その周囲を取り巻く筋繊維の1本に至るまでを硬く硬直させ、タマゴを孕んだことがあるとは思えないほど小ぶりな子宮口へ狙いを定め、ムシとキノコの本能に従うまま夢中で腰を振り抜いた。
 しかしムシは基本バカなので、レディアンさんよりも焦らされまくった私の方が絶頂に近いことを失念していた。引き締まる膣口の狭さにあえなく果てかけた私は、虫孔どうしでキスするほど深々と結合したまま、レディアンさんの最奥を笠先で捏ね回していた。出っぱった笠縁を押しつけ、擦りつけ、大きく回すように触れ合わせつつ、とん、どぬッ、と小刻みに鈴口で小突いてやる。
「ふッ――ふうッ、ううぅ、っこの、イけ、この……!」
「――ッっ、そこ、ちょっと痛いぞ。あのときボクが奥で感じられたのは、キミの媚薬キノコで酔わされていたからなんだってば。もう……、パラスくんはがっつきすぎるきらいがあるね……」
「うるさいッ!! あんたのお粗末なマンコじゃ、こうでもしないとイけねぇんだよ!!」
「ほんとかなあ? パラくんはねちっこくてけっこう保つ方だけど、パラスくんに交代した途端に漏らしちゃうし……」
「黙れッ!!」
 ……心にもないことを。すっかり蚊帳の外にされたキノコは、どこか穏やかな心地でふたりのやりとりを静観していた。おちょくられているのは相変わらず私の体だったが、ムシとの久しぶりの再開にレディアンさんもどこか機嫌を直してくれたようだし、まぁ……いっか。彼女の可愛らしい叫び声も聞こえたことだし、些細な仲違いも私が負けを認めて、このまま仲直りの印を注いでしまってもいいだろう。というか下腹にこもった鬱憤がドロドロに融けあってしまいそうなほどの熱ぼったさを訴えてきていた。いい加減に、出したい。――出したい! 私の精液を迎え入れる準備の整った雌の胎めがけて、獣欲のままタマゴの素を野放図にぶちまけたいっ!
 ところが。さらに蚊帳の外から見た様子では、私たちのいさかいはまだ収まっていなかったらしい。気配を消して私とレディアンさんとの峻烈な応酬を見守っていたキマワリさんが、私たちの視界を遮るように葉っぱのスクリーンを広げていた。
「パラさん落ち着いてえぇッ……! れいちゃんとふたりで気持ちよくしてあげるから……ね」
 私がレディアンさんをペニスで蹂躙しているように見えたのだろう、キマワリさんはいやにねとついた手で私の背中のキノコを引き剥がしにかかっていた。裂かれるような痛感にキノコが意識の中だけで悲鳴をあげる。じっとりと湿った彼女の体温、決闘を果たす雄どもに割って入るような水の差され方に、ムシがハサミを振りあげた。
「何しやがンだキマワリッ!!」
「キャ!?」
 キマワリさんの目の前を連続斬りがかすめ、彼女は根腐れしたかのように尻餅をついた。今朝のバトルで手加減されたものよりも数段威力の高い弱点技に肝を潰し、芝をかかとで蹴るようにして数歩わたわたと後じさる。キノコの裏へと身を隠し、息を詰まらせ笠へ抱きついていた。
 ――そこまでです、もう引っこんでください!
 惜しくも早合点ではあったものの、仲を取り持とうとしてくれた彼女にまで牙を剥いたムシの意識を無理やり放逐し、私は私の主導権を奪い返した。もつれる舌を整えるのもそこそこに、わずかに首を背後へ回しながら唾を飛ばす。
「――ああっ違うんですごめんなさいキマワリさんっ、別に怒るつもりはなくて――ああああッですけど手は止めてッ、いけませっ、ぅハアぁッ、今そこ弄られると――」
「……きぇ?」
「あ、やば、これ、出るっ出ます、ごめんなさ――ぁあああああッ!!」
 私自身全く予期できていなかったが、キノコの生体反応についてはムシの(あずか)り知らぬところだった。身体の優先権を取り返したばかりのおぼつかない生態制御では、射出段階に踏み入った胞子を縛りつけておくことなど、どだいできなかった。
 意識していなかった背中に閃熱が迸る。限界にまで膨れあがった紅色の笠の表皮がささくれ上がり、隠されていた担子器をむき出しにする。石づきに迸る閃熱、ペニスから精液を排出する充足感に似た、この世の何物にも替えがたい悦楽が、ただただ謝ることしかできない私を貫いた。
 バフん! 乾いた破裂音を伴って、ピンク色した霧の奔流が背中のキノコから噴き上がる。正面からまともに食らったレディアンさんの複眼が、目蓋を落とすようにとろんと暗くなっていった。
「うっぷ!? っあは、やっぱりキミは、そーろー……、なんふぁ……ふぁあぁあぁ…………」
「あ、ちょっと……!」
 そういえば彼女を抱きしめたままだった。甲殻の隙間に食いこませていた爪を外すと、顔面に桃色の化粧を施されたレディアンさんの背中がぐらり、と揺らぐ。そのままキマワリさんとは反対側の芝地へ、ゆっくりと倒れていった。首関節の硬い私ではその表情を窺い知ることはできないが、おそらく深い眠りに誘われてしまったらしい。早くも穏やかな吐息がすぐそばから聞こえ始めた。ぶにゅん! と吐き出されたペニスは反動で汁を飛ばし、屈服させるべき相手を失ったまま虚しく甲殻に寝そべり痙攣している。身勝手なもので、あれだけ屈してなるものかと意気込んでいたくせに、いざ射精できないとなると腹奥がぐらぐらと煮立たされるようなむず痒さに苛まれた。
 それよりも、だ。
 初めて子を成して以来レディアンさんとの交尾を失敗することがなかったせいか、不覚だった。彼女ひとりを相手取っていたときにはムシとキノコを同時に攻められた経験がなく、それが仇となったらしい。とにかく彼女を眠りから引き揚げなければ。せっかく機嫌を取り戻しかけていたのに、セックスを中断させられるとレディアンさんはかなりへそを曲げてしまう。それが私のミスによるものだったならば尚更、腹の虫の居処を悪くしているだろう。もう寝てしまったか? 身をよじって起き上がろうとするも、こればかりは私にはどうすることもできないらしい。
 回らない首を限界まで伸ばして、後ろに控えているはずのもうひとりへ声をあげた。
「キマワリさっ、巣穴にラムのみが、あっ、あった、はずですから……、取ってきてもら――」

 ちゅむッ。

 反対側から顔が回りこんできて、正面へ顔を戻した私の口がみずみずしく塞がれた。




7 


 何を、と口走る猶予さえ与えられなかった。唇が離れ、私が息を整えたタイミングに合わせてすかさず迫るキマワリさんの顔。どうするべきかは経験で理解していた。戸惑いなく伸ばされた分厚い舌を絡め取り、そのまま彼女の口腔へ押し返す。
 ちゅぱ、んちゅ、ぬりゅりゅ……ぢゅううッ! っはぷ、ちゅるる……ん、んふっ。ぬちゅ、ぷちゅ、じゅるる……っはふ。あぷ、きゃむ、ちうぅぅ……ちゅぱっ!
 私の背後を愛撫しているうち、日焼け対策に笠へまぶした果汁をあらかた舐めとってしまったのだろう、青くさいチーゴの苦いあじ。つい先ほどまでまごついていた彼女からのアプローチとは思えない積極性で、私の硬い唇を甘噛みするように何度も口が押し当てられる。彼女の注いでくれる愛情にひとつひとつ返していくよう、私も力強く口を吸った。舌と舌がくっつき、離れ、また絡み合う音を相手の官能へ響かせる。口吻の形状が噛み合わないレディアンさんとのキスだけでは物足りなかったのか、それとも寝てしまった彼女に隠れてする私との濃密な接吻はまた格別なものなのだろうか、キマワリさんの求愛は止む様子もない。今まで我慢してきた鬱憤を憂さ晴らしするようなキス、それも慣れたものだった。何度も舌を突き突かれ、せり上がる唾液を飲ませ飲まされ、お互いの種族に特有な嘉酒(かしゅ)の味を確かめ合う。貪るようなディープキスを継続したまま彼女の頭後ろへハサミを回し、さらなる密着感を得ようと抱き寄せる。額の左側に残るあざは彼女のチャームポイントで、それがよく見えるように薄桃色の胞子を払い落としてやる。
 背中の石づきを撫でていたキマワリさんの葉の片一方がつっ……、と下方へ滑り、たくましい勃起を取り戻していたペニスを包みこんだ。すりすりともたらされる和毛(にこげ)の抱擁。不意打ちの快楽に思わず情けなく腰を引きそうになったが、こめかみに青筋を浮き立たせてどうにか堪える。
「ちょ、ちょっと待って、レディアンさんを起こさないと――」
「今までさんざん焦らされて、辛かったよね……。わたしは意地悪しないから、ね」
「あのまま――っぁ、はむ……ちゅッは、あ……」
 あのまま果てるつもりだったんですよ、と皮肉ろうとして震えた口許へ、名残惜しむような淡いキス。あっけなく私を黙りこませたキマワリさんの顔が離れていく。尾節へと回りこんだ彼女は屈みこみ、頰へ施したものと同等の、いやそれ以上に愛欲のこもった口づけの雨を笠頭へ降らせ始めた。
 レディアンさんの蜜がべっとりとこびりついた笠先へ、ぺちゅ、ちゅぷ、ちゅむぅッ、しずしずとかしずくように唇だけを捧げてくる。私の硬性を帯びた唇では感じ取れなかった極上の柔らかさが、快楽神経のむき出しになった敏感な肉勃起にぶつけられる。
 レディアンさんの独占していた露先も、今はキマワリさんだけのもの。玉になった先走りをベロの先でもらい受け、丹念に味を確かめてから飲み下していた。芳醇な雄のフェロモンにあてられ虚脱してしまったらしい、極上の川魚へ舌鼓を打つようにゆるゆると息をつく。ソーラービームで温めすぎたきのみシチューを冷ます加減の吐息でくすぐられ、私の喉からも湿った呻きが逃げていった。とっさに伸ばしたハサミへこそばゆそうにじゃれついてくる顔は、これからさらに濃密になってゆく交接を期待して目尻をはかなげに押し下げていた。
「また、口で……ですか」
「嫌だった?」
「まさか……っぐ、そんな」
 わたしは意地悪しないから、との謳い文句に、すぐ交尾してくれるはずだと勢いこんでしまった私は甲斐性なしと呆れられたかもしれない。誤魔化すように腰を前後に揺らし、ぴた、ぴた、とキマワリさんの唇へ笠先をぶつけた。いいから続けてください。私からの虫がいい催促に彼女の美貌がだらしなく崩れ、素直に唇を捧げてくれる。……今日言いなりになるのは私の方だ、彼女のしたいようにさせてあげよう。
 キマワリさんはすぼめた口でしばらく笠粘膜への愛撫を続けていたが、それだけでは到底満足できなかったのだろう、笠縁のでっぱりをついばむように下唇を潜らせた。口端からちょんと出た厚めの舌はランターンの擬餌めいて動き、笠裏のひだにへばりついた愛液までこそげ取っていく。先っぽを葉でつまんで反らし、唾液まみれの唇を肉竿へ横ざまに押し当て、挟んだまま上へ下へ。
 突出して筋張った虫孔へ鼻面を擦りつけると、キスのどさくさに紛れて虫孔のにおいを嗅いでいた。レディアンさんいわく女の子が嗅いではいけないにおい、湿る媚粘膜の(ほら)で熟成された(かび)臭さに脳をやられたのか、可憐な顔だちがふにゃりと崩れ、今にも泣きそうなとろ顔になった。他のポケモンにはおよそ見せられた代物ではない。
「――ぅを、ぉ、キマワリさんいけませんっ、とんでもない表じょ、ぅ、ですよっ!」
「きゃ、きゃふぅぅ……っ。ぁ、ね、わたしね、お口でするの、上手くなったんだよ。はぁぁ……っ。れいちゃんにアドバイスもらって、いっぱい練習、ふぅす……っ、したの」
 私の忠告などお構いなしに、キマワリさんは密やかなおしゃべりを続けていた。一度イくと恥じらいが抜けて大胆になる。初めて彼女を抱いたときに得た予感が確信に変わった。レディアンさんが眠りこけている今、彼女の羞恥心は徐々に鳴りを潜めているらしい。先生に見られながらフェラチオするのをあれだけ恥じ入っていた面影はどこかへ隠れ、海に沈みゆく夕陽のようにかんばせをじっとりと朱く蒸らし、衝動の赴くまま口を動かしている。
 にゅるにゅるにゅる、と裏筋のあたりを執拗丁寧に舌先でくすぐられれば、グぅぅ、私の喉からくぐもったうめき声がまろび出た。ふたりがかりで口淫されているときは気づかなかったが、彼女の告白通り初めてしてくれたときから着実に上達している。さんざん苛め抜かれすぐそこまで精液をせり上げてきているペニスへ、日頃の成果を遺憾なく見せつけられたら? 10秒と堪えられるきがしなかった。発奮する彼女の気をそらすべく、私の股ぐらへ突っこんだまま荒い息をつく丸顔を、ハサミの側面でくしゃりと撫でる。
「れ、レディアンさんと……っ、フ、ふたりで気持ちよくしてくれるんじゃ、なかったんですかッ。というかレディアンさん、大丈夫そうですか……っ」
 藪の奥に見つけた笹を独り占めするヤンチャムさながら、勝ち取ったペニスを離したくないらしい。キマワリさんは顔を伏せ、虫孔へ鼻孔をうずめたまま細い視線を私の傍へずらす。ぐっすり安眠したようで、隣で丸まっているであろう甲虫の小さな息遣いが続いていた。指でイかされて先ほどまでぐったりしていたキマワリさんと、ちょうど立場を入れ替えたような。
 大丈夫そうですか、との曖昧な問いかけを、起きてこないかどうか、という意味で都合よく解釈したらしいキマワリさんが、藻の影で(ひるがえ)るトサキントのように、忍びやかに打ち震えた。
「ぐっすり、寝てるみたい。……っきゃふふ、じゃ、今のうち、だね」
「は、い……?」
 抑えきれない興奮に息を弾ませ、イタズラを仕掛けるムウマみたいにちょんとベロを覗かせる。そのまま舐め回しそうなほど突き出すと、くぼませた舌腹に泡立った唾液を乗せてうごめかせた。片手で口端を開けば、その奥に広がる肉湿原から、むゎ、蒸れた吐息が陽炎めいて揺らいでいる。「今からここでいっぱい揉みくちゃにしてあげるから、我慢できなくなったら思いっきり注いでね」なんてささやくように、てらつくベロが手招きしている。
 先ほどレディアンさんがしてみせたことを忠実に再現したような淫蕩さ。やはりキマワリさんは器用だ。先生の実演を横から見ただけで、どうすれば私が興奮するのかばっちり理解していたようだった。上目遣いに見つめてくる細い眼はとろけきっていて、つぶさに私の反応を伺っている。
 レディアンさんの小さな口では収まりきらないペニスも、キマワリさんの幅広な口袋ではすっぽり見えなくなってしまう。初めて抱いたときに1度された、口全体を用いた懸命なフェラチオの感触を思い出し、粘り気の強い先走りを噴き溢した。あのときは不慣れな肉棒捌きに絶頂までは至れなかったが、いっっぱい練習してくれたキマワリさんなら、その先の法悦まで味わわせてくれるだろう。もう、レディアンさんに怒られる心配など私の頭から抜け落ちていた。私の妄想へ媚びるようにキマワリさんは大口を開けペニスを横からふにゃりと挟みこみ、彼女にしかできない価値をありありと見せつけてくる。
 ごくり。同様に私から催促の台詞を(おび)き出そうとしてきたレディアンさんに対してはあれだけ手向かっていたというのに、私は喉を鳴らしてもろくも白旗を上げた。旅をするチェリムの外套を脱がせようとするスイクンとウルガモスの寓話を思い出していた。
「く、咥えて……ください……ッ」
「……ンっ」
 その言葉を待っていたのだろう、あまりの淫乱さに思わず私がそう口走ってしまった途端、にゅと、裏筋が生暖かいベロに包まれた。軽く吸いつきながら唇を転がし、笠首へがっちり纏わせる。そのまま顔を上下に振り2、3度往復して肉棒の軌道を確認すると、キマワリさんは躊躇のひとつもなく飲みこんだ。
 食われた、かと思った。痛いほど屹立していた肉棒が一瞬にして根元まで覆い隠された。石づきに至るまで満遍なくジャングルの暖かさに抱きこまれ、雌の膣中に戻されたと誤認した肉棒が慌てて強張りを取り戻す。
 豹変したキマワリさんはマルノームのごとくペニスを丸呑みし、すぼまった咽頭粘膜で笠先をみっちりと抱えこんでいた。細い目をつむりながら眉間にしわを寄せ、飲み下せない異物を咥えたままでいる状況に慣らそうとしているのか。しばらくして、ずるるるッ、吐き出すように口が外されると、唾液をまぶされ照り輝くペニスが露わになる。……よかった、食べられていない。おぼろげにしか働かない私の脳みそは、すでに馬鹿なことしか考えられなくなっている。
「――っぷぁ! はぁ……っ。パラさんの、ナナのみよりずっと大きい……」
「ふゥっ、……ほんとにッ、うまく、なってます――ねぇ……っ」
「っきゃふふ……っ」
 練習相手はどうやらきのみだったらしい。キマワリさんは唾液のこぼれた口許を葉で覆い、荒くなった息を私へ吹きかけまいと視線を外していた。また息を止めていたのだろう。
「ずいぶん苦しそうですよ……。難しいなら、もう繋がってしまいましょう……。練習してくださったことは、十分伝わりましたから」
「きゃふふ……。うれしいな」
「ど、どうしました」
「わたしに合わせて住処をここにしてくれたり、弱いわたしを護ってくれたりさ……。ずっと負担をかけちゃってると思ってたから。……パラさんに求められると、お役に立ってるような気がするの」
 これもレディアンさんが沈黙しているせいだろうか、気恥ずかしそうにこぼれ出た、キマワリさんが胸に抱えていた悩み。朗らかな笑顔の陰に隠れて、そんな気後れをしていたのか。彼女に思い悩む姿は似合わない。
 ハサミで額のあざをさする。おぼつかない彼女の視線を捉え、私の白眼で縫い止めるように見つめて言った。
「キマワリさんは私が決めた、私のつがいなんです。負担だなんて言わないでください。それよりも続き……、楽しみましょう」
「うんっ。……っもうちょっと、頑張らせて」
「わかりました、ですが無理をしないでく――ぅフぁ」
 キマワリさんはぱっと大輪の花を咲かせ、根元から握りこんだペニスを再度口へ含む。感覚を掴んだのだろうか、喉奥を小突かれても呼吸を続けられるような極意を会得したらしい。もごもごと粘膜どうしを馴染ませてから、ゆっくりと頭を上下に振り始めた。膣穴へ挿入するときの感覚を彷彿とさせるよう舌で締めつけを調節し、復路は歯が敏感な笠裏へ当たらないよう空洞を作りつつ、低まった口腔内圧のまま先っぽを吸い上げる。再度口に含む際には伸ばしたベロで迎えるように、肉幹を伝う泡立った唾液をすくい取っていく。
 じゅろろろっ、ちゅぷ、ちゅぞっ。普段の爛漫さは鳴りを潜め発情に目尻をとろんとさせ、下品に歪めた唇でペニスの幹を何遍もしごき上げていく。両手でがっちりと私の腰をホールドし、ピストン間隔こそ遅々としているが顔ごと叩きつけるような激しい抜き差し。レディアンさんが試そうものなら顎を外しかねないような愛情たっぷりの上下運動をこなし、1番目のつがいだけでは享受できない悦楽を私の本能に訴えてくる。
「な――、なんですかっこれ、すご、うぉ、ちょっと、ゆっくり、ゆっくりですよキマワリさん!」
「ふっ、きゃふぅ、ふフううっ、んフーっ!」
 レディアンさんの膣に負けず劣らず心地良い、それでいてまた別種の快楽をもたらしてくれる扱き穴に、私は目眩がする思いだった。健気な彼女が散歩中に物語をつむぎ、食事中にきのみを頬張るチャーミングな口が、今は私の肉棒を気持ちよくさせようと懸命にうねついている。生殖とは無関係なはずの咽頭まで使って私へ身を捧げてくれるもてなし方に、獰猛な射精欲求が腹奥で暴れ回る。
「ぅ、ふっ、フーっ……!! まって、キマワリさん、それ待って――」
「――っぷは!」
 キマワリさんが口を離して大きく息をつくと、彼女の葉の中に唾液まみれで脈打つペニスが露わになる。幅広な肉洞窟から唾液が糸を引き、手にこぼれたそれへ口をつけ吸い戻していた。
「かわいく、ふきゅぅぅ……っ、呼んでほしいな」
「え?」
「さっきれいちゃんのこと、そうやって呼んだみたいにさ……。わたしも、ひまりちゃん、って呼んでほしいよ」
「わ、分かりましたひまりちゃ――うあっ!?」
 ごきゅ、ぎょぷっ、ペニスと喉肉の狭い隙間から吐息がひり出てくるねちっこい水音を奏でながら、キマワリさんは牽制する私のハサミを受け流して口淫を速くした。ほぼ垂直に振り下ろされる口肉の筒、やはり初めての交尾で受けたたどたどしい口淫とは比べ物にならないほど上達している。あの夜私を果てさせられなかった雪辱を果たすべく、制御の利かなくなったルリリの尻尾のように首から上を跳ね上げる。
 喉粘膜での奉仕を続けるさなか、ペニスを支えていたキマワリさんの両手が脇腹を伝い、快楽に打ち震えていた左右のハサミへと伸びてきた。交代の合図かと思えばそうではない。きゅっと握られた私の前肢は彼女の後頭部へ導かれる。
「……、疲れましたっ、か?」
「…………っ」
 喉奥までずっぽりとペニスを呑みこんだまま動かないキマワリさん。彼女が深く呼吸するだけで口肉がしっとりとまとわりつき、尿道側を包みこんだベロが裏筋の弱いところへひっついた。どうしてか動かされない生殺しの沈黙に身を焼かれるまま数秒。このまま彼女の顔を持ち、思いのままに振りしだいたらどれほど気持ちいいことか。思わず腰を浮かせてしまう。彼女の都合など無視しきった悪辣極まりない妄想がよぎって、私は忌々しげに歯噛みしながら唾を飲みこんだ。
 そしてそれはあながち間違っていないらしい。暴走しかけた私の嗜虐心に気づいたキマワリさんが、そうされることを望むように目くばせをくれる。溜めこんだ精液を扱き捨てる肉穴として使ってください、とでも言わんばかりに、ペニスを頬張ったまま目を伏せ、こくり、と小さく頷いた。
「う、ぐ……! 分かりました、ちょっとだけ、息止めていてくださいね……ッ」
「ん……」
 空気の通り道さえ塞いで吸着してくる彼女の頭を持ちあげた。窄められた唇に引っかかれるようにして現れるペニス。それが外れてしまう寸前、彼女の顔面を下腹へ叩きつける勢いで押し下げる。
 えずきかけたキマワリさんが下顎を押し出すように喉を膨らませ、そのうねりが笠先をごきゅごきゅと揉みあげた。反射的に異物を吐き出そうとした彼女の頬がぷっくりと膨らみ、苦しくないはずはない、赤らんだ目尻には涙が浮かび上がる。それでも私のハサミを振り払うことなくされるがまま喉を苛められるキマワリさんの被虐心に、さんざめく腰をがむしゃらに突き上げた。
「――ふぅおッ、ひまりちゃっ、フウッ、ひまり……!」
「んぷ!? んんっ、んンンンン――」
 キマワリさんへの配慮などなしに、まるでそれ専用の道具を扱うかのような無頼っぷりで彼女の口を使わせてもらう。私からは見えないが、突き上げられた彼女の細やかな首はいびつに盛り上がっていることだろう。じゅぶっじゅばっずちゅッ! 小刻みなピストンで喉奥を叩くたび、よだれと涙と鼻水とで歪む顔があらわになった。彼女の子宮をこね回すのと同じ感覚で喉奥のすぼまりをぐりりとえぐってしまい、あまりの横暴さにキマワリさんのあぎとが震え、衝撃を逃すよう鼻息を荒げている。肩を強張らせ、顔を真紅に泣き腫らしながら、虫孔へ激しくキスする唇との隙間から唾を飛ばす。甲殻へぶつけられた頬がぽにぽにと膨らみ、こんな仕打ちを受けてもなお丸みを崩さないその輪郭がいとおしい。
 これまで耐えてきたものがいっぺんに押し寄せる。あっという間だった。
「グ、ふ、ぅうう――ッ! っもう出る、出すぞッ、受け止め、て……ッ!」
「――――っ」
 咽頭を苛めるごとに興奮を深めるキマワリさんの表情に熱中しているうち、とうに限界が来ていたらしい。当然のように喉孔へ出す旨を申告したが、彼女は逃げる素振りも見せず咥えこんだまま。度重なる寸止めに立ち往生していた生殖液が、洞窟の出口を見つけたように暗渠(あんきょ)を走り抜ける。夥しい熱量が背中の石づきを(つんざ)き、キノコとムシが乖離してしまうような激感をもたらす。
 思考力を焼き切れさせながらも、かろうじてキマワリさんを気遣うべく認識を下す。喉奥までは挿入せず、石づきの中程から笠縁に近い部分を口内へ残し、ハサミで固定した。すかさず頰肉がすぼまり、舌と協力して擬似的な肉つぼみの感触を笠先へ再現してみせる。苦しいだろうにキマワリさんは精液へ通り道を示すべく吸い上げているらしい、とろけた肉棒がそのまま持っていかれるのかという錯覚に、少しでも快楽を増幅させようと貪欲に腰を浮かす。
 びゅく――ッ。最大まで膨らんだ笠頭の先から、高粘度の精液を噴き上げた。わずかに開けられた口奥の隙間を初めの2発で満たし、なおも衰えることなく続く精液はキマワリさんの喉を撃つ。精嚢の底で煮こごった精液まで味わおうと尿道を吸い尽くされ、どく、どっく、ペニスの石づきは音が鳴りそうなほど前後に脈打ちながら己の遺伝子を吐き出していく。
 気持ち、よかった。レディアンさんの手に抜かれたことは幾度もあったが、子を成せない無駄打ちの射精がこんなにも気持ちいいものだっただろうか。倒錯的で背徳的な絶頂感に、頬肉に包まれた笠先が舐め溶かされてしまったような法悦を押しつけられる。
 目尻に大粒の涙を浮かばせ、暴れるペニスの脈動に感じ入るキマワリさん。つんと尖らせた唇は精子の1匹も逃すまいと笠縁へへばりつき、裏筋へ必死に舌を絡ませ肉棒の吐精をサポートする。メガドレインの要領で強められた吸引に頬は凹むが、喉は異物を吐き出そうと反射的に空気を押し出そうとしているらしい。鼻息を荒げたキマワリさんの顔が肉感的に波打ち、いまだ続くつがい相手の射精を受け止めてくれる。喉でも孕めると錯覚した哀れな雌を想像妊娠させるべく、夥しい量の遺伝子を出渋りまで喉奥へ詰めこんだ。
 彼女の顔を押さえつける両前肢には自然と力がこもっていたらしい。射精しきったペニスをやわやわと喉で慰めるキマワリさんの手厚い後戯に酔いしれていたが、それは彼女が呼吸困難に陥っているための咽頭反射なのだと気づき、私は慌ててハサミを外した。
 ずろろッ、と消えていたペニスが吐き出された。
「――ぷぁは! きゃふぁ――ぁ゛ッ、ぇほ、んげへえぇッ!」
「ご、ごめんなさいっ、……っふゥ、大丈夫でしたっ、か。私つい、夢中になってしまって……。ぺってしてください……」
「ぁああっ、はヒ、ぁ、ぎぇフっ、ぅ゛、おぇぇぇ――――」
 ミクルのみを絞ったように泡立てられた粘性液体が彼女の口から垂れ伸び、たわんだペニスの笠頭との間に穢れきった橋をかけている。それをハサミで断ち切ってやる間も、キマワリさんは激しくむせ返り草葉敷きの外へ精液を吐き出していた。唾液と混じっていて判別つきづらいが、さんざん焦らされてから射精したことを鑑みても明らかにその量が少ない。喉奥にぶつけられたほとんどを腹へ収めてしまったみたいだ。口でも孕むのだと勘違いしているかのような淫蕩さを思い出し、でろでろのペニスがびくん……、と力なく痙攣する。
 あらぬ粘液が気管支にこびりついてしまったのだろう、大きくえずいたキマワリさんは曲げた首を忙しく隆起させ、懸命に気道を確保していた。溺れかけたところを助け出されたクルマユのように顔を真っ赤に染め腫らし、しんなりと押し下げた目尻から止めどなく涙を零しつつ、よれ果てた相貌の粘り気を手でこそげている。私のために苦しい思いをするキマワリさんの背中をさすってやりたかったが、重い吐精に痺れたハサミは埒もなく動かなかった。
 息を整える彼女の喘ぎをしばらく耳にしながら、私も凄絶な余韻に浸る。ぶっきらぼうに六肢を投げ出し、好天を横切るチルタリスのような雲のかけらを、見るともなく眺めていた。太陽が落ちてきたのかと錯覚するほど篭った熱をぜいぜい吐き出す。普段キノコがちまちま啜っているムシの体液を、キマワリさんに根こそぎ吸い上げられてしまったかのよう。木漏れ日がいやに照り映えて見え、遠く海の向こうを想像するようにハサミで(ひさし)を作った。こんなに眩しいものだったっけ。
 化粧直しを終わらせたキマワリさんが、深呼吸を繰り返し体をすり寄せてきた。キノコの笠へ収まるように首を屈め、ハサミを枕にするようにして、肢を畳んだムシの体へ横から手足を絡ませる。抱きつくように回された葉がゆるゆると甲殻をさすり、それは惜しみない射精を成し遂げた私を労っているよう。無警戒なエネコのようにすり寄ってくる彼女の額を、ハサミの腹で撫でつけた。耳元をくすぐる吐息はこのまま添い寝してしまいそうなリズムだったが、喉に出されただけでキマワリさんが満足しているはずもない。ぽかぽかとぬくい植物の柔肌が押しつけられる。優しく触られることを期待した、雌の体だ。
 あれだけ盛大にぶち撒けいそいそと虫孔へ戻ろうとするペニスへ、しゅるり、と薄い手のひとつがまとわりつく。ほとんど無意識なのだろう、甲殻を愛でるのと変わらない強さでさすられ、イった直後で敏感な粘膜から唾液を(こそ)げ取られた。横目で見やれば、もう彼女は勃起を取り戻しかけた秘所を切なそうに凝視している。
「ぅ……フっ、ぬぐ。キマワリさんっ、少し、強いです……」
「わわ、ごめんね?」
「まだ触りたいですか?」
「きゃ!? ちっ、違うよ、その、やっぱり大きいなー、って」
 よだれまみれの葉を名残惜しげに離す。慌てふためいて目線を外したキマワリさんだったが、しかしそれもすぐに虫孔へ戻ってきた。意識を外そうとしてもつい気になってしまう、といった風に彼女の顔が赤らむ。ペニスが空いていればその形を手で触れて確かめておきたい、と訴えるような仕草に、私も思わずにやついてしまう。尻に力を込めてペニスをぶるん、としならせれば、キマワリさんは微かに太腿を擦り合わせ、釘付けになっていた細い眼をとろんと輝かせた。
「私も、そろそろ……いい、ですか。あなたを抱きたくてしょうがない」
「ん……、んっ」
 包み隠さぬ情欲をぶつければ、彼女は嬉しそうに大きな口を引き結んで、ちゅ、と頬へ気恥ずかしそうなキスをくれた。


 キノコの湿ったにおいで満たされた芝草のベッドへ、キマワリさんを仰向けに横たえる。レディアンさんは隣で眠りこけているとはいえ、生来の恥ずかしがり屋気質は抜けきっていないらしい。柔らかく沈んだ尻はじっとりと汗をかき、はんなりと内股に折れた足はその先で所在なげに芝を揉んでいた。
 1日中歩き回ってもへこたれない健やかな足腰は、私に抱かれるようになってから急速に色づいたせいか妙に艶かしく映る。あどけない顔つきは私の抱擁を待ちわびるように赤く染まり、そのちぐはぐさに思わず見惚れていた。
 迎えられるようにして、正面から身を被せに乗り掛かった。孕ませることまで許してくれるつがいの愛しい顔つきをじぃと眺めおろす。途方もない充足感に口端がだらしなく崩れてしまった。このまま木漏れ日のような幸福感に耽溺(たんでき)していたかったが、誤魔化すように口を開く。
「先ほどは、その、ごめんなさい、無理をさせてしまって。とても気持ちよかったです。お疲れでしょう、しばらくは私に任せておいてください」
「きゃぃ……」
 細ましい腿を割り裂くようにしてペニスを押しつけた。ふっくらとした腹の上に乗せて、笠先の届く位置をキマワリさんに確かめさせる。釘付けになった目線の先、鈴口の指し示す腹上の一点。彼女はそこへ葉の先を持っていって、腹――というよりもむしろ胸に近いあたりで円を2周ゆるりと描く。レディアンさんに指し示された子宮の位置よりも、だいぶ上だった。
 私が思うままに突き入れてしまえば、キマワリさんの大事な器官はひしゃげてここまでせり上がってしまう。冒涜的でさえある確かめ合いに、ペニスがひとえに膨れ上がった。交尾の態勢が整ったことを示すようにカウパーが飛び、それが子宮口へくっつけて射精しているさまを膣越しに見せつけられているようで、またぞろ勃起する。気をそらせようと甘い言葉を探す私の口がもつれ、怒気を孕んだ荒い息を繰り返す。
 ……いけない。先ほどあれだけ暴虐の限りを尽くして彼女を怯えさせてしまったというのに、これではほとんどレイプのようなもの。ちゃんと私の愛を感じて、お互いに愛し合って、キマワリさんには気持ちよくなってもらわねば。
「こ、今度は、ゆっくりしましょう。あなたもそっちの方が、お好きでしょう」
「ん……っ」
 キマワリさんはこそばゆそうに目を蕩けさせ、額を撫でるハサミにしゅるり、葉を絡ませた。
「乱暴にされてね、わたし、イっちゃった……」
「っ」
 あまりに恥知らずなカミングアウトに、ぎ、と白眼を血走らせた。(すく)んだような目つきをする彼女の頬へ、怖がらせてごめんねのキスをすかさず落とす。そのまま唇を甘噛みし、顔まわりの花弁をしゃぶり、顔の裏をくすぐった。発情に喘ぐキマワリさんを落ち着けるときのルーティーンで、恋々とした耽美なセックスをするよう手ほどきする。眩しそうな嬌声を後ろに、伸ばしたベロが萼片へ差し掛かった。
 ペニスにつけられた傷跡を探し出すようにギザギザの襟飾りをまさぐり、腫れていやしないかを確かめる。おひさまのにおいを堪能するように深呼吸し、上がった息を暗々裏のうちに整えていた。
 ムシの無い首後ろへ葉が回される。責められているようで、苛めてしまった喉首を優しく舐った。
「つ、次は、あんなに激しくしませんから……。安心して、ください……ね」
「きひ……!」
 蹂躙された喉の感覚を思い出したようで、彼女の体温が急騰する。むは……、と全身の気孔を開き蒸散量を増し、軽くのしかかったムシの甲殻から熱帯雨林の湿度が感じとれた。キマワリさんの首後ろ、萼の間隙(かんげき)には分泌線があって、両手で抱きこめられた私の鼻腔を甘い臭気がいっぺんに満たす。私を誘惑するためだけに調香された、南国のナッツめいた香ばしいフェロモン。このにおいは、だめだ。これを嗅がされるとその後いつも彼女をめちゃめちゃにしてしまう。いくら私が理性を保とうと努めても、激しい快感を求める彼女へ流されるがまま膣奥を叩きのめし、肉壁をほじくり返し、子宮へありったけの精を詰めこんでしまうのだ。
 息を止め衝動の波をやり過ごそうとする私の耳許で、ふたりめの魔性が、そっと、囁いた。
「だから……ね? つぎは、ゆっくりだよ。ゆっくり、わたしを気持ちよくさせてくれないと、きゃや、だからね?」
「っこの……!」
 思わず小さく悪態をついた。シャイだけれど交尾が大好きなキマワリさんの婉曲的で、淫乱の限りを尽くしたたどたどしい誘惑に、私の腹底で揉み消しかけていた情念の熾火(おきび)が一気に吹き上がる。
 ムシの体へ絡みつく手足を振り解き、身を引いた。怯えた風のキマワリさんを抱き起こし、荒々しい手つきで体を裏返す。手前の芝を乱雑に掃いて地面を露出させ、そこへ長ったらしい両足を揃えて並ばせる。両手で寝藁を抱きこませ、ハサミで上体を押し倒した。艶かしく突き出された尻は強張ったように腰を落とし股ぐらを隠していたので、ハサミの側面で軽く()つ。ぴくんっ、と跳ね上がった柳腰は従順に細い腿を伸ばし、密かに赤らんでひくつく菊門まで無防備に晒してくれる。やはり割れ目はぐしょぐしょに濡れており、爪の先で押し開くまでもなく蕩けほぐれていた。叩かれた拍子に蜜を飛ばしたらしい、肉唇のすき間をつぅ、と潤みが逃げていく。前戯などもはや必要ないし、彼女も求めてないだろう。
 浅い呼吸のたびにうっすらと浮かび上がる背筋。四つん這いの姿勢を維持することさえ難しい小さな肩甲骨のへこみに汗がたまり、キマワリさんの色香が匂い立っている。おずおずと見返す彼女の交尾待ちの姿勢。否応にもペニスが奮い勃つ。
 差し出された尻へ肢をひっかけた。汗まみれで柔らかく、押しつければすぐに沈む頼りない足場を伝って、のしかかる。もう逃げられませんよ、と脅すように体重をかける。
 暗い興奮に声のトーンをじっとりと低く落とし、うなじに囁きかけた。
「――ええ、今日の私はひまりちゃんのいいなりだ。好きなところ全部愛してあげましょう。あなたが心の底から満足するまで、ゆっくりと、ゆっくりと……ね」
「――――っッッ」
 言葉尻にたっぷりと含みを持たせ、萼を舐め上げた。……そう、これから行うのはあくまで、つがいがお互いを求めるような甘々としたセックスだ。私の言葉の裏に暴虐的な響きを読み取ったキマワリさんが、胸の中で期待にぶるりと震えるのがわかった。




8 


 背筋が強張り、芝の束を握った葉の先がかすかに震えている。中肢を汗ばんだ腹へ回し強めに抱きこめば、甲殻越しに響くキマワリさんの心音がきゅっと引き締まる。息はすでに浅い。無い首を伸ばして萼を甘くついばむと、うぅ、と小さなうめき声が漏れる。熱帯に住むらしいトロピウスもかくやというほど甘ったるいフェロモンの中に、緊張に似た、夾雑(きょうざつ)とした苦みが混じる。細い首をたわめて振り返る彼女の涙目に、発情に紛れてあえかな慄然(りつぜん)の色が浮かんでいる。
 植物の本能なのだろう、キマワリさんは顔も見えない虫ポケモンに背後から抱きつかれると、それが私だと分かっていても萎縮してしまうようだった。同族であり天敵でもあるパラセクトなんぞをつがいに迎えてしまった難儀な彼女につくづく同情するも、その目つきが、背中の震えが、隠しようもないキマワリさんの嫌悪となって私を拒絶する。――2度も命を救い、ねぐらを荒屋(あばらや)へ移し、あまつさえこんなにも愛してやっているのに。ありもしない傲岸(ごうがん)さが私の意識の奥底から突沸し、掻痒(そうよう)感にも似た潜熱が全身へ伝播する。(ぎょ)し難い癇癪は熾烈な性衝動へ書き換えられ、ペニスの根本へ獰猛な血潮がわだかまる。息が詰まる。反抗的な雌をとことん犯し、貪り、屈服させろと本能がざわめき立つ。
 華奢な背中へと覆いかぶさり、前のめりに体重をかけたまま、硬く剛直した雄槍をキマワリさんの尻へ擦りつけた。しなやかな食物繊維で編みあげられた尻たぶはそれでいて、むっちりとした肉感的な脂肪も蓄えているようで、尿道をみずみずしい弾力で跳ね返しながらも、受け入れるよう柔軟にくぼむ。ムシの腹で押しつぶすようにして、これから彼女へ教えこむペニスの厚みをぐりぐりと背中越しに伝えてやる。先走りがひり出され、背中に浮き出た維管束をべっとりと汚した。
「ぁッ、……きぅ……! ふ、ゃああ……っ、きゃぁ……っ!」
 背後から腰をぶちつけられるような激しい交尾の先触れに――いや、花も恥じらう赤裸々とした睦み合いを期待して途端にしおらしくなったキマワリさん。(しとね)の芝に顔を押しつけるようにして、小さく喘いだ。もう泣きが入っている。官能6割、恥辱3割、怖気1割、といったところか。雑味の混合した嬌声を次第にとろめかせ、羞恥も恐怖も忘れさせ、ただただ膨大な快楽に呑みこまれる雌の声が聞きたい。生得的本能さえへし曲げ、私こそがキマワリさんのつがいなのだとその体へ認めさせる支配欲に、ぞくぞくと腹底から震え立つ。
 体節ひとつ分だけ身を引き、腹を曲げ、本能の感覚に従うまま笠先を肉つぼみへ押しつける。ぬち……、にちゅ、ぐち……。聞こえよがしに陰唇を左右に押しのけ、鈴口だけで浅くほじる。彼女は恥辱の強まった声音を芝草の陰へ逃し、顔の裏までさあぁッと紅を走らせていた。きっと正面はもっと赤くなっているはずだ。
 くちくちと先端で圧力をかけるような責め苦に痺れを切らしたのか、股下から葉が伸びてきて、ペニスの石づきあたりを支え持つ。――口で直接ねだらせたかったが、喉まで出かかった催促をぐっと堪えてやる。これからその機会は嫌というほどある。お楽しみは、キマワリさんを嫌と言うほど焦らしてからだ。
「きゅぅ……っ、ぅ、ふー……っ、フ……」
 彼女は空いたもう片手を口へ持っていき、はしたない声が漏れないよう幅広な葉で蓋をしているらしい。股下へ回された手、ペニスへ巻きついた葉先を支点として、腰を小さく回す。あっけなく侵入を果たした笠縁の出っ張りで、膣の入り口すぐを掻き拡げる。レディアンさんの交尾レクチャーによって笠縁の厚みを知った肉つぼみは、離れ離れになっていた数分さえ惜しむように肉ひだをうねらせ歓迎してくれる。喉を苛められてイったらしい彼女のそこはすでにひまわり油の愛液で満ち満ちていて、ペニスの先端から浸透したまろやかな興奮剤が私の脳髄を焼き落とす。
「フっ……あぁ」
 思わず短い息を漏らしていた。情けない私の喘ぎを間近で聞いて、キマワリさんの頭を包む花弁の列が、嬉しげにテレコになって内側へそよぐ。――自分はさんざん鼻にかかったかすれ声を漏らしているくせに、これしきのことで良い気にならないでもらいたい。
 いつもは粘膜どうしのふれあいを楽しみながら、必ずキスも交えていた。それも背後から覆いかぶさる体位では難しい。口寂しく疼く舌を伸ばし、汗の香りたつ首筋へ這いつかせる。虫に()まれると錯覚したキマワリさんがわずかに背中をよじらせた。痛くしないで、と懇願するように花ひだが笠頭へしがみついてくる。それを引き剥がし、小刻みな振動で膣口のすぐ裏あたりを無慈悲に(こじ)る。植物同士の甘々なセックスをしてくれるのだと勘違いしていた膣のもたらす、害をなす虫へ詫びるようににちゅにちゅと媚び吸いついてくる感触。たまらなかった。
 小生意気な雌に立場を分からせたようで気分がいい。尾節に甘い痺れが迸り、一気に踏みこみたくなる衝動、抗い難いそれをぐっと堪える。――少し落ち着け。私が聞きたいのは、キマワリさんの羞恥に困った不満声でも、恐怖に駆られた命乞いでもない。まだ隠れたままの淫乱な胸底を引き出してやるのが私の本懐だ。
 取り澄ました声を作って、ノメル色の花弁をすっかり顔側へ畳んでしまった彼女へ、甘く優しい理想的な雄を演じる。キマワリさんの膣道は狭窄するところが3ヶ所存在して、そのうちの一番手前で待ち受ける肉の関門を、にち、にちゃ、ぬっち、笠肉で執拗に弾いてやる。
「どうです? ここ、気持ちいいですよね。レディアンさんも大好き、なんですよ」
「う……うんっ、んんっ――んきゃぁンっ! っん……!」
「ずっとここで、可愛いがってあげましょう。っああ、もう、出してしまいそうだ」
「んきゃ!? ンんッ、ぅうう――っ……」
「不満ですか? っぅ、今の私はあなたの言いなりです。何でもしてあげますから、してほしいことがあるなら、ほら、言って」
「ん、ふーっ……! きぅ、フウゥ――――!!」
 首元で囁きながら、腰をゆったりと使う。挿入に角度をつけ、緻密にひだを備えた腹側の肉叢(ししむら)を擦りあげ、出っ張った笠肉で馴染んだ膣壁を掻き下ろす。健気に蠢く肉ざやは、短く小刻みなペニスの動きに引きずられ、あっという間に最奥まで熱くほぐれていく。緊張していた彼女の腰が快楽から逃れるように前へ崩れ、私は中肢を鼠蹊部へかけて引きずり戻した。
 キマワリさんは草葉の陰でしきりにうめいていた。何を今更恥ずかしがることがあるだろうか。ハサミを伸ばして、大きな口から咥えていた自身の手の(くつわ)を外してやる。
 溜まった唾を飛ばすような勢いで、彼女が叫んだ。
「きもち――きもちいいッ! おっ奥、おくまで、おねがい……っ」
「何を、奥まで――っフ、入れて、欲しいんですかっ!?」
「きゃ――っぁああ! お、おちんちんッ、パラさんの、おっきいおちんちん、きああ、わたしの、いちばん奥まで、っキひぃ、ぃっいれて、くださいっ……っ!」
「よく、言って、くれましたッ」
「ッあ!ぁ、その、だめだよ、ゆっくり、ゆっく――」
 ばちんッ!
 全ては言わせなかった。
 愛しいつがい相手の要望通り、ひと思いに腰を突き出した。芯を叩かれたキマワリさんは激しく胴震いし、膣肉が一気に収縮する。ようやく石づきまで埋まったペニスが、満遍なく心地よい圧迫感で満たされる。深々とめりこんだ虫孔との隙間から、ぴちゅ、汁の飛んだ音が聞こえた。
 キマワリさんはもはや声も上げず、胎を中心に全身をぶるぶると震撼させ、投げ出した両手の先でぎゅう、と芝藁を掴んでいた。どうやらしっかり目にイったらしい。浮いて逃げようとする腰を引き留め、深部まで到達したお望みのペニスを存分に味わわせてやる。快感を逃すすべを取り上げられた媚肉が蕩け、じゅくじゅくと愛液を絡みつけてくる。どこまでいっても締まりのよい肉穴にみっちりと抱えこまれ、私も危うく暴発しかけた。下っ腹を硬直させ、開放感の荒波を黙ってやり過ごす。
 眼の前で、顔裏の肌理(きめ)細やかな産毛が、ぶあり、と揃って総毛立つ。ザロクほど赤く熟れたうなじを汗の玉が転がり落ちる。んー、んんーッ! と押し殺したうめき声が漏れ聞こえていた。ハサミを伸ばし、再び口を隠していた葉をどけてやる。
「――ッきゃは、ぁ、きゃやあああああああっ!!」
 膣の底へ激熱を押しつけられ、キマワリさんは盛大なイき声を散らしながら草枕へ崩れ落ちる。羞恥も怯えも少し和らいだ、法悦に塗れた喘ぎは細々と尾を引き、悦楽の高波から降りてくるまで長々と続いた。半ば裏切るようにして膣奥をこじ開けた笠頭へ、絶頂を強いられた柔ひだが余韻めいて間欠的に甘噛みしてくる。
「ひっぎ! ぃ、はぁぁ……っ。っフぅぅ――ぅ、きゃ……?」
「……」
 唐突な突きこみに這って遠ざかろうとする腰を抱え直し、むんむんと濃くなる彼女のにおいにペニスをひと回り太らせつつも、私は何もしなかった。いちばん奥まで入れて、との要望を忠実にこなした後は、余計なことなどするべきではない、だろう。
 そのうち、息を整えたキマワリさんが健気に腰を揺すり始める。尻を持ち上げるようにして、自ら膣奥の柔らかな粒ひだへ笠縁をめりこませ、引き剥がす。彼女のいちばん大好きなところ――まだ唯一触れていない子宮口まで愛してもらえるよう、首を傾け切なく目尻を下げた顔を惜しげもなく晒しながら、どうにか結合を深めようとなよやかな尻を懸命に擦りつけてくる。
 中肢を回し、微々たるその動きさえ押さえこむ。膣底のすぐ手前まで届いた笠頭を、胎を揺するように脈打たせた。漏らした先走りさえ引きこむように媚肉がへつらってくる。キマワリさんがこの先何を望んでいるかなど、言葉がなくとも分かりきっていた。それでいて腰は微動だにしない。生殺しの拷問を執り行うのとは裏腹に、きのみの取り分が少なく地団駄を踏むマンキーを宥めるよう、ハサミで花弁のあたりをそっと撫でつけてやる。
「奥まで、入れましたよ……。満足しましたか」
「きゃ、ひぃぃぃ……!」
「泣いているだけじゃ、っあア、分かりませんよっ。さァ」
 すっかり発情しきった顔で恨みがましい視線をよこそうとも、許してやろうとは思わなかった。じっとりと濡れ押し下げられた目尻はよれ果て、顔を拭う余裕もないのだろう、深い紅に沈んだ頬、そこへこびりついた芝は荒い息遣いに震えている。
「もっと……、もっとぉ……!」
「もっと、どうして欲しいんですか」
「きぅううう〜〜〜っ」
 ぐっぷりと咥えこませたペニスを、ほんのりと左右へ振る。早くも奥でイくことを覚えてしまった肉粒が纏わりつき、食いこんだ笠裏のひだの1枚1枚にまでせっついてくる。レディアンさんの手、私へのフェラチオ、そして奥まで迎えただけで。もうすでに3度の絶頂を経て、未だ触れられもせずに茹だる熱を籠らせた子宮の渇望に、キマワリさんが抗えるはずもない。萼の裏までせり上がっているはずの恥知らずなお願いを待った。
 折れる素振りすら見せない私に、キマワリさんは諦めたように目を伏せた。ペニスで深々と貫かれたまま、潰れかけた肺でどうにか息を吸いこみ、芝へ押しつけた喉を震わせる。――ようやく、ようやくだ。純然とした快楽に堕ちたキマワリさんの、私にしか聞かされることのない蕩け声が聞ける。はやる期待と先駆ける達成感にびくんっ、と大きくペニスを拍動させてしまう。
 にたつく私の耳孔を震わせたのは、しかし予期せぬやっかみだった。
「さ、さっきね。れいちゃんと繋がっているとき、パラさん――ッ、怒ってた、でしょ」
「あ、ぇと、あれはレディアンさんが私を焚きつけたからでですね……」
 思わぬ話題を持ち上げられて、う、とたじろいだ。追及されるかと胸を開いたが、どうやら違うらしい。汗まみれの背中が、そうと分かるほどぞくぞく波打っている。細まっていく茎の先、頬を擦ったまま振り向いたキマワリさんはもうほとんどぐずぐずに泣き腫らしていて、潤んだ眼だけで小さくかぶりを振った。
「あんなすっごいのされたら、わたし、どうなっちゃうのかって考えただけでね……きぁ、おなかの奥、じんじんしちゃってたの。おねがいパラさん……。れ……れいちゃんにやったみたいに、わたしの大好きな、たくましいおちんちんで……、きゃぃッ、おまんこのいちばん奥、ガツンガツンって、苛めてほしい……っ」
 羞恥に顔を隠すこともなく、まして怯えの気配は露とも見せず。慣れない淫語を使ってまで放たれた貪婪(どんらん)極まりないおねだりは、わずかに残っていた自制心の(たが)を吹っ飛ばすのに十分だった。
「あー……。犯しますね」
「…………きえ?」
 もうダメだった。
 つがいなのだからお互いを労わり、ありったけの優しさを注ぐべきだ! ……なんて虫のいい建前はとうに霧散し、ただひたすらに横暴な獣欲のみが頭の中を跋扈(ばっこ)する。語彙さえ喪うほどいがらっぽい衝動に、私は身を委ねた。
 抑揚に乏しげな私のレイプ宣告にきょとんと首を傾げるキマワリさん。切なく疼いているらしい腰を中肢でがっしと掴み、短い腿が伸びきるほど尻を立たせる。その高さに合わせて後肢を縦長く機動させ、重心をさらに前方向へずり上げ、胸郭で彼女の背中を押しつぶした。甲殻の背筋を反らすまでして尾節をうんと振り上げ、ほとんど垂直に掲げられた膣口へ向かってすり合わせた切っ先を再度、ずぐンっ、と突き落とした。
「ひギゃ――っ!?」
 バッフロンの群れに()かれたように息を(つか)えさせて、キマワリさんは身を震わせた。
 はくはくと浅い呼吸を繰り返す照葉植物のうなじへ顔を突っこみ、つんと捧げられた尻へ腰を数度、叩きつける。すでに溶き解された柔肉は馴染ませるような前運動をせずともいきり勃つペニスを柔軟に迎え入れ、その根本までをぎっちりと締めこんでいた。具合がいい。
 尾節を曲げては伸ばすような交尾運動を続けるも、不安定な姿勢では挿入が覚束ない。彼女が腰をぐらつかせるたび肉壁をあらゆる角度から突きしだき、膣を内側から袋叩きにしてしまう。予測できない刺激がキマワリさんの膝を笑わせ、さらに頼りなく(うずくま)りながらもペニスを思い切り扱きつける。
 ひっきりなしにひくつく柔肉の感触を堪能する余裕などなかった。汗みずくの腰からずり落ちないようしがみつき、ひたすらに雌の体を責め立てる。震える小さな体を背後から押さえつけ、乱雑に女陰を突きまくる愛情の欠片もない交尾。嫌がる雌を本当に強姦しているような錯覚に呑まれ、腰使いにも一層の熾烈さが乗る。
「パラさっ、やぁぁ――ッ、きぁ、ぁ、あアアアア――っ!! ゃはああぁ、らめっ、――っキャひぃいいイっ、もっと、ゆっくヒ――ゅぎ!?」
「ええ、っグ、なんです、ってェ?」
 ハサミを伸ばし、広げられたキマワリさんの口へ爪の先を押しこんだ。がち、どこまでも横暴な私を(かこ)つように、小さな歯が当てられる。肌身であれば痕がつきそうな噛みつきだったが、頑強な装甲に歯向かうささやかな抵抗にかえって私の嗜虐心は煽り立てられ、前肢の節を曲げ分厚い粘膜をかき混ぜた。さらなる暴虐に締まる膣ひだへ(ほしいまま)にペニスを擦りつけ、あふれた蜜の潤滑をたよりに媚肉ごと引き抜いていく。背面の迎え腰とでも形容すべき痴態では、がむしゃらに腰を落とすだけで笠先が容易に子宮口へたどり着く。もう間断なく漏れるようになった媚びた嬌声を耳に、それがさらに甘い響きを帯びるよう腰を振りしだいた。
「ま、まっひぇ、ぴゃらしゃッ、っこれ、ァ、んぁああッ! ――ぁっあっあア゛……、ぁぎ――、きひぃぃ――ッ!!」
「ぐ、ぅ、ふ……っ、フーー……ッ!!」
 空いた方のハサミで突っ張っていないと前に転んでしまいかねない維持しづらい体勢をも気にかけず、体重を乗せた重く速いピストンで、気配りなく子宮ごと穿ち落とす。ぐずぐずに突き解された膣奥は宿り木のように笠裏の細ひだにまで絡みつき、肉つぼみは精液をねだるように根本からしゃぶりついてくる。勢いづいて尻先をぶつけるたび、抱きすくめた植物の柔靭(じゅうじん)な媚態が跳ね返る。じっとりと重くなったキマワリさんのだみ声を途切れさせるように、たんっ、だんっ、たぱんッ! 柔肌と甲殻をぶち当てる音を何度も響かせる。ゆさゆさと揺れる背中のキノコ笠から、こびりついていた薄紅色の胞子が散っていく。もはや毒とも捉えかねない濃密なのフェロモンにあてられ、半ば我を忘れて雌の体を貪った。
「きぁ゛、あ゛ーっ、ぁ、ぁあああ゛、きゃあ゛ぁぁ――ぁぁあっ、っあ、あッ! ぁアア――っ、――――ッ!!」
 どうにか聞き取れていた譫言(うわごと)さえ寿(ことほ)ぐこともできなくなったキマワリさんは、くしゃっと芝をひっつかんで全身をぷるぷる震わせた。汗と涙と鼻水でよれた頬を芝へ押しつけ、一段と甘ったるく鼻に抜け落ちた鳴き声で絶頂を噛みしめ、膣をひしゃげるように収縮させる。
 緊張と弛緩を繰り返す柔ひだでペニスを扱きつけてしまえば、彼女の後を追ってすぐにでも射精できるだろう。が、私はそうしなかった。下っ腹を煮立たせる煩悩に奥歯を食いしばり、彼女の絶頂の波が収まるのを待つ。このまま続けられるのは辛かろう。止まれとは言われていないが、私はレディアンさんほど鬼じゃない。待ってやることにした。――それにまだ、出してくれ、とはねだられていないし。
「あ、あ、ぁ、パラさっ、いまっイってるからぁ、動か、ないでえぇ……っ」
「……動いて、いませんよ」
 ただ入れているだけでも搾り取ろうと蠕動する膣肉の詰問にじぃと耐える。腰を止めたままうねつく膣内の心地よさを堪能しているだけだったが、謂れのない糾弾に腹底のケムッソがつのを出した。当てつけるようにとん、とひとつ突けば、イっぎゅ……! と、それだけで追い絶頂を決めたキマワリさんが虫の息をしゃがれさせる。
 なんのことはない、涙声で訴えてくるキマワリさんが自ら腰をへこつかせているのだ。絶頂の余韻をどこまでも長引かせるように、淡い快感を子宮口へもたらそうと尻を持ち上げ甲殻へぶつけている。さもしく己の腰が振れてしまっていることにも気づいていない様子で、それを私のせいだなんて、虫のいいようにはぐらかすのも器用になったものだなあ。上から叩き落とされる私の腰を受け止めているうち、不安定な体位を保持するために無意識に足裏へ根を張っていたらしい。しなやかな足腰をバネブーの尻尾のようにして、桃尻をしならせさらなる雌悦を貪っていたのか。快感に強欲なキマワリさんがいかにもしそうなことだった。
 突っ張っていた後肢を畳み、ずり落ちた体をそのまま退いた。ぬぽ……ッ、とたくましく勃起したままのペニスを肉つぼみから引き剥がす。
 産まれたばかりのシキジカめいてぷるぷると震える足、その裏に案の定みっちりと生え揃っていた根を掻っ切った。ちょんとハサミで前に押してやれば、ぁぅ、と情けない声とともに寝藁へくずおれるキマワリさん。まだ壮絶な余韻の中にいるらしい。植物のエネルギーによって幻出していた根は細かな粒子となって消失し、投げ出された足裏は元通りつるんとした張りを取り戻していた。二又に分かれたつま先が愛おしく、口に含んで舐め転がせば朦朧としたキマワリさんはこそばゆそうに(しな)を作る。私の愛撫に逐一反応してくれるいじらしさに加え、いくら眺めていても飽き足りない艶姿だった。

 しばらくは新緑の体に流れる汗を舌で拭っていたが、よほど深くイってしまったのだろう、気もそぞろなキマワリさんは言葉にならない呻きをこぼすばかりで、もじもじと反応が鈍い。このまま少し待ってやることも考えたが、何より射精しそこねたペニスが痛いほど張っている。
 揃えて内股へ折れたやわこい腿を割るようにして、ペニスを差し挟んだ。豊満な尻肉へ腹を押しつけ、彼女の下腹へ滑らせるように笠先を何度も押しつけると、すっかり解れて内壁を剥き出した肉つぼみに引っかかる。キマワリさんが深く息をつき、肉唇が大きく開いたところを狙い、ぐいと腰を押し出した。収まりかけていた絶頂の蠢動に従い、()まされたペニスがずぷずぷと奥まで到達する。
「――っきゃは! っあ、きゃっふ、ぅ……? パラ、さん……っ?」
「あ、おはようございます。さすが早起きなだけは、ありますね」
 ようやく正気を取り戻したキマワリさんは、よく肥えたカイスの蔓のように首をへばらせながら振り返った。起き上がろうと手足をばたつかせるも、私が固めるまでもなく力が抜けてしまっている様子。膣奥へ我が物顔で出戻った笠縁が、子宮口良いところを的確に(えぐ)っていると気づき、あえなく悶絶する。ほどよくへたれた肉ひだにペニス全体を優しく抱きすくめられ、ねっとりとしゃぶりつかれる。心地いい。引きかけていたか細い背中の汗露が、かっ開いた気孔から再びじりじりと浮き出てきていた。

 期待通りの反応に眼を楽しませながら、思い出す。そういえば、動かないでくれ、と言いつけられていたような。キマワリさんの厳命に従い、私はしばらくそうすることにした。




9 


 まだ固い子宮口へぬちりと先端を押し当てて潰せば、私の下敷きにされたキマワリさんが力なくもがいた。わずかな身動ぎさえ封じるように、芝草を握る葉にはハサミを、宙でもがく足先には後肢を絡ませ、寝台へと押しつける。ふきゅぅ、と漏れたキマワリさんの声にならない声を心地よく耳にしながら、改めて、ペニスで胎奥を押ししだく。
「き――ぃああア゛ッ!」
 足を立てている前屈みの姿勢ならば、横っ腹をよじって法悦を逃すこともできただろう。うつ伏せのままのしかかられていては、暴力的なまでの子宮快楽を濁った喘ぎに変換して吐き出すほかない。ほとんど動かせもしない尻を切なげにくねらせながら、蜜壺から油っぽい愛液を垂れこぼした。
 すでにキマワリさんは絶頂間際にまで追いやられている様子だった。子宮口を押しやったまま動かないペニスの鈴口、裏筋の膨らみ、縁肉の出っ張り、そして最も敏感な笠裏のひだにまで、しっとりと花ひだが絡みついてくる。これまでに幾度となく絶頂をもたらしてくれた肉の形を覚え直すように、ぬとぬとの粘膜が寄り添ってくる。
 腰を押しつけ余計な刺激を起こさないよう、口をジッと彼女の萼へ忍ばせて、湿った囁きで舐めあげた。
「このまま、トントンってしたら、すごく気持ちがいいと、思いませんか?」
「き……!」
 前屈した姿勢では情欲むき出しのまま最奥を虐げてきたが、これから苛められる子宮を明確に意識させられてからの粘っこい背面交尾は、また違った快楽をもたらしてくれる。想像力豊かなキマワリさんは、私の誘導に脳内を被虐の悦びで溢れさせてしまったのだろう。胎底を叩かれる妄想だけでイきかけたらしい、ぎゅぅ……っ、とひだ肉がペニスを押し包んでくる。
 芝に頬を擦り当てたまま、喘ぎばかりこぼしていたキマワリさんが喉を開く。かすれた声で聞こえるのは、淫らな言葉も一切の躊躇なしに本望をそのまま口走ったかのような、命令とは形ばかりの甘やかなおねだり。羞恥を取っ払ってやるような私の催促なんて、もう必要としなかった。
「お腹のなか、切なくて、じくじくしてっ、辛いから……っ。もっと……もっと、えっちなわたしを、おちんちんで気持ちよくして……、ほしい……ッ」
「――分かりました。お腹の奥に、集中してて、くださいね……ッ」
 粘膜をしきりに擦りあわせる狂乱的な刺激はなくとも、彼女の甘い声を聞いているだけで、ペニスは張りを保ったまま一向に萎える前兆すら見せない。六肢を投げ捨て、ふくよかな尻へ乗せた下腹を起点として、丸めこんでいた腹部の体節を伸ばし、纏わりついていた肉壁をぷちぷちと引き剥がす。ふやけた花ひだへ縁肉をずりずりとぶち当てながら、ゆっくりとした引き抜きで肉つぼみまで先端を戻す。抜かないで、と縋りついてくる入り口でしばらく遊ばせながら期待感を高め、しかし一気に突き落とすようなことはしない。丸い尻へ密着するように腹を曲げ、どつき回してしまった肉ひだを1枚1枚撫であやすようにペニスを押し戻し、焦らしに焦らし切ったところで、とぬ……、と鈴口で膣天井へ淡く触れる。ンきぇ、っえ゛……! と、喉が潰れたような深い恐悦の喘ぎ声。あくまで最奥に意識を向けさせる緩慢とした前後運動で、キマワリさんを善がらせてやる。ひと突きするごとに、ずるずるとどこまでも深く誘いこまれるような吸着感がいや増した。
「っひ! ぃいい――ッ。ふ、ふへ――きぁあんッ!」
「どうです、ひまりちゃんは、これが大好きですもんね」
「じゅき、すっぎぃ……! お゛っおく、もっと――んぉ、ぎ、ぐりぐりって、してぇっ! ――ッきぁあ゛ぁ、あ、わたしをもっと、だ――ダメにしてええぇ゛……っ!!」
「――ッはは、乱れすぎ、ですよ……!」
 上質な到達感にくらりと酔いかけながら、下腹をさらに丸めこむ。尾先を地面へつくほど押し下げ、これ以上ないほど深々と子宮を押し上げた。わずかな侵攻の進み度合いではあったが、キマワリさんもその差を敏感に感じ取ったようで、「き、んを゛……!」と乱れた呻吟(しんぎん)を喉奥から吐き、とろとろの膣奥を笠頭へなすりつけてくる。
 腰を下からすくい上げるようにゆすり、もたれてくる背側の膣天井を縁肉でつっぱねる。正面からここを愛されるとキマワリさんは訳もわからずイき散らしてしまうが、それは背後からでも同じようだった。子宮口のしこりへ裏筋まわりの笠縁を乗せ、そのまま円を描くように撫で回してやれば、がくがくと露骨な痙攣が肉感的な尻を伝って、でっぷりと蓄えた私の精嚢がゆさゆさと揺らされる。
「ぁ、あ、あ゛、こえっきぉち、いぃ、イ――ぁああああ゛ッ!! 、ひぁ、きぉお゛……っ! も、もっひぉ――!」
「私も、きもち、いいですよ……、っグ!」
 口の中に入った芝を気にするべくもなく、むしろその束ごと快楽を必死に噛み締めるようにして、喘ぐ。キマワリさんは顔を寝藁に突っ伏し、なす術なく股下を跳ねさせ、懇願に喉をせぐり上げていた。呂律が回っていないうえ、口の中の異物に発声を阻害され、もはや言葉のていを成していない。
 仰せのままに、桃尻がへこむほど腰を入れこみ、締まりあがる肉つぼみを支えとしながら、ぐりゅん、ぐりゅんッ、と子宮口まわりを撫でつけてやる。笠先で柔らかく押しつぶしつつ、硬いきのみを踏み割るように、ひねりを加えて弾く。こねくり回す。かえしのように張り出た肉縁で周囲の花ひだを持ち上げ、掻き乱す。巻きこむように子宮ごと圧迫する。キマワリさんの弱りどころを、優しく丹念に揉みほぐしていく。これ以上なく柔こい肉壁に包まれながら、子宮口と鈴口、鋭敏になり果てた粘膜どうしをねっとりと触れあわせる。骨の髄まで響かせるように、互いの吐いた期待汁を混ぜこぜにしていく。何をしようが気持ちよく、それは彼女も同じだった。
「きょ、ぉおお゛――っ、ひっぎ、ぃ、ぅん゛、ぁぅぐ、ィぎッ、ん゛ンぁ――――」
 キマワリさんはもう、しゃがれた喘ぎで鳴くことしかできなくなったらしい。願い下げられることもないまま膣奥を責め立てるうち、笠先が最奥のしこりを傾かせた。切羽詰まった声を垂れ流していた彼女が息を詰め、ぞくり、白玉の汗でびっしりの背中を強張らせる。お互い身動ぎひとつしなかったが、私も彼女も、この先に待ち受ける凄まじい快楽を感覚的に理解した。生唾を呑み、腰をわずかに引き離す。息を吸い、子宮口に狙いを定め、静かに腰を押しつける。雄からの執拗極まる求愛で緩んでしまった子宮への抜け穴へ、むちゅぅ、と鈴口が覆いかぶさった。
 がっちりと何かがはまった感覚とともに、身体の中枢からぶわり、と、凍えるような熱が湧昇(ゆうしょう)した。ムシの体とキノコの体、そのどちらをも、石づきを架け橋として制御不能の心火が焼き焦がす。
「ッあ゛、ひゃきぁああああ――ッ、っぁ、あ、ぁあああ゛! きゃぁアア゛っ――、あ゛――――」
 際限なく送りつけられる快感に甘イキを重ねていたキマワリさんが、その細い首へハサミを突き立てられたような致命的なひきつけとともに、とうとう長く濁った喘ぎを噴き上げる。夏空へ抜けるような嬌声とともに、すっ、と、熱に滾った全身を弛緩させた。骨の役割を果たす維管束までぐにゃりと蕩けさせ、火山の地熱でこぽこぽと泡立つ泥沼のように寝台へへたりこんだ。
 それと同時、ペニスへしがみついていた花ひだが、ふにゅん、と融けた。
「ふ、ゥ――!?」
 ――なんだっ、これ。
 初めてキマワリさんとまぐわった時にも体の相性の良さを実感したが、その範疇を超えた結合ぶりに、じわり、と変な汗がキノコの石づきを垂れ落ちた。肉壁だけではない、ペニスまでその輪郭を失い、まるで粘膜どうしが密に繋がってしまったかのような。体の境界を曖昧にする不定形どうしの交接めいた喪失感に、どっくどっくと心臓が早鐘を打つ。
 思いつく。
 住処としている桜の老樹は枯死した枝も多く、レディアンさんはそのひとつを私に剪定させ、そこへ同じく切り落としたオレンの幹を断面が揃うように籐で縛りつけていた。数日もすれば別種の植物にもかかわらず枝は縫い目なく()がれ、今ではみずみずしいオレンを実らせるまでになっている。
 私たちだってそうだ。草ポケモンには、不定形に次いでそういった自己認識のゆるさ、みたいなものがる。高濃度の性ホルモンにより脱分化を促され、癒傷(ゆしょう)組織の植物細胞のようにほろほろに解れた膣壁の花ひだ。その粒ひとつひとつが麻痺するほど硬直したペニスと融けあって、結びつき、接がれてひとつの生き物に生まれ変わったかのようだった。彼女が足裏から根を張るように、花ひだの隙間から無数の不定根が伸び出して、ペニスへと癒合するようにみっちりと絡みついてくる。引き抜くことすら億劫になるほど深く深く繋がって、キマワリさんが蒸散した汗の水分を補填せんと内圧を低めた維管束から、虫孔の奥で渦巻く白濁液を汲み上げられる。またとない粘膜の密着感に、いま射精すれば必ず雌を孕ませることができる、と本能が勢いこんで、虫孔まわりの括約筋が一斉に突っ張って仕方ない。
「きゃ、ぁ、あ――! ん゛……ッ、ふギ、ぃ、あ、まっまたぁッ、イぎ、そっ、い゛、イぐッ――、ぁあああ゛――――」
「ぁ、くぅッ、すご……ッ!」
 言葉通り、ひとつになる。体の相性がぴったりな草ポケモンどうしが芯まで重なりあうと、こうも気持ちよいものなのか。
 このまま、出したい。最上の絶頂感へと身を投げ出したい。
 それはキマワリさんも同じなはずだ。直後に彼女の下す命令が、手に取るように分かった。なんせ、お互いの血液さえ循環しあっているのかと思えるほど綿密に繋がっているのだから。
「お、ねが、い……」
「はい、ぃ……」
「だ、だし、て――ッ」
「っ」
 みだりに猥雑な言葉を引き出す必要はない。求められて、応じる。至極単純なやりとりが、子を成すという生命の根源的な本能をいたく刺激する。煮崩れた子壺の入り口へ潜りこむペニスがいっそう結合を深め、射精口をタマゴの小部屋へと差し入れた。このまま絶頂すれば1滴たりとも漏らすことなく種を付けられる、つがい同士がする交尾として最も適切な体勢。粘膜だけでは飽き足らず、甲殻と柔肌まで融け合うほど密着する。両前肢のハサミを回し彼女の顔を抱きこんで、射精運動に伴うわずかなぐらつきさえ打ち消すように身を固める。深すぎる雌悦に黙りこみ、ひたすらに熱い息を吐くキマワリさんはもう四肢からも力を抜き、私へと明け渡した胎へ種汁を注がれるのを心待ちにしているようだった。私もそれに倣い、産毛の1本に至るまでを腹の甲殻で撫でつけるよう、ぐったりと体重をかける。精液がペニスを昇ってくる感覚を微動だにせず待ちつつ、虚脱したハサミの横でひまわりの額のあざをしきりになぞった。刻印された彼女のコンプレックスさえも愛でながら、これは私が付けてやった証だぞ! と偽ってまで他者へ見せつけるよう、キマワリさんのパートナーであることを無言のうちに振りかざす。
「ひまりちゃんッ」
「パラ、さん……っ」
 融け落ちる体を折り重ねながら、これから私とのタマゴを産んでくれる雌の名を呼んだ。切れ切れの呼気で応じてくれたキマワリさんの、熱帯夜めいて湿ったうなじへ顔をうずめる。大きく吸いこんだ私の鼻腔を満たす、発情を促すフェロモンとはまた別の、雄を絶頂へ至らしめるための馥郁(ふくいく)としたカタルシス。 汗っかきな彼女の体質まで共有したかのように、乾燥肌のはずの私の石づきを滴が滑り落ちる。キノコのひだ、ムシの節に至るまで全身の細胞が雄叫びを上げている。今この瞬間のために私は生きながらえてきたのだな、と悟るほど極致感のただ中にいる。
 額を撫でられて喜悦に耽溺したキマワリさんの、ぐずぐずに蕩けた最後の命令。
「はらませ、て……!」
「うんで、くれ……ッ!」
 彼女が全身全霊で愛してくれるだけで、腰を振りペニスへ摩擦を与えることすら無しに射精へ至れることを知る。愛しいつがいのもたらしてくれる、その一言だけで十分だった。最後の最後まで堪えていた尻先を、ふっ、と弛緩させる。ずっしりとだぶついた精嚢が収縮し、先走りでぬめった輸精管を精液が駆け上がり、膨れた尿道をいっそう押し開いて迸る感覚が、分かる。
 出る……!
「どびゅ――ッ。蜜壺の入り口へ食いこませたペニスが大きく爆ぜた。びちゃ、びゅるうぅっ! 子宮壁へと精液を叩きつけられた胎が、孕ませられる予感に一気に熱くなる。ペニスの痙攣に合わせて、きゅう……っ、きゅうぅ……っ! と、断続的に締めつける膣壁のうねり。搾り取るような圧迫感に、ビュルっ、ぶび、ビュルルルッ!! パラくんの吐精にも拍車がかかる」
「……………………」
 背後から聞こえてきた耳障りな虫の声。まるで私の心を代弁するかのような、下品な擬音たっぷりの副音声に聞こえないふりをして、一世一代の射精に集中する。ただでさえ輪郭を喪失するほど深く繋がった粘膜だが、子宮が吐逆してしまった精液とも膣肉とも判別つかない熱源に笠先を包まれ、生温い痺れとともに感覚が鈍麻する。それでも捕らえた蜜壺へ完膚なきまで種を植え付けようとするペニスの脈動が、確かな絶頂感としてありありと伝わってくる。
「パラくんの執拗なポルチオ責めに懐柔された胎は、あっけなく子宮口を広く開いてしまう。ひだひだの粘膜にあやしつけられていた、ひまりちゃんが大切に守ってきたタマゴの素。世間知らずでぷりっぷりな深窓のお嬢様は、優しいフリをして子宮をノックしてきたパラくんの精子たちを迎え入れてしまった! 逃げ場がないほど注がれた強姦魔どもに取り囲まれ、命乞いする暇もなく一斉に襲い掛かられ、なすすべもなくハメ回される可哀想なタマゴ。ユニランを包むような薄い保護膜を一瞬で穴だらけにされたうえ、いちばん強くてでっかい精子に我が物顔で潜りこまれた。『おれの持ってきた遺伝情報で受精しろッ!』『ひっ……わ、わかりまちたっ! 言うとおりお受精するから、乱暴ちないで、どっどうか命だけひゃ……!』『お前が命になるんだよ!』タマゴは被虐の悦びに打ち震え、女の子の体でいちばん大切な臓器を傲慢な侵略者との子育て部屋へと模様替えしてしまう。妊娠ホルモンはひまりちゃんの体つきを嫌でもママのそれへ作り替えるように働き、しばらくすればお腹も膨らんでくるだろう。こうしてめでたく新たな生命が誕生するのであった。ちんぽで子宮をタコ殴りにされるのが大好きなひまりちゃんの遺伝子と、おまんこのいちばん奥で射精するのが大得意なパラくんの遺伝子だ、きっと元気なヒマナッツが産まれるだろうね」
「――ッああもう! 長々となんなんですかレディアンさんっ!!」
 不器用にも曲がらない首をどうにか仰け反らせ、かしましく騒ぎ立てる木漏れ日に向かって、吠えた。
 私たちの背後に陣取ったレディアンさんが、雌にしてはもともと低い声をさらに低くし謎の説得力を持たせ、無駄に演技力たっぷりな声音で汚らしい台詞を並べ立てていた。面白ずくに性知識を蓄えてきた彼女とはいえ、どこで仕入れてきたのか分からないような言葉をひけらかす。というか途中、何に声を当てていたんだ……。
 レディアンさんの独り芝居を隣で垂れ流されているうち、精嚢はすっかり空になっていたらしい。ぞっとしない朗読劇を聞かされたペニスは早々に萎え始めていた。ろくに絶頂の欣快を味わえず、すでに余韻もへったくれもない。台無しにされた交尾――と決めつけるにはいささか高慢だが、それにしてもあんまりな幕引きだった。
 軋む肢をなんとか持ち上げ、キマワリさんの背中から体重を退かしていく。粘膜どうしを癒着させるほど仲睦まじく繋がっていたペニスと花ひだは、まるで同居生活1日目のカメテテが交わす挨拶のようにあっさりと解けた。キマワリさんは干渉してくる戯言へ耳を傾ける余裕もなかったのだろう、未だ続く絶頂の余韻をじっくりと味わっているらしい。締まる、緩むをしきりに繰り返す膣壁のうねりに運ばれ、にゅっぽ……、とあっけなく笠頭まで押し出された。
「おまんこのいちばん奥でめったやたらにドビュり散らかし、満足顔で甲殻へ戻ろうとする過労ちんぽ。淫水でかぶれた笠首がなかなか萎まず、虫孔へ引っかかっている。……おっと、パラくんにこちらを向いて隠されてしまった。ジト目でボクを睨んでくる。ボクにだって報道の自由があるはずだ、そんな脅しには屈しないぞ! おっきなため息をついたパラくんは尻をボクへと見せないまま、後退りしてひまりちゃんの様子を気遣った。紳士だねえ。震えの残る緑の尻たぶは、平手で(はた)かれたようにうっすらと赤くなっている。彼女を強引に屈ませ、のしかかってあれほど容赦なく腰を打ちつけていれば印が付くのも無理からぬこと。その有様が痛々しくも扇情的で、またそれは、ぴったりと重なり合って子宮へ(じか)出しした種付けプレスの充足感とは別の、押さえつけた雌から意のままに交尾をせびらせるような激しい陵辱の嗜虐感を思い出して、目を細めたパラくんの息が再び乱れてくる。……なんだいそんなに睨むなよ、キミが興奮しているのはボクのせいだって言いたげな顔してさ。それより気づいているかい? ひまりちゃんのおまんこ見てみなよ。あれだけひどい仕打ちをしても、たっぷり呑ませたパラくんの精液、まだ1滴も垂れてきてないんだぞ。それだけひまりちゃんがパラくんとのタマゴを産みたがって――アッ! 今ちんぽビクってさせたでしょ! 隠したって無駄だからな、ボクには分かる、分かるぞ……! しかしなんだね、2回にわたってあれだけ出しておいて、まだ収まりがつかないのかい。……あー、その顔は相当虫の居所を悪くしているね? 最後の最後でボクに邪魔されたせいか、満足いくお射精とはならなかった。せっかく時間をかけてひまりちゃんを苛め抜き、パラくんのちんぽの形にフィットするオーダーメイド肉オナホにしてやったってのに。そうだ、このちんぽのイラつきは全部れいちゃんの虫まんこをハメ倒して解消しよう。どーせパラくんとひまりちゃんのどちゃくそ激しックスを見ながらオナっていたに違いないし、まあ事実その通りでボクのハメ待ちおまんこは勝手にくぱくぱっ♡ て開いちゃってるから、早くちんぽどちゅ♡ どちゅ♡ って――」
「いい加減にしてェ!」
 聞くに耐えない言葉のせめぎ合いに思わず叫んでいた。
 途中からレディアンさんも、ずっと黙ったままでいた私の口を割らせようとわざとらしい台詞を選んでいるみたいだった。無様にツッコみ六肢を虚脱させた私へ勝ち誇ったような顔をして、彼女がふふんと鼻を鳴らす。
 降参を示すようにハサミを宙でふらつかせ、芝のクッションへ蹲ったまま得意顔を見上げて言った。
「……というか、いつから起きていたんですか」
「んー? パラくんがエゲツないイラマチオかますところからかな」
「イラ……何て? 喉まで咥えてもらうことをそう言うんですか。――っていうかほとんど初めからじゃないですかっ」
「そりゃまあ、ボクもひまりちゃんと同じくらい〝早起き〟だからねえ」
「はあ……」
 レディアンさんは鼻歌まじりに替えの芝の束を抱えてきて、延びるキマワリさんの隣へくっつける。3匹が余裕を持って寝そべることのできるようになった寝台に斑点のついた甲殻を預け、ほのかに火照ったクリーム色の腹を私へとさらけ出した。
 縦に走る思わせぶりな筋を白い指がそっと下り、それはレディアンさんの求愛のサイン。行き着く先ではすでに花開いた虫孔が糸を引くほど濡れそぼっている。後肢を抱えるように回された中肢の指先が薄い肉唇へ食いこんで、くちゅ……っ、耽美な蜜音を立てて拡げられた。私のペニスで既に十分解された暗がりの肉布団が、私を覗き返している。
 食い入るように目を離せずにいる私へ、レディアンさんが呆れ半分、欲情半分といった具合で笑う。
「ぁはは、ごめんって。でも、まだシたりないのは事実だろう? ほら、こっちのおまんこにも存分に種付けしていいぞ。ま、発情期じゃないから孕まないんだけどさ」
「…………」
 このままレディアンさんに襲いかかってもよかったが、それでは完全敗北を認めたような気がして釈然としない。いやらしく開閉する虫孔を一瞥して、未だ戻ってこれていないキマワリさんの蕩け顔を仰向けにひっくり返す。よれて張りついた花弁を整えるように、湿った額を撫でさすった。
「お休みのところ頼みにくいのですが、キマワリさん、もう1回、いいですか……?」
「きぇぇ……? っあ、きゃっん……っ、ぅぇひひ……!」
 連続して絶頂させられようとも、むっつりなキマワリさんがこの程度でバテるはずもない。見立て通り求められた彼女はだらしなく破顔し、意識を不明瞭にさせながらも、一段と潤いを増した葉をたおやかに広げてくれた。
「ちょ……ちょっとぉ!? ボクを放っぽってどーする気なのさ!」
 ここで振り返ったら意味がない。隣から聞こえてくる非難には、徹底的に無視してやることにした。
 迎えられるようにして身をすり寄せ、キマワリさんの両手に抱きしめられる。発情期とはいえやはり、彼女の性欲も際限なく放蕩しているらしい。ぐしゃぐしゃによれ果てたかんばせを心おきなく晒してくれる。羞恥を残したままの以前の彼女なら、きっとこんなだらしない顔は見せてはくれなかっただろうが――、好都合だ。
「ごめんなさい、さっきは子作りすることに(こだわ)りすぎました。ひまりちゃん、今度は可愛らしい顔を見ながら、ちゃんとしたセックス、やり直したいです」
「き、あ……!」
 ハサミを立て、覗きこむようにして正面から見下ろす。半泣きになりぐずぐずに蕩けた大輪、その真ん中から垂れた鼻水を片前肢(かたて)で拭う。目線を睦ましく絡ませあいながら、口と口とをそっと寄せ合って、ちゅ……ちゅっ、ふちゅ……、と、ついばむような軽いキス。向かい合ってする体位の素晴らしさは、これから種を付け直す雌の表情を確かめ、生まれてくる種族――彼女の場合はヒマナッツがいかに可愛らしいか想像しながら抱けることだ。
「ボクもキスしたい! あー口がさみしいぞ、いまなら早い者勝ちだよ? ささ、パラくんひまりちゃん、どっちが先にボクの唇を奪えるかなー?」
 無視する。
 もじりもじりと太腿をすり合わせたキマワリさんの腹が重たげに揺れる。たらふく呑まされた精液が子宮の中でとぷとぷと揺蕩っているようだ。膣口から漏れ出てはいないようだが、多少は胎からむせ返してしまっているだろう。妊娠を確実なものにしてやるためには、また子種汁をしこたま詰めこんでやらねば。じりじりと下腹が再燃してくる。
「口、開けてください。私の唾液、飲んでくれますか」
「きぅ――っ、ほしぃっ! ぇへへ、たっぷりちょうら、ちょうだい、ね……!」
「ボクにもちょーだい? ちゅっちゅっちゅ♡」
 無視。虫だけに。
 くったりしたキマワリさんの腹へ体を乗り上げ、幅広い口どうしで綿密に繋がりあう。横からぐいぐい割りこんでくる悪い虫が彼女の視界に付かないよう、舌を押しこみディープキスに集中させる。じゅろろ……っ、ちゅぽ、れるる……じゅぞッ! 彼女の薄いベロを(まく)り、吸いあげ、まだ(かげ)る兆しのない私の劣情を教えこむように口腔粘膜を満遍なく掻き乱す。興奮を取り戻してきた荒い息に紛れ、つまらなそうに腕を組む誰かさんへ聞こえよがしに蜜音を奏でながら、ねとついた唾液をせっせと酌み注いでいく。
 脱力して開いた手へハサミを添わせ、芝の上で重ねあう。上下の刃の隙間へ忍びこんでくる葉の手をしっとりと握り返し、恋仲のポケモンがするような手のつなぎ方を見せつけながら、花も恥じらう情熱的なキスを続行した。

「なんなのさもうッ! つがい差別断固はんたーーーいッ!!」

 レディアンさんの悲痛なスローガンが、平原に木霊していった。




10 


 こちらからペニスを押し当てるまでもなく、にゅく……っ、と、尿道に熱く湿った感触があった。仰向けに芝へと沈み、投げ出した足裏で地面を掴み下半身を安定させたキマワリさんが、質量感ある尻を持ち上げ、内肉までほつれた陰唇を押し当てていた。精油でデロデロになった肉棒を包んで拭うように、しなやかな足腰でへこへこと擦りつけてしまう。どんな言葉よりもはしたなすぎる催促、それを躊躇(ためら)うことすら思い浮かばないらしい。ついさっき終えた子作りで確かに身篭った腹を――神聖的とさえ言い表せたつながりに、私も孕ませたと確信できるほど精液を注いだ胎を――たぷ、たぷ、と揺らしながら、さらなる快感を貪欲に求めペニスを奮い立たせてくる。
 長々と続いたねちっこいキスを切りあげ顔を見つめた。滔々(とうとう)と注がれる私の唾液にすっかり酔いしれ、グライガーのように薄いベロをしまい忘れたまま未練がましく見返してくる彼女の紅葉顔に、羞恥はただのひとつも残されていなかった。
「疲れては、いませんか。イってばかりで、お辛いでしょう」
「きゃ……! ッん、だいじょーぶ、あのね……。おちんちん、当てられるだけでね、おなか、うずいて、火照って、しょうがないの……っ」
「ボクもお腹疼いちゃってるんだけど」
「……」
 大臀筋が()りかねない無体な姿勢を取ろうとも、自ら腰を振っていることに気づいていないような口ぶりだった。もしくはそうすれば私が興奮すると分かっていてペニスを掻き口説いているのかもしれないが――、どちらだろうと些細なこと。
「だから……っ、ね? もっと、たくさん、えっちなこと、しよ……?」
「もちろんです……っ」
「ねぇボクもしたいんだけど! ねぇ!」
 すっかり硬度を取り戻したペニスを膨らんだ腹へ押しつけ、今にも入れてほしくてたまらないキマワリさんの腰を芝へ沈ませる。一旦体を起こし、足裏へ根を張られる前に彼女の両足を大きく開かせ、ムシの中肢と後肢の間に絡みつかせる。回した足指で背中の石づきを握られる感触があって、私は尾節をすり寄せた。すかさずペニスを捕まえにきた葉の支えに従って、笠先を肉つぼみへ当てがう。くいくいと押し当て、ちょっと前まで潜っていた膣口の変わらぬ柔らかさを確かめる。キマワリさんのもう一方の片手はなだらかな腹の真ん中あたりをさすっていて、中から触れるべき子壺の位置を明確に教えてくれていた。
「挿れて、はやく、はやくぅ……っ」
「はいはい……。もう意地悪、しませんからね……」
「……ボクには意地悪なくせにぃ」
 切なげに鼻を啜りながら、溶け落ちるように身を委ねてくれるキマワリさん。顔を見合わせたまま、粘膜から伝わる感覚を分かち合うように蜜穴をゆっくり埋めていった。これ以上なく蕩けた背中側の肉ひだを掻き分け、油蜜を絡みつかせながら笠先を沈ませる。マゴのみのようにくねった膣道の中ほどのすぼまりまでをペニスで矯正すると、この先で控える雌の本陣が出迎えてくれるように、きゅうう……、と、細かな肉ひだが優しく締めつけてきた。キマワリさんは私以外にも何匹かの異性と交渉経験を持っているが、ここから先へ触れたことのある雄は私だけなのだと思うと、どうしようもない優越感に尻先から陶然とした痺れが突き抜ける。
「ぁあ……っ、きゅ――ぅぅんっ! ひぁっ、はぁぁ……ああんッ」
「ふ……ッ、ふぅーー……っ、っ」
「……おーい」
 無性に愛おしくなって、ハサミで額をしきりに(さす)った。涙目で感じ入る彼女がにへら、と口許を崩し、私は前屈みにそこへ再度キスを落とした。吐息でくすぐり合いながら、そのままずるずるとキマワリさんの最奥へのめり込んでいく。子宮口の手前でわずかに広がった体腔へ笠頭を咬ませ、こにゅこにゅと粘膜どうしを触れあわせながら、風にそよぐ(すすき)のようにぶあっと波打った彼女の蕩け顔を拝む。向かい合って繋がる体位はお手のもの。未だ腰つかいは緩慢に、キマワリさんの好きな膣天井の肉粒群を、私の好きな裏筋あたりの肉縁でぞりぞりと(こそ)げながら大きく往復させる。強い締めつけが断続的に襲ってきて、私にも気持ちよさが揺り返してきた。窄んだタイミングを見計らい、ずぐんッ、と長大なストロークを見舞えば、峻烈な快感にあっけなく腰が抜けそうになる。
「あ――――んきゃ、ふッ……!ん、ンっ、また……奥までっ、ぅれし……ッ!」
「っく、ふ、ゥ……! ひまりちゃんの体、ほんとに、相性がいい……!」
「……いいなぁ」
 求めて頬へ這わされた両手の葉をハサミで握り返し、胸と胸をくっつけて心音を同期させる。恋仲めいたセックスにたまらなくなったのだろう、キマワリさんは喜悦に下がった眉尻を震わせ、甘やかなため息をついて、太腿できゅっとムシの体側を挟んできた。応じるように、睦まじく手を繋いだままのハサミで大輪を抱きこみ、艶やかに色づいた唇へと口づける。
「ッはキ、ふぅう゛っ、ひぁ、きぉおおお゛……っ! っお゛く、すきっ、すきぃ……!」
「私も……っ、好き、好きだ……ッ!」
「あのー」
 甘いすすり泣きを途切れさせないよう、子宮口の背側をトントンと叩く。膣奥でしっとりと馴染ませてから、ずるずると媚肉を擦り合わせる。挿入の角度を変えるたびに、もしくは彼女が小さな身動ぎひとつするだけでも、そのわずかな間を埋めるようにキスをした。好きだ、すき、と酔いしれたように交互に呟き、物足りない快感を吐息で補い、見つめ合い、またキスにのめり込んだ。
 でたらめに腰を振り抜く肉体的な快感よりも脳をとろめかす、マホミルよりも甘ったるい幸福感。お互いに求めていたものを補い合うようにして、耽溺(たんでき)する。安心しきったような声でさえずるキマワリさんへ、しつこいくらいに口付ける。幸せを伝えるように腰をゆすり、呼応するように腰を揺すられる。
「ああ……ああっ、ずっと、っフ、こうして、いたいです……ッ」
「きぇへへ……うれしヒッ。きぁぁんっ、わたしっも、しあわせ、だ、よ……!」
「おぅい」
「これから産まれてくる子も、きっと、ひまりちゃんに似て――っフ、かわいらしいので、しょうね……!」
「うむ――うんッ、パラさんのたまご、おなかに宿してっ……! 元気なあかちゃん、産みたい……っ」
「私も、ひまりちゃんに、産んでほしい……ッ」
「もしもーし?」
「一度にいっぱいできちゃっても、キああ……っ、だいじょうぶ、だから……。ひゃんぅっ! わたしっ安産体型だからっ、安心して、んゃぃッ、いっぱいいっぱい、孕ませて……?」
「――っああ、あなたのような雌を迎えられた私は、本当に幸せ者だ……!」
「………………」
 キマワリさんは緩慢と身をよじり、尻を浮かせてくれた。背中をよじ登っていた足が蔦めいて石づきへ絡みつく。支え持つように彼女の腰裏へ後肢を沿わせた。初めての同衾(どうきん)でも行った、キマワリさんに潜む強すぎる雌の本能を目覚めさせてしまった快楽づくの体位。
 ギチギチと腹を屈曲させるような前後の腰使いから、肢を屈伸させて体重を落とす上下運動に切り替える。ありがとうのキスをぶつけ、射精に至る小刻みなピストン間隔で子宮口を(にじ)りつける。キマワリさんも迎え腰を懸命に揺すり、お互い同時に絶頂を迎えられるよう腹奥へ快感を募らせている。
 丸い尻と尾節がぶつかり合う湿った音に紛れて、ぐちゅッずちょッぐちょ……! と、空気を含んだ粘液の捏ねつけられる音が膣底から響いていた。ペニスから伝わるねちっこい感触から思うに、どうやら子壺へ呑ませた精液が漏れてしまっているらしい。背後へ見せつけるように晒した繋がり部分を想像する。子宮を焦らすように大きな律動で膣壁をまくり上げれば、白い泡粒をべったりとこびりつかせたペニスが精油を掻き出しながら現れ、浅ましく泣き縋る蜜壺を(しつ)けるように奥まで突き落とせば、どう見ても不釣り合いな質量がちっぽけな膣穴をひと息で制圧する。そのまま子宮口を捏ねれば、反り上がった柳腰が波打ち、虫孔と肉つぼみに挟まれた油蜜を弾き飛ばす。湿った熱気とともにどぎつい性交臭が立ち込めているはずだ。
「んあっ、ぁ、ぁあああーーッ! やぁぁ、きゃッ! ふゃ、ひぁ――ぁあああ゛ッ!!」
「ぐ――ぅうう゛ッ!!」
 キマワリさんを絶頂の予感に鳴かせる抽挿は、同時に私をも射精へと追い詰めてくる。ぎゅっと握られたハサミは傷つけないよう握り返し、芝へ突き立てる。キスを切りやめ、無い首とか細い首とを交差させ、下腹部へ感覚を凝集させる。背中へ回されていた彼女の足が滑り、姿勢が崩れきる前にスパートをかける。虫腹がさざめく。キノコの笠が胞子の射出にささくれ立つ。ペニスに甘い痺れが走り、このまま射精へと踏み切ろうとする私の顎へ白い手が滑りこんできて――
 くいっ。視線が正面へ戻され、すっかりおとなしくなっていたレディアンさんの複眼と眼があった。
(い゛)った゛!!!?」
 とっさに固まった私の視界が彼女の(あんず)色した腹部で覆い尽くされ、どうやらムシとキノコの間へ手を伸ばしているようだ。そう気づいた時には甲殻に鮮烈な痛みがあった。……まさか、激昂したレディアンさんに石づきをへし折られたか? 錯乱する私から上体を戻した彼女の手に、何か握られている。
 膨れっ面をしたレディアンさんが、手のひとつに小さな子実体――私の発情期にムシの背中へ生えたままだった、食べさせた相手に媚薬効果をもたらす、彼女の親指サイズの小さなキノコ――を握りしめ、群青色の複眼をアブリボンのようにわなわなと震わせていた。……次はパラくんの命をもぎ取るぞ、と脅されているような気はするが、予告なしに(ほふ)られるほど怒らせてはいないようだ。
「……さすがに、寂しいぞ」
「……だからって、いきなり背中からキノコをもぐのはやめてもらえませんか」
「ボクだってキミのつがいなのに、仲間外れなんて……、ひといじゃないか」
「……ぇ、ええと」
 いつになくしおらしいレディアンさんの弱音に、私は思わずたじろいだ。普段の明朗とした複眼は翳り、触覚は萎れ、小さな口はさらに小さく縮こまっている。六肢は力なく垂らされ、翅ばたきも心なしか弱々しい有様。魂を霊界へ吐き出したフワンテのようにひもじく儚げだった。
 こんなに気落ちした彼女を見たのはいつぶりだっただろう。考えあぐねているうち、レディアンさんは摘み取ったまだら模様の子実体を片手に、私の背面へ回り込んでいた。潤んだ複眼が嘘泣きだったかのように一転、楽しげに声を上擦らせる。
「だからボクも、混ぜてもらうからな!」
「ちょ、レディアンさん、またからかって――」
「キャぃわ!?」
 キマワリさんが不意に叫んだ。止められた律動にもどかしく腰をもじもじさせていた彼女の顔が引きつり、手を振り解いて私の胸から逃れようともがく。かと思えば何かを堪えるようにぎゅっと眉を歪め、それが次第に切なく和らいでいく。眼は細いのにこんなにも表情が分かりやすいのだな、とどこか遠くで感心していた。
 背後から、一段と楽しげな声。
「わ、ひまりちゃん、初めてなのにお尻の穴でも感じられるのかい!? 淫乱もまさかここまでだとは思わなかったよ……」
「ひ――ひぃぃぃッ、おしり、広がっちゃ――ああああ゛ッ!?」
 死角に潜んだレディアンさんは、その海綿状組織に媚薬成分をたんと蓄えた子実体を、さらけ出されたキマワリさんの尻穴へ押しこんだらしい。ずっぷ、ずぶッ、ぶぢゅ! と、しなやかな括約筋にしゃぶらせる下品な音が響く。何時間もかけて膣をすこぶる耕しまくったせいか、興奮の伝播した肛門まで緩んでいたのだろう。漏れ出した腸の粘液が抽挿をスムーズにしているようだった。
 恥じらう花とでも形容すべきキマワリさんにとって、菊門をいいように弄られるなど耐え難いものかと思ったが。子宮をペニスで貫かれていてはそれどころではないらしい。触れることのない体の内側を意識させられ、密集した神経末端をキノコに叩き起こされ、未知の圧迫感を膣快楽で上塗りされる。被虐趣味なキマワリさんがそんな刺激を突っぱねられるはずもない。わずかな抵抗もかなぐり捨て、あっさりと受け入れた彼女は頬の紅潮をぶり返し、おとがいまで身をひねくらせては汗を飛ばす。私の背中からずり落ちていた足は宙をもがき、未曾有の快楽から逃れるようにキノコの笠裏を蹴りつけていた。鼻にかかった助けを求める声がみるみるうちに余裕を失っていく。口癖のように叫んでいた『ダメ』も、1度イってからはめっきり聞こえなくなっていた。
 異物感に尻を力んでいるらしい。苛められている肛門と筋肉が連動しているのだろう、爪の先ほどしか離れていない膣道もこれ以上なく締まりあがった。濡れ蕩けた粘膜にぴったりと掻き抱かれ、立ち往生していたペニスが硬性を取り戻す。体節を伸ばしただけではツボツボの孔へ引きこまれたかのようにびくともせず、後肢で彼女の鼠蹊部を押さえつけ、みぢみぢと剥がすようにペニスを引いた。内部に留まった笠先は迫りくる柔軟な肉ひだにねっとりと取り囲まれ、根圧で吸いつかれたようにまた膣奥まで引き戻される。
 ……っこれ、初めて抱いたときよりも狭いんじゃないか? 私が散らせなかったキマワリさんのあだ花を改めて貰い受けているようで、それでいて花ひだは誰にでも股を開く雌のそれのように隅々まで(こな)れきっていて、ちぐはぐな興奮に板挟みされながら腰を振り直した。後孔を(あらた)められる空恐ろしさに縋りつく肉ひだを無慈悲にも突き放し、処女めいてちまっこい極上の雌穴を、にぢっにぢっにぢっ! ひしゃげた音を立てて貪り尽くす。
「んキェえぇ!? やらぁぁっまっひぇ、いまっうごかな――ヒぃぃっ! こっこれ、おかしく、ヒぁ、なっちゃ――きぉあああア゛ッ!?」
「ほらっレディアンさん……! ッぐぅぅっ、動かないでって、言ってるじゃないですか……! あなた、気持ちよくないでしょ……ッ」
 締まり狂う肉壁に軌道を見つけ、打ちつける腰の速度を熾烈なものにしながら、キノコの笠へ隠れたレディアンさんへ向けて叫んだ。およそキマワリさんの喉から発せられているとは思えない低俗な喘ぎに混じって返される、蜂蜜のように胃をもたれさせるほど甘美な(いざな)い。
「ひまりちゃんが気持ちよさそうだと、ボクも嬉しいんだよ。キミだって同じだろ。それに……さ、よく考えてみるんだパラくん。今のうちにお尻を開発しておけば、これからひまりちゃんが身篭っても、タマゴに負担をかけることなく、こっちの穴で思う存分セックスできちゃうぞ……?」
「――――っッッ!! ぜっぜひ、やりましょうッ! レディアンさん頼みます……!」
「うわぁ……パラくん最ッ低だねェ。ひまりちゃんが身重なときくらい、ボクのおまんこで我慢すればいいじゃないか」
 生殖とは無縁な孔で劣情を()き捨てる背徳感は、キマワリさんの喉にぶちまけた時にありありと教わった。懐妊した彼女の腹を労わりながら後孔を責め立てる妄想に、打ちつける腰をどうしようもなく速めてしまう。くつくつと笑うレディアンさんは私の抽挿を妨げることなく、浮いては沈む尻の高さに器用に合わせながら、ペニスと入れ違いになるよう子実体を前後させる。膣道の背側を下から押し上げる圧迫感に、今にも精液を漏らしかねないじれつきが下っ腹を支配する。
 くちゅんぐちょっぐじゅぐぢょ……! ふたつの孔を責め立てるキノコがひっきりなしに蜜音を掻き立てる。訳もわからず喘ぎ散らすキマワリさんのぐずぐず顔を眺め尽くし、できあがった雌肉をを一心不乱に突きしだく。
 秘めたる菊門を身勝手に掻き回され、腸粘膜へ媚薬液をぐりぐりと擦りこまれ、締めたくる膣肉をペニスで捲り返され、また蜜壺を力の限り突き潰される。生新しい快感に押し流されたキマワリさんは、もうずっと甘イキを続けているらしい。瞬きするたびに(まなじり)から玉の涙を綻ばせ、アリアドスの巣網にひっ絡まったようにしきりに細首をよじり、私へとしがみついた手足はがくがくと震え上がっている。華やかに立ち昇った香油の熱気と、それに似つかわしくない獣じみた喘ぎ声。
「あっぁああ゛、あうッ――キひ、ぁ、あっ、あーーッ! ぉおおお゛――ひゅギぃぃ……っ! まっまた、ふかい゛の、イぐ――ぃ、イ、ぃいいい゛ッ!!」
「ふっぐ、ゥ――っ! 私も、もッ、限界ッ、ですぅ!」
「か――かおっ! わたしの顔に、きょぉおお゛ッ! おもいっきりかけて、どろどろにして、んぉ、パラさんのしるし、っひギッ、つけてえええぇっ!!」
「はゥグっ!? ――ッなんたってひまりちゃんは、そんなすけべなんですかッ! ――っぐ、ぅあ、フぐぅ゛っ!!」
 好色なレディアンさんでさえ思いつきそうもない性のはけ方に、予期していた射精のタイミングがにわかに前倒しされる。腰は止めるべくもないほど律動に拍車をかけ、彼女の股ぐらを濁った精油で蜜漬けにしていた。愛しい雌の胎へまた精を仕込めるといきり立った本能が狂乱している隙に、不格好な前屈みになったまま後肢を思いきり伸ばし、背中へ絡められていた根の拘束を振り解き、ズポリ! 弾ける寸前のペニスを引っこ抜く。得物をキマワリさんの鼻先へ突きつけた途端、尿道を限界まで拡張した石づきがぐぐっと押し下がり、鈴口の孔辺が膨らんで開き、貯精嚢と外界とが一直線に繋がるような感覚。甲殻に亀裂が入るほど尾節をひしゃげさせれば、脂ぎった子種汁が腹の底から噴き上がる。
「ぜ、んぶっ……、出す、ぞッ……!」
「きゃひ――きっ、きてぇッ!!」
 ここに乗っかるように射精してね、とでも囁くように葉で指し示されたあたり――汗と涙ですでに朱く沈んでいる顔の中央めがけて腰を震わせた。しゅる、と忍びこんできた白い手がペニスをつまみ上げ、瞬時に照準を固定する。びゅぐッ! 暴れ跳ねた1発目から寸分(たが)わず正鵠(せいこく)を得て、ぶるん、と立体的に崩れるほど粘度の高い精液の塊を産毛の上に撃ちつける。
 煮えたぎる私のものの感触とにおいでも絶頂へ至ったのだろう、キマワリさんはうっとりと眼を閉じ、滅多打ちにされた子宮が遅れてもたらす至上の悦楽に揺られていた。爽やかな花畑で昼寝しているかのような顔つきへ、その情景には相応しくない私のぎとついた情念が降りかかる。もともと縦に走る2本の淡い筋に倣うようにして、びゅるっ! びゅくッ、びゅ、どくっ……、どろどろの精液が幾重にも折り重なり、あどけない顔を見るも無残な傷物へと(おとし)めていく。下がり眉になった両眼と細く開かれた口を縦に引き裂くようにマーキングしていく子種汁は、あざの刻印へその上から私の印をつけているようで。軌道が大きくぶれないよう肢を突っ張りながら、強烈な征服感にしつこくペニスを脈動させる。
「う゛っ、うぐ……、ッああア゛っ、フうぅ……ッ!」
「あ、はひ、きゃ……あぁ――ひぁっ! んぅ――」
 熱い白濁を乗せられるたびに打ち震えるキマワリさんは、べろり、と広い舌で鼻頭に付着した粘着物質をこそげ取り、その濃すぎる精子の味に追ってイっていた。あまりのすけべたらしさに、種を蒔ききったはずの私のペニスが空射精する。3度目にして十数発と撃ち放してさすがに勢いに欠ける出涸らしは、鈴口とキマワリさんの平坦なあぎととをドロリと1本の粘着糸で繋いで、それがまたどうしようもなく淫靡だった。




11 [#20Qq05i] 


 さすがに疲弊し先端を枝垂(しだ)れるペニス、そこから架かる白濁の橋をハサミで名残惜しく巻き切り、だらしなく笑んだキマワリさんの頬へ拭いつける。
 息を整えながら、白眼を細めた。いい眺めだ。私の精液を顔全面にひっかぶり放心する雌の嬌艶(きょうえん)を脳へと焼きつけた。獰猛なルガルガンの爪で引き裂かれたように走る精液の筋と、その重みや熱に浮かされた紅葉顔。ダマになった塊が崩れて静かに延び広がっていて、それに絡まる産毛のよれ具合まで1本1本が愛おしい。
「まったく……、いつまで見せつけてくれるんだい?」
「……っふぅ。はい?」
 雄としての到達感に打ち震えていた私の体が横からすくい上げられ、六肢で踏ん張る間もなく体が傾いた。キマワリさんの左手側、かろうじて留まった芝絨毯の端で衝撃を和らげ、彼女の背中へ回した右前肢を引っかけどうにか完全な転覆は(まぬが)れる。背中の笠は桜の根元のへこみに収まったようで、横倒しのままではやはり起きあがれそうもない。背中の石づきが左へと押し曲げられ、ふだん取らない体勢に甲殻が疼痛を訴えてきた。それ以上に、キマワリさんへ横ざまに抱きついた、赤児のような辱めを受ける格好だ。ムシの頭とキノコの裏ひだを湿らせる、震えが尾を引く彼女の吐息。
 何するんですか、と言葉なしにレディアンさんを睨みつけるも、私の尾先で屈んだ彼女の小さな口がすかさずペニスへ飛びついてきた。尿道に残っていた潤滑の残り汁を強烈に吸い上げられ、情けなく息を震わせる。
 キマワリさんのなだらかなお腹を枕にして、笠先へキスしたままの膨れっ面が覗いていた。
「最後の方、またボクのこと忘れかけていたろ」
「う……、それはっ」
 レディアンさんは横転したムシの体から水平に突起した肉竿へ鼻先を押しつけ、キマワリさんの精油と私の精液とが混濁した固着物をぺろり、とひと舐め。子房からあぶれ結実を遂げられなくなった花粉たちは、ペニスと膣壁の袋小路に囚われ、練り上げられ、摩擦熱で煮詰められ、笠縁で引きずり出されることによって、中出し済みの雌肉を懲りずに突き回した肉棒の淫猥さを(つまびら)かに物語っている。それを複眼に映したレディアンさんはとびきりの発情顔を擦りつけ、無視された不満とこれからの期待を乗せて石づきをぴんっ、と指で弾いた。
「パラくんのちんぽ、いつ見てもえげつない形だよねえ。このカリ首でひまりちゃんの無垢なおまんこを情け容赦なく掘り返してさ。ぁは……っ。引き抜くとき内側のひだひだ肉を捲り返すの、すけべすぎてちょっと引いちゃったぞ」
「ま、待って、私もう無理……」
「ええ!? 精液とっておいてくれないなんて、ほんとにボクのこと、嫌いになっちゃったのかい……?」
「違いますってば……。っていうかそんなことできませんよ」
 私をおちょくりながら、レディアンさんは白(かび)の油汚れを舌でそげ落としていた。んっ、おいしっ、なんて欲情まる出しの呟きを挟みながら、笠裏のひだや裏筋の複雑な凹凸にまでベロを回し、私が快く彼女の虫孔を使えるよう健気に掃除してくれる。いつもはこれほど献身的になることのないレディアンさんなのだが、無視されていたのが相当に効いているらしい。――よかった、冗談を飛ばせるほどには機嫌を直してくれたみたいだ。ひとすくいの安堵に混じり、危機を乗り越えたのだという生存本能が血潮をとろとろと沸き立たせる。
 私への奉仕を続ける最中、手のひとつはまだキマワリさんの後孔を弄んでいた。浅く挿した子実体で腸壁を小突き回し、余韻めいて食いしばる肛門をふにふにとあやしつける。弾みをつけて引き抜けば、ぶぼッ、肉輪をめくり上げかねないほどのはしたない音とともに、芝へ埋もれていたキマワリさんの尻がびくんッ! とわななき立った。
 抜き去られた小さなキノコは分泌液の糖蜜をまぶされ、さも毒を纏っているかのような色味で妖しくてらついている。含んでいた催淫成分はキマワリさんの直腸を侵し、既にイきまくっている彼女の発情を際限なく掻き立てているはずだ。落ち着きかけていた彼女の吐息が、よく解された後孔を軽く弄られただけでたちまち崩れてしまう。粘膜へ当てこすっただけとはいえ、キマワリさんに子実体を与えるのは初めてだったっけ。しかも尻からとなると薬効もどれほどのものか見当もつかない。大丈夫だろうか。
 気を揉む私をよそに、レディアンさんはペニスへと口づけながら、余った手でぽってりとした植物の尻を撫でている。
「んー……。パラくんが相手してくれないなら、ボクひまりちゃんとヤろうかな。雌どうしでも気持ちよくなれるって分かったし」
「ちょっとは休ませてあげてください……」
「くたくたにさせた張本人に言われてもねえ。キミはこれでも食べて、さっさとちんぽの元気を取り戻しておきなよ」
「わっそれお尻に入れモガご」
 いやにねとついた子実体をぐいぐい押しつけられ、ハサミで遮る間もなく口へ放りこまれた。実質的な排泄物を口に詰められたうえ、あまつさえ自分の体の一部を食すことへの拒絶反応、それらにえずく喉奥をどうにか圧殺する。キマワリさんだって、すえた臭気を放つ私の精液まで呑んでくれたじゃないか。……そういえば彼女たちが水浴びから帰ってきた際、レディアンさんが「おしりの穴までキレイに洗っていたからねえ」と冗談めかしていた気がするが、アレ本当だったのか! こうなることさえ予期していたとすれば、器用を通り越してとうとう彼女は未来予知までできるようになったのかもしれない。
 味は……うん、大丈夫、だろう。そもそも排泄物なんて口に含んだこともないから(それは、そう)、どの程度まで大丈夫なのかも比較できないが……ともかく。思考を渦巻かせながら咀嚼しているうち、3度射精して倦怠感を催していたペニスに、性懲りもなく熱い鉄芯が通ってくる。淫奔な彼女たちの期待に応えるうち、間違いなく精力が増していた。発情期も過ぎたはずなのに、子実体に(そそのか)された精巣がせっせと子種の増産に傾注し始める。虫孔の奥ですっからかんになっていた精嚢が膨らみを取り戻し、粘り液の泉に生まれたての精虫を泳がせていく。ずずず……、と甲殻が地鳴りするほどの疼きが尾節の奥から湧きあふれ、全身に精気を漲らせる。
 ひまりちゃんとヤろう、と息巻いていたレディアンさんは私とは反対側、キマワリさんの右手側へ抱きつくように寝そべっていた。モンメン顔負けにふわふわな4つの手で、実の詰まった丸い腹から顔後ろの萼にまで満遍なく撫でさする。キマワリさんはすっかりイき癖がついてしまったらしい、換毛期のエルフーンほどの重みを腹の上から掛けられるだけで、「はゃ、きぁぁん……っ」なんて舌足らずな喘ぎを漂わせながら、もどかしげに腰まわりを波打たせる。よもや尻から媚薬を擦りこまれたとは思いもしない彼女は、否応なく上塗りされた発情になすすべなく揺られていた。
 精液の海に沈んだまま戻ってこられない彼女の顔越しに、自慢げに複眼を瞬かせるレディアンさんが見える。
「ほらほらひまりちゃん、ぶっかけられたままじゃあ、せっかくの愛嬌が台無しだよ。まるで4匹くらいの雄に囲わせて一斉に精液をコキ出すのが趣味な淫乱売女(ばいた)みたいだ」
「それあなたのことじゃ――」
「ひまりちゃんはそれ以上にエッチだものな?」
「え、えへへ……っ。だって、パラさんは――きゃんっ、えっちなつがいのほうが、好きだもんね……」
「……すっかり虜にされちゃった顔だねこりゃ。はいはい、今キレイにしてあげるからねえ」
 羨ましそうに嘆息したレディアンさんは大輪の頬へ右前肢を回し、傾けさせた口許へキスを落とす。額のあざを度外視すればくすみのひとつもないキマワリさんのもち肌へ、そこへ染みがつくのを防ぐように、こびりついた精液を吸い出し始めた。ちゅる、じゅろっ、と聞こえよがしに音を立てて、支配欲にかまけて汚しきった私の劣情が口の中へ収められていく。
 レディアンさんと結ばれて間もない頃。交尾を終えて膣から抜きとった私のペニスをあやしている過程で、彼女は自然とこの技術を習得していた。お互いの生殖液を短い舌で丹念に舐めとったのち、「中もキレイにしないとね」と鈴口へあてがったおちょぼ口で尿道を思いきり吸い上げてきたのだ。花の蜜腺さえ涸らしてしまうような強烈な吸引をお見舞いされるうち獣欲は当然ぶり返し、それを見た彼女が興奮しないはずもなく。押し倒されたあげく再びペニスを内外ともに汚すこととなった夜は、1度や2度では済まなかった。
 淫靡すぎるその後戯を彷彿とさせるように、レディアンさんは花芯へ押しつけた小さな唇をちょんと尖らせ、頬をへこませてまで白濁塊を吸いこんでいく。花の肌にへばりついたものは口先でほじりながら、散らばった飛沫は舌をのたくらせてまで丁寧にかき集める。頬擦りは私も愛撫ついでによくするが、キマワリさんのえくぼは産毛の心地よさに加えほんのりと甘い蜜の味がするのだ。純粋な虫タイプであるレディアンさんには殊更にたまらないのだろう。
 目を奪われているうちに、爪の先で潰したベリブをなすったようにキマワリさんの顔を汚していた私の白濁は、もうすっかりレディアンさんの口腔へと隠されていて。せっせと収集した精液を頬張りながら、噛みきれないネコブをどうにか咀嚼するように、小さな口壺で唾液と絡めてくちゅくちゅと対流させていた。ずっと欲しがっていた私のにおいを鼻いっぱいに満たし、精液中毒に陥ったかのようにいじましく笑う。
「あは。ほんはにはしへ、ぱあうんっあらはおはらひあいひゃんをはああえおうってうおいかい?」
「なに言ってるか分かりませんよ……」
 だいたい理解できていたが、頬を膨らませたまま上機嫌に私を煽るレディアンさんをたしなめる。『顔からひまりちゃんを孕ませようってつもりかい』。……悔しいかな、そのつもり満々だった。ドレディアやヒメンカなど、植物グループの中でもとくに体に花を咲かせるポケモンは、そこでもタマゴを作ることができると聞いたことがある。キマワリという種族がどうなのかは定かではなかったが、あれほど私の子を授かりたいと喘いでいた彼女が最後の最後に顔へかけられることを切望したのだ、推測はつく。放精している最中に彼女の真意へ思い至り、ペニスの拍動を出涸らしまで苛烈なものにしていたのだ。胎と顔、ふたつの生殖器官に私の精をたらふく呑ませ、産まれてくるタマゴは双子だな――と、足し算を覚えたての幼児のように馬鹿なことを思い巡らせていた。草タイプの生態に明るくないはずのレディアンさんに気の早い妄想を見抜かれたようで、思わず顔をしかめてしまう。
 さっと視線をそらした私に何を思ったのだろう、「へえ、ほっちひへよ」と口をもごつかせる彼女へおそるおそる目線を戻せば、レディアンさんは顔を傾け、抱き寄せたキマワリさんのふやけた口許へとたぷついた頬を寄せていた。
 綿毛のようにふんわりとした唇のあいだへ短い舌を差しこみ、熟成した精液を私へ見せつけるようにして、舌づたいに流し入れる。判別つかないほど唾液と捏ね混ぜられ、ところどころ白く凝結して粘り気の強まったあぶく汁が、淡いモモン色をしたレディアンさんのベロをなだらかに滑り、その一部をわざとらしく口端へこぼすようにして、キマワリさんへ口移ししていく。
「ゎは、ひあいちゃ、ぉほひちゃ、ダエだぞ」
「きゃああむっ、ゃむ、んっぷ、ぁえ……!」
 キマワリさんもキマワリさんだ。尻をいじり回され、全身に効いてきた媚薬の熱でふわついているのだろう、「きゃぁぁん……っ、おぉれちゃ、ぴゃらしゃんに、おぼえちゃぅ……!」なんて、うわ言のように喘いでいた。物足りなくなったのか自ら分厚い舌を伸ばし、レディアンさんのものと濃密に絡め合わせていく。揉みくちゃにされた白濁粘液が伸ばされ、ちぎれ、かき混ぜられ、おすそ分けするようにしてふたりの舌に翻弄されている。
「すけべすぎる……」
 馬鹿正直な感想がポロリと出た。
 奪い合うでもなく、私の精液を共有しながら快楽を高め合うがめついつがいたち。射精後の痺れを纏ったまま、性懲りもなくペニスが勃起を取り戻す。いっそう強く抱き寄せたキマワリさんの太腿へ引っかけ、笠先から伝わる感覚を確かめるように柔尻へなすり付けた。媚薬により何倍にも引き上げられた鋭敏さ、そこからもたらされる激感が私の虫腹をギチリと湾曲させる。尻をくぼませる熱源をいち早く察知した彼女は、喉へ滑落した精液で(くちすす)ぐように声を漏らし、へこ、へこ……、と腰を悶えさせていた。
 ぷぁは! 勢いづいて口を離したレディアンさんが、こちらも感度倍増に喘ぐキマワリさんとの間に唾液よりも粘度の高い橋を架けながら、上気した顔を私へと向けた。
「……ぁは、興奮しちゃった?」
「えと、まあ……」
「じゃあ今度こそちゃんと……、ボクともセックスしてくれるだろうね?」
「……」
 まだひまりちゃんに首っ丈なのかい? なんて当てつけられるかと思ったが、レディアンさんの口から零れたのは仲直りの提案。悪洒落を言う余裕もないくらい昂っているのだろう、複眼が切なく潤んでいるような気がして、どことなく儚げな彼女の面差しをまた思い出してしまった。これ以上すげなく突っぱね、ぎくしゃくした雰囲気を続けるのはごめんだし――、私も、発情に忍耐が利かなくなっている。
「――っええ、私こそ、ごめんなさい。少し意地悪しすぎました」
「……あは、やった。じゃあまずは、ぼーっとしたひまりちゃんを連れ戻してくれよ」
 ほっとひと心地ついて笑う彼女は(そよ)ぐひまわりへ横から抱きついたまま、赤い後肢を伸ばして彷徨(さまよ)うペニスを捕まえた。不健康なイトマルが糸いぼから漏らす捕縛糸めいて濁った精油を噴きこぼすキマワリさんの膣口、そこへ笠先が浅く沈みこむまで器用に誘導してくれる。笠縁で肉つぼみを捕捉する慣れ親しんだ感覚を頼りにぐっと腰を突き上げると、甲高い悲鳴とともにキマワリさんは面白いほど身をよじった。
 ふるふるとわななく肉づきのいい腹を左のハサミで抱き寄せ、力なく投げ出された彼女の左足を軽く挟んで引きつければ、だらしなく空いた股下へより深く尻先を押しつけられるようになる。不慣れな姿勢ではぎこちない抽挿しか叶わないが、媚薬に溺れたキマワリさんから嬌声を誘い出すことくらい容易だろう。試しにくいくいと腰を使えば、期待通り聞き慣れた彼女の甲高い嬌声が響き渡り、じりつく木漏れ日をざわめかせた。

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「パラくんのせーし、ほんっとドロドロしてて飲みづらいよねえ。喉の奥までこびりついてきてさ。ん……んぁ、絶対に女の子を孕ませてやるんだ! って気概が伝わってくるよ」
「……なんですかっ、それ」
 しきりに喘ぐキマワリさんを挟んで、顔を寄せたレディアンさんが囁きかけてくる。
「舌が火傷しそうなほど熱くて、においも脳にジンジンきて、新鮮な川藻みたいにぷりぷりしてて。こんなぎとついた孕ませ欲求を発情期の胎にお見舞いされちゃあ、キミとのタマゴを授かっても仕方ないかな、って思えちゃうのさ。とにかくこの感覚は雌にしか分からないよ。な、ひまりちゃん?」
「きぃあ、ひんっ……!」
「返事になって、っフ、ないですよっキマワリさん……」
「でも他の雄と比べて濃いのはホント。3年前、西の森で集まった雄虫のみんなにマワされていても――っはァ、身篭ったのは確実に、パラくんの子だったろうね」
「…………」
 忌まわしい過去をぶり返されて私の癇癪が毛羽立ったのか、はたまた彼女を輪姦する妄想に(さか)りついたのか。キマワリさんをかき混ぜる腰の体節をしゃかりきに往復させる。膣口へ笠縁を引っかけるだけの生半可な交尾運動でも、発情を促進されたお互いの体は恐ろしいまでに気持ちよかった。油に浸った柔肉が吸いつき、締めつけ、ぶれる笠肉の挿入角に合わせふっくりと形を変えて纏わりついてくる。雌孔と肛門を互い違いに掘り起こされたせいだろう、おそらく膣肉だけではない、それを取り囲む植物の柔組織までもがくたくたに崩れているようだった。
「きゃ、ぁう! っぎ、ひぁッ! きも、ちいいっ! すっすき、きぉぉ゛……ッ! これ、もっ、いっイけ、そ――んちゅ」
「ん……、んっ、ちゅふ……ッ。ようやく戻ってきたのに、もうイっちゃうのかい? もったいないな……そうだ、せっかくだし体位を変えよう。きっとキミもパラくんも、こういうの大好きだろうからさ」
 起き上がったレディアンさんの目配せとともに私の胸郭が押しやられる。ずろんッ! とペニスが弾き出され、きっ勃った笠先から油蜜が跳ね飛んだ。懐きすぎたガーディよろしくみじめにひっくり返った私を抱き起こし、彼女は矢庭にキマワリさんへ正面からのしかかったかと思うと、そのまま器用に体を反転させた。
 芝へ翅を預けたレディアンさんの中肢と後肢の間、そこへ根を下ろしたキマワリさんの(かかと)がぴったりと噛み合わさるようにして、杏色の腹と新緑の腹とがはんなりと押し並んでいた。わずかにずり上がったひまわりの茎から覗くレディアンさんの顔と、抱き合って見返るキマワリさんの顔。期待に満ちたかんばせを上下に連ねるようにして、完熟した雌の肌身を累々と重ね合わせていた。
「きゃや――ぁぁあッ、また、このかっこ……!」
「はいどーぞ。ボクたちつがいの極上おまんこ、好き放題ハメ比べしてくれよ。幸福に思うんだぞ、こんないい思いできる雄なんて、そうそういないんだからな」
「――――っ!!」
 レディアンさんの2対の両手が、折り重なった2つの膣穴をそれぞれおっ拡げていて。上段、つんと向けられた青葉の桃尻はレディアンさんの両前肢で揉みしだかれ、こってりと躾けられた肉つぼみを緩んだ内壁の肉ひだまで露出させ、かすかに白く濁った油をとろとろと滴らせている。肉厚で無垢な菊門は横に引き延ばされ、どこまでも深く続きそうな未知の空洞が、これからじっくりと私に開拓されていくのを心待ちにするように、ひく……、ひく……、と蠢いている。
 下段、甲殻に囲われた硬い虫孔は、数年にわたって使いこまれたにもかかわらず処女めいた狭さを保持し、しずく型に広がった内壁がギチギチと脈打つさまを見せつけてくれる。彼女の手でさんざん転がされた陰核は赤くつんと勃起し、天井から垂れてきた愛蜜を受け止めた溜池がいやらしく油光りしていて、ペニスの到来を今か今かと待ちわびているよう。
「…………、っ」
 とんでもない光景だった。
 既にはち切れるほど精液を詰めこんだ胎と、同じくそうされることを望んで待ち構えている胎。岩陰に隠れた獲物を探すレントラーになった気分で、何度も精を放ってきた膣奥の具合を透かし見る。想像するだけで、3度の絶頂などなかったかのように肉棒が昂った。
「ふ……、フー……っ。くぅぅ……ッ。――幸福に思って、くださいね。こんな淫乱な雌をふたりも相手にできる雄なんて――フぅぅうっ、そうそういるもんじゃない……!」

 喜悦に塗れた返事をこぼすふたりをまとめて、がばり。6本の肢で囲いこむように覆いかぶさった。




12 


 みずみずしい尻肉に絶頂の余韻を残したまま、その中へぎとついた精を猛然と放たれた肉つぼみ。眠らされた反動でぐちゃぐちゃに発情し、しきりに開閉を繰り返しその深みへと雄をいざなう虫孔。淫らに重なったつがいたちのこの上ない狂態を白眼でじっくりと眺め尽くしてから、あえかに身をよじるふたりをまとめて胸の下敷きにする。すっかり恍惚に囚われた嬌声の二重唱が私の耳孔をくすぐった。その聞き()れる多幸感をもっと響かせてくれ! いやらしく浮かべたにやけ口から、限りない色欲の蒸気を吐き散らす。
 まるで臓腑へ収めた子実体が私を操るようにして、腰が動いた。重畳(ちょうじゅう)した柔らかな腹、その中央にある陰唇でできた溝へ、涎を垂らす笠先をくいくいと押しつける。
「キャ! っわ……、パラ、さん……っ、おちんちんっ、あつ、あっつぃ……!」
「んーぁは、どうだい? こんな可愛いメスを2匹も同時に抱けるなんて、夢みたいだろ?」
「フ……ッ、うぅ゛……!」
 肢先の爪にまで媚毒の回りきった体は底抜けに(はや)っていた。ざらつく植物の肌と沈みこむ甲虫のもち肌、ペニスを挟みこんでくる肉壁を擬似的な膣穴に見立て、そこへ潜りこむように腰を惨めにかくつかせてしまう。下段、腫れて膨らんだレディアンさんの陰核を引っ掛けながら、上段で四つ這いになったキマワリさんの子壺を腹向こうからからぐいぐい押し上げる。
「きゃ、ぁ、あっ……! おなか、揺すられ、て……! ふきゅぅ……んっ」
「……んぁ、焦らすなよ。どっちのおまんこに入りたいんだいパラくん」
「ど、どっちも……」
「優柔不断な雄は嫌われるぞー?」
 小刻みな素股に早くも震え始めたキマワリさんの首越しに、レディアンさんが熱視線をじぃと注いでくる。芝生へ突き立てた私のハサミに手指が滑りこんできて、キマワリさんの死角で睦まじく握り合う。小さな唇が密やかに囁いた。このままお腹へ出しちゃうつもりかい? おニューのザーメン、ボクのために作ってくれたんだろ。教唆とも哀願とも取れるように複眼をかすかに翳らせ、ぺろり。妖しすぎる舌舐めずりが、私の食指を甘やかにすくい上げた。
「フ……、ふううぅっ……。ッじゃあ、れいちゃんに……」
「あは、やった。ひまりちゃんお先に失礼するぞ」
「きゃんん……っ。わたしっ……ひぁ、パラさんに抱きつかれているだけで、きんっ……、どうにかなっちゃいそうだから……。れいちゃんも、一緒に、きもちよく、なろ……?」
「あっはは、まったくキミはいじらしいねえ」
 素股に勤しんでいたペニスがふわふわの手に捕らえられ、曖昧な照準を下方へと(たわ)められた。媚薬に貫かれたペニスは梢のようにそり曲がり、導かれた虫孔を押しのけるようにして接着する。手はそのしなりを楽しむように円を描き、ぬちゅ、ちゅぶ、滾った愛液を野太い笠頭で塗り広げていた。先端から伝わる耽美な快感に白眼を引きつらせる。とろとろと火照ったぬめりには、キマワリさんの子袋から垂れた精油と、そこへ呑ませた私の精液も混じっているはずだ。私たち3匹の粘液が融け、混じり、ひとつになってゆく一体感。どれほど求めても求め返してくれるつがいたちに囲まれ、その胎へ尽きることなく子種を仕込むことのできる雄としての射幸心。
「ぁっは、ちんぽすご……っ、1発出す前よりカチカチだぞ。ボクを甚振(いたぶ)る気マンマンじゃないか……!」
「このまま……ッフ、挿入します、からねッ……!」
 汗ばんだキマワリさんの鼓動を感じられるほど密着を深め、尻先をレディアンさんの股ぐらへ擦り寄せた。ぐっぷ……、白い中肢で捧げられた虫孔へ鈴口を埋没させる。窮屈ながらも解れきった膣穴がずぶずぶと押し広げられていく。ペニスの侵攻がわずかに進むたび、レディアンさんの煽り声がみるみると蕩け果ててゆく。
「……っふ……ぁ、あ……ヒぁ……! んぁああああ……!」
「ぐぅぅ……ッ、締ま、る……ぅッ!」
 射精して間もないペニスの笠頭だけを、レディアンさんのちっちゃな口で執拗に舐め擦られているような激感。鈴口から裏筋、笠縁にかけて、()れきった柔肉が執念深く絡みついてくる。
 胸にキマワリさんを挟んでの交尾ではレディアンさんの膣奥までペニスが届かなかったが、虫孔のうねりに感覚を研ぎ澄ますだけで、それを補って有り余るほどの快感が笠先から波及してくる。かえしのように食いこみ媚肉を翻した緻密な笠裏のひだ、そのわずかな接触を増幅させようとそこだけ快楽神経が尖りきった。
 キマワリさんの尻へ乗っけた腰を緩慢と使い、レディアンさんへ挿入を果たした縁肉で虫孔近くをかき乱す。彼女の好きなところを、彼女の好きな強さに調節しつつねちねちとえぐり返してやる。もどかしげに円を描く迎え腰を後肢で押さえつけ、どくん、どくん……ッ、張り裂けんばかりに勃起したペニスの脈動を響かせ、小さな甲虫の体を私がどれほど欲してやまないかをまざまざと教えてやる。
「んんん……ッ、ぁフっ……! パラくんっ、そんな我慢しないで、さっ。もっとおまんこ、めちゃくちゃにズコバコしたいんだろ? ほら、ヒんっ、早く、はやくぅ……ッ」
「れいちゃん、ほんとうに……きぁッ、幸せそう……っ」
 首をたわめたキマワリさんが羨望の吐息をこぼし、震える触覚を唇で転がし始めた。届かないキスのせいで寂しくなってしまった口を紛らわせるように、私のペニスを包むよりも繊細な舌づかいで触覚の主を追い立てる。
 ふにゅん、と複眼の端が淫靡に蕩け落ち、レディアンさんの喘ぎが甲高く突き抜けた。
「ヒぁ!? あッぅぅぅ……! ひまりちゃあッ、そこ……、もっと……! はっヒ、ィあッ、んぁああああッ!!」
「ナイスです、キマワリさんッ……! っふ、うぅ……ッ!」
 前肢と前肢で重ね合っていたハサミを解き、忙しなく喘ぐレディアンさんの口へ片爪を差し入れた。こちらも届かないキスの代わりに、ゆったりねっとり、控えめな大きさの舌とつるませる。恥ずかしい欲求を素直に紡いでくれたベロを称賛するよう、敏感な口肉を泡立った唾液とともに掻き混ぜてやる。
 触覚と口腔、レディアンさんの性感帯を押さえれば、あとはひとつ。虫孔の浅いところをひたすらに掻きしだいてやるだけだ。返事もろくにできなくなった彼女の複眼をじぃと見下ろしながら、猛烈な勢いで腰を打ちこみ始めた。
 ――ずんっ、ばすん! パンっ、ばすッ! どすんッ!
「ぁ、あ、あ゛ッ! ――ひぃいい゛ッ、きっきたッ、パラくっ、これ、ひゃぁああああ゛ッ!!」
 ふたりを同時に抱える体位にも慣れてきていた。笠肉でレディアンさんを鳴かせながら、ぐっと丸めこんだ腹の甲殻でキマワリさんの尾骶(びてい)骨を叩く。挿入していないにもかかわらず、彼女は骨盤へ腰をぶつけられる衝撃だけでもたまらないらしい。妄想で創り上げたペニスに子宮口を潰されるたび、花盛りの嬌声を間欠的に響かせた。上から叩きつけられる衝撃を独り占めするように丈夫な足腰でぐっと支え、対照的に顔はへにゃりと頬を芝生へなすりつけている。
 キマワリさんを後ろから責め立てる体位だが、笠先に感じるのはレディアンさんの小ぶりな虫孔に舐めしゃぶられている感触。ちぐはぐな興奮に板挟みにされ、同時にふたりの膣へペニスをけしかけているような錯覚にのめり込む。
 ふわふわな膣の中ほどまでしか届かないが、思いきり腰を落とせば都合よく笠縁でレディアンさんの弱点を引っ掻き回すことのできる位置。無様に浮き上がった彼女の股ぐらから媚肉を引きずり出すように、ひた押しにペニスで責め立てた。
「あ゛ッ、あああぁ、んひッ、ぁあ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜っッッ! おっおまんこ、んヒいぃぃッ、も、持ってかりぇしょ――ひああああああ゛ッ!!」
「イって……くださいッ、ほら、イってッ! ぐ、ぉおおお゛ッ、れいちゃんッこれ締ま、フっぐ、ぉ、漏れ、る、種漏れちゃ――ぬぅううゔ――ッ!!」
 レディアンさんは口の中からハサミを押しのけ、快楽に生酔(なまよ)いしたような喘ぎとともに法悦へと昇り詰めた。ぢゅぽんッ、腰を引きすぎたせいで笠首が外れ、窮屈さを失った虫孔から、ぷしゃ! しゃあぁ……、と生温かな飛沫の感覚。どうやら潮まで吹いているらしい。
 愛撫されていない方の触覚を翅のように微振動させ、口から飛び出したちっちゃな舌をのたくらせ。レディアンさんはぼぉっと複眼を光らせていた。不器用な私だけでは連れていけない絶頂感の高みにまで打ち上げられ、しばらく浅い息を繰り返すばかり。余った手は淫豆をしきりに弾き快楽の余韻を増長させているのだろう。見ないでもわかる。
 もう片方の触覚を舐め転がしていたキマワリさんが、叩かれて赤らんでいるであろう尻を私の下腹へあだっぽく擦りつけてくる。
「れいちゃん、気持ちよさそ……。わたしもまた、おまんこ……、挿れて欲しくなっちゃった……。パラさんっ、わたしにも、おちんちん……、ちょうだい?」
「んぬぅううう゛ッ……! ひまりちゃん、っくふゥ、あなた、どこまで淫乱に、なるんですか……っ!」
 茎をよじって見上げてくるキマワリさんが唇を上擦らせる。熱心に見つめてくる瞳は秘めやかに潤みを増し、いいよね? とレディアンさんへ目配せをやった。――今日の私は彼女の言いなりだ。淀みなく言いつけを下したキマワリさんを満たすべく、あらん限りに猛り勃つペニスをじれったくふたりの腹へ挟みこんだ。
「〜〜ッはぁあんッ、っあぅ、ひぃ……っ。……あ、ぁはッ……、わかったわかった、パラくっ、いってらっしゃい」
 私の意図を汲み取ってくれたレディアンさんの手が伸び、彼女のイき潮にぬめつくペニスを支え持ってくれた。尻先を落とし、角度を上向きにつけただけで、示し合わせたように笠先へ襲いくる肉つぼみの艶やかな抱擁。そのまま腰を突き出せば、他の白い手で拡げられていたキマワリさんの膣底まで、ひと息で到達した。
「ひきゃぁあああああ゛っ!?」
 骨盤から響く甘い衝撃に気もそぞろだったキマワリさんが、熱くふやけきった膣内をいきなり埋め尽くされ悶絶した。触覚を食んでいた口からあぶくを飛ばして叫ぶ。期待していた快楽だろうに、慣れ親しんだペニスを膣奥まで迎え入れただけで、あどけないかんばせを一瞬でぐずぐずに溶かしてしまう。
 甲高い悲鳴を耳孔に心地よく通し、慣れた腰の前後運動をおっ始めた。虫孔では咥えてもらえなかった石づきまで臆面もなく押し入れ、にゅりにゅりと絡みついてくる不定根を力任せに引き剥がす。キノガッサの帽子ほど開ききった肉縁で膣天井の泣きどころをえぐり上げ、締まり狂う膣肉を緩めのピストンでじっくりと耕してやる。
「ひゃギっ、ぁ、あ、あああ゛――きゃやあああ〜〜〜〜ッ!! すご、ィいいい゛ッ! びや、くッ、これ、ぎもっち――ぃいよぉお゛ッ!!」
「――いい、ですよっ。いつでも、イって、くださいね――、う、くぉ、おおお゛ッ……!」
 あっけなく昂りを取り戻したキマワリさんを殊更に善がらせるべく、ぱんっぱんっと音を立て強張った肢体を甘美な絶頂へ追いやっていく。硬い腰を規則的に打ちこみ、ぽてんとした桃尻をまた朱く腫らせてやろうと、長大なストロークで膣壁を掻きむしる。萎え知らずのペニスでぐりぐりと蜜壺を押し潰してやれば、「ほぎゅ、ぉおおお゛ッ!?」と、可愛らしくないだみ声が飛んだ。腰と腰とをぴたっと重ね、子宮口を串刺しにしたペニスを悶えうねる膣肉と絡み合わせ、媚薬に狂わされた粘膜どうしのふれあいを克明に感じとる。
「……この距離で聞くと、耳がバカになりそうだね」
「フ、ふぐぅウ――っ、ぅくっ……ッ。……れいちゃんのバカになった声も、ふー……、可愛らしかったですよ」
「ん……、バカ言わないでくれよ。ただ甲高いだけの裏声だし……」
「私の聞き惚れた声を、フぐんッ、蔑まないでくださいッ。もっと聞かせて、ほしいなあ……っ!」
「あはは、パラくんは本当に欲張りさんだ。……ほら、おいで」
「おいで、って……。挿れてほしくてたまらないのは、あなたの方でしょうに……!」
 ぬらくらと纏わりつくキマワリさん肉壁を引き剥がし、どうにか絶頂の波をやり過ごしたペニスを抜く。すかさず握られた白い手の誘導に従って、レディアンさんの中へと戻る。相変わらず深くは繋がれないが、虫孔の入ってすぐを、ずちずちずちッ、と小刻みに攻め立ててやった。「んぁ、アっ、んアひ――っ、ィひぃいいいい゛ッ!!」途端に形を無くした彼女の言葉に気を良くして、しつこく笠肉をねじ入れる。意識もおぼろげなままのキマワリさんが赤児のように触覚をしゃぶり、それがたまらなく気持ちいいのだろう、レディアンさんの複眼が星屑をこぼしたように明滅する。
 片方がイけば、お預けされていたもう片方が私をねだる。レディアンさんはクラボが好きで、キマワリさんはカイスが好き。それぞれの好みに合わせた特注の雌悦をとことん味わわせ、淫らなお誘いを囁かれればそちらの腹をくちくさせてやろうと腰を使いこむ。
 いとも簡単に泣き(わめ)いてくれる彼女たちは私を飽きさせず、求められるまま虫孔と肉つぼみを何度も往復した。レディアンさんの愛液とキマワリさんの精油とで艶めいて脈打つペニスで、質感も窮屈さも異なるふたりの膣を余すことなく貪り尽くす。もうずっと果ててもおかしくない射精感の荒波に(さいな)まれていたが、いつの間にか臨界を超えていた。
 何度目かも分からずにレディアンさんの虫孔をほじっている最中、どろんっ、と私の腹奥で熱源が溶融して、尻先から致命的な引きつけが起こる。できたての精子がビチビチと精嚢で暴れ回り、それを雌の体へ受け渡すという原始的な快楽に腰がぶるりとわななき立った。
「ッふ、フ、ぐうぅ゛――ッ……!!」
「んぁ、ひんッ、イってる、アっ、イってるか、りゃゃああああっ……! ぁフひ、パラくんもっ、もう出そう……なんだねッ!? は、はつじょー期を過ぎた、ボクに出しても――んぁヒいぃっ、し、仕方ないぞ、ほら、キミの特濃ザーメンはひまりちゃんの中に――」
 白眼にぎとついた凄みを乗せて、あれだけ精液を欲しがっていたくせにすげない態度を取るレディアンさんを睨む。一瞬すくみあがったように彼女は吐息を震わせ、いきり立つ私へ媚びるようにきつい虫孔が笠縁を頬張ってきた。レディアンさんらしからぬ謙虚さにかえって孕ませ欲求を煽りつけられ、ペニスに射精専用の管を通したかのようにぐぐッと石づきから持ち上がる。わずかばかり結合を深めた鈴口を突きつけながら、この胎に出してやる! と揺るぎない獣欲に息を荒げ、1番奥で疼く子宮へ向けて白濁した先走りを垂れ流す。
「そんなの、フ、種を注いでみないと、ッぅうぐゥっ、分からないでしょ……っ!」
「き、キミってやつは……」
 どこか寂しそうにしていた顔つきを崩し、呆れ返ったように複眼を潤ませるレディアンさん。
 その少女のような微笑みが引き金となったのか、オーガズムにうねり狂う虫孔をペニスでぽっこりと押し退けながら、射精が始まった。
「でる……ッ、ひまりちゃんと、いっしょに、孕め……ッ! 身篭った、お腹を、並べて見せて、くれ……ッ!!」
「ふぁ、あヒぃぃ……ッ、パラくんっ、それは……はぁんッ、ちょっと、きっ気持ちわるすぎる、ぞ……っ。あっまだ、出て、る、出しすぎ、じゃ、ないか――ぁ、ィっきそ、またイく――ぃ、ひぃぃん……っ!」
 触れられずに疼きを募らせているはずの子袋めがけて、ドロリと粘性を帯びた激熱を撃ちつける。ふわふわと広がりを見せる膣奥を一瞬で満たし、窒息するほどの(かび)臭い臭気を詰めこみ、飛び散った精子粒を膣天井へべったりとこびりつかせる。
 ん、ぁ、ひん……ッ! シニカルな言葉に見え隠れする、喜悦に沈んだまま射精を受け止めるレディアンさんの喘ぎ。触覚を舐めこすられ、膣快楽の極北を見舞われた彼女は六肢を投げ出し、芝絨毯へゆるゆると沈みこんでいた。
 精液を出し切ったかどうかさえあやふやなまま、拍動を続けるままのペニスを引き抜いた。
「ふ、フっ、ふーーーーッ……! ほら、次はッ、ひまりちゃん、ですよッ」
「……き、え?」
「……パラくんほんッと、はぁぁ……んっ。底無しだよねえ」
 呆れ顔に戻っていたレディアンさんの中肢は既にペニスを支えていて、腰を押し出すだけで容易にキマワリさんへと侵入を果たす。定期的にほじくり返されてきた肉つぼみは、抱き合った雌が中出しされるところを目撃して、知らず知らずのうちに精液を吸い上げる膣運動をこなしていたらしい。鈴口へ白いあぶくをこびりつかせたまま勃起してやまないペニスが、ずにゅんッ。ちんまりと息づく肉つぼみのうねりに運ばれるまま、ひと呼吸のうちに最奥へと到達した。
「はっぎゅ――!? っきゃぁあああッ!?」
 ずっぷりと子宮口を突き立てられただけで、ぴくんっ、びく……、とキマワリさんは腰をわななかせる。糸目がほつれそうなほど忘我して、レディアンさんへぎゅぅ、と抱きつきながらイっていた。イったところを私のペニスでこっぴどく苛められ、絶頂に絶頂を重ね塗りされるのが大好きなキマワリさんの期待に応えるべく、射精直後の過敏な粘膜接触に引きつれる腰を戻していく。
 子を産むことに適した、籐のように頑強で柔軟な安産型の腰つき。下半身に蔓延る痺れを封殺し、目の前で無防備に法悦へ浸る膣肉を深々と貫き、その孕み袋へ力強く笠先を打ちこんだ――それも何度も、何遍も。もはやどれほど乱暴に抱きしだこうと、キマワリさんは苦もなく絶頂へ漕ぎつけるくらい発情しきっているらしい。先ほどの交接で孕ませた胎をしつこく確かめるように、ぐっぐ、と子宮口を押しやり、何がなんでも私とのタマゴを産むようその体へしつこく誓わせる。
「きゃ、きゃフぅぅッ、んギャうッ! あきゃ、きゃ、キャんッ、キャっはぇぁ――んゥっ、キャぁぁぁ――ッ!」
「――あァ、私も、もうッ……っ、イきそう、です……ッ!」
 丸めこんだ胸に抱えられ、ぷっくりと汗の玉を浮かび上がらせたキマワリさんの首元。酸味の効いたドレッシングを塗布された肩口が、不意にとびきりのごちそうに見えた。
 ――おれも、混ぜろよっ。
 ほのかに覚醒したムシの本能が奮い立ち、かぶりつく。彼女を初めて抱いた日も暴走した片割れがキマワリさんを捕食しかけていたが、2回目ともなればその塩梅にも慣れたものだった。彼女の被虐本能を炙り出す程度にあぎとを緩め、噛みついた下顎を細かく震わせることで咀嚼の刺激をたたみかける。
「ッかひ――――ぎ、きょぉおおおお゛ッ!?」
「っフ、う゛ッ……く、おおお゛ッ!!」
 葉脈の隅々まで酔いどれたキマワリさんの生命的危機は、とっくにマゾヒズムな悦楽へとすげ替えられていて。性感帯へと昇華させられていた首筋への強烈な被食刺激に、若々しい膣をあらん限りに締めたくる。
「ぃキ、ぎょ――っ、んっッ、ひきゃは、っ、きぉ――おおおんッ!! し、しんじゃッ、イきしんじゃう――ぅううゔッ!!」
「う゛ッ……ぐ、ぉぉォ゛っ! ひまりッ、ぅおッ! 私の子、孕め……ッ! その体、おれに、よこせ……ッ!」
 再接続を果たしたムシの腹部神経を焼き切らせるように、しゃにむに荒腰を振りたくる。キマワリさんの大好きな子宮口を背中側から叩きのめし、イき震える花ひだに抱きすくめられたまま、私もイっていた。顎で植物繊維を食いしばりながら、吐精にかまけて無軌道に跳ね弾むペニスでどろどろの膣肉をほじくり返す。勢いづいて子壺の内壁へ直に精子を注ぎこめるよう、鈴口から白泥が迸る最上の快感に合わせて子宮口を殴打する。
「キ!? ひ、ゃあああッ、はら、んでるッ! もぅはらんで、る、からあああああ゛ッ――んぉ、ギを、ぉおおおお゛ッ!!!?」
「まだ……まだだっ、まだでる――ぐゥゥゔっッッ!!」
「……ぁは、パラくんもパラスくんも、容赦なさすぎだろう」
 私の絶頂顔を拝んでいたレディアンさんの口が近づけられる。首を伸ばして緑の首元を食んでいた甲虫の唇へ向かって、前屈みに重心を落として、キス。今まさに子種を打ちこんでいる雌を最上のディナーとみなし、それを口移しするように肩口を甘噛みしあう。うっすらと浮かぶ歯形へ、喉奥から湧き上がる唾液を丁寧に塗りつけた。極上の雌体へかぶりつき、どれほど私がキマワリさんへがっついているのかを教えこむように、みずみずしい肌へベロをのたくらせた。

 鈍磨した六肢をずり上げ、ずっと預けっぱなしだった胸郭を退ける。連続した種付けにふらつく体で数歩下がり、芝地へと腹をつけた。嫉妬の炎に焼かれたかのように、芯から体が火照っていた。どこまで削れたかすら判然としない体力を補おうとオレンへ前肢を伸ばして、気づく。
 急(ごしら)えの精液まで捌き出してしまったはずの精嚢が、尾節をぷっくりと押し広げていた。酷使したつもりの精巣が再三熱を孕み、ムシとキノコの体から余った養分をかき集めて新たな子種の鋳造に励んでいた。
 ――まずい、出し足りない。
 思っていた以上に子実体は劇薬だった。交尾の最中、キマワリさんが足裏で栽培していた栄養根を刈り取ってから、仲良く抱き合いながら陶酔して淡いキスへ耽けるふたり。並んでもじつく汗まみれの尻、その2つの膣穴から垂れ溢れたドロネバの混濁液を見ただけで、しぶとくペニスへ甲斐性が蒸し返してくる。
「あの、れいちゃん、ひまりちゃん……」
「きゃい……?」
「ん……ぁ、なんだい?」
「また、口で、同時にしていただけますか」
 胸を押しつけあって余韻を共有していた彼女たちが、のろのろと半身を起こした。美貌も愛嬌もかなぐり捨てた発情顔をさらにうっとりと綻ばせ、ハサミを立て胸を開いた私の腹奥――どっぷりと蜜にコーティングされ、鈴口から生殖粘液を噴きこぼしたまま、どく……、どくんっ……、と痙攣する剛直から、目を離せなくなっていた。
「きゃへへ……っ、パラさん、好きぃ……っ。いっぱいイかせてくれる、おっきいおちんちんも、大好き……!」
「……ボクたちなんかより、パラくんのほうがよっぽどすけべだよねえ?」
「…………」
 何も言うまい。眼を細め、再度仰向けになった私の尾節へ(うず)められたふたりの頭を、ハサミでそっと撫でつけていた。



 どれほどのめり込んでいただろうか、それからは絶頂させた回数はおろか、絶頂した回数もろくに数えていなかった。峻烈を極めた媚薬の興奮が収まる頃には、朱を深めた太陽のシルエットが、山の稜線で潰れ始めていた。
 蛹になったかのように体が動かない。折り重なってくずおれるつがいたちを横目に、私も凄まじい倦怠感に揺られていた。細長い樹の影からはみ出した肢が焼けるような感覚がして、慌ててもぞもぞと引っこめる。
「……ぁは、さすがにやりすぎだよ。そろそろ川へ向かわないと、暗くなっちゃう」
「私は、夜になってからっ、追いかけ……ます、から」
 先に休息していたレディアンさんはうーんと伸びをして、早くも翅をけたたましくさざめかせていた。満身創痍の私はさっさと身支度する彼女へどうにか生返事をするばかり。
 ぐずる私へ行先を示すように、朗らかな調子でハサミを引っ張ってくる。その手には、桜の梢に引っかけられていた笠を提げていて。
「何のためにボクが苦労して籐を手編みしたと思っているんだい? キミも一緒に来るんだよ。ほら立って立って」
「……ええ、そうでした。そうでしたねっ」
 ――そうだ、その後の淫奔極まりない交尾に忘れかけていたが、レディアンさんからプレゼントをいただいたのだった。しっかりとこの記念すべき祝祭日を覚えておかなくては。
 子どもじみて声を上擦らせた私へ満足げに頷きながら、レディアンさんが笠をかけてくれる。籐でできた笠は驚くほど軽いが、風などでは飛ばされないよう、そこには彼女の愛がくくりつけられているような気がして。
「ひまりちゃんもいつまで寝ているんだい? ほら行くぞ」
「きゃん、ンぅ、ん……、まって、もぅ、ぃっイけない……ッ」
「まだそんな夢うつつなのかい!? キミの言いなりタイムはもうおしまい! ……しっかしパラくん、あんなにすけべなひまりちゃんを、ここまで満足させちゃうなんてねぇ……」
 3匹ともよたついて、夕暮れの獣道を急ぐ。私の背中へかっぽりと収まった籐の笠は、未だ焦げつくような西陽から乾燥肌を守ってくれていた。





 それから私は、レディアンさんから貰った笠に守られながら、彼女たちと出歩くことが多くなった。根っからの出不精な私はすぐにばててしまうのだが、なんだか雲水行脚をしていた昔を思い出す。あの頃はおしゃべりで喧嘩っ早いムシとそれに振り回されるキノコのふたり旅だったが、近場の川辺までのいつもの道を3匹で歩くだけでも心が満たされた。
 ほどなくしてキマワリさんの胎は膨らみ、夏が終わる前に元気なタマゴをふたつ産み落としていた。体型を自慢するだけあって初産もスムーズなもので、翌々日には籠に抱えた双子を熱心に温めながら連れ歩くようになった。故郷ジャングルの風習らしい、こうすると早く孵るのだそう。

 ふたりのつがいに囲まれて、子宝にも恵まれて。私は確かに幸福のただ中にいた。





 身を焦がすほどの陽射しは和らぎ秋にさしかかった頃。夏の嵐が大地を掻き荒らしたせいか、今年はきのみの実りも衰えるのが早い。3匹の十分な食料を集めねぐらへ戻る時分には、すでに陽が落ちるようになっていた。紅く色づいてきた葉桜の元で、食べさしのクラボを手のひとつで転がしながら、レディアンさんが何となしに言う。
「そうそう、ボクの虫のしらせによると、今年の冬は寒波だそうだよ」
 桜へ()ぐも実りの悪くなっていた渋いオレンを齧り、私は隣のキマワリさんと眼を合わせた。レディアンさんの(しら)せは恐ろしいほどに正確だ。世界の裏に住まうバタフリーの翅ばたき、その僅かな振動がもたらす天変地異まで察知するのだろう。秋空を覆う夕闇に紛れ寒気が忍び寄ってくるような気がして、ぶるり、キノコのひだを震わせた。
 土から這い出たテッカニンや進化の叶わなかったビブラーバなど、虫グループの一部は夏のあいだにつがいを見つけ、タマゴという形で次の春へと命を繋ぐ。この地で短い生を全うした亡骸は、雪に隠され土へと還り、魂は巡りめぐって新たな虫ポケモンへと流転する。それが、私たちの持つ命の形、そのひとつだ。幸いにもパラセクトはその限りではない。厳しい冬を超えたパラスたちは、夏にキノコへと姿を変え、幾度も年を跨いで胞子を撒いていく。
 それが、普通。それが、毎年のこと。今年だってそう。
「では、今からでも備蓄を集めておきましょう。霜に強いナナシを蓄えておかなければ」
「いんや、そういう問題じゃないんだ。いくら準備していたって意味がないよ。それほど恐ろしい寒波なのさ。おそらくこの森に住まうポケモンの7割は冬を越せないだろうね」
「……」
「……」
 雪に覆われた平原を想起して、私はハサミの中のオレンを口へ押しこんだ。甘みを失った苦い味。不安そうに葉を巻きつけてくるキマワリさんへ身を寄せる。前の冬は洞窟で炎ポケモンと身を寄せ合って越したと言っていたが、もとは熱帯に住んでいたという彼女にとっては、辛い季節になるだろう。
 平原のど真ん中、遮るもののない極地での越冬は困難に直面するであろうことは私にも予期できた。一面に茂る芝草が一斉に冬枯れた、吹きさらしの草原の厳しさは想像を絶するはずだ。
 苦いオレンを苦々しく噛み砕いて、胸に守られた新たな命ごとキマワリさんを抱き寄せた。
「……今からでも遅くはありません。北は火山帯の方へ移動しますか。もしくは東へ戻り、私たちが元いた森へ根を下ろしましょう。あそこはまだ食料も多いはずですし、かつての知りあい――ドラピオンさんなどを頼れるかもしれない」
「いや、南に向かうべきだ」
「…………どうしたんですか、そんなに頑なになって」
 普段のレディアンさんらしくない、諭すようなはっきりとした語調。いつになく強情な雰囲気を纏った彼女にたじろいだ。――これは、何か隠しているな、しかもとびきり悪い虫の知らせを。彼女と暮らすうち、私にもそれくらいの予見ができるようになっていた。……どこか、この地を襲う厳冬よりも嫌な悪寒がする。
 さっき通った花畑、シオンが咲いていたね。そんな閑話休題を挟むような軽やかさで、レディアンさんが私の疑問を流して話を続ける。
「ここから南に向かったところ、前の住処よりももっと南の海岸に、昔ボクを襲ってパラくんが助けたアオガラスくん――いや、今はもうアーマーガアに進化したんだったっけ――が住んでいる。彼に頼ってずっと南へ海を渡るんだ。あと1週間もすれば発つと言っていたから、急いで身支度を整えないとだね。ひまりちゃんの故郷、ジャングルというところはさ、年間を通して温暖で、雪なんか降らないんだろう」
「う、うん……」
「ちょ――ちょちょちょ待ってください」
 以前助けたアオガラス? 海を渡る? キマワリさんの故郷? 話が突拍子すぎて整理しきれない。ジャングルなんてキマワリさんのおしゃべりに現れる、私の爪の先にすら届かない理想郷のはずだ。レディアンさんの話には現実味がなさすぎる。彼女らしからぬ薄っぺらな料簡は、おつむの回らないサイホーンですら鼻で笑うことだろう。
「そもそも……鳥ポケモンを頼るだなんて、そんなこと。簡単に言いますけど、昔作った恩とはいえ、天敵がそう簡単に私たちのお願いを聞き入れてくれるでしょうか。決して軽くはない3匹を運ぶなんて――」
「あ、そうそう。ボクは大丈夫さ」
「?」
 苦手な味のきのみを遠慮するようにレディアンさんが手を横に振った。大丈夫? 何か革新的な打開策でもあるのだろうか。はぐらかすような態度に、落ち着きなく居住まいを正す。肢の節に砂利が挟まった時のように気が焦れついた。
「レディアンさんは自力で飛んで海を渡るってことですか? だとしても、ですよ――」
「違う違う、そうじゃないってば。3匹は無理だろうから、ボクはこっちに留まるよ。キミたちふたりだけで南に渡るんだ。いいね?」
「……えと、待ってください、整理しますよ。この森は寒波に襲われ、なのでここに留まっていては冬を越せず、だから鳥ポケモンに頼んで海を渡るんだって、レディアンさんが言ったんじゃないですか」
「……そうだとも」
 また、はぐらかされた。ためらいの見え隠れするレディアンさんの物言いに、白眼をゆるく(すが)める。穏やかな秋の夜長には似つかわしくない、じっとりと背中を湿らせるような焦燥めいた感情が、背中の石づきで小さく渦巻いていた。何故だか無性にイライラしていた。へただけになったオレンをハサミの先で地面へなすり潰す。
 甲殻の内側に蔓延する鬱屈とした情念。その正体を探るようにして、ひとつひとつ言葉を選んでいく。
「流石に器用なレディアンさんといえど、当てもなしに冬を越すことなんて、できませんよ。それは理解して、いますよね?」
「……もちろんさ」
「……私に愛想を尽かして、他の雄へ身を寄せると言うのなら、私も、受け入れ、ましょう。やはり、夏のあいだ、籐を貢いでいた相手ですか。ならば、私も1度、ご挨拶したいのですけれど」
「パラくんは冗談が下手っぴだねえ。ボクがそんなことしないって分かっているくせにさ」
「……えっと、それならば尚更ッ、私とキマワリさんを追っ払ってまで、なんでひとりになろうとするんですか!? ……失礼。っですから、南に渡れば、冬を耐え凌ぐ必要はないって、レディアンさんあなたが言い始めたんじゃないですか! ねえキマワリさんっ、そうですよねッ!?」
「う、うん……そう、だと思う、けど……っ」
「耳許で怒鳴るなよパラくん。怯えているじゃないか」
 観念したように手を払って、レディアンさんは言った。

「寒くなくても、どのみちボクは死ぬ。寿命なんだ」

「………………、はぃ?」
 聞き間違いかと思った。
 タマゴを育む前と変わらず矍鑠(かくしゃく)としたレディアンさんが、死ぬ……?
 そんなまさか。背中の石づきが猛烈に痒くなって、無性に掻き毟りたくなった。そもそも爪の先も届かないが、パニックにも似た焦燥感をいなすように前肢で芝地を掻きえぐる。
 聞き間違いだと思った。
「またまた……。レディアンさんの冗談だって笑えませんよ。そういうことはやめてくださいって、いつも言ってるでしょう」
「パラくんも薄々気づいていたんじゃないか。……こう見えてもボク、レディアンにしちゃあ長生きした方なんだぞ。思い返してみてくれよ。初めて出会ったとき、パラくんまだ進化してなかったけどさ、ボクは既にこの姿だっただろう? 見てくれはあんまり変わっていないかもしれないけど、ボクはもうイイ歳したおばさんなんだ」
「……やめてください」
「普通のレディアンよりふた回りも小さな痩身のボクが、キミのつがいにしてもらえて、4つもタマゴをこさえることまでできたんだぞ。ちゃんと巣立たせてあげられたのは結局1匹だけだったけど……、それだけでも大往生だとは思わないかい?」
「やめて……!」
「内臓ももうだいぶ衰えていてさ、こんな小さなクラボでさえ、なかなか入ってくれなくてねえ。持て余しちゃうんだ。体調の方はなんとか誤魔化してきたけど、見た目はどうにもならないね。気づかれているだろうけど、左の複眼は3割くらいもう光を捕らえていないし、ほら、翅もボロボロになってる」
「やめなさいッ!!」
 おしゃべりな口を塞ごうと伸ばしたハサミが滑り、甲でレディアンさんを突き飛ばしてしまう。振りかぶっていないパンチでさえ弾かれた彼女は痛ましく芝生を転がり、そのあまりの軽さにぞっとした。
 ごめんなさい、と伸ばした私の前肢を掴むことなく、レディアンさんは(しわ)だらけの翅で浮かんだ。ほらね、とやつれたように笑う彼女は、そのまま満天の星空へと抜けていってしまいそうで。
 星明かりをエネルギーとするレディアンは、天寿を全うすると夜空へ導かれ、天道(てんとう)様となり天蓋から生を謳歌する虫たちを見守っている。だから、彼らが翅から振りまく星屑の粒子は神様からの祝福なのだ。だから、彼らが薨去(こうきょ)する際には清らかに送り出すべきなのだ。そんな逸話があった。陽は稜線へと隠れ、星雲の散り始めた夜空が、レディアンさんの同じ色をした複眼をほの明るく浮かび上がらせる。
 ――ああ、逝ってしまうのか。
 いのちのバトンを短く何度も繋いで子孫を反映させる。パラセクトに進化して忘れかけていた虫ポケモンの繁殖理念をまざまざと思い出させられ、息が詰まった。
「……なんで教えて、くれなかったんですか」
「言ったらもっと優しいセックスをしてくれたかい?」
「…………」
 思い出す。3匹でしたとき、彼女の抱き具合をキマワリさんと比べるような旨の詰問をさりげなく漏らしていた。レディアンさんらしからぬ嫉妬心の片鱗を見せられたようでよく覚えていたが、そうか。あれは彼女がいなくなっても、私がキマワリさんだけで満足できるか確かめていたのか。あれだけ精液をねだっていたレディアンさんが、いざ種を付けられそうになった時にどこか寂しげな面差しを見せたのは、私の情欲を受け止めるべきは自分ではないとでも考えていたのか。
 あの時からすでに、そういう心づもりでいたってのか。
 ――もしかしたら私も、レディアンさんの思惑に気づいていたのかもしれない。ムシもキノコも深く考えるのを忌避していただけで。
 切り分けたカイスはおろか、クラボの片房さえ食べきれぬほど食が細まっていた。あれだけ好きだった騎乗位が続かないほど体力を損なっていた。タマゴを身篭ったのはある年の春のみで、発情期に子作りへ励もうと他の年は結実しなかった。気に留めていなかった些細な違和感がレディアンさんの身体へ無数の黒い触手を伸ばし、そのデスカーンのような腕が彼女を夜空へ引きずりこんでいくみたいだった。
 相談のひとつもしてくれなかったレディアンさんに、それを見て見ぬ振りをしてきた私自身に、おぞましい吐き気を催した。握りしめた爪がピキリとひび割れる。
「なんで――」
「……まだ『なんで』は尽きそうもないね」
 己の命が尽きるというのにどこまでも客観的なレディアンさんの物腰が、どうしようもなく癪に障る。口をついて、叫ぶ。
「――っなんでいつもあなたはそうなんだ! 寒波が来る、なんて器用に未来予知までして、交尾のときだって、まるで私のことなら何でも分かっていますみたいな顔でっ!」
「……」
「ぜんぶ自分ひとりで決めてふざけた調子で私に押しつけて、最後の最後には『死ぬから自分のことは忘れてくれ』ですって!? そもそも出会った当初からあなたはそうだ、私がどれほど求愛しようと、ドクケイルさんを忘れられないからって返答を先延ばしにしてっ、ずっとずっと私のことを振り回して、私の気持ちなんてこれっぽっちも考えないで――」
「考えたさ」
 反駁の声はあまりに小さく儚げで、対照的にまくし立てていた私は猫騙しを食らったようにあぐあぐと喘いだ。底知れぬ寒気が甲殻へ浸透し、キノコを冬枯れさせ、ムシの顔に霜を降ろしていくようだった。
「考えたさ。ひまりちゃんが来る前からずっと考えていた。もしボクが何も言わずキミの元を去ったり、冬眠が明けても目覚めなかったりしたら、パラくん自分を保てる胆力はあったかい?」
「何の、ことです……」
「このままこの大陸で冬を越して、春にひとりで目覚めたキミは、新たな依存相手を探して徘徊するんじゃないかって思ってさ。出会った虫か植物の雌に手当たり次第襲いかかっていそうだったから。そんな未来を野放しにするのはあまりにも、つがいにしてもらったボクが無責任じゃないかなって」
「な……、で、ぅ…………」
 口を開くも惨めに呻くばかりで、何ひとつとして言葉を(かたど)ることなどできなかった。呆然とする私を諭すように、レディアンさんの白い手がハサミをそっと握る。
「今しかないんだよ。ボクがいなくなっても寄り添ってくれる可愛い子がいる。暖かい土地への移動を手伝ってくれる友達もいる。今しかないんだ。……ごめんよパラくん、こんなやり方しか思いつかなくってさ。器用な手がこれだけ揃っているのに、ボクは性格が不器用だから」
 ――いつか、どこかで聞き覚えのあるレディアンさんのセリフ。
 ようやく私自身が、こみ上がる涙を誤魔化そうと、いかめしく目頭へ青筋を浮かべていることに気がついた。そうでもしないとこの場で石づきを掻っ切って心中してしまいそうだった。
 最愛のつがいを喪失する。突きつけられたすぐ先の未来に脳が茹だる。言葉に冷静さを纏わせるなんてこと、できそうもなかった。それでも、震える声を封緘(ふうかん)して、言った。
「……私は、絶対に、認めませんからね。冬を越せずに死ぬかどうかなんて、生きてみなくちゃあ、分からないじゃないですか」
「…………知っているつもりだったけど、パラくんがそこまで強情とはね」
「あと1週間は猶予があるのでしょう。それまでに、この先も生きていきたい、と。あなたに言わせてみせる」
「……あは、カッコいいこと言ってくれるねえ」
「本気です」

 ハサミで手繰り寄せるようにして、口さがないレディアンさんの口を塞いだ。かさかさに乾いた唇は、彼女の好きなクラボの味がほのかにした。




13 


 パラセクトは進化を遂げると活動期限が倍以上になる種族だ。寿命が延びる、と表現するには語弊を孕む。玉響(たまゆら)の命を終えたムシの体を、キノコの意思が受け継いで爪の先に至るまで巧妙に操るからだ。半分死んでいる、と噛み砕いてレディアンさんに説明したこともあるが、つまりムシの意思は本来、進化と同時に跡形もなく消え去るはずだった。
 良くないこと。あらざるべきこと。テッカニンの脱ぎ捨てた抜け殻がそう言われるように、放っておけばいつかしわ寄せが訪れるだろうことは、本能的に分かっていたつもりだった。
 それなのに私の中から時たまムシの意思が表出するのは、レディアンさんへの未練・執着・依存がこびりついているからに他ならない。命を救ってもらった身、もちろんキノコも彼女を好いてはいたが、パラス時代に直接介抱されたムシは恋慕もひとしおだった。ムシは己の体が朽ちてもなお、レディアンさんと共にいるために、私の意識の中に残り続けた。いつまでも私が彼女へ依存してしまうのは、それも原因の一端を担っているような気がする。
 ――『考えたさ』。レディアンさんの独白を思い出し、私もまた考えた。キマワリさんは現れず、レディアンさんも去ってしまった世界のこと。少し思案を巡らせただけで(そら)恐ろしくなって身がすくんだ。……そんなの、永遠に閉ざされた白銀の厳冬に私だけが取り残されるようなものじゃないか。寄り縋る先を見失った私は、おそらく生まれたてのパラスのように、ひとつの体を取り合ってムシとキノコで大喧嘩を繰り広げることになるだろう。なまじ力をつけてしまっていては、この身を制御できず手当たり次第に暴れ回っていたかもしれない。もしくはレディアンさんの予見通り、胸に空いた穴を埋めてくれる依存相手を探し回り、虫か植物に属するグループの雌を片っ端から襲っていただろう。
 それ以上は私の意思が、ムシの意思が考えることを拒んでいた。
 いかに私が私自身を知らずに生きてきたことか。ただ何も考えようとせず、器用なレディアンさんに任せきりで、巡りくる季節に子を残せばいいか、と呆けていたこの身がやるせない。途方もなくむしゃくしゃした。レディアンさんから「この先もパラくんと一緒にいたい」との言質(げんち)を引き出すと同時に、私は、私自身への折り合いもつける必要があるようだった。





 アーマーガアが南へ渡るまで7日間あるらしい猶予の、その1日目。
 ひと夏ですっかり陽に焼けた籐の笠を被り、備蓄のきのみを満載したバスケットを手に提げ、私たちは紅葉しはじめた大地を練り歩くことにした。迫りくる死の気配からいたずらに逃げるのではない――これは、冬にかけて白く塗りつぶされゆく世界への巡礼。朝日を眺め、キマワリさんのおしゃべりの種を拾い集めながら練り歩く。草原を突っ切り、森の下生えをハサミで掻き分け、レディアンさんの手にぶら下がりながら湿地を渡る。
 自由に飛べる翅もなく、屈強に踏ん張る足腰も発達していない日陰者の私は、常に彼女たちの後をついて行くばかりだった。たまに逃げ戻ってくるふたりを出迎え、気の立った縄張りの主へきのみと情報を分け、もしくはハサミをふるいその地を通してもらう約束を取りつけるのが、私の役目だった。
 前を行くレディアンさんの背中は、改めて見てもとうてい死にゆく者の気配を覚えさせない。確かに右の内翅は乾燥によって先端を欠損させていたし、左の複眼の上部は光を宿さないように暗く沈んでいたが、それでも生きることに支障はないように思われた。毎日顔を突き合わせているせいで些細な変化に疎くなっていたのだろうが、あれほど連れ添ってきた彼女の体が内側から老衰に蝕まれていたと思うと、気づきもしなかった私自身がいっそう恨めしくなる。
「はぁ、ひぃ……ぃ、今日はこのくらいに、しません、か?」
「あはは、パラくん随分とお疲れだねえ」
「どうしてレディアンさんがいちばん元気なんですか……」
「なんでだろうね? 死ぬと覚悟してからボク、不思議な力が湧いてくるんだ。まだちょっとだけ生きててもいいよ、って言われてるみたい」
「…………もしや、無理して気張ってたりしてないですよね?」
 肩をすくめるレディアンさんに冗談めかす様子もない。彼女が生きる喜びを享受できるのならば私としても好都合だったが、その代償に残りわずかな寿命を縮めていようものなら、と思うと気が気ではなかった。
「ん……、わたしも、もうダメ、かも……。ふぁ」
 へこたれたように私へ寄りかかってくるキマワリさん。陽が沈むと花弁を内側へ萎れさせ目をしょぼつかせ、気を保っていたとしてもそれから2時間ばかりで眠りについてしまう。もともと私もレディアンさんも夜行性で、彼女は気まぐれに夜空を散歩し、その背中の五つ星がうっすらと輝くのを私はよく眺めたものだった。昼行性のキマワリさんを迎えてからはレディアンさんも寝つきが早くなって、散歩はもっぱら朝にする。私たちは食性も概日(がいじつ)リズムもちぐはぐで、そのちぐはぐな歯を噛み合わせて回るギギギアルのように絶妙なバランスの上でひとところに暮らしていたのだ。
「もう寝ちゃったかい?」
 レディアンさんの提案もあって、普段はあまり身を置かないような、見通しの良い竹林を仮の拠点とした。まだ青い笹葉をかき集め簡易的な寝床をこさえ、笠へ寄りかかられるようにして3匹くっついて眠る。慣れない土地だ、うつらうつらとしながらも、敵意ある者が近づかないか気を張り巡らせていた。
 仰ぐ篠笹(しのざさ)の星空からは、半分に欠けた月までよく見えた。キノコの笠を柔らかな吐息がくすぐってくる。――死を覚悟したレディアンさんにこれからを生きてもらうために、不器用な私は何ができるだろうか。
「眠れませんか」
「まあね」
「私もです」
「あはは、だろうねえ」
「……」
「キミがパラスだった頃はこうして毎日歩き回っていたんだろ? 進化したってのにどうしてすぐへばっちゃうのさ」
「毎晩どなたかに精魂尽きるまで腰を振らされるからじゃないでしょうか」
「……ひまりちゃんにはこってり注意しておかないとだな」
「あなたですよあなた」
「あ、流れ星! ……パラくんの背中に描いた落書きが気づかれませんように、気づかれませんように、気づかれませんように!」
「えっちょっと何したんですか。ってうわ、指先真っ黒!」
「あっはは、ボクとしたことがバレちゃったか」
「さてはお昼に背中を掻いてもらった時ですね。ブリーの絞り汁はなかなか落ちないんですってば……!」
 私にできることを心の中で模索するうち、どちらからともなく眠りに落ちていった。耳に馴染んだ他愛のない会話が、どうしようもなく有り難かった。

 3日目にして西の森へたどり着いた。レディアンさんが生まれ育ち、ドクケイルさんと過ごしたはじまりの土地。彼らの巣へ居候していたあの春がずっと昔のことだったように思える。様変わりした森は鬱蒼とした下草が一面にはびこり、私たちの行進を著しく阻害していた。道なき獣道をハサミで切り開いて進む。
 レディアンさんが住処としていた樹のうろには、見知らぬパチリスが住み着いていた。果実酒を溜めていた(なめし)革は、彼の痩身を受け止めるにちょうど良いベッドへと転用されていた。
「あんたら、何?」
 気の短そうな今の城主が、出来の悪いオボンを片手に齧りながら言った。つぶらな瞳をあからさまな不機嫌に曇らせ、私たちを見下ろしている。
「昔ここに住んでいた者です。懐かしくなって、ひと目だけでも見ておこうって。その……、少しの間だけでいいんです、私どもに譲ってもらえませんか」
「ケッ」
 パチリスはさも白々しく種を吐き捨て、ふてぶてしく尻尾で払いのけるような仕草をしてみせる。飛んできた種がキマワリさんの額をかすめ、きッと私は睨み返した。
「お、なになに? 頼みこんでくる分際で、そんな顔しちゃうの」
「……っ、お願い、ですから……」
 目を凝らすと、前歯をすり減らすためだろう、幹には乱雑に齧られた痕がいくつも走っていた。縄張りを示すためか、マーキングされた臭いもこびりついている。レディアンさんのお気に入りだった桜の樹は、見る影もなく身を(やつ)していた。
「ンなことに頭まで下げて、バッカじゃないの。ハンっ、だいたいこの樹、太くてハンモックがあるから住んでやってるだけでいやにカサカサだし、雨漏りするし、きのみも成らないで使えないんだよねー。しかもお前らみたいな変な虫まで(たか)ってくるし」
「……あの、それくらいにしてもらえませんか。大切な思い出の場所なんです」
「はぁ? おまえの種族、なんだっけ。肢を刺して樹の根っこから養分吸い取るんだっけ? よくこんな老いぼれに縋りついていたもんだよ。こいつも迷惑だったんじゃない? ひとりならもっと長生きできたろうに、おまえなんかが寄生しやがるからみるみるやつれていって――」
「頼みますからッ!!」
「えぇ……。大声出すとこかよ」
 遮るように放たれた私の怒号に、パチリスは面食らったように頬袋を引きつらせ、ヘタだけになったオボンの残骸を私たちへと投げ捨てた。飛んでくるそれをハサミで弾き落とす。
「んじゃ、それ、よこしな」
「……」
 横柄な態度がしゃくに障る。腕づくで奪い返してもよかったが――、やめた。そんな殺伐とした世界を見せつけて、自らの命を狙ったアオガラスさえ見逃したレディアンさんの複眼にはどう映るだろう。
 キマワリさんが手頃なきのみを2つほど投げてやる。受け取ったパチリスはひとつを頬へ詰めこみ、もうひとつを手で抱えながら、私の殺気に尻尾を巻いて逃げていった。
「この桜も、ボクの大事な友達だからねえ。みんなで集まったあの夜が懐かしいよ。……そうだ、ツボツボちゃんはどうしてるだろ」
 あたり一帯の統治者であったドラピオンが取って代わったのだろうか、虫たちの姿はあまり見かけなかった。コロトックもテッカニンも、そしてドクケイルも、今ごろどうしているだろうか。私よりも長く生きられない種族は、もう遠くへ旅立っているのかもしれない。
 レディアンさんとの昔話に相槌を打ちながら、少なくなってきたきのみを齧る。いつもはおしゃべりなキマワリさんが聞き手に回り新鮮な反応を示してくれるからか、明朗なレディアンさんを思い出すまいと忌避してきた懐古話も、自ずと受け入れられるようになっていた。

 あたり一帯を展望してみたい、とレディアンさん直々の望みで小高い山に登ったのは5日目のこと。私の方向音痴が災いして山麓を過ぎたあたりで夜を迎えたが、偶然にも見晴らしの良い花畑に立ち至った。
 しんと寝静まる高原にぽつりと輝く、レディアンさんによく似たシルエット。花園の賢者たるイオルブは、神の従者を自称していた。
「我らが(しゅ)たるセレビィは、さわがし森に、住まわれる。だが、貴方の願いを、叶えられるか、御神(みかみ)にも、難しいものだ」
「それでも……、それでもっ、ひと目だけでも、お会いすることは叶いませんかっ?」
「1年もの間、主の気配を観測できて、いない。おそらく、時を渡ったのだろう」
「時を渡る……? どういうことです、説明してくださいよ……ッ」
「会えたとして、死から逃れるのは、難しい。我々は、そのように、創られている」
「はぐらかさないでくださいってば!!」
「パラさんダメっ、怒らないで……!」
 キマワリさんに泣きつかれ、振りあげたハサミをなんとか収めた。……それもそうか。こんなこと、レディアンさんが望むはずがない。誰かを脅してまで掴み取った彼女の儚い命は、ハサミに込めた力のまま砕け散ってしまいそうで。
 私の怒号にも複眼の色ひとつ変えず浮遊を続け、イオルブは球状をした翅の外殻の模様を強く発光させた。レディアンさんを見つめた同心円状の眼がぐるぐると燐光を放つ。
「36箇所」
「なんだい?」
「貴女の体には、36箇所の疾患が、見受けられる」
「そんなにかい! ボク自身よく飛んでいられるものだと思っていたけれど……」
「何か、不思議な守りの加護を、受けているようだ。それにより、貴女は辛うじて、生命活動を、維持できている」
「へぇ?」
 淡々と述べるイオルブの甲殻には黒々とした班点が散らされていて、宇宙の星々のまたたきを宿して発光するそれは、レディアンさんのものと同期しているようだった。
 体格は違えど通じ合うもののあるふたりに、私はどこか気が焦れつくようだった。――エスパーの能力を以てしてレディアンさんを知ることができたのなら、私は何をしてやれただろう。
 神の使いは、それ以上はどうしようもない、とでも言うように、目まぐるしく回る目をそっと伏せていた。
「心苦しいが、御神に、まして愚僧(ぐそう)には、貴方たちの願いは、叶えられない」
「せめて祈りだけでも、捧げてよろしいでしょうか」
「……承った。愚僧からも、神へ向けて、発信しよう」
 しかるべき神代(かみしろ)へ礼拝するなどとは縁遠い暮らしぶりを送ってきたが、そんな私たちにもイオルブは寛大だった。花畑に(うずくま)って、3匹並びながら、神の使いへと祈りを念じる。――時を隔てたらしい神様に願いが届かずとも、もしこれでレディアンさんが希望を抱いてくれたなら、これから先を生きる糧となってくれるはずだ。
 複眼に夜星(よぼし)のきらめきを映し直したレディアンさんが、私の耳許で囁いた。
「ボクが長生きできるようにって、願っていたろ」
「……そりゃ、そうじゃないですか。レディアンさんも、そう願ってくださいよ」
「うーん、そうだな……。『パラくんが、これ以上ひまりちゃんを虐めませんように』と」
「………………」
 セレビィとやらの存在を信じていない訳ではないのだろう。純粋に、そうなることを望まなかった。彼女の中では、とっくに決まっていたこと。「パラくんと一緒にいたい」なんて、叶ったところで私を傷つけるだけなのだと、彼女は腹を決めているらしかった。
 神の観測を再開するというイオルブの背を見送って、レディアンさんは突き抜けた星雲を仰ぐ。
「夜空にはな、それこそ不老不死でもなんでも願いをかなえてしまう神様がいるそうだよ。どれ、ボクがお天道(てんと)様になったら言い伝えてやろうじゃないか。ひまりちゃんの願いはなんだい?」
 花を踏みしめないよう気を配って歩くキマワリさんは、少し逡巡してからタマゴをきゅっと抱きしめた。
「えと……。わたし、ちゃんと子どもたちを育てられますように……って」
「あはは、ひまりちゃんなら大丈夫さ。わざわざ願わなくても、すでに立派なお母さんじゃないか」
「ぇへへ……、そうかな」
「子育ての上手くできなかったボクが祈っても仕方ないかもしれないけれど、じゃあそうだね……。キミとパラくんの子が、怪我も病気もなく、すくすく育ちますように、って」
「…………」
 キマワリさんも、レディアンさんの遺志を汲んでとうに前を向いている。くよくよと過去にしがみついているのは、私だけだ。
 いつかのお返しにレディアンさんへ花の冠でも作ってやりたかったが、不器用なハサミでは茎ごと切り刻むだけだろうし、そうして植物を粗末に扱うことにキマワリさんはいい顔をしなかった。そうこうしているうち、花畑の端までたどり着いてしまった私はいそいそと寝床を整えるほかできることはない。
 ――根暗で口下手な私がレディアンさんを繋ぎ止めておけるなんて、愚劣な妄想でしかなかったのだ。あのイオルブのようにレディアンさんを知り寄り添ってやることも、キマワリさんのように彼女の決意に沿って前向きになることもできない。陰鬱とした森の腐葉土へ引きこもり、世界を渡り歩くつがいたちの話に傾聴するだけの私は、彼女たちに寄りかかられるようにしながら、底冷えする花園へだんまりと身を伏した。
「頑張ろうとしているだろ、パラくん。くれぐれも無茶はしないでくれよ?」
「……無茶、させてくださいよ」
 私の心根を見透かしたようにレディアンさんが呟いて、白い手がキノコの笠をしきりにさすってくれていた。

 私へ隠し立てする必要がなくなったからなのか、レディアンさんはこの1週間でみるみると痩せた。なだらかに張りを見せていた腹は、爪の先で押し込んだだけで容易く破れてしまいそうなほど膨らみを失っていた。あれほど柔らかかった4つの手にはあかぎれが蔓延(はびこ)り、甲殻も心なしかひび割れが目立っていた。美貌こそ損なわれなかったものの、その(やつ)れ果て、早くも走馬灯を仰いでいるかのような気色を向けられて、私は動揺を悟られまいと気を揉んでいた。
 私の錯覚かもしれないが、(くす)んだレディアンさんの複眼を、時折、少女のように清らかな面影が通り過ぎることがあった。それは悪夢にうなされる彼女を揺り起した時や、硬いナナシを砕いて口移ししてやる時に、ふっと漏らされた笑顔と共に立ち現れる。
 レディアンさんの肉体が、今まさに老衰に朽ち果てようとしているのは明らかだった。同時に彼女の魂は、さまざまな抑制を解かれて、限りなく無垢なところへ還ろうとしている。
 ――この先も生きたいと言わせてみせる。
 その微笑(ほほえ)みを見せつけられるたび、私が口走った臭い台詞を突き返されているようで。楽しげに脚色された思い出話では想起されなかった、悲しみとも悔恨ともつかない切なさに満たされ、私はいよいよ意を決しなければならなくなっていた。

 1週間は、私のためにあった。私が心の整理をつけるために必要な時間を考え、共有してくれたのも、レディアンさんだった。



 7日目。出立(しゅったつ)の日の、前夜。
 後悔が残らないと言えば嘘になるが、詰まるところ、不器用な私がレディアンさんを引き止める画期的な方策は思いつかなかった。1週間前の彼女の決意がぐるぐると頭の中を巡るうち、結論づけられたただひとつの確固たる信念。レディアンさんが大好きだった交尾で精一杯送り出すことが、不器用な私にできる最大限の餞別だった。
「最後に、いいですか」
 アーマーガアの住む南の海岸へ向かうにあたり、私たちは草原の一本桜まで戻っていた。カモフラージュに敷いていた落ち葉の覆いを取り払い、寝床にしていた巣穴を掘り返し、それとなくレディアンさんを抱き寄せた。3匹で過ごす最後の晩だ、寝るにしては早すぎる。私の意図を汲み取った彼女が、好物のクラボが鈴なりに実っているのを見つけた時のように、ふ、と複眼に星空を映した。
「あは、やっぱりセックスに頼っちゃうのかい? そんなことしたってボクは――」
「レディアンさんの本音が、聞きたいんです」
「…………。んー……、そっか」
 (しな)びた触覚をぴんと張った彼女はそっけなく返事して、しかし語調とは裏腹に、素直にねぐらへと潜ってくれた。
 以前、つがいとなってからも放蕩するレディアンさんを私の元へ留めておくべく、彼女の大好きな交尾で無理やり雄あさりを辞めさせたことがある。――今ここで同じことをしてもやるせなさに(さいな)まれるだろうことくらい、不器用な私にも理解できた。そんな未練がましい醜聞を晒しては、(むな)しくなりゆく彼女をいたずらに杞憂させてしまうだけだ。
 それを差し引いても、死に瀕してまで殊勝な態度を崩さなかったレディアンさんの、正直な腹底が聞きたかった。口を開けば冗談めかし、のらりくらりと私を弄ぶ彼女が本心を吐露してくれるのは、いつも交尾をしているときだったから。
 巣穴にもぞもぞと蠢く、すっかり赤茶けてしまった後肢の裏。それを追うように私も身をかがめた。傍へちらと目をやると、寡黙を貫いていたキマワリさんはその細ましい目つきに力強い意思の光を宿していて。
「……待ってるから。わたしからも、お願い、パラさん」
 タマゴをふたつ胸に抱えたキマワリさんに背中を押され、小半年を過ごしてきた借宿へレディアンさんの後を追った。

 ぽつぽつと星の散り始めた夜空を背景に、レディアンさんを胸に敷いた私はいそいそと居住まいを正した。
「あの…………、幸せ、でしたか。私のつがいになって、幸せだと、心の底からそう思えましたか」
「そりゃ、これ以上なく、幸せだったぞ。この1週間だけじゃなくて、ずっとずっと、キミのつがいになってからずっと幸せだったさ。……あはは、なんでボクより泣きそうな顔しているの」
「だって、そりゃ……。私っ、不器用で、レディアンさんに……っ、何もして、あげられ、なくてっ……っ」
「この手に余るくらい、たくさん貰ったつもりだけどなあ」
 素直な素振(そぶ)りを健気に見せるレディアンさんに、言葉がつかえて出てこない。紛らわせるように口づけを落とした。枯れ葉よりも割れて乾いた唇だった。弾き返すようなみずみずしさは喪われ、私のもののように乾燥した薄い肉の端。そのあかぎれた皮膚の隙間を潤すように、じっとりと舐めしゃぶる。決して強くは挟み込まず、唾液を満遍なく塗り広げ、ちゅく……、ッぱ、ぴちゃ……、と、あえかな水音を響かせる。
 キスをして落ち着くというのも変な話だが、慣れ親しんだ感覚に幾許(いくばく)か冷静さを取り戻していた。
「なんだか、初めてパラくんに抱かれた夜のこと、思い出しちゃったじゃないか」
「……あの時よりは……っ、上手くなっているはず、ですよ」
「あはは、そうじゃなくてさ」
「分かっています」
 暫くぶりの交尾だからだろうか、レディアンさんの内に(くすぶ)っていた残り火が、脂を垂らされたように燃え盛っていた。初めて抱いたあの夜のように肉感を取り戻しつつある彼女の唇、桜色をしたその隙間から、ちろり、と舌先が覗く。私もベロを綻ばせ、先肉どうしを睦み合わせた。お互いの息が熱を帯び始め、くぐもった吐息でくすぐり合いつつ、慣れた調子で舌を捏ね、ゆっくりと絡め取る。いつもレディアンさんが私のペニスへしてくれるように、幾度となく私から精を搾り取ってきた舌肉の(とんが)りを、私の肉厚なもので包みこむ。愛しく愛しく転がしていく。
 ――そうして、いつも通り愛し合おうと夢中になったのがいけなかった。調子づいて細まった喉奥まで舌を押しこんだ矢先、レディアンさんが小さくえずいた。
「ぇ゛ほっ! ぁ゛は……、? んぇ」
 私の舌を押し返し、咳きこんだ彼女の杏色をした口許が、()いた鮮血に紅く汚れていた。
 拭った白い手にこびり付くそれを見てしまったレディアンさんは、(おぞ)ましいほどの悪寒に襲われたらしい。彼女の体は、私が覆い被さろうと押さえ切れないほど震撼していた。
 ほろ酔いの意識が急速に引き戻される。どう言葉をかけていかわからなかった。とっさに舌で拭った彼女の体液は、腐ったザロクを発酵させたような虫唾の酸味がした。
 言いあぐねる私へ、レディアンさんが複眼をたゆませて詫びを入れてくる。
「……ごめんねぇ。ぁ、は……。出してもないのに、ちんぽ萎えちゃったよね」
「いえ、その……。私こそ、覚悟が足りていませんでした」
 最愛のつがいが血を吐いたくらいで萎えるものか。これしきでは終われない。継続の意思を伝えるよう、掠れた血痕の残る口許を丹念に舐め清めた。
「その……さ。ボクの最後のわがままだと思って、頼まれてくれないかい」
「私が誘ったんです、そのつもりですよ。わがままだなんて――いえ、そうですね、れいちゃんに惚れたあの日から、私はずっとあなたのわがままに振り回されてきたんだ」
「……あは、パラくん今日はやけに頼もしいじゃないか」
 レディアンさんの前肢が私の背中へと伸びて、そこから生えている子実体をもぎ取った。痛みにしかめる私の顔を覗きながら、そんなキミの顔も見納めだね、なんて小さく笑う。
 その手には、時々交尾に際して使ってきた緋色の子実体と、どす黒い色をした同じものがひとつずつ。この1週間、私がありったけの栄養を注ぎこんで育てた、濃すぎる成分ゆえに黒ずんでしまった催淫キノコだった。そのひと欠片でも取りこんでしまえばおそらく神経は焼き切れ、身を裂かれるほどの痛みも快楽にすり替えられてしまうだろう、劇毒だ。
「もう、戻れなくなりますからね」
「うん、頼んだぞパラくん。精一杯送り出してくれ」
 果実酒の入った木の器を打ち鳴らすように、それぞれの前肢に持った子実体をぶつけた。禍々しいまでの濡羽(ぬれば)色をしたキノコをレディアンさんに咥えさせ、ハサミの先端で細断する。飲みこみやすいよう、その上からイアの絞り汁を注いでやる。 
 こく……ごく、こくり。小さく隆起する細い喉から、不意に、か細い、しかし確かな声が私へと届いた。
「愛してるぞ、パラくん」
「私も、れいちゃんを愛してます。ずっとずっと」
「ぁは。陳腐」
「……」
「ボクとひまりちゃん、どっちをより愛しているんだい?」
 口へ押しこまれた小さなキノコをもごもごしながら、私は言い淀んだ。
 らしくない質問だった。交尾の最中にも限らずレディアンさんはよく私をからかってきたが、興奮から醒めるような言い合いは器用に避けてきていた。それが、今になって。
 ――最期くらい冗談めかさず、正直に言ってくれ。逡巡して、喉に詰まらせていたキノコを飲み下した。
「それは……。もちろん、れいちゃんですよ……」
「そこはひまりちゃんって言ってくれないと、ボク安心して逝けないんだけど」
「………………」
「ぁはは、なんで黙っちゃうのさ」
「……ごめんなさい、うまく笑えないで」
「ボクの冗談が笑えないのは、いつものことだろう?」
 小さくむくれたレディアンさんの口を塞いで、舌を絡めた。いつもの洒落だとして、覇気がなさすぎる。何を思っての言葉なのか、もっと素直になった彼女から直接聞き出さなければ。
 キスしていた唇をすいと滑らせた。広く分厚い私のベロで彼女の肌を包みこむように、徹底して丹念に粘膜を押しつける。
「ぁは……は、んぅぅ……っ。ゃ……、すごいよ、キミの特濃キノコ、もう気持ちいい、かも――――ひアっ!」
 媚薬の興奮が血流をよくしているのだろう、私の舌が愛撫したところから、桜のつぼみが綻ぶように色づいていった。なんだかレディアンさんが若返っていくようだ。かすり傷の痛ましい甲殻は赤みを艶やかにさせ、萎びた触覚は金属の針を通したように立ち上がった。
 数分と経たないうちに、高く蕩けた嬌声が彼女の喉から爪弾かれた。
「――っぷは、ぁ、ひゃぁぁあ……! きっきた、これすご……ッ!? ふ、ゥ、ぅあああああッ!?」
 傷だらけの薄翅がびびびび、とでたらめに打ち鳴らされ、胴震いする彼女のあられもない声が巣穴に充満した。口端からこぼれ落ちるよだれにも気づかないらしく、私の吐息が触覚を揺らすだけでも官能をくすぐられるのだろう、レディアンさんはしきりに身をよじり、その背中と巣穴とのわずかな摩擦だけでも貪欲に快楽を貪っていた。
 虫孔はもちろん、触覚を焦らすように舐められただけでレディアンさんは達してしまう。我ながら恐ろしい媚薬効果だ。
「あ――――ッ、あっはぇ!? す――すっご、このキノコ、ほんっとにダメなやつだよっ、ぁ、ぅわ、ゃあああッ!?」
「やはりレディアンさんは、こうして乱れた姿がいちばん素敵ですよ……っ」
「ひッ、ふ、はぇええ……っ、ぅ……。っこれ、ぜったいに、ひまりちゃんには、使ってくれるなよ……。あの子、こんなの知ったら、本当にダメになっちゃうから、な」
「はいはい、分かりましたから、集中してください……」
 媚薬に神経を狂わされ、未知の快楽に呑まれてもなお私の心配をするレディアンさん。官能の坩堝(るつぼ)へ引き戻してやるよう唇を重ねながら、抜き身になっていたペニスを押しつけた。ずにゅ……、とすでに蕩けた虫孔へ沈みこみ、きつい咬合(こうごう)を押し退けるようにして、腰を深々と突き落とした。
「は――――っッッ!? ぅああああッ、きたあッ、パラくっ、はぁあああッ――はやく、早くううううッ!」
「っく――!」
 そこからは、慣れた調子だった。
 彼女の好きな虫孔から入ってすぐの腹側をしつこく擦り上げれば、数往復のうちにあえなく潮を吹く。いつもは嫌がっていた子宮を遠慮なく突き潰そうとも、細い喉から欣快の絶叫をひり上げるばかり。舌を絡め、視線を交わらせ、ハサミで全身を撫でさする。レディアンさんの性感を知り尽くした私は、ここぞとばかりに彼女を官能の極北にまで責め立てた。
 そうしてどれほど繋がっていただろうか。イき狂ったレディアンさんの嬌声からはいつしか余裕めいた調子も失せ、ただただ甲高い虫の声が巣穴に反響していた。絶頂を味わわせてはキスを施し、愛情を伝えては虫孔どうしをぶつけ合った。レディアンさんの求める要望には全て応え、そうでないことも全て――不器用な私にできることなら全て、その儚げな甲殻へと注ぎこんだ。
「――ッあああ、おッ、ひゃんゃぁあああ゛ッ!! こっこれ、好きっ、パラくん……ぅうう゛、ずぎぃいいいい!!」
「レディアンさんっ、レディアンさん――――んんんぅ……!」
 ――はんなり、と。
 不意に、季節外れの薄紅色をした花びらが、ひとひら。どこからか狭い巣穴へと迷いこんできて、弛緩して開いたレディアンさんの手のひらへと舞い降りた。
 春になれば毎年見上げていた、桜の花。
 そういえば、西の森でも草原でも、彼女は桜の大樹を住処にしていたのだっけ。
 白い手が花びらを包んで、きゅっと握られた。
「寂しいよぉ」
「!」
 かすかに、しかし透き通った声でこぼれたレディアンさんの囁きに私は腰を止め、まじまじと見下ろしていた。潤んだ複眼はいつかの惜春(せきしゅん)の花びらを映して、わなわなと震えていたのだから。
「パラくん……寂しいよ。寂しくて、寒い……っ。もうボクを置いていかないで……くれよ。ぅっ、ぁアアアっ! ずっと、キミとっ、一緒に、いたいよぉ……ううぅぁあああ……ッ!」
「!! れい、ちゃん……ッ!」
 腹を括り死を迎え入れたレディアンさんの、心に閉ざしたまま逝くつもりだったはずの、本音だった。
 ふっと、ドクケイルさんの顔が脳裏によぎった。
 レディアンさんの初恋の相手。強くならんと放浪していた私が西の森へ戻ったとき、ずっと一緒だった彼と離ればなれになっていたレディアンさんは茫然自失とし、まるで抜け殻のような風体をしていたのだっけ。
 小さく震えるその体を、反射的にぎゅっと抱きこんだ。……そうだ、彼女は寂しがり屋だった。雄虫たちに囲まれ、劣情を四方八方から浴びているときにいかにも楽しげな表情を見せたのは、彼女が淫蕩なのはもちろんのこと――、純粋に、多くの虫たちと一緒だったから。キマワリさんとの交尾にかまけてレディアンさんを蔑ろにしていたとき、彼女らしからぬやきもちを見せたのもきっと、ひとりにされて寂しかったから。
「やぁぁぁ……っ、ボク、ひとりはっ、こわいよぉっ、んぁぁ、ぁ、あ、あっ」
「もう、独りになんて、しませんっ、から……!」
 これだけ深く繋がっているのだから、離れるはずがないじゃないか。――そう諭すように、腰を一層強く送りこむ。キマワリさんの額についた(あざ)のように、儚くなりゆく彼女に私の印をまざまざと残すべく、何度も何度も膣壁を擦り上げていく。
 しきりに涙を溢すその複眼に、今一度、コバルトブルーの星雲が宿った。
「――ああ、桜の花が、散っているみたい」
 深く深く抱きしめられながら、うっとりとした声でレディアンさんが言った。媚毒(びどく)に神経の隅々までを犯され、夢か(うつつ)かさえ判然としない様子のまま、視線だけを夜空へと向けていた。彼女の複眼は、すっかり葉を枯れ落とした桜の大樹が、私の背中から吹き上がる桃色の胞子によって、満開の花を咲き誇らせているように映ったのかもしれない。クラボが好きだったレディアンさんは、それを多く収穫できる桜の季節も大好きだった。

『最後に、代わってくれ』

 久しく聞かなかった声が、すぐ近くから響いた。頼んだ、と返答するまでもなく、六肢が勝手に動き始めた。

 そこからの()の記憶は、急速に薄らいでいる。





 巣穴を出た。
 私自身の噴いた胞子で溺れかけながら、虫の息になった体を深淵の底から引きずり上げた。震える甲殻から桃色の粉塵が削ぎ落とされていく。
 自ずと繰り返される呼吸は荒く、それが微かに白ばむほどあたりは冷えこんでいる。東の空はすでに明るみ始めていて、どこまでも澄んだ秋野の朝焼けが広がっていた。
「きゃ、あ……」
「ぁ……、キマワリ、さん」
 夜もすがら待たせてしまった彼女は憔悴しきり、肝を潰したことに、その全身は鋭く爪を立てられたかのような切り傷で覆われていた。
 声にならない悲鳴をあげて、私はほうほうの体で駆け寄った。特に背中から顔裏にかけての裂傷が酷い。おそらく強襲者からタマゴを庇っていたためだろう、彼女の胸に抱えられたそれらは傷ひとつ入ることなく無事だった。
 困憊(こんぱい)しきった様子でキマワリさんは空を見上げた。私もつられて(あかつき)を仰ぐ。遠く東雲(しののめ)遁走(とんそう)する鳥影が2つ……いや3つ。周辺に住む鳥ポケモンからは襲われないほど私の強さは知れているはずだが、ここからさらに北の大陸から渡ってきた奴らだろうか。もうそんな季節だった。
 にほんばれを用いて呼び寄せた火球で睡魔に抗い、刻々と削られる体力の中、苦手とする鳥ポケモン複数を相手によく辛勝を収めたのものだ。声を大にして褒めようとして、舌がもつれる。一睡もしていないのは私とて同じだった。「……すごい、ですね」と、そっけない感嘆のため息を漏らすことしかできなかった。
 緊張の糸を切ったようにしゃくりあげ、キマワリさんが抱きついてきた。
「わたし、勝ったの……! ひとりで、勝てたんだよ……っ」
「…………、ええ、本当に、すごいです。あなたのおかげで、無事レディアンさんを送ることが、できました……」
 あたりには備蓄のきのみの残骸が転がっていた。タイプ相性の悪い相手に、自然の恵みを何度も使い奮闘したらしい。少し前まではまともに技を振るうこともできなかった彼女の大躍進に、私を呼びつけなかった不注意を咎めるよりもまず、事無きを得た安堵と誇らしさが優っていた。
「私だけじゃ、怖くて、もうダメだって、何回も折れそうになってっ……! でもれいちゃんの邪魔しちゃ――うぅぅ、ダメだって、思った、からあぁ……!」
「お気遣い、ありがとう、ございます。……もう、ひとりになんて、しませんから」
 安堵に泣き崩れるキマワリさんを抱きしめ、あたりを見回した。晩春と勘違いしたかのようにあたり一面に散る、レディアンさんの好きだった桜に似た薄紅色の花弁は、キマワリさんが花びらの舞を踊り明かした証。交尾の最中、巣に入ってきた一片は、彼女からの(はなむけ)だった。
「これなられいちゃんも、安心してくれるかな」
「きっと、そのはずです」
 運よく残されていたオボンを齧らせ、どうにか動けるまでに回復したキマワリさんの葉っぱカッターと私の爪とで、老いさらばえた桜を根本から斬り倒した。ズぅ……ぅうゔんっ!! 地鳴りめいて響いた轟音に、遠く緑に霞む山際でムックルらしき群影が一斉に飛び立っていく。
 花を摘んだり、無闇に植物を傷つけるとキマワリさんは悲しそうな顔をする。ちらと面差しを窺うと、彼女は力なく首を振った。
「もう、この樹も、寿命なの。今でも立っていられるのが不思議なくらい。……きっと、れいちゃんを、待っていたんだと思う」
「……今まで、ありがとうございます。本当に私は、お礼を言ってばっかりだ」
 草原の中心でぽつんと野ざらしにされていたとはいえ、森の樹々よりも明らかに貧寒(ひんかん)としたその樹冠は、剥き出しの梢が巨大なポケモンの脊椎のように見えた。おそらく、この桜も、迫り来る厳冬を越すことはできなかっただろう。よくぞここまで耐え抜いてくれた。
 足指さえ動かせないほどぐったりしたキマワリさんを形見の笠に抱きつかせ、私たちは一路南へと急ぐ。



 それは巨大な箱だった。
 私の体がちょうどすっぽりと収まるほどの、1辺が大きく広げた私のハサミとハサミの間ほどの立方体。側面のひとつには引き戸までついていて、そこから乗り入れることができるらしい。キノコの笠を模して(まる)(かたど)られた天井からは止まり木が伸び出していて、鳥ポケモンが掴みやすい形状に作られてる。しなやかな食物繊維で器用に編み上げられたそれは、間違いなくレディアンさんが通い詰めて拵えた、海を渡ろうとする私たちの翅となるものだった。
 軽くてしなやかな素材の(とう)は、アーマーガアのように誰かを遠くへ運ぶ者が担ぐ駕籠(かご)としてうってつけだ。
「ああ、いつぞやの! 遅いもんで、もう()っちまおうって泣きつかれていたとこっスよ!」
 2メートルを超える(くろがね)の巨体は歓迎の手うちわを扇ぎ、巻き起こったつむじ風でつんのめった私たちへ「あいや、すいやせん」とがさつに詫びを入れていた。
 以前レディアンさんを襲い、パラスだった私に返り討ちにされたアオガラス。その面影を帯びた紅い瞳が私を見下ろしていた。体格も倍ほど差があるうえ、地べたを這う私との目線の高さは大きく隔たっている。仰ぐようにして見上げる私に、これ以上威圧感を示さない気遣いだろう、尖ったくちばしを翼で隠すようにして喋る。
「お久しぶりです。随分と立派な羽になりましたね」
「自慢の翼っスわ。こいつで旦那を運ぶっスから、ラプラスにでも乗ったつもりで任せてくださいっスよ。南へ渡るってんでしょ。レディアンのご新造(しんぞう)さんから、何遍も話は伺ってるっスから。お互いに進化して、旦那も立派になられましたなァ。……あの時ゃ俺もケツが青かった。がぁはは、大事なひと組目のお客さんをすっ転ばせるようじゃ、今も変わらないっスか!」
「頼もしくなったじゃあないですか。今のあなたと戦うとなったら、私には勝算がありません」
 アーマーガアの大きな陰に隠れて、ひと回り小さな体つきをしたスワンナが控えていた。渡りをする鳥ポケモンたちは、この地で寒くなる前につがいを見つけ、南へ渡って営巣(えいそう)する。私たちとの因果を知らない彼女は、捕食と被食にあたる者どもの奇妙なやりとりをどう思っているのだろう。脇にはひと回り小さな駕篭が置かれていて、こちらはスワンナが()くもののようだ。
「こちらもあちらも、あの虫の子が編んでくれたのよ」
「きゃあ……。やっぱりれいちゃんは、すごいなあ。ラタン、こんなに丁寧に編まれているの、初めてみた……」
 おそらく別種ではあるだろうが、朝に鳥ポケモンから襲われているキマワリさんは、意外にも臆することなく社交的だった。彼女の生まれ育ったジャングルでは、鳥も虫も植物もみな仲良く暮らしているのだそう。ラタン――聞き馴染みのない響き。これから目指すキマワリさんの故郷では、籐をそう呼ぶのだったか。
 かろうじてキマワリさんの余らせたきのみ、それを収めた籐の籠をくちばしで受け取って、アーマーガアが緋色の目を瞬いた。
「でも本当に……、俺たちに任せて大丈夫スか?」
「何がです?」
「食っちまうかもしれない」
 ほわついた朝の陽だまりと相容れぬような、黒々としたくちばしが鈍く光った。正面きって(つつ)かれようものなら私のハサミで弾くこともできるだろうが、空の彼方へ連れ去られてしまえば為す術もない。
 ただ、そんな瑣末なこと、今らさ何の障害になり得ようか。レディアンさんが私たちを託した友を、私も信じてやらないでどうする。
「どのみち私たちはここでは生きられません。それであなた方が(ながら)えるのであれば、私を先に送ってください」
「……みなさんのお命、しかと預かったっス。こう見えても俺、義理堅い種族なんスよ、命の恩人を裏切るなんてこと、できやしません。いやー信頼されて嬉しいなあ。渡りをする鳥たちは、どこにいっても余所者っスから。これからこうして旦那みたいに困ったポケモンを運んでやろうかと思ってるんスけど、この目とくちばしにみんな怖がっちまいそうで」
「お互い辛いことばかりですね」
「がぁはは、そうかもしんねース」
 豪快に笑ったアーマーガアが、ありゃ、と目線をあたりに巡らせた。
「ところでいつも良くしてくれた、レディアンの方は?」
「……」
「籠を作ってくれたのも勿論なんスけど、編みに来るたび毎回クラボを手土産にくれてさァ。俺たちのくちばしもそんな器用じゃないもんで、川魚の骨を取ってもらったときは感動したなあ! ……飛ぶ前にちゃんと礼を言いたいんスけど、どちらに?」
「……………………」
 きょとんと首をかしげていたが、何も言わない私に素早く勘付いたらしい。アーマーガアは瞬膜をわずかに震わせて「……そうっスか」とだけ呟いた。くちばしで駕篭の引き戸を開き、奥の暗がりへ身を収めるよう私を促す。
「……もう出発するっスからね。この地に心残りは、ないですか」
 こう答えることが、レディアンさんの望みなのだと、都合よく解釈して。
「ありません」
 ハサミで未練を断ち切るように、籐の引き戸をぴしゃりと閉めた。





 断片的な記憶のさなか、私は叫んでいた。『絶対に、おまえをひとりになんかするもんか!』『震えるほど寂しいんなら、おれがいく。おれも一緒についていくから、そんな顔すんな!』『好きだ――好きだっ! 愛してるッ!! 死んでも離したりしないからなっ!! ッあああああああ゛!!』。しきりに叫んでは、生きた証を分かち合うように、縋りついてくるレディアンさんの儚げな体へ幾度となく精を放っていた。

 欠落していた。大切なはずの何かが、私の中からごっそりと抜け落ちていた。レディアンさんを看取った悲嘆とは少し異なる、生まれた時から常に側にいた兄弟が巣立ってしまったような、物悲しさ。……いや、あれだけ仲違いをしながらも共に過ごし、困難を切り抜け、互いを支え合った友だち――親友とでも言うべき存在が、私の中のどこを探してもいないのだ。
 体は何ひとつ不自由なく動かせる。むしろ意識下に干渉されることもない。だからこそ無性に落ち着かなかった。『おい』と声をかければすぐそこから『なんだよ』とつっけんどんな思念が返ってくる気さえして、けれど返事がないことは分かりきっていて。私のためにぴったりと(あつら)えられたはずの籠の中が、いやに広く感じられた。
「――きゃああああっ! すごいすごいっ、お陽さまがこんなに近いの、初めてぇっ!」
 後ろの籠で叫ぶキマワリさんの歓声が、風防の擦れる音に紛れてここまで届いていた。振り返ろうものならハサミで壁を割きかねない狭い駕篭の中で、心だけで後方を思う。つがいと、友と、故郷とをいっぺんに喪ったと気づいた今となっては、もう戻ることのない大陸が、遠く後方へと見えなくなっているはずだ。
 ――くよくよしてどうする。これからはキマワリさんと、たったふたりで、生きていくのだから。
 こんな籠まで持たされて。盛大に送り出したつもりでいたが、送り出されたのは私の方かもしれなかった。
 頭上からアーマーガアの声。
「寒くは、ないっスかい?」
「――ええ、大丈夫です。――ぐす……ッ、えぇ、大丈夫ですとも」

 器用に編みこまれた(とう)の隙間に目を細め、まだずっと先、これから住まうジャングルを遥か遠くに見据えていた。












あとがき

シリーズ全4部作+スピンオフで合計25万字弱、文庫本2冊ってくらいでしょうか。ここまでお付き合いいただいた方にまず最大限の感謝をば、ありがとうございます。そして本当に読破お疲れ様でした。森の虫たちが奏でる命の謳歌、書ききることができて私も感無量です。

wiki本3に寄稿したドクケイルの短編が始まりでした。あの時から影山さんには挿絵を描いていただいたワケですけど、まさかここまで虫ポケ沼に嵌るとは……。あの時は考えもしませんでしたね。書いているうちにどんどん好きになる現象は不思議な感覚でした。のちのcommissionも快く引き受けてくださり、影山さんにはうちの創作意欲がいつもお世話になっております。

初めは連載する気なんざ毛ほどもなくて、パラセクトくんのキャラが愛おしいのでこの子のちんちんが見たくなった、というしょうもなすぎる理由で書き始めたのですが。これが意外にも続くもので気づいたらこの文章量にまで膨れ上がっていました。恋は盲目といいますか、このページで書いたメインの官能シーンだけでも9.5万字あって、しかもそれが1回の濡れ場ってのどう考えても頭おかしいよな……。まあどうかしてないと濡れ場なんて書けないんですわ。
以前にもどこかのあとがきで書いたのですが、パラセクトのキャラは狸吉さんの作品『デコボコ山道の眠れぬ一夜』から多大なるインスピレーションを頂いておりまして。今作の物語は狸吉さんの『餞のナイトメア』に影響されまくってますね。この場を借りて感謝申し上げます。素敵な作品を生み出してくださってありがとうございました。
ともかくこれでパラセクトくんへの執着にはひと区切りついて、憑き物が落ちた心地です。次は誰に嵌ろうか。



というか初めて連載作品を最後まで完結させました! 実績解除ですね……。1話ごとに山場を作るのは大変でしたけど楽しいですねえ。でもやっぱり私には短編があっている気がする。
いえその、更新が絶賛停止中の前の連載も続ける気はあるんですよ……? ただちょっと続けられないだけで、いつか必ず……!


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  • 謝謝 ledian 的付出,同時也很可憐,我很喜歡這一篇的故事,如果 ledian 有好結局的話就好了 😢 -- 小暗 ?
  • >給小暗
    一本25萬字的日文小說和兩本新書一樣長。 我很高興你能讀到它。
    ledian的結局是悲傷的,但我認為parasect的愛挽救了它。 謝謝大家看完他們的故事! -- 水のミドリ
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Last-modified: 2020-12-29 (火) 21:54:01
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