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レポートNo.2「ある日森の中で出会ったのは?」

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亀の万年堂

レポートNo.1「困った時の亀頼み?」←前回のお話

更新履歴
2009年1月8日
・ルビ振りのミスを修正

2009年2月6日
・ルビ振り追加
・一部表現の修正


 ここはホウエン地方の北西にあるプラムタウンと、そこから少し東に行った所にあるミシロタウンとの間に広がっている森です。その上に広がっている青い空には、気持ち良さそうに浮かんでいる白くて大きな雲と、その表情豊かな顔に遮られながらも、ハッキリと自分の存在を示しているように強く――しかし、それを浴びる者全てに生命を与えんとする穏やかな陽光を放っている太陽が浮かんでいました。それらはゆっくりと吹いている涼しげな風と併せて、今の比較的過ごしやすい季節を優しく包み込んでしました。
 そんな平和な天気の中、その森の中を、一人の人間の少女と一匹のポケモンのゼニガメが、何か話をしながらのんびりと歩いていました。

「ふー、お日様がぽかぽかしていて気持ちいいわね」

 連れ添って歩いている二人のうち、今、細くて透き通った声を発している人間の少女の方は、名をキョウカと言います。その容姿は、12歳という年齢を感じさせる幼さを見せながらもよく整っており、頭頂部で束ねておさげにしている明るい赤色の髪と、穏やかな陽光によって、より一層その美しさを際立たせている鳶色(とびいろ)の瞳が、白く柔らかそうな肌を綺麗に彩っており、この世界で見てみれば、大変に可愛らしい女の子と言ってもおかしくはありませんでした。本来ならば、その容姿と身にまとう雰囲気から言って、高級そうなドレスにでも身を包んでいてもおかしくはなさそうでしたが、今は白い薄手の長袖の服に、紺色の少し丈の長いスカート、そして靴は履き心地の良さそうなクリーム色のスニーカーというように、至ってシンプルな格好をしていました。しかしながら、背中に背負っている、その華奢な体に対しては少し大きめのベージュのリュックを含めて見ても、その姿は何らおかしいところはなく、良く似合っていました。

「呑気なこと言っているねぇ」

 一方で、今、キョウカの横で、人間で言うところの少年のような声を発しているポケモンのゼニガメは、彼女とは別の少女によって、リードという名を与えられていました。その外見は、澄んだ空のような色をしている体に、お尻の部分から生えている柔らかそうな毛に包まれている丸い尻尾、体が全部スッポリと収納できそうなくらいに大きく、そして赤くて丸い甲羅というように、この世界の一般的なゼニガメの特徴と見事に合致していました。ですが、キョウカの腰ほどの体高すらないものの、その体の大きさは同種族の平均的なそれよりも大分大きく、通常の個体よりも良く発達していることが窺えました。
 
「別に呑気でも問題は無いじゃない。気持ちいいものは気持ちいいんだからいいでしょ?」

「そりゃそうだけどね。――あーあ、何でこんなことになったんだか」

「ん?何か言った?リード」

「別に。ただお預けを食らったのを嘆いているだけさ」

「??? よくわからないけど、こんな天気の良い日に暗い顔していたら損よ」

「はいはい。そうだね。――ぼそっ(誰のせいだと思っているんだか)」

 事情こそ微妙に異なるものの、互いをパートナーとしてプラムタウンを旅立ったキョウカとリードは、ひとまずは最寄りの街であるミシロタウンを目指していました。その目的は色々とありましたが、その中で主なものの一つは、ミシロタウンの次の目的地――つまり、キョウカが希望している、本に載っているような絶景スポットの情報を得ることでした。そしてもう一つは、先だってリードを紹介してくれたドーナツ博士から、ミシロタウンに研究所を構えているオダマキ博士という人物へのお使いでした。
 キョウカからしてみれば、オダマキ博士と会うことは旅の目的とは外れているため、特に会う必要は無いのですが、今回はドーナツ博士からの依頼を受けているということと、彼女がそういった頼みごとを無下に断るようなことはしない性格であることもあり、ミシロタウンを目指すにあたっての目的の一つとして数えられているのでした。
 ちなみに、そのお使いの内容とは「大変に優秀なリードを見たいとの要望があったので、見せてあげてくれ」というものでした。ドーナツ博士は特にそれを頼むにあたって違和感は覚えていないようでしたが、キョウカがその冒頭部分を怪しんでいたことは言うまでもありません。

「それにしても静かね。動物とかはいないのかな?」

「そりゃここは道路の上だからいるわけないさ。少し外れて茂みの方に出れば、動物はともかく、ポケモンはいっぱいいると思うけどね」

 歩きながら辺りを見回して呟くキョウカに対して、リードがさも当然と言わんばかりに講釈を垂れているように、今二人が歩いている所は、人の手によって舗装されている、丁寧に整備された道路でした。それは車も楽に通れるような綺麗な道でしたが、両脇の緑豊かな風景と比べると、その灰色の一本の線はどこか浮いているようにも見えました。

「じゃあ、茂みの向こうにはリードみたいなポケモンがいっぱいいるの?」

「いや、おいらみたいな外見をしているのはこの辺にはいないよ。少なくとも、原生しているポケモンに関しては、だけど」

「ふーん」

 この世界における普通のポケモントレーナーやブリーダーならば、ここで早速茂みの中に入り込んでポケモン探し・・・となりそうなものでしたが、ポケモンには全く興味の無いキョウカと、そもそもこの旅自体にほとんど興味の無いリードの二人では、それはありえないことのようでした。

「とりあえず、このペースを守って歩いていれば、ミシロタウンには日が暮れる前に着けそうだね。不用意に茂みの中に入って、野生のポケモンに襲われたりしなければ大丈夫そうだ」

「え?ポケモンって人を襲ってくるの?」

「・・・」

 太陽がまだ当分は傾きそうもない中、キョウカの発した疑問によって、大変に優秀らしいリードは言葉をすぐに返せず、その場でつんのめりそうになっていました。しかし、そこは流石にこけられないと思ったのか、どうにかバランスを取り戻すと、咳払いを一つして自分自身と空気を落ち着かせました。そして、左手を腰に当てた状態で右手の人差し指を立て、極めて冷静にキョウカに向かって説明をし始めました。

「――あのね、人間が自分の家を住んでいるところとしているように、野生のポケモンも住んでいる場所として自分の縄張りをもっているんだよ。で、当然そこを荒らしにくる奴が来たら、牙を剥いてそいつを排除しようと襲うわけ。さらに言うなら、この道から外れた茂みの向こうっていうのは、この森に住んでいるいずれかのポケモンの縄張りにあたっていると考えて間違いない。つまり、茂みの向こうに不用心に入るってことは、野生のポケモンに襲われる危険を伴っているってこと。――わかった?わかったら茂みに入ろうなんていう気は起こさないようにっておいいいい!」

 リードが懇切丁寧(こんせつていねい)に説明してくれたのにも関わらず、キョウカは何を思ったのか、さっきまでは全く興味を持っていなかったポケモンに会いに行こうとしているかのように道を外れ、ガサガサと音をたてて茂みの向こうへと足を踏み入れようとしていました。そんなキョウカの突拍子もない行動に、冷静さを保っていたリードの表情は、そうしようと努め始めてから僅か20秒の間に崩壊しました。

「おいらがせっかく丁寧に説明してやったっていうのに、何一瞬で無視してくれちゃってるのさ!?」

「え?だって、ここはポケモン達のお家ってことでしょ?そこを通らせてもらっているんだし、挨拶くらいしておかないと失礼じゃない」

「あ、挨拶ぅ?そんなことしなくてもいいの!大体、挨拶ってどうやってするつもりなのさ!?一匹ずつ会って、ポフィンの包みでも渡しながら頭を下げるなんて言うんじゃないだろうね!?」

「・・・えーっと、とりあえず、お邪魔しますって言ってから茂みに入って、それから」

「そこから!?っていうかどこに茂みに入るのに挨拶する人間がいるんだよ!?だーっもう!とにかく、余計なことは考えずに茂みには入らないこと!いいね!?」

「でもー、」

「でもー、じゃない!――ぜぇぜぇ・・・まったく、何でこんなことをおいらが教えなきゃいけないんだよ。本当だったら今頃・・・ぶつぶつ」

「どうしたのリード。何だか息があがっているけど」

「だから誰のせいだと思っているんだーっ!」

 決して簡単では無かったようですが、リードの苦労のおかげ(?)で、どうやらキョウカは「安易に茂みの向こう側に入ってはいけない」ということを理解できたようです。
 しかし、もしもドーナツ博士から紹介されたのがリードじゃなかったとしたら、今頃キョウカは不用心に茂みに足を踏み入れて大変なことになっていたかもしれません。そう考えると、今朝キョウカがリードと出会えたのはまさしく天の導きであったとも言えますが、果たしてそれがリードにとってもそうであったのかは謎でした。

 そして、二人が「茂みに入ることの危険性」についての話をしてから少し経った頃、キョウカがやにわに足を止めて、パタパタと手で仰いで風を顔に送りながら、誰に言うでもなしに呟き始めました。

「こうして歩いてみると結構広いのね、この森。ちょっと疲れちゃった」

「何言ってんのさ。まだ大した距離歩いてないじゃんか。ミシロタウンよりもプラムタウンの方が近いくらいだよ」

「そーかなー?でも、喉も渇いたし、この辺で休憩しない?いつもならそろそろお茶の時間だし」

「そんなんでいいのかい?今日中にミシロタウンに着けなくっても知らないぞ――って!だから茂みの中に入っちゃだめだって言っただろ!?」

「だって、道路の上でお茶をするわけにもいかないでしょ?車が走ってきたら危ないし」

「そりゃ、そうだけど・・・。――というか、そもそも何でお茶を飲むことを前提に話が」

「気にしない、気にしない」

 キョウカによって、先のありがたいお話など無かったかのように押し切られ、結局リードは納得のいかない表情をしてはいたものの、彼女を先導するようにして前に立ち、一緒に茂みの向こう側へと足を踏み入れたのでした。

「うん、この辺りなら丁度良さそうね。それじゃ、まずはシートを出して・・・」

 そう言うとキョウカは、手頃な広さの草むらの上に、リュックから取り出したシートを広げると、その上にリュックを含めた荷物を置いて座り込み、お茶の用意を始めました。リードも同様にシートの上に――キョウカとは真向かいになるようにして座っていましたが、その表情は依然としてとても機嫌が良いとは言えないようなものでした。
 しかし、キョウカはそんなリードの様子など知らないと言わんばかりに作業を進めていました。リュックの中から彼女の母親が用意してくれたカップを2つと、携行用のお茶のパックと角砂糖が入っている密封性の高い箱を取り出し、さらに茶請けとして入れられたであろうクッキーも取り出していきます。
 これで後はお湯を沸かせば、すぐにでもお茶が飲めるのですが、何故かキョウカはいつまで経ってもお湯を沸かそうとはせず、リュックの中をごそごそと探しています。水の入った水筒はすでに用意されているため、他に必要なものは特になさそうでしたが・・・

「おーい、何を探しているのさ?必要なものはほとんど出ているじゃないか。後はお湯を沸かすだけだろ?」

「うーん、そうなんだけど、そのお湯が入ったポットが見つからないのよ」

「はぁ?ポット?そんなものあるわけないだろ?家ならいざ知らず、こういう場所なら、お湯っていうのは直に沸かすもんだよ」

「あ・・・そ、そうよね。――えっと、じゃあ火を焚かないとだめ?」

「そうだね。まずは携帯燃料か、それが無かったら薪を探して、その後かまどをつくるか、五徳*1を立てるかなんかして」

「へぇー」

「・・・」

「・・・」

 暖かな季節から肌寒い季節へと、もうそろそろ移ることを予感させる涼しげな風が、何かを期待しているような顔をした人間の少女と、何かを恐れているかのような顔をしたポケモンのゼニガメとの間を吹き抜けました。そして、それによって木々の葉っぱを揺れて軽快な音が辺りに響き渡ると、その後には何やらきまずい沈黙が残りました。二人はしばらくの間そのまま見つめ合っていましたが、やがて、その沈黙の意味を悟っているであろう方が、その時を終わらせようとしてゆっくりと口を開きました。

「まさかとは思うけど、ひょっとして――火の焚き方を知らないとか?」

「っ!!!え、えーっと!まず、プレートのスイッチをONにして、その上に水の入った・・・」

「どこにそんな便利なものがあるんだよ!?ここ森の中!わかる!?」

 リードが言っているように、ここはこの世界におけるごく普通の森の中で、お湯の入ったポットも無ければ、環境に優しい電自動式オリカルプレート*2もありませんでした。せいぜいありそうなのは薪になりそうな枯れ枝や葉っぱだけでした。

「だ、だって、家ではいつもお湯の入ったポットがあったんだもん。それに、外で火を焚いたことなんてないし・・・」

「はぁ~・・・。まったく、家で色々勉強させられたっていっても、肝心なことは習っていないんだね。これだからお嬢様は困るよ。世間知らずっていうかさー」

「しょ、しょーがないでしょー!?花嫁修業で、外での火の焚き方を習わせる家がどこにあるっていうのよ!?」

 先とは逆のパターンで、今度は呆れ果てたリードの口調にキョウカの方が逆ギレしてしまいました。キョウカの言い分はごもっともではありましたが、この状況でお湯入りのポットはともかく、持ち運ぶことなどおよそ出来そうもない文明の利器を持ち出したことで、その説得力も相当に失われてしまっていました。

「わかったわかった。それじゃ、おいらが“だれにでもわかるように”段取りを説明してあげるよ。いいかい?まずは・・・」

 争っても無意味だと悟ったのか、リードは憤っているキョウカを嫌みを交えつつなだめ、その名に恥じないリードっぷりで、極めて丁寧に火の焚き方を説明し始めました。
 最初は渋々その説明を聞いていたキョウカでしたが、リードの説明が理にかなっていること、そして大変にわかりやすいものであったせいか、すぐにその説明に聞き入り、実践を交えて着実に火の焚き方を学んでいきました。それはほんの数分前までと比べたら、信じられないような光景でしたが、二人はまるで、ずっと前からそうしてきたかのように、互いにやり取りを交わしていました。
 そのおかげか、キョウカはものの数十分も説明を聞くと、無事に火を焚くことができるようになりました。火の焚き方そのものは家で習っていなかったキョウカでしたが、料理やその他家事については習っていたため、簡単に要領はつかめたようです。

「ふーっ、ようやくお茶が入ったわ。リードも飲むでしょ?」

「え?いや、おいらはちょっと・・・」

 キョウカが二つのカップに、香り高く綺麗な赤い色をしたお茶を淹れながら聞きましたが、何故かリードの返答は曖昧なものでした。キョウカは最初、そのリードの答えの意味をわかりかねているようでしたが、やがてその意味がわかったのか、自分のではなく、リード用にお茶を淹れたカップを手に取りました。

「あ、淹れたてじゃちょっと熱いかしら。少し冷ましてあげるね。それだったら飲めるでしょ?」

 そう言ってキョウカはリード用のカップの中身に、ふーっふーっと息を吹きかけて冷まし始めましたが、大変に慌てた様子で手を差し出し、カップを奪っていったリードによって、それはすぐに中断させられてしまいました。

「い、いいって!子どもじゃないんだからそこまでしてくれなくても。自分で冷ませるから」

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに」

「恥ずかしがってなんかいないよ!」

「ふふふ」

 ますます慌てた勢いで弁解するリードの姿に、キョウカは計らずも笑ってしまったようでした。それを見てリードは、今度はムスっとした表情になってキョウカから顔を逸らし、自分で冷ましたお茶を飲みつつ、用意されている色とりどりのクッキーをポリポリと食べ始めました。そしてキョウカもそれに習って、リードよりかは幾分かおとなしく、静かなお茶の時間を楽しみ始めました。

「ちゃんとしたセットがあればいいんだけど、こういう淹れ方をしても結構おいしいわね。やっぱり外で飲むと違うのかしら?」

「・・・のんびりしているところ悪いけど、さっきも言ったように、ここは道から外れた草むらだからね。ひょっとしたら、野生のポケモンが飛び出してくるかもしれないよ?」

「そういえばさっき言っていたわね。茂みとか草むらだと、野生のポケモンに襲われるかもしれないって。――でも、リードってすごく強いんでしょ?」

「んぐっ!?」

 キョウカから不意に言葉を返され、リードは口の中に詰まっていたものを喉に詰まらせてしまったようですが、空いている方の手で胸をドンドンと叩きながら、大分量が少なくなったお茶を飲むことで、どうにか情けない倒れ方をすることだけは回避できたようです。

「ちょっと、大丈夫?」

「だ、大丈夫、大丈夫。――って、突然変なこと言うからびっくりしたじゃないか」

「どこが変なのよ?私、何かおかしいこと言った?」

「だって、おいらのことを本当に優秀かどうかって疑っていたじゃないか。なのに、突然手の平を返したみたいに言うもんだから」

「それは確かにそうだったけど、――でも、さっきのリードの説明は、家で先生から習うよりもずっとわかりやすかったし、そのおかげでこうやってお茶が飲めているじゃない?だから、きっとそうなのかなーって思ったのよ。――それとも、頭が良いだけで強くはないの?」

 リードがどう思っているのかはわかりませんが、少なくとも今のキョウカの表情を見たら、恐らく、誰であってもウソを言っているようには見えなかったことでしょう。それ故にか、リード自身もどう返していいのかわからないようで、少しの間、手に中身が空になったカップを持って、彼女の視線を複雑そうな表情で受け止めていました。
――が、リードはやがて自身の思考を振り払うかのように数回首を振ると、いつもと変わらぬ調子で口を開き始めました。

「――そ、そりゃーまぁ、おいらは優秀なポケモンだからね。何ていったって、各地のポケモンリーグでだって殿堂入りできるような実力と実績を兼ね備えているわけだし、この辺のポケモンくらい余裕で倒せるさ。楽勝、楽勝」

「うーん、ポケモンリーグっていうのはわからないけど、要するに強いっていうことよね?なら大丈夫じゃない。もし何か出てきたらお願いね」

「・・・」

 キョウカのそのあっけらかんとした態度に、リードは色々な意味で先行きが不安になっているようでした。そんなリードの胸中などわかるはずもないキョウカは、リードから空になったカップを受け取ると、お代りをするかどうか尋ね、その了解をもって、自分のと併せてお茶を淹れなおし始めました。

 そんな、色んなものが交差しながらゆっくりと時間が流れている中、キョウカの真横にある茂みが、ガサガサと音をたてて揺れ始めました。

「ん?何かしら?」

 不意の音にキョウカはお茶を淹れなおす手を止めて、音がした茂みに向かって軽く身構えました。そして、いち早くその気配を察知していたであろうリードは、キョウカがそうするよりも早く、音の発生源と彼女との間にスッと移動しており、両手を横に広げて身構えていました。散々愚痴をこぼしてはいますが、茂みの中に入る時といい、今の行動といい、リードは一応キョウカのことを守る気ではいるようです。

「一体何が出てくるの?」

「さぁね。出てきてみないと何とも言えないよ」

 不安であるというよりかは、どこか楽しげで興味津津といった感じのキョウカの声を背中で聞きつつ、リードは依然として構えを解かずに、音をたてて揺れている茂みの方を見ていました。
 やがて、茂みが揺れる音が段々と大きくなり、いよいよその何者かが近くまで来たことを予感させると同時に、その揺れと音が止まりました。――そしてその数瞬後、一際大きく茂みを揺れたかと思うと、何か小さな塊が勢いよく二人の方へと飛び出して来ました。

「あら?」

「あ、こいつは」

 立っているリードは見下ろすようにして、座っているキョウカはリードの後ろから覗き込むようにして、二人はその者の正体をしっかりとその目に捉えました。
 それは、この世界で言う犬*3のような生き物でした。全身は主に灰色の毛で覆われていましたが、(ふん)の先に赤く小さな鼻を持つ顔から胸にかけてと両足の先は黒色の毛で覆われていました。その中でも尻尾は特に毛が豊かで、見るからにフサフサとしていました。また、目はキョウカの髪の色に良く似た赤い色をした瞳をその中心に抱いており、人間でいう白目に当たる部分は薄い黄色で、互いの色をよく映えさせていました。さらに、その体格は、四足歩行であるためにキョウカやリードと比べるのは難しいですが、仮に二足で立ったとしても、リードよりかは若干小さく、キョウカからしてみれば、まさに子犬と言ってもいいような小ささでした。
 しかしながら、いくら見た目は犬に近いとはいえ、この世界で言う犬は、基本的にはこういった野外に生息していることはほとんど無いため、この生き物が何らかの種類の犬であるという可能性は極めて低いのでした。故に、――いえ、そのことを知らなかったとしても、この世界に住んでいる一般的な者であれば、この生き物の種族名はいざ知らず、一体何の分類に入っているかくらいはわかるはずでしたが、

「可愛い子ねー。――ねぇリード、この子はなんて名前の犬なの?私は見たことないんだけど」

 キョウカは当然のようにして、目の前にいる生き物がポケモンだなどとは思いもしないのでした。
その言葉にリードは、――もうこらえるのは止めたのか、律儀にもその場で片足を滑らせて軽くこけて見せた後、後頭部に汗を垂れ流しつつ、キョウカを後ろ目で見ながら説明をし始めました。

「あのね、こいつは犬じゃなくて、“ポチエナ”っていうんだよ。れっきとしたポケモン」

「えっ?この子もポケモンなの?――へぇー、私にはちょっと変わった小さめの犬のようにしか見えないけど」

 そう呟くと、キョウカは膝立ちのままリードの脇を通り過ぎて、ポチエナの方へと近づいて行きました。そのキョウカの行動を、リードはハッとして止めようとしましたが、

「あ、危ないよ!ポチエナはかみつきポケモンで何にでも“かみつく”んだから――って、あれ?」

 無用心なキョウカを手で制止しようとしたリードでしたが、事は予想していたものと異なり、ポチエナは自分に差しのべられたキョウカの手に擦り寄って、“かみつく”そぶりなど見せずに、激しく尻尾をぱたぱたと振り始めました。そして、キョウカのことを見上げるようにして顔を上げ、くぅーん、と甘い声をあげ始めました。キョウカは本格的にその姿に魅了されたのか、躊躇(ためら)うことなくポチエナの前両脚の脇に手を差し込み、特に抵抗されることも無く、そのまま抱き上げて自分の方へと引き寄せました。
 一方で、リードは依然としてその一切合切に目を光らせていましたが、どうやらこのポチエナはキョウカに対して完全に警戒を解いているらしく、彼女に危害を加えようとする気配は全くないようでした。

「もっと柔らかいのかと思ったけど、筋肉質なのかしら?細いけど、結構体はガッシリしているわね。最初は顔が黒くてちょっと怖いかも、って思ったけど、よく見ると目がすごく綺麗だし、顔つきも凛々しくて素敵ね。毛がちょっと汚れているけど、洗ってあげたらすごい美人になるかもしれないわ」

 自分の膝の上で、目を輝かせて自分のことを見つめてくるポチエナの頭を撫でてあげながら、キョウカはその背中やわき腹といった部分にも触れつつ、上から(くま)なく見渡して感想を述べました。確かに彼女の言うように、――もっとも、キョウカは一般的なポチエナの姿を知ってはいませんでしたが、このポチエナは野生と思わせるように若干体が汚れているものの、それでもその毛並はどこか綺麗で、汚れを落としたら相当に見られるものが現れるのは間違いなさそうでした。

「あ、ねぇお腹空いてない?良かったらクッキー食べて。まだたくさんあるから」

 そう言ってキョウカは、自分の膝の上でうっとりとした表情をしているポチエナを地面に降ろし、その目の前に、今さっきまでリードと一緒につまんでいたクッキーを差し出しました。するとポチエナは、一瞬首を傾げた後、キョウカの顔と自分に差し出された物とを交互に見始めました。そして、キョウカがニッコリと笑っているのを見てその意図を察したのか、慎重にクッキーの匂いをくんくんとかいだ後、もう一度だけキョウカの顔を見上げ、その顔が依然として変わらぬものであると確認した後、ポチエナはようやく目の前のものに口をつけ始めました。

「おいしい?」

 キョウカが顔を近づけて聞くと、ポチエナは口の周りにクッキーの粉がついた顔を上げて、キャンッと子犬のような声で返事をしました。

「気に入ってもらえたみたいね。良かった」

 目の前で尻尾を振り続けながらクッキーを食べているポチエナの姿に、キョウカは笑顔をほころばせていました。しかし、それとは対照的に、リードはキョウカの横で、右手を顎に当てながら何やら難しい顔で唸っていました。

「どうしたの?リード。さっきからずっと唸っているけど」

「ん?いやさ、おかしいなぁと思ってね。ポチエナってこんなに人懐っこいポケモンじゃないはずなんだよ。少なくとも初対面の――ましてや人間なんかに、こんな簡単に気を許したりはしないんだ。普通はね」

「そうなの?」

「うん。それにね、さっきも言ったけど、ポチエナっていうのはかみつきポケモンで、動く物をしつこく噛む習性があるんだ。ほら、すごい牙をしているだろ?」

「えーっと、――あ、本当ね。こんなにすごい歯で噛まれたら大変」

 今は顔を下に向けてクッキーを食べているために、キョウカやリードの位置からでは見えにくいですが、確かにリードが言うように、ポチエナの口の端からは鋭く尖った歯が出ているのが見えました。いくら体と同じく小さな顎とはいえ、もしもこれほどに鋭い牙で本気で噛まれたら痛いどころでは済まないでしょう。

「だから、一応おいらとしては・・・その、キョウカを守らないといけないからね。何時こいつが牙を剥いて襲って来ても大丈夫なようにって、さっきから目を光らせているんだ。でも――」

 リードが何ともなしに呟いていることとは裏腹に、あっという間に目の前のクッキーを食べ終わったポチエナは、再びキョウカの膝元へと近づいて行くと、そこに自分の顔を擦りつけて、普段はピンと立っているはずの三角形の耳を伏せ、可愛らしい――しかし、どこか寂しげな甘い声を彼女に向けて発し始めました。それは例えポケモンのことを全く知らないキョウカであったとしても、一目で目の前の者に完全に懐いていると断言できるような仕草でした。リードもそれがわかっているだけに、一層わけがわからないといった様子でした。

「そう言えばこの子、一体どこから来たのかしら?茂みの中から出てきたってことは、この辺に住んでいるのかな?」

「うーん、この辺は確かにポチエナの生息範囲内だけど、普通はポチエナって群で動くんだ。だから、仮にこの辺りに住んでいたとしても、こんな風に単独でうろついているってことはないんだけど」

「じゃあこの子、ひょっとして群からはぐれちゃったのかな?――ねぇ、この近くにはあなたのお父さんやお母さんはいないの?お兄ちゃんとかお姉ちゃんは?」

 キョウカは頭を撫でるのを一旦止めて、ポチエナの顔の頬に両手を添えて優しく聞きましたが、肝心のポチエナ自身はその言葉の意味がわからなかったのか、それとも何か別の理由によってか、それに対して少し首を傾げて小さく鳴くことしかしませんでした。



 仲間や親の存在を聞いてみたものの、残念なことにポチエナからは色よい返事が得られませんでしたが、キョウカはそれ以上そのことについて聞こうとはせず、しばらくその場でお茶を楽しんでいました。
 そして何杯目かのお茶を飲み終えると、日が少し傾き始めたということでリードから出発を促されたので、キョウカはポチエナを傍らに置きながら片付けを始めました。リードは最初、ただそれを見ているだけでしたが、やがて居心地が悪くなったのか、やにわにキョウカに火の始末の仕方を教えたり、シートをまとめるのを手伝ったりし始めました。その間、ポチエナは少しキョウカから離れたところで、キョトンとした顔をしてその光景を黙って見ていました。
 それからほどなくして片付けが大体終わり、草むらが元の姿に戻ると、

「それで、どうしようか?この子」

「どうするもこうするもないって。そいつは野生のポチエナなんだから、ゲットしないなら野生のまま帰すしかないよ」

「そっか・・・」

 どうやら片付けが終わったことで、また自分のことを構ってくれると思ったのか、再び自分の元へと擦り寄って来たポチエナの頭を屈んで撫でてあげながら、キョウカは少し悲しそうに呟きました。一方で、ポチエナは優しく頭を撫でられる喜びによってか、そんなキョウカの心情などまるで知らないというかのように、先ほどと同じく尻尾を勢い良く左右に振っていました。

 それからしばらくの間、キョウカも、――そしてもちろんポチエナも、一言も発さずにそうしていました。しかし、やがてそんなキョウカの名残惜しげな様子に苛立ちを覚えたのか、リードが少し声を荒げて、後ろから彼女に呼びかけ始めました。

「ハッキリしないなぁ。名残惜しいならゲットしたらいいじゃないか。そいつだって、キョウカのことを気に入っているみたいだしさ。多分ボールを投げたら一発でゲットできると思うよ。ボールはリュックの中に入っているんだろ?」

「うん。――でも、やっぱりこの子に親とか兄弟がいたら、そこから引き離すのは良くないと思うし・・・ね」

 そのキョウカの言葉に、リードは何か思うところがあるような顔をしていましたが、特に何を言うわけでもなく、黙って少しだけ顔を二人から逸らしました。
 そして、背を向けている以上、そのリードの微妙な表情の変化など気付くはずもないキョウカは、ようやく心を決めたのか、ポチエナの頭から手を離し、スッと立ちあがって、自分のことを見上げている赤い瞳を見つめました。そのキョウカの行動に、ポチエナはお尻を地面につけ、前足で体を支えるような姿勢を取り、尻尾を先ほどよりかは幾分かおとなしく振りながら見上げることで応えていました。それは、紛れもなく何かを示している態度でしたが、

「じゃ、そろそろ行こうか。早くしないと、夜までにミシロタウンに着けないよ」

「・・・そうね。ちょっと名残惜しいけど、――お父さんとお母さんによろしくね」

 リードに再び促され、キョウカがいよいよポチエナに背を向けて草むらから道へ戻ろうとすると、今まではほとんど吠えていなかったポチエナが、突然キャンキャンと甲高く吠え始めました。キョウカは一瞬、そんなポチエナのことを不思議に思ってか、振り返りはしたものの、その傍に駆け寄ったりはせず、ただ手を振りながら草むらを後にしました。

「バイバイって言ってくれているのかしら?」

「・・・」

 そのキョウカの発言に、先と同じようにリードは何も言いませんでしたし、キョウカ自身もそれ以上は何も言おうとはしませんでした。
 段々と草むらから離れていく二人の耳に届くのは、姿が見えなくなっても依然として響き続けるポチエナの声と、何度二人の体を撫でたかわからない、少しだけ冷たい風に揺らされている木々の葉っぱの音だけでした。


 それからしばらくの間、二人は何も話さずに、大分傾いた太陽とは反対方向にあるミシロタウンへの道を、ただ黙々と歩いていましたが、その沈黙を破るようにして、キョウカが横にいるリードに向かって口を開きました。

「ねぇリード、さっきの子なんだけど」

「ん?やっぱり名残惜しくなった?」

「それはちょっとあるけど――ってそうじゃなくって!さっきリードは、あの子のことを少し変わっているって言ったじゃない?」

「うん。そう言ったね。実際には少しどころじゃないけどさ」

「普通なら動いているものに噛みついたり、群で行動したりするんでしょう?でも、あの子はどれにも当てはまってなかったじゃない?それってどうしてなのかなーって思ったんだけど」

「ふーん・・・。トレーナーになる気がないって言っていた割には、しっかりと気にしているみたいだね。どういう風の吹きまわしだい?」

「そ、それとこれとは話が別よ!」

 顔を真っ赤にして怒るキョウカのことを、リードは嫌みったらしいニヤニヤ笑いを浮かべながら横目で見ていました。それはキョウカからしてみれば、より一層自身の怒りを増長させるようなものでしたが、彼女はどうにかそれを抑え込んだようでした。

「――それで、リードは何でだと思う?リードだったらどうせわかるんでしょ?」

「どうせっていう言い方はどうかと思うけどねぇ。――まぁこれは勘だけど、あのポチエナはどっかのトレーナーのポケモンだったんじゃないかな。だから群で動いていないし、人にも警戒心を抱かなかった。野生だったらあり得ないことでも、そうだとしたら別におかしくはないね」

「なるほど。――ん?トレーナーのポケモン?じゃあ、あの子にはトレーナーがいるってこと?でも、あの辺には私達以外は誰も居なかったわよね。それとも誰かいたのかな?」

 キョウカのその言葉に対し、リードは両手を顔の高さまであげて水平に構えると、首を軽く横に振って「やれやれ」とため息まじりに呟き、改めてキョウカの方に顔を向けて言いました。

「ちゃんとおいらの話聞いてた?おいらはあのポチエナはどっかのトレーナーのポケモン”だった”んじゃないか?って言ったんだよ。わかる?」

「だった、って・・・。――え?じゃあ、」

トレーナーのポケモン“だった”。それはつまり、今はそうではないということを意味していました。ゲットされたポケモンが、そのゲットしたトレーナーの下から離れ、一匹でいるということは、

「きっと捨てられたんだろうね。それも、あれだけ警戒心を抱いていなかったってことは、まだ“そうなった”ってことが自覚できないくらい最近に」

「ちょ、ちょっと待って!今捨てられたって言ったの?あの子が?」

 キョウカは思わず立ち止まり、声を荒げて、たった今聞いた言葉が信じられないといった様子で、自分の前にいる――背中を向けてはいるものの、やはり自分と同じように立ち止まっているリードに向かって聞き直しました。それに合わせるようにして、くるりと振り返ってキョウカの顔を見ているリードの顔は、今朝からも一部を除いてずっとそうであったように、どこまでも平然としていました。――まるで、キョウカが何を驚いているのかわからないというかのように。

「そうだよ。あくまで勘、――っていうか憶測だけど、ほぼ間違いないと思う。あのポチエナは人間に捨てられたポケモンさ」

「自分のポケモンを?う、ウソでしょ?そんなことする人がいるわけがないじゃない!だって、あんなに可愛い子を・・・そんな、捨てるだなんて」

「おいおい、一体どうしたらそんなふざけたことが言えるんだい?ポケモントレーナーでも何でもないキョウカに何がわかるっていうのさ。――可愛い子だから?それこそ冗談じゃないよ。ポケモンのことも、トレーナーのことも、――互いが付き合い続けるのがどれだけ大変で、どれだけ難しいことなのか、全く知らないキョウカには何も言う資格は無いだろ?」

「そ、それは・・・」

 声の調子こそ、これまでとそれ程変わらなかったものの、そのリードからの厳しい発言に、キョウカは二の句をつげませんでした。
 確かに、キョウカ自身は今の自分をポケモントレーナーだとは思っていませんし、将来なるつもりも無いと両親や周りの人にも言ってきていました。しかし、いくらそうであったとしても、――ポケモンについての知識が全く無かったとしても、そう例えば、

「で、でもそれって、セリナとレンみたいに仲の良い関係でもそうなの?ずっと一緒にいてもそうなることはあるの?」

「おいらはその二人の関係については良く知らないからハッキリとは言えない。――でもね、仮にその二人がどれだけ仲が良かったとしても、トレーナーとそのポケモンの皆が皆そうだとは限らないんだよ。自分のポケモンをすごく大事にする人もいるけど、そうじゃない人だっていっぱいいるんだ。何でそうなるかなんて理由は多すぎて言い切れない。どちらが悪いかだって言い切れるもんじゃない。ポケモンと人間が一緒に生きるっていうのは、――ずっとそうあるっていうのはね、そんな簡単なことじゃないんだよ。何も知らないキョウカには、――いや、知ろうとはしなかった人にはわからないかもしれないけどね」

「・・・」

 辛辣(しんらつ)で、しかし、正しくもあるそのリードの言葉に、何か深く思うところがあったのか、キョウカはその場で立ち尽くして顔を俯かせていました。キョウカよりも大分背丈の低いリードにはその表情が見えていましたが、特に彼女に対して何を言いはしませんでした。そして、

「――ねぇリード。リードはポケモンだから、ポケモンの言葉がわかるんでしょう?」

「ん?もちろんわかるよ」

「じゃあ聞きたいんだけど、さっきあの子は――私たちと別れる時に、あの子は何て言っていたの?私達がいなくなっても、ずっと吠えていたでしょう?私はてっきりお別れを言ってくれていると思っていたんだけど」

「ならそう思っているままの方がいんじゃない?知ったところで、キョウカには何も」

「お願い。教えて」

 自分の言葉に一歩も引かずに聞き返してくるキョウカの姿に驚きを覚えたのか、それとも感銘を受けたのか、もしくは、――かどうかはわかりませんでしたが、リードは小さくため息をつくと、少しだけ逡巡をして見せて、彼女に対して顔ごと目を逸らして口を開きました。


「――”置いていかないで”、って言っていたんだよ」


 小さなその言葉を聞くと同時に、キョウカはリードに対してお礼も何も言わずに振り返って、元来た方へと走り出しました。そのキョウカの行動に驚いた様子で、リードも慌てて後を追いかけ始めました。

「ちょ、ちょっと!急にどうしたのさ!?そっちは逆方向だよ!?」

「放っておけないじゃない!あの子はきっと、ずっとあそこでひとりぼっちだったのよ!?」

「だったらどうするっていうのさ!キョウカがあのポチエナのトレーナーの代わりになるっていうの!?」

「それはわからないけど、わからないけど!今はとにかく、もう一度あの子に会いに行くわ!確かめなくっちゃ!」

 互いに風切り音を耳で感じながら、キョウカは振り返らずに、リードはその背中を見つめながら走り続け、荒く息を吐きながら言葉を交わすうちに、二人はほどなくして先ほどの草むらへと戻って来ました。しかし、そこにはさっきのポチエナの姿はありませんでした。キョウカは激しく鼓動を打っている胸を手で押さえ、呼吸を整えつつ辺りを見回し、余裕を持って自分の横に立っているリードに尋ねました。

「はぁ・・はぁ・・・。ど、どこへ行ったのかしら?リード、わからない?」

「それはちょっとオイラでも――ん?あの茂みの向こうから何か鳴き声が」

 リードが声が聞こえた方角を指差してそう言うと、キョウカは未だに呼吸が整っていないにも関わらず、慌ててそこに向かおうとしました。――が、リードはそれをすかさず手で制止すると、自分の後ろについてくるようにと指示を出しました。キョウカは一瞬そのリードの行動に息をのみましたが、黙って一度頷くと、それにおとなしく従いました。そして、リードを先頭にして二人が茂みを抜けると、そこには、

「あっ!」

 茂みを抜けた先は背丈の低い草地の小さな広場となっていて、その中心には周囲のものよりも大きくて立派な木が立っていました。さらに、その根元には先ほどのと同じであろうポチエナと、この世界で言うハチのような――しかし、その大きさはそれの数十倍近く、また、針の太さも数も段違いの生き物がいました。その二人の雰囲気は、傍から見ても、とても友好的なものであるとは言い難く、ハチのような生き物が、その両腕らしき部位から伸びている、鈍い光を放っている太い針を突きつけるようにして構えているところからして、どうやらポチエナがこのハチのような生き物に襲われているのは間違いなさそうでした。

「大変!さっきの子だわ。リード!お願い!」

「お願いって指示されてもなぁ、もーちょっとこう格好良くさ」

「いいから早く!」

「はいはい、わかったよ」

 切羽詰まった様子のキョウカから、とても指示とは言えないような無茶苦茶な指示を飛ばされたリードは、胸を張って口内に水を溜め、それをスピアーに向かって一気に吐き出しました。それによって、とても水を発射しているとは思えないような轟音が辺りに響いたかと思うと、そのすさまじい勢いの水の奔流は、距離にして10Mほどの空間を一瞬にして超越し、今まさに自身の針をポチエナに突き立てようとしていたハチのような生き物の体の側面部分に直撃しました。それによって、ハチのような生き物は悲鳴をあげる間もなく、そのまま勢いを失わずに自身を押し続ける衝撃に飲み込まれ、周囲の木々よりも高い上空へと吹き飛ばされていってしまいました。
 その後に残ったのは、水平に構えた右手を額に当てながらハチのような生き物が飛んでいった方角を見上げている赤髪の人間の少女と、誇らしげに両手を腰に当ててふんぞり返っているポケモンのゼニガメ、そして、

「うわぁーっ、あんなに遠くまで飛ばしちゃうなんてすごいわね。リードって本当に強かったんだ」

「ふふん、今更そんなことに気づいたのかい?言っておくけど、おいらの“みずでっぽう”の威力はまだまだこんなもんじゃないよ?本気を出したら、それこそ大木だろうと岩だろうと余裕でぶち抜いて、」

「って、そんなことをのんびりと聞いている場合じゃなかったわ!」

 自慢げに自分のわざのことを語っているリードのことを後にして、キョウカが慌てて広場の中心にある大木の根元で(うずくま)っているポチエナに近づいて手を差し伸べると、体と尻尾を丸めて震えていたポチエナはキョウカの存在に気づき、小さく鳴きながらキョウカに飛びついてきました。その体は先と変わらず、あちこち汚れてはいましたが、幸いにも目立った外傷は見当たらず、大事に至るようなことは無さそうでした。

「やっぱりさっきの子ね。もう大丈夫よ。あのでっかいハチは、リードが遠くまで飛ばしてくれたからね」

「あのさ、今更だけど、さっきのはハチじゃなくてスピアーっていうポケモンだからね」

「え?あれもポケモンなの?確かに、ただのハチにしてはちょっとでかすぎるとは思ったけど」

 その、傍で聞いていたら、思わず「ちょっとでかいとかそういう問題じゃない」などと突っ込みたくなるようなキョウカの発言を、リードはどうにかやり過ごし、彼女の後ろから、互いに安心しきって喜んでいる二人の脇へと移動して億劫そうに口を開きました。

「で、どうするの?わざわざ助けに戻って来たからには、何かしたいことがあるんだよね?」

「うん、それなんだけど、――リード、ちょっと通訳してくれない?私の言葉はともかく、この子が何を言っているのか私にはわからないから」

「えぇー!面倒くさいなぁ。――まぁ、ここまで付き合っていることだし、別にいいけどさ」

「ありがとう」

 キョウカが素直にお礼を言うと、リードは元から丸い目を一層丸くした後、やにわに顔を逸らして何やらぶつぶつと呟いていましたが、キョウカはそんなリードを気にすることもなく、自分にすがりついているポチエナに語りかけ始めました。

「あなたには誰かトレーナーと言えるような人がいるの?」

 キョウカがポチエナにそう聞くと、ポチエナは少しだけ間を置いてからそれに対して返事をして、それを聞いたリードがキョウカに通訳をしました。

「ボクは確かに人間にゲットされたポケモンで、ご主人様もちゃんと居ます、だってさ」

「じゃあ、あなたのご主人様は今どこにいるの?」

「えーっと・・・いつか迎えに来るからここで待っているようにと言われて、そのまま別れたから今はどこにいるのかわかりません、だって。――ところで、やっぱりこれ面倒くさ」

「それってもしかして」

「無視するなよ!」

「――ねぇ、あなたのお家はどこにあるの?今はこの森に住んでいるんでしょう?」

 通訳以外の自分の言葉を無視するキョウカに対して、相当に憤慨している様子のリードでしたが、今のキョウカの質問に何か思うところがあったのか、通訳を続けながらも明らかに不審そうな顔でキョウカに聞きなおしました。

「案内しますって言っているけど、そんなの聞いてどうするのさ?」

「ちょっと気になることがあるのよ。すぐにわかるわ」

 キョウカはそう言いましたが、リードはそれだけでは納得がいかないようでした。しかしながら、すぐにわかると言われて聞き返すのも野暮だと思ったのか、それとも聞いたところでまた無視されると思ったからなのか、とりあえずは黙ってついていくことにしたようです。

 そして、案内すると言ったポチエナを先頭に、三人が森の中をしばらく進んでいくと、やがて森が切れて、ゴツゴツとしている切り立った岩肌が目の前に現れました。その所々には大小様々な大きさの穴が開いていました。そして、ポチエナはそのうちの一つに向かって走って行くと、その手前でキョウカ達の方を振り向いて、キャンキャンと吼えました。

「ここがこいつの家みたいだね」

「随分狭い洞穴ね。でも、この子には丁度いいお家なのかしら」

「うーん、普通ならポチエナはこういう穴には住まないんだけどね。でもまぁ、ここだったら雨風は(しの)げるだろうし、それなりに快適な場所なのかも」

「けど、暗くてちょっと怖そうね。奥の方までは見えないわ」

 二人はポチエナのすぐ傍までやって来ると、それぞれ中を見渡しながら感想を述べていましたが、やがてリードがいよいよ我慢できなくなったのか、大きく一つ息を吐くと、キョウカに向かって通訳したものではない言葉をかけ始めました。

「――それで、一体どうしてここに来たのさ。いいかげん教えてよ」

「もしこの子が――ううん、見てみればわかるわ。悪いけど、ちょっと奥を見させてね」

「ちょ、ちょっとキョウカ!」

 リードの制止も聞かず、キョウカは少し身を屈ませて洞穴の中へと入って行き、ポチエナもそれに続いて入って行ってしまいました。そして、後に残されたリードも、ため息をつきながらその後に続きました。

 まだ日は昇っているとはいえ、入口が小さいために入光量の少ない洞穴の中は薄暗く、風は入ってこないものの、日が当たっている外よりかは大分冷たく、そして湿った空気が流れていました。また、中には外と同じくゴツゴツとした岩肌が全体に広がっているだけで、草や苔はおろか、今現在そこに存在している三人以外の生き物の気配は全くありませんでした。

「うー、狭いし暗いしジメジメしているし・・・。キョウカー、まだ終わらないのかい?っていうか何をしようとしているのさ?何か探しているのかい?」

 リードがポチエナを挟んで自分の前にいる、屈みながらゆっくりと慎重に奥へと進んでいるキョウカに声をかけましたが、彼女はそれに対して返事をしようとはしませんでした。先程から無視され続けているリードでしたが、それについて言及しなくなったところからして、どうやらすでに色々と諦めている部分と同じように、現在の状況も諦めているようでした。
 と、そんなリードのことを気にせずにどんどん奥へと進んでいたキョウカでしたが、とうとう目的のモノに出会えたのか、突然足を止めて、ほとんどしゃがむようにして地面に体を近づけ始めました。

「何だか知らないけど、ひどく散らかっているなぁ。ここが寝床なのかな」

 キョウカが足を止めたことで、ようやくその横に並ぶことができたリードがそう呟いたように、今三人の目の前には、今は中身が無いものの以前は何かが入っていたであろう細長い容器、そして原形を留めていた頃は相当に大きく、やはり中に何か大量の物が入っていたであろう袋らしきものの残骸などが散らかっていました。
 リードとポチエナが見ている中、キョウカは黙ってそれらを探っていましたが、やがて何かを手に取ると、それを顔の近くまで持って来てよく確認し、そして背後の二人の方へと振り返りました。

「――これは、あなたのでしょう?」

 キョウカの問いに対して、ポチエナは一瞬大きく口を開けて小さく呻いた後、声を出さずに何度か口を開閉し、そして小さく頷いて見せました。
 キョウカがポチエナの前に差し出したそれは、上半分が赤で下半分が白く、キョウカの片手では若干余るくらいの大きさをした、小さなボールのようなものでした。それは相当に汚れている上にあちこち破損しており、とてもその機能を果たせている、――もしくは果たしていたかは疑わしいものでしたが、少なくとも原型は保っており、いくら“そのこと”に無知であるキョウカからしてみても、それが一体何であるかはわかっているようでした。

「なるほどね。キョウカが気になっていたことって、これのことだったんだね。ようやくわかったよ」

「うん。――けど、出来れば見つけたくなかったわ。だって、これがここにあるっていうことは・・・」

「やっぱり、このポチエナはトレーナーに捨てられたんだろうね。しかも、ボールの汚れ具合からして、かなりの年月が経っているのは間違いない。だったら、トレーナーはもうここには、」

 そこまでリードが淡々と喋ったところで、その横にいるポチエナが、大変に慌てた様子でキャンキャンと吼えはじめました。それに反応するようにして、リードは――洞穴の中は暗いので表情こそわかりませんでしたが、黙ってポチエナの方に顔を向けた後、キョウカの方へと顔を戻し、そのポチエナの発言を通訳しようとしましたが、キョウカはそれを手で制して、そして吠え続けているポチエナの顔に手をそっと差し伸べました。
 そのキョウカの手に何かを覚えたのか、ポチエナは吠えるのをピタリと止め、それに導かれるがままに顔を彼女の方へを向けました。今、キョウカの前にはポチエナの赤い目と鼻があり、ポチエナの前には洞穴の入口から入ってくる僅かな光に照らされたキョウカの顔がありました。

「少しだけ、私の話を聞いてくれる?」

 キョウカがそう聞いても、ポチエナは何も言葉を返そうとはしませんでしたが、彼女はそれを肯定の合図ととったのか、ゆっくりと、そして静かに口を開き始めました。

「ここにモンスターボールがあるっていうことは、あなたのご主人様は・・・リードの言う通り、あなたとお別れしたのかもしれないわ。・・・でもね、私にはわからないけれど、それにはきっと何か理由があると思うの。だからここを出て、私と一緒にあなたのご主人様に会いに行かない?そして何であなたをここに置いていったのかを一緒に聞いてみましょう?――私は、あなたがそうしたいって言うなら、どこまでだって一緒に行ってあげるから。ずっと一緒にいてあげるから。ね?そうしよう?」

 ポチエナはそのキョウカの言葉をジッとして聞いた後、口元を震わせたかと思うと、それを隠すようにして顔を地面に向けて(うつむ)かせ、そして少ししてから顔を上げて、キョウカに向かってキャンキャンと吠えました。キョウカはそれを全て聞き終えてから、自分の前に、そしてポチエナの横にいるリードに向かって、首を傾げて見せました。

「ありがとうございます。でもその必要はありません、だってさ」

「えっ?――ど、どうして?ご主人様に会いたくないの?」

 キョウカはリードのその通訳を聞いて、慌てた様子で再びポチエナに向かって聞き始めましたが、今度は先ほどよりもずっと早くその答えは返ってきました。

「ご主人様は確かに迎えに来るって言ってくれました。でも、本当のところはボクもわかっているんです。だから、どうかボクのことは気にしないでください、って言っているよ」

「・・・・・・そう。じゃあこの子は、ずっと、ここで・・・」

 リードの通訳を通してポチエナの気持ちを聞いたキョウカは、差し伸べていた手をそのままポチエナの頭の後ろの方まで伸ばして、ギュッと自身の胸に押しつけるようにして、ポチエナのことを抱きしめました。そして、自分の顔をポチエナの頭に向かって俯かせたことにより、先ほどまでそれを明らかにしていた光は失われ、暗闇に閉ざされた彼女の表情はそこにいる誰にもわからなくなりました。しかし、体を震わせながら、小さく擦れた声で何かを呟いているその姿を見れば、今、彼女がどういった表情をしているのかは、誰であっても容易に想像がついたことでしょう。

「・・・」

 そんな二人の様子を、――やはり、暗さ故に、そこにいる誰にも表情を推し量られることのないリードは、何も言わずに黙って見ていましたが、ふと顔を洞穴の方に向けると、胸の前で腕を組んで、小さく呟きました。

「・・・こういうところが、――ってことなのかな」



 リードが外に向かって誰に言うでもなく呟いてからしばらくして、キョウカとリード、そしてポチエナは洞穴から出ました。洞穴に入る前はまだ十分に暖かな陽光でしたが、今はその本体の色の変化と併せて大分弱まっており、後少ししたらそれも完全に失われてしまいそうでした。

「あーあ、もう大分日が傾いちゃっているよ。これじゃあ夜までにつくのは――って、キョウカ?」

 後頭部に両手を当てている状態で近づいてきたリードを、ポチエナの前で屈みこんでいるキョウカは一瞥(いちべつ)した後、その発言の内容を確かめるようにして色濃くなった太陽を見ました。そして、そこからゆっくりと正面にいるポチエナに視線を戻すと、

「ねぇ、さっきも言ったけれど、良かったら私達と一緒に来ない?」

「なんだ、結局連れていくのかい?最初はやめておくって言っていたくせに」

「だって、置いてあったモンスターボールは壊れていたし、ここに1人でいたらさっきのスビ・・・じゃなくて。スビビ・・・・でもなくて、――えっと、えっと」

「スピアーね。ス・ピ・アー」

「そう、スビアーに」

「違うって!“ビ”じゃなくて“ピ”だよ!まったく、こんだけ言って間違えるとか、どんな耳してるんだよ!」

 リードの激しい突っ込みに対し、キョウカは思わず身を竦めてしまったようでしたが、すぐに気を取り直して、再びリードに向かって主張を開始しました。そして、その中心であるポチエナは、キョウカとリードのことを、顔ごと動かして交互に見上げていました。

「そ、それよりも、このままここにいたら、またあの、――なんだかよくわからないハチみたいな生き物に襲われるかもしれないじゃない?だったら私たちと一緒にいたほうがいいでしょ?」

「だからハチじゃなくてスピアーだって何度も何度も言っているのに。いくら一方的にポチエナを襲っていたとはいえ、ハチ呼ばわりじゃスピアーがかわいそうだよ。――しかもなんだかよくわからないって・・・。もしもスピアー好きの人が聞いたら何て言うことやら」

「と、とにかく!ここにいたら危ないでしょ?それに・・・えーっと」

 いよいよ弾切れになったのか、何も言えなくなったキョウカに向かって、リードは大きくため息を一つつくと、呆れたような表情で口を開きました。

「回りくどいことを言ってないで、素直に気に入ったから一緒についてきて欲しいって言いなよ」

「うっ・・・。そ、それでどう?あなたが良かったらだけど、私達と一緒に来ない?」

 ようやく素直になったのかどうなのか良くわからないキョウカが聞くと、洞穴を出てからはずっと黙りこんでいたポチエナは、一瞬顔を横に向けて自分が住んでいた所を見やり、それから少し顔を俯かせた後、尻尾をぱたぱたと振りながら彼女の顔を見上げ、ハッキリと短く吠えました。

「通訳する?」

 そのポチエナの声を聞き、リードは両手を組んで、自分の正面にいるキョウカに向かって、少し首を傾げて、――まるで、答えはわかりきっているというかのような調子と表情で問いました。そして、キョウカもまた、それに対する答えは最初から決まっていたかのように、くすっと小さく笑って見せました。

「そんなの、」

 一旦言葉を切ったキョウカは視線を正面に戻して、ポチエナのことを先と同じように抱き上げると同時に立ち上がり、胸を張ってその両手に抱いている者を自分に引き寄せながら、その場で踊るようにしてくるりと横に一回転した後、再びリードの方を見ました。そして、ほんの少し前まで曇らせていたとはとても思えないほどの笑顔で言いました。


「必要無いに決まっているでしょ?」


レポートNo.3「料理の達人?」へ続く

少女が来たりて犬は泣く←別の視点からのお話



あとがき

※注意 ここから先は本編のネタバレが含まれるため、それが好ましくない方は、で
きるだけ本編をお読みになった上で、こちらの方にお越し下さい※


まずは挨拶の前に

 私はスピアーに何か恨みがあるわけでもなければ、特に嫌っているというわけではありません。むしろ好きです。だから活躍させてあげたくて今回のようなことに、――スピアー好きの皆様、すいませんでした。実際の虫は大の苦手なので、怒りのあまり虫責めとかやめてください。それによってどれだけ快楽を得られたとしても素で発狂します。

一つ目の謝罪が済んだところで挨拶に移ります

 初めての方は初めまして、再び来てくださった方はおはようございます。亀の万年堂です。今回は内容に入る前に、まずは――日記、及びチャット内でもさせていただきましたが、ご心配してくださった皆様にお詫びの言葉を述べさせていただきます。ご迷惑をかけて、本当にもうしわけありませんでした。未だに心の整理はつきませんが、現在主によって繋がれている状態にあるため、少なくとも永遠に文章を書くことができなくなるというような事態には至ることは無さそうです。
 もっとも、主自身が今回のことで大変お怒りになっているので、もしかしたら・・・ということもあるかもしれませんが、私自身の手でどうこうなるよりかはずっと低い確率だと思うので、基本的には大丈夫です。

 と、二つ目の謝罪が済んだところで、早速内容に入らせていただきます。極力、精神的に不安定な様を見せぬように、最新の注意を払って打ってはいますが、何らかの精神衛生上不適切な表現、ないしはそれに類する記述がありましたら、申し訳ありませんがお許しください。

 今回は、すでにお気づきになっている方もおられると思いますが、先に公開させていただいた短編の「少女が来たりて犬は泣く」に出てきた“彼”との出会いの話となっております。今回は彼が彼女に差しのべられた手を、“返答”をもって受け取ったところで終わっているため、彼が今後どういった位置で彼女達と関わっていくのかはNo.3以降のお楽しみということになりますが、先のあとがきや日記で書いているように、基本的には総(ryな感じです。
 しかし、長編本編では残念ながら(?)そういったシーンはありません。私は極めて健全でピュアな作品製作を志しているので、もしも万が一、私の手によって彼が色々と年齢制限がかかるような状態に陥ることをご期待してくださっている方がおりましたら、申し訳ありませんが、その期待を裏切る形になると思います。
 にもかかわらず、少し前にチャット内で同じようなことを発言しましたところ、何故か一人も私の言っていることに――特に“ピュア”の部分に賛同してくださる方はおりませんでした。おかしいですね。変態は一切無いはずなんですが。
 ちなみに、No.1に引き続き、今回も大幅に加筆修正をさせていただいたおかげで、字数がブログに掲載しているものの約2倍となっております(約1万字→約2万3千字)。それに伴い、――私見ではありますが、情景描写がより細かいものとなり、そして特に今回に限って言えば、キョウカとリードの会話部分が相当に増えました。ブログに載せたものだと、今回ほどリード君は厳しくなく(もちろん甘いことには変わりないのですが)、キョウカもここまでボケてはいなかったのですが、それですと物足りなさを感じる上に、後の展開が少し強引になりそうだったので、今回のようにさせてもらった次第です。果たして読まれた方がどのように感じられるか・・・

 さて、ここからは少し本編の内容からは外れまして、この長編そのものについてのことを書かせていただきたいと思います。
 まず、この長編のタイトルである「テンテンテテテンのレポート」についてですが、実はこのタイトルは本当は長編のものではなく、これを掲載しているブログそのもののタイトルだったりします。実際のタイトルは「キョウカのはちゃめちゃ道中記」というものでした(多分)。ですが、これですとポケモンの話であるというのが極めてわかりにくいため、こちらにおいてはこの「テンテンテテテンのレポート」というタイトルで投稿させていただいているわけです。ちなみに“テンテンテテテン”の意味がおわかりにならない方は、どのシリーズでもいいので、ポケモンをポケモンセンターに預けてみてください。すると

テンテンテテテン♪

はい、そういうことです。要するに、ポケモン達がポケモンセンターに預けられることでみんな元気になるように、この作品をお読みになった方がみんな元気になってもらえたら、という意味合いを込めてつけた訳です(後付けです)。
 
 それはさておき、この勢いで打っておりますと、あとがきだけで1万字くらいになりそうです。普段は書くにしても、打つことが可能な環境にある時で、せいぜい1日に5000字くらいなのに――ブログに直接載せていた頃は1日1話くらいのペースだったので、1日1万字くらい書いていた時もありましたが、あとがきだと20分くらいあれば、1万だろうと2万だろうと余裕でいきそうなので困ります。なので、この辺で締めようと思います。
 
 主や閣下、その他大勢の協力者によって成り立っているこの作品ですが、そこには読んでくださっている皆様も、かけがえのない存在として数えさせていただいております。詳細な場面を取り上げての手間暇をかけたコメントはもちろんのこと、面白かった、そしてつまらなかったという言葉であっても、私にとっては大変参考になります。
 今後もまだまだ続く予定の「テンテンテテテンのレポート」ですが、これからもお付き合いしていただけたら幸いです。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

亀の万年堂でした


何かありましたら投下してください。

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • テンテンテテテンってそういう意味だったんですか。元気になりました。 -- フロム ? 2009-01-17 (土) 15:23:22
  • >フロム様
    コメントありがとうございます。お元気になっていただけたのなら嬉しい限りです。続けられる限りはひたすらに続けていきますので、私のお話に引き続きお付き合いしていただければ幸いです。-- 亀の万年堂 2009-01-17 (土) 19:29:55
お名前:

*1 ゴトク この場合は、コの字型の鉄棒を地面に立つように×の字になるようにして組み合わせた物
*2 いわゆるクッキングプレートのこと
*3 家畜として扱われることが多い。古くから人間と共に在り、見張りをしたりしてくれていた。愛玩用だけではなく、時には食用となってしまう時もある。社会性に富んでいる。鳴き声は主にわんわん

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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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