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エブルモン・アルカンシェルprism-G

/エブルモン・アルカンシェルprism-G

※注意
・この項は、エブルモン・アルカンシェルprism-Rの続きです。順番にお読みください。
緊縛、飲精フェラチオなどの性描写があります。



 ――当然ながら、目の前にいる美女の魅惑に、録画で済むドラマ俳優のそれが敵うわけもなく。
悟理(サトリ)さん、俺、やっぱり歓迎を受けてくるわ」
「ちょっ!? 火蛇(カジャ)さん、待って――」
「大丈夫だって。俺だってガキじゃないんだから。適度に楽しんだら引き上げるさ」
「よっしゃよっしゃ、そうと決まれば善は急げじゃ」
 生垣(イケガキ)に背後から押され、火蛇は看板の脇を通って森へと強引に進められていく。その後ろに、看板を降りた夕太刀(ユウダチ)が続いた。
「もう! 本当にほどほどにしておいてくださいよ!!」
 投げつけられた悟理の声にわずかに沸いた不安は、濃密さを増した甘い香りの中で掻き消された。

 ▽

「かんぱ~い!!」
 小さな器がチン、と小気味よい音を立て、澄んだ液面に波紋が走る。
「くはぁ~、キレてんなぁこの酒! こんな上物一体どこから調達してきたんだ? ティユさんは未成年だし、オーナーは一切呑めないはずだろ?」
「ガハハ、その辺はまぁ、蛇の道は蛇っちゅうもんじゃ」
 頬を花のように赤らめた生垣が、その背中の花から盛大に芳香を吹き上げる。
「おいおい、そんなに甘い香りを巻き散らして、野生ポケモンの群が寄ってきたらどうすんだよ?」
「何、その時は私の技で一掃するまでだ。万一相性が悪い相手がこようと、この場にいる3頭で対応できぬ野生ポケモンなど考えられまい」
 自信満々に言い放ちつつ、夕太刀は腕に沿って伸ばした舌の上に、徳利から酒を満遍なく注いでいく。舵歌もよくやっていた、ゲッコウガ特有の呑み方である。
「しっかし旨そうな呑み方だなぁそれ……どれ、ちょいと失敬」
 身を乗り出し首を伸ばして、火蛇は酒がたっぷりと染み込んだ夕太刀の舌を啜る。
 見た目よりも硬くざらついた感触の間を縫って、芳醇な液体が喉を伝い落ちた。
「ん~、最っ高! 俺も欲しいわそんな舌」
「……大胆なことをするものだな」
「ん~?」
 とろけかけた眼を夕太刀に向けると、切り立った頬に酔いとは別種の彩が射していた。
「今のはほとんど……否、接吻そのものではないか」
「ぶっ!?」
 思わず火蛇は、呑んだアルコールに火を点けて吹き出した。
「あ~悪ぃ、つい調子に乗っちまった。嫌だったか?」
「気にするな。いきなり舌を吸われたので驚いただけだ。どの道もっと過激に遊ぶつもりでいるのだからな」
 キスより過激なこの後の展開を想像して、火蛇は照れ隠しにガハガハと火を上げる。
 夕太刀は巻いた舌に残った酒を啜り、嚥下して火蛇に問いかけてきた。
「時に、舵歌(カジカ)さんとは今のような接吻の真似はしなかったのか?」
「いや~、こっちから吸いにいったことはねぇなあ。首の上に乗っかられて、開いた口の上で舌を搾って呑ませてくれたことなら何度かあるが、それもキスの内に入るもんだろうか?」
 入らないだろう。
 少なくとも、接吻行為がもたらすべきロマンティックな盛り上がりは欠片もない。
 軽くドン引きした2匹の様子に、こりゃ話題を切り替えた方がいいかな、と火蛇は判断した。
「あ~、あれだ。影狼(カゲロウ)の奴もさぁ、鍋鶴(ナベヅル)と遊んでないでこっちにきてくれねぇもんかなぁ。ゾロアの頃からいける口だったんだぜ」
「案外今頃奴も一杯呑んでいたりして、な」
 今度は舌に吸わせず、直接喉へと徳利を傾けながら夕太刀が応える。ゲッコウガは変幻自在な呑み方ができるようだ。
「はぁ!? ないない。ティユさんが一緒なんだぜ? 人間の未成年がいる前で酒盛りなんかやる奴ァいねぇよ!」
「そうとも限らんじゃろ」
 背中の葉を裏返して口に咥え、瓶の酒を流し込んで一気呑みした生垣が、ぶはぁ、と息を吐き出して言った。
「要領のいい影狼のことじゃ。イリュージョンで酒をジュースに見せかけて呑むぐらいはやりかねんわい。なぁ?」
「はは、その手があったか! そいつぁ違いねぇや」
「……さて、火蛇、尻尾を少々お借りしてよろしいか?」
「?」
 火蛇の返事を待たず、夕太刀は酒をたっぷりと注いだ徳利を、火蛇の尾の先端で燃える炎に翳した。
 興奮で熱を上げた火勢に底面を炙られて、たちまち中身は泡立って白い湯気を沸かす。
「おいおい、料理の酒焼き(フランベ)じゃあるまいし、酒を煮立ててどうすんだよ? アルコールが飛んじまうぞ~?」
燗酒(かんざけ)といってな。酒の種類によっては、適度に暖めてアルコールを抜いた方が味が丸くなるのだ。それに、ほら」
 吸盤のついた掌が、自らの顔へと招くように湯気を仰いだ。
「この、気化したアルコールを直接吸うのがな、またたまらんのだよ……」
「これじゃこれじゃ。魔月(マツキ)さんに教わったんじゃがな。この背中まで突き抜ける感じがまた何とも……」
「姐さんの入れ知恵かよ。さては酒の入手元も……くぅっ、マジでこりゃすげぇな!!」
 アルコールを胃ではなく他の粘膜、例えば肺などから接種することでより強烈な酩酊を得られる。が、強烈過ぎて中毒の危険性も増すので不用意に真似をしないように。
「なるほど~、暖めた酒ってのも、喉越しがよくなって乙なもんだわ! 姐さんGJ!!」
 徳利から注いだ酒も味わった火蛇が満足そうに喉を鳴らすと、夕太刀は新たな酒瓶を空けてきた。
「火蛇、もう一つ魔月が晴間(ハレマ)に教えていた技があるのだが、やってみるか?」
「?」
「要するに、先刻貴方が言った通りの技なのだが。つまり――」
 火蛇の返事を待ちもせずに酒瓶が傾けられ、ほんの数滴、途轍もなく度数の高そうな酒がこぼれ落ちる。
酒焼き(フランベ)、だ」
 火蛇の尻尾に燃え盛る、炎の上へと。
「ぶおわっ!?」
 火蛇の悶えと同じ音を立てて、青白く炎が爆発する。
 生垣が放ち続けていた甘い香りに混ざって、香ばしく焼けた酒の香りが立ち上った。
「もちろんゴウカザルになってからの晴間は、頭から被っていたのだがな。どうだ、身体に直接燃える炎に酒を足された感想は?」
「も、もうこうさんれふ……」
 既に呂律が回らない。前述の通り、胃以外からアルコールを接種する効果は凄まじいのだ。尻尾の先から一気に全身に酔いが行き渡り、火蛇はベタンと崩れてへたり込んだ。
「なんのなんの、お楽しみはこれからが本番じゃよ。グフフ……」
 生垣の触手が火蛇の手足を絡め捕って仰向けに持ち上げる。上体を背中から支えられ、下半身を力なく地面に投げ出す姿勢にさせられた。首は生垣の花にもたれる形になり、酔いどれの頭にますます甘い香りが浸透していく。無防備に晒された下腹に、夕太刀の顔が近付いていった。
「むぐっ!?」
 元々期待していた興奮が酔いの勢いに押され、わずかな刺激を受けただけて雄の劣情が剥き出しにいきり勃つ。
「フフ、なかなか火蛇さんは立派なモノをお持ちだな……」
「……はれぇ? よびすてにひたいっれじぶんれいってひゃじゃにゃあぁ……」
「ん? おぉ、呼び捨てにすると私から言い出したのであった。やれやれ、私も随分と酔いが回ってしまったようだ……」
 自嘲気味に呟いて。夕太刀は灼熱の柱に舌を這わせた。
「う、あ、あぁ……」
 根元に夕太刀の舌がきつく巻き付く。ザラリと濡れた感触が雄の欲求を締め上げる。
「さすがに酒で遊び過ぎだ。口戯で1発抜いたところでお開きにしたいがよろしいか?」
 むしろ気楽になる心地で、声もなく火蛇は頷いた。既にほどほどの約束を著しく超過している。フェラチオを耐え凌いで次に進む気力も、抜いた後に2ラウンド目に進む余力も残されていない。かといって抜かずにやめるなど臨界寸前の欲求が認めるはずもなく、1度だけ欲望を満たして終わりにするのがベストだろう。
 巻き付いた舌が、灼柱をしごき上げる。吸盤付きの指先も灼柱に絡み付いて愛撫する。とどめとばかりに、パックリと開いた口が柱の頂点を咥え込む。ネットリと濡れた舌と、顎の内側を覆う襞の感触が、元々耐久が低いところを再調整でより柔くなっている火蛇の一番敏感な場所を弱点攻撃で攻め立てる。
「うっあっ! あっあっあぁぁっ!?」
 堪える術など、あるはずもない。猛火の炎が幾重にも、火蛇の脳裏で爆発して、そして。
 ――その刹那、火蛇は気付いた。

 誰かに、見られている。

 間違いない。絡み合った3頭とは明らかに別の気配が、ほど近くにそびえ立つ、大樹の向こうから。
 野外でこういうことをする以上、覗かれることは別に構わない。
 けれどこの視線は、どこか常軌を逸していた。
 毒々しい、禍々しさすら感じる情念が込められたドス黒い視線。ただ情事を覗き見ただけの性的興奮だけでは納得し難い、まるで獲物に狙いを定めたかのような獰猛な吐息。
 誰が、一体どうしてこんな穏便ならざる眼で、夕太刀の奉仕を受ける火蛇を覗き見ているというのか。
 …………まさ、か。
 晴間、か!?
 ゴウカザルの晴間が、嫉妬に狂った眼差しで、パートナーが寝取られる場面を凝視しているということなのか!?
 心当たりなど、火蛇には他に思い当たらなかった。
『くれぐれも、夕太刀に惚れたりしないように』
 あれほど明白な警告をまったく一顧だにせず、夕太刀の姿態に魅惑されて歓迎会を受け、酔った勢いで舌に口付けまでして、挙げ句に彼女の咥内に雄の情欲を放とうとしている火蛇を、晴間が睨んでいるのだとしたら。
『傷付くことになるのは、貴方ですから』
 マズい。
 これ以上流されて、晴間を刺激してしまったら――――!!
 そんな思考がまとまっても、臨界点を越えた後では時既に遅く。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁあぁっ!?」
 煮え滾るマグマの如き快楽が、灼柱を貫いて夕太刀の咥内に噴出する。
 夕太刀は怯むことなく、溢れくる熱い体液を、1滴たりともこぼさず嚥下した。
 更に頂点を吸い、指と舌で灼柱をしごいて、火蛇のすべてを絞り尽くそうとする。
「はふ、あひ、あはぁ…………」
 触手に拘束された手足が、何度も戦慄き、悶え、痙攣して、やがてぐったりと弛緩した。
 樹の後ろの気配を誰何する気力などあればこそ。
「今宵一番の美酒、存分に味わわせてもらったぞ、火蛇。フフフフ……」
 舌を啜って妖艶に微笑む夕太刀に、まともな返事をすることもできず。
 どうにか首を巡らせられるまで回復した頃には、樹の向こうにはもう気配の名残すら残っていなかった。
 気のせい、だった……?
 否。あんな強烈な感覚が幻であるはずがない。
 晴間なのかどうかは判らないが、確かにいたのだ。得体の知れない感情でこちらを睨む、誰かが。

 ▽

「お早いお帰りの割には、存分に楽しまれたご様子ですこと」
 おぼつかない足取りで宿舎に戻った火蛇たちを、酒類の供給主が大きく尖った耳を広げて迎えた。
 実際、まだ8時過ぎである。1時間と保たなかったらしい。つくづく自分の耐久のなさを思い知った火蛇だった。
「姐さんが色々と用意してくれたおかげでな。弟妹弟子に何を仕込んでるんだよったく」
「ほど良く緊張も解れましたでしょう?」
「そう言いたいところなんだがなぁ」
 と、その場で火蛇は魔月を含めた3頭に謎の視線のことを伝えた。
 晴間からの警告については伏せておいた。結び付けるには確証が少な過ぎる。
「私は特に気付かなかったぞ。口戯に専念していたせいかもしれないが」
「いや、儂も分からんかったのぉ。酔っとったせいで勘違いしたんと違うか?」
 夕太刀と生垣は口を揃えて気配の感知を否定したが、火蛇は自分の感覚を疑わなかった。
「逆に、お前らが酔ってたから気付かなかったって線もあるだろうが」
「事が雌雄の痴情絡みなのでしたら、誰であれそういうものがいたとしてもおかしくはありませんわねぇ」
 気配の実在を前提に想定を述べる魔月。これには夕太刀も頷き、その上で言った。
「うむ、だとしても、今夜手を出してこなかったのであれば心配は無用なのではないか? 明日から我々は調整ルーム入りだ。不埒者が何を思おうが、最早手を出す余地はあるまいよ」
 大会に参加するポケモンは、期間中〝調整ルーム〟と呼ばれる施設に入れられて隔離され、管理するトレーナー及び運営スタッフ以外との接触を禁じられる。不正やトラブルを未然に防ぐための処置である。*1
「まぁ、あたくしレベルの手にかかれば、調整ルームのセキュリティを出し抜いて夜這いをかけるぐらいは朝飯前でございますけど」
「いややめてくれよ本当に!? 罰則問題に発展したら洒落になんねぇから!?」
「心配には及びませんわ。前大会では警備室のライボルトさんの寝所にしか忍んで行ってはおりませんもの」
「頼むから冗談だと言ってくれぇぇっ!? ったく、姐さんが一番羽目を外しまくってんじゃねぇか。まさか、ここで待ち構えていたのも二次会の開催を企んでんじゃねぇだろうな!? 言っとくけど、もう逆さに振っても鼻血も出やモグゴッ!?」
 開いた口の中に何かを放り込まれて、火蛇は言葉を塞がれた。
「見くびられたものですわねぇ。生憎貴方たちに無理をさせるほど、今宵の相手には事欠いておりませんの」
 火蛇の舌の上で、甘辛い味がコロコロと転がる。
 いつもの吊り上がった眼差しに、けれど暖かな微笑みを宿して、魔月は言った。
「キーの実で作った飴玉ですのよ。二日酔い予防には効果覿面ですわ。*2ほら袋でどうぞ。貴方たちもお取りあそばせ」
 袖に垂れた毛の陰から、柿色に透き通った飴がたっぷり詰まった袋を3つ取り出して火蛇たちに配る魔月。彼女とて、伊達にティユ隊旅組を仕切っているわけではない。火遊びを勧める一方で、しっかり火消し用のバケツも用意してくれていたのである。
「今夜はこれを飲んで、おつむりをスッキリとさせてから早めにお休みなさいな。それでは、明日からの成果、楽しみにしておりますわよ」
 脚を覆う長い飾り毛を翻して、魔月は優雅に夜の森へと歩み行く。一夜の恋を交わす相手の元へ、なのだろう。
 旅組リーダーとして大会前に為すべき仕事をすべてやり終えた彼女の、辛くも甘い思いやりを味わいながら、火蛇たちは去り行く背中に向かってそっと頭を下げたのだった。

 ▽

 昼間に寝た分まだ眠気が遠かったため、ティユに連絡を取って見損ねていた7時からのドラマ番組を再生してもらう。クールダウンにも丁度いいだろう。
 液晶テレビが奏でる、ブンシャカとけたたましいオープニングを、キー飴を舐りながら視聴した。
 カロスの化石ポケモン研究所で暮らす、アマルルガとアマルスの母仔を取り巻く物語を。
 天真爛漫なアマルスの仕草に和み、その無邪気さにつけ込んで連れ去ろうとする悪党たちに憤り、低温ルームから連れ出されて外気の熱で衰弱したアマルスを、自らの体温で冷やして助けようとする母アマルルガの愛に涙し、元気になって主人公の少年たちと戯れるアマルスの笑顔に萌えまくる。楽しい30分は、あっという間に過ぎ去った。
 母アマルルガの鰭に浮かぶ、麗しい光沢が特に火蛇の印象に残った。
 あの色彩を、明日フィールドの空に、この手で。
 ……なぁんてのはさすがにこじつけ過ぎか、とひとりほくそ笑む。アマルルガの鰭はオーロラの色。火蛇たちが目指す〝アルカンシェル〟とは、原理的にも全く違う現象のはずだ。
 けれど、深く考えることもない。
 同じでなくても、オーロラに負けないぐらい美しい色彩を、空に描き出してやればいいだけだ。
 調整は大変だったが、とても楽しい一日だった。
 だから、楽しいことだけ考えていよう。
 明日から続く大会のため、今宵の夢見がいいものであるように…………。
 謎の視線のことを努めて頭から閉め出し、火蛇はボールに潜り込んで眠りに就いたのだった。

~4月18日・金曜日~ 


 ▽

「あれほど、夕太刀に惚れないようにと釘を差したのに…………」
 声に眼を開けると、ゴウカザルの晴間が頭上の炎を冷ややかに燃やして、火蛇を見下ろしていた。
「どういうことになるかは説明したはずです。警告を聞かなかった、貴方が悪い」
 振り上げたその掌には、鈍く輝くストーンエッジ。的確に火蛇の首を両断する角度に構えられている。
 俺が何をしたっていうんだ!? ただ一緒に酒を飲んで、一方的にフェラチオされただけじゃないか!?
 抗議を叫ぼうとしても、火蛇の唇は凍り付いたように動かなかった。
「とぼけないでくださいよ。夕太刀の姿態に見とれて歓迎会にノコノコ参加したのは誰ですか? 彼女の舌に口付けて直接酒を啜ったのは? 全部見ていたんですよ。今更いいわけは見苦しいでしょう」
 心を読んだかのように、晴間は火蛇の欺瞞を糾弾する。図星過ぎて返す言葉もない。
「防御個体値ゼロのクズポケ風情が、身の程もわきまえずに僕のパートナーに色目を使うなど、思い上がりも甚だしい。2度と僕たちに近付けない身体にしてあげますよ!」
 処刑宣告と共に、ストーンエッジがゆっくりと振り下ろされる。
 当たるものかよ、とばかりに火蛇は身を捩った。
 否、捩ろうとした。しかし身体は竦んだまま、指一本たりとも動かせなかった。
 唐突に、火蛇は気付いた。
 生垣の甘い香りが、自分の身体に浸透していることに。
 その上魔月の火炎鞭までもが、首から下をぐるぐる巻きに拘束していることに。
 躱せない。
 逃げられない。
 たすけて――――!!
 願いも虚しく、岩の刃が朱い鱗を砕き、肉を切り裂き、骨を断ち割る。
 溢れ返った紅蓮の鮮血が、火蛇の視界を飲み込んで、そして――

 ▽

 と、まぁ、絵に描いたような最悪の夢見だった。
 下手に『考えないように』と考え過ぎたことが、裏目に出たのかもしれない。
 しばらくの間、火蛇はボールの中で微睡んだまま茫然と夢の内容を振り返っていたが、不意にボールから飛び出すと、
「逆夢、だな。よっしゃ吉兆!」
 ……と極めて強引に切り替え、身支度を整え始めたのだった。

 ▽

 カロス地方中央からやや東より。
 エイセツシティに繋がるR21テルニエ通りと、ハクダンシティに繋がるR22デトルネ通りとの境目に、豪奢な造りの巨大な門がそびえ立っている。
 バッジチェックゲート――普段はその名の通り、カロス地方各地のジムを巡りジムバッジを集めた猛者だけを、その先にあるポケモンリーグに続く、長く険しいチャンピオンロードへと誘う選別所として機能している。
 だが、全国規模級のバトル大会が開催される時、この門はまた違う表情を見せる。
 門を構成する建物内部を、大会参加者の宿泊施設及び参加ポケモンを管理する調整ルームへと改装し、チャンピオンロード最下層部一帯を広大な対戦フィールドとする超大型スタジアムと化すのである。
 今日もまた、全国から腕自慢のトレーナーたちが、この地で開催されるダブルバトル大会に参戦するため門前へと集った。その人数、6278人。これでもまだ少ない方で、多い時には参加人数が軽く5桁を越える大会もある。
 これだけの人数をわずか3日の間に競わせるとなると、トーナメントや総当たり戦ではとても裁ききれない。そこで、トレーナー1人につき1日最大10戦、3日間合計で30戦までを限度とし、成績が同等の者同士がぶつかるよう大会側で組み合わせを指定するレーティング方式が取られている。日曜日の大会終了時点で最も高い勝率を上げたトレーナーが優勝となるのだ。*3
 ルール上、早めにある程度勝ち星を稼いでおいて途中棄権する勝ち逃げも戦略としてあり得る大会ではあるが、大会の場での実践稽古を目的とする今回のティユ隊にその道はない。黒星を恐れず、1戦でも多く戦法を完成させて勝つ。それがティユ隊の目標だった。

 ▽

「調子はどうだ、火蛇」
 最終登録を待つ行列に並ぶティユの側で、火蛇は夕太刀と共にボールから出て大会前の熱気と喧噪を直に浴びていた。周囲のトレーナーたちも同様に、ポケモンを順番に出してリラックスさせている様子がちらほら伺える。
「おう、上々だ。キー飴がよく効いてくれたぜ。あんだけ派手に酒を浴びたのに何の後遺症もねぇよ。しっかし凄い人の数だなぁ」
 物珍しげにキョロキョロと人混みを見回す火蛇。と、行き交う人たちの足元を縫うようにして、こちらへと走ってくる藍色の影が目に映った。
「火蛇さぁぁぁぁん!?」
「!?」
 間近に迫るや、その影は甲高い声で火蛇の名を呼んでしがみついてきた。
 全身藍色、フサフサと大きな2本の尻尾と折れ曲がった耳の先端、それと頭頂部と首回りを覆うタテガミには白い毛が混じっている。泣きじゃくりながら火蛇を見上げる縦長の瞳は涼やかな青緑色。もちろんそのニャオニクスの雄の子は、火蛇のよく見知った顔であった。
「会えて良かったぁ! 角六(カクロク)が抜けちゃったせいで雄が僕だけになっちゃって、パヒュームも羅紗(ラシャ)十束(トツカ)も酷いんですぅ! 昨晩もその前も、もうおムコにいけなくなるような恥ずかしいことを僕に次々と……お願いします、何とかやめさせてくださぁい!!」
 顔を擦り付けて悲痛に訴える仕草に、火蛇より早く隣の夕太刀が身を乗り出した。
「おおお、可愛いな!! 何だ、ロン隊の仔か!? 初めて見る顔だが……火蛇、ぜひ紹介してくれ!!」
 普段はクールに細めている眼をパッチリと見開き、昨晩酒気を浴びた時よりも頬を紅潮させてニャオニクスを眺める夕太刀。舌先がピクピクと躍動して鎌首をもたげ、火蛇の返事を聞き次第むしゃぶりつきかねない構えだ。どうやらショタ好きの気が少なからずある模様。初見のメッキが順調に剥がれつつあるが、勝手に抱いたイメージが多少崩れたところで幻滅するのも理不尽な話だし、まだまだ全然可愛いものだろう。願わくばこれ以上崩れないでくれよ、と内心で祈りながらも、火蛇は済ました顔で夕太刀に応えを返した。
「いいや、夕太刀も前の大会で、こいつとは顔を合わせていると思うぜ」
「何?」
 飛び出した眼を瞬かせて訝しむ夕太刀。同様にティユも、火蛇の言葉に首を傾げていた。
「この仔、ロン隊のサードニクス君よね? 参加は今大会からのはずだけど、夕太刀と会わせたことなんてあったかしら?」
 ふたりの疑念を余所に、火蛇は弟弟子の哀願に彼らしからぬ冷ややかな視線を浴びせかける。
「……とりあえずなぁ、お前には俺より先に、挨拶する相手がいるだろうがよ?」
 突き放すような声を吐き出しつつ、火蛇はティユの鞄に鉤爪を突っ込んだ。
 カチリ、と中のモンスターボールが弾け、1頭のポケモンが外に放り出される。
「…………へ?」
 現れた緋色の毛玉に、スイッチを押した火蛇自身が目を丸くした。
 影狼……なのだが、タテガミが爆発したかの如くチリヂリに乱れてとんでもない有様になっている。一体何をしたらこんなことになるのやら。
「ちょ……っ!? うわぁ、何でいきなり出すんですか!? アッシゃまだ身嗜みの途中なんですよ!?」
 パニック気味にタテガミを撫でつける影狼。その様子が余程おかしかったのだろう。サードニクスは火蛇の胸元でプッ、と堪えきれぬ笑いを吹き出した。
「キャハハハハ! どうしたのよ兄貴ったらその酷い頭は!?」
 瞬間、影狼の表情が火蛇と同じく冷ややかに染まり、呆れ混じりの声をサードニクスに向ける。
「アッシゃ、ニャオニクスの弟なんか持った覚えはありゃしませんけど?」
「あっ!? しまっ……」
 口を押さえて狼狽するサードニクス。傍らではようやく状況を理解したティユと夕太刀が揃ってカクン、と顎を落としていた。
「た、タンマ! 今のなし! やり直しにさせてお願い!!」
「往生際が悪いわ未熟者! っていうかお前ら、考えることが一緒なんだよ性悪兄妹!!」
 ツッコみをいれつつ、火蛇は一昨日影狼にしたのと同じ様に鉤爪を振り下ろす。
「あ痛っ!?」
 甲高い声を上げて、小突かれたサードニクスの姿が赤黒く弾け、影狼とよく似たゾロアークの雌が床に転がった。
「なんだ、朧狼(オボロ)だったのか!? 私としたことが不覚だったな、まんまと引っかかったぞ」
「あはは、夕太刀さんお久で~す」
 影狼の妹、ロン隊試合組ダブルバトルパーティの一員である朧狼は、そう言って照れ臭そうに頭を掻いた。
「いやぁ、でも火蛇さんには一発でバレちゃいましたから。まいったなぁもう」
「ったりめぇだ! いくらなんでも抱きつかれたら、匂いと感触で雄か雌かの判別ぐらい余裕で付けられるわ!! なぁ影狼?」
「あ……はは、そ、そりゃそうですねぇ…………」
 引きつった笑いをボサボサのタテガミで隠して、誤魔化し気味にそっぽを向く影狼。初日にティユに化けて看破されたことを思い出しているのだろう。
「っていうかマジでどうしたんだよその頭」
「あ~、これっすか。いや、大きな声では言えないんですけど……」
 口元をタテガミで押さえたまま、影狼は火蛇に顔を寄せて耳打ちする。
「実は夕べ、ある場所でイリュージョンに紛れてコソコソと一杯ヤっていましたら、うっかりタテガミにひっかけちまって。酒の臭いが付いてちゃイリュージョンに差し障るんで、梳きながら拭き取ってたところだったんですよ」
「生垣の予想大的中かよ……」
 やはりイリュージョンを使って、ティユの眼をごまかしながら呑んでいたらしい。なるほどタテガミを嗅いでみると、昨晩火蛇たちが呑んでいたのと同じ酒の香りがする。影狼も魔月から酒を調達したのだろう。チラホラとティユの方を気まずそうに見やりながら、影狼は更に声を潜めた。
「ティユさんにバレたら怒られちまうんで、どうか内密に願えませんか?」
「二日酔いは大丈夫なんだろうな?」
「その点は心配なく。アッシも姐さんにキー飴をいただいてるんで」
 ならばとやかく言うこともないか、と火蛇は無言で頷いた。調子に乗って見境なく呑んだのは火蛇も同様なので、あまり大きな顔ができる立場でもない。
 そんなやり取りも知らず、ティユは会場を見渡しながら朧狼に訪ねた。
「それで朧狼、ロンはどこ? もう最終登録は済ませたの?」
「うん、たった今終わったところだよ」
 応えたのは朧狼ではなく、人混みの向こうから姿を見せたゴロンダ帽子の少年だった。その手には大会の選手証が掲げられている。
「火蛇は無事に調整できたみたいだね」
「おかげ様でね。何とか形にはできそうよ」
「この仔たちは僕がここで見ているから、姉さんは列の先に行っておいでよ。受付まであと少しだから」
「分かったわ。じゃあ、お願いね」
 3頭を弟に預けて、若葉色の帽子が列の波に流れていく。
 その姿を見送る火蛇の首筋に、親トレーナーの暖かい掌が触れた。
「頑張ったね、火蛇」
「俺が頑張らなきゃいけないのはこれからだぜ?」
 強がって見せつつも、火蛇の身体はそっとロンに擦り寄って甘えていた。会わなかったのは昨日1日だけだったのに、何だか随分と長い間離れていたように思える。
「それはそうとよ、ちょいとそいつらに話があるんだが」
「さっき朧狼が〝自白〟してた件だろ? 頼むよ。夜のことだと僕じゃ触り難くってさ」
 ライトグリーンに黒のラインが入ったツートンカラーバッグから5つのボールが出され、ロン隊試合組ダブルバトルパーティの面々が次々と現れる。
 丸っこい身体を包む薄桃色の羽毛の狭間から、芳醇な香りを漂わせるフレフワンのパヒューム。
 豊満な黄色い胴からスラリと伸びた縞模様の尾の先に、眩い明かりを灯すデンリュウの羅紗。
 神秘的な黄金の盾の陰に、鈍く輝く刀身を隠したギルガルドの十束。
 そして悟理と同じ桃色の髪の下に、まだ幼さを残す眼差しを宿したチャーレムの菩提(ボダイ)
 先ほどの会話にあった通り、この4頭にゾロアークの朧狼を含めた全員が雌であり、朧狼が化けていたのと同じ姿でオドオドと震えているニャオニクスのサードニクスが唯一の雄である。                 
「さぁてお前ら、聞かせてもらおうか。朧狼の話はどこまでがマジだ?」
「ほとんど全部事実です」
 苦悩の滲む声でサードニクスが応えると、すかさずパヒュームが嘴を突っ込んできた。
「異議あり! 朧狼がサードニクスのふりをして言った話には、1個だけ嘘が混じっていました!!」
「みなまで言わんでいいよ解ってるから。虐めていた側に朧狼自身の名前が抜けていた事だろう。匂いと感触以上に、それで正体が丸分かりだ。ロンさんも〝自白〟つってたしな」
 あっさりとパヒュームをいなしつつ朧狼の方をジロリと睨むと、隈取りの入った黒い顔が悪びれもしない声で言い返す。
「え~、でも私が名前を挙げなかったのは菩提ちゃんも同じじゃない」
「菩提ちゃんが悪戯に加わってたらさすがにビックリだよ! 仲間だけチクって自分は怒られずに済まそうたって俺の目は誤魔化せねぇからな!!」
「火蛇さん正解です。本当に何とかして下さい……」
 眼の下を腫らして絞り出した、今度こそ本物のサードニクスの懇願を受けて、火蛇は集団逆レイプの加害者4頭をまとめて一喝した。
「お前ら、雌雄のバランスが崩れたらものの一日二日でこの体たらくか!? 少しは謹めよ。特に精神的な面では、雄は雌よりデリケートなところだってあるんだぞ!? サードニクスは大事なサポート役だろうが。大会に支障をきたしたらどうするんだよ!?」
 厳しく窘められて、4頭の試合組エリート娘たちが縮こまる。いくら能力で差が付いても、修行時代から彼女たちの面倒を見てきた火蛇には誰も頭が上がらないのだった。
「ちなみに、舵歌は何を犯った?」
「待て、それを言うなら『何をやっていた』では? 今のだと、まるで舵歌さんを加害者認定していることになってしまうのだが?」
 聞き咎めた夕太刀のツッコみに、しかし火蛇は肩を竦める。
「舵歌に限ってこの事態に何の対処もしてねぇなんて思えねぇし、止める方向で動いたならこいつらはおとなしく従ってるよ。隊を離れていた俺のところにまで件が回ってきた以上、舵歌もグルになって悪戯に加わっていたに決まってら」
 と決めつけたのだが、意外にもパヒュームは長い睫毛を横に振った。
「残~念っ! 舵歌さんは私たちの仲間ではありません!!」
 隣の羅紗も、黄と黒の縞が入った角を振ってパヒュームに頷く。
「舵歌さんったら、私たちからサードニクスちゃんを取り上げて、『保護します』って自分の部屋に連れ込んじゃったんですよ!?」
 続いて十束が、うなだれていた刀身をまっすぐに直して得意気に語った。
「その後、10分も経たない内に泣きながら逃げ出してきたサードニクスを、我々が再び確保した次第であります!」
「やめたげてよおぉ!? 共謀ならまだしも競争して悪戯しあってんじゃねぇよ! サードニクスに救いがなさ過ぎるわ!!」
 想定していた最悪の状況を遙かに越える悲惨さに、火蛇は同情のあまり涙すら浮かべて絶叫した。
「もうお前ら、せめて大会が終わるまでは自重しろよ!? 菩提ちゃん、こうなったら君だけが頼みの綱だ。特に夜はこいつらがサードニクスに近寄らないようしっかり見張っていてやってくれ」
「お任せください。サードニクスさんは私が守ります!」
 母親譲りの礼の姿勢を取りながらも元気に声を上げた菩提の様子に頬を綻ばせた後、火蛇はますます表情を落としているサードニクスの顔を覗き込んで優しく声をかけた。
「年下の雌の仔に守られるなんてみっともないと思うかもしれんが、まぁ非常事態だ。その分試合で返すつもりで遠慮なく甘えとけな」
「はい……」
 唇を噛み締めて震えているサードニクスをなだめる火蛇に、夕太刀が見かねた様子で声をかける。
「なぁ、火蛇、ものは相談なのだが、いっそ夜はこの仔をこちらで預かるわけにはいかないだろうか?」
「お、おいおいまさか、あんたまでサードニクスを部屋に連れ込んで悪さするつもりじゃないだろうな!?」
 藍色の小さな身体を翼で庇い、警戒心も露わに身構えた火蛇だったが、夕太刀は気分を害した様子もなくかぶりを振った。
「そうではない。お前か、あるいは影狼や他の誰かでもいいが、こちらの雄ポケモンと一緒ならその仔も安心するだろうと思ったのだ。駄目だろうか?」
 ……まともだ。
 至極まっとう極まりない、サードニクスの心情を慮った意見だ。
 夕太刀を疑った事を火蛇は恥じた。やはり彼女は、両隊雌リーダー唯一の良心だった。
 掃き溜めに鶴どころか、有害廃棄物処分場にホウオウを見た思いがして感動さえ覚えながら、けれど火蛇は夕太刀の意見を退けた。
「こいつのこと心配してくれてありがとうよ。だがそいつぁ駄目だ。パーティ内の揉め事は、可能な限りパーティの中で解決しなきゃいけねぇ。サードニクスを助けるのは、今同じパーティにいる菩提ちゃんであるべきなんだよ」
「……そうか。いらぬ世話を焼いてしまったようだ。それにしても、さすがは旅組のサブリーダーを長年勤めてきただけあって大した手際だな。ロン隊のみなにも随分と慕われていると見える」
「よせやい、照れるじゃねぇか」
 くすぐったそうに破顔しながら、内心で火蛇は苦い想いを抱えていた。
 臨時移籍がやむを得ない状況だったことは火蛇ももう納得したことだが、自分が抜けたことでロン隊にも想像以上の影響が発生していたのだ。
 不安を押さえきれず、恐る恐る訊ねてみる。
「ロンさん、試合組の状況は解ったが……旅組の方は大丈夫なのか?」
「…………心配するな。お前はどうか、姉さんとの大会に専念して欲しい」
「…………」
 嘘でも『大丈夫だ』と言う気力も尽きているようだ。一体どういう惨状なのか、想像するだに恐ろしい。
 しかしロンの言う通り、今は与えられた務めを果たすことだけを考えるべきだ。でなければティユの努力はもちろん、ロンたちにかけた負担すらもすべて無駄になる。
 まったく、こんな心労を負わねばならないのも、大会の出場ルールを勘違いしていたバカがすべての元凶なのだが……
「お待たせ~。選手証もらってきたよ!」
 戻ってきたティユの声に振り向いて、途端に火蛇たちは全員揃って鼻白んだ。
 若葉色の中折れハットの後ろから、元凶がそのマヌケ面を晒したからだった。

 ▽

「え~、すべての準備が整って、後は調整ルームに入って試合の呼び出しを待つだけとなりました。ここでオーナーである僕からひと言、みんなにお話があります」
 門の一角の開けた場所で、両チーム合計12頭のポケモンたちが、3人の人間たちの前に列をなして並ぶ。母娘久しぶりの再会となる悟理と菩提は、軽く礼を交わしただけで語り合うこともないまま大人しく、しかしさりげなく寄り添うように隣りに並んで立っていた。
 顔を引きつらせているティユ&ロン姉弟の間にマイクを持って立っている小太りした中年男は、ティユたち以上に緑色だらけの装いだった。ニット帽も、パーカーやシャツも、ジーンズやソックスやスリップオンスニーカーも、更にはたすき掛けしているショルダーバッグや、左腕に巻いたちょっとメガリングっぽいトラベルウォッチに至るまで、ライムからオリーブまで差異はあれど全部緑一色。さながら色違いのリングマである。余程こだわりがあるのか、ロンによると下着までグリーンらしい。ボンヤリしすぎて精神に苔が生えていないことを祈るばかりだ、と火蛇は思った。
「今回みなさんが出場いたします大会は、ある有名な週間情報誌の提供で行われるのですが、10勝以上を上げたトレーナーには賞品としてスポンサーから記念メダルが贈られることになっています」*4
 試合数を絞っての勝ち逃げを増やさぬための餌、ということらしい。
「創刊当時からのファンであり、現在でも毎週かかさず購入している僕としましては、このメダルを逃すわけには行きません! そんなわけでみなさま、記念メダルゲットのため、最低10勝を目標に健闘をお願いします! いじょ!!」
 などとぬかしてふんぞり返った、アバンセ通り辺りの草むらからヒョッコリ飛び出しそうなスッとぼけた顔に、水手裏剣とマジカルシャインが突き刺さった。
「ぴぎゃああああっ!?」
「貴様、私たちに要求できる立場だとでも思っているのか!?」
「まずひと言謝らんかいアホンダラ!!」
 両パーティリーダーからのキツいお仕置きである。鈍足なフレフワンであるパヒュームがゲッコウガの夕太刀と先手を争うスピードで技を叩き込んだことが、彼女たちの怒りの凄まじさを物語っていた。
 転ばされたオーナーは、慌ててショルダーバックをひっくり返し、奥の方に突っ込まれていたクシャクシャの紙を床に広げて書かれている文章を読み上げ始める。
「あ~、『その件に関しましては誠に遺憾と申しますか、不快に思われた方がいらっしゃるのであれば謝罪したいとボゲゴォォォォォォッ!?」
「一体何の真似ですかそれはっ!?」
「見事なまでに反省の欠片もないわね!!」
「挑発の例としちゃ見習いたいレベルだよ!!」
「いい度胸だ。こうなりゃ皆でブッ飛ばそうぜ!!」
 かくして、ポケモン10頭がかりで人間1人をフルボッコにするという壮絶な光景が展開された。守衛が騒ぎに駆けつけたが、ティユとロンが「じゃれてるだけですので……」と説明したので納得してくれたようだ。いいのかそれで。
「ほらほら、悟理さんと菩提ちゃんもご一緒に」
「そうだよ。特に君たちは酷い目に遭ってきたんだから、前大会の分も含めて殺っちゃえ殺っちゃえ」
「いえ、オーナーさんのおかげでみなさんと知り合えたご恩もあるわけですし」
「そうですよ。それに恨んで暴力を奮うなんて私たちには……」
 慎ましくもリンチに加わらずにいたチャーレム母娘だが、そうは言いながらもみんなを止めることもなくニコニコと静観している辺り、彼女たちなりに思うところもあったのだろう。
「それは違うわ、悟理、菩提」
 そんな母娘に、ティユが満面の笑顔で声をかけた。
「これは復讐とかじゃなくって、大会前に皆の気合いを盛り上げるためのセレモニーみたいなものなのよ。だから思う存分やっちゃってちょうだい」
「そうそう。祭り太鼓を叩くつもりでドーンとね」
 ロンからも誘いを受け、母娘は顔を見合わせて頷き合う。
「そうですか。そういうことでしたら、ねぇお母様」
「えぇ。お言葉に甘えさせていただきましょう」
 モミクチャにされていたオーナーが、この会話にギョッと丸い目を剥いた。
「こ、こらティユとロン!? 善良なチャーレム母娘を誑かすんじゃない! ふっ、まあいいか。テレパシーチャーレムの1頭や2頭の攻撃が加わったところで大したことはあるまい……っておいお前ら、今その母娘に何を持たせた!?」
 返答の代わりに、二人は同時に左腕を掲げ、その手首にはめられた黒い腕輪に右手の指を添える。
「メガシンカ! 覚醒せよ、メガチャーレム!!」
 沸き上がった2つの光球が、閃光に引き裂かれて爆発する。
 やがて現れた母娘は、桃色の髪を純白のターバンで覆っていた。
 漲るヨガパワーで編み上げた腕が4本ずつ、翼のように広がって肩の上に浮いている。
 漆黒だった双眸には、爛々と蒼い炎が灯っていた。
「それじゃ、」
「行きますよー!!」
「ぎょええええええええええ~っ!?」
 握り締められた帯状の拳が、ヨガパワーの尾を引いて飛んでいく。
 圧倒的な威力を2発同時に浴びて、オーナーは青空の彼方へと吹っ飛んでキラリ輝く星になった。
 諸悪の根元を成敗したところで、いよいよ大会の幕開けである。

 ▽

「それじゃ、先に行かせてもらうわね」
「うん。頑張ってね姉さん」
 それぞれにポケモンたちを調整ルームに送り、ティユはロンと別れて選手控え室に向かう。手の内の知れた姉弟が直接対決して潰し合いになることを防ぐため、時間帯をずらして控え室で待機するのである。
「ロンとだけは当たりたくないもんね。パヒュームは、私のパーティーにとっては天敵みたいな仔だから……」
 固く表情を引き締めて、ティユは独り願いを呟いた。
「なるべくロンと同じ戦法を使う相手とは、当たりませんように」

 ▽

「って、初っ端から出番なんですか……!?」
 初戦の空を羽ばたきながら、茜色の頬に冷や汗が滲む。
 険しい視線が見据える先には、相手の場に並んだ2体。
 岩塊を寄せ集めたような殻から褐色の頭と手足を生やしたゴローニャと、ギョロリとした血色の瞳にチャックで縫い止められた口を持つ真っ黒な人形ジュペッタ。
 ティユの願いも虚しく、露骨なまでにあからさまな『ロンと同じ戦法』のパーティ編成だった。
「いきなり変則構成になっちゃったけど、嘆いていても仕方がないわ。こういう時のために貴方がいるんだから。処理、お願いね!」
 緊張が迸るティユの指示に、先発の2頭は無言で了解の意志を返す。
 一方、相手のジュペッタは血色の眼差しを禍々しく光らせて、見通した結果をトレーナーに伝えていた。
「チャーレムは脱出ボタン、リザードンは……命の玉、だな」
「妙なパーティだな? この2頭で今時両方ともメガストーン持ちじゃないなんて……」
 しばしトレーナーは訝しんでいたが、振り払うように迷いを鼻先で軽く笑い飛ばす。
「まぁ、いいさ。どの道簡単には止めさせない……作戦通り行くぞ!」
 互いに指示が飛び交い、ゴローニャが全身を覆う殻を大きく膨らませる。
 が、一瞬早く悟理の腕が伸び、突き出した鼻面の手前に強烈な柏手を炸裂させた――猫騙し!
「ぐわっ!?」
 膨らみかけたゴローニャの身体が、怯んでギュッと縮こまる。
「くそっ、ワイドガード失敗か!!」*5
 発動させるはずだった防御技を封じられて呻く相手トレーナー。恐らくは火蛇が熱風を使ってくると警戒していたのだろう。
 しかし、火蛇は熱風など放ちはしなかった。
「かかってこいよ、中古人形!!」
 代わりに口から飛び出したのは、邪気をたっぷりと乗せた罵声。鉤爪を返して手招きするポーズを取り、ジュペッタの攻撃性を誘う。相手の作戦を、完全に封殺するために。
 チャックの口がギリリと軋み、血色の瞳がカッと燃え上がって、ジュペッタは。
「……フッ、やなこった」
 しかし即座に、その眼差しを鎮めた。
「メンタルハーブ!? しまった……!!」
 精神に干渉する技の効果を予防する薬草を、あらかじめジュペッタは服用していたのだ。
 為す術もなく歯噛みするティユたちを前に、ジュペッタは指を組んで念を解き放つ。
 たちまち、対戦フィールド一帯の空間が歪み捻れ、見えない迷宮を構築した。
 トリックルーム――ロン隊のパヒュームも得意とするこの技は、鈍足な者を加速させ、俊敏に動く者の足を拘束する。速攻を主体とするティユ隊にとっては、追い風と並んで最も相手に使われたくない技なのである。
「くくっ、これは驚いた。リザードンって挑発を使えたんだねぇ……な~んてな!」
 すかさず下った相手の指示に、ジュペッタが防御の姿勢を取る。
「くっ……!」
 ティユの指示も同じく防御。悟理が、そして火蛇も相手の攻撃に備えて身構える。
 次の瞬間、ズドン!! と大地が激震した。
 ゴローニャが手足を殻の中に引き込み、丸めた身体を地面に叩き付けて強烈な地震を引き起こしたのだ。
「――――!!」
 虚空に朱い身体を震わせて、離れた地面からの衝撃を堪え忍ぶ火蛇。
 堪え忍ぶ必要など、空を飛ぶ身にはないはずなのに。
「あ~あ、こりゃアッシらの負け確定かな……」
 解けるまでもなく化けの皮を剥がされて、火蛇に扮した影狼は悔しげに呟いた。 

 ▽

 そんなわけで、火蛇の公式大会デビュー戦は、感慨を味わうどころではない悲惨なものとなった。
 トリックルームの継続時間が終わるまで堪え凌ごうと消極戦法を打ったことが仇となり、相手に好き放題立ち回られた結果、最後の1頭として引きずり出された火蛇は、その瞬間にゴローニャがばらまいていたステルスロックの洗礼を浴びてしまったのだ。
 戦闘姿勢を整えるより前に、ただでさえ心許ない耐久をごっそりと持って行かれてしまった火蛇は、ものの一合も踏みとどまれずに撃墜。トリックルームの効果切れすら迎えることなく、ティユ隊は黒星スタートを喫したのだった。
「いや~、ここまで何にもできずに負けると却って清々しいわ」
「今回は相手が悪過ぎだったからな、仕方あるまい」
「ごめんね、クジ運が悪くて。ドンマイ、次で頑張りましょう」
 元より苦戦は覚悟の上。相性の悪い相手に押し負けたからといって、落ち込んでいる暇はない。
 気持ちを建て直し、ティユ隊は次の試合に臨むのだった。
 
 ▽

 2戦目の相手先発は、紅の猛禽ファイアローと、強固な亀甲を背負った水色の首長竜ラプラス。
 この2体が相手なら、何も迷うことはない。
 コンボ達成への道筋に向かい、ティユの指示が悟理と、今回は本物の火蛇へと下される。
 開幕一番、火蛇を見据えるラプラスの柔和そうな視線を、柏手が遮った。
 悟理の猫騙しに庇われつつ、火蛇は携えた飛礫をファイアローへと構える。
 技マシン№39で修得した技、〝岩石封じ〟。岩で相手の身体を縫い止め、機動力を削ぐ攻撃技だ。
 火蛇と同じく炎・飛行タイプであるファイアローに対しては極めて効果抜群、とはいえ威力は低く、火蛇の腕では一撃で倒すには至れまい。*6
 だがスピードさえ殺しておけば、ファイアローの攻撃で悟理が退いた後に、交代で出る夕太刀が水手裏剣で押さえられる。疾風の翼をもってしてもこれは躱せない。その間火蛇が身を守っていれば、ファイアローを倒した後にコンボを行使する隙が見えてくる……!
 前大会では、夕太刀より速い相手への対策は六花が凍える風を吹き付けることで行っていた。凍える風の方が広範囲の相手に効果を及ぼせるが、要は速い相手だけ潰せばいいのである。この1戦は特に、相手がどちらを狙ってくるかが読み易く、岩石封じでも十分有効な働きが望める…………はずだった、のだが。
 岩石封じが炸裂するよりも素早く疾風の翼を翻したファイアローは、ティユたちの予測に反し、その獰猛な嘴をまっすぐに火蛇へと向けてきた。
「な……ぐわっ!?」
 こだわりハチマキを締めたブレイブバードの矢に、火蛇の脆弱な鱗は容赦なく抉られる。
 気合いのタスキに意識をしがみつかせて持ち堪えつつ、交錯の一瞬に予定通り相手の翼を縫い止めた。
 即座に防御姿勢。悟理は火蛇を庇うように前方に飛び出す。
 しかし、相手はどちらも悟理には目もくれず、火蛇に向かってブレイブバードとハイドロポンプの集中攻撃を浴びせかけてきたのだ。
「うわあぁぁっ!?」
 翼でいなして後退しつつダメージを防いでいる間に、身を翻した悟理がラプラスに思念の頭突きを叩き込む。だがヨガパワーを持たぬ身の悲しさ、大した打撃も与えられない。
 防御姿勢は、長くは保たない。次の攻勢を持ち堪える手段は、火蛇にはもうない。
 火蛇を交代して反撃、という手もあるが、この集中攻撃の最中に交代しても、代わったポケモンが倒されるだけ。最早完全に、コンボ達成の望みは絶たれていた。
「そんな、どうして……!? 飛行タイプなら、氷タイプを持つラプラスを守るためにも悟理の方を狙いそうなのに…………!?」
 迫り来る敗北を迎えるより早く、絶望と困惑でティユの心は打ちのめされていた。

 ▽

 そんな調子で敗北を重ね、気が付けば勝利なしの8連敗を喫していた。
 エブルモン・アルカンシェルどころか、前段階のコンボすら一度も決められなかった。あの後の戦いでも、火蛇が執拗に狙われ続けたためだ。
 その理由は、もう既に判明していた。
 別の試合を映し出すモニターが、煌々とした光を放っている。
 画面の向こうで、日本晴れの日差しの中を羽ばたいているのは、火蛇と同じリザードン。
 否。その姿は、火蛇とは大きく異なっていた。
 大きく複雑な形に広がる翼、腕から生えた飛行補助のための鰭、額の真ん中から後方へと伸びた大きな角。
 メガリザードンY。リザードンがメガシンカした形態の一つである。
 この姿に変わるだけで、特性により日照を強め、炎技の火力を強めることができるのだ。そこから繰り出される熱風は、広範囲に渡り驚異的な威力を発揮する。このため今回のダブルバトル大会では、いわゆる〝晴れパーティ〟の主力として採用されることが非常に多かった。
 しかもその相方として多いのが、強い日差しの中で活動力を上げられる特性、葉緑素持ちのフシギバナ。
 つまり、対戦前のパーティの見せ合い時に火蛇と生垣を見た相手は、ティユ隊を晴れパーティであると誤認して、熱風を吹かされるより前にリザードンを鎮圧しようと躍起になって襲ってくる、というわけだった。
 他の敗北の理由としては、初戦同様トリックルーム対策の失敗も大きい。
 メンタルハーブの蔓延に加え、アロマベールの芳香を放つフレフワン、鈍感な精神を持つヤドランなどにはそもそも挑発が効かない。最早影狼の挑発では、トリックルーム対策として通用しないのだ。生垣が眠り粉で鎮めようにも、フレフワンやヤドランの場合だとラムの実で状態異常を予防していることが多い。ちなみにロン隊のパヒュームも、特性アロマベールでラムの実を所持するフレフワンである。しかもロン曰く、「メガゲンガーのヘドロ爆弾を浴びても余裕で耐えられる」というタフネスボディの持ち主であり、一撃で沈黙させるのも難しいのだ。素速さを度外視できる分だけ耐久に磨きをかけた、トリックルーム・パーティの重装甲をどうやって攻略するか。次回以降の大会に向けてじっくり考えなければならなかった。
 まだ対戦回数は2回残ってはいたが、特に精神的に消耗したパーティのことを考え、ティユは一端退くことにした。負けて経験を積むのもいいが、コンボ達成に繋げられなければ意味はない。
 ティユ隊の大会一日目は、こうして最悪の形で幕を下ろしたのである。

 ▽

「道は暗く先は見えない。残念ながらそれが現状だ」
 端整な顔に険しさを刻んで、夕太刀は言った。
「しかし抜け出す術は必ず見つかる! そう信じて、明日は頑張ろうではないか」
「……そうね。ありがとう、夕太刀。皆もお疲れさま。明日に備えて、今夜はゆっくりと休んでちょうだい」
 焦燥を笑顔で隠して、ティユはパーティを調整ルームに預け、宿舎へと下がっていった。
 さすがにこの夜ひと遊びしよう、などと言い出す者はなく、全員大人しくそれぞれの個室に入る。
 暗い部屋の中、己の尻尾以外に明かりも灯さず、火蛇は独り想いを巡らせた。
 もし、自分に本物の試合組並の能力が備わっていたら。
 思っても仕方がないことだと解っていても、また、敗因の多くが作戦の破綻にあると解っていても、ついついそんな想いに捕らわれてしまう。
 耐えることができた攻撃もあったのではないか。相手に先んじて放つことができた攻撃もあったのではないか。*7そうしたら、ここまでの結果にはならなかったのでは。自分の存在が、パーティの足を引っ張っているのでは…………?
 ……いかん。このままじゃ眠れそうにねぇな。
 軽く夜風に当たって頭を冷やそうと、火蛇は個室の窓からベランダに出る。
 バッジチェックゲートの建物から見下ろす光景は夜目にも美しく、西の渓谷と東の丘陵が、星明かりに照らされて深いコントラストを描いていた。
 心に絡み付いていた迷いを忘れてその夜景に魅入っていた火蛇は、ふとベランダを軋ませる足音に気が付いた。このベランダは同じパーティの個室と繋がっている。他の5頭の誰が出てきたのかと思ってみれば、目に入ったのは房を結んだ桃色の髪だった。
「あら、火蛇さん。こちらに出ていらしたんですか」
「あぁ。悟理さんもこっちへきなよ。今夜は星が綺麗に見えるぜ」
 翼を広げて、火蛇は悟理を隣に誘う。北方のフロストケイブから吹き下ろす冷たい風を翼で遮ってやると、腕に悟理の細い肩が柔らかく触れる。
 そのまましばらく澄み渡る夜空にふたりで心を飛ばしていたが、やがて肩にコツン、と頭がもたれ、震えた囁きが胸に届いた。 
「ごめんなさい。本来は火蛇さんを守って夕太刀さんに繋ぐのが私の役目ですのに……」
 鉤爪に手が重ねられる。
 翼の影で悟理の顔は見えなかったが、泣いているのかも知れなかった。
「今日の敗因は……みなさんの足を引っ張っているのは、確実に私ですわ。私にさえ前衛を務められる力が備わっていたら…………」
「それは……」
 否定して慰める言葉を、しかし火蛇は持っていなかった。
 実際、その通りではある。悟理の能力や技が相手に驚異を感じさせるものであったなら、火蛇に向かう攻撃を防ぐことができていたはずなのだ。個体能力の足りない火蛇に対し、悟理は種族の能力が不足していた。曝されている状況は火蛇以上に厳しい。自分の弱点を狙えるはずのポケモンたちや、自分の攻撃を警戒しなければいけないはずのポケモンたちにまで悉く無視され放置され、どれほど屈辱的な想いを味わったことだろう。
「……だとしても、それも含めてティユさんの経験になって、新しい先発要員を決める道標になっているはずだ」
 翼の温もりで悟理を抱き包んで、火蛇は言った。
 彼女に捧げた言葉が、巡り回って自分にも届くように。
「俺たちの苦しみも悔しさも、絶対にひとつも無駄になんかならない。だから全力で当たって砕けりゃいい。それに、まだ3分の1だぜ? 20戦も残っているんだ。自分の限界に見切り付けて嘆くにゃ、まだ早過ぎってもんだろう」
「そう、ですね…………」
 それだけ返し、翼の中で悟理は火蛇に身を寄せる。
 身体を直に触れ合わせて、火蛇は悟理の鼓動と息吹を全身で感じていた。
 互いに自分という壁に向き合う者同士、こうして痛みを分かち合うことで楽になれる想いがした。
 ならば、もっと深く分かち合っても。
「悟理さん…………」
「はい………………」
 この冷風の中、もっと温もりを求めたとしても、許されるだろうか――!?
 そっと翼を開けて、彼女の顔を覗く。
 こちらを見上げる潤いに満ちた眼差しに、火蛇は。
「……フーディンだっけ?悟理さんの旦那って」
「……え? えぇ、はい」
 許されるわけ、ねぇじゃん。
 我に返って、流されつつあった想いに楔を打ち込んだ。
「大変だよな。旦那さんだけ故郷に残したまま、ずっと離ればなれなんて」
「もう少しだけの辛抱ですわ。この大会が終わったら、私は正式に引退して夫の元に帰りますので」
「そっか。んじゃ、なるだけいい土産話を持って帰るようにしなきゃな」
 明るめの声を放ちながら、鎮まっていくどちらのものともつかぬ鼓動に火蛇はほっと胸を撫で下ろしていた。
 危ねぇぇぇぇっ! 今のはマジでヤバかった! 危うく立っちゃいけないフラグが立つところだった!!
 彼女ひと妻よ。菩提ちゃんのお母さんよ。何考えてんの俺!?
 もしあのまま流されてたら、脱出不可能な泥沼の底まで直滑降だ。ロン隊に戻った後で菩提ちゃんとどう接したらいいのかも分かりゃしねぇ。
 バカなことは考えるな。相手は神聖不可侵なひと妻。これでいいんだよこれで……
 などと内心で己を取り繕っていると、翼の下からクスクスと笑い声が漏れ出した。
「確かに、泥沼の底はいけませんわね。ごめんなさい。私としたことが少し甘え過ぎてしまいましたわ」
「あっ……!?」
 尻尾の炎を真っ赤に染めて、火蛇は大慌てで悟理から身体を放した。
 そう、彼女の特性はヨガパワーではなく、テレパシー。
 密着した姿勢で強烈に爆発させていた先刻までの思念は、全部何もかもダダ漏れの筒抜けだったのである。
「ウフフ、お互いのためにも、今宵のことはここだけの話にしておきましょうね」
「い、いやぁ、こっ恥ずかしいモノを聞かせちまったようで。ハハハ……」
 悪戯な笑顔で大人の余裕を見せる悟理に対し、火蛇はひたすら笑って誤魔化すしかなかった。穴があったら入りたい。差し当たって入れるねぐらは背後にある。そろそろ引き上げ時だろう。
「いろいろとぶちまけられて、俺もスッキリしましたわ。そんじゃ、もう寝ますんで。お休みなさい」
「……あの、火蛇さん」
 個室に戻ろうとした火蛇の背中に、引き留める声がかかる。
「私、火蛇さんにお伝えしなければならないことが……」
「?」
 振り返ると、顎に指をかけて難しい表情で思案する悟理の姿があった。
 ややあって、おもむろに悟理の首が横に振られる。
「いえ……すみません。やっぱりパーティがこんな大変な時に言うべきことではありませんわ。忘れてください」
 迷いを振りきった顔になって、いつもの通りに悟理は一礼した。
「私もお話しできて楽しかったです。ありがとうございます火蛇さん。お休みなさい」
「あ、あぁ。お休み」
 それぞれの個室へと戻り、火蛇はそのままボールの寝床へと入り込む。
 悟理が最後に何を言おうとしたのかが気にかかったが、聡明な彼女が言うべきでないと判断したことなら、火蛇が思い悩むようなことでもないのだろう。
 そんなことより、またひとつ、誓いを交わした。
 この誓い、明日こそは果たさねば――――
 使命感を強く抱いて、そっと火蛇は瞳を閉じた。

~4月19日・土曜日~ 


 蒼い四肢を構え、頭から尻尾まで背中全体を覆う黄金のタテガミを逆立てて、メガシンカしたライボルトが咆哮する。雷鳴の如き威嚇が、火蛇と悟理を激しく萎縮させた。
 だが元より猫騙しや威嚇などから夕太刀と鍋鶴を守るために、悟理たちが先発を請け負っているのである。この萎縮はティユの計算のうちだった。
 問題なのは、相手が火蛇も夕太刀も共に苦手な電気ポケモンであり、しかもメガシンカしたことでゲッコウガ以上の機動力を得たメガライボルトだということだ。実は鍋鶴も電気を苦手とするため、一網打尽にされる恐れがある。ボルトチェンジで入れ替わる度に連続で威嚇などされたらますます手が付けられない。速攻で沈黙させる必要があった。
 ライボルトの相方は、どっしりとしたぬめぬめの身体にクリクリと愛嬌のある顔立ちのヌメルゴン。豊富な技レパートリーとタフな耐久を誇るドラゴンポケモンだ。何をしてくるかは読みきれないが、今はまずライボルトを倒すことに専念しなければ。
 威嚇から戦闘姿勢に移る、その一瞬を狙って悟理が飛び込んだ。猫騙しの柏手が、音を立てて炸裂する。
 怯んで動きを止めたメガライボルト自慢の剛脚に、間髪入れず火蛇の投擲した岩片が突き刺さった。
 岩石封じ、成功。メガライボルトはしばらくまともには動けない。
 だが攻撃を決めた2頭に、湿度を含んだ轟音が迫る。
 振り返った火蛇が目にしたのは、こちらへと迫るドス黒く濁った水撃だった。
 ヌメルゴンが全身から放つ湿気を濁流に変えて放ったのだ。携えた命の珠から生命力を練り込んで、怒濤に更なる勢いが加わり逆巻いた。
「ぐ……ぱぁっ!?」
 荒ぶる波が火蛇の身体を冷たくさらう。ざらついた飛沫が顔にかかって目や鼻を浸食する。鱗にねっとりと粘りつく成分など詮索もしたくない。
 重苦しい水を掻き分けてもがく火蛇の耳に、カチリ、と硬く弾ける音が届く。
 ハッと振り向くと、視界を遮る飛沫の中にボールへと戻っていく閃光が見えた。今鳴り響いた音は、悟理が持っていた脱出ボタンが相手の攻撃に反応して発動した音。濁流は火蛇だけでなく、悟理も襲っていたのだ。
 きた…………!!
 心の中で火蛇は快哉を叫ぶ。
 悟理と入れ替わって、夕太刀がその鋭角な体躯を現した。
 遂に夕太刀と火蛇が、フィールド上に肩を並べたのである。
 メガライボルトは岩石封じに足を取られて動けない。ヌメルゴン程度の反応速度では、夕太刀が技を放つまでには間に合うまい。エブルモン・アルカンシェル発動への、千載一遇のチャンスが訪れたのだ。
 既に夕太刀は発射態勢に入っている。後はただ、彼女の技とひとつになって、満を持した必殺技をメガライボルトめがけて解き放つだけ。その圧倒的な威力に、メガライボルトは何もできないまま退場することになるだろう。その後ヌメルゴンの攻撃で火蛇がどうなろうと、後続の鍋鶴が役目を受け継ぎ、エブルモン・アルカンシェルは完成する――!!
 濁流が染み着いた眼を拭う。
 関係ねぇ。
 例え多少視界を奪われていようが、夕太刀が託す誓いを見失いなどしてたまるものか!!
「行くぞ、火蛇!」
「おう!!」
 絶対にここで決めてみせるとばかりに勢いよく翼を広げ、夕太刀の技に備えた火蛇の頬を、

 軽い、ほんの小さな衝撃が震わせた。

「が……っ!?」
 茫然と見開いた眼で、火蛇は濁った視界を通り過ぎていったものを見る。
 先端の丸まった、淡い紫色のそれは、長く、とても長く、ヌメルゴンの後頭部から伸ばされた触角だった。
 まさか、あんな遠くから一瞬でここまで。
 それも、濁流で視界の狭まった火蛇の死角を突いて。
 フェイント。
 命を込めているとはいえ、威力など微々たるもの。それでも、濁流に浸食されながらギリギリで踏みとどまっていた火蛇の意識を吹き飛ばすのには、その一撃だけで充分だった。
「そん、な……バカな…………っ!?」
 ここまできた、のに。
 もう少しで、目指してきたコンボに手が届くところだったのに。
 伸ばしかけた鉤爪が虚しく宙を掻く。その先で振り返った夕太刀の蒼い姿が滲んで、見えなくなる。
「火蛇ぁぁぁぁぁぁっ!!」
 ティユの悲痛な叫びが響き渡る。距離的には近付いているはずなのに、何だかどんどん遠ざかっていくような錯覚を感じた。
「く……おのれぇっ!!」
 結ぶ相手を失った技を、独りでメガライボルトに叩き付ける夕太刀。だが威嚇で威力の下がっていた猫騙しと岩石封じが与えたダメージに、単体でのこの技を加えたところでメガライボルトを撃退するには遠く至らない。
 岩石封じの拘束を吹き飛ばした反撃のボルトチェンジが夕太刀を灼く光景を、火蛇はボールの中から虚しく開かれたままの瞳で見つめていた。

 ▽

 この日、ティユ隊は10戦をこなし終え、そのうち3戦を勝利で飾っていた。
 勝ち星の内容はいずれも、先に火蛇が集中攻撃で撃墜された後、夕太刀と鍋鶴で強引に押しきってのものだった。
 そうなりやすい理由もまた、昨日と同じ理屈で説明が付けられる。単純な能力差の問題ではないのだ。
 晴れパーティと誤認される、ということは、実際には照りつけることのない強い日差しを当て込んで火力上昇や水技弱体化を狙いにくる炎ポケモンを呼びやすい、ということでもあった。そして夕太刀も鍋鶴も、炎ポケモンには滅法強いのだ。
 つまり火蛇は、後続に有利な相手を呼び込む囮として、勝利に貢献できたわけである。
 とはいえ、相手が晴れパーティ対策として他の天候操作ポケモンを出してきた時、特にニョロトノで雨を降らせてきた時などは逆に窮地に陥っている。雨で機動力が増すすいすいポケモンや、苦手な雷の精度が向上するなど不利になる点が多いからだ。一応水や電気への対抗手段しては生垣がいるが、雨パーティなら当然草ポケモンへの対策もしっかりと用意してきている。生垣だけでは対応するにも限界があった。
 そもそも火蛇が囮としてしか役に立てていないこと自体も大問題である。敗戦も含めて、いまだにコンボはただの一度も成功せず。エブルモン・アルカンシェルの完成を目標とするティユ隊にとっては、全敗にも等しい結果なのだ。
 思いきって、夕太刀と火蛇を先発から出して強引にコンボに持ち込むという手も試してみた。もちろん、相手が夕太刀から先手を取れそうなポケモンを出してこないだろうと予測した場面で実行したのだが、そんな時に限ってこだわりスカーフを巻き付けた洗濯機(ウォッシュロトム)がいきなり放電してくる始末である。こういう奇襲に備えるために先発要員の役目が重要なのだと改めて思い知らされた結果になった。
 威嚇ポケモンがいない時を狙って、悟理&夕太刀の組み合わせで先発させたこともある。ファイアローや頑丈な岩・地面ポケモンなどの対策に効果は認められたものの、悟理が無視される傾向は変わらず、結局火蛇を待てずに夕太刀から墜とされてしまった。ゲッコウガはゲッコウガでマークされやすいポケモンなのだ。
 悟理に代わる有力な先発要員、トリックルーム、雨パーティへの対策。敗北のひとつひとつが新たな課題を生んでいく。無駄にはなっていないにしろ、ティユの苦悩もまた増えていく一方だった。火蛇たちとしては、一刻も早く前向きな答えを示してあげたいところなのだが……。
 敗戦を重ねるうちに、客席から漏れ聞こえてくるようになった野次や罵声の類もまた、ティユの心労を増やす一因となっていた。技の軽さからヨガパワーがないと判るチャーレムと、妙に打たれ弱い上にロトムやニドキングにも先手を取られる鈍重なリザードン。*8見るからに能力不足のポケモン2体から始める、何をしたいのかも分からない消極的な試合運び。見ている側からすればさぞ滑稽に映ることだろう。
 終いには、
「今時メガシンカもしないようなリザードンなんて、旅のお供に空を飛んでりゃいいんだよ!」
 などという野次まで聞こえてきた。まさか火蛇が旅組上がりだと見抜いて言ったわけでもないとは思うが。
 こういった声に対し、影狼や鍋鶴などは牙を剥いて激怒していたが、他の4頭はみな甘んじて罵倒を受け入れ、あるいは黙して聞き流していた。言い返しても意味はない。挫けている余裕もない。いずれ結果で応えればいい。
 ただ、罵声により傷付けられていくティユの心が、何よりも気掛かりなことだった。

 ▽

「だっせぇ! 雑用のポケモンをそのまんま大会に出してんじゃねぇよ! 試合を舐めてんじゃないのか!?」
 またろくでもない雑音が聞こえやがる。何を言われようが構わんが、俺はそのまんま出てきたわけじゃ断じて――
 ぼやけた意識で抗議しかけたところで、今日の自分たちの試合はとっくにすべて終わっていることを火蛇は思い出した。
 モンスターボールに入れられて、ティユに運ばれて調整ルームへ向かう途中で軽くうたた寝していたらしい。もちろん、聞こえてきた野次はこちらに向けたものではなかった。どうやら、会場の廊下に設置されたモニターで中継されている試合のことを話題にしていたようだ。
 見れば1頭のゲッコウガが、足下から沸き上がった水流の波に乗って相手のクロバットとローブシンに攻撃を仕掛けている場面であった。
「あのゲッコウガの相方は、もう墜とされたのか?」
「いいえ、上よ。ファイアローは上空を飛んでいるところ」
 火蛇の疑問に、試合を初めから見ていたらしいティユが答えた。
「へぇ、仲間の波乗りの余波を空に飛んで避けたってわけか。コンボのつもりかねぇ」
「だろうな。だが、空を飛ぶ直前にクロバットに毒々を注がれた。永くは保つまいよ」
 隣のボールで観戦していた夕太刀の説明に、思わず火蛇は眼を剥いた。
「……ファイアローの飛行技より、クロバットの方が早く?」
「そういうことだ。クロバットの方が何か特殊なことをした様子はなかった。間違いなく、ファイアローは炎の体だな」
「さっきの野次はそういうことかよ……」
 状況を把握して、火蛇は納得した。
 試合で使われるファイアローの多くは、飛行技を電光石火の速度で放つ疾風の翼を特性に持っている。普通の技では、ファイアローの飛行技には先制できないはずなのだ。ただの毒々に先制を受けたということは、そのファイアローの特性は疾風の翼ではなく、旅用のパーティで頻繁に見かける炎の体だということになる。
「ファイアローだけではない。ゲッコウガの方もだ。波乗りを放った時の様子からして、奴は……」
 夕太刀の言葉の意味は、ほどなく知れた。
 波乗りを余裕で受けきったローブシンは、飛沫を貫いてドレインパンチを奮う。その一撃を効果抜群に受けて、ゲッコウガは呆気なく倒された。波乗りを使った直後のゲッコウガが、格闘技で弱点を突かれて。
「……なるほど、ありゃ旅向けの一般ポケだわ。俺以外にも大会に出てくる旅ポケモンっているもんなんだなぁ」
 しかもパーティ単位で。技構成まで移動用のものばかりときた。
 どんな奴を大会に出そうが文句を言える立場にゃねぇが、せめて技ぐらい試合向けに揃えてやれよ――――
 言い掛けた言葉を、けれど火蛇は吐き出せなかった。
 いつも連れ歩いている仲間と、いつも使っている技で。
 トレーナーがそんな拘りで彼らを大会に送り出したのなら、そしてそのために一所懸命考えたコンボを、敵わないながらも披露して魅せているのだとしたら。
 果たして、何を嘲笑えるのか?
 手違いで弱メンバーになって、結局何もできていない自分たちが、彼らの何を嘲笑えるというのだろうか?
「ちくしょう、楽しそうに戦ってやがるなぁ……」
 上空からの攻撃をローブシンの見切りで防がれ、悔しそうに笑うファイアローの表情に、つい羨望を抱いてしまう火蛇なのであった。

 ▽

 モニターの前を離れ、対戦の喧噪に沸く区画から抜け出る。
 物々しい警備に守られたゲート前を渡り、調整ルームへと続く静かな通路に足音を向けかけた時だった。
「待って! 一体どうする気なのよ!?」
「だってこれ以上、放っておけないだろ!」
 静寂を破る言い争いの声が、門の外から風に乗って届く。
「え……、今の声って、まさか?」
 表情を変えて声の方を眺めるティユ。ボールの中のポケモンたちも、聞き覚えのある声に顔を見合わせる。
 窓からの景色に遠く見えた姿は、燃える篝火を頭上に焚いたゴウカザルと、その腕に涼やかな白い袖を絡めて引き留めようとしているユキメノコ。
 驚きに息を飲んだ火蛇の耳を、ゴウカザルの叫ぶ言葉が貫いた。
「せっかくきてくれた火蛇さんが、このまま慰み者にされていてもいいのかよ!?」
 ……完全に晴間じゃねぇか。後ろのユキメノコも間違いなく六花(リッカ)だ。オーナーの本拠に残っているはずだが、どうしてここに!?
 いや、そんなことより、俺が慰み者って何の話だ!? 無様に負け続けていることに対するトレーナー批判か!? 前任者としてどれだけ歯痒い思いをさせちまってんのか俺には想像もつかんが、言い方に気を配れよ。外で大声で騒ぐなんて、ティユさんに聞こえちまったじゃねぇか!! 俺は負けて辱められることなんか最初から覚悟の上で、この大会に臨んでいるってのに…………
「やっぱり、晴間と六花!? 貴方たちどうして……!?」
 ボール内で火蛇が気を揉んでいることも知らず、ティユは慌てて門の外に駆け出そうとした。が、途端にピィィッ! と警笛が吠えて行く手を阻む。
「通してください、あの仔たちは私の……!」
「駄目ですよ、大会に参加しているポケモンを連れ出すのは! 外に出るなら手持ちを調整ルームに入れてからにしなさい!!」
「あ…………」
 大会規定に則った指摘を受けて我に返ると、ティユは一歩退いて警備員たちにすみません、と頭を下げた後、冠者たちを外に出し、夕太刀に自らのトレーナーカードと彼ら自身のボールを持たせた。
「ごめん、皆は調整ルームに行ってて。私はあの仔たちの様子を見てくるから」
 そう言い残し、ティユは警備の間を通って門の外へと飛び出していく。本来調整ルームへの入室には管理するトレーナーの認証が必要なのだが、その場にいた警備員たちが話の分かる人で、調整ルーム前の監視員に無線で連絡して、火蛇たちを入室させてくれるように手配してくれた。厳しい規律に見えて、結構融通も利くようである。
「あの、火蛇さん! 話を……!!」
 背後から晴間の呼び掛ける声がしたが、火蛇は返事も振り向きすらもせず無視して応えた。大会参加中のポケモンと外部のポケモンの接触は完全に御法度である。ティユの型紙破りをここまで看過してくれた警備員たちに、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
 それに、今はまだ晴間に見せる顔なんかない。
 六花にも誓ったはず。晴間と話し合うのは、大会で結果を出してからだ、と。

 ▽

 仲間と一緒に調整ルームに入ってしばらく待った後、火蛇は独りで個室を抜け出して、トレーナーとの打ち合わせに使うミーティングルームを覗いてみた。
 部屋に灯りは点いていなかったが、尻尾の火で中を照らすと、椅子に座っていた緑色のジャケットが振り向いた。
「起きてたの、火蛇」
「あ、あぁ。それで……晴間たちは?」
「うん。オーナーが連れてきてたんだって。魔月や舵歌さんたちもきてるそうよ」
「うへぇ……」
 試合での醜態をみんなに見られてたのかよ。そりゃ後が怖ぇわ。ったくあのおっさん、やるべきこともしないくせして余計なことはしやがるとか、どんだけトラブルの種を蒔けば気が済むんだ……と火蛇は内心で毒づいた。昨日お星さまにしたはずのオーナーがピンピンしている件については気にしたら負けである。スーパー何とか人とはそういうものだ。
「何か、俺の名前が出てたように聞こえたけど……?」
 恐る恐る、さりげなさを装って聞いてみると、ティユは眼を伏せて力なくうなだれる。
「詳しくは、教えてくれなかったわ。ただ、『試合や大会とは関係ない件だから、ティユは気にしなくていい』って、それだけ。ロンから貴方を預かっている身として気にしないわけにはいかない、って言ったんだけど、2頭とも何も言ってくれなくって……」
 そう誤魔化したってわけか、と火蛇は納得した。しかし、試合でボコボコに惨敗している以外の件で火蛇が慰み者になっているだなんて、言い訳にしてもいささか苦しいんじゃないか、とも思ったが。少なくとも火蛇自身にそんな心当たりは全然まったくない。もしあるとしたら、木曜日の夜に夕太刀からフェラチオを受けている火蛇を睨んでいたあの視線ぐらいだが、あれは晴間の仕業ではないとでもいうのだろうか。
 疑念は尽きなかったが、ともかく今はティユのため、口裏を合わせておくとしよう。
「何のことかはわからねぇが、気にするなっつってんだから気にしなくってもいいんだろうな。ま、大会が終わったら俺が直接晴間に聞いとくわ」
「うん、お願いね……」
 心ここにあらずとでもいう風に気のない返事で応えるティユ。備え付けのフリードリンク器からホットの紅茶をアクリルコップに注ぎひと口呷る。フゥ……ッと真っ白な息吹を闇の中に放つと、振り向きもせずに火蛇に問いかけた。
「……ねぇ、火蛇。私ってダメなトレーナーかな?」
「唐突に何だ!? 訳が分からんぞ」
 自暴自棄気味に吐き出された台詞に戸惑う火蛇だったが、ふと表情を強ばらせて問い返す。
「おい、まさか晴間にそんなことを言われたんじゃねぇだろうな!?」
 返答いかんによっては、大会後の話し合いは肉体言語を駆使したものになるだろうと覚悟を決めねばならないところだったが、ティユは静かにかぶりを振った。
「ううん、そうじゃないの。言われたのは、今日対戦したトレーナーさんによ。といっても、直接そんな悪口を言われたんじゃないんだけどね。ほら、メガライボルトを出してきた人がいたでしょう?」
「あぁ、相方のヌメルゴンのフェイントで、俺がコンボの直前に墜とされた試合か。あん時は惜しかったなぁ。そいつらのトレーナーさんに会ったのか?」
「うん、試合のすぐ後に、ね」
 あの試合の直後といえば、火蛇はあまりに衝撃的な敗北を喫したショックで放心状態にあったために記憶がしばらく抜け落ちていた。その間に起こった出来事らしい。
「夕太刀があの技を使った後に鍋鶴とも戦ったからね。私の戦法に気付いちゃったみたいでさ。……『何をしようとしていたのかは分かったけど――』」
 声色を変えて相手の言葉を綴り、ふと苦い表情を浮かべたティユは紅茶をまたひと口だけ傾け、重々しく続けた。
「『君のポケモンたちなら、そんな難しいコンボを無理に狙うより、普通に戦わせた方が勝てるんじゃないか』って、アドバイスされちゃった……」
「そりゃまた、痛いところ突かれたな。ハハハ……」
 火蛇としても、これは苦笑いするしかない。
 そんなこたぁねぇだろ、と否定することはできなかった。ここまでの戦績を公平な目で分析すれば、当然出てくる結論だからだ。
 前述の通り、火蛇は囮としてなら活躍できている。岩石封じだけでなく、例えば鬼火など後続に繋げられるサポート技を覚えさせた方が有効に戦えるだろうし、コンボのことを考えなければ水や電気への対策もずっとしっかりしたものが簡単にできるはずだ。エブルモン・アルカンシェルへの拘りが、選択肢を減らしている。ティユ隊の抱えている最大級のジレンマがそれであった。
「本当に、私は一体何をやってるんだろうな、って思えてきちゃった。大切な仲間だった晴間も六花も切り捨てて、貴方や悟理に無理をさせて、ロンにまで迷惑をかけて……」
 机の上に肘を突き、立てた腕の上に額を乗せて、ティユは苦渋に満ちた声を震わせる。
「この2日間戦って出した結論を、エブルモン・アルカンシェル完成に向けてまとめるとね、影狼と生垣を、他のポケモンに変えた方がいい、ってことになるの。後継のポケモンも、もう候補は挙がってる。私、また仲間を切り捨てようとしてる……!」
 短い黒髪が、闇の中で激しく振り乱される。語る言葉も、聞き取るのが困難なほど滅茶苦茶に壊れていた。
「本当に……これでいいのかなぁ? いっそのこと、エブルモン・アルカンシェルなんかもう諦めちゃって、今いる仲間でできることを考えていけば、ずっとみんなと戦っていけるのかも。今日の帰りに、旅用のパーティで頑張ってるトレーナーさんがいたでしょ? あの楽しそうに戦っている様子を見たら、尚更そんなふうに思えてきちゃった…………」
 組んでいた腕が崩れ、机に顔を沈めるティユ。
 その後ろで、火の粉混じりの溜息が深々と吐かれた。
「なぁるほど。それもまた、大会で得たひとつの結論だわなぁ」
 やれやれ、世話の焼けるこった、といった感じの呆れた声がティユの背中にかかる
 火蛇の眼に、今のティユは帰り道が分からなくなって途方に暮れている迷子のように映っていた。
 もっとも、迷わせたのは火蛇たちの至らなさが原因だ。責任を持って手を引いてあげなくては。
「いいんじゃね? あのトレーナーさんにならって、仲良し同士だけでいつまでも楽しく戦うってのも。勝ち負けなか度外視してさ。『普通に戦わせた方が勝てる』かどうかなんて、もう考えなくてもいいもんな」
「…………え?」
 突き放すような、火蛇の言葉に。
 何か重大な齟齬を感じて、ティユは顔を上げた。
 おかしい。自分は何かを踏み違えている。
 だって、コンボを目指していたら勝てないところから、この悩みは始まっているはずで。
 なのに、コンボを諦めたら、もう勝ち負けを考えなくてもいいなんて。
「あ、あれ? ええっと…………?」
 混乱してひたすら首を捻るティユの様子に、クックックと火蛇は含み笑いを漏らした。
「気付いたか? ティユさんは全然違う話をごちゃ混ぜにしちまってる。出だしと結論が繋がってねぇんだよ。コンボを捨ててまで勝利に拘りたいなら、それこそ夕太刀や鍋鶴すらお役御免だ。あいつらこそこのコンボのために選ばれた奴らだろ。型が異端過ぎて、他の戦法に変えるぐらいならメンバー丸ごと入れ替えるしかねぇよ」
 メガライボルトのトレーナーから受けたアドバイスは、あくまで『君のポケモンたちなら――』つまり、ティユが今の面子を変えないで戦い続けることを前提としたものである。コンボのためにパーティ構成から厳選中であるティユ側の事情には、最初の前提から不適合なのだ。
 火蛇は続ける。
「反対に、いつまでもこのメンバーでやっていたいなら、そもそもコンボを諦める必要なんかねぇし、コンボのために研究を進める必要もねぇ。大会が終わったら晴間たちを戻して、前大会と大差ない面子のままずっと何の進歩もなく、運良く決められる時を待ちながらコンボを狙っていればいい。そんだけの話じゃねぇか」
「うん……」
「『うん』じゃねぇだろ!?」
 バンッ! と、鉤爪で強く机を叩く。
 ハッと振り向いて褐色の顔を向けたティユに、火蛇は鋭い表情で言葉を投げかけた。
「どっちも違ってんじゃねぇか!? 仲間を入れ替えてまでコンボに拘ってきたのも、それで勝てないからどうしたらいいか分かんなくなって迷ってんのも、本当はあくまでこのコンボで勝ちたいから、エブルモン・アルカンシェルで勝たなきゃ意味がないからって話だろうが! 違うのかよ!?」
 茫然と、ティユは竦み上がった。
 竦んだまま、静かに頷いていた。
 火蛇の言う通りだった。そのためにこそ、自分はここまで苦い思いに堪えながらも戦い続けてきたのだ。
 敗戦で自信を失う中、周囲のトレーナーの言葉や戦いぶりに触れて、自分自身が目指していたものまでも見失っていた。
 その忘れてかけていた夢が、火蛇が尻尾の灯りで指し示す向こうで、自分の帰りを待っている。
「さて、問題はこっからだ。そこまでしてティユさんがエブルモン・アルカンシェルを完成させたいって思った、その根っこは何なんだ? そこを聞かせてもらわなきゃ、相談された側としちゃこれ以上答えようがねぇなぁ」
 引いていた手を、そっと火蛇は離す。
 照らし出された夢への帰り道を、迷子は自分の足で進み始めた。
「……魔月たちと一緒に、カロス地方を巡っていた頃の話よ。立ち寄ったクノエシティで、私はトレーナー同士の野試合を観戦したの。一方はギャラドスとバンギラス、そしてもう一方がバシャーモとカメックスを出してのダブルバトル。ギャラドスが放った威嚇の咆哮とバンギラスが巻き起こした砂嵐を浴びながら、カメックスがまずバンギラスに猫騙し。その間に身を守ってギャラドスからの攻撃を防ぎつつ、特性で加速したバシャーモが続けてカメックスと一緒に放ったのが……そう、貴方たちも使っているあの技。エブルモン・アルカンシェルの前段階となる合体攻撃だったのよ」
 もつれた糸を端から解くように、追憶に想いを馳せてティユは語る。
「美しかった……2頭のポケモンの技が重なった瞬間、砂嵐で暗く霞がかっていた空がクッキリと華やかな色彩に染まって、まるで夢の楽園がこの世に現れたかのような幻想的な光景を作り上げたの。私はすっかり、その輝きに魅せられてしまったわ」
 彼方を見つめるエメラルドの瞳には、ミーティングルームの壁紙ではなく、遠き日の空に描かれた軌跡が浮かんでいるようだった。
「…………だけど、それはほんの一時の幻でしかなかった」
 不意に瞼が閉じられ、褐色の頬が険しく歪む。
「岩の身体を自らの砂嵐で包んで特殊防御力を上げていたバンギラスには、その技を浴びせても一撃で倒すには至らなかった。直後にバシャーモはギャラドスのアクアテールを受けて退場。その後の集中攻撃でカメックスも呆気なく……一緒に観戦していた人たちは口々に言っていたわ。『やっぱりあの合体技は使い物にならない』『あんなコンボなんかしないで、それぞれ別々に攻撃していれば勝てていたはず』って」
「まぁそりゃ、バンギ相手に加速シャモが負けてりゃ言われるわな。威嚇を食らっていたことを考慮しても、普通に格闘技で攻めてりゃ勝てただろ。その分カメックスがギャラを押さえられただろうしな」
「理屈は解ってるわよ。でも、私にはどうしても納得できなかった」
 再び開かれた双眸は、夢と闘志で碧く燃えていた。
 火蛇が知り合った頃からそのままの、ティユの眼差しだった。 
「ポケモンたちの絆を体現したようなあの技が、2頭で描き出したあの色彩が、役立たず扱いされて見向きもされないでいるなんて、私には我慢がならなかったの。どうにかしてあの技をうまく使う方法はないかって、色々な方法を試したものだわ。ロンにも手伝ってもらったわね」
「あぁ、そもそも俺が覚えさせられたのがその流れなのか。何だ、俺とっくの昔からこの件に関わってたんだな」
「そう言えばそうね。何だか不思議。あの頃の出来事が、今この瞬間の私たちに全部繋がってるんだ。技が築いた奇縁、ってところかな」
 心に絡んでいた糸が解けたように、張り詰めていた表情が綻ぶ。
「オーナーと出会ったのもその縁なのよ。合体技の活用方法を研究する者同士意気投合しちゃってね。彼から得たアイデアでエブルモン・アルカンシェルが生まれて、まだゲコガシラだった夕太刀と、モウカザルの晴間を委託させてもらって……本当に、みんなあの技が引き合わせてくれたんだね…………」
 戦法の立案にオーナーが関わっていたのか。結局あのおっさんがなんもかんも発端なんだな。良くも悪くも。
 口には出さず嘆息した火蛇の前で、ティユは決意の篭もった言葉を刻んだ。
「……だから私は、どんなことがあっても、あの光景の先を目指さなければいけないの。それが私の――〝誓い〟だから」
 そのために必要なら、仲間たちを切り捨てることになっても、どんな困難を乗り越えなければならなくても、辿り着きたい場所があったのだ、と。
 思い出した彼女の瞳からは、もう迷いの陰りは消え去っていた。
 それを確かめた火蛇はフッと小さく笑い、自分の言葉で応えを返す。
「……舵歌が例の技を破棄したとき、酷くガッカリしたもんだ。あんなに格好いい技だったのに、てな。あの技の先を見たいって気持ちなら、俺も同じだ。だから、いつまでも技を忘れることができなかったんだ」
 開いた鉤爪の中に、技と過ごしてきた日々を思い返して握り締め、火蛇はその拳をティユに差し出した。
「ティユさんがエブルモン・アルカンシェルを完成させることは、俺にとっての夢でもあるんだよ。明日大会が終わって俺がロン隊に戻った後もずっと、な。この先また迷い悩むことがあったら、ずっと後ろに、そこに至る道の上に応援している俺がいるって思い出してくれりゃいい」
 晴間や六花がどう思っているか、あるいはこの先切り捨てられるであろう影狼や生垣たちがどう思うか、本当のところは火蛇にはわからないけれど。
 もしティユが彼らを踏み台にしていくことに怨嗟の声が上がるとしても、自分は、自分だけはいつだってティユの夢の味方でいると、火蛇は伝えたかった。
 向けられた茜色の鉤爪に、たおやかな褐色の手が重ねられる。
「うん……ありがとう、火蛇」
 北の空で紡がれた誓いが、時を越えて繋がり一つの輪を成した。
「やっぱり私ってダメなトレーナーだね。教え導く相手のポケモンに、こんなにも導いてもらっちゃって」
 舌を出しておどけた言葉に、先程吐かれた自虐の響きはない。自分を支えてくれている友への、深い感謝だけが込められていた。
「恥じるこたぁねぇさ。俺は元々ロンさんから、教導戦のつもりでやってこいって言われてんだからよ」
 熱くなった頬を掻き、火蛇は長い首をしゃん、と伸ばして言った。
「負けまくったおかげで、レートもサッパリと下がってんだ。明日こそは絶対に決めてやろうぜ。俺たちのエブルモン・アルカンシェルを、な!」
「そうね。そのためにも、そろそろお休みなさい。私はもう、大丈夫だから……」
 すっかり吹っ切れた様子で、力強く微笑むティユ。
 もう少しだけ、この笑顔に触れていたい。そんな欲求に駆られた。

 けれど、その笑顔に応えるためにこそ、今甘えるわけにはいかない……!prism-Bへ!!


なかがき 

ご注意 

 僕こと狸吉オーナーは、不惑越えでありながら全然呑めませんので、酒盛りシーンは全部ネットで得た知識と想像で描いています。アルコール吸引は本当にヤバいらしいので、くれぐれも迂闊に真似をしないように。

バッジチェックゲート [#6prgu23] 

 作中で大会会場となる場所については、ミアレシティやキナンシティも候補にありましたが、折角ポケモンリーグという施設があるのに、チャンピオン戦にしか使わないのは勿体ない。でも、リーグ会場そのものを使うのでは敷居が高すぎると考え、多くの人が集まれるチャンピオンロード入り口に設定しました。

ロンシャン隊トリックルームパーティ 

 ロン隊はフレフワン&ニャオニクス♂を起点とするトリパで、こちらも実際に僕がYで使っていたパーティが元ネタです。
 が、本当はゾロアークは前大会で使った朧狼の流用ではなく、トリパ用に厳選した勇敢不意打ちゾロアーク♂〝朦狼(モウロウ)〟だったのを、ダブル・イリュージョンの話題も絡めるために朧狼に変更しています。そのせいでサードニクスには気の毒な目に遭って貰いましたw
 史上において代役だったのはギルガルドの十束の方で、デスカーンの死渡寝の代わりでした。トリパでギルガルドはそれほど使い勝手がいいとはいえず、トリックルームが終わった後の抑えに使うのが役目になっていました。メガ枠であるデンリュウの羅紗も竜の弱点を突かれることが多く、正直このパーティはキツかったです。現在では別のトリパを研究中です。

アバンセ通り辺りの草むらからヒョッコリ飛び出しそうなスッとぼけた顔 

 アバンセ通りといえばカロス地方2番道路のこと。
 その草むらにいるポケモンといえば、はい、ポッポのことですね♪
 ……なわけありませんw 露骨過ぎるジグザグマで重ね重ねごめんなさい。
 オーナーの服装は、僕自身が普段よく着ている服を元にしており、2015年10月の関西けもケット4にもこの格好で参加しています。大体いつも緑色です。トラベルウォッチはカシオのプロトレックPRWー1300という機種で、ダークグリーンのと白地にライトグリーンのと2つ持っています。時々ひとりで指を当ててメガシンカのポーズとか取ってみたりwww

試合内容 [#0vFOJth] 

 バトル描写に関してはほぼ全試合フィクションですが、技のダメージや行動順序は逐一計算サイトを使って計っています。割と無駄にこだわりましたw
 ただ、猫騙し持ちが無視されてリザードンが集中攻撃を浴びたり、日照りを当て込んだらしい炎ポケや葉緑素ポケが慌てて交代していったり、リザードン&ゲッコウガで先発した時に限ってスカーフ持ちに蹴散らされたりといった個々の出来事は実体験を元にしたものも多いです。
 勝敗戦績も、最終的な数字は最終章に記した通りですが、描いたほど前半と後半の成績が極端だったわけではありません。テーマであるコンボの内容から、〝挫折の雨を晴らす〟物語にしたかったためこのような構成となりました。

Destination~目的地~ 

 実は本作ではあるふたつのポケモン関連曲を隠しテーマソングにしています、どの曲なのかは最終章のあとがきに回しますが、それ以外にもう一曲、ティユが迷いから立ち直るシーンのモノローグ『仲間たちを切り捨てることになっても、どんな困難を乗り越えなければならなくても、辿り着きたい場所があったのだ』というのは、1999年のJRA競馬学校CMソング『Destination』の歌詞、♪何を犠牲に駆けてく 渇いた喉も気にせず 誰もまだ辿り着けない場所があるから~、をヒントにしたものです。
 JRAの人気騎手さんたち6人が歌っていた曲で、放映当時から大好きでした。ちょうど執筆がこの場面に差し掛かった頃に軽く行き詰まりまして、ふとこの曲を思い出して久し振りに聴いたら描き進められたのです。ところが、その直後にシンガーのひとりが自殺されたという悲報が……大変ショックでした。ご冥福を祈りますという他ありません。

空を飛ぶファイアローと波乗りゲッコウガ [#4nBVwFh] 

 旅ポケパーティーのバトルは是非描きたいシーンでした。
 僕のような失敗の尻拭いを旅ポケに押しつけたのではなく、敢えてサトシみたいに普段からの相棒で対戦することに拘っている人は尊敬に値します。


コメント帳 [#306Ps1e] 

・ティユ隊ダブルバトルパーティ一同「♪Glory days,Glory nights,夢を形にして 君しかできないこと Shiny days,Shiny nights,君の目覚めが いつか歴史になる~」

コメントはありません。 岩がなだれるコメント帳 ?

お名前:

歪んでいます……おかしい……何かが……物語のっ……


*1 調整ルームは競馬用語。ここで言っているのは要するにバトルボックスのロック。
*2 混乱を回復する実だからだが、モデルである柿にも二日酔い予防の効果が本当にある。
*3 本作にはモデルとなったインターネット大会があるが、物語の都合上、試合数や大会期間などのルールに変更を加えている。ちなみに実際には、一日20戦まで、余った試合数は翌日以降への繰り越し可、大会期間は金曜日の午前9時から月曜日の午前9時までの72時間。
*4 モデルとなったインターネット大会にも記念メダルは出たが、勝敗に関わらず1戦以上すればもらえる参加賞だった。物語上の都合のため脚色しているのであしからず。
*5 猫騙しとワイドガードは優先度が同じであるため、素早さが上なら猫騙しでワイドガードを止められる。
*6 65~78%程度。急所でも乱数1発。
*7 本来リザードンのS種族値は100だが、S個体値21の火蛇はS種族値95と同等。相手がS上昇性格だとS種族値82と同等となる。具体的には、ギャラドスまでなら相手が最速でも抜ける。
*8 火蛇のS実数値は147。ロトムは最速なら151、ニドキングは150。性格補正のないリザードンは最大で152のはずなので、耐久に振った様子がない割に彼らに抜かれる火蛇は能力不足を露呈してしまっている。

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Last-modified: 2016-02-27 (土) 00:18:32
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