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PHOENIX 8 ‐準備‐

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PHOENIX
作者 SKYLINE
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8話 準備

澄んだ蒼空。綿飴の様な雲。天空を旅する風。外はこんな感じだろうか。
それとも、灰色の空に冷たい雪、さらに突風か。
地下に居る私には外の様子は一切分からない……
私は雪の様に白い壁に囲まれた訓練室でナイトの指示通りに特訓を続けていた。
動体視力、運動能力、そういった物をとことん鍛えていく。
私を逃がす為に囮となり、囚われの身となってしまったリュウを救い、守られる側から守る側になる為に。
あの時の光景が目に浮かんでくる。怪我をしながらも私に一枚の紙を押し付けてきたリュウの姿。
あの時の私は貧弱で、それこそ一発のパンチでノックダウンさせられてしまう程だった。
しかし、私は変わると決心したのだ。貧弱な自分から強靭に自分に。
目標は二つ。リュウの救出とフェニックス計画の阻止。
少なくともこの二つを達成するまで、私は訓練をし続ける。
それが私の使命だと思うから……
今、ナイトは作戦会議を行っているらしいので、一人で黙々と訓練だ。
基本的な事は上達が嫌でも実感出来るのだが、一つだけ問題があった。
どうも新たな技の習得方法が分からないのだ。
現在覚えている火炎放射や、竜の息吹は気が付けば覚えていたのだが……
実際の戦闘では、基本的な運動能力や戦況を読みとる知能が大事だが、覚えている技の多さも隠し味だとナイトは言っていた。
種類が増えればそれだけ多種多様な相手と戦えるし、様々な戦術を取ることも出来る。
けれど、大事だと分かっていても何も覚える事が出来ないのが現状。
ナイトがどれだけの技を覚えているのかは知らないけれど、彼は一体どの様にして新たな技を習得しているのだろうか。
私は休憩中、技の事を考えていた。
休憩を取っている暇があるのならば、その時間を訓練につぎ込め……と、言われそうだが、ナイトが私に言ったのだ。
体を休める事も訓練の一環だと。
私はその言葉を信じ、こうやって今は休憩を取っているのだ。
休憩の最中、なんとなく部屋に置いてある少々小型のテレビを点けた。
黒かった画面が電気の流れる音と共に色を帯び、肉眼では分からない程小刻みに点滅する。
一、二、三……と、私はリモコンの上で三列に整列しているボタンを押していく。
世の中のニュースを報道していたり、ドキュメンタリーや意味不明なバラエティを放送していたり、各テレビ局が視聴率確保の為に奔走している。
国営放送を合わせて全部で九個ある放送局を順番に見たけれど、これといって興味をそそられる番組は無かった。
私はそっとベンチに上にリモコンを置こうとした。
……だが、誤ってリモコンを床に落としてしまった。不快な衝突音が部屋の中で乱反射し、私の耳を襲う。

(やっちゃった……)

私は頭に右翼を当てながら心の中で呟く。
床を見ると、リモコンはボタンが並んでいる面を下にして床に伏せており、電池を入れるカバーは半開きになっていた。
私はしゃがみ込み、半開きのカバーを元に戻すと、床に伏せているリモコンを手に取った。
そして一通りリモコンを見回す。
幸い、破損している箇所は無さそうだ。とりあえず一安心。
落ちた時にボタンが押されたのか、テレビのチャンネルは一、即ちアロヌス国営放送になっていた。
私はテレビを消す為に、電源ボタンを押そうとする。
だが、その瞬間、アナウンサーの言葉が私の動きを瞬間的に凍らせたのだった。

「次のニュースです。先程、軍が凶悪なテロリストのリーダーを拘束したと発表いたしました。テロリストのリーダーはリュウ=ドラグーンと言う名前で、今まで一般市民、軍の関係者問わず、数多くの人々を殺害し、軍から逃亡していました。
軍は既にこの男の処分を決定しており、一週間後にセンスリート中央広場で公開処刑にすると発表しています…………」

私は自分の目を疑った。アナウンサーはリュウの名前を確かに読み上げた。
リュウが……公開処刑?……それも一週間後に。
私はテレビを消すのも忘れ、部屋を飛び出した。
冷え込んでいる廊下に足音を響かせながら、私はナイトやグレン達が作戦会議を行っている会議室に向かって大急ぎで走る。
そして、会議室の扉をノックもせずに乱暴に開け、注がれる視線を気にする事無く私は叫んだ。

「みんな聞いてください!リュウが、リュウが一週間後に公開処刑に……!」

私の声を聞いた瞬間、会議室に集まっていた全員が目を見開いた。
そして、傭兵隊ブイズの隊員達は揃って声を上げ始める。

「なんだって!?」

「マジか!?」

「本当なの?」

隊員達が騒ぐ中で、ナイトは冷静な表情を保ったまま、素早く立ち上がると早足で私の元まで歩いて来た。
薄い灰色の壁で構成された部屋の中は依然、騒がしく、色々な言葉が飛び交っている。

「どこからその情報を?」

「ニュ、ニュースでやってたんです!」

「罠か……」

ナイトは直ぐに罠だと判断し、険しい表情で呟いた。彼の言っている事はほぼ間違いは無い。
軍は私を誘き寄せる為にリュウを公開処刑にするのだ。それぐらい私でも理解出来る。
問題はどうするかだ。
もちろん、私は罠だと分かっていてもリュウを救いたい。
けれど、軍の事だ。おそらく完璧な罠を仕掛けて私が現われるのを手薬煉ひいて待っているであろう。
はっきり言ってしまえば、リュウを助けに行くことは自殺行為。
もし、ブイズのみんなに協力してもらっても、その危険度の高さは変わらない。
最悪、私を含めた全員が抹殺されてしまい、リュウも処刑されてしまう。
罠だと分っていてリュウを救出しようなど私以外考えない筈だ。
明らかにリスクが高すぎる。
私は黙ったまま、ナイトの判断を待っていた。他の隊員達もナイトに視線を注ぎ、彼の判断をじっと待つ。
だが、重くなってしまっていた部屋の空気をグレンの言葉が吹き飛ばした。

「みんな、リュウさんを助けましょうよ!俺が出来る限りの情報を集めます!」

グレンが叫ぶように話すと、一瞬、部屋が静まり返る。
しかし、直ぐに沈黙は破られるのだった。

「もちろん!」

「賛成!」

「当たり前よ!」

「罠なんて関係なぇ!」

会議室に居る全員が次々と据わっている状態から立ち上がり、グレンに賛成の意を示す。
私はその光景に感極まってしまった。
みんな、私の為に見え見えの罠に挑んでくれるのだ。
最後にリーダーであるナイトが口を開き、その声を会議室に響かせる。

「あぁ、みんなの言う通りだ。グレンに軍の情報を流してもらえば救出出来る可能性はある筈だ」

全員の視線が私に注がれ、彼らの表情は決意に満ちていた。
なんだか目の下が自然と熱くなってくるのを感じる。
みんな、本当に良い人達だ。こんな私の為に命を掛けてリュウを救出してくれる。
私は一人一人の顔を順番に拝見し、ゆっくりと口を開いた。

「ありがとう」

これが今の私の気持ちだった。全くといって他の感情は無い。純粋にこの感情だけが私の中を埋め尽くす。
こうして、今まで練っていたリュウの救出作戦とはまた違う救出作戦を一から考え直して再度綿密な計画を立てる事になった。
リュウに共感して軍を裏切ったマグマラシのグレンは休暇が終る前に軍に戻らなければならないので、一端軍に戻り、そこから出来る限りの情報を引き出す事になった。
グレンは裏口を使ってこっそりとこのアジトから出ると、裏路地を一人で歩いて行く。
私はデイと一緒にグレンを見送り、彼の背中が見えなくなったところでアジトの中に戻って行った。
自分で言うのもなんだが、私は頭が悪いので作戦を立てるのはナイト達プロに任せよう。
余計な口出しは禁物だ。
私は地下へ続く階段を降りると、重い鉄の扉を開ける。
デイは私と違って作戦会議に参加するので、途中で別れた。
一人になった私は真っ直ぐな廊下を進み、訓練室の前に立つとゆっくりとドアノブを握り締める。
厳しい訓練を受けてきただけあって、ドアノブを掴む力が依然とは比べ物にならない程強くなっているのが実感出来た。
私は扉を開けて部屋の中に入ると、床に落ちたままのリモコンが真っ先に目に飛び込んでくる。
私はリモコンを拾い、今度は落とさない様にベンチの上に置くと訓練を再開した。
そして、今日も一日全てを訓練につぎ込み、私はまた、一段と強くなった(気がする)。
ここは地下だから外の様子は分らない。
だから壁に掛けてある時計だけが時間を知る為の唯一の物。
私がふと、時計を見た時、その長針は二を指し、短針は八を指していた。

「もう、こんな時間か」

私は自分以外の誰も居ない部屋で小さく呟く。
カチ、カチ、と時計の秒針が音を立て、止まる事の無い時を刻んで行く。
それはまるで時間の鼓動音。
太古の昔から一度も止まった事の無い時は今も進み続けている。
私も、時の様に進み続けよう。そうすれば、きっと……大好きなリュウにまた会える。
時計を眺めていた私の後ろから、扉を開く音がした。
振り返ると、そこには隊員の一人であるシャワーズが半開きの扉を支えながら立っている。

「夕食の準備が出来たから、来て」

「あ、はい。直ぐ行きます」

私は訓練で流した汗をタオルで綺麗に拭き取ると、部屋を後にした。








翌日、軍の秘密施設内にある牢屋では、看守が眠っているリュウを叩き起こしていた。
抵抗出来ないリュウの脇腹を蹴り、強引に夢の世界から引き戻す。
まだ午前四時だと言うのにだ。
暖房やストーブなどと言った高価な物が無い牢屋の気温はとても低く、寒さが苦手なリュウにはかなり厳しい。
さらに、生きる為に必要最低限な栄養だけしか与えられず、リュウはかなり衰弱していた。
瞼を持ち上げるのがやっとで、最近は声すら上げる事が難しい。
看守は中々立ち上がらないリュウを再び叩き、強引に立ち上がらせる。
まるで体の軸を失ってしまったかの様なリュウはふら付き、誰かの支えが無ければ立っているのもままならない。
看守は顔を顰め、床に崩れるリュウに舌打ちした。
そして、看守は牢屋を出ると支給されている毛布を体に纏い、その場に蹲る。
リュウは冷たい床にぐったりと横たわりながら、看守の姿を閉じかけている右目の瞳に写す。
もはや体力、気力の両方が極限に達していた。
だが、それも軍の狙い。
当日、万が一リュウの束縛が解かれてしまっても簡単には逃走出来ない様に弱らせておく。
軍にとってもこの公開処刑は一大作戦、決して抜かりがあってはならないのだ。
それから数時間、リュウは依然として冷たい床に横たわり続けていた。
もはや立ち上がる力すらリュウには残されていない。
今の状況を一言で表せば生き地獄だろう。
生きる事、死ぬ事、その全てにおいてリュウに決定権は無く、ただ、辛さに耐えるしかないのだ。
もし、リュウにグレンと言う希望が無ければ、おそらくこの状況に耐えられず、精神が崩壊していたかもしれない。

「あの、交代の時間です」

「あぁ、やっとか。後は頼むぜ」

牢屋の外から兵士達の会話がリュウの耳に入り込んで来る。リュウはうっすらと目を開けたまま、力なくその会話を聞いていた。
鼻から出る息は白く、前足や尻尾の先端は悴む。
リュウを寒さから身を守ってくれる物はこの牢屋に一切無い。
やがて、会話が聞えなくなると、今度はこちらに近付いてくる足音が聞え始める。
また、蹴ったり殴られたりするのだろうか。
リュウは通常の半分の視界に牢屋の鉄格子を入れ、耳にはだんだんと大きくなってくる足音を入れる。
だが、リュウは目を見開いた。
鉄格子の向こうに居るのはマグマラシのグレンだ。
リュウは彼の姿を見ると残っている力を振り絞り、冷たい床を這い蹲りながら鉄格子に近付いていく。

「リュウさん。動かない方が……」

グレンが心配そうな目でリュウをみながら彼に声を掛ける。
リュウは鉄格子の近くまでなんとか辿り着くと、マスクの付いた下顎を床にベッタリと付けて弱々しい声でグレンに話し掛ける。

「し、知らせてくれたか?」

「はい。フェザーさんは無事ですし、今、傭兵隊ブイズのみんなが貴方の救出作戦を立てています。だからあと少しの辛抱です。フェザーさんの為にも絶対に諦めないでください」

リュウはグレンの話を聞くと、苦しいながらも安堵の表情を浮かべた。
フェザーが無事なのが今のリュウにとっては一番嬉しい。
そして、グレンの言う通り、こんな自分を助ける為にフェザー達が努力しているのだから、決して諦めずに耐え抜こうとリュウは決意を固める。
グレンは安堵の表情を浮べているリュウを相変わらず心配そうな目で見つめていた。
最後にリュウと話した時に比べ、顔色は悪いし、明らかに衰弱している。
リュウに救いの手を今直ぐにでも差し出したい。
しかし、この鉄格子がそれを遮るのだ。
グレンはぐったりとして動かなくなってしまったリュウに声を掛ける。

「リュウさん。だ、大丈夫ですか?」

「……あぁ、大丈夫……だ」

耳を澄まさなければ聞こえない様な声でリュウは返事をした。
本人曰く、大丈夫といっているのだが、そうは思えない。
死の寸前まで衰弱させるなんて酷い。酷すぎる。
これではまるで生き地獄ではないか。グレンはそう思うと前足で鉄格子を握り締め、歯軋りする。

「リュウさん。もう、見ていられません!今直ぐにこの牢屋から出します!そして逃げましょう!」

グレンは鉄格子越しにリュウを見ながら、先程預かった鍵を腰に付けているポーチから取り出そうとした。
しかし、その動きをリュウの言葉が止める。

「ま、待て……今は駄目だ。前にも……言っただろ」

グレンは我に返り、鍵を取り出そうとしていた右前足を止めた。
そしてそっとリュウの顔を見る。
リュウは薄っすらと右目を開け、弱弱しい視線をグレンに送っていた。
グレンは手に持っていた鍵をポーチに戻すと、リュウに深く頭を下げる。

「すみません……でも、リュウさんのそんな姿、見ていられないんです」

「…………」

リュウはグレンに何も言わなかった。
いや、言わなかったのではない、言えなかったのだ。
体力の底がもう目と鼻の先まで迫っている今のリュウには声を出す事すらが困難だった。
グレンは目を閉じてぐったりしているリュウを見ながら、彼を助け出したい気持ちをグッと抑えて看守としての仕事を真っ当する。
時折リュウの姿を確認しては目を逸らし、交代の時間までグレンはその場でじっと佇み続けた。
しかし、グレンとリュウの会話は床の中に身を潜めているソウルに全て聞かれていた。
彼は黙って二人の話を聞き終えると、その場からゆっくりと姿を消す。
当然の事ながら、リュウもグレンも会話を聞かれていた事には気付いてはいないのであった……








リュウが公開処刑になると知ってから六日、いよいよ明日、リュウの救出作戦を実行する。
ナイトが全員を会議室に集め、全員の知恵を絞って考え出した作戦の説明を始めた。
数が少ないだけに一人一人の行動がとても重要だ。
誰か一人でもミスをしてしまえば、おそらく作戦は失敗してしまう。それほどリスクが高く、そして危険なのだ。
無論、私もこの救出作戦には参加する。
この時の為に私は今まで厳しい訓練を積み重ねてきた。リュウを救いたいと言う一心で。
一人一人違う作戦を受け、それを同時に、そして円滑に遂行する事が成功の鍵らしい。
傭兵隊ブイズの隊員一人一人が自分の受けた指令を綿密に確認する。それも何回もだ。
仲間との連携、仕掛けるタイミング、その全てにおいてミスは許されないので、彼等の中に混じって私も作戦の確認を繰り返す。
正直、何回作戦の確認を行っても足りないぐらいに私は緊張していた。
ブイズの隊員達はとても頼りになるし、実戦を何度も体験してきたプロだ。
けれど、私には実戦の経験も無ければ、力も彼等に比べて劣っている。
でも、みんなが口々に言ってくれるのだ。
“大丈夫”だと。
そして、時間は見る見る過ぎ去って行き、いつの間にか時計の長針は八を指していた。
私達は明日の作戦の成功を祈りながら、全員一緒に夕食を取る。
メニューは縁起を担いでカツカレー。
みんなは緊張に慣れているのだろうが、私は極度の緊張のせいでスプーンを持つ羽が震えてしまう。

「フェザー。大丈夫よ。私達はプロよ?それに、貴方だって強くなったんだから大丈夫。
きっと成功するわ。だから今日は一杯食べて、明日に備えなきゃ。でしょ?」

「はい」

私の隣に座っているデイが口にカレーを運びながら私の張り詰めていた緊張の糸を緩めてくれた。
私はデイの顔を見ながら大きく頷く。
そうだ、一人ではない。
私には、優しくて、頼りがいがあって、そして大切な仲間が居る。
みんなと協力すれば絶対に作戦は成功する筈だ。
私はカツカレーを食べている全員の顔を順番に見た後、スプーンを握る羽に力を込め、白米の丘にスプーンを差し込んだ。
夕食を食べ終えると、作戦の最終確認だ。
ナイトが整列している隊員一人一人に任務を確認させる。その中には例外無く私も入っていた。
ナイトに尋ねられた私は、自らの頭の中にしっかりと記憶されている作戦内容を答え、ナイトの目を見る。
彼は一度頷くと、直ぐに次の人の確認を始めた。
どうやら間違いは無かった様だ。
全員の作戦を確認し終えると、最後にナイトが全員に渇を入れる。

「いいか、プレッシャーを掛けるつもりは無いが、ミスは決して許さない。……分かったな?」

「あぁ!」

「了解だぜ!」

「はい!」

隊員達が一斉に声を上げ、私も彼等に負けじと大声を上げる。
綺麗な声が自慢のハミングポケモン?そんなプライドは疾うに捨てた。
作戦会議が終えると、やる気に満ちた隊員達と話をしながら廊下を歩き、ナイトが私の為に用意してくれた部屋に向かう。
隊員達におやすみと言って別れた後、私は部屋の前でドアノブを握ろうとしていた。
と、その時だ。後ろからデイが私に話し掛けてきた。
私が振り向くと、そこにはデイとナイトの二人が居る。

「明日は……頑張ってね。私はこのアジトからフェザーに無線で声を掛ける事しか出来ないけど、全力でフェザーをサポートする。もし、判断に迷ったら直ぐに私に連絡を入れてね」

「はい。ありがとうございます!」

私が頭を下げてお礼を言うと、彼女の表情は和らいだ。
そして、後ろに居るナイトも普段はあまり笑わない……と、言うより、今まで一度も笑った所を見たことが無いのだけれど……僅かに表情が和らいでいた。

「おやすみ」

「おやすみなさい!」

ナイトとデイが二人揃って私にそう言うと、二人は並んで自室に戻って行った。
私は二人の背中をしばし眺めてから扉を開けて部屋に入った。
真っ暗な部屋の電気を付けると、数回の点滅を経て白光が室内を照らす。
私は、今まで一度も外した事が無い桜のコサージュを鶏冠から外すと、小さなテーブルの上にそっと置いた。
そしてそれをしばし眺める。
眺めていると、別れ際に見たリュウの横顔がぼんやりと頭の中に浮かんで来た。

(リュウ……明日、絶対に助けるから。待ってて)

届かないのは分かっているけれど、私はリュウに対してメッセージを送る。
そして、部屋を暗くしてベッドに横になると、静かに目を閉じた。
リュウを助けられると信じながら……








九話に続きます。


PHOENIX 9 ‐救出‐


あとがき
え~と、予告しておいたにも拘らず、作戦準備の段階で終ってしまった事は謝罪します。
すみませんでした。
誠に勝手ながら、作者の都合によりこれからは一話の長さをこの位にしていきたいと思っております。
今までの長さが丁度良かった方には申し訳ございません。
さて、次回こそは救出作戦が実行しますので、読んでいただけると幸いです。

つまらない駄文を読んで頂きありがとうございました。
差し支えなければ誤字、脱字の指摘や感想などを頂きたいです。




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Last-modified: 2010-02-04 (木) 00:00:00
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