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PHOENIX 25 ‐決戦‐

/PHOENIX 25 ‐決戦‐

PHOENIX
作者 SKYLINE
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※本話には流血表現が含まれております。苦手な方はご注意ください。

25話 決戦

準備は万端だ。
後は、出撃してフェニックス計画を阻止すれば、私達の戦いは……終る。
そうすれば平和な日常に戻れるであろう。
そう自分に言い聞かせながら、私はアジトの出入り口に立っていた。
町中をゆっくりと吹き抜ける風はまるで私達の背中を押してくれているようにすら感じる。
季節上、普段なら寒気しかもたらさない風が、こんなにも優しく感じたのは初めてだった。
隣にはリュウやグレンが居て、さらにその後ろには協力してくれている暴力団の皆も居る。
数十名が一度に集まり、それが小さな物置の前で整列しているのだから、周囲の人達から見れば物々しい光景なのだろう。
元々あまり人通りは無いようだが、通り掛る町民はその殆どが血相を換えて逃げるように去って行く。
私達が命掛けで守ろうとしている対象が血相を変えて逃げていくのは何かと妙な気分になるのだが、何も知らない町民からすればこの異様とも言える光景は恐ろしく感じるのだろう。
立場が逆ならば、私だって町民達のように早足で逃げるだろうし。
そう思えば十分に理解できる。
……時刻は昼頃。
太陽は私達の真上にあり、優しくも逞しいその陽光で地上を隅々まで照らし出していた。
雲一つ無いその空はとても澄んでいて、その鮮やか過ぎる青は遥か彼方まで広がっている。
整列した私達の先頭には私やリュウと同じように耳に小型の無線機を装着し、体には必要な道具が入ったポーチを着けたナイトがこちらを向いていて、彼の黒毛に覆われた四本の足はしっかりと大地を踏み締めていた。

「全員作戦通りの時刻に落ち合おう……散開!!」

ナイトが珍しく大声で叫ぶように言い放ったその言葉を聞いた途端に私やリュウ、それにナイトやグレン以外の皆は一斉にナイトが言った指示に従って散開していった。
最後まで、この出入り口に残っていた私達は四人で円を描くように並び、互いに顔を合わせて無言でゆっくりと、そして深く頷く。
これからは本当に一瞬の気の緩みが命取りとなる……集中しないと。
それでも緊張からか、心臓の鼓動が何時もより速く妙に頭に響いてくる。
そんな緊張感と葛藤していると、頷き終わったナイトがふと前足を私達の前に差し出してきた。
一瞬何かと思ったが、それに逸早く反応して彼の前足の上に自分の前足を重ねたグレンのその行動で直ぐに理解が出来た。
そう、彼は最も重要な役割を担っている私達で最後に締めを行おうと考えていたのだ。
普段は冷静沈着で、こういった事はあまりしないようなイメージがあるナイトであったが、さすがは私達を統率する隊長。
率先してこのような士気を高める事を行ってくれる。
グレンの上に前足を重ねたリュウの上に私は戸惑い無くそっと添えるように翼を置き、四人が合わさった。

「……行くぞ!!」

「了解です!」

「了解!」

「……はい!」

ナイトの掛け声の下で、それぞれが気合の入った返事をして私達は大地を蹴り、勢いよく駆け出した。
声を上げた時の皆の顔は決意に満ちており、理由はどうあれそれぞれが決意を固めていたのだろう。
当然の事ながら私も皆に負けないくらい決意は固いものだ。
そして、その決意を固めている最も大きな要因、……それは今は亡きフィンであった。
なにせ彼が私達の為に囮になってくれたのだから。
集団での移動は発見される可能性が高いので、このように小さなグループに分かれて移動を行うのが常識。
暴力団を仲間に加えたとしても、やはり軍に比べるとこちらは小数なので奇襲攻撃でもしない限り勝算は無に等しく、こちらの動きが察知されて応援でも呼ばれたらもはや撤退する以外に選択肢はなくなる。
当然、私達は奇襲を考えているので秘密施設の付近に集合するまでは見つからないようにするのが最優先。
ナイトに付いて行きながら通過する道の殆どが人目の少ない裏路地で、遠回りになっても何度も角を曲がりながら、蛇行していく。
裏路地なだけあって回りからは何一つと言って音がせず、聞える音は自分の立てる足音や、風切音だけ。
得に聞く音もないが、それでも私は周囲の音には気を配っていた。
勿論、それは気まぐれでは無い。
移動中にばったり軍人や警察官にでも出会ってしまったら不味いのでそうならない為にも足音などを逸早く察知する為だ。
けれど、用心に越した事はないのだが、偶に聞える微かな物音でも体がビクリと反応してしまうだけに少し疲れる。
けれど今は弱音など吐いていられない。
軍のくだらない計画を阻止出来るかは私達に掛かっているのだから集中しないと。
途中で何度か休憩を取りながらも、私達は再集合の予定時刻より若干だが速く集合地点に辿り着いた。
そこは軍の秘密施設から少し離れた森の中。
冬でも葉を付けている針葉樹が生い茂るここは、身を隠すにはうってつけの場所で軍の監視から上手く姿を隠してくれる。
時刻は既に夕方になっていたが、これも作戦通りだ。
後は全員がこの場に集まるのを待ち、集合出来たら奇襲攻撃を仕掛けるのみ。
作戦が成功してフェニックス計画を阻止できると信じていても、緊張はピークに達していた。
私は自分を落ち着かせようと、息を大きく吸いながら空を見上げる。
茜色に染まった空が葉の隙間から垣間見え、その滅多に拝めないような美しい茜色は、日の入りが近い事を私に知らしめていた。
ふと、横に目を逸らせば草陰に身を隠しながら双眼鏡を覗くグレンの姿が見えた。
誰かは知らないが協力者からの情報のお陰で、事前に何処に何人警備の兵士が居るかは分かっていたが、改めて自分の目で確認して情報と照らし合わせているのだろう。
そんな彼の横顔は今まで見た事がないくらい勇ましく、それは厳しい戦闘訓練を積んだ紛れもない兵士の顔だった。
双眼鏡を顔から離した彼は目でナイトを探すと、彼に向かって小声で話し始めた。

「ナイトさん。警備員の人数と位置は情報通りです。これなら、スムーズに作戦が進められそうですね」

「あぁ、だが油断はするなよ。お前も俺と同じ元軍人だから分かっているだろうが、一瞬でも気を緩めたらその時点でやられるぞ」

「分かってます」

二人の会話を聞いていた私はふと、視界にリュウが映っていない事に気が付いた。
先程まではナイトと一緒に居て、何やら話をしていたが何処に行ったのだろうか。
首を回して周囲を見回してみると、私の左斜め後ろの少し放れた所に彼は居た。
そして、私に立派な翼の生えた背中を向けて座っている。
背中が陰になって彼が何をしているのかは正直良く分からないが、前足の動きからして、ポーチの中身のチェックでもしているのだろう。
まぁ、リュウに限って忘れ物なんて無いと思うけれど。
私がリュウの側まで歩み寄ろうとすると、彼は落ち葉を踏み締める足音に気が付いたのか、こちらに振り返った。
そして、瞳に私の姿を映すと慌ててポーチの口を閉めた。
……なんか妙に慌てていたが、まさかリュウが忘れ物でもしたのだろうか。
ただ、その慌て振りが少しお茶目で、丁度よく私の緊張を解してくれた。
と、その時だ。
物音がしたかと思うと、別ルートでここに向かっていたグループの一つが到着した。
その中に顔見知りは居なかったが、取りあえず手招きする。
気性の荒そうな彼等だが、意外と私の指示を聴いてくれて身を屈めながら私達の元まで早足で寄ってきた。
そして、ナイトから待機しろと言われた彼等は指示通りにその場に姿勢を低くしながら待機する。
真面目そうにはとてもじゃないが見えない彼等も、状況を弁えて一言も喋らずに待機してくれている。
今までは私の偏見で、彼等に良いイメージはあまり無かったが、どうやら思っていた以上に彼等は頼りに出来そうだ。
直に、別々でここを目指していた皆が続々と到着し、定刻通りに全員が揃った。
集まった全員がこの場に一端揃ってから、現場の地形を直接自分の目で確認したナイトが集団を三つに分けて別々の場所に展開させ、耳に着けた小型の無線機で合図したと同時に三箇所から一斉攻撃を仕掛ける事になった。
姿勢を低くし、ナイトの指示通りに皆が忍び足で移動していき、張り詰めた空気の中で移動が行われる。
私は息を殺し、双眼鏡で警備をしている兵士の動きを観察していた。
かなり距離を取っているのと、森に生える木々と草のお陰で、恐らくは警備をしている兵士は肉眼でこちらの姿を捉える事は出来ていなだろう。
双眼鏡越しに拡大されて見えている兵士は、目を右往左往させてはいるもののこちらには全く気が付いていない様子であった。
今の所、地の利を生かせていると言えるだろう。
目を離した私は双眼鏡をポーチの中に仕舞い、ふと振り返ればそこにはリュウが居た。

「大丈夫か?」

「え?……何が?」

突然、彼から安否を気遣う声を掛けられたのだが、私には何故彼が私にそう声を掛けたのかが直ぐには理解出来なかった。

「いや、さっきからかなり緊張してるようだったからさ。真剣に取り組まなくちゃならないのは確かだが、少しは気持ちを楽に持った方がいいぞ」

「うん……そうかも知れないけど、やっぱり緊張しちゃって。それに落ち着かせようと思っても中々出来なくてさ……」

私は見栄など張らず、正直に自分の気持ちをリュウに話した。
話している内に不安と緊張は増していき、声は細々として顔はどんどん下がって行く。
言い終えた頃には、私は完全に俯いてしまっていた。
それこそ、不安に押し潰されたかのように。
けれど、言い終えたと同時にリュウが私の肩……翼の付け根を軽く叩いてきた。
彼が私を励ましてくれる時や、勇気付けてくれる時は大概このように軽く叩いてくる。
ふと顔を上げれば彼は……笑顔だった。
普段見るような何時もの笑顔であったが、作戦実行を目前として極度の緊張が場を支配している中で、彼のその表情は私の目に何故だか新鮮に映った。

「大丈夫。皆の力を合わせればきっと成功するし、なによりフェザーはフェニックス計画を阻止しようと最初に立ち上がった人じゃないか。それに努力して強くなったんだし……だから何も恐れる事はないだろ?」

「……ありがとう」

彼のその言葉が私の中の何かを奮い立たせた気がした。
そうだ。その通りだ。
フェニックス計画に巻き込まれた私は、それを阻止しようと皆と協力してここまで頑張ってきたのだ。
今更、何を弱気になっていたのだろう。
私は表情を曇らせていた不安と緊張を振り払い、全身に気合を入れる。
すると不思議なもので、今まで私を押し潰そうとしていた重圧はどこかに消え、自然と気持ちが楽になった。
その時だ。
先程から無線で仲間とやり取りしていたナイトが私達の方に目を向けて、小さな声で話し掛けてきた。

「よし、全員が所定の位置に付いた。……準備は良いな?」

「はい!」

“準備は良いな?”と言う問い掛けに私は固めた決意を表すかのように力強く返事をした。
勿論、間違っても警備中の兵士に聞えないような声の大きさで。
緊張し切っていた気持ちもリュウに落ち着かせてもらったし、体調や装備なども全て完璧。
今は本当に準備万端だ。
いつでも木々の間に小さく見える軍の秘密施設に攻撃を仕掛けられる。
昨日の内に何度も何度も確認して、完璧に覚えた作戦の内容を今一度、頭の中でしっかりと確認してから私は身構えた。
同時に、隣に居るリュウも包帯の巻かれていない右目を鋭く尖らせ、軍の秘密施設を睨みながら身構える。
それに続くかのようにグレンもナイトも身構え、全員が戦闘態勢に入った。
おそらく、ナイトからの指示で別の場所に居る皆も今は私達のように身構えている事だろう。
ナイトは構えを崩さずにこの場に居る私達全員の目に自分の目を合わせてから、息を大きく吸い込んだ。
そして、私達と無線越しに居る仲間に攻撃開始の命令を出した。

「行け!!」

掛け声と共に私達は一斉に駆け出した。
木々の間を縫って走り、森を抜けて目の前に見える軍の秘密施設に向かって突き進む。
夕焼けで赤く染まった空の下、雄叫びが響き渡り、開けた視界には別の場所から攻め込む皆の姿が見えた。
後方からは遠距離攻撃が得意な仲間達が一斉に各々の得意な遠距離技を放ち、私達の隙間を抜けて軍の建物に向かって行く。
燃え盛る灼熱の炎や、岩をも砕くような強烈な水流、敵を切り裂く鋭い葉、破壊の限りを尽くす光線に走る電撃。
放たれた数々の攻撃は軍の建物やそこに居る兵士を襲った。
入り乱れた数々の攻撃によって起きた爆発で、砕けた地面の破片や壁の破片などが四散し、轟く爆音が空気を震わす。
舞い上がった土煙に軍の兵士の姿は飲まれ、立ち上る煙の中に尚も第二波の遠距離技が吸い込まれて行き、またも爆音が大地を駆け抜けた。
最初はこのまま強行突破出来そうな勢いであったが、さすがに軍も近い内に私達が攻めてくると読んでいたのか、出入り口を思われる幾つかの扉が開くと、そこから一斉に鍛え抜かれた兵士達が無駄のない機敏な動きで走り出てくる。
一部の兵士は散布機の防御に回り、散布機の周りに早くも“リフレクター”や“光の壁”などを何重にも形成した。
勿論、こうなる事は予想済みで散布機に攻撃を仕掛けるつもりはない。
私達が狙うのは散布機ではなく、フェニックス本体なのだから。
兵士が散布機の防御を固めたのを確認したのも束の間、残りの兵士達が一斉に私達に向けて反撃の遠距離技を繰り出してきた。
私の目の前からも、勢いの付いた小さな岩石が連続的に幾つも飛んでくる。
……おそらくは連続的に岩を飛ばして攻撃する“ロックブラスト”と言う技だろう。
タイプ的にも、飛んでくる全弾を受けしまうような事は避けなければ。
私は走りながらも大きく息を吸い込み、“竜の息吹”を繰り出して迫り来るそれを相殺した。
繰り出した“竜の息吹”によって相殺された岩は地面に落ちて行き、バラバラと砕け散っていく。
その直後だ。
私の足元を影が走り、その影の主は瞬時に“ロックブラスト”を放ったと思われるドサイドンの目の前に急降下しながら着地した。
突如目の前に現われた影の主……リュウの姿に、訓練を受けた兵士であるドサイドンも、一瞬だが隙が生まれ、その隙を迷いなくリュウは突いて強烈な“ドラゴンクロー”の一撃をドサイドンに繰り出す。
轟く爆音や雄叫びの中に体を切り裂く不快な音が微かに響き、続いて断末魔の叫びが聞えた。
急所とも言える首元を強力な“ドラゴンクロー”で切り裂かれ、一撃と共に血が飛び散ったドサイドンの体はその場に力なく倒れ込んだ。
死んだのか死んでいないのか、そんな事を確認する前にリュウは次なる目標に狙いを定め、戦闘に入って行く。
私は普段の優しい彼からは想像も付かない程、躊躇もないように命を奪ったリュウのその姿に、親しいとは言え少しばかりの恐怖すら覚えた。
けれど、相手を倒さなければ自分が倒されると言うこの状況では、リュウのように非情にすらならなければいけないのだ。
そして、首元を切り裂かれたドサイドンはリュウが居なくなった後も動く事はなかった。
何時の間にか戦況は遠距離技の打ち合いから集団での乱戦へと変わっており、殆どが近距離での戦いと化していた。
リュウに倒されたドサイドンを見ていた私であったが、ふと上空に気配を感じ、素早く上を向く。
そこには、怪我の跡が残るムクホークが急降下してきており、どうやら彼の狙いは私のようだ。
集団対集団の戦いなだけに、様々な音が轟く中でもムクホークの風切音は私の耳にも僅かに届いていた。
重力を味方に付けて急降下しながら“ブレイブバード”を繰り出すムクホークに対し、私は牽制として“火炎放射”を繰り出し、首を右から左に振って広範囲に夕焼けの光りを受けて一層鮮やかな赤に染まる炎を撒き散らす。
相手のムクホークも馬鹿ではないので、広範囲に放射された紅の火炎を素早い身のこなしで回避すると、旋回して直ぐに体勢を整えて再度私に向かって突っ込んできた。
精神を集中させてムクホークの動きを両の目で睨みながら、ギリギリまで引き寄せる。

「死ね!!」

ムクホークの殺意が宿ったその声が私の鼓膜を揺らしたが、今はそんな事は気にせず無言のまま私はムクホークの動きに精神を集中させる。
当るか当らないかと言うギリギリのタイミングで私はバックステップをして上空から来るムクホークの攻撃を回避した。
急行下から翼を羽ばたかせて水平飛行に映ったムクホークは地上を滑るように飛行しながら私から離れようとする。
恐らくは一撃を加えて敵から遠ざかる一撃離脱という戦法だろう。
ただ、そのムクホークの行動が私にとってのチャンスとなった。
運良くムクホークは私に背を向けていたのだ。
このチャンスを逃す訳にはいかないし、今は命を奪う事が嫌だとか奇麗事を言って情けを掛けていられない。
私は迷いなくムクホークに向かって“竜の息吹”を繰り出した。
それは瞬時に彼を襲い、ムクホークは悲鳴を上げて地上に落下していく。
相当スピードが出ていたのか、彼は地上に落下してからも数メートルは滑走し、それから小さな岩に体を打ち付けて止まった。
同時に舞い上がったが土埃が視界を覆ったが、私はそれを一掃するかのように羽ばたき、追い討ちを掛けようと低空飛行で一気にムクホークとの間合いを詰める。
自分の周りの空気の流れが肌から伝わってきて、土煙は私の肌を掠めながら晴れていく。
しかし、茶色の視界が開けた先にあったのは、既に誰かに止め刺されたムクホークの姿だった。
普段だったら、目の前で命が失われた事に驚くだろうが、戦闘中というこの特殊な状況下では驚く事はなかった。
今はこれが普通なのだから……
振り返ってみれば、各自がほぼ自由に戦いを繰り広げており、ここは完全な無法地帯となっていた。
その中で、リュウやグレンも必死で戦っているし、今まで戦っている所を見た事がなかったナイトも勇敢に戦っている。
数十名が波のように一斉に攻撃を仕掛けたのだ。さすがの軍とは言え、状況は私達が有利と言ってよかった。
問題は長期戦に持ち込めない事。
既に軍は応援の要請をしている可能性は高いので、少なくとも私達がここまで来るのに要した数時間後には軍の応援が到着するだろう。
それがタイムリミットだ。
夕焼けの空は次第にその赤みを失い、暗くなりつつあった。
ここまでは作戦があるので、ある程度は体力を温存しながら戦ってきたが、その作戦の実行も近い。
私は耳に着けた無線機からナイトの指示が来るのを待ちながら、軍の兵士と戦い続けていた。
双方とも負傷者、及び命を落とした者が多数出ていて、周囲に惨劇の重なりによって血の嫌な臭いが立ち込め始めていた。

「フェザー!作戦があるんだ。そろそろ後方に下がって体力を温存しとけ!」

「あ、はい!」

ふと、先程まで少し離れた場所で軍の兵士と戦っていたサンダースが私の横に走ってきて私に向って声を張り上げてきた。
背中を向けあって、互いの死角をカバーし合いながら私はサンダースに返事をする。
そうだ。私は重要な作戦を担っている一人だ。
ここで体力を消耗し過ぎるのはサンダースの言う通りであまりよろしい事ではない。
皆が命を賭けて戦っている最中に自分だけ後方に引き下がるのは多少の抵抗があるが、任務の成功率を上げる為にも、ここはサンダースの言う通りにした方が良いだろう。
周辺一帯では依然として激しい戦いが展開されており、何度も爆発が起きたりし、その都度舞い上がる土埃の乾燥した臭いが私の鼻を突く。
攻撃を仕掛けてくる敵の兵士をサンダースに相手してもらい、私はその僅かな隙に周囲に十分注意しながら後方に引き下がる。
爆煙や立ち込める水蒸気を書き分けるように進み、比較的安全とも言える森の中に私は駆け込もうとした。
しかし、その時だ。
直ぐ後ろで敵の遠距離技によるものか大きな爆発が起き、その衝撃で私は転んでしまった。
鼓膜が破れてしまいそうな爆音であったが、幸いにも耳鳴りが酷いぐらいで、周囲の音はちゃんと聞き取れる。
雨のように降ってくる細かい大地の破片を振り払い、私は周囲の状況を確認するが取りあえず回りに敵はいない。
直撃こそ免れたようだが、爆風に乗って勢いよく飛び散った岩の鋭い破片が私の頬を掠っていて、痛みから掠ったその箇所を翼で押えてみれば真っ赤な血が白い翼に付着した。
ただ、痛みもそこまで酷くはないし、出血も大した事じゃない。
なので、私は直ぐに立ち上がろうとした。

「大丈夫か!?」

立ち上がろうとする私の後ろから聞き慣れた声が聞こえてきて、振り返れば敵に狙われないように低空飛行でこちらに向かってくるリュウの姿があった。
彼も私と同じで戦闘によって舞い上がった土埃などで体は汚れていたが、怪我はしていない様子。
他人の心配より自分の心配をしろと言われそうだが、正直怪我をしていないリュウの姿を見てホッとした。
私の真横に赤い大翼を羽ばたかせながらゆっくりと着地したリュウは私の翼を前足で掴み、起き上がるのを補助してくれた。

「ありがとう」

「礼なんかいいって。……それより、俺達は作戦があるんだから無理はするなよ」

「うん、分かってる」

リュウは私に真剣な表情で無理はするなと念を押し、一度後ろを見て安全を確認してから飛び上がる。
私も彼に続いて飛び上がり、二人で周囲を警戒しながら森まで低空飛行で進んで茂みの中に着地するとそこに身を伏せた。
周りには遠距離技を得意とする数名の人達が草陰に身を隠しながら、前線で戦う仲間の援護を行っていて、それぞれが繰り出す技の音が森の中で入り乱れている。
勿論、攻撃した場所から自身の位置を特定されないように技を繰り出す度に速やかに位置を変更してまた攻撃を行う。
その繰り返しだ。
そんな騒がしい森の中で、私はリュウと一緒に屈みながら戦況を伺っていた。

「フェザー、頬の傷大丈夫か?」

「これくらい大丈夫だよ」

「ならいいが、今の内に手当てしといた方が良い。……ちょっと待ってろ」

私はこれくらいの傷ならどうって事ないと思っていたが、立場が逆なら私もリュウを心配するだろう。
だから彼の気持ちは十分に分かった。例え大丈夫でも心配な物は心配なのだ。
私はリュウに素早く応急処置をしてもらい、傷口をガーゼで覆って大した出血ではなかったがそれを押える。
分かっているが、手当てしてくれているその時の彼は本当に私を心配してくれているようで、何時になく真剣な顔で手当てをしてくれていた。
戦闘で汚れた体には汚れのない純白のガーゼは不釣合いだったが、そんな事はどうでも良い。
今はリュウの私に対する優しさを感じ、それで心は一杯だった。
応急処置を終えて、戦っている仲間達の勇敢な後ろ姿を見て気が付いたが、日の入りを目前とした周囲は暗くなりつつあった。
私やリュウと同様に、基地内に侵入してフェニックス自体を破壊すると言う役目を背負ったナイトとグレンが合流する為にこちらに向かって来ているが、そんな二人の姿も暗くなった周囲と同じく、暗くなっていた。
後ろを警戒しながら私達の方に走ってきたナイトとグレンは飛び込むように草陰に入り、私とリュウの目の前に立ち止まる。

「大丈夫ですか?」

見たところでは、二人共怪我はしていなかったが、私は念を押すようにナイトとグレンに声を掛けた。
少し息を切らしている二人は軽く頷いて私に“大丈夫だ”と言うと、グレンはその場に座り込み、ナイトは鋭い目付きで前線を睨んだ。
私も彼に引かれて同じように皆が必死で戦っている最前線を見たが、断続的に走る閃光とそれに続いて轟く爆音は止まる気配がない。
目を凝らして見れば、動かなくなった軍の兵士や私達に協力してくれている暴力団の人の亡骸が所々に転がっている。
私の目に映るそれは、今まで体験した事がなかった集団対集団の戦場そのものであった。
当然、目の前の光景は生死を賭けた戦いなのだから、死体が転がっているのは必然なのかもしれない。
けれど、その目を背けたくなるような悲惨な戦場に私は胸が苦しくなるような感覚を覚えた。
気が付けば周囲はかなり暗くなり始めており、空はもう藍色に染まっている。
目を凝らしていれば敵の姿などが見えない訳ではないが、見難い事に変わりはなく、敵味方共に戦い難いだろう。
無論、暗視ゴーグルなどがあれば別だが、私達は資金の関係もあって全員分の暗視ゴーグルなどは用意出来ていない。
しかし、それとは逆に資金に余裕がある軍は高確率で夜間の戦闘になればそういった戦いを補助する道具を使い始めるだろう。
私はどんどん暗くなっていく空を見上げながら、そう考えていた。
と、その時だ。
耳に付けた小型の無線機から、前線で戦っているサンダースからの連絡が入ってきた。

「こちらボルト。予想通り敵が暗視ゴーグルを着け始めた。作戦通りに俺達も一端引く」

無線から聞えてきた彼の声は私以外のリュウやナイトの無線にも聞えているようで、リュウ達も無線機からの声に耳を傾けている。
彼等も引くという事は遂に真の作戦を実行するときが来たようだ。
ここからは仲間との連携、そしてタイミングが非常に重要になり、たった数秒のチャンスを逃せば、この作戦は失敗してしまう。
無線機からの声が途絶えて直ぐ、前方からこちらに撤退してくるサンダースやブースターの姿が暗くなった戦場中にぼんやりと見えてきた。
当然、撤退時に敵から追い討ちを避ける為にも、先に前線から退いていた者や後方から遠距離攻撃で援護していた人達が援護の攻撃を激しくする。
最初は軍の兵士達が撤退時の隙を突かんとばかりに突っ込んで来ていたが、様々な音が織り交ざる中に響いた“深追いはするな!”と言う掛け声と共に、軍の兵士達は追撃を止め、統率された無駄の無い動きで乱れていた守りを修正していく。
ナイトが出撃前に言った仲間を見捨てるなと言う言葉を守っているのか、もう助からないような重傷者さえも担いで来た者を含め、全員が一時的に森の中に撤退した。
木々の間から見える戦場だった場所には戦いで犠牲となった軍の兵士の亡骸が幾つか転がっている。
悲惨としか言いようがないその光景に自然と私の表情は曇ってしまった。
そんな私の横で、同じようにその光景を見ていたリュウが、呟く時のように小さく口を動かした。

「軍では非情にも遺体は放っておけと指導されるし、見込みの無い仲間は切り捨てろとも教えられるんだ……」

「…………」

話している彼の表情には、軍に忠誠を尽くしていた頃の過去を心の奥底から悔やんでいるようであり、私は返す言葉が見つからなかった。
無言のまま数秒が流れた後、私はふと視線を軍の秘密施設に移したが、もはや周囲は真っ暗と言っても良い状態で、離れている軍の施設は殆ど見えない。
木にみを隠すようにしながら暗視ゴーグル越しに暗闇の先にある秘密施設を睨んでいたリュウはそっと振り返り、ほぼ真後ろにいたナイトとグレンに向かって頷いた。
彼が頷いたという事は、それは言わば作戦が決行可能だと言うゴーサインだ。
ナイトが一時撤退して待機している皆に無線越しに指示を出し始める。
沸いてくる緊張を押し殺し、気持ちを落ち着かせて私はグレンの方に背中を差し出した。
それとほぼ同時に、隣に居たリュウもナイトに背中を差し出す。
私がグレンを、リュウがナイトを背中に乗せた。








一方、軍は暗闇の中で崩れていた守りの陣形を立て直したり、さらにまだ戦える負傷者の治療などを忙しく行っていた。
忙しく動く兵士達の先頭には、部隊を統率している隊長と思わしきルカリオが顔を険しくしながら支給されている暗視ゴーグル越しにフェザー達が撤退して行った森を睨んでいる。
経験豊富な彼は、当然の如くフェザー達がただ撤退したとは思ってはいなかった。
そして、先程深追いしようとしていた兵士達を止めたのもこのルカリオ。
勢いにのって安易に突っ込んでは、どんな反撃が待っているかも分からないし、森の中と言う複雑な地形は罠などを仕掛けやすい為に彼が深追いしようとしていた兵士達を止めたのは正解と言える。
さらに崩れかけていた守りを直ぐに固めたのも的確な指示で、彼の働きは指揮官としてはこれ以上に無い位の物であった。
しかし、的確な指示を出したにも拘わらず、彼の表情は険しく、彼の脳内では様々な憶測が飛び交っていた。
先程の攻撃が陽動と言う可能性や、今回の攻撃事態がこちらの動きや守りの固め方などを調べるつもりだったに過ぎないだとか……
部隊の指揮官であるルカリオは、小柄且つ素早い数人の兵士を呼び、彼等に森の中の偵察を行わせよとした。
しかし、その時だ。
森の方から物音がしたかと思うと、突然凄まじい激しい閃光が暗闇を走った。
それが“フラッシュ”と言う技なのは軍の兵士達は一瞬で理解できたが、全員が暗視ゴーグルを装着していた為に、その閃光によって兵士全員の視界が白に染まってしまったのだ。
この瞬間、軍の兵士は完全な無防備と化していた。
漆黒の闇を一時的に眩い白に染めた光りの影響で、大小含めて数個ある入り口を警備している兵士も視界を奪われて無防備な状態。
もはやこの状態では警備をしているとは言い難い。
しかし、それも本の数秒。
暗視ゴーグルさえ外せば、直ぐに兵士達は視界を取り戻せるだろう。
比較的出入りの少ない小さな入り口を守っていた兵士……基エレキブルとアーボックの二人もフラッシュによって使い物にならない暗視ゴーグルを外そうとしていた。
二人が暗視ゴーグル外そうと手を掛けたその時、真上からは微かな風切音が響いて来ていたのだった……









私は背中にグレンを乗せながら、ナイトを背中に乗せたリュウと共に夜空から急降下していた。
そして、自分の鶏冠や身に着けたポーチなどが風で揺らめく感覚と肌にそって流れる風の感覚を感じながら、私は真下に見える二人の兵士を睨み付ける。
予想通りに暗視ゴーグルを着けていた彼等は、味方の数人が繰り出してくれた“フラッシュ”の影響で視界は失われていて、私達の姿には全く気が付いていない。
敵が暗視ゴーグルを外し、周囲に目が慣れるまでの数秒間が勝負だ。
私はギリギリまで速度を緩めずに急降下し続け、リュウの合図で翼を羽ばたかせて減速し、入り口の警備をしていた兵士の背後に降り立った。
その際に出てしまった着地音に気が付き、二人の兵士が振り返ったが、その時には既に背中で戦闘準備を整えていたグレンとナイトが私達の背中を蹴って飛び出しており、まだ目が慣れていない兵士の適所を確実に突いた一撃で二人の兵士を同時に気絶させる。
声すら上げずにその場に倒れ込んだ兵士の向こうでは、“フラッシュ”の閃光と共に一斉攻撃を仕掛け始めた皆が雪崩の如く猛進していた。
軍の兵士達はそれが本当の陽動だとも気が付かずに戦力を結集して応戦を始めている。
その光景を確認した私は彼等も無事を祈りつつ、そしてフェニックス計画を絶対に阻止すると改めて決意してリュウ、ナイト、グレンの三人と共に入り口から内部に侵入した。
協力者から渡された地図で予め侵入してからの経路は頭の中に入れておいたので私達は無機質な壁に覆われた廊下を迷い無く駆け抜けて行く。
廊下の途中で作戦の都合上二手に別れ、私はリュウと、ナイトはグレンと共にそれぞれの目的地を目指す。

「ん!?敵か!?」

角を曲がった直後、フェニックス計画の研究員と思われるオオタチが目の前に現われたが、私は躊躇なくそのオオタチに攻撃を仕掛けた。
翼を硬化させ、“鋼の翼”を繰り出すと、私は走っている時の勢いを利用して低い軌道で跳躍して瞬時に間合いを詰め、オオタチの斜め上から彼の頭に硬化した翼を叩きつける。
鈍い音と喚きが響き、彼は頭か前に倒れ込むと床に体を打ち付けた。
私は着地すると、そのまま勢いを緩めずに蛍光灯の青白い光に照らされただけの廊下を走り続ける。

「フェザー、ナイスだ!」

倒れたオオタチを回避して走っているリュウが後ろから声を掛けてくれたが、私は頷いただけで返事はしなかった。
寧ろ、自分の移動速度は速いだけに、常に前方に集中していなければならないので返事をしないと言うよりは出来なかったと言った方が正解なのかもしれない。
私は前方に細心の注意を払いながら、地上で出せる限界の速度で賭け抜けて行く。
右、左、右、右……幾度となく角を曲がり、複雑に入り組んだ施設内を目的であるフェニックスの保管庫を目指して只管に突き進む。
監視カメラなど、気にも留めていない。
どうせ見つかったところで敵の殆どは外に出払っており、五分五分の戦いを繰り広げているだけに、私達の為に内部に増援は遅れない筈だから。
しかし問題は時間だ。
時間が経過すれば遠くから向かってきているであろう敵の増援が間に合ってしまい、戦局は一気に劣勢になってしまう。
つまり、私達には迅速な行動が要求されていた。
疲れても休んでいる暇は無いし、時間がかかればそれこそ敵の増援が来て外で私達の陽動として戦っている皆も根こそぎやられてしまう。
時間が勝負なだけに、私は息が切れそうになりながらも足を動かし続けた。
頭に叩き込んであるルートの最後の角を曲がると、そこには地図通りにフェニックスの保管庫が存在していた。
そして、並大抵の攻撃では破壊できそうにない強固な扉の前には屈強な兵士が二人、まるで私達を待ち構えているように身構えていた。
おそらく、監視カメラの映像で私達が来るのが分かっていたのだろう。
当然の如く、敵が居たからと言って私達の選択肢は一つだけ。
戦って突破する以外に無いのだ。

「俺は左のアーマルドをやる!フェザーは右のバシャーモを頼む!」

「わかった!」

私とリュウは廊下に横一列になりながら全速力で、二人の軍人に向かっていく。
リュウは牽制として……そしてPPを節約する為にも、ポーチに忍ばせていた“鉄の棘
“と言う道具を二人の兵士に向かって投げつけた。
数本の鋭利な鉄製の棘は高速で飛んでいくが、その全てを敵であるアーマルドとバシャーモは容易に回避してしまう。
勿論、牽制なのでそれでも良いのだが思ったよりは隙が生まれず、バシャーモに至っては反撃の“火炎放射”を私達に浴びせてきた。
他の廊下よりは広いとは言え、スペースに限界のあるこの廊下で放射状に広がる敵の“火炎放射”を回避するのは容易では無い。
幸い、バシャーモは天井近くまで跳躍した状態から放ってきたので、私は熱いものは上昇する性質を利用して出来る限り姿勢を低くし、スライディングの要領で床を滑った。
炎はギリギリのところで勢いを失い、私には届かなかったのが炎の陰になってリュウの姿が見えず、彼が上手く回避できたのかが心配だ。
しかし、そんな私の心配を吹き消すかのように灼熱の炎が晴れた時には、リュウは既にアーマルドと交戦していた。
私もこうしている場合ではない。戦わないと。
応戦すべく起き上がった直後、バシャーモがほぼ真上から“ブレイズキック”を繰り出して突っ込んできていた。
迫り来る炎を纏った強靭な足を凝視しながら、私は床を蹴ってサイドステップで回避したのだが、バシャーモは着地した足を軸にして勢いよく体を回転させ、炎を纏ったもう片方の足で回し蹴りをしてきたのだ。
格闘タイプなだけに、接近戦を得意とするバシャーモの機敏な動きに私は着いて行けず、腹部に強烈な“ブレイズキック”の一撃を受けてしまった。
タイプ的には効果はいまひとつなのだが、鍛え上げられた体から放たれた蹴りは私を軽々しく蹴飛ばす。
腹部に激痛が走り、さらにその直後に背中からも痛みを感じた。
蹴飛ばされ、硬い壁に背中を打ちつけた私はその場に崩れてしまい、起き上がろうにも痛みが引かずに中々体を動かせない。
私は強烈な蹴りを受けた腹部を押えながら痛みで歪む顔を上げると、目の前からバシャーモが拳を握り締めて私に向かってくる。
絶体絶命の状況下、私は激痛を堪えて必死に起き上がろうともがく。
ようやく立ち上がれた頃にはもはや目と鼻の先にバシャーモの姿があって、もはや回避は不可能。
私はとっさの判断で翼を組んで防御の体制を取った。
その刹那だ。
突然鈍い音が廊下に一際大きく木霊した。
無論、私は痛みなど感じていない。
何かと思って組んでいた翼を解いて目の前を見れば、そこには顔面から硬い廊下に突き刺さり、ピクリとも動かないバシャーモの姿があった。
そして、その傍らにはリュウでも無ければナイトでもグレンでもない……拳を握り締めながら仁王立ちしているバンの姿があったのだ。
何故彼がここに……?
最初はそう思ったが、そんな事はどうでもよいし聞くまでもないだろう。
きっと援軍として駆けつけてくれたのだろうから。

「おいおい、なにこんな所で苦戦してんだよ……二人共大丈夫か?」

「え?……あ、うん。一発受けたけど大丈夫」

「俺も大丈夫だ」

戦闘で体力を消耗し、険しい表情の私達と違って、ピンチを救ってくれたバンは余裕の表情。
リュウも何時の間にかアーマルドを倒していたようで、彼の爪からはアーマルドのものと思われる赤い血が滴となって無機質な床に赤い染みを作っていた。
駆けつけてくれたバンに助けてもらわなかったら、私はやられていたかもしれない。
その点、彼には最大限の感謝をしたかったが、あいにくと長々と礼を言っている時間は私達に与えられてはいないのだ。
私は彼に軽く一言ありがとうと言ってから強固な扉を睨んだ。
目の前の扉の向こうには、恐ろしいフェニックスが大量に保管されている。
扉を開けるにはパスワードが必要なみたいだが、パスワードを調べている時間なんて無駄だろう。
私はリュウとバンの顔を見ると、二人共私の意図している事が分かったようで頷いてくれた。
三人同時に身構え、目の前の扉に向かって一斉に遠距離技を繰り出す。
“竜の息吹”、“火炎放射”、“破壊光線”。
それぞれが繰り出された技は一斉に扉に襲い掛かり、いかに目の前の扉が強固とは言え、その破壊力の前には扉は無残にも爆音と共に砕け散った。
遂に私達は突破口を開いたのだ。
後はナイトとグレンから連絡が入れば、兼ねてから目指してきた私達の目標……フェニックス計画の阻止を成し遂げられる。
目標達成は目の前だけれど、最後まで気を抜かず私は今一度、決心を固めた。
三人で砕けた扉の破片を踏まないようにしながら進み、さらにトラップも警戒しつつゆっくりと保管庫の中に私とリュウとバンの三人は足を踏み入れたのだった……








26話に続きます。


PHOENIX 26 ‐終焉(前編)‐


あとがき
完結まで残りも一話……次回の更新でこの作品も終了します。
ここまで読んできてくださった方々には今一度、深く感謝致します。
さて、とうとう最後の戦い挑んだフェザー達。
彼女はフィンの事など、今まで経験してきた辛い過去を背負いながら……そして平和を守る為に決意を固め、仲間達と協力しながら恐ろしき陰謀を企む軍に向かっていきました。
また、彼女だけではなくリュウやグレン、ナイト達もそれぞれの決意の下で果敢に挑んでいきます。
陽動作戦で内部に侵入し、遂にフェニックスの保管庫に辿り着いたフェザーとリュウ、そしてバン。
彼等がどのようにしてこの大量のフェニックスを破壊するのか……そして、ソウルやリュウの伏線も次回で全て明らかにする予定です。
なので、もしよろしければ残りも後一話ですので最後までお付き合いして頂けると、作者としては嬉しい限りです。

こんな駄文にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。
もし、宜しければ誤字、脱字の指摘や感想などを頂きたいです。




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Last-modified: 2010-09-26 (日) 00:00:00
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