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PHOENIX 23 ‐合流‐

/PHOENIX 23 ‐合流‐

PHOENIX
作者 SKYLINE
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23話 合流

ささやかな北風に乗った少量の粉雪が舞う中、私達はナイトから指示された場所に向かって歩き続けていた。
おそらく、この粉雪は山脈の方から風に乗ってここまで旅をしてきたのであろう。
まるでそれは各地を転々としている私達のようだ。
偶に振り返る度に、敷き詰められた落ち葉の上に逞しく立つ木々の間から見えるニックス町が小さくなっていた。
あの町にはバンの自宅や、自らを囮にして私達を逃がしてくれたフィンの両親の自宅がある。
雪山でジャウ率いる兵隊達に遭遇したあの時、別れ際にフィンの放った最後の言葉は思い出す度に今でも私の耳の中で響いて消えなかった。
そして、最後に見た正気の彼の表情も脳裏に焼き付き決して忘れる事は出来ない。
私達の為に犠牲となってくれたフィンの死を突然告げられたにも拘らず私達を許してくれた心優しいフィンの母親であるファンの為にも……そして命を掛けて私とリュウを逃がしてくれた彼の為にも、頑張らないと。
遠くに霞み始めているニックス町を見ながら、私は改めて決意を固めていた……
そんな私の額に一粒の粉雪が落ち、その冷たい感覚で私は我に返った。
色々と考え事をしていたので、あまり周りに目が行き届いて居なかったが、周囲は相変わらずの光景。
岩の大地に敷き詰められた落ち葉とその母体である幾本もの木々が皆、静かに身を寄せ合っている。
周囲に佇んでいる木々はほぼ全てが葉を着けておらず、冬の厳しさを言う物が、周りの寒さと相俟ってどこか感じられた。
こういった光景を見ていると、一面に緑が広がる春が恋しい。
そんな寂れた感じの周囲に鋭い眼差しを周囲に送るリュウは地図を片手に珍しく二本足で歩いている。
冬なので葉は散ってしまっているとはいえ、このような木々が多く群生する場所は待ち伏せなどには打って付け。
いつ何処から軍の襲撃を受けるか分からない。
だからこそ、先頭を歩くリュウは二本足で歩いているのかも知れない。
両前足が開いていれば、突然の襲撃に反応して素早く反撃が出来るだろうし。
ただし、こういった木々が群生している場所はデメリットばかりではなく上空からこちらが見つかりにくいというメリットもあるのだけれど。
リュウが持っている地図によれば、ナイトが見つけた新しいアジトは先程まで居たニックスから北東に二十キロほど進んだ町にあるらしい。
途中でトラブルもなく、このペースで歩き続ければ今日中には目指す町に辿り着けそうだ。
町の名前までは分からないが、ピース町や先のニックス町のように自然が豊かで落ち着いた町なら良いのだが。
けれど、逆にブイエイト町のように暴力団みたいな柄の悪い人達がうろつく町は御免だ。
あの雰囲気はどうも私には馴染まない。
まぁ、あのような治安の悪そうな町はそう数が多くない筈なので、その辺の心配はしなくても大丈夫なのかもしれない。
肌から時折伝わってくる粉雪の冷たい感覚を我慢しながら、只管に私達は足を動かしていく。
後ろへと流れる景色は歩いても歩いても変わらず、まるで何周も同じ場所をグルグルと回っているような錯覚すら覚える。
しかし、それはそう感じるだけの事であって、地図を見ながら進むリュウに付いて行っている限り確実に進んでいる筈だ。
リュウに限って地図を見違えるとは思わないし。

「ったく、殺風景なところだな。見てて何も面白くないぜ……」

列の最後尾を歩く巨漢のバンが変化のない周囲の景色への不満を呟くように漏らし、豪快に水筒の中身を口へと運ぶ。
もし、私がこの寒さの中で一気にあんな大量の水を飲んだらお腹を壊してしまいそうだ。
それに、この寒さだとあまり冷たい水を飲みたいと言う欲求も私には生まれない。

「観光じゃないんですから、別に風景なんてどうでも良いじゃありませんか。それよりリュウさんみたいに周囲に気を配っててくださいよ?こうやって木が沢山生えてる場所は待ち伏せするにはうってつけなんですから」

バンの漏らした些細な不満に、彼の前を歩くグレンが振り向かずに鋭く突き刺すように言葉を返した。
バンギラスと言う種族且つ、その中でも一際体の大きいバンからすれば、自分よりもかなり小柄なマグマラシのグレンの言葉と態度は少々気に食わぬものであったのだろう。
振り返りながらグレンを見る私の視界には腕を組んで顔を顰めているバンの姿があった。
そして、彼の前を歩くグレンは瞳を右往左往させながら周囲に並ぶ木々の陰を睨んでいる。
グレンには失礼だが、彼は見掛けだけでは軍人だったように見えないが、さすがはリュウと同じで元軍人、こういった場所での危険性を熟知しているようで、伊達に軍で厳しい訓練や指導を受けた事はあるようだ。
普段の雰囲気とは違い、今のグレンの言葉や雰囲気、目付きなどは彼が私なんかよりもずっと経験が豊富な事を感じさせる。

「はぁ、タイプとは正反対で冷てぇな」

グレンから鋭く指摘されたバンは腕を組んだまま一度溜息とグレンに対する皮肉を漏らしながら渋々周囲に目を光らせる。
それを見たのを最後に私も振り向いていた顔を戻し、グレンに言うようにリュウを見習って周囲の木々の陰に転々と目を向けていく。
この人数全員が周囲への警戒を怠らずにしっかりと行っていれば、おそらく敵がどこから攻めて来ようと直ぐに発見できるだろう。
その点、若干の安心感があって緊張し過ぎずに気持ちを落ち着かせていられた。
……それから数時間、歩き続けていた私達は大きな岩の横で小休憩を取っていた。
幾ら訓練を受けて体力が付いたって、さすがに休憩無しに二十キロもの距離を歩くのは厳しく、適度に休憩を取らないと体が持たない。
特に私は種族上、歩くよりは飛ぶ方が得意なので余計に疲れる。
“休憩しよう”と言うリュウの一言を聞き、私は大きな岩に背中を預けてその場に座り込む。
周囲の気温と同じで、岩の表面は冷たかったが、立ち続けるよりはずっとマシだ。
岩に背中を預けながら空を見上げると、出発した当初より雲の量が増えており、遠くには不気味な灰色の雲が見受けられた。
このまま天候が崩れなければよいのだが、吹雪とかになったら私のようなドラゴン、飛行の二つのタイプを併せ持つ者には最悪だ。

「あの……あそこに見える雲、まさかこっちにはきませんよね?」

「あの雲の事?……まぁその辺は神様にお任せね」

私は遠くに見えている雲のように自分の中に曇る天候への不安を晴らそうと、隣で休憩しているデイに尋ねた。
私から尋ねられたデイは遠くに見える灰色の雲を見詰め、軽く笑いながらさらっと答える。
しかし、神頼みか……まぁ、どうか天候が悪化しませんように……とでも願っておけば神様も私達に味方してくれるだろう。
小休憩を終え、先程の真剣なグレンのとは別人のようにまだ座って居たいと主張する情けないグレンの意見を押し切り、私達は移動を再開した。
……で、その数分後には天候は悪化して灰色の空からは雪が舞い降りてくる。
どうやら神様は私達の敵に回ったらしい。
もう、一生神様なんて信じてたまるか!……とか叫びたくなってくる。
吐く息も何時の間にか白く曇り始め、気温も徐々に低下し始めていた。

「二人とも大丈夫?」

「こ、これくらいなら、だ、大丈夫です」

無意識に体が小刻みに震える私とリュウを見たデイが後ろから私達を気遣って優しく声を掛けてきてくれた。
私は無理にでも笑顔を作ってから振り返り、デイに震える声で大丈夫と返答をしたのだが、私が寒がっているのは明らかな事であったので、無理をしているのは直ぐにバレてしまったのだけれど。
防寒具が無い為に、今はこの寒さに耐えるしかないが、心は彼女の気遣いで大分暖まった気がした。

「二人とも恋仲なんですから、身を寄せ合って歩けばよいじゃないですか」

「は?……な、なにいってんだ。今は何時敵から攻められるか分からないんだぞ。身を寄せ合ったりなんてしてたら……それに、人前でそんな事……」

少し嫌らしい笑みを浮べるグレンの言葉に今まで黙って周囲を睨んでいたリュウが機敏に反応して振り返り、空かさず反論する。
彼は前に自分でも言っていたが、やはり少し恥ずかしがり屋な所があるようだ。
今が二人だけで安全な状況であれば身を寄せ合いたい所だが、私もさすがに人前でベタベタし過ぎるのは少しばかり羞恥と言う物があった。
それにリュウの意見は正しく、何時敵からの奇襲を受けるかも分からない状況。
身を寄せ合ってなんていたら敵の奇襲などに素早く対応が出来ない。
ここは意地でも寒さを我慢しないと……
私もリュウと同じで、ここは只管に我慢するとグレンに言い返そうと思ったが、突然の横槍が私の口を開けさせなかった。

「二人共この寒さじゃどうせ奇襲されても反応できないでしょ?ここは私達に任せて二人で体を温め合いなさいって」

鋭い(?)横槍を投げたのはデイで、彼女も笑いながら私とリュウに言ってきた。
確かにこの寒さじゃ体が思うように動かない。つまりは彼女の言葉は正しい。
私はリュウに意見を求めるように彼に目を合わせると、彼も同様に意見を求めるように私に目を合わせてきた。
少し恥ずかしい気持ちはあるけれど、今はデイの言う通りにした方が良いのかも知れない。
タイプ的にも寒さに弱くなく、さらに体毛で覆われた彼女らは私達と比べてはるかに寒さに強い。
この気温でも私達と違って歩みは遅くなったりはしていないので、それは歴然だ……と、言う訳でデイやグレンに甘えて私とリュウは身を寄せ合って互いに体を温め合い、リュウに代わってグレンが列の先頭に立ちながら移動を再開した。

「フェザー、寒くないか?」

「うん」

最初はちょっと恥ずかしかったけれど、今は触れているリュウの肌から温かさが伝わってくる。
そして、恥ずかしそうに顔を赤くしながらも私を心配してくれる彼の声からも温かさがすごく感じられた。
その言葉に小さく私は返事をし、彼の体にもっと身を寄せた。
この際、周りの目など気にしないとしよう。
私の行動にリュウは驚いた様子だったが、それはほんの僅かな時間で、直ぐに彼も失明していない右目で私を優しく見詰めてくれ、私を受け入れてくれた。








フェザー達が雪の舞う中を移動しているその頃、彼女らの居る場所とは違い、太陽が顔を覗かせ、白い雲の合間に鮮やかな青が映る場所……正確には軍の秘密施設の近くの山中に、ソウルとその部下であるゲンガーが居た。
山に生える木々の間から差し込む木漏れ日を避け、軍の秘密施設が建設されるずっと前からこの地に根を張る大木の陰に隠れるように二人は佇んでいる。
ゴーストタイプである二人にとって、白昼の太陽の光りは眩し過ぎるのだ。
不意に木々の間を駆け抜ける風が二人の間も吹き抜けて付近を流れる川へと走っていき、
冬でも葉を付ける針葉樹の葉がその風によってぶつかり合い、森の音色を奏でて行く。
その心地よい音色を耳で受け止めたソウルは、ゆっくりと部下であるゲンガーに話し掛け始めた。

「作戦の方は既に準備は完了している。後はいずれ攻めて来るであろうあのチルタリス達を待つだけだ。お前たちは上からの命令に従いつつ、一定人数は常に秘密施設に隠れさせて置け、そして絶対にスプーンには悟られるな」

「はい。心得ております。……しかし何故奴等を生かしておくのですか?準備が出来ているのなら何時でも……」

ソウルから何らかの指示を受けたゲンガーは周囲に気を配りながらも、自身の所属する偵察部隊の隊長であるソウルに不意に抱いた一つの質問をした。
会話中にも時折吹き付ける冷たい北風は会話を盗み聞くように二人の体を撫でて行く。
その風で揺れる葉のざわめきが終息を迎えた頃、ソウルは一度木漏れ日で照らされた茶色の地面を横目で見てから、ゲンガーに視線の先を戻した。

「それはだな…………」

ソウルが質問への答えを言い始めた途端にまた風が吹き、葉がざわめく。
そのざわめきの音でソウルの声は殆ど掻き消されてしまったが、彼の間近に居たゲンガーはしっかりとその言葉を聞き取っており、納得した様子で裂けてしまいそうな位、口元を緩ませる。

「そうでしたか。さすがはソウル隊長です。よく考えていますね」

「この程度の作戦も立てられぬようでは、私もお前達を束ねる指揮官として失格だ。……そろそろ戻れ。あまり長時間外出していると怪しまれるぞ」

「了解しました」

常に冷静沈着で口数の少ないソウルから戻れ、との命令を受けたゲンガーは彼に向かって軽く頭を下げてから数歩後ろに後退し、茶色の地面にその身を沈めていく。
忠実な部下であるゲンガーが完全に地面に身を沈めたのを見届けたソウルは頭上に広がる青空を仰ぎ、木漏れ日の合間から差し込む光りに目を細める。
そんな彼の瞳の裏には、まるで何かの野望が隠れているようであった。








丸一日掛け、私達はナイトから指示された場所である町、ロスデビルス町に辿りついた。
町の様子はと言うと……私の期待を裏切るもので、また柄の悪い連中がうろつく如何にも治安の悪そうな雰囲気。
もしかしてナイトはこういった雰囲気が好きなのだろうか……
とりあえず、目付きの鋭い町民達から睨まれながらも、私達はロスデビルス町に足を踏み入れた。
町の入り口にある“ようこそロスデビルス”と、書かれた看板はボロボロで、長年整備されていないのが伺える。
もしくは、整備してもこの柄の悪い町民達に破壊されてしまうのか。
いずれにせよ、この町の雰囲気はまたしても私の肌に合いそうにない。
看板の先に広がる比較的広い大通りと思われる道はまだしも、建物の間から僅かに見える裏路地は舗装すらされておらず、赤茶色の土がむき出しだ。
私はリュウに寄り添いながら、極力町民とは目を合わせないように心掛けた。
寒さに弱いリュウに変わって先頭を歩くグレンもあまりこういった雰囲気が好きではないのか、表情は少し堅い。
デイやイーブイはと言うと、前に住んでいたブイエイト町がこんな感じの雰囲気だっただけに、寧ろ居心地が良さそうだ。
言い方は悪いかもしればいが、普段から柄の悪い連中とつるんでいた彼女らからすれば、これが当たり前に感じるのかもしれない。
全く、環境とは恐ろしいもので私もこの町の環境に長く浸れば、柄が悪くなってしまいそうだ……
しばらく町中を歩いていると、突然私達の目の前にサーナイトが“テレポート”と言う技を使用して現われた。
突然現われた見ず知らずの者に、私達は一斉に構えを取る。
先頭のグレンも前足を若干横に伸ばし、姿勢を低くしながら両耳の間から炎を噴射して戦闘態勢に入っていた。
寒さが苦手なだけに、私と身を寄せ合っていたリュウも今は二本足で立ち上がりながら前足の爪を鋭く立たせている。
しかし、気の張り詰めた私達とは打って変わり、目の前のサーナイトはリラックスした感じで、全くと言って戦うつもりは無さそうな態度。
サーナイトは、一歩私達の方に向けて足を踏み出すと、徐に口を開いた。

「ナイトさんのお仲間ですね。お待ちしておりました」

「え?」

彼女のその小さな口から放たれた言葉は私達にはとても大きなものであった。
敵としか認識していなかった相手から、突然あのような言葉を掛けられれば、誰だって少しは驚くと言うか、気を抜かしてしまうであろう。
事実、私も思わず声が漏れてしまったし、臨戦態勢であったリュウも鋭かった目付きが変わってしまっている。
それは、グレンやデイも同じで、皆拍子抜けしていた。

「な、なんだ……敵だと思ったじゃねぇか」

立てていた爪を下ろし、二本の前足を地に付けたリュウが安堵を顔に浮かばせながら呟くように目の前のサーナイトと言うと、彼女は表情一つ変えず、さらに微動だせずに淡々とリュウに言い返す。

「私はあなた方に敵と認識されるような行動を取ったつもりはございませんが」

「……ま、まぁそうだけどさ……いきなり現われるとビビるだろ」

「普通に考えて歩くよりテレポートの方が早いでしょう。それとも、私が歩いてノロノロやってくるまでこの町を彷徨うつもりで?」

「い、いや、そういう事じゃ……」

目の前のサーナイト、様相に似合わず性格が冷たいな……
言葉遣いこそ丁寧なもののリュウと話している時も表情一つ変えないし、口調も淡々としている。
なんと言うか……いかにも仕事でやっているような感じだ。
目の前にテレポートで現われたサーナイトの態度にリュウも圧倒されてしまったようで、言い包められてしまった。
リュウとの会話をサラッと終らせたサーナイトは私達に付いてくるように伝えると、背を向けて町中を無言で歩き出す。

「フェザーさん。あのサーナイト、性格悪くないすか?」

「まぁ、ちょっとね」

「ですよね~」

歩き出して直ぐにグレンが私に小声で囁くように話し掛けてくる。
やはり、あのサーナイトの態度に彼も少量の不満を抱いていたようだ。
とまぁ、そんな他愛もない会話をしながら、私達はサーナイトの後に付いて行く。
歩き続けて数分、ふとサーナイトが止まったそこには、一軒の民宿が佇んでいた。
壁には蔦が生い茂り、その下に見える白い壁も汚れていてどこか寂れた感じの民宿だ。
長い間掃除やら整備やらを行っていないのだろうか。
そして、まさかとは思うがこの民宿がナイトの言っていた新しいアジト……?
もし、新しいアジトがこれだとするとアジトを手に入れたと言うか、ただ部屋を借りただけな気がする。
まぁ、何はともあれ細かい事は気にせずに入るとしよう。
私は先陣を切って歩き出し、私達をここまで案内してくれたサーナイトの横を通り抜けて民宿の玄関まで舗装されて灰色一色に染まった地面に足を付けては離しながら向かう。

「何処へ行くつもりですか?その民宿はアジトではありませんよ」

「えぇ!?」

数歩進んでからサーナイトに声を掛けられ、私は体に急ブレーキを掛けた。
全く、ここが新しいアジトでは無いのなら、最初からそう言ってほしい。
と言うより、何故アジトじゃないのに立ち止まったのだか……私にはあのサーナイトの考えている事が理解出来ない。

「あ、あの……なんでここで止まったのですか?」

「気まぐれです」

「は、はぁ!?」

本当にこのサーナイトは意味不明だ。
立ち止まった理由が気まぐれとか……私達をからかっているようにしか思えない。
自分で言うのもおかしいかも知れないが、私はそれなりに温厚な方だ。
しかし、このサーナイトの態度や行動は少々気に障る。はっきり言えば、ムカつく。
外見はおしとやかな雰囲気なのに、中身は最悪だ。
彼女の態度に一人で内心、腹を立てていた私は離れた場所で立ち止まっているリュウをふと見た。
彼もサーナイトの態度に少なからず不満があるようで、いつもより目付きが鋭い。
ただ、その目付きは私のような不満ではなく、何か別の理由で鋭くなっているように感じられた。

「なぁ、正直な事言えよ。“気まぐれ”じゃなくて俺達を調べてるんだろ?」

「…………」

睨むようにサーナイトに視線を送っているリュウが突然不可思議な発言をした。
私達を調べているとは一体どういう事だろうか。
別にサーナイトはその場に立ち止まっていただけで、行動という行動は何もしていない。
それなのに調べている?
サーナイトも意味不明だが、リュウの言葉もよく分からなかった。
リュウは言い終えると鋭い目付きを維持したまま、背中を向けているサーナイトに向かって歩き出し、歩いたまま再度口を開く。

「どうせ、お得意の念力か何かで俺達を調べているんだろ?……と、言うよりは俺達に尾行が付いていないかを調べてると言ったほうが正しいか?」

「……さすがはナイトさんが一目置くだけの人物ですね。その通りです。そして貴方達に尾行は付いていません」

振り返りながら答えた出したサーナイトはリュウの右目に焦点を合わせると同時に言い切った。
そんなサーナイトを見ながらグレンやバンは顔を呆れさせている。
“なんだよ”とでも訴えるかのように。
私としては言われてみればサーナイトの行動は正しいが、一言くらいは断って欲しかった。
いきなり黙り込まれても対応に困るし。

「それと、ナイトさんのアジトはそこの物置です」

「物置?」

出会ってから相変わらずの淡々とした口調で言い出したサーナイトの指差す先には、民宿の隣にある小さな物置小屋がひっそりと建っていた。
塗炭板で覆われたその物置小屋はとても小さく、そして……ボロい。
サーナイトの言葉が今は嘘だと思いたかった。
こんな小さな物置小屋では、とてもではないが今ここに居る人数が入ることも叶わない。
雪の止んだ曇り空から僅かに差し込む光りで照らされた塗炭板の壁は良く見れば小さな穴が幾つも空いている。
もはや、一度台風でもくれば飛ばされてしまってもおかしい事は何一つないであろう。
まるでスポットライトを浴びるように雲間から刺す光りの柱に照らされる物置小屋に顔を顰める私達をよそに、サーナイトは物置に向かって何の躊躇いもなく歩いて行く。
私達は一度互いの表情を確認してから渋々歩き出して物置小屋に向かう。
ただそこに置いてあるだけで扉と呼ぶには少々難がある塗炭板をサーナイトは退かし、目で私達に入れと合図を送ってきた。
外から見るその物置小屋の内部はほぼ真っ暗で、塗炭板の壁に開いた小さな穴から差し込む光りしか光源は存在していない。
当然、周りの建物とは違い電線など繋がれてはおらず、この小屋には電気なんてありはしないだろう。
入るのは中々気が進まないが、長距離の移動で重くなった足を交互に前に出しながら私達は揃って物置小屋の中に入った。
当然そこは薄暗く、さらにこの人数だと予想通りでかなり狭い。
……って、あれ?サーナイト曰くここが新しいアジトの筈なのにナイトは愚か私達とサーナイト以外誰も居ない。
これは一体どういう事なのだろうか。
サーナイトは入る際に退かした塗炭板を元の位置に戻すと、グレンやデイの間を縫って小屋の中心まで歩き、そこでしゃがみ込んだ。
そして、床が存在しないむき出しの地面の土を手で払う。
私達の視線が集中するそこには、前のアジトと同じような扉が現われていた。

「なるほど、さすがはナイトね」

それを見て真っ先に口を開いたデイは自分の主人であるナイトが作ったであろう扉を見ながら納得した表情で呟いた。
まぁ、なんとなく心の隅でこんな事ではないかと思っていたが、さすがはナイトだ。
抜かりがない。
幾ら軍の兵士でも、こんな寂れた物置小屋が入り口となっているとは思わないだろう。
よくよく考えれば、それを狙ってナイトはこんな場所を入り口にしたのだろう。
敵の目を欺く為に。
そして私は見事にナイトに欺かれていたわけだ。
サーナイトが外の壁とは比較にならない程頑丈そうな扉を持ち上げるように開けると、そこにはこの前のアジトと同じように、地下へと伸びる階段があった。
細かい所を見ると突貫工事のような後も残っているが、私達が別行動していた短期間で地下に新しいアジトを作ってしまうナイト達の努力には頭が上がらない。
何はともあれ、早速私達の掴んだ情報を詳しくナイトに説明しないと。
地下へ続く穴が塞がらないように扉を押えているサーナイトの横を通り抜け、私は先陣を切って階段を駆け下りていく。

「おい、そんなに飛ばすなよ。転ぶぞ」

「大丈夫!」

後ろから聞こえるリュウからの警告を軽くあしらい、私は階段を下る。
そう何十段もある階段ではないので、直ぐに地下一階に辿り着く予定であったが、その階段が思ったより急勾配であった為、私は足を踏み外してしまった。
踏み外したその瞬間はまるでテレビのスローモーションのように感じたが、直ぐに私を衝撃が襲い、続いて痛みも伝わってきた。
転んだ場所が階段の最後に近い段であったので別段怪我をした訳ではないが、さすがに硬い床への落下は痛みを伴う。

「いてて……」

「言わんこっちゃないな」

警告を半分無視して、急ぎ足で駆け下りて結局は転んでしまった私とは違い、ゆっくりと階段を下っているリュウが笑いながら私に言葉を浴びせてくる。
……今更だけれどリュウの警告をちゃんと聞いておけば良かった。
要するに急がば回れって事か。
階段を下り切ったリュウに起き上がらせてもらい、私は目の前の扉に視線を向けた。
あ、当然リュウには礼を言ったし、反省はしている。
目の前の扉は以前のアジトと同じでとても頑丈そう。並大抵の攻撃ではびくともしないであろう。
私は艶のない無機質な黒に染め上げられた扉から目を離さずに扉の取っ手に手を掛けた。
そして、僅かな緊張に囚われながらゆっくりと扉を開く。

「おぉ!久しぶり!!」

扉を開け、開いていく扉と壁の間から中の光りが漏れてきたのと同時に、威勢の良い元気な声が私の耳を走る。
あまりに突然だったので少し驚いたが、扉を開けた先で私達を待っていたのは傭兵隊ブイズの一員であるブースターであった。。
彼の顔を見て、心のどこかに張り詰めていた緊張の糸は解け、解れた糸は私の表情を自然と明るくさせた。

「お久しぶりです!」

私も彼に負けないくらい、元気な声で返事をする。
しかしだ。威勢良く返事をしたまでは良かったが、よく見れば彼の後ろには柄の悪い人達が私達に鋭い視線を送っていた。
まさか、こんな強面の人達がナイトが新たに集めた仲間だとは信じたくはなかったが、周囲の様子からして、それは紛れもない事実。
まるでこの空間は治安の悪かったブイエイト町を小さくしたような場所に見えてしまう。
どうも私には居心地が……しかし裏を返せば、見るからに強そうな人達の集団なのだけれど。
中は何かと以前のアジトに似ており、恐らくそれを出来る限り再現しようとしたのだろう。
広さは前より広くなっているみたいだけれど、やはり突貫工事だったのか、細かい所を見ると乱雑部分もある。
壁や床は全くといって塗装が施されておらず、無機質さを丸出しにしているが、返ってそれが前のアジトに一番似ていた。
私達はブースターに先導されながら、奥へと進んでいく。
前のアジトと同様に、敵の目を欺く為にこのアジトも地下に建設されているため、窓一つない閉鎖的な空間の中、周囲から私達に向かって鋭い視線の矢が放たれるが、間違ってもここで私達は手を出してはいけない。
気が合わないとしても、彼等は私達に協力してくれている大切な仲間なのだから。
睨んでくる周囲の人達を睨み返し、今にも飛びかかろうとしているバンをリュウとグレンの二人掛かりで宥めながら、私達は部屋と言うのか廊下と言うのか分からないこの空間の一番奥に辿り着いた。
そこにある補強されていない普通の扉をブースターが後ろ足で立ち上がって前足を器用に使って開けると、私の目にとても懐かしい面々が飛び込んでくる。
部屋の中で私達を待っていたのはナイトを始め、傭兵隊ブイズの仲間達であった。

「皆久しぶりだな」

「はい。お久しぶりです」

傭兵隊ブイズの皆の中心で後ろ足を曲げて、座っているナイトから掛けられた声。
久しぶりに聞いた彼の声は分かれる前とは全く変わらず、傭兵隊を纏め上げる彼の統率力が宿った声であった。
私達の代表でリュウがナイトに挨拶を返すと、廊下(?)で見た柄の悪い人達の影響もあったか私達に張り詰めていた緊張の糸は途端に解れ、私の周りは和やかな雰囲気に包まれる。
そんな和やかな雰囲気の中、久しぶりに皆の顔を見て再会の喜びに浸っていた私であったが、ふと重要な事を思い出した。
私達が突き止めた情報。そして、手に入れたフェニックスの材料となる鉱石。
これをナイトに渡さないと。
その情報と手に入れた鉱石は私達の努力の結晶とも言える物であり、私は早くナイト達に私達は頑張ったのだと言う事を伝えたかった。
私は隣に居る巨漢のバンを見上げながら、彼にその事について話しかける。

「ねぇ、早速情報と鉱石をナイトに渡そうよ」

「まっ、そう焦るなって」

急かす私をバンは見下ろしながら言葉で押しくるめ、彼は前を見ろと目で私に合図してきた。
そんな彼の目線を追いかけて前方に目を向けると、何時の間にか皆ナイト達の方に行っており、夫婦と言う間柄であるナイトとデイは再会の喜びを冷静な表情ながらも分かち合い、さらにリュウやグレンも傭兵隊ブイズの皆と楽しそうに話していた。
私とバンの目に映る皆の表情は嬉しそうだったり、穏やかだったりと、久しぶりの再会なだけあって部屋の雰囲気はとても和やかである。
その光景に少し目を奪われた私にバンは普段はあまり見掛けない穏やかな表情で私に語りかけてきた。

「フェニックス計画を阻止する事が最優先目標らしいが、久しぶりの再会らしいじゃねぇか。皆あんなに楽しそうに話しているんだし、フェザーも再会は嬉しいだろ?……情報なんて後で伝えりゃ良いんだよ」

「そっか……楽しむ時は楽しめって事?」

「まっ、そんなとこか」

腕を組み、身長の関係で私を見下ろしながらそう言ったバンから私は視線を逸らし、再度皆の居る方を見れば、皆は久しぶりの再会に会話を弾ませている。
楽しむ時は楽しみ、集中するべき時は集中する。
そういったメリハリが大事なのかも知れない。私と違い、それを理解しているからこそ、皆は久々の再会の中で会話を思い切り楽しめているだろう。
そう考えると、皆と再会できたのがより嬉しくなってきて、私は情報とか堅苦しい事は泡忘れて皆の方に向かって急ぎ足で歩いて行き、団欒の中に入って行った。








24話に続きます。


PHOENIX 24 ‐疑念‐


あとがき
先ず、投稿が遅くなってしまい申し訳ないです。
……さて、ようやくフェザー達はナイト達と合流出来ました。
これからはラストに向けて執筆を頑張りたい所なのですが、最近またスランプに陥ってしまいしまして……ストーリーは頭に浮かんでいるのですが、いざ書こうとしても中々文章が浮かんでこないのです(汗)
夏休みに入って時間はあるのですけれどね。
なので投稿サイクルが長くなってしまう可能性もありますが、ご理解頂けると幸いです。

こんな駄文にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。
もし、宜しければ誤字、脱字の指摘や感想などを頂きたいです。




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Last-modified: 2010-08-15 (日) 00:00:00
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