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PHOENIX 20 ‐弱点‐

/PHOENIX 20 ‐弱点‐

PHOENIX
作者 SKYLINE
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20話 弱点

引き止められた私の先で、崩れた岩に潰されたストライクの鎌の先端だけが力なく地面に横たわっている。
そんな目の前の光景を見て、私は目を大きく見開きながら硬直してしまっていた。
敵とは言え、また私の目の前で尊い命が失われてしまったのだ。
死を確認する前に死んでしまったと決め付けるのは良くないかもしれないが、もはや確認するまでも無かった。
元々、ストライクは怪我をしていたのだし、崩れた岩の量からしても助かる見込みは無い。
地面に力なく横たわっている彼の鎌は土埃で汚れながらも、まだ僅かに懐中電灯の光りを反射して白く輝いていた。
ようやく目の前の光景から私は目を逸らし、ゆっくり振り返ると、リュウが前足で私の左翼を掴んでいた。
坑道が崩れ、ストライクが潰されたあの時、私を止めたのはリュウだったのだ。
おそらく、あのまま私が突っ込んでいたら、ストライクを助けるどころか、私も崩落に巻き込まれて岩の下敷きになってしまっていただろう。
きっとリュウはそうならないように、私を止めたのだ。
冷静になって考えれば、私のとった行動は無謀なだけ……
私は俯きながらリュウに目を合わせると、彼は首を何度か横に振った。
しばし沈黙してしまった私であったが、せめて岩の下からストライクを取り出そうと思い、再びリュウを見ると、彼も私の考えていることを悟ったのかゆっくりと頷く。
そして、リュウが皆に私の考えていた事と同じ事を言うと、皆も頷いてくれた。
私達は丁寧に、そして一つずつストライクの上に圧し掛かっている岩を退かしていき、土埃で体が汚れながらもなんとか岩の下からストライクを救出した。
空かさず、デイがストライクの安否を確認し始め、私達は僅かな希望を抱きながら、彼女の答えを待つ。
答えは直ぐに出たようで、デイは私達の目の前で首を横に振ると、開いているストライクの瞼を優しく下ろした。
やはり助からなかったか……
希望を抱きながらも、どこか諦めていたようで、私はさほど驚かなかった。
その後、私達はストライクのダンと彼の兄でハッサムのセツの亡骸を丁寧に私達が居るこの採掘場に埋め、手厚く埋葬した。
例え、彼等が敵であっても、同じポケモンと言う種族なのだから……
さてと、各自の怪我もデイが応急処置をしてくれた事だし何時までも彼等の死を引きずっている訳にはいかない。
ここから脱出しなければ。
私は周囲を一度グルリと見回してみたが、やはり何処にも出口は無い。
完全に閉じ込められていた。
それに、懐中電灯の電池の残量が少なくなってきているのか、先程から少し光りが弱くなってきている。
そんな中、ふと懐中電灯の光りに何かが反射した。

「ん?」

懐中電灯の光りは崩れた岩が転がる坑道の直ぐ横を照らしており、私が目を細めると崩れた岩の間に黒光りする物が見えた。
それを見た途端。私は光りを反射するそれに向かって駆け出す。
あの光り方……それは私達が探しているフェニックスの輝きに非常に似ており、原材料である鉱石の可能性は高い。
左翼で持った懐中電灯の光りで常時それを照らしながら、私は右翼で岩を退かし、その黒光りする鉱石を手に取った。
この輝き方。それは正しくフェニックスと同じ輝き方だ。
きっと、これがグレンの言っていた原材料の鉱石だろう。
私はそれを掲げながら体中が土埃で汚れている皆に向かって大きく叫ぶ。

「見つけた!」

「ホントか!?」

「え!?……ホントですか!?」

私が声を上げると、皆が揃って聞き返してきた。
そして、皆は作業を直ぐに止めて私の周りに駆け寄ってくる。
皆に囲まれる形で私は黒光りする鉱石を地面に置き、それに向かってほぼ真上から懐中電灯の光りを当てた。
リュウもグレンもデイも……この場に居る全員がその鉱石に釘付けとなり、首を伸ばして覗き込む。
不気味なくらい真っ黒だが、光りを反射している部分は正反対に真っ白に輝いている。
そんななんとも不思議な鉱石の前に、私を含めた全員が見入ってしまい、しばらく沈黙が続いた。
数秒間、誰も何も言わなかったが、リュウがその鉱石を見詰めながら静寂を切り裂いた。

「これが……フェニックスの材料か」

「……多分そうです。俺もフェニックスは見た事ありますが、殆どそっくりで違うのは形と大きさ位ですよ」

リュウが呟いたのに反応し、グレンが黒光りする鉱石を上から覗き込みながら呟くように言った。
実物を何度も見たことのあるグレンが言う事なので、この鉱石がフェニックスの材料だという事はほぼ間違いは無い。
後はこれを分析やら何かすれば、フェニックス計画の阻止にきっと役立つ筈だ。
そうなると、問題は今、私達が完全に閉じ込められてしまっている事。
せっかく手に入れたこの鉱石も、私達がここから出られなければ陽の光りを浴びる事はないだろう。
だから、私達はここからなんとしてでも脱出しなければ。
けど、状況は最悪と言っても間違ってはいない。
完全に閉じ込められてしまっている上に、懐中電灯の光り以外に光源が無い為、翼で握っている懐中電灯の電池が切れたら、暗闇に慣れていない私達の目は使い物にならなくなってしまい、ここから一歩も動けなくなる。
グレンに炎で照らしてもらうと言う手段もあるが、ここは既に密閉された空間な為に酸素の量が限られているので無闇やたらと火は起こせないのだ。
そんな中、私はとりあえず一度地面に置いた鉱石を拾い、それをリュウに渡した。
私なんかが持っているより、リュウが持っていた方がずっと安全だろうし。
リュウは私が渡した鉱石を丁寧に胸の辺りに装着しているポーチにしまうと、右目でバンを見ながら口を開いた。

「あんた、この鉱山に詳しいんだろ?この採掘場の近くに別の坑道とかは通っていないのか?」

「う~ん……」

リュウに質問されたバンは腕を組み、さらに首を傾けて思い出すように考え始めた。
私を含め、自然と私達の希望が視線となってバンに注がれる。
と、その時だ。
バンは何かを思い出したのか、手を軽く握りながらその拳同士を叩き合わせた。
途端に私達の希望の視線は強くなり、全員がバンの顔に見入る。
バンは私達から視線が注がれているのに気が付くと、腕を組み直して顔を斜め上に向けながら私達を見下ろす形で口を開いた。

「まぁまぁ諸君。そう急かすなって。……俺の記憶が正しければこの真上に水の流れる自然の洞窟が在った筈だ。つまり、ここの天井を意図的に崩してその洞窟を通れば外に出られる筈。……ふむ。我ながら名案だ」

「……あの、ちょっと良いですか?この天井を崩したりなんかしたら、その洞窟を流れる水が一気に降りかかってくるんじゃ?そしたら、みんな溺れちゃいますって」

「…………あ」

バンの出した案はグレンの突っ込みによってことごとく粉砕され、再び私達はここから脱出する方法を考えなくてはならなくなった。
これには私を含めたバン以外の全員が一斉に肩を落とし、淀んだ空気が一層淀んでしまった気がする。

「もうちょっと考えてから発言してくださいよ」

「ホントに警察官なのかしら……慎重さが欠けてる気がするわ」

「確かに欠けてますよねぇ」

皆が口々に何やら呟きながら集まった状態から重い足取りで散開し始め、残った私とリュウは一度目を合わせてから二人揃ってバンに目を向けた。
すると、何時の間にかバンの姿が消えており、辺りを見回すと私達が居るこの採掘場の隅で屈みながら何やら小声でブツブツと言っている。
まぁ、巨体の持ち主なだけに屈んでいてもかなり大きく感じるし、その巨体に見合った声は小声でも私達の耳に十分に届く。

「どうせ、どうせ俺は落ち零れ警官だよ……」

「ま、まぁ、元気出せって。な?」

皆に散々?言われたバンが可愛そうに見えたのか、隅で屈む彼の元までリュウは歩み寄っていき、彼の肩を前足で何度か軽く叩きながら彼を励ます。
態度が大きかったり、外見に似合わず意外に心が脆かったり、出会ったばかりと言う事もあるがバンはよく分からない人だ。

「そう落ち込むなって。警察ならもっと心も体も強……あ、体はもう強いな。取り合えず元気出せ」

「そんなの気休めだろ!……もういい、俺はお前等なんかを当てにしないで自分で脱出する!!」

「……は?」

リュウに励まされたにも関わらず、バンの心の傷は癒えなかったようで、彼はスッと立ち上がると顔の先端を天井に向けた。
そして、足を大きく開き、戦闘時のように大きく身構える。
何か嫌な予感がしてたまらない。
私が不安を募らせる中、リュウはバンを見上げながら首を傾げて硬直していた。
リュウに見上げられている中、バンは身構えたまま大きく口を開く。
さらにその口の中にエネルギーを溜め始め、そのエネルギーの固まりは彼の悲しみ?を集めたかのようにどんどん大きくなっていく。
ここまで来ると彼が何をしようとしているのかは理解出来た。
そう、彼は天井に向けて“破壊光線”を放ってそこに穴を開けようとしているのだ。
リュウも私と同じように彼が何をしようとしているのかを理解出来たようで、血相を変えて慌て始めた。
私もこうしている場合では無い!何としても彼の“破壊光線”を止めないと。
あれだけの巨体だ。その威力が高いのは私にでも容易に理解が出来る為、“破壊光線”が放たれたらどうなるかは想像が付いていた。
おそらく、グレンの言っていた通りになるだろう。
そうなれば、私達の運命は……
とにかく今は彼を止めないと。
既にリュウは彼を掴んで必死になって諭し始めておりその表情はまるで戦闘中のよう険しい上に、かなり焦っているのが目に見えて分かる。
グレンやデイ達も彼のやろうとしている事に気が付き、慌て始めた。
グレンやイーブイに至ってはここから必死に逃げようとしているが、ここは密室。
逃げ場なんて何処にも無いのだ。
そして、私がリュウに加勢して彼の無謀を超越した自殺行為を止めようと駆け出した瞬間。
一筋の光が天井目掛けて放たれた。

「!!……に、逃げろぉぉぉ!!」

「ひぃぃぃぃ!!」

「本気で撃ったぁぁぁ!!

その光景にリュウやグレン、イーブイが口々に口を最大限に開けて叫ぶが、その時既に放たれた悲しみ?の“破壊光線”は天井に到達して硬い岩の砕いていき、天井を崩していく。“破壊光線”が岩を激しく砕く音、崩れた岩同士がぶつかる音、崩れた岩が地面に激突する音。
様々な轟音が私達の耳に容赦なく飛び込み、その中で私達はこの採掘場の隅に身を寄せ合い目を瞑って必死に頭を抱えていた。
きっとバンの放った“破壊光線”によって開けられた穴から大量の水がここに流れ込んできて、私達は苦しみながら窒息していくのだろう。
私は覚悟を決めていた。
……しかし、いつまで経っても水の冷たい感覚を私は感じなかった。
その事に疑問を感じた私はそっと瞼を持ち上げると、そこに水は一滴も無く、崩れた岩が重なった山と細かい土埃、そして腕を組んでまるであのジャウのように仁王立ちしているバンの姿があった。
リュウやグレン達も私と同じように水が流れてこないのに気が付いたのか。瞼を持ち上げてゆっくりと立ち上がっていく。
私達が恐る恐る立ち上がった直後、バンが満足そうに笑いながら口を大きく開いた。

「ははは!見ろ!水なんて流れてこなかったじゃねぇか!やっぱ俺は正しかったんだ!」

……まぁ、確かに水は流れてこなかったけれど、幾らなんでもリスクが高すぎただろう。
もしも流れてきていたら、今頃私達はもがき苦しみながら溺れているかもしれないのだから。
私達の冷や汗が未だに引かない頃、結果オーライと言った感じで笑っているバンを素早くリュウが前足で殴った。

「ぐへっ」

殴られたバンの巨体は勢い良く地面を転がっていき、壁にぶつかると土埃を舞い上げながらそこで止まった。
彼を殴ったリュウは二本足で立ち上がりながら口を大きく開くと大声で怒鳴り散らす。
ただ、予想外に彼の体が硬かったようで彼を殴った前足を痛そうに振っているけれど……

「何考えてんだ!!確かに結果オーライかもしれないがリスクが高すぎるだろ!!」

「イテテ……いや、そ、そのですな」

「とにかく、今後そういった行動はするなよ!!……リアルに寿命が縮む」

「は、はい」

リュウに説教されているバンは以外にも弱腰になって何度も頭を下げてリュウに謝り、自分の間違いを反省している様子。
まぁ、確かに彼の行動は危険極まりなかったが、反省は十分にしているみたいだから私は許すとしよう。
きっとグレンやデイ達も許してくれるだろうし。
……と、思ったけれど既に寄ってたがっての説教会が始まっているようだ。
しかしまぁ、結果的にはバンの“破壊光線”のお陰で脱出口は開けた。
後は天井の穴まで飛行が可能な私とリュウで皆を運べば、無事に全員脱出出来るだろう。
バンの話ではこの自然の水路は外まで続いているらしいし。
寄ってたがりながらバンに説教をしている皆の方に私は歩み寄り、説教の中に割って入った。
あの優しいデイもさすがにバンの行動に問題を感じたようで、普段より大きな声でバンを叱っている。
なんだか、皆に説教されて落ち込んでいるバンが体だけが大きな子供にすら見えてきた。
ちょっと可哀相……かな?
まぁ、とにかくここで説教を続けていても仕方ないから皆にここから脱出しようと告げよう。

「いい?今度あんな真似したら許さないわよ!」

「あの、先ずは脱出しません?説教はそれからでも……」

「……あ、そうよね。ごめん」

私が止めてようやくバンに対する説教会は閉会した。
バンには悪いが一時的に閉会しただけの可能性はあるけれど。
説教されて力なく座り込んでしまっているバンをリュウが何とか立ち上がらせ、私達は上にある洞窟から出口を目指す事にした。
先ずは、リュウと手分けして皆を上にある洞窟までは運ぶ必要がある。
高さ的に、ジャンプで届きそうに無いからだ。
私は最初にデイに背中を差し出し、彼女を背中に乗せた。
そして、自分で言うのもなんだか、純白……あ、純白では無いか。
土埃で所々茶色く汚れている翼を羽ばたかせて大地から足を離した。
自分でも不思議に思うくらい、体はフワリと宙に浮き、私はそのまま羽ばたいてバンが空けた穴に向かって飛んでいく。
下からイーブイやバンが懐中電灯で照らしてくれているお陰で視認性は決して低くないので、どこかに頭をぶつけるとかの事故は無いだろう。
種族は違えど、彼女は私と違ってスタイルも抜群なだけにしっかりと体重の管理もしているようで、私の頭の中に重いと言う感情は生まれなかった。
ただ、私の背中に掴まるデイはなんだか、恥ずかしそうにしているのだけれど。
天井に開いた穴には直ぐに辿り着き、私はその穴の先にある洞窟に地面に翼を忙しく羽ばたかせながらゆっくりと着地した。
そして、デイをそこに下ろす。
地面に足を付けてみて感じたのだが、思ったより地面が乾燥している。
バンはここに水が流れていたと言っていたので、もう少し湿っていると予想していたので、正直な所、少しばかり驚いた。
私の背中から軽やかに降りたデイも、私と同じように、乾燥した地面に少し驚いている様子で、地面に足を着けたり、離したりしながら感触を確かめている。

「思ったより、乾燥してますね」

「そうね……この乾き方だと少なくても数ヶ月前にはここは水が流れなくなっていたわね」

何が在ってここに水が流れなくなったのかは知らないが、今の私達にとってはとても好都合だ。
私とデイが地面が乾燥している事について話していると、懐中電灯の白い光りが差し込む穴の下からリュウが真紅の翼を羽ばたかせ、背中にグレンを乗せながら上昇してきた。
そして、私と同じように忙しく翼を羽ばたかせながら、ゆっくりと着地する。
二枚の立派な翼が生える背中からグレンを下ろしたリュウは、顔を下に向け、地面を一度見詰めた後、顔を上げて私達の方を見ながら口を開いた。

「思ったより、乾燥してるな」

「フフ、同じ事言ってるわね」

「え?」

リュウが私と全く同じ事を言ったので、デイがクスクスと笑いながらリュウに言った。
当のリュウはと言うと、状況があまり理解できていない様子で首を僅かに傾けて表情を困惑させている。
その様子が少しおかしくて、私もデイと同じようにクスクスと笑ってしまった。
すると、リュウはさらに状況が分からなくなったみたいで、表情をより困惑させる。
ちょっと、リュウには悪いけれど、からかうのは地味に面白い。
そんな困惑しているリュウの隣では彼と同じように、状況が全く理解できていないグレンが暇そうに地面を見詰めながら、以外に乾燥している地面の感触に違和感があるようで表情を微妙に曇らせていた。
さてと、何時までもからかっている訳にはいかない。
まだ下に居るバンとイーブイの二人を運ばなければならないのだから。
私は穴の所まで早足で歩いて行き、状況を飲み込めずに困惑しているリュウの前足の付け根をすれ違い様に軽く叩き、明るく声を掛けた。

「さっ、バンとブイを運ぼう」

「え……あ、あぁ」

私がリュウの横を通り過ぎると、彼は未だ戸惑いを隠せていない顔で返事をし、身を翻して私の後に付いてくる。
そして、いかにも強引に空けたように淵が整っていない穴の前で私は一度立ち止まると、そこから、飛び降りた。
それに続き、リュウも飛び降り、私達は翼を羽ばたかせて落下速度を抑えながら下の採掘場に足を着けた。
僅かな衝撃が足の裏から伝わってくるも、それは慣れたもの。
飛行タイプ故に、今まで何十、何百……いや、何千回と着地と言う動作はしているのだから。
着地した私とリュウはバンとイーブイの元まで、歩み寄り、当然?の事ながら私はイーブイに向けて背中を差し出す。
私はバンの巨体を持ち上げられる自信なんてないし、先ず、体格の差が開き過ぎている。
だから、ここは私と違って力持ちのリュウに頑張ってもらおう。
しかしまぁ、今、私の視界には並んだリュウとバンが居るのだが、私より差は少ないけれど、体格の差は歴然だ。
リュウが普段四足歩行な事もあるが、彼が二本足で立ち上がっても、身長は追い付かないだろう。
全く、どんな生活を送っていればあんなに体が大きくなるのやら。
さてと、それは置いといて、私と違って飛ぶ事の出来ないイーブイを上まで運ばなければ。

「じゃ、ブイさん。私の背中に乗ってください」

「あ、はい」

私はイーブイに声を掛け、彼を背中に乗せると、翼を羽ばたかせて蝶のように華麗に……すみません、ちょっと調子乗りました。
あくまでも普通に飛び上がった。
イーブイがデイ以上に軽い事もあって、穴の上には瞬く間に辿り着き、最初と同じように彼をゆっくりと下ろす。
イーブイを背中から下ろした後、懐中電灯で穴の下に居るリュウとバンを照らしているグレンの元まで私は歩み寄り、そこから穴の下を覗く。
体格に差があるだけに、バンを背負うのではなくリュウは彼の背中の突起を掴んで必死になって翼を羽ばたかせていた。
表情は戦っている時のように険しく、かなり頑張っているのが分かる。
それだけバンが重いのだろう。
上昇する速度も、私がデイやイーブイを運んだ時に比べて非常に遅く、中々こちらまで辿り着かない。
バンもそれなりに気を遣っているようで、出来る限り体を動かさないようにしてリュウがバランスを取り易いようにしている。
ここは、リュウに救いの手を差し伸べて手伝うべきだろうか。
しかし、もうここまでの距離は殆ど無いし……私がそうこう考えている間に、リュウは息を上げながら私達の元までバンを持ち上げ、彼をその場に下ろすと落ちるように着地した。

「はぁはぁ……バン。あんた重すぎだ……」

「こ、これでもダイエットして結構痩せたんだぞ!」

「……って事は昔はもっと巨大で重かったのかよ」

「ふっ、察しが良いな。その通りだ」

「…………」

バンの発言にリュウは言葉を失ってしまい、地に伏せながらバンの巨体を眺めていた。
それにしても、昔はもっと巨大で重かったとは、もはや怪物級だ。
私なんかでは持ち上げるのは夢のまた夢だろう。
少しの間、重労働を終えたリュウを休ませて私達は行きと同じようにバンの案内で人の手が加えられていないこの洞窟を進み始めた。
入る時に通った坑道以上にこの洞窟は足場が悪く、非常に歩き難いが、広さ的には若干ではあるが、坑道よりは広そうだ。
私は翼で懐中電灯を握り、リュウの隣で足元に気を付けながら歩いていると、リュウが何の前触れも無く、小さく呟いた。

「そう言えば、なんでここに水が通らなくなったんだろう?」

「ん~、水源が枯れちゃったんじゃない?」

「水源か……そう言えば、ここに来る前にあった川も枯れてたよな?」

「え?……あ、そう言えば確かに枯れてたね」

私とリュウが他愛も無い会話をしていると、先頭を歩くバンが、振り向かずに私達に言葉を投げてきた。

「あ、今思い出したんだが、前に川の上流に軍がダムを建設してたな。確か、洪水防止とか言う理由だったかな?……それで枯れたんじゃないか?」

バンから投げられた言葉。
私はその言葉をただ耳で受け止めただけであったが、リュウはその言葉を聞いた途端、顔を下に向けて、なにやら考え事を始めたようだった。
バンの放った言葉になにか、引っ掛る事でもあったのだろうか。
考え事を始めたのはリュウだけで、デイもグレンもバンの言葉には殆ど、耳を貸さなかった。
しばらくの間、リュウは一人で考え事を続け、口はずっと閉じたまま。
そんな彼に疑問を感じ、何を考えているのかと尋ねようとしたその刹那。
リュウの瞼が僅かに持ち上がり、彼の青い瞳の全体とまでは行かなくても、大体が見えた。そして、それと同時にリュウは下に向けていた顔を上げ、固く閉ざされていた口を開く。

「バン。そのダムを建設したのは、ここで採掘が始まったのと同じ時期か?」

「え?……あ、あぁ。そうだ」

「やっぱそうか。ずっと前にフィンが“俺の故郷は気候も割と安定してて何も起こらない平穏な町だ”って言ってたんだ。つまり洪水なんて起こった事が無いんだよ。なのにわざわざダムを建設したとなると、おそらくフェニックス計画に水が邪魔だったんだ」

「水が邪魔?」

正直、私はリュウの言っていた事を直ぐに理解する事が出来なくて、思わず聞き返してしまった。
一方デイやグレンも耳の角度を変えてリュウの話に聞き入っている。
バンも少し目を開きながらリュウの話を聞き、私達の視線の的は自然とリュウに集まっていた。
しかし、水が邪魔とはどういう事だろうか。
私が真っ先に思い浮かべたのは、鉱山で働く人達の安全確保。
けれど、坑道内で私達があれだけ暴れ、尚且つジャウの繰り出した“地震”でも崩れなかった程の採掘場なのだから、地盤関係は非常に強固な筈。
染み込んだ水によって弱くなるのも考えたが、だとするとジャウの何度も放ったハイドロポンプで崩れていた筈だ。
なので、水自体で安全性が下がる事はありえないと言っても過言ではないだろう。
さらに考えれば、フェニックス計画は決して表に出てはいけない陰謀なので、あまり目立つ事は軍もきっとしたくはない筈。
それなのにダムを作ったと言う事は水がかなりフェニックス計画にとっての障害になっていたのだろうか。
私が考えている最中、皆も脳をフル稼働させて水が邪魔な理由を考える。
しかし、深く考えてみて思ったのだが、水が邪魔と言うのはありえないのではないだろうか。
私達ポケモンは例え炎タイプだろうと体にある程度の水分を蓄えている。
マグマラシと言う種族で炎タイプのグレンも水を飲むのだから。
もし、フェニックスに水が邪魔だとすると、私達の体内に入れる事すら出来ないのではないだろうか。
全く、謎は深まるばかりで正直、頭が痛くなりそうだ。
とにかく、一人で悩んでいても仕方がないので、今まで考えていた事を皆に言おう。
少しでも皆のヒントになるかもしれないし。

「ねぇ、フェニックスにとって水が邪魔なのは確かなんでしょ?でもさ、そしたら私達ポケモンは体内にある程度の水分を蓄えているのだからさ、そもそも最初からフェニックス計画なんて無理なんじゃないのかな」

「……確かにフェザーの言う事は正しいかもしれないわ。でも……その、例えが悪いかもしれけど、仲間だったフィンはフェニックスの効果で敵になっちゃったんでしょ?つまり、無理じゃないのよ」

デイが私にそう言うと、リュウがデイに助言するように発言する。

「それに、防水加工とかして球体を水を通さない物で覆ったりしたら、それこそ効果が出なくなる筈だ。前にフェザー言ってただろ?あれは神経回路に作用するって。ようするに、覆ってしまったら、何も通さないのだから逆に神経回路に作用する成分だかなんだか知らないが、その類も通せなくなっちまう」

「う~ん……」

先程まではリュウに視線が集まっていたのだが、私が発言したのをきっかけに今度は私に視線が集中する。
ちょっと、恥ずかしい……
そして、肯定しているようで否定している彼女の発言やリュウの説明で私の脳はより混乱してしまう。
もう……フェニックスは無気味過ぎるし謎過ぎるって。
そんな事を考えながら、私達はまるで果てしなく何処までも続いているかのような洞窟を足元に注意しながら歩いて行く。
ふと気が付いたが、バンは行きの時は何度も転んでいたのに帰りは全く転ばないな……って、そんなどうでも良い事を考えている暇があるのなら、フェニックスの謎について考えなければ。
皆、私なんかと違って必死な表情で考えているのだし。
進んでいるのは確かなのだが相変わらず地面の起伏は激しく、足元に気を配っていないと転びそうになってしまう。
さらに、少し前から天井も低くなってきている気がして止まない。
ふと、先頭を行くバンを見れば、彼は既に頭を下げながら歩いていた。
足元にも天井にも気を配らなければならないなんて、まるで自然が私達に牙を剥き出しにして挟み撃ちを仕掛けてきているようにすら感じる。
これでは落ち着いて考えられない。
目に入る色はずっと同じ灰色。一向に変化は無かった。
と、そんな時だ。
足音以外が聞えていなかったが、突然洞窟の中に声が響いた。

「なぁ、思ったんだが、水が障害なのは明らかだとして、その水の量によるんじゃないか?」

「どういう意味?」

声の主はリュウで、彼はポーチから例の鉱石を取り出してそれを眺めながら言った。
私は足を止め、皆も足を止めるとそれぞれがリュウに目を合わせる。
そして、真っ先に私はリュウに聞き返した。
正直、今の一言ではよく意味が分からなかったから。
すると、リュウは地面に撒かれたように所々に溜まっている乾燥した砂を前足で少量掬い、二本足で立ち上がりながら空いている方の前足でポーチから水筒を取り出した。
その様子を私達は黙って見守る。
リュウは水筒のキャップを口を起用に使って開けると、前足で掬った砂に水筒の水を少しだけ掛けた。
そして、水筒を地面に置くと、水を含んで色の濃くなった砂を両前足を合わせるようにして握る。
何度かリュウは水を含んだ砂……と言うよりは泥に力を込めると、合わさっていた前足をそっと離した。
私達の視線は吸い込まれるようにリュウの前足に集中し、皆が釘付けになっていた。
リュウの前足の上に乗っていたのは小さな泥団子。
果たして、これが何を意味しているのだろうか。
私達に泥団子を見せたリュウは徐に口を開く。

「俺の勝手な推測なんだが、フェニックスは泥団子みたいな物なんだと思う。砂に少量の水を与えてやれば、形を形成させる事が出来る。つまりプラスに働くんだ。でも、与えすぎると……」

リュウは話しながら地面に置いた水筒を拾い、又もや水を砂……いや、泥団子に掛けた。
すると、泥団子は今まで綺麗に形を形成していたにも拘らず、ドロドロと崩れていき、水のようにリュウの前足から地面に垂れていく。

「こうやって、崩れてしまう。つまりマイナスに働くんだ」

「そうか!」

「なるほど!」

私を含めた全員がリュウの説明に納得することが出来た。
リュウが言いたかったのは、フェニックスは私達ポケモンが体の中に普段蓄えている位の量の水は効果を出す為のエネルギーとするけど、過剰な量の水は悪影響なのだ。と、言う事。
だから、軍はダムを建設して川の流れを止めたのだろう。
川と言う大量の水が流れていてはフェニックスの材料の鉱石が使い物にならなくなる。
これなら辻褄は合うし、私達の通っているここに水が流れていないのも納得だ。
リュウはフェニックスの材料である鉱石の一部を砕き、その小さな破片に水筒の水を掛け始める。
最初は何の影響もなかったが、しばらくの間、水を掛け続けている内にそれこそ泥団子のように崩れて行った。

「ビンゴだ!」

「おぉ!」

その光景を見たリュウは表情を明るくしながら声を上げ、それに釣られてグレンも目を輝かせながら声を上げた。
この即席の実験結果からして、リュウの言っていた事にほぼ間違いは無いだろう。
ようやく、私達はフェニックスの弱点たる物を見つける事が出来たのだ。
後はさっさとこんな鉱山から脱出して掴んだ情報をナイト達に伝えなければ。
移動を再開した私達は足元に注意しながら何とか洞窟を抜け、数時間ぶりに陽の光を浴びた。
実際の所、もう夕方で太陽は山の陰に身を沈め始めていたけれど。
私達が洞窟から出たほぼその直後、握っていた懐中電灯の光りは点滅しながら消えた。
ここまでよく頑張ってくれたものだ。
懐中電灯の光りが無ければ歩くことすらままならなかったのだから感謝である。
真っ赤な夕日を見て目を細めていたデイがゆっくりとバンの方に目を移し、彼と目が合ったのを確認すると、口を開いた。

「これからどうするの?」

「そうだな、なんか人事じゃない気がするから、あんた等に協力する」

デイはバンに一言尋ねると、彼は頭に片手を当てながら彼女の質問に答えた。
すると、デイはバンが最初からそう言うと分かっていたかのような顔で彼に向かって前足を差し出す。
そして、しゃがみ込んだバンと握手を交わした。
まぁ、ちょっと頼りない人だけれど仲間が増えた事は良い事だ。
私達はバンに改めて自己紹介をしてそれぞれの方法で握手を交わす。
小柄なグレンやイーブイなどは大変そうだったけれど……
そして、私達六人は夕日に照らされながら一路、ニックス町を目指して夕陽によって赤みを帯びた大地を歩き始めたのだった。








21話に続きます。


PHOENIX 21 ‐休養‐


あとがき
前話がシリアスだっただけに、少し雰囲気の改善を図ってみたり……え?出来てない?
さて、フェザー達はフェニックスの弱点たる物を見つける事が出来ました。
これで少しは形勢がフェザー達に傾いた?
そして、彼女等は新たにバンを仲間に加え、鉱山にお別れを告げて歩き出しました。
掴んだ情報を別行動している(ここ最近非常に影の薄い)ナイトに伝える為に。

こんな駄文にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。
もし、宜しければ誤字、脱字の指摘や感想などを頂きたいです。




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Last-modified: 2010-06-28 (月) 00:00:00
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