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PHOENIX 16 ‐移動‐

/PHOENIX 16 ‐移動‐

PHOENIX
作者 SKYLINE
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※訳あってタイトルを変更しましたが、公開しているストーリーなどに変更はありません。
これからもよろしくお願いします。

16話 移動

誰かが私の耳元で何か言っている。正直言うと……喧しい。
今、私の耳に入ってくる全ての音は快適な睡眠を妨げる音にしか聞えない。
ちょっと言い過ぎたかも……きっと、誰かが私を起そうとしているのだろう。
私は顔を少しばかり顰めながら、重たく圧し掛かってくる瞼をゆっくりと持ち上げた。
最初に入ってきた光景はぼやけている洞窟の天井。
私は翼で寝起きの目を擦りながら、視線の矛先を洞窟の天井から横に移した。
相変わらずランプは淡い赤の光りで私を照らし、中の炎はユラユラと揺れ動く。
ランプはどうでも良いとして、赤い光りを背中とそこから生えた立派な大翼に受けているリュウが私に何か言っている。

「フェザー。起きろって」

「う~ん」

本当はまだまだ眠っていたいけれど、リュウが起きろと言っているのだから素直に私は体を起き上がらせた。
私はそのままの体勢を維持したまま、上を向きながら両翼を見えない空に向かって大きく伸ばし、体も眠りから起す。
これから体には動いてもらうのだから、しっかりと、目を覚まさせておかないと。
……とは言っても、私の体はそこまで素直では無い。
一言で表現すれば、怠けている。
どうやら、起動には幾分時間が掛かりそうだ。
私は布団から這い出る様にしながら、ジャガイモの表面の様にゴツゴツとした暗い灰色の地面に足を着け、まるで時間の進みが遅くなってしまったのかと錯覚を起こしてしまう位
ゆっくりとした動きで立ち上がった。
私の正面でその動きを見ていたリュウの表情は少し呆れている様にも見える。
まぁ、こんなにも鈍い動きをしている私を見れば、誰しもが呆れ返ってしまっても決して、おかしくはない。
ただ、好きで動きを遅くしている訳ではなく、寝起きの体がどうも、機敏には動いてくれないのだ。
さて、時間を掛けて立ち上がった私は何時もの様に笑顔でリュウに挨拶をし、眠っている間にお世話になった小さな布団を感謝しながら畳み始める。

「フェザー。準備が出来次第、直ぐにニックス町に向けて出発するから出来るだけ急いで準備してくれ。もう、フェザー以外の皆は準備万端だからな」

「え?」

これは正直恥ずかしい。皆がせっせと移動の準備をしている中、私は一人で夢の中だったのだから……
あれ?どんな夢を見てたっけ?
違う。夢の事なんてどうでもよい。今は一刻も早く、準備をするのが最優先だ。
……それにしても、リュウももっと早く起してくれれば良かったのに。
私は今までの緩慢な動作とは打って変わり、“高速移動”でも使用したかの様に素早く荷物を纏め始めた。
移動となれば、出来るだけ軽装備にしたいところだが、正直、何が起こるか分からないので、使えそうな物はとりあえずバックに強引にでも押し込む。
懐中電灯やロープ、使い方の分からない暗視ゴーグルとか言う物……その他諸々だ。
少しバックが悲鳴を上げているみたいだが、私は気にせずに大口を開けているバックに強引にチャックをした。
リュウの救出作戦の時は、予め、走る予定だったので本当に必要最低限だったが、今回は必要最大限と言った所。
見た目だけだと、リュウの持っているバックより二回り程大きいか。

「そんなに必要か?もう少し軽くした方が良いと思うが……」

私の持っている膨らんだバックを見て、リュウは呟きながら“この方が軽いぞ”とでも主張するかの様に軽々とゆとりのあるバックを真紅の翼の間に背負ってみせた。
まぁ、確かに軽い方が良いかもしれないが、いざとなったらいらない物は放棄すれば良いし、備えあれば憂いなしって言う位だから、問題は無いだろう。
さてと、リュウに注意されながらも、準備完了。
体もようやく目を覚ましてくれた所だし、いざニックス町に向けて出発だ。
私はリュウの案内で暗い洞窟をランプの少々頼りない光りで照らしながらお世辞にも歩きやすいとは言えない地面を一歩一歩進んで行き、ようやく出口の近くまで辿り着く。
途中、何回か転びそうになったけど。
数メートル先に見える出口から暗い洞窟に差し込む眩い太陽の光りに私は思わず目を細めてしまった。
ずっと暗い洞窟の中に居て、ランプの光りだけで過ごしていたので、今の私の目には燦然と輝く太陽の光りは明る過ぎる。
眩いばかりの陽光に目を細めながらも我慢して出口を見据えると、そこには逆光で黒く染まっている二つのほぼ高さが同じ影が二つ。
そして、その二つの影に挟まれ、少し小さな影が一つ。
その全ての形に私は見覚えがあった。
むしろ、ここで見覚えが無かったら、かなり失礼である。
既に私は目の前に見える三つ影の正体は分かっており、私は表情を緩ませながら小走りに走りだすと、私とリュウを待っていてくれたであろうグレン、デイ、イーブイの三人の元へ駆け寄った。

「おはようございます!」

私は彼等の元に辿り着いたと同時に第一声を元気良く発し、デイには一度、深く頭を下げた。
彼女の適切な治療のお陰で私はこの様に元気で居られるのだから、しっかりと感謝の気持ちを込めてだ。

「おはよう。あの時はありがとね」

頭を上げた私の耳に飛び込んできたのはまるで透き通った水の様に綺麗な声。
そして、ようやく外の明るさに慣れてきた私の目には微笑んでいるデイの顔。
彼女を助けたのは私……と言ってみても罰は受けないだろうが、私を助けたのが彼女であることも事実である事に変わりは無い
つまり、お互い様と言う訳だ。
こんな私だけれど、リュウ曰く誰も私を足引っ張りだとか、重い荷物だとか言う人は一人として居ないらしい。
前は自分が本当に誰かの役に立っているのか不安で仕方なかったけれど、今の彼女の一言や、今までリュウが私に掛けてくれた言葉のお陰で、いつの間にか私の中からその不安は消えていた。
根拠が有る訳ではないが、今では恐ろしきフェニックス計画を潰せる自信が在るし、私の周りにはリュウを一とした優しくて信頼出来る仲間達が居る。
私は外の明るさを物にした目で一人一人の顔を伺ってから、力強く踏み出した。

「行こう!」

「あぁ」

振り返ってから皆に声を掛けた私に逸早くリュウが返事をし、それと同時にデイやグレンも頷く。
こうして、ナイト達とは別行動だが、私達はグレンの情報からフェニックスの材料となる鉱石を採掘していると言う町……ニックス町に向けて簡易アジトとして利用していた洞窟から出発した。
遠くに霞む雪化粧した山々を見詰めながら、私達はひたすらに歩いて行く。
頭上に浮かぶ太陽は時折、恥ずかしそうに雲に身を隠しているが、私達を優しく照らしてくれている。
こんなこと言うと変かもしれないがきっと、太陽も私達を応援してくれているのだろう。
私達は岩場に作られた舗装すらされていないお粗末な道を進み、三十分程度の時間を掛けて、岩山を下った。
少し前までは回りは灰色一色で殺風景だったが、今は周りを古い葉を散らした木々が囲んでいる。
未だに歩き続ける私の後ろではグレンが小さな水筒の口を咥えながら喉を鳴らしている。
この時期にそんなに大量に水を飲んだら、お腹が冷えて、腹痛を起しそうだ。
そんなグレンの後ろでは、デイとイーブイが付かず離れずの距離を保ちながら、周囲に目を光らせている。
逆に、私の前には大きな背中とそこに生える二枚の翼を揺らしながら歩くリュウが先頭を切っていた。
今回は二手に分かれて別行動なので、私達五人のリーダーはリュウに決まっているらしい。
彼は実戦経験も豊富で判断力や冷静さも兼ね備えているし、何より、仲間を大切にしている。
私が傷を癒している間に四人で決めたらしいのだが、もし、その場に私が居ても、リュウをリーダーにする事に反論しなかっただろう。
過去にナイトの部下として軍で働いていたリュウは、しっかりとナイトの良い所を吸収しているのがなんとなくだが、私には分かる気がする。
雰囲気は違う二人だが、仲間を大切にする所や、物事を冷静に判断する所など、共通点は何かと多い。
そして、一番の共通点は、正義感だろうか。
まぁ、それを共通点とすると、私に協力してくれている全員が似ている事になってしまうかもしれないが。
私達の行っている行動が本当に正義なのかは正直な所、不明だが、少なくとも私は軍の陰謀が正義だとは思えない……
歩きながらあれこれと考えていた私の視界にふと、小さな町が移り、そこで私の目の前に居るリュウは足を止めた。
どれだけ歩いたか分からなくなっていたが、私は重い荷物のせい?で少しだけ疲れていた。
しかし、こんな程度の疲れでは私の表情は変わらない。むしろ、良い汗を掻いたと言う感じだ。

「どうする?遠回りになるけどあの町は迂回するか?」

私達の方に振り返ったリュウがリーダーとしての風格を漂わせながら問い掛けてくる。
まぁ、町は人目に付きやすいから、遠回りしたほうが良いかもしれないが、逆に、人が多いだけに思いがけない情報を手に入るかもしれない。
けれど、実際は軍がフェニックス計画の情報を漏らすとは考えられないので情報が手に入る確率は限りなく零に近いか。
私やデイが迂回するか否やを考え始めたのも束の間、リュウの問い掛けに逸早くグレンが声を上げた。

「突っ切りましょう!迂回すると時間が掛かっちゃいますから!」

「……時間が掛かるんじゃなくて、遠回りすると疲れるからだろ?」

「ま、まさか。そんな事、な、無いですって……」

元気良く声を上げたグレンに対し、リュウが一言尋ねると、グレンはリュウから目を逸らしながら答えた。
今の彼の行動からして、リュウの言った事が図星だったのは明からだ。
グレンの後ろでは嘘を付くのが下手なグレンがおかしかったのか、デイとイーブイがクスクスと笑っている。
私よりもグレンは嘘をつくのが下手かな?
でも、それはそれで、普段から嘘を付いていない証になるのかな……?

「グレンさん。バレバレです。嘘を付くなら、それを悟られないようにしないと今みたいにバレちゃいますよ?」

「えぇ!?バレてたの!?」

最後尾にいたイーブイがデイの後ろから顔を覗かせながらグレンに言うと、彼は吹っ飛んでしまいそうな位驚いていた。
まさかとは思うが、自分が付いた嘘に絶対的な自信があったのだろうか。
真相は誰にも分からないが、その可能性はかなり高い。いや、もはや百%と言っても過言では無いだろう。
苦笑いしながらグレンとイーブイの会話を傍観していた私の背後から私の思っていた事がまるで分かっていたかの様にリュウがグレンに再度、声を掛ける。

「お前……あんな態度取ってバレてないとでも思ってたのか!?」

「はい。嘘を貫き通す事は得意ですから!」

「…………」

リュウの質問に対するグレン返事に、一瞬、時が止まってかの様に周囲が静まり返った。
この時、私を含め、ここにいる誰もが思っただろう。
嘘だ。
彼が本気で言っていたとしても、私達にとって、彼の発言は嘘になるだろう。
凍りついたかの様に固まっている私達を見てグレンは首を傾げ、さぞ、不思議そうに私達を眺めている。

「ま、まぁ、そういう事にしとく……」

固まった中でリュウが一言小さく言うと、グレン以外の全員に掛かっていた謎の金縛りが解けた。
グレンはリュウが嘘で言っているにも拘らず、自分の十八番が認められたと勘違いして嬉しそうにしている。
少なくとも彼は嘘を見抜く能力も無さそうだ。
言っちゃ悪いが、よく詐欺に合わなかったものだ。詐欺師からすれば、こういうタイプが狙い目だろう。
しかし、よくよく考えてみれば、グレンよりも過去の私の方が危なかっただろう。あの頃の私は詐欺どころではなく、人身売買に掛けられていてもおかしくはなかったのだから。
今、考えると、相当怖い。
結局、グレンの提案は多数決で却下され、人目に付きやすい町は迂回して目的地に向かう事になった。
まぁ、目的地も町なのだが……
私達はまた、歩き出したのだが、周囲の景色にあまり変化が無い為、あまり進んでいる感覚が無い。
既に先程の町は遠くに霞んでいるし、周りは同じ様な木や、草ばかり……見通しが良い事に越したことは無いが、正直、飽きてきてしまう。
ここは都会からはかなり遠い田舎の為に本当に誰も居ない。
それゆえ、地面は凸凹していて歩き難いし、フェニックス計画に国民の税金を使うぐらいなら、こういった田舎の道を整備した方がよっぽど、世の中の為になるだろう。
私は下に向いていた顔を上げてみたが、やはり、まだ目的地は見えない。
そのことに私が溜息を漏らすと、私の気持ちが伝わったのか、グレンも溜息を漏らす。
私は溜息を漏らした後、リュウに後、どれくらいの時間歩けば辿り着くのかを尋ねてみる事にした。

「リュウ……後、どれくらい?」

「う~ん、あと一時間ぐらい歩くけば辿り着くんじゃないのか」

後、一時間もこんな殺風景な場所を歩き続けなければならないのか。
今になって思うが、あの時、グレンに賛成しておけば良かったかも……
ペースを速めればそれだけ早く辿り着くかもしれないが、あいにく、私にそんな気力は残されていなかった。
私はナイトのお陰でかなり地上での行動には慣れているが、本来、私みたいな鳥系のポケモンは歩くより飛ぶ方が得意。
長距離の移動は足にそれなりの負担が掛かってしまう。
私もリュウみたいな立派な足が欲しい物だ。
その後、リュウが言った通り、休憩時間を除いて一時間ほどで目的地であるニックス町に私達一行は到着した。
ここもどうやら田舎町らしい。ビルなんて一つも無いし、人数もあまり多くは無い。
そして、どこと無く、リュウが住んでいたピース町に雰囲気が似ている。

「ふぅ~、やっと着いた……あの、お腹も空いてきた事ですし、どこかで食事にしませんか?」

「まぁ、悪くは無いけど、監視カメラとかが無いお店にしないとね」

腹の虫が騒いでいるグレンが漏らした言葉にデイがさらっと答えた。
確かに、私達は軍に追われている身。監視カメラなどには警戒しないと。
映ってしまえば、それが手掛かりとなってまた、軍の襲撃を受けてしまうかもしれない。
私以外の皆も思っていると思うが、出来る限り戦いは避けたい。
止む終えない場合は私も戦う覚悟を決めているが、本心では戦いは嫌いだ。
出来るのなら、リュウ達と一緒に平和に暮らしていたい。
まぁ、今の状況からそれは叶わぬ夢なのだけれど……
それにしても、グレンの腹の虫の泣き声を聞いていたら、私もお腹が減ってきてしまった。
バックの中は重い荷物だけで、食料は入っていないし、このままでは空腹で倒れて仕舞いかねない……ちょっと言い過ぎたか。
一日何も食べなかったとしても、流石に倒れはしないだろう。
私はデイの方を見ながら、彼女にグレンと同様、お腹が減っている事をアピールしてみた。

「あの、私もグレンに賛成です。ちょっとお腹が空いちゃいまして……」

「僕も」

私に続き、体の小さいイーブイが声を上げた。やはり、みんなお腹が減っているのだろう。
今まで何も食べずにずっと歩き続けていたのだから。
さて、残りはリュウとデイの二人の了解が得られれば、ランチタイムだ。
私やグレンが賛成を強制するような目付きでリュウとデイを見ると、デイは直ぐに私達に賛成してくれた。
残りは私達のリーダーであるリュウだけ。
ただ、リーダーであるだけに指揮権って言うのかな?……まぁ、とにかくそれはリュウが持っているのだから、リュウが賛成しない限り、ランチタイムは訪れない。
皆で相談してリュウをリーダーに決めたらしいのだから、逆らえないし。
リュウとしては、先を急ぎたかったみたいであったが、彼も直ぐに了解してくれた。
まぁ、私達がこうやっている間にも、軍の陰謀が進んでいる可能性は十分在るのだからリュウが先を急ぎたい気持ちは分かる。
もしかしたら別の理由があるのかもしれないが、あいにく私は人の心を読む能力なんて無い。
さてと、五人の意見が一致したところだし、ランチタイムにしよう。
私達は町の中を歩きながら、レストランやファミレスなどが在るかを探す。
途中、交番が合った時は正直かなり警戒したけれど、運が良い事に、警察の人はパトロール中らしく、だれも居なかった。
交番って無人で良いものなのだろうか?
それはさておき、無人だった交番を通り過ぎてからも、私の歩くペースは皆より速い。
以前、私は孤児であった為に誰とも付き合いが無かったので、皆で食事するのがとても楽しみだ。
前に誕生パーティをしてくれた時はそれこそ、言い表せない程、嬉しかったし。
だから自然と足を動かす速度が速くなってしまう。

「フェザー。腹が減ってるのは分かるけど、ちょっと速すぎないか?」

「え?」

リュウを差し置いて先頭を歩いていた私の後ろから、リュウが困ったような表情を浮べながら言った。
私はその声に動いていた足を止め、振り返る。
すると、私とリュウ達の距離は五メートルほど離れており、いかに私が早足で歩いていたかが伺える。流石に速すぎたか……
ある意味、私は皆から離れて単独行動をしていた訳だ。それに気持ちが高ぶっていたせいで、あまり人目を気にしなくなってしまっていたし。
反省しよう。
止まっている私にリュウ達が追い付き、今度はリュウを先頭にして歩いて行く。
リュウは確かにレストランなどを探しているようであったが、その目は鋭く、どちらかと言えば、レストランの捜索よりも敵が居ないかの警戒の方が優先しているようだ。
それに比べ、グレンは二本足で歩きながら、前足でおなかの辺りを抱えている。
相当お腹が減っているのだろう。
町の大通りと思われる場所を歩いているのだが、中々レストランが見つからない。
いや、正確には在るのだが、どの店も既に閉店していた。
この時間からシャッターを下ろしているという事は、おそらく、もう営業自体行っていないのだろう。要は、潰れてしまったのだ。
レストランに限らず、シャッターを下ろしている店は多く、なんだか少し寂しい。
人通りもピース町や、ノースワイト町に比べると少ないし。
雰囲気的には、祭りが終った後と言った感じである。

「レストラン……ありませんね……」

グレンが腹を押えながら、そして、希望の失ってしまったような顔で呟いた。
確かにグレンの言う通りである。
私のお腹も低く唸るような鳴き声を上げ始めていた。
せっかくここまで歩いて来てなにも食べないのは流石に辛く、気分が沈んでしまうのは仕方ない。
ただ、私はあまり否定的な考えを起さないように心掛け、昨日リュウに言われたように前向きに考えていた。
絶対どこかにレストランぐらい在る筈だと。
しかし……と言うか、やはり世の中そんなに甘くは無かった。歩いている内に大通りを抜けてしまい、もはや回りには民家しか見当たらない。
ここまで来ると、前向きに考えるのも難しくなってくる。
私にもっと前向きになれと言ってくれたリュウでさえもこの状況には頭を抱えている様子。

「う~ん、昔、ここに来たときはもっと賑わっていて、店も一杯あったのにな……」

リュウが漏らした言葉に、私の耳が機敏に反応した。
リュウは今、昔、ここに来た事があると確かに言ったのだ。
来たことが有るのなら、最初からそう言ってくれれば良かったのに。
まぁ、今更そんな事を責めても無意味だし、以前、来た事があるリュウでさえも店の少なさに驚いている。
どこかに良いレストランが無いかと聞いても、おそらく良い返答は返ってこないだろう。
はぁ、腹が減っては戦が出来ない……元々、戦うのは嫌いだが、いずれは軍と戦わなければならない状況になるだろうし、それが一分後かもしれなければ、一週間後かもしれない。
とにかく、今はこの空腹からなんとかして脱出しないと。
周囲を見渡しても、先程と同様で、民家しか見当たらない。状況的にはかなり厳しい気がする。
それに、私の耳には断続的にグレンの腹が忙しく鳴いているのが聞えているし……

「まぁ、店が無いならしょうがない。諦めよう」

気分が著しく下がっている私達を励ますような口調でリュウが呟く。
確かにリュウの言う通りで、何も無いのなら仕方がない。
これで、皆で楽しくランチタイムと言う私の願いは、夢と化したも同然。
ちょっと悔しいと言うか……その、残念だ。
こうして、私達は昼食抜きでグレンの言っていた鉱山を探す事になった。
今の所、手掛かりは何も無いので、手分けして数の少ない町人に聞き込みを行うのが最善だろう。
当然、それ相応のリスクがあるのだが、これぐらいのリスクを犯さないと情報は手に入らないと思う。
皆も気付いているかもしれないが、早速リーダーであるリュウに提案してみよう。

「ねぇ、このまま闇雲に捜索するのもなんだからさ、二組に分かれて聞き込み調査した方がいいんじゃない?」

「あぁ、確かにそうだな。じゃあ、俺とフェザーが町の北側で聞き込み調査を行う。グレン達は町の南側を頼む」

「了解!!」

私の提案は即決で、これからは二組に分かれて聞き込み調査を行う事になり、リュウの言っていたように、私とリュウは町の北半分で聞き込みを行い、グレン、デイ、イーブイの三人は町の南側で聞き込み調査を行う事になった。
連絡はイーブイ特製の敵に防諜されない特殊な周波数の無線で行う。そう言えば、彼はハッキングを始め、機械を弄るのが好きらしい。
独学でこんな凄い物を作ってしまうのだから、本当に凄い。
私はそんなイーブイから無線機を受け取り、それを体の前面に着けているポーチにしまった。
その傍らでは、リュウが私を含めた皆に向かって声を掛ける。

「よし、じゃあ、行動開始だ。後、くれぐれも警察とかには注意してくれ」

「分かってますって!!隠密行動なら自信ありますから!」

リュウの言葉にグレンが自信ありげに大声で答えた。
張り切るのは大いに良い事だが、大声を出すのは目立つから止めた方が良い気がするのだけれど……
私はそう自信満々のグレンに突っ込もうとしたが、止めた。
私より先にデイとイーブイの二人が私の思っていた事と同じ事をグレンに注意していたのだ。
まぁ、少し頼りない気もするが、グレンだってリュウと同じ元軍人なのだ。
当然、短期間の訓練や始動しか受けていない私に比べれば、断然実力があるだろう。
リュウ達がどう思っているかは分からないけれど、少なくとも私はそう思う。

「フェザー。行こう」

ふと、リュウが私を呼ぶ声が耳に入ってくる。
周囲を見てみれば、いつの間にかグレン達は歩き出しており、リュウも彼等とは反対の方向を向いていた。
少し考え事が過ぎたか。
私はあまり地上での行動には適さない足で小走りに駆けると、直ぐにリュウの横まで追いついた。
なんだか、こうやって二人きりで歩くのは久しぶりだ。
死にそうになりながらも雪山を越え、初めてフィンの住んでいたノースワイト町に辿り着いた時を思い出す。
あの時、私は活気のある町の風景に見とれてしまい、リュウに注意されるまでは周囲を警戒する事を怠っていた。
しかし、今の私はリュウに言われなくても、十分周囲を警戒しており、その中で聞き込みを行う対象の住民も探している。
グレン達と別れ、リュウと二人っきりで行動し始めてから数分経った時だった。
今まで周囲に青い目を光らせていて無言だったリュウが徐に口を開いた。

「なぁ、ちょっと用事があるんだが、いいか?」

「用事?」

「あぁ、実は……この町は、フィンの両親が住んでいる町なんだ。つまり……その、フィンの両親に謝罪したいんだ。フィンを殺したのは俺だし……」

「え……」

私は一瞬だが、驚いてしまった。
まさか、フィンの両親がこの町に住んでいるとは思わなかった。
しかし、そんな事より、私がリュウの顔を見た時に彼の表情ががらりと変わってしまっている事が心配だった。
それだけ、あの時の惨劇に罪を感じているのだろう。
でも、私だって他人事では無い。フィンは私とリュウの二人を逃がす為に自分を犠牲にしてでも、囮となって軍を足止めしてくれた。
そして、私達に軍の陰謀の阻止を委ねていた事だろう。
そんな英雄と言っても過言ではないフィンに比べ、私なんてまだ、何も出来ていない。
リュウがフィンの両親に謝罪するのなら、私も付き合うべきだ。
決心を固めた私は、リュウにそれを伝えようと、彼に一歩近付いて口を開ける。

「リュウだけの責任じゃないよ。私も一緒にフィンの両親に謝るよ」

「いや、でも……フェザーに責任は……」

「一人で責任を背負おうとしないでよ!私だけ責任が無いなんておかしいよ……フィンは私とリュウの二人を逃がしてくれたんだから」

意識は在ったけれど、まるで無意識のように私は強引にリュウが答えているのを寸断してしまった。
どう考えても私にだって責任はある。
それを自分一人のせいだと言って、責任を背負うリュウに納得がいかなかったのだ。
普段、あまり大きく声を上げる事が無い私が強めに言った事に驚いたのか、リュウは何時もより目を大きく開けながら硬直していた。
ちょっと、強く言い過ぎてしまったか。
それに、先程のグレンでは無いが、大声を出す事はあまりよろしくない。
その点を踏まえ、私は硬直してしまっているリュウに近付くと、今度は優しく声を掛ける。

「私とリュウは仲間でしょ?だったら、一人で責任を背負わないで」

「フェザー……」

私はリュウにそう言うと同時に、彼の前足の付け根を右翼で触れる様に優しく叩く。
普段と違う私の声に驚いて硬直していたリュウは私の右翼を一度だけ見ると、視線を下に向けながら少し首を下げた。
そして、小さな声で私に言う。

「ありがとう」

「別にお礼なんていいよ。それより、フィンの両親に謝りに行こう。全てを話せば、きっと許してくれるよ」

「……そうだな」

私はもう一度リュウの右足の付け根を軽く叩き、彼を元気付ける。
リュウは下に向けていた顔を純白の雲が無数に浮かんでいるまるで大海の様な空を見上げ、気分を改めたのか、先程よりもずっと明るい表情に変える。
そして、私とリュウはフィンの両親に全てを話すべく、リュウの記憶を頼りにしながら横に並んでフィンの両親の家を目指し、町中をゆっくりと歩きだした。








17話に続きます。


PHOENIX 17 ‐謝罪‐


あとがき

つまらない駄文を読んで頂きありがとうございました。
差し支えなければ誤字、脱字の指摘や感想などを頂きたいです。




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Last-modified: 2010-09-01 (水) 00:00:00
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