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PHOENIX 15 ‐成長‐

/PHOENIX 15 ‐成長‐

PHOENIX
作者 SKYLINE
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15話 成長

フェザーが静かに眠りに就いたのを見届けたリュウは彼女の側から離れ、ポーチからペンライトを取り出す。
そして、スイッチを入れてから口に咥えると、ペンライトの光りを頼りにして真っ暗な洞窟の奥へと歩いて行く。
時折、天井から水滴が落ち、洞窟内に清らかな音を響かせる。
そんな綺麗な音を鑑賞するかの如く聞いていたリュウが辿り着いた先は、フェザーが居た場所よりも一回り大きく開けた空間。
天井までの高さはざっと五メートル程。洞窟内としては中々広い空間である。
そして、そこには闇に紛れて黄色い体の模様を浮かばせているナイトや、その妻であるデイ達が集まっていた。
彼等の中心にはどこからか運んで来たと思われる暗い灰色をした一枚岩があり、その上には、この周辺が詳しく記載された地図が広げられている。
さらに、一枚岩の隅にはランプが置かれており淡い光りをこの空間に放っていた

「フェザーの様子は?」

「大丈夫です。多分、今日一日休めば元気になると思いますよ」

口に咥えていたペンライトのスイッチを切ったリュウに地図から視線を移したナイトが質問を投げ掛けると、リュウはペンライトを胸の辺りに付けたポーチにしまいながら返事をした。
リュウが言った内容にこの場に居た全員の顔がランプに照らされながら安堵の表情へと変わり、その中でももっとも表情に変化があったのはデイであった。
なにせ、自分を庇ってくれたフェザーに異変があれば一大事。
もし、そんな事になってしまったら謝っても謝りきれないであろう。

「そうか、良かった。……さてと、これからどうするかを考えよう」

ナイトは集まったリュウやグレン達を見渡す様に見ながら呟き、今後の活動計画を練る会議の指揮を取る。
もともと、カリスマ性の高いナイトは今まで、その冷静な判断力や統率力で幾度と無くこの様な危機的状況を潜り抜けてきた。
それは過去に彼の部下であったリュウや、長年彼の元で戦ってきたブイズの隊員達は十分に分かっている。
ナイトとはまだ付き合いが浅いグレンでさえも、ジャウとは違ったその仲間想いの面とどんな状況でも決して慌てない冷静さを持ったナイトに絶大な信頼を寄せている。

「先ず、手持ちの物資が少ないからそれらの補給だ。幸い、この洞窟には飲める湧き水があるから水の心配は無い。問題は食料と新たなアジトの調達だ」

「それと、フェニックス計画の証拠も」

ナイトが放った最後の言葉にリュウがフェニックス計画の事を付け足した。
リュウの出した案を聞いた皆は納得していた様だが、ただ一人……ナイトはリュウの出した案に納得できていない様子であった。
彼は少しばかり黙り込み、何かを思いついたのか、黙り込んでからものの数秒で口を開いてリュウに向って話し始める。

「それで、その手に入れた証拠を提供して圧力に屈しない新聞社か何かに記事にしてもらい、公にしてから他国の圧力を利用してフェニックス計画を中止させるって魂胆だろ?」

「さすが、隊長ですね。その通りです」

リュウのたった一言から彼が考えていたフェニックス計画を潰す策をものの数秒で読み取ったナイトは全員に説明する様にリュウに策の確認を取ったが、リュウの返事を聞いた後に首を縦ではなく、横に振った。
ナイトが首を振った事にリュウを含めた全員が頭上に疑問符を浮かべ、何故、リュウが考えたこの計画が駄目なのか訴えるようにナイトに視線を注ぐ。
ナイトは全員の視線が注がれる中、徐に口を開いてリュウの計画が何故駄目なのかを説明し始めた。

「いいか、確かにリュウの策でフェニックス計画を潰せるだろう。だが、それだと潰した後に問題がある」

「後?」

ナイトが言った事にほぼ、全員が首を傾げ、その中から先陣を切ってグレンが聞き返した
ナイトはグレンの出した疑問に一瞬だが話しを止めたが、直ぐに何事もなかったかの様に、
そして、これから説明するとでも言うかの様に話を再開した。

「リュウなら知っていると思うが、このアロヌス国は隣国、デリキロア国と仲が悪い。
強欲なあの国の事だ。フェニックス計画を知ったら確実にその技術を手に入れようとするだろう。他国の力を借りてフェニックス計画を潰しても、他国が、特にデリキロアがフェニックスをそう易々とこの世界から永遠に葬ると思うか?」

「……た、確かに」

自分の考えた策を尽く否定されてしまったリュウであったが、これと言った不満を抱く事無く、ナイト説明に納得している。
他の隊員達やグレンもナイトの説明を聞く内に納得していき、個々に首を立てに動かした。

「自分の事は自分で何とかする。つまり、この国の事はこの国の民で何とかしなければならないんだ」

ナイトの吐いた言葉に、ランプの光りに照らされて闇に浮かんでいるリュウやグレン、そして隊員達の表情は沈む様に変わってしまった。
沈黙。
ランプの光りがあるとは言え、薄暗い洞窟内はこの二文字に支配されて滴る水滴の音しか聞えなくなってしまったであった。
ランプの炎が集まった者達の影をユラユラと揺らし、中心にある一枚岩の上で広げられた地図は本来の白色を失い、淡い赤に染まっている。
確かにナイトの言っている事は正しいのだが、それは同時に彼等から希望を奪いかけていた。
一体どうすればいいのかと。
正直、ナイト自身もリュウの策を否定したものの、頭の海原に良策は浮かんでいなかった。
ただ、ナイトは先を見据え、誤った行動をしない様にしたかったのだ。
どんな命にも一つとして換えは無い。
だからこそ、いかなる時も冷静に物事を考え、最善の策と用意出来る最高の装備を持って任務に望む。
これがナイトの信念である。
静寂を割く者は中々現われず、静まり返った洞窟は水滴を滴らせながら時を刻んでいく。
皆が皆、自分の知識を振り絞って何か良い策が無いかを考えているのだろう。
静まり返った中で険しい表情を浮べながら地面を見詰めたり、天井を見たり……
しかし、物事に永遠が無い様に、この静寂にも永遠は無かった。

「あ!そう言えば!」

突然暗闇から声が聞こえ、静寂を引き裂く。
それと同時に、声を上げた者意外の皆が一斉にその者に視線を注ぐ。
皆の視線の先には、もっともランプから遠く、顔に付いた両の目ぐらいしか見えていないグレンの姿。
それを見て、ある者は溜息を漏らし、またある者は肩を落とした。
日頃の彼のイメージなのか、あまり彼の言葉に期待を込めている者は居なかった。

「そう言えば?」

期待していないブイズの隊員達をよそに、彼等の後ろからリュウが首を伸ばしてグレンに聞き返す。
グレンは目線を上に上げ、前足を組みながら記憶の中を探ってリュウ達に向かって話しを始める。

「え~と……俺が軍に居た頃、フェニックスの材料はとある鉱石で、それが採掘出来る鉱山はジェローニア国との境に町、ニックス町の近くにある鉱山だってジャウ隊長が漏らした事がありました」

「……なんでそんな重要な事を黙ってんだよ!!!!」

話し終えたグレンに対して、一斉にサンダースやブースター達が怒鳴り付け、ブースターに至ってはグレンの胸倉を前足で掴んで激しく彼を揺さぶっていた。
グレンの顔は前後に激しく揺れ、見ている皆に脳震盪でも起してしまうのでは無いかと思わせてしまう程ブースターの前足に込められた力は強い。
しかし、グレンの首を掴んでいるブースターに対し、部隊内切っての甘党……シャワーズが彼の後頭部にダメージが無い程度に勢いを弱らせた水鉄砲を当てる。
バケツの水を頭からかぶった様な水音と共に、地面や岩壁に水飛沫が飛び散り、驚いたブースターはグレンの首から慌てて前足を離した。
ブースターのマフラーにでもしたらとても温かそうなフワフワとした毛は冷たい水で濡れ、先端から水滴がポタポタと平らとは言い難い岩の地面に落ちていく。
同時に、重さが水増しされ、全ての毛の先端は重力に従って下を向いてしまっている。

「頭を冷やしたら?」

勝ち誇った様な表情を浮べているシャワーズをブースターは体を震わせてから睨み付け、ブツブツとなにやら愚痴を漏らし、再度、体を大きく振るわせる。
その後ろでは飛び散った水に顔を顰めているグレンが身を引いているのに気が付かずに……
グレンも歴とした炎タイプ。
体に水が掛かるのはあまり好きではないのだ。風呂の場合は別だが。
シャワーズの放った水鉄砲で本当に頭が冷えたのだろうか、ブースターは愚痴を漏らしただけで何時もの様に怒鳴る事は無かった。

「グレン、それは確かな情報なんだな?」

一騒ぎ収まったかと思うと、洞窟の暗闇に溶け込んでしまい、非常に姿が見えにくいナイトが間を開けずにグレンに問う。
グレンはブースターに掴まれたせいで乱れた首周りの毛を前足を器用に使って整えながら、自分の首周りを定めていた瞳をナイトの居る方向に動かした。

「はい。なんか妙にハッキリ覚えてます」

グレンの確かな返事と、誰が見ても嘘を付いているとは思えない目にナイトは直ぐにその言葉を信じ、他の皆も(多分)疑いは持たなかった。
その後、負傷してしまったフェザー抜きでこれからの行動についての話し合いは続き、最終的にはフェザー、リュウ、グレン、デイ、イーブイの五人が鉱山を調査しに行く事が決定し、他のメンバーは手分けして新たなアジトの確保、及び仲間や食料の調達をする事に決定した。
作戦会議が終了した後、それぞれがこれからの行動の為に準備を始めるべく、薄暗く、入り組んだ洞窟内に散らばって行った。
しかし、リュウとナイトだけがこの場に残り、共に見詰め合う。
僅かな沈黙の後、リュウがゆっくりと口を開き、ナイトに話し掛け始めた。

「隊長……ニックス町ってフィンの故郷ですよね。……あそこに住んでいるアイツの両親に真実を全て話して良いですか?」

ナイトは無言のままリュウの話を聞き終えると、一度だけ頷く。
体色が黒いだけにこの暗闇では分かり難くかったが、リュウの右目にはその動作がはっきりと映っていた。
ナイトもフィンの両親には過去に会った事があるので、その人柄の良さは覚えている。
実の息子の死を知らされるのは辛いであろうが、このままフィンの死を隠蔽するのはリュウと同様にナイトも抵抗があった。
それに、フィンの両親が裏切って軍にこちらの情報を流すとは思えない。
ナイトはそう言った理由を踏まえて頷いたのだった。
ナイトが頷いたのを見届けたリュウは少しばかり表情が和らぎ、直ぐにこの開けた場所からフェザーが眠っている場所に向おうと身をゆっくりと翻す。
そのままリュウは背中とそこに付いた真紅の翼をナイトに向けながら洞窟の闇に消えて行った。
ただ一人残ったナイトは、リュウが見えなくなるまで彼の背中を見詰め続け、見えなくなると一枚岩の上に広げてあった地図を丸めて口に咥える。
そして、ランプの明かりを消すと、真っ暗な中でナイトも洞窟の奥へと歩いて行ってしまった。









洞窟の奥から物音が絶えない中、私は目を覚ました。いや、どちらかと言えば目を覚ましていた。
少し前から目が覚めており、洞窟の奥から絶え間なく響いてくる不気味な物音が不安で眠れないのだ。
いつの間にかリュウの姿も消えているし、この場には私一人しか居ない。
ランプの明かりだけではどうも光量不足で奥の方が全くと言って見えず、物音の正体を確認しに出歩きたいが、リュウからはベッドで休んでいろと言われているし……悩みどころだ。
まぁ、もし、敵だったら既に襲って来ている筈なので、敵……では無いと思うのだが。
結局、私は興味と言う名の欲望に負け、リュウが休んでいろと言ったにも拘らず、布団から起き上がってゴツゴツとした岩の地面に足を付けた。
このままじっとしていても、物音の正体が気になって眠れないだろうし、立ってみて分かったが別段、体が重くは無い。むしろ、軽くて動き易い位だ。
私は近くに置いてあったランプを掴むと、その赤い光りを頼りに洞窟の奥に足を進め始める。
転ばぬ様に一歩一歩地面の起伏を確かめながら、暗くて少し湿度が高い洞窟の奥に進むと、一つの光りが見えてきた。
ランプと違い、それは淡い赤の光りではなく、白く輝く眩い光り。
一度、洞窟の出口かと思ったが、私が歩かなくてその光はだんだんと大きくなってくるし、上下に揺れている。
この二つから私は誰かがライトを持ってこちらに近付いてきているのだろうと判断し、先を急がずに待つ事にした。
光りはどんどん大きくなり、私は目を細めて誰かを確認しようとする。
しかし、私が誰だか判断する前に、ライトを持っていた相手が声を上げた。

「フェザー?」

一瞬、ドキッとしてしまったが、その声に私は直ぐに安心した。
洞窟内という特殊な環境なだけに、聞えてきた声が少し木霊しているが、それはとても聞きなれた声。そう、リュウの声だ。
これで向こうから歩いて来ているのがリュウなのは私の中で確実になり、私の顔も自然と和らいだ。
ただ、リュウの声が聞こえた瞬間にドキッとしてしまったのは、心のどこかに敵かもしれないという疑念があったからだろう。
そう考えるとリュウに少し失礼な態度をしてしまったかもしれない。
私はランプを持ち上げ、先程と同様に足元に気を配りながらリュウの方に向って歩き出した。
最初は結構遠くに見えていたが、リュウの元まで案外早く辿り着いたので、私とリュウの距離はそう離れては居なかったのだろう。
リュウは私の動きを追いながら、ペンライトで私を舞台上で演技をしている女優に当てられたスポットライトの様に照らす。
そして、私がリュウの元まで歩み寄ったと同時に、ペンライトを咥えているので少し喋り難そうであったが、聞き取るには十分な声で私に話し掛けてきた。

「怪我は大丈夫なのか?」

「うん!全然大丈夫。さすがはデイさんだよ。もう、全然痛くないし、動いたって問題ないよ」

私は自分が元気になったのをアピールする為に、その場で何度かジャンプしたり、横にステップしたりしてみた。
リュウは少し心配そうな顔を最初はしていたが、私の動きを見てその思いが消えたのか、
納得した様な表情に変わる。

「まっ、それだけ軽快に動ければ大丈夫か」

リュウは私の目を見ながらそう一言呟くと、ペンライトの光りを洞窟の奥に向けた。
実際、私にはどっちに出口があるのか分からないので、一概には奥と言えないのだが。
そして、何か考えているのかそのまま洞窟の奥を見据え続ける。
その間、私は黙ってリュウの横顔を眺めていた。

「そうだ。これからの行動が決まったから、説明しとく。……先ず、俺とフェザー、グレン、デイさん、ブイの五人でここからさらに南下した所にある町、ニックス町に向かう。
グレンの情報ではその町の近くにフェニックスの材料である鉱石を採石する鉱山があるらしい。だから、そこを俺達で調査する」

「分かった」

私はリュウの説明を時折、首を下に傾けて頷きながら両の耳でしっかりと聞きとめていた。
しかし、明け方と言っても、太陽の見えないこの洞窟内だと現在の時間が分からない。
一体、今は何時なのだろうか。ある筈は無いが、私はなんとなく周囲の洞窟の壁を見回す。
やはり、何も無い。唯一あるのは岩、岩、岩……本当に岩だらけである。
この中にイシツブテなどが混ざっていたら絶対に見つからないだろう。

「フェザー、ちなみに今は午後、七時だ」

「え?……あ、うん。ありがと」

リュウは私が考えている事が分かったのだろうか。まぁ、よくよく考えれば私と何時も一緒に居たリュウの事だ。
私がこうやってキョロキョロと周囲を見回しているのを見て、私が時間を確かめようとしている事が簡単に分かったのだろう。
流石はリュウだ。
感心している私をよそに、既にリュウは私が歩いてきた道?を進み始めていた。

「フェザー。突っ立ってないで行くぞ。明日に備えて体力の回復をしとかないと」

「あ、ちょっと待ってよ!」

私はランプを持って慌てて駆け出し、リュウの背中を追い掛け始める。
彼を追い掛けていると、何の前触れも無しに私の中に一つの疑問が現われた。
リュウが私に血を分けてくれたのは嬉しいが、そう易々と輸血を行ってしまって良いのだろうか。
私は医療関係の知識は間違いなく、零だが、副作用とか起きたりしないか心配だ。
まぁ、リュウやデイを私は心から信頼しているから、大丈夫だろうけど、一応、聞いてみようか。
私はリュウの隣まで追い付くと、ランプで互いの顔を赤く照らしながら彼に話し掛ける。

「ねぇ、リュウが輸血してくれたのは嬉しいけど、副作用とか起きたりしないよね?」

私の問い掛けにリュウは顔の向きを洞窟の奥から私の顔に向けると、普段となんら変わらない表情で話始める。

「大丈夫、血液型の一致とタイプが一致していれば、普通、副作用は起こらないから。俺もフェザーもA型だし、タイプはドラゴン、飛行だろ?」

「そうなんだ……じゃあ、別に副作用とかは心配しなくていいんだ」

「あぁ」

リュウがそう言っているのだから、心配は無用だろう。
私とリュウはそのまま他愛も無い会話をしながら歩き、私が眠っていた場所にまで戻ってきた。
私が最初に置いてあった辺りにランプを置くと、リュウは咥えていたペンライトを口から離し、前足でその電源を切ってそれをポーチの中に仕舞う。
白を失った周辺は瞬く間も無く淡い赤に染まり、人の感じ方によるかもしれないが、私からすれば少し幻想的な感じになっていた。
眠る前に見た時は単純に少し暗いと感じただけだったけれど、レトロな感じのこの明かりも悪くは無い。
私は先程リュウが持ってきた果物の中から林檎を手……あ、手じゃないか。
翼で掴み、それを口へ運んだ。
明日はまた、移動しなければならない。その為にもリュウが言っていた様にここで体力の回復を図っておかないと。
私は皮ごと林檎を齧り、少し鮮度が落ちた……とはいっても十分おいしい林檎を味わいながら数個平らげた。
最近になって思ったが、リュウと出会う前の私と今の私では食欲が随分と違う。
昔はほんの少し食べれば満腹だったが、今は、結構な量も食べられる。
胃が大きくでもなったのだろうか。
私は光沢があり、見た目だとすごく新鮮そうな林檎を持ちながら、それを見続けていた。
ふと、私は林檎の向こうにリュウの横顔が見えている事に気が付く。
ただ、白い包帯が目の周囲に巻かれている為に、顔の半分が隠れてしまい表情は分かりにくい。

「ねぇ、今の世の中なら、病院とかに行けば目の移植とか出来るんじゃない?片目だと不便じゃないの?」

ふと、リュウの包帯が巻かれた横顔を見ていて思った事を私は口にした。
最近の医療の技術進歩は凄まじく、病院には移植用の臓器などが常備、ストックされ、障害者や、リュウの様に事故などで体の一部を失った人にそれを移植している。
ましてや、腕や足、翼と違い、目の移植なんて直ぐに出来るであろう。
そう考え、リュウに進言してみたのだが、帰ってきた答えは意外な物だった。

「まぁ、確かに不便かもしれないが、俺は移植なんてするつもりは無い。俺が失明しているのは、フィンが俺を切ったからだ。だから、俺が失明している事はフィンが生きていた……そして、フィンが俺達の為に身を犠牲にして囮になった証なんだ。
まっ、本音は手術が怖いんだけどな!」

「…………」

私は無言で、そして微動だにせず、リュウの話に聞き入っていた。
最後の一言は笑っていたが、こんな私でも、無理をして笑っていたのは十二分に分かっていた。
おそらく、雰囲気が重くなってしまったので、無理をしてでも明るく振舞ったのだろう。
でも、フィンに対するリュウの友情は言い表す事が出来ないほど固い物だったのだ。
そんな決意があったとは知らずに、いや、知ろうともせずにリュウに目の移植なんて進めてしまった自分が恥ずかしく、私の中はリュウに対する罪悪感で満たされてしまった。

「ごめん。リュウにそんな決意があったなんて……私、知ろうともしてなかった。本当にごめん」

「え?……あ、謝る事ないって。フェザーはなにも悪い事してないじゃないか。それに、俺の事を思って言ってくれたんだろ?それだけで俺は嬉しかったって」

「うん……」

突然謝った私にリュウは一瞬、驚いた様だが、慌てて私を慰めてくれた。
リュウは私が悪くないって言っているけれど、失礼な事を言ってしまったのに変わりは無い。
むしろ、リュウは私を気遣ってくれたので、さらに迷惑を掛けてしまっただろう。
考えれば考える程、底知れぬ罪悪感の沼にはまっていき、私の隅々まで隙間無く罪悪感は侵食していく。
俯き、ゴツゴツとした岩の床を沈むように眺めていた私の翼の付け根……腕がある者で言う肩を何の前触れも無く、リュウが前足で軽く叩いてきた。

「フェザー、それが駄目なんだよ。……フェザーは前にフィンを見捨ててしまったと責任を感じていた俺を慰めてくれた。あの時みたいにポジティブになれって」

「え?」

私は顔を上げ、まるで死んでしまったかの様な目を少しばかり見開き、リュウの顔を見ながら小さく声を上げた。
そうか……どんな人でも、私みたいな否定的な者といても楽しくは無い。
こうやって否定的な私と居ても、リュウを本当の笑顔には出来ないだろう。
決して強いとは言えない私は普段からリュウに心配を掛ける事は多い。
だからこそ、少しでも私はリュウの言うポジティブで居た方がリュウの為にもなるのだろう。
そう考えると、自然に罪悪感は消えていき、底知れぬ罪悪感の沼から抜け出せた気がした。
リュウの言う通り、互いにポジティブで居るのが一番良い。
世の中には天涯孤独や一匹狼と言う言葉があるが、どんなに強い人でも誰かの支え無しには生きていけない。要するに仲間が必要なのだ。
それが、この世に私達ポケモンと言い、他の生物と言い、必ず同種の仲間が居る理由であり、その仲間が絶えない様に子孫を残し、数を増やしていく理由だろう。
私は頭の中で第三者からすれば意味不明な理論に納得していると、いつの間にか沈んでいた表情も随分と和らいでいた。
目の前のリュウも、私の表情が和らいでいるのに安心を覚えたのか、まるで私の表情を映す鏡の様に、彼の表情も和らいでいる。
私は、たった今、自分が成長したのが何と無くだが分かった気がする。
体だけが強くなっても、それは本当の成長とは言えない。
本当に成長するというのは心が大きく成長した時に言うのだろう。
私はもう、過去のネガティブな私ではない。
これからはポジティブになって、リュウや他の皆と困難に直面した時は支え合っていこうと思う。
そして、私達の為に犠牲となったフィンの為にもフェニックス計画を根本から潰す!
ランプの赤い光りが灯る中、私はまた一段と成長していた。








十六話に続きます。


PHOENIX 16 ‐移動‐


あとがき
今回はフェザーの精神的な成長を書いてみました。
彼女の解釈通り、体だけが強くても駄目だと自分は思うのです。
意志があって初めて体は動く物ですし。
あ、でも反射は意思と無関係か…
さて、これからは二つのグループに分かれて別行動。
フェザー達はグレンの言っていたニックス町に向かいます。

つまらない駄文を読んで頂きありがとうございました。
差し支えなければ誤字、脱字の指摘や感想などを頂きたいです。




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Last-modified: 2011-04-06 (水) 00:00:00
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