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PHOENIX 13 ‐襲撃‐

/PHOENIX 13 ‐襲撃‐

PHOENIX
作者 SKYLINE
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13話 襲撃

強引に削り取られたかの様な切り立つ岩場に川のせせらぎが響き、数えられない程の葉は互いにぶつかり、波の様に騒めく。
美しくも厳しい自然が残るこの場所に軍の秘密施設は身を潜める様に佇んでいた。
地理上、人の往来は無く、手付かずの自然が在りのままの姿を見せている。
岩場に逞しく根を巡らす木々はその全てが太陽を目指して枝を伸ばし、谷間を駆ける風は鳴き声とも雄叫びとも聞える音を轟かす。
そして、その風は通機構を抜けて密閉された屋内に新鮮な空気を届けるのだ。
ふと、そんな通機構の奥から誰かの声が響いて来た。

「で、奴等の潜伏先は見つけたのか?」

「はい。大まかな位置は。しかし、まだ正確な場所は不明です。なにせ、アロヌス内でも治安の悪さ、ワースト一位を誇るあの町なもので」

声の発生源はどうやらスプーンの部屋。
そして、椅子に座りながら葉巻を咥えているスプーンの前にはソウルの姿。
ソウルはその場から少しばかり前進すると、数枚の紙に纏められた資料をスプーンの机の上に差し出した。
少し黒が混じった茶色をした木目調の上に置かれた白い紙にはブイエイト町の写真が掲載されている。
スプーンは直ぐにそれを念力で自分の手元に持ってくると、鋭い目付きで資料を睨み始めた。

「幾つかの建物に的を絞りました。人手があれば、この全ての建物に強制捜査を行いますが、いかがされますか?」

ソウルの言葉を聞いているのか聞いていないのか、スプーンは差し出された資料に載っている写真をまじまじと眺めている。
スプーンは一度葉巻を口から離し、天井に向かって煙を吐き出す。
灰色の煙はすぐさま換気扇に吸われ、数秒と持たずにその姿を消してしまった。
この煙がどれだけ自然に悪影響を与える物か。
日常から常に煙草という物をすわないソウルはそんな事を思いながらスプーンからの指示を待ち、その場で待機し続ける。
数秒間、腕を組んでいたスプーンはその組んでいた腕を解くと、テーブルの上にある大きな灰皿に葉巻を置き、回転椅子を回して壁に向けていた体をソウルの方に向ける。

「よし、ジャウとその部下、そしてお前の部下を全員投じて洗いざらいにしろ」

「了解しました」

ジャウや他の兵士に比べてあまり深くは無いが、ソウルはスプーンに向かって頭を下げた。
スプーンはその姿を目に留める事無く、一度置いた葉巻を念力に口元まで持ってくる。
葉巻は煙の尾を引きながら宙を舞い、スプーンの空いた口へと誘われる。
スプーンが葉巻を口に咥えた頃には既にソウルの姿はその場に無く、何時も通り不気味に床に身を沈めたのだろう。
ソウルは再び葉巻を吸い始め、椅子の背もたれに身を任せて天井を仰いだ。








私は会議室に向かって廊下を歩いていた。リュウの救出を終えた私達はこれからどう行動するべきか、それを決める為に全員に集合が掛かったのだ。
でも、お世辞にも頭が良いとは言えない私が会議に参加して意味があるのだろうか。
まぁ、集合が掛かったのなら、その場に赴くしかない。
協力してくれている上に、戦闘技術を教えてくれたナイトに逆らう権限なんて私には無いだろうし。
私は会議室として使われている部屋に入ると、適当な場所に腰を下ろした。

「…………」

それにしても、誰も居ない。気持ち悪いぐらい静かだ。
時間でも間違えたのだろうか?私は椅子に座ったまま、ただじっと待ち続けた。
けれど、やはり誰一人として現われない。
と、その時……突然、物音と共に荒々しく扉が開いた。

「突入!!」

掛け声が聞えたかと思うと、何かが弾ける様な音が聞え、私の体にヒラヒラした紐状の物体や小さな紙切れが大量に降り注ぐ。
私は慌てて体に掛かった紐状の物体を振り払い、素早く身構えて戦闘態勢に入った。
そして、謎の紐状の物体や紙切れが飛んできた扉を睨む。
……が、そこに居たのは想像していた軍の兵士などでは無く、あろう事か傭兵隊ブイズの隊員達。
さらに、その中にはリュウやグレンも混ざっており、みんなには一つだけ共通点があった。
全員が頭の上に奇妙な円錐形の帽子を被っている。
私は訳が分からずにその場に立ち尽くしてしまった。
彼らはそんな私を尻目にして、ぞろぞろと部屋に入って来る。
そして、一斉に声を上げた。

「誕生日おめでとう!!」

「え?」

あまりにも突然だったので、ちゃんと反応する事が出来なかった。
頭の上が疑問符だらけの私は目を点にしながらその場で立ち尽くす。
私が我に返った時、既に目の前にはリュウが二本足で立っており、両前足で大きめの皿を持っていた。
そして、その皿の上には沢山の蝋燭が立った真っ白なケーキ。
ケーキの中心にはチョコで作られたと推測出来るプレートが置いてあり、そこには白い文字でなにやら文字が書かれていた。
美しく飾られたケーキに見とれている私の周りから又もや軽い炸裂音がしたかと思うと、同時に先程と同様に紐状の物体が降り注ぐ。

「フェザー。今日は誕生日だろ?」

紐状の物体に翻弄されている私をリュウは微笑みながら見つめ、ケーキを差し出してくる。
そして、リュウは口から軽く火を吐いて蝋燭に点火した。
蝋燭に火が灯るのを待っていたかの様に誰かが部屋の電気を消し、一瞬にして部屋は漆黒に染め上げられる。
その中でユラユラと揺れる二十個の淡い赤をした炎。
暗闇の中、蝋燭の明かりにぼんやりと照らされているリュウの顔を私は見つめた。

「フェザー。この火を吹き消すんだ。あ、でも竜の息吹はよしてくれよ?」

「わ、わかった」

何故、私は緊張しているのだろうか。自分の誕生パーティなんて初めてだけれど、こういう時は喜ばなくちゃ。
私は自分にそう言い聞かせると、大きく息を吸い込んだ。
その最中、リュウやグレン達は少し身を引いている様に見えた。
おそらく、リュウが言った冗談が一瞬、現実になるのではないかと思えたのだろう。
吸い込んだ酸素を二酸化酸素に変換しながら私はケーキに並ぶ蝋燭の火に息を吹き掛けた。
蝋燭の火は一斉に吹き消され、部屋がさらに黒く染め上げられる。
蝋燭の火を吹き消してから間も無く蛍光灯が輝き、白い光りは部屋の隅々まで照らし出した。

「せっかくのケーキだ。食べてくれ」

リュウはそう言うと、テーブルの上にケーキを置き、椅子を引き出してそれを私の方に向けた。
そして、その椅子の背もたれを前足で持ちながらじっとしている。
ここに座れという事だろうか。
私はリュウが引き出した椅子に腰を下ろすと、彼は私の座った椅子の向きをテーブルに戻す。
いつの間にかテーブルの上に置かれていたフォークを私は掴み、一度リュウの顔を伺ってからケーキを口に運んだ。
クリームが口の中一杯に広がり、まるで、青空に浮かぶフワフワの雲を食べている感触。

「どうだ?美味いか?」

「うん!すごく美味しいよ」

私は嘴の先端に付いたクリームを舐めとりながら笑顔で答えた。
その言葉を聞いたリュウは、一瞬だけホッとした様な表情をしたが、それは直ぐに笑みに変わる。

「いや~良かった。ケーキなんて作ったの初めてだからさ」

「え?これ、リュウの手作りだったの!?」

私は、クリームで所々白くなっているフォークを持ったままリュウの発言に驚く。
リュウには悪いかもしれないが、完全に市販の物だと思っていた。
形も味を良い上に、中心に飾ってあるチョコレートに書かれた“Happy birthday feather”の文字もとても綺麗だ。
リュウが料理を作れるのは知っていたのだが、こんな綺麗で美味しいケーキまで作ってしまうとは、思っていた以上に手先が器用なのかもしれない。
そして、こんな私の誕生日を祝ってくれたリュウやみんなに本当に感謝である。
なんだか視界が沸いてきた液体でぼやけてきてしまった。
私って何故ここまで涙脆いのだろうか。今までもそうだったけれど、この癖?は少なくとも今は直せそうに無い。

「まぁ、デイさんに教えてもらったんだけどな」

涙を自分の羽で拭っている私の横でリュウが苦笑いしながら暴露?した。
確かに、毎日全員分の食事をほぼ一人で作っている彼女ならケーキの作り方を知っていても全くといっておかしくは無い。
その後、みんなに祝ってもらった私はリュウの手作りケーキを食べ終え、しばらくみんなとフェニックス計画とかそんな物騒な事を忘れて楽しく過ごした。








フェザーの誕生パーティが終ったその頃、地上を照らす太陽の光りを真上から浴びながら、ブイエイト町と隣の町を仕切る境界線の手前にジャウとソウルが立っていた。
そして、並んでいる二人の後ろには通常よりも遥かに多い兵士達。
彼等の付けているバッジは輝き、まるで自分達は強い軍人だぞ……とでも主張しているかの様であった。
しかし、町を行き交う人々は威圧感を醸し出している彼等に脅えるどころか、睨み付けている。ここはお前達の来る所ではないと、目で訴えながら。
ジャウはそんな柄の悪い人々が睨んでくる中、全くといって脅える様子も無く、我が者顔でゆっくりと町の様子を伺うと、隣の町とこのブイエイト町を仕切る境界線を跨ごうとした。

「おい!てめぇ、ちょっと待てよ」

「あ?」

ジャウが境界線を越えようとした瞬間、ブイエイト町に居た一人のマッスグマが声を上げた。
そして、縄張りを侵された獣の様な目付きでジャウを睨み付ける。
ジャウはその声に一瞬足を止めたが、直ぐに境界線を跨いでブイエイト町に踏み込んだ。

「待たねぇよ。邪魔すんな。雑魚」

ジャウは踏み入れた後に声を上げたマッスグマにそう言った。
その瞬間、マッスグマは前足を地から離し、二本足で立ち上がってジャウの目の前まで歩いて来る。
そして、マッスグマは前足の骨を鳴らし、ジャウに対して喧嘩を売り飛ばし始めた。
周囲に居た他の通行人達も挙ってジャウの前に集まり、軍の集団と町民の集団の睨み合いが始まる。

「ここは、てめぇらみたいなクズ共の来る所じゃねぇ、とっとと帰りな」

マッスグマは目を鋭く吊り上げながらジャウやその他の兵士達に向かって言い放った。
しかし、ジャウはその言葉に動じる事無く、彼を嘲笑う。
そんなジャウに町民達はさらに目付きを鋭くし、中には先程のマッスグマの様に喧嘩の準備運動を始める者も出始めた。

「とっとと帰れ。だと?てめぇ等こそお家に帰りな。邪魔なんだよ」

ジャウは自慢の顎に並んだ鋭い牙を見せながら町民達に言うと、目の前のマッスグマの横を通って進み始める。
その後に続き、ソウルや手下の兵士達も歩き始めた。
しかし、ジャウがマッスグマの横を通り抜けて直ぐの事だった。
突然マッスグマが振り返り、ジャウに殴り掛かる。

「てめぇ、図に乗ってんじゃねぇぞ!」

マッスグマが怒鳴った瞬間、周囲に鈍い音が響いた。
そして、その直後にスマートな体付きをしたマッスグマがその場に倒れ込む。
ジャウに殴り掛かったマッスグマであったが、そのパンチは簡単に受け止められ、反撃の一発をもろに受けてしまったのだ。
鍛え上げられた肉体から放たれた強力なパンチにマッスグマは耐える事が出来ず、アスファルトの硬い地面の上で荒い息を上げながら殴られた箇所を押えている。
ジャウはそんなマッスグマの頭を踏み付けると、マッスグマから視線を他の町民達に移す。

「邪魔するとコイツみたいになるぜ?痛い思いしたくなけりゃ、とっとと失せろ。カス共」

「てめぇ!」

ジャウの言葉と態度に激怒したのか、町民の集団内に居たリザードが叫び、ジャウに向かって走りながら大きく口を開けて喉の奥から灼熱の炎を呼び寄せて火炎放射を繰り出す。
しかし、ジャウは先程のマッスグマを踏みながら大きく息を吸い込むと、強烈な威力を誇るハイドロポンプを向かって来る火炎放射に放つ。
当然、火炎放射は鎮火され、もくもくと煙る蒸気が周囲に立ち込めた。
と、その瞬間。
曇った蒸気の中から勢い良くリザードが飛び出してくると、鋭く尖った爪でジャウに切り掛かる。

「あ?」

突然の出来事にも全くといって動揺せず、ジャウは冷静に回避出来ないと判断したのか、防御の体制を取る。
だが……リザードの攻撃はジャウに当る事は無かった。
ジャウとリザードの間にソウルが素早く割って入り、その大きな手で意図も簡単にリザードの攻撃を受け止めたのだ。
そして、空いている片方の手でリザードの首を掴むと、天に向かってその手を伸ばし、リザードの首を締め上げる。

「油断しすぎだぞ。ジャウ」

「……邪魔すんなよ、俺の獲物だ」

ジャウは苦しそうにもがくリザードを見ながらソウルに言った。
その言葉を聞いたソウルは、返事をすることも無く、リザードの首をさらに締め上げる。
リザードは苦しそうにもがき、足をバタつかせ、ジャウに踏まれているマッスグマに至っては既に意識が無いのか、声も上げなければ体を動かす事も無い。

「獲物?こいつ等は対象外だ。むやみやたらに殺すな」

ソウルはジャウにそう告げると、もがいているリザードを舗装された硬い地面に叩き付けた。
命こそは失わなかったものの、リザードは荒い息を上げてその場に伏せ、自分の力では立ち上がれない様子。
リザードの尻尾の炎は既に勢いを失い、今は冬の冷たい風に揺れている。
ソウルは苦しそうにしているリザードから目を逸らすと、配下の兵士達が居る方向に振り返って彼等に向かって指示を出す。

「予定通り捜索を開始しろ」

「了解」

兵士達の返事を聞いたソウルは視線の先を町民達に向け、彼等に向かって警告を始めた。

「軍の行動を妨害する者がいれば、我々は容赦しない。速やかに道を開けろ」

ソウルの警告を聞いた町民達だが、軍の兵士が自分達の町をうろつく事が気に食わないのか、依然として道を開けようとはしなかった。
仲間であるリザードやマッスグマがあんな目に合わされてしまったのだから、彼等の軍に対する怒りは出会った時より数段は増している。
このまま睨み合いを続けていては埒が明かないと判断したソウルは、面倒臭さそうな表情を浮かべながら兵士達に向かって今度は手で指示を出した。
ソウルの出した指示に対し、配下の兵士達は一瞬戸惑った様な表情になったが、自分達より位が高いソウルの命令に背く事は出来ない為、それぞれ戦闘体制を取る。
町民達も、ソウルの出した指示が自分達への攻撃だと、直ぐに理解して拳を握り締めたり、目を威嚇する様に睨み付けたりし始めた。
一触即発。
ブイエイト町の大通りは正にこの言葉の通りの状況になっていた。
数では、若干町民達の方が多いが、ゴロツキの集まりである彼等に比べ、ジャウやソウル達は訓練を受けている上のしっかりと統率も取れている。
戦いになれば軍の圧勝は確実と言っても過言ではない。
冷たい冬の風はジャウやソウル達を後押しする様に彼等の後ろから吹き、町民達にとっては向かい風。
今の状況では、この風が素直に引けと言っている様にすら、町民達には感じられた。
だが、自分達の島(領地)をいきがった軍の兵士共に荒らされてはならない為に誰一人としてこの場から引こうとはしない。

「どうやら……退く気は無いらしいな。仕方ない。強行突破する」

ソウルが無数の白い雲が流れている蒼空に手を伸ばし、その手を町民達に向かって振り下した。








私達が潜伏……と言うとなんだか良い気分では無いが、とりあえず身を潜めているブイエイト町に軍の兵士達が来ているとは知らずに、私は何時も通り、ひたすらに訓練を続けていた。
リュウは体の鈍りを直す為か、私の隣で重たい鉄亜鈴を上げ下げしている。
それにしても、先程の誕生パーティは本当に嬉しかった。
あんな大勢に祝ってもらった事なんて初めてだったし、なによりリュウが私の為にわざわざケーキを作ってくれたのが、最も嬉しかったし、驚いた。
専用の器具の上で仰向けになりながら前足でダンベルを上げ下げしているリュウを見詰めながら先程の誕生パーティの事を回想していた。
私がリュウを見詰めていると、彼は視線に気が付いたのか、視線の先を真っ白な天井からこちらに向けて来る。
左目には相変わらず包帯が巻かれ、見えている右目だけリュウは首を傾げながら私を見ていた。
おそらく、私がジロジロと見ていたから不思議に思ったのだろう。
私はリュウから直ぐに視線を逸らすと、基礎体力の強化を図る為にナイトが考えた訓練プログラムを再開しようとした……
だが、いざ体を動かそうとした瞬間、グレンが扉を勢い良く開け、かなり焦った表情でこの部屋に飛び込んで来た……と思ったが、転んでしまった様で転がり込んできた。
私もリュウも、彼の表情から、なにか只ならぬ事が起きたと察し、直ぐに目付きが変わる。
グレンは起き上がってから私の直ぐ目の前まで体毛を靡かせながら走って来ると、慌てふためきながら喋り始めた。

「たたたたたた、大変です!軍の兵士がこの町に来てます!」

グレンの口から飛び出してきた知らせに私もリュウも目を一瞬だが目を点にしてしまった。
しかし、問題はその情報が正しいかだ。謝った情報に流されるのは良くない。
私はそう判断すると、訓練メニューが書かれた紙を床に置いてリュウよりも先に口を開いた。

「確かな事なの?」

「は、はい!ナイトさんが確認しました。直ぐにここから逃げ出すそうです。だ、だから必要最低限の荷物を三分以内に纏めて通信室に集まってください!
……じゃあ、俺も自分の荷物を纏めるので、フェザーさん達も急いでください!」

グレンは私の質問に早口で答えると、そう言葉を残してこの部屋を後にした。
私とリュウは目を合わせ、互いに軽く頷くと同時に走り出す。
廊下ではサンダースやグレイシアといったブイズの隊員達が走り回っていた。
おそらく、大事な荷物などを運べるだけ運ぶつもりなのだろう。
ここに重要な情報を残すことは許されない。空っぽになったこのアジトを軍は徹底的に調べ上げるだろう。
もし、そこでこちら側の重要な情報が発見されれば、フェニックス計画の阻止どころか、生きる事すら危ぶまれる。
そう考えると、私達も急がなければならない。
私とリュウは自分達の部屋に戻ると、早速荷物を纏め始めた。
いちいち、どれが必要かをリュウに聞いている暇は無いので、全てを自己判断する。
なにかが書かれたメモなどはとりあえず燃やし、灰にして証拠隠滅。
例え、それが他愛の無い内容だったとしてもだ。いちいち内容を確認する時間は私達には残されていない。
私の隣で、リュウも慌しく証拠隠滅と持って行く荷物の選別を行っている。

「よし、フェザー。行こう!」

「うん!」

リュウは大量のポーチを身に着けると、私にそう言った。
そして、リュウが扉を勢い良く開け、左前足でその扉を押えながら私を先に通す。
こんな時でもレディーファーストとは、随分と紳士的……なんて考えている暇は無い。
私は一目散に通信室に向かうと、扉の前で普段と全く変わらない冷静な表情で待っているグレイシアに扉を開けてもらい、リュウとグレイシアと一緒に通信室の中に潜るように入った。
さすがに、十一人も居ると、少し狭いがここは我慢だ。
……って、なんでこんな狭い部屋に集まったのだろうか。
既に扉はグレイシアが鍵を閉めてしまったし、このままここに立て篭もるとでも言うのだろうか。
全員が居る事を両の目でしっかりと確認したナイトは、一度全員に静まるように声を掛け、徐に話し始めた。

「よし、これから脱出する。俺の後に続いて一人ずつ入ってくれ」

入る?……一体どこに入ると言うのだろうか?
壁を見渡しても扉は無いし、あると言えばモニターや機械位。
キョロキョロと周囲を見回している私の左斜め後ろから、リュウが前足を伸ばし、ナイトの足元を指差した。
集まった皆の足で良く見えないが、そこには確かに小さな穴があった。
これが緊急時の脱出口と言う訳か。
一人感心している私を尻目に、ナイトが先陣を切ってその穴に飛び込み、それに続いてサンダースやリーフィアといったブイズの隊員達も飛び込んで行く。
次々と皆は飛び込んで行き、直ぐに私の番が回ってきた。
しかし、私が飛び込もうとした瞬間、まだこの通信室に残っていたデイが突然声を上げた。

「あっ!マズイ!……物置部屋に保管してある資料をシュレッダーに掛けるの忘れてた!」

「え!?……その資料は重要な物なんですか?」

私より先にリュウが素早く彼女の発言に反応して聞き返す。
デイはリュウの質問に一度だけ頷くと、直ぐに扉の方に向きを変えて走り出した。

「貴方達は先に行ってて!」

デイはその言葉を残し、グレイシアが掛けた鍵を外すと、壊れてしまう様な勢いで扉蹴り開けた。
そして、そのままの勢いで廊下に駆け出す。
私は彼女の後を追おうと、脱出口に向いていた体を翻し、扉に向って駆け出した。
デイは先に行けを言ったが、そうは行かない。
一度あの物置を拝見した事があったが、とても一人で、それも短時間で処理出来る量では無い。
私の予想に過ぎないが、軍の兵士達は直ぐそこまで来ていてもおかしくは無いだろう。
私は走りながらリュウに向って声を掛ける。

「リュウ!付いて来て!」

「わかった!」

リュウは戸惑う様子も無く、瞬時に私に向って返事を返すと、私に続いて勢い良く掛け出す。
と、その刹那、暗い脱出口の穴からグレンがヒョイと顔を出した。

「ちょっと!どこに行くんですか!?早く逃げないと!」

グレンは慌てた表情で私とリュウに言うと、前足を穴から出してそれを床の上に添えながら私達を見る。

「忘れ物だ!」

「は?わ、忘れ物!?」

リュウが私と同様、止まる事無くグレンに答え、直ぐに部屋を後にする。
グレンは状況を理解出来ないのか、一度首を傾けたが、その首を何度か横に振ると脱出口から飛び出して灰色の床に足を着けた。
そして、私とリュウの後に続いて走り出す。
グレンが追い付く前に、私とリュウは物置部屋に辿り着いていた。

「デイさん!手伝います!」

私は部屋に入るなり声を上げ、リュウと一緒に彼女の側まで駆け寄った。
デイは私達を見て一瞬、驚いた様な表情を浮べたが、直ぐに真剣な表情に戻ると私とリュウに言う。

「……じゃあ、とりあえず、この部屋の資料を全てシュレッダーに掛ける。だから、私の足元に集めて!」

「はい!」

私は大きく返事をすると、木目調の引き出しを手当たり次第に出して中身をデイの元に運ぶ。
リュウも彼女の出した指示に従い、私と一緒に引き出しから資料を運び始める。
私とリュウが行動を開始してから直ぐのことだ。
グレンが慌てた表情で私達の居る物置部屋に駆け込んで来た。
そして、部屋の中を見回した後、彼は口を開く。

「ちょっと!何してるんですか!?早く逃げないと軍に見つかっちゃいますよ!」

「あ、良い所に来た。グレンも手伝ってくれ」

「え?」

部屋に駆け込んで来たグレンにリュウがせっせと資料の紙を運びながら声を掛けた。
グレンは一瞬と惑った様子だったが、事情を理解するとリュウの側まで駆け寄る。
私がそんな彼に少しばかり目をやりながら一心不乱に資料を荒々しく掴んではデイの元に運び、デイが集めた資料の紙を手馴れた様子でシュレッダーの口に突っ込んでいく。
と、せっせと作業をしている私達をぼんやりと見ているグレンが又もや口を開いた。
全く、こんな忙しい時に……とか、思いつつも、私やリュウは彼の言葉に耳を傾ける。

「あの、シュレッダーに掛けるよりこの引き出しごと燃やしたらどうですか?」

「あ!そうか……確かにこの引き出しは木製。簡単に燃えるぞ」

グレンの発言にリュウは納得し、閃いた様な表情になる。
デイも一瞬だが、シュレッダーに資料を入れる作業を止めて彼の案に納得していた。
無論、私の彼の案に賛成だ。
案外……と、言っては失礼だが、彼はこういう時に気転が利くのかもしれない。
私達はグレンの案に全員一致で賛成すると、グレンがここは自分の出番だと背中から赤い炎を噴射して火炎放射を繰り出そうとする。

「よし!ここは俺の火炎……」

グレンが火炎放射を放つ為に大きく息を吸い込み始めた瞬間、リュウが素早く私達の前に立った。
そして、顔だけ振り返ると、真剣な表情で私達に言い放つ。

「下がって!」

私達がリュウの言葉に頷く前に、彼は顔の向きを戻して引き出しを睨む。
いや、おそらく狙いを付けているのだろう。
リュウは口から灼熱の炎を漏らしながら二本の前足をしっかりと床に付け、身構える。
そして、一度首を後ろに引いてから前に突き出し、突き出したと同時に勢い良く口から紅蓮に染まった火球を吐き出す。
放たれた火球は炎にも拘らず風切り音を上げ、引き出しに直撃すると巨大な大の字に燃え上がって木製の引き出しごと資料を灰燼に帰する。
部屋の中には木が爆ぜる音が何度も木霊し、煙がまるで生き物の様に蠢きながら部屋を満たしていく。
その中でリュウは続け様にシュレッダーの方にも大文字を放ち、引き出しと同様に燃え上がらせた。

「よし、これで俺達の手掛かりは残らない筈だ。急いで脱出しよう」

リュウは煙を避けて部屋の外に出ていた私達の元まで駆け寄ってくると、そう言って燃え上がる物置部屋を睨む様な鋭い目付きで見詰めた。
そんな中、私達の背後でグレンはひっそりと項垂れていた。

(この場合は普通、炎タイプの俺が活躍するんじゃ……)

私達は何故か項垂れているグレンに急ぐ様に声を掛けると、廊下を走り出した。
グレンも首を横に何度か振ってから慌てて駆け出し、四人揃って脱出口がある通信室に辿り着くと、順番に床に開いた脱出口に入り込んでいく。
最後にデイが脱出口に入り、彼女は床と一体化している蓋を閉めた。
薄暗く、少々狭い通路を転ばない様にしながら抜けると、僅かに開けた場所に通じており、そこには地上に伸びる梯子が一本。

「この梯子を登るの?」

「えぇ、これを昇ればブイエイト町の裏路地に通じてるわ」

私が振り返りながら質問すると、薄暗い通路の奥から走って来たデイがすんなりと答えた。
上を見上げてみると、そう高くない位置に出口と思われる蓋が見える。
後は梯子を登れば脱出完了だ。
飛んだほうが早い気もするが、この狭さだと壁に翼が当ってしまう可能性が高い。
リュウもそう判断しているのか、頭上に見える出口の蓋を残された右目で見上げている。
私は最初に梯子に掴まり、そのまま登り始めた。
私の後にグレンが続き、後はデイ、リュウの順番で梯子を登り始める。
私は梯子の先まで上ると、右翼を離して蓋の取っ手を掴み、取っ手を掴んでいる右翼に力を込め、蓋を上に押し上げた。
途端に薄暗かったこの通路に太陽から注がれる眩い光りが差し込み、私を含め、リュウやグレン達も目を細める。
地下通路の淀んだ空気とは違い、外の空気は新鮮その物で、私達は揃ってその新鮮な空気を鼻孔から吸い込んだ。
私が最初に穴から這い上がり、周囲を軽く見回してから続いてくるグレン達に翼を差し出して彼等が這い上がる手伝いをする。
全員が上がった所で、再度周囲を確認するがそこにナイト達の姿は無く、ただ、寂れた感じの細い裏道に北風が吹いているだけであった。
既に皆はどこかに行ってしまったのだろうか。
私は少々の不安を感じながらデイの方に顔を向けて彼女に問い掛ける。

「あの、皆は?」

「う~ん……多分先に行ったんじゃない?」

彼女のどこか説得力のある話し方に私の不安は少しばかり解消されたが、これからどっちに向えばいいのだろうか。
ここは裏路地のど真ん中なので、前か後ろの二方向に限られるが……
と、その時だ。
突然リュウが目付きを変え、北風が吹いて来る方向に向って勢い良く息を吸い込んでから大文字を放った。
リュウの口から飛び出した火の玉は道端に生えている一本の木に直撃し、爆発音とも言える音を轟かせながらその木を紅蓮の大の字に仕立て上げる。
突然のリュウの行動に私達が驚いている最中、その木の陰から何かが飛び出してくるのが過労時で確認出来た。
しかし、確認したのも束の間、飛び出してきた何かはかなりのスピードでリュウに向って攻撃を仕掛けて来る。
リュウは直ぐに構えを遠距離戦の物から接近戦の物へと換え、後ろ足で勢いよく地面を蹴ると、攻撃を仕掛けて来きた者を迎え撃つべく、飛び出して行った。








十四話に続きます。


PHOENIX 14 ‐刺客‐


あとがき
投稿が遅くなってしまい、すみません。昨日はWIKIに入れなかったもので……

ふぅ、今回はちょっと長めだったかな?
以前に比べればかなり短いのですが…
最近は執筆速度が減速しているので、ネタと言う名のレギュラーと作文力と言う名のハイオクを満タンにしてエンジンと言う名の頭の回転を止まらない様にしなければ…
あ、混ぜて入れたらマズイか…(汗)

つまらない駄文を読んで頂きありがとうございました。
差し支えなければ誤字、脱字の指摘や感想などを頂きたいです。




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Last-modified: 2010-03-09 (火) 00:00:00
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