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PHOENIX 12 ‐成果‐

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PHOENIX
作者 SKYLINE
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12話 成果

私は朝冷えした部屋の床で深い眠りから目を覚ました。
目が覚めた時、隣にあるベッドにリュウの姿は無く、彼に掛かっていた筈の掛け布団は私に掛かっている。
おそらく、私より先に目を覚ましたリュウが掛けてくれたのだろう。
相変わらず、リュウは優しい。
今、彼がこの部屋に居ないという事は、回復して歩けるようになったと見受けられる。
多分、トイレか何処かに行っているのだろう。
時計に目を向ければ、短針が四を指し、長針が一を指している。秒針は絶え間なく時を刻み続け、そのペースは乱さない。
早朝のこの部屋は気温が低く、鼻孔から漏れる息はごく僅かだが白色を帯び、布団が掛かっていない肌からは寒さが嫌でも伝わって来る。
私はリュウが掛けてくれたと思われる布団に深く包まると、そのまま目を閉じた。








私が二度寝から起きたのはすっかり日が昇ってからだった。
地下だから直接お天道様を拝見出来る訳ではないが、太陽に代わって壁掛けの電波時計が時報で時を知らせてくれる。
私がゆっくりと瞼を持ち上げると、椅子に座りながら片手にダンベルを持っているリュウの姿が飛び込んで来た。
見た感じ、もうすっかり元気になっている。今は鈍った体を再建中といった所か。

「おはよう」

「うん。おはよう」

リュウはダンバルの形をしたダンベルを持ち上げたり下げたりしながら私の寝ぼけ顔を見ている。
私は目を擦り、ゆっくりと起き上がってふらふらしながらリュウの横にある椅子に力なく座り込んだ。
リュウはそんな私を見ながらダンバル型ダンベルを持ち替え、反対の左前足でそれを掴むと、同じ様に上下に動かす。
テーブルの上には白く平べったい皿が二枚。
一枚は既に何も載っていなく、あるのは細かいパンクズのみ。
もう一枚の皿には食パンが二枚。そして、二枚の皿の間にはジャムの容器。
蓋は既に外れており、ジャムにはステンレス製と思われる箆が突き刺さっていた。
後、テーブルの隅にモーモーミルクと書かれた牛乳パックも。
どうやらこの食パン二枚とジャムが今日の私の朝食らしい。
私はジャムに突き刺さっている銀色の箆に右翼を伸ばし、それにジャムをたっぷり付けてから引き抜いた。
この甘く穂のかな香り……苺のジャムだろうか。
私は食パンに苺のジャムを塗りながらその香りを味覚より先に存分に味わう。
食パン平野が雪化粧ならぬジャム化粧し終えると、私はそれを口に運んだ。
食欲をそそる香りが口から鼻へと抜け、甘みが舌を包み込む。
ただの食パンをここまで上品に仕立て上げるジャムの神業。
素晴らしいの一言に尽きる。
結局、あっという間にパンは細かく粉砕され、胃袋に収まってしまった。
私が食べている間、リュウは隣でずっとダンベルを持ち上げていた。
ダンベルを見詰める彼の顔を眺めると、昨日の夜の記憶が蘇る。
リュウが私に付けてくれた名前こそが私の本当の名前だった事、そして、二度目となる口付け。
今まで運命とかそんな物は無いと思っていた。
しかし、昨日知った真実を考えれば、もしかしたらこの世に運命って物があるんじゃないかと考えを改めさせられる。
私がリュウの横顔をじっと眺めていると、彼は私に気が付いたのか、視線をダンベルから私に移してきた。

「フェザー?どうした?」

「あ、いや、昨日の事を思い出してて……昨日はありがとう。記憶を呼び覚ましてくれて。またキスしていい?」

「あ、あぁ……その内な」

「そこ、いつでもって答えてよ!」

「じゃあ、いつでもって言いたいけど、戦闘中はよしてくれよ?」

リュウは軽く笑いながら私に言った。私もそんな彼に微笑むと、彼の頬に軽く口を付ける。
その瞬間にリュウは顔を赤くし、しきりに上げ下げしていたダンベルの動きを止めた。
私の感覚からすれば、二人だけなのだから恥ずかしがる事は無いと思う。
しかし、私はその瞬間に扉の方向から気配を感じた。
私とリュウが素早く視線を扉の方に移すと、半開きの扉の間からグレンが顔を覗かせていた。

「あ、すみません……なんか、タイミングが悪かったみたいですね。出直してきます」

リュウはとっさに私から距離を置いた。そして、顔を真っ赤にしながらグレンを見詰める。
私はリュウと違ってそのまま硬直していたのだが。
別に、私がリュウを好きな事をグレンは知っているのだから、見られたからと言って特に恥ずかしくは無かった。

「あ、いや、出直さなくていいって、な、なんか用か?」

リュウが少しばかり顔を赤くしながらグレンに言う。
リュウの言葉を聞いたグレンは申し訳なそうな態度を維持したまま、ゆっくりと開きかけの扉を開け、部屋の中に入ってきた。
そして、ドアノブから前足を離し、普段の様に四本の足を床に付ける。

「えと、食器を回収しに来たんですけど……食べ終わりましたか?」

「あ、あぁ、悪いな。わざわざ取りに来てくれるなんて」

リュウは未だに恥ずかしそうにしながらグレンにそう言った。
リュウはグレンの方を向きながら椅子に座っているので、腰を捻ってテーブルの上にある皿を纏め始めた。
そして、纏めた皿を御膳に乗せて立ち上がり、二本足で歩きながらグレンの元に歩み寄っていく。

「リュウさん……朝から熱いですね」

「う、うるさい。とっとと持って行ってくれ」

御膳の受け取り際にグレンがリュウに声を掛け、その言葉にリュウがさらに顔を赤める。
グレンはニヤニヤしながら前足を出して御膳を受け取り、リュウに扉を開けてもらって部屋の外に出て行く。
グレンが部屋から出ると、リュウは直ぐに扉を閉めた。
そして、二足から四足になると先程座っていた椅子に向かって歩き出し、ゆっくりと椅子に腰掛けた。

「恥ずかしい所を見られちまったな」

「別にいいじゃん。見られたぐらいどうって事無いって」

「まぁ、そうかもな。俺がシャイなだけか……」

「シャイ?」

聞きなれない言葉を聞いた私は、リュウにその謎の言葉の意味を伺った。
リュウの説明では、シャイって言葉の意味は恥ずかしがり屋という意味らしい。
孤児であった私の常識がずれているのは承知しているが、本当に初めて聞いた言葉だ。
これは早速脳にインプットしておかなければ……容量が余っていればだけれど。
悪いかどうかは別として、最近の特訓で私の脳内は常識よりも戦闘に関する知識の割合の方が多くなっている気がする。
こうやって地下に篭っていると、どうしても外の情報が伝わらないのだ。
私はこまめにテレビを見ているわけでもないし……
さてと、朝食も食べ終えた事だし、リュウと一緒に居たい気持ちを制御して日課となっている訓練を始めなきゃならない。
誰かが言った訳でもないが、私は最弱。だから訓練してみんなの足を引っ張らない様にしないと。
常にリュウの救出作戦の様に上手くいくとは限らない。
だからこそ、強くなって足を引っ張らないようにする。
私は椅子から降りると、気合を入れて扉に向かって歩き出す。

「フェザー?どっか行くのか?」

リュウが相変わらずダンベルを動かしながら私に問い掛けてきた。私は足を止めると、顔を振り向かせてリュウから投げられた質問という名のボールに答えと言う変化を掛けて投げ返す。

「うん。これから訓練するの。みんなの足を引っ張らない様にね」

リュウは私の様な回答に納得できたのか、何度か頷いた。
でも、少し驚いていた感じもあった。リュウが知っている私はおそらく、か弱かった私。
でも、自分で言うのもなんだが、もう、昔の様な私ではない。
今はまだ差があるかもしれないが、いずれはリュウだって抜かしてやりたいぐらいだ。
私はリュウに一度目を合わせた後、扉を開けて廊下に出た。
で、最初に感じた事は……寒い。
朝冷えの廊下はもう冷蔵庫の中の様だ。さっさとこんな寒い廊下からはおさらばするとしよう。
私は早足で訓練室に向かうと、すぐに扉を開けて逃げ込む様に部屋の中に駆け込んだ。
ここの寒いと言えば寒いのだが、廊下よりはずっとマシだ。
先ず手始めに体をほぐし、怪我をしない様に準備運動は入念に行う。
これもナイトが教えてくれた事だ。時期も冬なだけにいきなり体を動かすと高確率で怪我をする。
怪我をした時の痛みや、その後の不自由さは身に沁みてわかっているので、私は入念に準備運動を続けた。
ようやく体が温まってきた頃、私の耳に扉を開ける音が飛び込んで来る。
その音に気が付いた私が振り向くと、扉の前にはリュウが立っていた。

「フェザー。頑張ってるか?」

「え?まぁ」

私が準備運動しながら答えると、それを見ていたリュウが歩き出し、私の隣まで来ると同じように準備運動を始めた。

「フェザー。俺も付き合う。鈍った体を元に戻さなきゃならないしな」

リュウは準備運動をしながらそう言い、せっせと体を動かす。
私も負けじと何時もより気合をいれて準備運動を行い、それが終ると壁に貼っておいたナイトが組んだ訓練メニューが書き留めてある紙に顔を近付ける。
私がメモを凝視しながらメニューを確認していると、リュウが私の背後から首を伸ばし、メモを覗き込んできた。

「これが隊長が組んだメニューか?」

「うん」

私がリュウに顔を向ける事無く、紙を見詰めながら答えると、彼はそっと私の横から顔を引いた。
そして、リュウは辺りを見回した後、徐に口を開く。

「フェザー。隊長から聞いたんだけど。相当強くなったらしいじゃないか。……どうだ?俺と一度戦ってみないか?もちろん、模擬戦な」

「え?」

こんな私がリュウと戦う?いくら私が強くなったとは言っても、さすがにまだリュウに勝てる気はしない。
躊躇している私に追い討ちを掛けるかの様に、リュウが私に問い掛けてくる。
けれど、その言葉はリュウが私を信用している証拠でもあった。

「フェザーには俺の背中を預けられる位強くなって欲しい。だからこそ、俺はフェザーの実力を知っておきたいんだ」

リュウは私を信じてくれている。だったら、私も彼を信じようと思う。
互いに自分の背中を預けられる存在になれる様に。
それに、私もリュウがどれだけの力を持っているかを知りたいし……
そうと決まれば話は早い。私はリュウと一戦交える決心を固め、目付きを変えてリュウに答えを言う。

「いいよ。私もリュウの実力を知っておきたいから」

「よし。じゃあ、室内だから技の使用は禁止な。体術オンリーだ。パンチ、キック、タックル……体術ならなんでもいいから先に三回攻撃に成功させた方が勝利って事で。手加減はしないぞ?」

「わかった。私も手加減しないから!」

私はリュウと目を合わせ、同じタイミングで頷いた。
そして、互いにある程度の間合いを取る。
間合いを取り終えてから直ぐに私は広い部屋の中に円を描く様に走り出し、リュウとの距離を徐々に縮めていく。
ナイトが言っていた。こちらから仕掛ける時は正面から突っ込む事だけはするなと。
私はその教えの通りに円を描いてリュウの周りを回る。
リュウはというと、その場にじっとしながら常に右目で私を捉え、瞬き一つしない。
その目は普段の優しい物では無く、戦いの時の鋭い目であった。
私は機敏な動きで瞬時に方向転換すると、リュウに向かって攻撃を仕掛けた。
しかし、リュウは私の攻撃を見切り、ボーマンダとは思えない軽快な動きで横にステップして私の攻撃を簡単にかわす。
私は攻撃を回避された直後に床に両方の翼を付け、体に急ブレーキを掛けてその場から跳躍する。
そして空中で方向転換すると、今度はリュウの左上から攻撃を試みた。
決して良い事では無いのだが、リュウは左目を失明しているので視界は半分。
それを利用して私は死角から攻める。
さすがのリュウも私の行動に驚いたのか、振り返った彼の右目は見開いていた。
私はそのまま重力を味方に付けて急降下し、リュウに対して足で攻撃を試みる。
だが、リュウは残った右目だけで私の動きを瞬時に見切ると、私の足を左前足で掴んで床に叩き落した。
背中に鋭く痛みが走る。受身が上手く出来ていなければ模擬戦と言えど、背中を怪我してしまっていたかも知れない。
私は痛みを我慢してリュウからは絶対に目を離さない様に心掛けた。
抜かりの無いリュウの事だ。必ず追い討ちを掛けてくる筈。
私の予想は的中し、リュウは私の足を掴んでいない右前足を握り締めて追い討ちを掛けてきた。
私は素早く体を回転させて床を転がりながらその攻撃を回避し、同時にリュウの左前足からも脱出する。
そして、直ぐに立ち上がるとバックステップで間合いを開けた。

「フェザー……凄いな。俺が居ない内にここまで成長するなんて。天才なんじゃないのか!?」

「ホントに?またお世辞でしょ?」

「俺は一度もお世辞でフェザーを褒めたことは無いって」

リュウは私の成長に感心したのか、彼を鋭い目付きで見ている私を褒めてくれた。
そして、リュウは喋り終えると同時に私に攻撃を仕掛けてきた。
捉えるのがやっとの凄まじいスピードでリュウは私との間合いを一気に切り詰め、左前足で私にパンチしてくる。
私は体を右に反ってその攻撃を回避し、直ぐに体制を立て直そうとした。
しかし、立て直すよりも早く次なる攻撃が私を襲ってきたのだ。
リュウはパンチしてきた左前足をそのまま床に付け、その左前足を軸にして勢いを殺さずに時計回りに体を回転させた。
リュウの左後ろ足が私の顔目掛けて空気を寸断しながら迫ってくる。
だが、あと数センチというギリギリの距離でリュウの左後ろ足は私には当らず、空振りした。
この時、一瞬ではあるがリュウに隙が生まれていたのに私は気が付く。

(よし!この隙を突けば一発入れられる!)

私はその隙を逃すまいと、避けから攻めに転じる為に反っていた体を元に戻す。
しかし、その瞬間。私の耳に風切り音が飛び込んできた。
そして視界の隅には接近してくる何か……リュウの尻尾だ。
接近するリュウの尻尾に気が付いた時にはもう遅く、彼の長く強靭な尻尾が私に直撃する。

「きゃあ!」

私は叩き飛ばされ、悲鳴を上げながら床に落下した。
どうやらリュウの攻撃は後ろ足による回し蹴りだけでは無かった様だ。
後ろ足をあえて外し、わざと隙を作る。
そして、攻めに転じてきた私をそのまま体を回転させながら尻尾で攻撃。
やはりリュウは相当な実力者だ。ボーマンダとは思えない軽快な動きに計算された連続攻撃……もはや、さすがとしか言いようが無い。
痛みを堪えながら私はすぐさま起き上がり、視界にリュウを留める……筈だった。
しかし私の視界にリュウの姿は無く、見えるのは真っ白な壁だけ。
一体リュウは何処に……?
私がふと天井を見上げると、赤い大きな翼を広げながら突っ込んでくるリュウの姿。
私は直感的に左に飛び込む様に回避する。
なんとか攻撃は回避できたのだが、幾分緊急事態だった為に、又もやリュウを視界から外してしまった。
素早く体勢を立て直そうとした瞬間、目の前にリュウが居る事に気が付いた。

「!!」

目の前のリュウは既に前足を振り上げて私に攻撃する寸前。
諦めかけたその時だった。私はリュウの懐に僅かな隙があるのを発見した。
一か八などといった迷いより先に体に力を入れ、私は力強く床を蹴ってリュウの懐に突っ込む。

「なっ!?」

リュウのパンチはギリギリ私には当らず、二本の鶏冠を掠っただけだった。
そして私はリュウの腹に思い切り体をぶつけ、彼をよろけさせる。
さらに、怯んだ隙に追い討ちとしてリュウの腹に蹴りを入れた。

「うっ!」

リュウの体は先程私が飛ばされた様に宙を舞い、背中を壁に打ち付けた。
私は直ぐに体制を立て直すと、さらなる追い討ちを試みる。
相手に休む時間を与えるな。これもナイトが伝授してくれた知識だ。
後一発攻撃を入れれば私の勝利。つまりはこのままタックルすれば勝負は着く。
しかし、完全に捉えていたリュウの姿が私の目の前から一瞬にして消えた。
リュウは私を飛び越えるように跳躍しており、空中で体を捻って方向転換すると、私の背後に綺麗に着地する。それも私の方を向きながらだ。
これは絶体絶命。無防備で隙だらけの背中をリュウに向けているのだから。
それに気が付いた私は直ぐに振り向こうとするが、振り向く前に背中に痛みが走った。
背後からリュウに殴られ、私はうつ伏せになって床に倒れこんだ。
私は直ぐに起き上がろうとする。
背後にはリュウいる。ここは前方に向かって進み、彼から間合いを取った方が安全だろう。
私は瞬時にそう判断し、起き上がると同時に前にダッシュする。
しかし、私が向かった先には既にリュウが居たのだ。
完全に読まれてしまっていた。
防御を取る暇もなく、リュウのパンチが私の顔面をその先に捉える。
ここまで来るともはや防御も回避も間に合わない。
私は目を瞑り、殴られる際の痛みを堪えようとする。
しかし、リュウのパンチは途中で失速してから無抵抗の私の凸に当った。
いや、触れたと言うべきだろうか。

「チェックメイト。俺の勝ちだな」

私が瞑っていた両目をゆっくりと開けると、リュウが微笑んでいた。
なんだか悔しい。リュウがかなりの実力者なのは分かっているけれど、今まで厳しい訓練を受けてきたのに負けてしまった。
リーチまでは持って行けたのだが……後、最後の一発がリュウの方が早かった。
考え直してみれば、壁に背中を打ちつけたリュウがその場でじっとしていた事態おかしい。あれはおそらく怯んでいる演技をしていたのだろう。
私は後一発だったからここぞと言わんばかりにリュウに向かって行ってしまった。
何の策も無しに……
結果、意図も簡単に攻撃を回避されて反撃を受けて敗北。
やはり、私はまだまだ弱いのだろうか。
私はその場に座り込みながら俯く。リュウはそんな私の顔を首を曲げて覗き込んできた。

「フェザー……凄いな。まだ未熟な所があるかも知れないけど、短期間でここまで成長するなんてガチで天才かもしれないぞ」

「でも、結局はリュウの方が私より強いし」

私の返答にリュウは前足で頭を掻きながら少々間を置いてから話し始める。
精神が軽く水没している私は床に座り込みながらリュウを見ていた。

「まぁ、これでフェザーの実力が分かったし、フェザーも俺の実力が分かっただろ?それに、自信を持って大丈夫だって。日頃の訓練の成果は目に見えて出てるじゃないか」

リュウは笑顔で私にそう言うと、前足を差し出してきた。
私はその前足の先端に視線をやり、それを右翼で力強く掴むとリュウに引っ張られて立ち上がる。
そして、私は視線をリュウの顔に移した。
残念ながらフィンとの悲惨な戦いでリュウの左目は完全に光りを失ってしまっている。
でも、今の戦いぶりを見る限りではそのブランクを感じさせない。
私とリュウはその場で行った模擬戦の反省を互いに始めた。
戦闘中に気が付いた欠点などを互いに指摘しあう。当然だが、まだまだ素人の私は課題だらけだ。今回、技は無しだったが、実践では体術よりも技が主体となる。
つまり……殆ど技を覚えていない私には明らかに不利なのだ。
その点はリュウにも指摘された。
と、言う訳で今度色々と技を教えてもらう事になった。
私達が二人で反省会を行っていると、訓練室の扉を開けてナイトが入って来た。
そして、彼は辺りを見回す。

「おい……この散らかし具合はなんだ?」

「え?」

私とリュウがナイトの言葉を聞いて周辺を見回すと、訓練用の小道具やらが辺り一面に散乱していた。
おそらく、必死になって戦っていた為に、気付かぬ内に散らかしてしまったのだろう。
私の横では、リュウが苦笑いしながらナイトに事の経緯を説明し始めていた。

「あ~、え~と……一時的にここが戦場になりまして……」

「……即刻片付けろ」

「りょ、了解です!」

ナイトは再度周囲を見回した後、リュウを睨みながら口を開いた。
その声は私とリュウに鋭く突き刺さる。多分、ナイトは怒っているのだろう。
まぁ、当然か……これだけ散らかしてしまったのだから。
結局、午前中は部屋の片付けに追われ、瞬く間に過ぎ去ってしまった。
午後はとりあえずのんびり過ごす事にした。訓練付けの毎日では、体が持たなくなってしまう。
ゆっくり休むのも訓練の一環って事で。







フェザーが部屋でゆっくりと体を休めている頃、リュウは廊下を歩いていた。
とある事を考えながら……
華やかさと言う言葉を知らないこの廊下。全ては灰色に染め上げられ、無機質さが丸出しである。
リュウは地上へと通じる階段と廊下を隔てる鉄製の扉の前で足を止めた。
目の前に立ち塞がっている扉も、廊下に負けない程無機質だ。
敵の奇襲などに備えて分厚く、そして重くしてあるのだろう。
さらに、経費削減の為に色などは塗らない。
いかにもナイトらしい。昔から彼は無駄が嫌いな性格だった。
任務の時も効率を第一に考え、装備も最低限。
まぁ、昔のナイトと今のナイトはかなり違うのだが。
リュウは目の前の扉から昔の事を思い出していた。
しかし、直ぐに我に帰ると、重い扉を押し開ける。
壁と扉の接合部からは相変わらず不快な音が響き、油を注せ……とでも訴えている様であった。
リュウは一段一段確実に階段を上がり始める。
と、その時、上から足音が響いて来た。リュウはハッと顔を上に向け、その足音の根源を確認する。
そこには足早に階段を駆け下りるブースターの姿。
リュウは体を反らし、狭い階段で何とかブースターとすれ違う。
僅かにブースターの毛にぶつかってしまったが。
ただ、ブースターは気にも留めていないのか、そのまま階段を駆け下っていく。
リュウは彼の背中を見た後、後ろを向いていた顔を前に向けて再び足を動かし始めた。

「どっか行くのか?」

ふと、リュウの後ろから声がした。リュウが振り返ると、たった今すれ違ったブースターがこちらを見詰めていた。
階段という高低差がある場所なので、見上げていたと表現した方が正しいが。

「ちょっと外に出てくるだけだ」

「そうか、外は危険だから注意したほうがいいぜ」

ブースターはリュウに一声掛けると、階段に足音を響かせながら地下へと下って行った。
それを見届けたリュウも、直ぐに階段を上がり、床と一体化している扉を持ち上げてそこから這い上がる。
そして、裏口から外に出ると、リュウは白く煌く太陽に目を細めた。
体全体を照らす陽光はまるで自分に当てられたスポットライトにすら感じられる。
リュウ周囲の明かりに目が慣れるまでその場に立ち尽くし、数秒すると何かを探すかの様に辺りを見回す。
そして、リュウは柄の悪い連中が行き交う町……ブイエイト町を歩き出した。








十三話に続きます。


PHOENIX 13 ‐襲撃‐


あとがき
惜しくもフェザーはリュウに敗北。体術のみ模擬戦でしたけど。
模擬戦とは言え、やはり戦闘シーンを文章に表すのは難しいです。
まぁ、それは自分の作文力が足りない事の表れですけどね。
精進せねば……

つまらない駄文を読んで頂きありがとうございました。
差し支えなければ誤字、脱字の指摘や感想などを頂きたいです。




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Last-modified: 2010-03-02 (火) 00:00:00
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