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PHOENIX 11 ‐過去‐

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PHOENIX
作者 SKYLINE
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11話 過去

私はナイトの部屋の前に立ち止まると数回のノックをして、返事を聞いてから彼の部屋の扉を開けた。
私が部屋の足を踏み入れると、回転椅子の上に座りながら前足で器用にコップを掴んで何かを飲んでいたナイトが、その椅子を回転させて私の方に向きを変える。
前足で掴んでいるコップからは白い湯気が立ち、彼の黒い顔の前で揺らめく。
しかし、その湯気も時間が経てば霞み、そして消えてしまう。
私はリュウからの頼み……ナイトを呼んでくると言う任務を実行するべく、口を割った。

「あの、リュウがナイトさんに会いたいって」

「あぁ、わかった……直ぐに行くとリュウには伝えてくれ」

「はい」

ナイトはすんなりと返事をすると、コーヒーを一気に喉に流し込む。
そして、白い無地のカップを黒く光沢のある御膳に乗せ、その御膳を口に咥えて私達が何時も食事を摂っている大部屋に向かって歩いて行ってしまった。
とても器用だ。
御膳の上に乗っているコーヒーカップはその位置を全くといって変えていない。
日々の訓練による集中力って物なのだろうか。
私はそんな事を考えながら、私は開きっぱなしになっているナイトの自室の扉をしっかりと閉めた。
そして、彼とは反対にリュウが待つ私達の部屋に足を運ぶ。
それにしても、相変わらずこの廊下は寒い。ドラゴン、飛行タイプの私にとっては何時になっても慣れる事が出来なさそうだ。
私が部屋の扉を開けると、すぐさま足元の空気が私を室内に誘い、顔の辺りの空気は私を追い出そうとする。
暖房の効いた部屋とこの廊下は寒暖の差の激しいのだろうか。
そして、私の首の中間辺りでは暖と寒が激しい?勢力争いを繰り広げていた。
私は部屋に誘う寒に加勢して室内にゆっくりと足を踏み入れ、暖房によって暖められた部屋に全身を入れる。
扉をガチャリと音がするまで引くと、私はベッドに仰向けになっているリュウの元に歩み寄った。

「リュウ。伝えといたよ」

「悪いな。世話掛けちまって……体が鉄みたいに重くてさ」

リュウは視線の先に私を見据えながら小さく呟いた。
夜中の間に栄養剤を投与していたから顔色は幾分良くなってはいるのだがが、やはりまだ完全には回復できていないみたいだ。
私は掛け布団に隠れているリュウの前足に掛け布団の上からそっと翼を添える。

「悪くなんかないって。リュウは今まで私の為に色々してくれたじゃん」

「いや、俺なんかよりフェザーの方が数十倍は立派だよ」

全く、リュウはお世辞が上手い事だ。私がリュウより立派な筈がある訳が無い。
私は臆病だし、ここの皆から比べると弱小だ。
なにより、リュウは命を掛けて私を守ってくれたのだから。
私はリュウの言葉を聞いてそんな事を思っていると、扉を開ける音が私達二人の耳に飛び込む
私がその音に反応してリュウの方に向いていた体を振り向かせると、そこにはナイトが四本の足を冷たい床に付けながら佇んでいた。
彼は扉を閉めるとその四本の足を規則的に動かして私の元まで歩いてくる。
ナイトの姿を右目で確認したリュウは、鉄の様に重たいと言っていた体をゆっくりと起し、彼に一礼した。
そして、リュウは残された右目でナイトを見ながらゆっくりと口を開く。

「ありがとうございました。隊長」

「……リュウ。こうやって話すのも久しぶりだな」

「えぇ、本当にお久しぶりです」

私は二人の会話の中間に居たのだが、互いに久しぶりと言っていたのでナイトとリュウは顔見知りらしい。古い友人か何かだろうか。
でも、ナイトは私と出会った時に軍とは敵対していると言っていたのに、妙に親しく話している。
それにリュウが彼を隊長って呼んでいるって……?
考えても考えても私の想像力ではその全容を推測する事は出来ない。
リュウは上半身を起した状態で俯くと、自身の下半身を覆っている白い掛け布団に目を向けながら後悔する様にナイトに話し始めた。

「隊長……フェザーから聞いていると思いますが、フィンは……俺が殺しました」

リュウはフィンの事を話すと、ナイトはゆっくりと彼の元まで歩み寄る。
そして、暖房が無限の肺活量で温かい息を吐き続ける中、彼はリュウに語り掛け始めた。

「あぁ、聞いている。フィンは良い奴だった。だが、お前に責任は無い。俺は少なくともフィンが向こうの世界でお前を憎んでいるとは思わないぞ」

「…………」

ナイトは励ます様にリュウに語り掛けると、リュウは俯いていた顔を上げ、青い瞳に映っているナイトと目を合わせる。
その青い目は何処か悲しげな感じだった。リュウの目を見ていると私もあの時の惨劇を思い出してしまい、表情が曇ってしまう。
でも、私もナイトの言う通りフィンはリュウを憎んでなんかいないと思う。
少なくとも私の知っているフィンはそんな性格ではない。
彼は今も天国で私達がフェニックス計画を潰すのを今か今かと待ち望んでいる筈。

「本当にありがとうございました」

「気にするな。お前は俺に正しい道を教えてくれた。せめてもの礼だ」

私があれこれ考えている内にリュウとナイトの話は随分と進んでいたようだ。
ナイトはリュウとの話しを終えると、直ぐに部屋を出て行ってしまった。
まだ、色々とやる事があるとかなんとか言いながら……
再び部屋は私とリュウの二人だけとなり、静か過ぎる静寂が部屋を包む。
聞えるのは暖房の小さな音だけ。
私は四本ある椅子の足の二本を床に擦りながらリュウのベッドの横にそれを持って行った。
そして、その椅子にゆっくりと腰を下ろす。
暖房の暖かな風は私とリュウを優しく撫で、部屋の中をゆっくりと巡回する。
私はナイトとリュウの関係が気になっていたので、それを本人に聞いてみる事にした。

「ねぇ、リュウってナイトさんと知り合いだったの?」

私の質問にリュウはキョトンとした表情をし、視線を私に向けてきた。
久しぶりにリュウとまじまじと見詰め合っているので、少し恥ずかしくて顔が赤くなってしまう。

「隊長からは聞いていなかったのか?……ほら、前に話しただろ?俺が上官に逆らってピース町に左遷させられたって」

「うん」

私が頷くと、リュウは上半身を起こしたまま、説明を続ける。

「その上官があのナイト隊長なんだよ。俺はとある任務中、意見の食い違いが原因で隊長に逆らい、それで左遷させられた。で、隊長はと言うと、後日俺の元までわざわざ来て、自分は間違っていたと言ってくれてな。それで軍を辞めたんだ。そしてこの傭兵隊を設立したって訳。
隊長はおそらく金の為とか言っていると思うけど、本当は間違いだらけの世の中を少しでも正そうとしているのさ」

「そ、そうなんだ……」

私はナイトの過去をリュウから聞き、やはりあの人はとても良い人だと改めて感じた。
でも、正直リュウとナイトにそんな過去があったなんて思ってもいなかった。
だからナイトはフィンの事もしっていたのだろう。
フィンは軍に居た頃、リュウの相棒だったのだから必然的にフィンの上官もナイトという事になる。
その後、リュウに付きっ切りで私は一日を終えた。
地下だと窓が無い為に時計を見ないと時間が直ぐに分からなくなってしまう。
気が付いた時には既に午後の七時半。
正確には午後七時二十七分四十五秒になっていた。
私が時計を見て時間を確かめている時だ。誰かが扉を開けて部屋に入ってきた。
時計から視線を移すと、そこにはお膳を加えたグレイシアの姿。
どうやらわざわざここまで夕食を持って来てくれたらしい。
彼女は無言で二人分の夕食が乗った御膳を小さなテーブルの上に置くと、そのまま直ぐに部屋を出ようとする。

「あの、ありがとうございました」

「すまない」

「……デイがそれを食べて精力付けなって」

私とリュウが運搬という名の任務を終らせたグレイシアに頭を下げながら礼を言うと、彼女はあたかも自分はただ命じられた仕事をしただけ。
とでも言っているかの様な態度で私とリュウに一言残してこの部屋から退却した。
恥ずかしいのか、それともめんどくさいのか。どうも彼女は口数が少ない。
リュウもそう思っていたのか、私と顔を合わせた。
そして、表情で私に訴える。あの人、冷たいね。と。
私はテーブルごと引きずってグレイシアが持って来てくれた夕食をリュウが寝ているベッドまで持って行く。
我ながら力が付いたものだ。
そして、スプーンと温かい野菜スープが入った皿を持ってそれをリュウの口元まで持って行った。

「はい。飲んで」

「あ、あぁ」

リュウは少しばかり恥ずかしそうにしながら私の差し出した野菜スープを飲む。
まぁ、今は二人だけだから私はちっとも恥ずかしくは無い。それに、少しでもリュウの為に何か出来る事を見つけて恩返しをしなければ。
彼は私を自らの命を掛けて逃がしてくれたのだから。
私は自分が食べる事も忘れてリュウの口に野菜スープを運び続ける。
途中、リュウがその事を私に告げてくれたので、冷めて冷たくなる寸前の野菜スープを私も頂いた。
私は料理の評論家ではないが、このスープは野菜の味もしっかりと出ていて、スープの味もとても良い。評価するなら五つ星だ。
そういえば、どこかの企業がレストランを星で評価している本を出していたっけ。
……それにしても、デイは料理がすごく上手だ。
私には到底こんな絶品は作れないであろう。雌として少しくらいは料理を作れる様になった方が良いのだろうか。
まぁ、料理する暇があるのなら訓練を続けて強くならなければ。
当然、優先順位は軍の陰謀の阻止>料理なのだから。

「リュウ。食器を返してくるね」

「あぁ」

私はリュウと自分が使った食器を御膳に乗せ、部屋を後にした。
足を動かす度にカタカタと御膳の上に乗った皿が音を立て、その位置を徐々にずらしていく。
私は皿を落とさない様に注意しながら廊下を歩き、みんなが食事を摂る部屋の前まで行くと、一先ず御膳を床に置いてドアノブを掴むとそれを引いて扉を開けた。
扉が閉まらない様に足で押えながら、私は御膳を掴むと部屋の中に入る。
既にテーブルの上は綺麗に片付けられており、最後の仕上げにデイが台拭きでテーブルを拭いていた。
私はそのままキッチンまで進むと、相変わらず不安定な塔の頂上に私とリュウが使った皿を添える。
今回も皿の塔は危なげに揺れ、崩壊へのカウントダウンの様な危険な音を立てている。
私は皿の塔の両側にそっと翼を当て、揺れが収まるまでそれを支えた。

「ふぅ……」

ようやく揺れは収まり、危なげな音も無くなった。
私はテーブルを拭いているデイの方に体を向けると、キッチンから顔を出す。
彼女があんな風に頑張っているのだから。私も何かしら手伝わないと。

「デイさん。あの、お皿洗っておきますね」

「ホント!?……じゃあ、お願い」

私が彼女に声をかけると、彼女は嬉しそうに微笑みながら私にお願いしてきた。
種族柄、汚れた物を綺麗にするのは本能だ。
だからここは張り切って頑張るとしよう。
私は先ず、塔の最上階を手に取ると、水道の取っ手を捻って水を出し、皿に蛇口からながれる細長い水を掛ける。
以前、リュウの家でやった時は自分の翼で洗ったが、今回はスポンジが空いていたのでそれを使ってみた。
スポンジに洗剤を染み込ませ、何度か握って泡立たせてからごしごしと皿に付いた汚れを落としていく。
やはり、綺麗になっていく物を見るのは気分が良い。
こうやって何かを綺麗にしていると自分がチルタリスと言う種族なのが実感できる。
まぁ、実感できたところで何も無いけれど……
皿を全て洗い終え、デイから礼を言われた私はすぐさま部屋に戻った。
勢い良く扉を開けて部屋に入り、リュウのベッドの横にある椅子に腰掛ける。
リュウは私が突然扉を開けたので驚いたのか、少しばかり眼を見開いて硬直していた。
不意に私とリュウの目線がぴったりと、それも寸分の狂いもなく合わさる。
こんなに目が合うのは初めてだったので、私の顔を少しばかり赤く染まってしまう。
リュウも私と同じ気持ちだったのか、包帯で左目周辺が隠れているその顔を赤めていた。
続く静寂。自分でも理由が分らない心の響き。
でも、この時、私に一つの思いがあった。
別れ際の告白を受け取ってくれたリュウとは再会を果たせた。
その瞬間は抱き合っただけだった。
けれどもう、その上を進んでも歩んでも良いのではないか。
私が顔を真っ赤にしながらリュウの顔を伺うと、彼も状況が理解出来ているのか、少々顔を赤くしながら私を見詰めている。
私は意を決し、口を開いた。

「ねぇ、リュウ……キ……」

「なぁ、フェザー……キ……」

しかし、私が言葉を発した瞬間にリュウも言葉を発した。
そのタイミングはほぼ完全に一緒。
そのせいで互いにそれ以上が言えず、私はリュウから視線を逸らし、リュウも私から視線を逸らす。
十秒位だろうか。部屋は暖房の音だけが無情に響き、私もリュウも顔を熟した林檎の様に赤めながら無言でいた。
私はそっと、視線をリュウにやり、最後まで言えなかった事をリュウに言おうと口を開けた。
恥ずかしさを堪えて話すのだが、声は小さく、そして途切れ途切れになってしまう。

「あの……さ、リュウ。せっかく再会で、出来たんだし……私と……その……」

「フェザー……俺も……同じ気持ちだ」

私が最後まで……それももっとも重要な所を言う前に、リュウが口を開いた。
しかし、彼は私の気持ちが分っているらしく、しっかりと自らの口から同意を示す。
彼の同意は得た。だから、後はするだけだ。
だが、私の胸は壊れてしまいそうな位、ドキドキしている。
緊張?羞恥?迷い?……このときめきは一体どこから来るのだろうか。
リュウはまだ体を思うように動かせないのだから、私から行くしかない。
彼もそれは分かっているらしく、何も語らずにじっと上半身を起した状態で待っている。
これ以上リュウを待たせる訳にはいかない。
私は遂に決心を固め、リュウに口を近付ける。だんだんと近付いてくるリュウの顔。
私は目標を定めると、ゆっくりと目を閉じた。私の視界が黒くなる寸前、リュウも同じ様にゆっくりと右目を閉じた。
私はリュウの体に両翼を渡し、優しく彼の身を寄せる。
鼓動はピークを迎え、本当に壊れてしまってもおかしくない程、私の胸はときめく。
そして、軟らかい感触が走り、その瞬間にリュウの口と私の口が触れたのが分った。
初めてのキス……最初は少しだけ、だけど、だんだんと浅い物から深い物へと変わっていく。
しかし、その時だった。体の中を何かが通り抜ける様な感覚に襲われ、私は目を見開いてリュウから口を離した。
私の瞳に映るリュウも同じ感覚を感じたのか、同じ様に目を見開いている。
そして、私とリュウは目を見開いたまま、互いの顔を見詰め合う。
この感触を……私は知っていた。……いや、覚えていたと言った方が正しいか。
私はリュウの顔を何時になくまじまじと見詰める。
その最中、私の中で失われていた記憶が蘇ってくる。

「フェザー……ま、まさか……」

リュウがこの世がひっくり返ってしまった様な表情を浮べながら私に言う。
私も全てを思い出していた。
そう、始めから知らないと思っていた自分の過去を……
昔……私が丁度物心付いてきた頃だ。
あの頃は一つ年上のタツベイと毎日の様に仲良く遊んでいた。
私はそのタツベイの事が大好きで大好きで、その頃は両親にも引けを取らない程大切な存在だった。
そして、ある日、そんな彼と風が優しい小高い丘の上で約束を交わした。
大きくなったら……絶対に結婚しようね。と。
その時にその丘の上で人生初の口付け、ファーストキスをしたのだった。
そのタツベイの名は……リュウ=ドラグーン。即ち、私の目の前に居る彼なのだ。
しかし、私は遠方への旅行中に事故で両親を失い、それから孤児になった。
私は過去を知らないのではなかった……
両親の死と言う多大なショックが原因で記憶の一部を喪失していたのだ。
でも、リュウとの二度目となる口付けが私の全てを蘇らせた。

「フェ、フェザーは……“フェザー”なのか!?」

リュウは私に問い掛けてきた。私は彼の問い掛けにゆっくりと頷くと、蘇った記憶の中にある自分の名前を彼に告げる。
それが唯一の証拠なのだ。私がリュウの初恋の相手で、そしてファーストキスの相手である事の……

「うん。私は……“フェザー=コットン”……リュウとキスしたら全部思い出せた」

「フェザー……すまない……いままで気付けなくて」

「……リュウは悪くないよ」

リュウも全てを思い出し、笑顔と謝罪の入り混じった表情になっていた。
別に、リュウに罪は無い。むしろ結婚まで約束した相手を忘れてしまっていた私の方が謝るべきだろう。
私はリュウを見つめ、リュウも私を見つめる。

「リュウ……もう、離れないでね」

「あぁ、フェザーも俺の前から居なくならないでくれよ」

確認するまでも無いかもしれないが、互いの気持ちを確認した後、数秒の沈黙を経て私とリュウは再度体を寄せ合い、何かに引き寄せられる様に口を付ける。
先程とは違い、円滑に。そして……深く長く。
目には見えないけれどこの世界に絶対確実に存在する物……“愛情”を存分に感じながら。








十二話に続きます。


PHOENIX 12 ‐成果‐


あとがき
今回はサブタイトルの通り、フェザーやリュウ達の過去を中心として書いてみました。
なんかベタな展開だったかもしれません。
期待していた方々には深く謝罪いたします。
書いていて感じたのですが、こういうムードのシーンって描写が難しいですね。
今回は相当な駄文に仕上がってしまった……
他の作者様はかなり上手く描写が出来ていて羨ましいです。

つまらない駄文を読んで頂きありがとうございました。
差し支えなければ誤字、脱字の指摘や感想などを頂きたいです。




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Last-modified: 2010-02-27 (土) 00:00:00
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