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PHOENIX 10 ‐再会‐

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PHOENIX
作者 SKYLINE
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10話 再会

私は今、冬風に葉を持っていかれた木々達の領域を作戦通りに走っている。
いや、逃走していると言った方が正しいか。それも一人で黙々とだ。
木漏れ日が私を照らし、若干だが温かさを感じさせてくれる。
けれど、その温かさも走っている際の風圧と森を縫う北風によって相殺されてしまうのだが。
傭兵隊ブイズの隊員達、そしてグレンの協力のお陰でリュウの救出は見事に成功。
センスリート町にもう用はないので、後はアジトに逃げるだけだ。
一緒に行動していたリーフィアとブースターの二人とは散開してバラバラに逃げたので追手を撒くのに苦労はしなかった。
まぁ、何よりナイトが私を鍛えたくれたお陰なのだけれど
アジトに戻ればリュウに会える。
私はそんな期待を膨らましながら走り続け、途中で追手を撒く為に一端別れたリーフィアとブースターの二人と合流すると三人一緒にアジトを目指す。
私は飛行タイプながら大地を蹴って少量の土を宙に舞わせながらひたすらに森の中を進んだ。

「フェザー。お疲れ!……リュウって言う人も幸せ者ね」

「え?……どういう事ですか?」

私はペースを緩める事無く走り続けながらリーフィアに聞き返した。
地面を蹴る音が少々雑音なのだが、リーフィアは前を向いたまま走りながら私の質問にさらっと答える。

「だって、フェザーみたいな美人に愛されているんだから」

「え……?」

彼女の答えを聞いた途端、私は顔が熱くなるのが分かった。
リーフィアはあっさりと言い放ったが、私からすれば何か凄い事を言われた気がする。
だって、私なんかよりはリーフィアの方が数段美人だと思っていたし、何より、今まで自分が美人だなんて思った事も無い。
私は顔を赤くしながら地面を見て走り続ける。第三者から見れば照れているのは明らかだろう。自分でも分かるぐらいなのだから。

「それにイケメンなんでしょ?フェザーが惚れるぐらいなんだから」

「ま、まぁ。私からすれば……タイプですけど」

私が顔を赤くしながら彼女の質問に私は再び答えた。と、二列になって走っている私とリーフィアの後ろから先程まではずっと沈黙を守っていたブースターが口を挟んでくる。
その瞬間に、リーフィアは顔を顰め、鬼の様な形相でブースターを睨む。

「イケメンならここに居るだろ?」

得意げに話すブースターに私は振り返って苦笑いしながら一度だけゆっくりと頷いた。
しかし、ブースターに対して遠慮がちな態度を取っている私にリーフィアが腰に着けているポーチを足を動かす度に揺らしながら言う。

「あぁ、気にしないで。アイツ自信過剰の馬鹿だから」

「え?そうなんですか?」

私が驚いていると、ブースターはふさふさの体毛を風に靡かせながら加速して半ば無理やり私とリーフィアの間に入り込んできた。

「いやいやいや違うって。この雑草女の言う事なんて信じるなって」

「雑草女……だって?」

私の方を向いていたブースターがリーフィアの声を聞いて振り返った直後、彼の姿が私の視界から消滅した。
瞬間移動って感じ?……とにかく、目の前から一瞬で消えてしまったのだ。
そして、その代わりに私の視界には笑顔のリーフィアが居る。

「さっ、あんな馬鹿は置いて帰りましょ!」

「え?」

私が振り返ると、地面に顔面を打ち付けたブースターが前足を広げて倒れていた。私は体にブレーキを掛け、足を踏ん張って慣性に逆らう。
土埃を舞い上げながら私は停止し、リーフィアも慌てて走るのを止める。
私はそのまま直ぐに倒れているブースターの元まで駆け寄り、彼の前で立ち止まった。

「ブースターさん。一体なにが?まさか追手!?」

土だらけのブースターの顔を心配しながら私が見つめていると、後ろからゆっくりとリーフィアが歩いてきた。
彼女は私の隣まで来ると、ブースターをみながら口を開く。

「あ、あのさ、フェザー。……ブースターは私が殴ったの」

「な、なんでですか!?仲間に攻撃を加えるなんて!」

リーフィアは目線を斜め上に向けながら前足で頭を描きながら、私に説明を始めた。

「え~と、まだフェザーは私達と付き合いが浅いからだと思うんだけど、これが日常って感じなの。フレイムはこういう性格だから皆からよく殴られてるのよ。だから別に心配要らない。直ぐに回復してうるさく騒ぐから」

リーフィアが私に説明を終えた直後、怖い夢で目が覚めた子供の様にブースターが飛び起きた。そして前足で顔に付いた土を払いながら声を上げる。

「おい!また殴っただろ!?ったく、俺のふさふさの毛が土まみれじゃねぇかよ!どうしてくれんだ!?…………」

「ほら……ね?」

ぶつぶつと愚痴を零しまくっているブースターを呆れた顔で見ながらリーフィアは私に同意を求める様に一言呟いた。でもまぁ、ブースターが無事なのが私にとっては何より嬉しかったのだが。
もっと彼等の生活に馴染まないと。郷に入っては郷に従え。と言う言葉があるくらいだ。私も彼等のアジトに住んでいるのだから、自分の常識を捨てて彼等の常識を身に着けなくては。
その後、こんな調子で私達は無事にアジトに辿り着いた。一番乗り……では無かったが、最後でも無い。
かなりの距離を走ったり歩いたりしたので、とても疲れてしまっていた私達を出迎えてくれたのはデイだ。彼女は笑顔でアジトに向かって一歩一歩確実に足を前に踏み出しながら近付く私達に前足を振る。
私は笑顔でデイに右翼を振り、足早にデイの待つ裏口に向かう。

「フェザー、リーフ、フレイム。皆良く頑張ったね!さっ、こんな寒い所に居ないで皆中に入って」

「了解だぜ!」

フレイムがまだ土が少量付着している顔を笑顔にして真っ先にアジトの中に入って行く。その後を追い、リーフィアもブースターとは対照的にゆっくりと入って行った。
残った私はデイと目が合い、その間を北から旅してきた風が駆け抜ける。私の二本の鶏冠は靡き、肌からは冷たい感覚が伝わってきた。

「デイさんもこんな寒い所に居ないで中に入りましょう」

私がデイに声を掛けると、彼女は体毛を風に揺らしながら首を横に振った。
その姿はまるで絵画の様な美しさ。私と違って世の雄達と虜にしてしまうだろう。
ある意味危険だ……
私は彼女が首を横に振った事に対して首を傾げ、何故、中に入らないのかを尋ねてみる。

「あの、なんで入らないんですか?」

「まだ、ナイト達が帰ってきていないの。全員が無事にここに帰ってくるまで私はここに残る。まぁ、何時もの事なんだけどね」

そうか、やはり結婚していると主人が心配なのか。私がリュウを心配する様に、彼女もナイトを心配している。
そして、デイが私の気持ちを理解してくれた様に私も彼女気持ちを十分に理解出来る。
私は中に入ろうとして三分の一程開けていた扉の取っ手から翼を離すと、北風に逆らいながら彼女の横まで歩いて行く。

「デイさん。私もここで待ちます。早く……リュウに会いたいですし」

「そうね。正直、私もフェザーと同じ気持ちよ。主人に早く会いたいからこうやって待つの」

私とデイが互いの気持ちを噛み締めながらナイト達が帰ってくるであろう道の先を見つめていると、何時しか白い粉が風に乗って私達の前に姿を現した。
空も灰色に変わってきており、これから天気が崩れるのは目に見えて分かる。
と、私が天気の事を話そうとして彼女の顔に焦点を合わせると、デイの何故か表情が険しかった。

「あの、デイさん?どうかしたんですか?」

「いや、フェザーに心配掛けたくないんだけど、これからおそらく吹雪きになる。連絡ではリュウはかなり衰弱しているらしいから、吹雪になると危険なのよ」

「!!」

彼女の話しを聞き、私の頭の中でとある記憶が再現され始めた。軍に発見され、リュウと二人で吹雪の中をノースワイト町に向かって歩いた時の記憶。あの時、寒さが大の苦手な私達は……特にリュウは生死の境を彷徨った。
あの時、私がリュウを温めなければおそらく彼は冷たくなって死んでしまったかもしれない。その状況がまた、起こりうるのだ。
いや、もっと厳しいかもしれない。なにせ、リュウは衰弱しているらしいのだから。
私は居ても立っても居られなくなってしまい、足を一歩前に踏み出そうとする。
しかし、動きかけていた私の体をデイが止めた。

「フェザー。行かなくても大丈夫」

「で、でも……リュウは!」

焦りを浮かばせている私からデイは視線をそらすと、前足で彼方に道の向こうを指差した。
粉雪のせいで視界は幾分悪くなっているが、私は目を細くしてデイが指差した方向を凝視する。

「……!?」

粉雪の舞う中にその姿はあった。
ふら付きながらも四本の足をしっかりと地に付け、ナイトやグレンに見守られながら私達の方に向かってきている。
夢などではない。
現実に私の瞳に生きているリュウの姿が映っているのだ。
私は一歩、二歩と足を前に出し、最初は歩き、じきに早足、そして最終的には一心不乱に走っていた。
粉雪を掻き分けるかの様に進み、どんどんリュウの姿がはっきりとしてくる。
リュウも私に気が付いたのか、残った力の全てを出して私に向かって早足で歩き出した。
そして次の瞬間、私はデイやナイト、そしてグレン達に見守られながらリュウに抱き付いた。

「リュウ……」

「…………」

私はリュウを抱きしめ、声を震わせながら彼の名を言った。リュウは口に特殊なマスクが着けられていて喋れない様であったが、
リュウが私に答えてくれた事がなぜだか分かる。言葉はなくても、互いに信じあえれば意思は伝わる物だ。
私がリュウを抱きしめていると、彼は安心して力が抜けてしまったのかだろうか。
私にその衰弱しきった体を預けてきた。
昔の私だったら、リュウの体を支えられないだろう。しかし、今の私にはそれが出来る。
私は預けられた体を支えながらリュウを抱きしめ続ける。
リュウは包帯の巻かれていない右目をゆっくりと瞑り、そこから涙を流すとぐったりとしながらも私を前足で弱々しく抱き締めてくれた。
私もそれに答える様に両の目を閉じ、大粒の嬉し涙を瞼の隙間から流漏らしながらギュッと……ギュッとリュウを抱きしめる。
リュウの心臓の鼓動一回一回が感じられ、触れている肌からは僅かに温もりも感じられた。
互いの想いを粉雪が舞う中で言葉を交わさずに抱き合いながら確かめ合い、私とリュウはゆっくりと密着していた体を離した。
しかし、衰弱しているリュウは私と言う支えを失った途端にふら付き、倒れそうになる。
私は慌ててリュウの体を支えようとしたが、それより先にナイト、デイ、グレンの三人が素早くリュウの体を支えた。

「さ、フェザー。早く中に入ろう」

「フェザーさん。約束はちゃんと守りましたよ」

「……作戦完了だ」

三人がそれぞれ私に言葉を掛けてくれ、皆で協力してアジトの中にリュウを運ぶ。いつの間にかリュウは気を失っており、ぐったりとして動かなかった。
そんなリュウの姿から今まで彼が軍で酷い仕打ちを受けたのが身に沁みて分かる。
私の何十、何百倍も辛かったであろう。その重圧から開放されたのだ。幾ら精神的にも肉体的にも強いリュウであっても気を失ってもおかしくは無い。
暗い階段を手分けしてリュウを運びながら下り、地下の廊下と階段を隔てている重い鉄の扉を開ける。
そこにはブイズの隊員達が待っていてくれており、皆、清々しい表情であった。

「おかえり!」

皆が私やナイト達に一斉に声を掛け、私達に代わってリュウを運ぶ。運ぶ先は私が貸してもらっているあの部屋。他にこれといった空き部屋が無いらしい。
気を失っているリュウを部屋まで運ぶと、彼をベッドに寝かせ、口に着けられている特殊なマスクをこれまた特殊な工具を使用して取り外し、デイが診察を始める。
彼女は昔、医学を習った事があるらしいので、手際はすごく良い。デイがリュウの状態を確認すると、側に居たシャワーズに栄養剤の点滴を準備してくれと指示を出す。
シャワーズ頷き、一度部屋を出て、廊下を駆けると直ぐに点滴の器具と栄養剤を持ってきた。

「あの、リュウの容態は?」

「かなり衰弱はしているけれど、大丈夫。命に別状は無いわ。数日間ゆっくりと体を休めれば元気になるわよ。でも、今はそっとしてあげて」

私はリュウが心配でデイに容態を尋ねると、彼女はリュウに点滴の注射を刺しながら笑顔で私に言った。
デイの言葉に私の表情は溶けてしまいそうなくらい和らいだ。
私はリュウの元にまで歩み寄ると、彼の右前足を両翼で握りしめる。視線を握っている前足からリュウの顔に移すと、彼は右目を瞑りながらすやすやと寝息を立てていた。
そして、その目には先程流した涙がまだ、少量ではあるが付いている。
私はそっとリュウの顔に右翼を添え、優しくゆっくりとリュウの涙を拭き取った。
でも、本当に良かった。こうやってリュウに再会する事が出来たし、ブイズの皆、そしてグレン。誰一人として犠牲は出なかった。
私に気を遣ってくれたのだろうか。デイとシャワーズはいつの間にかこの部屋から居なくなっており、私とリュウの二人だけになっていた。私はリュウの涙を拭き終えると、左目に包帯の巻かれた彼の顔を眺める。

「リュウ……あの時の言葉は嘘じゃないよね?」

私はリュウの右前足を握りながら彼に優しく問い掛ける。数週間前、私とリュウが止む終えなく別れる時、彼は私の告白にこう答えてくれた。
“俺もフェザーが好きだ”と。
しかし、今のリュウは当然の事ながら無反応。静か過ぎるこの部屋にあるテーブルの上には、作戦前夜に初めて外した桜のコサージュが蛍光灯の白い光りを浴びながらじっと佇んでいた。
私はテーブルに翼を伸ばし、それを掴むと自分の左の鶏冠に取り付ける。リュウが買ってくれた大事なアクセサリー。彼が目を覚ました時、これをつけていなければ失礼な気がしてならなかったから……
何分、何十分、何時間……どれだけの時間が過ぎたのか分からない。
けれど、私は片時もリュウの側から離れなかった。むしろ……離れたくなかったのだ。
そんな私に気を遣ってくれたのか、デイがわざわざ私の部屋まで食事を持って来てくれた。

「これ、夕食ね。食べたらそこに置いといてくれればいいから」

「ありがとうございます」

「どう?様子は?」

「え~と……相変わらずです」

デイはリュウの側まで近寄ると、点滴の様子を確認した。私が見る限りでは何も問題は無さそうだ。正常に一滴ずつ滴っているし、まだ、パックの中の栄養剤は量がある。
彼女もそう思ったのか、何もせずにその場から身を引いた。
その後、結局私はリュウの傍らから離れずに、椅子に座ってリュウの前足を握ったまま眠りに就いてしまった。
リュウと再会出来た紛れもない事実に喜びを感じながら……








誰かの声が聞こえる……誰だろう?良く聞き取れない。
瞼を持ち上げると真っ暗だった視界に光りが入り込んできた。私はぼやけていて本来の性能をまだ十分に発揮できていない目を擦り、半開きの目で私の声の主を見た。
しかし、その瞬間に私の目は大きく見開いた。
私の目の前でリュウが目を開けていたのだ。そして、彼の前足を握っていた翼を握り返してきている。リュウは仰向けの状態から体をゆっくりと起し、少し疲れ気味な表情で口を開いた。

「フェザー……おはよう」

数週間ぶりに聞いたリュウの声、それは小さく、そして弱々しかったが、私の耳に十分過ぎるほど響き渡る。私は嬉しさからか、返事も忘れてリュウに抱き付いた。
リュウは一瞬驚いた様な顔をしたが、私の気持ちを受け取ってくれたかの様に、私の背中に前足を回すと、何度か優しく叩いてくれた。
全身から伝わるリュウが生きている証。昨日よりもずっと顔色は良くなっているし、私を抱き返してくる力も昨日の様な触ったら崩れてしまいそうな弱々しい物では無く、しっかりと形になっていた。

「リュウ……おかえり……」

「あぁ、ただいま」

私が回復したリュウを抱き締めながら一声掛けると、彼も直ぐに反応してくれた。
“ただいま”と“おかえり”
この何気ない二つの言葉。これが今の私とリュウにとっては、すごく大切で重要な言葉の様な気がする。
大切な人と言葉を交わす。これがどんなに幸せで、どんなに喜ばしい事なのか。普通の人からすれば当たり前の日常すぎて分からないかもしれない。
しかし、本当に幸せなのは平和で当たり前な日常なのだ。例え、どんな正当な理由があろうと、国民からそんな幸せを奪おうとする軍を私は許さない。
リュウとの再会によって、私の決意はより一層固い物になっていたのであった。

「フェザー……離していいか?」

「え?あ、ごめん」

私は時間を忘れてかなり長い間、リュウを抱き締めていたのであろう。リュウの言葉で私は彼の体から自分の体を慌てて離した。
まだ、リュウは少し疲れている様な顔をしている。私は事前にデイが用意してくれていたバスケットの中からオレンの実を数個取り出すと、リュウに差し出す。

「リュウ、食べる?」

「あぁ」

リュウはゆっくりと前足を動かし、私の翼の上で群れを成しているオレンの実を取ろうとする。
しかし、私はリュウの体に自由な状態にある左翼を当てると、半ば強制的にベッドに横にならせた。

「フェザー?」

リュウは不思議そうな表情を浮べながらも、私に抵抗する事無く背中をベッドに埋め込ませた。私は仰向けになっているリュウを見ながら、右翼の上で身を寄せ合っているオレンの実を左翼で一個持ち、リュウの口元まで持って行く。

「リュウは寝てて。私が食べさせるから」

「え?……でも、食べるぐらいは自分で……」

「怪我人はゆっくり休みな……でしょ?」

私がリュウと出会った日の夜に彼に言われた言葉を言うと、リュウはそれを覚えていたのか表情を和らげてゆっくりと包帯の巻かれていない右目を閉じる。
そして、全身から全ての力を抜き、ベッドに身を預けた。
リュウはベッドに身を預けながら徐に口を開いき、ゆっくりとしたテンポで言葉を発する。

「……じゃあ、悪いけどお言葉に甘えさせてもらうよ」

「うん。存分に甘えていいよ!」

リュウは私の声をしっかりと両の耳で聞きとめると、ゆっくりと閉じていた右目を開き、上下合わせて四本の鋭い牙が付いた口も開けた。
どうやら、私のせめてもの恩返しを受け取ってくれる様だ。オレンの実を一個リュウの口まで運び、彼に食べさせる。
リュウはオレンの実をゆっくりと何度か噛み、細かく砕いて喉を通して胃袋に送って行く。
一つ食べる度に恥ずかしそうに顔を赤めながらリュウは私に“ありがとう”と、言ってくれた。
私はその言葉に穏やかな笑顔になり、一つ、また一つとリュウにオレンの実を食べさせる。
とにかく今は食べられるだけ食べさせ、体力を付けさせなければならない。デイもそう言っていた。
五個ほど食べたところで、リュウがギブアップと言わんばかりにオレンの実を持っている私の翼を掴むみそのまま、ゆっくりと下に下ろしていく。
口では未だにオレンの実を噛んでいるのか。しきりに下顎が動いていた。

「もういいの?」

私がリュウに尋ねると、彼は枕に後頭部を沈ませながら頷いた。それと同時に枕と後頭部が擦れる音も僅かに私の耳に入ってくる。
彼はベッドに仰向けになり、体の三分の二程を掛け布団で隠しながらしっかりと目を開いて私に頼み事をしてきた。

「フェザー。一つ頼みがあるんだが……いいか?」

「うん。何でも言って」

私が了承の意を言葉によって示すと、リュウは軽く深呼吸して天井を見ながら呟く。
そして、そのまま天井を見ながらゆっくりと口を開いた。

「この傭兵隊の隊長を呼んできてくれ。礼を言いたい」

「わかった。直ぐに呼んでくるから、待っててね」

私はリュウに一声掛け、リュウの前足を撫でるように触れてから椅子から立ち上がった。
リュウに見られながら私は足早に歩き、部屋の扉を引き開ける。
まだ病み上がりの体であるリュウは動くとあまり良くないので、一応、念を押しておこうと、私はリュウに声を掛けた。

「リュウ。動いちゃ駄目だよ?」

「了解であります」

リュウは微笑みながら言った。
私はその声に笑顔を返すと、ゆっくりと部屋の扉を閉めて寒い廊下に身を曝け出す。
そして、私はナイトの自室に向って廊下に足音を木霊させながら歩いて行った。








十一話に続きます。


PHOENIX 11 ‐過去‐


あとがき
う~ん……最近ちょっとスランプ?気味です。
パソコンの前に座っても中々執筆が進まないです……
まぁ、それはさて置き、ようやくフェザーとリュウが再会する事が出来ました(四話ぶり)。
リュウと再会した時が彼女にとって努力が報われた瞬間ですね。
しかし、ここがゴールではありません。フェニックス計画の脅威は未だに健在。
フェザーやリュウ達にはそれを阻止する使命が残っていますので。
サブタイトルの付け方のセンスは零に等しいですが……次回のサブタイトルは“過去”です。

つまらない駄文を読んで頂きありがとうございました。
差し支えなければ誤字、脱字の指摘や感想などを頂きたいです。




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Last-modified: 2010-02-16 (火) 00:00:00
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