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HEAL7,盗賊退治

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 前……HEAL6,レナの能力


 ロウエン達が訪れてから三ヶ月が経った。お尋ね者を倒した後は、ロウエンが新しい家を建てるための地ならし作業を手伝わされたり、レナは切った木を水路で運ぶ作業に駆り出されたりと、色んな体験をしながら日々が過ぎて行く。お尋ね者退治もダンジョン潜りもさアラに回数をこなして、レナの実力もさらに磨きがかかり、このころには早くも一人前と言える程度の腕前になり、今では難しいダンジョンでもロウエンと一緒に並んで闘うくらいである。
 ロウエンが前衛のため、必然的にロウエンが傷つくことも多いのだが、そんな時レナはロウエンを抱きしめてくれる。彼女は癒しの技など持っていないはずなのに、なぜか抱きしめてもらうだけで痛みが和らぎ、そして治りも早くなる不思議な効果があり、今ではそれも当たり前のように使う。
 何故そんな能力を持ちうるのか気になりはしたが、ロウエンは深く考えず、また深く触れることなく時折そうやって彼女のぬくもりを味わっていた。

 ともあれ、逃亡してからの生活は割と順風満帆に過ぎて行き、ロウエンもすっかり村の生活に慣れていた。そんなころに一つの話が持ち上がる。
「最近な、ここら辺の流通が楽になったおかげで商人の通行も増えてきたんだが……盗賊たちがそこに目を付けたらしい」
 この村は、大きな町と町の中間地点にある。しかしながら、その距離は遠く離れているため、商売を行うにしても過酷な旅になる上に、途中は大きな湖が邪魔をして、大きく迂回しなければならない。
 その旅路を楽にするために、村長たちは山道を整備し、宿を提供し、巨大な湖を迂回しなくとも対岸まで物資を運べるように船まで作ったのだ。まだまだどれも満足いけるサービスには程遠いが、それらは実を結んで旅人や商人も少しずつこの町を噂してくれている。
 しかし、その噂はよからぬ者達にも伝わってしまったようで、その結果盗賊というよからぬ輩まで現れてしまったというわけだ。せっかく楽な旅路を提供するためのこの町も、そんな輩に狙われてはこの村の客足も遠のいてしまう。
 そうなってしまう前に、出る杭は打っておこうというわけだ。
「それでメンバーなんだけれど、まずはゼント。そして私。ロウエンとレナ……出来るかい?」
 ロウエンとレナは、村長が自ら盗賊退治に出かけると聞いて大いに驚く。
「村長、闘えるんですか? 強いだなんて思っていませんでした」
「ああん? 当り前さ。強くなきゃ人はついてこないしねぇ」
「いや、村長をやるのに強さの資質は関係ないと思うけれど……そりゃもちろん、有事の際に真っ先に動いてくれる人の方が頼りになるというのはその通りだけれどよ……だからって、こういうので真っ先に出て行って怪我でもしたら元も子もないだろ?」
「ふふ、昔取った杵柄という奴よ。体は多少衰えているけれど、それでも衰えていない能力が私にはあるの。盗賊の人数は報告では七人……チャッチャと片付けてしまいましょう」
「おう……構わねえけれど。レナはどうする? お尋ね者退治自体は初めてじゃないが、それでも大人数の盗賊を相手にするのは初めてだろ?」
 ロウエンはレナの体を案じて尋ねるが、レナは得意げに鼻をフフンと鳴らす。
「いやもう、やってみますよ! みんなで頑張れば怖くありませんし」
「頼もしい答えだね。レナ、頑張りましょう」
 彼女の頼もしい答えを聞いて、村長は笑みを浮かべる。
「おうよ、いい事言うじゃねえか! みんなで頑張れば何も怖くねえな!」
 ゼントもレナの答えに満足してテンションをあげる。村の皆もレナがんばれ、レナ怪我しないでねと、すっかり人気者だ。
「よっしゃ、ロウエン! 俺とお前とでどっちが多くの敵を倒すかで競争しようぜ!」
 俺のことは気遣ってくれないのかいと、ちょっと寂しい気分になるが、何だか鬱陶しい奴が話しかけてくるので、寂しい気分になる暇もないようだ。
「付き合ってやるか、しゃーねーな」
 内心嬉しいのだけれど、憎まれ口をたたきながらロウエンはゼントの誘いに乗った。


 ロウエン達一行は、盗賊が根城にしている場所へと向かうのだが、商人たちが主に使っているダンジョンを迂回するルートではなく、不思議のダンジョンを突っ切って敵に奇襲をかけるルートで盗賊退治へと赴く。敵は七人、ならば一気に数人倒してしまえばあとは楽な仕事である。
 きちんと鍛えている自分達が負けるはずはないと自信を持っての行動だ。

 ところで、村長が意味深に言っていた能力であるが、その能力とは高度なテレパシー能力であり、お互いが考えていることが完璧に共有し合えることで、あたかも一つのチームが一つの生物であるかのごとく息の合った動きが出来るという能力である。
(ところで気になったんですけれど、私達ってどうしてダンジョンの中ではリンゴを食べないと生きていけないのでしょう? ダンジョンの外なら数ある食材の一つですのに)
 レナが少し考えただけで、それは口に出さずとも皆に伝わる。
(なんだいアンタ、知らないのかい? リンゴっていうのは、ギラティナが作り出した木の実でね……生物の知識、感情、意思を強化する力があるんだよ。我々ポケモンはかつて文明を持たずに狩ったり狩られたりの生活だったけれど、その木の実のおかげでこうして互いに支え合い、文明を持つに至ったんだよ。
 それでもダンジョンがない頃は草食のポケモンが肉食のポケモンに対抗して徒党を組んで僻地に追いやったりとかあって、大変だったみたいだけれど、ダンジョンが増えてからは肉食のポケモンが草食のポケモンを食うこともなくなって、文化的にも落ち付いたそうよ)
(へー、そうなんですか)
 それに対して村長が答えた内容も、即座にロウエンやゼントの頭にも入っていく。
(まあ、そうやって感情が豊かになったり、強い意志や確固たる知識が芽生えたおかげで、氷触体だとか厄介なものが生まれるきっかけにもなったらしいけれどね。アルセウスはそれを危惧してポケモンに文明を持たせなかったのに、ギラティナがやらかしてしまったせいで問題がいろいろ起こったそうよ。
 それがきっかけでギラティナも罰を受けたとか)
 村長がうんちくを語る……否、考えると、それを理解したロウエンはうんうんと頷いた。
(しっかし、心が芽生えたってのはありがたい事だけれど、どうしてそんなことしたのやらなぁ)
(寂しかったんじゃないですか?)
 ロウエンの疑問にはレナがシンプルな答えを出した。
(本当のところはやっちゃった本人にしかわからないね。で、ダンジョンっていうのは空間や時間が乱れることで破壊と再生が無限に起こるおかげで入る度に形が変わってしまうわけだけれど……ダンジョンの中では心もまた乱れてしまう。それを防ぐためにリンゴを食べなきゃいけないの。もしもリンゴを食べずにいたら、意識を失ってしまってダンジョンを徘徊する心なきポケモン達の仲間入りよ)
(そりゃ勘弁してほしいものだぜ)
 と、これらのコミュニケーションを口を一切動かさず、アイコンタクトも必要とせずに意思の疎通ができるわけだ。この程度の会話ならば普通に喋ればいいだけの話だが、このテレパシーによる会話は普通に話すよりもよっぽど早く相手に思考が伝わる。
 これが戦闘時となると非常に便利で、仲間で声を掛け合う必要もないため敵に作戦がばれにくくなり、特にそれは集団の規模が増すほど大きな力を持つ。
 完璧な連携を行うことで、村長はかつて五倍以上の戦力差を簡単に覆したという、にわかには信じがたいことを自慢していた。『どんな理由でそんな五倍以上の戦力を相手取ることになったのか』ということに関しては喋ろうとせず、『まぁ、色々あるんだよ』と誤魔化していたが、きっと彼女も訳ありなのだろうとロウエンは深くは聞かなかった。というか、聞くのは面倒になりそうだと直感的に悟ったというのが正しいか。
 ただ、彼女はこうも語る。その反面で強い心を持ったものの覚悟は、この能力の更に上を行く……と。このテレパシー能力を使い、更に頭数も二倍という戦力差で潰しにかかっても、強い心で挑んだ者はそれを覆して勝ったとのこと。強力な能力を駆使しても負けるときはあると彼女は警告する。とはいえ今回はただの盗賊、そう簡単にやられはしないと自信たっぷりに彼女は言った。

 それを裏付けるように、ロウエン達が盗賊と思しき連中を見て襲い掛かる際は、確かに完璧な連携であった。サイコキネシスを用いて一切の足音を立てずにゼントが接近。ご自慢の鉄骨を投げつけて一網打尽にする。
 一気に四人を倒して、持ってきたロープを用いて縛りつけていたところ、ロウエン達は不穏な気配を察した。
(……何人かいるね)
 真っ先に反応したのは村長だ。
(三人だ……。すごい殺気だぜ)
 数を把握したのはロウエン。筋肉の塊である彼ではあるが、こういう時は意外と敏感だ。
(へ、こっちは四人だぜ? 返り討ちにしてやるよ!)
 山ノ下側からは鋭い殺気。ロウエン達は一斉に身構え、様子を窺っている敵へ向かって走り出す。二人の筋肉質な男達が敵と相対する。種族はホルード、ツボツボ、シザリガー。
 地面・ノーマル、虫・岩、水・悪のタイプ構成。偶然かどうかは分からないが、全員レナで対処できるポケモン達だ。
 普段ならば互いに声を掛け合って攻撃するのだが……
(あの太ったウサギに熱湯行きます)
 とレナが考えれば、仲間全員にその思考が行き渡る。これが、村長の能力である。
(じゃあ私が敵を浮かせるわ)
 村長はそう考え、レナの援護をする。
(オーケイ、じゃあ俺はあの蟹野郎にアームハンマーだ)
(そうだな、じゃあ俺は何してくるか分かんねえし、あのツボツボをぶっ飛ばす!)
 ゼントはシザリガー、ロウエンはツボツボを狙う。その打ち合わせ通り全員の攻撃は上手くばらけていく。まだレナは体力面では未熟さが目立つが、村長の援護もあって、ホルードの男はまともに熱湯を被ってしまう。
 ロウエンはツボツボを掴みあげると、それをホルードに向かって投げつける。燃える手で掴み、炎を纏ったまま投げつけられたホルードは、熱湯の痛みと炎の熱、投げつけられた衝撃で目の前に星が飛ぶ。
 ロウエンは止まらず、投げつけた勢いそのままに走り出してラリアット、頭から勢いよく倒れたホルードに、とどめの瓦割りを腹に叩きこんだ。
「はん、あっけねえな!」
 言いながら、ロウエンは投げつけたツボツボを追って走り出す……ツボツボは焦って毒々を放つが、ロウエンは小さく跳躍してそれを避けると、空中で体をひねりながらクロスチョップをギロチンの如く叩きつける。その一撃が当たったら、そのまま抑え込んで口付けせんばかりの至近距離から火炎放射を叩きこんだ。
 その時、突如遠方から岩が飛んでくる。目の前の敵に集中していた一行は気付くことが出来ず、ロウエンはわき腹に大きな岩の一撃を喰らって吹っ飛びながら倒れてしまう。激痛に目を白黒させながら岩が飛んできた方向を睨みつけると、そこには増援が……七人。
「増援……? 七人もかよ?」
 村長が驚き目を丸くする。見れば、村長もゼントもレナもそれぞれ攻撃を喰らっている。派手な殺気をぶつけてきたのは、別の気配を隠すための陽動だったという事か。
「報告の倍もいるだなんて、そんなのありかよ……こいつはピンチだぜ」
 全員が痛みで顔を歪めながら敵の事を睨みつけている。今さっき襲い掛かったツボツボ、ホルード、シザリガーは全員ノックアウトしたようだが、傷を負った状態で無傷の敵を相手にするなんて出来るのだろうか。
「ちぃっ……周囲の索敵が得意な奴を一人くらい連れてくるべきだったな……」
 村長が毒づいていると、敵のリーダーらしきナゲツケサルが村長体の前に降り立つ。
「てめーら、俺の可愛い部下に何をしてくれるんだ? おい」
「交代で見張りやらせていたら、このありさまだなんてなぁ。ひでえ事しやがるぜ!」
 その横で、アリアドスが苛立たしげに言う。匂いを嗅ぐ限り、敵は種系のアイテムを食べて能力を底上げしている。一筋縄でいく状態ではなさそうだ。
(こうなりゃなりふり構っちゃいられねえ。ロウエン、ちっと痛いが覚悟しろよ! 俺も腹をくくるぜ)
(オーケイ、あとでうまいもん奢れよ!)
「うりゃあ!」
 テレパシーを用いて通じ合い、ゼントはロウエンを殴りつける。
「へ! 沈む船からは逃げるに限るぜ! おい、そっちの親分さんよぉ! 俺はこいつらを裏切ってお前さんたちの側に付くから、見逃しちゃくれねえか?」
「え、ゼントさんいったい何を言っているんですか!?」
「てめぇ、裏切る気か!? ぶっ殺す!」 
 そう言ってロウエンはゼントに炎を浴びせかける。村長とレナは、落ち着いてくださいと声を掛けるが、争う二人は『うるせぇ!』と声を荒げるのみ。
「……親分、どうします? なんかあいつら仲間割れを始めちゃいましたけれど……」
「ふん、放っておけ」
 傍目には、唐突な仲間割れに見えたのかもしれない。若干不自然ではあるものの、申し合せた様子もなくいきなり仲間割れを始めれば、『放っておいたほうが共倒れしてくれる』と踏むのも無理はないかもしれない。
 が、二人にとってはそんなもん茶番である。二人はお互位の手を掴みあい押し相撲のようなことをしているが……やはりそこは村長のテレパシーを利用して、アイコンタクト一つなしに、同時に敵の方へと振り向き、火炎放射と、強烈な地震を起こして攻撃する。
 猛火の特性で極限まで温度を高めた火炎放射と、ロウエンの炎で自ら火傷することにより根性の特性を発動させ、極限まで筋力を高めたゼントの地震。当然、レナと村長、ロウエンはジャンプして強烈な揺れを避けている。
 レナと村長がさっきまで本気でおろおろした様子を見せていたため、敵の方は油断していた。リーダーらしきナゲツケサルは突然の攻撃にもギリギリで対応して守ったが、敵七人のうち、三人はその攻撃によって倒された。後ろにいた三人は距離が遠くダメージは軽微。リーダーはいまだ健在だ。
 対して、根性と猛火の発動のために無理をしたロウエンとゼントはもう死に体だ。
「……糞ったれ!」
 膝をつきながら毒づいてみても、状況が変わるわけもなく。
(これは奥の手を使うしかないかしら?)
 しかし、村長はまだ手を隠し持っているとわかり、ロウエンとゼントは安堵の表情を浮かべる。けれど、一人だけ険しい表情の者がいる。レナだ。
「二人が傷ついているのに、何も出来ないなんて……下がっていてください、私が行きます!」
 そう、自責の念を持ち、そして『役に立ちたい』と強く思ったレナは、今までにないものが体に湧き上がるのを感じた。
「お前が下がれ、レナ! 無茶すんじゃねえ!」
 ロウエンが大声で注意するが、仲間をやられて後がない敵たち、は前に出たレナめがけて襲い掛かってきた、だがその瞬間、レナからは真っ白な光がほとばしって、吹き飛ばされると同時に目がくらむ。
「あら、これは進化ね。このタイミングでなんて、ドラマチックじゃない?」
 村長は余裕たっぷりに笑みを浮かべ、ロウエンは唖然とする。驚きつつも嬉しそうなゼントなど、三者三様の反応を見せる。ゼントと村長は敵が進化に見とれている最中に攻撃したが、ゼントはふらふらで、ストーンエッジは避ける必要もなくはずれてしまう。村長の攻撃は敵のイルミーゼを地面に叩きつけて、女らしいうめき声を上げさせた。
「へ……こりゃ、形勢逆転なるか?」
 サファイアブルーの海の色をした脚のない下半身と、雲のように真っ白な上半身。ヒトデのような飾りがついたターコイズブルーの髪は、水のようにしなやかで美しくなびいている。アシレーヌに進化して美しく変貌を遂げたレナは、自分の体の調子を一瞬だけ確かめ、敵を睨む。
「覚悟しなさい!」
「そっちこそだ!」
 レナはリーダーのナゲツケサルを睨みつけて勇ましく言うも、彼女が放った熱湯は当たらず、懐に入り込もうとしたナゲツケサルをかわそうとしてアクアジェットをしても、進化した体に慣れずにバランスが取れずに転んでしまう。その隙を突かれて掴みかかられると、力の弱いレナではもうどうしようもない。
「レナ!!」
 ロウエンが大声で叫ぶも、自分の方にもゴローンの男が迫ってきている。体はもう満足に動かず、そいつの攻撃を凌ぐので精一杯。村長やゼントも似たような状況で、万事休すと思ったその時。
 ゼントとロウエンはレナを助けたいと強く願う。すると二人の体内に、今までにない力があふれる。
「これは……?」
「この力……行ける!」
 その力にロウエンは戸惑うばかりだが、ゼントはその力に覚えがある。これは……
「Z技だ! こいつで俺のフルパワーが出せるっすよ!」
 言うなり、ゼントは自分に襲い掛かってきたムクホークの男に、強烈な拳を浴びせかける。その一撃だけでムクホークの男は吹っ飛び、大木に当たってぐったりと地面に横たわる。
「おらぁ! いくっす! 喰らえ! 俺の渾身の一撃! この拳に並ぶもの無し、全力! 無双!」
 叫びながら放たれたゼントの拳は、あふれ出た闘気が拳や足から離れて、遠くにいるロウエンに襲い掛かっていたゴローンもついでとばかりに吹き飛ばす。拳と蹴りのコンボで表皮が砕けて吹き飛び、痛々しい肉が露わになるほどの衝撃を与えられては、しばらくは動くことすらできまい。
「激烈拳!」
 最後に、村長を襲っていたバルビートまで届いた闘気がそいつをぶっ飛ばした。前に出ていたレナの方までは届かなかったが、戦果は三人、上出来だろう。
「……はぁ……見たっすか、ロウエンさん? こう、とにかく体が自然に動くままに全力で技をぶっ放せばいいっす。なんでもいいっすから、あのお嬢ちゃんを助けてやるっすよ! あのナゲツケサルの特性、今は多分力持ちになっってるから……下手したら殺されちまうっすよ!」
 ナゲツケサルの特性はレシーバー。やられた仲間の特性を引き継ぐという特性だが……この盗賊団のリーダーと思われるナゲツケサルが陽動作戦を行ったのは、恐らく仲間の特性を借りるためだったのだろう。その証拠というわけではないが、襲われる直前にこっちが襲っていた者の特性は、力持ち、あまのじゃく、適応力と強力な特性を持つ者達ばかりだ。それは恐らく偶然でそうなったわけでは無かろう。
「……来るな! てめえら来るんじゃねえ! この女の首を折るぞ!」
「その相談にゃ乗れないわね。ふわぁぁぁぁ……む」
 言いながら、村長は大きくあくびをする。全員の行動を深く注視していたナゲツケサルは、そのあくびにつられて自分間で強烈な眠気に襲われてしまう。気付いた時には、握力が緩んだ隙を突いてレナの尾ひれがナゲツケサルの股間をはたく。内臓まで直接響く重い鈍痛を受け悶絶していると、すでにそこにはロウエンがいて、レナは逃げた後。
「徹底的にぶちのめす! てめえにもう逃げ場はねえぜ!」
 ロウエンが大声で宣言すると、ナゲツケサルの周りの地面がはじけ飛んで、地下から炎のプロレスリングが現れる。燃え盛るそのリングには触れるどころか近づくことすら叶わず、炎のリングの端から跳躍したロウエンの攻撃を避ける手段は皆無。
「大人しく観念して焼け潰れろ!!」
 ロウエンは腰の周りで燃え盛る炎の威力を増させ、重力を味方につけて加速しつつ地面へと迫り、大声で宣言する。
「ハイパーダーククラッシャー!!」
 追い詰められたナゲツケサルが落ちていた石を投げるも、拳大の石ですらロウエンの勢いを止めるには到底足らず。落ちて来たロウエンの攻撃は隕石を受けるがごとき衝撃を伴い、ナゲツケサルは地面に挟まれて逃げ場すら作ることも出来ず、すべてのエネルギーを体で受け止めなければならない。有り余ったエネルギーは周囲に大爆発を引き起こし、宙に浮いている村長でさえも地面が揺れたのが分かるという事実が、そのすさまじい威力を物語っていた。
 実はこの技、炎タイプの技ではなく悪タイプの技なので焼けたりはしないのだが、それはともかく効果はいまひとつとは言えロウエンの強力な一撃を喰らったナゲツケサルは倒れ……ていなかった。
「しまった! こいつ格闘タイプじゃないか!? ノリで悪タイプの技使っちまったけれどこれじゃ意味がねえ!!」
「お前ここは格好よくレナを助けるところだろうがよ……肝心な時にしまらないっすね……」
 ゼントは顔を抑えてため息をつく。一応、ナゲツケサルも倒れる寸前ではあるのだが、まだ逃げるだけの元気くらいはありそうだ。しかし、そうは問屋が卸さない。まだまだ戦えるコンディションのレナが、背後からかわいらしい声を大声で浴びせかけてナゲツケサルの鼓膜から脳を破壊する。
 チャームボイス。思わず耳を傾けずにはいられないその魅惑の声は、音速以上で動いている相手でもなければ必ず当たるとされており、ましてや逃げようとして背を向いている相手に当てるなど造作もない事だ。
 最後の悪あがきで逃げようとしたリーダーもついには力尽きて、その場に倒れ伏す。
「格好いいんだか悪いんだか……本当にしまらないっすねえ」
「格好良かったですよぉ」
「そう? 私は格好悪いと思ったけれど」
 ゼントはロウエンの事を微妙な気持ちで、レナは格好いいと、村長は逆に彼を格好悪いと評価する。レナは本気で格好いいと思っているのだが、ロウエンにはレナの言葉も同情に聞こえて、ロウエンは地面に座り込んでいじけてしまった。
「ちょっとロウエンさん、本当に格好良かったんですってばぁ!」
「いや、しまらないのは俺も理解しているから……」
 猛火を発動させるために仲間割れをした振りをして殴られた傷も、今更になって痛みを帯びてきている。何だかもう、勝利をしたのに敗北したような気分でロウエンはいじけ始めた。

 本当ならばロウエンを励ましてあげるべきかもしれないが、そんなことよりも盗賊たちが目覚めてしまう前に縛っておかねばと、まだ体が動く村長とレナが率先して相手を縛っていった。
 前回のお尋ね者と違って、この盗賊たちは商人や旅人から荷物を奪いこそするものの、殺しや強姦被害など、不必要な害を与えることはない。それゆえ、更生も可能と村長はみなし、生け捕りという判断だ。
「……私、うぬぼれていました。進化したから相手に勝てるだなんて思って、結果的に二人に無理をさせてしまって」
「でも、二人がなぜかZ技を使えたおかげで何とかなったじゃない? 大丈夫よ、今回は何もなかったんだから、次に生かせばいいの」
「そういうものでしょうか?」
「後悔よりもまず反省。自分の力を過信しないことを覚えたなら、次はもっと強くなれるように頑張りなさい。うじうじしているよりかはよっぽどいいから」
 レナは、ロウエンとゼントに無茶な技を使わせたことを気に病んでいた。そんな彼女を励まそうとして村長は言う。ただ、村長の言葉はただ単に無責任な励ましをしているわけではなく、陥ってしまいがちな精神状態になることを回避して欲しいという願いがこもっている。
「そうやってうじうじしているから、私も昔は酷いことをしてしまった事があるのよ。そういう風になって欲しくないからね、貴方にはうじうじせずに元気でいてもらいたいのよ、レナちゃん。それに、迷惑をかけない方法を考えるのもいいけれど、どうせならばもっと有益に……そうねぇ、さっきのZ技。
 進化したからと言って周囲の誰かがZ技を発動できるようになるだなんて聞いたこともないし……最近はダンジョンでもすっかり入手できなくなってしまった特殊なアイテムが無ければ、Z技はできないはずなのに。
 なのに、貴方はあの二人に力を与えて、自分を退治させることが出来た。その謎を解明して、いつでもZ技を使えるようにしてみたらどうかな?」
「いつでも、ですかぁ」
「流石に、そこまで都合よくはいかないと思うけれどね。でも、Z技は強力な技よ。いつでも使えるようになればきっと冒険の役に立つはずでしょう?」
「はい! そうですね……頑張ります! えっと、でも今はそんなことよりも……全員を縛り終えたので……ロウエンさんの怪我の世話をしてきますね。何だかロウエンさん、私が傍にいると痛みが和らぐって言ってくれまして」
 励まされて、レナはかすかに笑顔が戻った顔で頷く。ロウエンやゼントの傷を見ていると、まだ少し気分は浮かないおかげで笑顔もぎこちないけれど、彼ら二人の傷が良くなったならば、すぐにでも笑えそうな気がする。
「それにしても、レナ……あの子は、本当にポケモンなのかしら? 一日でお尋ね者を見つけるわ、訳の分からない便利能力を持っているわ……それになんだか、雰囲気が似てるのよね。ポケモンのようでポケモンじゃない、あいつに……」
 ロウエンにオレンの実を食べさせようと、道具袋を漁るレナを見て、村長は一人つぶやくのであった。

「そういえばよ、こいつらどうするんだ? まだ殺しや強姦などを行っていないから更生可能って村長の言い分は信じるけれどよ。俺にゃどうすりゃいいのか見当もつかないぜ?」
 レナに寄り添われながらオレンの実を食みながらロウエンが尋ねる。
「もちろん、しばらくは力と恐怖で支配して強制労働。そして、反発が少なくまじめに働いている奴から徐々に自由を増やすってところかしら?」
 村長はそう言って、縛り上げた盗賊たちを見る。
「あー、やっぱり暴力は必要になるかぁ。俺が丸くなったのもなんだなんだで暴力と恐怖による支配だったからなぁ」
 過去の経験を思い出し、ロウエンは苦笑する。
「でもまじめにやっている奴には栄養不足にならないように食事を出すし、睡眠不足にならないように休息も出す。何より、まじめにやっていれば暴力は振るわない。保安官に付きだしてもいいけれど、あっちの強制労働は罰を与えること目的だからね……ちょっとばかし事情が違うのよ。
 罰を与えるだけじゃ再犯する奴もいるし、何よりも再犯するしかない奴もいる……」
「確かに、仕事がなくって盗賊になる奴に、釈放されたからって真人間になるのは無理っすよねぇ」
 村長の話を聞いてゼントは頷く。レナもロウエンも同じく彼女の話を理解し、頷いた。
「そう、その……再犯するしかないっていうのが問題なのよ。貧しくて、生きるためには奪わなければならないって状況じゃ奪うしかないし。そういう奴らに生きる力を与えなければいけないっていうのはね、難しいよ」
「俺なんかは、腕っぷしが強かったからダンジョニストになれたけれど、こいつらは多分、半分以上が有象無象だしなぁ。この村は仕事があるけれど、他のところへ行ったら仕事がないからどこへ行っても失業しそうだし……」
 ロウエンはどうするべきかと唸る。
「こういう時は、とにかく読み書きや簡単な計算を覚えさせとって話っすね。それが出来るだけで大分違うっす。あとはこう……何か特技を身につけさせないといけないっすね? 俺みたいに大工仕事を覚えるでもいいし、知識蓄えて薬作れるようになるでもいいし、土地を拓いて畑作るでもいいし。布を織るとか、陶器やら家具やら色々な道具を作れるとかもいい。
 俺達の村がボランティアでやっている道の整備とかも、きちんと雇ってもらったうえでやれば立派な仕事っす。重い物を運ぶ、木を伐る、魚を捕る、畑を耕す、鉄を鍛える。
 何も出来ないから仕事がないわけであって、何か出来ればどうにでもなるはずっすよ! 俺の故郷に舞い降りた英雄はそういった教育を最も大事にしていたっす!」
 ロウエンの疑問にゼントが答えるが、それは言うほど簡単ではなく。
「問題はそれをどうやって覚えさせるか、だな……戦い方くらいなら、頭の悪い俺でも教えられるぞけれど、全員がそれをやるわけにもいかねーだろ?」
 ロウエンはぼやく。
「幸い、うちの村には職人が何人かいる。そいつらに技術を叩きこんでもらうのが一番早いだろうねぇ」
 ロウエンの疑問に村長が答える。そういえば、この村は異常なほど人材が豊富なのだ。不思議枝や不思議玉と呼ばれるダンジョン探索に便利なものを作る職人やら、農具を作る職人。道路を整備する職人や、木を伐る職人等、儀礼や祭事で使うための服を作る職人もいれば、包丁などの鉄器を扱う職人、料理人、漁師、木こり、農耕のエキスパートもいる。
 大きな町ならばこの程度は当たり前かもしれないが、小さな村の割にはかなり優秀な人材が整っている。それがなぜかと尋ねれば……
「この村を作るにあたって、そういう人材を集めたのもあるけれど、私たちはそういった技術を得るために、仲間を一度解散して各々で技能を習得させてからまた集結させたからね。村を発展させることが目的の一つだけれど、それ以上に、こういう時のためにそういう技能を身につけさせたのよ。その備えが役に立つ時が来たわね」
「と、いうと……村長は、この村を、その……誰もが仕事を出来る村にしたいってわけですか? なんつーか、とんでもねーな……それだけの人材を集めるとか」
「えぇ、そうよ。こう言ってしまうと身も蓋もないもないけれど、金があれば大体の事は解決できる。そして金を得る方法は仕事だからね……そう、身も蓋もないけれど、そういうことなのよ。
 『人に優しく』とか、『皆で分け合おう』とか、そういう精神ももちろん大事けれど、分け合うことが出来ないくらいに少ないものはどうにもできない。だから『仕事を覚えさせろ』、『仕事を与えろ』というのが……私が憧れた者達のスタンスだった。
 でも、その仕事っていうのも、仕事がある場所は基本的に『人のいる場所』でしょ? 特に、人口の多い街の方が仕事が多い……けれど、『大きな街ならば仕事がある』と思って出稼ぎに行っても、結局仕事がなく、路銀も尽き果てて失業者となる者もいる。そこから犯罪者へとシフトする者もいる。
 だから、結局は新しく仕事を作れる『場所』を作るしかない。それがこの村だ」
 村長は誇らしげに顎をクイ、とあげる。
「そいつはすげえ決意だけれど……なんというかいばらの道だよな」
 そんな村長を見て、ロウエンは困惑気味にそう評した。
「まあね。実際、ここら辺は食料が豊富だからいいけれど、住民が食べる者の世話も出来なければ、村なんて建てられないわけで。食料確保の問題を先送り出来る場所じゃなかったら、もっと苦労していたでしょうね」
「俺達の憧れなんてすげーぜ? なんと、草もまともに生えないような荒れ地に村を作ったんだ」
 村長の言葉に続いて、ゼントは故郷自慢の便乗する。
「そう。でも、そんな風に荒れ地に村を作ったとしても、どうにかする手段がないわけじゃない。一番はやっぱりダンジョニストだね。お金を稼いでその金で外部から食料を買いつけるもいいし、ダンジョンで直接食料を採集するもよし。難易度の高いダンジョンから敵の死体を持って帰るもよし。
 難易度の低いダンジョンから持ってきた死体はドロドロに崩れるけれど、それを肥料にして畑を肥やすのもありだねぇ。ロウエンみたいな逞しい奴が頑張ってくれると、私もそういう場所に村を作れるんだけれどねぇ」
「逆に聞くがよ、そんなにたくさんの村を作りてえのかよ? 俺は面倒なのはあんまり好きじゃねえぜ?」
 村長に話を振られて、ロウエンは問い返す。
「いやぁ、人が訪れるような場所ならともかくだけれど、立地条件の良い場所なら新しい村を作るのもありかな、程度には考えているよ」
 村長は、暗に今の村がある程度落ち着いたならば、別の場所に村を拓くつもりもあることを示唆した。それを聞いて、ロウエンはよくやるぜと言わんばかりに肩をすくめた。
「でも、でもですよ、村長? この村がある程度落ち着いたら、結局仕事も人手が足りてしまって飽和しちゃいますよね? そうなったら結局のところ、またよそ者が仕事を出来ない状況になってしまうんじゃ……新しい村を作ればそれで解決するのかもしれませんけれど、仕事がなくなるごとに新しい村を作るとか、そんなイタチごっこを続けるんでしょうか?」
「それが問題なのよね。そう、数が増えすぎるのが問題なのよ。この世界の広さに比べて、ポケモンは数が多すぎる……なんでも、人間の世界を覗けたり、人間の世界とこちらの世界を行き来出来る奴から聞いた話では『奪い合わずに美しく生きるためには命の数を減らすしかない』とか言って一般市民を虐殺しようとしたカエンジシみたいな人間もいるらしくって。
 レナの言う鼬ごっこってのは、避けられない問題なのよね。うん、だから私はその……命の数を増やさずになんとかできればと思っているの。今の世の中……いや、きっとこれまでも、そしてこれからも。どこへ行っても、『子孫を残せない者』っていうのは、後ろ指をさされる。
 男同士、女同士でしか愛せない者もいれば、タマゴグループが違う者同士で愛してしまったものもいるし、そういう者達の受け皿に慣れればいいなとも思っているんだけれど……ほら、貴方達が里親に指名したあのフワライドとガブリアスのカップルとかね、あの子達もそうやってここに流れ着いてきた……というかスカウトしたの。
 そう言った、子供を産めない者達があつまり、子供を産む代わりに孤児を受け入れ、その子達を自分が産んだこのように愛情を注いで挙げられれば、それが理想なんだけれど……スカウトするくらいならともかくだけれど、自主的にこの村へ来てもらうってのは難しいだろうね。
 この村の方針は今の世の中じゃなかなか受け入れがたいだろうし、批判も多そうで……『この村で暮らしたい!』なんて子供が言ったら親はなんとしてでも阻止するでしょうし。どうやってこの村の事を広めるかは要検討ね。
 あ、それと……別にこの村で子供を産むことを禁じるわけじゃないから、そこは勘違いしないでいいからね? ロウエンとレナ」
「俺達名指し!?」
「きゃっ!」
 ロウエンは驚き、何故かレナは嬉しそう。ゼントと村長はその二人の反応を見てこみ上げる笑いを必死で抑える。
「ふむ……しかしあれだな。そんな恋愛している奴らばっかり集めたら、汚らわしいとか批判されそうだな。俺はそういうのは自分に被害が無ければどうでもいいけれどよ」
 ロウエンはなぜか自分が男にモテることを思い出しつつ、村長の進む道の険しさを想う。
「でも、私は批判を受ける事なんてどうでもいいと思っている。苦しんでいる者を傍観することしか出来ない状況をどうにかしたいってね。実際に、そうやって苦しんでいる者をどうにかしたり、悪党を更生させて立派に働かせた奴を私は知っているから……私は、そんな憧れの人に近づきたい。憧れの人に、追いつきたい。たとえ追いつけなくとも、その人の仕事の半分でも成果を残せたらなって。
 そうやってがむしゃらに進んでいると、なんでかな。昔よりも体を酷使しているのに、昔よりも笑顔が多くなったとか、疲れた顔をしなくなったって言われちゃったよ」
 村長は、ロウエンが想像する以上に困難な道であることを分かったうえで、そう言ってほほ笑んだ。
「村長が憧れる人、あいつはすげえ奴だったっすよ。彼らが作った村は数多くの人口を抱えているのに、全員がきっちり働いていたんすよ。しかもその働いている全員が飢えていないだなんて嘘みたいな町を作り上げちまったっすよ……文字通りパラダイスとしか言いようのない、正直ありえねえ村っす」
 村長、ゼントは同じものを思い浮かべながらうんうんと頷いた。
「そんな人がいるだなんて、この目で見るまでは信じられないですよねー」
 その人のことは何度も話に聞いているため、レナは苦笑しつつ言う。ゼントの故郷の住民に仕事のスキル、仕事のノウハウを仕込んだのは、大半がその街の代表的存在であるミジュマルとピカチュウ……今は進化してダイケンキとライチュウとなった二人だったというのだから驚きだ。
「正直な話、嘘付きって言われるのを覚悟しないと語れないようなでたらめな功績を残した人物だからな。いつか会わせてやりてえっす……と、まぁ。俺達もその偉人の真似をしたいわけっすけれど、一人二人じゃ絶対に無理っすからね。だから、みんなで力を合わせてその人達の代わりをやるってわけっす! それについては、あー……ロウエン。お前なんかも、レナちゃんが働く場所をお前さんが見つけられているわけっすから、本当に有難いことっすよ」
「え? 俺みたいなのでもいいのか?」
 ゼントに褒められて、ロウエンは意外そうに眼を見開く。
「そりゃそうっすよ! まぁ、レナちゃんはまじめだし、正直何をやらせても人並み以上に出来るっす。だから、ロウエンさんがいなくっても何とかなった感はあるっすけれど……でも、俺達の村に来る前にも、何人かダンジョニストを育てていたっすよね? この村の方針を考えると、そういうのが一番いいっす。
 飢えた者にはリンゴを与えるより、リンゴをいつでも手に入れられる状況を与える方が、尊い行為である……って、まぁその憧れの人の言葉の受け売りなんすけれど……ロウエンさんはそれを無意識のうちに実践しているっすよ」
「なーるほど……そういわれると、確かにそうなのかもしれないな……しかし、仕事か。このナゲツケサル、何ならダンジョニストとして使ってもいいんじゃないのか?」
 ロウエンは縛られたまま倒れているナゲツケサルを見る。
「確かに、こいつは仲間の中でも突出して強かったねぇ。力持ちの特性をレシーブしていたせいもあるんだろうけれど……」
「攻撃を受けるのに力があると役に立つとはいえ、力だけで攻撃が防げるわけじゃあるまいし。つまりこいつは戦いについては素人じゃないってことに他ならねえ。一緒に仕事したいくらいだぜ」
「そうねぇ……かといって、拘束具をつけたままダンジョンに出かけさせるわけにもいかないでしょう? だから、しばらくはまじめに仕事をしてもらうしかないわ」
 村長は言い終えて、自分も座り込む。浮遊の特性にも体力がいるのだろうか、地面に降り立った姿は久々に見る・
「ふぅ……私も疲れちゃったな。少し休んでから出発しよっかな」
「そうするっすよ、村長さん。俺も本当に火傷は痛いし疲れたしで、体動かねえっすから」
「そうですね、私も疲れました」
 村長もこの戦いで疲れており、盗賊たちを縛り終えるまでに体力も消耗していたようで、レナも同じようなもの。みんなすっかり体が休憩を訴えている。
「ところでさ、気になったんだけれど……村長は切り札切り札って何か言っていたけれど、あれは一体何なんだ?」
 そうして村長も座り込み、オレンの実を食べ始めたあたりでロウエンは問う。
「あぁ、それはねフリズムっていうアイテムを使うんだけれど……」
 そう言って村長が取りだしたものは、青くきらめく宝石のような素材でできた、小さなツボのようなものが五つほど入った革袋である。
「これは、音を封じ込めると表面に氷が張るの。そして今度はそれをしばらく触っていると、表面の氷が解けて、吹き込んだ音が流れるようになっている、不思議なアイテムなの。普段は家庭で伝言がある時とかに使うんだけれど……これにハイパーボイスなんかを封じ込めると、戦闘でダメージを与えられるの」
「ほーう、そりゃおもしれえや。この豪華な装飾がされているのはどんな声が入っているんだい?」
 村長の説明を聞いて、ロウエンは興味津々にフリズムに触れる。すると、ロウエンの炎タイプ特有の高い体温のおかげですぐに表面の氷は解けてしまい……
「あ、ちょっとロウエン! フリズムは一回使ったら空っぽになっちゃうのよ?」
「え……触ったらだめなの!?」
 フリズムからは無情にも音楽が流れて来るのであった。
「水面が揺らぐ♪ 風の輪が広がる♪ 触れ合った指先の青いデンリュウ♪」
「あぁ、メロエッタの古の歌が!? ロウエン、お前最も貴重な幻のポケモンの歌を使ったな!?」
「え、何この歌? メロエッタなの?」
 なんとも意味の良くわからない歌がメロエッタの歌声だと聞いてロウエンは驚愕して聞き返す。村長は、この曲の価値も分からずに再生したロウエンに恨みがましい目を向けている。
「しかもメロエッタとケルディオが一緒に歌っている奴だってのに……メロエッタが数千の軍隊を無血で鎮めたといわれる伝説の歌が……あぁ……尊い」
「村長、ショック受けながら感動してるじゃねえか!? ……ってか、俺も歌詞の意味が良くわからないけれど何だか胸がいっぱいになってきた……」
「何だか私も歌ってみたくなってきました……」
「心が洗われるっす……」
 しかし、村長は怒りたい気持ちもあるが、この歌の前ではそんな気持ちも吹き飛んでしまうらしく、もはや言葉もなかった。
「……俺盗賊やめてまじめに働きたい」
「牢獄にぶちこまれたらもうこんな歌も絶対聞けないんだろうなぁ……」
 ついでに、縛られている盗賊たちにもその効果は十分にあったらしい。ぐったりしていた者達も意識を取り戻して起き上がり、中には涙を流して歌を聴く者もいて、縛られながら感涙するその光景は異様である。そんな光景も、フリズムの再生が終わると同時に収まり、その時の出来事を村長はこう振り返る。
「……まぁ、いいか。これは今が使い時だったんだ」
 盗賊たちが一斉に改心するだなんてことは、こんなものでも使わないとありえないだろう。この効果がいつまで続くかはわからないが、歌を聞くだけでこれほどまでに心が動くのであれば、それはそれで良いことだと村長も納得した。
「そうだ、このフリズムは空っぽになってしまったから、どうせならレナ……何か歌ってみて欲しいね。なんだっけ? うたかたのアリアとか言う技……今のあなたなら歌えるはずよ」
 メロエッタの歌を失ったことに吹っ切れた村長は、そう言ってレナにフリズムを渡す。
「会話などなしに♪ 内側に潜って♪ 考えが読み取れる不思議な夜♪」
「いやべつにその歌じゃなくってもいいのよ?」
 フリズムに向かって歌を吹き込むレナは、オシャマリの時から随分と声が変わっている。その変化に最初こそ戸惑い、音程も滅茶苦茶であったが、十数秒も歌えば彼女は自分の声を自在に操り、美しい歌声を完成させる。
 本来は攻撃に使う技だが、この技には火傷を治す効果もある。声はそのほとんどがフリズムに吸収されてしまうため、その歌声は程よく漏れ出して、ダメージを与えることなくゼントの火傷を治していく。
 その歌声には、メロエッタのように、理由もなく感涙させるほどの能力こそないものの、あまりの美声を雑音で遮りたくなく、自然と人を黙らせるくらいの効果を秘めている。ロウエンは、そんな彼女を見て、改めてとんでもない子を拾ってしまったものだと嬉しい気分になっていた。


 一行は捕縛した盗賊を連れ帰り、一定の労働の義務を課してしばらく生活させた。最初こそ文句を言っていたが、食事は十分な量を与えられるし、粗末ではあるが寝床もあるし、休憩時間もきちんと与えられる。
 豊かな生活とは言えないけれど、周りの住民の生活とそれほどかけ離れたものでもなく、盗賊だった者達も徐々にまじめに仕事をするようになり技術のいる仕事を教えても、投げ出したりせず真剣に話を聞くようになっていった。
 幸い、盗賊団はまだ人を殺したことは一度もないらしいので、襲った者達への謝罪を奪った以上の金品という分かりやすい形で行う予定である。誰に返すべきか分からない者が多いのは難点だが。まじめに仕事をしていれば、謝罪が出来る日も遠くはなさそうだ。

 そんな中、リーダーのナゲツケサル。オオタニだけは未だにこの村に馴染むことなく、すぐに怠けたりサボったりするような振る舞いを見せる。その態度のせいだろうか、盗賊時代に彼を慕っていた者達も、少しずつ彼を見限っていくようになり、だんだんと彼も孤立していったが、オオタニはそれを気にするそぶりすら見せず、飯を抜かれても無気力にため息をつくばかりで、働く意欲は皆無であった。
 村長は何度も会話を試みようとしたが、彼は一向に何も喋ることをせずに固く口を閉ざしたまま。ロウエンも同じく話しかけはしたが、早々にあきらめて『もう放っておけよ』という態度だ。
 そんな中、レナだけは最後までオオタニに寄り添っていた。オオタニに与えられた粗末な家に勝手に入り込み、何も言わず、隣にいて呼吸をしているだけ。その様子を見て、ロウエンもばかばかしいと思いながらも彼女がやっていることを真似し、オオタニの隣にいて黙って座り込む。
 ロウエンもレナも、オオタニとは密着こそしないが呼吸音が聞こえる程度には近づいている。
 そんな状況で何かを話さないととても気まずいというのに、レナは自分で購入したバンジの実を頬張りながら、ロウエンはダンジョンで狩って来たヨワシを、時間をかけてちびちびと食すだけ。お腹が減っているであろうオオタニには、酷く鬱陶しい存在だろうが、何も話すつもりがないうちは、こうして付き纏われるのだ。それでも、彼を折れさせるには一ヶ月かかった。
「お前ら、ずっと俺の周りをうろついて一体何なんだ。鬱陶しい」
「だってあなたが何もしゃべらないんですもの、話しかけようがないじゃないですか」
「そうだぜ、辛いことがあるなら話してみるのもいいかもしれないぜ? 意外と解決することもあるかもしれねーし」
 生気もなく苛立たし気なオオタニに、レナとロウエンは笑顔で言う。
「辛いことがあるなら、何か言っていただけませんと、私たちは何も出来ません。話したところで何も出来ないと思っているのかもしれませんけれど……でも、何か協力できることがあるかもしれませんし……」
 レナが微笑みかけると、オオタニはギリリと歯を食いしばる。
「俺はもう、生きるのが嫌になっちまったんだ……まじめに働くのも馬鹿らしいし、正直者ばっかり損をするこんな世の中が嫌になっちまったんだ」
「何かあったのかよ?」
 オオタニの愚痴に、ロウエンは深く突っ込んでいく。
「普通、そういうのをずかずかと聞いてくるかね……」
「聞いてほしくなかったら愚痴を始めることすらしねーだろ? いいから、言いたいことがあるなら言ってみろ。話はそれからだ」
「それもそうだな……それで、正直者ばっかり損をする世界が嫌になって、ならば俺が奪う側に回ってやろうって気になったんだ。それも、今はもう何だか虚しくなってきちまったがな……」
「じゃあ、せめて希望を持って生きるように頑張りましょうよ」
「そうだぜ、人生楽しいことなんていっぱいあるだろ?」
「何が『じゃあ』だ……気楽に言うな」
 レナとロウエンの無責任な励ましにオオタニはため息をついて項垂れた。

 始めて会話した一日目はそんな調子で、会話も上手くかみ合わないのだけれど。そのうち、オオタニも少しずつだが自分のことを話すようになっていた。
 それらの話を統合すると、彼は昔は雇われで畑仕事をやっており、その町で毎年行われる祭りの際には強い男を決める喧嘩相撲で町一番の腕前を持つほどの腕っぷしで時折ダンジョンに潜ったりなどして皆に慕われていたそうなのだが。ある日いわれのない罪で保安官に掴まり、合法的に財産を没収されたらしい。
 だけれど、その『合法的』というのもいいがかりのようなもので。山道で商人が襲われ、金や食料を根こそぎ奪われたのだが、それはマトマの実を投げつけられて視界を塞がれた瞬間の出来事だったそうだ。ことだから犯人はお前だろうなどという杜撰な理由だったそうな。
 なんとか逃げだして街を離れたが、これからの生活のための蓄えを、すべて失ってしまい、結婚が決まっていた美人のヤレユータンの嫁も娶ることが出来なかった。その保安官は、喧嘩祭りで大口をたたいたわりに、オオタニに対して全く手も足も出なかったオコリザルで、その事を恨んで俺を捕まえに来たんじゃないか……と。
 裁判官は権力と金を持ったその保安官の味方であった。何もかも失って、自分だけ不幸になるのが耐えられなかった。全員不幸になってもらいたかった。もういっそ何もかもなくなってしまえば良かったと自暴自棄になって、オコリザルのお望み通り盗賊になってやるとばかりに、気付いたら元からいた山賊たちの仲間に押し入り、力でリーダーの座を奪い取っていた。
 今でも、自分は不幸だと思っているし、幸福そうな奴を見ていると苛立って仕方がないが、ここの村の住民はみんながみんなまじめに生きているためにそんな気も失せてしまい……だけれど、自分が頑張る気にはもうなれなかったのだと。
 だから、掴まりそうになった時はレナを人質にとってでも生き残るつもりだったが、今はもうまじめに働いているだけのレナを傷つけるつもりはないから、放っておいてくれと。

 彼は、『放っておいてくれ』ということを何度も強調するが、そんなことを本心から思っているのであれば、例え足に鎖がついていようとも、逃げてどこかに身を隠すくらいはしてもいいんじゃないだろうかとレナやロウエンはは思う。
 彼も、何かやる気を取り戻すきっかけを探しているのだと、二人は感じていた。
「あの、オオタニさん。よければ、貴方の身の上を村長さんに話してもよろしいでしょうか?」
「勝手にしてくれ」
 その答えが、レナの疑問を確信に変えた。彼も助けを求めているのだと。

 さて、それらの事情を村長に話した時の反応だが。
「って分けでよ、そいつをぶっ殺しに行こうぜ……いや、殺しちゃだめだな。半殺しだ」
「やめときなよロウエン。あんたは腕のいいダンジョニストだって、最近は近隣でも有名なんだ。ぶっ殺しに行って犯人がガオガエンって種族がばれたらあんただって特定余裕よ。それに、暴力はなるべくいけないわ」
 短絡的に暴力に走ろうとするロウエンを村長はたしなめる。
「暴力が悪いことだなんてそんなこたぁ分かってるんだ! だがよう、暴力よりも悪い事なんていくらでもあるんだ。その一つがそいつの所業だろうがよ」
「まあまあまあロウエンさん。言いたいことは分かりますけれど、村長さんの言う通りです。それに、暴力よりも悪いことはあるってのは確かですが、もう一つ確かなこともあります。暴力よりも痛いこともあるってことです。
 とにかく、罰を与えるにせよ、罪を償わせるにせよ、暴力以外の方法は必ずあるはずです。まずは、そっちから考えてみてはどうでしょう?」
「……まぁ、それもそうか」
 村長にたしなめられても収まらなかったロウエンだが、レナの言葉には素直に従う。村長は自分が口下手なのかと苦笑したが、きっと相手がレナだからという理由もあるのだろうと思うと、美人は得だね、年は取りたくないものだねと苦笑する。
「オオタニを見ていると、なんというか過去の自分を見ているようでつらいよ。私も、昔は正直者が馬鹿を見る世界なんて消えてなくなってしまえばいいって思っていたから。
 それでね……ロウエンの案には半分賛成よ。この世には、愛とやさしさで心が通じ合える者もいるけれど、酷い目に合わないと改心しない者もいる。かと言って、直接的な暴力じゃ貴方の立場が危ういでしょう? それとも、またナイジャのお世話にでもなるかしら?」
「そ、そういわれると確かにそうなんだけれどよ……」
「じゃあ、彼が望むなら私が復讐の手伝いを主導することにするわ。ロウエンもそれでいいわね?」
「わかった……そうさせてもらうよ」
 直情的な行動に走ろうとするロウエンをたしなめることが出来、村長も一安心と言ったところだ。
 後日、レナはもしよければ村長が復讐に協力してくれるが、どうするか? という話を持ちかける。オオタニは『自分を働かせるためにそんなことまで協力してくれるのか?』といぶかしげであったが、何もかも無気力になっている今、死に場所を探すくらいなら一泡吹かせてみるのもいいかもしれないと、話だけでも聞いてみることにした。

「標的さえわかれば私が何とかしてあげるから、まずは標的を見せなさい」
 村長はオオタニへ言う。
「いきなりだな? お前が俺の代わりに復讐してくれるっていうらしいけれど、そりゃなんでだ?」
「……行き過ぎた復讐は、復讐すべき相手だけじゃなく、自分の身まで亡ぼすことになるから推奨は出来ないけれど。でも、罪を犯したものがなんのお咎めなしなのもいけないし、少しくらいの復讐は前を進む力をもたらすこともある。だから、相手を殺さないで、もちろん回復不可能な傷も負わせないで、その程度の復讐でもいいなら、復讐を手伝うわ。私、ばれずに復讐するの得意なの」
 自信満々に宣言する村長に、何か得体の知れぬ自信を感じて、オオタニはごくりと唾をのむ。
「最低でも、奴を檻の中に入れてくれるのなら……」
「そう。私なら余裕ね」
 村長は不敵な笑みを浮かべだ。
「余裕なのか? いったいどうやって?」
 根拠もなしにそう言われると逆に不安になってオオタニが問う。
「他人の夢に入り込む」
「ふむ……」
 村長はこともなげに言う。
「夢の中で何度も何度もぶちのめす。滅多打ちよ」
「そ、そうか」
 村長は表情を変えずに言う。
「そのうち悪夢の連続で寝られなくなるわね」
 当然の結果と言わんばかりに村長は言う。
「えげつないな……」
「そのうち起きていても幻覚を見るようになる。寝ても覚めても地獄ね」
 どうということもないかのような口調で村長は続ける。
「ちなみに、夢でその標的をぶちのめす役は貴方の幻影よ」
「……なるほど」
「まぁ、言っても信じられないと思うけれど、やれるだけやってみるから、その結果を見て考えるといいと思うわ」
「……まぁ、いいか」
 オオタニは村長の自信をあまり信用できなかったが、失敗なら失敗で、刺し違えてでもあのオコリザルを殺して、その後はもうどうにでもなれというのも悪くないと思っていた。

 だが、実際に彼女に標的を見せてみると、標的は見る見るうちに疲れが見え、痩せこけて、出歩く際も元気がなく、だんだんとオコリザル特有の怒りの態度すらも殆ど表に出さなくなってしまった。村長が悪夢を見せ始めてから僅か二週間の出来事である。
 オオタニは村長から許可を出されたので、何食わぬ顔でそのオコリザルに近づいて見ると、オコリザルは土下座してオオタニに謝罪をして罪を告白し。
 『喧嘩に強くて、美人の嫁さんを娶ろうとしているお前が疎ましかったのだ』と。
 結局、オコリザルは自ら『牢屋に入るからもう化けて出ないでくれ』という。『いや、生きているだろう』という言葉を周りの皆が心の中で叫んでいたが、そんなことはともかく、奪われた蓄えを要求したが、それはもう使い切ってしまったとのこと。オオタニはこの糞ったれに石でも投げつけてやろうかと思ったが、そうする前にどこからか現れたロウエンが、『街を守る保安官がそんな事してんじゃねえ!』と怒鳴ってそいつを蹴り飛ばし、そのまま一目散に逃げてしまった。
 ロウエンが代わりに蹴り飛ばしてくれたおかげで、オオタニも溜飲が下がり、これ以上自分の手を汚さずに済んでしまう。
 盗賊家業も終わりを迎え、死に場所を探して復讐のために命をかけるのも悪くないと思っていたところにこんなことをされて、オオタニの毒も一気に抜かれてしまい、もう復讐する気もなくなってしまって、これからどうしようかと途方に暮れる。

 ただ、婚約者だったヤレユータンはまだ他の男になびくこともなくオオタニの事を待ってくれたので、蓄えは失ってしまったけれど、愛する女性がいるならばそれでいいかもしれない。
「それで、婚約者といろいろ話し合ったのですが、あの町は俺が捕まってからというもの、婚約者の周りにも変な噂が耐えなくなって居心地が悪くなったそうで……えっと、その……これからはまじめに働くって誓うので、貴方達の村で働かせてほしいんです。
 なんというか、盗賊の俺を懲らしめるだけじゃなく、俺の復讐にまで協力してもらって……言葉に出来ないくらいに感謝しているから。だから、俺が精一杯働くことで恩返しをしたいんだ。俺、畑仕事なら得意だから、仕事が余っているなら何でもやらせてほしい」
 自分を陥れた保安官を逮捕させ、美人の妻も取り戻したことで心に余裕ができたらしいオオタニは、今までの暗く無気力な表情とは打って変わって、明るくまじめな表情に変わる。
「いいや……ちょっとなぁ・。私は反対です!」
 ここまで来たら賛成するしかないと思った矢先に、レナが真っ先に反対する。
「なんで!? じゃあ俺は村にいらないってこと!?」
 オオタニ自身、村長たちは受け入れてくれるだろうと思っての提案だったため、ものすごく驚き眼を見開きながら理由を尋ねると……
「いや、断ったらどんな反応するかをちょっと試してみたかっただけで……実は賛成です!」
 反応を見て満足したのか、レナは笑顔で言ってのける。
「レナ、そういうの*1いらねーからな!?」
 とぼけた理由で反対をしたレナに、ロウエンは脱力していた。他の皆も当然脱力気味である。とにかく、村長とロウエンは彼のことを歓迎する。村へ帰って報告したら、きっと村人も賛成してくれることだろう。
「しっかし、村長もなんというかとんでもない技術を持っているけれど……その、悪夢を見せる技術ってのはどうやって学んだんだ?」
「あ、私もそれ気になります」
「確かに、俺も気になるな……」
 ロウエン、レナ、オオタニともに、村長の謎の能力が気になって、物欲しそうな目で彼女の事を見る。
「昔取った杵柄という奴よ。私がサザンドラに食われそうになる夢を見せたりとかして、正義感の強い奴をおびき寄せて殺そうとしたり……」
 だが、村長はそう言って悪戯っぽく笑みを浮かべるだけであった。
「村長、あんたいったいどんな人生を送って来たんだ……」
 結局、いつまでたっても彼女の謎は教えてもらえなそうである。


 ともあれ、こうして村にはまた二人の住人が増えた。オオタニは、妻のユウナとともに夫婦で力を合わせて商人たちへの謝罪のために金を稼ぐと誓ったため、償いを済ませる日も遠くはないだろう。



 次……HEAL8,悪夢の幻影

お名前:
  • メロエッタの歌の歌詞はなんか聞いたことあるなと思って考えてみたらそういえば中の人同じでしたねw

    確かにポケダンってどう考えても「はい」という選択肢しかないのにあえて「いいえ」も選択できる場面って多いですよね
    まぁ、寧ろ「いいえ」選んだ方が相手の可愛い反応見れて非常に眼福なんですけどねw(特に超ダン) -- ナス ?
  • 例の歌は、ケルディオの中の人も歌っていたため個人的にはネタ度も高い曲でしたw メロエッタの歌ならあれくらいのことは出来ると思いまして……

    ポケダンのお約束については、それらをふんだんに取り込んで作品を完成させたいと思っています。可愛い反応も含めて、自分が表現出来る限りのも絵を詰め込めるよう頑張ります。
    コメントありがとうございました -- リング
  • アローラの新ポケをいたるところで登場させる、SM発売を記念したような心意気あふれる長編でした。立ちはだかる困難に対して自分たちなりに考え抜き常に成長を続ける主人公サイドを描き切ったのは、ひとえにアローラ御三家への愛情がなせる業でしょうか。ポケダンの世界を踏襲した設定や小ネタも嬉しいところですね。
     ただオシャマリ救出後、開拓村以降のストーリーは中だるみ感が否めません。レナを救ったことでロウエンに対立するキャラが失せ具体的目標も見えなくなり、それからはレナに関する秘密をのろのろと解き明かしていくだけで緊張感が足りなかったように思います。ネッコアラやルナアーラ戦など、印象に残るシーンがもっと欲しかった。敵側に擁護できないレベルの悪役を登場させるなり主人公サイドで仲違いさせるなり、読み手を飽きさせない工夫があると読み進めやすかったのかな、と。 -- 水のミドリ

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*1 ポケダンではどう考えても『はい』を選ぶタイミングで『いいえ』を選べるイベントはよくあること

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Last-modified: 2017-01-03 (火) 11:20:13
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