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HEAL10,黒幕?

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 前……HEAL9,ルナアーラにお願い


 そうして、ヨトが仲間になってからというもの、周囲の状況は劇的に変わっていった。彼女は飛行タイプのポケモンを総動員して、村長をはじめとする夢をつかさどるポケモン達を大きな街へと集めて保護、隔離する。
 それにより、この大陸に生じる幻影たちはほとんど姿を消した。噂を聞いた他の大陸からも保護を求めるポケモンが現れて、その影響で他の大陸でも呼びかけが始まった。クレセリアやダークライ、ギラティナやパルキアといったポケモンが、方法は違えど同じように隔離と保護をすることで、ある程度の秩序は取り戻しつつある。
 しかしながら、夢をつかさどる種族という限られた種族のみが対象とはいえ、それらが重要な役職についている事も多く、またダークライやクレセリアといった伝説のポケモンの中にもそれなりに一般市民の生活に溶け込み、重要な役職についているものもいる。
 それらが隔離のために抜けた穴のおかげで、困っている地域が各地にあるようだ。やはり、根本的な解決をしない限りはどうにもならないが、結局今のところ隔離する以外に事態が収束する気配がなく、ヨトが心配した通り、過激派たちが『いっそのことこのまま奴らを殺してしまえば』……という意見もちらほらと出ている。

 その根本的な解決についてだが、ヨトの呼びかけをきっかけにして世界中のポケモン達が幻影の発生源について調査していた。その過程で原因と思われる場所を見つけたのが、世界中に『目』を散らばらせているジガルデであり、ジガルデの『目』が、人里離れたダンジョン、『虹の根本』の呼ばれる場所の付近で幻影が生まれるところを見たのだという。
 ジガルデは万全を期し、あらかじめパーフェクトフォルムとなってそこに調査に行ったところ、ダンジョンの難易度自体はそれほどでもなく、正気を失ったポケモンにまぎれてポケモンの幻影が襲い掛かってくるくらいでしかなく、パーフェクトフォルムの彼には遊び場のようなものであった。
 だったのだが、進んでいくうちに体中を鈍痛が苛み、体が思うように動かなくなる。それでも進み続けると、重く鈍い痛みは意識をもうろうとさせ、吐き気も生じさせて、これ以上は無理と判断した結果ジガルデは、そのダンジョンから逃げ帰ったという。
 他の伝説のポケモン達や、有名なダンジョニストのチームもそのダンジョンに挑戦したが、癒しに関してはスペシャリストであるゼルネアスや、再生力を持つホウオウでさえも、鈍痛が体を苛み問題の場所への到達は不可能であった。このままではまずいと、世界中の強者たちがダンジョンに挑んだが……結果は芳しくない。
 ロウエンは『どうせ俺達も無駄じゃねーのか?』という調子であったが、レナが『やってみなければわからない』と言い、彼女は『私ならばできる』という不思議な自信があったため、ダメもとで高額の運び屋を雇ってダンジョンに赴いてみると……
「あれ、全然大丈夫ですよ? 何が問題なんでしょうか?」
 唯一問題なかったのは、レナだけであった。周りの者達は鈍痛でダウンする中、レナと、その仲間だけはまるで当然のように鈍痛の影響を受けなかった。
 正確には、レナだけが影響を受けず、レナの近くに行くことで他の者は痛みが和らぐと言ったところか。だが、ロウエン、ナイジャ、ゼントは全く痛みを感じなかったというのに、村長だけは痛みに苛まれ、途中での撤退を余儀なくされてしまう。なぜ仲間だけが影響を受けないのか、村長は何故影響を受けてしまうのか、原因は不明だ。

 ダンジョンの奥へと突き進んでいくとだんだんと景色が風光明媚な景色へと変わっていく。空には常に虹がかかり、足元には清流、周囲の岩には美しい苔が生えた、ゆっくりと見物していきたくなるようなダンジョンだ。だというのに、侵入者を拒む鈍痛だけは尋常じゃないほどに厳しかった。
 結局、ロウエン達はレナを頼りにしながら進むしかなく、伝説のポケモン達の手助けを受けることも出来ないまま、不安な気持ちを抱きつつダンジョンを進むしかなかった。
「しかし、なぜレナの近くにいると平気なんだろうな?」
「私も良くわからないですね……いや、もしかしたら、なんですけれど。こんな時に言うべきではないかもしれませんが、その……私って、人間なんですよ」
「はぁ、人間? おとぎ話によく出てくる奴か? そんなのがいるわけ……」
 突拍子もない話にロウエンは首をかしげるが、ゼントはどうも違うようで……
「おぉ、レナさんは元人間っすか? 俺の知り合いのダイケンキも人間だったんすよ。抱きしめるだけで痛みが和らぐとか、不思議な能力を持っていると思ったっすけれど、そういうことだったんすかね」
 ゼントは、レナの人間だからという説明だけで何もかも納得してしまったようだ。
「いやいや、一人だけ納得されても困るぞ。お嬢ちゃんが人間だとして……それじゃあ、俺達がZ技を使えるようになったのも、人間だからって理由なのか?」
 ナイジャが尋ねると、レナは困った顔をする。
「さあ? 私にも分かりません。ですけれど、人間だという理由だけでそれが出来るのならば、それでいいじゃあないですか」
「そうっすよ。今は深いことを考えても仕方がありませんし、このまま進んでさっさとこの幻影たちをぶっ飛ばすっすよ!」
「俺もゼントのアイデアに賛成だぜ。今はレナが元人間だろうが何だろうが構わねえ。重要なのはその力を有効利用しないと今の状況はどうにもならないってことだ……」
「ま、確かに今人間の能力がどうだとか話し合う時じゃないとはいえ、お前ら本当に脳みそまで筋肉だな……」
 単純明快な答えしか出さない二人にナイジャは苦笑しながら肩をすくめた。
「ところでだ。レナのおかげで発動できるZ技について何だが。あの技、誰かを『守りたい』と思った瞬間に力を貰えるような気がするんだよな……一度目はレナを守るために、二度めと三度目は村長を……守りたいと思った瞬間に使えるようになっていた」
 ロウエンが語る内容に二人も覚えがあるのだろう、自分がZ技を使えた状況の事を思い返す。
「そういえば、俺も盗賊に囲まれた時は、レナを助けなきゃって思った時っすね」
「ヨトとの戦いの最中に俺が発動した時も、村長を助けようと無我夢中だったな。ホッホウ、なるほど、中々ロマンチックな能力じゃあないかい」
 ともに、身に覚えがある程度にはロウエンの言葉にも納得できるようで、二人は笑みを浮かべてあの時の感覚を思い出す。
「自分で言うのもなんですけれど、私の能力って素敵なんですね」
「おうよ、いい事じゃねえか。人を癒すのが得意なレナにふさわしい能力だぜ。人間様様だな」
 レナはロウエンに推測してもらった能力を無邪気に喜び、ロウエンはそれを手放しに喜ぶ。
「そういや村長はZ技を発動したことがなかったっけな……もしかしたらこのダンジョンでレナの恩恵を受けられないのはそれが原因か……?」
「それ、ありえるっすね……村長もZ技を発動できればよかったんですが……だからと言って、危険な戦いに何度も身を投じさせるわけにもいかないっすから難しいところっすね……」
 ゼントは会話をしながらレナの能力は素晴らしいと思い、褒めはしたが、その一方で新たな不安も抱えていた。
(あ、もしかしてこれ……レナが敵の集団に狙われるパターンじゃないっすか?)と。
 ゼントが良く知っている人間もかつて、『世界を滅ぼすことが出来る存在に接近することが出来る』という極めて限定的な能力を持つが故に、万が一を恐れて世界を滅ぼさんとする敵集団から命を狙われたことがある。その命を狙った張本人が、他でもないかつての村長なのだが……今回もそんなことがあるのではないかと内心やきもきしていた。
 だが、今はそんなことを気にしている場合ではないと、結局突き進むしかないのだ。

「ダンジョンの奥まで来ちまったぞ……見ごとに何もないな」
「すごくきれいなところですね。こんな時じゃなかったら泳いでいきたいくらい……」
 結局、ダンジョンの中では大した山場もなく奥地までたどり着いてしまう、しかし、その雄大な景色たるや、他の者がこのダンジョンに入り込めないのが残念な気分になるほどだ。スプーンでケーキをえぐり取ったように鋭利に切り立った崖。その上から膨大な量の水が流れ落ち、それによって生じる水しぶきは天まで届きそうなほど。
 その水しぶきが空に虹をかけ、青い空を美しく彩り、周囲には緑が溢れ、澄んだ水の中には小さな魚が優雅に泳いでいる。ここのどこかに敵がいるのだろうか? 今のところ、何もそれらしい物は見えない。
「ふむ……俺が空から何かないか探してくる。お前達は少し休んでいてくれ」
「おいおい、大丈夫か? ナイジャも休んだ方いいんじゃ?」
「そうっすよ、義足で歩いていたから疲れてるっすよ!」
「俺はお前達の後ろからコソコソ狙撃していただけだ、問題ない。むしろ体張って俺を守ってくれたお前らが休むんだ。レナちゃん、抱きしめてやんなよ」
「はいな! そういうわけでロウエンさん、ゼントさん! 私の不思議な癒しパワーで癒しますよ!」
 レナにそう言われると、ナイジャと一緒に探したほうがいいという意思も薄れてしまう。彼女に抱きしめられるという尊い行為は、他の感情よりも優先されるものなのだ。
 結局、ゼントとロウエンはレナに抱きしめてもらう誘惑に負け、彼女の力によって癒される。ロウエンとゼントは抱きしめられ方にものすごい格差があって、ロウエンに対しては、彼の背中から胴に腕を回して肩に顎を乗っけるほどの密着ぶりなのに、ゼントに対しては手を繋ぐだけである。
 完全に差をつけられたゼントとしては悔しい気持ちはあるものの、ひんやりとした彼女の手からじわじわと疲労が解けていくような感覚が非常に心地よいので、もうそれだけで満足することにした。

「見つけたぞ」
 ナイジャが帰ってくると、ロウエンはいびきを立てながら眠っていた。レナもそんな彼を抱きしめながらまどろんでおり、ゼントはそんな二人を見てどうしたものかと苦笑している。
「何かいたっすか?」
「あれが黒幕かどうかは分からないが……ネッコアラが一人。空間に変な穴が開いている場所の見張りをしているかのように眠っていた……」
「寝てるんだか見張っているんだか……はっきりしてほしいっすね」
「ネッコアラは一生眠ったまま起きることがない種族だ。寝てても見張っているんだ……だが、俺が遠くから見ていたせいか、どうやらこっちに気付いてもいないし、動く様子もないようだし、俺も寝るか……」
「わかったっす、俺が見張りしているから交代で眠るっす」
「……しかしこのいびき。眠れるかな。というか、今更だがレナはどうしてロウエンのいびきを聞きながら寝れるんだ?」
「そりゃ、俺達の村では同じテントで眠ってるっすからね。きっと慣れているっすよ」
「慣れたのか……慣れるのか……これ」
「そんなことよりも、レナの寝相の方がやばいっすからね。少し離れたところで寝たほうがいいっすよ!」
「うむ……そうする」
 結局、ゼントの勧め通りナイジャは少し離れた木の枝の上に立って眠る。やがてレナが目を覚まし、交代でゼントも仮眠をとり、ロウエンとナイジャで小魚や小動物をとってきて軽食を済ませ、先ほどのネッコアラのところへ。緊急を要するほど事態が切迫しているわけでも無いため割とゆっくり休憩を取り、全員体力は全快だ。
 ネッコアラがどれほど強かろうと、やられはしまいと意気込み、ありったけのアイテムを手にしてロウエン達は並び立つ。ナイジャはヨトとの戦いの時と同じく遠くに待機して狙撃の機会をうかがう。
 全員の手には猛撃の種、みな回避玉、吹き飛ばしの枝や混乱の枝など、これまでアイテムに頼らずとも戦ってきたロウエン達も、脱落していったダンジョニストたちからの厚意で譲りうけた道具を手に完全武装だ。
 高級品ばかりだが、出し惜しみはしない。戦闘となれば即座に飲み込むくらいの意気込みで、ロウエン達はネッコアラの前に立つ。そうしてネッコアラと対峙した時、レナは驚いた顔をしていた。
「……私?」
「『私』……ってレナさん、どういうことっすか?」
 レナの意味深な言葉に、ゼントが問う。
「いや、今なんだか私が二人いるような、そんな気がしただけ……ごめんなさい、何でもない」
 違和感はぬぐいきれないが、先ずはそんなことよりも解決するべきことがあると、レナは疑問を切り捨てる。
「じゃあ、やつも……あのネッコアラもなんかもと人間だとかそういうわけありってことか? なぁ、あんた何もんだ? どうして、普通の奴は来ることも出来ないはずのここにいる?」
 レナの気になる発言も含め、ロウエンが挨拶もなしにネッコアラに尋ねる。
「……この世界は、醜い」
「だよな、綺麗なところばっかりじゃあねえし」
「他人をさげすみ、他人を足蹴にし、他人をあざ笑い、そうして生きる者達がいる……醜い世界だ」
「だが、寝たまま言われてもな……そもそもお前、悩みの種でも起きないし、胃液すら効かないって聞いたぞ?」
 ネッコアラの語る言葉にロウエンはいちいちツッコミを入れつつ、しかしながら戦闘を回避できるならそれに越したことはないと話を聞く。
「その通りだ。私は常に眠ったまま……この世界の醜いところなんて見ずに生きてきた。けれど……他人の夢を共有した時、その者達が見る吐き気のするような世界を見て。夢を見たままでは知ることもなかったであろう現実の世界が見えてきたんだ……」
「ちょっと待て、夢を共有したってのはなんだ? それは誰の差し金だ? それをやった奴は誰だ!?」
「生まれてからずっと素晴らしい夢を見ていて、あらゆる苦痛から夢の中に逃げて来た私には、現実がこんなにも不条理なものであることを知らなかった。だから、変えなければいけないと思ったのだ。この世界を、より良いものに!」
「俺の質問に答えろよ。その夢を共有したってのは一体誰の仕業なんだ? それともごく自然に他人の夢と自分の夢を共有していたっていうのかよ!? 言っていることがわけわかんねーぞ!?」
 ロウエンはネッコアラに尋ねるも、しかし彼は都合の悪いものは聞こえないとでも言うかのように、ロウエンの言葉を無視している。話が通じない。
「その方法は、怒りや怨みの感情が生み出す幻影で世界を荒らすことにより、人々が他人から怨みを買うことを恐れ……そして、人から怨みを買う者が優先的に死んでいくように仕向けるという事。お前達も見たことがあるだろう? 幻影が、恨みを買っている者ほど積極的に襲っていることを」
「見たけれど、ありゃろくでもないぜ? なんてったって、俺達はお尋ね者をよく捕まえているんだが、そのせいで逆恨みされてお尋ね者の幻影に襲われるんだ。恨まれる筋合いもないのに、そんなことで襲われるなんて溜まったものじゃねーし!
 なにより、誰が加害者か分からないような空き巣とか、被害者が殺されてしまって犯人が分からずじまいの場合はどうなるんだよ? 誰にも恨まれていないから攻撃されないんじゃねーの? そんな欠陥をどうにかできないようなら、偉そうに語るんじゃねえ!」
 ロウエンがネッコアラに文句を言うと、ネッコアラは流石に困ったように黙ってしまう。
「な……そうだったのか? 逆恨みでもやられてしまう……要検討だな」
「お前世間知らず過ぎだろ? 世の中、善人でも恨むような奴はごまんといるんだよ!」
「だが、そういうのを改善すればこの世界はもっと素晴らしくなるはず。私の偉業を邪魔させるわけにはいかぬ」
「はいはい。邪魔したらどうなるんだい?」
「死んでもらおう」
「あぁ、じゃあいいや。俺達怪我したくねーし、勝手にやってくれよ」
 ネッコアラが明確に戦う意思を見せて身構えると、ロウエンは今までの喧嘩腰の体勢から一転して話の分かる姿勢を見せる。
「そ、そうか……なら構わないが……」
 その態度の変化に、ネッコアラも困惑気味だ。
「よーし、皆! 家に帰るぞ!」
「はい!」
「了解っす!」
 ロウエンが大きな声で呼びかけると、レナもゼントも素直に従う。そのロウエンのあまりに物わかりの良い態度に、違和感を持てるほど彼も世間を知ってはいなかった。踵を返して帰ろうとする際、ロウエンは片手を上げて指を二本立てており……それがナイジャへの合図であるなどと、ネッコアラは思いもしない。
 そんなナイジャの特性は『遠隔』。あらゆる攻撃を遠距離攻撃とすることが出来、ブレイブバードだろうがついばむ攻撃だろうが、遠距離で撃つことが出来る。合図を受けたナイジャは全力で弓を引きしぼり、狙いすませた一撃は音よりも早くロウエンの足を掠めるような位置を通り過ぎ、ネッコアラの脚を貫いた。
「誰がそのまま帰るかバーカ」
 ロウエンはナイジャのリーフブレードが足の傍を通り過ぎた瞬間に踵を返し、胸を貫かれたネッコアラに覆いかぶさり首を握り締める、ついでとばかりに噛みつかれる。脳に血流がいきわたらなくなれば、夢すら見ないような深い眠りに落ちるだろう。とりあえず、このネッコアラが何者かは分からないが、生け捕りにして連れて帰れば伝説のポケモン達が何とかしてくれるだろう。
 だが、ここにきてようやく状況を理解したネッコアラも黙ってやられるつもりはないらしく、ロウエンに首を絞められながら噛みつかれても、気合で幻影を呼び出した。
 ネッコアラが天に手をかざすと、空間の穴からまばゆい光が漏れる。呼び出された敵は、全体的に黄色い色をした、派手なトサカが特徴的なポケモン。腕はひどく細いが、腕の先端は盾のような仮面のような殻が付いており、防御は割と堅そうだ。バチバチと静電気が漏れ出していることから、電気タイプだろう。
 同じく、木の実を横に割ったような殻の下側に下半身を隠し、上部は帽子のように被っている桃色んポケモン。まるで人型グループの少女のようなその外見は、とても可愛らしいのだがすさまじい力を感じる。
 真っ赤な頭部に立派な角を付けたポケモンは、下半身こそベルの付いた尻尾しかないが、上半身は筋骨たくましく見るからに怪力そうだ。木の匂いがすることから、草タイプであろうか?
 そして、最後に青いヒレを体の所々に纏うポケモン。これまた人型グループのポケモンのような体型の者が貝殻のような殻の中に入っており、水の匂いがすることから考えると、水タイプであろうか。
「これは、北にある常夏の島国の守り神とされているポケモンっす! 一度木の像を作ったから覚えてるっす」
「でも、ここから見ると南東の国じゃなくって? どこから見て北国なんですか!?」
 ゼントが大声で注意喚起すると、レナはどうでもいい事を訪ねて、皆を呆れさせる。
「正確な地理なんぞ今はどうでもいい! もっとタイプとか名前とか分からんのか!?」
「今レナさんに襲い掛かっているのが……カプ・コケコとカプ・ブルル! こいつら全員フェアリーがついていて……コケコが電気、ブルルが草っす!」
 ゼントが解説している間にもカプ・コケコがワイルドボルトでレナを襲う。ロウエンはレナの代わりにワイルドボルトを真っ向から受け止め、勢いが弱まったところでその細腕をひねり壊す。カプ・コケコの腕の先についた殻は内側が凹んでおり、縦に十分な長さを持っている。そのため、内側を掴んでハンドルを回すように捻ってしまえば、腕の関節や肩の関節をひねり壊すのは容易というわけだ。
「それで、桃色のがカプ・テテフ! 青いのがカプ・レヒレ! エスパーと水タイプっす! なんて言っている間に一人やってるし……」











 関節をひねり壊されたカプ・コケコはもはや、腕が痛くて動くことも出来ないだろう。ロウエンはカプ・コケコの腕を極めている隙に熱湯を浴びせかけて来たカプ・レヒレの方へと向き直って襲い掛かる。
 レナはカプ、ブルルのウッドハンマーを嫌がりアクアジェットで逃げて、ゼントにサイコキネシスで攻撃しているカプ・テテフを後ろから攻撃する。その攻撃というのも、カプ・テテフに後ろから抱き付いたまま耳元でハイパーボイスをするという、中々にえぐい技である。うたかたのアリアは周囲を攻撃してしまう技であり、この場で使うには危険すぎるためにハイパーボイスを使うという判断だが、その判断は正しかったようだ。
 レナから至近距離で大声を出されたカプ・テテフは一瞬だけ意識を失う。これが、生きた生身のポケモンだったらレナも酷いことは出来ないが、所詮は幻影なのだからと、レナも大胆な行動に出る。レナはカプ・テテフの大きなくりくりした目玉を思いっきり指で引き裂いた。
 それを終えたレナは逆立ちして尾びれでカプ・テテフの後頭部を叩き、迫って来たカプ・ブルルから逃げるべく、振り返りもせずにアクアジェット。十分な距離をとったうえでレナが振り返ってみると、ナイジャの羽がカプ・ブルルを穿っている。
 それでもかまわずカプ・ブルルは追ってくるが、レナがアクアジェットで優雅に逃げると、それに合わせてナイジャが矢継ぎ早に羽を放つ。みればカプ・コケコは影をめった刺しにされて息絶え、消え去っているし、カプ・レヒレはロウエンの相手をしている間に後ろからゼント鉄骨で殴られてそのまま消えてしまった。
 どうやらゼントは隙を見て猛撃の種を飲んでいたらしく、いつも以上に筋肉が張っている。その状況で後頭部を鉄骨で叩かれれば痛いではすむまい。
 あとは目を傷つけられ抵抗の術を封じられたカプ・テテフと半死半生のカプ・ブルルのみ。カプ・テテフはロウエンの蹴りと踏みつけで消えて、カプ・ブルルはいい加減追いかけっこにも飽きてしまったレナのムーンフォースで消滅する。
「ふう……流石に幻影でも守り神だなんて呼ばれるだけあってつええな」
 ロウエンはワイルドボルトと熱湯を喰らって傷はついたが、それでもまだ猛火が発動するほどではなく、やれやれとばかりに座り込む。Z技を使わずに済んだことを考えれば、ルナアーラを相手にする方がよっぽど大変だっただろうか。

「ともかく、休んだらこのネッコアラを縛って連れて帰ろう、これで事態が収束したら、俺達が英雄だぜ」
「そう簡単に行くといいですけれどねぇ……」
「そういえば、空間に開いていたいつの間にか穴が消えているっすね……確かに、これで何とかなったっすか?」 
 こんな簡単に終わってしまうものなのかと、一抹の不安は覚えるものの、今回のことは何らかの手掛かりになるはずだ。
「確かにそうだよなぁ。ネッコアラの奴、俺の都合の悪い質問は答えてくれなかったし……夢を共有したとかって言葉は一体何だったんだ? 誰の仕業だ? いくらなんでも頭が悪すぎるし、もしかして……というか、もしかしなくっても捨て駒かなんかっぽさがあるよな。一時しのぎは出来そうだけれど、正直これで終わるのかどうか……」
「まぁ、考えても分かりませんし、一旦休んでから帰りましょう。ナイジャさんと私は無傷ですし、私たちが見張りをしますから、お二人は寝ていてください」
「おう、頼むぜ。ついでに俺を抱きしめておいてくれ。痛みが和らぐ」
「……レナさんがいてくれると、前衛やっていてよかったって思えるっすよ。傷ついたら抱きしめてもらえるっすから」
 結局、遠くにいたナイジャが会話に参加する前に、ロウエンとゼントは横になってしまう。そうして見張っているうちに、二人が静かに寝息を立てたところで、レナはナイジャを誘って、盗み聞きされない程度の距離を置いて少しだけ話しをする。

「あの、ナイジャさん。こんな時に相談することじゃないかもしれないですけれど……私って、誰のことを好きに見えますかね?」
「お前は……どう見てもロウエンが好きだろ?」
 レナの質問に答えるときのナイジャの顔は、『お前は何を言っているんだ?』と言わんばかりである。
「寝るときもいつも一緒だし、痛みを和らげるためだとかで抱きしめるときの態度も全く違う。むしろそれで他の誰かが好きだったら、照れ隠しにしたって正気を疑うぞ?」
 ナイジャの率直な感想を聞いて、レナは安心したようにうなずく。
「そうですよね、そうですよねぇ……いや、私、もしかしてロウエンさんが私の好意に気付いていないのは、私が原因かと思いまして……」
「いや、いくら鈍くても気付くだろう? こいつは頭が悪いと自称しているが、壊滅的に頭が悪いわけではないし……だが、性格も陽気でお調子者なところはあるが、少々まじめすぎるきらいがあるな。こいつ……そうだ、そういうことか」
 ロウエンの事を語っているうちに、ナイジャは何かに気付いたのか、一人納得する。
「こいつ、俺達がへこんでいる時は容赦なく『もっと元気出せよ』みたいな事を言うくせに、自分は自分から幸せになろうとしないところがあるからな……思えばレナ。お前を助けた時も、ロウエンはお前に迷惑をかけたくないからと、自分はお尋ね者になりながら逃亡生活を送る覚悟をしていた。
 ロウエンは他人の不幸は見過ごせないが自分が不幸になるのは構わないっていうスタンスなんだよ。こいつ、心に闇を抱え過ぎだろ……自分から幸せになりたいっていう意欲が低いから、お前からの好意に素直に応えられないし、どう応えていいかわからないんだ。
 私も損等に対してそういう負い目があるから分からんでもないが……」
「あぁ、ロウエンさん、子供の頃に食料を奪って間接的に殺しちゃった子供のこと、今でも気にしているみたいでして……その、自分が幸せになっちゃいけない、みたいな感じの想いがあるみたいですね……それが原因なのかな」
「全く、頭の固い奴だ。いい男なのに、一番大事な魅力がない」
「あら、ナイジャさんも、ロウエンさんが良い男だって思うんですか?」
「……まあな。あいつの故郷に潜り込んでアイツの話をいろいろ聞いたりしていれば、自然と評価も上がるし……お前と久しぶりに会って、お前さんが元気な姿を見た時から、良い男だと思っていたよ。あいつは、きっちりとお前を癒して、立派に育てたんだなって思うと、感慨深いし。傷ついた女をきっちり癒してくれる……体を張って前衛を申し出て、積極的に戦ってくれる。そんないい男は中々いないぜ?」
「そうですよね。私も、ロウエンさんには感謝してもしきれません。それに、ロウエンさんは村長のことや、オオタニっていうナゲツケサルの男性も励まして、心の傷を患っているのを癒そうとしてくれましたし……彼の前向きな発言は、なんというかちょっと元気になるんですよね。
 人によっては傷が悪化しそうですけれど……多分なんですけれど、そういう人に対しては本能的に励ましたら逆効果だって感じて避けている感じもするんですが……恋の悩みとかの話題の人には、腫物を触るように当たり障りのない事しか言わないですし」
「色恋沙汰は苦手……か」
 そうだろうなとナイジャは笑う。
「レナは抱きしめるだけで誰かを癒す力があるみたいだが、こいつもこいつで、誰かを癒したり誰かを守るために、自分をいくらでも投げだすだけの行動力がある。こいつと出会った時、俺はお嬢ちゃんを……レナを癒してやれって言ったが、それ以上のことをやってのけていたんだなぁ」
「しかも、ロウエンさんは狙ってやったような感じじゃなく、なんというか無自覚に人を励ましている感じなんですよね」
 レナが笑顔でロウエンを自慢すると、ナイジャは口元を抑えてクツクツと笑う。
「ホッホウ、良い男だ! 本当に良い男じゃないか! こんな良い男ほかにいない! ……だってのに、自分の幸せは素直に喜べない。もったいないやっちゃなぁ……
 おい、レナ。こんな時になんだけれど、もしお前がその気なら、ロウエンを幸せにするために協力するぞ。今のこいつには、魅力が足りない。自分自身が幸せになるっていうことが魅力になるって気付いていないんだ。ロウエンをより良い男にするために、こいつを幸せにしたいとは思わないか、レナ?」
「ですよね。ロウエンさん、他人が幸せだと喜ぶくせに、自分が幸せだと誰かが喜ぶってことをいまいち理解していないようですし」
「じゃあ、このネッコアラを引き渡したら……一度ロウエンを拉致して迫るぞ」
「はい!」
 ロウエンのいないところで、何やら危険な計画がスタートする。そんなことを知る由もなく、ロウエンは大きないびきを立てながら大の字になって眠っているのであった。

 次……HEAL11,一夫多妻制

お名前:
  • メロエッタの歌の歌詞はなんか聞いたことあるなと思って考えてみたらそういえば中の人同じでしたねw

    確かにポケダンってどう考えても「はい」という選択肢しかないのにあえて「いいえ」も選択できる場面って多いですよね
    まぁ、寧ろ「いいえ」選んだ方が相手の可愛い反応見れて非常に眼福なんですけどねw(特に超ダン) -- ナス ?
  • 例の歌は、ケルディオの中の人も歌っていたため個人的にはネタ度も高い曲でしたw メロエッタの歌ならあれくらいのことは出来ると思いまして……

    ポケダンのお約束については、それらをふんだんに取り込んで作品を完成させたいと思っています。可愛い反応も含めて、自分が表現出来る限りのも絵を詰め込めるよう頑張ります。
    コメントありがとうございました -- リング
  • アローラの新ポケをいたるところで登場させる、SM発売を記念したような心意気あふれる長編でした。立ちはだかる困難に対して自分たちなりに考え抜き常に成長を続ける主人公サイドを描き切ったのは、ひとえにアローラ御三家への愛情がなせる業でしょうか。ポケダンの世界を踏襲した設定や小ネタも嬉しいところですね。
     ただオシャマリ救出後、開拓村以降のストーリーは中だるみ感が否めません。レナを救ったことでロウエンに対立するキャラが失せ具体的目標も見えなくなり、それからはレナに関する秘密をのろのろと解き明かしていくだけで緊張感が足りなかったように思います。ネッコアラやルナアーラ戦など、印象に残るシーンがもっと欲しかった。敵側に擁護できないレベルの悪役を登場させるなり主人公サイドで仲違いさせるなり、読み手を飽きさせない工夫があると読み進めやすかったのかな、と。 -- 水のミドリ

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Last-modified: 2017-01-03 (火) 11:45:41
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