ポケモン小説wiki
願い 02

/願い 02

作者 - ティア


「......へくちゅっ! ...うぅ、流石にちょっと寒かったか。ジラーチ様は...あれ、居ない!? ど、どこ行ったの!!?」

 お腹辺りに居たジラーチ様が居なくて、私は慌てて飛び起きて辺りを見渡す。まさか寝相悪くて落ちたや、もしかしてさらわれたかとか、色んな事が頭を過る。けど、そんな時に呆れたような声で真上から声が聞こえて、恐る恐る顔を上げてみると...。

「はぁ、今回の人はちょっと抜けている人みたいだね。こんな危ない所で寝ちゃうなんて」

 朝日を浴びて、頭にある短冊のような物が爽やかな朝風に揺られてキラキラと光る。寝る前に比べると、だいぶ落ち着いた印象を持つけれど、間違いなくあの時に目覚めたジラーチ様が空に浮かんで、私の事を見下ろしていた。

「あ、おはよう御座います」
「うん、おはよ。えっと、勢いで抜けた人とか言っちゃったけどゴメンね。僕の名前は言わずと分かると思うけどジラーチ、またの名をルイン。キュウコンさんの名前は?」
「わ、私の名前はフレアと申します。きょ、今日から一週間の間は宜しくお願い致します!」
「別にかしこまんなくてイイよ。まぁ取り敢えず、宜しくね。早速だけど...場所を移しながら何があったか教えてもらおうかな。先代のフィルさんから君までの間で起きた事を」
「はい!」

 それから私とジラーチ様、ルイン様は山脈を抜けながら起きた事を忠実に私はルイン様に伝えた。一通り伝え終えた頃、ルイン様が放った一言は「特に大事無しって事だね」と一言で纏められて、先代の更に先代に起きていた事を逆に聞くととなった。聞いてみると確かに、私の世代で起きた事と比べれば色々あって、かなりの被害が起きていたことは頷けた。
 けど最後にルイン様は「平和なのは良い事なんだ」と言って、昔の話を締めくくった。確かに、災いが有るよりは無い方が遥かに良い事は分かってる。分かってるけど...言う事が無いみたいな感じになると、私が生きてた意味って何なんだろって思えてきてしまう...。

「ねぇねぇ」
「な、何でしょうかルイン様?」
「その、左手首に巻いてるそれって何? スカーフ?」
「コレですか? 人間様から頂いたものです。どうやら私がルイン様、ジラーチ様に関連する者と分かったようで、コレを授けて下さったんです。宜しかったお付けしますか?」
「えっ、いいの?」
「はいっ、きっとお似合いかと思います。そうしたら...後ろを向いて頂けます?」

 私は引っ掛けに対して爪を押し当てて外し、ルイン様の首に軽くあてがった。スカーフと言っても、人間様の間ではホックという引掛けをスカーフに縫い付けて、着脱を簡単にしたものらしい。でも簡単なのに揺れとか、動きには強くて外れない。本当に不思議でたまらない。
 さてと、ルイン様だと...一番下から一つ上ね。何か妙にしっくり合うけど...気のせいよね。えーと最後に硬いところに当たらないように若干の調整を入れてと...。

「よし出来た。うんうん、中々に似合ってますよ!」
「...うん、気に入ったよコレ。デザインも夜空のような淡い青色をしていて、三日月と流星のような模様が描かれてるし」
「まさにジラーチ様をイメージしているかのようですね。うーん...ルイン様、そのスカーフあげます」
「...良いの? 元々は君にあげた物じゃ?」
「はい、そんなに似合っているなら是非とも。...それに、私の代でルイン様のお世話や出来事をお話するキュウコン族は絶滅へと確実に向かっていますから」
「...話しは先代から聞いてるよ。聞くところによると、新たな子を産みにくい体質だとか」
「はい。ともかくそんな事情で、どうしようかと一族で考えて行動した結果は、時渡りを致しますセレビィ様にお役目を託しました。名残惜しいところもありますが、コレで良かったんだと思ってます」
「セレビィ...ね。どう交渉したのかとか気になるところだけど、聞かないでおくよ」
「お、お気遣い感謝致します...」
「...その感じだと、言えないなんかあったんだね。とりあえず今は今、決められた運命には逆らう事なんて出来ない。実を言うと、とはいえ成功するか分からないけど...僕は願いを受け入れて叶える力を持ってる。流石に死んだ人を蘇らせては無理だけどね」
「そう、ですよね...」

 流石にそれは無理ですよね...それが出来たなら、世の中の法則が乱れて大変な事になる。

「もしかして、何か願い事とかあった? 人や時代に干渉外なら叶える事は出来ると思うよ」
「...いえ、大丈夫です。さてルイン様、昔よりだいぶ居なくなってしまいましたが...人里に行きますか?」
「うーん、今回は良いかなぁ...色々と世界を見たい気分なんだよね。なんかある? 例えば今から700年前に起きた大規模な山火事跡や、あとは隕石落下で地形変動が起きたところとか」
「えっと...そこに行くとしましたら、それだけで五日程掛かりますが...宜しいですか?」
「良いよ、長旅とかした事が無かったから楽しみだよ。それに色んな景色が見れそうだしねっ!」
「っ!! そ、そうですね///」

 あー、やばいやばいやばい。その軽く首を傾けながらのスマイルが可愛すぎてやばい。そんな趣味は無かったはずなのに、何でこんなにも愛おしくて、可愛いの...。

「あれ、どうしたの? なんか顔が赤い気がするんだけど...もしかして、寒さで風邪でも引いた?」
「そ、そんなことは無いですよっ。日が出て来て熱くなってきたなーっと。 それよりルイン様、そろそろ向かいますので私の背中にお乗り下さい。乗り心地はあまり良いとは言えませんが...」
「乗せてもらうのに文句なんか言わないよ。じゃあ、お願いするよ?」
「任せて下さい!」

 ルイン様の問いに私は頷いて答え、最初の勢いは控えめに山道を駆け抜けていく。夜露で若干足元が滑りそうになるけれど、気が付かない程度に姿勢を保って誤魔化した。コレでも運動神経は良い方だったりする。
 因みに先代は有名な俊足の持ち主で、その足で色んな場所に赴いては情報収集をしていて、まだ私が幼いロコンの時に、寝たふりをして先代の四足の動き、身体の動きを盗み感じていた。本来なら私にも子供が居て、同じようにしていた筈なのに...私の身体に起きる不幸で子を授かれなかった。

「あはは、速い速い! ちょっとヒンヤリするけど風がすごく気持ちいい! ねぇ、もうちょっと飛ばせたりって...する?」
「...あ、はい? 何か仰りました?」
「えっと、もう少し飛ばせるかなって」
「行けますけど...揺れますよ? それに危ないのでしっかりと掴まっててくれないと...ふぇ?」
「掴まれば良いんでしょ?」
「それで大丈夫なら...。ですが、誤って首を絞めないようにお願いしますね?」
「うん、分かったよ」
「では...行きます!」

 身体全体で首元に抱きつき、更に顔までぺったりくっつけてルイン様は受け答えする。それに、このやり方は...私が先代にやってた事と一緒...。感覚的にホントにそれで大丈夫なのと不安になる...そっか、先代も何度か必要以上に問いかけて来たのは不安だからだったんだ。



 しかもなんだろう、ルイン様とお会いして、話してから心が詰まる思いがする。もしかして私...子供が居なくて寂しかった?

 気にしてなかっただけで本当は、気が付かない振りをしていて、そして無理なんだと諦めてただけ?

 そんな、まさか。この事はとっくに泣き疲れるくらい泣いて、諦めが付いてた筈。それなのになんで、なんでこんなに胸が締め付けられるの...?



トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2017-12-01 (金) 02:53:02
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.