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願い 03

/願い 03

 今日を入れて残りあと六日。今日の目的は日没までに隕石の落下で地形変動が起きた場所まで向かう事。別にそれは天候が悪くならなければ問題無く出来る...が、今私は何かに後ろから追いかけられている。ルイン様は全く気が付いてないようだけれど、確実に何かに後を付けられている。
 何が目的なのか分からないけれど、立ち止まったら駄目な気がする。それにコチラは中々に息が上がり始めたのに対し、追う側は変わらずのペースで...いや、私がペースダウンしても一定の距離を維持して来る。

「はぁ...はぁ.........」
「...ねぇ、そろそろ疲れてきたのなら休んだらどう? そこまで無理して回る必要ないし、次に目覚める時に見る事だって出来るし」
「い、いぇ...大丈夫、です。少し己の限界を知りたく...はぁ、はぁ...知りたく追い込んでる、だけなので...」
「...そっか、なら止めないよ」

 私の言葉を信じてか、ルイン様は掴まり立ちするのをやめて、座り込んだ。そう思えば起きてからお日様が真上になりつつ成りつつある時間で、走り続けているだけだから会話もしていない。飽きているのは凄く分かる、分かるけれどこの状況を打破しないとどうする事も出来ない。何処かで巻ければ良いのだけど...

「はぁ...はぁ...はぁ.........」
「...あのさ。心配させなくない気持ちは分かるけどさ、だんまりなのはどうなのかなって、思うのだけど。今さ、何かに追われてるんでしょ。誤魔化したってそれくらい僕にも分かるよ」
「へっ? し、知ってたげほっ! 知ってた、のですか?」

 私はその言葉に唐突に足を止め、ルイン様に振り返った。その時に少し走りすぎの結果、喉に何か突っ掛って咽るけれど、まだ身体は動かせられる。それに私を追いかけた相手は私が止まった事に気が付いて何処かに身を潜めていた。それに少し落ち着かせたら、追いかけてくる相手がどんな人物なのかだいたい予測が出来た。これほどの身体能力を持ち、且つアサシンのように絶好のチャンスが訪れるまで危害を加えない。このやり方に関して私は何処かで噂話として聞いたようなきがしていたから。
 確かコレは...

「.........さっきから追いかけてきてるの、風のウワサになっていたアブソル、そうなんでしょ。隠れてないで出てらっしゃい」

 アブソル。頭に大きな釜を持ち、人間より災いポケモンとされた悲しき名を持つ者。けど本当は災いを知らせる為に山里に降りたが、言葉が伝わらないまま災害が訪れ、それが何回も起きて災いポケモンとされてしまっている。そして今は...本当に災いポケモンとなってしまった。
 そんな彼を、私は強めの口調で呼び出した。当然ルイン様に何か起きないよう、最新の注意を張り巡らして。それにルイン様を傷つけよう物なら、私はこの身をもって全力で護る覚悟は出来ている。まるで我が子を護るかのように。

「.........ほう、まさか俺の事を知っているとはなキュウコン。いや、今は時の伝達者と訂正するべきか?」
「やっぱり、貴方なのね。追ってきたって事は何か用がある筈よね」
「おうおう睨むな。別に手出しする気はねぇよ。まぁ、場合によっちゃ手は出すがな?」
「...何が目的よ」
「目的か? 目的はただ一つ...ジラーチ。お前の背中に居るソイツに用がある」
「...貴方には関係ない事よ。それにジラーチ様には近付けさせない」
「ひゅー、カッコイイねぇ? けど、その口がいつまで持つか...見ものだなぁ?」

 コイツ、私を煽って...けど、それに乗ったら相手のツボ。どうにかしてここから離れなければならない。乗せながら走る? でもそれじゃトップスピードは出せない。かと言って別々にするのは危険...いったい、どうすれば。

「...なにコイツ。僕はこんな人は知らないし、反応を見るに友好的でも無さそうだね。それに僕が目的と言うならば、なにか願い事を叶えてほしい...そんなところだよね?」
「おう、そうだ。そこの女と違って話が早くて助かるなぁ?」

『...ル、ルイン様? 別にこんな奴の願いなんて...』
『...いや、叶えないよ。叶えたように仕向けるだけ。その後はオサラバだよ』
『け、けどそれだと逆に...』

「おいおい、なにコソコソ喋ってやがる。どうなんだ、叶えるのか? 叶えねぇのか?」
「...叶えるよ。その代わり、僕やこの人に手出しはしないで。それが出来ないのなら叶える事はしない」
「はは、良いだろう。その代わり願いを叶えろよ? 叶えてなかったら直ぐにでも分かるからな」
「...分かった。じゃあ、君の願いは何? 僕の力を使って何を願い、何を叶えたいの?」
「そんなの簡単な事だ。災いポケモンの汚名を無くし、付けさせた人類を感服無きにひれ伏せさる事だ」
「じ、人類をひれ伏せさせる? だったらその汚名を無かった事にすれば良いだけじゃない!!」

 アブソルの願いに、私は大声で反論を言い放つ。自分でもこんな大声が出せるとは、思ってなかった程に。その声にルイン様は少し後ずさり、アブソルに至っては、少し真顔を後にどんどん顔が怖い顔になっていき...

「黙れっ! 俺達アブソル族がそれでどれだけ辛い思いをしたか分かってるのか!?」
「...そんなの、知らないわよ。けどこれだけは言える。汚名の濡衣を着せられた後、なぜ本当に暴れたのよ。アレが無ければ少なからず信じてくれた人も居たは...ひっ!?」
「...それ以上の事を言ってみろ。言った瞬間にお前の首と胴体がお別れを告げるぞ」
「くっ.........」
「待って! もしその子を傷付けるなら願いは叶えないよ。脅されたって叶える気は無い」
「...ほーう、なら願いを叶えなければこの女は殺す」
「ル、ルイン様...私など構わず...。それに、こんな奴の願いなんて叶える必要なんか無いわ!」
「黙れ小娘! っで、どうする。答えはYesかNoの二択だ」
「.........分かった。君の願い、願ってみる。だけど君達という一族が世界の法則として絡んでいた場合、僕の力じゃ解けない。当然の如く、叶えるとなれば全力でやるけれど、失敗もあり得る事には覚悟して。さぁ、その人を離して」
「...ちっ、ほらよ。コレで良いか?」

 ルイン様の言葉に、私の首に当てがられた鎌を下ろして拘束を解いた。その後は直ぐに私はルイン様の真横に駆け寄り、姿勢を低くしてアブソルへと向き直す。だけどその様子を見たルイン様は...

「これ以上は刺激させない方が良いよ。願いを叶えてくるだけだし、流石に僕を傷付けようとはしない筈だから大丈夫。 ...さてアブソル、君の願いをもう一度聞くよ。僕の力を使って何を願い、何を叶えたいの?」
「俺の願いは、俺達の種族に付けられた災いポケモンの汚名を無くしてほしい。そして、付けさせた人類を感服無きにひれ伏せさる事だ」
「...分かった」

 ルイン様はアブソルの願いを静かに聞き、聞き終えた後に頭にある三つの短冊のような物を青白く光らせ、ふわりと地上から十メートル程の高さまで浮遊する。浮遊後は風が吹いていないのに短冊のような物と羽衣のような物がふわふわと浮かびなびかせ、両目は閉じられ、両手は祈るように合わされていた。
 その状態から僅か数秒後、今度は緑色のキラキラとした光がルイン様に向かって集まってる事に気が付いた。正直、もう少し早く終わるかと思っていたけれど、意外と待つとは思わなかった。それはアブソルも同じ事だったらしく、頻りに私とルイン様を交互に見てきた。そしてその顔は表現がし難い難しい顔をしていた。たぶん見られている私の顔も。
 そんな事を考えていると「な、長い...」とアブソルが一言。私もその言葉には流石に「遅い...」と相槌を返した。その時、



 ガッシャーーーーン!!



 急に何かが割れるような爆音が響き、何事かと思ったらルイン様が地面に向かって落ちている所...私は慌ててその下に駆け寄り、受け止めた。その後にアブソルも結果を知りたいのか、それともルイン様を心配してなのか、私の真横にいつの間にかに立っていたが、間を置いて放った一言に私はアブソルを睨む事になった。

「...おい、願いは叶えられたのか」
「あの、常識としてこの状態で聞くことじゃないでしょ! ルイン様! ルイン様、大丈夫ですか!?」
「げほっ! ...うぅ、なんとか...ね」
「よ、良かった...って、まだ動いちゃダメです!」

 私に抱えられたまま、少し口籠った後に弱々しく、けれどハッキリと聞き取る事が出来た。それよりも、取り敢えず外的怪我が特に無く意識がある事に私は安堵の息を漏らす。
 けど、漏らした直後にルイン様は私の腕から離れて、

「それにしても...まさかの全否定されるなんて...」
「...ぜ、全否定だと? おい、説明しろ!」
「お、大声出さなくても...聞こえてる...。君の願いだけど...君が持つ汚名は概念の存在に...なってた...。 人間は...憎い者。何かに罪を擦り付けないと...生きていけない心の弱い...生き物だよ...」

 弱い生き物...確かに、そうかも知れない。壊そうと思えば、私達と違って簡単に砕け散ってしまう。それに擦り付けないと生きて生きない...その言葉は、なんとなく良く分かるような気もする.........



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Last-modified: 2017-12-09 (土) 14:16:28
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