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野良ポケモンの育成事情

/野良ポケモンの育成事情

writer is 双牙連刃

前話を書き終わってからすぐに書き出し、まさかの二日で纏めてしまった五話でございます。短めです。
今回でメインとなるキャラが全て顔見せとなります。これ以降は、内容を充実したものにしていきたいものです。
ではでは、新・光の日々第五話、お楽しみ頂ければ幸いです。



 町ん中はやっぱり落ち着かないぜ。ポケモンだけでウロウロするもんじゃねぇよな。
俺は今、ある場所へ向かう為に家を出てる。まぁ、一匹じゃねぇけど。
背中にはリィがいつものように乗っている。っていうか、リィがある場所に行きたいってんで俺が付き合ってる感じなのさね。
はぁ~、やっぱりポケモンだけじゃどうしても目立つよな。おまけにイーブイとサンダース、どっちもあまりそこいらに居るポケモンじゃない。余計に目立つのは仕方ないか。

「リィ、ちょっとばかし早足で町抜けるぜ」
「分かった。……周りの人達、ボール投げてきたりしないよね?」
「しないとは思うが、どっかの馬鹿がしてこないとも限らん。さっさと抜けるに限るだろ」

 ここ、アキヨタウンは、トレーナーがポケモンを出していても基本的には問題無い。なんでも、ポケモンとの新たな共存の形を模索するって大袈裟な事を町のテーマにする為に、そんな事をするようになったんだとさ。
ま、俺にはそんなの関係ねぇ。野良でも平然と町中を歩ける、俺にとって大事なのはその事だけさ。
が……どうにも馬鹿は何処にでも居るようだ。俺達の事を見つけてこっちに向かってきてる奴が居る。腰にはモンスターボールか、間違い無くトレーナーだな。

「あれぇ!? イーブイとサンダースだ! おぉ~、始めて見た!」
「そうかい。俺達は急いでるんだ、構わないでくれ」
「そんなぁ~、君達のトレーナーは? 一度バトルしてみたいんだけどなぁ」

 ちっ、こっちは迷惑極まりないっての。大方、この町に旅してきた奴なんだろうな。やれやれ、鬱陶しいったらありゃしねぇ。
どうすっかな? 面倒だし、とっとと目的の場所にも向かいたい。そもそもこんなところで俺が戦ったら、間違いなく警察だのなんだのが来て、俺が野良だってバレる。
戦わずにこの場を離脱する方法。そんなの一つしかないわな。

「ん? おい、お前の後ろの奴は誰だ?」
「え?」
「リィ、しっかり掴まってろよ」
「え? うん」

 脚に力を込めて、一気に地面を蹴る。周りは幸いにも民家しかない。これなら……なんとかなる。
よし、着地っと。ふぃ~、しっかり見える青空は気持ちが良いやねぇ。

「び、びっくりしたぁ……」
「すまねぇな。あいつを振り切るにはこれが一番てっとり早そうだったんだ」

 まぁ、突然他所の家の屋根まで跳んだら、そりゃ誰でも驚くわな。本当なら誰にも見せない力だが、リィなら別にいいだろう。
下では、さっき俺に話し掛けてきたトレーナーが辺りをキョロキョロしてやがる。ま、屋根の上まで跳ぶ事が出来るサンダースなんて居るとは思えないだろうさね。
こりゃ、リィを乗っけてるから普通に道を歩いてたが、このまま屋根伝いに町から出たほうが良さそうだな。やれやれ、面倒は尽きてくれないもんだぜ。

「リィ、このまま屋根の上を跳んでいく。おっこちないように気をつけろよ?」
「頑張るけど……て、手加減してよ?」
「分かってるって。行くぜ」

 下の影が誰かの上を通ったり見られたりするといけないから、こっちはこっちで面倒だな。まぁいい、行ってみるとするかね。
とんとんとーんと。うっし、町からの脱出成功ー。俺達が目指してるのは出会った林なのだよ。そこには、あいつらが居る筈だからな。
……しかし、帰りも同じ方法で帰るとなると面倒っちゃあ面倒か。いや、登るのじゃなくて下の注意をするのが、だけどな。

「よっと。やれやれ、ここまで来るのも一苦労だぜ」
「ごめんね、ライト。でも、ちゃんと言わないといけないと思ったんだ」
「いいさね、他の奴じゃあこれは付き合ってやれないからな」

 野生のポケモンへこっちから会いに行くなんて、トレーナー付きの奴にゃあちと荷が重いっしょ。
そう、あのグラエナ親子のところに詫びを入れに行くって訳さね。ちょいと聞かれたんで、野生のルールなんかをリィに教えたんよ。
で、自分が知らなかったとはいえ、あいつ等に迷惑を掛けた事を謝りたいって言い出したのがこの二匹散歩の始まりってぇ事さ。
大体の位置は覚えてるから、さほど迷わないで行ける筈だ。しっかし、どんな反応されるかねぇ?
ここからは自分で歩くって事なんで、俺がナビしながら林の中を進む。変わりは……無いようだな。
確かこの辺りだった筈。あぁ、あのオレンの木にも見覚えがある。どうやら到着、だな。

「……よぉ、久々だな」
「何が来るかと思ったら、あの時のサンダースとイーブイのおチビさんかい?」

 隠れるのは上手いんだよな。前も、リィを助ける為に割って入るまで居る位置特定出来なかったし。
こっちが敵意を向けてないからか、すんなりと姿を現したな。あの時のグラエナだ。おっと、チビ二匹も居たか。

「なんでまたここに来たんだい? ここがあたし等の縄張りだってのは、あんた知ってるだろぅ?」
「こいつがあんた等にどうしても言いたい事があるってんで案内したんだよ。ほれ、リィ」
「えと、あの時は知らずにここに入っちゃってごめんなさい。僕、いけない事しちゃったんだよね」

 おー、見事にキョトンとしちまったよ。そりゃ、んな事言いに来た奴なんか今まで居なかっただろうから、当然っちゃあ当然だな。

「えーっと、事情、聞いてもいいかい?」
「まぁ、聞きたいわな。今から説明してやるよ」
「て、てやぁ!」

 っと、なんだ? いきなりチビの一匹が体当たりしてきやがったぞ?
避けるのは簡単だが、まぁ、頭軽く抑えてやればチビが怪我する事も無いか。

「ふにゅ!?」
「どうしたってよいきなし?」
「こ、今度は負けないぞ! 僕がやっつけてやる!」
「……お宅の息子、なんか勘違いしてない?」
「あー、あんたにやられたのずっと気にしてたんだった。まぁ、ちょっと相手してやってくれないかい?」

 そういう事か。ついでだし、ちょっと遊んでやるかね?

「そういう事なら……へっ、かかって来い!」
「いっくぞー!」

 おっ、もう一匹のほうは恐る恐るリィと話なんかし始めてる。どうやらあっちは大人しいみたいだな。
よーし、いっちょもんでやるとするかいね。



「このぉ!」
「どうしたどうした!? そんなんじゃあ俺には勝てないぞ!」

 体当たりやら噛み付くやらを時々受けてやりながら、チビに付き合ってやってなかなか時間が経ったかもな。そろそろ疲れてきたか?

「はぁっ、はぁっ、もう、だめ~」
「おっと。ほい、お疲れさん」

 突っ伏しそうになったのを掬い上げて、そのまま背中に乗っけてやった。ははっ、息が荒くなってるのが背中越しに伝わってくるわ。思いっきりやってたんだなー。
さて、なんだか打ち解けちゃってるリィ達のところに戻るか。ってか、見える範囲からは動いてないがな。一応、何かあったらすぐに行く気でいたし。

「あ、終わったの? ライト」
「こいつがへとへとになっちまったし、休ませないとならんだろうと思ってな」
「すまないね、遊び相手になってもらっちゃって。……あら、よっぽど楽しかったみたいだねぇ」

 ん? ……なんだ、眠っちまったのか。よっぽど思いっきり動いてたみたいだな。
起こさないようにそーっと伏せて、しばらくベッドになってやるとするか。

「この子から聞いたよ。あんた、人間の家で暮らすようになったんだって?」
「まぁな。けど、ふらふらしてんのは変わらないがな」
「うん、ライトは一緒の家に居るけど、人間さんの手持ちって訳じゃないよ」
「変わった人間も居るもんだねぇ? 捕まえてないポケモンを自分の住処に置いておくなんて」
「あぁ、まったくだ」

 まず一般のトレーナーじゃあする気も起きないのは確かだ。危険過ぎるし。
……ん? もう一匹のチビがそわそわしてるな。どうかしたのか?

「あ、あの、お母さん。リィとちょっと遊びに行っちゃだめ?」
「ん? そうだねぇ……」
「いいんじゃないか? リィ、どうする?」
「うん、行きたい。ウェス君、行こうよ」
「う、うん!」

 おぉ、めっちゃ尻尾振ってる。嬉しそうだー。

「……変わった子だね、あの子も。こっちは野生のポケモンだってのに、ちっとも怖がったりしないんだから」
「ん~、リィは頭良いからな。危険だって思う事は分かるだろうし、あんた等から嫌な感じを受けなかったから警戒しなかったんだろ」
「ふぅん、あの小ささでそこまで感じ取れるもんなのかい?」
「俺が見た限りではな」

 そういえば、まだ名乗ったりしてなかったな。これも何かの縁って奴で、名乗るくらいするかね。

「まだ名を言ってなかったよな。ライトだ」
「あの子から聞いたよ。あたしはジル、その寝てる子がグリで、遊びに行ったのがウェスさ」

 隣へジルが寄ってきた。目先には、じゃれあってるリィとウェスの姿が見える。ま、見えない所までは行かないだろう。
林の中の静けさに、楽しそうなリィ達の声が広がってる。うーん、なんか良い感じだぜ。

「しかし、まさか縄張りを荒らした事を謝りに来る縄張り荒らしが居るとは思わなかったよ」
「俺も最初に聞いた時は驚いたし、する事無いって言ったんだがな? あれで、やると決めたら曲げないから俺が先に折れたんだよ」
「芯の強い子だねぇ。そういえば、最初にこの子達をけし掛けた時も、怯えてはいたけど逃げ出そうとはしなかったねぇ」
「そういやそうだな。……元々、リィは勇敢なのかもな」

 それを捻じ曲げちまって、全てを恐れるようになった原因は一人の人間。ほんと、最低の野郎だぜ。俺がその場に居たら、間違いなくぶっ飛ばしてる。
でも、こうしてこいつ等に謝りに来たり、ああやって遊んだり出来る様になったって事は、リィの心の暗雲は拭えてきてるんだろう。なによりだ。
ん? 隣に座ってたジルも伏せの姿勢になったな。ったく、縄張りに侵入者が居るのに、んなに穏やかな顔してちゃいかんだろうに。

「ん……もっと、遊ぅ……」
「なんだ? 寝言か?」
「……本当に、楽しかったんだろうさ。あんたが相手してくれた事が」

 妙にトーンが落ちたな? ……理由は、なんとなく推定出来るけど。
前に来た時も今も、こいつ等の親父に当たるポケモンがこの近くには居ない。理由は分からんが、ジル一匹だけでこいつ等二匹を面倒みてやってるってこった。
野生で生きてれば珍しい事じゃない。俺も、そういう奴等に少なからず会ってきたもんだぜ。

「……なぁ、聞いて良いか?」
「あたしの旦那かい? ……馬鹿な牡だったよ。あんたみたいにふらっと現れて、いきなり襲ってきてさ。好き放題やっていったよ」
「何? じゃあ」
「この子達は、望んで出来た子達とは言い難いさ。でも、あたしが産んだ大事な子達だよ」
「……そっか。悪ぃ、変な事聞いちまったな」
「気にする事は無いよ。最後は、どこぞの人間が連れてたポケモンに惚れて出て行ったあんなどうしようもない馬鹿、そもそも惚れた事も無かったからね。笑い話のネタぐらいにしか思ってないよ」

 いやぁ、強いもんだな。こいつ等は、良い親に恵まれてるぜ。母親は、な。
俺は親を知らねぇ。気が付いたときには、人間しか近くに居なかった。それを悔いた事はねぇけど、ジルみたいな奴を見ると、やっぱり凄ぇって思う。
親、か……。

「どうせ近くに住み始めたんだし、たまにはこいつを構いに来てやるかな」
「どうしたんだい急に? この様子だと、グリも喜びそうだからありがたいけど」
「単なる気まぐれさね。あんただけじゃ、こいつ等に構ってやるのも一苦労だろ?」
「あぁ、正直言って難しいのよ。それに……あたしじゃどうしても、父親の役は出来ないからね」
「そりゃ俺にも難しいぜ。親父になんてなった事ねぇからな」
「その割には、さっきはなかなか手馴れてたように見えたけどねぇ」
「よせよ。柄じゃねぇ」

 俺が笑ってみせると、ジルの奴も笑って、俺が乗せてるグリの頭を優しく撫でた。
馬鹿みてぇかもしれねぇけど、俺が力になってやれるなら、なってやりたい。本当に、そう思ったんだ。
……こりゃ、来る時はリィも連れてきた方が良いらしいな。あっちはもうダチになったみたいだし。
そんじゃ、グリが起きるまで、もうしばらくジルと話でもしてるとするか。



 日の高さからして、そろそろ正午過ぎってところかな。レンが心配しても悪いし、そろそろ帰るか。
すっかり仲良くなったリィとウェス、そこに寝てたのを残念がるグリが加わって話をしてるみたいだな。

「あーあ、俺も寝ないで遊びたかったー」
「グリはライトさんと遊んでたじゃないかー。僕も一緒にやってればよかったよ」
「今度来る時は、グリ君も一緒に遊ぼうよ」
「えっ!? リィまた来るの!」

 笑顔で頷いたリィを見て尻尾が凄いスピードで振られてる。やれやれ、一度襲われそうになった相手と友達になるとは、恐れ入ったぜ。

「ねぇ、いいよね、ライト」
「そうだな。グリもウェスも弱っちいし、時々からかいに来てやるとするか」
「なにをー!?」
「つ、強くなるもん!」
「へへっ、その意気だ。そんじゃ、今日は帰るぜ、リィ」
「はーい」
「あんた等なら何時でも歓迎だ。また遊びにおいで」

 一しきりリィが手を振るのを待って、俺達は林を抜けた。ははっ、まさか野良のダチが出来るとはな。意外な事にはなったが、面白い日になったぜ。
リィも上機嫌なのか、自然と鼻歌を口ずさんでるみたいだな。……そうか、友達って呼べる友達は、あの二匹が初めてか。

「楽しかったか? リィ」
「うん! 野生のポケモンって、怖いだけじゃないんだね」
「あぁ、皆同じポケモンにゃあ変わりないんだ。でも、俺やジル達みたいに気の良い奴等ばかりじゃない。その事は、忘れるなよ?」
「分かってる。でも、仲良くなれるポケモンなら、僕は仲良くなりたいな」
「……あぁ、そうだな」

 優しさや積極性、リィの中で、確かな変化が起きてるのが分かる。もう、怯えてるだけの頃とは大違いだぜ。
一番近くの民家に飛び乗って、そのまま家へと向かっていく。背中に感じるリィの力も、なんだか強くなった気がするな。

「ねぇ、ライト」
「ん? どうした?」
「いつかライトは、また、野生に戻るの?」

 そのリィの一言に、俺は脚を止めた。
俺は、あの男のポケモンになってはやれない。もしあの男がそれを望み、強攻策に出たりしたら……いや、俺があの家を離れるのは、そんな時じゃないな。
俺がなんなのかがあいつ等に知られた時、それがきっと、俺があの家を離れる時になるだろう。

――――お前はサンダースじゃない! それ以上の、ポケモンの力を遥かに超えた究極の実験体、化け物だ! はははははははは!

 そう、俺は化け物。この世に存在してはいけない者。あってはならない力の化身。
分かってる、分かってはいるさ。知られたら俺は……全てに拒まれる。

「……僕、ライトと一緒に居る」
「リ、ィ?」
「いつかライトが野生に戻っても、僕は、ライトと一緒に居る」
「なんでだ?」
「僕が、ライトと一緒に居たいから。前にも言ったけど、ライトはライトだもん」

 ……なんだかなぁ、考えが読まれてるんじゃないかと思っちまうぜ。間違いなくエスパーの素養あるだろ、リィ。
背中から感じるリィの体温が、こんなに温かく感じたのは初めてかもな。ったく、俺なんかの傍に居ても、ろくな事なんかありゃしないってのによ。

「心配するなよ。もうしばらくは、あの家の厄介になるさ。レンの作る飯も美味いし」
「あはは、うん!」

 ……考えるのは、その時が来てからで良い。俺が使おうとしなければ絶対に発動しない力なんだ、んなの気にしてるほうが馬鹿だぜ。
空を一仰ぎして、また進みだす。たとえまた独りになるとしても、今は……こいつが傍に居る。迷わないで、前へ歩き出そう。



後書きは特に無し! 前話へはこちら 次話へはこちら
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  • 続きとても楽しみにしてます! 執筆頑張ってください
    ――ポケモン小説 ? 2012-05-17 (木) 22:54:07
  • >>ヒロトさん
    リィにとってライトは、憧れであり目標でありと、様々な意味を持った相手なのでちょっと複雑です。べたべたしてて嫌いな訳はありませんけどねw
    兄妹のようであり恋人のようでもある、そんな会話を目指してますが、和みますかね? でも、そう感じて頂けてるのも嬉しいですね、ありがとうございます。

    >>ポケモン小説さん
    はい、楽しみにしてくれている方が居る限りがんばりますよー! ありがとうございます!
    ――双牙連刃 2012-05-18 (金) 07:19:20
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Last-modified: 2012-05-17 (木) 00:00:00
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