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穏やかで、少し熱くて

/穏やかで、少し熱くて

writer is 双牙連刃

 新・光の日々第六話にございます。……前書き、必要ないんじゃないか? と思う今日この頃。多分、次の話くらいから、注意事項とか無ければ前書きカットでお送りしだすと思います。
それでは本編は↓から、スタートです。



 うーん、俺はリビングでまったり静かに過ごしたかったんだが、今日はそうもいかない。ソファーも取られちまっってるし、仕方なくレンの居るキッチンへ退避してきた。
今はリーフもレンの手伝いをしてるから、俺は話し相手担当。ふむ、リーフも蔓で上手い事食器を洗ったり拭いたりするもんだ。
残りももう無いみたいだし、俺の役目も終わりっと。……実はこれ、殆ど俺の日課になってたりするんだよなぁ。困る事もないからいいんだが、俺が来る前はレンが殆ど独りでやってたのを思うと不憫で仕方ないぞ。

「よーし、終わり」
「お疲れさん。リーフもなかなか器用じゃねぇか」
「そうですか? レンさんみたいにはまだ出来ないですけど、頑張って教えてもらってるんですよ」

 ほーん、じゃあリーフはレンから家事を教わってるって事か。とすると、レンは誰から教わったんかね? ちょっと気になるな。

「なぁ、レンは誰からこういうの教わったんだ? 独学って訳じゃないよな?」
「私? うんと、基本的な事はご主人のお母さんから。それから、料理は本を読んだりして作ってるよ」
「ほぉ、そいつは凄ぇじゃねぇか。本読むだけで作るって、結構大変だろ」

 そもそも本読めるのがなかなか凄ぇ。俺もちょこっとは読めるが、ちと苦手な部類だぜ。
ありゃ、褒めたらレンが照れたかな? なんかモジモジし始めちまったぞ?

「へー、そうだったんですか。レンさん、そんな本読んでるところ見た事無いですよ?」
「あ、お部屋で読んでるし、本もお部屋から出してないから皆知らないと思うよ?」
「そうなのか? なんだ、努力の証を見せてやれば他の奴も手伝いだすかもしれねぇのに」
「それは無いです。というか、私とフロストさん以外の皆が手伝うと、レンさんのストレスが大変な事になりますから」

 ……何があったかは聞かないでおこう。なんとなく、想像出来るし。
任せっきりにされてるんじゃなくて、他の奴に前科があるからこうなってたのか。どうしようもねぇな。

「やれやれ、レンも相当苦労してるんだな」
「最近はライトも手伝ってくれてるし、凄く助かってるよぉ」
「私やフロストさんは、ご主人様について行ったりしちゃうからそんなに手伝えないんですよね。本当は、時々代わりにご飯作ったりしてレンさんにお休みしてもらいたいんですけど……」
「そんなの気にしなくていいんだよぉ。私は家でのんびりしてるんだし、バトルする皆はしっかり休まないといけないからね」

 なんとまぁ、良い奴過ぎるだろレン。正直、皆の食事作るだけでもかなりの労働だと思うぞ俺は。
これは、息抜きって奴をさせねばならんだろう。うむ、他の奴の異論は唱えさせん!
そうだな、どっか出掛けたりするのが一番だろう。行く気にさせてみるか。

「そんならよ、今日どっか出掛けたらどうだ? リーフもある程度家事出来るんだろ? それに、フロストも居るんだし」
「あ、そうですね。何か炒めるくらいなら私も出来そうですし、そうしましょうよレンさん」
「え? でも、いいのかな? 皆の分のご飯作るのって大変だよ?」
「いざとなったらなんか買出しに行くって手もあるだろうし、なんとかなるだろうよ。なぁ?」
「そうですよ。のんびりしてきてください!」
「……じゃあ、そうさせてもらおうかな」

 よしよし、それでいいさ。なんでもたまには息抜きしないと具合悪くなるからな。
ははっ、何処に行こうか考え出したみたいだな。ちゃんと行きたいところに行った方が楽しいだろうし、ともかく行く気になって良かったぜ。

「おーい、レーン。何か飲み……」
「物が欲しかったら自分で取りに来い。なんでもレンに頼むなっつの」
「うぐっ、いやその、だってさ?」
「そもそも家事なんて、人間のお前がするべきことじゃないのか? それを完全にレンに丸投げしておまけにパシリまでさせようってのか。どうなんだ、えぇ?」
「ぐはぁ! す、すいませんでした……」

 下らない事でレンの休日を邪魔させねぇよ? そういう奴には俺の言葉のナイフでざっくり良心を抉ってやろう。
すごすごと冷蔵庫まで来て、ソーダの入ったペットボトルを持っていった。そうそう、それでいいんだよ。

「貴様、居候の癖に主殿になんという言葉を!」
「お前もだレオ! この家のエースと呼ばれながら、お前がやっているのはバトルだけ! たまにはレンに休みをやろうとか思う優しさは無いのか!」
「なっ、むぅ……」
「確かにバトルで強いのは大事かもしれないが、縁の下の力持ちを進んでやってるレンが頑張ってないなんて思ってないだろうな? 美味い飯を食えるのは、全てレンのお陰だと言うのに!」
「くっ、言い返す言葉がない」
「おー、ライトさんって論破も出来るんですねー」
「当然だぜ」

 ビシッと前脚を突きつけて、的確に相手の痛い所を突いてやれば反論などさせる事はないのだよ。
これでもう邪魔無くレンは出掛けられる。俺、ミッションコンプリート!

「あ、ありがとうライト」
「このくらいいつでもやってやるって。で、何処行くか決めたのか?」
「うん。それでなんだけど……ライト、一緒にお出掛けしない?」

 ……なんですと!? 俺のミッションはまだ終了してないぜ!?
いや、出掛けるのは問題無いが、なして俺なんでしょ? 

「いいけど、どうしたよ?」
「あの、ね? ルカリオってあまり居ないポケモンでしょ? だから、私だけでお出掛けしちゃうとちょっと危ないかなぁって思って」
「なるほど、ボディガードか。そういうことなら、付き合うかね」

 折角休む為に外出するのに、出先で鬱陶しいのに絡まれても嫌だろうしな。露払いはやってやるさ。
いや、尻尾振るほど喜んでくれるとは思わなんだ。うーむ、意外な反応だぞ。

「ふーん、レンさん、随分嬉しそうですね?」
「え!? そ、そうかな!?」
「隠せてないですよー、その尻尾」
「ひょ!? あの、これは久々にゆっくりお出掛け出来るからであってね!?」
「ふふ、レンさんのこういう姿は新鮮ですねー。いつもはお姉さんが板についちゃってますからねー」
「あーっと、どういう事だ?」
「……ライトさん、こういうのには鈍いんですねぇ」
「ほ、ほら、決まったんだから早く行こうよライト!」

 パタパタとレンはリビングから出ていった。まぁ、俺も行くとするか。
っていうか何にも言わないで行くのは流石に不味いか。しゃあねぇ、男に一言掛けてから行くとするか。

「おい、ちょいと出掛けてくるからな」
「え? あぁ、ってレンも急いで出ていったけど何かあったか?」
「いや? ちょいとレンの息抜きの間、用心棒をやってやるだけだ」
「え!? レンが行っちゃうと困るけど……今日くらいはなんとかするか。さっきライトに言われたばっかりだし」

 お、俺の論破も良い感じに受け取られたようだ。そうそう、たまにはレンを労われってな。
ちょっと待ってくれって言われたんで待つか。レンも流石に独りで行く事は無いだろう。
ん? あれは……ウエストポーチって奴だな。ベルトが付いてるから、腰に巻いておけるタイプだ。

「レンが持っていかなかったから、ライトが渡してやってくれ。いつもレンが買い物とかで使ってるんだ」
「なるほど、そんなら渡しとくぜ」
「あぁ。じゃ、ライトも気をつけて。レンを頼むな」
「言われなくても。そっちも、たまにはレンの苦労をしみじみ感じとけー」

 笑いながら分かった、なんて言ってるがどうなんだろうな? 結局やるのはリーフ辺りになるんだろ。多分。
リィはソウ達とテレビ見てたんでそっちにも出掛けるって言っといた。ソウがついて来そうになったから気絶させたがな。
んーで、玄関から出たらレンが普通に待ってた。いやはや、悪いことしちまったか。

「悪い、待たせちまったな」
「ううん、私も慌てて出てきちゃったから。あれ? 私のウエストポーチだ」
「あぁ、あいつが持っていってやれってさ。渡しとくぜ」

 礼を言いながら、慣れた様子でレンはポーチを巻いた。確かに、これならある程度物を携帯出来るな。
レンの準備も出来たようだし、町にくり出すとするかね。……なんも無いといいんだがなぁ。



 こうして、本格的にレンと一緒に行動するのは初めてだな。町での勝手を知ってる奴と一緒なら堂々と町の中を歩けるぜ。
しかし、前にリィと出掛けた時は、珍しいってだけで勝負挑まれかけたしな。油断はしないようにしとくか。

「で、まずは何処行くんだ?」
「本屋さんかな。新しいお料理の本見たいんだよね」
「オーライ、ぼちぼち行こうぜ」

 まったく、気晴らしに出ても料理の事考えてるんだな。そりゃ上手くなる訳だぜ。
ふーむ、割と注目集めないみたいだ。こっちを見てる視線はあるが、そんな警戒するほどのもんじゃない。なによりだぜ。
レンの後について本屋に到着。……分かってはいたが、ここにポケモンだけで来る奴はそうそう居ないわな。
本を物色してる奴や立ち読みしてる奴等がいっぱいだな。ポケモンも居なくはないが、どいつも退屈そうにしてるぜ。
捨ててある本なんかは俺も読んだりした事あるが、きちんと製品してる本はこれが初見だな。はー、本棚にきっちり並んでるもんだなぁ。

「あ、あったあった。ライト、少し待っててね」
「おう。ゆっくりしてていいぜ」

 レンが本を捲りだしたんで、俺はちょっと待機だな。むぅ、その辺の本でも、俺も読むか。
何々? 『今日の晩御飯50選』? ……まぁ、これでいいか。
図解付きの料理本だな。ふむ、結構下準備とか要るもんなんだな、かなり細々と色々書かれてる。これ、見るだけじゃ再現するの無理だろ。
でも中々面白いじゃないか。知識として覚えておくのも悪くない。もちろん俺じゃ料理なんて無理だがな。
しかし、読み耽りながらこんなの考えるのもあれだけど、料理本を熱心に読むポケモンってのも違和感のある状況だよなぁ。

「何か食べてみたいものあった?」
「ん、あぁ悪ぃ、俺のほうが集中しちまってたみたいだな」
「いいよいいよ。ライト、お料理の本読んでて楽しいなら、私の持ってる本も読んでみる?」
「おっ、それなら読ましてもらうかな。そんで、もうレンはいいのか? 何か買ったりは……」
「あー今日は買わないよ。欲しい本があるか見に来ただけだから。それに、お金持ってきてないしね」

 そういやそうだな……なんて言ってみたり。

「レン、ポーチの中見てみ」
「え? ……あ、これお財布だ」

 実は、ポーチを渡してくる前に男がなんかやってるのは見えたんだ。そんで、ひょっとしてと思ってさ。
どうやら気を利かせて、幾らか都合してたみたいだ。

「ご主人、わざわざお小遣いまでくれてたんだ」
「みたいだな。くれたもんなんだし、欲しいもんあれば買っちまえよ」
「そうだね。んー、でも、本は今回は保留で。知ってるレシピの本ばっかりだったし」
「そうだったのか。まぁ、それならしゃあないな」

 本屋での目的はこれで無くなったらしい。用が無いなら長居は無用。……今度、俺だけで改めて来てみるかね。
ん? なんか通りが騒がしくなってんな? 何かあったのか?
……戦闘音だと? まさか、こんな町中で勝負でもやってんのか?

「……! 大変!」
「うぉっ、ちょっ、レン! そっちは!」
「怪我してる人が居るみたい! 丁度この先!」
「なにぃ!?」

 って事は、ポケモンが暴れてるって事か! ちっ、行くしかないか!
ここだとどうしても目があるし、パワーはかなりセーブしないといけなくなる。思いっきり走れば速攻で現場まで行けるんだがな。
レンに追いついた先を見ると、やっぱりポケモンが暴れてた。ありゃ、見たこと無い奴だな?

「むふー、なんだ弱い奴ばっかりだぞー」
「ポケモンを出したままにしておける町なんて珍しい。ガマゲロゲ、思いっきりバトルしていいぞ!」

 うっはー、完全になんか勘違いしちゃってる奴が居るし。ルール知らねぇのかよ?
なんにしても、早く止めないと被害広がるぜ。警察は何してんだっての。

「えっと、怪我してる人は……見つけた!」
「!? レン、出るな!」

 レンが向かった先には、確かに腕を押さえてる奴が居る。バトルにでも巻き込まれたのか!? ちぃ、レンが飛び出したタイミングが悪すぎる。危険だと思って周りの奴がポケモンを引っ込めてる時に飛び出しちまった。
そんな事すりゃもちろん、狙われるのは……。

「ん? ルカリオとは珍しい。よし、いけ!」
「一発で倒しちゃうぞー」
「え?」
「……はぁ、しゃあねぇか」

 一気に飛び出して、レンを狙うガマゲロゲとかいう奴がくり出した拳の前に出る。どうする、弾くか受けるか。……どっちもやるとするか。
体に拳をまず受けて、抱え込むような体勢を取る。そのまま……上手い事横にずらす! うぐっ、やっぱり腹への一撃はちっときつい。
間に挟んだ前脚で拳を弾いたら、拳はレンを避けて地面に当たった。一瞬でこれだけの芸当したんだ、なかなかのもんだろ?

「あれぇ、なんだぁ?」
「む? いつの間にサンダースが間に? それに、どうして攻撃が逸れている?」
「まったく、迷惑極まりないな。この町のルール知らねぇのか?」
「よく分からんが、ガマゲロゲ! もう一度だ!」
「纏めて倒しちゃうぞー」
「レン! その怪我人つれて下がってろ!」
「あ、う、うん!」

 さっさと麻痺させて、動けなくしておけば後は警察がなんとかするだろう。躾のなってない馬鹿を仕置きと行こうか。
奴が出してきたのは、バブル光線。見た目も蛙っぽいし、水タイプなんだろ。確実に麻痺させられるぜ。
飛んで来る泡は全部避けて、合間を狙って……収束電磁波を、撃つ! おし、ヒットだぜ。ま、素早さは大して無さそうだったからな。
って、なんかケロッとしてやがる。あれ、当たったよな?

「ふーん、電気なんか効かないぞー」
「何?」
「サンダースは、その高い素早さで撹乱しながら特殊技で攻める戦法を得意とする。ガマゲロゲ、お前の敵じゃあないな」
「当然ー」

 したり顔で語ってるが、外れって訳でもない。まぁ、俺以外のサンダースにならだが。
電気が効かないってなると、どうやら地面タイプも併用して持ってるみたいだな。そんならそうでやりようはある、物理的に動けなくしてやるだけだ。
タフそうだから麻痺させて終わりにしようと思ったんだが、行くぜ。

「ん? 消えた?」
「なわけねぇだろ」

 マッハバックスタブはあらゆる敵に有効な一撃。相手を強制的に無防備にした上での攻撃だからな、避ける事は出来ないし、身構える事も許さない。
振りかぶって~、情け容赦の無い一撃を叩きつける。

「ふがぁ!?」
「お疲れさん、寝てな!」
「な、サンダースが物理技でガマゲロゲを倒した!?」

 残念、技でもなんでもないただの突きで倒されたのだよ。おっと、この暴動の犯人にもお眠り頂かないとならないんだった。
高速接近&必絶ボディブロー。ったく、旅するんなら行く先のことを調べるのは当然だろうが。迷惑千万。
なんにせよ、これでお開きだ。おっと、拍手なんかされてる場合じゃねぇ、警察の奴が来る前に立ち去らねぇと。
レンは……あぁ、手当て中か。

「レン、こっちは終わったぜ」
「ライト大丈夫だった? 私を庇って、まともに一撃受けちゃったでしょ?」
「あんなの大した事ねぇよ。そっちのあんたも災難だったな」
「あぁ、突然襲われて、攻撃された相棒を受け止めたら思いのほか弾かれてしまってね」
「腕以外は目立った怪我も無いし、後はゆっくり休めば大丈夫だと思いますよ」
「本当に助かったよ。トレーナーの方にもお礼を言いたいんだが、何処に居るんだい?」
「あー、今は俺達だけで町に出てんだ。その辺は気にしないでくれよ」

 手当てに使った傷薬なんかは、怪我した奴が元々持ってた奴を使ったようだ。包帯も巻いたし、もう平気そうだな。
おっ、俺が気絶させた奴は、周りの奴等がふん縛ってくれたようだ。引渡しもそのまま任せちまおっと。

「ポケモンだけでこれだけの事をやったのかい? いやぁ凄いなぁ」
「んな大した事ねぇよ。レン、そろそろ行くか」
「そうだね。じゃあ、相棒さんの事も早く回復させてあげてくださいね」
「そうするよ。本当にありがとう」

 うーん、若干注目を集めちまったが、なんとかなる範疇だろ。それに、ここから立ち去れば後の面倒は無いだろうし。
手当てした奴に見送られながら、俺達はこの場を立ち去る。不幸中の幸いにも、町には被害が無いからよしとしとくべきだな。あいつ等? さぁ、どうなるんかね? 傷害罪とかが適応されるだろ。

「にしても、よく怪我人が居るなんて分かったな?」
「ルカリオは波導っていう、あらゆる物にある力の流れっていうのかな? そういうのが見えるの。それの様子で、相手がどんな状態かも分かるんだよ」
「ほうほう、そりゃ便利だな。因みに、俺のはどんな感じなんだ?」
「ライトのはね、うーんと、密度が高いっていうのかな? 大きいけど、それがライトの体にきちんと収まってる感じ」

 ふむ、そいつは良かった。制御下にあるっつっても、こうして太鼓判を押されると安心出来る。
これで、周りに溢れてる~とかなんとか言われたらどうしようかと思ったぞ……今まで完全にコントロールしてるって自負してた自信が、音を立てて崩れかねないし。
おっ、やっと警察のお出ましだ。前から走って来やが……こけた。な、なんか無性に心配になったんだが、大丈夫なんか?

「あれ、さっきのところへ行くお巡りさんかなぁ?」
「だろうな。もうちょっと早く来られてたらやばかったぜ」
「え、どうして?」
「折角の休み、事情聴取なんて面倒な事で潰されても嫌だろ? まだまだ時間はあるんだし、楽しもうぜ」
「そっか、そうだね。よーし、そろそろお昼だし、何か食べようか」
「おっ、いいな。行くとしようぜ」

 ちょいとトラブったが、日はまだ高いんだ。ゆっくり、楽しもうじゃねぇか。なぁ?



 昼飯も食って、レンに連れられるがままに色々歩き回った。レンも楽しそうだったが、俺も大分楽しんじまったぜ。
こんだけ歩いたら、流石にレンも疲れてくるんじゃないか? どれ、聞いてみるかね。

「レン、大分歩いたが、疲れてないか?」
「そうだね。……あの、ちょっとだけ、ライトにお願いしていいかな?」
「ん? なんだ?」
「ら、ライトに、乗ってみても……いい?」

 なんだそんな事か。そんなら別に聞かなくても乗りゃあいいのに。リィやフロストなんか、気が付いたら乗ってるなんてしょっちゅうだぜ?

「別に構わねぇよ。このままで大丈夫か?」
「う、うん! じゃあ、ちょっとお邪魔して……」

 あ、流石に跨いで乗りはしないか。そりゃそうだよな、そんな事したらこう……いや、やっぱり止めておこう。
腰掛けるようにレンが座ったのを確認して、俺はまた歩き出す。っつっても、レンがナビしてくれないと何処行けばいいか分からないんだが。

「わぁ、あったかい……」
「そうか? 別に炎タイプな訳じゃないから、そんなでもないと思うんだがな?」

 背中なんて撫でられたらくすぐったいって。最近はリィがよく乗ったまま動くから慣れてきたけどよ。

「で、これから何処行く?」
「そうだねぇ……家も気になるし、そろそろ帰ろうか」
「いいのか? って、もう夕方だし、そろそろ帰るのもありか」
「うん。……家まで、このままでいちゃ駄目、かな?」
「……バランス、崩さないようにしてくれよ?」
「うん!」

 夕焼けに照らされた町を、レンの温かさを感じながら歩いていく。……野良で居た時には想像もしなかった状況だぜ。
別に俺は独りで居るのが好きな訳じゃない。独りで居るしかなかったから、ずっと野良の放浪者をやってただけなんだ。
もしも願っていいなら、俺は……。

「……いや、柄じゃないな」
「ん? どうしたの?」
「なんでもねぇよ。気にしなさんな」

 叶わないと分かってる願いほど、抱いていて虚しい物は無い。俺が『俺』として存在してる限り、いずれ独りに戻らなきゃならねぇんだ。俺が傍に居たいと思う者の為に、な。
でもせめて……今だけは、もう少しだけこいつ等の傍に居てもいいよな?

「今日は、ありがとうね。ライト」
「なんだよ改まって。俺も結構楽しんだし、水くさいこと言いなさんな」
「楽しかったのもそうだけど、守ってくれて、嬉しかった」
「元々そういう理由でついて来たんだ。それに……」
「それに?」
「自分の大切なもんを守るのは、当然の事だろ?」

 ……あら? レンからの反応が無くなったぞ? おかしな事は言ってないと思うんだがな?
うーん、言ってからあれだが、なかなか恥ずかしい台詞だな。同じ家に住んでる奴って意味で言ったんだが、受け取られ方間違えたら大変な意味だぞ。
でも、まさかそんな風に取る事は無いよな? そこまで親しくなったとは言えないし。

「ぁう、えと、あの」
「っと、もう着いたか。話してると早いなぁ」
「へ!? あ、もう家の前だったんだ。そ、それじゃ降りるね!」
「……あー、大丈夫か?」
「だ、大丈夫大丈夫!」

 やたら慌ててたが、大丈夫って言うならまぁいいか。
いやちょっと待て。なんで玄関入って早々に異臭がする!? ど、どうなってんだ!?

「な、何この臭い?」
「分からんが、とにかく行ってみるか」

 リビングに入って、レン共々戦慄した。なんかこう、皆真っ白になってる。

「お、おいフロスト、何があった?」
「あー……デートはどうだったの?」
「で、でででデートなんかじゃないよぅ! ってそんな事言ってる場合じゃないね。何があったの?」
「まぁ、なんというか……とりあえず謝っておくわ。ごめんなさい……」

 ……あらましはと言うとだな、レンが居ない一日を皆で協力して乗り切ろうって事になったまではよかったらしい。
しかし、そこからはカオスなロックンロールが待っていた。そりゃそうだよな、殆どレンに任せっきりな奴等に同じ事が出来るか? 答えはノーだ。
とりあえずレンと分担して家の中を確認する事にした。んで、風呂場のほうへ行ったら苦笑いしか浮かばなかったぜ。
何故か風呂に首を突っ込んだまま動かなくなってるレオが居た。桶やらシャンプーやらが散乱してる辺りから想像するに、すっ転んだな。水が張ってなかったのが不幸中の幸いか。
そして振り返ると、洗濯機が泡を噴いている。これをやったであろうソウとプラスを泡だらけにしつつ。どうしてこうなったし。
報告に戻ると、ソファーでぐったりとしてるリィとリーフを見つけた。事態の収拾の為に動いてたんだろう、とりあえずお疲れさんと手を合わせておこう。

「レン、こっちは壊滅的だった」
「あの……こっちもみたい」

 キッチンでは、あの男がうつ伏せで倒れていた。何故か頭に割れた生卵を載せて。
他にも調味料やら何やらの粉が散乱してる。一体、何を作ろうとしたんだ?

「……なんでレンがこいつ等に家事をやらせないのか、なんとなく分かったわ」
「うん……ライト、手伝ってくれる?」
「もちろんだ。とりあえず、風呂場と洗濯機を何とかしてくる」
「うん、私はこっちをなんとかするよ」

 とにかく、最善を尽くそう。あ、戻りがけに見たら、フロストやリィ達の体にも粉が付いてるな。あれをやったのはこいつ等か……。
こりゃ、しばらく家事手伝いは俺で固定になりそうだなぁ……この体もそんなに器用じゃないんだから、勘弁してほしいんだが。
まずは風呂場のレオやソウ達を救出して、しかる後に風呂の湯沸かし器を起動。んで、こいつ等には体を洗ってもらって……くそぅ、片っ端からやるしかないか。



前の光の日々では、レンとライトの新密度がおかしかったような気がしたので、今回は徐々にステップアップしようかと思い誕生したのがこのお話。いかがでしたでしょうか?

前話へのリンクをぺたり 次話へのリンクもペタリ

これより下はコメント欄となります。

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • トレーナー 家事できないって……
    執筆頑張ってください
    ――ポケモン小説 ? 2012-05-21 (月) 21:15:37
  • >>ポケモン小説さん
    出来ないだけならまだしも、大惨事まで生み出すんだから目も当てられませんw
    毎度のコメント感謝です! ありがとうございます!
    ――双牙連刃 2012-05-21 (月) 22:15:25
  • レン回ですね。
    レンちゃんが動揺している所が可愛すぎて鼻血でそうです。
    ―― 2012-05-21 (月) 22:53:14
  • >>名無しさん
    はい、レン回です。家での絶対権力者であったため弄られ慣れてないので動揺しやすいのです。可愛く書けていたのなら何よりです!

    >>ヒロトさん
    現在はまだ気になる程度、ではありますが動揺したりしてるからその気が無い訳ではないでしょうw
    ライトは鈍感なのではなく、そうならないと思い込んでるだけです。……結局鈍いですね。
    ライトが本気でボディガードやったらそうなりますねw 狙った瞬間にライトが目の前に居るでしょうw
    しっかり者で、愛嬌もある家事が出来るポケモン。ライトとは別の方向でチートなポケモン、レン。一家に一匹居ればその家は散らかる事は無いでしょう。
    このトレーナーにしっかりという言葉は無いのですw レンの力にあやかり続けた結果ですねw 彼がトレーナーらしくなる日は……ライトとレンが居る間は来ないでしょうw

    コメント、ありがたいです! お楽しみ頂けるように、これからも頑張ります!
    ――双牙連刃 2012-05-22 (火) 10:30:42
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Last-modified: 2012-05-21 (月) 00:00:00
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