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観葉植物くん

/観葉植物くん

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 R18 ♂× ♂要素を含みます

 観葉植物くん 作:群々


 僕はユレイドルだ。進化する前はリリーラだった。そして、もっと昔はねっこの化石だった。化石になる前もユレイドルで、リリーラだった。
 そして、ねっこの化石だった僕の隣には、ずっと彼がいた。ツメの化石だった彼。アノプスだった彼。今はアーマルドな彼。
 僕はアーマルドのことが大好きだった。だって一億年前からずっと一緒だったんだもん、当たり前だろ。僕たちは棺おけみたいな綺麗なクリスタルに収められて、火山灰の中に埋められてずっと一緒に眠ってたんだ、絡みつくように密着しながら。奇跡だろ、運命的だろ、ロマンチックだろ。僕とアーマルドはそういう関係だったんだ。
 ヘンテコなとこに付いた目が好きだ。最初あのまんまるなおめめはどこ行ったんだろ、って僕も思った。おどけてパックリと開いた時の口も可愛くて好きだ。アノプスの頃は変なトコロにあって、ちょっと不気味だったのに。
 ガッチリとしているように見えて実はプニプニなお腹にギューってされてると僕の心はポカポカした。胸の辺りからチョコっと出た爪とか、ゴツゴツした背中から生えた翅とか、太くてムッチリした尻尾とか、その先っちょに申し訳程度についた尾ヒレとか、ずっと僕は八本の触手でイジって和んでいたい。
 イカつい見た目に反して、おっちょこちょいなところも好き。僕を置き去りにして走っていくときの、ドタドタいう音も、土埃が舞い上がる音も、甲殻がカチャカチャと言う音だって大好き。
 ああっ、アーマルドっ、好きっ!
 アーマルドのことを想うだけで、僕の心は熱くなる。幸せになって欲しいっていつも心から祈ってる。でも、アーマルドのことが世界で一番大好きな僕のことを、アーマルドに愛して欲しいって思っていた。
 愛してくれるって、ずっと思ってた。
 なのに、なのに。
 アーマルドは別のヤツのことを大好きになった。別の化石から復元されたアバゴーラというヤツがいる。そいつは僕ほどにアーマルドの側にはいなかったのに、アーマルドはアバゴーラのことを大好きになった。そういえば、プロトーガだった頃から、アノプスだったアーマルドはよく話してた。僕はリリーラの頃から、それがちょっと疎ましいって感じてた。だって、アノプスよりも上手に泳ぐし、それはアノプスがアーマルドになってからも同じだったから。
 だから、アーマルドが僕にそのことを打ち明けた時、本当にショックだった。理不尽だ、そんなの。今だってあの時のアーマルドの声が僕の中でこだますんだ。なあユレイドル、俺、好きな相手がいるんだ。お前も知ってると思うけど、アバゴーラのことが。
 イヤだ、イヤだよそんなの。
 あんなに大好きだったアーマルドが、僕の隣じゃないところへ行ってしまうなんて。そんなの、絶対にイヤだ。ひどいや、ひどいや。でも、アーマルドが決めたことを否定なんてできなかった。そんなことしたら、アーマルドを傷つけちゃう。そんなこと、僕がしてはいけなかった。ジーランス爺が教えてくれたんだ。僕がイヤだと思ったことは、好きな相手にはしちゃいけないって。ガチゴラスおじさんだって言ってた。水のように恵みを与えて、好きな相手とは争わないのがいい生き方だって。僕はお利口さんなユレイドルでいたかった。
 だから、だから、僕は——



「いやいやいや!」
 アバゴーラのヤツ、イライラしながら叫んだ。
「おかしいだろうが! なんで、コイツがここにいるんだよ!」
「えっと、それはな……」
 アーマルドはあまりの怒気にドギマギして、言葉に詰まってしまう。ひどいヤツだ、アバゴーラは。僕が大好きなアーマルドを困らせるなんて。僕はぷんすかする。
「僕は『かんようしょくぶつ』だよ」
 と、僕は言い張る。僕は「かんようしょくぶつ」だよ。えっへん。
「ドヤ顔で言ったって無理がありすぎるだろうが! テメエはどう見たってユレイドル……」
「まあまあ、ちょっと待ってくれ、アバ……」
 アーマルドはそっとアバゴーラに何か耳打ちをする。アーマルドはコイツのことを「アバ」と呼んでる。でも僕のことはいつも「ユレイドル」と呼ぶんだ。
 ずるいな、ずるいな。
 羨ましいな。
 なんでだよ。
 どうしてだよ。
 ふざけんなよ。
 クソが、バーカ、バーカ。
 バーカ!
 バーーーカ!
 でも、アバゴーラはアーマルドが好きになった相手なんだ。大好きなアーマルドが大好きなんだから、僕は否定するわけにはいかない。そんなことをしたら、僕はアーマルドが嫌いということになってしまう。そんなこと、僕には絶対あってはならない。アーマルドを悲しませることなんて、僕は絶対してはならないんだ。ジーランス爺も、ガチゴラスおじさんも言ってたもん。プテラお兄ちゃんやラムパルドお兄ちゃんだって、そんなことしたらウオノラゴンくんみたいにされちゃうって。違うもん。僕は良いユレイドルだもん。お利口さんなんだもん。
 だから僕は「かんようしょくぶつ」になることにした。僕は「かんようしょくぶつ」なんだ。全てを見て、何が悪いの? アーマルドが幸せになる姿をこの目で確かめて、何がいけないの? アバゴーラがアーマルドに相応しいってことを、一億年一緒にいた僕自身が判断して、どうしてダメなの?
「……ってわけだ、頼む。分かってくれ、アバ」
「……ふん! ま、アーマルドがそう言うなら、な」
 アーマルド、ってアバゴーラはアーマルドのことを呼んだ。なんだよ、アーマルドをアーマルドって呼んでいいのは僕だけだぞ。そんな風に考えていた僕をアバゴーラはきっと睨んだ。仮面をつけたみたいな顔面はとっても恐い。
「おい、ユレイドル! テメエは知らねえだろうが、俺とアーマルドは愛し合ってんだ!」
「僕は『かんようしょくぶつ』だよ」
「言ってろ。だったらたっぷり見せつけてやらあ」
 そう吐き捨ててアバゴーラは、アーマルドのことをそっと床に寝そべらせた。アーマルドは仰向けになった。僕はアーマルドの顔が少しだけ赤くなるのをしっかり見ていた。少し緊張してるけど、アバゴーラのことをとても信頼してるみたいで、幸せそうだった。僕はそれをとてもいいなあ、って思う。それが、僕に向けたものではない、ってことだけを除けば。
「アーマルド」
「ああ」
 アバゴーラは両ヒレで、アーマルドのあの目の後ろから持ち上げて、キスをした。一瞬、ヤツは僕の方を見て、自慢げにほくそ笑んだ。どうだ、テメエにはこんなこと、できねえだろ、ってちょうはつしていた。でも、僕は動じないぞ、と思った。だって僕は「かんようしょくぶつ」だもん。
 アーマルドはすっごく長い時間アバゴーラとキスをしていた。僕はずっとその姿を頑張って見ていた。お互いに口からピンク色のベロが伸びてくっつき合うと、僕はつい触手で顔を覆ってしまいそうだったけど、ちゃんと目を凝らしたんだ。アバゴーラのヤツ、ずっとイヤらしい音を立て続けるんだ。チュパ、ジュパ、ヂュパ。耳を塞ぎたくなる音だったけど、アーマルドはそれをしっかり聞いていたし、イヤな様子もしていなかったから、僕も聞かないといけなかった。
 アバゴーラめ、どんどん大胆になっていって、アーマルドのことをいっそうキツく抱きしめた。ミシっ、っていう鈍い音がした。小声でハアハア言いながら、アバゴーラはアーマルドの頭とか太い首とかテカテカの爪とかに堅そうな口をくっつけて、したでなめた。アーマルドは目を瞑って気持ちよさそうにしてた。二匹の硬いカラダが一つになろうとしてるって感じがした。アーマルドがアバゴーラに、アバゴーラがアーマルドになって。でもユレイドルの僕はユレイドルのまま。
「……おい、ごら」
 アバゴーラが言った。
「てめえ、首を伸ばして何マジマジと見てやがる? ユレイドル」
「僕は『かんようしょくぶつ』だよ」
「観葉植物はそんなことしねえだろ! ちっ、鬱陶しい」
 僕はいつの間にか、首をバネみたいに伸ばして二匹が抱き合ってキスする姿を見ていたのだった。気づかなかった。シッ、シッって僕を払い除けようとするヒレをじいっと見つめながら、僕は長い首をシュルシュルと引っ込めて、二匹と距離を取った。
「いいか、観葉植物! 仏の顔も三度まで、だからな……」
 アバゴーラなんて全然ホトケじゃないだろ、とは僕は声には出しては言わなかった。だって僕の方がホトケだもん。ホトケは寛容だもん。なんてったって『かんようしょくぶつ』だもん。
 忌々しそうな顔で僕を見たアバゴーラの顔が、正面に向くと一瞬のうちに柔和な表情に変わってさっきの続きを始めた。あっという間に脇にいる僕のことなんて忘れてしまったようだった。
 アーマルドはアバゴーラにされるがままにして、とても気持ちが良さそうだった。甘い息が口から漏れていた。でっぷりとしたベロがチラチラ見えると、僕はドキッとした。アーマルドは僕が見たことがない表情をしていた。一億年の付き合いの中で一度も見せてくれたことがない表情だった。
「アバ……」
 アーマルドが呻いた。一対の爪が伸びて、カチャカチャ音を立てながらアバゴーラの甲羅を撫でさする。とっても優しい爪付きだった。やっぱり、アーマルドはアバゴーラのことが大好きなんだ。僕が一番じゃないのはすごく残念だけど、アーマルドが幸せなのを見ると僕も幸せになれた。
「おうよ、アーマルド」
 だから僕はずっと、この鈍臭い古代亀がアーマルドを本当に幸せにしてあげられるのかをじっと見張ってないといけなかった。悪いことをしていたら、それを見逃すわけにはいかないからね。一億年アーマルドと一緒にいた僕より大好きになるなんて、きっと何か悪いことをしたに違いないんだ。アーケオスくんはよく僕に泣きついてぎゅーってしてきたもの。何もしてないのにアバゴーラが頭を引っ叩いてくるんだあって。なんて悪いヤツなんだって思ってた、アバゴーラは。もしアーマルドがアバゴーラに脅されているんだとしたら、僕は止めないといけない。アーマルドが不幸な目に遭うなんて、絶対に許しちゃいけない。そんなの僕耐えらんない。
「ああっ……」
「ふふっ、かわいいな……!」
 また二匹は長いキスをした。ベロを舐め合うたびに、くちゅ、ぐちゅ、ってヤな音がした。やっとキスが終わってくれた時、アーマルドとアバゴーラの口の周りにはヨダレが垂れて、ゆっくりと床に落ちてった。僕は「かんようしょくぶつ」だから、掃除なんてしないぞ。
 僕の中でむくむくっと込み上げてくる感じがあった。とてもドキドキしていたけど、それと一緒になんだかたまらない気分になっていた。これが何なのかってことくらい、僕は知ってる。好きな相手と何をするかくらい、僕だって知ってる。復元されてからみんな、そういう年頃になったってことぐらい。オムスターくんはカブトプスくんのことが大好きだ、アーケオスくんもプテラお兄ちゃんのことが大好きだし、それに、お互い満更でもないって思ってる。ラムパルドお兄ちゃんはアマルルガさんのことが大好きで、タテトプスお兄ちゃんはそれを陰から応援してる。そんなみんなをジーランス爺とガチゴラスおじさんが優しく見守ってる。
 僕はアーマルドが大好きだ。でも、アーマルドはアバゴーラのことが好きだ。しかも、アバゴーラはアーマルドのことが大好きで、僕は誰にとっても大好きじゃない。ああ、もうっ。なんだか、僕だけ損してるみたいじゃん。
 なんでだよ。どうして僕だけ仲間外れなんだよ。
 ああ、ムカつく、ムカつく!
 納得なんてできるわけないだろ、こんなの。
 僕は、世界で一番、宇宙で一番、歴史上で一番アーマルドのことが好きなんだから。好きになる資格を持ってるんだ。わかったか、アバゴーラ!
 天地がひっくり返っちゃえばいいのに! そしたらアバゴーラなんてお邪魔カメムシ、空に落っこちちゃって消えちゃうんだ。僕は、落ちそうなアーマルドを触手で捉えてあげて、そしたら安全なとこに移って一緒に仲睦まじく暮らすんだ。なんたって、僕はただの「かんようしょくぶつ」じゃない。きゅうばんつきなんだから。
 なんて僕はぼんやりと考えていたら、アバゴーラの尻尾のあたりからもっと大きなものがむくむくっと起き上がった。ガチゴラスおじさんがニヤニヤしながら言っていた。アバゴーラのは、それはそれはすごいんだぞう、って。確かにそれはスゴいって思った。僕の触手一本よりデカいかも、って思った。
「今日はどうする、アーマルド」
「そうだな」
 アーマルドはぶきっちょに首をもたげてそれを見た。口だかほっぺただかわからない辺りがほんのり赤くなって、目つきはちょっと怯えて、ちょっと興奮もしてるみたいだった。
「……舐めたい」
「うしっ」
 アーマルドの頭をナデナデしながら、アバゴーラは上顎の牙をカチッと鳴らして、のしかかっていたカラダを起こすと、今度は自分が床に寝そべった。亀がひっくり返った姿勢って、とても無防備で、滑稽だった。そして青いお腹と尻尾の境目からニョキニョキ生えてるおおきなねっこは、何というかグロかったけど、アーマルドにとってはそうじゃないみたいだった。それを見て、なんだか幸せそうだった。
「アバ……」
 って言う声は、まるでアノプスの頃みたいだった。そしたら、アーマルドの爪と同じくらい大っきくて太くておぞましいアバゴーラのねっこを、何の躊躇もなく咥えて、ペロペロと舐め始めたんだ。パカっと開いたアーマルドの口は、もうアバゴーラの尻尾にくっついてた。平べったい頭に乗っている目みたいな赤い模様が上下にゆさゆさと揺れてた。
「うくっ!」
 アーマルドの息はどんどん荒くなって、目をきつく瞑ったり大きく見開いたりして苦しそうに見えたけど、アバゴーラはアーマルドを労るように頭とか背中の翅を撫でさすってた。にゅぷ、ぶぢゅ、じゅじゅじゅっ。さっきよりもヤな音が僕の中に響き渡って、僕はイヤな気持ちになってきた。
「どうだ、アーマルド」
「ふはっ、うぐっ、いぎゅぃっ」
「よーしよし、いい子だな」
 アーマルドをいい子だって! あいつ、アーマルドのこと、子供扱いしたぞ! アーマルドだってもう立派なアーマルドなんだあっ! そんなアーマルドにこんなことさせてるお前の方が子供じゃないか! アバゴーラのバカ、クソガキはお前だろっ!
「……ごらあ」
 仮面を被ったみたいなアバゴーラの瞳が、ぎょろりと僕の方に向いた。その顔はいつの間にか、僕の真ん前にあった。ああ、いつの間にかまた僕、二匹に首を伸ばしちゃったみたい。アバゴーラはコイキングみたいな目をしてた。それに、雄らしい首元からくっきりと血管が浮き出しているのが見えてた。いきなり殺気だった声を出したせいで、アーマルドはびっくりしてむせそうになって、慌ててねっこから口を離した。
「これで二度目だなあ、観葉植物ぅ……?」
「……」
「俺らのセックスをまじまじ見て、そんなに面白えか……?」
「……」
「おい、なんとか言えっての」
「僕は『かんようしょくぶつ』だよ」
「だああああああっ!」
 アバゴーラは苛立たしげに叫んだ。アーマルドはまだゲフンゲフンしてた。僕はシュルシュルと首を縮めた。アバゴーラのおおきなねっこは大きいままだった。
「テメエっ、次やりやがったら、マジのマジでぶっ飛ばすからな! アーマルドのダチだろうが関係あるかっ!」
「ほ、本当にゴメン、アバ……」
 やっと話せるようになったアーマルドが申し訳なさそうにする。
「元はと言えば、俺が決めたことだっ、不快に思ったんなら、俺のせいでもあって……」
「お前は悪くねえよ、アーマルド」
「あっ……」
「好きだ、愛してるぜ」
 そう言ってアバゴーラはアーマルドとまたキスをした。僕に見せつけるように。ちょうはつするような目線を向けもしなかった。まるで、僕なんかここにはいないかのように、目を閉じて、あからさまに大きな音を立ててベロを絡ませ合いながら。
「アバ、アバ」
 アーマルドもすっかりアバゴーラに身を任せたみたいに抱かれて、子供みたいだった。研究員のおじさんに抱っこされてるみたい。全身から力が抜けて、目は潤んで、ふやけて。硬い装甲みたいなカラダが水みたいになって、アバゴーラのヤツと一つになってしまいそうだった。
 なんか、楽しそう、幸せそう。
 僕がボンヤリしていると、首が届くくらいには近いはずの二匹との距離がどんどん遠くなっていくようだった。アーマルドにさよならを言われてるみたいだった。僕は本当に「かんようしょくぶつ」になってしまいそうだった。僕はツボをひっくり返したみたいな頭をゆったりと振りながら、僕が僕であることを確めておいた。
「なあ……アーマルド」
「ああ」
「始めっか」
「ああ」
 そんなことを小声で囁き合うと、アーマルドはまたアバゴーラに寝かされた。けど、今度はアバゴーラのヤツ、アーマルドの尻尾の上に跨ると、あのペタペタと地面を踏むあんよを両ヒレで持ち上げた。すると、アーマルドのお腹から尻尾が丸見えになった。お腹のクリーム色の模様からはアバゴーラほどではないけれど、アーマルドのねっこが生えてるのがよく見えた。僕も初めて見た。すごくカワイイな、って思った。そして、その下からはなんだかとても広い穴が縦開きになっていた。
 アバゴーラめ、そこをペロリと舐めた。アーマルドは堪らず大きな甘い声で叫んだ。アーマルドが叫び続けてるというのに、アバゴーラはしたでなめ続けて、両ヒレでいっそう大きく開いて、今度は口をつけて、ぶぢゅぢゅぢゅぢゅって汚い音を立てて、舐めたり吸ったり啜ったりして、キモかった。
「あ゛っ、アバ……」
「ふはぁ……はぁ……」
 ヤバい息をしながら、アバゴーラは無我夢中で尻尾の付け根をチュウチュウペロペロしていた。僕は黙ってそれを見ていた。
「ああ、はあっ!」
 息継ぎするみたいにアバゴーラは顔を上げた。アーマルドの穴は、ものすごく大きくなっていた。僕の触手も入りそうだった。そして、アバゴーラのおおきなねっこも凄まじく大きくなっていた。空を切る音が聞こえてきそうなくらい、ピンと宙に跳ね上がったのを僕は見た。
「よし、やるぞっ、アーマルドっ!」
「ああ、頼む……」
 アバ、アバ、ってアーマルドはうなされたように呟き続けていた。そんなアーマルドを柔かに見つめながら、アバゴーラは自分のおおきなねっこをヒレで支えて、そっと、アーマルドの開かれた穴へとあてようとした。
「力抜いてくれ、アーマルド」
「わかった、アバ」
「少しずついくぞ……」
「ああ……!」
「…………うっ!」
「んんううっ……」
「うわああああああああああ!」
「ぐらああああああああああ゛っ!」
 もうダメだった。僕はいつの間にか二匹の間に首を伸ばしていた。アバゴーラが怒鳴るのもお構いなしだった。
「このっ、観葉植物……観葉植物ううううううう……!」
 キレたアバゴーラの声には怨念みたいなものが漂っていた。僕に対する強い憎しみがたっぷりとこもっていた。
「仏の顔も三度までって俺は言ったよなあ……? オスに二言はねえからなあ……?」
「……僕は『かんようしょくぶつ』だよ」
「うっせえ! もう俺は限界だっつってんだ!」
 アバゴーラは狂ったように怒った。
「わ、悪かった、アバ」
「お前だってお人好しが過ぎんだよ! こんなおつむのおかしい観葉植物くんなんざ、最初から放っておきゃよかっただろうがよう!」
「わ、悪かった」
「ちっ、観葉植物も大概だけど、なんと言うか、常識ねえのかよ……」
「ご、ごめん、ごめんよ……」
「はっ!」
 なんだよ。
 なんなんだよ、これ。
 どうして、アーマルドが悪いことになってるの? アーマルドはアバゴーラのことが大好きなんだよ?
 僕はただ、「かんようしょくぶつ」として、アーマルドの幸せを見ていたかっただけなのに。
 ああ、僕がいけなかったんだな。僕は「かんようしょくぶつ」なのに、二匹の幸せに割り込んでしまったから。
 でも、アバゴーラも最低じゃんか。僕が大好きなアーマルドを好きになったくせに、自分勝手にキレ散らかして!
 ざっけんなよ!
 いい気になりやがって!
 アーマルドが可哀想だろ!
 このっ、クソゴーラ!
「うがっ!」
「ゆ、ユレイドル!」
 僕はいつの間にか触手を使って、アーマルドとアバゴーラをぐるぐる巻きにして、身動きを取れなくしていた。後から先は、何が何だか僕にもわかんなかった。
「ううううううううっ……!」
 余った触手を、僕はアーマルドとアバゴーラのお腹と尻尾の間にグリグリと押し付けた。アーマルドの中に入っていく感覚がした。アバゴーラの中でゴリゴリという感触がした。触手を通して、グチュグチュってアバゴーラがしたみたいな音が伝わっていた。でも、気持ち悪いも何も、僕にはなかった。
「ユレイドル、頼む、やめてくれ! ああっ」
「ぐあああっ!……ああっ!」
 二匹の喘ぎ悶える声を聞きながら、僕は何も言わなかった。何も聞こえないもん。だって僕は「かんようしょくぶつ」なんだ。「かんようしょくぶつ」なんだ。
 僕は触手を二匹からようやく離した。縛られて、中を弄られて息も絶え絶えな二匹を、僕はぼんやりと見下ろしていた。仰向けになって、おおきなねっこをだらしなく垂らして、ビクビクと震えていた。
 その時、何かがパキン、と弾ける音がした。
「ぴゃっ!」
「あ゛ぐうっ!」
 アーマルドとアバゴーラが同時に悲鳴を上げた。僕はキョトンとした。
「て、でめっ」
 苦しげにアバゴーラが言った。
「俺たちに、何かしやがった、だろっ……!」
 僕はポカンとした。でも、ふと気がついた。触手を二匹の中に押し付けていた時、僕は思わず何かを出した気がした。再び、パキンと音がすると、二匹は激しく喘いだ。タネ、みたいな、そんな感じのもの、だったような。また、パキン
「あぎゃっ!」
「や゛がアっ! いっ、イぐっ……!」
 ああ、そういうことか、パキン
「ゆれいどるうっん!」
「ムり゛っ、やんめでくレ!……」
 種を植え付けたんだな。
 パキンパキン
「やじゃっ、イギ死ぬぅ……!」
「に゛ゃあぅっ!」
 パキンっ!
「ユレイドルぅ!」
「ダめだっ、オれ、いグ」
 パキン!
 悲鳴
 二匹は、「潮」を吹いて。
 断末魔
 で、沈黙
 
 それと、虚無



 ……ああ、全部がダメになっちゃった。僕のせいだ。僕のせいだ。僕は悪い子だ。悪い子だ。
 僕の目からポタポタとが溢れていた。ああ、パッチらごおン、助けてよう! 僕、アーマルドの幸せを台無しにしちゃったんだあ! アーマルドがだって思うことをしちゃったんだ。アーマルドにわれちゃったんだあっ! 僕、ウオノラゴンくんみたいにあべこべにされちゃうんだ! 僕はもうここにいちゃいけないんだあっ! 僕なんかんじゃえばいいんだっ!
 うわーーーーーーーーーーん!



 ペシっ。
 いきなり僕の頭にからてチョップを食らわせたのは、にっくき、にっくきアバゴーラのヒレだった。
「おい」
「……」
「ごら」
「……」
「ユレイドル」
「僕は『かんようしょくぶつ』だよ」
「もうそんなこと、どうでもいいだろが、ボケ」
 僕は恐る恐るアバゴーラを見上げた。まだ顔には血管が浮き出てるけど、さっきよりはだいぶ穏やかな表情だった。
「お前の気持ちはようくわかった、けどな」
 アバゴーラは言った。
「オスってのは、気持ちの割り切りも肝心なんだぜ」
「……」
「アーマルドのことが好きなんだろ」
「……」
「でも悪いな、あいつは俺のもんだ」
「……」
「悔しいだろ? だったら、奪ってみるか? あん?」
「……」
「おう、観葉植物」
「……」
「俺はあいつのことを本気で愛してるからな」
「……僕は」
 僕は言おうとする。
「僕は、ただアーマルドが幸せになって欲しいだけなんだ」
「そうかそうか、じゃ安泰だ」
「むっ」
「俺があいつをたっぷり幸せにしてやるよ」
「んっ」
「だから、お前は見守ってればいいんだよ、観葉植物くん」
「ふんっ、なら」
 僕はそっぽを向いた。
「お幸せに!」
 ちょうど八回目のパキンがしたのはその時だった。
「あ゛ぎゅうっ!」
 その言葉と共にアバゴーラは果てた。アーマルドはもう果ててた。疲れてたんだね、きっと。
 でも、なんだかせえせえした。スッキリした。僕の中でつっかえていたものが全部サッパリしたみたいだった。ああ、良かった。これで僕は、純粋にアーマルドの幸せを願えるんだ。アバゴーラと一緒に幸せになって欲しいなあ。僕はアーマルドとアバゴーラが昇天してるここから意気揚々と立ち去る。
 だって僕は「かんようしょくぶつ」なんだ。二匹の幸せを見守って、何が悪いの?



後書き

自分を観葉植物だと言い「はる」、ユレイドルくんということで一つ

というわけで、こちらと合わせて、2作で仮面被っておりました!
でもこんなテーマで、隠しおおせるわけがない! 仮面を被るより前に、好きなもん書いてしまいましたね!
前々回の字数バトル(4/11)時にあらかた完成させていて、開幕初手投稿を狙って投稿初日を迎えるまで、プラグインでずっと文字弄っておりました……

それでもってユレイドルくん。観葉植物くん……くさ/いわ……♂×♂……あっ(察し)要素があることに気付いたのは、結果発表直後の某氏のツイートでしたとさ。

以下、投票コメ返し

勢いで笑いましたがすけべは目に浮かぶように濃厚でとてもよかったです (2021/04/26(月) 23:09)


ストーリーみたいなものではなく、ひたすら勢いだけのお話ですが、このユレイドルくんの行動原理は「アーマルドが大好き」、それに尽きます。
ただそれだけで、アーマルドとアバゴーラの濡れ場をガン見するユレイドル、という前々から考えてたネタでございました。

観葉……寛容……色んな意味のかんようがとても楽しかったです! (2021/05/02(日) 00:00)


明確なストーリーを度外視する以上は、別の方面で印象を植え付けたい、となって今回やったのが
「僕は『かんようしょくぶつ』だよ」
という言葉をしつこく連呼させることでした。プロパガンダですね。プロパガンダです、実際。
みんなも化石ポケを愛でよう!

結果2票ということになりました。お読み頂き&投票していただきありがとうございました!
つくづく短編の難しさを痛感させられる大会でしたが、来るべき変態、そして次の短編ではリベンジしたいところ


ちなみに、今作、これまでのポケモン小説からところどころモチーフやネタを拝借しているところがありますので、参考文献かつオマージュ元をば。
どれも、名作なので是非読んで欲しい!

参考文献(敬称略)

狸吉Roots of Fossil』(2010)
アーマルド×ユレイドルのCPと言えば、こちらのwikiの大古典を挙げない訳にはいかないでしょう(本編だとむしろアノプス×リリーラがメインではありますが)。ジーランス爺のキャラも今作でアノプスの友人である調子の良いジーランスがほんのりとイメージされています。

水のミドリ幼なじみは鬼嫁に』(2018)
終盤のやどりぎプレイの元ネタはこちら。ユレイドルくんが剣盾でやどりぎのタネ習得したと聞いて、少しでも書き込まずにはいられなかった。なんというか、アーマルドくんもアバゴーラくんも、わりとダメよりの雄だね……なら、最適だな!

円山翔Choice』(2019)
本文中には明言はされてないですが、ユレイドルくん主役の物語(で大丈夫ですかね?)。主からポケハラされてるユレイドルくん、可哀想で可愛いよね……と言うと原作の本意から大きく逸れることになってしまうのですが。全体的に『UNDERTALE』Gルートの影響が色濃い、ゾッとさせられるお話です。

大会期間中にはポケモン化石博が発表されたりと、化石ポケ推しには一転春のような時代がやって参りました。
てわけで、もっと供給増えればいいなー……って

作品の感想やご指摘はこちらかツイ垢へどうぞ

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Last-modified: 2021-05-02 (日) 03:31:41
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