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幼なじみは鬼嫁に

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○○○)-

こちらはR-18作品です。
本作品は『幼なじみは花嫁に』の続編にあたる物語となります。あらかじめそちらを先に読んでいただけると理解がスムーズになります。
前作同様ひとを選ぶ特殊な官能表現を含みますので、何でも許せる方のみお楽しみください。

○○○)-

 夫の帰りが遅い。
 前の日まではいくら仕事が長引こうとも、アズマは日が暮れる頃には買い出しも済ませ家に戻ってきていた。へとへとにくたびれているはずなのに、愛する妻へ向ける笑顔も忘れない。キッチンで野菜を切りながら階下の玄関が開かれる音を待っている時間が、スカーレットは好きになり始めていたところだった。
 この日はもう、エプロンは畳んでイスの背もたれに掛けてあった。陽はとっぷりと沈み、燭台の明かりももう消してある。家の裏手に流れる小運河のせせらぎは、しんしんと積もる雪ように静かだ。じっくり煮込んだスープ鍋の底では、味の染みすぎたリンド豆が冷えて沈んでしまっていた。
 ロズレイドのマントが皺になるのも厭わずに、スカーレットはシーツへ背中を沈ませた。
「……どうしたものかしら」
 あの屋根裏に置かれていたものよりもひとまわり大きな藁の寝台に横たわり、寂しく闇の跋扈する新居を眺めた。濃淡をつけた茶色2色のレンガブロックで組み上げられた2階のワンルームは、家族が増えた新婚夫婦にとって少し手狭かもしれない。バルコニー際に据えられたベッドの枕元、バスケットで小さく寝息を立てる娘のスボミーを、スカーレットはブーケの先で愛らしく撫でた。
 孵化後10日になったスボミーの娘カーマインは、ようやく声が出せるようになってきた。およそ3時間おきに目を覚まし、栄養をよこせと泣きじゃくる。日が高いうちは裏庭で日向ぼっこして光合成の練習をさせるのだが、夜はそうともいかずスカーレットの悩みの種だった。粉ミルクを溶いたものを哺乳瓶からあげるも、消化管の未発達なスボミーにはそれが苦痛らしい。発熱や下痢はつきもので、スカーレットはその合間に浅い睡眠を繰り返す毎日だった。慣れない土地での初めての子育て。負担は決して軽くはないが、いとしい娘と幸せな家庭のためだ、いちばん大変な時期はどうにかやり過ごせた気がする。
 それでもいざというとき頼りになるのは夫だけ。その夫の帰りが遅いのだ。何が起きたのか、嫌でも想像してしまう。
 もしや浮気だろうか。草食系のアズマに限って……とは思ったものの、確信には至らなかった。本気になれば彼がヘタレの皮を脱ぎ捨てて本性を現すことを、スカーレットは身をもって知っている。発情しやすいマリルリという変態な種族の彼のことだから、悩殺的な雌に誘惑されればスタコラ付いていってしまうかもしれない。身ひとつで転がり込んできた彼ら新婚夫婦に優しくしてくれるお隣のアマージョあたりにかどかわされれば、イチコロだろう。そうでなくても、これだけ帰りが遅ければ怪我や病気で倒れているか、何かの事件に巻き込まれているのかと悪い方向へ思考が流れてしまう。
 ようやく寝かしつけたカーマインのおでこを撫でると、ミルクを吸う夢でも見ているのか口をむにゃむにゃさせる。と、バスケットの綿に隠れて、娘と一緒に木の実が眠っていることに気がついた。スープに使えなかった実りの悪いリンドを、スカーレットが炊事している間、娘がオモチャにして遊んでいたようだ。摘みあげたそれは、木の実の成長途中でふるい落とされたらしい。どうにか結実までこぎつけても栄養を送られず、10センチにも満たずに縮んで枯れてしまっている。ブーケの先につまんでそれを振ると、3つ連なった小ぶりな(さや)の中でからからと寂しい音がした。
 スカーレットはゆるゆるとため息をついた。――まるで私たちの新婚生活みたいじゃない。
 ふと、スカーレットが顔をもたげた。表通りの石畳をこする音を聞きつけて、ホッと笑顔に崩れる。聞き間違えるはずもない、アズマの足音だ。
 蝋を節約するために消しておいた燭台へ火をつけ直し、閉じていた鎧戸を押し開く。窓から通りを見下ろせば、漏れる灯りに気付いたアズマが仰いで手を振ってくれた。部屋に引っ込んだスカーレットは小躍りしながら石段を下りる。玄関の両開き扉に少しだけすき間を作って、晩秋の冷たい風を纏わせた愛しのマリルリを出迎えた。温かい灯りに浮かび上がる、やつれ気味な彼の笑顔。
「お帰りなさい。どうしたのこんなに遅くなって」
「……ただいま。起きてくれてたんだね、ありがとう」
 リュック型の鞄を肩から外しながら、アズマはいそいそと2階の生活スペースに上がっていった。なにがあったのかと心配そうに訴えるスカーレットの視線をかいくぐるように、どうしてか彼は伏し目がちだ。
 それにスカーレットが気づかないはずがない。ろうそくを灯したダイニングテーブルのイスに腰を据え、向かいに座るようアズマに促した。
「ちょっと……なんで目を合わせようとしないのよ。どうしてこんなに遅くなったの?」
「それは……ごめん、言えない」
「えっ」
「変に心配しなくても大丈夫だから」
「そ……そう?」
 小さく切り上げて、アズマはぎこちなく話題を変える。スカーレットもそれ以上踏み込むようなことはしなかった。きっと残業か職場での付き合いがあったのだろう。ポットを小さな暖炉にかけ、蜂蜜湯を淹れなおす。日付が変わるまでの十数分が、限られた夫婦の時間だった。カーマインが初めて「ママ」と呼んでくれたこと。建築現場で石材が足りずに、竣工までまだ時間がかかりそうだということ。砂浜で拾った桜色の貝殻を親に見せびらかしていたあの頃のように、会えないうちに起こったどんな些末なことでも教えあった。
 それでもスカーレットは夫の隠しごとが気にかかる。言葉の隅に棘が飛び出していた。
「税の手続きと近所へのあいさつ回り、ぜんぶ私がひとりでやっておきました」
「……何も手伝えなくてごめん。ありがとう」
「ごめんもありがとうもないわよ。こんな遅くに帰って、パパになった自覚があるかって訊いてるの」
「だから遅くなったのはごめんって。これは……その、まだ言えないけど、スゥちゃんのためだから」
「私のためなのに私に言えないってどういうことよ」
 目を合わせようとしないアズマ。いつもはすぐに白状する彼も、こればかりは口を割るつもりがないらしい。ここまで露骨に避けられればもう、スカーレットはなんとなく勘付いていた。無意識に目じりへ力がこもる。
「……前から聞きたかったんだけどさ、私と駆け落ちしてよかったと思ってる? ついこの前まで両親とぬくぬく暮らしてたんだし、誰にも頼れない環境が耐えられないんじゃない?」
「そっそんなこと……ないよ、僕はスゥちゃんと結ばれて幸せだよ!」
「なによ今の間! やっぱりストレス溜まって夜遊びしてきたんでしょう!?」
「ちっ違うよっ! 僕がそんなことしないって、付き合いの長いスゥちゃんがいちばん分かってくれてるでしょ!」
「だったら私の気持ちも分かるでしょう!?」
 下唇を噛んだアズマが、何か言いたげに目元をゆがませる。テーブルに投げ出された彼女の腕へ縋るように手を重ねようとして、その丸い手先をぎゅっと握りこんだ。つかの間だけ逡巡して、顔をそらしつつ小声を漏らす。
「……怒ってるスゥちゃん、可愛くないよ」
「おい今なんて言った」
「ぼ……僕だって一生懸命なんだよ! 何にも知らないのにそうやって怒っちゃってさ!」
「こっちこそすぐ飽きるブスで悪かったわねぇ!」
 アズマを押しのけるように声を荒げて、スカーレットはブーケを突きつける。でも、と言いかけて口籠る夫は怯えを隠すように鼻をひくひくさせていて、それがスカーレットをいっそう苛立たせた。溜まっていた鬱憤を爆発させそうになって、寝ながら唸り声を上げた娘が目に入る。ハッと我に返って、スカーレットは押し黙って肩を落とした。
「……もういい、寝る。食べたいなら夕飯残してあるから温め直して勝手に食べて」
「…………」
 耳を折り曲げる夫を置いて、スカーレットはベッドにもぐりこんだ。枕元にバスケットを引き寄せて娘を撫でる。数時間後にはこの子の夜泣きで起こされているはずだ、こんなことなら夫の帰宅を待たずにさっさと寝てしまえばよかった。
 アズマもキッチンの鍋には手を付けず、擦り切れたため息でろうそくを吹き消した。彼女と溝を作ってひとつしかない寝台へ体を滑り込ませる。お互い背中を向けたまま、おやすみも言わずに目を閉じた。ごめんね、とアズマのかすれ声が聞こえた気がしたけれど、スカーレットは気づかないふり。
 仲直りのきっかけを探して毛布の中をさまよう丸い尻尾を、スカーレットはにべもなく蹴とばした。

○○○)-

幼なじみは鬼嫁に

水のミドリ

○○○)-

 次の朝、スカーレットが目を覚ますともうアズマは仕事に出たようだった。顔を合わせるのが気まずいのだろう、残された書き置きには「昨晩はごめん、朝ごはんは我慢します」とだけあって、寝起きでそれを見つけたスカーレットは大きく息を吐き出した。
 アズマが身を粉にして働いていることは、口に出さずとも彼女はひしひしと感じていた。朝陽よりも早くベッドから這い出し、まだ暗いうちから町はずれの湖へ漁に出る。スカーレットのこしらえた朝食を食べにいったん家へ戻ってきたと思えば、すぐに次の仕事へと向かっていった。マリルリらしく力持ちで体力のあることを生かして、この数日は城の内装を補修するとかで宮殿まで出向いていたはずだ。陽が傾くころには撤収作業に入り、夕市で足りない食材を買い足してようやく家に戻ってくる。
 変わらぬ愛を誓い合ったはずなのに、幼なじみの関係だったときに比べるとアズマとの時間がほとんどない。彼が帰ってくるまで、スカーレットは家に閉じ込められてひとりぼっち。数時間おきにぐずつく娘をあやし、掃除のために敷きっぱなしだった安物の絨毯を引っぺがす。この日ばかりは1階の整理まで手を回す余力はなかった。合間の時間に畑の植物をいじり、娘のおくるみを縫い繕う。一縷の希望へ縋るように、夕方にはリンド豆のスープを調味し直しておいた。
「早く帰ってきてよぉ……」
 しかし、女の悪い予感は当たるもの。この日もアズマはなかなか帰ってこない。ベッドへ横になり娘を寝かしつけてふと顔を上げると、窓の外ではもう満月が昇り始めていた。
 あの日の夜、確かにアズマは「がむしゃらに働く」と豪語していたけれど、さすがに体をいわす過労っぷりだ。知らない土地で生きていくためとはいえ、ろくに夫婦の時間も取れずにハネムーンが終ってしまった。
 あれから1ヶ月、彼と迎える2度目の満月の夜。窓枠にもたれかかり夜空を見上げながら、スカーレットはあの晩を思い出していた。漕ぎ出した小さな帆船は運よく順風を捕らえ、日の出と同時刻に大陸の港町へ流れ着いた。町が起き出す前に身を潜ませられたことが、思い返してみればひとつ目の幸運だった。アズマがワインの買い付けの手伝いをしていたときに固い友情を結んだというウォーグルの元へ転がりこみ、日の入りを待って陸路で抜け出した。彼が尽力してくれたおかげで慣れない町でも不審の目を向けられず、旅路の支度もいたってスムーズだった。馬車を乗り継ぎ4日かけて北へひた走り、レンガ屋根の軒が美しく立ち並ぶ王都シャムに流れ着いた。不揃いな大きさの丸石で敷き詰められた石畳の大通り、両脇に立ち並ぶ家々の窓には植物のプランターが掛けられている。城下町の裏通りにある蔦の這った古屋を、タダ同然で借り受けた。ブドウ農園を営んでいるウォーグルのもとで働くチェリムの元花屋らしいが、彼はもう戻らないため使っていいとのこと。何から何までよくしてもらった彼らには感謝の念が湧いて溢れてくる。生活が落ち着いたら、日持ちする木の実でも詰めて贈らせてもらおう。
 駆け落ちしてきた島の噂は耳にしない。スカーレットの元婚約者で侯爵のフシギバナは仁徳を備えているから、残してきたアズマの両親に厳罰を与えたり、裏切ったスカーレットの故郷を焼き討ちにする、なんてこともしないだろうけれど。逆に考えてしまえば、捜索願も出されていないということはドクダミにとってスカーレットはやはりその程度の存在だったということだ。それはそれでモヤモヤするが。
 ひと月経って、生活できる最低限の環境は整えることができた。キッチン周りにはびこっていたクモの巣を取り払い、崩れてしまっていた壁にはシャム名産の赤茶けたレンガを埋め直した。荒れた裏庭も開墾し、試験的に植えてみたリンドの実がちょうど収穫できたところだ。しかしその作り直したスープもまた、アズマにおいしいと言ってもらう前にだんだんと冷めていってしまっている。
 うとうとしていたところで、スカーレットはすっと目を覚ます。聞き慣れた足音、よかった、前日よりもアズマは帰りが早いらしい。
 玄関で出迎えたアズマはうってかわって明るかった。ぐいぐいと彼女の肩を押すようにさっさと2階へ上がり、ろうそくで灯りを確保する。背負っていた鞄を放り投げ、戸惑う彼女をベッドの縁に座らせた。
「スゥちゃん、ずいぶん待たせちゃったねっ」
「う、うん……。どうしちゃったの、テンションが変よ。まさか薬物とかに手を出していないわよね」
「いいからいいから」
 戸惑う彼女へ(ひざまず)いた彼がそっと差し出したのは、直方体のシンプルな箱。それがなにか瞬時に把握したスカーレットが、えっ……、と目を見開いた。喜色の浮かびあがる表情で、にんまりとしたアズマの顔とリングケースを交互に見比べる。
「いつか必ず僕がプレゼントするって、言ってたでしょ」
「えっうそ、うそうそうそっ」
 そっと開けられた箱から覗くのは、柔らか紺の絹地にうずもれたサイズ違いのペアリング。彼女のとなりに腰かけたアズマが、両手のブーケで口許を覆うスカーレットを抱きしめる。リングケースを握りながら、彼女はあまりの歓喜に縮み上がっていた。
 思わず染み出した涙を拭って、頬をすり寄せてくるアズマに尋ねる。
「もしかして……、昨日帰りが遅くなったのって」
「指輪屋さん、ちょうど街の反対側にあったから。途中で道にも迷ったし、行ってくるのに時間がかかっちゃったんだ。オーダーメイドのデザインもなかなか決められなくてさ」
「それで、今日は完成品を取りに行っていたのね」
「うん。1日でできちゃうんだから職人さんってビックリだよね」
 それにしたって神業だ。オーナーのフーパというポケモンはなんでも空間を自由に繋げる能力があるらしいから、物資の運搬には時間がかからないと聞くが。
 わだかまりも解け心底朗らかなスカーレットへ、アズマが向き直る。
「スゥちゃん、手を出して」
「う、うんっ」
 彼女の差し出した青いブーケを下から支え持ち、アズマは右手で結婚指輪を通していく。デフォルメされた丸っこい妖精が彫られた、妖精グループのカップルに贈られるプラチナの指輪。小さなリングにみずみずしい花びらは柔らかく潰されるも、受け入れた先でふわりと咲き戻った。
「ずいぶんと小さい指輪ね。これだと腕まで通らないわよ」
「それでいいんだ。前のリングは豪勢だったけど、スカーレットにはこっちのが似合ってる。自然では青いバラは咲かないから、ロズレイドの左腕には『奇跡』って花言葉がつけられているんだってね。お隣のナッシーさんから教えてもらったよ。僕たちが今こうして幸せに暮らしていられるのも奇跡の連続だし、それが窮屈そうに縛られているなんて、見ていられないから」
「……ほんっと、たまーにカッコいいんだからアズマは」
 スカーレットはどうしようもなく破顔して、左指に収まった指輪をうっとりと眺めた。アズマなりに考えてくれたリングの意味。前日しでかしたケンカも、水に流せてしまえるような気がした。
「じゃ、私も付けてあげるから」
「う、うん、よろしく」
 交代して彼の左手を取ったスカーレットが、いやにぎこちなく固まっている彼に気付く。自分からサプライズを仕掛けておいてなによ、とおちょくるような目をアズマへ向けた。キュっと合わせた唇をもじもじさせ、好きな子を前に縮こまる人見知りの男の子さながら目をそらしている。
「なんで今さらそんな緊張してるのよ」
「いや、その……。久しぶりに見たスゥちゃんの笑顔が可愛くってさ、落ち着かないって言うか、なんていうか」
「なに言っているの、私はいつも可愛いで……、ぇ…………」
 なんとなく落とした彼女の視線の先。アズマの股の間から、にょきりと肉色が頭を覗かせていた。
 言葉を失ったスカーレットへ、彼女が怒りの感情を取り戻す前にアズマが平謝りする。
「ごめんっ! わざとじゃなくて、スゥちゃんに触るのも久しぶりだったし……!」
「……雰囲気をブチ壊すのはなに、もしかして面白いと思ってやってる?」
 アズマの言い分はこうだった。マリルリは繁殖力の高い種族で、簡単に発情のスイッチが入ってしまう。この地に根をおろしてから1ヶ月、睡眠時間を極限まで削って過労を強いたせいで、本能が活発になっているらしい。彼も彼なりに努力はしていて、職場でも帰り道でも女性を避けるあまり白い目を向けられていたとのこと。
 すっかり醒めてしまったスカーレットをよそに、アズマはまだサプライズの成功を確信しているらしい。股の間をもじもじと必死に隠しながら、ぎゅっと目をつぶって左腕を差し出してくる。
 まったくもって独りよがりで空気の読めない夫に、スカーレットは甘い夢から一気に叩き起こされた気がした。そもそも指輪なんてもっと生活に余裕ができてからでも問題ない。子育てがいちばん大変な時期なのだから、仕事は必要最低限で切り上げて、夫婦でいる時間を大切にしてほしかった。というか渡すならシチュエーションはもっと選んでもいいんじゃない。ちょっと良いレストランを予約するとか、そういう気の利いたことはアズマが苦手なんだろうけど、昨日あれだけ騒いだ大ケンカの埋め合わせにしては、詰めがお粗末すぎるわよ!
 キスを待つ少女のようなバカ面を晒すアズマ。スカーレットはそんな夫の股間めがけて、彼の腕にはめるはずの結婚指輪をズポリと押し付けた。
「えっなに、えっ、え、……えっ。――ぅええええ!?」
「……っふふ」
 股をまさぐって激しく取り乱すアズマを、スカーレットは面白そうに見守るだけ。肉色にひっかかる指輪を外そうと滑るアズマの両腕に、しゅる、と枯れ草が絡みつく。丸い手の先がリングにかかる寸前、シーツを破いて伸びた藁の草結びが、丸まったアズマの背中をベッドへ引き倒した。
 腕の付け根を寝台へ結び止められ、けふ、とアズマが吐息する。肩甲骨を限界まで背骨側に引っ張られ、ベッドを独り占めするような姿で固定されると脂肪のついた胸と腹が山なりに膨れ上がった。
 急いで起き上がろうとして、脚を滑らせたように後頭部をベッドへ引き戻される。ようやく腕を縛られたことに気付いたアズマが、虚空に叫んだ。
「ひどい……ひどすぎるよぉっ! 僕が真剣に考えた結婚指輪で遊ばないでっ。じっと見てないで早く取って……っ、この腕のも解いてよ!」
「アズマこそあの夜、誓いのキスから押し倒してきたじゃない。仕返しよ。それにこんな可愛い奥さんを寝取っておいて、新婚生活を欲求不満にしたあんたがいけないの。浮気されなかっただけでもありがたく思ってよね」
「え、ええぇ……っ? スゥちゃんはもう僕のこと……ぅ、好きじゃなくなっちゃったの?」
 いい雰囲気からいきなり縛り倒され、さらに責められ混乱して泣き出しそうなアズマ。少し呆れたように赤いバラで自身の唇をなぞって、スカーレットは目を細めた。
「バカね。ずっと好きでいる覚悟がなきゃ、頼りないあんたと駆け落ちなんてするはずないじゃない。愛にもいろいろな形があるの。お隣のアマージョさんから教えてもらったわ」
「あの優しそうな奥さんが? というかご近所付き合いでなに話して――ゎギ!?」
 両腕を縛る藁がきつくなって、アズマは鈍い悲鳴を漏らす。いとおしそうに彼を見つめていたスカーレットの朱い瞳が、ろうそくの温かな灯りを弾くようにぎらりと棘を放った。
「……それは私が恐ろしいって言いたいのかしらぁ? 嫁を前に他の女のひとを気安く褒めないほうがいいわよ。妻の気持ちも分からないようなダメ夫には、お仕置きしてあげないとねぇ」
 鬱憤をにじませる彼女の権幕に、アズマの顔からみるみる血の気が引いていく。身じろいで内股になり急所を隠そうとする短い脚は、新たに這い出てきた藁に結ばれあっけなく開帳させられた。ついでに尻尾も付け根からシーツへ固結び。草の鞭が飛んでくる前に、アズマは怯え気味に鼻をヒクヒクさせる。
「ごっごめん! これからはスゥちゃんの気持ちもちゃんと考えるから、スゥちゃんしか褒めないから、痛くしないで……!」
「じゃあ私の好きなところ100個言って」
「ぅえ!? えっ、えっと、えっと待ってね――はゥ!!」
「そこはサッと言いなさい。それにあまり叫ぶんじゃないわよ、カーマインが起きちゃう」
「――っ!」
 叱られた子どもが涙を堪えるように、ぎちぎちに拘束を強められたアズマが兎唇をキュッと結ぶ。ほとんど回らない首をずらしてダイニングチェアのバスケットを見やれば、娘が静かに寝息を立てて綿に沈んでいた。温かい昼には元気に開く頭の蕾は、ぴったりと閉じられている。寝つきはいいが勘の鋭い娘だ、目を覚ませば両親の異様な雰囲気に泣きじゃくってしまうだろう。
 声も出せなければ、手で口も塞げない。見下ろしてくるのはいつも以上に不機嫌そうなスカーレット。身動きひとつ取れないアズマにできるのは、これ以上彼女の癇癪に触れないよう涙目で口をつぐむことだけだった。
 つぶらな瞳を潤ませる彼をなだめるように、スカーレットは優しい口調に戻る。
「大丈夫よ、お仕置きって言ったって別に痛くしようってわけじゃないから。たまには子供も仕事も隅に置いて、私とアズマの時間も欲しいな、って。ほら、私たちって恋びと同士だった期間が無かったじゃない。そういうことがしたいのよ」
「……これが、スゥちゃんのしたいこと?」
 おろおろする彼の疑問には応えずに、スカーレットは微笑んだ。ベッドの縁に腰をかけ直し、振り向きつつアズマの胸へ腕をまわす。ぽよっとした彼の右わき腹に体重を預けながら、まだ強張ったままの頬へキス。彼の不安や畏怖を解きほぐしてあげるよう、何度も淡く押し付ける。ぅ、と吐息したアズマの口許に薄い唇を引っかけ、彼の上唇を優しくねぶる。親戚の家を訪れるような丁寧さで、応えてくれるはずの彼の舌を入り口で待った。おずおずと頭を出したぷるぷるの彼のものと、舌先を触れ合わせる。友愛のしるしに鼻と鼻をくっつけて。呼吸が次第に熱を帯び始める。舌どうしが絡みつき、くすぐりつつ、お互いの気分を昂らせていく。
 それでも口づけは淡いもので、苦しくなる前にスカーレットは顔を離した。ブーケで口許を拭って、彼の顔を覗きこみながらそっと囁く。
「1か月ぶりに、恋びとらしいこと……したいでしょ?」
「う、うん」
「ほら、もう怖くないわよね」
「………………うん」
「なによその間は」
「っ、ごめ――」
 アズマの口癖を遮って、スカーレットは再度キス。重力を伴ってこじ入れられた彼女の舌が、噛まないようにととっさに固まった彼の上顎を這いまわる。大きめの前歯の裏をなぞり、引っ込んでしまった肉厚の舌を絡めとった。彼のうなじとベッドのすき間にブーケを滑り込ませ、異なる形の口をひとつに繋ぎ合わせる。一段と柔らかな彼の舌裏をこね、湧き上がる唾液をそのまま流し込んでいく。じゅぞッ、口を離すついでに音を立てて吸い上げると、彼の両耳が弾かれたように跳ねた。口まわりの唾液を舌で舐めるアズマの瞳が、燭台に照らされる彼女を求めるように欲望の灯をともしていた。
「スゥちゃん……。そんな積極的にされたらもう僕、たまらないよ。縛ってる草結び、解いてってば」
「仕事で疲れてるんだから、あんたは寝てればいいの。ベイビィだった頃から知った仲なのよ、アズマがどこを弄られればもっとたまらなくなるか、ぜんぶ分かってるんだから。……そういえばあんた、耳の付け根を刺されるのだけは、頑なに嫌がってたわよね」
「や、めてよ……。そこは敏感だから触らないでって、昔から言ってるじゃないか……」
「今は分からないわよ? きっとすぐによくなるから、私にゆだねなさい」
「か、噛んだりしないでね……?」
 見上げてくるアズマの眼にうっすらと浮かんだ期待を見透かして、スカーレットは丸まった長い右耳の中ほどを口でやわやわと挟みこんだ。脂肪のついたお腹を赤いブーケで大きくさすりながら、耳の外周を付け根側へ甘く食んでいく。水をはじく青の短毛を舌で掻き分け、毛細血管が網の目に浮き出た桃色の薄粘膜を上唇で湿らせる。いつもアズマが手入れを怠らない耳を、バラのにおいでマーキングしていく。
 密林のような生ぬるい吐息に乗せて贈られる、おそろしく甘いスカーレットのウィスパーボイス。
「どう? 気持ちよくない?」
「んんぅうぅ……っ、分かん、ない……よ」
「ふふっ、嫌じゃないなら、続けてあげるわね」
 ぎゅっとシーツを握り込むアズマの手が、抑えられない叫びをかみ殺すように小さく震える。それを横目で盗み見たスカーレットが、長い耳の付け根に歯をあてた。びくっ、わずかに逆立った彼の頭の毛皮に鼻を埋めながら、水タイプとは思えないほど高い表層温度の耳粘膜に、舌の先を触れさせる。淡い接触を感知し揺らぐ大きな体をブーケでなだめさすり、した、した、さらに耳の奥へと舌先を沿わせていく。ふかしたような熱のゆらぎ、スカーレットが口を開いて頬肉が擦れるわずかな粘着音でさえ、鋭敏に彼の耳が震え立った。横隔膜を痙攣させるだけの浅い呼吸に陥っていたアズマが、ぁ、ぅあ、とか細い喘ぎを喉奥でくぐもらせる。朱い眼を鋭く(くゆ)らせたスカーレットが唾液を舌に伝わせ、複雑な凹凸の(うね)を成す外耳道の角を、舌の先で執拗に掻き混ぜた。
 くち、くち、くち、くち……。
 にちにちにちゅにゅち、くちゅちゅるじゅるるっ。
「ぅ、う、うぅううぅ……っ、頭のなか、まで……ッ」
 直接脳を掻き回されたように、口を閉じられないままアズマが下顎を震わせた。反射的に振り払おうと動いた腕が、みちィ、草結びに食い込んで赤いあざを作る。縛られた尻尾の先まで痺れさせ、おぼつかない喘ぎをだらだらと零す。
 未経験の刺激に錯乱するアズマの体、いちど起き上って彼を眺め回したスカーレットが、気取られないよう口角を薄く吊り上げた。甘噛みと耳奥攻めに戻りつつ、じりじりとアズマを侵す毒をささやき声に仕込んでいく。
「そんなに我慢しないで、本当はたまらなく気持ちいいんでしょ。まだ触ってもいないのに、あんたの股についてるの、もうギンギンになってるわよ。縛られながら耳を噛まれて悦ぶなんて……ほんっと変態よね。そういえばあの夜、私に貶されてアズマ興奮してたわよね、気づかれてないと思ってた? 夫が変態って罵られて善がる変態だったなんて、つくづく情けなくてため息が出るわ」
「ち、違ぁ……!」
「それから確か……、変態のあんたはさんざん私の腋を舐めてきたわよねぇ」
「ぁ……それは、スゥちゃんが初めてで痛そうだったから……。もしかして、嫌だった? そしたらごめんね、ごめん、ごめんなさ――ぃいヒっ!?」
 藁で固定されたアズマの右腋を、柔らかい花びらがつぅ、となぞる。風に撫でられたようなこそばゆい刺激でさえ、スカーレットの毒で敏感にされた体が過剰に反応してしまう。麻酔のような逃れられない甘痒さが腋からも、何度も、何度も、何度も。
 震える声でごめんなさいを復唱するアズマの耳の根元へ、つぷ、彼女は強めに歯を立てた。一瞬呼吸が止まったかのようにアズマの体が跳ね、強すぎる快感を逃がすべく荒い呼吸を繰り返す。スカーレットに向けられる、苦しくももどかしそうな目つき。
「も……ぉおおっ、耳とか腋のした、ばっかりぃ……! そこはいい、から……はや、く、次いって……っ」
「アズマが何してほしいか分かるけど……口に出してお願いしてよ」
「す……スゥちゃん、頼むよ……。花びらで、あ……あそこ、つっ包んで……!」
「どこを包んでほしいの? はっきり言ってよね、夫婦の間に隠しごとは要らないわ」
「で、でも……。結婚したらスゥちゃんに情けない姿を見せないぞって僕、心に決めたのに……」
 わずかな輝きを残した双眸で縋りつくアズマをにべもなく振り払って、にゅる、スカーレットはまた耳穴をなじる。冷淡に続けていく腋へのくすぐり、横腹の贅肉をブーケでつねる。ぁあ、あぅぐ、とアズマの口から切羽詰まった悲鳴がひり出され、なけなしの矜持を保つ肥満体が先ほどよりも激しく震えあがった。
「――安心なさい。アズマがどんなに情けなくても、私は幻滅したりしないから。何してほしいか、言ってごらん」
「ふ、ぇ……?」
 幻滅したりしないから。それまで涙声を抑えることに必死だったアズマが、彼女の魔法の一言で救われたようにほろほろと破顔した。藁にも縋りつく勢いで、優しく微笑みかけてくるスカーレットへ甘えきった嘆願をさらけ出す。
「――おっお願いします、僕の、ぼくのおちっ……おちんちん、スゥちゃんの花びらで包んでくださいぃぃ!!」
「……っふふ、くふふふふふ」
 押し殺した彼の絶叫に、スカーレットがマスクの奥で朱い瞳をたまらなげに歪ませた。ご褒美とばかりに唇を近づけ、口許にうっすらと残った羞恥の欠片を拭ってやる。垂らした舌へひな鳥のように吸いついてくるアズマに、したいようにさせてあげる。
 ブーケに遮られて彼女からのご褒美を離されると、アズマは汚れた口許を舐めとることさえ忘れ、おぼつかない目線でスカーレットの顔を追った。だらしなく吊り上がる口の端、悦楽にひくつく鼻まわりが、青い毛皮で隠しきれないほど紅潮している。
 期待に満ちた服従の表情に、赤いバラで口を覆ったスカーレットも、赤らむ顔を繕うのに神経を減らしていた。ぞくり……、と、体の芯からゆすぶられるようだった。家庭を支えようと働く夫の姿も頼もしいが、心が本意に求めているのはやはり、雄の威厳なぞこれっぽっちもなく縋りつきみすぼらしく依存してくる被虐体質の、アズマなのだ。
 彼の懇意に応えてやるように、スカーレットはそのこんもりと膨れた腹に腰かけた。くぇ、と情けない喘ぎが自分の口からひねり出されたことさえ、アズマは気づく様子もない。スカーレットがちらりと見た彼の肉棒は、厚い下腹の脂肪をぐにりと持ち上げるほど健気に硬く主張していた。根元へ食い込んだ指輪に血液循環を阻まれて、よりいっそう赤黒く膨れ上がっている。はち切れんばかりに鬱血した海綿体が、やり場のない欲望を先端の節穴から垂れ流していた。
「まだ直接触ってもないのに……無様ねぇ。決め顔で指輪を差し出してきたアズマに、10分後あんたはあそこにそれをぶら下げて惨めに泣き叫んでいるんだって教えてあげたいわ。見たことないけど……まるで首輪を付けて売りに出されたドレイみたいよ」
「やあぁ、ひどいよスゥちゃ、売らないで、僕を見捨てないでぇっ。おちんちん苦しいよ、それ取って、とってってばぁ!」
「ッふふ……、見捨てないから安心なさい。それとこんなに膨らませてちゃ、引っ掛かって取れないわよ。まず1回出さないと」
「つ……包んで、早くはやく、はやっ、く……ぅううう!」
 一言一句に揺さぶられるアズマを尻に敷きながら、スカーレットは左手の花びらを肉棒の上からそっと被せてやる。3本の青バラで囲われた狭いすき間へ、絶頂へ達するには淡すぎる摩擦を与えながら包みこんでいく。
「私の手の感触、どうかしら? ……って聞いてないわね」
「あ……、っぁあぁ、あぁー……っ」
 待ちに待った直接的な快感に、アズマは締まりのない歓声をあげた。これからさらに高みへ上らせてくれるはずのスカーレットに向けられる、とろんと丸くなった期待と恍惚のまなざし。
 指輪がぎちぎちと締めつける肉棒の根元、痛ましいほど腫れあがったそこを花束で挟みこんだスカーレットが、茨を当てないようにさわさわとこね回す。小魚のように跳ねる竿をつまんでさすり上げ、ちゅ……とちゅん、たぎる先端を花の基部で優しく押しつぶしていく。それをじっくりと、じっとりと、アズマが音を上げるまで。
「ちょ――ッ、これじゃ全然ものたりないよ……っ。そのまま上下に、こう……激しくしてぇ……!」
「えーどうしようかしら。さっきのは包むってお願いで、そこまでは頼まれてないし……」
「っ!」
 肉棒を包む温かなふれあいが無くなって、アズマはまた突きはなされたような泣き顔に戻る。そこへ送られる、そっと手を差し伸べるようなスカーレットの誘惑。
「何してほしいの。私が納得するような、情けないおねだりしてみなさい? 言ったでしょ、夫婦なんだから恥ずかしいことも隠さないで――」
「お願いしますスゥちゃん、僕のおちんちん花びらでシコシコして、イかせてくださいッ!!」
「……そんなはしたない言葉まで使って必死すぎ。っクふ、あんた真正のマゾなんじゃないの」
 彼女の挑発へ食い気味に被せて、恥をかなぐり捨てたアズマが乞う。舌舐めずりを赤バラで隠したスカーレットが、彼の望み通り肉棒を包み直してやった。くしゃっと茎が外へ反るほどの握力で花輪を作り、紅いものような肉棒のでこぼこをぷりぷりと引っかける。しゅくしゅくちゅくっ、花弁のあいだに先走りの糸を引かせ、小気味良く執拗に肉棒を小突き回してやる。
「このまま私の手の中に出したら、あんた植物でもないのにタマゴできちゃうかもしれないわねぇ」
「あっ、あっあっあゃあっ、あうぅっ……っ。で、出る、でるぅ……、――――っ?」
 アズマが呼吸を裏返して、全身を突っ張った。反りかえる背筋に浮き上がる腰、ブーケの奥に突きつけた穂先からはしかし、何も出ていかなかった。花園に包まれた肉棒が、装填されたはずの欲望を空撃ちして跳ねまわるだけ。
 根元を縛る指輪のせいで、精通できない。ずきずきと疼く肉棒に自分で触れることも許されない生殺しのまま、アズマが悲鳴をしゃくり上げた。
「出ない、だせないぃイっい! 輪っかに引っかかってイけないよぉ! お願い――どうかおねがいしますスカーレット様ッ、吸って、せーし吸い出して……おちんちん楽にさせてくださいぃぃ!」
「え、ほんとに? ほんとに出せないの? …………やばっ、そんな顔されたら、私も歯止めが利かなくなっちゃうじゃない」
 泣き腫らして首肯を繰り返すアズマに、スカーレットは口許でくねらせた赤バラへたまらなげに歯を当てる。縋りつく視線をゾクゾクと堪能しながら、次はどう虐めてやろうかと思いを巡らせた。その朱い瞳が枕元にあるものを見つけ、三日月のように意地悪くたわむ。
「……どうしようかしら。さっきから私ばっかりアズマのお願いを聞き入れてあげて、アズマは私になにもしてくれてないわよねぇ」
「なんでもっ! 何でもしますからっこれ、早くどうにかしてくださいぃ!!」
 射精することしか頭にないアズマが、なりふり構わず叫んだ。飯をねだり尾を振るイワンコよろしく、先走りでヌルヌルになった肉棒をびくつかせる。もう声を抑えることすら考えつきもしない彼を見下ろしつつ、スカーレットは枕元に右手を伸ばした。愛娘がオモチャにしていた枯れかけのリンドの実を探りあてると、見せびらかすように柄をつまんでカラカラと振る。
「これを自分のに見立てて、どうしてほしいか実際にやってみせなさい」
「っハイ、スカーレットしゃまぁ!」
 目の前にぶら下がるリンドに、一瞬の躊躇もなくアズマはむしゃぶりついた。腹筋を縮ませ首の肉に皺をよせ、彼の苦手な青くさい味のボコボコした表皮に唾液を絡ませていく。コイキングさながら全身で跳ね、木の実全体を擦り上げるように唇を震えさせる。じゅる、ぢゅぽ、懸命さをスカーレットに訴えるよう、はしたない音を立てて一心不乱に舐めすする。
 もどかしげに揺すられるアズマの腹、その上で脚を組んでいたスカーレットが、肉棒から離した左手に草のエネルギーを充填させる。生み出した棘付きのパワーウィップの鞭を、慈悲もなくアズマのわき腹へ振り下ろした。
「ひゃぃイん!」
「ちょっと揺れないでくれる? 私が落ちて怪我でもしたらどうするのよォ」
「ごべ、ごめんなさいぃ! きをつけますからぁ!!」
「……あら、木の実に噛みつくなんて、あんたも同じことしてほしいのかしら」
「ひぅ!?」
 ちらりと見せた彼女の八重歯に、アズマは身の毛をよだたせた。草技のダメージを軽減すべくリンドを咀嚼しようとする本能になんとか抗い、口の中の実に歯を立てないよう唇を丸め込む。弱点を突くような横腹への大打撃も、混線した感覚神経がそれを快感だと誤審していた。疼痛と恐怖と法悦でぐしゃぐしゃになったアズマが、「噛みちぎってほしいのねこのド変態」とあざけるスカーレットへいやいやと顔を振る。
「もうだめ、おちんちん辛いっ、もげちゃいそうなんですぅ! お願いです触って擦って吸い取って、はやくキモチよくしてくださいっっっ!」
「……まったく、ほんとに情けないわァ。でもいいわ、非力で母親に頼ることしかできない赤ん坊みたいに木の実をちゅぱちゅぱできたものね、ご褒美をあげないと」
「ぅひ、いヒぃぃ……!」
 コンプレックスを棘でえぐるような罵倒も、骨の髄までとろかされたアズマには甘美な褒め言葉に聞こえてしまう。訪れる最上の快感を期待して、腫れあがる肉棒が随喜の涙を注ぎ足した。
 ちろ、と右手のリンドを舌先で舐めたスカーレットが、肉クッションから腰を上げる。汗染みが斑点に散るシーツから降り、彼の尻尾側に回った。不自然に力が籠められ筋を浮き立たせたアズマの尻を覗きこむ。
 せき止められた精液が詰まっているのかと錯覚するほど膨張した肉棒、竿を伝う先走りが濡れた白い毛皮をよじり、その下の菊門を薄ピンクにてからせていた。渇望するアズマの視線を腹越しに注がれたスカーレットが、肉棒の1センチ上で妖艶に開けた口を、クスっと悪戯っぽく吊り上げる。ふぇ? と間抜けに狼狽するアズマの後孔めがけて、右手のリンドの実をぐじゅりと突き込んだ。
「お――――ッ!? ――っちがう、そこおしりぃ! きもち悪いよ、抜いてくださヒぃ……っぉ、お口でちんちん吸ってくれるって、約束したじゃないかあ!」
「してほしいことをやって見せてとは言ったけど、それを私がするなんて約束してないわ。嫌よ、こんなグロテスクなもの口に入れたくないじゃない。アズマのくせに口答えしないでよね。……でも安心なさい、それよりももっと気持ちいいことしてあげるから。こんなことするのはもちろん初めてだけど、自信はあるのよ。タマゴを産んだときは毒の棘でアズマを刺しちゃったし、そのあとは自然回復が早い体質のおかげで激しく求められたけど……、私の特性は〝テクニシャン〟なの」
「ひ……! やだやだやだぁ、こんなのってないよ、あんまりだょ――ぅおァ!?」
 3つあるふくらみのうち先端のひとつが埋まったリンドを、スカーレットはもうひと玉押し込んだ。弾む肉棒を青いブーケで包んだり、足裏を不意にくすぐって気をそらせながら、肛門にしゃぶらせた木の実をじっとりと前後させる。アズマの唾液と腸液でぬめりのよくなった性具が、生理反応で異物を締め出そうとする後孔を丁寧にあやしていく。小さな丘が括約筋を出入りするたび、くぷ、くぽ、はしたない音とともに粘液が掻き出される。
「おしりいじられるの、だんだん気持ちよくなってきたでしょう? どんな情けない声出してもアズマのこと嫌いにならないから、ガマンしないでいいのよ」
「あ……あっ、はあぁ……! っあああ……、あー……」
「……ふふ、そうそう。もっと私に身を預けなさい?」
 10往復もしないうちに、耳の先まで真っ赤に毛を逆立てたアズマが、雌のような艶めかしいうめきをにじませ始める。リンドの柄を持ち直したスカーレットが、その声をもっと聞かせなさいとばかりに抽挿を早くした。
「――ぁあああアっ! ぅやぁ、あ、あっあっあっアああッ!!」
「えーとたしかこの辺りだって言ってたかしら」
「んひぁぐ!? ……あぇ、いまのな――にゃあああッ!?」
 ぐっぽりと根元まで進んだリンドの先端が、腸壁越しにアズマのいいところを軽く押しつぶす。自分でも知らない内臓の欣快に、後頭部をシーツへこすりつけるようにしてアズマが背中をひしゃげた。手足を食いしばる草結び、バトルで組み伏せられたポケモンが降参を示すように、限界を超えて勃起した肉棒が脂汗まみれの下腹をぺちぺちと叩く。
「男の子でもココを刺激されると、雌みたいにキモチよくなることができるんですって。気を保ちなさい、自分でするより何倍も強烈よ」
「――ぉあアぁ、ぉう……ぁああぁあアアアーーーーっ!!」
 コリコリと前立腺を愛でられるたび叩きつけられる、拷問まがいの倒錯的快感。どうにか逃れようと死に物狂いで身をくねらせるアズマ、全身を性感帯に昇華された彼の体はもはや、ブーケの柔らかな花びらがつっ……、と足裏に触れるだけでもびくびくと悶えるようになっていた。拘束をさらに強めたスカーレットが、押さえ込んだ彼の体を容赦なくいたぶりつくす。肉棒をくすぐり、横腹に鞭打ち、腋を払い、耳奥をねぶる。仕上げに木の実を肛門から勢いよく抜いてあげれば、女の子の絶頂をダメ押しされたアズマが空射精する肉棒をのたうち回らせる。
「ひ――ぁひ、にゃふ、ぅひゃああアあ~~~~ッ!!」
「ふくくク……っ、意識を失わずによく頑張ったわアズマ。それにしてもすごい顔してたわよ。鼻水までまき散らしながらヨがり狂って、可愛い反応してくれるじゃない」
「は――――ッ、はあっ、はゎぁ……。……ぁ、あぇ……? なんか……おしりのにゃか、残って……?」
「だからね、もっとあんたを虐めたくなっちゃったの。……さっきのいいところに、宿り木の種を植えつけてみたのよ」
「ふぇ……? …………。えっ」
 初めて味わわされた快楽地獄をどうにか乗り越えたアズマが、ゆるゆるとついた長い息を凍らせた。彼がスカーレットの言葉を理解した瞬間を見計らったように、青い体がばね仕掛けさながら跳ねあがった。
「――ッ、――――!!!?」
 前立腺の裏へ根を下ろした宿り木が、アズマの腹奥で眠る雄子宮を叩き起こす。養分を搾り取ろうと苗が不定期に芽吹くたび、制御可能な用量を大幅に超過した悦楽が大挙して彼の脳を潰しにかかる。
「それじゃご褒美ね。お望み通り、宿り木で体力を思う存分吸い出して(・・・・・)あげるわよ。ありがたく悶えなさいな」
「いゃ、イやぁああ゛ッ壊れる、こわれちゃいますからおちんちん許じて、イかせて、しゃせえさせてぐださ――ぁふぁあアあ゛ぁ――――」
 体の奥から縮み上がるような極致感にさいなまれ、はしたないおねだりを最後にアズマは自我まで投げ捨てた。尻尾も耳も手足の先も、縛られたままはちゃめちゃに暴れまわる。じゃじゃ馬のごとくバウンドする腹、その上へ跨ったスカーレットから微笑みを向けられるだけでもう、全身を舐めあげられるような多幸感。
「壊れていいのよ。この調子で働いているときにぶっ倒れたら困るでしょう? 体力残ってたらアズマ、明日また仕事に行こうとするんだから。足腰立たなくなるくらい吸い取っておかないと」
「あ゛――――!! っぁアあ、あ゛ぁぁあぁッぁあ、ぅあ゛あ――、――――ッ!!」
 弾詰まりを起こして地団駄を踏む肉棒を赤いブーケにはさんで、先端を秘所にあてがったスカーレットがひとつ大きな舌なめずり。「……いくわよ?」と小悪魔的に囁いた彼女が何をしでかすか理解したアズマが、命乞いよろしく吼えた。
「ら、りゃめえぇ――ッ! こっこりぇ以じょ、キモチよく、さりぇたりゃ――ぁ、ふぁあぁ、ゃあぁアあぁ……!!」
 数瞬先の未来を想像しただけで乾いた絶頂に達するアズマ。まぶたを細かく痙攣させる双眸は半分白目をむき、拘束された手足の先ががくんがくんとひん曲がる。脳の隅々まですっかりだめになった彼を見下ろして、スカーレットは本当に愛おしそうな笑みを浮かべた。
 ちゅとん、と。雌のように潮を吹くアズマの肉棒へ、触らずとも彼の醜態のおかげで良くほぐれた蜜壺がひとえに落とされた。
「――――――――。」
 脊椎を灼く激感に、アズマは声さえ失った。よだれの飛び散った口はぱくぱくさせたまま、とろ顔の両目からは湧昇の涙。宿り木に責めさいなまれる尻孔からも欲情の体液をダダ漏れにして。ずぐ、ぱちゅっ、花壺が容赦なく振り下ろされるたび、絶頂を何重にも上塗りされたアズマが全身を突っ張らせる。
 それまで獲物を虐げる捕食者の目つきだったスカーレットの瞳が、ふっと優しげな光をともす。
「ん……、家庭を支えようと頑張って働いてくれるアズマは確かに頼もしいけど、ふぅ、体を壊してちゃ元も子もっ、ないわ。ひとりでぜんぶ抱え込もうとしないでよ。――っぁ、私たち夫婦でしょ? 支え合わないとッ」
「――」
 彼女の言葉をほとんど聞き取ることのできないアズマの下腹に走る、淡い痛みを伴った心地よさ。焦点の定まらない彼の目線の先で、赤いバラにうずもれたリングが静かに輝いていた。それは確かに、アズマの肉棒に引っかかっていた結婚指輪で。限界を超えて膨らんだモノの付け根から、ましてスカーレットと繋がったままで、どうやって外されたかは分からない。けれど、精液をせき止められ行き場を失くしていた暴力的なもどかしさは、確かに下腹部から感じられなかった。あの夜のように、視界が開けたようだった。
「アズマとの子が欲しいって約束、んッ、まだ果たしてもらってないよ。だからね――ぁ、結婚指輪と同じくらい素敵なモノ、私に……頂戴?」
「――、っ――――」
 テクニシャンな彼女の〝ほしがる〟姿は威力も5割増しで。拘束を解いてアズマの左手を取ったスカーレットが、するり、とそこへリングをはめた。熾烈な攻めの末たどりついた甘々なおねだりに、満身創痍のアズマはあっけなく屈してしまう。
 深々と腰を落とされたスカーレットの蜜壺に口づけしたまま、肉棒が跳ね上がった。ぶびゅ、びゅるるーッ、大地を成すマグマさながらの熱と粘度の精液を間断なく流し込まれ、刺激に飢えていた子壺への甘いうねりにスカーレットも天上へと昇りつめる。体の隅々まで葉脈を伝ってくる彼の想い、春先の陽気にあてられたようにお腹のいちばん奥がぽかぽかと温かい。第二子を予感したなだらかな下腹部が、きゅん、と甘く疼いた。
 いつまでも硬いまま精を注いでくれる穂先を、絶頂に痺れる腰を回してこりこりとねぎらってやる。ひきつけを起こした肉棒が、最後の一滴まで余すことなく子種を飛ばし入れてくれる。胎からあぶれた白濁が、狭い花ヒダのすき間を縫って染み出してきた。こぽ……っ、スカーレットが彼の胸を這い上がると、結合部から蜜と白濁が吹きこぼれる。
 そのままアズマの頬へ落とされる、かすめるような淡いキス。
「愛してるわよ、アズマ」
「ぼく、もっ、あいひ、てる。すかー、レっ、と――」
 張りつめた開放感のなか、急速に意識を塗りつぶされてゆくアズマが、死力を振り絞り変わらぬ愛を確かめあった。


○○○)-


 次の日。太陽も南中を過ぎたころに、アズマは目を開けた。
 のろのろと起き上ろうとして、体が動かない。とっさに目を向けた左腕の付け根には、妖精の結婚指輪がきらりと光っているだけだった。草結びに締め上げられたあざはもう薄れてほとんど分からなくなっている。それでも遅れて把握した全身を内側からつねられるような筋肉痛に、前夜をありありと思い出してアズマはうなだれた。
 じくじく疼くわき腹をさすりながら、どうにか上体を起こす。綿を詰めた厚手の毛布は手で揉むと温かい。アズマが気絶した後に取り換えてくれたらしい綺麗なシーツには、凄惨なまぐわいのにおいは残っていなかった。
「おはよう、アズマ」
 と、聞き慣れた声が響いてきて、両耳を瞬時に立ち上げる。石階段から顔を覗かせたスカーレットを見た途端、アズマはベッドから転げ落ちていた。蹴り飛ばされたボールのように床を2,3回バウンドして、毛布をひっ絡ませながらもんどり打ち壁に体を叩きつける。
 キッチンの脇に並んでいた麻袋をひっくり返し、散らばった苦いリンドを口いっぱい頬張った。倒れたくずかごへ頭を隠そうともがき、天敵においつめられた小動物さながら、いつ飛んでくるかも分からない弱点の草の鞭に震えている。
 あまりの怯えように、スカーレットは1歩踏みだしたところから動けなかった。腕に娘を抱えたまま、拒絶反応を見せるアズマに戸惑いを隠せない。「ちょっと……大丈夫?」と手を伸ばすも、それだけで夫のなで肩が跳ね上がる。これ以上刺激しないように、彼女はダイニングのイスへ着き彼を待った。
 たっぷりと5分は経って、リンドを吐き出したアズマがようやく顔を上げた。おっかなびっくり物陰に身を潜めながら、パイン材の丸テーブルを挟んでスカーレットの対面に腰を下ろす。瞬間飛びあがって、尻の下に自分の尻尾をクッションにしてイスへ座り直した。切れ痔になったように手で後孔のあたりをさすっている。
 耳は丸めたまま目を合わせられない彼に、スカーレットができるだけ優しい声で切り出した。
「その……、昨夜はごめんなさい。アズマが様付けで呼んできたあたりから、私も変なスイッチが入っちゃって。……大丈夫?」
「…………はい、もう大丈夫、です……」
「ちょっと、敬語が残ってるわよ」
「ごっごめん! ……なさい」
「えげつないくらい引きずっているじゃないの……」
 朝採れのモモンを差し出すと、おどおどと受け取ったアズマはそれで口を膨らませる。控えめな咀嚼音が途切れるまで、スカーレットは夫のうらぶれっぷりを黙って見守るしかなかった。
 いくらか落ち着きを取り戻したアズマが、気落ちする妻の顔を上目遣いで窺った。
「……もうしない?」
「え?」
「昨日のみたいなこと、もうしないよね?」
「もちろんよ、アズマの嫌がることはやらないわ。……たぶん」
「!」
「絶対! ぜったいやらないから!」
「……なら、いいよ。僕だってスゥちゃんの気持ちをぜんぜん考えないで、ただ頑張って働けばいいんだって思ってたから。スゥちゃんは僕を好きでいてくれるのに、そんなありがたいことに気づかなかった僕が悪いんだって、分かったんだ」
「そこまでは言ってないのよ。あなたが家庭を支えるために働いてくれるのは頼もしいと思っているし……。ただ私は、アズマとの時間がもっと欲しかっただけで……」
 歯切れ悪くスカーレットがまごついて、胸の中のカーマインに目を落とした。前夜はさすがに草笛で深く眠らせていたが、これから娘が成長するにつれ、アズマと恋びとのような甘い関係でいることはいっそう難しくなるだろう。そう遠くないうちにお互いをパパとママで呼び合うようになるはずだ。
 穏やかな寝顔の娘を右腕で抱き直して、スカーレットはテーブルに乗せた左手をもじもじさせた。青い一輪にはめられた結婚指輪が、窓から差し込む柔らかな陽気を弱く照り返している。
 アズマもテーブルに左腕を乗せ、その根元へ彼女がはめてくれた指輪を大切そうになぞった。それからつぶらな瞳を彼女へ向ける。ひと言ずつ幸せを確かめるようにこぼす、秋の日の午後のような柔らかい言葉。
「ううん、支えてもらっているのは、僕のほうだよ。朝ご飯も晩ご飯も、スゥちゃんが丹精込めて毎日作ってくれる。お弁当だっておいしいし、野菜や木の実の栽培まで任せちゃってるのに、文句のひとつも言わずに水やりしてくれる。いくら帰りが遅くなっても起きてお出迎えしてくれるし、僕が子育てに協力できなくても許してくれる。お裁縫も上手だし、それからお掃除だってこまめにやってくれてるでしょ、ありがとう。あとは笑った顔が素敵だし、たまに怖いけどマスクの奥の瞳はいつも優しくて――」
「ちょ、ちょっと……。あなたもしかして、私の好きなところ100個言おうとしてる?」
「うん。昨日は言いそびれちゃったから」
「……………………」
 いたって真面目な彼の笑顔に、スカーレットは呆気に取られて目を(しばたた)いた。
 自分でも忘れているくらいだった。アズマを虐めるために(うそぶ)いた、ただの意地悪のつもりだったのに。その後の激しい行為の方が記憶に鮮烈なはずだけれど、アズマはそんな可愛らしい命令まで覚えていて、律儀に応えようとしている。というよりも、普段なら直接伝えられないようなことをここぞとばかりに並べ連ねている気がした。
 テーブルへ垂らされた彼女の青いバラを、アズマが丸い手の先でつんつんする。
「スゥちゃんは僕の好きなところ、100個挙げてくれないの?」
「ばっバカじゃないの!? そんな恥ずかしいこと、面と向かって言える方がおかしいのよっ」
「夫婦のあいだに恥ずかしい隠しごとは要らないって言ったの、スゥちゃんだよ」
「う……、そこも覚えているのね」
 ねぇねぇねぇ、と勘ぐってくるアズマの目からは、もう怯えのいろは抜け落ちていて。テーブルを挟んで迫られたスカーレットが、訴えてくる視線から逃れるよう顔をそらす。
「その……、…………っ。……やっぱりやめ。言葉にして伝えられる愛なんて、そんなのアズマ以外でも代わりが利くじゃない」
「ええ~?」
「はいはい、すぐそうやって調子乗るんだから。ともかく、それだけ元気そうなら心配いらないわね。……今日はもう仕事を休んじゃいましょうよ。そういえばお隣のアマージョさんから、雪が降るまで咲いている花畑を教えてもらったの。少し遠いけど、美味しいパン屋にでも寄ってピクニックしましょう。たまには家族でゆっくりしたいな」
「うん、もうあれほど頑張って働かなくていいし、僕も今日くらいはスゥちゃんと一緒にいたいな。引っ越してきてから働き詰めで、まともに街を歩いてなかったしね。それからカーマインとも触れあいたいなって、思ってたから」
「この子が好きな花を何本か持ち帰って、畑に植えてみましょう。子育てもひと心地着いたし、次の春には私も働きたいかな……って」
 アズマが動けるようになるのを待ちつつ、スカーレットは身支度を整える。カーマインにおくるみを着せ、ピクニックのバスケットに最低限のお金を携えて。愛する夫と手をつなぎながら、スカーレットは家を出た。
 後ろ手に締められた蔦の這う古民家の両開き扉には、温かみのある『開店準備中』の木札が、秋も深まる石畳の裏通りにそっと揺れていた。




――END――


 


あとがき

可愛すぎるアズマくんをめちゃくちゃに虐めてあげたかったので続編をかきました。マリルリ可愛いよマリルリ。スカーレットちゃんの技を駆使したSっ気がえげつない。私が生み出しておいてアレですがこのカップルはほんと幸せになってほしいですわ。
 花びらコキで花弁の間に白濁液ドロォ……みたいな描写がしたかったのですが気づいたら無くなっていました。前作が雰囲気重視だったので消化不良ぎみのエロ要素を吐き出した感じです。おしりいじるの初めてでした。なんでも器用にこなせる(と解釈できる)テクニシャンの特性って便利。
 ……指輪の大きさとか突っ込まないでください。

そうそう、『ネコカブリの王国』と世界観を共有させてみました。作中出てきたウォーグルくんなんかが活躍しますのでよければぜひ。



「そうだよスゥちゃん、お隣のアマージョさんになんてこと教わってきちゃたのさ……」
「疲れている夫を喜ばせる方法はないかって聞いたら、アレを伝授してくれたの。あのひとも旦那さんのナッシーとは昔からの付き合いらしくてね、新婚だった頃に夫のタマタマを踏みつけていたら進化して、それから毎晩脚で――って、アズマなに股を押さえてるのよ」
「もうご近所でソウイウ話しないでぇ!」

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Last-modified: 2018-01-28 (日) 23:48:21
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