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虹と砂嵐の向こう側

/虹と砂嵐の向こう側


「メガシンカ……今こそ覚醒の時!!」
 掲げた左腕にはめられた腕輪が、神秘の閃光を放つ。
 右手の指で閃光を力強く貫くと、前に立つ紺碧の背中が呼応するように光を放ち、眩い光の繭に包まれる。
 一瞬の間を置き、繭を裂いて現れたポケモンは、その姿を大きく変えていた。
 大鉈のように反り返った背鰭には、その峰に新たにふたつの鋭角な裂け目が刻まれ。
 顎下から血を垂らしたみたいに真っ赤に染まっている胸の縁には、歯のような突起物がズラリと並ぶ。
 元々鎌を連想させる造形だった腕の鰭は、深紅のエッジに縁取られて鎌そのものの形を成し。
 顔立ちも厳つさを増して獰猛そのものの姿となった、全身攻撃性の化身がそこに出現した。
 ……かに思えたのだが。
 変貌した自身の姿を見渡していたそのポケモンは、身体を捻ったところで突然、その動きをピタリと止める。
「どうした、鏨音(タガネ)?」
 怪訝に思ったトレーナーの問いかけに対し、向けられた黄金の眼差しには。
 深い悲しみが、込められているように見えた――――

さらさら岩第七回仮面小説大会参加作品
からたち島の恋のうた・豊穣編
 ~虹と砂嵐の向こう側~

 ▲

 ……以上が、たった今トレーナーから聞き及んだ話を、俺なりに脳内で再構成してみた光景である。
「で、鏨音にメガシンカを拒否された、と」
「そうなんだよ……」
 ガックリと肩を落として溜息を吐くトレーナー。つられてつい俺も砂嵐混じりの溜息を吐いちまった。室内で色々なものが汚れたり吹き飛んだりしているが、トレーナーは慣れた調子で倒れたスタンドを立て直すと、また表情を暗くしてうなだれる。周囲の惨事など、俺とつき合う者としてはいちいち気にしてはいられないんだろう。
「参ったなぁもう……普通の進化拒否なら、僕もトレーナーとしてある程度覚悟してきたつもりだけど、まさか僕とあいつの絆の証であるメガシンカを嫌がられるなんてメチャクチャショックでさぁ……」
「原因は一体何だったんだ?」
「訊いたけど、応えはただひと言『これイヤ』。それだけでいきなりメガストーンを突っ返して、どこかに飛んで行っちゃったんだ」
 すっかり困り果てて、頭を抱え込むトレーナー。気の毒にも思ったが、ふと引っかかって俺は訊ねてみた。
「状況は大体解ったけどなぁ、何でそれを俺にグチる? 鏨音を説得させたいんなら、エスパーでフェアリータイプも持ってるサーナイトの行方(ユクエ)の方が適任じゃね?」
「もちろん僕もそう思って、真っ先に頼んでみたんだよ。そしたら、『この件は粗砥(アラト)に任せるのが一番いい』って言われてね」
「って、押しつけられてもなぁ……確かに俺は鏨音とつき合いは長いけど、タイプ的には全然敵わんぞ? キレて暴れられたらどう収集つけりゃいいんだよったく……」
 ボヤきながらも、行方が俺を推薦したってことから、鏨音がメガシンカをゴネた理由を推定してみる。
 ……もしかして、あの件と何か関係があるんだろうか。
 忘れもしない、大体鏨音のせいで忘れようもなくされちまった、あの一年前の―――― 
「ま、いいさ、あいつが拗ねたときに籠もりそうな場所なら見当はつく。いっぺん話だけしてみるわ」
「ありがとう粗砥。頼むよ、次の大会じゃ、あいつのメガシンカがどうしても必要なんだ」
 懇願するトレーナーに頷いて、床を軋ませながら立ち上がった俺は、入り口のドアに向かおうとしてふと重大な事実に気づかされ、若干の気まずさを感じながらも再度トレーナーに向き直った。
「……ボールに入れてくんね? 出入り口が小さくて通れねぇよ」
 自己紹介が遅れた。
 俺はバンギラスの粗砥。
 名前のアクセントはアではなくてトに付ける。ここ重要。絶対に間違えないように。

 ▲

「……どこからツッコんだらいいのか訊いていいか?」
「意地悪言わないで助けてよアラト~!?」
 崖から生えて暴れている、太股にトゲのついた両足と、ブーメランのような鰭を持つ尻尾が喚く。
 案の定俺の名前を尻下がりで呼びやがったので、殊更に強く足音を鳴らして俺はその場から立ち去った。

 ~虹と砂嵐の向こう側・完



「ちょっとコラァ~!? この薄情者~っ!! 無理矢理話を終わらすなぁ~っ!?」
「冗談だ冗談。しかし薄情ってんなら、お前こそ長いつき合いのくせにいつまでも名前の発音間違ってんじゃねぇよ。俺はアラトじゃなくて粗砥だ! ったく、どうせガバイトが巣穴にするような狭い穴にでも籠もってんだろうとは思ったが、フカマルサイズの穴にはまって出られなくなってんじゃねぇよ! 大体お前、土壁ぐらいぶち壊して出られねぇのかよ!?」
「鰭が引っかかってて力が入らない~! 何とかして~!!」
 ったく、どんだけ世話を焼かすんだよこいつは。
 苛立ちながらも、俺は相手の尻尾を掴み、崖に足をかけて力任せに引っこ抜く。
「ぎゃあぁっ!? 痛い痛いちぎれちゃう……ぷごはっ!?」
 ガラガラと土壁を崩して、ガブリアスの尖った頭が現れた。
「んもう、乱暴に引っ張らないでよ!? 死ぬかと思ったじゃない!」
「期待も何もしてなかったが、礼を言おうって気にはなれんのか!? ……それと、話は聞いたぞ、鏨音。メガシンカを蹴ったんだって?」
 本題を切り出すと、ガブリアスの鏨音は両腕の爪を胸元に揃えて、プイッとソッポを向いた。
「タガネ、あんなのイヤだもん」
 聞いての通り、鏨音の一人称は『タガネ』である。もう少し自分のルックスの厳つさを自覚して欲しいもんだが、こんなのがブリッ娘しても見る野郎によっては萌え~と鼻の下を伸ばすというのだから世の中解らない。少なくとも俺には全っ然理解できん。
「何でだよ? ゴテゴテとゴツくなって、身軽じゃなくなるのが嫌なのか? それなら射矢(イクサ)が追い風を吹かせるって話になってるだろ?」
 そんな方向の話じゃないだろうとは思ったが、一応探りを入れてみた。
 初めに俺がさらさら岩を握った腕で砂嵐を巻き起こし、隣でファイアローの射矢に疾風の翼を羽ばたかせて風向きを追い風に変える。直後に相手の攻撃を利用して、脱出ボタンで射矢が鏨音に交代。メガシンカで下がるスピードを追い風でカバーし、砂の力を漲らせて相手に猛攻を加える。地震を使う時は、俺が射矢かウォッシュロトムの機作(キサ)に交代……以上がトレーナーが次の大会に向けて練り上げているプランだ。メガガブリアスを活かす戦法としてはアリだと思えるんだが。
「強くなったって関係ないよ。タガネはあの格好がイヤなの!」
 やっぱり実用性の問題じゃないらしい。
「俺は悪くねぇと思うんだがなぁ。メガガブリアス。あちこち尖る代わりに、肌付きは却って滑らかになるだろうが。お前、自分の鮫肌に不満を持っていたんじゃなかったっけ?」
 鏨音が好みそうな雌らしさを刺激するポイントを突いてプッシュをかけてみたが、やはり彼女の黄色い鼻先は横に振られた。
「そこは、ね。タガネもちょっと気に入ってたの。でも、アレはダメ」
「アレ?」
 どうやらどこかピンポイントに気に食わない部分があるようだ。
 首を傾げて訪ねると、鏨音は鰭付きの腕を持ち上げて、鋭い爪で自分の背中を指し示した。
「これ」
「背鰭……!?」
「そう」
 頷いて、鏨音は黄金の瞳をギラつかせる。
「タガネの背鰭……シャープにピンと張ってキズひとつない、出会う雄たちみんながタガネのこと後ろからギュッてしたくなるような、この魅惑の背鰭に……」
 知ったこっちゃねぇよ、とスタイル自慢に鼻白んでいる俺の前で、鏨音は牙を剥いて声を張り上げた。
「2つも! メガシンカすると2つもみっともない切れ込みが入っちゃうんだよ!? あんな姿にみんなの見ている前でなれるワケないじゃない! だって……アレじゃまるで、雄の仔みたいだもん!!」
「そこかよ……」
 呆れ半分、しかし残り半分では、俺はむしろ納得していた。
 メガシンカすると、多くのポケモンは肉体の性差が減少する傾向がある。
 雌のメガフシギバナは雌しべが縮み、雌のメガハッサムは腰つきがスマートになり。
 逆に雄のメガギャラドスは青い髭を雌のように白く染め、へラクロスやヘルガーは雌雄問わず角が大きく太く変化する。
 あるいはメガガルーラの娘が母親の袋から出てくるのも、それと関係する現象なのかもしれん。
 そしてメガガブリアスの場合は、通常は雄にしか現れない背鰭の切れ込みが、雄雌問わずサメハダーみたいに2つ刻まれるわけだ。
 メガシンカがトレーナーと絆を結ぶための、言わば第3の性別の形であるせいだとも言われちゃいるが、人間たちの研究でもまだ詳しいメカニズムは明かされていない生体の神秘である。
 しかし何にせよ、自分の雌らしさを追求したい鏨音にとっては耐え難いものがあるんだろう。
 ただ……本当にそれだけ、なんだろうか?
 行方が俺を指名したことから推測すると……
「……察するに、誰か具体的にギザギザになった背鰭を見せたくない雄がいると見た」
「そ、そんなことタガネは言ってないし……!?」
 否定の声もモゴモゴと鈍い。半端に誤魔化そうとした時点で認めたも同然だバカめ。
「残念だが、俺らのトレーナーさんにはそんな気は全然ないぞ」
「ちょ、何言い出すのアラト!? トレーナーさんにじゃないもん!?」
「粗砥、だ。何度も発音を間違ってんじゃねぇ」
 訂正を求めつつ、俺は鎌かけに引っかかった獲物を釣り上げた。
「で? トレーナーさんじゃないならどこの雄だ?」
 ……関係ないが、ガチでトレーナーラブなメガシンカポケモンは、性的特徴の退化についてどう思っているんだろう。第3の性説が正しいならなおさら気になるな。バンギラスは元々そんなに性差がないからピンとこねぇんだが。
「……笑わない?」
 滑った口元を鰭で隠し、鏨音は上目遣いに哀願してきた。
 それに対し、俺はフゥ、と砂嵐を吹かせて、鋭い睨みを突きつける。
「鏨音……友達がいのないこと言ってんじゃねぇよ」
「アラト…………」
 しつこく語尾を下げて俺の名を呼んだ鏨音に、慣用にもニッコリ爽やかな微笑みを向けて俺は言った。
「ダチの色恋沙汰なんざ、肴にするのが相場と決まって……待て待て落ち着け。鰭を地面に突き立てるな。冗談だってば」
 無言で地震を引き起こそうとしやがった鏨音を慌てて制止する。ったくコレだからガブリアスは過激でいけねぇ。
「ってか、俺の想像通りなら、今更嘲笑うまでもねぇし、な」
「…………」
 問い返しもしてこないところを見ると、やっぱり図星か。
「お前、まだ諦めてなかったんだな。〝虹の君〟のこと」
 コクン。
 口を閉ざしたまま、黄色い鼻面が縦に動いた。
「やれやれ、もう1年も前にたった一度、ほんの一合戦っただけの、名前も知らない、ろくに話もしていない相手だぜ? よくそんなに想い続けられるよな。もういい加減忘れちまえよ」
「……どこかで、タガネのバトルを見てくれるかもしれないもん。その時にあの雄みたいな背鰭を見られたら恥ずかしいじゃないの」
 追憶の海に心を沈めながら、鏨音はむくれた顔で吐き捨てた。

 ▲

 去年の4月半ばのこと。
 俺たちは〝ファミ通チャレンジ〟っていう、ダブルバトルの大きな大会に出場していた。
 大会の結果は……聞かないでくれ。あまり自慢できる戦績は残せなかったんだ。
 その大会最終日の日曜日。先発に出た鏨音と対面したのは、どこか線の細い印象を漂わせるリザードンの雄だった。
 こちらの相方がウォッシュロトムの機作だってこともあり、相性的に優位と見た鏨音は無造作に突っ込んだのだが、その突撃は彼の放った岩石封じによって阻まれた。
 ガブリアス自慢の俊足を潰され、不利を悟ったトレーナーは即座に鏨音を俺と交代させたのだが、その間にリザードンは飛沫に包まれて宙に舞い上がり、場に出たばかりの俺に向かって、鮮やかな7色をまとった虹の誓いを注ぎ込みやがったのだ。
 咄嗟に上げた砂嵐で身を包んでも、体力がレッドゾーンまで持って行かれた。天まで届いた水柱は、俺の砂嵐を美しい虹のアーチで彩った。
 その輝きに放心しているうちに、機作の放ったハイドロポンプがリザードンに命中。砂嵐の向こうに消えた彼の姿は、もう戻ってくることはなかった。俺と鏨音、それぞれ一撃ずつしか知らない、それが彼――〝虹の君〟との思い出の全てである。
 その後のことは、正直思い出したくもない。
 その時点で全員が生き残っていた俺たちのチームは、相手が直後から放ってきた虹を帯びた攻撃によって、一方的に、文字通り手も足も出せずに全滅に追いやられたのだ。行方などはこだわりスカーフを巻いて強襲を仕掛けたにも関わらず、何もできずに虹色の中に飲み込まれた。
 かくして、珍しい虹の誓いとその美しさ、虹以降の攻撃の苛烈さから、この一戦は殊更に印象に残る敗北となった。特に悲惨な攻撃を浴びた機作はトラウマになったようで、その後しばらくは普通に空に架かった虹を見ても震え上がっていたものだが、鏨音の場合は反対に夢中になってしまい、事ある毎にトレーナーにバトルビデオの再生を強請っては、俺を無理矢理付き合わせて観賞に耽っていた。自分にとどめを刺した終盤の相手よりも、岩石封じと虹の誓いを放ったリザードンの方が気になるらしく、彼が現れてから消えるまでを何度も何度も繰り返して。
 やがてそれも途絶えたので、吹っ切れたんだと思っていたのだが……。
「タガネ忘れたりしないもん。再生してもらう必要がないぐらい、記憶に焼き付いちゃっただけ」
 しっかり引きずっていたようだ。
「しっかし、そこまで想い悩むほどいい雄だったかアレ? 俺は何か、軟弱そうな印象を受けたけどなぁ」
「あの穏やかな物腰がいいんじゃないの。やんわりとタガネの太股を貫いた岩石封じの感触、思い出しただけで痺れちゃうよぅ」
「際どい表現禁止! ってか、仕草だけじゃなくって身体も全体的に骨格が細いというか、華奢だったように思うが。防御の個体値が低めだったんじゃね?」
「A2x、BUの4V……目覚めるパワーは氷なのかもっ!? キャアァァ過激っ!!」
「別にそうとは限らんだろ!? つか廃人かお前は!? やんわり岩技で撫でられるのがいいのか、弱点を過激に突かれるのがいいのかどっちなんだよ!?」
 ……もしBUなら、めざパは格闘かも知んねぇし。
 まったくこいつときたら、虹の君の話題になると熱っぽくハシャぎやがって。そんな明け透けな態度を見せつけられる度に、俺が密やかな嫉妬に駆られていることなんてまるで気付いちゃいないんだろうな。
 大体、バトルビデオの観賞に俺を引っ張り込んでいた頃から気になっちゃいたが、俺の性別とタマゴグループを時々失念してんじゃねぇかと。お気楽な奴め。
 まぁ、だからこそ行方は俺を指名したってことなんだろうが。
「けどまぁ、答えはその虹の君にあるんじゃね?」
「?」
 困惑顔を傾げさせた鏨音に、俺はいささか強引かも知れない理屈で畳みかけた。
「穏やかさとか、身体の細さとか、それに虹の誓いの美しさとか……偏見かも知れんし種族によっても違うだろうが、基本的に俺らが思ってる虹の君の美点って、ひとつひとつは〝雌っぽく〟見えるところばっかなんだよ」
「え~、でも、戦った時の印象ではそんなに中性的みたいな感じはしなかったよ? むしろすっごく雄らしい魅力を感じたんだけど」
「まさにそれだ。雌的な要素が、芯の雄らしさを引き立ててんだよ。だからたった1,2撃交わし合っただけの虹の君にこんなにも惹かれてんだ。だろ?」
「うん……そうかも」
「でな、こういうのは性別が逆でもアリだと思う。メガシンカして雄みたいな背鰭になっても、根っこのお前さえちゃんと雌してりゃ、引き立てる要素にすることもできるんじゃねぇか?」
 推定に推定を重ねた、論理の飛躍も甚だしい詭弁。我ながらよくもまぁここまでのデタラメな理屈を立てられたもんだ。
 さすがに無理があったか、鏨音はジトリと呆れたような視線で俺を睨みつけてきやがった。
「な、何だよ!?」
「ふぅ~ん……つまりさぁ、雄的な要素ばかりに偏り過ぎて、引き立てるモノがなくなった悪い例がアラトだってワケ?」
「ぶっ!?」
 突然失礼極まりないことを言われ、俺は盛大に砂嵐を吹き上げた。
「やかましい! 余っ計なお世話だよ! 俺のことはどうでもいいだろうが!? ったく、毎回毎回名前の発音を間違いやがって。もうワザとやってるだろ!? 俺の名前はアラトじゃねぇ粗砥だ!! アラトじゃあ、まるで雄の仔みてぇじゃねぇか!?」
「雄扱いされることを気にするんなら、その口調と一人称をなんとかすればぁ!?」
「ほっとけっ!!」
 憤慨している俺をクスクスと笑いながら、鏨音は得心した様子で頷いた。
「うん、でもアラト……粗砥が言っていることにも一利はあるかな。クール&ビューティー路線なら、みっともなくなんかないってことだよねっ」
「…………」
 その通りなんだが、ブリッ娘のお前にクール路線はねぇよ。
 とツッコみたかったが、せっかく納得しようとしているものを混ぜっ返すこともないので黙っとく。
「考えてみれば、あの時のゲッコウガさんも結構カッコいい系の雌だったもんね。タガネもあんな感じのカッコいい雄装ガブリッ娘を目指して、虹の君に見つけてもらえるようにがんばろっと」
「あの時……? どのゲッコウガさんだっけ?」
 突然出てきた名前に眉をひそめると、鏨音は黄金の瞳をパチクリとさせた。
「何を言ってんの粗砥? ここで上げるゲッコウガさんって言ったら、虹の君とコンビを組んで誓い技を使っていたゲッコウガさん以外にいないでしょ!?」
「あ……!?」
 そ、そうだっけ……!?
 言われてみりゃ、〝虹の誓い〟というのは水の誓いと炎の誓いとの合体技。1頭で使える技じゃない。ファミ通チャレンジはカロス図鑑ポケモン限定戦だったから、水の誓いを使えるのはゲッコウガかカメックス、もしくはドーブルだけ。技のスピードから考えたら、そりゃ虹の君の相方はゲッコウガだったんだろう。
 しかし、全然憶えていない。思い出せない。
 それどころか、初手で虹の君が岩石封じを使う前になぜ鏨音と機作が彼を撃ち漏らしたのかも、終盤で俺やみんなが誰にどんなやられ方をしたのかすらも……!?
 狼狽していると、プッと吹き出す笑い声が響いた。
「ちょっとやだ、粗砥ったら、虹の君のことは軟弱そうだったとか華奢だったとかやたら詳しく憶えていたくせに、他の相手のことは誰も思い出せないワケ!? ひょっとして、粗砥も本当は虹の君のことを好きだったり!?」
「バ、バカ言ってんじゃねぇ!?」
 まったく、バカなことだ。何を今更。
 ずっと好きだったに、決まってんじゃねぇか。
 お前は岩石封じを優しく刺されたのかも知れねぇが、こっちは虹の誓いをそれこそ過激にぶち込まれてんだぜ!?
「大体、俺が虹の君のことばっかり詳しく憶えてんのは、お前のせいだお前の! お前が俺をバトルビデオの鑑賞に付き合わせて、虹の君の出てるシーンばかりを何度も再生して見せたからじゃねぇか!?」
 あの美雄の晴れ姿を何度も何度も見せつけられて、同じ怪獣タマゴグループの乙女として恋に堕ちずにいられるか。だからお前はお気楽だってんだ。自ら恋敵を作っていたとも知らねぇで。
 陽気に自分の恋を語れる鏨音が、妬ましいほどに羨ましい。
 俺は意地っ張りだから。自分の気持ちを、簡単には表現できないから。
 だから、行方は鏨音の問題解決に、俺を指名しやがったんだろうな。ついでに自分の心とも向き合えってわけだ。あのお節介サーナイトめ。
「じゃあさ、トレーナーさんにあのバトルビデオ、また久しぶりに見せてもらお? 憶えていないところまでしっかりと思い出せるように!」
「ふん、思い出せなきゃお前の話に付いていけないからな。仕方ねぇ」
 そして彼の雄志を眺めながら、同じ雄への想いを語り明かそう。
 言葉を尽くして、10万字ぐらいかけて、じっくりと。
「相手のトレーナーさん、なんて名前だっけか? Aut……」
「えっと、確かAuteuil、だよ。何て読むんだっけ? アウティール? そう言えばあの人も、ちょっとボーイッシュな感じの女の子だったね」
「そうだったか。また、会えるといいな」
 アウティール? さんにも、そして、
「うん! 虹の君にも、いつかまた、きっと会えるよねっ!」
 それまでに、俺も芯では雌らしくなって。
 そして出会えた暁には、鏨音、お前にだけは絶対に負けないからな!!
 遠い虹に誓いを立てて、俺は先を行く鏨音を追いかけ始めた。

 ~虹と砂嵐の向こう側・完~


ノベルチェッカー結果 

【原稿用紙(20×20行)】 26.6(枚)
【総文字数】 8505(字)
【行数】 201(行)
【台詞:地の文】 40:59(%)|3474:5031(字)
【漢字:かな:カナ:他】 31:53:9:5(%)|2693:4534:768:510(字)


大会後の主な変更点 

メガガブリアスを使った戦法の説明で、粗砥の持ち物が間違っていたため修正。(汗)恥ずかしさのあまり、今回の仮面名に採用。
・メガシンカによる性差変動に、雄が雌らしくなるメガギャラドスの例を追加。
・セックスシンボルの退化→性的特徴の退化に変更。セックスシンボルでも直訳としては間違ってはいないのだが、正しい意味だと〝性的魅力のある存在〟つまり粗砥たちにとっては虹の君のことになってしまうため修正。
・鏨音がブリッ娘なのは、単に雄勝りな粗砥との対比&振り袖ガブかわゆすなという意味しかなかったはずだったのが、後で自ら読み直してみたらガブリッ娘というネタがいつの間にかできていたので、それに合わせて文章を組み直し。僕の小説では時々不思議なことが起こりますw


あとがき 

 官能部門参加作品をひと通り書き終えたのが5月14日未明。その時点で本作はひと文字たりとも描けていませんでしたが、どうにか約3日で8千字を埋めて皆勤賞維持に成功しました狸吉です。
 他にネタがなかったわけでもありませんでしたが、官能作品に大変な手間をかけていたこともあり、どうせなら今回しか描けない物語にしようと考えまして、官能作品の外伝、というより投稿を後回しにした官能作品の『予告編』ともいうべき作品となりました。
 今更ではございますが、虹の君のトレーナー名〝Auteuil〟はアウティールではなく、フランス語読みで〝オートゥイユ〟と読みます。フランスにある競馬場の名前なのですが、僕のポケモンXでは主人公トレーナー♀の名前に採用していまして、サナたちには愛称でティユと呼ばせています。そんなわけで、虹の君の正体は官能部門参加作品『エブルモン・アルカンシェル』の主人公火蛇であり、同作の日曜日で2回目に対戦したのが粗砥たちだったのでした。〝向こう側〟というタイトルも、ティユ隊から見た向こう側がこちらだという意味です。
 夕太刀たちもそうですが鏨音も実際僕が使っている仔で、ダイヤストーム大会から度々メガで運用しています。砂の力地震でギルガルドSFを一撃で倒せるのが強みです。最初はロン隊シングルパーティ要員ということにして舵歌と絡ませる案も考えていましたが、『エブルモン・アルカンシェル』との関係はどんなにバレバレでも確定ではない、というポジションに留めておきたかったので、対戦相手のパーティということになりました。
『エブルモン・アルカンシェル』内のバトルシーンはほぼ創作ですが、この日曜日第2試合に関してはモデルにしたバトルビデオが存在します。→7GDW-WWWW-WW24-CJYH
 ファミ通チャレンジではなくインターナショナルチャレンジMayの時のですので、ティユ隊のメンバーはエピローグで描いたメンバーになっておりリザードンも火蛇ではありません。(技は一緒ですが。)また、相手のガブリアスとサーナイトも♂で、初手は先発でトレースしたサーナイトがロトムに交代する流れになっています。それ以外の流れはほぼ一緒です。
 つまりこの相手パーティに、僕が現在オメガルビーで使っている追い風砂メガガブリアスパーティを当てはめたのが本作のパーティということになります。鏨音の他、機作や射矢も実在する仔で、行方も以前使っていた仔です。ただし、軟らかい砂さらさら岩を持たせているのはエアームドなので、バンギラス♀の粗砥だけは本作で創ったキャラです。鏨音以外が全員浮いているので、地震を撃ちたい放題にできるのが強みです。重力と送電が怖いですがw


投票でいただいたコメントへのレス 


>>2015/05/25(月) 07:25さん
>>俺っ娘バンギラスが可愛い。
 オレッ娘サンダースの久連僕っ娘ブイゼルの泳流オラッ娘ドッコラー立基たちに続く〝実は雌だったんだよ!!〟キャラとなりました。粗砥自身が言う通り、一見男っぽい娘が垣間見せる女らしさのチラリズムには大変そそられると言いますか、心をガッチリと掴まれるものを感じますねw(←官能部門の投票先バレバレwww) 可愛がっていただきありがとうございました!

>>2015/05/30(土) 13:01さん
>>たぬきさん、いい加減仮面被らないと青大将に絞られますぜ。
 すみませんさすがに今回はやり過ぎました。特に官能部門の方は、注意書きで申し訳程度の予防線を張ったものの露骨にヒントめいた文まで書いちゃってますし。こっちはこっちで上記の通りいつものパターンな上、官能部門との関連性もあからさまに匂わせているんで完全にエア仮面でした(苦笑)。次の大会ではちょっとした変化球を予定していますのでお楽しみに。

>>というのは置いといて。溜め息が砂嵐だったり背びれの切れ込みを気にしたりと、随所でそのポケモンらしい表現をちりばめる構成は流石ですね。官能部門と合わせて楽しませていただきました。
 即興で描いた本作でしたが、ポケモンたちの描写には妥協のないよう努めました。評価していただきありがとうございます!

>>2015/05/31(日) 20:56さん
>>ネタもありながら心理描写がとても上手く書かれていて良かったです
 今回は、〝僕が実際使っているパーティの対戦相手〟が主役という設定なので、粗砥や鏨音の心理を妄想するのはとても楽しかったです。しかしモッテモテだなぁ火蛇の奴www
 今後もポケモンらしいネタを描けるよう精進します。投票ありがとうございました!

>>2015/05/31(日) 22:15さん
>>雄雌の姿の違いって普段はあんまり気にしないものですが、やっぱり当事者達には気になるもの、なんでしょうかw
 前述の通り鏨音は実際メガで使ってる仔なんですが、メガシンカした背鰭を見る度に、彼女嫌がってるんじゃないかなぁと思っていたのを今回ネタに採用しましたw メガシンカ以外でも、個体差による異性っぽい体つきへのコンプレックスに悩むポケモンとか色々考えられそうですwww

>>一目惚れの誰とも知らぬ相手に思いを馳せる二匹の元に、いつかきれいな虹が架かる事をお祈りしています。
……出会ったら出会ったで色々もめそう(
 火蛇はあの大会限りの参戦ですので、再び対戦上で相まみえることは叶わないでしょうが、パラレルな世界では再会したり(鏨音のいうようにどこかで彼女たちの試合を火蛇が見ることはあるかも知れませんね。

>>目覚めるパワーはドラゴン……とかですかね。勘ですけど。いやほんと勘ですけど。
 仰る通り、Uどころか実は0だった防御以外は、『エブルモン・アルカンシェル』で魔月さんが読み上げた通り全部奇数ですのでドラゴンです。実際ヒャッコクシティで確認したので間違いありませんw(既にトリックルームで書いた通り、火蛇も実在個体でありファミ通チャレンジに参戦させたのも正真正銘の実話なのでwww)
 こういう個体値の違いって、やっぱり外観にも少なからず反映されちゃうんでしょうね。ムキムキな高個体値だらけの中、華奢な身体で大技を振るう火蛇の姿が彼女たちには魅力的に映ったのではないかと妄想しました。
 楽しいコメントありがとうございました。今後も応援よろしくお願いします!

 指示をいただいたお陰で、僅差の2位まで健闘できました。改めてありがとうございます。今後も頑張りますのでご期待ください!


コメント帳 


・鏨音「タガネのめっちゃ強いバトルビデオだよ! 」→MYZW-WWWW-WW25-LKAJ
・粗砥「相手の砂パを利用したのかw こりゃ相手が気の毒だったなwww」

コメントはありません。 砂嵐のコメント帳 ?

お名前:

歪んでいます……おかしい……何かが……物語のっ……


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Last-modified: 2015-06-07 (日) 19:16:50
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