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絆〜遠い日の約束 四日目 朝

/絆〜遠い日の約束 四日目 朝

作者:COM


―――「レイ…レイ…!起きて…!」
そんな声にゆすり起こされると…
「なんだ…?まだ日が昇ったばかりじゃないか…」
そう言ってもう一度寝ようとするが、
「そうじゃないの…なんだか…森の様子が…変なの…」
「森の様子が変…?」
そう尋ねると
「静かなのよ…あまりにも…」
「朝なんだから静かなのは当たり前だろ……!」
そこまで言った時に、キッシュの言っていた異変に気付く。
『鳥ポケモンの…鳴き声が…全く聞こえない…』
しんと静まり返った森は、まるで生き物が全て居なくなったかのように錯覚させるほどだった。
「キッシュ…さっさと朝食を食って広場に行こう…」
そう言うと
「え?朝食は食べるのね…呆れた…」
「そういう意味じゃなくて…嫌な予感がする…ヘタすると…昨日あいつらが言ってたやつとも戦わないといけないからな…腹減って戦えないじゃ話にならないからな…」
そう言うと、無言で頷き、寝室を出た。
いつも通り手際よく朝食を作り、食事をしたが…
「……おいしいか?」
「え?あ、うん。すっごくおいしい!」
その言葉を最後に、長い沈黙が訪れた。
初めてだろう…これほどまでに静かな食事も…
「食べ終わったな…よし、すぐに出発しよう。」
広場へ向かう道中も、耳を凝らして周りの音を聞いてみたが、何一つ聞こえなかった。
「レイ……」
心配になり、キッシュが声をかけるが、
「大丈夫だ、俺が絶対に守る。絶対だ…」
そう言って黙々と歩き続けた。
広場にたどり着いたが…
「誰も居ないな…みんなは…何処に…」
「レイ!あれ見て!」
そう言い指がさす方を見ると、ポケモンらしき影が見えた。
「よかった…ねえ!みんなは何処に行ったかしらな……」
そこまで言いかけたキッシュを止め、
「出て来い…貴様らの目的はなんだ!!」
そう言い放った。
「感が鋭いな…そこらの野生のポケモンとは一味違うようだな…」
そう言いながら陰から出てきたポケモンは…グラエナだった。
「見つけたぞ!ここにもまだポケモンがいる!!」
そう言いながらそのグラエナの後ろから黒ずくめの男が現れた。
その途端、さらに同じ服装の男がぞろぞろと出てきた。
数にして15人は軽くいるだろう。
「間違いない!あのアブソルだ!捕まえろ!」
そう言い、全員一斉にモンスターボールからポケモンを出した。
「キッシュ…俺が隙を作る…そしたら右に向かって全力で駆け出せ…」
と小声でキッシュに指示を出す。
「レ、レイは…!?」
心配そうに聞き返すと
「大丈夫だ、俺もすぐ追いつく。信じろ。」
そう言うとキッシュは小さく頷いた。
「行け!まずは邪魔なレントラーを倒すんだ!」
とトレーナーの内の一人が言ったのをきっかけに、ポケモン達が一斉に技を出した。
『後ろにはキッシュがいる…避けるわけにはいかないな…なら!!』
一気に体に電気を溜め、
「もってくれよ…でんじは!!」
そう言い、強力な電磁波を前方に向けて固めて張った。
凄まじい轟音とともに、何とか技を相殺し、そのまま続けて
「十万ボルトォォ!!」
全身の電撃を並ぶ男達の手前に流し打ちして
「今だ!!走れ!!」
そうキッシュに言った。
キッシュも指示に従い、真っ直ぐに右へ向かって走り出した。
「逃げる気だ!追え!アーボック!!」
トレーナーの内の一人が指示を出した。
「させるかぁ!!」
キッシュの元に向かうアーボックにでんこうせっかを喰らわせ、キッシュがその場から離れたことを確認すると
「十万ボルト!!」
地面に向かって雷撃を放ち、土煙を起こして、キッシュを追いかけた。
「くそっ!!逃がすな!!追え!追え!!」
「俺はサカキ様に報告してくる。頼んだぞ!」
そんな会話を聞き、
『サカキ…?どこかで聞いたことがあるような…』
「レイ!早く!!」
キッシュの声を聞き、急いでそちらへ向かった。
こんなことを繰り返し、いつまでも終わらないようにも思える逃走を繰り返すうちに、だんだんと日が傾き始めた。
「それで…これほどの時間をかけて、未だたった一匹のレントラーに行く手を阻まれ、アブソルを捕まえられないでいるという事を……私に報告しに来たというのか…」
「申し訳ありません!サカキ様!!」
そのサカキと呼ばれた男は、
「恥を知れ!!アブソルが抵抗したのならまだしも、たかだか野生のポケモン一匹に阻まれ何時間も取り逃がしているとよくもまあぬけぬけと報告できたものだな!!」
と、その報告をしに来た男に罵声を浴びせた。
「し、しかし…!さすがに刺激しないようにとなると…」
「言い訳はもう聞き飽きたわ!!なんでもいい!!どんな手を使ってでもさっさと連れてこんか!!」
「は、はいぃ!!」
男はそのままそそくさと森の中へ消えていった。
「仕方が無い…私自ら出向くとするか…」
そう言い、その男、サカキも森の中へと消えていった…
「私の野望はこんな所で潰えたりはしない…Mew-Ⅲ計画は絶対に完成する…」
……
「大分…日が傾いてきたな…そろそろ諦めてくれるか…?」
既に薄い闇が掛かり、真っ赤な夕日に二人は照らしだされていた。
「大丈夫?レイずっと戦いながら逃げてるけど…」
一日中動き回ったせいで、少し衰弱したレイを見て心配そうに声をかけるキッシュ。
「心配するなって!確かに技を振り続けて走ってるから疲れはしてるけど、無傷だろ?」
そう言って笑って見せた。
『しかし…俺しか攻撃をしてこないところを見ると…やはりキッシュを無傷で捕獲するつもりなのか…こんな所でへばってられないな…』
「よし!…出来るだけ早くみんなを見つけて合流しないとな…」
「え?どうして?…」
「このまま逃げ続けてもらちがあかない。なら、キッシュをみんなに任せて…俺が…終わらせる。」
そんな鬼気迫るレイの台詞に対し
「絶対に駄目!!みんなも無事なはずだから、このまま諦めるのを待って…」
「諦める保障なんて何処にも無い!!それに現に一日中追い回されてる…終わらせるしかないのさ…俺達の勝ちか、あいつらの勝ちで…」
「レイ……」
小さな声で言い、とても沈んだ表情になる。
「とにかく、今は進むしかない。みんなに合流するしか…」
「いたぞー!!」
そんな声に遮られ、考える暇も無く走り出すしかなかった。
止まれば…全てが終わる…それだけは分かっていたから…
そのまま逃げ続け、夕日に染まり始めた頃、ふと他の戦う音が聞こえた。
「いけぇぇ!!絶対にメス達を守り抜くんだ!!」
「ブレイズさん!!もうこれ以上は…!」
『あれは…!見つけた!!』
「絶対に退けるか!!今ここで退けばみんながやられる!!お前達だけでも逃げろ!!」
そんな会話も無視し、敵のポケモン達は波状攻撃を繰り広げている。
「ヘヘッ!どうした?それだけか?結局野生のポケモンなんてのはそんなもんかよ!」
とその敵対しているヘルガーが言う。
「雑魚は大人しく眠ってな!!」
そう言いながら、かえんほうしゃを放った。
「負けるか!!かえんほうしゃ!!」
ブレイズも負けじと反撃するが、やや押されている。
そのまま押さ込まれてしまった。
「ぐあぁぁ!!」
ブレイズの悲痛な叫びが響き、その声を聞いたヘルガーが
「雑魚はすっこんでな!!」
そう言い放った。
「そうだな…その通りだ…十万ボルト!!」
ヘルガー達に目掛けて上空から雷撃が降り注いだ。
「な、ぐわぁぁぁ!!」
急なことで避ける暇も無く、全員がまともに喰らった。
「雑魚はすっこんでさっさと親玉をだしな!!」
ブレイズの前に降りてきたのは…レイだった。
「悪いな、パーティーに送れたようだな…」
そう言い、ブレイズのほうに振り返る。
「レイ!!まったく、遅いにもほどがある!!」
そう、笑顔で答えた。
「まだ戦えるか?」
レイが質問すると起き上がりながら
「当たり前だ!パーティーは今始まったばかりだからな!!」
と強がって答えた。
「みんな!キッシュを頼む!!」
レイはそこに居た森に住むポケモン達に向かって言った。
「出来るだけ遠くへ!そして見晴らしの良い場所に行って、メス共を守れ!!」
と続けてブレイズが言った。
「ブレイズさん達は!?」
と近くにいたウィンディが心配そうに聞くと
「俺達なら…」
「二人いれば十分だ!分かったらさっさと逃げんかい!!女子供を守れんオスが何処の世界にいるか!!」
その言葉を聞き、
「分かりました!でも二人とも無茶だけはしないでくださいよ!」
そう言い、全員で移動を始めた。
「レイ!!絶対に戻ってきてよね!!」
キッシュがレイに声をかけると、
「当たり前だ!お前を守るのが……俺の仕事だ!!」
そう言いながら、敵を蹴散らしながら敵のど真ん中へ突っ込んでいった。
「どうした?お前らもさっさとみんなを守らんかい!!」
と残ったポケモン達にブレイズが言うが、
「俺達も戦います!!」
「良いとこ見せなきゃ女房に愛想尽かされそうなんでね!!」
そう言いながら同じく、突っ込んでいった。
「へっ!肝が据わってるのがまだいるようだな!…さーて、俺も参加するぜ!!」
そう言い、ブレイズも突っ込んでいった。
その姿を見て、キッシュが最後に
「無事に…絶対無事に帰ってきてね…」
そう、願うように呟いた。
「さあ!オス共が頑張ってる間に私達も逃げるわよ!!」
と逃げるポケモン達の中の一人が言い、
「こっちはこっちでいいとこ見せないとな!!」
「ブレイズさん達に負けてられるか!!オスの意地を見せるぜ!!」
とこちらもオス達が奮起したようだ。
「さあ!早くこの場から離れるぞ!邪魔にならないように…な?」
そう言いながら、レイの方に向き直した。
「分かってるんならさっさと行ってくれ!キッシュは頼んだぞ!!」
そう言い、雷撃を放つ。
「行ったな…絶対にここから先には行かせねぇ!!」
そう言い、その場に残ったポケモン達も奮起して戦った。
「くそっ!!一体なんで野性のポケモンがこんな強さを持ってるんだ!!」
と隊員の一人が言ったが、その視線の先には飛び回り、次々とポケモンを薙ぎ払うレイとブレイズの姿があった。
しかし、闇の中から
「貴様ら…未だにたかが野生のポケモンに手を拱いているのか…屑共め…」
そう言いながら、ゆっくりと一人の男が現れた。
「サ、サカキ様!?申し訳ありません!!予想以上にあいつらが強すぎて…」
「貴様らが弱すぎるだけだ…引け…」
その途端、全員が戦いを止め、サカキよりも後ろに下がった。
「どうやらあいつが親玉みてぇだな!!さっさと片付けて森を取り戻すぞ!!」
「おぉー!!」
とブレイズと他のオス達が意気込んでいたが、レイはその男を見た途端、今までで一番激しい頭痛に襲われた。
「あいつは…あいつはぁぁあ!!グッ…!ガァ……!!」
「お、おい!どうした!?レイ!!」
―――僕はレイ。どこにでもいるごく普通の少年だった。
ポケモンと話せること意外は…
それが原因で虐められ、疎まれて生きてきた…
それでも、あの小さな村で生きていこうと思えたのは…
母にも似た、サーナイトの存在のおかげだった…
お父さんは僕が生まれる前に死んで、お母さんは僕を産んで死んだそうだ。
だから、そのサーナイトが唯一の肉親みたいなもので…
「お帰り、今日は何かいいことがあったの?」
『そうだ…懐かしい…俺の唯一の心の支えだった…』
どんなに苦しくても、絶対にサーナイトの前では笑顔を絶やさなかった。
でも…それは突然やってきた…
「酷いわね…強盗ですって?」
「馬鹿だから抵抗せずに逃げればよかったものを…」
強盗に家を襲撃され、抵抗したサーナイトは……死んだ…
ただ、ただその場に…呆然と立ちすくむしかなかった…
本当に居場所が無くなり、心の支えも無くなり…僕が選んだ選択は…
『死、だったな…だが、あいつが…クリックが助けてくれた。』
川に飛び込み、考えることを止めた。
泳げば、もがけば生きられるその距離をなにもせずに、ただ虚ろな目で眺め、意識が薄れていくのを待っていた。
意識が無くなる寸前、小さな影が近づいてきていたことだけは覚えている。
次に目が覚めると、僕は陸の上にいた。
「お前なんであんなことしたんだよ!!もう少しで死ぬところだったんだぞ!!」
と、僕を助けてくれたゼニガメが言った。
「僕には…もう…生きる理由が無い…僕がいきててほしいと願う人が…いないんだ…もう…生きたくない。」
そう、僕が漏らすと
「だったら俺がお前の生きる理由になってやるよ!!」
突然だった。
小さな一言だったのかもしれないが、それで僕は救われた…
「俺の名前はクリック。お前の名前は?」
「レイ…」
「レイ、か。よし!俺達でポケモンマスターを目指そうぜ!!」
『そんな他愛も無いようなきっかけだったが、俺には…十分、人生そのものを動かすほどの出来事だった…』
生まれ育った町にさよならも言わずに…僕らは旅立った。
たくさんのポケモン達と出会い、戦い、話し合い、笑って、泣いて、別れて…いろんなことをしながら、ついに…
「カントーリーグ決勝戦は!レイ選手対、グリーン選手です!」
長い激闘を繰り広げ、死力を尽くして戦って…そして…
「優勝は…レイ選手です!!みなさん!レイ選手に惜しみない拍手を!!」
『夢にまで見たポケモンリーグ制覇…しかし、それが更なる高みへのステップになるとは俺も思ってなかったな…』
そこで、ある感情が浮かんだ…
世界を旅して…全国制覇したい、と…
「本当に行くのか?」
とクリックが聞いてきた。
「うん!みんなも元気でね!」
新たな地方では新たな出会いをするために、みんなと別れて一人で新しい地方へ…出て行った。
次々とリーグを制覇し、勢いに乗っていたあの時…
『そう…あの時に…全てが狂った瞬間でもあり、運命的に出会った瞬間でもあった…』
「やあやあ、君が最近噂の、次々にリーグ制覇を成し遂げてる少年だね。」
そう言いながら、優しそうな顔の男が一人、歩み寄ってきた。
「聞くところによると…なんでも君はポケモンと話せるそうじゃないか。」
と、男は続けて言った。
「そ、そうですけど…」
はっきり言ってそのことに触れられるのは嫌だった。
また嫌われるのではないかと思って…
「素晴らしいじゃないか!」
男の口から出た言葉は、意外なものだった。
「そんな能力があるなんてとても素晴らしいことだよ!!」
そんな、優しい言葉に…僕は騙されてしまった…
「そう…思いますか?僕の、ポケモン達と喋れるってことは…すごいことなんですか?」
そう言うと、男はこの時は気付かなかったが、後ろに合図を送っていた。
「もちろんだとも!そんな素晴らしい能力があれば、ポケモンと心を通わせることが出来るからね。」
「じゃあ!……!?」
その途端、後ろから何かを口に当てられ、意識が朦朧とし始めた。
「連れて行け。こいつは間違いなく、ポケモンと喋れる。」
薄れゆく意識の中、男の優しさの消えた声が聞こえた…
「こいつが付けてるモンスターボールはどうしますか?」
「好きにしろ。だが、絶対にこいつには持たせるな。」
意識が途絶える寸前で、最後に聞いた言葉は…
「こいつを使ってMew-Ⅲ計画を成功させるぞ…そうすれば……」
次に目が覚めたときには、既に牢の中だった。
「ここは…?」
そう呟くと、近くに居た男の内の一人が
「お!気が付いた。ここは牢屋だ。」
物珍しそうな顔でこちらを見ていた。
そこでボールが無いことに気付き、
「みんなは…みんなはどこに!?」
そう言い、騒ぐと
「うるさいな!騒ぐな!お前以外に誰も居ないだろうが!」
と一人が言ったが、その横に居た男が
「みんなってのはポケモン達のことか?」
と聞いてきた。
それに頷くと
「あぁ、それなら俺達が管理している。もし、お前が文句一つ言わず、暴れたりなんかもしなかったら返してやると言っていたな…」
「本当!?」
「本当だ、だが、もし少しでも抵抗したら…二度と会えないからな…」
そう言われ、僕は嬉しくなり、騒がないことにした。
そうすればみんなに会える…そう信じたから…
次の日から僕は、連れてこられたポケモンに指示を的確に出す訓練や、体術の訓練と体力の強化をやり始めた。
何のためかは知らなかったが、黙って黙々とやり続けた。
『そうすれば…仲間にもう一度会えると…俺の心の支えはそれだけだったな…』
しばらくの間はその繰り返しだったけど、ある日突然
「よし、今日はこいつを手懐けてみろ。やり方はどんな方法でも構わん。」
そう言って男が連れてきたのは…一匹のグラエナだった。
グラエナは酷く荒んだ目をしており、周りの人間全てに敵意を剥き出しにしていた。
「きみは…どうしてそんなに怯えているの…?」
と、恐る恐る聞いてみると、
「うるせぇ!!誰がてめえらなんかに利用されるか!!」
と、完全に聞く気がなかった。
「違うよ、僕はきみと友達に…」
「絶対にてめえらなんかの道具にされてたまるか!!」
後々、ゆっくり話し続ける間に分かったが、そのグラエナは生まれてから今まで虐待され続けて生きていたのだった。
「落ち着いて!僕は何もしないから…ね?」
「黙れ!黙れ黙れ黙れぇぇ!!」
一向に落ち着く気配の無いグラエナに僕は抱きついた。
「て、てめえ!!何しやがる!!離しやがれ!!」
そう言い、激しく抵抗するグラエナに、
「ほら、大丈夫…僕は何もしないから…ひとまず、落ち着いて欲しいな…?」
と耳元で囁いた。
「ほ…本当に…何もしない…のか…?」
戸惑いながらも返事をしてきたグラエナに
「本当だよ…僕は何もしない…」
そう言った。
その様子を見ていた周りは、何をしているのか分からず、
「ありゃ駄目だな、結局力ずくだよ。」
「どうするんですか?あれじゃ計画の使い物には…」
男に一人が言うと、小さな声で
「あれが使い物にならなかったのなら、次を探せばいい。いつも通りのことだ。」
そう言っていた。
グラエナの質問に返事をしたのが意外だったのか、グラエナは
「お前…もしかして俺の言葉が分かるのか?」
と聞いてきた。
「うん、ちゃんと聞こえてるよ。」
そう答え、宥めた。
「よしよし…いい子いい子…」
そう言い、頭を撫でてあげると、
「俺…初めてだ…こんなに優しく…触ってもらえたの…」
そう言い、涙を流した。
それを見ていたサカキは、
「ふっ…どうやらちゃんと使い物にはなるようだな…」
そう、漏らした。
続けて
「よし、そいつに技を使わせろ。それが出来たら今日の訓練は終了だ。」
そう言った。
「はい!…君はどんな技が使えるの?」
とグラエナに聞くと
「かみつく、ほえる、とおぼえ、こわいかおだ。」
「よし!グラエナ!ほえる!」
そう、グラエナに言うとけたたましい声で吠えてくれた。
「これでいいでしょうか?」
そう聞くと
「あぁ、合格だ。部屋に戻れ。」
その言葉を聞き、喜んでグラエナと部屋に戻ろうとした時、
「ああそうだ、そのグラエナはもう必要無い。処分しろ。」
最後にそう言い放った。
「え!?そんな…待って!止めて!!」
隊員達がグラエナを押さえ込む。
「くそっ!!離せ!!助けてくれ!!」
必死に助けを求めるグラエナに駆け寄ろうとするが、隊員に阻まれ、
「やめろ!さっさと部屋に戻れ!これ以上抵抗する気ならそれ相応の処置を取るぞ!!」
その言葉で…僕は動きを止めてしまった。
「!!!…なんでだよ畜生!!結局あんたも裏切るのか!!人間なんて…!?」
「さようなら……」
その時…僕は一体どんな顔をしていたんだろう…僕の顔を見た途端、グラエナは…僕を責めるのをやめた。
涙で視界がぼやけ、ほとんど何も見えなかった…その時、潤んだ声でグラエナが
「最後に……会えた人間が…あんたでよかった……さよならだ……」
そう言い、彼の名も知らぬまま、二度とグラエナと再会することは叶わなかった。
仕方が無かった…そんな言葉では許されない…自分の仲間に会いたい、その思いで彼を見殺しにした事実は変わらないからだ…
その日は、ずっと後悔と懺悔の思いで打ちひしがれていた。
次の日からも、一匹のポケモンを失った悲しみを背負ったまま、平然と過ごすしかなかった。
それから数週間経っただろうか…
『そこで…ついに…彼女と出会ったんだったな…』
「来い!お前の初仕事だ。」
そう隊員に呼ばれ、向かった先は…完全隔離された施設の扉の前だった…
「この中に一匹、お前に手懐けて欲しいポケモンがいる…もちろん、お前なら出来るよな?」
緩やかに、しかし高圧的な台詞を、男は平然と吐いた…僕が抵抗しないことを知っていたからだ…
「了解しました…仰せのままに…」
無理やり笑顔を作り、その施設へと入っていく…
そこらじゅうに飛び散る鮮血、いや、どれほどの時間が経ったのかも分からないほどの血痕もあった。
隊員の服を着た死体…僕と同じ様に奴隷の囚人服の死体…研究員の死体…
奥に進めば進むほど高く積みあがるソレは…すでに恐怖の感情すらも麻痺させるほどのものだった。
そして…その施設の丁度真ん中に当たる位置に、月光を浴び、美しい銀色の体毛を輝かせる、寂しげな一匹のアブソルが居た。
一瞬、そんな常軌を逸した空間を忘れさせるほどに、心を惹かれた。
ゆっくりと近づいていく、と
「止まれ…それ以上近づくなら殺す…」
そう、殺意のこもった声で威嚇してきた。
そのアブソルを刺激しないためにも、そこで止まり、ゆっくりと話しかけた。
「え…っと…初めまして…でいいのかな?僕は君とお友達に…」
そこまで言いかけると、その言葉を遮るように話し始めた。
「貴様らなんかに…私の思いは分からない…いや、分かる筈が無い…」
「僕なら…君の思いを分かってあげられるかも…知れないよ…?」
そう切り返すと
「言葉が通じてるのね…だから何?それで私を上手く利用できるとでも思ったの?」
「別に僕は利用する気なんか…」
そう答えるが、聞く耳も持たず
「前にもあんたみたいなポケモンと喋れる人間が来たわ…殺したけれどね…」
それは女性とは思えないほど、低く、冷めた…いや凍て付くような声だった。
「なぜ、その人を殺してしまったの?」
引くわけにはいかないため、僕も負けじと質問を返した。
「簡単な理由よ…そいつが私を道具のように利用しようとしたことが気に食わなかっただけ…」
「僕は絶対にそんなことはしない…だから僕を信じて欲しい。」
そう言うと
「何を信じろと?今までそんな歯の浮くような戯言はウンザリするほど聞いてきた…証明出来るの?出来る筈無いわ…そんな気持ち一片も持ち合わせて…」
「証明出来るよ。僕は君を信じるから。」
そう言うと、彼女は一つ笑い声を上げ、
「アハハハハ!!…そんなこと出来る訳が無い!証明する方法なんて有りはしないんだから!!」
そう言い立ち上がり、鎌に光を集めた…恐らくサイコカッターだろう…
「証明できるよ。僕は君を、君は僕を信じてくれれば。」
「そう…なら、私が今からあなたを攻撃する。でも私があなたに移動しなければ当たらない。といっても動かずにいられる?そんな言葉が信用できるの?」
そう、聞いてきた。
「僕は…僕は、信じるよ。」
そう言い、彼女の目を真っ直ぐ見た。
「そう、なら試してみないと…ね!!」
そう言い彼女はサイコカッターを僕目掛けて飛ばしてきた。
「さあ!どうするの?避けなければ当たるわよ!!」
その言葉に対して出した、僕の答えは…
「僕は…君を信じるよ…」
そう言い、一歩も動かなかった。
迷い無くまっすぐ進むその斬撃は、一瞬で僕の真横を突き抜けた。
「なんで…何で避けなかったのよ!!もし私が本当にあなたに向かって打ってたらあなたは死んでたのよ!!」
僕の取った意外な行動に動揺するキッシュに
「言った通りだよ…僕は君を信用した…ただそれだけだ。」
そう言うと
「馬鹿みたい…本当にたったそれだけの事で命を張ったのね…」
そう、すすり泣くように呟いた後、
「ねえ、あんたの名前は…何?」
そう尋ねてきた。
「僕はレイ。君は?」
「キッシュ…ねえレイ…本当に…本当にあなたを信用していいの…?」
彼女にとって初めてだったのかもしれない…彼女…キッシュは、泣きながら質問してきた。
「もちろんだよ…キッシュ…君は僕が必ず守る…」
そう、硬く約束した。
その頃、施設の外では、
「戻ってこんな…やはりグラエナを手懐けた程度では、手懐けることは叶わなかったか…ん?」
そう言っていた時に、丁度外に出た。
「アブソル、間違いなく手懐けました。」
そう報告し、横にぴったりと付いたキッシュを見て驚いていた。
「よくやった…部屋に戻れ。」
そう言われ、部屋に戻る時、キッシュを引き剥がされるのではないかと覚悟したが、別に何事もなく部屋に戻れた。
次の日からは、急に対応が変わった。
ある程度の自由が与えられ、僕はキッシュと常に行動することを許された。
そうなってから、ある日、
「フフフ…そう、それじゃあ、あなたのお仲間さんもこの施設に囚われてるのね。」
「多分ね、はぁ~…みんなに会いたいな~…」
そう、ため息を漏らすと。
「あら、それじゃ私は不要ってことかしら?それならそれで私にも考えがあるわよ?」
と鎌をわざと光が反射するように見せつけた。
「うわぁ…そういう意味じゃないよ~…キッシュの意地悪…」
「あなたがそういう反応をするから面白いだけよ…」
そう言ってクスクス笑っている。
「そうだ、僕トイレに行くから、先に部屋に戻ってて。」
「そう、じゃあ付いていこうかしら?」
と、とんでもないことを言い出した。
「何言い出すんだよ!君は一応女の子なんだろ?」
そう言うと
「どういう意味かしら?い・ち・お・う女の子ってのは!!」
「わあ~!ゴメンゴメンってば~」
そう言うと
「仕方が無いわね、今回は許してあげるから先に行ってるわよ。」
そう言って部屋に戻っていった。
そして、トイレで用をたす時に…ついに…
『聞きたくなかった事実を聞いてしまうん…だったな…』
「しっかし…あのアブソルといい、それを手懐けたあいつといい、ホントに化け物しかいないな。」
隊員達が後から入ってきて、会話をしていた。
「なんであいつはあんなにも平気で指令をこなしていくんだ?俺なら発狂するレベルだ。」
そう続けて言うと
「なんだ、知らないのか?あいつは自分の元手持ちポケモンを人質に取られてるんだよ。」
「ふーん、それで?」
「あいつが文句一つ言わず、従ったら返してやるって話だ。」
「それでか、あいつにはいつ返すつもりなんだろうな。」
そう質問すると。
「あはははは!無理無理!だってあいつが持ってたポケモン全部、あいつがここに収容される時に逃がしてるから。」
思わず声が出そうになった。
もう、みんなはここにはいなかった。いや、元々いなかった。
「うわ~…えげつねぇ…それであいつはずっと従順なままなのか…」
「ん、やばい!集合時間に遅れるぞ!」
「なに!もうそんな時間なのか!」
その声を最後に、何も聞こえなくなった。
「もう…いない人達のために…僕は…名前も知らないまま…あのグラエナを…見殺しにしたのか…」
周りに誰もいないことを確認すると、ゆっくり、自分の部屋へと戻っていった。
「あら、遅かったわね。一体どんな用をたしていたのかしら?」
と、うっすら笑いながら聞いてきた。
「う、うん…お腹を壊してた…だけだから…」
「嘘ね…何があったの?」
そう聞いてきたが、僕は黙ったまま答えなかった。
「聞かない方がよさそうね…」
その時、僕は不意にキッシュに抱きついた。
「え!ちょっと何するのよ!離れなさいよ!……?」
キッシュに抱きついた僕は…小刻みに震えていた。
「キッシュ…君だけは…僕が絶対に守るから…」
そんな僕を見て、キッシュは心配そうに
「ど、どうしたのよ…ホントに何があったの?」
そう聞いてきた。
「キッシュ…逃げ出そう…ここから…」
自分でも意外な言葉だった。
「逃げ出そうって…あんた!仲間がここに居るんでしょ!?」
「最初っから僕の仲間はここにはいなかったんだ…僕がここに来たときには既にみんないなくなっていた…」
その言葉を聞き、キッシュは声をかけられなくなっていた。
「だから…僕はもう決めたんだ…絶対にこれ以上、僕と関わったポケモンを泣かせたくないって…」
そして、キッシュを真っ直ぐ見つめ
「約束するよ、必ず二人でここから抜け出して、一緒にいろんな事をしよう。何者にも囚われずに、自由に生きよう。」
そう言った。
「そ、そんなこと…できる…の?」
「出来るよ、いつもと同じ、お互いを信じるだけ。逃げ出せたら、少しの間隠れてなきゃいけないけどね。」
そう言うと
「私、もうそうやって一箇所にずっと立て篭もるの…嫌だな…退屈だし…」
そう言ってきた。
「大丈夫だよ、その間は僕がいろんな話を聞かせてあげる。まだキッシュに話してないこといっぱいあるし、それに僕はポフィンを作るのが上手だから、お話以外でも退屈させないよ。」
「出来る…のよね…」
「え?」
「もう…何も気にせずに…自由に生きることが出来るのよね…?」
声が震えている。それほどまでに望んでいた事なのだろう。
「絶対にね、僕が保障する。」
「ポフィン、絶対に作ってね…私…食べたこと無いから…」
「分かった、どんな味?」
「どんな味でもいい、無邪気に笑って、好きなことして…生きたい…」
そう、心の底から言ってきた。
キッシュを宥め、そしてあえて優しい声で
「キッシュは、明るい方が可愛く見えそうだね。」
そう、言った。
「なによ…シリアスな話をしてると思ったら…拍子抜けだわ…」
そんなことを言いながら、キッシュはとても嬉しそうな顔をしていた。
「でも、どうやってここから抜け出すの?」
「それなら僕に考えがある……」
それから数日経ったある日、僕達はサカキ達と一緒に、森に来ていた。
最終確認テストのためだそうだ。
「さあ、これが最終チェックだ。合格すれば晴れて、Mew-Ⅲ計画は始動する。」
サカキの言っている、Mew-Ⅲ(ミュウスリー)計画というものは僕はどういうものか知らない。
でも、その計画のためにキッシュが無理やり、何かの能力を与えられたというのは、キッシュに聞いた。
「始めろ。手始めにこの森だ。全てを、跡形も無くなるほど吹き飛ばしても構わん。持ちうる全ての力をアブソルに使わせろ。」
その言葉が意味することは、僕でも分かった。
『絶対に…絶対にそんなことはさせない!』
「キッシュ!サイコブースト!!」
普通ならありえないが、キッシュはその計画の改造により、全ての技を使うことが出来る。
一気に力を溜め、キッシュを中心にサイコエネルギーの大爆発を起こさせた。
「ふはははは!!…そうだ!これこそ私の望んだ力だ!!ロケット団が世界を掌握する日も近い!!」
と、サカキは高笑いをしていた。
しかし、土煙が晴れると、
「…!?どこにもいないぞ!!消えたのか!?」
と隊員のうちの一人が、僕達が消えたことに気付き、慌て始めた。
「どこだ!!どこに行った!!探せ!!」
その頃、僕達は、キッシュの背中にしがみついて、全速力で森の中を駆け抜けていた。
「大丈夫?重たくない?」
僕を背負い、全速力で走るキッシュを心配したが
「大丈夫!ちょっと重いけど…きつくはないわ!」
そう言い、さらにスピードを上げて森を駆け抜けていた。
「ねえ…キッシュ…走ったままで聞いて欲しいんだ…」
「なに?」
「あの施設を出る前に、部屋で約束したよね?」
「うん…それがどうかしたの?」
「約束をもう一つ、追加したいんだ…もし、僕が死んでも…必ず君だけは逃げて、自由になってほしい。」
僕がそう言った途端、一気にスピードが落ちた。
「止まらないで!走り続けないと追いつかれてしまう!」
そう言われ、彼女は元のスピードで走り出したが、かなり動揺しているのは見ただけで分かった。
「なんでよ!約束でしょ!一緒に静かに過ごすって…!話を聞かせるって…ポフィンを…食べさせてくれるって…」
「もしもの時の約束。あくまで保険だから。だからもし、僕が死んでも必ず逃げ延びてみせて!」
そう言うと、キッシュは首をブンブン横に振った。
「そのかわり、僕がもしも死んだら…必ず…必ず生まれ変わって君に会いに行くから!」
そう言うと、キッシュは黙ったまま走り続けた…
そして、少し経って
「約束よ…絶対に…生まれ変わったら…私に会いにきなさいよ…絶対だから…」
そう言った。
「約束するよ。ほら見て!もうすぐ森が終わる!このまま走れば…僕達は自由なんだ!」
鬱蒼とした雑木林を抜け、視界が開けたそこは、森の中にぽつんとできた草原だった。
「なんで…そんなはずじゃ…」
思わず口から漏らしてしまった…
「我々から逃げ切れるとでも思ったのか?貴様がそんなことを考えていることぐらいお見通しだ!」
その草原を囲むように隊員達がポケモンと立っており、丁度真正面の位置にサカキがいた。
すぐにキッシュの背中から降り、戦闘体勢をとった。
「ほう?やる気か?」
「僕はもうあなた達の言うことは聞かない!絶対にキッシュは渡さない!!」
そう言うと
「キッシュ?なんだ?そのアブソルの名か?わざわざ面倒なことを…道具に名など不要!お前ら、アブソルを回収しろ。奴隷は殺して構わん。」
「ポケモンは道具じゃない!パートナーだ!そんな考えしか持って無いあなた達に、死んでもキッシュは渡さない!」
「出来るものならしてみせるのだな!やれ!!」
その掛け声で、一斉に隊員達がポケモンに指示を出したため、一斉に襲ってきた。
「キッシュ!サイコブースト!!」
一気に力を溜め、襲い掛かったポケモンを全て吹き飛ばした。
「ちぃ!流石に手懐けただけはある。アブソルを狙うな!トレーナーの方を集中攻撃しろ!」
再度、その掛け声で狙いが僕に変わった。
「キッシュ!僕が隙を作る!だから…真っ直ぐ逃げてくれ!」
「そんな!レイはどうするの!?」
「大丈夫!すぐ追いかけるから!」
そう言い、襲い掛かってくるポケモンの内の一匹を殴り飛ばした。
そのまま、フットワークを軽く保ち、次々にポケモンと素手で渡り合った。
「ええい!忌々しい!まさかこんな所で誤算が出るとは!やはり奴に体術を教えたのは間違いだったか!」
恐らくはキッシュを一番最初に捕獲する時に、力ずくで、を考えていたのだろうが、今ここで暴れるために役に立った。
「ポケモンを使ってその程度か!相手はただの生身の人間だぞ!……ええい!もういい!」
そう言い、近くにいた隊員に何かを伝えた。
その隊員はすぐにその場を離れた。
「僕を…僕達を舐めるな!キッシュ!かえんほうしゃ!!」
キッシュが口元に炎を溜め、僕の前に集まっているポケモンを一気に吹き飛ばした。
「なんてやつだ!戦いながら指示を出しやがった!」
隊員の一人が驚いてそう言っていた。
これでも伊達でリーグ制覇を何度もしているわけではない。
「てえぇぇい!!よし!キッシュ!スパーク!!そして一気に駆け抜けるんだ!」
殴り飛ばしながら指示し、キッシュがスパークを溜めたのを確認し、後ろに下がった。
キッシュのスパークは丁度自分の居た場所に落ち、土煙と共に、群がっていたポケモンを吹き飛ばした。
「レイも早く!!」
キッシュが完全に僕を待っているのが見えた。
移動する気配も無かったので、仕方なく自分もそちらに移動した。
ダァァァァン!!…………
響いたのは銃声。
気が付けば、自分は地面に突っ伏していた。
足を撃たれたため、倒れこんでしまったが、命に別状は無かった。
「ふはははは!!世話を焼かせおって!これで終いだ!!」
恐らく、サカキは隊員に銃を取りに行くように指示していたのだろう。
「いや…いや……嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
キッシュが叫んでいるのが聞こえる。
『今でも覚えている…これが原因で…俺は…キッシュは…』
「キッシュ!!痛っ!いたたた…僕なら無事だよ…うん、まあ正確には怪我したけど…」
ジョークも絡めて、キッシュを落ち着かせたつもりだったが……
もう…手遅れだった…
「消えろ…消えろ消えろ!消えろ!!全て消えて無くなれ!!!」
キッシュがそう言うと同時に、辺り一面が吹き飛んだ…
「なんだ…?一体何が…」
隊員の一人が全く何が起きたのか分からず、起き上がりながらそう言った。
次の瞬間、その隊員は、真っ二つに裂け、赤い花を咲かせていた。
『なに…今の…まさかキッシュが…?』
そう思っていると、そのままキッシュは、自分の鎌に虹色の光を溜め、そして振った。
ただキッシュはその場で鎌を振っただけだった…だが、その直線上にいた隊員がまた飛沫を上げて消えていった。
何が起きたのかも分からない状況で…キッシュはその攻撃をやたらめったらに打ち始めた。
「ば、化け物だ!…逃げろ!!」
隊員が必死に逃げ始めるが、次々とただの肉塊へと変わっていく…
「素晴らしい…!まさにこれぞ私が求めたものだ…!!一旦退くぞ、後日回収だ。」
そう言い、去ろうとするサカキが許せなかった。
キッシュをこんな目に遭わせ、隊員をこんな目に遭わせ、それでも平然とこの場を去ろうとしているサカキが…許せなかった。
必死に立ち上がり、大声で
「待て!待つんだ!サカキ!逃げるな!!」
そう、叫んだ。
そのままサカキを追いかけることも出来たが…
『そんな暇は無い!早くキッシュを止めないと…』
これほどまでに強大な…まるで次元ごと切り裂くようなエネルギーを放出し続ければ、キッシュは確実に衰弱死してしまう。
「キッシュ!止めて!これ以上そんな力を使い続けたら…キッシュが死んじゃうよ!!」
しかし、そんな言葉はキッシュには届かなかった。
『だったら…!キッシュに見えるように止めるしかない!!』
そう思い、キッシュから見える位置に大の字で立ち、大声で叫んだ。
「キッシュ!もう止めて!キッシュ!!目を覚まして!!元に戻って!!」
空しく響く声。しかし、僕は信じて叫び続けた。
「キッシュ!!思い出して!!キッシュ!!キッシュ!!キッシューー!!!」
気が付けば…自分は地面に倒れていた…
美しい星空が空一面に広がっている…
『なんて美しい夜空だ…あれ…?なんで僕は寝てるんだ?早くキッシュを止めてあげないと…』
左手が動かない…そして…僕の横には泣き叫ぶキッシュの姿があった。
「どうしたんだよ…キッシュ…泣かないで…」
そう言ってキッシュを優しく撫でてあげたが…撫でた跡には真っ赤な線が残っていた。
「あれ?なんで…」
そこまで言いかけて…今の状況に気が付いた…
丁度、左肩から右足の付け根まで…真っ直ぐに切断され、血の海に上半身だけで横たわっていた。
「ごめんなさい…私の…私のせいで……うわあぁぁぁ!!」
キッシュはただ、泣き叫んで、ひたすら謝るだけだった。
「大丈夫だよ…君のせいじゃない…それにしても…よかった…君が元に戻ってくれて…」
だんだんと意識が遠のく中、必死に伝えたいことを伝えていった。
「ごめんね…約束…守れなく…なっちゃって……」
キッシュは無言で首を振る。
「でも…君だけでも逃げてくれ……必ず…二つ目の約束は…守るから…」
そう言うと、また無言で、今度は縦に首を振った。
「だから…さよならじゃない……また…会おう…だから…早くこの場から離れるんだ…」
その言葉を聞き、涙を流しながら、どこかへと消えていった。
「あ……かわらずの石…渡しそびれちゃった…いいか…彼女なら…分かってくれる…」
とうとう、視界が暗くなり、何も見えなくなった。
『僕の思いは変わらないよ……必ず…生まれ変わって…君に会いに行くよ……だから……少しの間…お休み……」
そこで…全ての記憶が終わった…



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  • コメントありがとうございます。
    稚拙な文ですが、楽しんでいただけたのなら嬉しい限りです。 -- COM 2023-05-12 (金) 14:23:03
  • >>名無しさん
    返信遅れました
    何度も読んで頂けて幸いです。
    ――COM 2013-05-28 (火) 23:14:58
  • 10回読みました。凄く面白かったです!
    ―― 2013-05-25 (土) 13:16:04
  • >>ピカチュウ大好き人間さん
    わざわざこんな作品まで目を通していただけるとは…
    実はこれが私の処女作なんです。
    なんで構文がめちゃくちゃなんですよ…お恥ずかしい話。
    ――COM 2013-04-10 (水) 19:54:20
  • 質問で~す!
    これの何処が黒歴史何ですか?
    ――ピカチュウ大好き人間 2013-04-09 (火) 21:15:14
  • 感動しました。
    ――せいさん ? 2012-04-22 (日) 14:55:18
  • コメントページを作成しました。
    ――COM ? 2011-12-06 (火) 23:52:35
  • 私はこれを読みながら、誰かの考えを読んでいるような気がした。 驚くべきことに、私は謎めいたものではあるが、毎秒読むのが大好きだった。 まるであなたの人生の詩を読んでいるような気分でした。 --

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Last-modified: 2011-11-09 (水) 00:00:00
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