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絆〜遠い日の約束 三日目 朝

/絆〜遠い日の約束 三日目 朝

作者:COM


『………何故だ…頭が痛ぇ…体もだるいな…』
そんなことを思いながらレイは重たい瞼をこじ開けて、周りの様子を伺った。
「うわぁ!?なんだこの状態!!」
思わず声に出して叫んでしまった。
それもそのはず、ベッドの上は精液と愛液でめちゃくちゃに汚れていたからだ。
そしてさらに、自分のすぐ横に布団とは違うふかふかしたものがあることに気が付いた。
そちらに目を向けると、すぐ横でいろんな液でよごれたキッシュがスヤスヤと眠っていた。
「え?は?キッシュ…?てかなんで俺の精液まみれなんだ?」
必死に昨日の記憶を辿ってみるが、夜食を作り、媚薬入りの飲み物を飲んだところまでしか思い出せない。
『おかしい…俺は酒に強い方だからあんくらいの酒じゃ記憶を無くさないはずだが…』
しかし、現に記憶が無い。というよりも思い出そうとすると悪寒が走るというのが正しいのかもしれない。
しかし、この状況が危ないのはすぐに気が付いた。
なぜなら記憶が無い状態で、さらにお互い精液まみれ…下手をするとキッシュと交わした《処女を奪わない》という約束を破る羽目になってしまうかもしれない。
「おい!キッシュ!起きろ!」
大きな声で眠っているキッシュを揺さぶりながら起こそうと試みた。
「うぅ~ん…もう少しだけ寝かせて…」
寝ぼけているのかそう言ってキッシュはもう一度眠ろうとしだした。
「いいからすぐに起きてくれよ!あーもう!仕方が無い!10ボルト!」
一応威力を抑えて電撃を放って覚醒を促してみた。
「キャア!何するのよ!びっくりしたじゃない!…って、え?うそ…どうなってるの…」
作戦が功を奏し、少し手荒ではあるがキッシュを起こすことが出来た。もちろんこの状況を理解できないでいる。
「キッシュ!お前えっと…その…処女は…大丈夫…か?」
少し気恥ずかしそうにキッシュに聞いてみると
「え?あ、うん、大丈夫よ。別に痛みも無いし…」
キッシュの答えを聞いて安堵したレイはキッシュに抱きつき
「よかった~…ホントにゴメンよ!実は…」
自分自身も記憶が無いこと、今の状況、そして…昨日飲ませた飲み物の正体を明かした。
「え?そうなの?実はわたし、昨日の夜の記憶がほとんど無かったのよ。」
意外とあっけらかんと答えたキッシュを見て
『やぶへびだったか…言わなきゃよかった…』
そう、心の中で呟いた。
「ねえ、今何時?」
「今か?流石に時計はリビングにしかないから…窓からの風景の予想でもいいか?」
と一応聞いてみると
「別に正確に知りたいわけじゃないから、今が朝なのか昼なのかぐらいがわかったら十分よ。」
そう答えてくれた。
そしてレイは、カーテンを開けて窓の外を確認した
「あ!おにいちゃんおはよう!」
凄まじいスピードで再度カーテンを閉めなおす。
「どうしたの?」
キッシュのほうを振り返り、ジェスチャーで喋らないように訴えると、察してくれたのか頷いて口を閉じた。
「おにいちゃ~ん!まどあけてよ~。」
コツコツと窓をつついて開けるように催促するコッポとパッチ。
『やばい…!どうする…考えろ!…考えろ…!!』
必死に寝ぼけた頭をたたき起こし、フル回転させてこの状況を打開しようと模索する。
そしてそこであることを閃いた。
「お、おい!二人とも!今、この窓開かないんだよ!だからリビングで待っててくれないか?」
前回同様、苦しい言い訳だが
「わかったよ~。はやくでてきてね~。」
そう言ってその声は遠ざかっていった。
『あいつら…ホントは気が付いてるんじゃないのか?』
そうは思ったものの、少しだけカーテンを開け、周りを確認したが、確かにいなくなっていた。
「よし…今のうちだな…キッシュ!ばれないようにこっそり川に行こう。」
キッシュのほうに振り返り、そう言うと、前足で丸を作って意思表示していた。
「いや…別にもう喋っていいよ…」
少し呆れながらも、ばれないように寝室の窓からこっそりと抜け出した。
予想していたよりも日はまだ高くなかった。
コッポ達の挨拶も含め、恐らくまだ朝なのだろう。
近くの川に行き、急いで汚れた体をきれいに洗い流した。
少し、体が乾くのを待っている間に雑談をした。
「ねえ、レイ。そういえばなんでわたしにプロポーズしたの?」
「あ~…それか…」
『なんと言えばいいのか…』
レイが彼女のことが好きだと気付いたのは、昨日。
しかも家路の途中でふとそう思っただけなのだ。
つまり、ほぼ勢いと、一目惚れに近いものなので、いい言葉が思いつかないでいた。
「そりゃあ、キッシュが可愛いと思ったからだよ。」
と笑顔で、恐らく差し障りが無いであろう返答をしたが
「そう……うん、ありがと!なんだかまじまじと可愛いなんていわれると恥ずかしいな。」
と答えたが…最初の《そう……》の時だけ、なぜか浮かない顔をしていた。
「それじゃ、俺からも質問!キッシュの好きな《レイ》ってやつはどんなやつだったんだ?」
「レイは…はっきり言ってかっこいい人ではなかったわ。」
思い出すような表情でゆっくりと語りだした。
「見た目もどこにでもいそうな普通の少年。でも、人一倍優しくて、笑顔を絶やさなくて…そして……」
そこまで言いかけていたが、既にキッシュの目には涙が溜まっていた。
「うわぁ!?ゴメン!無理に嫌なこと思い出させて…」
急いで謝ると
「ううん…違うの…最後に言おうとしたのは…わたしに…《自由》を与えてくれた…とても大切な人…」
涙を拭いながら、そうゆっくりと話した。
「自…由…を…グッ…!」
その途端、レイを頭痛が襲う…
―――「いいの?レイ。みんなを待たなくても…」
ううん、いいんだ。本当は知ってたんだ。もう、みんながここにはいないこと…
「ごめんなさい…」
何でキッシュが謝るの?
「だって…もしかするとわたしのせいで…」
それは違うよ。みんなはキッシュとは関係なく逃がされてるんだ…だからもう、ここにはいないだけ。
いつか…いつかまた会いに行けばいいだけだから…
だから…キッシュ。一緒にここを抜け出そう…自由になろう…
「自由…?本当に!」
もちろんさ…二人で…自……
―――「……イ…レイ…レイ!」
キッシュの呼ぶ声が聞こえ、目が覚める。
「大丈夫!?どこか悪いんじゃ…」
心配そうにレイを覗き込むキッシュ。
「あ、ああ…大丈夫だよ…いつものことだから…」
そう言い、ゆっくりと起き上がる。
「いつものこと?」
キッシュが不思議そうに尋ねる。
「前世の記憶が戻る時さ。今回は…戻った記憶が曖昧だけど…」
折角何かの記憶を思い出したレイだったが、目が覚めるとその記憶はほとんど断片的にしか残っていなかった。
「へぇ~…あ!それじゃ、前急に倒れた時もそうだったの?」
「まあ、そんなところだ。」
そんな会話をしている内に、体も乾いてきたので
「よし、キッシュそろそろ戻ろう。そうしないと流石にコッポ達でも怪しむだろ。」
そう言ってキッシュと共に家に向かった。
「よう!悪かったな、待たせて。」
と言い扉を開け、玄関から堂々と二人で入った。
「あれ?なんでおにいちゃん、げんかんからはいってきたの?」
流石にコッポ達も疑問に思ったようで質問してきた。
「あぁ、結局窓を直すついでに窓から出ただけだよ。扉も壊れてたからな。」
再度意味不明な返答をするが、コッポ達も納得してくれた。
「あ!そうだ!折角木の実を取ってきたんだから早速ポフィンを作ってよ!」
とキッシュが閃き、催促してきた。
「そうだな、とりあえず朝食作るからそのデザートってことでいいだろ?」
と聞き直すとコクンと頷いて答えた。
「ポフィンってなあに?」
「おしえてー。」
コッポとパッチが続けざまに質問する。
「あ、そういえば教えてなかったな。ポフィンってのは簡単に言うと、お菓子だ。」
とレイが説明すると。
「ぼくたちもたべたーい!」
と元気に返事をしてきた。
「了解。お前らは朝食は食べたのか?」
そう聞くと
「うん、おうちでたべてきたよ。」
「ぼくもー。」
と返事が返ってきた。
「じゃ、悪いが俺達が朝食を食べて、ポフィンを焼くまで待っててくれよ。」
と二人に言うと、元気に返事をし、キッシュの横のソファーのひじ置きにチョコンと止まって行儀よく待っていた。
「それじゃ、なるだけ早くお願いねー。もうわたしお腹ぺこぺこ。」
そう言ってレイに小さく手を振った。
「はいはい、ただいま作りますよーっと。」
そう言ってキッチンに向かい、ちゃっちゃと料理をし始めた。
キッチンで料理をしている最中に、
「ねえ、おねえちゃんとおにいちゃんなかなおりしたの?」
とコッポ達がキッシュに質問しているのが聞こえた。
「もちろん!だってレイは本当はやさしいからね。」
そう言いながらレイのほうを向いた。
「料理してるんだからあんまりこっちに振るなよ。」
と、口で言いながらも少し嬉しそうな表情をレイは浮かべた。
そしてその数分後、
「ほら、腹ペコ姫に最高の朝食をプレゼントだ。」
そう言いながら、これまた美味しそうなサンドイッチと木の実と野菜と果物のミックスジュースをテーブルに並べた。
「うわー!やっぱりレイはすごいわ!流石ね!」
そう言いながら早速、前足を合わせ、いただきますと言いながら一口めを頬張っていた。
「おいひー!!もうレイお店出しちゃえば?」
食べながらレイに話しかけるキッシュ。
「う~ん…それもいいかもなー…」
とサンドイッチを一つ口に咥えて、何か作業をしながらレイは答えた。
「あれ?なにしてるの?」
不思議そうにキッシュが質問すると
「ポフィンの生地の用意。少し粘り気を出すために寝かしときたいから、早めに作ってる。」
そういいながらも生地をよく混ぜていた。
「せっかくなんだから座って食べればいいのに…」
とキッシュが言うが
「悪いけどポフィンだけは絶対に手を抜きたくないんだ。」
と断った。
「それって、トレーナーだった頃の癖?」
「多分ね、食べてもらうからには僕も心を込めなきゃ…ってあれ?なんで口調が変わるんだよ。」
と一人で自分に突っ込んではいるが、キッシュは一瞬、驚いた表情をしていた。
「へ、へぇ~…レ、レイにもそんな一面が…あったんだ…」
「ん?俺がこういうことに真剣になるのってそんなに不思議なことだったか?」
そう聞き直すと
「う、ううん…別に!」
とすぐに返事をしてきた。
それからさらに数分後…
「よし!生地もある程度良い状態になったし、焼くか!」
「わーい!」
「たのしみー。」
と二匹ははしゃいでいる。
「ねえ、どうせならわたしに作り方教えてよ。」
とキッシュがレイに言うが
「悪いけどこればっかりは企業秘密だ。」
と断った。
「企業ってどこよ…」
「ま、後で二人だけの時に教えるよ。あんまりこいつらには教えたくないし…」
そう言って、部屋の中を飛び回る二匹に少しだけ目をやった。
「あ、納得。」
キッシュも理解したようだ。
しばらくして…
「よし!焼きあがったぞ!とりあえず、一つずつどうぞ!」
そう言って、出来立てホヤホヤのポフィンをみんなに振舞った。
今度こそみんなで座り、一斉に食べ始めた。
「おいしー!!」
「おにいちゃんじょうずだね!」
と二人が満面の笑みでレイに言った。
「我ながら良い出来だ。久しぶり(?)にしては良く出来てる。」
とレイも自画自賛していた。
「どうだ?キッシュ。美味いか?」
そう聞きながら、キッシュのほうを振り向くと、キッシュは涙を流していた。
「うん…美味しい…」
「うわぁ!?なんかゴメン!変な味だったか?それとも嫌いな…」
焦ってキッシュに聞くと
「ううん…あんまりにも…美味しかったから…」
そう言いながらゆっくり、ゆっくりと噛みしめるようにポフィンを食べていた。
「そうか…でも、どうせなら笑顔で食べてくれた方が俺は嬉しいかな?」
「うん、分かってる。」
そう言って涙を拭っていた。
全員が食べ終わった頃に
「ねえ、どうせならホントにポフィンのお店出しちゃえば?」
とキッシュが聞いてきた。
「店ね…そうだな、そこまで言うんなら出してみようか。」
とレイが承諾したのを見ると、
「じゃ、今日。すぐに商品の分のポフィンを用意して広場に行こう!」
と切り出してきた。
「え?いやいやいくらなんでも今日は…」
「無理なの?あれだけ自慢げに話しておいて。」
キッシュがそういうと
「いや、出来るね。いいだろう。今からすぐ焼くからな!広場に行く準備してろよ!」
と言ってさっさと商品分のポフィンを焼き始めた。
「ホントにレイはそういうところ負けず嫌いねぇー…」
そんなことを呟きながらキッシュは籠などのポフィンを運ぶ道具を準備し始めた。
そして、三十分ほど経った時
「よし!ひとまずこんだけありゃ十分だろ。コッポ!パッチ!これを籠に詰めて持って行くから手伝ってくれ。」
「はーい!」
そう言って300個ほどのポフィンを籠に素早く詰め、広場に向かった。
「悪いな、キッシュにも持ってもらって。」
「いいのよ。でもホントにこれ全部売るつもり?」
キッシュが籠から溢れんばかりのポフィンを見ながら言った。
「う…さすがに作りすぎたとは思ってるけど…売れるかねぇ…」
痛いところを突かれ、少し口篭るレイ。
「大丈夫よ!美味しいのはもう保障済みだし!」
そう言ってキッシュはレイを励ましていた。
それから数十分後、レイ達は森の広場に辿り着いていた。
「レイだぞ…」
「あいつ…何しに来たんだ…」
とレイを見た瞬間、広場にいたみんなが囁きだした。
『しまった…昨日の事、完全に忘れてた…』
と気付いたものの、既に遅く
「レイ!貴様よくもここに来れたもんだな!あ?」
早速、事態に気付いたブレイズが罵倒を浴びせながらレイに近づいていった。
「ちょっと待ちなさいよ!ちゃんと説明するから!」
とキッシュが止めに入る。が
「なんでお前さんがこのクソったれを庇うんだよ!あんたが一番の被害者だろ!!」
聞く耳を持つ気は無い。
しかし、キッシュも負けじと食い下がっていた。
「だから、それもちゃんと説明するって!」
「何だ?こいつにもっと酷い目にでも合わされたのか?」
「だから!…」
いつまでも終わらない口論を見かねたレイがついに、
「すまなかった!今まで、やってきたことをとりあえず謝らせてくれ!」
そう言って深く頭を下げた。
「え!?あ、あ…あそうか…じゃなくて!どうしたってんだ急に。」
流石にいきなり態度を変えたため、ブレイズを含め、その場に居た者のほとんどがかなり驚いていた。
「俺は今まで、自分のくだらない考えを保つためだけにやってきてたんだ…」
そう言い、そのまま経緯を話し始めた…
「なるほど…それで、今までのことを全て謝る、と。」
「謝って済む問題じゃない事ぐらいは俺だって分かってる。だから気に食わなければ俺はこのまま森から去るつもりだ。」
そうレイが言うと、少し考え込み
「そんで、確か店を出したいって言ってたな。」
「出来ればそれだけは許して欲しい。」
そう言ってもう一度頭を下げるレイ。
「それじゃ矛盾してるぞ。店を建てたのに誰が営業するんだよ。」
そう言って後ろを向き、
「トビ!カナメ!すぐに店を建ててくれ!」
そう言うとドッコラーとイトマルが
「了解!レイ!どんな店を建てるんだ?」
と聞いてきた。
「え?い、いいのか?」
顔を上げ、少し戸惑いながらブレイズに質問するレイ。
「いいも何も、もうしないって約束するんだろ?オスに二言は無い。だったらそれを守るだけだ。俺もお前もな。」
その言葉を聞き、レイは涙を溜めながら声にならない声で
「ありがとう…ありがとう…」
そう言いながら地面に頭がめり込むほどに深く頭を下げていた。
「いいよ、もう気にするな。それに、お前がいなくなったら誰がキッシュちゃんを守るんだよ。」
そう言いながらレイの肩を優しく叩いた。
……それから小一時間経ち、
「出来たぞ。注文通りだ。」
と、トビが報告に来た。
「さすが職人だな…全部理想通りだ…」
レイがその出来上がったばかりのお店を見て感嘆としていた。
「ねえ、イトマルさん。お金はいいの?」
と聞くと
「カナメだよ。お金はいいよ。その代わり、後でそのポフィンってのを一個頂戴ね。」
と言った。
……
「あ!見てお母さん!ポフィン屋さんだって!」
とコラッタが母親のラッタに催促をしていた。
「あら、新しくお店が立ったのかしら。どうせだからちょっと寄ってみましょうかね。」
「わーい!」
そんな会話をしながらポフィン屋に入っていった。
「いらっしゃいませ。」
とレイが入ってきた客に挨拶をすると、完全に親子の動きが固まった。
「いらっしゃいませ!」
と急いで横からキッシュが顔をだして言った。
それを見て少し安心したのか、やっとカウンターまで歩いてきてくれた。
「ねえ、レイ。やっぱり後ろで働いてくれた方が…」
と申し訳なさそうにレイに言うと。
「分かってますよ~だ。俺は嫌われてるし、怖い顔だから接客は向いてないってんだろ。」
と、いじけながら奥に引っ込んでいった。
「えっと……レイさん何かあったの?」
と母ラッタがキッシュに質問すると、
「改心したからお店手伝いたい。ってことだったんで。」
と、説明すると納得してくれた。
そして、ポフィンを一つ買って帰っていった。
レイのポフィン屋は、予想以上の売れ行きで…
「それじゃ甘いのを3個と、すっぱいのを1個お願いするわ。」
「はい!お待たせ!」
そういって元気にポフィンを持ってカウンターに出たレイだったが、一瞬で距離を開けられた。
「あ…ありがとう…ございます…。」
そういって恐る恐る商品を手に取り、帰っていった。
それと入れ替わるように
「おねえちゃん!おてつだいしにきたよ!」
「おてつだいー!」
そう言って二匹が飛び込んできた。
「丁度いいタイミングね。えー…っと…レイ?」
「いいよいいよ!どうせ一日で人に好かれるなんて思ってないし。」
完全にすねたレイが背を向けたまま喋りだした。
「そうだ!どうせだから散歩でもしてきたら…」
「ちくしょー!!コッポたちが来たらお払い箱かよ!!」
そんなことを言いながらレイはどこかへ走っていってしまった。
「地味に打たれ弱いのよね…まあそのうち帰って来るでしょうね。あ!いらっしゃいませ。」
『しかし…飛び出したのはいいが…行くとこがないな…仕方ない、不本意ではあるが三歩でもするか…』
そんなことを考えながら、いつもは行かない方向へと歩き出した。
所変わって、キッシュのほうは
「美味しいわね!あなたが作ったの?」
と一匹のキノガッサがポフィンを食べながらキッシュに言っていた。
「いいえ、それを作ったのはレイよ。」
そう言うとかなり驚いた表情で
「え!?レイさんが作ったの?意外と器用なのね。」
「レイは他にも色々作れますし、そのレパートリーの中でも一番得意なんだそうで。」
「へ~…みんなにも教えてあげなくちゃ!」
そう言ってそのキノガッサは店の近くに人を呼んで、井戸端会議を始めた。
その途端、なだれ込むようにお店に人が入ってきだした。
「あら!ホントに美味しいわ!」
「人は見た目に寄らないわねぇ。」
「ほんのり甘くて丁度いいわ!」
そんなことを口々に言いながら美味しそうに頬張っていた。
「なんだなんだ?すごい人だかりが出来てるぞ?」
ウィンディが、そんなことを言いながら近づいていったのが火種になり、男性陣も集まりだした。
「へぇ…美味いな!」
「しっかし、レイもメスみたいな趣味を持ってるな。」
「ホントはメスなんじゃねぇの?」
男性陣は、基本的にレイが作ったと言うことが気になるようで、そこが会話の中心になっていた。
「別におかしくないわよ?人間のトレーナーだった頃は、男女問わずみんな作ってたって。」
「トレーナーになった、夢でも見てたんじゃねぇの?」
とキッシュをからかっていたが、
「それでも何も出来ないオスよりはいいわよね。」
「そうそう、うちのも最近はただゴロゴロしてるだけだし。」
「それに比べて、レイさんは一芸もあって、心根は優しい人なんてキッシュさんは幸せ者ね。」
と口々に語りだした。
「ちょっと待てよ!なんでそうなる!」
「お前らなんでいつの間にかレイの肩を持ってんだよ!」
流石に男性陣も反論するが、
「だって何も出来ないくせに否定しかしない人間なんて…」
「ねぇ?」
女性陣が口を揃えていっていた。
「くそう!なんだってんだよ!」
「フフフ!…よかった、レイがみんなに認めてもらえて。」
……
「な……どうなってんだ……ここ……」
その頃、レイは森の外れにある小さな草原にやってきていた。が
「なんでそこらじゅう抉れてるんだ?しかも真新しい…」
その草原には無数の鋭利な刃物で切り裂いたような痕と、丸く刳り抜かれて土の色が露わになった場所が目立った。
「まるで…なにかおぞましい力で切り裂いたよう…な…グッ!……ガァッッ!!…」
その瞬間、今までよりもさらに強い頭痛がレイを襲った。
―――細い林道を素早く駆け抜けてゆく…
「ここまでくれば…もう大丈夫よね!?」
多分…!それにもうすぐこの森を抜けるんだ!必ず二人で…自由になろう!
「もちろん!約束だからね!」
分かってるよ…必ず…必ず二人で静かに暮らそう…
『クソッ!!…ここで記憶が……』
気が付けばそこは草原の真ん中…
やっと逃げられたと…思ったのに…
「フン!貴様らが思いつくことなどお見通しだ。奴隷の方は殺せ!ポケモンは慎重に回収しろ。」
折角ここまで来たんだ!死ぬわけには!…
「私が守るから!レイが指示を出して!」
分かったよ!でも、絶対に無理はしないでね!
『まただ…記憶が飛んでる…』
お願いだからもう止めて!それ以上力を使ったら死んじゃうよ!
「くそっ!!早く何とかして止めろ!被害が広がる一方だ!」
止めて!これ以上は君が死んじゃう!もう止めて!!
そう言いながら…身を挺して止めようとしたが…
僕は斬撃のうちの一つをまともに喰らい、体が斜めに真っ二つにされた…
次に目を開けると…彼女が泣いていた…
ごめんよ…約束は守れなくなっちゃった…でも…必ず二つ目の約束は…守るから…
「嫌ぁ!!死なないで!!一緒に…一緒にいてぇ!!」
僕の思いは変わらないよ…必ず…約束…は…ま…もる…か…ら……
―――そこで今回の記憶は途切れた。
「今のは…もしかすると…俺が死んだ時の記憶か…なんか肝心な所ばっか欠けてるなぁ…しっかりしろよ!俺!」
と少し嘆きながらも、あたりの暗さに気付いた。
既に日が傾きかけており、この記憶が甦っている間に、かなりの時間が経ったことを意味していた。
「さすがにキッシュも心配してるだろうし、さっさと帰るか!」
そう最後に言い、広場へと戻っていった。
「あ!お帰り!遅かったわね。」
「あぁ、まあ色々あったから…」
そう言ってごまかしていると
「そうそう!今日持ってきたポフィン、全部売れたよ!」
と嬉しそうに話しかけてきた。
「マジか!…流石に作りすぎたと思ったのに…」
レイがそういうと
「レイさんびっくりしたわ!あなたこんな特技持ってたのね!」
「うちの旦那も見習ってもらいたいわ~」
と女性陣がレイを取り囲むように集まった。
「お前ら完全にレイの味方かよ!」
とウィンディが女性達に向かっていっていたが、
「だってホントの事だもの。」
そう言われ、ぐうの音も出なくなっていた。
「そうだ!ブレイズ!それとトビ!カナメ!今日の売り上げ分を受け取ってくれないか?」
と聞いたが、もちろん答えはNOだった。
全員口をそろえて
「ポフィンタダでもらったからそれでおあいこだ。」
と言った。
「本当にいいのか?流石にポフィン一個じゃ…」
「もういいんだよ、レイ気にするな。」
と断った。というよりもレイが先にお礼を言って泣いてしまった。
「それじゃ!また明日も来るからね~!」
とキッシュがみんなに手を振っている。
「二人仲良くな~。」
そんな温かい言葉を受け、広場を後にした。
だんだんと日が落ちていき、木々がうっすらと黒く影になじみだし、周囲のざわめきが少しずつうすれていくようなそんな夕暮れだった。
「ねえレイ、明日も必ずポフィンたくさん売ろうね!」
「その時は俺をハブらないでくれよ?」
そんなささやかな幸せの会話をしながら…ゆっくりと帰っていった。
しかし、その姿を眺めるものが一人だけ…高い空の上から見つめていた。
そのポケモンはその姿を確認すると、森を抜け、人間たちがすむ町の近くへと降りていった。
「クァー!クァー!」
そのポケモン、ドンガラスは男の腕に止まると何かを訴え始め、
「フフフ…どうやらここにいたようだな…我々から逃れられるとでも思ってたのか?たかかポケモンの分際で…」
うっすらと不敵な笑みを浮かべた後、男は近くにいた一人に
「あのアブソルを探し出せ!必要であれば焼き払ってでもだ!ただし、あまり刺激しすぎるなよ?」
そう言い放つと
「はっ!承知いたしました。」
そういって急いで隊員を率いて森の中へと入っていった……



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お名前:
  • コメントありがとうございます。
    稚拙な文ですが、楽しんでいただけたのなら嬉しい限りです。 -- COM 2023-05-12 (金) 14:23:03
  • >>名無しさん
    返信遅れました
    何度も読んで頂けて幸いです。
    ――COM 2013-05-28 (火) 23:14:58
  • 10回読みました。凄く面白かったです!
    ―― 2013-05-25 (土) 13:16:04
  • >>ピカチュウ大好き人間さん
    わざわざこんな作品まで目を通していただけるとは…
    実はこれが私の処女作なんです。
    なんで構文がめちゃくちゃなんですよ…お恥ずかしい話。
    ――COM 2013-04-10 (水) 19:54:20
  • 質問で~す!
    これの何処が黒歴史何ですか?
    ――ピカチュウ大好き人間 2013-04-09 (火) 21:15:14
  • 感動しました。
    ――せいさん ? 2012-04-22 (日) 14:55:18
  • コメントページを作成しました。
    ――COM ? 2011-12-06 (火) 23:52:35
  • 私はこれを読みながら、誰かの考えを読んでいるような気がした。 驚くべきことに、私は謎めいたものではあるが、毎秒読むのが大好きだった。 まるであなたの人生の詩を読んでいるような気分でした。 --

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Last-modified: 2011-11-09 (水) 00:00:00
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