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無利益な奇跡

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無利益な奇跡 

多分♂×♂の話です。あとキャラは推定無罪のキャラと同じです。
青浪



夏至に向かう夏真っ盛り、太陽の光は容赦なく生き物を照らし、そこに住む生き物は口々に暑い暑いと不満を漏らす。
強い太陽の熱は窓から病室に入るも冷房がよく効いて、外の蒸し暑さとは全く無縁だ。その病室で、小さなグラエナがため息をついてずっと外を見ている。

「暑い・・・」
額に汗を滲ませて、病院までの道を行くまだ幼さの残るアブソルが息を切らせて走っている。
白い身体を必死に動かして、蒼い顔は汗だくになり、それでも会いたい奴がそのアブソル、ヴァイスにはいる。ずっと大好きな幼馴染のグラウだ。
病院の白い建物が目に入り、ヴァイスはその中に入っていく。迷うことなくグラウの病室に向かう。
個室の窓から覗くと、いたって元気そうな幼いグラエナが見える。
「グラウ~!」
ヴァイスがそういいながら病室に入ったとたん、びっくりしたグラエナは耳をピン、と立ててヴァイスのほうにそのグレーと黒の身体を向けた。
「ヴァイス、うるさいよ。」
「いいじゃんか~!」
あきれた声で言うグラウに、ヴァイスは嬉しそうな声で返す。がくっとうなだれたグラウは、すぐに顔を上げた。
「でも、ありがと。」
にこっと笑って、グラウはヴァイスに言う。可愛いな、といつもヴァイスは思っている。ヴァイスも入ってきたときからニコニコしてるけど、本当に嬉しそうだ。
「グラウ~。俺のこと好き?」
ヴァイスは入院する前後からずっとこの質問をしている。
「友達としてね。」
グラウのこの返しも定番だ。
「なんだよ~・・・俺が好きなのによ・・・」
いつものことながら、はぁ、とため息をついたヴァイスは思い出していた。グラウが入院した時のことを。

連休が終わって、学校の授業を受けてる最中だった。その日は朝から顔色があんまり良くなかったけれど、座席がヴァイスとグラウは離れているので、言うに言えなかった。
1時間目の授業が終わって、挨拶をしようとしたら突然意識を失って倒れた。教室は騒然となったし、ヴァイスはみんなを掻きわけてグラウの傍にいった。
何度も必死に呼びかけたのに、グラウは答えないし、生気が感じられなかった。そのまま、先生がかかりつけの病院に運んでくれて、入院となったのだ。

グラウが意識を取り戻したのは、病院で点滴を受けてる頃だった。ヴァイスはその時、ベッドの傍で涙をボロボロこぼしてて、意識が戻ったグラウに頭を撫でられたから、それに気付けた。
その授業の日の次の日が終業式で、今は夏休み。

「今日は何する?」
ヴァイスは嬉しそうにグラウに聞く。
「じゃあ夏休みの課題を・・・」
グラウの一言にヴァイスはずっこけた。ヴァイスは夏休みの課題を全くやってない。グラウは入院して1週間、あっという間に片付けたみたいだ。
「ヴァイスにもメリットはあるじゃん。」
「そうだけど・・・」
まぁいいや、とヴァイスは一応持ってきた夏休みの課題をグラウに教えてもらいながら、せっせとこなす。グラウは時折ヴァイスの頭を軽く叩いたり、教えるのに実に楽しそう。
ヴァイスはというと、グラウの顔をじっと見ていた・・・繋がったときのことを思い出して・・・喘ぐグラウ・・・白濁に塗れたグラウ・・・蕾から・・・
「何してんの?」
「ああ!?」
ヴァイスは気付くと全然違うところをやってたみたいで、グラウはすこしあきれる。
「ごめんごめん・・・はあ・・・集中できなくて・・・」
「集中力はあるじゃん。」
不思議そうに言うグラウだが、ヴァイスにはわかっていた。集中出来ない原因が。つぶらな赤い瞳、かわいらしい顔、・・・グラウだ。
ヴァイスはグラウが入院してから少し悶々としていた。大好きなグラウが目の前にいない・・・好きな時に会えない・・・それはヴァイスを延々と苦しめ続けている。
今のグラウは無理な行動は禁物で、病院内でも、常に看護師さんが付いて回る始末。ヴァイスが望む2匹だけの時間というのは病室にいる時くらいなもの。

ガラガラと病室のドアが開く。
「グラウ?・・・ヴァイスくん、来てくれたんだ。ありがとう・・・」
その声に振り向くヴァイス。グラウの母親のグリンだ。グラウをめぐる争いのライバル・・・とヴァイスは考えている。ま、半分冗談だけど。
グリンは看護師の白帽をかぶっている。そう、グリンはこの病院で看護師をしてる。けれど、いつも付いて回る看護師さんっていうのはグリンのことではない。
けれど、たまに覗きに来たり、夜は一緒に病室で寝泊まりしたり、かなり自由に振舞っている。
「グラウ、お昼だよ。」
グリンはそう言って食事の載ったトレーをグラウのベッドの卓に乗せた。グラウは上目遣いで、グリンにお礼を言う。
「じゃ、ちゃんと食べてね。」
グリンは食事を運んできただけみたいで、すぐに病室から出ていった。

「いただきます。」
前肢を合わせて、可愛く食事の挨拶をするグラウ。声変わりのないような声、見た目だけでなくグラウの行動もヴァイスの気持ちを揺さぶるくらい可愛い。
ヴァイスは今すぐにでもグラウを襲いたいくらいの気分になった。けれど、それをするとグラウの体力を大きく奪って、動けなくなるので、おあずけを食らってる、ヴァイスはそんな気分だ。
「食べないの?」
グラウの声に気付いくと、考えてたことを吹き飛ばして自分が買ってきたおにぎりに急かされるようにがっつくヴァイス。
「ごほっごほっ・・・」
「そんなに急がなくていいのに。」
ご飯を食べながらグラウはくすくす笑う。照れくさいようにヴァイスはグラウの頭を撫でる。
いつも他愛のない世間話とか、友達の話をして病院にいる時間を有意義にヴァイスとグラウは過ごしている。今日もそれに違わず、笑いあったり、また突っ込みあったりしていた。
「こんにちは。ヴァイス、来てたんだ。」
「こんにちは、シアンさん。」
ヴァイスの母親のシアンが病室にやってきた。シアンは入ってくるなりヴァイスの頭をぺちぺちと軽く叩く。
「やめてよお母さん。」
「ん~?そんな口利けるのかな?」
どうにもヴァイスとシアンはあの”事件”というかグラウを襲った一件以降、ヴァイスはシアンに逆らうことはできなくなっていた。
シアンに対するヴァイスの口調はかなり丁寧になっていたけれど、それでもシアンの怒りは収まっていないみたいだ。
連休中、ずっとグラウの目の届くところにいて、ヴァイスが近づくと否応なく、制裁を加えていて、さながら拷問みたいだったなぁ、とグラウは今でも感じている。
「グラウくん、元気になった?」
「毎日、お見舞いに来ていただいてるのに、元気にならないほうが変ですよ。」
グラウの言葉に、シアンもかなり嬉しそうにニコニコして、なぜかヴァイスの頭をぱしぱし叩く。そのたびに白い体毛のヴァイスの頭はゆさゆさ揺れる。
「痛っ・・・やめっ・・・痛い痛い・・・」
シアンもグラウもくすくす笑う。結局帰るまでヴァイスはむすっとしたままだった。
「じゃ、帰るね。」
「ありがとうございました。シアンさん。ヴァイス。」
「グラウ・・・明日も来るから。」
「うん。」
そう言って2匹はグラウの病室を後にした。

病室に残されたグラウはいつものように、外をじーっと眺めていた。
「ねぇねぇ・・・君、何してるの?」
「ん?」
誰もいないはずの部屋なのに、グラウを呼ぶ声が聞こえた。空耳かと思ってグラウはとりあえず聞こえないふりをする。
「気付いてるでしょ?」
「・・・」
ベッドから降りて、辺りをとりあえずきょろきょろ見回す。・・・でも誰もいない。さすがに耳をぴんと立てて警戒する姿勢を取った。
「ねぇ!」
「だれ?」
グラウの反応に満足したのか、そいつは嬉しそうな声を出した。
「私はね・・・お化けだよ。」
「で?」
「え?」
「だから?」
「いや・・・お化けだって。」
「だから何?」
「怖くないの?」
「うん。」
無愛想なグラウの態度にそのお化けは次第にグラウに興味を持ち始めたようだ。
「へぇ・・・みんな怖がって逃げていくのに・・・君、名前は?」
「グラウ・・・」
「ふーん・・・似てるね。私はブラウ・・・生きてる時はね。」
急に悲しげに言うブラウと名乗るお化け。
「死んだの?」
「ううん・・・死んだっていうか・・・魂だけここに残っちゃった・・・みんな気付けば逃げていくし、天にも帰れないし・・・肉体がないと外にもいけないし・・・」
ブラウは悲しげに自分の身の上を話し始める。グラウも見えない姿に少し戸惑いを覚えつつも、なんとか会話をこなす。
「で、どうして俺の前に来たわけ?」
「あのね・・・身体・・・貸してくれない?」
「は?」
唐突な話しにグラウはぽかんとした。
「身体・・・」
「♀だよね?」
「生きてた時はね。今はそんなの関係ない。」
「なんで俺が入院してるか知ってる?」
「どの付くくらいひどい貧血でしょ?」
どうにもブラウというお化けは全ての話を聞いていたみたいで、グラウが入院してからの話を淡々と述べる。
「ね?ね?身体貸してくれない?」
「ダメだって。」
「なんでよ?」
少し厚かましいなぁ、とグラウは思ったけれど、とにかく理由を言ってみる。
「普通嫌だろ。痛いか苦しいか死ぬかもわかんないのに。」
「だよね・・・でもね・・・早く天に逝きたいんだ。」
快活な声で逝きたいと言うブラウに、少し戸惑うグラウ。
「私ね・・・生きてる時はシャワーズで、水が大好きだった・・・でも夏の日に熱中症で・・・」
次第にグラウはブラウのペースに巻き込まれていく。
「グラウくんってさ、押しに弱くない?」
「・・・言わないで。」
弱点を突かれて、うろたえるグラウ。
「どれくらいなの?」
「2晩くらい・・・かな。あるところへ行って、お祓いを受ければ、すぐ天に逝けるみたいなんだけど・・・約束してくれる?」
「何を?」
「もし、私が君の身体を借りたとして、私がお祓いを受けて君の身体から離れたらお墓に来てくれるって。」
いつの間にかもうグラウは身体を貸すことに決められてしまったようだ。もう断れないな、とグラウは思った。
「そこに君がいなくても・・・か。」
「うん・・・じゃあ・・・身体借りていい?多分痛くもかゆくもないけど、元に戻ったらすごく変な気分になるよ。」
「なんで?」
「だって、♀の魂に身体貸した後だよ・・・」
それに気付いたグラウはすっごく嫌な顔をする。ブラウはありゃりゃ・・・と言ったあと、グラウに再び問いかける。
「ねぇ・・・私の最後の頼み、聞いてくれる?身体を借りてる間、君は意識も記憶も無いけど・・・」
「・・・わかった・・・」
「明後日の朝くらいまで・・・だけど。よろしく。」
グラウはその言葉を聞いた直後、かくん、と意識を失った。崩れ落ちる身体・・・

「グラウ!」
意気揚々とグラウの病室に入ってくるグリン。グラウの身体はベッドの上にある。
「ありゃ・・・寝てるし・・・今日もお疲れだなぁ。」
グリンはベッドに寝てるグラウの身体をプニプニと突っついて、コンビニで買ってきたお弁当を準備する。
「今日は、牡蠣飯だぞぉ・・・高かったんだけどね~。」
「んっ・・・」
グラウが寝ながら声を出したのに気付いたけれど・・・その声がいつもと違うのをグリンは感じた。
「グラウ?」
ゆさゆさとグラウの身体を揺さぶる。グラウは目を覚ますけれど、グリンはそのグラウに少し違和感を覚えた。
「んふぁ・・・おはようございます。」
いつもと違って声は少し高いし、女の子みたいな声の自分の息子に、グリンはグラウの身体を思いっきり揺さぶる。
「グラウ!あんたいつからそんな変な声出すようになったの?」
「ち、違います・・・私はその・・・」
グリンは耳を疑った・・・身体は間違いなく♂でグラウのものであることは掴んだ時点で分かっていたが、口調も性格もまるっきりグラウのものとは違うからだ。
「あんた誰?グラウじゃないでしょ!」
「あ~いや~その~ですね・・・私は・・・身体を借りて・・・なんて言っても信じてくれませんよね。」
グリンは眉間にしわを寄せて自分の息子をじっと見る。
「そんなにしわ寄せたら、老けますよ?」
「あんだとぉぉぉ!あんた誰に向かって口利いてると思ってんのぉぉぉぉ!」
グラウの頭をばしばし何度も叩くグリン。グラウ・・・は痛そうに何度も前肢で頭を覆うが、グリンはそれを払いのけて何度も叩く。
「はぁはぁ・・これに懲りて余計なことは言わないことね。」
「す、すみません・・・ぜぇぜぇ・・・」
もうグリンにとっては目の前の出来事はショックでも何でもなかった。ただ受け入れるしかない、事実だった。グラウがなにか変な女の子になっちゃってることに。
「あんた誰よ?グラウなの?グラウじゃないの?」
一応身体はグラウのものだったので、ベッドに丁寧に寝かせて、ベッドわきの椅子に座り、問い詰める。
「身体は・・・グラウくんのもので間違いはないですけど・・・私は・・・♀です。」
「なんでこういうことになってるの?」
ようやく本題を切り出すグリンに、グラウの中身のブラウは安堵する。
「ええと、私はまだ天に逝けなくて、それで身体をお借りしたんです・・・って言ったら信じてもらえます?」
思いっきり首を横に振って否定するグリン。はぁっ、とうなだれるグラウ。
「どう言ったらいいんですかね・・・要は私を天に逝かせてくれたらすぐにでも身体をおかえしできるんですけど・・・」
「お祓いに行けってこと?」
「はい。」
ため息をついてグリンは変わり果てた息子の姿をまじまじと見つめる。たしかにまだグラウは♂っぽい声も全く出さないし、女の子みたいに可愛い自慢できる息子だったけれど・・・と。
「で、グラウの身体に取りついて変なことしないでしょうね?」
「え?変なことですか・・・えええ!するわけないじゃないですか!」
変なこと、の内容がわかったのか、グラウ・・・の中のブラウは照れて顔を真っ赤にする。やれやれ、としんどそうに考えるグリン。
「どーすんの、先生に何て言おうかな・・・シアンに何て言ったらいいのかな・・・いつまで?」
頭を抱えるグリンはグラウ・・・に聞く。
「えっと・・・明後日の朝までに出来たらお祓いに連れて行ってほしいな・・・なんて。」
「うーん。そうは言うけどね、グラウは許可取らないと外出れないし、許可取るためには検査受けないといけないし・・・」
「すいません・・・お願いします。」
まぁ、なんとかするわ、と力なく言うグリン。すっかりお弁当も冷めてしまい、おいしくない。身体は空腹のグラウもせっせと病院食を食べた。
「あ、そうそうあなた、名前なんて言うの?」
「ブラウ・・・」
「へ?」
聞き間違いかと思った。グラウ?ブラウ?と首をかしげてグリンは考える。
「ブ・ラ・ウです。」
「あ、そうなんだ・・・似てるね。ウチの可愛い子に。名前が。」
グリンのグラウの紹介の仕方に可笑しくてくすくす笑うグラウの中のブラウ。いつしかグリンも違和感を覚えなくなっていた。
「さ、歯を磨こっか。」
「え?きゃぁん!」
まだちゃんと力の入らないグラウの身体を前肢で抱えて、洗面所まで引っ張っていくグリン。
「いつもこうやってんの。」
「へぇ・・・」
がっちりと身体を掴まれているグラウの中のブラウは洗面台に身体を乗っけられてグリンに歯を磨かされる。
「痒いところある?」
「へ?」
「いつもそんな冗談を言い合ってやってんの。」
「へぇ・・・」
冗談が通じないのも辛いな、と思ってグリンは歯を磨いていった。グリンは歯磨きが終わるとまたベッドにグラウを横たえる。
グリンも個室に併設してある布張りの長椅子を2つくっつけて、その上にゴロンと寝転がった。
「もう消灯時間だからね。おやすみ。」
「ん・・・おやすみなさい。」
しばらくすると、グラウが先に寝たのを確認して、グリンはくぅくぅと静かに眠るグラウ・・・というより目の前の女の子に軽くキスをして、自分も眠りについた。

同刻、ヴァイスの家。
「お風呂上がったよ、お母さん。」
「ういうい~。」
少しお酒が入ってほろ酔いのシアンは、ご機嫌に風呂場へ向かっていく。ヴァイスもやれやれ、と思って自分の部屋に戻った。
「はぁ・・・グラウはいつ退院すんのかな~ぁ。」
そんなことを考えつつベッドにごろっと寝転がるヴァイス。ふと、手持ち沙汰の前肢を白い身体に沿わせてパタパタ軽くはたく。
「んっ・・・」
モノに当たった。ヴァイスは考えた。グラウとヤった日以来扱いていない、あれ以来シアンに何かと目を付けられているので・・・と。
「今ならばれないよな。」
シアンも風呂に入っているし、今がチャンスだと思い、ゆっくりとモノに刺激を与える。右の前肢は見かけ上白いモノの皮をゆっくりと上下に動かしていく。
「ふぁぁぁ・・・ぐらうぅ・・・」
いつしかヴァイスはグラウを犯したときのことを回想しながら、刺激を求めていくようになった。蒼いヴァイスの顔は火照って赤みを帯びていく。
「んぁぁっ・・・ぁぁっ・・・」
先走り液がモノの先端から溢れだし、ちゅぷちゅぷといやらしい音を立てていく。快感は脳髄を焦がし、思考をパンクさせる。
♂の象徴は脈打ちながら勃起していく。ヴァイスは手の動きをますます速めていく。
「ぁぁっ・・・もう・・・ふぁぁぁぁぁっ・・・ぁぁっ・・・ぁぁぁぁぁっ・・・」
電気のような快感が身体を貫き、びくびくと大きく脈打つとモノの先端から白濁が放出される。
「ぐらう・・・」
予想以上に飛んだ白濁はあっという間にヴァイスの白いお腹に付いてしまった。
「あぁぁ・・・最悪。さっさと片付けて寝るか。」
とりあえず、と適当に片付けたヴァイスは心地よい疲労感とともに眠りに落ちた。


翌早朝、病院。
「グラウ・・・起きなさい。」
グリンは昨日のことが現実かどうか確かめるために、グラウの身体をつんつんと突っつく。本来なら起きなくてもいい時間だが、グリンはどうしても確かめたかった。
「ん・・・ん・・・」
やはり昨日の晩と同じ、♀っぽい高い声、そしてしぐさ。グリンはガクッと肩を落とした。とりあえず、起しかけたので、グラウを起こしておく。
「おきなさ~い。」
「もうちょっとまってください・・・」
おきろ~、とグリンはグラウの身体をゆさゆさ揺らす。あまりにもしつこいので、グラウもふぁぁ・・・とあくびをして身体を起こす。
「おはようございます。」
「おはよう。」
グリンは淡々と朝の身だしなみを整える。
「今日は、遅番だから、ゆっくりできるんだよ。」
頭を撫でるグリン。いつものグラウならすごくうれしそうに目をキラキラ輝かせる。でも、目の前のグラウはなんだか居心地が悪そうだ。
「なによ、ちょっとくらい嬉しそうにしなさいよ。」
「すみません。あんまり親からこんなことされたことなかったんで・・・」
グリンはグラウの中のブラウの身の上話が聞きたくなったので、素直に聞いてみることにした。
「あんたさ、どうやって生きてたの?」
ぶしつけな言葉に、少しむすっとするグラウ。
「生きてる時ですか?」
「当たり前じゃん。」
ばつの悪そうに返すグリン。
「私は・・・友達がいませんでした。いつも1匹で、だから誰にも勉強は負けたくないと思って・・・一生懸命勉強して・・・」
「努力家なのね・・・でも、それだけ努力出来るなら友達だってできたはず・・・」
グリンは思ったことを率直に言ってみるけれど、グラウは諦め加減に視線を外に投げ出した。
「私が初めてちゃんと友達だと思えたのは・・・この身体の主であるグラウくんだけです・・・話を聞いてくれて・・・私の話しに聞き入ってくれて・・・」
「死んでから友達が出来たっていうこと?」
グラウはがっくりと肩を落として、そうです、と呟いた。さすがのグリンもそれを聞いて悪かったなぁ・・・と思う。
「ごめんなさい・・・」
「いやいや。いいの。ちゃんとグラウを返していただければ。」
ふと、グリンはグラウのベッドの卓の上に昨日は置いていなかった1冊のノートを見つけた。
「あれ?このノート・・・」
グリンがそう言うや否や、グラウはそのノートをばっ、と力づくで取ってベッドのわきに隠す。その様子を見て何かあるな、とグリンは思った。
「これは・・・私がいなくなってからグラウくんのために残すノートです。」
「呪詛の言葉とか、書かないでよね。」
冗談交じりに言うグリンに、グラウはまさか、と言ってくすくす笑った。
グリンはまだ♀とも♂ともつかない幼い体つきのグラウが、♀のお化けに取りつかれても可笑しくはないな、と違和感が次第に薄くなっていく。
「あの・・・」
グラウがもじもじしてグリンにお願いするような声を出す。
「なに?」
「といれ・・・」
「あ?」
「トイレ・・・どこですか?」
グリンは、グラウの言葉に今のグラウがどちらのトイレに行くのか、それが気になる。
「あんた、身体は♂なんだから、♂のトイレ行きなさいよ。」
「えー!?そんなぁ・・・」
なんで困るのか、とグリンは思った。そんなグラウを笑って急かすグリンだった。

今日も病院への道をせっせと走るヴァイス。
「今日は課題をチャッチャと片付けるぞ!」
額に汗を浮かばせて、グラウの病室目指して走る走る。
「グラウ!」
病室のドアをガラガラと開けると、いつもと違ってグラウだけでなく、グリンもいた。
「グリンさん、今日は遅いですね。」
「あ・・・いやまあ・・・そのね・・・遅番・・・だから。」
何かをはぐらかすように言うグリンに、ヴァイスは何か怪しいな、と感じる。グラウはそっぽを向いたままだし、グリンもよそよそしい。
「グラウ?」
ヴァイスが呼んでみるけれど、いつもみたいに嬉しそうなのではなく、ゆっくりと振り向く。そして少し警戒されているようだ。
「どうしたんだよ?」
「え?」
何かがおかしい。声も少し高いし、♀みたいな声だ。
「グラウ。何かあった?」
「何にもないよぉ・・・」
絶対おかしい。ヴァイスはグラウの顔をまじまじと見つめる。いつもなら叩かれるか照れくさそうにそっぽを向くのだが、なぜか顔を赤らめてまじまじとヴァイスを見返した。
「いつからそんなオカマみたいな口調になったんだ?」
しつこく聞いてみる。
「え?私はオカマじゃないよ!♀だよ!」
は?ヴァイスは頭の中が真っ白になった。♀?どう考えても自分がいるのはグラウの病室、そして目の前にいるのはグラウ、間違いない。
「お前♂だろ!」
「きゃぁっ!」
怒って伏せていたグラウの身体をひっくり返して仰向けにする。
「ほら、あるだろ!♂の象徴が!」
ヴァイスはつんつんとヴァイスのモノをつっつくが、グラウはその声に怯えて、身体を動かせない。
「まぁまぁ・・・」
グリンが怒るヴァイスをなだめる。
「グリンさん!どういうことですか?」
事情を知っているであろうグリンを問い詰めるヴァイス。
「あー・・・グラウが自分で説明して?ね?」
優しくグラウの身体を起こして、グリンは言う。
「はい・・・ええと・・・」
話を振られてゆっくりと喋り始めるグラウ。
「私は・・・♂のグラウくんの身体を借りて・・・生きてる時は♀だったんですけど・・・」
怒ってるヴァイスを目の前にしてか、少したじろぎながら説明するグラウ。
「つまり、お前はグラウの身体を借りた幽霊だってこと?」
「はい。信じてもらえます?」
呑み込みの早いヴァイスに期待を込めてグラウは聞くが、やっぱりヴァイスも案の定首を横に振る。
「はぁ・・・」
ダメか・・・とがっくり肩を落とすグラウ。ヴァイスは悪いこと言っちゃったかな・・・とグラウの傍に行く。
「ねぇ、どうしたら元のグラウに戻ってくれるの?」
「お祓いに行ったらいいんだってさ。」
ヴァイスの質問にグリンが答える。
「お祓いか・・・あそこのゲンガー神社ならいいかな・・・」
「そうだね。」
グリンとヴァイスで合点する。ゲンガー神社とは、病院から出て30分の場所にある神社で、神主のゴースト能力はずば抜けている、という噂がよく流れている。
「ただねぇ・・・グラウは外出許可取らないと、外出れないでしょ?許可取ろうと思ったら検査受けないといけないし・・・検査で♀みたいな行動したらまた、検査に次ぐ検査で・・・」
憂鬱そうにグリンは言う。ヴァイスもそっか・・・とうつむく。
クールダウンしたヴァイスはさっき自分がグラウにした行動を悔いていた。何も知らなかったとはいえ、♂の象徴をつんつん突っついたり、無理やり仰向けに身体をひっくり返したり・・・と。
でも、♀みたいなグラウもいいかも・・・となぜかヴァイスは変態的な思考にすぐさま直結していく。
「そうだ、ヴァイスくんが来てくれたから、もう行くね?グラウ。」
「がんばってください!」
そのグラウの可愛い声援に、にこっとグリンは微笑んで病室を出ていった。

2匹っきりになった病室。ヴァイスは少しの気まずさを覚えていたが、あくまでも自然に振舞おうとする。
「今日なにする?」
グラウは少し戸惑った表情を見せて、また外を見た。
「ごめん・・・さっきあんなことして・・・」
「いいの。」
すっかり少女っぽい声に、ヴァイスは完全に戸惑う。
「グラウ・・・じゃない、君が生きてた時の名前を教えてよ。」
「・・・ブラウです。」
戸惑うのは確かだが、外見の特徴はグラウそのものだったので、話すのには特に抵抗を感じなかった。
それでもいつもグラウと話すよりも精神的に辛いので、ヴァイスにはさっさとグラウに戻ってほしいという思いは強い。
「早く外に行こうか・・・」
「でも検査受けないとって・・・」
グラウの中のブラウの態度に少しイライラするヴァイス。
「抜け出すんだよ!」
ヴァイスは語気を強めてグラウの身体をふにふにと揉む。
「やぁっ・・・やめてください・・・」
その普段のグラウと違う甘い声に、ヴァイスは少し動揺する。
「ふぅん・・・」
ヴァイスはベッドの上に乗っかって、仰向けに寝てるグラウに覆いかぶさる姿勢を取る。
「やぁ・・・何するんですかぁ?」
「いつもこうやってるんだけど。」
下らない嘘をヴァイスはつく。いつもこんなことしてたら、グラウは腹を殴ってくるから。間違いなく。
「嫌われますよ?」
ブラウの態度にヴァイスはさらに驚く。確かにいきなり覆いかぶさったら嫌われるだろうが、それをグラウからはっきり言われることはまずない。そもそもヴァイスが自重するし。
「嫌われる?」
「はい。」
にこっとブラウは笑う。と、いっても普段のグラウの笑顔と寸分たがわぬ笑顔だが。ヴァイスはそっと唇を奪う。
「ん・・・んー!んー!」
唇の突然の温かい感触に驚いたブラウは声を出して抵抗する。けれどヴァイスはいつものグラウの弱点の耳をふにふにとつまむ。
「んっ・・・んぁっ・・・」
やはり違うのは声色と性格だけみたいで、弱点もほぼ一緒だ。
「ぷはっ・・・何するんですかぁ!」
ちょっと拗ねたブラウに、ヴァイスはごめんごめん、と軽く謝って頭を撫でる。
「昼ごはんのトレーの回収が終わったら抜け出すよ。」
ヴァイスはそっとブラウに耳打ちをした。ブラウもコクリと静かにうなずいた。時計の針はまだ10を過ぎたばかりだ。ヴァイスはブラウに何度となく抜け出す計画を耳打ちしていく。

「どう?」
ブラウの声が個室に響く。個室のドアが開いて、ヴァイスがひょっこり顔を出す。
「いいな。」
笑顔で言うヴァイスに、グラウの・・・というかブラウの顔もにこやかになる。ヴァイスはさっきから病室を出たり入ったりして、看護師の数と、部屋から出たときの反応を窺っていた。
要は脱出計画の訓練と、その修正を何度も行っていたのだ。何度も話しあううちに、ヴァイスはブラウを、ブラウもヴァイスを信頼するようになっていった。
「ねぇねぇ・・・誰か来たら、見られたらどうするの?」
不安げにブラウは言うが、それに気付いたヴァイスは、ひょいっと縄跳びの縄を2本、見せる。
「これで縛ってベッドに置いとく。」
少し無謀な計画にクスクスとブラウは笑う。ヴァイスもやっぱり無理だよな、と思いつつ、つられて笑う。
「でも、相手がエスパーだったら出来るよね。」
そのブラウの鋭い一言は、ヴァイスの顔を真剣なものに戻した。
「出来る。やるしかない。」
ブラウに、そして自分にも言い聞かせるように、ヴァイスは真面目な顔で言う。ブラウも真剣なまなざしで、ヴァイスを見つめた。
「神社までの道のりはそんなにしんどくはないはずだから。」
2匹でヒソヒソ会話を交わしているうちに、ガラガラと病室のドアが開く。
「はい、お昼ごはんですよ。」
「ありがとうございます。」
グラウ・・・の中のブラウの代わりに、ヴァイスがお礼を言う。看護師は手際よくトレーをブラウのベッドの卓に乗っけた。
「ちゃんと食べてね~。」
看護師はそういうと微笑みながら病室から出ていった。ヴァイスも持ってきたおにぎりを食べ始める。
「じゃ、いただきます。」
礼儀よくブラウも食べ始める。
「ブラウ、早く食べなよ。」
「今食べ始めたばっかじゃんか。」
急かすように言うヴァイスに、ブラウは文句をいう。ヴァイスはグラウと呼ばず、ブラウと呼んだ。そっちの方が今は正しいからだ。
ブラウにとっての最後のご飯になるかもしれない、と思ったヴァイスは、ブラウが落ち込んだり、不安にかられないように気にかけつつ、おにぎりをほおばる。
「ごちそうさま。」
楽しそうにブラウは言う。ヴァイスもほっとしてその笑顔を見つめる。いつものグラウの笑顔と変わらないけれど、意味するものは少し違う。
時計をみると1時を過ぎるところだった。少しして看護師がトレーの回収にやってきた。
「ちゃんと食べたんだね~。」
相変わらずの口調で看護師はトレーをベッドの卓からどけた。ヴァイスとブラウは見つめあってにこっと微笑む。

「よし、1時15分。そろそろ行こうかな・・・ブラウ、身体は大丈夫?」
時計を見て言うヴァイス。ヴァイスの気遣いにブラウは大丈夫、と力強い笑顔で答える。そのつぶらな赤い瞳は、不安よりも期待で満たされているようだ。
「じゃ、行くよ。」
「うん。」
ヴァイスはベッドから降りるブラウを慎重に見守る。身体は貧血のひどいグラウのものそのものだったから、何が起きても不思議ではない。
病室の入り口から辺りを慎重に何度も見まわすヴァイス、ひょこっとブラウも顔を出す。
「あああ・・・ブラウは俺の後ろ付いてくるだけでいいから。」
「ありがと・・・」
少し照れたように答えるブラウにヴァイスは緊張を隠せない。安全を確認するとブラウと一緒に病室を出る。
「あれ?グラウくん、どこ行くの?」
声を掛けられて2匹ともびくっと大きく身体を震わせる。いきなり見つかったのだ。振りかえると看護師の白帽をかぶったエーフィがいた。
しまった・・・と、悟られないように2匹は顔を見合わせて注意したげなエーフィを見る。
「どこか行くなら、看護師の付き添いか、ちゃんと許可取らないとだめふぐっ!」
「ふいうち!」
ヴァイスの不意打ちを食らった看護師のエーフィは文字通り、身体を崩した。ブラウとヴァイスは協力して、病室に看護師のエーフィを運ぶ。
「あ、その縄を後ろ脚に縛って?」
ブラウはヴァイスの指示にしたがって、器用に看護師のエーフィを縛る。ヴァイスもエーフィの前肢をせっせと縛って、ナースコールを押されないようにベッド脇に隠す。
「口、どうしよ?」
困ったように言うブラウだけれど、どこか楽しそうだ。
「タオルで縛っとこ。」
ヴァイスは長いタオルを取って、エーフィの口の周りに巻いた。
「さ、行くぞ。」
今度こそ、と言う具合に、階段を下りて病院の出口まで誰にも気づかれず2匹は出ることが出来た。
病院を出ると、ブラウは嬉しそうに駆けだす。ヴァイスもグラウと外に出るのは久しぶりだったのでとてもうれしかった。
「ちょっ・・・ちょっと待って・・・」
やはり、外出するのは今のグラウの身体では酷だったのか、再三、止まったり、ヴァイスに待つようにブラウは言う。
「大丈夫か?」
何度もヴァイスはそう聞くが、そのたびにだいじょうぶ、と汗だくになったブラウは答える。途中通った公園で見た時計は、2時と3時の間だった。
「もうすぐなんだけどな・・・」
そう呟くヴァイスの前に、大きな林が広がっていた。
「ブラウ!ブラウ!ここだここ!」
「あああ・・・ちょっ・・・まって・・・」
地図と照らし合わせて確認したヴァイスは大喜びで、ブラウを引っ張って林を進んでいく。

「ここが・・・神社だね・・・」
「ちょっと怖いです・・・」
鬱蒼と生い茂る林を抜けると、少し苔の生えた鳥居と、くすんだ朱色の門が2匹を出迎えた。帰りたい、とも思ったけれど、グラウとブラウのことを思えば、ヴァイスには進む道しかない。
「さ、行くよ。」
少しおびえて身体を震わせているブラウを、ヴァイスは心配しつつ、門をくぐって進んでいく。
グラウなら、いっつも尻尾を逆立てて構えるのにな・・・とヴァイスは思い出していた。いまのブラウは本当に獰猛さのかけらのない、か弱い♀にしか見えない。
門をくぐり、拝殿の脇を進むと、すぐに本殿に着いた。
「すいませ~ん・・・」
本殿の入り口で、誰かが来てくれるのを待って声を出すヴァイス。ブラウは少し落ち着いたのか、お座りをしてずっとヴァイスの傍にいる。
「いないのかな・・・すいませ~ん!」
声が広い本殿に響く。
「あいあい。」
どこからともなく適当な返事が聞こえる。ヴァイスとブラウはとりあえず、安堵した。
タッタッタ、と軽い足音が木の床に軋んで待っている2匹に伝わる。次第にその姿が2匹の前にあらわになっていく。
「ムウマージ?」
ゲンガー神社、のはずが出てきたのはムウマージ。巫女か何かなのか?とヴァイスは思った。
「お待たせしました、私が、神主のマロンです。」
そういうとマロンと名乗ったムウマージはにこっと笑う。その♀の声ははっきりと透き通るものだった。
「ゲンガー神社、ですよね?」
疑問をたじろぐことなくヴァイスはぶつける。
「はい。それは私のおじいさんがゲンガーだったからつけました。」
安直だなぁ、と2匹は思いつつも、本題を切り出すことにした。
「あの・・・このグラエナにとりついたっていうか、この身体に着いてるブラウの魂を、天に返してあげてほしいんですけど。」
単刀直入にヴァイスは言う。マロンは少し悩んだ表情を浮かべて、口を開いた。
「えっと・・・いいんだけど・・・まぁ、上がってよ。」
マロンに案内されて本殿を奥へ進んでいく2匹。本殿の建物は思ったより広く、一つ一つの部屋の大きさがかなりある。
「はぁはぁ・・・」
「がんばれ・・・」
すでに息を切らせてしんどそうなブラウを、ヴァイスはさすったり、撫でたりして励ます。そのたびにブラウは笑顔でヴァイスを見つめた。
「もうそこだから。」
マロンはそう言って2匹を見てきた中では一番小さな部屋に案内した。
「はい、じゃ、ちょっと待っててね。」
2匹を置いて、マロンは部屋から出ていった。待っている間、ヴァイスとブラウは見つめあったり、お互いの身体を撫でたりしていた。
ヴァイスはブラウの・・・というよりグラウの身体のつぶらな赤い瞳をじっと見つめ・・・欲していた。知ってか知らずか、ブラウはそんなヴァイスを見てニコニコ笑っていた。
「お待たせ。」
マロンはすこし大きな杯を2つ、ヴァイスとブラウの前に差し出す。
「なんですか?これ。」
「ま、ま。一気にグイッとのんで飲んで。」
いやいやながら、2匹とも杯を口に当てて一気に飲み干す。
「うぇぇ~・・・なんですかこれ・・・」
ヴァイスも、ブラウもまずかったようで、吐きそうな声を出す。
「これは、清めのお酒です。」
「お酒!?」
「はい。」
お酒、聞いたことはあるけれど、普段、生活を送る上ではヴァイスには聞き慣れないものだった。
「さて、本題に入りますね。」
お酒に辟易した2匹を前に、ようやく話をはじめるマロン。
「ええと。ブラウの霊を天に帰すには、ブラウの望みをかなえてあげないといけません。それが一番手っ取り早くて、安全なんで。」
なんだそんなことか、とヴァイスは思った。けれどブラウはずっとうつむいている。
「けれど、ブラウの身体の持ち主はそれを望んでいないと思います。」
「え?」
グラウが望んでいないこと?ヴァイスは首をかしげる。
「そのために、お酒を飲ませて、持ち主の意識と記憶を飛ばしたんですけどね。身体を借りているからって、全ての意識と記憶が無くなるわけでは無いですから。」
にこっと笑って、マロンは夕焼けの温かい陽が入り込む部屋に2匹を連れていった。
「さて、ブラウ、自分の望みを言いなさい。」
マロンはふっとブラウに手をかざす。途端にブラウは身体がブルブル震えて、冷や汗をかき始めた。
「そのっ!そのっ!・・・ヴァイスをください!」
「へ?」
満足したのか、手をかざすのをやめたマロン。ブラウは顔を紅潮させてうつむいている。
「まぁ、要するに君と性的なつながりを持ちたいっていうことですよ。」
ヴァイスは驚いて、何も言えなくなった。グラウが嫌がるってこれのことか・・・と、思うとともに、ブラウが自分を欲しているのが、少し嬉しかった。
「この部屋で気が済むまでどうぞ。あ、すんだらちゃんと身体をそこの水場で洗い流してから来てくださいよ。」
すこしあきれたような感じの口調で、マロンは言うと、部屋から出ていった。

2匹っきりになった部屋。ヴァイスの目の前には大好きなグラウ。ただ、今は少し違う。♀なんだ。魂は。正真正銘の。でもグラウは♂だ。
♀のブラウは自分を求めていて、♂のグラウは嫌がる。普通に考えればそれが正常だ。けれどヴァイスの中では少しそれがおかしいように感じた。
ブラウはさっきからうつむいて、少し涙を流している。
「どうしたんだよ。」
この気まずい空気を打破するために、ヴァイスはブラウの身体をポンポン、と叩く。ブラウは涙ながらにヴァイスの顔を見る。
「グラウくんにぃ・・・もうしわけなくてぇ・・・はじめて私のはなしを聞いてくれた友達なのにぃ・・・」
涙声で訴えるブラウ。ヴァイスはブラウの中のグラウの大きさを感じた。
「私がグラウくんの身体を選んだのは・・・好きだったから・・・毎日病院にいて、窓を眺めて、毎日来るヴァイスと一緒に楽しそうにしてたから・・・」
心の内を明かし始めるブラウに戸惑うヴァイス。
「そんなグラウくんの身体を私の勝手な望みで・・・」
こらえきれなかったのか、涙をぽろぽろ流すブラウ。ヴァイスはそっと寄り添う。
「グラウだったら・・・理解してくれるんじゃないかな・・・」
またヴァイスは嘘をつく。多分理解はしても、絶対嫌がるだろうから。グラウはこの前、ヴァイスに襲われた一件で、そういうのを拒むようになった。しばらく軽いトラウマ状態だった。
「そうですか?」
「多分ね。」
罪悪感を感じたヴァイスは多分、と一応前置きを置いておく。ブラウは上目遣いでヴァイスをじっと見つめた。ヴァイスはその赤い瞳に吸い込まれそうになる。
「み・・・見んなよ・・・」
「いいじゃないですか・・・」
2匹は照れくさそうに言う。
「敬語、使わなくていいよ。」
ヴァイスはゆっくりとブラウの身体を覆えるように、姿勢を整える。いつでも受け入れられるように、と。可愛いブラウの肢体からは汗と土の匂いがしていた。
「ヴァイス・・・」
ブラウは自分から仰向けに寝転がる。求めるようにヴァイスもその身体をじっと覆っていく。グレーのお腹を上に向けて、目を瞑っているブラウとヴァイスは口づけをする。
「ん・・・んっ・・・」
最初は軽く唇を合わせているだけだったが、次第に濃厚なものになっていった。
「んっ・・・ふぁっ・・・んぁ・・・」
舌を絡ませ、お互いに唾液と舌で口腔を占領していく。ブラウは気持ちよさそうに息をもらし、ヴァイスはそれに満足していた。
ぴちゃぴちゃといやらしい音を立てながら、求めあう身体を何度も密着させ、何度も舌を絡ませては、貪るようなキスを繰り返す。
「んっ・・はぁはぁ・・・」
「よかったよぉ・・・」
ブラウの声にヴァイスはついついもう一回キスをしてしまう。ブラウは黒い四肢をばたつかせてもうやめて、とヴァイスに訴えた。
「ふふっ・・・」
ほくそ笑むヴァイス。ブラウは瞳をとろんとさせてヴァイスを求める。そのいやらしい肢体はグラウだったら絶対しないようなポーズだった。
「なにからしてあげようかな?」
黒い四肢をふにゃっとまげて、全て見える格好の肢体をさらすブラウに、ヴァイスは前肢でグレーの体毛に覆われた胸に探りを入れる。
「やぁん・・・」
乳首を触ったとたん、甘い声をあげるブラウ。ヴァイスはニヤッとすると、強く揉みしだく。
「やぁん!ふぁぁん!やぁぁぁ・・・ぁぁん・・・ふぁぁ・・・」
口からだらしなく涎をたらし、ブラウは力なくヴァイスを見つめている。身体をぴくぴくと震わせ、とても気持ちがいいみたいだ。ヴァイスにはとても♂の身体とは、グラウの身体とは思えなかった。
ズブッ・・・
「きゃぁぁん!ぁぁっ・・・」
ヴァイスは片方の前肢を乳首から、蕾・・・アナルへ動かし、辺りをまさぐって、蕾に挿れた。ブラウはくねくね身体を悶えさせて、喘ぐ。
「ここ弱いんだろ。」
いつものグラウに言ってやりたいセリフだ。そう思いつつズブズブと蕾に入れた指を進めていく。例のポイントへ。
「きゃぁん!やぁぁん・・・ヴぁいすっ・・・ふぁぁん!」
ブラウは信じられないくらい気持ちよさそうだ。ヴァイスもその反応にいちいち息をのむ。うつろな目をあっちへこっちへ動かして、結局、ヴァイスをじっと見つめる。
お酒も入って、悪乗りもしつつ、ヴァイスは進める。
「きゃぁぁん・・・ふぁぁぁん!」
突然ブラウの身体がびくっと震え、今まで無かったくらいの悶えを見せた。ポイントを探り当てたみたいだ。ヴァイスはブラウの・・・グラウの身体に、敏感な素質を見出せた。
ニヤッとヴァイスは笑うと、そのポイントを刺激し続けていく。すでに大きくなったブラウのモノはポイントを突くたび嬉しそうに身体ごと震える。
ブラウは生きてる時には経験のない・・・モノが熱を帯びて、快感を感じる・・・動きに頭をパンクさせていた・・・
「やぁん!ひゃぁん!ヴぁいすっ!・・・ふぁぁん!」
身体をぷるぷる震えさせながら喘ぐブラウは、ヴァイスには淫乱に見えた。モノを大きく隆起させてるブラウは、息が次第に荒くなり、快感に身をゆだねている。
「ふぁぁぁっ・・・」
しだいに喘ぎ声も小さくなり、瞳をとろんとさせて、ぼーっとヴァイスの動きを見つめている。
「ぁぁ・・・ぁぁっ・・・いいよぉ・・・ふぁぁ・・・」
ヴァイスはここぞとばかりに、前肢の動きをどんどん速めていく。ブラウも喘ぎ声を再び大きくした。
「ふぁぁん!やぁぁぁ!なんあきあ!・・・ふぁぁぁ!」
絶頂に達したみたいで、ブラウは身体をぴくぴく痙攣させた後、モノから白濁をどぴゅどぴゅっと吐きだした。その白濁はベチャベチャとグレーのお腹を汚していく。
「ふぁぁ・・・ふぁぁ・・・ふぁ・・・」
快感がおさまったのか、ブラウは喘ぎ声を小さくした。ヴァイスはブラウの恥じらいに満ちた顔を覗きこむ。
「こんなに出しちゃって・・・よっぽど気持ちよかったみたいだね?」
「そ・・・そんなこと・・・」
顔を紅潮させているブラウを言葉で責めるヴァイス。
「じゃ、次は俺のを・・・」
そういいかけて、ヴァイスは勃起したモノを、ブラウの顔に近づけて、前肢で扱き始める。不思議そうな目で見るブラウをほっといて、もうすぐにでもイきそうなヴァイスは扱くスピードを上げる。
「やべっ・・・もうでるわ・・・ふぁぁぁ・・・ぁぁぁぁっ・・・」
自分が思った以上の興奮に塗れていたヴァイスはすぐに身体をぴくぴく痙攣させてモノから白濁を放つ。ブラウのグレーと黒のラインの入った顔は白濁に塗れていく。
「うぷっ・・・なにするの?」
息苦しそうにいうブラウに、ヴァイスはにこっと笑って自分の精をブラウの顔ごとぺろぺろ舐め取っていく。
「ひゃっ・・・くすぐったい・・・よぉ・・・」
甘い声を出し続けるブラウ。ヴァイスはまだイったばかりだというのに、またモノをむくむくと勃起させて、誇示するようにブラウに見せる。
「挿れるね?」
「うん・・・」
妖艶なブラウの声に応えるように、ヴァイスはブラウの蕾にモノをあてがう。
ズブブッ・・・
「ひぁぁ・・・」
少し挿れただけでも、嬌声を上げるブラウ。ヴァイスはそれを欲するようにズブズブと入れていく。ブラウの蕾には力が入って無く、キツくてもあっという間に半分以上が入った。
「酔ってた方がトロトロだな。」
「やぁっ・・・きゃぁん!」
ナカの温かい感覚に酔いしれて、ヴァイスはそのポイントを知らず知らずのうちに刺激する。ブラウの悦びように、ヴァイスはそのポイントを正確に突く。
「ふぁぁっ・・・いいですぅ・・・ふぁぁん・・・」
弱気で淫乱なブラウと、強気で清純なグラウ。その2匹の差は、精神が同じ身体にありつつも、ヴァイスにはそれを見せつけた。ちゅぷちゅぷといやらしい音を立てて、ヴァイスは腰を動かし始める。
「はぁぁ・・・ぁぁ・・・ふぁぁ・・・ぁぁぅ・・・」
ブラウのモノは快楽を求めて再び勃起し始める。突かれるたびに何とも言えない声をあげて、息を荒くするブラウ。
とても感度がいいらしく、何度もブラウはよがり狂う。ブラウの身体の持ち主のグラウもおそらく自分と繋がってから扱いてないんだろう、ヴァイスはそう思いながら、ブラウを犯していく。
「きゃぁん!ふぁぁ・・・あああっ・・・ヴぁいすっ・・・もっと・・・」
意地悪してやろうと、ヴァイスは動きを止めた。案の定ブラウは欲しがるような目をずっとヴァイスに向けている。ブラウのモノももうイく寸前だ。
「やってよ・・・」
「何を?」
いつもの言葉攻めで、ブラウに淫猥な言葉を言わせようとする。グラウはいつもこの手には絶対に乗らない。ブラウも・・・
「あの・・・その・・・」
おお、言う気だ、と再び腰を動かして突く態勢を整える。
「おしりのきゃぁっ!」
「え?何?」
言いかけたところで一度突いた。ブラウは目に涙を浮かべてヴァイスに訴える。
「わたしの・・・イかせて・・・突いて・・・」
そのみだらな口ぶりはヴァイスを再びその気にさせるには十分だ。
「きゃん!やぁっ!はぁん!いいよぉ!」
ガシガシとブラウのナカを突いていくヴァイス。ブラウは喘ぎ声を抑えきれないのか、感じたままを素直に喘いで言った。口元からは涎がダラダラと垂れている。
ヴァイスが仕上げにかかろうとしたその刹那、ブラウの身体はぶるぶると痙攣し、再び白濁を放つ。
「ふぁぁぁぁ!またくるぅ!ヴぁいすっ!ふぁぁぁぁぁぁぁ!・・・ぁぁぁ・・・ぁぁぁ・・・」
喘ぎながら、ブラウはモノの先端からびゅっびゅっと白濁を放った。けれどもヴァイスはそれでも腰をガシガシ動かし続ける。
「あ・・・ああ・・・もうイくぞ・・・」
ブラウの蕾の柔肉を自分のモノでじゅぷじゅぷと強く刺激し続けるヴァイスは快感の絶頂にいた。
「はぁ・・・はぁあ・・・はぁぁ・・・」
ブラウは自分の・・・グラウのナカになにか熱い液体が放出されたのを感じてまた身を悶えさせた。
「ああっ・・・ヴァイスの・・・温い・・・あ・・・熱いのきたよ・・・はぁぁん・・・ぁぁぁ・・・」
その言葉はヴァイスの欲求の仕上げと言えるもので、射精がおさまるまでブラウを突き続ける。
「はぁぁ・・・いい・・・ぶ・・・ブラウ・・・」
グラウの名をついつい言ってしまいそうになるヴァイスだったが、こらえてブラウの名を呼ぶ。それに答えるようにブラウも悦楽の表情を浮かべた。
「抜くよ・・・」
「ひゃぁ・・・」
ヴァイスはナカですっかり小さくなったモノをじゅぷぷっと引き抜いた。モノにはべっとりと白濁が付いて、蕾もつられるように白濁を噴き出す。
「いい眺めだ。」
ブラウのグレーの毛並みのお腹も顔も大量の白濁に塗れ、蕾からも白濁をぽたぽたと垂らしている。♂のキツイ匂いが淫猥な行為を2匹の脳裏に思い起こさせる。
2匹はしばし、落ち着くまでお互いを思って添い寝をしていた。会話は無かったけれど、お互いの体温を確かめ合うだけで事足りた。

「さ、身体洗うよ・・・」
動けないであろうブラウの身体を気づかってヴァイスはゆっくりとブラウを引っ張る。行為よりもお祓いが目的であったことを2匹は♂の匂いにまみれながら思い出していた。
2匹がいた部屋の脇にはお風呂のような場所があり、そこでヴァイスはブラウの白濁を落としていった。
全身びしょ濡れのまま、マロンがいる部屋に入る2匹。ブラウは少し不安そうな表情をしている。
「大丈夫だって・・・」
「うん・・・」
マロンが2匹のほうを振り返った。
「さて、済んだみたいですね・・・では始めましょうか。」
不安なのはヴァイスも一緒だった。というよりヴァイスのほうがブラウよりもよっぽど不安でならなかった。
すでにお祓いは始まっているのか、ブツブツと何かを唱えるマロン。ブラウの身体は次第に震えてくる。
「大丈夫?」
「だいじょうぶ。」
少ししんどそうなブラウ。
「あやまらないと・・・いけないよね・・・ぐらうには・・・」
悔いるように喋り始めるブラウ。ヴァイスは必死に元気づける。
「大丈夫だって・・・グラウは・・・」
「ううん・・・そうじゃないの・・・自分の素直な気持ちをぶつけていれば・・・生きてる時に友達を作っていれば・・・」
マロンの祈祷の呪文を唱える語気は強まっていく。
「グラウだって・・・災難だよね・・・こんな私に身体を貸したりなんかして・・・」
ブラウの身体をまばゆい光が包んでいく。
「ヴァイス?グラウに謝っといて・・・こんな私だけど・・・」
「違う!」
自分を否定するブラウを必死な思いで引きとめるヴァイス。
「確かに・・・行為に及んだのは・・・あるけど・・・ブラウのなかにあるグラウを想う気持ちは・・・」
「うああ!」
よほどきついのか悲鳴を上げるブラウ。まばゆい光は強くなっていく。
「ブラウがグラウを想うのは歪んだ気持ちなんかじゃない!純粋な思慕だよ!」
そう叫ぶと、ブラウはにっこりと笑った。
「ヴァイス・・・ありがとう・・・じゃあ・・・最後にグラウに大好きだったって・・・絶対に伝えて・・・」
ブラウの声が次第に聞こえなくなってくるにつれて、ヴァイスが目を開けられないくらい強い光がブラウを包んで・・・
「ブラウぅっ!!」
光は空に向かって突き抜けて、もとのグラウの身体だけを残して消えていった。
「終わりましたよ。」
涙をボロボロ流すヴァイス。力なくぐったりしているグラウ。
「あ、そうそう。もう遅いから今日は泊まっていきなさい。」
「へ?」
マロンの言葉に現実に引き戻されたヴァイス。
「い・・・いま何時ですか?」
「今?今ね。夜の12時半。あんたたち寝てたでしょ?部屋から出てきた時点で12時15分だったよ。」
一気に身体から血の気が引く感覚に襲われるヴァイス。いろいろなことが頭を駆け巡る。病院を抜け出たこと。看護師を縛ったこと。自分の母親のシアンとグラウの母親のグリン。
「ど・・・どうしよ・・・怒られる・・・殺されるかも・・・」
「殺されるんですか?だったらぜひうちの神社でぜひお葬式を・・・」
おどけて言うマロンにがっくり肩を落とすヴァイス。グラウは相変わらずぐてーっと横たわってるだけ。ヴァイスは気を失うようにその場に倒れた。

「ん・・・」
グラウは目を覚ました。どこだろうここ・・・と。
「あ、目覚めた?」
エーフィの看護師、アサギがグラウの顔を覗き込んだ。アサギはにっこり笑ってグラウの頬をちょん、と突いた。いっつも病室から出るときに付き添ってくれる看護師さんだからだ。
「ここ・・・病院ですよね・・・」
グラウは記憶を整理しながら話す。グラウは今、ベッドの上で寝ている。布団を掛けられて、仰向けで。
「そだよ。」
ラフな感じで返事をするアサギ。
「確か・・・床に倒れてませんでしたっけ・・・」
グラウの言葉にアサギは首をかしげる。あれ?と言う具合にグラウも首をかしげる。
「床っていうか・・・どこまで憶えてるか言ってくれる?」
アサギの興味津津な視線を感じて、グラウは記憶の糸を探って話し始める。
「えっと・・・たしかヴァイスが帰った後・・・ベッドから床に降りて・・・いろいろあって・・・最後身体の力が抜けて床に倒れこんだような気がするんですけど・・・」
いろいろ、とはブラウが話しかけてきたこと。まさかお化けが病院にいるなんて信じてくれないよな、と思ったグラウは誤魔化した。
やっぱりアサギは首をもう一回かしげた。今のアサギには表情がない。半笑いで顔が固まってる。
いつもアサギはグラウを笑わせたり、意味もなく身体をくすぐったり、抱っこしたりするけれど、今のアサギは何やら様子がおかしい。
「あの・・・なんかしました?」
記憶がないのが申し訳ないです・・・みたいな感じで聞いてみるグラウ。アサギは前肢をぷらぷらさせて手首を見せるような動作をする。グラウはなんだろう・・・とずっと考え込む。
アサギの顔はさっきから全然変化がない。だんだん怖くなってきたグラウ。
「・・・はぁ。」
怖がったのを知ってか知らずか、アサギはため息をついて急に固まっていた表情を崩した。ガラガラと病室のドアが開く。
「あ!グラウ!起きたんだ!」
グリンは嬉しそうにきゃっきゃと騒いでグラウの頭を撫でる。
「アサギ?どうだった?」
グラウにはなにがどうなのか話が掴めないけれど、グリンとアサギはグラウそっちのけで話をしている。
「いやぁ・・・やっぱ憶えてないみたい。」
「記憶覗いちゃえば?」
「それしたくないんだけどなぁ・・・」
落胆するアサギと、嬉しそうなグリンの口調が対照的だ。グリンに説得されて、アサギは再びグラウのベッドの傍に立った。
「グラウくん。ちょっと辛いよ。」
そう言ってアサギはグラウの頭に手をかざす。何が起こるかわからないグラウは少し緊張で震える。心配そうな表情を浮かべたアサギだったけれど、その薄紫の手に力を入れた。
「うぁぁ・・・」
うめき声のような声を上げるグラウ。やっぱり心配なアサギは困った表情をしてそれでもぐいぐいと記憶を探っていく。
「ああ・・・もうダメ。」
ものの数秒でギブアップしたアサギに、グリンは情けないわね、と切り捨てる。
「で、わかった?記憶。」
「やっぱりここ2日は空っぽだった。直前の記憶はグラウくんが床で倒れてるところだった。」
「そっか~。」
グリンはそういうとグラウの傍にやってきた。
「ごめん、って言ってみなさい。」
「ごめん。」
何のことだかさっぱり理解できないけれど、とりあえずグラウは謝った。すると、グリンは優しくグラウの頭を撫でてくれた。嬉しくて目を細めるグラウ。
「動ける?」
グリンの言葉に、四肢を動かしてみるグラウだけれど、後ろ脚のしびれが大きく、うまく動かせない。それを察知したのか、グリンはグラウの後ろ脚をふにふにと揉むように触る。
「やっ・・・やぁっ・・・やめてっ・・・」
もどかしいその動きに、グラウはやめるように訴えるけれど、なかなかやめてくれない。しばらく触って、満足したらしくグリンは触るのをやめた。
「ま、もうちょっとゆっくりできるね。ところで、ヴァイスくんってどうなったか知ってる?」
「ううん。」
多分グリンはヴァイスがどうなったか知っているのだろう。けれどグラウは知らないので首を横に振った。
「ま、知らないほうがいいよね。」
気になる物言いだったけれど、グラウは気にせず、身体を起こす。ふと1冊のノートが目に入った。
「何これ・・・こんなの書いたっけ・・・」
グラウは怪しみながらも、ぱらぱらとページをめくる。最初は軽く読み流すだけだったが、次第にじっと見入るようになった。
「グラウ?」
グリンはおとなしくノートを見続けるグラウのほうを見て、ブラウが残したノートだと、すぐに理解できた。
何が書いてあるのか、グリンには興味があったけれど、それを覗き見る権利はない、と思ってグラウが読み終わるのをじっと待つ。
ぱたん、とノートをベッドの卓に置いたグラウ。その顔はいつになく真剣で、前を見据えている。
「行かなくちゃ・・・」
グラウの呟きを、グリンは決して聞き逃さなかった。その日は動けなかったものの、グラウは1日中ずっと外を気にしていた。

「今日も早いね。」
早番のアサギが時計を見て病室から出てきたグラウに言う。一応今も、看護師がグラウの動きに目を光らせてる。
グラウが・・・というよりヴァイスとブラウがアサギを縛って脱走を図って以来、看護師が2匹体制になって、すぐさま駆けつけられるようにされていた。
「おはようございます。」
グラウはまだ眠たいのか目を前肢でこするような動きをして、挨拶をした。その様子をみたアサギもにこっとほほ笑む。
「外に行きたいんですけど・・・」
「大丈夫?」
外出許可を得たい、と言うグラウに、アサギは体調を心配するが、グラウは大丈夫、と元気よく答えた。
「じゃあ、ここに時間・・・」
書類をグラウに見せるアサギだが、少し考えて、その書類を片付けた。
「私が一緒に付き添います。心配だし。グリンも今日、仕事だから早番の私が一緒に行ったほうがいいでしょ。」
「ありがとうございます。」
グラウとアサギはいつ外出するかを、話しあう。アサギは何をするかをグラウに聞かなかったけれど、その顔の真剣さからよほど大事なことなんだろう、と思った。
「あれ?グラウ何やってんの?」
仕事中のグリンがグラウに声をかけた。
「そとに行ってくるの。」
「そうなんだ、気をつけてね。」
グリンはそう言ってグラウの頭を何度も撫でた。
「じゃ、グラウくん。行こうか。」
アサギは白帽を取って、小さなカバンを首から提げている。グラウは・・・何も持ってない。2匹は炎天下の外へ病院の建物から出た。
「暑い・・・」
「暑いね・・・」
グラウは時折、黒髪に隠した紙切れを見ながら、道を進んでいく。その紙切れに何が書いてあるのか、アサギには気になった。
進んでいくと、商店街に出た2匹。グラウはさっきからせわしなくきょろきょろしている。
「あっ・・・」
そう呟くと、グラウは駆けだす。アサギもあわててそのあとを追った。
「お花屋さん?」
「うん・・・」
グラウは店先に並んだ、いろんな花を見ていた。その花は生きているのを誇示するかのように全て美しく、麗しい。
「いらっしゃい。」
店の奥から。白とピンクの模様を持つザングースの店主が出てきた。柔和な表情にメガネをかけて、いかにも、な感じの店主だった。
「あの・・・白いユリの花、ありますか?」
グラウの注文を聞いて、ザングースの店主はにこっと笑った。
「目の付けどころがいいねぇ。今日ちょうどいいのが入ってきたんだよ。」
ザングースの店主はいくつかの品種のあるユリのなかから、もっとも綺麗なものを選んだ。
「あ・・・アサギさん、お金・・・貸してくれませんか・・・」
グラウは自分がお金を持ってないのに、今気付いた。アサギも苦笑いをして、財布を取り出す。
「いいわよ。病院の経費で落とすから。すいません、それ領収書ください。」
ちゃっかり、アサギは領収書を書いてもらって、2匹は店を出た。グラウは背中にさっきの白いユリを乗せて、再び進み始める。
またしばらく進んでいると、2匹は町を抜け平原に出た。といってもただの草原でも、芝生でもない。
「ここ・・・」
アサギははっとした。・・・墓地だった。2匹の目の前には、背の低い四角い墓石がずらっと並んでいた。
「ちょっ・・・」
戸惑うことなく進んでいくグラウに、アサギは驚く。無機質で同じようにしか見えない墓石を、迷わずに特定の1つを見つけるなど、何度来ても難しいのだ。
少し遅れてグラウについていくアサギ。それでもアサギはグラウを見失うことはなかった。背に白い花を乗っけていれば、普通に目に付く。

「ごめん、すぐこれなくて・・・」
1本の細い樹の木陰にあるお墓、その前にグラウはいた。白いユリを背中からおろすと、咥えてその墓石の前に置く。アサギはその様子をじっと見ていた。
「ブラウが好きだった、白いユリの花だよ。」
かみしめるように言うグラウ。アサギは何ともいたたまれない気持ちになった。白いユリは、木陰と陽光とに当たって複雑な色彩を醸し出している。
「ブラウは意識も記憶もないって言ったけど、少しだけ・・・あの身体を貸した、意識を失う前のその1瞬だけ、頭に君のことが入ってきた。」
グラウが話す声以外には風の音だけしか聞こえない。
「そしたら、ブラウが白いユリが好きで・・・優しい女の子だってことがよくわかった。だから・・・ゆっくりしてね・・・」
今にも泣きそうなのをこらえて優しい口調で話すことに徹するグラウ。ふとアサギの影がグラウに近づいてくるのに気付いた。
「アサギさん?」
アサギは何も答えず、ギュッと強くグラウを抱きしめた。
「アサギさん・・・離してくださいよ・・・」
困惑するグラウに、アサギはにこっと笑って返す。
「グラウくん・・・」
「え?」
いつもと違うアサギの口調に、グラウは驚いてアサギを見つめる。
「ブラウ・・・」
グラウがブラウの名を発した瞬間、アサギの瞳から涙が潤み、とたんにぽろぽろと溢れる。
「やっと・・・名前呼んでくれた・・・」
「ブラウ・・・逝けたんじゃなかったの?」
うれしさと、なんとももどかしい気持ちで尋ねるグラウ。アサギはグラウから離れて目の前に立った。
「えっとね、ダメだって。」
「はい?」
何がダメなのか首をかしげるグラウ。アサギ・・・に乗り移ったブラウは照れくさそうに答える。
「好きだから・・・身体を借りたグラウくんのことが好きだから・・・それをね、見抜かれて・・・」
もじもじと、なかなか要点を言わないブラウ。それでもグラウは口元を綻ばせて聞いている。
「身体を貸し借り出来る能力ってかなり特殊なんだって。それをね・・・身体は生きてるのに・・・魂がないポケモンのために役立ててって。」
「つまり・・・また身体を見つけて、天寿を全うするまで逝けないってこと?」
グラウがなかなか呑み込みが早いのか、ブラウは少しびっくりしてうなずいた。
「そう。だから私は旅に出るの。でも、また会おうよ。次はどんな格好でグラウくんの前に現れるかわからないけどさ。」
グラウもブラウも嬉しそうに見つめあう。アサギの身体は、少しブラウには違和感があるみたいで、四肢を何度も見まわしたり、2股の尻尾をつんつん引っ張ったりした。
「今度はまたシャワーズか、グラウくんみたいな、可愛いグラエナがいいな。」
ブラウのその言葉に顔を真っ赤にするグラウ。くすくす笑ってブラウはグラウの頭を撫でた。
「悲しいけど、きっとすぐ会いに行くから。」
「うん・・・待ってる。」
再会した時間は短かったが、2匹にとっては永遠のようにも感じられた。白い靄のようなものがブラウからすっと天に伸びていった。そしてその身体は再びアサギの精神の身体に戻った。
「あ・・・なにしてたんだろ私・・・」
ぼーっと上を見つめるアサギ。グラウは再びブラウ名の刻まれた墓石をじっと見つめている・・・振りをしていた。
「あ、グラウくん。」
アサギは悪戯でグラウの身体をくすぐる。
「きゃぅっ!」
驚いて声を出すグラウは、アサギのほうを見て、笑う。
「どしたのよ?いっつもむすっとした顔するくせに・・・それより雨雲かかってきてるよ。早く帰ろう・・・」
アサギの忠告通り、空を見上げると、分厚い雲が、すぐそこまで迫っていた。
「はぁ・・・」
グラウはふとため息をついた。
「ねえ、なんで私たちはここにいるのかな・・・なんでみんな逝ってしまうのかな・・・私たちもいずれ逝くんだろうけど・・・」
呟くようにグラウに聞くアサギ。
「ここにとどまる時間すら与えられてないけどね。」
厚い雲を指して、グラウは答えた。アサギもそうね、と言った。
「さ、帰るよ。」
シトシトと雨が地面に打ち付ける。あわててアサギとグラウも走り出した。雨は地面をあっという間に濡らせて水の流れを作っていく。全てを洗い流すように。
2匹も病院に着くころにはすっかりびしょ濡れで、アサギはすごく嫌な顔をした。けれどグラウはどこか満足そうだった。
グリンに身体を拭いてもらっている中で、グラウはすっかり忘れていたことを思い出した。
「母さん、ヴァイスってどうなったの?」
「え!?ああ。わかんない。シアンが顔真っ赤にして、身体ブルブル震わせて怒ってたから。」
なんだ、またか、とグラウには驚きはない。また叩かれてお説教食らってるんだろうな・・・とクスクス笑いながら考えていた。


ヴァイスの肉体的指導(暴力的な意味で)はまだまだこれからだ・・・


また最後はネタに走りました。
えー・・・この話を考えてる時、もう1本ヴァイスとグラウの話を作っていたんですが、公開するかは改稿してから考えます。最後まで読んでいただいてありがとうございました。



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Last-modified: 2010-08-08 (日) 00:00:00
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