作者……リング
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ちょっとタイトルを変更しました。なぜなら長くなりすぎて結局蒼と黒が出会えなかったからです。
「え、パルキアから手紙? 僕にも見せてよ~~」
レアスに急かされ封を切って空けた手紙に刻まれていたのは……
「えっと……読むよ。
【この間は事件の黒幕である黒いのの討伐に関して世話になったな。俺の方もようやく空間のゆがみを直す作業が終わった。
ところで、お前らは空間のゆがみのせいで進化したくとも出来ないできないはずだろう? 俺はお前らにせめてものお礼としてそのゆがみを直してやろうと思う。
これでお前らも進化することができるようになるはずだ。こんなこと、そこいらのセレビィやトキの奴にもできるかと思っているかも知れんが、空間に関しては超一流の俺が直々にやってやろう。ありがたく思え!
他にも心ばかりの御礼をするつもりだから、シデン、茶色いの、ニュクス。全員で来い、いいな?
追伸:俺の住処への案内は、空の裂け目の中腹にある街『ラティスガーデン』のアズレ青白いのとクリスタルという名のラティアスに頼め。いいな?】
「………………相変わらずだね。でも、何故だか文字はすっごく上手い……てか、どうやって届けたんだろう? 空間転移するくらいなら直接迎えに来れば良いのに……」
「何でオイラは相変わらず『茶色いの』なのさ……それに青白いのって何さ? なんでわざわざ途中まで書いた名前を消すんだか。『アズレ』……なんなのさぁ!」
「エレオスのことも『黒いの』って呼んでたことだし、こりゃレアスを連れて行ったら『水色の』かな? 男に何かうらみでもあるのかしら?
ていうか、ディアルガの事はちゃんと『トキ』って呼んでいるけど……あの人って女だったの? 声が低いから良く分かんなかったけど……謎だね」
二人のやり取りを見て、レアスは不思議そうに首をかしげる。
「これが……空間の神様? イメージと違うなぁ……」
レアスが首をかしげるのも当然だ。
このパルキア。シデンたちが空間をゆがめる存在だと言うことをダークライの見せた幻によって勘違いし、寝込みを襲って来たのだ。完全に存在を抹消するには地上でやるには被害が大きすぎると自分の住処までさらわれて、逃げ帰るのもえらく苦労した思い出がある。
空間を守るという使命については強い責任感を持つものの、それ以外については直情的で、短絡的でおよそ神らしさの感じられない性格だ。
そのほか、少々傲慢なところや無作法なところなどもあり、そちらについてはこの手紙からも十分に伝わってくる。
少なくとも空間のために走り回っている姿は神らしいのかもしれないが、生憎その姿は誰の目にも移ることがない。ある意味では笑い話だというか、道化というべきか。
そんな彼だからこそ……
「まぁ、神様だって普通のポケモンと変わらないって事よ」
シデンもこういった評価を下すのだ。
「ふぇ……そうなんだぁ。ねぇ、僕は呼ばれてはいないみたいだけど、僕も行っていいかな?」
「オイラはいいと思うけど……シデンは?」
「自分も問題ないと思うよ。とりあえず、招待されている以上、ニュクスのほうにも連絡しておかなきゃ。さ~て、どんなスカーフ付けていこうかな?」
レンガに囲まれた広めの家。庭に植えられた野菜は、その残骸が地面に鋤き込まれ、すっかり命の輝きがなくなっている。その庭と同じくらいの広さを持つ住居には開け放たれたカーテンから陽光と風が飛び込んでいた。
「ふう、やっぱ家が広いけぇ……女の一人でも家に呼びたいもんじゃが、わしって誰か好きな人いたっけかのぉ? いまいちわからんや……わし、姉さんが理想の女性だったんじゃろうか?」
二人が去った家は急に広くなった。占領されていたベッドは一つ余る事になり、ソファーを暖めるものは彼一人しかいない。
「ご馳走様」
食料という恵みをくれた創造主アルセウスへの感謝の言葉。カチャリと食器を置きながら呟いた言葉に、声を続けるものはいない。
後片付けをしない姉の分だけ、食器を運ぶときの負荷も皿洗いの時間も減った。エレオスが手伝おうと声をかけることも無くなり寂しい日々はもう3週間を過ぎた。
「こがぁな生活にも、エエ加減慣れなきゃのう……」
別れがもたらしたマイナスには寂しさだけでなく戦力の低下というものが有った。しかし、心のどこかに姉への甘えがあった時に比べ、甘えを捨て去り、エレオスが叩き込んだ教えを反芻し続けたアズレウスは何処か、一人前の顔をしている。それこそ、以前の彼では逆立ちしても勝てないように強くなっている。
そんな彼への訪問者は、よく分からない組み合わせであった。
「ごめんくださ~い」
小さな男の子の声だ。
「もしや……ソリッドさまの言っとった三人かん?」
訪問者に粗相のないようにと、玄関に駆け込むと、そこにいたのは、三日月のように美しい体躯をしたクレセリアという種族の女性。赤いほっぺにギザギザ尻尾で黄色い体をした、ピカチュウとか言う種族の女性。そして茶色いの……あの尻が燃えている奴のことか。
「えっと、貴方が青白いの……もとい、アズレウスさんでよろしいのでしょうか」
ピカチュウの女性が訪ねる。
「ああ、わしがアズレウスじゃ。あんたらがニュクスさん、シデンさん、茶色いのじゃな? で、その青白い子供さんは……一体? あ、そうじゃ。証拠の真珠……もっとるか?」
「オイラ結局茶色いのかぁ……いつになったらちゃんとアグニって呼んで貰えるんだろ……あ、とりあえずはい、証拠の真珠だよ」
さっき小さな子供だと思っていた声の主は、どうやらこのアグニという者の声だ。
アグニはトレジャーバッグの中身から、地味ではあるものの、いかにも丈夫そうな箱を取り出し、その戒めを解く。その中に内包されていた大粒の真珠は、陽光を受けてきらりと七色の光を跳ね返す。
「うん、確かに。それで、あんたぁアグニさんか。よろしくのぉ。そちらのお子さんたちは……」
アズレウスは真珠をアグニに返して今回のたびについてきたレアスのほうを見る。
「レアスだよ。よろしくね」
元気の良い、レアスの声が家の中に響いた。
「よろしくお願いします。アズレウスさん。ニュクスと申します」
「えっと、シデンといいます。よろしく」
「アグニさん、ニュクスさん、シデンさん、レアスさんですね。どうぞこちらへ」
全員の挨拶を終えると、アズレウスは全員を居間へと案内し、貯蔵してあった焼き菓子と入れたての紅茶を差し出す。
「ここに来た理由は分かっているけぇ。何でも、わしらが知らんうちに、地上世界では厄介なことがあったらしいのう。
ソリッド様の手紙によればぁ、それの解決にあんたらが大いに助けになったとか。ソリッド様は今までたった一人で空間の修復作業を、やっとったようじゃが、もう大丈夫だそうじゃ。
じゃから、ソリッド様はその御礼をしたい。その案内人にわしということじゃな?」
「うん。オイラ達、空間の歪みのせいで進化できなかったんだけど、ソリッドがそれを矯正してくれるって言うから」
「自分とアグニはもう楽しみで。アグニはようやくモウカザルになれるし、自分もライチュウになれるってね」
「ボクはついでに来ただけだけどね~~」
アグニやレアスとの会話に、久々に家族の雰囲気を感じたアズレウスは優しく微笑む。
「ちょうど……姉さんが男と出て行って寂しかったところじゃ。クリス姉さんや、エレオス義兄さんの代わりに、今日はゆっくりして行っ……」
そこまで言ったところで、とてつもない思念が正面より発せられ、アズレウスは言葉を詰まらせた。
「今……エレオスと言いましたか? それは……えっと、こういう方ではありませんでしたか?」
とても女性が出す迫力とは思えない気迫にアズレウスは気圧される。もしかしたら姉さんよりも強いのではなかろうか?
そんな彼女が差し出した紙に描かかれた絵はそれほど上手くなく、同種を2人並べられたらどちらを差すのか判らなくなりそうだが、描かれていたのは紛れも無いダークライそのものであった。
「黒・赤・白……まさにこいつじゃ……あれ、ニュクス? 聞いたことがあるぞ。確か……そう、エレオスの大切な女性じゃ」
ニュクスの表情が変わる。
「やっと見つけた……まさかこんなところにいたなんて」
ニュクスはエレオスの似顔絵を描いた紙の端を握り締めながら涙ぐむ。
「ソリッドから貰ったエレオスが逃走した時間の前後で空間に穴が開いていた場所のリスト*1……もしかして、この場所を入れていなかったんじゃ……自分であけた穴と勘違いしたとかで」
「ドジ……だね。オイラたち無駄足ばっか……」
「僕やっぱり幻滅しちゃうな~~」
小声でのソリッドの批判などアズレウスとニュクスの耳には入らずに二人の話は続く。
「……これ、ハンカチじゃ。あの、あんたたちゃぁエレオスたぁどういった関係か? エレオス義兄さん、記憶を失っててなんも覚えとらんかったけぇ、探してくれるような奴がおったことなんぞしらんのじゃ」
一体どこに持っていたのか不明なハンカチを手渡してアズレウスが訪ねる。
「妹です……エレオスの兄さんの」
「い・も・う・と……? 似てんけど……」
「それは……気にしないで下さい。今から関係について詳しく話します。
……数十年昔のことです。私たち二人は、憎しみや悲しみ、蔑みや侮蔑といった感情が渦巻く大陸の東側にて、負の感情を集め続けていました」
「負の感情、なんかそれ?」
「さっき言ったとおり憎しみや悲しみ、蔑みや侮蔑といった感情です。そして、集めた感情はこのように水晶に閉じ込めます」
ニュクスはバッグの中から紫色に透き通る美しい宝石を置く。ただ美しいだけでなく、何か内部に引き込まれるような、例えるならサマヨールの背中のような怪しい雰囲気を湛えている。
「綺麗……じゃが何処か禍々しいな宝石じゃのぉ。これが負の感情を集めた水晶かん?」
「はい、そうです。闇の結晶といいます。これは色が薄いので取り扱いに気をつける必要はございませんが、どす黒い色になったものは扱いを間違えると……私の兄、エレオスと同じように人格が変わります……
いや、負の感情に支配されると言うべきでしょうか。強くて優しくて、誰よりも頼れるはずの兄さんが……血も涙も無く、自分に以外の者を全て見下すような暴君になった」
「『強くて優しくて誰よりも頼れる』ってそれ、まさにエレオス義兄さんじゃないか。それが……暴君? 想像でけん……」
「あなたが言う記憶を失った兄さんというのが、元の人格に近いのならばそれも無理は無いでしょう。
しかし、例えばこちらにいるシデンとアグニを、悪夢を使って精神的に追い詰め殺そうと企みました。加えて、ソリッドに悪夢を応用した幻覚を見せ空間が歪んでいると勘違いさせました。
その状態で空間を直そうとすることで本当に空間を歪ませ、さらにその原因を……この二人であると思い込ませた。もちろん幻覚を見せることで……
その時、私が二人を倒さなければ……きっと世界は」
「ニュクス……『助けなければ』だよ……*2自分たちを倒してどうするのさ?」
「ぷふっ……」
ニュクスの間違いにレアスが遠慮がちに無く笑う。
「///
えっと……助けなければ、シデンさんとアグニさんは殺されていた。そして、世界は今のようなものでは決してありえないでしょうね……例えば、ソリッドも殺されるか、あるいは悪夢の世界に閉じ込められて、空間が際限なく歪んだ世界になるとか」
言い終えたニュクスは不安げにため息をつく。言葉には出さないが、一刻も早くエレオスに会いたい
気持ちが逸っているのが手にとるように分かる挙動をしている。
「なるほど、エレオス義兄さんがソリッド様を困らせた張本人と……じゃが、そりゃぁどっちかゆぅたら本来の義兄さんじゃぁのぉて、優しゅうて頼りになるほうが本来の義兄さんっちゅうことじゃん?」
「はい。ですが、このまま兄さんの元の人格が保たれる保障はありません。ですので、連れ戻して悪の人格を押さえ込む必要があります」
「……そがぁなことが可能なんか?」
「ええ、時空を司る神と『それらが干渉できない場所』を統治する神の下位に位置する心を司る神……あなたも聞いたことあるでしょう? 『ユクシーのテレス』、『エムリットのアンナ』、『アグノムのアドルフ』
その三人と『夜を照らす月の力』、『
宝玉は揃っておりますし、心を司る神3人も知り合いですので、準備は万全です。ですから、後は手遅れになる前にエレオスの悪しき人格を……完全に消す。
消さなければいけません。また、兄さんが敵となってしまう前に」
ニュクスの目の奥を射抜くように研ぎ澄まされた眼光と表情が、少なくとも嘘を言っていない事をアズレウスに感じ取らせることが出来た。
「分かったんじゃ。信じることにする。今回のソリッド様の住処への案内が終わったら……会いに行きよう」
少し残念そうな顔をしてニュクスは顔を伏せた。
「『案内が終わったら』ということはこの街にはもう……いないのですね」
「ああ、そのことかぁ。3週間ほど前のことなんじゃが……」
・
・
空の裂け目の中腹の街、ラティスガーデンにて
「よし、と。それじゃあいってくるけぇ」
二人がもつバッグの中には干し肉や干し葡萄といった携行用の日持ちの良い食料。この夏の時期、季節風の影響で雨が多くなるために雨避けの油紙などの日用品も詰め込まれている。そして貴金属や宝石などを満載したバッグを片手にクリスは言った。
「姉さん……本当に行くんか? 寂しくくなるのう……」
楽しそうなクリスをよそに、アズレウスは酷くさびそうな表情で声をかける。
「なぁに言っとるけぇ? あんたはわしがいないでも、料理も洗濯も一人でできるじゃろ?
いつまでもわしに頼っとらんで、一人暮らしぐらいしんさいな」
この『空の裂け目』にソリッド、つまりパルキアがいると知ってから、エレオスは病的なまでにここを去るといって、頑として聞かなかった。
引越し先は、この空の裂け目という平行世界の出口から真北にある『幸せ岬』という場所。美しい草花が生い茂り、訪れるものに対し色彩と香りによる熱烈な歓迎をするという、夢のような場所である。
ハンターなどというおっかない職業をやっていて、化粧にも『面倒だから』と興味が無いそぶりを見せるが、お花は年大好きという乙女な一面のあるクリスには魅力的に映ったらしい。
何より、晴れて大好きな男性であるエレオスと二人暮しができるとあって、彼女はこのたび根無し草な一面を見せるにいたったようだ。
「済まないな……こんな夜逃げまがいの旅立ちで」
謝る口調のエレオスも何処か寂しげだ。
「確かにそうじゃ……でも、わしらラティスガーデンの住人はずっと狭い世界で生きていたけぇ。広い世界を見てみたいと思うんは当然じゃし、何より……エレオス。わしはあんたについていくって決めたけぇの。
アズレウスには確かに突然で悪いとは思っとるが、あんたなら一人でも生きていけるじゃろ?」
アズレウスは涙ぐみながら、コクリとうなずく。
「それは否定できん。じゃが、明日から家が広くなるのう……エレオスが着てから狭いと思っとったが……」
そこまで言ったところで、クリスは浮遊していた体を立たせて値に足をつけ、アズレウスも同じ体制をとるように促す。
「大丈夫じゃ、あんたならきっとこの家を狭くできるけぇ。顔も性格も料理の腕も悪くない。それに何より……あんたはわしの弟じゃ。もう少し女性に積極的になれば女なんて星の数じゃ。
それに……『空間とは全ての繋がり。そして心も空間也』じゃ。このソリッド様の見守る空間の
そういってアズレウスを抱きしめたクリスの体は、体温の低いドラゴンタイプにふさわしくない熱を伴っており、暖かく優しかった。
アズレウスは、彼が久しく見ていなかった『お姉ちゃん』の顔をしたクリスの表情で見つめられている。
「うん……分かった。でも、いくら遅くなったってええ。たまには顔を見せてくれよな」
すでにアズレウスにとって生活の一部となっていたエレオス。姉はなおさらだ。その二人が一気にいなくなってしまうと思うと、彼の心の中には喪失感だけがむなしく満ちていた。だが、先ほどの姉からの包容は少なからず彼の心の隙間を埋めたようだ。
「顔を見せる……か。それは私が保証する。ソリッドの目を盗んでちゃんと顔を見せる。なんなら、お前が来ても良いのだぞ?」
エレオスは抱き合う二人に重なるように上から抱く。三人の影が一つになるとき、エレオスの影だけが異様に黒く目立っていた。
「それじゃ、本当にそろそろ行くわね……街のみんなには『駆け落ちとでも』いっといてな」
「うん、元気でなぁ。姉さん、エレオス。わしはいつだって歓迎するけぇ」
「アズレウス……次に遭うときはもっと強くなっていろ。それじゃあな」
三人は一様に手を振り、分かれを惜しんだ。
・
・
「っちゅうわけでいなくなってなぁ。すまんなぁ」
「いえ、いいのですよ。ふぅ……シデン、アグニ、レアス。ソリッドのお礼の件が片付いたら、私に付き合ってくれますか?」
ニュクスの問いにしかし、誰も首を横に振る者はおらず、全員が縦に首を振った。何も言わずとも、嬉しそうに微笑むニュクスは胸にこみ上げるものを抑えることが出来ず、潤んだ目に溜まる涙となってあふれ出した。
悪しき人格に支配される前のエレオス。記憶を失い、二人に拾われてからのエレオス。ニュクスとアズレウスがそれぞれ語り合う。
その話を肴に三人は夕食を終え、それぞれの思惑を胸にベッドに付いた。ニュクスはエレオスが使っていたベッドを普通に、そのほかの三人はクリスタルが使っていたベッドを川の字に並んで眠ることになった。体のサイズが小さい者ならではの使い方である。
「さて、皆さんの協力もありまして、何とか私も兄さんを見つけることが出来そうです。シデンさん、アグニさん、レアスさんありがとうございます」
「いいのいいの。困ったときはお互い様じゃないか。それにオイラたちだってさ、あのスリープの件と同じように、仲が悪かった人と仲直りできたら嬉しいし」
アグニはぼうっと天井にぶら下がるランプを見る。
「それが、人によっては『甘い奴らだ』って思われる原因でもあるんだけどね……でも、なんといわれようと、自分は嬉しいよ。
悪い人格にのっとられている間エレオスはずっと苦しんでいたんだと思う……開放された今、アズレススの話を利く限りでは、すっごく幸せそうだった。
それだけじゃない……それを話しているアズレウスも、聞いているニュクスも幸せそうな顔してた。まるで自分のことみたいにさ」
シデンはくすくすと笑い、虚空にそのときの二人の顔を思い浮かべる
「僕はエレオスって言うのがどんな人かは知らなかったけど、僕もなんだか会いたくなっちゃった。どんな人なんだろうね」
レアスが上半身を起こしてみると、ニュクスは嬉しそうな顔をしている。
「昔と同じなら……子供には優しいですよ。自分からは絶対に暴力を振るわないし、お菓子を分けるときは大きい方を分けてくれる。そんな人です」
さっきも同じ印象を受けた、『彼女がエレオスを語る顔』は、何処か誇らしげである。今まではアグニの愚痴を寂しげに聞くだけだったのだが、
今は、彼の人柄を証明するアズレウスという証人と、もうすぐ現物を見せられるという期待が、エレオスのポジティブな側面を語る気にさせている。
彼女が語る、負の感情に捕らわれる事故とやらからずっと、敵として
(たもと){袂};を分かち、憎みたくない相手を敵とみなさなければならなかった。
この度エレオスが悪しき人格から開放されたというのは即ち、ニュクス重荷から開放されたということも意味している。それを切欠に3人はこの数時間の間に彼女が、美人になったと感じている。
それが決して気のせいでは無いことは、全員が同じことを思っていたことから確信できることだ。
やがて、明日に備え眠りに付く。その時ニュクスは夢を見る。
二人が楽しく遊んだ夏の夜の夢だ。水を恐れて尻込みするニュクスの背中を押して泳がせたこと。
優しかった兄の記憶だ。
不意に意識がはっきりとして目が醒める。やはり夜行性……夜に眠っても眠りは浅かった。
夢の中、ニュクスにはまるで、シデンが常々言っていた『時空の叫び』をのようにその光景を何処か遠くで見ていたような感覚だった。
――ああ、私は……こんなにも兄さんが大好きだったんだなぁ。
「ふふ……今度こそ、兄妹として会えますね」
そっと呟くと、もう一度眠りに付くべく目を閉じる。そんなことをしても、今更とも思えるような思い出が、溢れ出して眠れない事は、初めから予想できていた。
・
・
「さぁ、本日は晴天なり! 絶好の『空間湾曲体質矯正日和』だね」
「あはは……そんな日和、オイラ達が世界で初めてって言うか、どんな日和さ……」
アグニは力なく笑う。
「いやいや、『空間の神への謁見日和』だよ~~」
「レアスまで……ええい、それならオイラだって『空の裂け目の登山日和』だ!」
ヤケになったような口調でアグニは高らかに宣言した。
「ニュクスさん。このひとらってっつもこがぁな感じなんか?」
「ええ、騒がしいでしょう? 体力は使いますが、意外と心は休まると思いますよ。見ているだけでも、一緒に騒ぎに加わっても……なんだか自然でいられますし」
「う~ん……じゃあ、わしも『主の住処への案内日和』じゃのぉ」
「おやまぁ……ノリの良い事ですね」
ニュクスがクスクスと笑って空を見る。
――本当に気持ちのよい晴れですね。
「そういえばさ、"幸せ岬"って言うのはどんな場所なの? 名前からして、さぞかしいい所なんだろうね」
ダンジョンへ入るまでの道中、シデンがアズレウスに尋ねる。
「う~ん、わしもエレオス義兄さんから聞きかじった程度しか知らんのじゃが……花が咲き乱れていて、ええ所らしいんじゃ」
「ふふ」
ニュクスが嬉しそうに微笑んだ。
「まだ、兄さんと仲がよかった頃、何度も行った事があります。そこは私が一番好きなところでしてね……記憶を失っても、頭の何処かで覚えていてくれたのでしょうか。
そこには、感謝の気持ちを送るときに使う、グラシデアという名の花が自生していまして、シェイミという種名のポケモンが花を守り育ててくれているのです。
愛した人を連れて行くのであれば最高の選択なんじゃないでしょうか?」
兄に会える。どんどん近づいているようで、実は生涯添い遂げる伴侶を見つけて遠ざかっていくエレオスを少し寂しく思う。ただ、幸福に暮らしているだろうことを思えばそれを帳消しにして有り余るほど、嬉しく思えた。
「いま、何しているんだろうね? 敵として出会ったけど……今度は友達になれるかな? オイラ達と同じ……愛せる心があって、愛せる人がいるんだから」
しみじみ語り、シデンを見る。
「今なら、お互いの気持ちだって分かるよ。だから、今度こそ仲良くなれるように頑張ろうね」
心のそこからの敵なんていない。そう、諭すように皆に笑いかけた。
・
・
空の裂け目の中腹から、頂上へ。
歩む足取りは全員が軽い。二人は進化が可能になることを、一人はこのあと待ち受けるであろう、兄との再会を、一人はただの好奇心を、一人は久々に感じた家族の温もりを原動力に。
「さ、ここじゃ」
もともと『空の裂け目』の名に恥じぬ高地を入り口となし、入り口までの道のりすら矮小と感じさせるだけの距離を、この平行世界で上ったはずだ。蒼天に浮かぶ柔らかそうな綿雲が、霧として振舞うにも不自然さを感じぬだけは、登る足に負担をかけたつもりだ。
そのつもりだが、たどり着いたパルキアの住処は予想を正反対の方向に届くまで裏切り、息苦しさも肌寒さも無く、太陽の加護を排他した重さを含む空気だった。
初見のレアスはもちろんのこと、アズレウスを除くこの空気に慣れぬ者は、蒸された空気に構成されて形を成した、異形なる
パルキアが水タイプである影響も少なからずあるのだろうが、何よりも途切れた空間。風通しの悪さが
その先にはアグニとシデン、二人が消滅させかけられた忌まわしい思い出の地が待ち構える。ディアルガのトキと違い、『神らしさ』や『厳かさ』とは無縁に生きるソリッドの、住処にして彼の処刑場。
寝こみのところを攫われ、街では影響が大きすぎるからと禁じ手に近い空間消滅の技に二人が
そのときこそ、彼は恐怖の対象でしかなかったものの、今は命を狙う爪は持ち合わせていない。
恐怖の追憶はため息とともに吐き出して、慣れた足(?)取りでソリッドの住処に入るアズレウスの後に続く。
そこに待ち構えていたポケモンは、強靭な四肢を持つ二足歩行型の体格。雄大で名高いカイリューやリザードンのように、雄雄しき翼を背負い、強靭な尾を腰に。
二足歩行のポケモンが腕を保護するための篭手にも似た形をする腕に強靭な爪を供え、その腕の付け根たる肩には、
体中いたるところに纏う紫のラインは、空間の力を象徴する紫の光源。そこだけが明るく存在の自己主張をする。
「グオオオォォォォォォッ!!」
歓迎の祝辞より先に、いきなりの咆哮。何を意図しているのかすら、全く以って悟らせないの行動は神の貫禄か。例によって4人が体を硬直させる中、アズレウスは慣れたものなのか平静を保っている。
思えばこれと同じような現象をプクリンのギルドでも見たような気がする。いや、アズレウス以外の4人は全員見たことがある。
『たぁ~~~~~~!!』などと叫ぶプクリンとはパルキアも根っこは変わらないということか、それとも単にソレイスとソリッドが変人、奇人なだけかは定かでは無い。
例えそれが、【『どちらかを仮説に仕立てろと』言われれば、全員が後者を選ぶ事が目に見えている】としても、だ。
「よく来たな。俺の招待したパーティにようこそだ。アズ……青白いのも苦労をかけたな」
最早、呆れを感じる感覚すら麻痺したアズレウスは、その失礼極まりない発言に怒りを覚えることなく、冷静な振舞いを見せる。
対して、頭痛にも近い重さを頭に感じてうな垂れるのは、特に実感のこもっているアグニである。『またオイラも茶色いのと呼ばれるのか』と思うと、気の重さに比例して頭にかかる重力を、振り払うことも出来なくなる。
「さて、お前達はここで、空間を歪ませる存在から、真っ当に生を受け日々を暮らしたものと同じく進化を行える体になる訳だ。
そもそも進化とは、体の内に宿る生命の波導が成長による増幅や石などによる付加。そして、光の泉に満ちた波導による相乗効果グダグダグダグダ……」
話は終わる雰囲気を見せず7分。まじめに聞いていたのはレアスとニュクスとアズレウスで、アグニとシデンは小声で別のことを話す始末である。
「……というわけだ。つまり、お前達の空間のゆがみを直すことは、トキやセレビィのように特別なポケモンに限らず、鍛錬を積めば誰にでも出来ることだ……それだけに、こんなことくらいしか出来ないのは少し心苦しいくらいだ。
お前達を消そうとした非礼の詫び。そして、平和へ貢献したことに対するお礼にはまだまだ足りん。俺の巨体を持ってしても表現しきれぬ感謝がある」
以外にも
「だから、持ってきた。"幸せ岬"にて、感謝の気持ちを表すときに贈る、グラシデアの花だ」
アズレウスが口に含んでいた唾液を思わず吹きだしてしまう。幸せ岬といえば、クリスとエレオスが引っ越した場所では無いか。
いつ頃摘んできたのかは知らないが、数日前だとしたらエレオスやクリスタルと鉢合わせる可能性も考えられなくは無い。どうやらエレオスは、アグニやシデンの言う『空間に穴の開いた場所のリスト』や今回の件といい、運が悪いのだか良いのだか、いまいち判断しかねる星の下に生まれたようだ。
「ん、どうした青白いの?」
その様子に気が付いたソリッドが、アズレウスの挙動に疑問をぶつける。
「な、何でもありません」
「ちょ……待って。幸せ岬ってあれだよね? エレオスさんが引っ越した……」
シデンの小声での問いかけに、アズレウスは黙って頷いた。
「なんでもない? ……ならばいい。今日の朝一番に摘んできた、グラシデアの花……受け取れ、シデン・茶色いの・ニュクス……っておい、そこの空色のぉ!」
視線が射抜く先は、明らかにレアスの居る方向を指している。今の今までレアスに気が付かないのは鈍いというほかない。
「そう来たか……」
『水色の』と呼ばれると思った予想をくつがえされたアグニが呟く。
「お前は何者だぁ! 俺がお前を呼んだ覚えは無いぞぉ!」
「ボクはレアス。レアス=マナフィって言うんだ。よろしくね♪」
悪びれる様子も無いレアスはいつもの澄ました口調だ。
「何の目的でここに来た、空色の?」
「それは、ただの興味本位というか……邪魔だったら帰るよ……"白いの"さん」
一瞬で空気が凍る。ソリッドの怒りに呼応するように、肩にはめ込まれた真珠色の珠が激しく光る。
「グオオオォォォォォォッ!! 客人の連れということで……丁重にもてなそうと思ったが……俺を愚弄するとはいい度胸だぁ!!」
咆哮が大地を揺るがし、閉鎖された天井からパラパラと土が落ちる。
「わひぃっ! レ、レアス。速く謝って! 土下座土下座、速く~~! 自分も謝るからさ」
「オ、オイラも謝るよ。え、えっとこの度はレアスが『ソリッド』って呼んでしまって、本当にごめんなさい、『白いの』。これから2度とこういうこと……」
「アグニ逆・逆!!」
「ああ!!」
「グオオオォォォォォォッ!! お前達の言い分は、良く分かった。お前達が俺をその名で呼ぶのならば、力の差を分かりやすく示してやろう。
空間の修復に一睡もせずに飛び回っていたころとは違う!! 本調子の俺の力の前に……平伏せ!!」
不意に空間が歪む、穴が出現する。そうして出来た閉じた空間の内部にレアスとアグニが音も無く吸い込まれる。次いで、同様のものの大きなサイズがソリッドの眼前に出現し、徐々にその体を飲み込んでいく。
「うわっ、ちょ……助けて」
「あれ、これってどうすれば……」
「ソリッド様……落ち付いて……ダメだ、聞いてない」
残された三人は歪んだ空間に堕ちた二人に手をさしだすことも出来ず、空間は元通りになる。
「困ったことになりましたね……」
「う~ん……二人なら大丈夫だって信じたいけど……ソリッドもまさか殺す事はしないよね?」
不安げなニュクスと何処か楽観的なシデンが、アズレウスには酷く対照的に映った
――ここは……? 確か僕、自分の事を『空色の』って呼ばれることに腹を立てて、思わずソリッドのことを『白いの』って呼んで……そうだ。変な場所に飛ばされたんだ。
景色は先ほどと打って変わり……海。底も見えないほど青く深い海だった。
『空間をゆがめて』というと歪めてしまうのは神の責務と対照的なことだあるはずだから
しかし、そうとしか表現しようがない方法で、周りは海にされていた。ソリッドが『リコンストラクション』と自称する、パルキアの*3能力の一つだ。
海はレアスのホームグラウンドであるが、ソリッドにとっても有利な場所。そして何より、アグニは全く力が出せない環境だ。アグニとレアスの内、まずは強い方をやってしまおうという算段らしい。
「立て……お前達が如何に身の程知らずか教えてやろう!! ブルアァ!!*4」
怒りにまみれたソリッドの双眸は赤く殺気を
普段のアグニなら『水中じゃ立てないでしょ!』と突っ込むところであろうが、海という環境とパルキアという種族の持つ
「レ、レアスゥゥ君のせいでこんなことに……」
すでに涙声なアグニ。
「アハハ……ゴメンゴメン」
対照的にレアスは全くプレッシャーを感じていないのか楽観している。
「ここからはまじめに言うけど……少し時間稼いで……僕のハートスワップで仕留めるから」
ただし、そのように感じさせたのは一瞬。戦闘にスイッチが切り替わると、途端に勇壮な戦士の顔をアグニの前に映した。
「グオオオォォォォォォッ!!」
ソリッドは空間すら揺るがすような猛烈な咆哮とともに、翼の羽ばたきと手足の掻きによって、水中であることを感じさせない猛烈な勢いでアグニに接近する。
アグニとて、ヒコザルという種族柄、水は嫌いとは言え、尻の炎を消していれば泳ぐことだって可能だ。とは言え、体温の低下は激しく、長く浸かっていれば命に関わる。
ソリッドがそれを見越し、アグニを最早力なきモノと思い、油断したのが運の尽きだ。
アグニは、海というフィールドで水の波導の恩恵を無尽蔵に受けたソリッドの爪の一撃を……水中にもぐってから水面に飛び上がるという動作で以って交わす。しかしその際、不自由な動きや体温の低下による体の硬直。そう言ったものが重なり避けきることが出来ずに足を
痛い。とても反撃に転じることが出来ない。塩水が傷にしみる。しかし、アグニにとってそれで良いとも感じる絶大な安心感。それを感じることが出来るのは一重に……レアスのお陰かも知れない。
「グオオオォォォォォォッ!!」
次は、肩の球を光らせながら海の水そのものを武器となして、海が唸りを上げる。なんの捻りも無く、単純に恐ろしさを語る、『津波』と呼ばれる技だ。激流に飲み込まれたアグニは為すすべなく沈み、深い水底にてもがく。
アグニにとって息の出来ない恐怖の空間に引きずりこまれ、本能が上に上がるべきだと伝えるが、生憎ソリッドはそれを食いとめるべく上で待ち構えている。
なさけない話、これでアグニはほぼ負けに等しい状態といえる。あとは、レアスに何とかしてもらわなければ溺れ死ぬ。それだけの存在に成り下がってしまったことにアグニは歯噛みする。
当のレアスは、というと……言うと、ついに牙を剥く。精神状態によって大きく変わる自我の強さ。それが強靭であればあるほど困難だというハートスワップの威力が、やっとのことでパルキアの怒りを陵駕することが出来たようだ。
――ふう、これでオイラは痛くも苦しくもない……ってオイラがパルキア? やっ……
ソリッドの心はアグニの心と入れえ変えられる。つまり、ソリッドの体にはアグニの心が。アグニの体にはソリッドの心が入っているという訳だ。
心を入れ替えられ戸惑っている間にレアスは
「ガギャギャァァァァァ!!」
刹那、アグニの(精神の)肩から痛みが消え、代わりに足の痛みが復活した。交換されていた心が戻ったことで、傷を一つも負っていないアグニの体に戻ったことで必然的に痛みも元に戻る。
戻ったのは痛みだけでなく、ソリッドの心が入っている間に水を大量に飲んでしまったらしく、アグニは酷く咳き込みを覚えた。
そうして鼻と口から大量の水分を吐き出しているアグニを、青と白の体躯を持つ者が優しく攫う。
「大丈夫か? 何があったかは知らんが酷い目にあったようじゃの」
空間が元に戻るのを確認したアズレウスが、アグニを安全なところへと退避させのだ。なんにせよ紳士である。
ソリッドのほうへ目を向ければ、潤いの力で破壊光線の反動すら高速でかき消したレアスが、いまだ、パルキアとの戦いを続けている。今度はシデンをパートナーとして。
肩を傷つけたこともあって、二人はソリッドを圧倒していた。シデンが電光石火の早業で股下にもぐりこみ雷を落とす。痺れている間にレアスは自身の身長の10数倍の高さまで飛び上がり、猛毒の液をソリッドの顔面に塗りつけ、相手を毒に犯す。
肩の負傷で明らかに動きが鈍りつつあるソリッドにとって、最後の毒液が気概を折りとる止めとなったようだ。腕に蓄えた力をふっと消し去り、尻餅をついて『くそ!』と、悪態をついた。
・
・
「まさか……負けるとはな。強いつもりで居たが、俺は弱いか……」
悔しげに呟き。地面を殴りつけるソリッド。少し地面が揺れて崖が崩れた。この住処は通風性だけでなく耐久性にも問題があるようだ……いい加減引っ越してくれないのか?
「いや、十分強いよ。少なくともここに居る誰よりも」
アグニの言葉にソリッドは力なく、自嘲気味に笑う。
「ハッハァ!! それは違うな。強いものが勝つのでは無い。勝ったものが強いのだ。なればこそ、勝ったお前達こそ強いのだ。お前が気にしているだろう二対一も卑怯では無い。
それは味方を作る力だ。俺に……味方を作る力があれば強くもなれたろう、ともすればお前らに勝てただろう。しかしそれは言い訳でしかないのだ。
それだけに……勝った事を評価しないわけには行かない。アグニ、レアス。お前達はこれから、俺のことを好きな名前で呼ぶがいい」
初めてソリッドが男の名をきちんと呼んだ。その奇跡に誰よりもアズレウスが目を見開き、アグニとレアスの二人を羨望の眼差しで見つめる。
「それと、青白いの!! 肩の傷が痛む。俺にオボンの実で作った軟膏をよこせ」
英雄を見る眼差しで二人を見ていたアズレウスは、急に現実に引き戻されて心が急速に醒める。
「あらら……結局わしはそのままなんじゃな」
「アズレウスさん……私は傷を癒すことになら長けています。ですからその役、私がやりますよ。さ、アグニさんも酷い傷ですし、一緒に治療して差し上げます。どうぞこちらへ」
ニュクスはついに神相手に勝利を収めたレアスという名の英雄を見てそっと微笑みを送る。
「わわわ……」
アズレウスがアグニの傷ついた足を気遣って、念力でニュクスとソリッドの元へ運ぶ。
「あ、ありがとう。アズレウス」
「いやいや、気にする事はなぁ。主の客人はわしの客人じゃけぇ」
ソリッドの意外な一面を垣間見れたアズレウス。ひょんなことから本気のパルキアと戦い勝利を勝ち取ったレアス。息子のような存在のレアスの成長を見ることが出来た二人。
そんなほほえましい光景を見ることが出来たニュクス。数人掛りであれ、神である自分を打ち破れる力を持つものと戦えたことに確かな満足を覚えたソリッド。表情に出す者も出さない者も、湿り気で重たい空気の中で心が軽かった。
次回へ
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