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漆黒の双頭第3話:蒼海の皇子と一流の探検隊

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作者……リング



第1節 

同時期……エレオスが大陸の東端で物思いにふける中、大陸の西端では……

「う~ん……潮風が気持ちいいね~~。まるで僕も風になったかのように洋上をビュンビュン飛んで、翔け抜ける大空より、眼下に見下ろす俯瞰(ふかん)には霞に混ざり合う水平線と空の境界。
 目の奥を焼く強烈な歓迎は太陽光を反射して眩しく照らし返す水鏡の海原。ああ、絶景かな・絶景かな♪ 

 空に浮かぶ雲を掴むがごとく、白く柔らかな羽毛は触れ合う肌をやさしく包み、羽毛を掻き分けたるその先には保温性の高い羽毛が抱きしめて放さない母なる体の温かみ。
 羽ばたくごとに感じられる筋肉の躍動は揺り篭の様に、羽ばたくごとに風切る音は子守唄のように眠りを誘う。ああ、極楽かな・極楽かな♪」
少年がそこまで実況したところで下から低い声が聞こえる

「レアス殿。相も変わらず口が元気なことですな……」
レアスと呼ばれた少年が現在背中に乗っているルギアと呼ばれる種族の女性は首を精一杯曲げて、目もレアスのほうへ精一杯向けて話しかける。

「だって、アージェったら話しかけてもあんまり答えてくれないんだもの。独り言に走るしかないじゃん」
レアス口をすぼめて不平をもらす。

「私は貴方と違って飛んでいるので、いちいち答えていては息が切れるのですよ。貴方も……下に行って泳いできたらその辛さが分かるのではないですか?」
アージェと呼ばれたルギアの女性は下を泳ぐカイオーガに目を向ける。

「そうだね~~。そろそろ肌も乾いてきちゃったし……泳いじゃおっかな?」
言い終わる前にレアスは飛び降りていた。

「全く……元気なのは口だけでは無いようですね」
大きく上がる水しぶきを立て、流体中を高速で進むときに発生する渦によって纏わり付く泡を感じながら、泳ぐカイオーガの隣へ並ぶ。

「よう、レアス。鬱陶しがられて落とされちゃったかぁ?」
海を泳いでいたカイオーガが威勢の良い声で話しかけてきた。

「違うよ、僕が泳ぎたくなっただけだよ。とにかく、しばらくご一緒しようね♪ アサン」
アサンと呼ばれたカイオーガの男性は、背中にある鼻から大きく潮を吹くと、自信たっぷりに言い放つ。

「素直にアージェに乗っていた方が良かったんじゃないの? お前俺のスピードに付いてこられるのかよ?」

「もっちろん♪」
競争するように泳ぐ二人。微笑ましいやり取りをしながら三人は目的地へと向かっていった。


夏真っ盛りの1月下旬の晴天の昼下がり。澄み渡る空気は空に浮かぶ太陽の恵みを遮ることなく送り届ける。その陽光は道行くものの背中には膨大な質量を持つ荷物のごとく振る舞い、暑さと重さが比例するように暑苦しい。
 恐らく、今は滝に打たれた方が体が軽く感じられるだろうといえるほどに。
 その灼熱地獄の気温を涼しい潮風がひと時の爽快を運び、その風に運ばれて漂う磯の香りが鼻に心地よい。
 その暑さにうな垂れる者たちがいる中、草花は対照的に周囲へ活力を振りまくように鮮やかに咲き誇る。

ここは海沿いの町、『トレジャータウン』。エレオスと言う名のダークライの工作により、二度に渡って危機に陥った世界を救う鍵となった探検隊、『ディスカバー』の所属するギルド。通称『プクリンのギルド』がある街である。
 その英雄が居を構える場所は凶暴ポケモンのサメハダーに似た形に削り取られていることから、サメハダ岩と呼ばれている崖っぷちだ。

この季節、陸上にいて元気がでるのは草タイプや炎タイプばかりであが、サメハダ岩の英雄とも呼ばれる『ディスカバー』は、炎タイプ以外でも活力全開の声が響いている。


「アグニ、魚取ってきたよ♪」

「シデン……大量だね……って言うか多過ぎ。こんなに多くちゃ腐る前に半分も食べきれないでしょ!」
シデンと呼ばれた赤いほっぺ、黄色い体毛、ギザギザ尻尾の……種族は言うまでもなくピカチュウの女性だ。

「あはは……電気で魚取ったら思ったより多くの魚が浮かんできちゃって……それは良いんだけど、もうちょっと体温下げること出来ないの? 外の3倍暑いんだけど……」
夏の昼下がりだからという理由もあるが……それを見積もっても有り余る暑さの原因は相手にある。シデンの話相手であるアグニは……炎タイプなのだ。尻には眠る時以外消えない炎が燃え盛っているこちらの男性、種族はヒコザルである。

「ゴ、ゴメン。オイラがいるだけでどうしようもなく熱くなっちゃって……僕としてはこれでも快適なんだけどね。で、その大量の魚どうするの?」

「塩をまぶして天日干しにしようよ。冬の間の保存食にさ。それは自分がやっておくから、アグニはちゃっちゃとお魚焼いちゃってよ。弱火でじっくりね♪」

「はいはいっと♪ その前に……お帰りの……」

「チューを忘れていたね?」
幾多の困難を退けたこの二人は、今や新婚馬鹿夫婦(ヽヽ)という言葉がふさわしい関係となっている。
 この状態の二人は鈍い。仕事中は研ぎ澄まされた感覚も、殺気や敵意とは程遠い日常的な気配においては他人よりはるかに鈍いのだ。
 結構な音量で話される外の気配に気が付くことが無いのは英雄の貫禄か、招かれざる訪問者の存在は二人の意識の外である。

「ふう、二人は留守か。しょうがないな。とにかく、書き置きでも……」
 サメハダ岩の口にあたる部分は美しい朝日が眺められる展望台のようになっている。その口に当たる部分から不意(本当は不意でもなんでもなく、ずっと前から門の前で声をかけていたが)に招かれざる訪問者が顔を出す。
 件の(くだん)プクリンのギルドの副長であるチャットことペラップが二人の恥ずかしい生活風景を不意に覗いてしまった。
 驚いたシデンは思わずアグニの唇に見事な頭突きを加えてしまい、アグニは痛みで口を押さえて苦しみ、チャットは呆然としながら落ちていった……


「とにかく、二人とも大変なんだよ! まさか書き置き残そうとしたらこんなイイ場面に出くわすだなんて……
海に落ちて行ったものの、水面に着水する直前に体勢を立て直したチャットは二人の家に上がり込んでペラペラと喋り始める。

「どうしたのさチャットォ? 大変なことって、まさかこれからとある探検隊に攻撃されるとかぁ?」
シデンは頬からパチパチと音を立てて青白い電光を放つ。表情こそ笑顔だが殺気は十分だ。

「オイラ魚は大好きだけど……久しぶりに焼き鳥が食べたいなぁ……どうぉチャット。チャットもそう思うでしょ?」
こちらも顔には笑顔を浮かべ、しかし拳には炎をともしながら穏やかでは無いことを言っている。

「待ってくれ! ワタシャわざと覗いたわけじゃないんだから。ああ、それより大変なんだ。マナフィが……レアスが帰ってきたんだ!」
慌てふためきながら、弁解しながら、飛びまわりながら……いそがしい事だ。とにかくそんな風に二人にとっての朗報を伝えるチャット。

「本当に!?」
シデンとアグニが同時に、チャットに掴みかかるようにして聞く。それも、帯電したままの皮膚とまだ熱の残る手で……それが招く結果は当然のこと、

「アンギャ~~!!」
こういう事だ。チャットの断末魔(ハイパーボイス)は大海原に元気よく響き渡ったという……ちなみに二人の行動はわざとだ。


「とにかく! レアスはまだギルドにいるんだ。お前らに迎えに来て欲しいからって、ワタシ直々の案内を断ってまで……まったく、傲慢な子だよ。ともかく、早く行ってやりなさい」

「へぇ……ルギアとカイオーガがお供だなんて、レアスも大物だね」

「あ、ああ。みんな無茶苦茶驚いちゃってな……誰とは言わないけど、とあるビッパなんて思わずサインをねだっちゃって……ああ、いいから早く行きなさい!」

「そうだよシデン! 早く早く」
すでに入り口の階段で待ち構えているアグニの元にシデンは駆け寄っていった。

「クスッ……ビッパなんてトラスティしかいないじゃん。相変わらずミーハーなんだから……」


二人はギルドまでの道のりを急いでいた。

「レアス~~!」
ギルドにたどり着いたら、地下二階まで梯子を使わずに飛び降り、廊下を抜けて右手にある食堂へと向かう。二人の胸の高鳴りはここまで走ってきたという『運動』によるものだけでは無い事は確かだ。
 走り続けるアグニから生じた熱気に、すれ違うものたちの顔をしかめさせながら抜けた廊下のその先に、思い焦がれた小さな影が見える。
 (くだん)のレアスとは、『闇の探検隊』の以前『閉ざされた海域』にて拾った卵を育てようと試みたが、陸上で成長することが出来ない彼の身を案じるために、泣く泣く北半球の極地に住むトドゼルガの元探検隊、アーノルドの元へ預けられていた子供である。
 種族はマナフィと呼ばれる希少なポケモン。青い全身、2本の触角、胸のボタンの様な模様、目の上の丸い模様が特徴の可愛らしい子だ。

「シデ~~ン、アグニ~~」
レアスは、シデンに体当たり攻撃と見まがうばかりの激しい抱擁を浴びせる。その勢いによって二人は床に倒れて転がるが、背中の痛みも気にする様子も無く仰向けになったまま両腕で持ち上げる。

「ホントにレアスだ……あの時の君だよね?」
大きく真ん丸な目に、かすかな涙を浮かべ。二人は頬をすりあう

「うん……僕、海で大きくなったよ。全部アグニとシデンのおかげだよ。二人がいなかったら……僕死んでたから」

「ああ、私達の事……名前までちゃんと覚えていてくれたのね? レアスってばずいぶん重くなっっちゃって。ずいぶん成長してくれたみたいで……ほんとに、自分は嬉しいよ」
抱き上げられているレアスが引っ手繰る様にさらわれる。さらっていったのはアグニの腕だ。

「ずるいよシデン。オイラにも抱かせてよ……うわぁ、ホントに重くなったね。」
アグニは抱きかかえたレアスの触角をワシャワシャと弄りながら、その重みに確かな成長を感じる。

「僕は一日たりとも忘れたことはなかったよ……ただの一日も……」

「オイラ達も……同じ」
その言葉と共に、アグニは抱き締める力を強くする。レアスは照れ臭そうな顔をして、二人と目を合わせ……

「ただいま」
目にうれしさからあふれ出る涙を浮かべながら、輝くような笑顔で二人にささやく。

「おかえり、レアス」
レアスがただいまと言うと、シデンとアグニの二人も息を合わせてお帰りという。レアスを抱いているアグニをシデンがさらに抱き、三人の影が一つになると、三人は申し合わせるでもなくぴたりと静かになり、密室でこもった熱の暑さが気になり始めるまでそのままだった。

「ちょっと……この部屋ものすごく暑くない?」

「はは……きっとオイラのせいだよ。このまま居るとみんなに迷惑がかかるし……出ようか?」
照れくさそうに頭を伏せながらアグニは皆に諭す。

「そうしよっか♪」
 シデンが同意すると、それ急げとばかりにアグニは駆け出して行った。

第2節 

 三人はギルドを出て、歩いて自分達の家へと向かう。その道中、シデンとアグニは世界を救ったことを……レアスは北の海からここへ来るまでの道のりの事をそれぞれ楽しそうに、自慢げに話す。
 そうこうしているうちにたどり着いた三人の住処であるサメハダ岩。レアスはそこを感慨深そうに眺め、つぶやく。

「わぁ……ここ、覚えてるよ。僕、ここで生まれたんだよね?」
 正面と左右に広がる広い海を眺めて眼を瞑り、レアスは言葉をまともに喋ることが出来なかった頃に思いをはせる。右手に生い茂る木が風に揺られて心地よい音を出しているのを遠くに聞きながら、涼しい風に心も過去へと飛ばした。

「そうだよ……オイラ達ここで初めて出会ったんだよ」
 アグニはレアスの頭を優しく、音が出ない程度に叩き、言葉を続ける。

「それにしても……よく覚えているね?」
 感心しながらアグニは微笑んだ。レアスはアグニの手の温かみを感じて、上目遣いになりながら微笑んだ。

「僕達はマナフィは、生まれた場所を記憶する能力があるんだって。海で成長したら生まれた場所に戻ってくる。アーノルドさんがそう言っていたよ」

「へぇ……マナフィってすごいんだね」
 シデンがかけ値なしの素直な気持ちでレアスに感心する。

「僕の場合はここが故郷だから……だから僕はここに戻ってきたんだ」
 言葉の途中で、レアスは景色を見るのを止めて二人の方へ振り返る。ゆっくりと息を吐きながらまっすぐに視線を合わせて、両親に語りかけた。

「でもね、故郷に戻ってからの事は僕が決めるものなんだ。
 だから……僕、旅の途中にいろいろ考えたんだけど……僕、シデンとアグニに恩返しがしたいの。シデン達は世界中を旅して回っているでしょ?
 だから、それに少しでも役立てたらな~~って……。だから、その……僕も『ディスカバー』に入れてもらえないかな? アーノルドさんの(もと)でばっちり修行したから」

「いいよ、もう少し大きくなったらね」
冗談と捉えたシデンは軽く安請け合いするが……

「僕は真剣なの!」
 レアスは強い意志を秘めた目でにらみ返す。その眼差しは質量でも含んでいるのではないかと思うほどに重く心に突き刺さる。
 二人はその眼力とでもいうべきモノを『子供の出すものだとはとてもじゃないが思えない』と不覚にも感心する。思わずアグニは気押されそうになりつつも、反論はやめない。

「でも、また昔みたいな事になったら……」
 同様に心配そうな面持ちをするシデンに、レアスは必死で説得を試みる。

「大丈夫! 僕は大きくなったから……もうそう簡単には病気になったりしないよ。だから……ダメ…かな……?」
 不安そうに見つめるその視線にアグニは耐えることが出来ず、シデンに助け舟を求める。

「わかった……分かったけど。オイラ達が行くところは普通の探検家じゃ1階層目の階段すら踏めないような、本当に危険なところなんだ。だから、まだ連れて行く事は出来ない……だよね、シデン?」
 アグニの言葉にシデンは至極まっとうな意見だとばかりに深く頷く。諦めきれないレアスは「むぅ……」と唸り大きく息を吸った。

「じゃあ、僕が強ければいい訳だよね? それなら楽勝だよ。僕は向こうでは1番強かったんだよ」
 レアスは自信満々に言うが、とても信じられる話ではないと、シデンが反論を始める。

「そう簡単なものじゃないわよ? 自分だって、小さいころからすっごく鍛えてきたんだから」
 シデンは同意を求めるようにアグニの方を向いて、そう言った。もちろん、アグニの答えは決まっている。

「そうだよ。強くなるって口で言うほど簡単じゃないんだから」
 アグニはここで一拍間をおいた。そして、子供の成長を喜ぶ父親の笑顔を見せて、レアスを抱き上げる。

「でも……やって見よっか? 父さんと母さんが……どれだけ強いか。戦えば分かるでしょ? ハンデをつけても勝てなければ諦められるよね?」
 抱きあげられたレアスの顔が、靄を晴らしたように明るくなる。

「やってくれるの? よ~し、僕がんばっちゃうぞ!」
 レアスは足をばたつかせながら、腕を十字に組んでストレッチのような動作を取ってやる気をアピールする。

「ちょっと、アグニ……こんな子供相手に?」
 シデンの心配はもっともだった。相性の優位があるとはいえ、こんな子供相手に本気で相手をしてはレアスの大怪我の可能性は否定できない。

「大丈夫だって。本気でやる代わりにちゃんとハンデはつけるよ」

「むぅ、アグニィ。僕を甘く見ないでよぉ……本当に強いんだぞ」
 レアスは不満そうに口をすぼめてそう言うが、シデンはレアスに対し目線を合わせつようにしてしゃがむ。

「貴方の体の事を思って気遣っているのよ。その気遣いをを無駄にしちゃダメ」
 そうして、聞き分けのない子にそうするように優しく諭す。

「む~~……分かったよ」
 シデンの言い分には、レアスも渋々ながら納得したようだ。

「さ、どこからでもかかってきてよ。オイラは炎タイプ以外の攻撃は使わないから」
 なんにせよ、闘うことが決まった時点で腰をかがめて臨戦態勢に入ったアグニは、挑発しながらレアスの攻撃を促す。

「むぅ、子供だと思って馬鹿にしてぇ! 絶対本気を出させてやるんだから!」
 レアスが最初に放ったのはバブル光線。高速で撃ち出した泡が物体に当たると強くはじける。恐ろしいのはダメージそのものよりも纏わりつくことで機動力を奪う事が出来る点だ。
 が、避ければ何の事はない。と考える間もないほどでも、弾速は速く、泡が密集している。 
 アグニは地面に伏せる。攻撃のほぼ全てをそれで避け、避けきれないものは炎で相殺する。何とか炎が壁になって攻撃は防げた。だが、背にしていた立木の葉がえぐれ、アグニの腕よりふた回りは太い枝が折れている。
 ものすごい威力だと、ぞっとせざるを得ない。

 アグニは這いつくばった姿勢から前転して、腕の力で跳躍。空中から火の粉を放って攻撃する。宣言通り技では本気を出すが、炎タイプ以外の攻撃はしないという約束は貫くつもりのようだ。
 レアスはアクアリングを纏い、その火の粉のほぼ全てを無効化、自らの傷を癒す準備を完全に整える。

「強……」
 アグニはその強さに面くらいながらも、動きは止めない。接近し、炎を纏った手足で殴る蹴るを繰り返す。逆立ちからの蹴りや腕による跳躍からの空中殺法などを織り交ぜ、レアスに対し確実にダメージを与えていく。
 その連続攻撃の合間に出来る一瞬の隙をレアスは見逃さない、レアスはアグニの炎を纏うかかと落としを、片腕でかばいつつ、カウンターで水の波導を叩き込む。
 突然の一撃にアグニはよ蹴ることをあきらめざるを得なかったが、片腕で何とか顔面だけは庇いきった。

「ウ、ウワァァァァ……」
 だが、水の波導はただの攻撃ではなく心を狂わす毒牙だ。その追加効果で見事に錯乱したアグニは突如後ろへ振り返って逃げ出す。
 ゴツンという木と頭蓋がぶつかって織りなす鈍い音とともに、アグニはうつ伏せに倒れた。

「気をつけてレアス!」
 アグニが倒れるところを見送ったシデンは、視線をレアスに合わせて叫ぶ。

「心配には及ばないよシデン!」
 シデンの言葉をその言葉で一蹴して、レアスは一気に勝負をかける。全身に覇気の波導を練り、その一撃に全ての力を込める必殺の光線を放つ。

「はは、最高の技だよ!」
 だが、アグニは錯乱する振りをして、その実全く錯乱などしていなおらず、うつ伏せの状態から破壊光線を腕で跳躍して避ける。
 レアスの一撃により地面が大きく(えぐ)れ、アグニが頭をぶつけた木は根元からほっくり返され横たわる。
 アグニは想像を超えた威力にぞっとするよりも先に、そのままレアスへ向かう。足の爪で地面をしっかりと噛んで、高速で接近、破壊光線の反動で攻撃も防御も満足にできないレアスの胸に炎の下段突きを見舞う。
 レアスは辛くも両腕で受け止めるも、押し負けて大きくガードを崩される。そこをさらに炎を纏った引っ掻きで畳み掛けられ、とどめの蹴りで数メートルの距離を吹き飛ばされた。

「眼を見れば混乱しているかどうかはわかる。だからオイラは眼を見せないように行動していたのさ。気がつかなかった?」
 レアスはかなりのダメージを負っているはずだが、アグニはまだ戦いは終わっていない、とでも言いたげに構えは解かない。

「いたたたた~~~」
 レアスは涙をうっすら浮かべた目で、アグニをきつく睨み返す。

「もう、僕だって容赦しないから!」
 レアスは溶け出すように体中から粘液をだす。これにより、物理的な衝撃は滑って受け流され、思うようにレアスにダメージを与えにくくなる。
 必然的に、接近戦での戦闘はレアスが有利に運べるようになる。

「レアス……君って本当に1歳?」
シデンがその強さや技の豊富さに舌を巻く。この子がまだ1歳の自分が孵化させた子供だというのはいささか信じがたい。

――放っておけばアクアリングで回復するし……即効で決めなきゃいずれオイラが押し切られる……
 思案の時間も惜しいと、考えながらアグニは走り出した。

「シャァァァ!」
 アグニが咆哮する。足爪で地面を噛み、急速に間合いを詰め、粘液を十分に分泌しきる前に攻撃に入る。
 ニンゲンの足とは違う、よく曲がり、物を掴むことができる足でレアスの触角を掴み取る。そのまま足をふりあげて逆立ちしてレアスを吊るし、ぶらさがるレアスに至近距離で火炎放射を見舞う。
 レアスが反撃のために渦潮を放たんとする直前、アグニは火炎車の要領で前転してレアスを地面に叩きつける。

「ぎゃん!」
叩きつけられたレアスが叫び声を上げた。ようやっと動かなくなり、アクアリングも消えている。

――どうやら勝ったようだけど……オイラこんな恐ろしい子供初めてだよ……
アグニは荒い息をつきつつ、痛みに呻くレアスを腕に抱き、シデンが手招きするサメハダ岩へと入っていった。

第3節 

「アイタタタタ……痛いよ~~」
無数の引っ掻き傷が付けられた胸に、消毒用の火の付くような強い酒をぶっ掛けられてレアスは声にならない声をあげる。

「強いね……レアス。もしかしてなんだけど、向こうで一番強かったって言うのは……同年代だけじゃなくってアーノルドさんとかも含めて?」
アグニはアザになった部分を氷で冷やしながら聞くと、水の波導を食らったときに口の中を切っていたため、それをゆすぐ為に海水を口に含んだ。

「そうだよ。僕ってばあっちでジュゴンとトドゼルガのハーレムの頂点に君臨しちゃったんだから。僕がその気なら、今頃あちらに50の妻がいたはずなんだよ~~♪
 でも、僕は男の子になるか女の子になるかまだ選んでいないから……その気になるのはちょっと時期尚早だと思ってやめちゃったんだよねぇ~♪」
 アグニはシデンに向かって海水を盛大にぶちまけた。

「ア、アグニィ……」
シデンはその海水をぬぐって恨めしそうに睨み付ける。

「ご、ごめん……」

「あはははは……きゃ、言っちゃった♪ あそこはこの街みたいに大きくないし、強い人たちはみんなギルドのある隣町へ行っちゃうから……もう探検隊を引退したアーノルドさんが最強って言う寂れた村だったもので……」
二人は絶句する……なんて奴を海から拾って来てしまったんだと。もちろん、いい意味でだが……とんでもない奴であることに間違いはない。

「やっぱり一対一(サシ)だと普通のやり方じゃあアグニには勝てないかぁ。出し惜しみせずにあの技使うべきだったかなぁ?」
まだ隠し玉あったかと思うと二人は『自分達が苦労して修行した歳月はなんだったのか』と思うしか出来ず、言葉の代わりにため息でそれを吐き出した。

「へ、へぇ~~どんな技が使えるの?」
どんな恐ろしい技なのかと思いながら、ひきつった笑顔でシデンは尋ねる。

「こんなの♪」
レアスは祈るようなしぐさをして、触角から淡い光を放つ。その光がフワフワと自分の方へ寄ってきて触れたその刹那、シデンの風景が一変する。というか、まずは体中が痛い。胸を見てみると、傷を負っているその青白い体は紛れも無くレアスのモノ。前を見ればそこには自分が笑っている。

「さて、もう分かったでしょ?」
目の前にいるピカチュウがそう喋った。と思うと、景色は元に戻る。

「心を入れ替える技、ハートスワップ。こいつを使って入れ替わった体を自傷したり、えっと……」
レアスは北の海から持ってかえってきたと思われる荷物をガサゴソと探り、ひとつの銀色に輝く物体を取り出した。
 二人はそれに見覚えがあった。それは保安官たちが犯罪者を拘束するときに使う手錠である。

「これを使えば勝てたかもしれないってワケ。こんな風に……」
レアスはアグニに向かって手錠をフワリと投げ、瞬間ハートスワップをしてアグニの体で受け取り、アグニの体で手錠を嵌め、元に戻る。

「破壊光線♪」
元に戻った体でそういって、反動も受けないくらいに威力を弱めた破壊光線を放つ。

「あいた!」
腕をいつもどおりに使えずバランスを崩したアグニは避ける間もなく破壊光線に当たる。今回は『あいた!』で済む威力ではあるが……本気のときの威力は先ほど見たとおり肌が粟立つ様なものだから油断は出来ない。

「わ~~い、これならやっぱり勝てるぞ♪ もし僕が仲間になった暁にはアグニたちでも勝てない敵が現れたら僕に任せてね」
レアスが笑う。つくづく敵に回したくない子供である。

「オイラが戦ってみて分かったけど……レアスってチャットよりもずっと強いね……その年齢では無茶苦茶な強さだよ」
レアスは痛みを忘れたかのように目を輝かせる。

「本当? じゃあ……」
レアスの期待に満ちたまなざしは、純粋な子供ゆえの抗いがたさを含んでいる。下手に断って幻滅した顔はまともに見られそうに無い。

「オイラはいいと思うよ。シデンは?」

「う~ん……チャットより強いって言うのならば……無茶しないって約束するのならば、自分もいいと思うよ。レアスは無茶しないって約束できるかい?」

「出来る! 絶対に出来る! だから、僕を仲間にしてよ。お願い」
手を合わせて懇願するレアスに対し、二人は微笑みかけてその手を握る。

「歓迎するよ。レアス」
「歓迎するわ。レアス」

「やったぁ!」
狂喜乱舞したいところだったが、レアスは飛び上がってみたところで胸に刻まれた怪我を思い出して、その痛みに顔をしかめる。

「ホラホラ、まだ手当ては終わっていないんだからジッとしてる」
シデンはクスクスと笑いながら、オレンの実で作った軟膏をレアスの胸に塗っていく。

「でね、オイラが戦った時の率直な感想を言うよ。確かに強いとは思うけどまだまだ経験不足。
確かに1対1で、破壊光線みたいな大技を使う時に『絶対当たる』って言う確信を持って使うのはちゃんとした基本が出来ている証拠だね。
 でも、今回は絶対に勝てると確信を持つべき時期が甘かったね。そう言った事は経験に頼るしかないけど……君ならすぐに覚えられると思うよ」
治療を続けるレアスに対するアグニのアドバイスがはじまる。

「いやぁ、でも……木にぶつかったときアレだけ大きな音がしたかもうかわせないよねって……僕は思ったんだけど……アグニって丈夫だよね」
レアスの問いかけにしかし、アグニは微笑んだ。

「ふふん。今回のアグニは頭をぶつけた振りをして、木の幹を殴っていただけよ。だから自分は貴方に向けて『気をつけて!』って叫んだの。アグニは貴方の観察力を試したのよ……今回は貴方の洞察力の負けみたいね」

「そういうこと」
この会話で、レアスは二人の絆の強さを知る。長く一緒に暮らしてきたとは言え、相手のやりたいことをぴたりと言い当てるなど中々できることではない。

「やっぱり凄いや……僕の暮らしていた世界ってとっても狭かったって良く分かるよ」
レアスの言葉に二人は顔を見合わせて笑う。

「大丈夫。これから君の世界は絶対に広くなるよ」
こうして、レアスの探検隊生活は始まりを告げる。


次の日……
「親方、失礼します!」
プクリンのギルド地下2階に親方の私室がある。その扉の先に大きな机。机に付属のイスに座っているのが、このギルドの創設者にして大陸中の探検隊としては間違いなく5本指に入る方、ソレイス=プクリンである。

密閉された部屋の中に満ちるメロメロボディ特有のその匂いは女性の意識を問答無用で侵す。それは伝説のポケモンですら例外では無いらしく、そのせいかシデン曰く『この親方の部屋に入るときは鼻で息をしないように注意している』らしい。

「おやぁレアス君じゃないか? チャットが言っていたけど、レアス君もずいぶん逞しくなったものだね~~。
 前にここで暮らしていたときはまともに話をする時間も無かったけど、今日から君も友達だね~~」
間の抜けた声色と表情で、しかし何処か攻め込む隙が全く無いと感じさせる威厳を感じさせるたたずまいをした彼がレアスのことをじっくりと観察する。

「相変わらずだね、親方。今日はレアスのギルドメンバー登録に来ました。チームは自分たちのチームに編入する形になるからチーム名は『ディスカバー』でお願いね」
シデンがそう告げると……

「うん、分かった♪ それじゃあ……」
そういって、親方は机をゴソゴソと探り始め一枚の羊皮紙を取り出す。

「これに必要事項を記入してね。あ、文字は読めるかな?」
そんな質問に対し、レアスは触角を立てて

「もちろん!」
と、自信たっぷりに返事をするが……数秒後には……

「…………読めない……ちょっと、虫メガネはないの?」
この契約書は周囲を独特の模様で囲む枠が描かれており、その内側には文字がびっしりと書かれている。その文字は虫眼鏡無しには読めないほどに文字が小さいのだ。
 かつてはこれにシデン達も煮え湯を飲まされたことがある。その煮え湯を飲まされた内容と言うのが……

「……………えっと、仲介料が9割ィ!! 9%の間違いじゃなくって!?」
驚愕する……当然だろう。仲介料を9割むしり取られるなどと誰が考えようものか。

「そのかわり、家賃は探検隊ランクに応じて、毎月1万ポケ~10万まで工面してくれるし、ガルーラ倉庫との契約で倉庫の使用料もタダ。
 ギルド内の食堂もメンバーなら無料で使用できるよ。それに探検中の食費や準備材料も探検隊ランクと購入品目によっては全額経費で落とせるし……まあ、それでもマイナスが多すぎる気もするけど……諦めよう?
 経費で落とせるって言うのを知ったのはレアスが帰ってくるちょっと前まで知らなかったけどね……」
そういってアグニがレアスをたしなめる。

「経費で落とせるってこの……ゴミ粒みたいに小さい文字で書かれたこれのこと?」
レアスは契約書の端っこにある、枠の模様の一部と勘違いしてしまいそうなほどに――仲介料の件よりもさらに小さい文字を指差した。

「うん……それ」

「横暴にして悪辣(あくらつ)だぁ……はぁ……でも仕方ないや。僕も探検隊をやりたいし……」
文句を言うその言葉とは裏腹に、アグニやシデンと同じ土俵に立ちたい一心できっちりサインはする。

「よ~し、決まりだね? 登録登録……」
親方の手が常識的に考えるとあり得ないとすら思える速度で動いて、紙に文字が音速で刻まれていく。手の動きは神懸っている速さなのに、その文字はやたらと達筆で読みやすい。

「みんな登録……たぁ~~~~~~~~~っ!」
掛け声とともにスタンプを押す。周囲が平然としている中、レアスだけは驚いて触覚を逆立てる。

「契約完了だね♪ これで君も今日からギルドメンバーだよ。バッジは明後日までに取り寄せるから……とりあえずは記念にこれをあげるよ」
渡されたのは、地図と丈夫そうな革製のバッグ。

「くれるの?」
嬉しそうな顔で親方を見つめながら、レアスが尋ねる。

「うん、それは探検隊をやる上で必ず必要なものだよ」

「自分達が使っていたバッグはもうボロボロだから新しいのに買い替えたけど……今でも家に取っておいてあるんだ。記念の品だから、大事にするんだよ?」

「これからギルドの繁栄と君の成長のために頑張ばろうね~~。友達友達~~♪」
親方は右手をあげて力強く鼓舞する。

「友達友達~~♪」
続いてレアスも真似をした。

第4節 

「さて、探検隊としての登録も済んで町も案内し終わったね。これからするべきことといえばやっぱり……」
シデンがそこまで言ったところでレアスがさえぎる。

「お祝いパーティー?」

「オイラもそう思ったよ。でも、その前にオイラ達の他にもう一人『ディスカバー』のメンバーがいるから、そっちにご挨拶だよ」

「種族は? 名前は? 男? 女? どんな方?」
レアスはシデンの肩をつかんで、揺さぶりながらの怒涛の質問攻めをする。シデンが答える。

「質問の順番に『クレセリア』 『ニュクス』 『女性』だよ。自分よりもよっぽど美人な方で、とっても優しいし、医者としての腕も一流だよ。だからって惚れちゃダメだよ?」

「オイラはシデンのほうがずっと好きだけどね~~」
この二人と肩を並べられるくらいの実力者。期待に胸を膨らませてレアスは彼女が住んでいるという家へ向かう。


「貴方が以前よりお二人が話していたレアスさんですね。ニュクス=クレセリアといいます。今日からよろしくお願いしますね」
女性でありながら少々低めで凛々しい声。三日月のような曲線を体の到る所にに纏うその女性の種族はクレセリアというらしい。

「君が……ニュクス?」

「ええ、そうです。もっと美人な方を想像していましたか?」
ニュクスは微笑んでだした答えに、レアスは首を横に振る。

「いや、その逆。想像以上って言うのかな……あ、僕はレアス。レアス=マナフィって言うんだ。よろしくね、ニュクス」
レアスは握手を望むように手を差し出すと、ニュクスも美しい紫色の半透明のヴェールで体と繋がれた紫苑色の手を差し出す。

「ええ、これからの探検隊生活、がんばりましょうね。レアスさん」
やさしく微笑んでニュクスは手を離した。

「うん、二人とも仲良くなれそうだね。これから長い付き合いになるだろうし、こうでなくっちゃ」
二人を見てシデンが嬉しそうに言う。

「ところで、話は変わりますがレアスさんはこちらの方はご存知でしょうか?」
ニュクスが差し出した紙には、白髪で首周りが赤く全身は真っ黒のポケモンだった。

「知らない……なにこれ?」
レアスの質問には不機嫌そうな面持ちを呈するアグニが答える。

「こいつはエレオスって言うダークライで、こいつのせいでオイラ他達どれだけ酷い目にあったことか……シデンは消えかけるし、コリンやシャロットは完全に消滅しちゃうし、パルキアに襲われるし……本当にろくでもない奴さ。こんな奴……」
罵詈雑言の類が無限に出てきそうな予感がするアグニの口を止めたのは、

「アグニ!」
ドスの利いた声でそう一喝したシデンであった。

「ご、ごめんシデン」
アグニを戒めたシデンは説明を引き継いで答える、

「でね、そんな人なんだけど、今は記憶を失ってさまよっている可能性があるし、もしかしたら分かり合えるかもしれないでしょ?
 一応ソリッドって言うパルキアから彼が逃走した時間の前後で空間に穴が開いていた場所のリストをもらったんだけど、その場所のどこにもいなくって……それで、万が一の可能性にかけてレアスに聞いた……そうよね、ニュクス?」

「はい……もしかしたら何処かで死んでいるのかもしれませんが、それでも生死の確認だけはしておくべきと……いえ、貴方の新しい門出を開くべきときに、こんな湿っぽい話はいけませんね」
謝るニュクスに対し、レアスは笑顔を作って、

「いや、問題ないよ」
と言う。レアスはもともとそんなことを気にするようなタチではない。

「そうですか……では、この話はここまでにして、今からパーティのための食材の買出しへ行きましょう。今日は楽しみましょうね?」
微笑むニュクスに、三人は歓喜した。今日は楽しいパーティになりそうだ。


レアスはその日パーティを一通り楽しみ、その二日後には初仕事を体験した。しかし、結局その後もニュクスが探しているらしいダークライは見つからないままに月日は流れた。

そんなある日のこと。


「さて……アグニ。今日は昨日の続きをしようよ」

「今日もなのぉ? まぁ、最近はレアスのせいで満足に出来なかったとは言え、毎日だなんて……好きだねぇ」
 二人は夜伽を行う相談をしている。レアスは洪水に苦しむ集落が決壊した堤防を復活させるまで雨を降らせないようにしておいてくれということで、グラードンを連れて来てくれなどと言う難易度が桁外れな仕事を受け持ってしまっている。
 必然的に地面タイプの多い『巨大砂漠』と言う名のダンジョンを行くことになり、相性の悪いアグニとシデンはお休みだ。その仕事には少なく見積もっても2週間以上かかる(はずだ)から、まだ一週間しか経っていないこの時点では二人は安心しきっている。

「それじゃあ、いつやる?」

「い・ま・か・ら……」「たっだいま~♪」
シデンはアグニを抱き寄せて、帰ってきたレアスを見て思わず電気ショックを発してアグニを痺れさせる。

「アバババババババババババババシ……ヒイィィコォォォ~~~……」

急所に当たった! アグニは倒れた


「あれ? 二人とも何やって……あ、僕の弟か妹を作っ……いや、なんでもない……僕ちょっと泳いでくるね♪ あははは……」
レアスが去っていったサメハダ岩に残されたアグニの全身は、恥ずかしさからか燃え上がり、シデンは思わず虚空に向かってボルテッカーを繰り出したとか。


「いやぁ……い、意外と早く帰ってこれたね。自分たちには真似できないや」

「ホント……どうやってあんなに早く……オイラ驚いちゃった」
気まずい雰囲気の中、今回の仕事についての報告会が始まる。

「いや、ね……僕は思ったのさ。洪水を発生させないためには日照りの特性が必ずしも必要なのだろうか……と。
 もちろんのこと、カバルドン程度の力では100匹集まっても大雨を断続的に砂嵐に変えるには力不足だ。けれど、この世界には偏西風というものがあるでしょ?
 西から東へ常に風が吹いているわけだから、カイオーガが大雨を降らして西の空気をカラッカラに乾燥させればその東の地域には雨なんて降るはずも無いというわけ。カイオーガのアサンとルギアのアージェさんは僕の親友だから快く引き入れてくれたんだ♪
 僕って頭いいでしょ~~?」

「うん……頭良いね……本当に」
「うん……そうだね……はぁ」

「イヤイヤ二人とも……覗かれた事なんて気にしないでよ。僕だってああやって生まれてきたわけだし、恥ずかしいことじゃないってば。生きていれば誰でも通る道だし……ね?」
 数秒だが、数十秒と見紛うほどに長く気まずい沈黙が流れた。

「いや、本当にごめん……あ、そうだ。仕事の時、アージェとアサンからいいところを教えてもらったんだ。『海のリゾート』って所なんだけど、いいところだよ。
 さっきの散歩で下見してきたんだけどいいところだよ。色とりどりのグミの木がそこらじゅうに繁茂しているんだよ。
 昼は青く美しい海と強い日差し。海から吹く涼しい潮風と磯の香りを肌に感じながら恋しい人と好きな色のグミを食べ、
 夜は波音(なみね)を聞きながら、陸から吹く風を背中に感じて星々を眺め、水平線が分からないほど真っ黒な夜空と混ざり合う真っ黒な海を眺めながら好きな色のグミを食べると……ね? 気分転換にさ」
 レアスの話を聞いた二人は顔を見合わせその心情を察しあう。目だけの会話だったが、すぐに二人は互いの意を察する。

「わかった。ニュクスも誘ってディスカバー全員で行こう」

「まだ2月の暑い盛りだし、海に行くのもちょうどいいわね」
 シデンたちが笑顔になったのをみて、機嫌が直ったと思い込んだレアスはホッと胸をなでおろす。

「よし、それじゃあさっきの事は自分の電気で忘れてもらえば良しとしますかね」
 そういってシデンがアグニへ目配せをすると……

「はい、レアス。痛いけどがまんしてねぇ~~」
 アグニがレアスを押さえつける。

「え、ちょ……何をするつもり?」
 口調は穏やかだが、押さえつける腕にはものすごい力がこもっている。

「さてと……『ガガ~~ン、エレキブルウゥ』っと……」
「アッ~~!!」

効果は抜群だ! レアスは倒れた


シデンの強烈なアンペアを誇る十万ボルトにより、痺れて動けなくなったレアスは『生きる伝説』の探検隊の怖さを、この時初めて知ったのだ。

「グスンッ……」


レアスが海のリゾートを発見してから数日のことだ。三人の暮らすサメハダ岩のもとに、一通の巨大サイズな手紙が音も無く置かれていた。
「アグニ……これって差出人が……」

「『ソリッド』……ってあの『白くてデカイ、自称空間の神』だよね? どうぉ? なんて書いてあるの」

「え、パルキアから手紙? 僕にも見せてよ~~」
封を切って空けた手紙に刻まれていたのは……

次回へ


ポケダン時・闇をプレイしたことがない人への捕捉説明。
ポケダンではラスボスを倒す→クレセリアが仲間になる→マナフィが帰ってくる→マナフィが海のリゾートを発見する→パルキアを仲間にすることで今までできなかった進化することが可能になり、ダークライを仲間にできるようになる。といった順番で進んでいきます。

 つまり、マナフィが帰ってくるちょっと前まで、アイテム代を経費で落とせることを知らなかったということは、ニュクスが……


コメント・感想 

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最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 馬鹿夫婦の養子としてこれからの人生を歩みレアス君に期待します! -- 2008-10-07 (火) 19:19:59
  • 感想ありがとうございます。あの二人は馬鹿なだけでなく、どこか腹黒いのです。
    レアス君の将来を存分に心配してください。 -- リング 2008-10-08 (水) 10:41:47
  • これは……プクリンのギルドの契約書が是非見てみたい。 -- 2008-10-14 (火) 14:46:58
  • 50……? そんなに大量の妻を娶ることが出来るとは……そりゃアグニが口に含んでいたものを吹いてしまうのも無理は無い。 -- 2008-10-14 (火) 22:49:14

  • 長らくコメントの放置すみません。>↑↑
    見たとしても虫眼鏡無しでは読めませんし、読む気力もなくなると思います。しかし、ああいうのを最初に考えた人って何者なんでしょうか?
    50は流石にやりすぎでしたでしょうか? でも、蒼海のおうじならいけますよね。
    感想有賀というございました。 -- リング 2008-10-26 (日) 00:07:05
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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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