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漆黒の双頭第11話:蒼と桜の対談

/漆黒の双頭第11話:蒼と桜の対談


漆黒の双頭第10話:蒼の勧誘

作者……リング


第一節 



「ふぅ……次はいよいよアッシュを仲間にする時かぁ……思えば、カリスマ攻撃無しで仲間に出来たポケモンなんて……アッシュ=ミュウ。君だけだったね……」
 だめだ、僕は少し鬱になってきた。いや、少しじゃない……こういう気分になると悪人でもないのにキール君が敵意をむき出しにするくらい、不快な感情をばら撒いているんだっけ。

「あ~ぁ……なんだか嫌な気分。いい話でも読んで気を紛らわそう」
 僕は、嫌な気分をすべて吐き出すように。それでいて誰かに聞こえない程度の音量で部屋に不満をぶちまける。
 誰が聞いてくれるわけでもないけれど、不思議なことにちょっとした不満なら言葉と一緒に流れていってしまう単純で便利な性格だ。
 ただ、根底にある言いようのない虚無感だけはきっと一生抱え続けることになるんだと思う。
 僕の悩みは『悩みが無いことが悩み』だから。
 あぁ、駄目だ駄目だ。早いところ日記でも読んで気分を変えよう。



 天に届くような巨大な岩山に木々が生い茂る。その岩山の巨大さは、そこに生える木々の一つ一つが一枚の葉に見まがうほど雄大だった。
 その頂上付近。高みにあって、僅かに空気が薄い肌寒い外郭とは裏腹に、内部の空洞には湿気が立ちこめ、当然影が差すためにカビやコケには嬉しい環境だった。
 だが、そこを謳歌するのは不潔なイメージを連想させるそれらよりも、むしろ神々しい光を放つ結晶の形をした脈――結晶根こそがヒエラルキーの頂点に立つようで、それは自ら誇らしげに青く、穏やかに光り輝いていた。

 そこをふわふわと……などという表現をしたら、そのポケモンには失礼であろう。しっかりとしたPSIの力に裏打ちされた、まるで氷の上を滑るようにブレのない浮遊によってその内部を進むポケモンがいた。
 美しい桜色の体毛を生やし、スカイブルーの目の色が美しい。それでいて小さい体躯に愛嬌のある幼い顔が可愛らしかった。そのポケモンはミュウと言う。
 そのすべてを発現する(すべ)はありえ無いといえるが、すべてのポケモンの遺伝子を持っていてその技を操ると言われるポケモンである。
 内部を飛行してたどり着いた大広間には、ひときわ大きな結晶根が天井から見下ろし、神々しく強烈な光を放ちながら室内を明るく照らしている。

 さっきまで感じた湿気は消え失せ、示し合わせた様に温度も湿度も訪問者が最も好む快適な空間。
 その空気を、鼻で、口で、肺で、全身で、空中で大の字……尻尾も含めて木の字になって深呼吸をして感じる。ひとしきり感じ終え、満足したミュウは、その広間の主とでもいうべき、広間を見下ろす巨大な結晶根に語りかける。

「私の波導を……」
 そう言って触れたのは天井から自分を見下ろす巨大な結晶根では無く、大きめと言えば大きめだが別の結晶根。巨大な物が心臓ならばこちらは大動脈、もしくは大静脈と言ったところか。
 ミュウは、それに力を注ぎ込んだ。その光景はさながら注射を連想させる。ここにそう言った医療はまだ普及していないが、ミュウはちょっとした縁があって、その治療法の存在を知ってから、この行為をでそれを連想するようになった。
 その行為へ感謝の意を表すように、青い輝きがひときわ大きな光を放った。

「そんなことで無駄に力を使わないでくれ。また、来なければならなくなる時間が早まる」
 結晶根が喜びや感謝の意を表しているつもりだと言うのだろうか、ミュウはその様子に苦笑して巨大な結晶根に語りかけた。ひと仕切り輝いた後、結晶根はその輝きを元と同じ程度まで成りを潜めさせ、広間は落ち着いた静かな雰囲気を取り戻す。

「ふぅ……」
 ミュウは数秒目を閉じて、もう一度深呼吸を一つ。ゆっくりと眼を開けながら、床面に静かにおかれた淡い黄色を湛呈した結晶根ではなく結晶を撫でた。結晶の中にはミュウと同じ形をした影がおぼろげに浮かんでいた。

「今日も会いに来たよ……」
 そう言ってミュウは身を乗り出して結晶の上へ、ベッドに飛び込むように気軽な心構えで覆いかぶさる。先端が6角形に尖ったその結晶はいかにもチクチクと痛そうだったが、それを気にする様子もなくミュウは甘えるように寄り添った。
 ひとしきりそれに満足すると、その傍らにひっそりと蕾の姿でたたずむ、風変わりな様相をした一輪の花に視線を向けた。
 ミュウの指先が、まだ開いていない花弁に触れると、突然時が加速したかのように花が開花を始めた。

 時間の花と呼ばれるそれは、波導を操れるものが触れることで時の奇跡――もしくは時の軌跡を見ることが出来る代物であった。ミュウが触れたことで、その花から時を超えた過去の映像が映しだされた。

『くそ、樹が許すならばたとえこの身朽ち果てようとも、セフィロス様に変わり私の波導を与えようと言うのに……なぜ、この樹は融通がきかないのだ』
 ドーブルが結晶根から手を離し、悔しそうに歯ぎしりをして拳を握り固めた。

『ハワード……無駄ですよ、この樹はミュウしか主と認めない。たとえ、貴方がスケッチの能力で波導を使えようとも、ミュウの姿に変身しようともこの樹は……え?』
 セフィロスと呼ばれたミュウが、諭すようにハワードと呼ばれたドーブルの肩に手を添えた直後のことだ。ハワードに呼応するように、結晶根が輝きを放った。
 ハワードとセフィロスはその光景にはっと息をのみ、そして同時に呟く。

『奇跡だ……』
 始まりはいつもこの映像からであった。


 所と時を変え、ダンジョンの内部にひっそりと存在する、とある集落への入口。

「ここが……ミュウの住処……死ぬかと思いました……」
 レアスは草タイプの楽園ともいえるミステリージャングルと言うダンジョンに足を踏み入れ、そして自分とは底なしに相性の悪いこのダンジョンを、ライラエルとともに必死で切り抜けてきた。
 レアスは冷凍ビームやとんぼ返りを駆使した前衛、ライラエルは後衛に回り、立ちふさがる敵を火炎放射でなぎ払う。二人でなければ死んでいたかもしれないと思うと、熱帯だと言うのにうすら寒い気分になる。

「なんにせよ……ここが漆黒の双頭の原点。エレオスが決意を固めるに至った場所なんだよね……」

「ミュウ……一度見てみたかったんですよね」
 あくまで仕事として訪れた上に強引に連れて行かされたライラエルだが、ミュウに会えるという期待が気分を高ぶらせているようだ。

「で、ミュウに会えたとしてもすぐに飽きるんだよね?」

「んまぁ……それは私の性格と言うかなんというか」
 
「んもぅ……君は根っからの探検隊気質だね。僕の両親と同じ時代に生まれていたら、もしかしたら幻の大地にいく人物は君だったかもね」
 呆れるようなライラエルの性質を、一方で咎めてもう一方で褒める。自分の性格をよく分かっているつもりのライラエルも褒められたのは久しぶりだったようで、目を丸くしていた。

「それ、言われたの……親方に言われて以来です。……やっぱり、出来る人は違いが分かるものなのですかね?」

「おや、ソレイス親方と同列だなんて……それは光栄だね」
 笑みをこぼしながら、レアスはずんずんと進み、ダンジョンに囲まれたジャングルの居住区へと向かっていった。


「鬱蒼と生い茂る木々に囲まれ、その木々は日陰を為して避暑地と為す。しかし、その有り難く殊勝な木々の頑張りをあざ笑うは湿気と言う名の見えない敵。
 遠くに見える、大樹に住まう者たちが建て上げたる住処はまるで大きな樹の実の如く、樹が育んだ繁栄の象徴であるととらえれば、またそれも間違いとは言い切れぬが表現の妙。
 ああ……趣にあふれんかなあふれんかな」

「あの……レアスさん。なんですかそれ?」

「う~ん……僕はこういういい景色を見るとつい実況したくなっちゃうの~」
 いつも通り描写をしてみてだけのつもりだが、久しぶりにその質問を受けたことが感慨深くてレアスはふっと微笑んだ。

「個性的ですが……それも探検を楽しんでいる証拠なんですよね……きっと貴方も根っからの探検隊気質なんでしょうね」
 ライラエルは変わったものを見る目でレアスを見たが、探検隊の新たな楽しみ方と理解した。

「ふぅ……かつてエレオスがここにどうして訪れ、何を思ったのか……ここに来れば知ることが出来るかもしれない。
 ついでに君にも知ってもらえるだろうから……今考えれば君を誘って大正解だったと思うな」

「うん、まぁ……私はミュウに会えるだけでも、この謎の多いダンジョンの最深部の生活を書き記すだけでも……それなりに意味があると思いますし……何冊も本書けますよ~」

「ふふ……サニーさんみたいに不健全なやおい本を連想しちゃうなぁ」

「ちょ、あんなキマワリと一緒にしないでください」
 レアスの事は、すでに似顔絵のようなものを書いて紹介されたとニュクスに言われている。自分が何者か疑われたり怪しまれたりすることはないだろう。

「エレオス……君が何を思ったのか、別の人からも聞いてみるね。漆黒の双頭……それが君を巻きこんで本格始動する前に、一度……」
 レアスは、草が生えていないからそう呼べるだけといった感じの、粗末な"獣道"を通り、第一の住人――ドクケイルに話しかける。

「すみません、アッシュと呼ばれるミュウはどこにいるのでしょうか?」
 いくら人懐っこい笑顔の持ち主であるレアスといえど、旅人なんて来ないこの土地に、見たこともないポケモンで、彼らの間で恐らく常識とされているアッシュの居場所を聞くと言う行為はどうしようもなく怪しく映る。

「何者……?」
 酷い警戒をされていることを感じて、素性を怪しまれたレアスは言うのだ。

「ここでは……エレオスの名を出せば信用してもらえるって聞いたけれど……本当?」

「エレオスってまさか……あぁそうだ。何か見たことがあると思ったら、思い出した……お前は確か、レアスとか言う……」
 何か光栄なことでも感じたかのように、ドクケイルは言った。


「お邪魔します……今日は、このジャングルを統べるアッシュ様の育ての親であるエレオスの旧知の友として、彼の過去を知る貴方にお目通り願いたく参りました。
 前通告なしの突然の訪問でありながら、運よくアッシュ様がここに滞在しておられたことや、快く応対してくださったこと、その全ての心遣い、助かりました」
 ふだんのレアスからは考えられない仰々しい口調で、恭しく頭を垂れて言う。

「お、同じく」
 飄々(ひょうひょう)としたいつものレアスの態度とのギャップにショックで固まりかけながら、ライラエルも何とか深い礼をして、取り繕う。

「いや、固くなる必要はない……というか、そう言うのは好きじゃない」
 エレオスを彷彿させるような落ち着いた、つまらなそうな口調でミュウ――アッシュは言った。

「わかった……僕の名前はレアス=マナフィ。これから……もしかしたら長い付き合いになるかもしれないからよろしくね」
 堅苦しい話し方をしないでくれと言われた途端に、レアスは口調も態度も少し慣れ慣れしいとすら言えるくらいに変える。だが、アッシュはそれをよしとして、さっきとは打って変わって表情をほころばせる。

「えっと……私はライラエル。ライラエル=ヘルガーです」
 対して、ライラエルは表情も口調もまだ固い。

「長い付き合いか……どれほどのものになるだろうな……とりあえず、よろしく。もう十分知っているようだが、私の名前はアッシュ=ミュウだ……父さん……エレオスから色々聞いているよ」

「うん……そう言うこと。いきなり来て、いきなりこんなことを頼むのはなかなか失礼なことだとは思うんだけれど……けれど、僕たちの原点というものを知りたくってね。
 うん、でも……やっぱりそういうことよりも大事なことってあるよね……まずは適当に雑談からでも」
 馴れ馴れしい態度をとったとはいえ、まだ少しギクシャクはとれず、さすがのレアスも少し緊張気味だった。


「おい、アラン。客人……いや、友達にお茶と果実……あと、肉を出してやれ」
 だが、それのレアスの様子を見て友達とはっきり言いはなつことで、さらなる馴れ馴れしさを演出するアッシュの方も、ただものではないのであろう。
 アランと呼ばれたドーブルは、さっと駆け出してどこかへ消えてしまった。

「お前のことは、両親……エレオスとニュクスさんからよく聞いている。なんでも、不思議なカリスマがあるだとか、天才児だとか……な。でも、父さんは自分の事はあんまり語ろうとしないから……色々聞きたいことが有るんだ」
 閉鎖されたこんな場所に住んでいるという土地柄、客人そのものが嬉しいのであろう、相手は外のお話を聞きたくてたまらないようだ。

「もちろん、そっちのヘルガーのお嬢さんも、話を聞かせてくれないかな? 皆、外の話しに飢えているだろうから……君達の話を記憶させてもらいたい」
 レアスがアッシュに語ってもらう交換条件として、二人が語るという行為は、ほぼ等価交換である。閉鎖されたコミュニティであるという事情を知っているレアスは、快くそれを受けてそれを語り始める。

 三人はアランと呼ばれたドーブルが持ってきた、豊潤な香りのする茶葉で入れられた飲み物と柔らかく濃厚な味のする果物を味わう。ライラエルも肉食でありながら、意外と美味しそうに果物を食んでいる。
 アルセウスを信仰する者たちの様子。自分が今までしてきた仕事に関する他愛もない世間話なども話した。
 その間、ライラエルは置いてけぼりにされるようなことも多かったが、二人が気遣って話しかけると、それを発端にトレジャータウンを拠点とした冒険談を意気揚々と話す。
 アッシュはとても聞き上手で、語りたいことを上手く訪ねてくれる。そのせいなのか、語り始めてからのライラエルは口が止まらず、酒を飲んだときのように、滝の打つような饒舌が炸裂している。

「なるほど……探検隊は面白いんだね。話しているときの君はイキイキとしているな……ライラエル。
 レアスさんの話を聞きながら黙っているときよりも、よっぽど輝いているよ」
 アッシュはそんなライラエルの饒舌にいやな顔一つせず、むしろ楽しそうに聞き入っている。アッシュが身の上話で語った内容に、自分もたまに出かけてはいろんな場所から持ち帰った話を聞かせているという。
 ただ、あまり長くは旅にでていられず、すぐにここに戻ってくるような生活のために遠くへはいけない。だから遠くのことを話せる二人は貴重なのだという。

 やがて、ライラエルの話も話題が尽きてきたのか穏やかになり始めた頃、アッシュは再びレアスのほうへ話を伺う。話の内容は、自然と育ての親であるエレオスの話へと移り代わる。
 レアスは自分から見たエレオスのイメージや交わした約束。最近本格始動させた漆黒の双頭についてを、嬉々として話す。

「なるほど……私にとってエレオスは父親だが……君にとっては命の恩人にして最高の親友か。やはり父さんは偉大な人物なようだな……
 母さんと違って……父さんは会いに来ない。私の本当の母親に顔向けが出来ないからと言ってな……でも、君の話を聞いて安心したよ。父さんは人情に厚いのは変わっていないんだな」
 すっかり、話を聞きいっていたアッシュはエレオスの話を聞いて久しぶりに義理の父親のことを思った。

「星の停止っていう事件を起こしたのも確かだけれど……それだけじゃないからね。記憶を失って、記憶を取り戻して……しばらく会っていないけれど、僕とは今でも最高の親友だよ」

「最高の親友……か。何だか不思議な気分だし、私はそうは思わない……」

「むっ……エレオスを馬鹿にするの?」
 不機嫌そうにレアスは憤る。

「けれど、最高と言うところだけは同意する。やっぱり私にとっては父親なんだよ」
 アッシュはそう言って、口元に笑みを浮かべた。先ほどまでムッとしていたレアスも、その言葉を聞いて表情を和らげる。

「あら~……エレオスさんのこと、カッコイイってことくらいしか知らないから、全然実感がわきませんね……」
 二人は、ライラエルのぱっとしない反応を見て、同じように含み笑いをした。

「むしろちょっとダサいところがあるのが、エレオスの魅力だよね?」

「うむ、私もそう思う。子供と女……と言うよりは甘え上手にあきれ返るほど弱いんだ……父さんは」
 次第に二人は、含み笑いだけでなく、声を立てて笑い始めた。

「ダークライのイメージに合わない……きっと皆そういうね。ライラエルも……僕としては遠めで見ているだけのほうが夢壊れなくっていいかもよ?」

「そうだな。幻のポケモン好きなら、お勧めしない。子供相手には、きっとヒマナッツよりも弱いと思うから」

「ふえぇぇ……幻のポケモンも個性豊かですねぇ……。まぁ、なんというかすでに私が言えた事じゃない様だけれど」
 エレオスをよく知る二人は、「そうだね」と適当に相槌を打ちつつ軽く笑いあった。
 ひとしきり笑い合って、話が途絶え数秒の沈黙。アッシュはアランに差し出されたお茶をコップに残った分を飲み干し、気分の良さそうな表情で二人の顔を交互に見る。

「さて、客人にばかり長々とお話をさせてしまったな……私の方からもお話をさせてもらおうか。最高の父さんのお話をね」

「ふふ、待ってました」
 今まで話す気分だった姿勢を切り替えるように、表情を興味津々と言った様子に切り替える。アッシュの口からは鼻歌を口ずさむような軽快な口調で、過去のことが語られていった。

第二節 

 ダークライとクレセリア――エレオスとニュクスの二人はあてのない旅の果てに、今もある差別の酷い国の国境沿いにある広大なダンジョン――のちにミステリージャングルと呼ばれるそこへ足を踏み入れた。
 とはいえ不用意に入っていくのは危ないということでエレオスはきちんと、安全確認している。具体的には、現実に極限まで近い夢を見せて、住人達の反応を確かめること。
 それで、数人の反応を調べて、悪い反応をするわけでもないということを知るとエレオスは喜々としてこの地へと足を踏み入れた。自分たちを気味悪がる者がいるのをエレオスは極端に恐れている。
 その半面、こういったところで受け入れてもらえるというのが嬉しくてたまらないのだ。

「エレオスさん……ダンジョンで襲いかかってきたポケモンたちとほぼ同じ構成ですね。にしても……やっぱりこれは注目されますよね。こんな強烈な見た目だと……」
 ニュクス――三日月のような意匠の紫のヴェールが体に三つ付いているポケモン。体色は、夜明けの空色の蒼と月光の金の二色で構成されていて、おもちゃの小鳥のような体系。
 足はなく、のこのポケモンは常に浮かんでいる。勿論そこら辺を歩いているような存在では無い。

「ああ、何度来てもこの感じは慣れない。ま、ニュクス……仕方がないさ……アルセウス教の者と違って悪魔だなんだと罵りながら攻撃しかけてくるよりかはましだ」
 エレオス――ドレスのようなシルエットに、肩と腰の尻尾のような部分に棚引く布のようなヴェール。そのほぼ全域が黒を基調としていて、首周りの牙のような飾りが赤で、水中を漂う藻のように天へ向かって揺れる豊かな頭髪だけが白。
 右目は元から無いのか白い頭髪に覆い隠されていて、左目だけが夜明けの空の色をのぞかせている。そして、その体には普段足が収納されており、スカート状の広がりから下はほぼ休むことなく浮遊している
 ニュクスと同じく、その辺を歩いているポケモンでは無い上にこちらは見た目が恐ろしい。

 二人は、周りのモノの反応を評価するような会話をしながらずんずんと集落の中へと歩み進んでいく。遠目から興味深そうに見ていく者、恐がって隠れてしまう者。

「住民が不安がっていると言うから飛んできたが……なるほど」
 そんな風に引っ込み思案な者ばかりではなく、あからさまに危険なものを見る目で二人を見るものもいた。

「あなた方、ここらへんじゃ見かけない種族ですね。一応……種族とこちらへ来た目的を窺ってもよいかな?」
そう言って話しかけてきたのは、真っ白な体に隈取りしたような目、ベレー帽をかぶったような頭頂部。熱帯のここでは日中は体温調節のために常にさらけ出されたピンク色の健康的な色の舌。
 特徴的なのは先端から染料のようなものを分泌出来る、身長よりも長い尻尾。そのポケモン種族はドーブルといった。

「種族……私がダークライ……と、こっちの方がクレセリア。旅の目的は……なんというか、あてもなく世界を回っているだけだ。べつに、悪いことをしている訳ではない」
 あまりにストレートなドーブルの問いかけに戸惑い、エレオスたちは動揺していた。そのせいか、ドーブルの目には二人は周りに目を泳がしていて少し挙動不審な印象を受けさせる。

「お、おなじく」
 ニュクスはとりあえずエレオスの顔を見て、エレオスと似たような反応をする。

「ふむ……まぁ、いいだろう。もし何かあろうとも、我らが長に敵う者などいようはずもない。
 私の名は……ハワード。お前らが何の目的で来たかは知らないが、困ったことがあれば長か私に尋ねるといい。私の家は……長の住処のすぐ近くだ、では……」

「待ってくれ……私はエレオスで、こっちはニュクス。そっちが名乗っておいてこちらが名乗らないのは失礼にあたるだろう?」
 去っていこうとするハワードを引き留めて、エレオスはそう言った。

「わざわざ名乗るとは礼儀正しいのだな……まぁ、それで善人と限られるわけではないが……ふむ、悪いことをしにきたわけでないというのなら好きに見物して行け。外の話を聞かせてやれば、ここの者たちは喜ぶはずだ……だが、問題を起こした時は分かっているな?」
 エレオスは肩を竦め苦笑する。

「それは、肝に銘じている」
 エレオスはニュクスの肩を小突いて頷かせ、話を続ける。

「あぁ、それでは……現在困っていることがあってな……その、長とやらにお目通りしたいのだが、場所が分からない」
 エレオスはおどけた口調でそう言ってハワードを再び引きとめた。

「奇跡の理由はお前らだとでも言うのか……いや、まさかな」
 ハワードは軽く意味深な人事を呟いて、客人の前だと言うことを思い出す。

「コホンッ……とりあえず、付いて来い」
 ハワードは咳払いで気を取り直し。、エレオスに軽く社交辞令的な笑顔を見せて先導した。


「それで、お前らはいったい何のために旅をしている? あてのない旅と言っても、何か少しくらいは目的の一つもあるのだろう?」
 前を先導するハワードが、視界の端にエレオスたちを収める程度に振り向き、話しかけてる。

「なんというか、私たちは……世界を回っている。幼いころ別れた両親……まぁ、修行というか独り立ちのためにだがな。
 両親からは『人のために生きろ……』と言われていてな。私は、それに従っている。いい親だったもので、なんとなくそれにしたがって生きてはいたが、次第に少し気に入った。
 あまり、怪しませるのもなんだから普段は姿を見せないのだが……ここの住人は怪しむ事はあっても排斥するようなものでは無いようだったので、こうして姿を現したということだ」
 今は遠い記憶となってしまった、両親を思いながらエレオスは言う。

「でも、具体的に何をするのかはよく分かっていないんです。抽象的な志というか願望というか、要望でしたので……。
 いろいろ人知れず手助けもしておりますし、こうして……世界を回っていくうちに、私しかできないことが見つかると思うのです」
 エレオスの言葉に補足するようにニュクスが言う。

「そういうことだ……私たちの目的は本当に浅いものでな。本当にこれしか、話せる目的は無いのだ。済まないな……目的の話せない怪しい者で」
 最後にエレオスがそんなことを言うと、ハワードは歯車を取り外した水車小屋のようにピタリと押し黙って静かになる。
 見守る二人が何かと思えば、急にまじめな顔をして歩みを止めて向き直る。

「旅人だったなお前ら? 我らが主と会ってくれないか……?」

「最初からそのつもりだが……?」
 ハワードは、まさに渡りに船というべき状態に気が動転していたのだろうか、はやる気持ちが先ほど得た情報を頭の隅に追いやったようだ。

「おっと……そうだったな。都合がいい……頼みがある」
 エレオスたちは、いつも自分から能動的に人助けをしていて、こういう風に受動的に人助けをしたことなどなかった。二人にとっては初めての経験だった。

「我らの長は、我々のために……閉ざされた場所でしか住めない我々のためにな……外のことを……伝えてくださっている。ここを出れば……アルセウスを神と信じる輩の前に、それらはよそ者を許さない。排他するそうでな……それが我らがここを出られない理由となっている」

「それは……そうだろうな。私たちもそうだと思ったからこそ、ここを覗いてみたんだ」

「その話を聞くことは、ここに住む民にとって……私にとってさえそれは楽しみなのだ……だがそれも、ひとまず終わりを告げようとしている。
 我らが長……セフィロス=ミュウ、その御方が、不治の病にて召されようとしているのだ。それに際し、セフィロス様は残された命を振り絞り後継ぎを残された。
 だが、セフィロス様にはそれを育て上げる時間は無い……そこで」
「私たちに子育てをしろというのか?」
「また、そんな……無責任じゃ?」
 二人は驚き、話を遮って声を張り上げた。

「そうなる……だろうな。いや、それも含めて……いろいろ話し合う必要があるだろう。……心配するな。断ることも不可能じゃないさ」
 直々に頼んでいる時点で断る選択肢を与えられていないのではなかろうか? そんな不安を、二人は呆れたような視線のやり取りだけで語り合う。
 そうして二人は、ハワードに連れられるまま、木を利用して枝の上に作られた家々を抜け、ジャングルの奥の方にあるひときわ大きな大樹に連れられていった。


「こんにちは……ハワード」
 出迎えたのは毛色などは美しいままの――だが、声は枯れたようにカスれているミュウだった。ふわふわ浮かびながらハワードにあいさつした彼女が寝ていた(むしろ)には、体毛と同じ桜色に光る卵が置かれていた。

「セフィロス様……あまり無理を為されては……」
 ハワードはセフィロスが挨拶をすることも止めた。結構、調子が悪い状態なのだろう。

「これくらい問題ないわ。それより、ずっと動かずにナマケロみたいな生活している方がよっぽど体に悪い」
 彼女はそう言って、ハワードが連れてきた二人を見る。

「ところで、この二人は夫婦なのか?」
 ハワードに促されて脚を崩していたエレオスとニュクスは顔を見合せて呆然とした。確かに、二人は両親と同じ種族であったが為に違和感はない。ただ、そう見えてしまうと言われたのは新鮮だった。
 とはいえ、そもそも二人は人前に姿を現すこと自体がまれなのだから、もしかしたら普通に街を歩いている限りではそう思われても仕方がないのかもしれない。

「違う違う……私は兄妹だ。……そこまで仲がよさそうに見えるか?」
 エレオスが聞けば、セフィロスは

「ふむ、済まないねぇ……本当は遠くからあんたたちの話聞いていたんだけれど……あんまりにも仲がいいからちょっと聞いてみたくなっただけよ」
 そう言って、セフィロスは戯けて(おどけて)笑って見せ、さっきまで座っていた筵に戻った。

「あまり良い趣味ではないな……」
 エレオスはは思わずつぶやいた。セフィロスは苦笑いしながら否定出来ないと目を逸らす。

「では、単刀直入に言わせてもらいますと……」
 セフィロスの口調が変わった。今までの訛りの酷い話し方を捨て去った、まじめな声だ。

「私はこれまでのんびりと生きて、死ぬことなんて到底考えもつかずに……ただ、ここの者たちに外の世界の話を聞かせては……満足したつもりでいました。
 ですが、不治の病にかかってこうして死に直面してみて……数百年の時を生きてきた私にようやく真剣に生きなければいけない日々が芽生えた。
 芽生えてしまったのです……。そういう意味ではこの病気に感謝したいくらいです。
 やることはいろいろありました……従者のドーブルにここを統治する術を教えたり、今までお世話になった者たちへの感謝の意を示すために歴代の従者の墓の手入れをしたり。
 そのなかでも一番重要なのが後継ぎだった。子孫を残すという事が、私には必要だった……このジャングルの象徴として私がいて、私が外の世界について逐一教えねば……ここの者は不安と絶望でいつか押しつぶされてしまう。
 とはいえ、今はもうなんとか後継ぎを残せましたのでその心配はいらないのですがね」
 そう言ってセフィロスは卵を見て、ハワードを見た。ハワードがセフィロスに見られた時、彼は眼を伏せて至極恥ずかしそうにしていた。その様子を見る限りでは、彼が父親と言う事になるのだろう。
 すべてのポケモンの遺伝子を持っているとは言うが、ドーブルとも子供が作れるのは初耳だ。

「ですが……私に残された命ではこの子を育てる余裕はなく、旅の身である……あなた方」

「ちょっと待ってください?」
 話を遮ったのはニュクスだった。予想外の場所から声が聞こえたことで、エレオスは肩をすくめて左にいるニュクスの方を振り向いた。

「なんでしょうか?」
 話の腰を折るニュクスに僅かに不機嫌そうな態度でセフィロスは応対する。

「私は、旅の途中で幾度となく医学書を盗んだり、兄さんの力で夢を介して医者の記憶を引き出してきました」
「ちょ……そう言う事はあんまり言うな」
 ニュクスの顔の前に手をかざして、慌てながら話を遮る様子は中々に滑稽な姿だった。傍目で見ていた二人は、笑う事こそしないものの心が和まされる。

「あぁ、兄は夢を操ったり悪夢を見せて、それを覗く力があるのです……それを有効利用しただけで、決して変な夢見せて覘いたりとかそう言う趣味とか……」
「ニュクス……殴られる前にまともなことを言え」

「まぁ、それは今はどうでもよいとして、医術の心得もあるせいか……私は他人の死相もそれなりに見えるんです。貴女が不治の病だとして……貴方の寿命は本当にこの子を育てる時間もないのですか?
 年の数を4つを数える間に体と心はそれなりに成長するはず。貴方にはそれほどの時間は無くとも、最低でも3年は持つはず。少なくとも……3歳と言えば死を理解できる年頃*1では?
 それくらいまで育てて満足しろと言うのも酷ですが、少しは諦めが付くような気もしますが……」

「確かにですね……子育てをするくらいの余裕は……余命はあるのです。ですが、子育てと言うのはただ成長を見守ることではないのです。
 先ほども説明した通り……私がそうしたように旅をして、外の様子を伝えられるようにしなければならない。そのためには……ここで寝たきりの母親と温かい日々を過ごしていてはダメなのです。
 外で……その方法を覚えなければならない」

「そのための旅人の私たちか……どう思う、ニュクス?」

「セフィロスさんが旅をするなら余命は2年以下……いや、例外も考えられますがね。生きようとする意思が余命を凌駕する例はありえないことではありません。
 ですが……その不治の病と言うものの性格によりますかね。臓器の活動が弱まるものだとしても、病巣がどの臓器であるかや、急性的な死の原因に直結するか否かでも……」
 ニュクスがそこまで言ったところで、セフィロスが咳払いをして話を遮る。

「呼吸器、つまり気管の……進行性の難病です。無理に動くと発作起こして最悪死にますね……2年以下と言う貴方の見立ては悪くないと思いますよ」
 まるで、人物を紹介するかのようにさらりと、セフィロスは話した。

「……実は、いざという事になれば、そこにいるハワードに子育てを頼もうかと思っていたのです。そして私はここを見守る……と。
 しかし、この身守るという行為がまた厄介なものでしてね」

「と、言うとなんだ?」

「ここ、このミステリージャングルのさらに奥に、始まりの樹と呼ばれる場所があります。そこでは波導を使える者がそこにいて、定期的に波導を送り込むことで、ジャングル全体を維持する。
 そうすることでこの場所は成り立っている。だからこそ私はここを見守る必要があるのです……が、その作業は言うまでもなく体に負担がかかります。
 つまり、そんなことをやっていたら……短い寿命がさらに短くなる。
 ですが……今年に限って。というか今年から不思議なことが起こったのです。始まりの樹はミュウしか主と認めず、主と命を共有しなければこのジャングル自体の維持が出来なくなると言うのに、今年から……このハワードを主として認めました」

「ふむ……」
 訝しげに、エレオスは唸る。話をきちんと聞いている証拠と受け取ったのか、セフィロスは軽く頷いて続けた。

「もし何かイレギュラーが起こったならば……運命の神の思し召しがあったならば。ここを一時的にハワードに任せ……そしてそのイレギュラーに私の子供を託そうと……そう考えていた矢先にあなた方が来たのですよ。
 なんだか、こじつけというか後付けみたいで、非常に都合のよい考え方ではありますが、もしかしたら始まりの樹は、あなた方が来るのを知っていたと……そう、思えませんか?
  旅の身であるあなた方ならば……この子を預けるのに信用に足りますし……」

「セフィロス……だったな。ここで、始まりの樹とやらをハワードに任せ、お前はどうするのだ?
 まさか寝ていると言う訳ではないだろうな?」

「エレオスさん……でしたね? それは最もな質問ですので……答えます」

「ふむ……」

「その、始まりの樹と呼ばれる場所で私の波導を用いて……この命すべてを使う事になるでしょうね……そうすることで人々の心を穏やかにし、争い事のない世界の安寧へ導こうと思うのです。
 あの樹にはそういう力があるんです……この周辺すべての争いに関わる感情……そのすべてを消し去る力が。
 それを行った後はほぼ確実に死にます。それが、私のやろうとしていることです」

「むぅ……」
 エレオスもニュクスもその時言葉を失ってしまった。ミュウが背負っているモノの重さを感じて、何もコメントが出来ない。

「思い立った理由は……今までのんびりと暮していて、早く『平和が来ればいいなぁ』などとその日毎気ままに暮らしていた。変身の能力と生まれ持った力がなければ、私はただの怠け者。
 そんな私を、ただ伝説のポケモンである……ミュウというだけで私を慕ってくれた者たちに何もしてやれていなかった。
 今はこうして普通に話していられますが……最初は月に2、3回……今では6、7回ほど発作が起きまして……その時、やはり自分の体は病に侵されつつあるんだな、と実感できるわけで。
 今まで何もかも中途半端だった私なのですが、死ぬとわかった途端に、何事にも必死になれて……私は、慕ってもらった分の恩返しがしたいって……ミュウと言うだけでお世話になったのですし。
 だから、『平和になればいいなぁ』じゃなくて……実際に平和になって貰いたい。そうすれば、子供たちにもここの住人達にも負担をかけずに済むはずなんです」

「なるほど」
 納得した様子でエレオスは頷き、『お前はどうだ?』とニュクスのほうを見る。ニュクスも自分たちに子供を預けようとする理由としては大体納得したようで、話の続きを促すように、セフィロスへ手を振る。

「ですが……おそらくはお察しの通り、それは成功した場合のお話。例えば……失敗した時どうします? ハワードに始まりの樹の主を頼んだとして、私の後継ぎもまともに育てられず、外の様子は良いことも悪いことも楽しいことも悲しいこともしばらく音沙汰無くなり、住人は不安になる……失敗した場合、そこから派生しうる悪い結果はいくらでもあります」
 セフィロスは、睨みつけると言っても語弊がないほどに二人と強く眼をあわせ、そして続ける。

「だからこそ……誰か信用できるものに託したいのです。私の子供を……」
 セフィロスは筵に置いてあった卵を抱き抱えて撫でる。

「それで、覗き見か……まぁ、賢明な判断と言えばそうだな。見られていると思っていない方が自然な姿が見れる……それでも、やはりいい趣味とは言えないが」
 冗談めいた一言で思考を切り替え、エレオスは頭の中を整理する。ニュクスはすでに整理が付き始めているのか、少し躊躇って口を開いた。

「しかし……貴方は子育てをしようとはもわないのですか? 親として、至福の一時であると……いや、子を育てたことがない私が言っても説得力のないことですが……」
 女性の立場からニュクスは言った。エレオスも、子供を育てた経験がない以上説得力がないという事は重々承知しつつもそれが正しいことであると思って肯定するように頷いた。

「そうですね。子供に残せるものを考えました。私との思い出と、平和……それで二者択一。ここら辺は価値観ですね……確かに、子供に思い出を残すことだって、大事です。
 しかし、それは……今私が為そうとしていることにとっては自己満足に過ぎないように思うのです。
 子供には形のある物を残したいと思いましたが、平和と思いで、どちらも形がない……なればこそ、どちらも形がないならば何が、何がより有用なものか、考えてください」
 エレオスは僅かにうつむき、首周りの赤い牙のような棘々に手を当てて考える。何か答えが出るのを待っていられないのか、セフィロスは話を続けた。

「さっきも言ったようにこれは価値観の問題なので、完全に納得をしてもらおうとは思いませんが、始まりの樹で負の感情を消し去る云々は……流石に私しかできません。
 ですが、私の子供に思い出を与えることも、きちんと育てることも……多分ではありますが、あなた方なら出来る……って、昨日貴方達が夢を見せて住人の反応を探っている時から感じました。
 思い出と平和……残すとしたらどちらが重要か……それをよく考えて、私は言っているつもりです。
 貴方達が否定したり、面倒と思うのならば……勝手な頼みなのでそれも仕方ありませんが」

「我らが主の願い……どうか聞いてもらいたい」
 ハワードは二人に向けて深々と頭を下げた。

「そうだな……最後まで生きたくはないのか? 自分から死んで後悔しないのか?」
 ようやく考えが纏ったのか、エレオスは意地悪だが、誰もが抱いて当然の疑問を口にする。

「わからないんです……生きるつもりと言えばそうなんです。綺麗事、へ理屈、そんな風に言われるかもしれませんが、形を変えて。それが、それが私が最後に出来る、最初で最後の恩返しなのですから。
 今はもう、体に負担をかけないように長いことしていませんが……これでも、変身は得意だったんですよ。ですから、形を変えようと思うことなんてお手の物です♪」
 セフィロスは無理矢理作ったように笑顔を見せた。

「形を変えて……か。それが……思い出か平和か、と言う話か。ならば聞こう……答えは、ほぼ予想できるが……お前にとって死ぬことってなんだ?」

「呼吸と心臓が止まり、瞳孔が開くことだったら……それも一つの正解ですが、それなら貴方もこんなお話はしませんよね。そういう意味で……死んでしまうだけならいいのです。
 ですが……皆の記憶から自分が消えてしまうというのが一番悲しいことなので。平和と言う形で生きようことを考えるのも、誰かの記憶の片隅に残っていたいという心情の現われなんじゃなかなぁ、と。
  今は、目的を達成するために精一杯努力して、子供を含めたここの民が幸せな生活を送れるように努力をしているつもりなんですが……死ぬときは悔いなく死ぬんだ、と決めておりますので」
 涙とともにセフィロスが浮かべた笑みには、いろんな感情が感じられた。
 医学的、生物学的な死への不安や恐怖、しかしそれを補って余りあるであろう、自身の死によってもたらされる新たな生。
 そして子供が生き生きと生を謳歌するその笑顔を。エレオスは非常に勝手な想像だが、そんな風にセフィロスの心の内で繰り広げられているだろう光景を想像した。

「いきなり……こんな話をされても困りますかね……。ただ運命の思し召しがあったなどと言うあてにもならない理由で、長々と語ってしまい申し訳ありません。
 まだ……卵が孵化するまでは時間はありますので。どうか、心の隅に置いてもらえると助かります……。
 これで、私の話は終わりです。何か、質問はありますでしょうか?」
 エレオスは考えることが多すぎて思考に疲れたのか、今まで整えていた姿勢を崩して肩の力を抜く。
 ため息とともに、頭を掻くと、ようやく気まずそうに口を開く。

「質問は……ない」
 そういうとエレオスは3人に睨まれたのを感じる。『迷った挙句に適当に答えている』と思われたのを感じて、エレオスは付け加える。

「しばらくここに滞在しようと思っていて、その許可をもらおうと思ったが……どうやら、聞くまでもなさそうだから。
 考えることもたくさんあるし、ここがどんな場所なのかも知りたいから……効きたいことがあったらその時に聞く、
 ニュクスもそれでいいな?」
 エレオスは左へ振り向いてニュクスに問いかけると、ニュクスはこくりと頷いた。

「ありがとうございます」

「まだ、やると決めたわけじゃない。お前が願いを聞き入れるに足りる人物であるかを見極めてからだ」
 エレオスは、セフィロスの隣にいるハワードを見る。

「そしてそれはお前らも同じはず。ハワードと言ったな……私たちが信用に足るかどうかは……覘き趣味の主と供に、お前も見極めろよ?」

「セフィロス様……」
 ハワードがセフィロスにお伺いを立てると、セフィロスは微笑んで頷いた。

「許可が下りました……エレオス様に、ニュクス様……不肖ながら、よろしくお願いします」
 ハワードは恭しく礼をして、気まずい雰囲気を作った。


「見ての通り、私の見た目は何処へ言っても恐がられるが……クレセリアの見た目と言うものは、どこへ行ってもそれなりに好まれて受け入れられるんだ。それだけに、場所によってはその姿を見せるだけで貢物がもらえるようなところもあってな……
 まぁ、一応満月の舞を使った奇跡なんかも演出して見せたりして……なんだが……」
 二人は、ここに着て早々にハワードに『外の話をしてやると喜ぶ』言われた通り、二人は外の話をここの住人に大いに聞かせていた。生きて来た年月が長いだけに話題には事欠くことが無かった。
 エレオス達は逆に、セフィロスについての話を住人から聞いた。

 泡のクッションを大量に出して遊び場を作ったり、自由に空を飛ばせてトロピウスなど空を飛べるポケモンの気分を体験させてくれたり、何かと遊びに関することが多かったがもちろんそれだけでは無かった。
 この地にはセフィロスの代まで文字が無かった。それを、旅の途中で手に入れた知識で以ってそれを持ちこみ、教えたのはセフィロスだとか。
 また、この地で食べられている食物を豊かにしたのもセフィロスなのだとか。遠くで利用されている知識と種や苗を持ちこみ実りを豊かにしたらしい。

 その話の通りならば彼女はこの地へ、実に多くの財産を残したのだ。セフィロス自身は、自己をただの怠け者と謙遜していた割に、大した働き者だった。
 二人には、彼女が慕われる理由をその話だけで理解が出来た。


 とはいえ、理解できたからと言って易々と承諾するわけに行かない。

「じゃあ、どうしろと言うのだ……子育ての経験のない私たちに」
二人は、セフィロスのことを深く語り合う内に、『預かってどうすればいいのか?』と言う話題に移っている。

「夫婦に見える……でしたっけ。誰だって子育ては『初めて』から始まるわけですし……それでも立派に育つものは育ちますし」

「夫婦に見えるからと言って……私たちは夫婦ではないだろう?
 大体、私が言いたいことはそういうことではなく……ここを、ここに慕われているセフィロスを育てるような大役が務まるのかと言っているんだ」
 エレオスのもっともな物言いにニュクスは黙り込んでしまった。

「あの……」
 そこで、ハワードが口を挟む。

「そんなに気負う必要はないと、セフィロス様は仰っていました。確か……えっと『自分の子供だと思って育て、私のことをぽつりぽつりと、成長に従って教えてあげてください。責任感なんてものはそのうち付きます。
 それで、自分の置かれた立場を理解して、徐々に大人になっていくうちに私のことを時折思ってくれる。そんな子に育ってくれれば良いというか……それ以上は贅沢過ぎますね』とか、そんな感じだったと思います」

「ふむ……」
「はぁ……」
 ピンと来ない抽象的な方向しか指示しないセフィロスの物言いに、二人は生返事しか返せない。

「粗忽ながら申し上げさせてもらいますと……セフィロス様は子供が自分の思い通りに育たないことを承知しておられます。ですので……最低限の望みさえ叶えてもらえば、きっと……
 それと、昨日発作を起こされたセフィロス様の部屋へ訪れた時も、こう仰っていられましたよ。『育てるなら一人より二人だ……』と」
 二人は顔を見合わせた。夫婦に見えるとか一人より二人とか、そう言った言葉がどうしようもなく心を絞めつける。

「お前は……セフィロスのために命を削っても良いと言ったな……?」

「私の命と引き換えにセフィロス様が助かる……と? そんな都合の良い話があるなら、とっくにやっていますよ」
 ハワードはそんな事不可能といった口調と表情でエレオスに言った。

「確かにないな。少し負担がかかる彼女の心のうちの測り方だけに、お前の協力が必要だ……ニュクス。満月の舞を出来るな?」
 満月の舞と言う単語に、ニュクスは驚いてエレオスを見た。

「エレオスそれは……いえ、そうですね」
 ニュクスが躊躇うが、躊躇いきることなくエレオスの考えに同意した。

「はあ、一体何を……するつもりですか?」
 二人のやり取りを見て不安に思ったハワードは、その不安を隠すことなく二人に尋ねる。

「いや、ちょっと変わった夢を見せる。なんというか、その……一晩で一年の時を経る夢で、私にもセフィロスにも負担のかかる夢だ。
 それで、セフィロスがどう動くかでちょっとした判断材料としたい」

「なるほど……して、それをやってセフィロス様は丈夫なのか?」

「まぁ、私はちょっと疲れるくらいだから問題ないが、ただ……何の考えも無しにやったらセフィロスや普通のポケモンはかなりの負担だろう。
 そこで、ニュクスの満月の舞だ。自分を含む誰かの傷や生命力を、自分を含む他の誰かに移すクレセリアのポケボディー……それで、お前の生命力を夢を見せている間中セフィロスに移すのだ。
 これなら限度さえ弁えればそう危険な行為ではない。まぁ、未熟なクレセリアがやるとたまに死ぬがな。一応、ニュクスは優秀だから問題ないだろう。
 それで、この3人の内、誰か一人でも限界が来たらやめる……その限界がどこであるかによっては、短すぎる場合は、私が彼女の子供を預かるかどうかの判断が難しくなるかもしれないがな」

「やらせてもらいますよ。それで、貴方達が心を決めるというのならば」
 ハワードの返答。それは、即答だった。セフィロスに対して特別な感情があるという事を考慮しても、幻のポケモン二人が死ぬかも知れないと脅したのに全く物怖じする気配一つない


「それで、私は普通に眠っていればいいのですね」

「ああ、これで体に負担をかけて死期を速めないように最大限の注意はする。それさえ注意すれば、貴方のことを判断するための、最良な手段だ……
 夢の中では皆、恥ずかしいほどに素直で、本性がむき出しになってしまうものだ。それに個人差はあれど……な。
 だから、夢の前では私に嘘をつくことはできない。
 そして、私なら夢と言う偽りを偽りと感じさせないことが出来る。万が一夢である事に気が付いてしまっても……お前の本音を、お前でさえ気づかない本音を引き出す自信がある。これも、私ならな」
 エレオスの表情を見る限りでは、これをやらなければ絶対に承認は出来ない。そういう表情だった。

「なるほど……わかりました。寝ているだけで……いいのですね」
 セフィロスはすでに覚悟を決めたようで、その身を筵に横たわらせて眼を閉じた。

「ずいぶんと積極的だな……」
 眼を閉じたセフィロスに、エレオスは穏やかな声をかけた。セフィロスは目を閉じたまま微笑んだ。

「運命の神は前髪しかありませんので。過ぎ去ってからでは遅いのですよ」
 そう語るセフィロスは中々滑稽なものだった。神とほとんど同義とされる幻のポケモンであるミュウが神を自分以上の存在として語る。
 エレオスは軽く笑ったあと「どうでもいいことか」と、気を取り直ニュクスとハワードを見た。
 ニュクスとハワードが共に頷いたのを見て、まだ意識を手放していないセフィロスを見た。

「さぁ、いつでも眠っていいからな……」
 セフィロスが意識を手放したのを確認すると、エレオスは深呼吸して心を落ち着け、二人の準備が整っているかを確かめる。

 セフィロスが意識を手放して数分。エレオスは誰が見ても分かるほど、神経をすり減らすような集中をしていた。同様にニュクスも、そしてハワードは生命力が吸い出されていく感覚に歯をくいしばって耐えていた。
 ただ一人お気楽そうに笑顔になる――寝顔を綻ばせているセフィロスがいて、それにハワードは歯を食いしばりながらほっと息をつき、エレオスとニュクスは夢の内容が見えているのか、歯を食いしばりながらではあるが、セフィロスと同じような表情をしていた。
 ただ一人、夢の内容がわからない仲間はずれのハワードは、歯を食いしばりながらあからさまに不満そうな表情だ。

 しばらく夢を見せ続けて、一番先に音を上げたのは意外にもエレオスだった。いつも無意識のうちに浮かせていた体は床に降り立ち、壁にへばりつくようにして座り込んだ。
 その様子を見て気が抜けたのか、ハワードは操り人形の糸が切れたようにふらりと仰向けに倒れた。

「どうでしたか……?」
 ハワードはかろうじて動く口を酷使して、二人に尋ねる。

「決めたよ……というか本当はずいぶん前に決めていたけれど……どこまでいってもこの夢を見せてあげたくなって、つい長引いてしまったがな……まさか二年分を越すとは……。
 というか、私達はお前が耐えられなくなったら辞めるつもりだったのにお前が耐えるとはどういうことだ? とんでもないドーブルだ全く……」
 エレオスは自嘲気味に力なく笑い、首を動かすのも億劫そうにニュクスを見る。

「ニュクス……済まないが、私達はしばらく寝る……まだ、起きていられるな? セフィロスに何かあったら一人で満月の舞を頼む……」

「ええ、どうぞお休みください。セフィロスさんに異変が起こった時は私だけでなんとか対処いたしますね」
 エレオスとハワードには微笑みで返し最後の一言に「疲れるんだよなぁ……」と、小声で言う。その後ニュクスがセフィロスの方へ振り返ると後ろからハワードが尋ねる。

「お二人さん……セフィロス様はどんな夢を見ておられましたか?」
 答えの半分以上は分かっているが、確信がほしいとハワードが尋ねるとニュクスが微笑み返す。

「あの表情通り……見て分からないようなら従者失格ですねってくらい」

「ですか。では、表情通りの夢を見ていたわけですね……よかった。なら、私も貴方達にならば安心して任せられそうだ」
 ふぅ、と隙間風のように長く聞えよがしな音を立てるため息を終え、エレオス同様セフィロスの部屋だという事も忘れてハワードは眠りにつく。
 ただ一人起きているニュクスはさにんの寝顔を母親のように穏やかな表情で見守っていた。


「ふぅ……ここまでが、父さんが私を引き取ることを同意した経緯だ」
 アッシュは語り疲れたのか大きくため息をついた。

「まだ途中かぁ……長いねぇ。でも、ライラエルはあんまり疲れていないみたいね……」
 話の最中にちらりと見たライラエルの表情は爛々と輝いていて、今は話を中断されて不満そうにしている。

「いやぁ、だって伝説のポケモン達の事情を聞くなんて面白いじゃないですかぁ。っていうか、ミュウって本当に記憶力良いんですね」

「ミュウと言う種族柄……記憶力はいいものでな、この程度ならソラで暗記して語れる。いろんな人から教えてもらった情報をここまでまとめ上げるのには相当苦労したけれどね……一ヶ月もしない出来事なのに半年近くかかっちゃったよ」
 アッシュは少々自慢げにぼやいた後、小さな果物を一つ手繰り寄せてそれを齧りながら腰を上げた。

「さて……ここから先のお話はちょっと場所を変えて話そうか」

「えぇ~……それまで続きはお預けですか?」
 子供のように不満を隠すことなく口に出して眉をひそめるが仕方なしとライラエルは立ち上がった。

「ライラはこらえ性ないなぁ……話すほうは口が疲れるだろうから、事情も察してあげなきゃ」
「まぁ、そういうことだな」
 セフィロスが相槌を打ち、レアスは二人に続くようにお茶を飲みほしてから、立ちあがった。

「で、場所変えるって……どこへですか?」

「始まりの樹……そこに見せたいものがあるんだ。さぁ、サイコキネシスで音速で駆け抜け……あぁ、悪タイプがいるのか……」
 セフィロスはライラエルを見て、一人納得したように頷くと地面に落りたつ。

「飛ぶの無理なら……徒歩で行こうか。飛べるポケモンに変身してもいいけれど、やたら変身するのも疲れるし」

「……悪かったですね」
 何事も無かったかのようにセフィロスに言われると、余計申し訳ない気持ちになったのかライラエルはブスッと黙りこくってしまった。

「とりあえず、話の続きは歩きながらでも……それでいいな、ライラエル?」

「は~い……」

「全く……じゃあ、話すぞ」
 駄々っ子をなだめた時のような気分でため息を一つ吐き、セフィロスは話の続きを語り始めた。

第三節 

 夢を見せた夜から数日がたって、後はミュウの子供が生まれるのを待つばかり。エレオス達は住民たちとの交流もそこそこに、毎日セフィロスの住処を訪れては、卵の様子を見守っていた。

「……もういつ生まれてもおかしくないですね」
 ミュウの卵に触れて、ニュクスは優しい口調でつぶやいた。

「そうですか……あ、動きましたよ。というかこれ……ヒビが入って……あぁ、もう本当に生まれますね」
 内部からの衝撃で卵に細かくヒビが入る。その時にカチカチと揺れ動く衝撃を手のひらの中で温かく感じていた。徐々に大きくなるヒビを見て、生きようとする意思を強く感じて、反対に死へと惹かれている自分を情けなくも思う。
 しかし何のための死かを考えることでこの子に命を与えるのだから……と強く思いつつ必死で生きようとするミュウの子供の誕生を待った。

「いよいよという訳か」
 それまで昼と言うことで基本的に夜行性なエレオスは寝入っていたが、その騒がしさで眼を覚ました時は瞬時に状況を理解した。
 大きくなったヒビが繋がり、軽く押せばへこむような状態になる。しかし皮膜が破れずに四苦八苦している様子のミュウの子供に手を貸してしまいたい衝動を抑えて全員が見守った。
 いつしか皮膜の一点にほころびが出来ると、そこから先は易々と切り裂いていくことが出来たようで快調だった。そこから先は穴を広げていく作業である。
 ポロリと殻が剥がれおちることを何度繰り返しただろう。一切の光を拒絶した暗黒の中にあって、その息ぐるしい空間から這い出すための人生最初の大仕事はほどなくして終わりを告げた。
 まだ体毛は湿っていて暗めの色を呈していた。セフィロスが拾い上げたその子は、かすかに震えながら周囲の様子を探っている。セフィロスが数秒間、生まれいでた新たな命の温かみを肌で感じていたかと思ったら、満足したように微笑むとエレオスとニュクスへ渡した。
 その行動の意味はわかっている。暗に『貴方達の子供だと思って育ててください』と言いたいのだろう。

「ありがとうございます」
 エレオスはもらうのをためらったが、こういう時に以外とニュクスは強く、先にミュウの子供を手に取ったのはニュクスだった。

「生まれた子供を最初に抱くのは……例外のポケモンももちろんいますが、やはり母親の方が多いと思うのですよね。ですから……」
 そう言ってニュクスは笑う。男が先じゃいけないから……というのを言い訳に、そのミュウを存分に撫でている。その様子を見ていエレオスは、何だか物欲しそうな様子で指を触手のようにを動かしている。
 それに気がついて、ニュクスは苦笑した。

「どうぞ」

「あぁ……」
 実を言うとエレオスは子育ての"こ"の字も知らないわけではなく、物心ついて数年でニュクスが生れ、そのころからニュクスを育つ様子を夢中になって眺めていた。
 その時の興奮や期待、高揚が蘇ったように、荒げてしまいそうな呼吸を必死で押さえてエレオスはニュクスからミュウの子供を受け取る。

「やはり……いいな」

 ミュウが手足をゆるゆると動かす様を見たり、それに合わせて動く脇腹の肉の感触などに大いに心を躍らせ、絞めつける様な抱擁をしたい衝動を必死で抑えてエレオスは微笑んだ。
 この場にいる誰よりもうれしそうにしていることに、3人が皆少々あきれと笑いを含んだ表情をしている。

「可愛いな……」
 エレオスはその冷ややかな視線をものともせず、手のひらに包み込んだ子供を見てそういった

「かわいいな~~♪」

「うわぁ……もう喋った!」
 抱いていたエレオスは面喰って腕から離しそうになる。ミューミューと、その名通りの鳴き声を上げていたと思えば、その場にいた者が心の準備をする間もなく言葉を発した。
 その言葉の意味まではわかっていないであろうが、ミュウの学習能力の高さを改めて痛感させる。
 喋ったことでひとしきり盛り上がった後、ミュウの子供はエレオスの腕の中パクパクと口を開ける。
 すでに目が開いているミュウは、なぜかエレオスを親と認めてしまったようである。
 口で噛み砕いた果実の流動食を与えるのも、腕の中で眠るのもエレオスでないといけないという何とも妙なことになってしまった。これではニュクスの立場が無い。
 エレオスが人知れず何らかの力でも使っているのではなかろうかと、ニュクスまで疑ってしまうくらいだ。

「な、納得がいかない……」
 自分の方が母親にふさわしいと思っていたニュクスは言葉通りの顔つきでエレオスを見た。

「そう言うな……私はお前を何度かあやしたことだってある。体だって何度も洗ったことがあるし、その……今ではとても(さわ)れないところも」

「ちょ、生々しいのでやめてください」
 ニュクスは恥ずかしそうに手を振ってエレオスの言葉をかき消した。

「子育ての経験がないだなんて謙遜する必要は無かったじゃありませんか……子供をあやすのが上手なのですね」
 セフィロスの言葉にエレオスが笑みを浮かべる。

「子育ての主役は……両親だったから。経験に入るか不安だった……恥ずかしながらな」
 エレオスは照れ気味に笑い、恥ずかしそうに顔を伏せる。

「どうやら……私は相当運がいいというか、貴方達が大当たりなのでしょうかね。突然の訪問者のエレオスさんが……これほどすぐれた人物とは。
 貴方に……託すならばこの私も安心できます」
 どうやら、セフィロスを何かと慕っているハワードの御許しさえ得ることが出来てしまったようだ。あれだけな付いてくれるならば流石に、この光景を見ただけで立ちあがって始まりの樹へ行こうということにはならなかったものの、心を決めるには十分だった。

「エレオスさん……私も一緒に抱いてもらえませんか」
 ふわりと浮きあがったセフィロスは、子供を手のひらに包むエレオスを見てセフィロスは弱々しく頼む。

「構わんが……またなんでそんな……?」
 エレオスは困惑した様子でセフィロスに尋ねる。

「いや、なに……貴方を親として認めてしまった以上、私が抱いても不安がってしまう……あなたと一緒にその子を抱いていればそれもなくなると思って。
 もう少し、母親の気分を味わいたいだけですよ」
 そう言って、セフィロスは今にも消えてしまいそうに微笑んだ。

「腕の下から潜ってこい」
 子供を慈しむようなセフィロスの視線に訴えかけられて、考える間もなくエレオスは承諾した。

「それと、もう一つですね……」

「まだ頼みたいことがあるのか? なんでも言うといい」

「いえ、母親の気分を味わいたい以外の目的で……貴方に夢を見せられた時に思いました。貴方の子供になりたいって」
 エレオスは思わず唾を口から噴き出した。というか、ニュクスもハワードも口に含んでいたものをそれぞれ吹き出している。
 正面を向いていたために首の周りの赤い牙飾りに阻まれたからよかったものの、それがなければエレオスの唾は確実にセフィロスに降りかかっていたことだろう。

「し、失礼しました」
 ハワードは噴き出した分を掃除するために雑巾でも持ってこようというのか、どこかへ駆け出して行った。

「そんなに意外でしたかぁ? 今の光景を見てもそう思うくらいだと思うのですが……」
 エレオスは恥ずかしげに笑い……顔を伏せた。

「馬鹿を言うな……」
 その表情はそのままで、それも悪くないと心の内では思っていた。ただそれは口に出すにはあまりに恥ずかしかったため、心の奥にそっとしまっておくのだった。

「さて、この子の名前なんだが……どうするんだ?」

「貴方が……夢の中で呼んでいたではありませんか。アッシュ……それでいいのではありませんか?」

「皆もそれでいいか?」
 エレオスは二人を見まわした。

「セフィロス様が言うのならば……」
 床に飛び散った唾を雑巾でふきながら、ハワードは言った。

「私も構いませんよ」

「そうか……じゃあ、これよりこの子の名前は……アッシュだ」


「とまぁ……そういう訳で私の名前が決まったわけだが……ここから先の日々は三日くらいほのぼのと過ごしていた」
 サイコキネシスを用いて外壁を滑るように上がりながらアッシュは言う。ついていくライラエルやレアスは必死である。

「それで……ついにセフィロスはやっちゃったの?」
 物語の登場人物に感情移入して心配する子供のように、レアスはその先を聞くのが不安だった。
 ライラエルも、話が悲しい方向に向かっているような気がしてすっかり黙りこくっている。

「そうだな……だが、それを話すのはもうちょっと待っていろ。じきにつくから……」
 そうして、外壁を伝い迷路のように連なった空洞を越え、二人は大広間にたどり着いた。それなりに乾燥した空気のここは、先ほどまでの高い湿度が心地よかったレアスにとって少し受け入れづらかった。
 反面、ライラエルは快適そうであるが。
 その美しさには息を呑んだ。普段ならば、レアスはよく回る口で情景描写をしているであろうところだが、今日はその前に聞かされた、お話の生み出した雰囲気のせいでそう言った心情ではない。

「ここが、母が生まれ変わった場所さ。そして、これが……母だ」
 アッシュはミュウの影がおぼろげに見える結晶を指差した。アッシュの両目からは涙が流れ、その付近の毛の色を湿った暗い色に変えている。

「触ってごらんよ。それくらいで壊れる代物じゃないからさ」
 アッシュはレアスの手をひいてセフィロスのなれの果てだという結晶を触らせた。何の事はない普通の結晶で、触るとひんやり冷たく、表面は場所によるがスベスベとしていて心地よい。
 ただ、これがミュウであると考えれば感慨深くもなる。だがそれは、気持ちの問題以外の何物でもないというのがレアスの正直な感想だった。
 当然だ、これはもう抜け殻なのだから。

「何も感じられないね……だからと言って壊して言いて言う訳はないけれど。ああ、ごめん、失礼だったよね?」
 レアスの言葉に目くじらを立てることもなく、セフィロスは笑った。

「いいさ。私とてこれを触っただけで体に熱い力が流れ込んでくるとかそういうことは一切ないから。
 そう、目頭が熱くなる以外のことなんて起こりはしない。さて、と……母親がこうなった経緯を見せてやらなきゃな……あ、ポチっとな」
 アッシュはどこかで聞いたような謎めいたセリフと共に、時間の花に触れ、時のキセキを見せる。

『くそ、樹が許すならばたとえこの身朽ち果てようとも、セフィロス様に変わり私の波導を与えようと言うのに……なぜ、この樹は融通がきかないのだ』

「わ、すごい……」
「ふぇ……」
 突然立体映像が浮かんできたその光景に、レアスは驚きの声を上げる。特にライラエルは噛みつきそうなくらい近づいて魅入っている。
 未知に惹かれる様は、やはり探検隊にふさわしい気質である。

「おっと……ここら辺は最初の方で言っていた今年からハワードを主として迎え入れたって言う(くだり)のところだ。
 まだ……重要なところは訪れていない」


 二人は、あの(ヽヽ)シーンが再生される時間をゆっくりと待つ。レアスとライラエル、二人が黙って成り行きを見守る中、アッシュは二人の体を軽く突っついた。

「そろそろだ」


「本当にやるんだな……セフィロス?」

「だな~~♪」
 エレオスは楽しげに自分の言葉を復唱するアッシュを抱き上げながら、神妙な面持ちで尋ねた。

「えぇ後悔は致しません」
 セフィロスとの別れを惜しむように樹が啼いていた。普段は子守唄としてふるまう風が通る音も、気持ちの問題でいくらでも表情を変える。
 セフィロスの体色は桜色。散り際が美しいと、まるで九九のように暗唱されてきた桜を彷彿させる彼女の表情は、陽光よりも確かな結晶根の光に照らされて、あわく照り返す光が水面に映る月のような美しさを醸し出している。

「ハワード……お前は、大丈夫なのか? セフィロスがいなくなっても……」

「なのか~♪」

「大丈夫じゃなかったら……従者失格だと思われます」
 数日前にエレオスが言ったセリフをそのまま返す形で、視線は一切動かさずに言った。あらかじめこの質問が来ることを予期しての物言いに、エレオスは従者としての有能さをここにきて感じる。
 ハワードが言ったセリフには、自分とハワードとの間に死へと向き合う心構えに決定的な差があることを理解するだけの賢さはあった。
 エレオスは、悲しめば死者は救われると思いこんでいた浅墓さ。
 自分の長く生きてきたこれまでの人生はいったい何のためのものだったのか、思わざるを得なかった。

「さて、三日月の舞の準備は整いました……私が力尽きてからは貴方の仕事ですよ」
 ニュクスが舞を踊るようにして自身の血で幾何学的な図形を描き、セフィロスを囲んでいた。
 それを、ぼんやりと焦点を合わせる手間すら惜しみながら見るでもなく見ていたセフィロスは夢の中にいるような虚ろな目で、ニュクスへ深く頷いた。 ため息はその頷きに応じるようにあふれ出し、首を戻す度同時に鼻から息を吸う。女性らしい胸式呼吸で肋骨の辺りが膨らむ。

「発作は出ない……か。幸先がいいな……」
 エレオスの目頭が熱くなるとともに、目の前の景色が歪んだ。一筋のしずくが顔面を伝い、首の突起にせき止められて貯まる。
 エレオスの視線の先にあった笑顔が距離を寄せ、まだ言葉を満足に操ることの出来ないアッシュの頬に触れる。卵を扱うよりも優しく、くすぐりよりも淡い力で毛の先を撫でる。

「元気でね」

「げんきでね~」
 セフィロスの言葉に対し、アッシュは無邪気に真似をして返す。
 ひどく可哀想に思えて、エレオスはアッシュのことを悲しげに見つめる。セフィロスはその視線を敏感に感じていた。

「大丈夫ですよ、子供ってこんなものでしょう? 本当に可愛いんだから……流石、私の子供ね……」
 エレオスに言うと、視線を下に戻して、再びアッシュに話しかけた。

「でも、大丈夫……君がどこかで誰かの笑顔を感じたら、そこに私がいるから。
 それが理解できるようになるまでは、お父さんの言うことをよく聞くのよ?」
 アッシュへセフィロスは諭した。無邪気にセフィロスの言葉を復唱するアッシュの目まぐるしく変わる表情をひとしきり楽しむと、セフィロスは全員を見た。

「さて、今までよくしていただきありがとうございます、ニュクスさん。貴方の適切な対症療法のおかげで、発作が起こっても少し楽でした」

「それが医者の……仕事ですから」
 ニュクスはセフィロスから目線を外さない程度に頭を下げる。

「では、後はここをお願い致しますよ、ハワード」

「御意にございます」
 ハワードは相も変わらず恭しく堅苦しい所作で、頭を下げた。

「さて、エレオス」
 これまでの二人とは違い、名前を切ってから呼ばれたことに気が付きエレオスは何を言われるのかと、心の準備をした。

「なんだ?」
「なんだ~~」
 エレオスの言葉を繰り返したアッシュに笑いかけたあと、視線を戻してミュウは言う。

「もう少し、貴方の見せる夢を見ていたかった。それほど、アッシュがうらやましくなりました」

「またその話か……好きだな、お前も」
 エレオスは涙を流しながらも笑うように努めた。

「お前は生きたかったんじゃ……ないのか?」


「またその質問ですか? 好きですね、貴方も」
 人の真似をして返答する意地の悪さに、馬鹿馬鹿しいなと、かすかな笑いがこぼれてくるのをエレオスは気づいた。
 気付いたが今度は止めようとしなかった。

「好きだよ……あまり人が死ぬのは好きでは無いものでな」

「ですか。じゃあ、こうしましょう」
 ふわと躍り出たセフィロスの体から左手が伸びて、エレオスの右手を掬いあげる。右手がエレオスの右の小指に絡みつく。

「体格差のせいで、子指どうしでする、と言う訳にはいきませんが……指切りしましょう」

「何を約束したいんだ……?」

「私は形を変えて、生まれ変わります。その時、もしも私が貴方の子供と言える立場になった時は、その時はめいっぱい私を愛してください」

「わかった。約束しよう」
 樹が啼く声が不意に遠のいた。否、エレオスの呼吸音が近付いた。
 エレオスとセフィロスが繋がりあったように、不思議と雑音が気にならない。その感覚を、セフィロスが頭の中で理解するよりも速く、エレオスは次の行動に移る。
 セフィロスは、自身の手の中で指が曲がるのを感じた。セフィロスの指を拒絶するのではなく、受け入れ、自分と絡み合わせるための動き。
 それをエレオスに絡み合わせた3本の指と手のひらに感じて、絶対に離れないようにその指を握る力を強めた。

「約束しよう」

「それでは、歌いましょう。わらべ唄を知っておりますね?」
 答える代わりに頷いたエレオスを見て、セフィロスは眠るようにして眼を閉じながら、微笑んだ。

「せーの」これから歌う歌に邪魔にならないような小さな声で、樹の啼く声にかき消されない程度に、そっと音頭をとる。

「指切り拳万、嘘付いたら針千本呑ます」
 二人は静かに歌いあって、腕を上下させる。絡み合う指の温かみを互いにかみしめた。セフィロスの親指と中指と子指、すべての指が同時に離れるのを感じ、エレオスはゆっくりと深く息を吐いた。

「生まれ変われるといいな……」

「ええ」
 セフィロスはそれだけ言って誰もいない方向へ振り返って天を仰いだ。

「それでは、さようならです。ニュクスさん……お願いします。私の想いが、遠くへと……出来るだけ遠くへと届くように」
 最後に聞かせた言葉は、決意を秘めた重みのこもる声。

 深呼吸から、息を吐き出すのに合わせてやさしい光が手の先からもれだし、それは徐々に激しさを増す。だがそれは、激しく眩しいはずなのに、光に比較的弱いエレオスでさえその光を直視するに叶う不思議な光だ。

「くっ……」
 小さく呻いたような声をあげて、セフィロスは歯を食いしばる。その途端にニュクスの力があふれてくるのを感じて体が楽になった。

「存分にやってください」
 ニュクスが三日月の舞で力を送り、ハワードもそれを穴があきそうなほどに見つめてスケッチを始めた。

「覚えました……今より加勢いたします」
 そのハワードの行動は誰もが読むことを出来なかった。ニュクスの動きを一瞬のうちに覚えて、真似る。

「まったく、頭の悪い人たちが集まった者ですね……」
 ニュクスがぼやく。ハワードの力はクレセリアであるニュクスに及ぶべくもないが、きちんと三日月の舞の効果は出たようだ。
 さらに体が軽くなったのを感じて、セフィロスは申し訳なく思えて苦笑した。
 やがて、数秒経つ間もなくハワードが倒れ、続いてニュクスが倒れた。エレオスは二人に息があることをニュクスは胸の上下で、ハワードは舌の震えで確認するとセフィロスを見た。
 確認に手間取っていたのか、もともと限界だったのか、セフィロスは丁度力を失ってふらりと落ちて行くところだった。最低限怪我をしないようにブレーキをかけていたようだった。

「もう、終わりなのか?」

「うん、これで私の仕事は終わり。外に出たら何かが変わっているといいな……」
 精根尽き果てたニュクスとハワードが虚ろな目で見つめる中、エレオスは再び泣いた。やはり、涙もろい。

「……変えて見せるさ。私の子供のためにもな」
 エレオスが『私の』を強調してアッシュを撫でる。相も変わらず、アッシュはエレオスの言葉を復唱していてやかましい。

「それにしても……『人生は、片手に幸福の黄金の冠を持ち、片手には苦痛の鉄の冠を持っている。 人生に愛されたものは、この二つの冠を同時に渡されるのだ』ですか……」
 セフィロスはしみじみと呟いた。

「それは、自分のことか?」

「ええ、まぁ……そういう事に結果的になっちゃいましたかね。
 そのおかげで私にはその意味が分かりました。この病気でたくさん苦しんで、たくさんのことを思って……その分、私は今までの暮らしが相当に幸せなものだと……気が付けたんです。
 そして、それは……私だけでは決して成しえなかった。ハワードと、貴方達がいてくれたから……」
 それだけ語ると、セフィロスは目を閉じる。

「ふぅ……なんだか疲れました。おろしてくれませんか……少し、この樹を感じながら休みたいから」

「少しじゃないだろ……もう、いくらでも休めるさ」
 そう言いながらセフィロスを降ろして、エレオスは手を握った。
 しばらくの間痛みを伴いそうなほど強く握っていた手が、不意に煙を掴んだように閉じられた。
 まさしく煙のように儚く消えさったセフィロスがいた位置からは、結晶がわき上がるように形成される。手を引くことをしなかったエレオスの指先までもがそれに巻き込まれた。
 結晶に囲まれることは、かなりの圧迫感があって、僅かに痛みを伴った。だが、無暗に扱って壊すような真似は出来ないと、エレオスは手を引き抜くことを戸惑った。
 そんなエレオスの後ろで、ハワードがふらふらと立ちあがり、エレオスに言う。

「指切りと言うのは……愛した者のために自分の指を切ること……ストライクなどに至ってはカマを切るものもおりました。つまり……」
 そう言って鋼の波導を纏わせた尻尾を叩きつけて、セフィロスの影がおぼろげに見える結晶にひびを入れた。
 しかし、そのひびはエレオスが指を挟んでいた付近以外には入っていない。つまり、傷を最小限にするように絶妙な力加減がされている。

「つまり、これくらい傷付くのも承知の上でしょう」
 三日月の舞を使った後のニュクスはいつも疲れ果てている。同様に肩で息をしているハワードにとっては今の一撃もやっとのことだったのだろう、言うなり座り込んだ。

「本当に万能なのだな、ドーブルと言うのは……私には、今のは真似出来ない」

「そうですか。しかし、万能でも全能ではありませんから……たかが万能では、死にゆく命は救えません。
 儚いものですよ……万能なんて」

「そうかな……? お前たちには見えていなかったかもしれないが、セフィロスは最後の瞬間にきちんと笑っていたぞ。
 あれは、救えたって言うんじゃないのか?」

「それは貴方が見せた夢のおかげですから。多芸は無芸……一芸に秀でるというのが、如何に優れているのかと納得させられます」

「ああ、そうだな」
 エレオスは涙を拭うと、明るく微笑んだ。
 ふと、アッシュがどこにもいないことに気がついて、エレオスはその姿を探した。
 ニュクスに目をやると、ニュクスは微笑みながらセフィロスの結晶を指差した。そこには結晶が並んでいる。

「結晶がふたつある……一つはアッシュか? 何をやっているんだアッシュは」

「母親が変身したのだと勘違いして……真似しているのですよ。やはりミュウは恐ろしいほどの記憶能力ですね。
 さ、私達は一度集落に戻りましょう。あまりここにいても、得る者は無いでしょうから」

「あぁ……また会おうな。セフィロス。ほら、アッシュも遊んでいないで行くぞ」

「いくぞ~」
 エレオスに急かされたアッシュは結晶状態の変身を解いて、エレオスの肩に乗る。
 死を理解せず、いつもと同じさようならだと思ったアッシュは、そのままうとうとと眠ってエレオスの肩によだれを流した。

映像はそこで途切れた。

第四節 

「そう、この頃のエレオスと今のエレオス……人が良いのは全然変わっていないんだなぁ」
「……ダークライって本当にこんな感じなのですか?」

「ああ、父さんは馬鹿みたいに人がいいから。いまでも変わっていないとニュクス母さんも言っていた」
 アッシュは満足そうに深呼吸して、喉が乾いたのか唾を飲み込む。

「母親の最期を看取った父さん達は……その後大変な質問攻めにあったんだそうだよ。と言っても、ニュクス母さんとハワードは、あんまりな衰弱ぶりのおかげでなんとか回避できたみたいだけれどね。
 ま、損な役割は回避してもまたやってくるってことなんだろうね」

「その後は……」
 レアスが、言葉を最後まで出さずにアッシュに委ねる。

「ああ、ここから先は私を育てた時のお話だ。でも、その前に……ハワードが、エレオスに対して一つ渡した物がある」

「何?」

「この大陸の7代秘宝の一つ……草のラッパだ。草タイプの心を揺さぶる至高の楽器の……紛うことなき本物をな。
 それを、友好の証だなんだと理由を付けて……そう言って、大切な秘宝をね……渡したんだ。
 私が音色を聞いたのは……セフィロスの宣言通り、本当に平和になってからだ」

「平和になってからの話は少しだけ聞いている……漆塗りをやらされていた奴隷階級達が解放されたって……」

「あぁ、その時はな……始まりの樹の力によって蔑む感情が薄れていき、それは徐々に罪悪感を芽生えさせた。
 『ラルトス系統はエムリットとパルキアから力を奪い取った畏れ多いポケモンだ』と言われていた……
 けれど気が付いたんだよ……『だが、それで彼らが何をした? 悪事を働いたか?』ってな。創造神が、本当に全知全能ならば、本当にお怒りならば、ラルトスなんてもう滅びていたって良いはずだ。
 聖書に描かれた記述が『畏れ多いポケモン』ならば、聖書そのものを……どこか間違っているんじゃないかって見直した。
 聖書の元となるお話を解いたのは神だとしても、それをまとめたり解釈したのは神では無い。
 それが、改めてどういう意味をもつか考えた……何か間違って神の言葉を解釈したこともあるんじゃないかと」

「でも、それで国は平和にならなかったの?」
 ライラエルの、スッとボケたセリフにレアス、アッシュ共に笑う。

「あっはっは……ライラ。政治って言うのはそんなに簡単な物じゃないんだよ……僕たちの住んでいるホウオウ教の国だって色々あったんだから」
 とはいえ、詳しいことを聞いていないレアスにはそれ以上語ることが出来ないため、アッシュの方を見る。

「うん、まぁそういうこと。罪悪感はラルトス達を開放することで、自身もある程度、ソレから解放された。本当は……奴隷って言うのは戦争においては重要な労働力だから、解放されれば国が弱くなるのも分かっていて……な
 例え奴隷解放されたとしても失業者の数は変わらなかった……が、もともと豊かな土壌だ。その日食うに事欠くサーナイトは少なくなっていったよ。
 それからは、酒場で一緒に酒が飲める……奴隷の身分では入れなかった場所への入れるようになる……悪くないじゃないか。
 ただ政治的な戦略だけで強引に解放された場合は、普通に多くの弊害を残したままだけれど……母さんが、居てくれたから。セフィロス母さんのおかげで……世界は変わったんだ。

 私は、その時4歳だった……父さんは私を高々と掲げて、その光景を見せた……私は自分で飛べるっから、持ち上げてもらう必要なんてないのに。
 『みろ、お前の母さんはすごいなぁ!! これが母さんだ……平和として、生まれ変わったんだ』なんて、柄にもなく興奮しながらな。
 リーフィア領……やっぱり北へ行けばいくほど暖かくなるから……草タイプが多いんだ、あそこは。だから、吹き鳴らすにはちょうどいい場所だったよ。
 そこで、私は思いっきり草のラッパを吹きならした……美しい、音色だったと思うよ。自画自賛だけじゃない。後で、変身して街の中に入っていったら、案の定草タイプのポケモンが一日中忘れられない音色だったって言うくらい……な」

「そう……けれど、その平和は……」
 レアスが残念そうに視線を伏せると、アッシュは頷いた。

「ああ、それも聞いているみたいだな。奴隷貿易のための戦争で疲弊した上に略奪が行われ、さらに不平等な貿易による実質的な搾取……そんな要因で疲弊した国だ。誰かに……苦しんでもらわなければ立ち行かなくなった。
 最初は抗議もされた……けれどな。『やっぱり、奴隷を解放するとろくなことがない』とばかりに……ラルトス系統へ非難が集中した。『神の意向に逆らったせいでこんな事に』、『やっぱり、神はラルトス系統を憎んでおられる』。
 そう言った考えが支配的になるにつれ……徐々にラルトス系統は再び排斥されるようになった。あるものは、まだその魔手が及ばないリーフィア領に逃げたが……ある者は……殺されたり、捕えられて強制的な労働に従事させられたり……そうして、徐々に元の姿に戻っていった。
 そして、それまでセフィロスの及ぼす平和の範囲を広げようと孤軍奮闘していた父さんは、病的なまでにブラッキー領に固執した。いつかは平和が戻ってくれることを信じてね。
 そこから先は母さん……ニュクスさんから聞いている。星の停止とか言う進化できなくなる現象……父さんが起こしたんだってな」

「うん……今はもう大丈夫だけどね。ライラエルは……その頃子供だったはだけれど覚えてる?」
「覚えてますよ~。実は、うちの母さんエテボースなんですがジュプトルに腐った果実投げていたのよく覚えています」

「あのねぇ……」
 レアスは、予想外の答えを返されてどうしようもなく苦笑して誤魔化すしかなかった。傍らでアッシュはくすくすと笑いをこらえている。

「はは、馬鹿な父さんだとは思っていたけれど……そう言う事件まで連鎖的に起こしたんだ。
 ともかくね、父さんは……セフィロス母さんの生きた証がなくなるという意味で死んでしまいそうで怖かったんだ。
 このままでは、いずれリーフィア領まで……なんて思ったのかもしれない。」
 アッシュは大きくため息をつく。

「それが……そういった不幸な出来事が漆黒の双頭の原点なんだね……僕たちの原点。何もかもを狂わせた原点……。」

「あぁ、そうなんだな。それがなければ、こうして出会うこともなかったかもしれないことなんだが……それへの感謝を補って余りあるマイナスだ。
 父さんが、僕に会いに来なくなったから」
 話題が徐々に暗くなったことで、二人は黙りこくってしまった。それを打破しようと

「…………僕たちに、協力してくれない?」
 レアスは本題を切り出した。

「漆黒の双頭……にか? 私をそれに」
 アッシュは意外そうな顔をしているが、それ以外は嫌そうでも嬉しそうでもない感情に乏しい表情を見せる。

「エレオスはどう思うかはわからないけれど……ミュウとしての力が、君に備わっているならば……まだ、生まれて間もないころから変身の能力を持ち、 サイコパワーの強力さも肌から伝わってくる……まだ、君の能力の片鱗かも知れないけれど、それだけでも評価に値する」

「私は……ここを、始まりの樹を守る使命がある。危険な仕事は出来ないしあまり長くここを離れることも出来ない……せいぜい1ヶ月半だが、協力するとなれば苦労を惜しむことはしない。
 いつかまた……父さんといつでも会って話が出来るようにしてくれるなら……仲間になってやろう」
 レアスは笑顔で頷いた。

「構わないよ……エレオスにずっと笑顔でいて欲しいのは……僕も同じなんだから。むしろ、利害は一致しているよ……ってか、今から会いにいかない?
 エレオスは、押しの一手に弱いから僕がいれば何とかなるって」

「押しの一手……ですか。ダメだ、もう完全にダークライのイメージが……崩れていく」
「いいじゃない? そっちのイメージの方が……平和的で」
「うん、この世界が皆エレオス父さんみたいな人ばっかりなら……世界は平和だし♪」

「ダークライだらけの世界は流石に嫌です……安心して眠れないじゃないですか」
 二人は、ライラエルの問いには何も答えず、笑って誤魔化すだけであった

「兎に角……父親が俺にいつでも会いたい気分になってくれるのなら……私もやりがいがあるというものだ」
 アッシュはそう言って腰を上げた。

「今から……とは言ったが、まさか本当に今から行くわけじゃないよな?
 とりあえず今日はもう、家に帰ろう。アランが美味しい飯を作ってくれるだろうよ……」
 レアスの答えを待たずに、アッシュはレアスを浮かび上がらせた。

「もう、そうだね~~結局、全く休んでいないから僕たちへとへとだし」

「……また、来た道戻るんですよね?」
 これまでの険しい道を思って、ライラエルは憂鬱な気分を抑えることが出来なかった。

「そうだな、帰り道くらいは出血大サービスだ」
 そうして、危なげない飛行で開けた場所に出たアッシュは、その姿を竹筒を組み合わせたような姿にアンノーン文字でオゾン象徴するOの紋章が体に刻まれているポケモン……レックウザへと変貌を遂げた。

「わぉ、サービスが良いね」
 何とも豪快なアッシュのサービスに、レアスは称賛を贈る。

「ふふ、たまにはこういうのもいいだろう? 私の父さんは……たまに面白い夢を見せてくれた。毎日では無かったけれどね……誕生日の時とか。
 だから、たまにはこういう夢のような光景もいいんじゃないかな?」

「ああ、ルギアに乗った時のこと思い出すなぁ……」
「わぁ……スカイフォルムのシェイミなんかにも憧れていましたが……これはまた、格別ですね」
 ここでも、見た目子供なレアスよりもライラエルのほうが興奮し、顔を輝かせている。

「レアスはそーとーすごい経験しているみたいね……こういうときにはしゃいでくれないのは寂しいなぁ」

「そういう風に、他人に楽しんでもらわない時がすまないところ……エレオスとよく似ているよ」
 それは夢と言う形なのかそれとも、ミュウの万能性かと言うアプローチの違いだけだ。アッシュとエレオスの共通点を見て、レアスは笑う。

「そう? ありがとう」
屈託のない笑顔でアッシュは答え、ダークライのイメージが壊れっぱなしでうんうん唸っているライラエルを見て、アッシュもまた笑顔を漏らす。

「さて……後は、エレオスに話をつけなくっちゃ」
 空を舞い風切る音にかき消されながら、自分にだけに聞こえる声をそっと言った。

最終節 


 ここから先の日記にはエレオスに話をつけるために幸せ岬に訪れたら、アッシュと会うことをひどく躊躇っている姿を見て、ライラエルがさらに意気消沈したこと。
 久しぶりの親子の対面でも素直になれないエレオスのせいでクリスタルのほうが積極的に間を取り持ったこと。
 そして、もう一つ。エレオスと重要なことを話すに至ったことが記されていた。


 幸せ岬の花畑のど真ん中。背の低い草花だけが生えるのみで、遠くまで見渡せるこの場所はある意味ではどんな防音壁よりも内緒話がやり易い。
 それこそ、迷彩の能力を持つラティアスやラティオスでもなければまともに近づく事は難しいであろう。

「兵隊は……現地調達?」

「うん、あの国を変えるのはね……正直、僕たち幻のポケモンが攻め入って恐怖政治をおっぱじめればそれで変わるでしょ」

「まてまてまて……」
 エレオスは手を斜め下にかざしてレアスの言葉を遮った。
 逐一危ない発言を言わなきゃ済まないレアスもレアスだが、スルースキルのないエレオスもエレオス。彼らの相性のよさをうかがわせるやり取りだ。

「それがまずいことなんてわかっているって。確かに、幻のポケモンや伝説のポケモンが表舞台に出てどうこうって言うのもまぁ、有効な手段であるのは変わりないんだけれどね……
 やっぱりそこは、現地調達した兵隊だけで何とかさせたいんだ。それでね……ユクシーの元で勉強した限りではねぇ……目覚めたポケモンが鍵となりそうなんだ。
 それこそ、伝説のポケモンに匹敵するくらいのね……。普通のポケモンであっても"目覚め"ていれば、そのポケモンと伝説のポケモンにたいした差はなくなっちゃう」

「目覚め? っというのは……目覚めるパワーのことか? 氷70に対し絶大な価値があるとか言うあの……」
 エレオスに聞き返され、レアスは頷いた。

「うん、それも間違いじゃないけれどね……そもそも、目覚めって言うのは世界が生まれた時から存在した力のことなんだ……まだ、世界に物質が存在しない精神世界の時代からね。
 技としての目覚めは、ただその片鱗を扱うだけ。でもそれは、伝説や幻のポケモンなら片鱗以外の実質的な力を標準的に行使できるんだ。
 例えば……ダークライは悪タイプの『不快』の力とか……」

「不快……か。なんだか、嫌な能力だな」
 自分が、不快そのもので出来ているような気がしてエレオスは軽い自己嫌悪を感じる。

「不快を与えるだけじゃないさ。取り除くことも知ることも出来る……だから君はそれだけ優しいの」
 励ますように言ったレアスの言葉に、エレオスは少し考えて納得したような表情を見せる。

「クレセリアは癒し。ラティアスとラティオスは守護。ミュウは記憶……って感じで……ほとんどの伝説や幻のポケモンが一つは持っている。いくつも持っているポケモンは当然いるけれどね。
 それに、フーディンは記憶。ミミロップは癒しって感じで……伝説のポケモンと同様の力を持っているポケモンも少なくない。
 で……エレオス。君は、僕の力がなんだか分かる?」
 レアスはクイズを出す小さな子供のように無邪気な笑みを向ける。

「そうだな……カリスマとか、魅力とか、そんなところかな?」

「……はずれ。魅力っていうのは……誰もが持っている目覚めの力の総称。僕はそれを……17種類全て常人の10数倍使いこなすことが出来るの。
 一つ一つの魅力なら僕以上に優れている人なんていくらでもいるんだよ」

「通りでどんなポケモンでも仲良くなれるわけだな……ふむ、でそれで続きは?」

「だから、その兵を率いることが出来るだけの魅力の持ち主を育てたり、普通のポケモンを……伝説のポケモンに匹敵するだけの能力者に……目覚めさせてやるんだ。
 さっきも言ったように……部外者が国を作るっていうのはやっぱり当事者の事情に詳しくないだけに、まずいでしょ?
 それに、歴史はデウス・エクス・マキナを必要とはしていない……わかるでしょ? 飢えたものには魚を与えるのではなく、魚の取り方を教えろって言葉……
 悪政に喘ぐ者には、平和にしてやるのではなく、平和にする方法を教えろ……そういうことだ。
 だから僕たちは……そのための触媒になるだけいいと思うの。君のやり方にはいろいろな間違いがあったけれど……それが僕の中では最も大きな間違いだったんだよ……」
 エレオスはばつが悪そうに頭を掻いた。

「耳が痛いな」

「そう、言いなさんな。だって、僕が間違っていないっていう証拠もないでしょ?」
 納得したのかしていないのか、エレオスはわずかに唸るだけで何も言おうとはしなかった。

「でも、僕たち幻のポケモンの介入を最小限に抑えるにあたって、最も障害になるのは……戦力だ。そのための、目覚めたポケモンだ。
 ふぅ……でね、漆黒の相当の本格始動に当たってはさ……僕たちに匹敵する一騎当千の(つわもの)や術師が必要なんだ。
 僕たちみたいに目覚めた者の近くに触れていれば……才能のある物なら自然に目覚めていく。もともと才能のある子を、僕達に触れ合うことで伸ばせたら素敵じゃない?
 君には……そんな才能のありそうなこのスカウトをやってもらいたいんだ……不安だけれど」

「お前は何をやるんだ?」

「お金……とにかくお金を稼ごうと思う。プランはいろいろとあるんだ。ま、一番大事な一騎当千のポケモンなんて、幻のポケモンでもそう簡単に見つかるものじゃないだろうし、ましてや普通のポケモンとなればもっと難しい。ゆっくりやってもらって構わないよ。
 僕は、あのライラちゃんと一緒に、色々悪いことして儲けるから怠けているわけじゃないよ?」

「おい……悪い事って……」
 エレオスはレアスに対して白い眼差しを向ける。

「気にしちゃダメ。兎も角一騎当千の英雄がキーパーソンだからね~。エレオス、君は頑張ってよ?」
 相変わらず、一切悪びれる様子もなくレアスは笑顔を崩すことはなかった。あまつさえ、話題を逸らしてエレオスにプレッシャーを掛けようとするふてぶてしさを発揮している。

「あぁ、もう……好きにしろ!! 一騎当千だな? 一人でいいのか?」

「うん、僕もそこまで贅沢じゃないからね……そういう子が見つるまでの間に、優秀なスカウトマンを育てるよ。スカウトマンを育てる役目は……主にアッシュにやってもらおうかと思っているの。
 ふふ……幻のポケモンが3人集まって一つの目的を目指すだなんて……なんだか悪いことがおきそうで楽しみだなぁ」
 冗談でも、嫌味でもなく本心からそういっているようにしか見えないレアスに、エレオスはなにやら吐き気に近い感覚を覚え、なんだこいつはと心の中で呟いた。
 知ってか知らずか、レアスは言った。

「僕は海の皇子マナフィ。僕を前にして、僕以上の支配を許すなんて出来やしないってね。『民よ、平和とは隷属なり』だなんて時代遅れだ。
 やっぱり世界を形作るのは王じゃなくってその他大勢だよね……」


 そして、僕は日記を閉じる。僕はどうしようもない虚無感に襲われて見ては、こうして熱意に燃えていた頃を思い出すのだ。
 燃え上がるような熱意も、いつしか自分がやっていることがどれほど正しいのか。他人の気持ちも分からない馬鹿が思いついた傲慢な思考なのかと考えれば考えるほどに、ぬるま湯のような淡い意思へと変わっていくのを自分の中で感じていた。
 それでも、ようやく形が整い始めてきているんだ。後は……もう一つ、目覚めの能力者がそろえば、そろそろ計画に移してもいい頃だろう。

「だから……僕のために頑張ってね。レイザー♪ 」
 僕は、目覚めたスカウトマンの名を呼んで微笑んだ。こうして笑う事が出来ると、まだ僕の意思は消えさっちゃ居ないと実感できる。
 今彼がいるカマのギルド(The Guild of Scythe)を拠点に物語は急加速している。

「そしてキール。君の元に……運命の幸あれ」

漆黒の双頭“TGS”へ


 漆黒の双頭、終了しました……が、物語は当然まだ続きます。ですが……その前に色々と言わなければならないことが……
 某所において、兎様のページにコメントしたとおり『TGS』をリメイクしようかと考えております。
 設定は全く同じですが、展開がかなり変わります。完全にリメイクが終わるまでは元のお話は残し、リメイクしたお話は『漆黒の双頭TGS』とタイトルを変えてこのwikiに乗せようかと思います。
 それに伴い、『TGS』は漆黒の双頭の続編として、前作を見ていることをある程度前提とした話にしようと思っております。

 実は……今まで更新遅れていたのもこれに構っていたのが原因なんです。
 と、言う訳で……これから新しいTGSに付き合ってくだされば、作者として至福でございます。


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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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